説明

無段変速機の変速制御装置

【課題】ガタ付き防止用のバネの推力の増大を可能にしつつ、ステッピングモータに過大な力が加わらないようにする無段変速機の変速制御装置を提供する。
【解決手段】この無段変速機の変速制御装置230は、無段変速機のトラニオン15を軸方向に変位させる駆動装置32への圧油の給排を制御して無段変速機の無段変速を生起させる変速比制御弁112と、変速比制御弁112のスプール115に取り付けられてスリーブ114をリンク部材120の方向に付勢することによりこれらの部材114,120の係合部のガタ付きを防止する第1の付勢体130と、ステッピングモータ113の出力ロッド113aに取り付けられて第1の付勢体130の推力を相殺するための第2の付勢体135とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能な無段変速機の変速制御装置に関し、特に、変速制御リンク機構におけるガタ付きを防止するための構造を有する無段変速機の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機、例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図2および図3に示すように構成されている。図2に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板(ローディングカム)7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面;トラクション面とも言う)2a,2aと出力ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図3参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図2中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図2の右面)は、入力軸1の外周面に形成されたネジ部1eに螺合されたローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図2のA−A線に沿う断面図である図3に示すように、ケーシング50の内側であって、出力側ディスク3,3の側方位置には、両ディスク3,3を両側から挟む状態で一対のヨーク23A,23Bが支持されている。これら一対のヨーク23A,23Bは、鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。そして、後述するトラニオン15の両端部に設けられた枢軸14を揺動自在に支持するため、ヨーク23A,23Bの四隅には、円形の支持孔18が設けられるとともに、ヨーク23A,23Bの幅方向の中央部には、円形の係止孔19が設けられている。
【0007】
一対のヨーク23A,23Bは、ケーシング50の内面の互いに対向する部分に形成された支持ポスト64,68により、僅かに変位できるように支持されている。これらの支持ポスト64,68はそれぞれ、入力側ディスク2の内側面2aと出力側ディスク3の内側面3aとの間にある第1キャビティ221および第2キャビティ222にそれぞれ対向する状態で設けられている。
【0008】
したがって、ヨーク23A,23Bは、各支持ポスト64,68に支持された状態で、その一端部が第1キャビティ221の外周部分に対向するとともに、その他端部が第2キャビティ222の外周部分に対向している。
【0009】
第1および第2のキャビティ221,222は同一構造であるため、以下、第1キャビティ221のみについて説明する。
【0010】
図3に示すように、ケーシング50の内側において、第1キャビティ221には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図3においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、その本体部である支持板部16の長手方向(図3の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0011】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部(第1の軸部)23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部(第2の軸部)23bの周囲には、各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0012】
また、前述したように、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図3の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。前述したように、各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、前述したように、ヨーク23A,23Bの幅方向(図3の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は球状凹面として、支持ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0013】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図3で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0014】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉26,26と、これら各玉26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0015】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0016】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図3の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(枢軸14から延びる軸部)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0017】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、駆動軸22の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2および入力軸1に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0018】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図3の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動する。
【0019】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0020】
また、上記構成において、駆動装置32への圧油の給排状態は、これら駆動装置32の数に関係なく図4に示されるような1個の変速比制御弁112により行なわれ、いずれか1個のトラニオン15の動きがこの変速比制御弁112にフィードバックされるようになっている。この変速比制御弁112は、ステッピングモータ113によりリンク部材120を介して軸方向に変位させられるスリーブ114と、このスリーブ114の内径側に軸方向に変位自在に嵌装されたスプール115とを有する。また、各トラニオン15,15と各駆動装置32の駆動ピストン33,33とを連結する駆動ロッド29,29のうち、いずれか1個のトラニオン15に付属の駆動ロッド29の端部にプリセスカム118が固定されており、このプリセスカム118とリンク腕119とを介して、駆動ロッド29の動き、すなわち、軸方向の変位量と回転方向の変位量との合成値がスプール115に伝達される、フィードバック機構が構成されている。
【0021】
変速状態を切り換える際には、ステッピングモータ113によりリンク部材120を介してスリーブ114を所定量だけ変位させて、変速比制御弁112の流路を開く。この結果、各駆動装置32に圧油が所定方向に送り込まれて、これら各駆動装置32,32が各トラニオン15,15を所定方向に変位させる。すなわち、上記圧油の送り込みに伴ってこれら各トラニオン15,15が各枢軸14,14の軸方向に変位しつつ、これら各枢軸14,14を中心に揺動する。そして、上記いずれか1個のトラニオン15の動き(軸方向および揺動変位)が、駆動ロッド29の端部に固定されたプリセスカム118とリンク腕119とを介してスプール115に伝達され、このスプール115を軸方向に変位させる。この結果、上記トラニオン15が所定量変位した状態で、上記変速比制御弁112の流路が閉じられ、各駆動装置32,32への圧油の給排が停止される。従って、各トラニオン15,15の軸方向および揺動方向の変位量は、ステッピングモータ113によるスリーブ114の変位量に応じただけのものとなる。
【0022】
ところで、リンク部材120と、ステッピングモータ113の出力ロッドの先端部、変速比制御弁112を構成するスリーブ114の端部との各係合部では一般にガタ付きが生じるため、従来から、そのガタ付きを防止するための構造が工夫されている(例えば、特許文献1ないし特許文献3参照)。具体的には、例えば、図4に示されるように、変速比制御弁112(スプール115)に取り付けられたバネ130によってスリーブ114をリンク部材120の方向に付勢することにより各係合部のガタ付きを防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2002−168329号公報
【特許文献2】特開2004−225888号公報
【特許文献3】実公平1−40367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
前述したガタ付き防止用のバネ130は、変速比制御弁112のスティック防止やスリーブ114の摺動性能を向上させるために推力が大きいことが望ましいが、スリーブ114を動かすためのステッピングモータ113の推力以上にすることはできない。バネ130の推力を大きくし過ぎると、ステッピングモータ113の動きが鈍くなり、変速応答性が低下するだけでなく、ステッピングモータ113に過大な力が加わり、ステッピングモータ113の耐久性を低下させる可能性もある。従来のガタ付き防止構造の場合、そのような過大な推力の発生が懸念され、例えば特許文献2に記載されるようなガタ付き防止用のバネを用いると、余分なバネの推力がステッピングモータに作用する場合がある。
【0025】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、ガタ付き防止用のバネの推力の増大を可能にしつつ、ステッピングモータに過大な力が加わらないようにする無段変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前記課題を解決するために、本発明は、無段変速機のトラニオンを軸方向に変位させる駆動装置への圧油の給排を制御して無段変速機の無段変速を生起させる変速比制御弁を備え、該変速比制御弁は、ステッピングモータによりリンク部材を介して軸方向に変位させられるスリーブと、このスリーブ内に軸方向に変位自在に嵌装されるスプールとを有し、無段変速機の前記駆動装置の駆動ピストンを保持する駆動ロッドがカム・リンク機構を介して前記スプールに連結されることにより駆動ロッドの動きをスプールに伝達するフィードバック機構が構成される無段変速機の変速制御装置において、前記変速比制御弁のスプールに取り付けられ、前記スリーブを前記リンク部材の方向に付勢することによりこれらの部材の係合部のガタ付きを防止する第1の付勢体と、前記ステッピングモータの出力ロッドに取り付けられ、前記第1の付勢体の推力を相殺するための第2の付勢体とを備えることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、ガタ付きを防止する第1の付勢体の推力が第2の付勢体によって相殺されるため、ステッピングモータに過大な力を作用させることなく第1の付勢体の推力を従来よりも上げることができ、したがって、変速比制御弁のスティック防止やスリーブの摺動性能の向上を図ることができる。また、従来の構造に対して第1の付勢体の推力を相殺するための第2の付勢体を設けるだけで済むため、必要最小限の部品点数で上記作用効果を得ることができる。
【0028】
なお、上記構成において、前記第1および第2の付勢体としては、バネを含む各種の弾性部材を挙げることができる。また、前記第1の付勢体がバネである場合、そのバネは、前記スプールの周囲に巻装された状態で前記スプールに設けられる抜け止め凸部と前記スリーブの端面との間に介挿されることが好ましい。また、前記第2の付勢体がバネである場合にも、そのバネは、前記ステッピングモータの出力ロッドの周囲に巻装された状態で前記出力ロッドに設けられる抜け止め凸部と前記ステッピングモータのベース体との間に介挿されることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ガタ付き防止用のバネの推力の増大を可能にしつつ、ステッピングモータに過大な力が加わらないようにする無段変速機の変速制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る変速制御装置の概略構成図である。
【図2】従来から知られているトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
【図3】図2のA−A線に沿う断面図である。
【図4】従来の変速制御装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の特徴は、無段変速機の無段変速を生起させる変速制御装置の構造形態にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図2〜図4と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0032】
図1は、前述した無段変速機のトラニオン15を軸方向に変位させる駆動装置32への圧油の給排を制御して無段変速機の無段変速を生起させる変速比制御弁112を備える本発明の実施形態の変速制御装置230を示している。なお、本発明の変速制御装置230は様々な構造の無段変速機に適用できるが、ここでは、前述したトロイダル型無段変速機に適用した例について説明する。
【0033】
図示のように、変速比制御弁112は、ステッピングモータ113によりリンク部材を120介して軸方向に変位させられるスリーブ114と、このスリーブ114内に軸方向に変位自在に嵌装されるスプール115とを有する。従来技術に関連して前述したように、変速制御装置230は、無段変速機の駆動装置32の駆動ピストン33を保持する駆動ロッド29がプリンスカム118とリンク腕119とから成るカム・リンク機構を介してスプール115に連結されることにより、駆動ロッド29の動きをスプール115に伝達するフィードバック機構を構成する。
【0034】
変速比制御弁112のスプール115には、スリーブ114をリンク部材120の方向に付勢することによりこれらの部材114,120の係合部のガタ付きを防止する第1の付勢体130が取り付けられている。具体的には、第1の付勢体130は、バネから形成されており、スプール115の周囲に巻装された状態でスプール115に設けられる抜け止め凸部200とスリーブ114の端面との間に介挿される。
【0035】
また、ステッピングモータ113の出力ロッド113aには第1の付勢体130の推力を相殺するための第2の付勢体135が取り付けられている。具体的には、第2の付勢体135は、バネから形成されており、ステッピングモータ113の出力ロッド113aの周囲に巻装された状態で出力ロッド113aに設けられる抜け止め凸部202とステッピングモータ113のベース体113b(具体的には、モータハウジングの外面)との間に介挿される。この場合、第2の付勢体135は、第1の付勢体130の推力を相殺するように、出力ロッド113aをリンク部材120の方向に付勢している。
【0036】
なお、第1および第2の付勢体130,135としては、バネを含む各種の弾性部材を挙げることができる。要は、付勢機能や相殺機能を有するものであれば、どのような形態のものでもよい。
【0037】
以上のように、本実施形態の変速制御装置230によれば、ガタ付きを防止する第1の付勢体130の推力が第2の付勢体135によって相殺されるため、ステッピングモータ113に過大な力を作用させることなく第1の付勢体130の推力を従来よりも上げることができ、したがって、変速比制御弁112のスティック防止やスリーブ114の摺動性能の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0038】
15 トラニオン
29 駆動ロッド
32 駆動装置
33 駆動ピストン
112 変速比制御弁
113 ステッピングモータ
113a 出力ロッド
113b ハウジング(ベース体)
114 スリーブ
115 スプール
118 プリンスカム(カム・リンク機構)
119 リンク腕(カム・リンク機構)
120 リンク部材
130 第1の付勢体(バネ)
135 第2の付勢体(バネ)
200 抜け止め凸部
202 抜け止め凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速機のトラニオンを軸方向に変位させる駆動装置への圧油の給排を制御して無段変速機の無段変速を生起させる変速比制御弁を備え、該変速比制御弁は、ステッピングモータによりリンク部材を介して軸方向に変位させられるスリーブと、このスリーブ内に軸方向に変位自在に嵌装されるスプールとを有し、無段変速機の前記駆動装置の駆動ピストンを保持する駆動ロッドがカム・リンク機構を介して前記スプールに連結されることにより駆動ロッドの動きをスプールに伝達するフィードバック機構が構成される無段変速機の変速制御装置において、
前記変速比制御弁のスプールに取り付けられ、前記スリーブを前記リンク部材の方向に付勢することによりこれらの部材の係合部のガタ付きを防止する第1の付勢体と、
前記ステッピングモータの出力ロッドに取り付けられ、前記第1の付勢体の推力を相殺するための第2の付勢体と、
を備えることを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項2】
前記第1および第2の付勢体がバネであることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の変速制御装置。
【請求項3】
前記第1の付勢体を形成するバネは、前記スプールの周囲に巻装された状態で前記スプールに設けられる抜け止め凸部と前記スリーブの端面との間に介挿されることを特徴とする請求項2に記載の無段変速機の変速制御装置。
【請求項4】
前記第2の付勢体を形成するバネは、前記ステッピングモータの出力ロッドの周囲に巻装された状態で前記出力ロッドに設けられる抜け止め凸部と前記ステッピングモータのベース体との間に介挿されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の無段変速機の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−112484(P2012−112484A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263259(P2010−263259)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】