説明

無機質系廃材の処理方法

【課題】 建材・土木分野を始めとする広範囲な分野で使用されてきた石綿(アスベスト)を含有する無機質系材料の廃材を、石綿粉塵を発生させることなく処理し、再利用するための方法を提供すること。
【解決手段】 石綿を含有する無機質系材料の廃材を粉砕することなく加熱水平炉に導入し、該加熱水平炉内で1000℃以上かつ1時間以上の加熱を施す加熱工程を有することを特徴とする無機質系廃材の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材・土木分野を始めとする広範囲な分野で使用されてきた石綿(アスベスト)を含有する無機質系材料の廃材を、石綿粉塵により周辺環境を悪化させることなく再利用するための処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石綿含有廃材の処理方法としては、従来、石綿を非石綿化するために1500℃程度の高温で加熱し、石綿を溶融して固化する方法が採られていた。例えば、特許文献1には、「(1)廃石綿等排出工場から排出される廃石綿等を飛散防止処置をして、また、建築物解体・改修工事現場からの排出物は直接二重のプラスチック袋に詰めて、中間処理場へ搬送する。(2)中間処理現場では溶融施設内の溶融炉・内へ搬送して来た排出物を袋ごと直接投入し、1500℃以上の炉温で溶融固化する。固化された廃石綿の「スラグ」及び「カレル状」内にはアスベスト繊維は溶融され皆無となり無害化される。(3)溶融固化後、無害化されたスラグ等は特別管理産業廃棄物の範囲から離れ「ガラスくず及び陶器くず」に該当する物質となるために安定型最終処分場に埋め立てることが出来る。」という廃石綿等の処理方法が開示されている。しかし、石綿を溶融固化して最終処分場に埋め立てるのでは、資源としてリサイクルすることができないという問題がある。
【0003】
そこで、石綿含有廃材を、水硬性を有する物質に変換して再利用する技術が提案されている。例えば、特許文献2には、石綿セメント製品を600〜1450℃の温度で、15分〜2時間加熱処理した石綿セメント製品の加熱処理品であって、X線回折による石綿のピークが不在であり、且つガラス状固化物が不在であることを特徴とする水硬性粉体組成物が開示されている。しかし、石綿セメント製品を実際に加熱処理するにあたっては、石綿粉塵が発生するという問題があるのでその対策が重要となる。しかし、特許文献2は、石綿粉塵対策について何等開示していない。
【0004】
特許文献3には、ロータリーキルンを用いたセメントの製造方法であって、前記ロータリーキルン内の焼成帯において石綿廃材、及びセメント原料を処理することを特徴とするセメント製造方法が開示されている。しかし、ロータリーキルン内に石綿廃材を導入するためには廃材を粉砕する必要があるが、この粉砕時に石綿粉塵が発生するという問題がある。しかし、特許文献3も石綿粉塵対策について何等開示していない。
【0005】
【特許文献1】特開平10−337547号公報
【特許文献2】特許第3198148号公報
【特許文献3】特開平9−86982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、建材・土木分野を始めとする広範囲な分野で使用されてきた石綿(アスベスト)を含有する無機質系材料の廃材を、非石綿化し再利用するための加熱処理を実施するにあたり、加熱処理前または加熱処理中に、該廃材に粉砕等の衝撃を加えることなく、従って石綿粉塵を発生させることなく加熱処理を行うことにより、石綿粉塵により周辺環境を悪化させることなく該廃材を非石綿化処理し、再利用するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、石綿を含有する無機質系材料の廃材を加熱水平炉に導入して特定の加熱処理を行うことにより、該廃材からの石綿粉塵の発生を防止できることを見出し、本発明を完成することができた。
【0008】
すなわち本発明は、石綿を含有する無機質系材料の廃材を粉砕することなく加熱水平炉に導入し、該加熱水平炉内で1000℃以上かつ1時間以上の加熱を施す加熱工程を有することを特徴とする無機質系廃材の処理方法を提供するものである。
また本発明は、前記加熱工程が、1200℃以上かつ1時間以上の加熱を施す工程であることを特徴とする前記の無機質系廃材の処理方法を提供するものである。
また本発明は、前記石綿を含有する無機質系材料の廃材を、100mm以下の厚さを一単位としてスペーサを介して複数段に積み重ね、これを前記加熱水平炉に導入し、前記加熱工程を行うことを特徴とする前記の無機質系廃材の処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の処理方法は、石綿を含有する無機質系材料の廃材を粉砕することなく加熱水平炉に導入し特定の加熱処理を行うものであるので、粉砕に伴う石綿粉塵が発生することがない。また、加熱水平炉を利用しているので、加熱処理時に廃材に衝撃が加わることがなく、加熱水平炉内部の雰囲気を石綿粉塵で汚染することもない。また石綿も完全に非石綿化される。
このように本発明によれば、建材・土木分野を始めとする広範囲な分野で使用されてきた石綿(アスベスト)を含有する無機質系材料の廃材を、石綿粉塵を発生させることなく処理し、再利用するための方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、石綿を含有する無機質系材料とは、繊維原料の少なくとも一部として石綿が使用される無機質系の材料であり、例えば、マトリックスがセメントの水和物あるいは石灰質原料と珪酸質原料とをオートクレーブ養生して生成された珪酸カルシウム水和物等により構成された材料であり、必要に応じて各種の充填材や混和材が併用されることも多い。具体的には、石綿スレートや石綿セメント系屋根材等の石綿セメント板、石綿セメント珪酸カルシウム板、セメント系瓦材、煙突材、押出成形材等をあげることができる。石綿を含有する無機質系材料は、建築物や構築物用の材料として広範に使用されてきた材料であり、建築物や構築物の解体や補修に際しては、それらの廃材が多量に発生する。この石綿を含有する無機質系材料の廃材(以下、単に廃材と記す)を資源として再活用するには、廃材に含有されている石綿を非石綿化すること、および再利用し易い物質あるいは状態に変換することが重要である。このような処理を行う方法としては、セメント製造用キルンを用いてセメント原料とともに加熱する方法があるが、前述のようにこの場合は廃材を粉砕する必要があり、石綿粉塵が発生するという問題点があった。また、セメント製造用キルンにおける燃焼時の衝撃により、石綿粉塵が含む排ガスが放出される恐れもあった。
【0011】
そこで本発明では、廃材を粉砕することなく加熱水平炉に導入し、該加熱水平炉内で1000℃以上かつ1時間以上の加熱を施す加熱工程を有することを特徴としている。
本発明における加熱水平炉とは、廃材を水平状態に載置して加熱処理することができる炉であって、連続式、バッチ式のいずれでもよく、具体的にはトンネルキルンを挙げることができる。トンネルキルンは焼成を行う対象物を台車に載せ炉内を搬送して焼成を行う台車式連続炉であって、通常、予熱帯、焼成帯および冷却帯を備えている。本発明においてトンネルキルンは、とくに制限されるものではなく、公知のトンネルキルンを適宜利用することができる。例えば、一方に入口部を、他方に出口部を有するトンネル状の長い炉体であって、入口部から出口部に向かって予熱帯、焼成帯および冷却帯を備えてなるものが挙げられる。予熱帯と焼成帯にはバーナーなどの加熱装置が設けられ、炉体の床面にはレールが敷設され、該レール上を廃材を搭載した複数の台車が、入口部から出口部に向かって移動するように構成されている。廃材は、予熱帯で予熱され、焼成帯で所定の温度にまで焼成され、冷却帯で冷却されて出口部から出炉される。冷却帯は廃材を冷却するための冷却用空気を打ち込む送風装置が設けられている。また炉体内部の雰囲気は、冷却帯から入口部に向けて流動するように設定されている。なお、台車を用いずに、炉体の内部を走行するエンドレス搬送体上に廃材を載置し、所望の加熱工程を行うようにしてもよい。
【0012】
前述のように本発明の加熱工程はトンネルキルン内で1000℃以上かつ1時間以上の加熱を施すものであるが、好ましい加熱条件は、1200℃以上かつ1時間以上である。さらに、廃材を効率的かつ確実に非石綿化し、かつ再利用するための最適な処理条件としては、加熱温度が1200〜1450℃かつ処理時間が1〜4時間である。加熱温度が1000℃未満あるいは加熱時間が1時間未満であると、すべての石綿を完全に非石綿化できない恐れがある。なお、加熱温度が1450℃を超えると石綿がガラス状に固化し、水硬性を失ってしまうため、再利用の観点では好ましくない。
本発明の加熱工程により、クリソタイル石綿(白石綿と呼ばれる場合もある)はフォルステライトからエンスタタイトへ、アモサイト石綿(茶石綿と呼ばれる場合もある)はエンスタタイト+クライノフェロシライト+ヘマタイト+マグネタイト+石英へ、クロシドライト石綿(青石綿と呼ばれる場合もある)はヘマタイト+非晶質相へ変質し、完全に非石綿化される。
【0013】
また本発明では廃材を粉砕せず、すなわち廃棄処理時の原型のままトンネルキルンに導入することに一つの特徴を有している。したがって、粉砕に伴う石綿粉塵が発生しない。また、トンネルキルンを利用して廃材を加熱処理するので、加熱処理時に廃材に衝撃が加わらず、キルン内部の雰囲気を石綿粉塵で汚染することもない。なお、導入する廃材をトンネルキルンのサイズに適合させるため、あるいは廃材の加熱処理を効率よく行うために、廃材の一部を分割する等の作業が必要になることもあり得る。したがって本発明でいう「廃材を粉砕することなく」とは、このような作業をも除外するものではなく、一般的に石綿粉塵の発生が少量である範囲、具体的には廃材の最小寸法が200mm以上である程度に廃材を分割する作業は、本発明でいう「廃材を粉砕することなく」に含まれるものとする。
【0014】
大量の廃材を加熱処理するためには、トンネルキルン内で廃材を積み重ねて加熱処理するのが好ましい。この場合、加熱処理を効率よく行い、石綿を完全に非石綿化するためには、積み重ねた廃材の厚さを100mm以下とし、これを一単位としてスペーサを介して複数段に積み重ねるのが好ましい。さらに好ましくは50mm以下である。スペーサを介することにより、廃材の上下方向から熱負荷がかかり、良好な非石綿化が達成される。積み重ねた廃材の一単位が100mmの厚さを超えると、内部の廃材の非石綿化を達成するのに時間がかかる場合がある。なお、廃材の一単位同士は、スペーサによって上下方向に5mm〜20mm隔てられているのがよい。
【0015】
また、廃材の含水率は、20%以下に調整しておくことが好適である。すなわち、廃材の含水率が20%を上回ると、廃材をトンネルキルン内に導入したときに、廃材に含まれる水分が急激に水蒸気に変わる際の体積膨張により廃材が爆裂しやすくなるからである。廃材が爆裂すると石綿粉塵が生じる。また、トンネルキルン設備へも悪影響を与える危険がある。なお、本発明における含水率とは、(水を含んだ状態における対象物の質量−乾燥状態における対象物の質量)/乾燥状態における対象物の質量×100(%)を意味する。また乾燥状態とは、試料を105℃で24時間加熱した後に得られたものである。
【0016】
上記のような加熱工程が施された後、トンネルキルンから出炉した廃材の焼結体は、粉砕すれば本来のセメントよりも性能は低いものの水硬性を有する粉体となり、これをそのまま硬化させて成形体として利用するか、あるいは各種成形体の増量材として取り扱うことができる。増量材として使用する場合、廃材の焼結体は例えば、成形体中、50質量%以下好ましくは30質量%以下の割合で混合することができる。また成形体には、各種補強用繊維、添加剤等を適宜添加することもできる。また、セメントの原料としても使用できる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例、比較例および参考例により、本発明をさらに説明する。
(参考例1)
下記表1に示す各種石綿単体または石綿を含む各種成形体を、小型電気炉((株)いすゞ社製、商品名マッフル炉)に導入し、焼成帯の温度を下記表1に示すように設定し、1時間加熱し、出炉された焼結体における石綿の残存の有無をX線回折法および分散染色法による顕微鏡観察により調べた。なお、電気炉の昇温時間、降温時間は1時間に設定した。また、セメント系成形体およびケイカル系(ケイ酸カルシウム系)成形体のサイズは、縦100mm、横100mm、厚さ6mmであり、内部に石綿を15質量%含むものである。
【0018】
【表1】

【0019】
上記表1の結果から、1000℃1時間以上の加熱により、石綿単体および各種成形体に含まれる石綿は、すべて非石綿化されることが分かる。
【0020】
(実施例1)
廃材として、約25年前に倉庫の外壁として施工され、倉庫の建て替えに伴って廃材となった波形石綿スレート(縦1820mm、横950mm、厚さ6.3mm)の廃材(当時のJIS A 5403の大波板に該当)を使用した。廃材を粉砕することなく原型のまま、トンネルキルンを模した耐火試験用水平炉(東和耐火工業社製、商品名耐火試験用水平炉、(加熱面積 幅:1m×長さ1.8m×高さ1.1m LPGガスバーナー口40点))に導入し、焼成帯において1200℃で2時間加熱処理を行った。なお、耐火試験用水平炉導入前の廃材の含水率は、10%に調整しておいた。加熱工程実施中の耐火試験用水平炉内の雰囲気をサンプリングし、石綿の存在の有無をX線回折法および分散染色法による顕微鏡観察により調べたところ、石綿は全く検出されなかった。また、出炉された焼結体における石綿の残存の有無をX線回折法および分散染色法による顕微鏡観察により調べたところ、石綿は全く検出されなかった。得られた焼結体を粉砕し、平均粒径を30μmとした後、JIS R 5201に基づいて、圧縮強さ試験(7日)を実施した結果、16N/mm2であり、加熱処理された廃材が水硬性を有することが確認された。
【0021】
(実施例2)
実施例1において、出炉された焼結体を粉砕し、平均粒径を30μmとした後、普通ポルトランドセメントと混合した。普通ポルトランドセメントは、廃材の焼結体の粉砕物に対し、20質量%混合した。さらに、得られた組成物に対し外割りで5質量%のパルプを添加した。この配合条件により、幅4cm×長さ16cm×厚さ10mmの試験片を作製し、室温で2週間の湿空養生を行い、乾燥状態(105℃で24時間乾燥)とした後、中央一線荷重(スパン10cm)にて曲げ試験を実施した。該試験片の見掛け密度は1.53g/cm3で、曲げ強度は10.5N/mm2であり、前記焼結体を粉砕した粉末が十分な水硬性を有していることが確認された。
【0022】
(実施例3)
実施例1と同じ廃材を用い、廃材を粉砕することなく原型のまま、これを厚さ100mmまで積み重ねた。これを一単位とし、高さ6.3mmのスペーサを介して同様の単位を積み重ね、合計6段とした。実施例1で使用したトンネルキルンを模した耐火試験用水平炉に導入し、焼成帯において1200℃で2時間加熱処理を行った。なお、耐火試験用水平炉導入前の廃材の含水率は、10%に調整しておいた。加熱工程実施中の耐火試験用水平炉内の雰囲気をサンプリングし、石綿の存在の有無をX線回折法および分散染色法による顕微鏡観察により調べたところ、石綿は全く検出されなかった。また、出炉された焼結体における石綿の残存の有無をX線回折法および分散染色法による顕微鏡観察により調べたところ、石綿は全く検出されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、建材・土木分野を始めとする広範囲な分野で使用されてきた石綿(アスベスト)を含有する無機質系材料の廃材を、石綿粉塵を発生させることなく処理し、再利用するための方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石綿を含有する無機質系材料の廃材を粉砕することなく加熱水平炉に導入し、該加熱水平炉内で1000℃以上かつ1時間以上の加熱を施す加熱工程を有することを特徴とする無機質系廃材の処理方法。
【請求項2】
前記加熱工程が、1200℃以上かつ1時間以上の加熱を施す工程であることを特徴とする請求項1に記載の無機質系廃材の処理方法。
【請求項3】
前記石綿を含有する無機質系材料の廃材を、100mm以下の厚さを一単位としてスペーサを介して複数段に積み重ね、これを前記加熱水平炉に導入し、前記加熱工程を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の無機質系廃材の処理方法。

【公開番号】特開2007−301419(P2007−301419A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18864(P2006−18864)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000126609)株式会社エーアンドエーマテリアル (99)
【Fターム(参考)】