説明

無機結晶膜およびその製造方法

【課題】無機結晶膜上に他種の膜を積層して素子化しても性能や信頼性の低下を招くことなく利用することができる膜構造を有する無機結晶膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】無機結晶膜は、基材上に形成されており、少なくとも二層構造であり、基材に接する下層は緻密層であり、膜の最上層は充填した粒子が互いに結合してなる結合層である。無機結晶膜の製造方法は、無機結晶膜となる金属種を含有する化学溶液を基材に塗布する塗布工程、塗布工程で得られた塗布膜を乾燥する乾燥工程、および、乾燥した膜を焼成する焼成工程、を備え、上記塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして複数回繰り返す方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機結晶膜およびその製造方法に関するものである。より詳しくは、当該無機結晶膜上に他種の膜を積層して素子化しても性能や信頼性の低下を招くことなく利用することができる膜構造を有する無機結晶膜およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば圧力センサ等の機能性薄膜として用いられる無機結晶膜は、様々な技術分野で応用されると同時に、その活発な研究開発により新たな応用が提案されている。特に、ウルツ鉱型結晶構造を有する酸化亜鉛(ZnO)薄膜(無機結晶膜)は、幅広い分野で優れた特性を有する有用な物質である。ZnO膜は例えば表面弾性波(SAW)フィルタとして実用化されており、また、研究開発においては例えばZnO圧電体膜を用いたエンジン用燃焼圧センサへの応用が具体的に提案されている(非特許文献1)。その他に、透明導電体としてガリウム(Ga)若しくはアルミニウム(Al)をドープしたZnO薄膜は、スズ(Sn)をドープした酸化インジム(ITO)薄膜を代替する材料として期待されており、また、半導体としてZnO薄膜の優れた電気特性および発光特性も注目されており、活発な研究開発が行われている。
【0003】
上記無機結晶膜の製造方法としては、スパッタ法、PLD(Pulsed Laser Deposition) 法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、CVD(Chemical Vapor Deposition) 法等があり、実用化や研究開発に用いられている。但し、これら製造方法では、真空チャンバー若しくは一般的なチャンバーを必要とするため、大面積の基材上に成膜をすることが難しく、またコストも掛かるという問題点を有している。それゆえ、大面積の薄膜を成膜することが可能で、特別な装置を必要としない、低コストの無機結晶膜の製造方法が強く求められている。
【0004】
当該製造方法(成膜法)として、近年、化学溶液堆積法或いはゾル−ゲル法と称される手法が注目され、種々の無機結晶膜に対する研究が活発に行われている。上記化学溶液堆積法を用いて製造された無機結晶膜の構造としては、丸い粒子状の結晶粒が充填した構造が知られている(非特許文献2,3)。例えば、ゾル−ゲル法で成膜されたZnO薄膜の構造は、粒子径40〜75nmの丸いZnO結晶粒子が疎に充填した構造であることが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−156641号公報(2009年7月16日公開)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】電気学会論文誌A,第128巻,740〜741ページ,2008年
【非特許文献2】Japanese Journal of Applied Physics, 39 (2000) p.L713-p.L715
【非特許文献3】Chinese Journal of Chemical Physics, 20 (2007) p.721-p.726
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、粒子が疎に充填した構造を有する無機結晶膜では、膜の上面から下面まで連続する間隙が存在することが多く、従って基材上に無機結晶膜を積層したり、或いは無機結晶膜上に他種の膜を積層して素子化したり、装置に応用したりする場合には問題点を生じる。具体的には、例えば、圧電特性を有する無機結晶膜を圧電素子として応用する場合には、高い電気導電性を示す基材上に無機結晶膜を積層することにより当該基材を下部電極として用い、さらに当該無機結晶膜上に上部電極を形成する構造が、簡単な構成で圧電体膜本来の圧電特性を利用することができる有効な構造である。ところが、上記構造の圧電素子を、膜の上面から下面まで連続する間隙が存在する無機結晶膜を用いて作製すると、上部電極に含まれる導電性化合物が上記間隙を通じて基材近傍若しくは基材上に析出し、その結果、上部電極と下部電極との間の絶縁性の低下若しくは短絡を引き起こし、圧電素子の圧電応答性が低下若しくは消失するという問題点を生じる。特許文献1に記載の圧電センサの発明においても、無機結晶膜が上記構造を有していると、圧電体薄膜(無機結晶膜)の形成時の不具合により欠損部分が生じ、電極間の短絡によって圧電センサが使用不能に陥ることが指摘されている。
【0008】
また、例えばスパッタ法で成膜された従来のZnO圧電体膜は柱状晶からなる膜構造であるので、例えば、当該ZnO圧電体膜上に上部電極をシルクスクリーン印刷法により積層する場合には問題が生じる。つまり、電極材料となる金属微粒子を溶媒に分散させたインクを膜上面に塗布すると、このインクは柱状晶の粒界に沿って膜の下部方向に浸透し、その結果、金属微粒子が基材近傍若しくは基材上に析出する。従って、上記ZnO薄膜は、上部電極と下部電極との間の絶縁性の低下若しくは短絡を引き起こし、圧電応答性を示さなくなる場合がある。また、MBE法では単結晶基材を用いて単結晶膜が得られるものの、コストが非常に掛かり、また単結晶膜の大面積化も困難であるため実用的でなく、工業的な製造方法には適さない。
【0009】
本発明は、係る背景技術の問題点に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、上記背景技術の問題点を克服するためになされたものであり、その主たる目的は、大面積の薄膜を成膜することが可能で、特別な装置を必要としない、低コストの無機結晶膜の製造方法を提供することにある。また、本発明の主たる目的は、無機結晶膜上に他種の膜を積層して素子化しても性能や信頼性の低下を招くことなく利用することができる膜構造を有する無機結晶膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記背景技術の問題点を克服するために鋭意研究を重ねた結果、基材上に形成された無機結晶膜であって、基材に接する下層は緻密層であり、膜の最上層は充填した粒子が互いに結合してなる結合層である少なくとも二層構造の無機結晶膜を用いることにより、上記問題点を解決することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明に係る無機結晶膜は、上記課題を解決するために、基材上に形成された無機結晶膜であって、少なくとも二層構造であり、基材に接する下層は緻密層であり、膜の最上層は充填した粒子が互いに結合してなる結合層であることを特徴としている。
【0012】
上記無機結晶膜は、一方の面から他方の面まで連続する間隙を有しないことがより好ましく、また、上記緻密層では粒子の粒界が認められないことがより好ましく、また、酸化物を主成分とすることがより好ましく、また、ウルツ鉱型結晶構造を有する化合物を主成分とすることがより好ましい。例えば、上記主成分が酸化亜鉛(ZnO)であることが特に好ましい。さらに、上記無機結晶膜は、上記酸化亜鉛に、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ビスマス(Bi)、およびプラセオジウム(Pr)からなる元素群より選択される少なくとも一種類の元素が添加されていることがより好ましく、また、膜厚が100〜10000nmの範囲内であることがより好ましく、また、圧電特性を有することがより好ましい。
【0013】
上記構成によれば、無機結晶膜は、基材に接する下層は緻密層であり、膜の最上層は充填した粒子が互いに結合してなる結合層であるので、当該無機結晶膜上に他種の膜を積層して素子化しても性能や信頼性の低下を招くことなく利用することができる。つまり、他種の膜を積層することができるので、例えば上部電極を直接形成することができ、無機結晶膜の圧電特性を効率的に利用することができる。それゆえ、上記構成によれば、他種の膜を直接積層して素子化しても性能や信頼性の低下を招くことなく利用することができる膜構造を有する無機結晶膜を提供することができる。
【0014】
また、上記構成によれば、無機結晶膜上に他種の膜を例えばシルクスクリーン印刷法またはインクジェット印刷法を用いて積層する場合にも利点がある。即ち、他種類の膜を形成する化合物および溶剤を含むインクが緻密層を通過することがない。それゆえ、例えば、各種機能性薄膜に応用するために、電気導電性を示す基材(基板)上に上記無機結晶膜を積層し、さらに上部電極を積層する場合においては、上部電極を形成するインクが緻密層を通過して基材上に達することがないので、上部電極を形成する化合物は最深でも緻密層より上(緻密層と基材との界面とは反対側の、緻密層における結合層側の境界面)に析出し、基材近傍若しくは基材上に析出することはない。従って、本発明に係る無機結晶膜を例えば圧電体として応用する場合に、上部電極と下部電極との間の絶縁性の低下若しくは短絡を引き起こさずに、良好な圧電応答性を示すことができる。
【0015】
また、本発明に係る無機結晶膜の製造方法は、上記課題を解決するために、上記無機結晶膜の製造方法であって、無機結晶膜となる金属種を含有する化学溶液を基材に塗布する塗布工程、塗布工程で得られた塗布膜を乾燥する乾燥工程、および、乾燥した膜を焼成する焼成工程、を備え、上記塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして複数回繰り返すことを特徴としている。
【0016】
上記製造方法は、上記塗布工程および乾燥工程を1セットとして複数回繰り返した後、上記焼成工程を行うことがより好ましく、また、スピンコート法、ディップコート法、シルクスクリーン印刷法、またはインクジェット印刷法を用いて上記塗布工程を行うことがより好ましい。
【0017】
上記方法によれば、大面積の薄膜を成膜することが可能であり、特別な装置を必要としない、低コストの無機結晶膜の製造方法、即ち、他種の膜を積層して素子化しても性能や信頼性の低下を招くことなく利用することができる膜構造を有する無機結晶膜の製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
上記構成によれば、無機結晶膜上に他種の膜を積層して素子化しても性能や信頼性の低下を招くことなく利用することができる膜構造を有する無機結晶膜を提供することができるという効果を奏する。
【0019】
また、上記方法によれば、大面積の薄膜を成膜することが可能であり、特別な装置を必要としない、低コストの無機結晶膜の製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1において作成された無機結晶膜としてのZnO薄膜の膜断面をフィールドエミッション走査型電子顕微鏡で観察した観察画像である。
【図2】上記ZnO薄膜を切断して、生じた膜断面をクロスセクションポリッシャで加工した後、フィールドエミッション走査型電子顕微鏡で観察した観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<無機結晶膜>
本発明に係る無機結晶膜は、少なくとも二層構造であって、一方の外層は緻密層であり、他方の外層は充填した粒子が互いに結合してなる結合層である構成である。そして、本発明に係る無機結晶膜は、当該無機結晶膜となる金属種を含有する原料である金属化合物を用いて、本発明に係る製造方法によって成膜することによって形成されており、圧電特性を有している。
【0022】
無機結晶膜となる金属種としては、例えば、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、チタン(Ti)、バリウム(Ba)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)が挙げられ、このうちZnがより好ましい。従って、無機結晶膜を構成する無機結晶としては、上記金属種を含有する従来公知の各種酸化物、並びに、硫化物、セレン化物、テルル化物、窒化物等が挙げられ、これら化合物は、一種類のみで無機結晶を構成していてもよく、二種類以上で無機結晶を構成していてもよい。絶縁体である無機結晶は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、酸化インジウム(In)等の酸化物を主成分とすることがより好ましく、或いは、ウルツ鉱型結晶構造を有するZnO、AlN、GaN、ZnTe等の化合物を主成分とすることがより好ましい。さらに、無機結晶は、ZnOを主成分とすることがより好ましい。ここで、本発明において「主成分」とは、無機結晶に当該成分が50重量%以上含まれていることを指す。
【0023】
それゆえ、無機結晶膜となる金属種を含有する原料である金属化合物は、本発明に係る製造方法によって上記無機結晶に変換される金属化合物であればよく、具体的には、上記金属化合物を含有する化学溶液を調製することができる、溶剤に可溶若しくは分散することができる金属化合物であればよい。より具体的には、金属がZnである場合には、酢酸亜鉛二水和物、酸化亜鉛微粒子、アセチルアセトナート亜鉛水和物、硫酸亜鉛水和物、安息香酸亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、リン酸亜鉛水和物が挙げられる。
【0024】
上記無機結晶には、絶縁性(電気抵抗)を向上させる(例えばZnOの場合、3×10Ω・cm程度を1×10Ω・cm程度に向上させる)ために、必要に応じて、上記金属種とは異なる他の元素がドープされていてもよい。具体的には、上記無機結晶がZnOである場合には、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ビスマス(Bi)、およびプラセオジウム(Pr)からなる元素群より選択される少なくとも一種類の元素がドープされていてもよい。無機結晶に他の元素をドープするには、原料である金属化合物に、上記元素を含有する化合物(a)を添加すればよい。当該化合物(a)としては、酢酸リチウム二水和物、硝酸リチウム、酢酸マグネシウム四水和物、硝酸マグネシウム六水和物、アセチルアセトナート鉄(II)、アセチルアセトナート鉄(III) 、酢酸銅(II)水和物、硫酸コバルト(II)水和物、アセチルアセトナートコバルト(III) 、硝酸ガリウム水和物、酢酸ビスマス(III) が挙げられる。
【0025】
金属化合物に対する化合物(a)の添加量は、添加目的、および無機結晶膜の母体となる無機化合物とドープする元素種との組み合わせに応じて調整する必要がある。例えば、LiドープしたZnO(Zn1−xLiO)結晶膜の場合には、ZnおよびLiの原子数の和を100at.%としたとき、Liのドープ濃度xが、0を超え、20at.%の範囲内であることがより好ましく、3〜6at.%の範囲内であることがさらに好ましい。このようなドープ濃度となるように、化合物(a)であるLi化合物の添加量を決定する。
【0026】
本発明に係る無機結晶膜が形成される基材としては、慣用の従来公知の各種基材が挙げられ、そのうち、後述する焼成工程を行うことができるように、耐熱性に優れている基材がより好ましく、無機結晶膜を圧電素子等の各種機能性薄膜に応用することができるように、電気導電性を示す基材(基板)がさらに好ましい。上記基材としては、具体的には、例えば、シリコン(Si)やGaAs等の半導体基材、AlやCu、インコネル(Inconel :登録商標)、ステンレス等の金属および合金の板若しくは箔、石英ガラスや耐熱ガラス(例えばパイレックスガラス:登録商標)等のガラス基材、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ等のセラミックス基材、サファイア等の無機単結晶基材が挙げられる。また、上記基材上に白金(Pt)等の金属膜を積層した基材、当該金属膜と基材との密着性を向上させるためにチタン(Ti)等のバッファー層を上記基材上に成膜した上に金属膜を積層した基材、および、上記基材上にITOやZnO系の透明導電膜を積層した基材を用いてもよい。
【0027】
また、基材は、無機結晶膜を圧電素子等の各種機能性薄膜に応用することができるように、例えば、水道管やガス管等に装着して使用する場合には、上記金属および合金の板若しくは箔のように、可撓性を備えていることが好ましい。その場合に基材の厚さは、特に限定されないものの、その機能が損なわれない範囲においてより薄い方が好ましい。
【0028】
本発明に係る無機結晶膜の具体的な膜構造については、後段の<無機結晶膜の膜構造>にて詳述する。
【0029】
<無機結晶膜の製造方法>
本発明に係る無機結晶膜の製造方法は、上記無機結晶膜の製造方法であって、無機結晶膜となる金属種を含有する化学溶液を基材に塗布する塗布工程、塗布工程で得られた塗布膜を乾燥する乾燥工程、および、乾燥した膜を焼成する焼成工程、を備え、上記塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして複数回繰り返す方法である。以下、各工程について説明する。
【0030】
(塗布工程)
無機結晶膜となる金属種を含有する化学溶液は、溶剤(溶媒とも称する)に上記金属化合物および必要に応じて上記化合物(a)を溶解させることにより、容易に調製することができる。上記溶剤としては、金属化合物および化合物(a)を溶解させることができる溶剤であればよく、特に限定されないものの、具体的には、例えば、2−メトキシエタノール、2−プロパノール、エタノール、1−ブタノール、トリオクチルフォスフィン、水等が挙げられる。
【0031】
化学溶液における金属化合物の濃度は、無機結晶膜を効率的に成膜することができるように、より高い方が好ましく、具体的には、0.1〜10モル/リットルの範囲内がより好ましく、0.2〜1.0モル/リットルの範囲内がさらに好ましい。
【0032】
また、化学溶液における化合物(a)の濃度は、所望するドープ量に応じて設定すればよい。例えば、LiドープしたZnO結晶膜の場合には、化合物(a)であるLi化合物の濃度は、1×10−3〜0.1モル/リットルの範囲内が好ましい。
【0033】
さらに、金属化合物を溶剤に溶解させるために、2−アミノエタノール、N−ブチルエタノールアミン等の添加剤(安定化剤)を添加してもよい。当該添加剤の使用量は、特に限定されないものの、金属化合物と当モル以上であることが好ましい。例えば、金属化合物が酢酸亜鉛二水和物であり、添加剤が2−アミノエタノールである場合には、化学溶液中では、亜鉛は酢酸基と2−アミノエタノールとが配位した錯体として存在すると推定される。
【0034】
尚、化学溶液を調製する工程は、塗布工程の前に行われていればよく、従って、塗布工程内の一工程である必要は無い。つまり、化学溶液を予め調製しておき、塗布工程を行うまで保存しておいてもよい。
【0035】
化学溶液を基材に塗布する方法としては、基材上に化学溶液を均一に塗布することができる塗布方法であればよく、特に限定されないものの、スピンコート法、ディップコート法、シルクスクリーン印刷法、またはインクジェット印刷法が簡便であるので好適である。これら塗布方法は、大面積の基材上に均一な膜厚の塗布膜を形成することができる。つまり、これら塗布方法を行うことにより、局所的な欠損部分を有しない、均一な膜厚の塗布膜が得られる。塗布条件は、化学溶液の組成(溶剤の種類、金属化合物の濃度等)に応じて設定すればよいが、一回の塗布工程で成膜される塗布膜は、より厚い方が効率的であるので好ましい。塗布は空気中で行えばよいが、塗布雰囲気は特に限定されない。
【0036】
(乾燥工程)
塗布工程で得られた塗布膜を乾燥する乾燥条件は、化学溶液の組成(溶剤の種類等)に応じて設定すればよいが、乾燥温度は70℃〜300℃の範囲内が好ましい。乾燥時間は乾燥温度に応じて設定すればよいが、3分〜30分の範囲内が好ましい。また、乾燥は空気中で行えばよいが、乾燥雰囲気は特に限定されない。但し、蒸発した溶剤が大気中に放出されないように、ドラフト等で溶剤を回収することが望ましい。
【0037】
無機結晶膜となる金属種は化学溶液中ではイオン状態で存在し、塗布工程後、乾燥させると析出および凝集して、通常、平均粒子径が1〜500nmの範囲内、より好ましくは5〜20nm程度の大きさの粒子(以下、微粒子とも称する)になる。つまり、塗布工程および乾燥工程を行うことによって得られる膜(乾燥した膜)は、微粒子が充填した集合体である。
【0038】
塗布工程および乾燥工程を一回行うことによって得られる膜(乾燥した膜)の膜厚は、5〜100nmの範囲内である。従って、膜厚をこれよりも厚くするには、塗布工程および乾燥工程を1セットとして複数回繰り返せばよい。焼成工程に至るまでに繰り返す回数は、特に限定されないものの、2〜15回程度が好ましく、3〜10回程度がより好ましい。
【0039】
尚、塗布工程および乾燥工程を1セットとして複数回繰り返す場合において、それぞれの工程の条件(塗布条件、乾燥条件)同士は、互いに異なっていてもよいが、均一な無機結晶膜を形成するには互いに同一条件であることが好ましい。
【0040】
(焼成工程)
上記塗布工程および乾燥工程を1セットとして少なくとも一回、好ましくは複数回繰り返した後、焼成工程を行って乾燥した膜を焼成する。これにより、基材上に無機結晶膜を形成する。
【0041】
焼成条件は、膜(乾燥した膜)の組成(金属種の種類等)に応じて設定すればよいが、焼成温度は450℃〜800℃の範囲内が好ましく、550℃〜700℃の範囲内がより好ましい。具体的には、例えば基材がインコネル基材である場合には650℃程度が好ましい。焼成時間は焼成温度に応じて設定すればよいが、5分〜60分の範囲内が好ましく、10分〜30分の範囲内がより好ましい。また、焼成は、大気中の他に、アルゴン雰囲気や窒素雰囲気等の不活性ガス中、或いは酸素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気や、水素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気中で行えばよいが、焼成雰囲気は特に限定されない。
【0042】
膜(乾燥した膜)を焼成することにより、充填した集合体となっている微粒子は互いに焼結する。つまり、充填した微粒子が互いに結合してなる多孔体である結合層を形成する。当該結合層は、微粒子が無秩序に(規則性無く)充填された構造である。
【0043】
次いで、上記結合層が形成された基材を用いて上記塗布工程および乾燥工程を繰り返すと、新たに塗布された化学溶液が多孔体の間隙に入り込むので、当該結合層の間隙は乾燥工程で形成された微粒子によって埋められ、焼成(焼結)することによって粒子が緻密に充填された構造となっていく。つまり、その詳細な生成過程については不明であるものの、微粒子である微細な結晶粒子は、周囲の大きな結晶粒子に取り込まれながら成長すると推測され、基材上に先に形成されていた結合層は上記塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして繰り返すことにより緻密な膜構造へと変化していき、この緻密な膜構造の上に、新たな結合層が形成されることになる。
【0044】
塗布工程、乾燥工程および焼成工程を一回行うことによって得られる膜(無機結晶膜)の膜厚は、10〜300nmの範囲内である。従って、膜厚をこれよりも厚くするには、塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして複数回繰り返せばよい。繰り返す回数は、特に限定されないものの、無機結晶膜を機能性薄膜として用いる場合の膜厚が通常、100〜10000nmの範囲内であることを考慮すれば、2〜20回程度が好ましく、3〜10回程度がより好ましい。
【0045】
尚、塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして複数回繰り返す場合において、それぞれの工程の条件(塗布条件、乾燥条件、焼成条件)同士は、互いに異なっていてもよいが、均一な無機結晶膜を形成するには互いに同一条件であることが好ましい。
【0046】
そして、上記塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして複数回繰り返すことにより、ヘテロ構造の、つまり、少なくとも二層構造の無機結晶膜が得られる。
【0047】
本発明に係る製造方法によれば、大面積の薄膜を成膜することが可能であり、特別な装置を必要としない。従って、低コストの無機結晶膜の製造方法、即ち、他種の膜を積層して素子化しても性能や信頼性の低下を招くことなく利用することができる膜構造を有する無機結晶膜の製造方法を提供することができる。また、化学溶液堆積法を用いた本発明に係る製造方法によれば、無機結晶の結晶構造の極性を揃えることができる。それゆえ、得られる無機結晶膜は良好な圧電応答性を示す。
【0048】
<無機結晶膜の膜構造>
上記製造方法によって成膜することによって最終的に得られる基材に接する下層(基材に接している側の膜の最下層)は、塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして複数回繰り返すことによって形成されているので、粒子の粒界が認められない緻密層となっている。これに対して、最終的に得られる膜の最上層(基材に接していない側の膜の最上層)は、塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして一回繰り返すことによって形成されているので、充填した粒子が互いに結合してなる多孔体である結合層となっている。ここで、本発明において「粒子の粒界が認められない」とは、下記実施例に記載の観察条件で、膜断面をフィールドエミッション走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察しても、粒子の粒界が認められないことを指す。
【0049】
本発明に係る無機結晶膜では、基材に接している側に緻密層が形成されており、当該緻密層には膜表面(基材に接していない側の最上層の面)から連続する間隙が形成されないので、結合層から緻密層まで、即ち、基材に接していない側の膜表面から基材に接している側の膜表面まで、連続する間隙は形成されない。従って、無機結晶膜上に他種の膜を例えばシルクスクリーン印刷法またはインクジェット印刷法を用いて積層する場合には、他種の膜を形成するときに用いる溶剤が緻密層を通過することがない。それゆえ、例えば、各種機能性薄膜に応用するために、電気導電性を示す基材(基板)上に上記無機結晶膜を積層した場合においては、上記溶剤が緻密層を通過して基材上に達することがないので、他種の膜を形成する化合物は少なくとも緻密層上(基材が位置する面と反対側の結合層に近い面)に析出し、基材近傍若しくは基材上に析出することはない。従って、本発明に係る無機結晶膜を各種機能性薄膜に応用しても、上部電極と下部電極との間の絶縁性の低下若しくは短絡を引き起こさずに、良好な圧電応答性を示すことができる。
【0050】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
〔実施例1〕
2−メトキシエタノールを溶剤として用いて、酢酸亜鉛二水和物および2−アミノエタノール(添加剤)を各々0.564モル/リットルの濃度で、酢酸リチウム二水和物を0.036モル/リットルの濃度で含有する2−メトキシエタノール溶液からなるコート液を調製した(酢酸亜鉛二水和物および酢酸リチウム二水和物の合計at.数を100at.%としたとき、酢酸リチウム二水和物のat.数は6at.%)。
【0053】
上記コート液を透過型電子顕微鏡(TEM)観察用銅グリッドの上に滴下して乾燥させ、TEM観察を行ったが、微結晶若しくはゲル微粒子の存在は認められなかった。観察条件は、加速電圧200kV、倍率30万倍とした。また、当該コート液の紫外−可視吸収スペクトルを測定した結果、ZnO結晶特有の吸収は認められなかった。従って、コート液中では亜鉛は酢酸基と2−アミノエタノールとが配位した錯体として存在していると推定された。
【0054】
得られたコート液を、インコネル(登録商標)600で形成された基材(大きさ:20mm角、厚さ:0.5mm)上にスピンコート法で塗布した(塗布工程)。その後、得られた塗布膜を、ホットプレート上で200℃、5〜30分程度乾燥した(乾燥工程)。
【0055】
そして、上記塗布工程および乾燥工程を1セットとして6回繰り返して成膜した後、得られた膜を、アルゴン雰囲気中、電気炉内(昇温速度10℃/分)で650℃、20分間焼成した(焼成工程)。さらに、上記塗布工程(6回)、乾燥工程(6回)および焼成工程(1回)を1セットとして3回繰り返すことにより、膜厚が凡そ700nmの、LiでドープされたZnO薄膜(無機結晶膜)を作成した(ZnO薄膜の組成はZn0.94Li0.06O)。得られた薄膜がウルツ鉱型結晶構造を有し、高いc軸配向性を示していることは、X線回析(XRD)(Cu Kα 線照射)法を用いて確認した。
【0056】
得られたZnO薄膜を基材ごと曲げることによって破断して、生じた膜断面をフィールドエミッション走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察した。観察条件は、加速電圧5.0kV、倍率5万倍とした。観察画像を図1に示す。当該観察画像においては、基材が下側、膜表面が上側になっている。観察画像から、以下のことが判った。
【0057】
即ち、ZnO薄膜における基材(膜裏面)から凡そ200nmの厚さ(高さ)までの下層(基材に接する下層に相当)では、均質な緻密層が形成されており、粒子の粒界は認められなかった。この下層は、塗布工程、乾燥工程および焼成工程を3回繰り返すことによって堆積された層に対応する。これに対して、ZnO薄膜における膜表面から凡そ500nmの厚さ(深さ)までの上層(膜の最上層に相当)では、充填した粒子が互いに結合してなる結合層が形成されていた(粒子の粒界が認められた)。そして、上層のうち膜表面から凡そ300nmの厚さ(深さ)までは、粒子径100nm程度の丸い粒子が無秩序に充填して互いに結合した構造を有する層となっていた。この層は、3回目に行った塗布工程、乾燥工程および焼成工程によって堆積された層に対応しており、当該構造は、非特許文献1において1回の焼成工程で作成された膜の膜構造と類似していた。
【0058】
次に、上記塗布工程、乾燥工程および焼成工程を3回繰り返すことにより得られたZnO薄膜を切断して、生じた膜断面をクロスセクションポリッシャで加工した後、フィールドエミッション走査型電子顕微鏡で観察した。観察画像を図2に示す。当該観察画像においては、基材(図2ではSubstrate)が下側、膜(図2ではFilm)表面が上側になっている。観察画像から、以下のことが判った。
【0059】
即ち、ZnO薄膜における上層側では、粒子が無秩序に充填して互いに結合しているため、膜表面から凡そ300nmの厚さ(深さ)まで、連続する間隙が認められた。これに対して、それよりも下層側では、緻密層となっているため、閉じられた空隙(間隙)は幾つか存在するものの、膜表面から連続する間隙は認められなかった。つまり、膜表面から基材(膜裏面)まで、連続する間隙は認められなかった。
【0060】
上記構造のZnO薄膜の膜表面に、Ptからなる直径2mmの上部電極を6箇所形成し、基材を下部電極として圧電素子を作製し、それぞれの上部電極に関して電気抵抗および圧電応答性を測定した。その結果、上記圧電素子の電気抵抗は、6箇所とも短絡は認められず、その平均の抵抗値は7×10Ω・cmであった。d33メータを用いて測定した上記圧電素子の圧電定数は、6箇所とも圧電応答性を示し、その平均値は5.8pC/Nであった。一般的に実用化されている水晶(圧電定数は2.0pC/N程度)と比較すると、当該ZnO薄膜が良好な圧電応答性を示すことが確認された。
【0061】
〔実施例2〕
2−メトキシエタノールを溶剤として用いて、酢酸亜鉛二水和物および2−アミノエタノールを各々0.600モル/リットルの濃度で含有する2−メトキシエタノール溶液からなるコート液を調製した以外は、実施例1と同様の方法を行うことにより、ZnO薄膜を作成した(ZnO薄膜の組成はZnO)。
【0062】
上記構造のZnO薄膜を用いて、実施例1と同様の方法で圧電素子を作製し、電気抵抗および圧電応答性を測定した。その結果、上記圧電素子の電気抵抗は、6箇所のうち5箇所で短絡は認められず、その平均の抵抗値は3×10Ω・cmであった。d33メータを用いて測定した上記圧電素子の圧電定数は、短絡が認められなかった5箇所で圧電応答性を示し、その平均値は3.9pC/Nであった。従って、当該ZnO薄膜は良好な圧電応答性を示した。
【0063】
〔実施例3〕
2−メトキシエタノールを溶剤として用いて、酢酸亜鉛二水和物および2−アミノエタノールを各々0.582モル/リットルの濃度で、酢酸リチウム二水和物を0.018モル/リットルの濃度で含有する2−メトキシエタノール溶液からなるコート液を調製した以外は、実施例1と同様の方法を行うことにより、ZnO薄膜を作成した(ZnO薄膜の組成はZn0.97Li0.03O)。
【0064】
上記構造のZnO薄膜を用いて、実施例1と同様の方法で圧電素子を作製し、電気抵抗および圧電応答性を測定した。その結果、上記圧電素子の電気抵抗は、6箇所とも短絡は認められず、その平均の抵抗値は5×10Ω・cmであった。d33メータを用いて測定した上記圧電素子の圧電定数は、6箇所とも圧電応答性を示し、その平均値は5.6pC/Nであった。従って、当該ZnO薄膜は良好な圧電応答性を示した。
【0065】
〔実施例4〕
2−メトキシエタノールを溶剤として用いて、酢酸亜鉛二水和物および2−アミノエタノールを各々0.540モル/リットルの濃度で、酢酸リチウム二水和物を0.060モル/リットルの濃度で含有する2−メトキシエタノール溶液からなるコート液を調製した以外は、実施例1と同様の方法を行うことにより、ZnO薄膜を作成した(ZnO薄膜の組成はZn0.90Li0.10O)。
【0066】
上記構造のZnO薄膜を用いて、実施例1と同様の方法で圧電素子を作製し、電気抵抗および圧電応答性を測定した。その結果、上記圧電素子の電気抵抗は、6箇所とも短絡は認められず、その平均の抵抗値は1×10Ω・cmであった。d33メータを用いて測定した上記圧電素子の圧電定数は、6箇所とも圧電応答性を示し、その平均値は3.0pC/Nであった。従って、当該ZnO薄膜は良好な圧電応答性を示した。
【0067】
〔実施例5〕
2−メトキシエタノールを溶剤として用いて、酢酸亜鉛二水和物および2−アミノエタノールを各々0.510モル/リットルの濃度で、酢酸リチウム二水和物を0.090モル/リットルの濃度で含有する2−メトキシエタノール溶液からなるコート液を調製した以外は、実施例1と同様の方法を行うことにより、ZnO薄膜を作成した(ZnO薄膜の組成はZn0.85Li0.15O)。
【0068】
上記構造のZnO薄膜を用いて、実施例1と同様の方法で圧電素子を作製し、電気抵抗および圧電応答性を測定した。その結果、上記圧電素子の電気抵抗は、6箇所とも短絡は認められず、その平均の抵抗値は1×10Ω・cmであった。d33メータを用いて測定した上記圧電素子の圧電定数は、6箇所とも圧電応答性を示し、その平均値は2.3pC/Nであった。従って、当該ZnO薄膜は良好な圧電応答性を示した。
【0069】
〔実施例6〕
2−メトキシエタノールを溶剤として用いて、酢酸亜鉛二水和物および2−アミノエタノールを各々0.480モル/リットルの濃度で、酢酸リチウム二水和物を0.120モル/リットルの濃度で含有する2−メトキシエタノール溶液からなるコート液を調製した以外は、実施例1と同様の方法を行うことにより、ZnO薄膜を作成した(ZnO薄膜の組成はZn0.80Li0.20O)。
【0070】
上記構造のZnO薄膜を用いて、実施例1と同様の方法で圧電素子を作製し、電気抵抗および圧電応答性を測定した。その結果、上記圧電素子の電気抵抗は、6箇所とも短絡は認められず、その平均の抵抗値は1×10Ω・cmであった。d33メータを用いて測定した上記圧電素子の圧電定数は、6箇所とも圧電応答性を示し、その平均値は1.8pC/Nであった。従って、当該ZnO薄膜は良好な圧電応答性を示した。
【0071】
〔比較例1〕
実施例1と同様の方法で、塗布工程(6回)、乾燥工程(6回)および焼成工程(1回)を1セットとして1回行うことにより、LiでドープされたZnO薄膜を作成した(ZnO薄膜の組成はZn0.94Li0.06O)。
【0072】
上記ZnO薄膜の膜表面に、Ptからなる直径2mmの上部電極を6箇所形成し、基材を下部電極として圧電素子を作製し、それぞれの上部電極に関して電気抵抗および圧電応答性を測定した。その結果、6箇所のうち5箇所で短絡が認められ、短絡が認められた箇所では圧電応答性を全く示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る無機結晶膜およびその製造方法は、例えば、圧力センサ、圧電センサ(圧電材料)、機械的エネルギーを電気エネルギーに変換する圧電発電装置に組み込まれる圧電体膜、強誘電体メモリに組み込まれる強誘電体膜、タッチパネル装置に組み込まれる圧電体膜および透明導電膜、各種ディスプレーや太陽電池装置に組み込まれる透明導電膜、バリスタ素子に組み込まれる誘電体膜、発光素子の発光体膜等の機能性薄膜に応用される無機結晶膜およびその製造方法として、利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成された無機結晶膜であって、
少なくとも二層構造であり、基材に接する下層は緻密層であり、膜の最上層は充填した粒子が互いに結合してなる結合層であることを特徴とする無機結晶膜。
【請求項2】
一方の面から他方の面まで連続する間隙を有しないことを特徴とする請求項1に記載の無機結晶膜。
【請求項3】
上記緻密層では粒子の粒界が認められないことを特徴とする請求項1または2に記載の無機結晶膜。
【請求項4】
酸化物を主成分とすることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の無機結晶膜。
【請求項5】
ウルツ鉱型結晶構造を有する化合物を主成分とすることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の無機結晶膜。
【請求項6】
上記主成分が酸化亜鉛(ZnO)であることを特徴とする請求項4または5に記載の無機結晶膜。
【請求項7】
上記酸化亜鉛に、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ビスマス(Bi)、およびプラセオジウム(Pr)からなる元素群より選択される少なくとも一種類の元素がドープされていることを特徴とする請求項6に記載の無機結晶膜。
【請求項8】
膜厚が100〜10000nmの範囲内であることを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の無機結晶膜。
【請求項9】
圧電特性を有することを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の無機結晶膜。
【請求項10】
請求項1から9の何れか1項に記載の無機結晶膜の製造方法であって、
無機結晶膜となる金属種を含有する化学溶液を基材に塗布する塗布工程、
塗布工程で得られた塗布膜を乾燥する乾燥工程、および、
乾燥した膜を焼成する焼成工程、
を備え、上記塗布工程、乾燥工程および焼成工程を1セットとして複数回繰り返すことを特徴とする無機結晶膜の製造方法。
【請求項11】
上記塗布工程および乾燥工程を1セットとして複数回繰り返した後、上記焼成工程を行うことを特徴とする請求項10に記載の無機結晶膜の製造方法。
【請求項12】
スピンコート法、ディップコート法、シルクスクリーン印刷法、またはインクジェット印刷法を用いて上記塗布工程を行うことを特徴とする請求項10または11に記載の無機結晶膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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