説明

無機酸化物微粒子含有樹脂組成物および該組成物から得られる硬化物

【課題】透明性が高く、熱に対しても安定で、耐黄変性も優れる光学部材用硬化物の製造が可能となる無機微粒子分散液の製造方法の提供。
【解決手段】遠心分離によりメディアを分離する機構を備えた湿式撹拌粉砕機を用い、下記(A)〜(D)を湿式撹拌粉砕機に供給するに際し、少なくとも(D)を最後に供給する無機微粒子分散液の製造方法、
(A)酸化ジルコニウムナノ粒子
(B)分散剤
(C)分散媒
(D)シランカップリング剤
(但し、(D)シランカップリング剤は、一括で全量を供給しないものとする。)
及び、当該製造方法により製造される無機微粒子分散液を含む紫外線硬化性組成物、該紫外線硬化性組成物を硬化して得られる光学部材用硬化物の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離によりメディアを分離する機構を備えた湿式撹拌粉砕機を用いた無機微粒子分散液の製造方法、本製造方法により得られる分散液を含む熱又は紫外線硬化性組成物、及び該熱又は紫外線硬化性組成物を硬化して得られる光学部材用硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に係る光学樹脂層については、例えば輝度向上用プリズムシートの場合、硬化樹脂層を高屈折率化することによってバックライトの正面輝度を向上させることができ、また、例えばフレネルレンズの場合、光学樹脂層を高屈折率とする程レンズパターンを浅くすることが可能なので、金型からの離型が容易となることにより生産性が向上できる等の理由から、光学樹脂層の高屈折率化が望まれていた。
このような光学樹脂層の製造方法として、特許文献1には、液晶向上用プリズムシート、プロジェクションテレビ用フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ等の光学シートの製造方法が記載されており、プレス法、切削法、押し出し法等の方法が開示されている。しかし、何れの製法も生産性が低いことから、現在は透明プラスチックシート等の透明シート状基材の上に活性エネルギー線硬化性組成物によりプリズム層、レンズ層等の光学樹脂層を形成する方法が利用されている。
【0003】
このような硬化性組成物に、高屈折率、高硬度および耐擦傷性を付与するために、特許文献2には、ジルコニア粒子分散液が使用されることが記載されている。
特許文献3には、透明分散させるためにアセチルアセトン系分散助剤を用いて、0.05mm以上のメディアで分散し、ジルコニア分散体を得る方法が記載されている。当該法によれば、分散粒径の小さなジルコニア粒子分散液を得ることができるという。しかし、アセチルアセトン系分散助剤を用いた場合には、熱や光による劣化・着色を起こしやすい欠点を有する。
特許文献4には、超微小ビーズと遠心セパレート型ビーズミル(3〜50μm)を用いて、溶剤又はモノマーを含んだ溶剤にナノ粒子を均一分散させるナノ粒子分散液の製造方法が記載されている。当該法によれば、ポリマーの前駆体である反応性溶媒を分散媒としたナノ粒子が均一分散したナノ粒子分散液が得られるという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平1−35737号広報
【特許文献2】特開2003−105034号広報
【特許文献3】特開2005−185924号広報
【特許文献4】特開2008−169233号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、上記背景技術に鑑み、透明性が高く、熱に対しても安定で、耐黄変性にも優れる光学部材用硬化物の製造が可能となる無機微粒子分散液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、無機微粒子分散液の製造方法、及び該製造方法により得られる無機微粒子分散液に関し、当該製造方法の特徴は、遠心分離によりメディアを分離する機構を備えた湿式撹拌粉砕機を用い、下記(A)〜(D)を湿式撹拌粉砕機に供給するに際し、少なくとも(D)を最後に供給することにある。
(A)酸化ジルコニウムナノ粒子
(B)分散剤
(C)分散媒
(D)シランカップリング剤
但し、(D)シランカップリング剤は、一括で全量を供給しないものとする。
また、本発明は、当該製造方法により製造される無機微粒子分散液を含む熱又は紫外線硬化性組成物、及び該熱又は紫外線硬化性組成物を硬化して得られる光学部材用硬化物を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上記特徴を有する製造方法を提供することにより、透明性が高く、熱に対しても安定で、耐黄変性にも優れる光学部材用硬化物の製造が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられる湿式撹拌粉砕機は、遠心分離によりメディアを分離する機構を備えることに特徴を有し、当該機構を有するものであれば、通常公知のものを制限なく使用することができる。このような粉砕機としては、例えば、ビーズミル(寿工業株式会社製、ウルトラアペックスミルUAM−015)等を挙げることができるが、本発明に使用される湿式撹拌粉砕機はこれに限らない。
【0009】
該ビーズミルを簡単に説明すると、当該機は、分散機であるビーズミルとビーズミルに原料スラリーを供給する原料スラリー供給ポンプ、原料スラリーを調整する原料スラリータンクから構成される。
ビーズミルは、冷却用のジャケットを取付けたステータと、上部に遠心分離方式のビーズセパレータを有し、その下部にビーズを撹拌するためのローターピンを同軸上に有するローター、ローターを駆動するモータを含み構成される。ローターとステータとは軸封によりシールされ、機内が密閉化されている。原料スラリータンクは、撹拌機を備え、原料スラリー供給ポンプは、原料スラリー(分散液)を定量的にビーズミルへ供給する。ビーズミルに供給された原料スラリーは、ステータ内で撹拌粒子と衝突し、凝集した原料粉は分散される。ビーズセパレータにより撹拌粒子が分離された原料スラリーは、戻りラインを通じて原料スラリータンクへ戻る。原料スラリータンクは、冷却のためのジャケットを備える。
本発明に使用されるビーズミルは、ローター、ステータ及び遠心分離により攪拌粒子であるビーズを分離するビーズ分離機構を備えることに特徴を有する。
【0010】
本発明に使用されるメディアは、通常公知のビーズであれば特に制限はないが、好ましくは、ジルコニア、アルミナ、シリカ、ガラス、炭化珪素、窒化珪素を例示できる。
ビーズの平均粒径としては、3〜50μmが好ましく、10〜30μmのビーズがより好ましい。粒子径が3μmより小さいと、原料粉に対する衝撃力が小さく、分散に時間を要する。一方、撹拌粒子の粒子径が50μmを超えると原料粉に対する衝撃力が大きくなりすぎ、分散された粒子の表面エネルギーが増大し、再凝集が発生しやすい。さらにビーズは、十分に研磨したものを使用することが望ましい。研磨不十分な撹拌粒子を使用すると、粒子の解粒、分散に与える影響は殆どないものの、分散液の光透過度を低下させるからである。
【0011】
(A)酸化ジルコニウムナノ粒子としては、通常公知のものを用いることができ、粒子の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、球状、中空状、多孔質状、棒状、板状、繊維状、又は不定形であり、好ましくは球状である。また、一次粒径は、1〜50nmものが好ましく、特に1〜30nmのものが好ましい。
結晶構造も特に限定されないが、単斜晶系が好ましい。
【0012】
(B)分散剤は、ナノ粒子と親和性を有する基を有する分散剤であれば、特に限定されないが、好ましい分散剤として、カルボン酸、硫酸、スルホン酸或いはリン酸、又はそれらの塩等の酸基を有するアニオン系の高分子量又は低分子量分散剤を挙げることができ、更に好ましくは、前記酸基を有してもよいリン酸エステル系分散剤を挙げることができる。使用される量は特に制限がないが、酸化ジルコニウムナノ粒子に対して、0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜15質量%を挙げることができる。
【0013】
(C)分散媒は、ナノ粒子を分散させるものであれば特に制限はないが、25℃における粘度が200mPa以下の溶媒又はアクリルモノマーが好ましい。
これ以上の粘度のものであると、分散時の粘度が高いことにより粉砕機におけるメディアを分離する際の障害となる。本発明における粘度の測定は、通常公知の方法により測定でき、用いられる測定器としては、B型粘度計を挙げることができる。
【0014】
本発明の(C)分散媒は、具体的には、アクリレート系化合物を挙げることができ、特に、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシ2−メチルエチルアクリレート、フェノキシエトキシエチルアクリレート、3−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−フェニルフェノキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、パラクミルフェノキシエチルアクリレート等の、芳香環含有アクリレートは屈折率が高く、好ましく用いることができる。
【0015】
また、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、イソボニルメタクリレート等の脂環骨格含有アクリレートはアッベ数が高く、光学材料として好ましく用いることができる。
【0016】
また、メチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性アルキル(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの単官能アルキル(メタ)アクリレートは低粘度であり、好ましく用いることができる。
【0017】
また、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレートや、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、リン酸トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の3,4官能(メタ)アクリレートおよびそれらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド変性品は硬化物の高度を向上することができ、好ましく用いられる。
【0018】
これらのアクリルモノマーは、液状であって粘度が200mPa以上のものや室温において固体のアクリルモノマーであっても、液状低粘度のアクリルモノマーで希釈した混合物として、粘度を200mPaに低減して使用することも可能である。
【0019】
また、本発明の(C)分散媒として、エポキシ系化合物を挙げることができる。
特に、ブチルグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物や、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、1,2:8,9ジエポキシリモネン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレートなどのシクロヘキセンオキシド化合物は好ましく用いることができる。
【0020】
また、(C)分散剤として、溶媒を前記アクリルモノマーと併用して、或いは単独で使用することもできる。使用可能な溶媒としては、好ましくは、例えばエタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、トルエン、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジクロロメタン等を挙げることができる。
【0021】
本発明では、無機微粒子分散液の製造工程においては、(A)酸化ジルコニウムナノ粒子、(B)分散剤、(C)分散媒を順次混合し、或いは一括で混合して得られた混合物に(D)シランカップリング剤を供給するが、該シランカップリング剤を一括して全量を供給しないことに特徴を有する。また、前記(A)〜(C)を粉砕機に供給する順番は特に限定はない。
使用されるシランカップリング剤には制限がなく、通常公知のシランカップリング剤を挙げることができる。
例えば、付与するべき官能基を有するシランカップリング剤としては、下記のものを挙げることができるが、これらに限らない。
【0022】
(メタ)アクリロイルオキシ系のシランカップリング剤としては、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランが例示される。アクリロキシ系のシランカップリング剤としては、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示される。
【0023】
ビニル系のシランカップリング剤としては、アリルトリクロロシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シランが例示される。
【0024】
エポキシ系のシランカップリング剤としては、ジエトキシ(グリシディルオキシプロピル)メチルシラン、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−ブリシドキシプロピルトリエトキシシランが例示される。スチレン系のシランカップリング剤としては、p−スチリルトリメトキシシランが例示される。
【0025】
アミノ系のシランカップリング剤としては、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランが例示される。
【0026】
ウレイド系のシランカップリング剤としては、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランが例示される。クロロプロピル系のシランカップリング剤としては、3−クロロプロピルトリメトキシシランが例示される。メルカプト系のシランカップリング剤としては、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキンシランが例示される。スルフィド系のシランカップリング剤としては、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファイドが例示される。イソシアネート系のシランカップリング剤としては、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランが例示される。アルミニウム系カップリング剤としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートが例示される。
このようなシランカップリング剤の中でも、(メタ)アクリロイルオキシ基、グリシジル基、エポキシシクロヘキシル基を有するものが好ましく、特に3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルシランが最も好ましい。
【0027】
本発明におけるシランカップリング剤の供給方法は、一括して所定の全量を供給しないことに特徴があり、具体的には、少なくとも2回に分割して供給する方法と、全量の一部ずつを連続的に供給する方法とがある。
前者の少なくとも2回に分割して供給する方法では、所定の全量を2回以上に分割して供給すればよく、特に制限はないが、例えば、供給すべきシランカップリング剤の全量を5以上にほぼ等分した後、各等分量を分割して供給することが好ましい。
【0028】
また、後者の全量の一部ずつを連続的に供給する方法では、分散させる(A)酸化ジルコニウムナノ粒子が、供給時に凝集等により粒径が大きくならないように行うことが必要で、そのためには、分散が大きく進行し、表面積が増大する途中に連続的にシランカップリング剤を供給する。本方法により連続的に供給するには、供給するシランカップリング剤を滴下等の方法により、分散に必要な時間の少なくとも1/3の時間をかけて供給を行う。供給する(D)シランカップリング剤の使用量に特に制限はないが、(A)酸化ジルコニウムナノ粒子に対して、5〜40質量%が好ましい。
【0029】
上記製造方法により得られる無機微粒子分散液を含む活性エネルギー線硬化性組成物も本発明の範囲に含まれる。
本発明の活性エネルギー線樹脂組成物としては、本発明により得られる無機微粒子分散液を含み、更に、一般的な反応性基を有しても良い樹脂、フィラー、溶剤、光重合開始剤、増感剤、熱重合開始剤、エポキシ硬化剤および硬化促進剤、レべリング剤、密着助剤、離型剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤等を含んでもよい
【0030】
また、前記熱又は紫外線硬化性組成物を硬化してなる光学部材用硬化物も本発明の範囲に含まれる。硬化は、通常公知の熱による硬化法又は活性エネルギー線を照射することによる硬化法により行うことができる。
本発明に用いられる活性エネルギー線は本発明の活性エネルギー線硬化性組成物が硬化を起こす活性エネルギー線であれば特に制限なく用いることができるが、特に紫外線が好ましい。
紫外線の発生源としては、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト、低圧、高圧、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、太陽光線などがある。紫外線の照射強度は、終始一定の強度でも行って良いし、硬化途中で強度を変化させることにより、硬化後の物性を微調整することもできる。
紫外線の他、活性エネルギー線として、例えば可視光線、電子線類の活性エネルギー線も用いることができる。本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、200〜400nmに固有の分光感度を有しており、光重合開始剤不在下に、通常用いられるエネルギー線の有するエネルギー、例えば、20mW/cmのエネルギー数値を挙げることができるが、これに限られない。
【0031】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、光重合開始剤不存在下に、紫外線又は可視光線の照射により硬化するが、硬化反応をより効率的に行なうために、公知慣用の光重合開始剤を添加して硬化させることもできる。光重合開始剤としては、分子内結合開裂型と分子内水素引き抜き型の2種に大別できる。
【0032】
分子内結合開裂型の光重合開始剤としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノンの如きアセトフェノン系;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルの如きベンゾイン類;2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシドの如きアシルホスフィンオキシド系;ベンジル、メチルフェニルグリオキシエステル、などが挙げられる。
【0033】
一方、分子内水素引き抜き型の光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル−4−フェニルベンゾフェノン、4,4′−ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチル−ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノンの如きベンゾフェノン系;2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントンの如きチオキサントン系;ミヒラ−ケトン、4,4′−ジエチルアミノベンゾフェノンの如きアミノベンゾフェノン系;10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−エチルアンスラキノン、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン、などが挙げられる。
光重合開始剤を使用する場合の配合量は、活性エネルギー線硬化性組成物の0.01〜10重量%の範囲が好ましい。
【0034】
また、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、硬化反応をより効率的に行なうために、光増感剤を併用することもできる。
そのような光増感剤としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシルの如きアミン類が挙げられる。
【0035】
光増感剤を使用する場合の配合量は、活性エネルギー線硬化性組成物中0.01〜10重量%の範囲が好ましい。さらに、本発明の活性エネルギー線硬化性組成物には、用途に応じて、非反応性化合物、無機充填剤、有機充填剤、カップリング剤、粘着付与剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、顔料、染料などを適宜併用することもできる。
【0036】
本発明で得られる硬化物は、光学用部材として、例えば、プラスチックレンズ、輝度向上フィルム(プリズムシート)、フィルム型液晶素子、タッチパネル、プラスチック光学部品等の反射防止膜等に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例および比較例をもって本発明をより詳しく説明する。
【0038】
(実施例1)
酸化ジルコニウムナノ粒子粉体(商品名:RC−100、第一稀元素化学工業(株)製、一次粒径10nm)27g、リン酸エステル系分散剤(商品名:ディスパーBYK106、ビックケミー社製)1.35g、トルエン270gを混合し、攪拌しながら超音波を10分照射して粗分散した。
得られた混合液を、遠心分離によりメディアを分離する機構を備えた湿式撹拌粉砕機である寿工業(株)製ウルトラアペックスミルUAM−015を用いて分散処理した。メディアは平均粒子径が0.03mmの安定化ジルコニアビーズ(高周波熱錬(株)製)を400g用い、ビーズミルのベッセル容積中の充填率を64容積%とした。ビーズミルのローター周速は10m/sとした。
【0039】
スラリー供給ポンプの流量を調整し、循環流量を10L/時間とした。分散処理開始直後30分から120分にかけて、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(商品名:KBM−303、信越化学工業(株)製)1.35gを一定速度で原料スラリータンクに添加した。分散処理開始から180分後に分散処理を終了し、分散液を回収した。分散処理時、ベッセル出口における分散液の温度は24℃〜38℃であった。
分散液の配合量、シランカップリング剤の供給条件、装置条件、および、分散処理後の酸化ジルコニウムナノ粒子の分散粒径を表1に示す。
【0040】
(実施例2)〜(実施例4)
表1に示した配合量、シランカップリング剤の供給条件、装置条件で分散液を作製した。分散処理後の酸化ジルコニウムナノ粒子の分散粒径を表1に示す。
【0041】
(実施例5)
表1に示した配合量、装置条件で、シランカップリング剤を分割供給した。
【0042】
(比較例1)
実施例1における、KBM−303の供給を分散処理開始直後に一括供給で行った以外は実施例1と同様にして分散処理を行った。分散処理後の酸化ジルコニウムナノ粒子の分散粒径を表1に示す。
(比較例2)
実施例3における、KBM−503の供給を分散処理開始直後に一括供給で行った以外は実施例1と同様にして分散処理を行った。分散処理後の酸化ジルコニウムナノ粒子の分散粒径を表1に示す。
【0043】
(測定例)分散液中の酸化ジルコニウムナノ粒子の分散粒径測定
作製1日後(25℃保管)の分散液中の酸化ジルコニウムナノ粒子の分散粒径を、堀場製作所(株)社製の粒度分布測定装置LB−550を用いて25℃で測定した。分散液と同等の分散媒で酸化ジルコニウム濃度0.1重量%に希釈して、メジアン径を体積基準で測定した。
【0044】
【表1】

【0045】
注1)ジルコニア粒子:UEP−100(商品名、第一稀元素化学工業(株)製、一次粒径12nm)
注2)ディスパロンPW−36(商品名、楠本化成(株)製)
注3)ディスパーBYK−111(商品名、ビックケミー社製)
注4)KBM−503(商品名、信越化学工業(株)製)
注5)KBM−5103(商品名、信越化学工業(株)製)
【0046】
(実施例5)
実施例1で作製した酸化ジルコニウムのトルエン分散液81.0重量部にエポキシ化合物として3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3‘,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(商品名:セロキサイド2021P、ダイセル化学工業(株)製)26.5重量部、熱硬化剤としてメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(商品名:エピクロンB650、DIC(株)製)41.9重量部、硬化触媒として、有機ホスホニウム塩(商品名:ヒシコーリンPX−4MP、日本化学工業(株)製)0.24重量部を加え、エバポレーターで揮発成分を減圧除去して。熱硬化性組成物(1)を得た。酸化ジルコニウム含有率は10.0%であった。
【0047】
(実施例6)
実施例2で作製した酸化ジルコニウムのトルエン分散液71.1重量部にUVモノマーとしてイソボルニルアクリレート(商品名:IBXA、大阪有機化学工業(株)製)6.0重量部、エチレンオキシド6モル変性トリメチロールプロパントリアクリレート(商品名:SR499、サートマージャパン(株)製)3.0重量部を加え、エバポレーターで揮発成分を減圧除去した。
【0048】
得られた組成物に1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン(商品名:イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)0.72重量部を光重合開始剤として添加し、光硬化性組成物(2)を得た。酸化ジルコニウム含有率は44.9%であった。
【0049】
(実施例7)
実施例3で作製した酸化ジルコニウムのトルエン分散液127.5重量部にUVモノマーとしてフェノキシエチルアクリレート(商品名:M−101A、東亞合成(株)製)4.0重量部を加え、エバポレーターで揮発成分を減圧除去した。
得られた組成物に1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン(商品名:イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)社製)0.72重量部を光重合開始剤として添加し、光硬化性組成物(3)を得た。酸化ジルコニウム含有率は44.8%であった。
【0050】
(実施例8)
実施例6と同様にして、実施例4において作製した酸化ジルコニウムの分散液を用いて、それぞれ光硬化性組成物(4)を作製した。
(比較例3)
実施例5と同様にして、比較例1において作製した酸化ジルコニウムの分散液を用いて、熱硬化性組成物(5)を作製した。
(比較例4)
実施例7と同様にして、比較例2において作製した酸化ジルコニウムの分散液を用いて、光硬化性組成物(6)を作製した。
【0051】
(実施例9)
実施例5で得た熱硬化性組成物をテフロン(登録商標)シャーレに入れ、オーブンにて120℃で2時間、150℃で1時間熱硬化して厚さ約1mmの硬化膜(1)を得た。
(実施例10)
実施例6で得た光硬化性組成物をガラス基板にスピンコートし、空気中、120W/cm高圧水銀ランプにて1000mJ/cmで光硬化して厚さ約150μmの硬化膜(2)を得た。
【0052】
(実施例11)、(実施例12)
実施例10と同様にして、実施例7、8において作製した光硬化性組成物(3)、(4)を用いて、それぞれ硬化膜(3)、(4)を作製した。
(比較例5)
実施例9と同様にして、比較例3において作製した熱硬化性組成物(5)を用いて、硬化膜(5)を作製した。
(比較例6)
実施例10と同様にして、比較例4において作製し光硬化性組成物(6)を用いて、硬化膜(6)を作製した。
【0053】
(試験例)光学部材用硬化物の評価
<硬化物の屈折率および透明性>
実施例9で得た3210μm厚の硬化物について、屈折率および透明性を測定した。アッベ屈折率計による屈折率は1.526(25℃、D線)であった。分光光度計、400nmにおける平行光線透過率は63.0%であった。ヘーズメータによるヘーズ値は2.4であった。
以下同様にして、(実施例10)〜(実施例12)及び(比較例5)、(比較例6)の硬化膜について、評価を行った。結果を、表2に示した。
【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の製造方法により得られる無機微粒子分散液は、熱又は紫外線照射により硬化物とし、当該硬化物は光学用部材としての利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心分離によりメディアを分離する機構を備えた湿式撹拌粉砕機を用いた無機微粒子分散液の製造方法であって、
下記(A)〜(D)を湿式撹拌粉砕機に供給するに際し、少なくとも(D)を最後に供給することを特徴とする無機微粒子分散液の製造方法。
(A)酸化ジルコニウムナノ粒子
(B)分散剤
(C)分散媒
(D)シランカップリング剤
但し、(D)シランカップリング剤は、一括で全量を供給しないものとする。
【請求項2】
(D)シランカップリング剤を、少なくとも2回に分割して全量を供給する請求項1に記載の無機微粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
(D)シランカップリング剤を、連続的に一部ずつを供給することにより全量を供給する請求項1に記載の無機微粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の無機微粒子分散液の製造方法において、
無機微粒子分散液の製造に必要な分散時間の1/3以上の時間をかけてシランカップリング剤の全量を供給する無機微粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
メディアの平均粒径が、10〜30μmである請求項1〜4のいずれかに記載の無機微粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
(B)分散剤が、リン酸エステル系界面活性剤である1〜5のいずれかに記載の無機微粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
(C)分散媒の粘度が、25℃において200mPas以下である請求項1〜6のいずれかに記載の無機微粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
前記(C)分散媒が、溶媒、アクリルモノマー、又はエポキシモノマーである請求項7に記載の無機微粒子分散液の製造方法。
【請求項9】
(D)シランカップリング剤が、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、又はγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含むものである請求項1〜8のいずれかに記載の無機微粒子分散液の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法で得られた無機微粒子分散液を含む、熱又は紫外線硬化性組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の熱又は紫外線硬化性組成物を硬化して得られる光学部材用硬化物。

【公開番号】特開2010−189506(P2010−189506A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33808(P2009−33808)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】