説明

無水及び水和物形態のリセドロン酸ナトリウムを製造する方法

出発物質としてのリセドロン酸ナトリウム2.5水和物から、リセドロン酸ナトリウム無水物及び水和物を製造する新規な方法が本明細書に開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無水及び水和物の形態にあるリセドロン酸ナトリウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗しょう症は骨塩の漸進的な減少を引き起こす疾患である。骨粗しょう症の治療は、尿中カルシウム排泄を減少して、カルシウムの吸収を改善することを意図している。本発明の技術的目的は、骨疾患及びカルシウム代謝疾患の治療に有利に使われる以下の式Iで示される、2−(3−ピリジル)−1−ヒドロキシエタン−1,1−ビスホスホン酸(リセドロン酸)のようなビスホスホネートである。特に、パジェット病(Paget's disease)及び異所性骨化(heterotopic ossification)は、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸及びリセドロン酸ナトリウム(I)の両方によって治療されることが知られている。
【0003】
【化1】

【0004】
リセドロン酸(II)は、1996年12月10日付けにて発行され、The Procter & Gamble Co. に譲渡された Benedict らのアメリカ特許第5,583,122号及びIBC技術委員会(IBC Technical Services)によって編纂された学会誌"An American Conference, Bisphosphonates: Current status and future prospects"(The Royal College of Physicians, London, England, May 21-22, 1990)に開示されている。
【0005】
【化2】

【0006】
韓国特許出願第10−2002−7009790号にはモノヒドレート(1水和物(mono-hydrate))又はヘミペンタヒドレート(2.5水和物(hemipenta-hydrate))形態にあるリセドロン酸ナトリウムの選択的結晶化方法が記述されており、そこでは、リセドロン酸ナトリウムがモノヒドレート及び/又はヘミペンタヒドレートの形態で存在して、そのような水和物形態が結晶化条件によって選択的に決定される。しかし、前記発明の方法は、化合物の大量生産時に核形成温度及び結晶化速度を調節する上での問題点があり、及び特定形態の水和物を得るために、精製水以外に追加の溶媒を、例えば本発明の30倍と大量に使用する必要がある。
【0007】
韓国特許出願第10−2004−7016268号では水和物形態がA(ヘミペンタヒドレート)、B(モノヒドレート)、BB、B1、C、D(無水形態)、E、F、G、Hなどのようなリセドロン酸ナトリウムの多数の水和物形態及びそれらの製造法を提示して、それらの熱重量分析(TGA)、フーリエ変換赤外線分光法(FT-IR)の結果を明示している。しかし、この特許にも、長時間の還流を必要とする、収率が低下する、ヘミペンタヒドレートタイプのリセドロン酸ナトリウムを出発物質として使用する時は長時間所望の還流温度に保たなければならない、そして本発明で使用する量の少なくとも2倍量の追加の溶媒を必要とするという幾つかの問題点を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】アメリカ特許第5,583,122号
【特許文献2】韓国特許出願第10-2002-7009790号
【特許文献3】韓国特許出願第10-2004-7016268号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】IBC技術委員会(IBC Technical Services)によって編纂された学会誌 ["An American Conference,Bisphosphonates: Current Status and future Prospects" The Royal College of Physicians, London, England, May 21-22, 1990]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、リセドロン酸を出発物質として使用する従来の方法と比べて、改善された特徴を有する水和物を製造するために、リセドロン酸ナトリウムヘミペンタヒドレート(ある時は、「2.5水和物」と呼する)の、出発物質としての使用を提案している。本発明の出発物質であるリセドロン酸ナトリウム2.5水和物は下記の実施態様に記載されているように容易に製造可能である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、前述した従来の方法における問題点を解決するために、本発明の目的は、リセドロン酸ナトリウム2.5水和物を出発物質として使用すること、及びこの出発物質を水及び少量の追加溶媒と規定の混合比で混合することを包含する、短時間に高収率で特定の水和物形態でリセドロン酸ナトリウムを製造する方法を提供することである。
【0012】
更に詳細には、本発明は、少量の追加溶媒と水を所望の相対比で使用することによって、環境問題を解消でき、収率を改善でき、そして製造時間を短縮できる、リセドロン酸ナトリウムを商業化が可能な水和物形態で選択的に製造する新規な方法を提供する。本明細書において使用される出発物質である「リセドロン酸ナトリウム2.5水和物」の製造方法は、本発明者の先行特許である韓国特許登録第0775440号に詳しく開示されている。
【0013】
本発明は、リセドロン酸ナトリウム2.5水和物、有機溶媒及び水の特定比率の混合物からリセドロン酸ナトリウムの無水物、1水和物及び1.5水和物を製造する新規な製造方法に関する。
この方法は、簡単な方法でリセドロン酸ナトリウム水和物を高い収率で製造することができるので、商業化が可能である。
【0014】
本発明によるリセドロン酸ナトリウム水和物の製造は以下の工程で実施できる。
1. リセドロン酸ナトリウム1水和物の製造
a) 適当な有機溶媒と水の混合物をリセドロン酸ナトリウム2.5水和物に加える。
b) 溶液を還流温度で攪拌する。
c) 反応溶液を冷却し、濾過してから乾燥して、リセドロン酸ナトリウム1水和物を製造する。
【0015】
段階(a)で有用な有機溶媒は、エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、1,4−ジオキサンを包含する。好ましくはエタノールとイソプロパノールを使用できる。
また、段階(a)における有機溶媒と水の混合比率は6:4〜9:1の範囲でよく、好ましくは約7:3である。
【0016】
段階(b)における還流時間は3〜7時間でよく、好ましくは5時間である。
段階(c)における冷却温度は15〜25℃でよく、そして冷却時間は2〜3時間でよい。
乾燥は真空下で、あるいは50℃の熱風によって行う。
【0017】
2.リセドロン酸ナトリウム1.5水和物の製造
a) 適当な有機溶媒と水の混合物をリセドロン酸ナトリウム2.5水和物に加える。
b) 溶液を加温して攪拌する。
c) 反応溶液を冷却し、濾過してから乾燥して、リセドロン酸ナトリウム1.5水和物を製造する。
【0018】
段階(a)で有用な溶媒は、メタノール、エタノール及びイソプロパノールでよく、好ましくはイソプロパノールである。
また、段階(a)における溶媒と水との比率は5:5〜6:4の範囲でよく、好ましくは6:4である。
【0019】
段階(b)における反応温度は50〜70℃でよく、好ましくは60℃である。
また、段階(b)における反応時間は6〜8時間でよく、好ましくは7時間である。
段階(c)における冷却は15〜25℃の温度で2〜3時間で実施でき、そして乾燥は40℃の熱風乾燥によって行うことができる。
【0020】
3.リセドロン酸ナトリウム無水物の製造
a) 適当な有機溶媒をリセドロン酸ナトリウム2.5水和物に加える。
b) 溶液を還流温度で攪拌する。
c) 反応溶液を冷却し、濾過してから乾燥して、リセドロン酸ナトリウム無水物を製造する。
【0021】
段階(a)における溶媒はメタノールが好ましい。
段階(b)における還流時間は7〜20時間でよく、好ましくは12時間である。
段階(c)において、冷却は15〜25℃の温度で2〜3時間実施してよく、そして乾燥は50℃で真空下に実施できる。
【0022】
本発明によって製造されたリセドロン酸ナトリウムは結晶性の1水和物、1.5水和物又は無水物である。含水量は、1水和物に関しては5.5〜7.5%の範囲内(TGAによる)、1.5水和物に関しては9.0〜11.0%の範囲内(TGAによる)、そして無水物に関しては1.0%以下(TGAによる)である。下記の表1には、溶媒と水の混合比率及び反応温度による各種分析データが示されている。
【0023】
本明細書中に記述されているX線回折データは粉末回折によって得られた。X線粉末回折データは、固体検出器を備えたモデル、PANalytical、X'pert-Proを用いて当該技術分野で周知の方法によって得られた。リセドロン酸ナトリウム1水和物のX線回折パターンは、6.0°、14.3°、16.5°、19.6°、21.8°、22.8°及び25.4°の2θに示すX線回折ピークであり、リセドロン酸ナトリウム1.5水和物のX線回折パターンは、5.9°、8.8°、12.2°、19.7°及び24.5°の2θに示すX線回折ピークであり、そしてリセドロン酸ナトリウム無水物のX線回折パターンは、9.8°、17.1°、22.6°、27.7°及び29.1°の2θに示すX線回折ピークである。
【0024】
本明細書で用いられているようなTGA重量損失は、最大約200℃〜220℃の範囲の重量損失曲線(図面参照)の湾曲部の重量損失を計算して得られる。熱重量分析(TGA)は、温度の関数としてサンプル重量変化を測定する、当該技術分野で周知の熱分析方法である。この方法は、例えば分解及び脱溶媒和に特に適している。本明細書中に報告されているTGA結果は、TA Instrument、TGA 2950HRを使って得られた。本明細書で用いているサンプル重量は約5mg〜約15mgであった。
【0025】
加熱速度を10℃/分にして25℃から250℃に加熱してサンプルを分析した。流速40mL/分の窒素気体でオーブンをパージした。よって得られた重量損失は、理論的な含水量を基準にして予測したレベルより大きい。これはTGA重量損失段階は分解過程に関与しているという事実に基づいている。
【0026】
【表1】

【発明の効果】
【0027】
本発明の方法は、従来の方法と比較して、収率が改善され、低い製造コスト及び工程廃棄物が著しく低減されるという利点を有している。従って、この方法は環境にやさしいので、工業的な大量生産に有利である。
【0028】
本発明の上記の及びその他の態様、特徴及び別の長所は、添付の図面と共に以下の詳細な記載からより明確に理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、実施例2において、溶媒としてエタノールを用いて製造されたリセドロン酸ナトリウム1水和物のX線粉末回折を示す。
【図2】図2は、実施例2において、溶媒としてエタノールを用いて製造されたリセドロン酸ナトリウム1水和物のTGA曲線を示す。
【図3】図3は、実施例4において、溶媒としてエタノールを用いて製造されたリセドロン酸ナトリウム無水物のX線粉末回折率を示す。
【図4】図4は、実施例4において製造されたリセドロン酸ナトリウム無水物のTGA曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の好ましい態様及び実施例を詳細に記載する。しかしながら、これらの実施例は本発明を説明する目的で提供されるものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0031】
実施例1: リセドロン酸ナトリウム2.5水和物の製造
蒸留水60mL及び水酸化ナトリウム1.41gを、2−(3-ピリジル)−1−ヒドロキシエタン−1,1−ビスホスホン酸(リセドロン酸)10.0gに加え、混合物を65℃に加熱した。溶解後、溶液を3時間かけて25℃に冷却して、生成した結晶を濾取し、乾燥して、リセドロン酸ナトリウム2.5水和物8.0g(理論値の64.7%)を得た(TGAによるLOD=13.2%)。
【0032】
実施例2: リセドロン酸ナトリウム1水和物の製造
a. 溶媒としてエタノールを使用
リセドロン酸ナトリウム2.5水和物5.0gに、エタノール30mLと蒸留水20mLを加えて、混合物を加熱して5時間還流した。反応混合物を2時間かけて20℃に冷却して、生成した結晶を濾取し、40℃で風乾して、リセドロン酸ナトリウム1水和物4.5g(理論値の97.5%)を得た(TGAによるLOD=7.2%)。
【0033】
b.溶媒としてイソプロパノールを使用
リセドロン酸ナトリウム2.5水和物5.0gに、イソプロパノール40mLと蒸留水10mLを加えて、混合物を加熱して5時間還流した。反応混合物を2時間かけて20℃に冷却して、生成した結晶を濾取し、50℃で真空乾燥して、リセドロン酸ナトリウム1水和物4.5g(理論値の97.5%)を得た(TGAによるLOD=7.4%)。
【0034】
c.溶媒としてメタノールを使用
リセドロン酸ナトリウム2.5水和物5.0gに、メタノール45mLと蒸留水5mLを加えて、混合物を加熱して5時間還流した。反応混合物を2時間かけて20℃に冷却して、生成した結晶を濾取し、50℃で真空乾燥して、リセドロン酸ナトリウム1水和物4.6g(理論値の99.7%)を得た(TGAによるLOD=7.4%)。
【0035】
d.溶媒としてアセトニトリルを使用
リセドロン酸ナトリウム2.5水和物5.0gに、アセトニトリル30mLと蒸留水20mLを加えて、混合物を加熱して5時間還流した。反応混合物を2時間かけて20℃に冷却して、生成した結晶を濾取し、50℃で真空乾燥して、リセドロン酸ナトリウム1水和物4.5g(理論値の97.5%)を得た(TGAによるLOD=7.4%)。
【0036】
e.溶媒として1,4-ジオキサンを使用
リセドロン酸ナトリウム 2.5水和物5.0gに1,4-ジオキサン35mLと蒸留水15mLを加えて、混合物を加熱して5時間還流した。反応混合物を2時間かけて20℃に冷却して、生成した結晶を濾取し、50℃で真空乾燥して、リセドロン酸ナトリウム1水和物4.5g(理論値の97.5%)を得た(TGAによるLOD=7.1%)。
【0037】
実施例3: リセドロン酸ナトリウム1.5水和物の製造
リセドロン酸ナトリウム 2.5水和物 5.0gにイソプロパノール30mLと蒸留水20mLを加えて、混合物を60℃に加熱して7時間還流した。反応混合物を2時間かけて20℃に冷却して、生成した結晶を濾取し、40℃で風乾して、リセドロン酸ナトリウム1.5水和物4.6g(理論値の97.0%)を得た(TGAによるLOD=10.0%)。
【0038】
実施例4: リセドロン酸ナトリウム無水物の製造
リセドロン酸ナトリウム2.5水和物5.0gにメタノール50mLを加えて、混合物を加熱して12時間還流した。反応混合物を2時間かけて20℃に冷却して、生成した結晶を濾取し、50℃で真空乾燥して、リセドロン酸ナトリウム無水物4.2g(理論値の96.4%)を得た(TGAによるLOD=0.33%)。
【0039】
前記実施例において製造されたリセドロン酸ナトリウム水和物のX線粉末回折と熱重量分析(TGA)曲線は図1〜図4に示されている。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、リセドロン酸ナトリウム2.5水和物を出発物質として、有機溶媒と水との混合物を用いるリセドロン酸ナトリウム水和物及び無水物の製造方法を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)混合比が6:4〜9:1の溶媒と水の混合物をリセドロン酸ナトリウム2.5水和物に加えること(ここにおいて、溶媒はエタノール、メタノール、イソプロパノール、 アセトニトリル及び1,4-ジオキサンから選ばれる);
b)溶液を還流温度で3〜7時間撹拌すること;及び
c)反応混合物を冷却したのち、濾過及び乾燥してリセドロン酸ナトリウム1水和物を製造すること:
を含有してなる、リセドロン酸ナトリウム1水和物の製造方法。
【請求項2】
段階(a)における溶媒が、エタノール及びイソプロパノールから選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階(a)における溶媒と水の混合比率が7:3である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
段階(b)において溶液を5時間撹拌する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
a)5:5〜6:4の比率の溶媒と水の混合物をリセドロン酸ナトリウム2.5水和物に加えること(ここにおいて、溶媒はメタノール、エタノール及びイソプロパノールから選ばれる);
b)溶液を50℃〜70℃に加熱して6〜8時間撹拌すること;及び
c)反応混合物を冷却したのち、濾過及び風乾してリセドロン酸ナトリウム1.5水和物を製造すること:
を含有してなる、リセドロン酸ナトリウム1.5水和物の製造方法。
【請求項6】
段階 (a)における溶媒がイソプロパノールである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
段階(a)における溶媒と水の混合比率が6:4である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
段階(b)において、溶液を60℃の温度で7時間撹拌する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
a)メタノールをリセドロン酸ナトリウム2.5水和物に加えること;
b)溶液を環流温度で7〜20時間撹拌すること;及び
c)反応混合物を冷却した後、濾過し、乾燥してリセドロン酸ナトリウム無水物を製造すること:
を含有してなる、リセドロン酸ナトリウム無水物の製造方法。
【請求項10】
段階(b)において、溶液を12時間撹拌する、請求項9に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2011−506310(P2011−506310A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536837(P2010−536837)
【出願日】平成20年11月24日(2008.11.24)
【国際出願番号】PCT/KR2008/006912
【国際公開番号】WO2009/072769
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(508273120)ドンウ シンテック カンパニー リミテッド (5)
【Fターム(参考)】