説明

無段変速機

【課題】原動軸の回転を制御しなくても、回転速度に加えて停止及び回転方向の切換を摩擦車の位置制御によりスムーズに行わせ得る無段変速機を提供する。
【解決手段】回転自在に支持されて周囲に複数個の横転ローラ10が配列されている被駆動輪11と、横転ローラ10の外周面に圧接状態で被駆動輪11を回転駆動する駆動ローラ20と、この駆動ローラを被駆動輪11の回転軸線に対して平行な回転軸線を中心に回転可能に横転ローラ10の外周面に圧接状態に軸支し、かつモータ21の回転軸22の回転を駆動ローラ20に伝動する伝動機構30と、駆動ローラ20を圧接状態で被駆動輪11の半径ラインを中心に側転させるように、伝動機構30を回転可能に支持する回転支持機構40とを備え、横転ローラ10が、被駆動輪11の回転方向に直交する横方向へ回転自在に配列されると共に、回転方向の一方の端部の直径を他方の端部の直径よりも小さくして、被駆動輪11の外周円の円弧を形成する形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動軸の回転を従動体に無段階に変速制御可能に伝達する無段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の無段変速機としては、摩擦車式、円錐ベルト式、Vベルト式等種々の方式のものが周知であり、例えば特許文献1によれば原動軸と出力軸の間にダブルコーンを設けて原動軸の軸方向に移動させることにより出力軸の回転を変速させ得る摩擦車式も周知である。さらに、図7に示すように、摩擦車としてのモータで直接回転駆動される駆動輪1を被駆動輪2の側面に沿って半径方向に変位させることにより、回転速度を制御する変速摩擦伝動装置も周知である。
【0003】
また、本出願人は、回転速度が制御される非旋回式の電動車用全方向車輪として、特許文献2により、車輪直進方向に対して直交する横方向へ自在に回転する複数個の横転ローラが、その前後方向の一方の端部の直径を他方の端部の直径よりも小さくして周面により車輪外周円の円弧を形成するように、車輪の周囲に配列されている横転ローラ付の全方向車輪を提案した。
【特許文献1】特開平7−71552号公報
【特許文献2】特開2002−137602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の摩擦車式の場合、原動軸を回転駆動するモータの回転方向を一定にしたままで、原動軸に沿ってダブルコーンを移動させることにより、連続的にスムーズに変速させることはできるが、入出力軸間にダブルコーンが介在した状態で逆転或は停止制御を行うことはできない。また、図7に示す駆動輪式の場合、その直線状の変位により変速させることはでき、被駆動輪の中心位置を過ぎると反転も可能であるが、変位機構が複雑になり、駆動輪の幅も接触点以外ですべりを生じるために制約され、したがって中心位置での停止制御を安定的にスムーズに行うことも不可能である。さらに、他の方式の無段変速機においても、原動軸の一定方向の回転状態で、停止制御或は回転方向の切換制御をスムーズに行えるものは存在していない。
【0005】
よって、本発明は、特許文献2による全方向車輪の存在に着眼して、原動軸の回転を特に制御しなくても、回転速度に加えて停止及び回転方向の切換を摩擦車の位置制御によりスムーズに行わせ得る無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、この目的を達成するために、請求項1により、中心位置を回転自在に支持され、かつ周囲に複数個の横転ローラが配列されている被駆動輪と、横転ローラの外周面に圧接状態で被駆動輪を回転駆動する駆動ローラと、この駆動ローラを被駆動輪の回転軸線に対して平行な回転軸線を中心に回転可能に横転ローラの外周面に圧接状態に軸支し、かつ原動軸の回転を駆動ローラに伝動する伝動機構と、駆動ローラを圧接状態で被駆動輪の半径ラインを中心に側転させるように、伝動機構を回転可能に支持する回転支持機構とを備え、横転ローラが、被駆動輪の回転方向に直交する横方向へ回転自在に配列されると共に、回転方向の一方の端部の直径を他方の端部の直径よりも小さくして、被駆動輪の外周円の円弧を形成する形状に形成されていることを特徴とする。
【0007】
駆動ローラの回転軸線が被駆動輪の回転軸線に平行な場合、横転ローラを横転させることなく、被駆動輪が駆動ローラの圧接により回転駆動される。この状態から駆動ローラが圧接状態で被駆動輪の中心位置からの所定の半径方向、つまり半径ラインを中心に90°回転、つまり側転すると、横転ローラが横転するだけで被駆動輪の回転駆動は行われない。これにより、駆動ローラが90°に向けて側転して横方向の駆動分力が徐々に増加する過程で、対応の速度で横転ローラが横転すると共に、被駆動輪は徐々に減速する。その際、駆動ローラの側転方向に応じて横転ローラの横転方向は反転し、90°を越えると被駆動輪の回転方向は反転する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、駆動ローラの側転位置の制御により被駆動輪を停止状態に至るまでスムーズに変速させることができ、停止状態を経由して回転方向の切換もスムーズ行われる無段変速機もしくは変速摩擦伝動装置が実現される。原動軸の回転速度の制御或は停止制御を行うことなく、構造も簡単であり、減速比も大きく、停止状態では制動が加わる。
【0009】
請求項2の発明によれば駆動ローラによる安定した回転駆動が可能になる。請求項3の発明によれば原動軸を残して伝動機構のみの回転で側転制御が可能になる。請求項4の発明によれば出力軸に被駆動体を連結して無段変速させることができ、請求項5の発明によれば被駆動体を駆動輪として電動車の駆動装置として利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1乃至図6を基に本発明の実施の形態による無段変速機を説明する。この無段変速機は、図1及び図2に示すように、中心位置に突設された出力軸11aが回転自在に支持され、かつ周囲に複数個の横転ローラ10が回転方向へ直交する横方向へ回転自在に配列されている被駆動輪11と、その回転軸線Oに対して平行な回転軸線Od(図4参照)を中心に横転ローラ10の外周面に圧接状態で被駆動輪11を回転駆動する摩擦輪としての駆動ローラ20と、この駆動ローラをその回転軸線Odを中心に回転可能に横転ローラ10の外周面に圧接状態に軸支し、かつ原動軸としてのモータ21の回転軸22の回転を駆動ローラ20に伝動する伝動機構30と、駆動ローラ20を圧接状態でその圧接位置と被駆動輪11の回転軸線Oを結ぶ被駆動輪11の半径ラインR1(図3参照)を中心に側転させるように、伝動機構30を回転可能に支持する回転支持機構40と備える。尚、駆動ローラは、金属製の横転ローラに対してゴム製にすることも考えられる。
【0011】
各横転ローラ10は、図3に示すように、被駆動輪11の回転方向の一方の端部である先端部12の直径を他方の端部である基端部13の直径よりも小さくして、周面19が被駆動輪11の外周円C1の円弧を形成する形状に形成され、半径ラインR1に対して直交方向からずれて交差する回転軸線X1を回転中心としている。つまり、各横転ローラ10の直径は、周面19が被駆動輪11の外周円C1へ横方向に回転した位置でその円弧を形成し、したがって半紡錘形状に形成されている。また、先端部12が隣合う横転ローラ10の基端部13に形成された円錐面状の凹部14の外周側半分に部分的に侵入して、外周円C1に横転した周面19が僅かな隙間14aで隣合う横転ローラ10の基端部13に近接し得るようになっている。被駆動輪11のリム17の周面には回転軸線X1に対して直交方向へ延びるプレート状軸受アーム15の基端部が取付けられ、隙間18に侵入して、横転ローラ10の回転軸16の両端部を回転自在に支持している。
【0012】
伝動機構30は、両側のプレート状のフレーム31、31a及びこれらを連結する基部側のフレーム31bと、基部29に配置されたモータ21の原動軸としての回転軸22がフレーム31bを挿通されて、その先端部に取付けられた傘歯車32及びフレーム31、31aに回転自在に両端部を支持された回転軸33aに取付けられた傘歯車33で構成される一対の直角式の傘歯車と、フレーム31、31aに回転自在に両端部を支持されて駆動ローラ20を回転駆動する駆動軸37と、回転軸33aに取付けられた歯車34、駆動軸37に取付けられた歯車37a及びフレーム31の凹部31c及びフレーム31a間に回転自在に支持された回転軸38aに取付けられて、歯車37a及び歯車34に歯合する中間歯車38とを備えている。
【0013】
回転支持機構40は、フレーム31bにモータ21側に突設されて回転軸22を回転自在に挿通させた状態で、フレーム29に立設された軸受フレーム23の軸受部23aに回転自在に支持されたボス部41と、凹部31cの両側の壁部に両端が取付けられて回転軸線が回転軸22の回転軸線と同軸状で、かつフレーム29に立設された軸受フレーム42の軸受部42aに軸支された回転軸43とより構成されている。これらの回転軸線は、対応方向の半径ラインR1とも同軸状になり、この半径ラインを中心に伝動機構30を回転させる。この伝動機構は、手動操作で回転制御されて制御位置に保持されるか、或は回転制御及び制御位置での保持を行う回転操作機構が付設される。
【0014】
このように構成された無段変速機の動作は次の通りである。モータ21が回転すると、一対の直交する傘歯車32、33により、原動軸である回転軸22に対して回転軸線が直交変換されて回転軸33aが回転駆動され、歯車34、38、37aを介して駆動軸37が回転駆動される。
【0015】
図1の状態では、駆動ローラ20の回転軸線Odが被駆動輪11の回転軸線Oに対して離間状態で直角であり、したがって横転ローラ10を横方向へ回転駆動するだけで、被駆動輪11に対して回転駆動力を発生し得ず、駆動ローラ20への圧接による制動状態で停止している。
【0016】
回転支持機構40にボス部41及び回転軸43で回転自在に支持された伝動機構30を90°回転させた図3に示す状態では、回転軸線Odが回転軸線Oに対して平行となり、横転ローラ10を横転させることなく被駆動輪11を回転駆動し、被駆動輪11は横転ローラ10の回転方向Aに対応して回転方向aに回転する。
【0017】
図5に示すように、駆動ローラ20の側転位置を図4の状態から回転軸22、43を中心に回転させると、駆動力の横方向分力に応じて横転ローラ10を回転方向bに回転させつつ被駆動輪11は回転方向aに駆動され、したがって側転角がさらに大きくなるのに伴って減速されつつ回転駆動される。
【0018】
つまり、図6に示すように、図4に示す状態から駆動ローラ20の側転位置が正面視で左右いずれかに回転させられると、即ち定位置で横転ローラ10に接触状態で被駆動輪11の回転方向に対して左右の側方へ回転すると、横転ローラ10の横回転方向は互いに逆になるが、被駆動輪11は両側の±90°に至る範囲で徐々に減速しつつ前述の回転方向a(正転とする)に回転駆動される。両側の90°位置では横転ローラ10を横転させつつ制動状態で停止する。さらに90°を越えて回転させると、正転状態から逆転して徐々に加速し、即ち回転方向aと逆方向へ回転し、軸受フレーム42にフレーム31aが干渉する角度範囲θiを除いた180°の範囲で連続的にスムーズに回転速度が制御される。また、駆動ローラ20を所定の側転位置へ制御することにより、所望の速度及び回転方向へ制御可能となる。
【0019】
駆動ローラ20による被駆動輪11の駆動時に、各横転ローラ10の前後端間の隙間14aは互いの侵入により、駆動ローラ20の外径に対して僅かであるために、周面19はほぼ連続した外周円C1を形成し得、特に減速状態でも一定の駆動が保証される。
【0020】
尚、別の実施の形態として、回転支持機構40を回転軸22側でのみ支持する等により、軸受フレーム42を廃止する構成に変形すると、駆動ローラ20は360°を越えて自在に回転操作できる。また、伝動機構は、直交式の傘歯車を用いることなく、駆動ローラ20の駆動軸37をモータ21の回転軸22に平行もしくは同軸状に構成して、駆動ローラ20をモータ21と一体に回転制御を行うことも考えられる。
【0021】
以上説明した本発明の無段変速機は、横転ローラ10が配列されている被駆動輪11をその中心位置に車軸を突設して車体に駆動輪として軸支させると共に、モータ21、駆動ローラ20、伝動機構30及び回転支持機構40を車体に搭載することにより、電動車の駆動装置として実施することができる。その際、運転席でのレバー操作により駆動ローラ20を側転制御するように構成して、電動車の速度・停止制御を行うことができる。また、被駆動輪11を左右の両側に設けて、互いに差動式に速度制御を行うことにより、横転ローラ10の横転による非旋回式の全方向車輪として操舵を行うことも可能である。
【0022】
さらに、被駆動輪11の出力軸11aに、被駆動体として例えばベルトコンベアの駆動輪を無段変速制御可能に連結する等、種々の従来の無段変速機に代替に可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態による無段変速機の停止状態の側面図である。
【図2】同変速機の被駆動輪の停止状態での部分的に断面にした平面図である。
【図3】同変速機の被駆動輪の構成を説明する図である。
【図4】同変速機の最大速状態を示す側面図である。
【図5】同変速機の最大速状態から減速させた状態を示す側面図である。
【図6】同変速機の動作を説明する図である。
【図7】従来の変速摩擦伝動装置の原理を例示する斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
10 横転ローラ
11 被駆動輪
11a 出力軸
20 駆動ローラ
21 モータ
22、33a、38a、43 回転軸
23、42 軸受フレーム
30 伝動機構
32、33 傘歯車
34、37a、38 歯車
37 駆動軸
40 回転支持機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心位置を回転自在に支持され、かつ周囲に複数個の横転ローラが配列されている被駆動輪と、前記横転ローラの外周面に圧接状態で前記被駆動輪を回転駆動する駆動ローラと、この駆動ローラを前記被駆動輪の回転軸線に対して平行な回転軸線を中心に回転可能に前記圧接状態に軸支し、かつ原動軸の回転を前記駆動ローラに伝動する伝動機構と、前記駆動ローラを前記圧接状態で前記被駆動輪の半径ラインを中心に側転させるように、前記伝動機構を回転可能に支持する回転支持機構とを備え、
前記横転ローラが、前記被駆動輪の回転方向に直交する横方向へ回転自在に配列されると共に、前記回転方向の一方の端部の直径を他方の端部の直径よりも小さくして、前記被駆動輪の外周円の円弧を形成する形状に形成されていることを特徴とする無段変速機。
【請求項2】
各横転ローラの一方の端部が、隣合う前記横転ローラの他方の端部に近接し得るように、前記他方の端部に形成された凹部に部分的にそれぞれ侵入していることを特徴とする請求項1記載の無段変速機。
【請求項3】
伝動機構が、駆動ローラを回転駆動するように軸支された駆動軸と、この駆動軸に取付けられた歯車と、原動軸に付設された第1の傘歯車及びこの傘歯車に直角に歯合する第2の傘歯車と、この傘歯車に取付けられて前記原動軸と直交する回転軸及び前記歯車間に介在する少なくとも1個の歯車とを備えると共に、回転支持機構が、前記原動軸を中心に回転制御可能に前記伝動機構を支持することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の無段変速機。
【請求項4】
被駆動輪の中心位置に、回転自在に支持された出力軸が突設され、この出力軸に被駆動体が取付けられることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか記載の無段変速機。
【請求項5】
被駆動輪が、その中心位置を電動車のフレームに回転自在に支持される電動車用駆動輪であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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