説明

無機有機複合組成物からなる複合材料及びその製造方法

【課題】マトリックスとしての樹脂中に、高熱伝導性フィラーとしての窒化ホウ素粒子が分散した構造を有する無機有機複合組成物からなる複合材料であって、比較的低いフィラー充填量であっても、高い熱伝導率を発現するものを提供する。
【解決手段】マトリックスとしての樹脂中に、高熱伝導性フィラーとしての窒化ホウ素粒子が分散した構造を有し、前記窒化ホウ素粒子は、一次粒子の積層体である二次粒子を層間剥離させる剥離工程を経ることにより生じた剥離扁平粒子5の状態で、樹脂3中に分散している、無機有機複合組成物からなる複合材料1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車分野、航空機分野、エレクトロニクス分野等における電子機器デバイスの高出力化、構造部材の信頼性に伴い、放熱対策が重要となっている放熱材料として用いられる高放熱性の無機有機複合組成物からなる複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車・エレクトロニクス分野では、パソコン、電子機器、自動車等に搭載の電子回路や半導体などの電子部品の小型化・高密度化に伴い、発熱性電子部品からの発熱量は増大の一途を辿っていることや、電気自動車・ハイブリッド自動車に搭載されている動力源のモーターの高出力化がすすんでいることから、放熱対策が必須課題になっている。しかし、放熱装置として用いられるヒートシンクやファンを熱量増大に対応させるためには大型化が必要となり、小型の機器や複雑構造体に組み込むことは困難である。
【0003】
そこで、このような大型の放熱装置の組み込み以外の放熱対策として、放熱部材自体の熱伝導率を高め、放熱性を向上させることが重要となる。放熱部材の放熱性を向上させる方法としては、放熱部材の構成材料として、マトリックッスとなる樹脂へ熱伝導率の高い無機粒子(フィラー)を充填させることよって作製した無機有機複合組成物からなる複合材料を用いることが主流である(例えば、非特許文献1〜3及び特許文献1参照)。
【0004】
ところで、これらの複合材料において、高い熱伝導率を発現させるためには、フィラー充填量をかなり高く設定しなければならない(例えば、特許文献2,3参照)。そして、このフィラーの高充填化に伴って、複合材料には様々な問題が発生する。具体的な問題としては、製造プロセス上において、フィラーの高充填化による流動性の低下のため成形性が悪くなること、価格の高いフィラーを大量に使用しなければならず素材コスト及び製造コストが増大すること、フィラーの比重が大きいために材料・部材の重量増に繋がることなどがある。更に、フィラー量の増大により、複合材料が脆くなることから実用上の問題を引き起こす。
【0005】
特に、軽量性、低価格を追求する自動車、電子電気産業等においては、上記の問題を解決し、低いフィラー充填量で高熱伝導性を有する無機有機複合組成物からなる複合材料への要求は高い。
【0006】
この要求に応えるためには、優れた熱伝導性を持ったフィラーが必要であり、そのようなフィラーとして、近年、窒化ホウ素粒子が注目されている。窒化ホウ素は、化学的安定性、耐熱性、中性子吸収作用、熱伝導性に優れた無機材料であり、且つアルミナ、窒化アルミニウム等の他の絶縁性・高熱伝導性無機フィラーと比較して比重が低いという有利な特性を有している。
【0007】
しかしながら、窒化ホウ素は、六方晶の結晶である扁平粒子(一次粒子)が、ファンデルワールス力によって積層した積層体(二次粒子)を形成しており、この積層体を層間で剥離させて、扁平粒子の状態で分散させることは極めて困難である。すなわち、前記のとおり、窒化ホウ素の扁平粒子は、ファンデルワールス力によって積層しているため、スメクタイト等の粘土鉱物のように、層間に水などの溶媒を挿入し膨潤させるという方法では、剥離させることができない。
【0008】
そこで、従来においては、窒化ホウ素の積層体を、そのままフィラーとして使用するか、あるいは、積層体を剥離させるのではなく、ジェット粉砕機等の乾式型の粉砕機を用いて解砕し、微粒粉化することにより分散性を向上させてからフィラーに用いていたが(例えば、特許文献4参照)、微粒粉化が進むことで界面熱抵抗が大きくなるため、熱伝導率の低下をもたらすという問題が生じる。このため、優れた熱伝導性を持つ窒化ホウ素をフィラーとして使用した場合においても、高熱伝導性を発現させるためには、樹脂中のフィラー充填量(体積含有率)を50〜80%というかなり高い値に設定する必要があり、依然として、素材コストの上昇、成形性の悪化、機械特性の低下といった製造プロセス上及び製品の信頼性における課題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−286668号公報
【特許文献2】特開2006−282678号公報
【特許文献3】特開2010−280860号公報
【特許文献4】特開平10−67507号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】産業技術総合研究所:プレスリリース2008年10月15日
【非特許文献2】高熱伝導性コンポジット材料、シーエムシー出版、2011年、111−124
【非特許文献3】Polyfile、44(526)、34−38(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、マトリックスとしての樹脂中に、高熱伝導性フィラーとしての窒化ホウ素粒子が分散した構造を有する無機有機複合組成物からなる複合材料であって、比較的低いフィラー充填量であっても、高い熱伝導率を発現するものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下の無機有機複合組成物からなる複合材料及びその製造方法が提供される。
【0013】
[1] マトリックスとしての樹脂中に、高熱伝導性フィラーとしての窒化ホウ素粒子が分散した構造を有し、前記窒化ホウ素粒子は、一次粒子の積層体である二次粒子を層間剥離させる剥離工程を経ることにより生じた剥離扁平粒子の状態で、前記樹脂中に分散している、無機有機複合組成物からなる複合材料。
【0014】
[2] 前記樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ乳酸、ポリスチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチルテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂である[1]に記載の無機有機複合組成物からなる複合材料。
【0015】
[3] 前記高熱伝導性フィラーの充填量(体積含有率)が、0.1〜40体積%である[1]又は[2]に記載の無機有機複合組成物からなる複合材料。
【0016】
[4] 前記高熱伝導性フィラー同士が直接接触し、カードハウス構造を形成している[1]〜[3]の何れかに記載の無機有機複合組成物からなる複合材料。
【0017】
[5] 前記窒化ホウ素粒子の二次粒子の平均粒径が、0.01μm以上、100μm未満である[1]〜[4]の何れかに記載の無機有機複合組成物からなる複合材料。
【0018】
[6] 窒化ホウ素粒子を剥離工程を経ない二次粒子のままの状態で、高熱伝導性フィラーとして樹脂中に分散させた無機有機複合組成物からなる比較用複合材料との比較において、その高熱伝導性フィラーの充填量が前記比較用複合材料の高熱伝導性フィラーの充填量と同一であるとき、その衝撃破壊強度と前記比較用複合材料の衝撃破壊強度との比が1.0±0.2以内に収まっており、且つ、その比剛性が前記比較用複合材料の比剛性よりも高い[1]〜[5]の何れかに記載の無機有機複合組成物からなる複合材料。
【0019】
[7] 一次粒子の積層体である窒化ホウ素粒子の二次粒子を層間剥離させる剥離工程を実施することにより剥離扁平粒子を得、これを高熱伝導性フィラーとして、マトリックスとしての樹脂中に分散させることにより、前記窒化ホウ素粒子と前記樹脂とを複合化させる、無機有機複合組成物からなる複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料においては、高熱伝導性フィラーとしての窒化ホウ素粒子が、二次粒子(積層体)から剥離した剥離扁平粒子の状態で、マトリックスとしての樹脂中に分散している。このため、窒化ホウ素粒子が、二次粒子のままの状態で樹脂中に分散した従来の無機有機複合組成物からなる複合材料と比較した場合、フィラー充填量が同一であっても、フィラー数は多くなる。このため、フィラー充填量が比較的低い場合であっても、フィラー同士が直接接触して、カードハウス構造が形成され、それが熱伝導のパスとなって高い熱伝導率を発現する。そして、高い熱伝導率を発現しつつ、フィラー充填量が低く抑えられることにより、フィラーの高充填化に伴って生じる様々な問題、例えば、流動性の低下による成形性の悪化、フィラーの大量使用による素材コスト及び製造コストの増大、材料・部材の重量増、機械特性の低下といった問題を解消することが可能となる。更に、本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料は、前記のように、フィラー数が多く、フィラーがカードハウス構造を形成しているため、フィラー充填量が同一である従来の無機有機複合組成物からなる複合材料よりも比剛性が高い。このため、本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料を用いれば、軽量で強度の高い放熱部材を製造することができる。また、本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料の製造方法によれば、前記のような優れた効果を有する複合材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料の概念図である。
【図2】従来の無機有機複合組成物からなる複合材料の概念図である。
【図3】実施例1におけるフィラー混合液の20日間静置後の状態を示す写真である。
【図4】比較例1におけるフィラー混合液の20日間静置後の状態を示す写真である。
【図5】実施例1における剥離フィラーの様子を示す顕微鏡写真である。
【図6】実施例1及び比較例1で作製した複合材料のフィラー充填量と熱伝導率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0023】
本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料は、マトリックスとしての樹脂中に、高熱伝導性フィラー(以下、単に「フィラー」という場合がある。)としての窒化ホウ素粒子が分散した構造を有するものであり、その特徴的な構成として、前記窒化ホウ素粒子は、一次粒子の積層体である二次粒子を層間剥離させる剥離工程を経ることにより生じた剥離扁平粒子の状態で、前記樹脂中に分散している。
【0024】
窒化ホウ素の結晶系は六方晶で、その一次粒子が扁平状であり、それらが積層して二次粒子(積層体)を形成している。そのため、窒化ホウ素粒子は、従来、フィラーとして用いられている他の粒子、例えば、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、アルミナなどの球状の粒子とは異なり、樹脂(マトリックス)中における高い充填量での分散・混練は極めて困難で、且つ均一に分散させることも難しい。
【0025】
図2は、窒化ホウ素が、扁平粒子5の積層体である二次粒子7のままの状態で、マトリックスとしての樹脂3中に分散している従来の無機有機複合組成物からなる複合材料11の概念図である。このように、低いフィラー充填量では、二次粒子7のままの状態で窒化ホウ素を樹脂3中に分散・混練することは可能であるが、この場合、フィラー同士の接触が少なくなるため、十分な熱伝導率を発現させることができない。
【0026】
図1は、窒化ホウ素が、一次粒子の積層体である二次粒子を層間剥離させる剥離工程を経ることにより生じた剥離扁平粒子5の状態で、樹脂3中に分散している本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料1の概念図である。この図1におけるフィラーの充填量は、図2におけるフィラーの充填量と同一であるが、窒化ホウ素が剥離扁平粒子5の状態で樹脂中に分散しているため、フィラーの充填量が同一であっても、フィラーの数が多くなる。このため、フィラーの充填量が低い場合においても、他のフィラーと直接接触しているフィラーの数が増加し、そのフィラー同士の直接接触によりカードハウス構造が形成される。そして、直接接触した多数のフィラーが熱伝導のパスとなり、高い熱伝導率を発現する。
【0027】
一次粒子の積層体である二次粒子を層間剥離させる剥離工程において、具体的な剥離方法は特に限定されるものではないが、特許文献4に示すような気流吸い込み型、衝突型等のジェット粉砕機を用いた乾式粉砕法やボールミル法では、二次粒子が剥離せずに粉砕されて微粒子化するだけで、二次粒子(積層体)の剥離は実現できない。窒化ホウ素の二次粒子を粉砕することなく剥離する方法としては、例えば、湿式ジェットミル等を用い、液中において、50〜250MPaの高圧下、150〜400m/sの高いせん断速度でせん断する方法が好適なものとして挙げられる。この方法を用いれば、良質な窒化ホウ素の剥離扁平粒子(剥離フィラー)を高い生産性で得ることができる。
【0028】
なお、剥離工程に供される二次粒子の平均粒径は、0.01μm以上、100μm未満であることが好ましい。二次粒子の平均粒径が0.01μm未満では、二次粒子のアスペクト比が小さすぎるため、高圧下での高速せん断を液中にて行っても、二次粒子はせん断流の方向に向かず、剥離ができない場合がある。また、フィラーの結晶性を保つことが困難となり、高い熱伝導率を維持できないおそれがある。一方、二次粒子の平均粒径が100μm以上になると、湿式ジェットミル等の剥離装置の管に粒子が詰まり、剥離工程を実施することができない場合がある。
【0029】
剥離工程を経て得られた剥離扁平粒子は、乾燥後に、二軸押出機等にて、樹脂と混練してもよいし、剥離工程自体を樹脂の前駆体を含んだ溶液中で行い、その後、前駆体を重合させて無機有機複合組成物である複合材料を製造してもよい。
【0030】
本発明において、マトリックスとして使用する樹脂の種類は特に限定されるものではなく、従来公知の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を使うことが可能である。好適な樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ乳酸、ポリスチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチルテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料におけるフィラーの充填量は、体積含有率で0.1〜40体積%であることが好ましい。フィラーの充填量が0.1体積%未満であるとフィラーの添加による無機有機複合組成物の熱伝導率向上が期待できない。一方、フィラーの充填量が40体積%を超えると、流動性の低下のために成形性が悪くなるという製造プロセスの問題、無機有機複合組成物に脆性が発現し破壊されやすくなる問題、高価なフィラーを大量に使用するため製造コストを引き上げてしまう問題、製造した無機有機複合組成物の重量が増加するために樹脂の特徴の一つである軽量性を損ねる問題が生じる場合があるため、好ましくない。
【0032】
本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料は、加熱プレス成形法、射出成形法、押出成形法等の一般的な成形方法により成形品に加工できる。特に、金型温度を樹脂の変形温度近傍以上に上げておき、保圧工程を行った後、金型温度を下げて樹脂を冷却し成形品を取り出すことが可能である。
【0033】
一般に、樹脂中にフィラーを分散させた無機有機複合組成物からなる複合材料においては、フィラーの充填量が増加すると脆くなり機械的強度が低下するが、本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料は、先述のとおり、フィラーの充填量が低くても高い熱伝導率を発現するため、フィラーの充填量を低く抑えることができる。このため、本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料の動的破壊強度である衝撃破壊強度は、窒化ホウ素が二次粒子のままの状態で樹脂中に分散している従来の無機有機複合組成物からなる複合材料の衝撃破壊強度と比べても遜色なく、ほぼ同等の衝撃破壊強度を発現する。具体的には、本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料は、窒化ホウ素粒子を剥離工程を経ない二次粒子のままの状態で、高熱伝導性フィラーとして樹脂中に分散させた無機有機複合組成物からなる比較用複合材料との比較において、そのフィラーの充填量が前記比較用複合材料のフィラーの充填量と同一であるとき、その衝撃破壊強度と前記比較用複合材料の衝撃破壊強度との比が1.0±0.2以内に収まる。すなわち、同一のフィラー充填量において、本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料は、従来の無機有機複合組成物からなる複合材料に比べ、衝撃破壊強度を低下させることなく、熱伝導率の向上が図られていることになる。
【0034】
一方、静的破壊強度である曲げ強度について比較すると、同一のフィラー充填量において、本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料は、窒化ホウ素が二次粒子のままの状態で樹脂中に分散している従来の無機有機複合組成物からなる複合材料に対し、10〜15%程度高い曲げ強度を示す。更に、本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料は、フィラーを含まず、樹脂のみからなる材料に対しては、30〜40%程度高い曲げ強度を示す。
【0035】
また、引張荷重及び圧縮荷重に対する変形のしにくさを表すヤング率について比較すると、同一のフィラー充填量において、本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料は、窒化ホウ素が二次粒子のままの状態で樹脂中に分散している従来の無機有機複合組成物からなる複合材料に対し、20〜50%程度高いヤング率を示す。更に、本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料は、フィラーを含まず、樹脂のみからなる材料に対しては、200〜400%程度高いヤング率を示す。更にまた、このようなヤング率の向上によって、比剛性(ヤング率を材料の比重で除した値)も向上し、本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料は、窒化ホウ素が二次粒子のままの状態で樹脂中に分散している従来の無機有機複合組成物からなる複合材料に対し、高い比剛性を発現する。
【0036】
このように、本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料が、従来の無機有機複合組成物からなる複合材料に対し有利な機械特性(曲げ強度、ヤング率、比剛性)を発現するのは、同一のフィラー充填量でもフィラー数が多く、フィラーがカードハウス構造を形成しているためである。本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料は、高い熱伝導率を発現することに加え、樹脂・プラスチックの欠点である低ヤング率も改善されたものであり、この複合材料を用いることによって、軽量で強度の高い放熱部材を製造することができる。
【0037】
本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料の製造方法は、一次粒子の積層体である窒化ホウ素粒子の二次粒子を層間剥離させる剥離工程を実施することにより剥離扁平粒子を得、これを高熱伝導性フィラーとして、マトリックスとしての樹脂中に分散させることにより、前記窒化ホウ素粒子と前記樹脂とを複合化させるものである。
【0038】
この製造方法の剥離工程において用いる好適な剥離方法、剥離工程に供する二次粒子の好適な平均粒子径、好適なフィラー充填量、好適な樹脂の種類等は、先述のとおりである。この製造方法により、前記のような優れた効果を有する本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料を製造することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
蒸留水5mlに6−ナイロンの前駆体であるε−カプロラクタム20gを溶かした水溶液に、平均粒子径10μmの窒化ホウ素の二次粒子を混合した。混合量は、最終的に得られる複合材料中の窒化ホウ素の含有量(フィラー充填量)が、10体積%、20体積%、30体積%、40体積%となるように調整した。次いで、この混合液に対し、湿式ジェットミルにて、170MPaの高圧下、280m/sのせん断速度で高速せん断をかける剥離工程を実施することにより、混合液中の窒化ホウ素の二次粒子を剥離させ、剥離フィラー(扁平粒子)が分散したフィラー混合液を得た。なお、図3は、このように剥離工程を実施したフィラー混合液を20日間静置した状態を示すものであり、図4は、剥離工程を実施しなかったフィラー混合液(後述する比較例1にて作製したフィラー混合液)を20日間静置した状態を示すものである。これらの図より、剥離工程を実施したフィラー混合液では、液中のフィラーが沈降せずに高分散していることがわかる。また、図5は、剥離工程を実施した後のフィラーの状態を示すものであり、剥離の進行により、下地に存在している粒子が見える。このように、剥離工程を実施したフィラー混合液において、長期間、フィラーが沈降せずに存在しているのは、積層体ある窒化ホウ素の二次粒子が剥離されたことにより、同じフィラー充填量(体積含有率)であっても、剥離工程を実施しない場合に比べて、フィラー数が増しているためである。
【0041】
次に、この剥離工程を実施したフィラー混合液に、6−アミノヘキサン酸1.6gとアジピン酸0.125gとを加えて攪拌して溶解させ、120℃で2時間プレ重合した後、230℃で3時間重合させることにより、ポリアミドの一種である6−ナイロンをマトリックスとし、当該マトリックス中に、窒化ホウ素の剥離扁平粒子(剥離フィラー)が高熱伝導性フィラーとして分散した無機有機複合組成物からなる複合材料の塊状試料を得た。
【0042】
(比較例1)
剥離工程を実施しなかった以外は前記実施例1と同様にして、6−ナイロンからなるマトリックス中に、窒化ホウ素の二次粒子(積層体)がそのままの状態で高熱伝導性フィラーとして分散した無機有機複合組成物からなる複合材料の塊状試料を作製した。また、それらと併せて、フィラー充填量が0体積%の6−ナイロンのみからなる塊状試料も作製した。
【0043】
(各種物性の測定)
実施例1及び比較例1により得られた塊状試料を用いて、下記の方法により、熱伝導率、衝撃破壊強度、曲げ強度、ヤング率及び比剛性を求めた。なお、衝撃破壊強度については、実施例1の内のフィラー充填量が10体積%及び20体積%のものと、比較例1の内のフィラー充填量が10体積%及び20体積%のものについてのみ測定し、曲げ強度、ヤング率、比剛性については、実施例1の内のフィラー充填量が10体積のものと、比較例1の内のフィラー充填量が0体積%及び10体積%のものについてのみ測定した。熱伝導率の測定結果を図6に、衝撃破壊強度の測定結果を表1に、曲げ強度、ヤング率及び比剛性の測定結果を表2に、それぞれ示した。
【0044】
熱伝導率:
塊状試料を金型枠に入れ、加熱プレス成形機を用いて、240℃、2MPaで5分間加圧後、冷却して、板状の測定試料を作製し、レーザーフラッシュ法による熱拡散率・比熱・熱伝導率試験方法(JIS R1611)に準拠して測定した。
【0045】
衝撃破壊強度:
塊状試料から射出成形体を作製して測定試料とし、プラスチック−シャルピー衝撃特性の求め方(JIS K7111−1)に準拠して、シャルピー試験にて測定した。
【0046】
曲げ強度:
塊状試料から射出成形体を作製して測定試料とし、プラスチックの三点曲げ試験(JIS K7171)に準拠して、たわみ速度2mm/minで測定した。
【0047】
ヤング率、比剛性:
前記曲げ強度の測定方法における三点曲げ試験の結果より求めた。なお、ヤング率は引張荷重及び圧縮荷重に対する変形のしにくさを表す物性値であり、ヤング率を材料の比重で除した比剛性は外力に対する単位比重当たりの変形のしにくさを表す物性値である。すなわち、比剛性が大きいことは、軽くて強い材料であることを示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
(考察)
まず、図6から明らかなように、高熱伝導性フィラーが、窒化ホウ素の二次粒子(積層体)を剥離させた剥離扁平粒子(剥離フィラー)の状態で樹脂中に分散した実施例1の複合材料は、高熱伝導性フィラーが、窒化ホウ素の二次粒子(積層体)のままの状態で樹脂中に分散した比較例1の複合材料に比して、高い熱伝導率を示した。具体的には、フィラー充填量が、10体積%、20体積%、30体積%、40体積%のとき、比較例1の熱伝導率は、順に1.16W/mK、2.02W/mK、3.06W/mK、4.52W/mKであったのに対し、実施例1の熱伝導率は、順に1.98W/mK、2.99W/mK、3.99W/mK、6.83W/mKであり、同じフィラー充填量で比較した場合、実施例1は比較例1よりも約30〜70%高い熱伝導率を示した。なお、フィラー充填量が10体積%のときの実施例1の熱伝導率は、フィラー充填量が20体積%のときの比較例1の熱伝導率とほぼ同等であり、フィラー充填量が20体積%のときの実施例1の熱伝導率は、フィラー充填量が30体積%のときの比較例1の熱伝導率とほぼ同等であった。これは、剥離工程を実施した場合には、剥離工程を実施しなかった場合に比べて、フィラーの数が増すため、比較的低いフィラー充填量においてもフィラー同士が直接接触して、マトリックス樹脂中でカードハウス構造を形成することにより、高い熱伝導性を発揮したためである。
【0051】
また、表1に示すように、フィラー充填量が同一の場合、実施例1の衝撃破壊強度は、比較例1の衝撃破壊強度とほぼ同等であった。具体的には、実施例1の衝撃破壊強度と比較例1の衝撃破壊強度との比は1.0±0.2以内に収まっていた。つまり、高熱伝導性フィラーが、窒化ホウ素の二次粒子(積層体)を剥離させた剥離扁平粒子(剥離フィラー)の状態で樹脂中に分散した実施例1の複合材料においては、高熱伝導性フィラーが、窒化ホウ素の二次粒子(積層体)のままの状態で樹脂中に分散した比較例1の複合材料に比して、衝撃破壊強度を低下させることなく、熱伝導率の向上が図られていることがわかる。
【0052】
また、表2に示すように、フィラー充填量が同一の場合、実施例1の曲げ強度は、比較例1の曲げ強度に対し、約35%も高い値を示し、この値は、フィラーを含まない樹脂のみの場合(フィラー充填量が0体積%の場合)の曲げ強度よりも高いものであった。更に、実施例1のヤング率は、比較例1のヤング率を上回っており、実施例1の複合材料は、比較例1の複合材料に比して、変形しにくいものであることがわかる。更にまた、実施例1の比剛性は、比較例1の比剛性を上回っており、実施例1の複合材料を用いれば、比較例1の複合材料を用いた場合に比して、より軽くて強い部材を製造することが可能であることがわかる。これは、窒化ホウ素の二次粒子(積層体)を剥離させることによってフィラー数が複合材料中で増大し、カードハウス構造を形成するためである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、自動車、航空機、電子機器等に搭載される電子部品のパッケージング、LED照明の放熱基板や封止材、ハイブリッド及び電気自動車に搭載されるモーターに用いられるコイル封入材等、軽量性・素材コスト低減化に資する高熱伝導性複合材料が必要な様々な分野において、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1:本発明の無機有機複合組成物からなる複合材料、3:樹脂、5:扁平粒子、7:二次粒子、11:従来の無機有機複合組成物からなる複合材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスとしての樹脂中に、高熱伝導性フィラーとしての窒化ホウ素粒子が分散した構造を有し、前記窒化ホウ素粒子は、一次粒子の積層体である二次粒子を層間剥離させる剥離工程を経ることにより生じた剥離扁平粒子の状態で、前記樹脂中に分散している、無機有機複合組成物からなる複合材料。
【請求項2】
前記樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ乳酸、ポリスチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチルテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド及びエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂である請求項1に記載の無機有機複合組成物からなる複合材料。
【請求項3】
前記高熱伝導性フィラーの充填量(体積含有率)が、0.1〜40体積%である請求項1又は2に記載の無機有機複合組成物からなる複合材料。
【請求項4】
前記高熱伝導性フィラー同士が直接接触し、カードハウス構造を形成している請求項1〜3の何れか一項に記載の無機有機複合組成物からなる複合材料。
【請求項5】
前記窒化ホウ素粒子の二次粒子の平均粒径が、0.01μm以上、100μm未満である請求項1〜4の何れか一項に記載の無機有機複合組成物からなる複合材料。
【請求項6】
窒化ホウ素粒子を剥離工程を経ない二次粒子のままの状態で、高熱伝導性フィラーとして樹脂中に分散させた無機有機複合組成物からなる比較用複合材料との比較において、その高熱伝導性フィラーの充填量が前記比較用複合材料の高熱伝導性フィラーの充填量と同一であるとき、その衝撃破壊強度と前記比較用複合材料の衝撃破壊強度との比が1.0±0.2以内に収まっており、且つ、その比剛性が前記比較用複合材料の比剛性よりも高い請求項1〜5の何れか一項に記載の無機有機複合組成物からなる複合材料。
【請求項7】
一次粒子の積層体である窒化ホウ素粒子の二次粒子を層間剥離させる剥離工程を実施することにより剥離扁平粒子を得、これを高熱伝導性フィラーとして、マトリックスとしての樹脂中に分散させることにより、前記窒化ホウ素粒子と前記樹脂とを複合化させる、無機有機複合組成物からなる複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−255055(P2012−255055A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127585(P2011−127585)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】