無段階変速機ベルト及びその製造方法
【課題】引張強度及び疲労強度が大きい無段階変速機ベルトを安価に製造することができる無段階変速機ベルトの製造方法を提供する。
【解決手段】無段階変速機ベルトの製造方法は、リング部材形成工程S10〜S14と、浸炭・焼入れ工程S15と、窒化工程S17とを備える。先ず、リング部材形成工程では、質量%で、Cが0.05%以下であり、Tiが0.1%以上であり且つ1.0%以下であるリング部材6Aを形成する。次に、浸炭・焼入れ工程S15では、リング部材6Aに対して浸炭処理を施すとともに焼入れ処理を施す。最後に、窒化工程S17では、浸炭・焼入れ処理されたリング部材6Cに対して窒化処理を施す。このようにして、無段階変速機ベルトとしての金属ベルト1を製造する。
【解決手段】無段階変速機ベルトの製造方法は、リング部材形成工程S10〜S14と、浸炭・焼入れ工程S15と、窒化工程S17とを備える。先ず、リング部材形成工程では、質量%で、Cが0.05%以下であり、Tiが0.1%以上であり且つ1.0%以下であるリング部材6Aを形成する。次に、浸炭・焼入れ工程S15では、リング部材6Aに対して浸炭処理を施すとともに焼入れ処理を施す。最後に、窒化工程S17では、浸炭・焼入れ処理されたリング部材6Cに対して窒化処理を施す。このようにして、無段階変速機ベルトとしての金属ベルト1を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段階変速機ベルト及びその製造方法に関し、特に、浸炭・焼入れ処理及び窒化処理を施した無段階変速機ベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車では環境問題の観点から低燃費化が強く望まれていて、変速機として低燃費化に貢献できるベルト式無段階変速機(以下、「CVT」と呼ぶ)が多く用いられている。CVTでは、薄い板厚の金属ベルト(無段階変速機ベルト)を複数枚重ねてベルトが構成され、このベルトをエレメントと呼ばれる摩擦部材に組付けて使用される。
【0003】
金属ベルトは、エレメントに組付けられた状態で回転して動力を伝達する。このため、金属ベルトには、回転中に張力や繰り返し曲げ応力が作用するとともに、エレメントとの間で摩擦が生じる。従って、金属ベルトは、引張強度、疲労強度などの様々な特性が要求されるものであり、現状では、引張強度、疲労強度などに優れたマルエージング鋼で構成されるようになっている。
【0004】
マルエージング鋼として、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。下記特許文献1では、先ず、マルエージング鋼に対して825度〜960度の適当な温度で固溶化処理が施される。そして、490度で時効処理が施され、次いで、450度〜470度においてガス窒化が施される。これにより、このマルエージング鋼では、時効硬化により内部硬さが500HV以上になるとともに、窒化により表面硬さが800HV以上になり、且つ表面に1200MPa程度の大きな圧縮残留応力が生じることになる。こうして、マルエージング鋼を用いて引張強度、疲労強度に優れた金属ベルトが製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−240944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、マルエージング鋼は、含有している合金元素(Ni、Co、Mo等)が時効硬化により金属間化合物を形成し、この金属間化合物が析出することで、高い引張強度を得ている。また、疲労強度に関しては、含有しているTiが、窒化によって表面に生じる圧縮残留応力を大きくして、疲労強度の向上に大きく貢献している。しかしながら、マルエージング鋼は高価な合金元素を多く含有するものであるため、マルエージング鋼で構成された金属ベルトはコストが高くなるという問題がある。そこで、マルエージング鋼に換えて普通の鋼材を用いて安価に金属ベルトを製造することが望まれている。
【0007】
ここで、普通の鋼材を用いて金属ベルトを製造する場合、大きな引張強度を得るために、炭素鋼に対して焼入れ処理を施すことが考えられる。焼入れ処理によって引張強度を得る場合、多くの合金元素を添加する必要がなく、コストメリットがあるためである。しかしながら、炭素鋼の場合には、大きな引張強度を得ることができるが、大きな疲労強度を得る、即ち表面に大きな圧縮残留応力を生じさせることができない。これは、Cを多く含有する炭素鋼の場合、Cを多く含有しないマルエージング鋼と異なり、固溶状態のTiを多く含むことができず、窒化により表面に大きな圧縮残留応力が生じないためである。
【0008】
即ち、炭素鋼のような鋼材では、Tiを添加しても、製鋼(溶解)の過程でCとTiとが化合する。これにより、チタン炭化物(TiC)の介在物が形成されて、CとTiとがそれぞれ別個に固溶状態として存在しない(存在し難い)。従って、Tiが多く添加されても、CとTiとの化合によりTiが固溶状態として存在しないため、窒化によって表面に生じる圧縮残留応力を大きくすることができず、炭素鋼の疲労強度を大きくすることができない。また、仮にTiがCより多く含まれている場合、CとTiとの化合によりCが固溶状態として存在しなくなるため、焼入れ処理によって引張強度が大きくなるという効果が生じなくなる。以上要するに、炭素鋼を用いて金属ベルトを製造する場合には、引張強度を大きくし且つ疲労強度を大きくすることができなかった。
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、引張強度及び疲労強度が大きい無段階変速機ベルトを安価に製造することができる無段階変速機ベルトの製造方法、及び引張強度及び疲労強度が大きく且つ安価な無段階変速機ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を達成するために、本発明の無段階変速機ベルトの製造方法は、以下の構成を有する。
(1)質量%で、Cが0.05%以下であり、Tiが0.1%以上であり且つ1.0%以下であるリング部材を形成するリング部材形成工程と、前記リング部材に対して浸炭処理を施すとともに焼入れ処理を施す浸炭・焼入れ工程と、前記浸炭・焼入れ処理されたリング部材に対して窒化処理を施す窒化工程と、を備えたことを特徴とする。
(2)(1)に記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、前記浸炭・焼入れ工程では、浸炭処理を施した後で且つ焼入れ処理を施す前に、拡散処理を施すことを特徴とする。ここで、「拡散処理」とは、リング部材の変態温度で所定時間加熱保持して、リング部材のCの含有量の分布を均一化する処理である。
(3)(1)又は(2)に記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、前記リング部材形成工程で形成されるリング部材において、質量%で、Tiが0.3%以上であり且つ0.7%以下であることを特徴とする。
(4)(1)乃至(3)の何れかに記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、前記リング部材形成工程で形成されるリング部材において、質量%で、Cが0.001%以下であることを特徴とする。
(5)(1)乃至(4)の何れかに記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、前記リング部材形成工程では、Tiを含有する金属素材を形成し、前記金属素材の薄板を丸めて管状薄板を形成し、前記管状薄板の周方向端部を溶接して薄肉パイプを形成し、前記薄肉パイプを切断して前記リング部材を形成することを特徴とする。
【0011】
また、上記した課題を達成するために、本発明の無段階変速機ベルトは、以下の構成を有する。
(6)Tiを含有するリング部材に対して浸炭・焼入れ処理を施すとともに窒化処理を施すことによって製造された無段階変速機ベルトであって、質量%で、Cが0.2%以上であり且つ0.8%以下であるとともに、Tiが0.1%以上であり且つ1.0%以下であり、表面には、質量%で、前記リング部材に含有されていたTiの10%以上がチタン窒化物として存在し、表面から厚さ方向の中心部には、質量%で、前記リング部材に含有されていたTiの10%以上が固溶状態であるTiとして存在し、表面からの厚さ方向の中心部のビッカース硬度が、400HV以上であり且つ600HV以下であることを特徴とする。
(7)(6)に記載された無段階変速機ベルトにおいて、質量%で、Tiが0.3%以上であり且つ0.7%以下であることを特徴とする。
(8)(6)又は(7)に記載された無段階変速機ベルトにおいて、質量%で、Cが0.3%以上であり且つ0.5%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記した無段階変速機ベルトの製造方法の作用効果について説明する。
(1)本発明の無段階変速機ベルトの製造方法によれば、先ず、リング部材形成工程において形成されるリング部材は、Cの含有量が極めて少ないものであるのに対して、Tiの含有量が比較的多いものである。このため、このリング部材では、チタン炭化物(TiC)の析出物がほとんど生成されていない。そして、浸炭処理によって、リング部材にCが多く入り込み、固溶状態であるCとTiとが別個に多く存在するようになる。次いで、焼入れ処理によって、Cが過飽和に閉じ込められてマルテンサイト状態になり、リング部材の硬度が著しく上昇する。こうして、リング部材は、引張強度が十分大きいものになる。その後、窒化処理によって、固溶状態で適度に存在するTiが、微細な析出物を生成し表面に大きな圧縮残留応力を生じさせる。こうして、無段階変速機ベルトは、疲労強度が十分大きいものになる。そして、この無段階変速機ベルトは、高価な合金元素が多く含まれるマルエージング鋼から製造されたものではなく、普通の鋼材で構成されたリング部材から製造されたものである。従って、この製造方法によれば、引張強度及び疲労強度が大きい無段階変速機ベルトを安価に製造することができる。
(2)この場合には、拡散処理によって、リング部材の表面(裏面)と厚さ方向の中心部との間でCの含有量の差をなくすことができ、拡散処理の後の焼入れ処理によって、安定した品質のリング部材(無段階変速機ベルト)を製造することができる。また、浸炭処理の後に拡散処理を施すため、浸炭処理を低温で行うことができ、より精密に且つ短時間で処理することができる。更に、Cがリング部材の内部にまで入り込んでいない状態で浸炭処理を素早く終了し、その後の拡散処理によってCの含有量を均一化することで、浸炭・焼入れ工程における処理時間を短くすることができる。
(3)この場合には、固溶状態であるTiが、窒化によって無段階変速機ベルトの表面の圧縮残留応力を特に大きくすることができ、疲労強度を十分大きくすることができる。
(4)この場合には、チタン炭化物の介在物が形成されることによって生じる弊害を十分抑えることができる。
(5)この場合には、溶接されているリング部材に対して浸炭・焼入れ処理が施されるため、Cの含有量を任意に定めることができ、極めて大きな引張強度を有する無段階変速機ベルトを製造することができる。即ち、溶接する前ではCの含有量が極めて少ないため、溶接しても溶接部分に割れが生じることがない。そして、溶接した後に浸炭・焼入れ処理を施すため、Cの含有量を0.4%より大きくして、引張強度を極めて大きくすることができる。従って、この製造方法によれば、極めて大きな引張強度を必要とする無段階変速機ベルトであっても、製造することができる。
【0013】
上記した無段階変速機ベルトの作用及び効果について説明する。
(6)本発明の無段階変速機ベルトによれば、Cが0.2%〜0.8%であるため、無段階変速機ベルトが要求される引張強度の範囲を満たすようになっている。また、Tiが0.1%〜1.0%であるため、無段階変速機ベルトが要求される疲労強度の範囲を満たすようになっている。また、表面には含有されたTiの10%以上がチタン窒化物として存在するとともに、厚さ方向の中心部には含有されたTiの10%以上が固溶状態であるTiとして存在するため、この無段階変速機ベルトには窒化処理が適切に施されていることになる。更に、厚さ方向の中心部ではビッカース硬度が400HV〜600HVであるため、無段階変速機ベルトとして要求される内部硬度の範囲を満たすようになっている。そして、この無段階変速機ベルトは、高価な合金元素が多く含まれるマルエージング鋼から製造されたものではなく、普通の鋼材から製造されたものである。従って、この無段階変速機ベルトは、引張強度及び疲労強度が大きく且つ安価なものである。
(7)この場合には、固溶状態であるTiが窒化によって無段階変速機ベルトの表面の圧縮残留応力を特に大きくしているため、疲労強度が十分大きい無段階変速機ベルトになっている。
(8)この場合には、引張硬度が無段階変速機ベルトに要求される最適な範囲になっている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)金属ベルトの外観形状を示した説明図である。(B)金属ベルトの部分拡大図である。(C)金属ベルトが使用される状態を示した断面図である。
【図2】金属ベルトを製造するための工程を示したフローチャートである。
【図3】薄板が丸められる状態の説明図である。
【図4】溶接された薄肉パイプの説明図である。
【図5】切断されたリング部材の説明図である。
【図6】圧延されたリング部材の説明図である。
【図7】(A)リング部材の部分断面図である。(B)浸炭処理されたリング部材のCの含有量を示した説明図である。
【図8】歪矯正及び周長調整されたリング部材の説明図である。
【図9】窒化処理されたリング部材の表面からの深さとビッカース硬度との関係を示した説明図である。
【図10】(A)本実施形態の金属ベルトの表面における圧縮残留応力と、比較品としての金属ベルトの表面における圧縮残留応力とを示した表である。(B)本実施形態の金属ベルトと、マルエージング鋼から成る金属ベルトと、比較品としての金属ベルトとの疲労寿命を比較したグラフである。
【図11】本実施形態の金属ベルトにおいて表面からの深さと各成分の濃度との関係を示した説明図である。
【図12】欠陥品としての金属ベルトにおいて表面からの深さと各成分の濃度との関係を示した説明図である。
【図13】(A)Tiの含有量が0.5%である場合と1.0%である場合とにおいて、表面からの深さとN濃度との関係を示したグラフである。(B)Tiの含有量が0.5%である場合と1.0%である場合とにおいて、表面における圧縮残留応力を示した表である。
【図14】(A)拡散処理する前のリング部材のCの含有量を示した説明図である。(B)拡散処理した後のリング部材のCの含有量を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る無段階変速機ベルト及びその製造方法について、図面を参照しながら以下に説明する。図1(A)は、金属ベルト1の外観形状を示した説明図であり、図1(B)は、金属ベルト1の部分拡大図であり、図1(C)は、金属ベルト1が使用される状態を示した断面図である。
【0016】
金属ベルト1は、ベルト式無段階変速機において動力伝達用ベルトとして用いられるものであり、本発明の無段階変速機ベルトに相当する。図1(A)に示したように、金属ベルト1は薄板状のリングであり、図1(B)に示したように、断面形状が径外方向に凸となる曲線形状、所謂クラウニングR形状になっている。そして、図1(C)に示したように、複数枚の金属ベルト1が重ね合わされて一組のベルトBTが構成されていて、一対のベルトBTがエレメント2に組付けられて動力伝達用ベルトとして機能している。なお、クラウニングR形状は、図1(C)に示したように、ベルトBTをエレメント2の凹部2aに挿入して組付ける場合に、金属ベルト1の重なり合った状態を安定させるために設けられている。
【0017】
本実施形態では、上記した金属ベルト1は、図2に示した各工程を経て、製造されるようになっている。図2は、金属ベルト1を製造するための工程を示したフローチャートである。図2に示したように、素材形成工程では、金属ベルト1の素材と成る金属素材が形成される(ステップ10)。即ち、VIM溶解炉(真空誘導溶解装置)の溶製により、質量%で、Cが0.001%以下であり、Tiが0.3%以上であり且つ0.7%以下であり、Siが0.5%以下であり、Mnが0.8%以下であり、Crが1.0%以上であり且つ6.0%以下であり、Moが0.5%以上であり且つ1.5%以下であり、残りがFe及び不可避的不純物である金属素材が形成される。上記した金属素材の化学組成は、例えばICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析計)を用いた化学分析によって、正確に測定される。
【0018】
C:0.001%以下、Ti:0.3%〜0.7%、
この理由については、後に詳しく説明する。
Mn:0.8%以下、
Mnは、任意元素であって含有させなくてもよいが、溶製時の脱酸剤として有効な元素であるので少量含有させることができる。Mnの含有量が多すぎると延性が低下し、冷間圧延が難しくなるため、その上限値を0.8パーセントとする。
【0019】
Cr:1.0%〜6.0%、
Crは、後述する焼入れ処理による内部の硬度向上に有効であり、また、後述する窒化処理による表面近傍の硬度向上にも有効である。これらの効果を得るために、Crの含有量の下限値を1.0%とする。一方、Crの含有量が多すぎると、後述する窒化処理によってCrの窒化物が多く生成され、窒素濃度分布が不連続になる。これにより、圧縮残留応力が低下して、疲労強度の低下を招くことになる。このため、Crの含有量の上限値を6.0%とする。
【0020】
Mo:0.5%〜1.5%、
Moは、延性を損なうことなく強度、靭性を向上させるのに有効な元素である。その効果を得るために、Moの含有量の下限値を0.5%とする。一方、Moの含有量が多くなりすぎてもその効果が飽和してコストアップを招くため、Moの含有量の上限値を1.5%とする。
なお、上記した不可避的不純物とは、例えば、S、P、N、O、Al等である。
【0021】
ここで、図2のフローチャートに戻る。素材形成工程の後、管状形成工程では、金属素材の薄板を丸めて管状薄板が形成される(ステップ11)。即ち、上記した金属素材から熱間鍛造によって厚板を形成し、この厚板から冷間圧延によって薄板(鋼帯)を形成する。図3は、薄板3が丸められる状態の説明図である。図3に示したように、薄板3が丸められて管状薄板4が形成される。
【0022】
次に、溶接工程では、管状薄板4の周方向端部をレーザ溶接によって接合して薄肉パイプ5が形成される(ステップ12)。図4は、溶接された薄肉パイプ5の説明図である。この溶接工程では、管状薄板4のCの含有量は0.001%以下という極めて小さい値であるため、溶接部分に割れが生じることがない。なお、管状薄板4のCの含有量が0.4%を超える場合には、溶接部分に割れが生じることになる。溶接工程の後、薄肉パイプ5の溶接部分が硬くなっているため、焼鈍処理を施して、薄肉パイプ5の硬さを均一にする。
【0023】
続いて、リング状切断工程では、薄肉パイプ5を専用のリング切断機を用いて輪切りにして、図5に示したように、リング部材6が形成される(ステップ13)。なお、図5は、切断されたリング部材6の説明図である。このリング部材6では、厚さが0.42mm程度であり、直径が100mm程度であり、幅が10mm程度になっている。リング状切断工程の後、リング部材6に生じるバリを除去するため、バレル研磨機を用いてバレル研磨を施す。
【0024】
その後、圧延工程では、図6に示したように、リング部材6の直径が大きくなるように圧延機を用いて圧延して、リング部材6Aが形成される(ステップ14)。なお、図6は、圧延されたリング部材6の説明図である。ここで、圧延されたリング部材6をリング部材6Aと呼ぶことにする。このリング部材6Aでは、厚さd(図7(A)参照)が0.18mm程度になっている。このリング部材6Aが、本発明に係るリング部材形成工程により形成されたリング部材に相当する。また、このリング部材6Aでは、上述した金属部材と同様、質量%で、Cが0.001%以下であり、Tiが0.3%以上であり且つ0.7%以下になっている。
【0025】
そして、図2に示したように、浸炭・焼入れ処理では、リング部材6Aに対して浸炭処理が施されるとともに焼入れ処理が施される。先ず、浸炭処理について説明する。浸炭処理では、COガス、H2ガス、N2ガスの混合ガス雰囲気の中で、リング部材6Aが加熱処理される。具体的に、処理温度は850度〜950度程度であり、保持時間は30分〜1時間程度である。ここで、図7(A)は、リング部材6Aの部分断面図であり、図7(B)は、浸炭処理されたリング部材6AのCの含有量を示した説明図である。このガス浸炭処理では、図7(B)に示したように、リング部材6AのCの含有量が、表面(裏面)から厚さ方向の中心部まで0.3%〜0.4%になるように、混合ガス雰囲気が調整される。
【0026】
次に、浸炭処理の効果について説明する。浸炭処理が施される前のリング部材6Aでは、Cの含有量が0.001%以下である。このようにCの含有量が極めて少ないリング部材6Aに対して、仮に焼入れ処理を行っても、引張強度を大きくすることができない。このため、浸炭処理によってCの含有量を大きくすることで、その後の焼入れ処理によって引張強度を大きくすることができる。
【0027】
ここで、浸炭処理を施さずに、素材形成工程の製鋼(溶解)の過程で、Cの含有量を例えば0.05%より大きくすることが考えられる。しかしながら、この場合には、固溶状態であるCとTiとが化合して、チタン炭化物(TiC)の析出物が形成され、CとTiがそれぞれ別個に固溶状態として存在しなくなる(存在し難くなる)。また、チタン炭化物の析出物が成長して、大きな介在物となることもある。こうして、製鋼の過程でCの含有量を大きくしても、形成されたチタン炭化物の析出物によって、焼入れ処理による引張強度が大きくなるという効果を生じさせることができない。このため、浸炭処理を行うことで、チタン炭化物の析出物を形成せず、固溶状態のCが存在するようになり、焼入れ処理によって引張強度を大きくすることができる。なお、浸炭処理では、製鋼(溶解)のように鋼が溶けるまで温度が高くないため、形成されるチタン炭化物の量が少なく、固溶状態のCを含有させることができる。ここで、介在物とは、析出物が大きな塊になったものであって、強度を大幅に低下させるものである。このため、製品においては介在物を起点にして破壊が生じるようになっている。
【0028】
続いて、焼入れ処理について説明する。焼入れ処理では、オーステナイト状態になっているリング部材6Aが、空冷される。なお、水、油等によって急冷しても良い。これにより、Cが過飽和に閉じ込められてマルテンサイト状態になり、リング部材6Aの硬度が著しく上昇する。このとき、リング部材6Aの厚さ方向の中心部においても、焼きが入り、ビッカース硬さが550HV程度まで上昇する。こうして、リング部材6Aは、引張強度が十分大きなものになる。浸炭・焼入れ処理されたリング部材6Aをリング部材6Bと呼ぶこととする。
【0029】
ここで、図2のフローチャートに戻る。浸炭・焼入れ処理の後、歪矯正・周長調整工程では、焼入れ処理によって生じた歪が矯正されるとともに周長が調整される(ステップ16)。図8は、歪矯正及び周長調整されたリング部材6Bの説明図である。図8に示したように、リング部材6Bは、一対のローラ7,7の間に架け渡されて、ローラ7,7の間が拡がる方向にテンションが付加された状態で、回転する。こうして、歪が矯正されるとともに周長が調整されることになる。歪矯正及び周長調整されたリング部材6Bをリング部材6Cと呼ぶこととする。
【0030】
そして、図2に示したように、窒化処理では、リング部材6Cに対して窒化処理が施される(ステップ17)。窒化処理では、NH3ガス、N2ガスの混合ガス雰囲気の中で、リング部材6Cが加熱処理される。具体的に、処理温度は400度〜500度程度であり、保持時間は30分〜1時間程度である。ここで、図9は、窒化処理されたリング部材6Cの表面からの深さとビッカース硬度との関係を示した説明図である。このガス窒化処理では、図9に示したように、表面のビッカース硬度が850HV以上であり且つ厚さ方向の中心部(表面からの深さが90μmである部分)のビッカース硬度が550HV程度になるように、混合ガス雰囲気が調整される。こうして、窒化処理されたリング部材6Cが、図1(A),(B),(C)に示した金属ベルト1である。
【0031】
次に、窒化処理の効果について説明する。窒化処理が施される前のリング部材6Cでは、固溶状態であるTiが比較的多く存在する。これは、浸炭処理において、含有されるCと固溶状態であるTiとが化合してチタン炭化物が形成されるが、全てがチタン炭化物にならないためである。このため、固溶状態であるTiの窒化によって、金属ベルト1の表面に生じる圧縮残留応力を大きくすることができ、金属ベルト1の疲労強度を大きくすることができる。言い換えると、発明者は、鋭意研究を行った結果、固溶状態であるTiが適度に存在している状態で窒化することで、金属ベルト1の表面に生じる圧縮残留応力を大きくすることができ、疲労強度を大きくすることができることを見出した。
【0032】
そこで、本実施形態の金属ベルト1と、マルエージング鋼から成る金属ベルト1Xと、比較品としての金属ベルト1Yとの疲労寿命(疲労強度)を比較するため、疲労試験を行った。疲労試験では、専用の疲労試験機を用いて、複数のローラの間で金属ベルト1,1X,1Yに定められたテンションを付加しつつ、複数のローラを回転させて金属ベルト1,1X,1Yに繰り返し曲げ応力を付加する。そして、金属ベルト1,1X,1Yが破断するまでの繰り返し曲げ回数で評価した。比較品としての金属ベルト1Yは、質量%で、Cが0.35%以下であり、Siが0.2%であり、Mnが0.8%であり、Crが1.0%であり、Moが1.0%以下であり、残りがFe及び不可避的不純物である金属素材を用いて、図2に示した各工程(浸炭処理を除いても良い)を経て、製造されたものである。即ち、金属ベルト1Yは、金属ベルト1と異なり、Tiが含有されていない金属素材から製造されたものである。
【0033】
ここで、図10(A)は、本実施形態の金属ベルト1の表面における圧縮残留応力Psと、比較品としての金属ベルト1Yの表面における圧縮残留応力Psとを示した表である。また、図10(B)は、本実施形態の金属ベルト1と、マルエージング鋼から成る金属ベルト1Xと、比較品としての金属ベルト1Yとの疲労寿命を比較したグラフである。図10(A)に示したように、金属ベルト1では、金属ベルト1Yに比して、表面に生じる圧縮残留応力Psが大きくなっている。また、図10(B)に示したように、金属ベルト1の疲労寿命は、金属ベルト1Xの疲労寿命と同程度であるのに対して、金属ベルト1Yの疲労寿命は、金属ベルト1,1Xの疲労寿命の約10分の1程度である。
【0034】
このため、図10(A)(B)から、固溶状態として適度に存在するTiが窒化することで、表面に生じる圧縮残留応力Psが大きくなって、疲労強度が大きくなることが分かる。また、普通の鋼材から成る金属ベルト1であっても、高価な合金元素が多く含まれているマルエージング鋼から成る金属ベルト1Xと同程度の疲労強度を持たせることができることが分かる。従って、本実施形態の金属ベルト1は、安価且つ疲労強度が大きいものである。
【0035】
続いて、金属ベルト1における各成分の濃度について説明する。図11は、金属ベルト1の表面からの深さと金属ベルト1における各成分の濃度との関係を示した説明図である。図11に示したように、固溶状態であるN等は、表面からの深さが大きくなる程、濃度が減少している。これは、表面からの深さが大きくなるほど、窒化処理によるNの侵入が少なくなるためである。なお、固溶状態であるN等とは、固溶状態であるNの他に、Ti以外の元素との窒化物を含むものである。
【0036】
また、図11に示したように、含有されているTiは、チタン窒化物(TiN)と固溶状態のTiとチタン炭化物(TiC)との3形態で、存在している。そして、チタン窒化物及びチタン炭化物の一部は主に微細な析出物としてマトリックス(Fe)組織に固溶している。こうして、特に、微細な析出物であるチタン窒化物の分布が、金属ベルト1の窒化層(表面から深さが約30μmまでの部分)のビッカース硬度の分布に大きく寄与している。この結果、図9に示したように、表面ではビッカース硬度が900HV以上になっている。
【0037】
また、図11に示したように、含有されているCの大部分が、焼入れ処理によって過飽和にマトリックス(Fe)組織に固溶していて、マルテンサイト状態になっている。この過飽和である固溶状態のCの分布が、深さが30μmである部分から厚さ方向の中心部(深さが90μmである部分)までのビッカース硬度の分布に大きく寄与している。この結果、図9に示したように、深さが30μmである部分から厚さ方向の中心部(深さが90μmである部分)までのビッカース硬度が550HV〜600HVになっている。なお、金属素材においては元々Cの含有量は0.001%以下であったため、図11に示したように含有されているCは、浸炭処理によって含有されたものである。こうして、Cの含有量が極めて少ない普通の鋼材(金属素材)から成る金属ベルト1であっても、浸炭・焼入れ処理及び窒化処理によって、金属ベルト1に図9に示したビッカース硬度を持たせることができる。こうして、本実施形態の金属ベルト1は、引張強度が大きいものになっている。
【0038】
ここで、Cの含有量が多い金属素材を用いて、図2に示した各工程(浸炭・焼入れ処理及び窒化処理)を経て製造された金属ベルト1Z(欠陥品)について、図12を用いて説明する。ここで、金属ベルト1Zを形成する金属素材は、本実施形態の金属ベルト1を形成する金属素材に比して、Cの含有量のみが多いもの、例えばCの含有量が0.3%より大きいものとする。図12は、金属ベルト1Zにおいて表面からの深さと各成分の濃度との関係を示した説明図である。
【0039】
図12に示したように、金属ベルト1Zでは、多量のチタン炭化物(TiC)の析出物が存在する。これは、金属素材を造る製鋼(溶解)の過程で、固溶状態であるCとTiとが化合してしまうためである。これにより、焼入れ処理において、固溶状態であるCがほとんど存在しないため、ビッカース硬度を大きくすることができない。即ち、図12に示したように、過飽和にマトリックス(Fe)組織に固溶しているCが少ない。このため、この金属ベルト1Zは、表面からの深さが30μmである部分から厚さ方向の中心部まででビッカース硬度が200HV程度であり、金属ベルトとしての強度を満たさない欠陥品である。更に、この金属ベルト1Zでは、窒化処理において、固溶状態であるTiがほとんど存在しないため、図12に示したように、チタン窒化物がほとんど形成されていない。従って、この金属ベルト1Zは、表面及び表面近傍のビッカース硬度は小さく、且つ疲労強度が小さいものである。
【0040】
次に、本実施形態の金属ベルト1を形成する金属素材において、Cの含有量について説明する。金属素材のCの含有量は、質量%で0.05%以下である必要がある。これは、上述したように、金属素材を造る製鋼(溶解)の過程で固溶状態であるCとTiとが化合して、固溶状態であるTiが少なくなり、窒化処理による効果を得ることができなくなるためである。即ち、Cの含有量が0.05%より大きい場合には、Tiと化合したCによってチタン炭化物(TiC)が成長し、疲労強度を低下させるためである。従って、金属素材のCの含有量は少ない程良い。こうして、発明者は、金属素材のCの含有量が0.001%以下である場合に、チタン炭化物の介在物が形成されることによって生じる弊害を十分抑えることができて、特に好ましいことを見出した。
【0041】
続いて、本実施形態の金属ベルト1を形成する金属素材において、Tiの含有量について説明する。金属素材のTiの含有量は、質量%で0.1%以上であり且つ1.0%以下である必要がある。Tiの含有量の下限値が0.1%であるのは、0.1%より小さい場合に、固溶状態であるTiの窒化による効果を得ることができなくなるためである。即ち、図10(B)で示した金属ベルト1Yのように、疲労強度が小さいものになるためである。
【0042】
一方、金属素材のTiの含有量の上限値が1.0%である理由について、図13を用いて説明する。図13(A)は、Tiの含有量が0.5%である場合と1.0%である場合とにおいて、金属ベルトの表面からの深さとN濃度との関係を示したグラフである。また、図13(B)は、Tiの含有量が0.5%である場合と1.0%である場合とにおいて、金属ベルトの表面における圧縮残留応力Psを示した表である。
【0043】
図13(A)に示したように、Tiの含有量が0.5%である場合には、金属ベルトの表面近傍におけるN濃度分布勾配は急であるのに対して、Tiの含有量が1.0%である場合には、金属ベルトの表面近傍におけるN濃度分布勾配は緩やかである。このようにN濃度分布勾配に差が出るのは、Tiの含有量が多い程、窒化処理において表面から侵入するNがTiに遭遇する確率が高くなるためである。即ち、Tiの含有量が多い程、表面から侵入するNがTiと反応して深くまで入り込み、N濃度分布勾配が緩やかになる。そして、N濃度分布勾配が緩やかである程、金属ベルトの表面に圧縮残留応力Psが生じ難くなるという関係がある。
【0044】
こうして、図13(B)に示したように、Tiの含有量が0.5%である場合には、金属ベルトの表面の圧縮残留応力Psは1200MPs程度であり、金属ベルトは疲労強度が十分大きなものになる。しかしながら、Tiの含有量が1.0%である場合には、金属ベルトの表面の圧縮残留応力Psは900MPa程度であり、金属ベルトは疲労強度が小さいものになる。このことから、金属素材のTiの含有量は1.0%以下であることが必要である。そして、発明者は、窒化によって金属ベルトの表面の圧縮残留応力Psを特に大きくすることができる範囲として、Tiの含有量が0.3%以上であり且つ0.7%以下であることが好ましいことを見出した。
【0045】
次に、上述したように製造された金属ベルト1では、以下に示す化学成分及び硬度を有することに特徴がある。即ち、この金属ベルト1では、質量%で、Cが0.2%以上であり且つ0.8%以下であるとともに、Tiが0.1%以上であり且つ1.0%以下である。また、金属ベルト1の表面には、質量%で、リング部材6A(金属素材)に含有されていたTiの10%以上がチタン窒化物(TiN)として存在している。また、金属ベルト1の表面から厚さ方向の中心部、即ち金属ベルト1において表面からの深さが90μmである部分には、質量%で、リング部材6Aに含有されていたTiの10%以上が、チタン炭化物やチタン窒化物ではなく、固溶状態であるTiとして存在している。上記した金属ベルト1の化学成分は、例えばEPMA(電子マイクロアナライザ)とSEM(走査型電子顕微鏡)とを用いて測定される。更に、金属ベルト1の表面から厚さ方向の中心部では、ビッカース硬度が400HV以上であり且つ600HV以下である。上記した化学成分及び硬度の範囲について、説明する。
【0046】
C:0.2%〜0.8%、
Cの含有量とビッカース硬度とは比例関係にあり、金属ベルト1として最低限要求されるビッカース硬度を満たすため、Cの含有量の下限値を0.2%とする。一方、浸炭・焼入れ処理によってCは0.8%まで入り込むため、Cの含有量の上下値を0.8%とする。ここで、発明者は、Cの含有量が0.3%以上であり且つ0.5%以下である場合に、金属ベルト1に要求される最適なビッカース硬度(引張強度)の範囲を満たすことを見出した。
【0047】
Ti:0.1%〜1.0%、
Tiの含有量が0.1%より小さい場合には、上述したようなTiの窒化による効果が得られていないため、Tiの含有量の下限値を0.1%とする。また、Tiの含有量が1.0%より大きい場合には、上述したように疲労強度が小さいものになっているため、Tiの含有量の上限値を1.0%とする。ここで、発明者は、上述したように金属ベルト1の表面の圧縮残留応力Ps、即ち疲労強度を大きくできる範囲として、Tiの含有量が0.3%以上であり且つ0.7%以下であることが好ましいことを見出した。
【0048】
金属ベルト1の表面:Tiの10%以上がチタン窒化物として存在、
金属ベルトの表面で、リング部材6A(金属素材)に含有されていたTiのうち10%未満しかチタン窒化物が形成されていなければ、上述したような固溶状態のTiの窒化による効果が得られていないことになる。即ち、窒化処理が適切に施されていないことになる。よって、金属ベルト1の表面にTiの10%以上がチタン窒化物として存在していることを条件とする。
【0049】
金属ベルト1の厚さ方向の中心部:Tiの10%以上が固溶状態であるTiとして存在、
金属ベルトの表面から厚さ方向の中心部、即ち金属ベルト1において表面からの深さが90μmである部分に、Tiの10%未満しか固溶状態で存在していなければ、上述したような固溶状態のTiの窒化による効果が得られていないことになる。即ち、窒化処理が適切に施されていないことになる。又は、金属ベルト1の中心部まで窒化処理が施されていて、表面から侵入するNがTiと反応して深くまで入り込んでいることになる。このときには、N濃度分布勾配は緩やかであり、金属ベルトの表面に生じる圧縮残留応力Psが小さく、金属ベルト1は疲労強度が小さいものになっている。よって、金属ベルト1の中心部にTiの10%以上が固溶状態であるTiとして存在していることを条件とする。
【0050】
金属ベルト1の厚さ方向の中心部:ビッカース硬度が400HV〜600HV
ビッカース硬度が400HVより小さい場合には、金属ベルト1の内部硬度として最低限要求されるビッカース硬度を満たさない。よって、ビッカース硬度の下限値を400HVとする。一方、ビッカース硬度が600HVより大きい場合には、金属ベルトの表面硬度と内部硬度との差が小さくなり、金属ベルト1は靭性が低いものである。この場合、繰り返し曲げ応力が作用したときに発生する亀裂の進展が抑制されず、金属ベルト1に要求される疲労強度を満たさない。よって、ビッカース硬度の上限値を600HVとする。
【0051】
本実施形態の作用効果について説明する。
この実施形態の無段階変速機ベルトの製造方法によれば、先ず、リング部材形成工程において形成されるリング部材6Aは、Cの含有量が極めて少ないものであるのに対して、Tiの含有量が比較的多いものである。このため、このリング部材6Aでは、チタン炭化物(TiC)の析出物がほとんど生成されていない。そして、浸炭処理によって、リング部材6AにCが多く入り込み、固溶状態であるCとTiとが別個に多く存在するようになる。次いで、焼入れ処理によって、Cが過飽和に閉じ込められてマルテンサイト状態になり、リング部材6Bの硬度が著しく上昇する。こうして、リング部材6Bは、引張強度が十分大きいものになる。その後、窒化処理によって、固溶状態で適度に存在するTiが、微細な析出物を生成し表面に大きな圧縮残留応力を生じさせる。こうして、金属ベルト1は、疲労強度が十分大きいものになる。そして、この金属ベルト1は、高価な合金元素が多く含まれるマルエージング鋼から製造されたものではなく、普通の鋼材で構成されたリング部材6Aから製造されたものである。従って、この製造方法によれば、引張強度及び疲労強度が大きい金属ベルト1を安価に製造することができる。
【0052】
また、この実施形態の無段階変速機ベルトの製造方法によれば、溶接工程の後に、溶接されたリング部材6Aに対して浸炭・焼入れ処理が施される。このため、Cの含有量を任意に定めることができ、極めて大きな引張強度を有する金属ベルト1を製造することができる。即ち、Cの含有量と引張強度との間には比例関係があるため、大きな引張強度を有する金属ベルトを製造するためには、Cの含有量を大きくする必要がある。しかし、従来においては、大きな引張強度を得るために、製鋼(溶解)の過程でCの含有量を0.4%より大きくすると、溶接工程において溶接部分に割れが生じるという問題があった。これに対して、本実施形態の製造方法によれば、溶接工程の前においてCの含有量が極めて少ないため、溶接工程において溶接部分に割れが生じることがない。そして、溶接工程の後に、浸炭・焼入れ処理においてCの含有量を0.4%より大きくすることにより、引張強度を極めて大きくすることができる。従って、この製造方法によれば、極めて大きな引張強度を必要とする金属ベルト1であっても、製造することができる。
【0053】
また、この実施形態の金属ベルト1(無段階変速機ベルト)によれば、Cが0.2%〜0.8%であるため、金属ベルト1が要求される引張強度の範囲を満たすようになっている。また、Tiが0.1%〜1.0%であるため、金属ベルト1が要求される疲労強度の範囲を満たすようになっている。また、表面には、含有されたTiの10%以上がチタン窒化物として存在するとともに、厚さ方向の中心部には、含有されたTiの10%以上が固溶状態であるTiとして存在するため、この金属ベルト1には窒化処理が適切に施されていることになる。更に、厚さ方向の中心部ではビッカース硬度が400HV〜600HVであるため、金属ベルト1として要求される内部硬度の範囲を満たすようになっている。そして、この金属ベルト1は、高価な合金元素が多く含まれるマルエージング鋼から製造されたものではなく、普通の鋼材から製造されたものである。従って、この金属ベルト1は、引張強度及び疲労強度が大きく且つ安価なものである。
【0054】
次に、第2実施形態について説明する。
この第2実施形態では、浸炭・焼入れ工程において、浸炭処理を施した後で且つ焼入れ処理を施す前に、リング部材6A(図6参照)に拡散処理が施される。浸炭処理では、COガス、H2ガス、N2ガスの混合ガス雰囲気の中で、リング部材6Aが加熱処理される。具体的に、処理温度は600度〜900度程度であり、保持時間は5分〜30分程度である。続いて、拡散処理では、H2ガス、N2ガスの混合ガス雰囲気の中で、リング部材6Aが加熱保持される。具体的に、処理温度は850度〜950度程度であり、保持時間は30分〜1時間程度である。
【0055】
ここで、拡散処理とは、リング部材6Aの変態温度で所定時間加熱保持して、リング部材6AのCの含有量の分布を均一化する処理である。その後、焼入れ処理では、オーステナイト状態になっているリング部材6Aが冷やされて、マルテンサイト状態になる。浸炭処理と、拡散処理及び焼入れ(冷却)処理とを行う場合、一つの炉を用いて温度と混合ガス雰囲気とを調節すると良い。これは、冷却及び加熱によるエネルギーの無駄を減らすためである。
【0056】
第2実施形態の作用効果について、図14を用いて説明する。
図14(A)は、拡散処理する前のリング部材6AのCの含有量を示した説明図である。一方、図14(B)は、拡散処理した後のリング部材6AのCの含有量を示した説明図である。図14(A)に示したように、拡散処理する前、即ち浸炭処理した直後では、表面(裏面)と厚さ方向の中心部とでは、Cの含有量に大きな差がある。ここで、仮にこの状態のリング部材6Aに対して焼入れ処理を施した場合には、表面(裏面)のCの含有量のみが大きいことによって、表面(裏面)のみが硬くなり過ぎて、後の歪矯正・周長調整工程(図8参照)でリング部材6Bが破断し易い。更に、この場合には、厚さ方向の中心部のCの含有量のみが小さいことによって、内部硬さが低くなり、金属ベルト1としての強度を満たさなくなる。そこで、図14(B)に示したように、拡散処理によって、表面(裏面)と厚さ方向の中心部との間でCの含有量の差をなくすことができ、上記した問題が発生することを防止できる。即ち、拡散処理の後の焼入れ処理によって、安定した品質のリング部材6B(金属ベルト1)を製造することができる。
【0057】
また、この第2実施形態によれば、浸炭処理において混合ガス雰囲気の制御が容易になる。即ち、第1実施形態では、浸炭処理において図7(B)に示したうように、表面(裏面)から厚さ方向の中心部までCの含有量が0.3%〜0.4%になるように、混合ガス雰囲気を精密に制御する必要がある。これに対して、第2実施形態によれば、拡散処理を施すため、浸炭処理では、図14(A)に示したように、表面(裏面)のCの含有量が0.4%より大きく且つ厚さ方向の中心部のCの含有量が0.3%より小さくても良い。これにより、浸炭処理を低温で行うことができるためコントロールし易く、より精密に且つ短時間で処理することができる。
【0058】
また、この第2実施形態によれば、第1実施形態に比して、浸炭・焼入れ工程における処理時間を短くすることができる。即ち、第1実施形態では、浸炭処理において上述したように混合ガス雰囲気を精密に制御するため、多くの時間がかかる(30分〜1時間)。これに対して、第2実施形態によれば、浸炭処理において混合ガス雰囲気をコントロールし易く、短い時間で済む(5分〜30分)。そして、拡散処理においては、リング部材6Bが薄いもの(厚さが0.18mm程度)であるため、Cの含有量の分布を均一にする時間は比較的短い。こうして、第2実施形態の浸炭・焼入れ工程では、Cがリング部材6Bの内部にまで入り込んでいない状態で浸炭処理を素早く終了し、その後の拡散処理によってCの含有量を均一化することで、浸炭・焼入れ工程における処理時間を短くすることができる。第2実施形態のその他の作用効果は、第1実施形態の作用効果と同様であるため、その説明を省略する。
【0059】
以上、本発明に係る無段階変速機ベルト及びその製造方法において、本発明はこれに限定されることはなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、第2実施形態においては、浸炭処理と、拡散処理及び焼入れ(冷却)処理とを行う場合、一つの炉を用いて温度と混合ガス雰囲気とを調節した。しかしながら、二つの炉を用いて、一つ目の炉でリング部材6Aに浸炭処理を施した後に冷却して、二つ目の炉で再加熱してリング部材6Bに拡散処理及び焼入れ(冷却処理)を施しても良い。
また、各実施形態において、質量%で、Cが0.05%以下であり、Tiが0.1%以上であり且つ1.0%以下であるリング部材6Aを、素材形成工程と管状形成工程と溶接工程とリング状切断工程と圧延工程(図2参照)とによって形成したが、リング部材6Aを形成するためのリング部材形成工程は、上記した工程に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 金属ベルト
2 エレメント
3 薄板
4 管状薄板
5 薄肉パイプ
6,6A,6B,6C リング部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段階変速機ベルト及びその製造方法に関し、特に、浸炭・焼入れ処理及び窒化処理を施した無段階変速機ベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車では環境問題の観点から低燃費化が強く望まれていて、変速機として低燃費化に貢献できるベルト式無段階変速機(以下、「CVT」と呼ぶ)が多く用いられている。CVTでは、薄い板厚の金属ベルト(無段階変速機ベルト)を複数枚重ねてベルトが構成され、このベルトをエレメントと呼ばれる摩擦部材に組付けて使用される。
【0003】
金属ベルトは、エレメントに組付けられた状態で回転して動力を伝達する。このため、金属ベルトには、回転中に張力や繰り返し曲げ応力が作用するとともに、エレメントとの間で摩擦が生じる。従って、金属ベルトは、引張強度、疲労強度などの様々な特性が要求されるものであり、現状では、引張強度、疲労強度などに優れたマルエージング鋼で構成されるようになっている。
【0004】
マルエージング鋼として、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。下記特許文献1では、先ず、マルエージング鋼に対して825度〜960度の適当な温度で固溶化処理が施される。そして、490度で時効処理が施され、次いで、450度〜470度においてガス窒化が施される。これにより、このマルエージング鋼では、時効硬化により内部硬さが500HV以上になるとともに、窒化により表面硬さが800HV以上になり、且つ表面に1200MPa程度の大きな圧縮残留応力が生じることになる。こうして、マルエージング鋼を用いて引張強度、疲労強度に優れた金属ベルトが製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−240944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、マルエージング鋼は、含有している合金元素(Ni、Co、Mo等)が時効硬化により金属間化合物を形成し、この金属間化合物が析出することで、高い引張強度を得ている。また、疲労強度に関しては、含有しているTiが、窒化によって表面に生じる圧縮残留応力を大きくして、疲労強度の向上に大きく貢献している。しかしながら、マルエージング鋼は高価な合金元素を多く含有するものであるため、マルエージング鋼で構成された金属ベルトはコストが高くなるという問題がある。そこで、マルエージング鋼に換えて普通の鋼材を用いて安価に金属ベルトを製造することが望まれている。
【0007】
ここで、普通の鋼材を用いて金属ベルトを製造する場合、大きな引張強度を得るために、炭素鋼に対して焼入れ処理を施すことが考えられる。焼入れ処理によって引張強度を得る場合、多くの合金元素を添加する必要がなく、コストメリットがあるためである。しかしながら、炭素鋼の場合には、大きな引張強度を得ることができるが、大きな疲労強度を得る、即ち表面に大きな圧縮残留応力を生じさせることができない。これは、Cを多く含有する炭素鋼の場合、Cを多く含有しないマルエージング鋼と異なり、固溶状態のTiを多く含むことができず、窒化により表面に大きな圧縮残留応力が生じないためである。
【0008】
即ち、炭素鋼のような鋼材では、Tiを添加しても、製鋼(溶解)の過程でCとTiとが化合する。これにより、チタン炭化物(TiC)の介在物が形成されて、CとTiとがそれぞれ別個に固溶状態として存在しない(存在し難い)。従って、Tiが多く添加されても、CとTiとの化合によりTiが固溶状態として存在しないため、窒化によって表面に生じる圧縮残留応力を大きくすることができず、炭素鋼の疲労強度を大きくすることができない。また、仮にTiがCより多く含まれている場合、CとTiとの化合によりCが固溶状態として存在しなくなるため、焼入れ処理によって引張強度が大きくなるという効果が生じなくなる。以上要するに、炭素鋼を用いて金属ベルトを製造する場合には、引張強度を大きくし且つ疲労強度を大きくすることができなかった。
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、引張強度及び疲労強度が大きい無段階変速機ベルトを安価に製造することができる無段階変速機ベルトの製造方法、及び引張強度及び疲労強度が大きく且つ安価な無段階変速機ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を達成するために、本発明の無段階変速機ベルトの製造方法は、以下の構成を有する。
(1)質量%で、Cが0.05%以下であり、Tiが0.1%以上であり且つ1.0%以下であるリング部材を形成するリング部材形成工程と、前記リング部材に対して浸炭処理を施すとともに焼入れ処理を施す浸炭・焼入れ工程と、前記浸炭・焼入れ処理されたリング部材に対して窒化処理を施す窒化工程と、を備えたことを特徴とする。
(2)(1)に記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、前記浸炭・焼入れ工程では、浸炭処理を施した後で且つ焼入れ処理を施す前に、拡散処理を施すことを特徴とする。ここで、「拡散処理」とは、リング部材の変態温度で所定時間加熱保持して、リング部材のCの含有量の分布を均一化する処理である。
(3)(1)又は(2)に記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、前記リング部材形成工程で形成されるリング部材において、質量%で、Tiが0.3%以上であり且つ0.7%以下であることを特徴とする。
(4)(1)乃至(3)の何れかに記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、前記リング部材形成工程で形成されるリング部材において、質量%で、Cが0.001%以下であることを特徴とする。
(5)(1)乃至(4)の何れかに記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、前記リング部材形成工程では、Tiを含有する金属素材を形成し、前記金属素材の薄板を丸めて管状薄板を形成し、前記管状薄板の周方向端部を溶接して薄肉パイプを形成し、前記薄肉パイプを切断して前記リング部材を形成することを特徴とする。
【0011】
また、上記した課題を達成するために、本発明の無段階変速機ベルトは、以下の構成を有する。
(6)Tiを含有するリング部材に対して浸炭・焼入れ処理を施すとともに窒化処理を施すことによって製造された無段階変速機ベルトであって、質量%で、Cが0.2%以上であり且つ0.8%以下であるとともに、Tiが0.1%以上であり且つ1.0%以下であり、表面には、質量%で、前記リング部材に含有されていたTiの10%以上がチタン窒化物として存在し、表面から厚さ方向の中心部には、質量%で、前記リング部材に含有されていたTiの10%以上が固溶状態であるTiとして存在し、表面からの厚さ方向の中心部のビッカース硬度が、400HV以上であり且つ600HV以下であることを特徴とする。
(7)(6)に記載された無段階変速機ベルトにおいて、質量%で、Tiが0.3%以上であり且つ0.7%以下であることを特徴とする。
(8)(6)又は(7)に記載された無段階変速機ベルトにおいて、質量%で、Cが0.3%以上であり且つ0.5%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記した無段階変速機ベルトの製造方法の作用効果について説明する。
(1)本発明の無段階変速機ベルトの製造方法によれば、先ず、リング部材形成工程において形成されるリング部材は、Cの含有量が極めて少ないものであるのに対して、Tiの含有量が比較的多いものである。このため、このリング部材では、チタン炭化物(TiC)の析出物がほとんど生成されていない。そして、浸炭処理によって、リング部材にCが多く入り込み、固溶状態であるCとTiとが別個に多く存在するようになる。次いで、焼入れ処理によって、Cが過飽和に閉じ込められてマルテンサイト状態になり、リング部材の硬度が著しく上昇する。こうして、リング部材は、引張強度が十分大きいものになる。その後、窒化処理によって、固溶状態で適度に存在するTiが、微細な析出物を生成し表面に大きな圧縮残留応力を生じさせる。こうして、無段階変速機ベルトは、疲労強度が十分大きいものになる。そして、この無段階変速機ベルトは、高価な合金元素が多く含まれるマルエージング鋼から製造されたものではなく、普通の鋼材で構成されたリング部材から製造されたものである。従って、この製造方法によれば、引張強度及び疲労強度が大きい無段階変速機ベルトを安価に製造することができる。
(2)この場合には、拡散処理によって、リング部材の表面(裏面)と厚さ方向の中心部との間でCの含有量の差をなくすことができ、拡散処理の後の焼入れ処理によって、安定した品質のリング部材(無段階変速機ベルト)を製造することができる。また、浸炭処理の後に拡散処理を施すため、浸炭処理を低温で行うことができ、より精密に且つ短時間で処理することができる。更に、Cがリング部材の内部にまで入り込んでいない状態で浸炭処理を素早く終了し、その後の拡散処理によってCの含有量を均一化することで、浸炭・焼入れ工程における処理時間を短くすることができる。
(3)この場合には、固溶状態であるTiが、窒化によって無段階変速機ベルトの表面の圧縮残留応力を特に大きくすることができ、疲労強度を十分大きくすることができる。
(4)この場合には、チタン炭化物の介在物が形成されることによって生じる弊害を十分抑えることができる。
(5)この場合には、溶接されているリング部材に対して浸炭・焼入れ処理が施されるため、Cの含有量を任意に定めることができ、極めて大きな引張強度を有する無段階変速機ベルトを製造することができる。即ち、溶接する前ではCの含有量が極めて少ないため、溶接しても溶接部分に割れが生じることがない。そして、溶接した後に浸炭・焼入れ処理を施すため、Cの含有量を0.4%より大きくして、引張強度を極めて大きくすることができる。従って、この製造方法によれば、極めて大きな引張強度を必要とする無段階変速機ベルトであっても、製造することができる。
【0013】
上記した無段階変速機ベルトの作用及び効果について説明する。
(6)本発明の無段階変速機ベルトによれば、Cが0.2%〜0.8%であるため、無段階変速機ベルトが要求される引張強度の範囲を満たすようになっている。また、Tiが0.1%〜1.0%であるため、無段階変速機ベルトが要求される疲労強度の範囲を満たすようになっている。また、表面には含有されたTiの10%以上がチタン窒化物として存在するとともに、厚さ方向の中心部には含有されたTiの10%以上が固溶状態であるTiとして存在するため、この無段階変速機ベルトには窒化処理が適切に施されていることになる。更に、厚さ方向の中心部ではビッカース硬度が400HV〜600HVであるため、無段階変速機ベルトとして要求される内部硬度の範囲を満たすようになっている。そして、この無段階変速機ベルトは、高価な合金元素が多く含まれるマルエージング鋼から製造されたものではなく、普通の鋼材から製造されたものである。従って、この無段階変速機ベルトは、引張強度及び疲労強度が大きく且つ安価なものである。
(7)この場合には、固溶状態であるTiが窒化によって無段階変速機ベルトの表面の圧縮残留応力を特に大きくしているため、疲労強度が十分大きい無段階変速機ベルトになっている。
(8)この場合には、引張硬度が無段階変速機ベルトに要求される最適な範囲になっている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)金属ベルトの外観形状を示した説明図である。(B)金属ベルトの部分拡大図である。(C)金属ベルトが使用される状態を示した断面図である。
【図2】金属ベルトを製造するための工程を示したフローチャートである。
【図3】薄板が丸められる状態の説明図である。
【図4】溶接された薄肉パイプの説明図である。
【図5】切断されたリング部材の説明図である。
【図6】圧延されたリング部材の説明図である。
【図7】(A)リング部材の部分断面図である。(B)浸炭処理されたリング部材のCの含有量を示した説明図である。
【図8】歪矯正及び周長調整されたリング部材の説明図である。
【図9】窒化処理されたリング部材の表面からの深さとビッカース硬度との関係を示した説明図である。
【図10】(A)本実施形態の金属ベルトの表面における圧縮残留応力と、比較品としての金属ベルトの表面における圧縮残留応力とを示した表である。(B)本実施形態の金属ベルトと、マルエージング鋼から成る金属ベルトと、比較品としての金属ベルトとの疲労寿命を比較したグラフである。
【図11】本実施形態の金属ベルトにおいて表面からの深さと各成分の濃度との関係を示した説明図である。
【図12】欠陥品としての金属ベルトにおいて表面からの深さと各成分の濃度との関係を示した説明図である。
【図13】(A)Tiの含有量が0.5%である場合と1.0%である場合とにおいて、表面からの深さとN濃度との関係を示したグラフである。(B)Tiの含有量が0.5%である場合と1.0%である場合とにおいて、表面における圧縮残留応力を示した表である。
【図14】(A)拡散処理する前のリング部材のCの含有量を示した説明図である。(B)拡散処理した後のリング部材のCの含有量を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る無段階変速機ベルト及びその製造方法について、図面を参照しながら以下に説明する。図1(A)は、金属ベルト1の外観形状を示した説明図であり、図1(B)は、金属ベルト1の部分拡大図であり、図1(C)は、金属ベルト1が使用される状態を示した断面図である。
【0016】
金属ベルト1は、ベルト式無段階変速機において動力伝達用ベルトとして用いられるものであり、本発明の無段階変速機ベルトに相当する。図1(A)に示したように、金属ベルト1は薄板状のリングであり、図1(B)に示したように、断面形状が径外方向に凸となる曲線形状、所謂クラウニングR形状になっている。そして、図1(C)に示したように、複数枚の金属ベルト1が重ね合わされて一組のベルトBTが構成されていて、一対のベルトBTがエレメント2に組付けられて動力伝達用ベルトとして機能している。なお、クラウニングR形状は、図1(C)に示したように、ベルトBTをエレメント2の凹部2aに挿入して組付ける場合に、金属ベルト1の重なり合った状態を安定させるために設けられている。
【0017】
本実施形態では、上記した金属ベルト1は、図2に示した各工程を経て、製造されるようになっている。図2は、金属ベルト1を製造するための工程を示したフローチャートである。図2に示したように、素材形成工程では、金属ベルト1の素材と成る金属素材が形成される(ステップ10)。即ち、VIM溶解炉(真空誘導溶解装置)の溶製により、質量%で、Cが0.001%以下であり、Tiが0.3%以上であり且つ0.7%以下であり、Siが0.5%以下であり、Mnが0.8%以下であり、Crが1.0%以上であり且つ6.0%以下であり、Moが0.5%以上であり且つ1.5%以下であり、残りがFe及び不可避的不純物である金属素材が形成される。上記した金属素材の化学組成は、例えばICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析計)を用いた化学分析によって、正確に測定される。
【0018】
C:0.001%以下、Ti:0.3%〜0.7%、
この理由については、後に詳しく説明する。
Mn:0.8%以下、
Mnは、任意元素であって含有させなくてもよいが、溶製時の脱酸剤として有効な元素であるので少量含有させることができる。Mnの含有量が多すぎると延性が低下し、冷間圧延が難しくなるため、その上限値を0.8パーセントとする。
【0019】
Cr:1.0%〜6.0%、
Crは、後述する焼入れ処理による内部の硬度向上に有効であり、また、後述する窒化処理による表面近傍の硬度向上にも有効である。これらの効果を得るために、Crの含有量の下限値を1.0%とする。一方、Crの含有量が多すぎると、後述する窒化処理によってCrの窒化物が多く生成され、窒素濃度分布が不連続になる。これにより、圧縮残留応力が低下して、疲労強度の低下を招くことになる。このため、Crの含有量の上限値を6.0%とする。
【0020】
Mo:0.5%〜1.5%、
Moは、延性を損なうことなく強度、靭性を向上させるのに有効な元素である。その効果を得るために、Moの含有量の下限値を0.5%とする。一方、Moの含有量が多くなりすぎてもその効果が飽和してコストアップを招くため、Moの含有量の上限値を1.5%とする。
なお、上記した不可避的不純物とは、例えば、S、P、N、O、Al等である。
【0021】
ここで、図2のフローチャートに戻る。素材形成工程の後、管状形成工程では、金属素材の薄板を丸めて管状薄板が形成される(ステップ11)。即ち、上記した金属素材から熱間鍛造によって厚板を形成し、この厚板から冷間圧延によって薄板(鋼帯)を形成する。図3は、薄板3が丸められる状態の説明図である。図3に示したように、薄板3が丸められて管状薄板4が形成される。
【0022】
次に、溶接工程では、管状薄板4の周方向端部をレーザ溶接によって接合して薄肉パイプ5が形成される(ステップ12)。図4は、溶接された薄肉パイプ5の説明図である。この溶接工程では、管状薄板4のCの含有量は0.001%以下という極めて小さい値であるため、溶接部分に割れが生じることがない。なお、管状薄板4のCの含有量が0.4%を超える場合には、溶接部分に割れが生じることになる。溶接工程の後、薄肉パイプ5の溶接部分が硬くなっているため、焼鈍処理を施して、薄肉パイプ5の硬さを均一にする。
【0023】
続いて、リング状切断工程では、薄肉パイプ5を専用のリング切断機を用いて輪切りにして、図5に示したように、リング部材6が形成される(ステップ13)。なお、図5は、切断されたリング部材6の説明図である。このリング部材6では、厚さが0.42mm程度であり、直径が100mm程度であり、幅が10mm程度になっている。リング状切断工程の後、リング部材6に生じるバリを除去するため、バレル研磨機を用いてバレル研磨を施す。
【0024】
その後、圧延工程では、図6に示したように、リング部材6の直径が大きくなるように圧延機を用いて圧延して、リング部材6Aが形成される(ステップ14)。なお、図6は、圧延されたリング部材6の説明図である。ここで、圧延されたリング部材6をリング部材6Aと呼ぶことにする。このリング部材6Aでは、厚さd(図7(A)参照)が0.18mm程度になっている。このリング部材6Aが、本発明に係るリング部材形成工程により形成されたリング部材に相当する。また、このリング部材6Aでは、上述した金属部材と同様、質量%で、Cが0.001%以下であり、Tiが0.3%以上であり且つ0.7%以下になっている。
【0025】
そして、図2に示したように、浸炭・焼入れ処理では、リング部材6Aに対して浸炭処理が施されるとともに焼入れ処理が施される。先ず、浸炭処理について説明する。浸炭処理では、COガス、H2ガス、N2ガスの混合ガス雰囲気の中で、リング部材6Aが加熱処理される。具体的に、処理温度は850度〜950度程度であり、保持時間は30分〜1時間程度である。ここで、図7(A)は、リング部材6Aの部分断面図であり、図7(B)は、浸炭処理されたリング部材6AのCの含有量を示した説明図である。このガス浸炭処理では、図7(B)に示したように、リング部材6AのCの含有量が、表面(裏面)から厚さ方向の中心部まで0.3%〜0.4%になるように、混合ガス雰囲気が調整される。
【0026】
次に、浸炭処理の効果について説明する。浸炭処理が施される前のリング部材6Aでは、Cの含有量が0.001%以下である。このようにCの含有量が極めて少ないリング部材6Aに対して、仮に焼入れ処理を行っても、引張強度を大きくすることができない。このため、浸炭処理によってCの含有量を大きくすることで、その後の焼入れ処理によって引張強度を大きくすることができる。
【0027】
ここで、浸炭処理を施さずに、素材形成工程の製鋼(溶解)の過程で、Cの含有量を例えば0.05%より大きくすることが考えられる。しかしながら、この場合には、固溶状態であるCとTiとが化合して、チタン炭化物(TiC)の析出物が形成され、CとTiがそれぞれ別個に固溶状態として存在しなくなる(存在し難くなる)。また、チタン炭化物の析出物が成長して、大きな介在物となることもある。こうして、製鋼の過程でCの含有量を大きくしても、形成されたチタン炭化物の析出物によって、焼入れ処理による引張強度が大きくなるという効果を生じさせることができない。このため、浸炭処理を行うことで、チタン炭化物の析出物を形成せず、固溶状態のCが存在するようになり、焼入れ処理によって引張強度を大きくすることができる。なお、浸炭処理では、製鋼(溶解)のように鋼が溶けるまで温度が高くないため、形成されるチタン炭化物の量が少なく、固溶状態のCを含有させることができる。ここで、介在物とは、析出物が大きな塊になったものであって、強度を大幅に低下させるものである。このため、製品においては介在物を起点にして破壊が生じるようになっている。
【0028】
続いて、焼入れ処理について説明する。焼入れ処理では、オーステナイト状態になっているリング部材6Aが、空冷される。なお、水、油等によって急冷しても良い。これにより、Cが過飽和に閉じ込められてマルテンサイト状態になり、リング部材6Aの硬度が著しく上昇する。このとき、リング部材6Aの厚さ方向の中心部においても、焼きが入り、ビッカース硬さが550HV程度まで上昇する。こうして、リング部材6Aは、引張強度が十分大きなものになる。浸炭・焼入れ処理されたリング部材6Aをリング部材6Bと呼ぶこととする。
【0029】
ここで、図2のフローチャートに戻る。浸炭・焼入れ処理の後、歪矯正・周長調整工程では、焼入れ処理によって生じた歪が矯正されるとともに周長が調整される(ステップ16)。図8は、歪矯正及び周長調整されたリング部材6Bの説明図である。図8に示したように、リング部材6Bは、一対のローラ7,7の間に架け渡されて、ローラ7,7の間が拡がる方向にテンションが付加された状態で、回転する。こうして、歪が矯正されるとともに周長が調整されることになる。歪矯正及び周長調整されたリング部材6Bをリング部材6Cと呼ぶこととする。
【0030】
そして、図2に示したように、窒化処理では、リング部材6Cに対して窒化処理が施される(ステップ17)。窒化処理では、NH3ガス、N2ガスの混合ガス雰囲気の中で、リング部材6Cが加熱処理される。具体的に、処理温度は400度〜500度程度であり、保持時間は30分〜1時間程度である。ここで、図9は、窒化処理されたリング部材6Cの表面からの深さとビッカース硬度との関係を示した説明図である。このガス窒化処理では、図9に示したように、表面のビッカース硬度が850HV以上であり且つ厚さ方向の中心部(表面からの深さが90μmである部分)のビッカース硬度が550HV程度になるように、混合ガス雰囲気が調整される。こうして、窒化処理されたリング部材6Cが、図1(A),(B),(C)に示した金属ベルト1である。
【0031】
次に、窒化処理の効果について説明する。窒化処理が施される前のリング部材6Cでは、固溶状態であるTiが比較的多く存在する。これは、浸炭処理において、含有されるCと固溶状態であるTiとが化合してチタン炭化物が形成されるが、全てがチタン炭化物にならないためである。このため、固溶状態であるTiの窒化によって、金属ベルト1の表面に生じる圧縮残留応力を大きくすることができ、金属ベルト1の疲労強度を大きくすることができる。言い換えると、発明者は、鋭意研究を行った結果、固溶状態であるTiが適度に存在している状態で窒化することで、金属ベルト1の表面に生じる圧縮残留応力を大きくすることができ、疲労強度を大きくすることができることを見出した。
【0032】
そこで、本実施形態の金属ベルト1と、マルエージング鋼から成る金属ベルト1Xと、比較品としての金属ベルト1Yとの疲労寿命(疲労強度)を比較するため、疲労試験を行った。疲労試験では、専用の疲労試験機を用いて、複数のローラの間で金属ベルト1,1X,1Yに定められたテンションを付加しつつ、複数のローラを回転させて金属ベルト1,1X,1Yに繰り返し曲げ応力を付加する。そして、金属ベルト1,1X,1Yが破断するまでの繰り返し曲げ回数で評価した。比較品としての金属ベルト1Yは、質量%で、Cが0.35%以下であり、Siが0.2%であり、Mnが0.8%であり、Crが1.0%であり、Moが1.0%以下であり、残りがFe及び不可避的不純物である金属素材を用いて、図2に示した各工程(浸炭処理を除いても良い)を経て、製造されたものである。即ち、金属ベルト1Yは、金属ベルト1と異なり、Tiが含有されていない金属素材から製造されたものである。
【0033】
ここで、図10(A)は、本実施形態の金属ベルト1の表面における圧縮残留応力Psと、比較品としての金属ベルト1Yの表面における圧縮残留応力Psとを示した表である。また、図10(B)は、本実施形態の金属ベルト1と、マルエージング鋼から成る金属ベルト1Xと、比較品としての金属ベルト1Yとの疲労寿命を比較したグラフである。図10(A)に示したように、金属ベルト1では、金属ベルト1Yに比して、表面に生じる圧縮残留応力Psが大きくなっている。また、図10(B)に示したように、金属ベルト1の疲労寿命は、金属ベルト1Xの疲労寿命と同程度であるのに対して、金属ベルト1Yの疲労寿命は、金属ベルト1,1Xの疲労寿命の約10分の1程度である。
【0034】
このため、図10(A)(B)から、固溶状態として適度に存在するTiが窒化することで、表面に生じる圧縮残留応力Psが大きくなって、疲労強度が大きくなることが分かる。また、普通の鋼材から成る金属ベルト1であっても、高価な合金元素が多く含まれているマルエージング鋼から成る金属ベルト1Xと同程度の疲労強度を持たせることができることが分かる。従って、本実施形態の金属ベルト1は、安価且つ疲労強度が大きいものである。
【0035】
続いて、金属ベルト1における各成分の濃度について説明する。図11は、金属ベルト1の表面からの深さと金属ベルト1における各成分の濃度との関係を示した説明図である。図11に示したように、固溶状態であるN等は、表面からの深さが大きくなる程、濃度が減少している。これは、表面からの深さが大きくなるほど、窒化処理によるNの侵入が少なくなるためである。なお、固溶状態であるN等とは、固溶状態であるNの他に、Ti以外の元素との窒化物を含むものである。
【0036】
また、図11に示したように、含有されているTiは、チタン窒化物(TiN)と固溶状態のTiとチタン炭化物(TiC)との3形態で、存在している。そして、チタン窒化物及びチタン炭化物の一部は主に微細な析出物としてマトリックス(Fe)組織に固溶している。こうして、特に、微細な析出物であるチタン窒化物の分布が、金属ベルト1の窒化層(表面から深さが約30μmまでの部分)のビッカース硬度の分布に大きく寄与している。この結果、図9に示したように、表面ではビッカース硬度が900HV以上になっている。
【0037】
また、図11に示したように、含有されているCの大部分が、焼入れ処理によって過飽和にマトリックス(Fe)組織に固溶していて、マルテンサイト状態になっている。この過飽和である固溶状態のCの分布が、深さが30μmである部分から厚さ方向の中心部(深さが90μmである部分)までのビッカース硬度の分布に大きく寄与している。この結果、図9に示したように、深さが30μmである部分から厚さ方向の中心部(深さが90μmである部分)までのビッカース硬度が550HV〜600HVになっている。なお、金属素材においては元々Cの含有量は0.001%以下であったため、図11に示したように含有されているCは、浸炭処理によって含有されたものである。こうして、Cの含有量が極めて少ない普通の鋼材(金属素材)から成る金属ベルト1であっても、浸炭・焼入れ処理及び窒化処理によって、金属ベルト1に図9に示したビッカース硬度を持たせることができる。こうして、本実施形態の金属ベルト1は、引張強度が大きいものになっている。
【0038】
ここで、Cの含有量が多い金属素材を用いて、図2に示した各工程(浸炭・焼入れ処理及び窒化処理)を経て製造された金属ベルト1Z(欠陥品)について、図12を用いて説明する。ここで、金属ベルト1Zを形成する金属素材は、本実施形態の金属ベルト1を形成する金属素材に比して、Cの含有量のみが多いもの、例えばCの含有量が0.3%より大きいものとする。図12は、金属ベルト1Zにおいて表面からの深さと各成分の濃度との関係を示した説明図である。
【0039】
図12に示したように、金属ベルト1Zでは、多量のチタン炭化物(TiC)の析出物が存在する。これは、金属素材を造る製鋼(溶解)の過程で、固溶状態であるCとTiとが化合してしまうためである。これにより、焼入れ処理において、固溶状態であるCがほとんど存在しないため、ビッカース硬度を大きくすることができない。即ち、図12に示したように、過飽和にマトリックス(Fe)組織に固溶しているCが少ない。このため、この金属ベルト1Zは、表面からの深さが30μmである部分から厚さ方向の中心部まででビッカース硬度が200HV程度であり、金属ベルトとしての強度を満たさない欠陥品である。更に、この金属ベルト1Zでは、窒化処理において、固溶状態であるTiがほとんど存在しないため、図12に示したように、チタン窒化物がほとんど形成されていない。従って、この金属ベルト1Zは、表面及び表面近傍のビッカース硬度は小さく、且つ疲労強度が小さいものである。
【0040】
次に、本実施形態の金属ベルト1を形成する金属素材において、Cの含有量について説明する。金属素材のCの含有量は、質量%で0.05%以下である必要がある。これは、上述したように、金属素材を造る製鋼(溶解)の過程で固溶状態であるCとTiとが化合して、固溶状態であるTiが少なくなり、窒化処理による効果を得ることができなくなるためである。即ち、Cの含有量が0.05%より大きい場合には、Tiと化合したCによってチタン炭化物(TiC)が成長し、疲労強度を低下させるためである。従って、金属素材のCの含有量は少ない程良い。こうして、発明者は、金属素材のCの含有量が0.001%以下である場合に、チタン炭化物の介在物が形成されることによって生じる弊害を十分抑えることができて、特に好ましいことを見出した。
【0041】
続いて、本実施形態の金属ベルト1を形成する金属素材において、Tiの含有量について説明する。金属素材のTiの含有量は、質量%で0.1%以上であり且つ1.0%以下である必要がある。Tiの含有量の下限値が0.1%であるのは、0.1%より小さい場合に、固溶状態であるTiの窒化による効果を得ることができなくなるためである。即ち、図10(B)で示した金属ベルト1Yのように、疲労強度が小さいものになるためである。
【0042】
一方、金属素材のTiの含有量の上限値が1.0%である理由について、図13を用いて説明する。図13(A)は、Tiの含有量が0.5%である場合と1.0%である場合とにおいて、金属ベルトの表面からの深さとN濃度との関係を示したグラフである。また、図13(B)は、Tiの含有量が0.5%である場合と1.0%である場合とにおいて、金属ベルトの表面における圧縮残留応力Psを示した表である。
【0043】
図13(A)に示したように、Tiの含有量が0.5%である場合には、金属ベルトの表面近傍におけるN濃度分布勾配は急であるのに対して、Tiの含有量が1.0%である場合には、金属ベルトの表面近傍におけるN濃度分布勾配は緩やかである。このようにN濃度分布勾配に差が出るのは、Tiの含有量が多い程、窒化処理において表面から侵入するNがTiに遭遇する確率が高くなるためである。即ち、Tiの含有量が多い程、表面から侵入するNがTiと反応して深くまで入り込み、N濃度分布勾配が緩やかになる。そして、N濃度分布勾配が緩やかである程、金属ベルトの表面に圧縮残留応力Psが生じ難くなるという関係がある。
【0044】
こうして、図13(B)に示したように、Tiの含有量が0.5%である場合には、金属ベルトの表面の圧縮残留応力Psは1200MPs程度であり、金属ベルトは疲労強度が十分大きなものになる。しかしながら、Tiの含有量が1.0%である場合には、金属ベルトの表面の圧縮残留応力Psは900MPa程度であり、金属ベルトは疲労強度が小さいものになる。このことから、金属素材のTiの含有量は1.0%以下であることが必要である。そして、発明者は、窒化によって金属ベルトの表面の圧縮残留応力Psを特に大きくすることができる範囲として、Tiの含有量が0.3%以上であり且つ0.7%以下であることが好ましいことを見出した。
【0045】
次に、上述したように製造された金属ベルト1では、以下に示す化学成分及び硬度を有することに特徴がある。即ち、この金属ベルト1では、質量%で、Cが0.2%以上であり且つ0.8%以下であるとともに、Tiが0.1%以上であり且つ1.0%以下である。また、金属ベルト1の表面には、質量%で、リング部材6A(金属素材)に含有されていたTiの10%以上がチタン窒化物(TiN)として存在している。また、金属ベルト1の表面から厚さ方向の中心部、即ち金属ベルト1において表面からの深さが90μmである部分には、質量%で、リング部材6Aに含有されていたTiの10%以上が、チタン炭化物やチタン窒化物ではなく、固溶状態であるTiとして存在している。上記した金属ベルト1の化学成分は、例えばEPMA(電子マイクロアナライザ)とSEM(走査型電子顕微鏡)とを用いて測定される。更に、金属ベルト1の表面から厚さ方向の中心部では、ビッカース硬度が400HV以上であり且つ600HV以下である。上記した化学成分及び硬度の範囲について、説明する。
【0046】
C:0.2%〜0.8%、
Cの含有量とビッカース硬度とは比例関係にあり、金属ベルト1として最低限要求されるビッカース硬度を満たすため、Cの含有量の下限値を0.2%とする。一方、浸炭・焼入れ処理によってCは0.8%まで入り込むため、Cの含有量の上下値を0.8%とする。ここで、発明者は、Cの含有量が0.3%以上であり且つ0.5%以下である場合に、金属ベルト1に要求される最適なビッカース硬度(引張強度)の範囲を満たすことを見出した。
【0047】
Ti:0.1%〜1.0%、
Tiの含有量が0.1%より小さい場合には、上述したようなTiの窒化による効果が得られていないため、Tiの含有量の下限値を0.1%とする。また、Tiの含有量が1.0%より大きい場合には、上述したように疲労強度が小さいものになっているため、Tiの含有量の上限値を1.0%とする。ここで、発明者は、上述したように金属ベルト1の表面の圧縮残留応力Ps、即ち疲労強度を大きくできる範囲として、Tiの含有量が0.3%以上であり且つ0.7%以下であることが好ましいことを見出した。
【0048】
金属ベルト1の表面:Tiの10%以上がチタン窒化物として存在、
金属ベルトの表面で、リング部材6A(金属素材)に含有されていたTiのうち10%未満しかチタン窒化物が形成されていなければ、上述したような固溶状態のTiの窒化による効果が得られていないことになる。即ち、窒化処理が適切に施されていないことになる。よって、金属ベルト1の表面にTiの10%以上がチタン窒化物として存在していることを条件とする。
【0049】
金属ベルト1の厚さ方向の中心部:Tiの10%以上が固溶状態であるTiとして存在、
金属ベルトの表面から厚さ方向の中心部、即ち金属ベルト1において表面からの深さが90μmである部分に、Tiの10%未満しか固溶状態で存在していなければ、上述したような固溶状態のTiの窒化による効果が得られていないことになる。即ち、窒化処理が適切に施されていないことになる。又は、金属ベルト1の中心部まで窒化処理が施されていて、表面から侵入するNがTiと反応して深くまで入り込んでいることになる。このときには、N濃度分布勾配は緩やかであり、金属ベルトの表面に生じる圧縮残留応力Psが小さく、金属ベルト1は疲労強度が小さいものになっている。よって、金属ベルト1の中心部にTiの10%以上が固溶状態であるTiとして存在していることを条件とする。
【0050】
金属ベルト1の厚さ方向の中心部:ビッカース硬度が400HV〜600HV
ビッカース硬度が400HVより小さい場合には、金属ベルト1の内部硬度として最低限要求されるビッカース硬度を満たさない。よって、ビッカース硬度の下限値を400HVとする。一方、ビッカース硬度が600HVより大きい場合には、金属ベルトの表面硬度と内部硬度との差が小さくなり、金属ベルト1は靭性が低いものである。この場合、繰り返し曲げ応力が作用したときに発生する亀裂の進展が抑制されず、金属ベルト1に要求される疲労強度を満たさない。よって、ビッカース硬度の上限値を600HVとする。
【0051】
本実施形態の作用効果について説明する。
この実施形態の無段階変速機ベルトの製造方法によれば、先ず、リング部材形成工程において形成されるリング部材6Aは、Cの含有量が極めて少ないものであるのに対して、Tiの含有量が比較的多いものである。このため、このリング部材6Aでは、チタン炭化物(TiC)の析出物がほとんど生成されていない。そして、浸炭処理によって、リング部材6AにCが多く入り込み、固溶状態であるCとTiとが別個に多く存在するようになる。次いで、焼入れ処理によって、Cが過飽和に閉じ込められてマルテンサイト状態になり、リング部材6Bの硬度が著しく上昇する。こうして、リング部材6Bは、引張強度が十分大きいものになる。その後、窒化処理によって、固溶状態で適度に存在するTiが、微細な析出物を生成し表面に大きな圧縮残留応力を生じさせる。こうして、金属ベルト1は、疲労強度が十分大きいものになる。そして、この金属ベルト1は、高価な合金元素が多く含まれるマルエージング鋼から製造されたものではなく、普通の鋼材で構成されたリング部材6Aから製造されたものである。従って、この製造方法によれば、引張強度及び疲労強度が大きい金属ベルト1を安価に製造することができる。
【0052】
また、この実施形態の無段階変速機ベルトの製造方法によれば、溶接工程の後に、溶接されたリング部材6Aに対して浸炭・焼入れ処理が施される。このため、Cの含有量を任意に定めることができ、極めて大きな引張強度を有する金属ベルト1を製造することができる。即ち、Cの含有量と引張強度との間には比例関係があるため、大きな引張強度を有する金属ベルトを製造するためには、Cの含有量を大きくする必要がある。しかし、従来においては、大きな引張強度を得るために、製鋼(溶解)の過程でCの含有量を0.4%より大きくすると、溶接工程において溶接部分に割れが生じるという問題があった。これに対して、本実施形態の製造方法によれば、溶接工程の前においてCの含有量が極めて少ないため、溶接工程において溶接部分に割れが生じることがない。そして、溶接工程の後に、浸炭・焼入れ処理においてCの含有量を0.4%より大きくすることにより、引張強度を極めて大きくすることができる。従って、この製造方法によれば、極めて大きな引張強度を必要とする金属ベルト1であっても、製造することができる。
【0053】
また、この実施形態の金属ベルト1(無段階変速機ベルト)によれば、Cが0.2%〜0.8%であるため、金属ベルト1が要求される引張強度の範囲を満たすようになっている。また、Tiが0.1%〜1.0%であるため、金属ベルト1が要求される疲労強度の範囲を満たすようになっている。また、表面には、含有されたTiの10%以上がチタン窒化物として存在するとともに、厚さ方向の中心部には、含有されたTiの10%以上が固溶状態であるTiとして存在するため、この金属ベルト1には窒化処理が適切に施されていることになる。更に、厚さ方向の中心部ではビッカース硬度が400HV〜600HVであるため、金属ベルト1として要求される内部硬度の範囲を満たすようになっている。そして、この金属ベルト1は、高価な合金元素が多く含まれるマルエージング鋼から製造されたものではなく、普通の鋼材から製造されたものである。従って、この金属ベルト1は、引張強度及び疲労強度が大きく且つ安価なものである。
【0054】
次に、第2実施形態について説明する。
この第2実施形態では、浸炭・焼入れ工程において、浸炭処理を施した後で且つ焼入れ処理を施す前に、リング部材6A(図6参照)に拡散処理が施される。浸炭処理では、COガス、H2ガス、N2ガスの混合ガス雰囲気の中で、リング部材6Aが加熱処理される。具体的に、処理温度は600度〜900度程度であり、保持時間は5分〜30分程度である。続いて、拡散処理では、H2ガス、N2ガスの混合ガス雰囲気の中で、リング部材6Aが加熱保持される。具体的に、処理温度は850度〜950度程度であり、保持時間は30分〜1時間程度である。
【0055】
ここで、拡散処理とは、リング部材6Aの変態温度で所定時間加熱保持して、リング部材6AのCの含有量の分布を均一化する処理である。その後、焼入れ処理では、オーステナイト状態になっているリング部材6Aが冷やされて、マルテンサイト状態になる。浸炭処理と、拡散処理及び焼入れ(冷却)処理とを行う場合、一つの炉を用いて温度と混合ガス雰囲気とを調節すると良い。これは、冷却及び加熱によるエネルギーの無駄を減らすためである。
【0056】
第2実施形態の作用効果について、図14を用いて説明する。
図14(A)は、拡散処理する前のリング部材6AのCの含有量を示した説明図である。一方、図14(B)は、拡散処理した後のリング部材6AのCの含有量を示した説明図である。図14(A)に示したように、拡散処理する前、即ち浸炭処理した直後では、表面(裏面)と厚さ方向の中心部とでは、Cの含有量に大きな差がある。ここで、仮にこの状態のリング部材6Aに対して焼入れ処理を施した場合には、表面(裏面)のCの含有量のみが大きいことによって、表面(裏面)のみが硬くなり過ぎて、後の歪矯正・周長調整工程(図8参照)でリング部材6Bが破断し易い。更に、この場合には、厚さ方向の中心部のCの含有量のみが小さいことによって、内部硬さが低くなり、金属ベルト1としての強度を満たさなくなる。そこで、図14(B)に示したように、拡散処理によって、表面(裏面)と厚さ方向の中心部との間でCの含有量の差をなくすことができ、上記した問題が発生することを防止できる。即ち、拡散処理の後の焼入れ処理によって、安定した品質のリング部材6B(金属ベルト1)を製造することができる。
【0057】
また、この第2実施形態によれば、浸炭処理において混合ガス雰囲気の制御が容易になる。即ち、第1実施形態では、浸炭処理において図7(B)に示したうように、表面(裏面)から厚さ方向の中心部までCの含有量が0.3%〜0.4%になるように、混合ガス雰囲気を精密に制御する必要がある。これに対して、第2実施形態によれば、拡散処理を施すため、浸炭処理では、図14(A)に示したように、表面(裏面)のCの含有量が0.4%より大きく且つ厚さ方向の中心部のCの含有量が0.3%より小さくても良い。これにより、浸炭処理を低温で行うことができるためコントロールし易く、より精密に且つ短時間で処理することができる。
【0058】
また、この第2実施形態によれば、第1実施形態に比して、浸炭・焼入れ工程における処理時間を短くすることができる。即ち、第1実施形態では、浸炭処理において上述したように混合ガス雰囲気を精密に制御するため、多くの時間がかかる(30分〜1時間)。これに対して、第2実施形態によれば、浸炭処理において混合ガス雰囲気をコントロールし易く、短い時間で済む(5分〜30分)。そして、拡散処理においては、リング部材6Bが薄いもの(厚さが0.18mm程度)であるため、Cの含有量の分布を均一にする時間は比較的短い。こうして、第2実施形態の浸炭・焼入れ工程では、Cがリング部材6Bの内部にまで入り込んでいない状態で浸炭処理を素早く終了し、その後の拡散処理によってCの含有量を均一化することで、浸炭・焼入れ工程における処理時間を短くすることができる。第2実施形態のその他の作用効果は、第1実施形態の作用効果と同様であるため、その説明を省略する。
【0059】
以上、本発明に係る無段階変速機ベルト及びその製造方法において、本発明はこれに限定されることはなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、第2実施形態においては、浸炭処理と、拡散処理及び焼入れ(冷却)処理とを行う場合、一つの炉を用いて温度と混合ガス雰囲気とを調節した。しかしながら、二つの炉を用いて、一つ目の炉でリング部材6Aに浸炭処理を施した後に冷却して、二つ目の炉で再加熱してリング部材6Bに拡散処理及び焼入れ(冷却処理)を施しても良い。
また、各実施形態において、質量%で、Cが0.05%以下であり、Tiが0.1%以上であり且つ1.0%以下であるリング部材6Aを、素材形成工程と管状形成工程と溶接工程とリング状切断工程と圧延工程(図2参照)とによって形成したが、リング部材6Aを形成するためのリング部材形成工程は、上記した工程に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 金属ベルト
2 エレメント
3 薄板
4 管状薄板
5 薄肉パイプ
6,6A,6B,6C リング部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Cが0.05%以下であり、Tiが0.1%以上であり且つ1.0%以下であるリング部材を形成するリング部材形成工程と、
前記リング部材に対して浸炭処理を施すとともに焼入れ処理を施す浸炭・焼入れ工程と、
前記浸炭・焼入れ処理されたリング部材に対して窒化処理を施す窒化工程と、を備えたことを特徴とする無段階変速機ベルトの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、
前記浸炭・焼入れ工程では、浸炭処理を施した後で且つ焼入れ処理を施す前に、拡散処理を施すことを特徴とする無段階変速機ベルトの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、
前記リング部材形成工程で形成されるリング部材において、質量%で、Tiが0.3%以上であり且つ0.7%以下であることを特徴とする無段階変速機ベルトの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、
前記リング部材形成工程で形成されるリング部材において、質量%で、Cが0.001%以下であることを特徴とする無段階変速機ベルトの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、
前記リング部材形成工程では、
Tiを含有する金属素材を形成し、
前記金属素材の薄板を丸めて管状薄板を形成し、
前記管状薄板の周方向端部を溶接して薄肉パイプを形成し、
前記薄肉パイプを切断して前記リング部材を形成することを特徴とする無段階変速機ベルトの製造方法。
【請求項6】
Tiを含有するリング部材に対して浸炭・焼入れ処理を施すとともに窒化処理を施すことによって製造された無段階変速機ベルトであって、
質量%で、Cが0.2%以上であり且つ0.8%以下であるとともに、Tiが0.1%以上であり且つ1.0%以下であり、
表面には、質量%で、前記リング部材に含有されていたTiの10%以上がチタン窒化物として存在し、
表面から厚さ方向の中心部には、質量%で、前記リング部材に含有されていたTiの10%以上が固溶状態であるTiとして存在し、
表面からの厚さ方向の中心部のビッカース硬度が、400HV以上であり且つ600HV以下であることを特徴とする無段階変速機ベルト。
【請求項7】
請求項6に記載された無段階変速機ベルトにおいて、
質量%で、Tiが0.3%以上であり且つ0.7%以下であることを特徴とする無段階変速機ベルト。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載された無段階変速機ベルトにおいて、
質量%で、Cが0.3%以上であり且つ0.5%以下であることを特徴とする無段階変速機ベルト。
【請求項1】
質量%で、Cが0.05%以下であり、Tiが0.1%以上であり且つ1.0%以下であるリング部材を形成するリング部材形成工程と、
前記リング部材に対して浸炭処理を施すとともに焼入れ処理を施す浸炭・焼入れ工程と、
前記浸炭・焼入れ処理されたリング部材に対して窒化処理を施す窒化工程と、を備えたことを特徴とする無段階変速機ベルトの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、
前記浸炭・焼入れ工程では、浸炭処理を施した後で且つ焼入れ処理を施す前に、拡散処理を施すことを特徴とする無段階変速機ベルトの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、
前記リング部材形成工程で形成されるリング部材において、質量%で、Tiが0.3%以上であり且つ0.7%以下であることを特徴とする無段階変速機ベルトの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、
前記リング部材形成工程で形成されるリング部材において、質量%で、Cが0.001%以下であることを特徴とする無段階変速機ベルトの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載された無段階変速機ベルトの製造方法において、
前記リング部材形成工程では、
Tiを含有する金属素材を形成し、
前記金属素材の薄板を丸めて管状薄板を形成し、
前記管状薄板の周方向端部を溶接して薄肉パイプを形成し、
前記薄肉パイプを切断して前記リング部材を形成することを特徴とする無段階変速機ベルトの製造方法。
【請求項6】
Tiを含有するリング部材に対して浸炭・焼入れ処理を施すとともに窒化処理を施すことによって製造された無段階変速機ベルトであって、
質量%で、Cが0.2%以上であり且つ0.8%以下であるとともに、Tiが0.1%以上であり且つ1.0%以下であり、
表面には、質量%で、前記リング部材に含有されていたTiの10%以上がチタン窒化物として存在し、
表面から厚さ方向の中心部には、質量%で、前記リング部材に含有されていたTiの10%以上が固溶状態であるTiとして存在し、
表面からの厚さ方向の中心部のビッカース硬度が、400HV以上であり且つ600HV以下であることを特徴とする無段階変速機ベルト。
【請求項7】
請求項6に記載された無段階変速機ベルトにおいて、
質量%で、Tiが0.3%以上であり且つ0.7%以下であることを特徴とする無段階変速機ベルト。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載された無段階変速機ベルトにおいて、
質量%で、Cが0.3%以上であり且つ0.5%以下であることを特徴とする無段階変速機ベルト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−237025(P2012−237025A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105367(P2011−105367)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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