無段変速機の制御装置
【課題】システム制御を簡素化できる無段変速機の制御装置を提供すること。
【解決手段】プライマリー流量QP およびセカンダリー流量QS を入力としプライマリー圧力PP およびセカンダリー圧力PS を出力とするプラント53に、入出力フィードバック線形化手法により線形化されたフィードバック線形化部52を組み合わせ、PI制御部等の線形制御部51からの制御入力ν1 ,ν2 を用いて線形制御可能な新しい線形プラントを構築する。
【解決手段】プライマリー流量QP およびセカンダリー流量QS を入力としプライマリー圧力PP およびセカンダリー圧力PS を出力とするプラント53に、入出力フィードバック線形化手法により線形化されたフィードバック線形化部52を組み合わせ、PI制御部等の線形制御部51からの制御入力ν1 ,ν2 を用いて線形制御可能な新しい線形プラントを構築する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベルト式CVTの変速装置として、特許文献1に提案されている装置がある。
この種の装置では、プライマリープーリおよびセカンダリープーリの有効径をそれぞれ変更するための一対の油圧アクチュエータを設けている。また、各プーリのクランプ力を生起する油圧アクチュエータの油圧をそれぞれ制御するための一対の制御弁を設けている。
【特許文献1】特開2004−316870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
通例、セカンダリープーリのクランプ力がスリップを防ぐように制御され、プライマリープーリが変速比を制御している。しかし、この変速制御のシステムは非線形であり、また、プライマリープーリのクランプ力、セカンダリープーリのクランプ力および変速比の複合されたシステムであり、制御が困難である。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、システム制御を簡素化することができる無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明は、プライマリープーリ(6)、セカンダリープーリ(7)、並びにこれらプーリ間に動力を伝達する動力伝達要素(8)を含み、各プーリーに対応する油圧アクチュエータ(11,14)に作動油を供給することにより、プーリ径比を変更して変速比(rCVT )を無段階で変更可能な無段変速機(1)の制御装置において、プライマリー流量(QP )およびセカンダリー流量(QS )を入力とし、プライマリー圧力(PP )およびセカンダリー圧力(PS )を出力とする多入力多出力システムからなるプラント(53)、上記入力から上記出力への関数の逆関数を用いて、入出力フィードバック線形化手法により線形化され、制御入力(ν1 ,ν2 )に基づいて上記プラントの入力となるプライマリー流量およびセカンダリー流量を演算するフィードバック線形化部(52)と、上記プラントの出力するプライマリー圧力およびセカンダリー圧力とそれぞれ対応するプライマリー目標圧力(PP,ref )およびセカンダリー目標圧力(PS,ref )との偏差に基づいて、フィードバック線形化部への制御入力を線形制御する線形制御部(51)と、を備え、各プーリのクランプ圧を制御する機能を有することを特徴とするものである。
【0005】
本発明では、入出力フィードバック線形化により、プライマリー圧力およびセカンダリー圧力を線形化する。これにより、各圧力の制御に一般的な線形制御が適用でき、制御を簡素化することができる。また、圧力制御の応答性が向上する。
また、上記プライマリー圧力およびセカンダリー圧力の制御が互いに分離されていることになる(請求項2)。
【0006】
上記制御入力を線形制御する線形制御部はPI制御部を含むことが好ましい(請求項3)。理論的には、比例制御で十分であるが、実際には、モデルの不十分さを補うために積分制御を付加することが好ましい。
また、上記プラントの出力は、変速比を含み、上記プラントの出力する変速比と目標変速比(rCVT,ref )との偏差に基づいて出力する補正変速比(rCVT,C )を線形制御する線形制御部(55)と、CVT入力トルク(TP )および上記補正変速比に基づいて、プライマリー目標圧力およびセカンダリー目標圧力を演算する目標圧力演算部(56)と、をさらに備え、変速比を制御する機能を有する場合がある(請求項4)。この場合、変速比の安定した制御が可能となる。CVT入力トルクはプライマリープーリに入力されるトルクであるプライマリートルクに相当する。
【0007】
上記変速比を線形制御する線形制御部はPI制御部を含むことが好ましい(請求項5)。この場合、モデル化に起因する誤差を補償することができる。
上記目標圧力演算部は、CVT入力トルクおよび変速比とプライマリー目標圧力およびセカンダリー目標圧力との関係を記憶したテーブルを用いてプライマリー目標圧力およびセカンダリー目標圧力を演算する場合がある(請求項6)。この場合、例えば実験に基づくデータを用いることにより、変速比の安定した制御が可能となる。
【0008】
なお、上記において、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るサーボポンプの流量制御方法および流量制御装置が適用された無段変速機を搭載した車両の模式図である。
無段変速機1は、エンジン2の出力軸にトルク伝達可能に連結された入力軸3と、駆動輪40にギヤ列4を介してトルク伝達可能に連結された出力軸5と、入力軸3に同行回転可能に設けられた入力回転要素としての可変径のプライマリープーリ6と、出力軸5と同行回転可能に設けられた出力回転要素としての可変径のセカンダリープーリ7と、プライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7に巻き掛けられた動力伝達要素としてのベルト8とを備えている。ベルト8に代えて、チェーンを用いるものであってもよい。
【0010】
プライマリープーリ6、セカンダリープーリ7およびベルト8によって、バリエータ100が構成されている。
プライマリープーリ6は、入力軸3と同行回転可能に設けられた固定シーブ9と可動シーブ10とを備えている。入力軸3に対する固定シーブ9の軸方向移動が規制され、入力軸3に対する可動シーブ10の軸方向移動は許容されている。固定シーブ9および可動シーブ10の動力伝達面9a,10a間に、ベルト8が動力伝達可能にクランプされている。可動シーブ10の背面に第1の油圧アクチュエータ11が設けられている。第1の油圧アクチュエータ11の油室11aの油圧であるプライマリー圧力PP は、可動シーブ10を固定シーブ9側へ付勢している。
【0011】
セカンダリープーリ7は、出力軸5と同行回転可能に設けられた固定シーブ12と可動シーブ13とを備えている。固定シーブ12は出力軸5対する軸方向移動が規制され、可動シーブ13は出力軸5に対して軸方向移動可能とされている。固定シーブ12および可動シーブ13の動力伝達面12a,13a間に、ベルト8が動力伝達可能にクランプされている。可動シーブ13の背面に第2の油圧アクチュエータ14が設けられている。第2の油圧アクチュエータ14の油室14aの油圧であるセカンダリー圧力PS は、可動シーブ13を固定シーブ12側へ付勢している。
【0012】
第1および第2のアクチュエータ11,14によって、ベルト8に関しての、プライマリープーリ6の半径Rp およびセカンダリープーリ7の半径RS (各プーリとベルト8との接触半径に相当)を変化させることにより、無段変速機1の変速比を無段階で変更可能である。
また、無段変速機1は、第1のサーボポンプ15と第2のサーボポンプ16とを備えている。第1の油圧アクチュエータ11に供給される作動油の流量であるプライマリー流量QP は、第1のサーボポンプ15が吐出する流量に相当する。そこで、以下では、第1のサーボポンプ15の流量についてもQP で表す。
【0013】
第2の油圧アクチュエータ14に供給される作動油の流量であるセカンダリー流量QS は、第2のサーボポンプ16が吐出する流量QSPから第1のサーボポンプ15が吐出する流量QP を減じた流量である。すなわち、
QS =QSP−QP
具体的には、第2のサーボポンプ16と第2の油圧アクチュエータ14とを接続する油路17の途中部に分岐部17aが設けられ、この分岐部17aと第1の油圧アクチュエータ11とを接続する油路18に、第1のサーボポンプ15が配置されている。第2のサーボポンプ16の吸込側は油タンク41に接続されている。
【0014】
第1のサーボポンプ15は、第1のサーボアンプ19から電力供給を受ける第1の電動モータ20(サーボモータ)によって駆動され、第2のサーボポンプ16は、第2のサーボアンプ21からの電力供給を受ける第2の電動モータ22(サーボモータ)によって駆動されるようになっている。
第1の油圧アクチュエータ11の圧力であるプライマリー圧力PP を検出する圧力センサ42と、第2の油圧アクチュエータ14の圧力であるセカンダリー圧力PS を検出する圧力センサ43と、プライマリープーリ6の回転速度を検出する回転速度センサ44と、セカンダリープーリ7の回転速度を検出する回転速度センサ45とが設けられ、各センサ42〜45からの信号が、第1および第2の電動モータ20,22を制御するコントローラ23に入力されるようになっている。
【0015】
無段変速機1のシステムは、3つのモデル、すなわち、サーボポンプモデル、バリエータモデルおよび流体モデルに分割することができる。
<サーボポンプモデル>
まず、サーボポンプモデルについて説明する。コントローラ23は、第1の油圧アクチュエータ11に供給されるべき作動油の目標流量QP,ref (プライマリー流量QP の目標値に相当)および第2の油圧アクチュエータ14に供給されるべき作動油の目標流量QS,ref (セカンダリー流量QS の目標値に相当)に基づいて、第1のサーボアンプ19への入力電圧Vset,P および第2のサーボアンプ21への入力電圧Vset,S を操作することにより、プライマリー流量QP およびセカンダリー流量QS を制御する。
【0016】
第2のサーボポンプ16は、第1の油圧アクチュエータ11および第2の油圧アクチュエータ14の双方に作用して、プライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7において、ベルト8に対するクランプ力を制御するように機能する。また、第1のサーボポンプ15は、第1および第2の油圧アクチュエータ11,14間の差圧(PP −PS )を調整することにより、無段変速機1の変速比を制御するように機能する。
【0017】
無段変速機1と、第1および第2のサーボポンプ15,16と、コントローラ23等とを含み、無段変速機1の変速比を変更するために両サーボポンプ15,16の流量を制御するサーボポンプシステム30が構築されている。
図2は、上記サーボポンプシステム30を表すブロック図である。サーボポンプシステム30は、制御対象であるプラント31と、フィードフォワード制御部32と、主フィードバック制御部33と、オブザーバ34と、現代制御理論に基づく状態フィードバック制御部35とを備えている。
【0018】
各サーボポンプ15,16の流量QP ,QSPは、それぞれ対応する電動モータ19,21の回転速度に比例する。各サーボアンプ19,21は、対応する電動モータ19,21に内蔵されている回転速度センサ25,26からの信号出力をフィードバックして速度制御(回転数制御)を実施している。また、サーボアンプ19,21は、対応する電動モータ19,21の駆動電流を検出する電流センサ(図示せず)からの信号出力をフィードバックして電動モータ19,21に対する制御電流を制御している。
【0019】
各サーボポンプ15,16の流量QP ,QSPは、もともと電動モータ19,21に備えられている回転速度センサ25,26を用いて検出することができるので、別個に流量を検出するためのセンサを設ける必要がない。
主フィードバック制御部33は、目標流量yr とオブザーバ34からの出力yとの偏差(yr −y)に、主フィードバックゲインL1 を乗算する主フィードバックゲイン乗算部36を備えている。
【0020】
オブザーバ34は、原則的にプラント31と等価の状態変数モデルを用いて構成され、入力ベクトルuおよびプラント31からの出力ベクトルw(電動モータの回転速度に相当)を入力し、状態変数ベクトルxおよび出力ベクトルyを推定し、これらを出力する。
状態フィードバック制御部35は、オブザーバ34によって推定された状態変数ベクトルxに、所定の状態フィードバックゲイン(−L2 )を乗算する状態フィードバックゲイン乗算部37を備えている。
【0021】
次いで、オブザーバ34を構成するための、原則的な状態変数モデルについて説明する。
まず、サーボポンプの流量Qは、そのサーボポンプを駆動する電動モータの回転速度wに比例する。すなわち、サーボポンプの流量Qは、サーボポンプの行程容積をDV とし、サーボポンプの容積効率をηV として、下記式(1)で表される。
【0022】
Q=DV ・w・ηV …(1)
一方、電動モータの回転速度wは、電動モータのサーボアンプに入力される入力電圧Vset によって設定される。その電動モータ20の回転速度wは、実験またはモータ・インバータの詳細モデルを用いた解析によって得られる定数Kを用いて、下記式(2)のように二次の関数により表現される。
【0023】
w(s)=K・〔1/(a・s2 +b・s+1)〕・Vset …(2)
式(1)および式(2)により、
Q=G・〔1/(a・s2 +b・s+1)〕・Vset …(3)
ただし、G=DV ・ηV ・K …(4)
そして、状態空間式は、
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
ここで、入力ベクトルuは、u=Vset であり、出力ベクトルyは、y=Qであり、
状態変数ベクトルxは、x=〔Q dQ/dt〕T である。
図1の無段変速機1に適用されたサーボポンプシステム30は、このシステムを純粋な油圧システムとしてみた場合、多入力多出力(MIMO)の線形モデルとして近似される。すなわち、
【0027】
【数3】
【0028】
【数4】
【0029】
【数5】
【0030】
【数6】
【0031】
【数7】
【0032】
ただし、式(6−3)、式(6−4)において、各係数aP ,bP ,GP は、第1のサーボポンプ15において、式(3)に対応する係数であり、各係数aS ,bS ,GS は、第2のサーボポンプ16において、式(3)に対応する係数である。
また、状態変数ベクトルx、入力ベクトルuおよび出力ベクトルyは、それぞれ、下記の式(7−1)、(7−2)および(7−3)で表される。
【0033】
x=〔QP dQP /dt QSP dQSP/dt〕T …(7−1)
u=〔Vset,S Vset,P 〕T …(7−2)
y=〔QP QS 〕T …(7−3)
各可変径プーリ6,7に、ベルト8に対するクランプ力を与えるクランピングポンプとして機能する第2のサーボポンプ16の流量QSPを定数とした場合、変速ポンプとして機能する第1のサーボポンプ15のサーボアンプ19への入力電圧Vset,P の変化(電動モータ20の回転速度の変化に相当)は、プライマリー流量QP およびセカンダリー流量QS の双方に影響を及ぼすことになる。
【0034】
また、第1のサーボポンプ15の流量に相当するプライマリー流量QP を定数とした場合、第2のサーボポンプ16のサーボアンプ21への入力電圧Vset,S の変化は、セカンダリー流量QS に影響を及ぼすが、プライマリー流量QP には影響を及ぼさないことになる。
上記のオブザーバ34は、入力uと電動モータの回転速度w(実測値または推定値)を用いて状態変数ベクトルxおよび出力ベクトルyを推定するものであり、原則として、状態方程式としての上記の式(6−1)および式(6−2)を用いて得られる状態変数モデルである。すなわち、オブザーバ34のブロック図は、例えば、図3に示される。
【0035】
ただし、入力ベクトルuobs は、uobs =〔u w〕T であり、各係数行列Aobs ,Bobs ,Cobs についても、プラント31の状態変数モデルとは次元が異なっている。
このようにしてサーボポンプシステム30の状態変数モデルを作成し、状態フィードバックを用いることにより、流量制御の安定性を向上することができる。すなわち、状態フィードバックでは、プラント31の内部状態を利用することで見かけ上の動的要素を引き出すことができ、これにより、動的補償を実現することができる。その結果、流量制御の安定性を確保することができる。
【0036】
また、図2に示すシステムは、状態フィードバックとオブザーバを用いたレギュレータシステムであり、内部回路は、プラントの内部状態を常にゼロに維持するように制御し、外部回路は、サーボポンプで見られるようなレギュレーションの問題を防ぐためにプラントの出力を制御する。
また、状態フィードバックの極の位置の設定により、流量制御の応答性を向上することができる。すなわち、閉ループシステムの極は、状態変数の一定の線形組み合わせを使用することにより、複素平面上の任意の望ましい位置に配置することが可能である。
【0037】
さらに、従来、用いていたバルブや圧力センサを廃止でき、油圧回路を簡素化することができる。また、各サーボポンプ15,16は、必要に応じて作動して、要求される流量を過不足なく供給すればよいので、省エネを図ることができる。例えば、安定した状況下で油圧回路の漏れ等を無視できる場合には、サーボポンプ15,16の少なくとも一方を停止させておくことも可能である。
【0038】
また、状態変数モデルを用いてオブザーバ34を構成し、オブザーバ34によって状態変数を推定するようにしているので、状態変数の推定精度を有効に向上させることができ、その結果、状態フィードバックによるサーボ系の良好な設計が可能となる。また、オブザーバ34を併合した状態フィードバックシステムでは、オブザーバ34の設計を、状態フィードバック制御部35の設計から独立して行えるという利点もある。
【0039】
サーボポンプシステム30の極の位置としては、テスト装置(実機であってもよいし、実機をモデル化したシミュレータであってもよい)を用いたシミュレーションテストにより、システムの十分な安定性および十分な動特性(目標値追従に関する過渡応答等)が得られるような位置に決定されることが好ましい。その応答は、アクチュエータ(本サーボポンプシステム30では、サーボポンプ15,16に相当)の動特性を無視できるほど高速であることが必要である。
【0040】
なお、上記の実施の形態では、電動モータ20,22の回転速度センサ25,26を用いていたが、電動モータ20,22に回転速度センサが設けられていない場合には、オブザーバ34によって推定するようにしてもよい。
また、上記の実施の形態では、サーボポンプシステムの入力として、サーボアンプ19,21の入力電圧Vset,P ,Vset,S を用いたが、これに代えて、サーボアンプ19,21の入力電圧Vset,P ,Vset,S とは線形な関係を持つ状態量である、電動モータ20,22の駆動電流を用いてもよい。
<バリエータモデル>
次いで、バリエータ100のモデル化について説明する。
【0041】
図4は、任意の変速比rCVT =(ωS /ωP )におけるバリエータ100の諸元を示している。ωP はプライマリープーリ6の回転速度であり、ωS はセカンダリープーリ7の回転速度である。ベルト8にスリップがなく、ベルト8が非伸縮であってプライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7上で、それぞれ半径Rp およびRs の完全な円に沿ってベルト8が走行すると仮定してある。
【0042】
これらの仮定では、最大誤差5%として、プライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7の半径RR ,RS は、下記式により得られる。
Rp =〔rCVT /(rCVT +1)〕・〔(L−2・d0 )/π)〕…(8−1)
RS =〔1/(rCVT +1)〕・〔(L−2・d0 )/π)〕 …(8−2)
ここで、Lはベルト長であり、d0 はプーリの中心間距離である。
【0043】
半径は下記式を用いて導かれる。
dR/dx =±〔(L−2・d0 )/π)〕・〔( drCVT /dx )/(rCVT +1)2 〕 …(9)
ここで、xはプライマリープーリ6に対してx=pであり、セカンダリープーリ7に対してx=sである。
【0044】
変速比rCVT の変化率(drCVT /dx)は、過渡応答によって与えられる〔後述する式(12)を参照〕。
符号+は、プライマリープーリ6に対応し、符号−は、セカンダリープーリ7に対応している。
プーリの位置zx はプーリの径RX と関係する。すなわち、
zx =2・Rx ・tan θ+Rx,min …(10)
ここで、θはプーリ半角(プーリ中心に対するプーリの動力伝達面の傾斜角度に相当)であり、Rx,min は最小半径である。
【0045】
プーリの変位速度は下記式で表される。
dz/dx =2・tan θ・(dR/dx) …(11)
バリエータ100の過渡応答には、下記のモデルが用いられる。
drCVT /dx=KCVT (rCVT )・ωP ・〔FP −KS1( rCVT ,TP ,FS )・FS 〕 …(12)
ここで、KS1は、平衡状態のプライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7のクランプ圧の比であり、この比KS1は、変速比rCVT 、プライマリープーリ6のトルクTP (プライマリートルクTP ともいう)およびセカンダリープーリ7のクランプ力FS に依存する。
【0046】
ωP はプライマリー回転速度であり、KCVT は変速比rCVT のみに依存する関数である。この関数は、測定によって、また、式(12)の逆関数を用いることで得られる。
<流体モデル>
次いで、流体モデルすなわちピストンモデルについて考察する。
プライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7に入った流れは、圧力を生起する。漏れがないと仮定すると、プーリ圧Px は、下記式で与えられる。
【0047】
dP/dx =(βc /Vx )・(Qx −dV/dx ) …(13)
ここで、βc はオイルおよびハウジングの等価体積弾性率である。Qx はプーリに入る流量、すなわち存在する流量である。Vx は容積である。
プーリの容積Vx はピストンの断面積Ax およびピストンの軸方向変位zX に比例する。
【0048】
Vx =Ax ・zx …(14)
軸方向変位zx は上記式(10)により与えられる。容積Vx の微分は下記である。
dV/dx =Ax ・dz/dx …(15)
<圧力制御>
上記の流量制御によってアクチュエータの早い動特性が達成されるので、プライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7のための流量要求に対する応答は、瞬時に行われると考えられる。
【0049】
そこで、MIMOシステムの新しい入力は、プライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7の流量QP ,QS となる。出力はプライマリー圧力PP 、セカンダリー圧力PS および変速比rcvt である。プライマリー圧力PP は圧力センサ42によって検出され、、セカンダリー圧力PS は圧力センサ43によって検出され、変速比rCVT は、各速度センサ42,43によって検出される各プーリ6,7の回転速度ωP ,ωS の比として求められる〔すなわち、rCVT =(ωS /ωP )〕。
【0050】
入出力フィードバック線形化の手法により、2つのプーリ圧は分離される。具体的な入出力フィードバック線形化手法について説明する。
上記の式(13)は下記のように表される。
【0051】
【数8】
【0052】
ここで、Vx,o は各ピストンの初期流体容積である。
入出力フィードバック線形化は、線形な入力−出力関係を求めることであり、出力yと制御入力uの間の直接的な関係を見出すことにある。具体的には、出力yに入力uが現れるまで、出力関数を繰り返し微分することになる。
その方法は、プライマリー圧力PP およびセカンダリーの圧力PS の双方に適用される。
【0053】
yX =PX …(17)
【0054】
【数9】
【0055】
yx の一次微分は、入力ux =Qs に対して直接的な関係を与える。
式(18)の逆関数は流量要求を与える。
【0056】
【数10】
【0057】
ここで、νx は後述する圧力の線形制御の制御則によって特定される入力である。
<圧力の線形制御>
図4は圧力制御のためのブロック図を示している。線形制御部51、フィードバック線形化部52およびプラント53によってクランプ圧制御部54が構成されている。
線形制御部51は、プラント53の出力するプライマリー圧力PP およびセカンダリー圧力PS とそれぞれ対応するプライマリー目標圧力PP,ref およびセカンダリー目標圧力PS,ref との偏差(PP,ref −Pp ),(PS,ref −PS )に基づいて、フィードバック線形化部52への制御入力ν1 ,ν2 を線形制御する。
【0058】
フィードバック線形化部52は、入出力フィードバック線形化手法により線形化された、プラント53の入力から出力への関数の逆関数を用いて構成され、制御入力ν1 ,ν2 に基づいてプラント53の入力となる流量QP ,QS を演算する。
プラント53は、フィードバック線形化部52からのプライマリー流量QP およびセカンダリー流量QS を入力とし、プライマリー圧力PP 、セカンダリー圧力Ps および変速比RCVT を出力とする多入力多出力システムからなる。
【0059】
フィードバック線形化手法では、システムが分離され、2つの圧力が線形化される。
その結果、標準的な線形制御が、入力ベクトルx=〔ν1 ν2 〕T と出力ベクトル
y=〔PP PS 〕T を持つ新しい線形プラントに適用され得る。すなわち、プライマリー流量QP およびセカンダリー流量QS を入力としプライマリー圧力PP およびセカンダリー圧力PS を出力とするプラント53に、入出力フィードバック線形化手法により線形化されたフィードバック線形化部52を組み合わせ、PI制御部等の線形制御部51からの制御入力ν1 ,ν2 を用いて線形制御可能な新しい線形プラントを構築する。
【0060】
線形制御部51による線形制御の制御則は下記の式(20)、(21)となる。
【0061】
【数11】
【0062】
【数12】
【0063】
ここで、PP,ref はプライマリーの目標圧力、Ps,ref はセカンダリーの目標圧力、PX は計測圧力、KPXは比例ゲイン、KiXは積分ゲインである。
線形制御部51による線形制御に関しては、理論的には、Kp1、Kp2に係わる項である比例項のみで十分であるが、実際には、モデルの不十分さを補うために、Ki1,Ki2に係わる項である積分項を加えることが好ましい。すなわち、線形制御部51としてPI制御部が用いられている。
【0064】
なお、プラント53から出力される変速比RCVT は、次に示す変速比の制御に用いられる。変速比RCVT は回転速度センサ42,43により検出された各プーリ6,7の回転速度ωP,ωS を用いて演算される。
フィードバック線形化部52には、プラント53の状態変数としてのdz/dx およびzx が入力されるようになっている。フィードバック線形化部52の制御則は、上述した式(19)である。
【0065】
【数13】
【0066】
入出力フィードバック線形化により、プライマリー圧力PP およびセカンダリー圧力PS を線形化することにより、上記プライマリー圧力PP およびセカンダリー圧力PS の制御を互いに分離して行うことができる。各圧力PP ,PS の制御に一般的な線形制御を適用でき、制御を簡素化することができる。その結果、圧力制御の応答性が向上する。
<変速比の制御>
図6は変速比を制御するためのブロック図を示している。クランプ圧制御部54に入力するためのプライマリー基準圧力PP,ref およびセカンダリー基準圧力Ps,ref は、線形制御部55から入力される補正変速比RCVT,C と、要求されるCVT入力トルクとしてのプライマリートルクTP とを用いて、目標圧力演算部56により演算されるようになっている。
【0067】
目標圧力演算部56には、実験データから得られたテーブルとして、例えば図7Aおよび図7Bに示す制御マップが用いられる。図7Aのマップは、プライマリープーリ6における入力トルク(縦軸:Nm)および変速比(横軸)と、プライマリークランプ力(kN。プライマリークランプ力とプライマリー圧力とは比例)との関係を表している。
また、図7Bのマップは、セカンダリープーリ7における入力トルク(縦軸:Nm)および変速比(横軸)と、セカンダリークランプ力(kN。セカンダリークランプ力とセカンダリークランプ圧とは比例)との関係を表している。テーブルを用いることで、変速比の安定した開ループ制御が可能となる。なお、目標圧力演算部56が理論演算を用いて圧力を求める場合もある。
【0068】
線形制御部55は、目標変速比RCVT,ref とクランプ圧制御部54のプラントの出力としての変速比RCVT とに基づいて、補正変速比RCVT,C を線形制御する。
線形制御部55は、モデル化に起因する、すなわち外乱に起因する、変速比の静的誤差を補償するために、線形PI制御を実行する。
線形制御部55の線形制御の制御則は、例えば、下記式(22)が用いられる。
【0069】
【数14】
【0070】
すなわち、線形制御部55としてPI制御部が用いられている。ここで、GP は比例ゲイン、Gi は積分ゲインである。線形制御を用いることで、変速比の安定した制御が可能となる。
上記の実施の形態では、無段変速機1がベルト伝動式の無段変速機である例に則して説明したが、これに限らず、動力伝達要素がチェーンであるチェーン伝動式の無段変速機であってもよい。
【実施例】
【0071】
上記の実施の形態で示された制御則を、試験装置で実行した。その試験データは、エンジン2のトルクを零とし、プライマリープーリ6の回転速度を1000rpmに固定して得られた。また、システムの分離を示すために、セカンダリー圧力PS として、一定値1MPaを選択した。
図8は、変速比のステップ応答を示している。図8において、実線が要求変速比であり、破線が実際の変速比である。図9Aは、プライマリー圧力PP の時間的変化を示し、図9Bは、セカンダリー圧力PS の時間的変化を示している。図9A,図9Bにおいて、実線が要求圧力であり、破線が、脈動する計測圧力(一点鎖線で示されている)の変動幅の上限、下限を表している。
【0072】
その結果、下記の1)〜6)が判明した。
1)図8を参照して、変速比の全範囲で、制御比が安定している。
2)図8を参照して、変速比制御の積分に由来するものと考えられるオーバーシュートに関しても小さく抑えられ、変速比の全範囲で制御が安定している。
3)図8を参照して、2リットル/minというプライマリー流量QP の制限に起因して、変速
比の応答はあまり早くないが、第1および第2のサーボポンプ15,16の仕様を変更することにより、応答性は容易に向上することが可能であると考えられる。
4)図9A,図9Bを参照して、計測圧力および要求圧力が良い関係を示し、圧力応答が早い。
5)図9Aを参照して、要求圧力のピークは、変速比応答の向上のための変速比制御に由来するものである。
6)変速比の変化、すなわち図9Aに示されるプライマリー圧力PP の変化は、図9Bに示されるセカンダリー圧力PS に影響を与えない。すなわち、多入力多出力システムが分離され、非干渉システムとなっていることが実証された。圧力制御のフィードバック線形化によるものである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施の形態に係る無段変速機が適用された車両の概略構成を示す模式図である。
【図2】サーボポンプシステムのブロック図である。
【図3】オブザーバのブロック図である。
【図4】バリエータモデルの模式図である。
【図5】圧力制御のブロック図である。
【図6】変速比制御のブロック図である。
【図7A】プライマリー圧力を求めるためのテーブルとしてのマップを表すグラフ図である。
【図7B】セカンダリー圧力を求めるためのテーブルとしてのマップを表すグラフ図である。
【図8】ステップ応答に対する変速比の変化を示す図である。
【図9A】プライマリー圧力の時間的変化図である。図8の応答に対応している。
【図9B】セカンダリー圧力の時間的変化図である。
【符号の説明】
【0074】
1…無段変速機、2…エンジン、3…入力軸、5…出力軸、6…プライマリープーリ、7…セカンダリープーリ、8…ベルト(動力伝達要素)、11…第1の油圧アクチュエータ、14…第2の油圧アクチュエータ、17…油路、17a…分岐部、18…油路、19…第1のサーボアンプ、20…第1の電動モータ、21…第2のサーボアンプ、22…第2の電動モータ、23…コントローラ、51…線形制御部(PI制御部)、52…フィードバック線形化部、53…プラント、54…クランプ圧制御部、55…線形制御部(PI制御部)、56…目標圧力演算部、QP …プライマリー流量、QS …セカンダリー流量、、rCVT …変速比、PP,ref …プライマリー目標圧力、PS,ref …セカンダリー目標圧力、PP …プライマリー圧力、PS …セカンダリー圧力、ν1 ,ν2 …制御入力、rCVT,ref …目標変速比、rCVT,C …補正変速比、TP …CVT入力トルク
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベルト式CVTの変速装置として、特許文献1に提案されている装置がある。
この種の装置では、プライマリープーリおよびセカンダリープーリの有効径をそれぞれ変更するための一対の油圧アクチュエータを設けている。また、各プーリのクランプ力を生起する油圧アクチュエータの油圧をそれぞれ制御するための一対の制御弁を設けている。
【特許文献1】特開2004−316870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
通例、セカンダリープーリのクランプ力がスリップを防ぐように制御され、プライマリープーリが変速比を制御している。しかし、この変速制御のシステムは非線形であり、また、プライマリープーリのクランプ力、セカンダリープーリのクランプ力および変速比の複合されたシステムであり、制御が困難である。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、システム制御を簡素化することができる無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明は、プライマリープーリ(6)、セカンダリープーリ(7)、並びにこれらプーリ間に動力を伝達する動力伝達要素(8)を含み、各プーリーに対応する油圧アクチュエータ(11,14)に作動油を供給することにより、プーリ径比を変更して変速比(rCVT )を無段階で変更可能な無段変速機(1)の制御装置において、プライマリー流量(QP )およびセカンダリー流量(QS )を入力とし、プライマリー圧力(PP )およびセカンダリー圧力(PS )を出力とする多入力多出力システムからなるプラント(53)、上記入力から上記出力への関数の逆関数を用いて、入出力フィードバック線形化手法により線形化され、制御入力(ν1 ,ν2 )に基づいて上記プラントの入力となるプライマリー流量およびセカンダリー流量を演算するフィードバック線形化部(52)と、上記プラントの出力するプライマリー圧力およびセカンダリー圧力とそれぞれ対応するプライマリー目標圧力(PP,ref )およびセカンダリー目標圧力(PS,ref )との偏差に基づいて、フィードバック線形化部への制御入力を線形制御する線形制御部(51)と、を備え、各プーリのクランプ圧を制御する機能を有することを特徴とするものである。
【0005】
本発明では、入出力フィードバック線形化により、プライマリー圧力およびセカンダリー圧力を線形化する。これにより、各圧力の制御に一般的な線形制御が適用でき、制御を簡素化することができる。また、圧力制御の応答性が向上する。
また、上記プライマリー圧力およびセカンダリー圧力の制御が互いに分離されていることになる(請求項2)。
【0006】
上記制御入力を線形制御する線形制御部はPI制御部を含むことが好ましい(請求項3)。理論的には、比例制御で十分であるが、実際には、モデルの不十分さを補うために積分制御を付加することが好ましい。
また、上記プラントの出力は、変速比を含み、上記プラントの出力する変速比と目標変速比(rCVT,ref )との偏差に基づいて出力する補正変速比(rCVT,C )を線形制御する線形制御部(55)と、CVT入力トルク(TP )および上記補正変速比に基づいて、プライマリー目標圧力およびセカンダリー目標圧力を演算する目標圧力演算部(56)と、をさらに備え、変速比を制御する機能を有する場合がある(請求項4)。この場合、変速比の安定した制御が可能となる。CVT入力トルクはプライマリープーリに入力されるトルクであるプライマリートルクに相当する。
【0007】
上記変速比を線形制御する線形制御部はPI制御部を含むことが好ましい(請求項5)。この場合、モデル化に起因する誤差を補償することができる。
上記目標圧力演算部は、CVT入力トルクおよび変速比とプライマリー目標圧力およびセカンダリー目標圧力との関係を記憶したテーブルを用いてプライマリー目標圧力およびセカンダリー目標圧力を演算する場合がある(請求項6)。この場合、例えば実験に基づくデータを用いることにより、変速比の安定した制御が可能となる。
【0008】
なお、上記において、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るサーボポンプの流量制御方法および流量制御装置が適用された無段変速機を搭載した車両の模式図である。
無段変速機1は、エンジン2の出力軸にトルク伝達可能に連結された入力軸3と、駆動輪40にギヤ列4を介してトルク伝達可能に連結された出力軸5と、入力軸3に同行回転可能に設けられた入力回転要素としての可変径のプライマリープーリ6と、出力軸5と同行回転可能に設けられた出力回転要素としての可変径のセカンダリープーリ7と、プライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7に巻き掛けられた動力伝達要素としてのベルト8とを備えている。ベルト8に代えて、チェーンを用いるものであってもよい。
【0010】
プライマリープーリ6、セカンダリープーリ7およびベルト8によって、バリエータ100が構成されている。
プライマリープーリ6は、入力軸3と同行回転可能に設けられた固定シーブ9と可動シーブ10とを備えている。入力軸3に対する固定シーブ9の軸方向移動が規制され、入力軸3に対する可動シーブ10の軸方向移動は許容されている。固定シーブ9および可動シーブ10の動力伝達面9a,10a間に、ベルト8が動力伝達可能にクランプされている。可動シーブ10の背面に第1の油圧アクチュエータ11が設けられている。第1の油圧アクチュエータ11の油室11aの油圧であるプライマリー圧力PP は、可動シーブ10を固定シーブ9側へ付勢している。
【0011】
セカンダリープーリ7は、出力軸5と同行回転可能に設けられた固定シーブ12と可動シーブ13とを備えている。固定シーブ12は出力軸5対する軸方向移動が規制され、可動シーブ13は出力軸5に対して軸方向移動可能とされている。固定シーブ12および可動シーブ13の動力伝達面12a,13a間に、ベルト8が動力伝達可能にクランプされている。可動シーブ13の背面に第2の油圧アクチュエータ14が設けられている。第2の油圧アクチュエータ14の油室14aの油圧であるセカンダリー圧力PS は、可動シーブ13を固定シーブ12側へ付勢している。
【0012】
第1および第2のアクチュエータ11,14によって、ベルト8に関しての、プライマリープーリ6の半径Rp およびセカンダリープーリ7の半径RS (各プーリとベルト8との接触半径に相当)を変化させることにより、無段変速機1の変速比を無段階で変更可能である。
また、無段変速機1は、第1のサーボポンプ15と第2のサーボポンプ16とを備えている。第1の油圧アクチュエータ11に供給される作動油の流量であるプライマリー流量QP は、第1のサーボポンプ15が吐出する流量に相当する。そこで、以下では、第1のサーボポンプ15の流量についてもQP で表す。
【0013】
第2の油圧アクチュエータ14に供給される作動油の流量であるセカンダリー流量QS は、第2のサーボポンプ16が吐出する流量QSPから第1のサーボポンプ15が吐出する流量QP を減じた流量である。すなわち、
QS =QSP−QP
具体的には、第2のサーボポンプ16と第2の油圧アクチュエータ14とを接続する油路17の途中部に分岐部17aが設けられ、この分岐部17aと第1の油圧アクチュエータ11とを接続する油路18に、第1のサーボポンプ15が配置されている。第2のサーボポンプ16の吸込側は油タンク41に接続されている。
【0014】
第1のサーボポンプ15は、第1のサーボアンプ19から電力供給を受ける第1の電動モータ20(サーボモータ)によって駆動され、第2のサーボポンプ16は、第2のサーボアンプ21からの電力供給を受ける第2の電動モータ22(サーボモータ)によって駆動されるようになっている。
第1の油圧アクチュエータ11の圧力であるプライマリー圧力PP を検出する圧力センサ42と、第2の油圧アクチュエータ14の圧力であるセカンダリー圧力PS を検出する圧力センサ43と、プライマリープーリ6の回転速度を検出する回転速度センサ44と、セカンダリープーリ7の回転速度を検出する回転速度センサ45とが設けられ、各センサ42〜45からの信号が、第1および第2の電動モータ20,22を制御するコントローラ23に入力されるようになっている。
【0015】
無段変速機1のシステムは、3つのモデル、すなわち、サーボポンプモデル、バリエータモデルおよび流体モデルに分割することができる。
<サーボポンプモデル>
まず、サーボポンプモデルについて説明する。コントローラ23は、第1の油圧アクチュエータ11に供給されるべき作動油の目標流量QP,ref (プライマリー流量QP の目標値に相当)および第2の油圧アクチュエータ14に供給されるべき作動油の目標流量QS,ref (セカンダリー流量QS の目標値に相当)に基づいて、第1のサーボアンプ19への入力電圧Vset,P および第2のサーボアンプ21への入力電圧Vset,S を操作することにより、プライマリー流量QP およびセカンダリー流量QS を制御する。
【0016】
第2のサーボポンプ16は、第1の油圧アクチュエータ11および第2の油圧アクチュエータ14の双方に作用して、プライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7において、ベルト8に対するクランプ力を制御するように機能する。また、第1のサーボポンプ15は、第1および第2の油圧アクチュエータ11,14間の差圧(PP −PS )を調整することにより、無段変速機1の変速比を制御するように機能する。
【0017】
無段変速機1と、第1および第2のサーボポンプ15,16と、コントローラ23等とを含み、無段変速機1の変速比を変更するために両サーボポンプ15,16の流量を制御するサーボポンプシステム30が構築されている。
図2は、上記サーボポンプシステム30を表すブロック図である。サーボポンプシステム30は、制御対象であるプラント31と、フィードフォワード制御部32と、主フィードバック制御部33と、オブザーバ34と、現代制御理論に基づく状態フィードバック制御部35とを備えている。
【0018】
各サーボポンプ15,16の流量QP ,QSPは、それぞれ対応する電動モータ19,21の回転速度に比例する。各サーボアンプ19,21は、対応する電動モータ19,21に内蔵されている回転速度センサ25,26からの信号出力をフィードバックして速度制御(回転数制御)を実施している。また、サーボアンプ19,21は、対応する電動モータ19,21の駆動電流を検出する電流センサ(図示せず)からの信号出力をフィードバックして電動モータ19,21に対する制御電流を制御している。
【0019】
各サーボポンプ15,16の流量QP ,QSPは、もともと電動モータ19,21に備えられている回転速度センサ25,26を用いて検出することができるので、別個に流量を検出するためのセンサを設ける必要がない。
主フィードバック制御部33は、目標流量yr とオブザーバ34からの出力yとの偏差(yr −y)に、主フィードバックゲインL1 を乗算する主フィードバックゲイン乗算部36を備えている。
【0020】
オブザーバ34は、原則的にプラント31と等価の状態変数モデルを用いて構成され、入力ベクトルuおよびプラント31からの出力ベクトルw(電動モータの回転速度に相当)を入力し、状態変数ベクトルxおよび出力ベクトルyを推定し、これらを出力する。
状態フィードバック制御部35は、オブザーバ34によって推定された状態変数ベクトルxに、所定の状態フィードバックゲイン(−L2 )を乗算する状態フィードバックゲイン乗算部37を備えている。
【0021】
次いで、オブザーバ34を構成するための、原則的な状態変数モデルについて説明する。
まず、サーボポンプの流量Qは、そのサーボポンプを駆動する電動モータの回転速度wに比例する。すなわち、サーボポンプの流量Qは、サーボポンプの行程容積をDV とし、サーボポンプの容積効率をηV として、下記式(1)で表される。
【0022】
Q=DV ・w・ηV …(1)
一方、電動モータの回転速度wは、電動モータのサーボアンプに入力される入力電圧Vset によって設定される。その電動モータ20の回転速度wは、実験またはモータ・インバータの詳細モデルを用いた解析によって得られる定数Kを用いて、下記式(2)のように二次の関数により表現される。
【0023】
w(s)=K・〔1/(a・s2 +b・s+1)〕・Vset …(2)
式(1)および式(2)により、
Q=G・〔1/(a・s2 +b・s+1)〕・Vset …(3)
ただし、G=DV ・ηV ・K …(4)
そして、状態空間式は、
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
ここで、入力ベクトルuは、u=Vset であり、出力ベクトルyは、y=Qであり、
状態変数ベクトルxは、x=〔Q dQ/dt〕T である。
図1の無段変速機1に適用されたサーボポンプシステム30は、このシステムを純粋な油圧システムとしてみた場合、多入力多出力(MIMO)の線形モデルとして近似される。すなわち、
【0027】
【数3】
【0028】
【数4】
【0029】
【数5】
【0030】
【数6】
【0031】
【数7】
【0032】
ただし、式(6−3)、式(6−4)において、各係数aP ,bP ,GP は、第1のサーボポンプ15において、式(3)に対応する係数であり、各係数aS ,bS ,GS は、第2のサーボポンプ16において、式(3)に対応する係数である。
また、状態変数ベクトルx、入力ベクトルuおよび出力ベクトルyは、それぞれ、下記の式(7−1)、(7−2)および(7−3)で表される。
【0033】
x=〔QP dQP /dt QSP dQSP/dt〕T …(7−1)
u=〔Vset,S Vset,P 〕T …(7−2)
y=〔QP QS 〕T …(7−3)
各可変径プーリ6,7に、ベルト8に対するクランプ力を与えるクランピングポンプとして機能する第2のサーボポンプ16の流量QSPを定数とした場合、変速ポンプとして機能する第1のサーボポンプ15のサーボアンプ19への入力電圧Vset,P の変化(電動モータ20の回転速度の変化に相当)は、プライマリー流量QP およびセカンダリー流量QS の双方に影響を及ぼすことになる。
【0034】
また、第1のサーボポンプ15の流量に相当するプライマリー流量QP を定数とした場合、第2のサーボポンプ16のサーボアンプ21への入力電圧Vset,S の変化は、セカンダリー流量QS に影響を及ぼすが、プライマリー流量QP には影響を及ぼさないことになる。
上記のオブザーバ34は、入力uと電動モータの回転速度w(実測値または推定値)を用いて状態変数ベクトルxおよび出力ベクトルyを推定するものであり、原則として、状態方程式としての上記の式(6−1)および式(6−2)を用いて得られる状態変数モデルである。すなわち、オブザーバ34のブロック図は、例えば、図3に示される。
【0035】
ただし、入力ベクトルuobs は、uobs =〔u w〕T であり、各係数行列Aobs ,Bobs ,Cobs についても、プラント31の状態変数モデルとは次元が異なっている。
このようにしてサーボポンプシステム30の状態変数モデルを作成し、状態フィードバックを用いることにより、流量制御の安定性を向上することができる。すなわち、状態フィードバックでは、プラント31の内部状態を利用することで見かけ上の動的要素を引き出すことができ、これにより、動的補償を実現することができる。その結果、流量制御の安定性を確保することができる。
【0036】
また、図2に示すシステムは、状態フィードバックとオブザーバを用いたレギュレータシステムであり、内部回路は、プラントの内部状態を常にゼロに維持するように制御し、外部回路は、サーボポンプで見られるようなレギュレーションの問題を防ぐためにプラントの出力を制御する。
また、状態フィードバックの極の位置の設定により、流量制御の応答性を向上することができる。すなわち、閉ループシステムの極は、状態変数の一定の線形組み合わせを使用することにより、複素平面上の任意の望ましい位置に配置することが可能である。
【0037】
さらに、従来、用いていたバルブや圧力センサを廃止でき、油圧回路を簡素化することができる。また、各サーボポンプ15,16は、必要に応じて作動して、要求される流量を過不足なく供給すればよいので、省エネを図ることができる。例えば、安定した状況下で油圧回路の漏れ等を無視できる場合には、サーボポンプ15,16の少なくとも一方を停止させておくことも可能である。
【0038】
また、状態変数モデルを用いてオブザーバ34を構成し、オブザーバ34によって状態変数を推定するようにしているので、状態変数の推定精度を有効に向上させることができ、その結果、状態フィードバックによるサーボ系の良好な設計が可能となる。また、オブザーバ34を併合した状態フィードバックシステムでは、オブザーバ34の設計を、状態フィードバック制御部35の設計から独立して行えるという利点もある。
【0039】
サーボポンプシステム30の極の位置としては、テスト装置(実機であってもよいし、実機をモデル化したシミュレータであってもよい)を用いたシミュレーションテストにより、システムの十分な安定性および十分な動特性(目標値追従に関する過渡応答等)が得られるような位置に決定されることが好ましい。その応答は、アクチュエータ(本サーボポンプシステム30では、サーボポンプ15,16に相当)の動特性を無視できるほど高速であることが必要である。
【0040】
なお、上記の実施の形態では、電動モータ20,22の回転速度センサ25,26を用いていたが、電動モータ20,22に回転速度センサが設けられていない場合には、オブザーバ34によって推定するようにしてもよい。
また、上記の実施の形態では、サーボポンプシステムの入力として、サーボアンプ19,21の入力電圧Vset,P ,Vset,S を用いたが、これに代えて、サーボアンプ19,21の入力電圧Vset,P ,Vset,S とは線形な関係を持つ状態量である、電動モータ20,22の駆動電流を用いてもよい。
<バリエータモデル>
次いで、バリエータ100のモデル化について説明する。
【0041】
図4は、任意の変速比rCVT =(ωS /ωP )におけるバリエータ100の諸元を示している。ωP はプライマリープーリ6の回転速度であり、ωS はセカンダリープーリ7の回転速度である。ベルト8にスリップがなく、ベルト8が非伸縮であってプライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7上で、それぞれ半径Rp およびRs の完全な円に沿ってベルト8が走行すると仮定してある。
【0042】
これらの仮定では、最大誤差5%として、プライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7の半径RR ,RS は、下記式により得られる。
Rp =〔rCVT /(rCVT +1)〕・〔(L−2・d0 )/π)〕…(8−1)
RS =〔1/(rCVT +1)〕・〔(L−2・d0 )/π)〕 …(8−2)
ここで、Lはベルト長であり、d0 はプーリの中心間距離である。
【0043】
半径は下記式を用いて導かれる。
dR/dx =±〔(L−2・d0 )/π)〕・〔( drCVT /dx )/(rCVT +1)2 〕 …(9)
ここで、xはプライマリープーリ6に対してx=pであり、セカンダリープーリ7に対してx=sである。
【0044】
変速比rCVT の変化率(drCVT /dx)は、過渡応答によって与えられる〔後述する式(12)を参照〕。
符号+は、プライマリープーリ6に対応し、符号−は、セカンダリープーリ7に対応している。
プーリの位置zx はプーリの径RX と関係する。すなわち、
zx =2・Rx ・tan θ+Rx,min …(10)
ここで、θはプーリ半角(プーリ中心に対するプーリの動力伝達面の傾斜角度に相当)であり、Rx,min は最小半径である。
【0045】
プーリの変位速度は下記式で表される。
dz/dx =2・tan θ・(dR/dx) …(11)
バリエータ100の過渡応答には、下記のモデルが用いられる。
drCVT /dx=KCVT (rCVT )・ωP ・〔FP −KS1( rCVT ,TP ,FS )・FS 〕 …(12)
ここで、KS1は、平衡状態のプライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7のクランプ圧の比であり、この比KS1は、変速比rCVT 、プライマリープーリ6のトルクTP (プライマリートルクTP ともいう)およびセカンダリープーリ7のクランプ力FS に依存する。
【0046】
ωP はプライマリー回転速度であり、KCVT は変速比rCVT のみに依存する関数である。この関数は、測定によって、また、式(12)の逆関数を用いることで得られる。
<流体モデル>
次いで、流体モデルすなわちピストンモデルについて考察する。
プライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7に入った流れは、圧力を生起する。漏れがないと仮定すると、プーリ圧Px は、下記式で与えられる。
【0047】
dP/dx =(βc /Vx )・(Qx −dV/dx ) …(13)
ここで、βc はオイルおよびハウジングの等価体積弾性率である。Qx はプーリに入る流量、すなわち存在する流量である。Vx は容積である。
プーリの容積Vx はピストンの断面積Ax およびピストンの軸方向変位zX に比例する。
【0048】
Vx =Ax ・zx …(14)
軸方向変位zx は上記式(10)により与えられる。容積Vx の微分は下記である。
dV/dx =Ax ・dz/dx …(15)
<圧力制御>
上記の流量制御によってアクチュエータの早い動特性が達成されるので、プライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7のための流量要求に対する応答は、瞬時に行われると考えられる。
【0049】
そこで、MIMOシステムの新しい入力は、プライマリープーリ6およびセカンダリープーリ7の流量QP ,QS となる。出力はプライマリー圧力PP 、セカンダリー圧力PS および変速比rcvt である。プライマリー圧力PP は圧力センサ42によって検出され、、セカンダリー圧力PS は圧力センサ43によって検出され、変速比rCVT は、各速度センサ42,43によって検出される各プーリ6,7の回転速度ωP ,ωS の比として求められる〔すなわち、rCVT =(ωS /ωP )〕。
【0050】
入出力フィードバック線形化の手法により、2つのプーリ圧は分離される。具体的な入出力フィードバック線形化手法について説明する。
上記の式(13)は下記のように表される。
【0051】
【数8】
【0052】
ここで、Vx,o は各ピストンの初期流体容積である。
入出力フィードバック線形化は、線形な入力−出力関係を求めることであり、出力yと制御入力uの間の直接的な関係を見出すことにある。具体的には、出力yに入力uが現れるまで、出力関数を繰り返し微分することになる。
その方法は、プライマリー圧力PP およびセカンダリーの圧力PS の双方に適用される。
【0053】
yX =PX …(17)
【0054】
【数9】
【0055】
yx の一次微分は、入力ux =Qs に対して直接的な関係を与える。
式(18)の逆関数は流量要求を与える。
【0056】
【数10】
【0057】
ここで、νx は後述する圧力の線形制御の制御則によって特定される入力である。
<圧力の線形制御>
図4は圧力制御のためのブロック図を示している。線形制御部51、フィードバック線形化部52およびプラント53によってクランプ圧制御部54が構成されている。
線形制御部51は、プラント53の出力するプライマリー圧力PP およびセカンダリー圧力PS とそれぞれ対応するプライマリー目標圧力PP,ref およびセカンダリー目標圧力PS,ref との偏差(PP,ref −Pp ),(PS,ref −PS )に基づいて、フィードバック線形化部52への制御入力ν1 ,ν2 を線形制御する。
【0058】
フィードバック線形化部52は、入出力フィードバック線形化手法により線形化された、プラント53の入力から出力への関数の逆関数を用いて構成され、制御入力ν1 ,ν2 に基づいてプラント53の入力となる流量QP ,QS を演算する。
プラント53は、フィードバック線形化部52からのプライマリー流量QP およびセカンダリー流量QS を入力とし、プライマリー圧力PP 、セカンダリー圧力Ps および変速比RCVT を出力とする多入力多出力システムからなる。
【0059】
フィードバック線形化手法では、システムが分離され、2つの圧力が線形化される。
その結果、標準的な線形制御が、入力ベクトルx=〔ν1 ν2 〕T と出力ベクトル
y=〔PP PS 〕T を持つ新しい線形プラントに適用され得る。すなわち、プライマリー流量QP およびセカンダリー流量QS を入力としプライマリー圧力PP およびセカンダリー圧力PS を出力とするプラント53に、入出力フィードバック線形化手法により線形化されたフィードバック線形化部52を組み合わせ、PI制御部等の線形制御部51からの制御入力ν1 ,ν2 を用いて線形制御可能な新しい線形プラントを構築する。
【0060】
線形制御部51による線形制御の制御則は下記の式(20)、(21)となる。
【0061】
【数11】
【0062】
【数12】
【0063】
ここで、PP,ref はプライマリーの目標圧力、Ps,ref はセカンダリーの目標圧力、PX は計測圧力、KPXは比例ゲイン、KiXは積分ゲインである。
線形制御部51による線形制御に関しては、理論的には、Kp1、Kp2に係わる項である比例項のみで十分であるが、実際には、モデルの不十分さを補うために、Ki1,Ki2に係わる項である積分項を加えることが好ましい。すなわち、線形制御部51としてPI制御部が用いられている。
【0064】
なお、プラント53から出力される変速比RCVT は、次に示す変速比の制御に用いられる。変速比RCVT は回転速度センサ42,43により検出された各プーリ6,7の回転速度ωP,ωS を用いて演算される。
フィードバック線形化部52には、プラント53の状態変数としてのdz/dx およびzx が入力されるようになっている。フィードバック線形化部52の制御則は、上述した式(19)である。
【0065】
【数13】
【0066】
入出力フィードバック線形化により、プライマリー圧力PP およびセカンダリー圧力PS を線形化することにより、上記プライマリー圧力PP およびセカンダリー圧力PS の制御を互いに分離して行うことができる。各圧力PP ,PS の制御に一般的な線形制御を適用でき、制御を簡素化することができる。その結果、圧力制御の応答性が向上する。
<変速比の制御>
図6は変速比を制御するためのブロック図を示している。クランプ圧制御部54に入力するためのプライマリー基準圧力PP,ref およびセカンダリー基準圧力Ps,ref は、線形制御部55から入力される補正変速比RCVT,C と、要求されるCVT入力トルクとしてのプライマリートルクTP とを用いて、目標圧力演算部56により演算されるようになっている。
【0067】
目標圧力演算部56には、実験データから得られたテーブルとして、例えば図7Aおよび図7Bに示す制御マップが用いられる。図7Aのマップは、プライマリープーリ6における入力トルク(縦軸:Nm)および変速比(横軸)と、プライマリークランプ力(kN。プライマリークランプ力とプライマリー圧力とは比例)との関係を表している。
また、図7Bのマップは、セカンダリープーリ7における入力トルク(縦軸:Nm)および変速比(横軸)と、セカンダリークランプ力(kN。セカンダリークランプ力とセカンダリークランプ圧とは比例)との関係を表している。テーブルを用いることで、変速比の安定した開ループ制御が可能となる。なお、目標圧力演算部56が理論演算を用いて圧力を求める場合もある。
【0068】
線形制御部55は、目標変速比RCVT,ref とクランプ圧制御部54のプラントの出力としての変速比RCVT とに基づいて、補正変速比RCVT,C を線形制御する。
線形制御部55は、モデル化に起因する、すなわち外乱に起因する、変速比の静的誤差を補償するために、線形PI制御を実行する。
線形制御部55の線形制御の制御則は、例えば、下記式(22)が用いられる。
【0069】
【数14】
【0070】
すなわち、線形制御部55としてPI制御部が用いられている。ここで、GP は比例ゲイン、Gi は積分ゲインである。線形制御を用いることで、変速比の安定した制御が可能となる。
上記の実施の形態では、無段変速機1がベルト伝動式の無段変速機である例に則して説明したが、これに限らず、動力伝達要素がチェーンであるチェーン伝動式の無段変速機であってもよい。
【実施例】
【0071】
上記の実施の形態で示された制御則を、試験装置で実行した。その試験データは、エンジン2のトルクを零とし、プライマリープーリ6の回転速度を1000rpmに固定して得られた。また、システムの分離を示すために、セカンダリー圧力PS として、一定値1MPaを選択した。
図8は、変速比のステップ応答を示している。図8において、実線が要求変速比であり、破線が実際の変速比である。図9Aは、プライマリー圧力PP の時間的変化を示し、図9Bは、セカンダリー圧力PS の時間的変化を示している。図9A,図9Bにおいて、実線が要求圧力であり、破線が、脈動する計測圧力(一点鎖線で示されている)の変動幅の上限、下限を表している。
【0072】
その結果、下記の1)〜6)が判明した。
1)図8を参照して、変速比の全範囲で、制御比が安定している。
2)図8を参照して、変速比制御の積分に由来するものと考えられるオーバーシュートに関しても小さく抑えられ、変速比の全範囲で制御が安定している。
3)図8を参照して、2リットル/minというプライマリー流量QP の制限に起因して、変速
比の応答はあまり早くないが、第1および第2のサーボポンプ15,16の仕様を変更することにより、応答性は容易に向上することが可能であると考えられる。
4)図9A,図9Bを参照して、計測圧力および要求圧力が良い関係を示し、圧力応答が早い。
5)図9Aを参照して、要求圧力のピークは、変速比応答の向上のための変速比制御に由来するものである。
6)変速比の変化、すなわち図9Aに示されるプライマリー圧力PP の変化は、図9Bに示されるセカンダリー圧力PS に影響を与えない。すなわち、多入力多出力システムが分離され、非干渉システムとなっていることが実証された。圧力制御のフィードバック線形化によるものである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施の形態に係る無段変速機が適用された車両の概略構成を示す模式図である。
【図2】サーボポンプシステムのブロック図である。
【図3】オブザーバのブロック図である。
【図4】バリエータモデルの模式図である。
【図5】圧力制御のブロック図である。
【図6】変速比制御のブロック図である。
【図7A】プライマリー圧力を求めるためのテーブルとしてのマップを表すグラフ図である。
【図7B】セカンダリー圧力を求めるためのテーブルとしてのマップを表すグラフ図である。
【図8】ステップ応答に対する変速比の変化を示す図である。
【図9A】プライマリー圧力の時間的変化図である。図8の応答に対応している。
【図9B】セカンダリー圧力の時間的変化図である。
【符号の説明】
【0074】
1…無段変速機、2…エンジン、3…入力軸、5…出力軸、6…プライマリープーリ、7…セカンダリープーリ、8…ベルト(動力伝達要素)、11…第1の油圧アクチュエータ、14…第2の油圧アクチュエータ、17…油路、17a…分岐部、18…油路、19…第1のサーボアンプ、20…第1の電動モータ、21…第2のサーボアンプ、22…第2の電動モータ、23…コントローラ、51…線形制御部(PI制御部)、52…フィードバック線形化部、53…プラント、54…クランプ圧制御部、55…線形制御部(PI制御部)、56…目標圧力演算部、QP …プライマリー流量、QS …セカンダリー流量、、rCVT …変速比、PP,ref …プライマリー目標圧力、PS,ref …セカンダリー目標圧力、PP …プライマリー圧力、PS …セカンダリー圧力、ν1 ,ν2 …制御入力、rCVT,ref …目標変速比、rCVT,C …補正変速比、TP …CVT入力トルク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリープーリ、セカンダリープーリ、並びにこれらプーリ間に動力を伝達する動力伝達要素を含み、各プーリーに対応する油圧アクチュエータに作動油を供給することにより、プーリ径比を変更して変速比を無段階で変更可能な無段変速機の制御装置において、
プライマリー流量およびセカンダリー流量を入力とし、プライマリー圧力およびセカンダリー圧力を出力とする多入力多出力システムからなるプラントの、上記入力から上記出力への関数の逆関数を用いて、入出力フィードバック線形化手法により線形化され、制御入力に基づいて上記プラントの入力となるプライマリー流量およびセカンダリー流量を演算するフィードバック線形化部と、
上記プラントの出力するプライマリー圧力およびセカンダリー圧力とそれぞれ対応するプライマリー目標圧力およびセカンダリー目標圧力との偏差に基づいて、フィードバック線形化部への制御入力を線形制御する線形制御部と、を備え、各プーリのクランプ圧を制御する機能を有することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1において、上記プライマリー圧力およびセカンダリー圧力の制御が互いに分離されていることを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2において、上記制御入力を線形制御する線形制御部はPI制御部を含むことを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項4】
上記請求項1ないし3の何れか1項において、上記プラントの出力は、変速比を含み、 上記プラントの出力する変速比と目標変速比との偏差に基づいて出力する補正変速比を線形制御する線形制御部と、
CVT入力トルクおよび上記補正変速比に基づいて、プライマリー目標圧力およびセカンダリー目標圧力を演算する目標圧力演算部と、をさらに備え、変速比を制御する機能を有する無段変速機の制御装置。
【請求項5】
請求項4において、上記補正変速比を線形制御する線形制御部はPI制御部を含むことを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項6】
請求項4または5において、上記目標圧力演算部は、CVT入力トルクおよび変速比とプライマリー目標圧力およびセカンダリー目標圧力との関係を記憶したテーブルを用いてプライマリー目標圧力およびセカンダリー目標圧力を演算することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項1】
プライマリープーリ、セカンダリープーリ、並びにこれらプーリ間に動力を伝達する動力伝達要素を含み、各プーリーに対応する油圧アクチュエータに作動油を供給することにより、プーリ径比を変更して変速比を無段階で変更可能な無段変速機の制御装置において、
プライマリー流量およびセカンダリー流量を入力とし、プライマリー圧力およびセカンダリー圧力を出力とする多入力多出力システムからなるプラントの、上記入力から上記出力への関数の逆関数を用いて、入出力フィードバック線形化手法により線形化され、制御入力に基づいて上記プラントの入力となるプライマリー流量およびセカンダリー流量を演算するフィードバック線形化部と、
上記プラントの出力するプライマリー圧力およびセカンダリー圧力とそれぞれ対応するプライマリー目標圧力およびセカンダリー目標圧力との偏差に基づいて、フィードバック線形化部への制御入力を線形制御する線形制御部と、を備え、各プーリのクランプ圧を制御する機能を有することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1において、上記プライマリー圧力およびセカンダリー圧力の制御が互いに分離されていることを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2において、上記制御入力を線形制御する線形制御部はPI制御部を含むことを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項4】
上記請求項1ないし3の何れか1項において、上記プラントの出力は、変速比を含み、 上記プラントの出力する変速比と目標変速比との偏差に基づいて出力する補正変速比を線形制御する線形制御部と、
CVT入力トルクおよび上記補正変速比に基づいて、プライマリー目標圧力およびセカンダリー目標圧力を演算する目標圧力演算部と、をさらに備え、変速比を制御する機能を有する無段変速機の制御装置。
【請求項5】
請求項4において、上記補正変速比を線形制御する線形制御部はPI制御部を含むことを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項6】
請求項4または5において、上記目標圧力演算部は、CVT入力トルクおよび変速比とプライマリー目標圧力およびセカンダリー目標圧力との関係を記憶したテーブルを用いてプライマリー目標圧力およびセカンダリー目標圧力を演算することを特徴とする無段変速機の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【公開番号】特開2009−127814(P2009−127814A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306165(P2007−306165)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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