説明

無細胞性組織マトリックスに由来する血管移植片

病的であるか、または損傷した血管を処置するための血管移植片について開示する。該移植片は、未変化の基底膜を有する無細胞性組織マトリックスのシートを含んでなる。該移植片は、管内に該シートを巻きつけ、シートの端を一緒に固定することによって形成される。無細胞性組織マトリックスは、移植片の組織の内殖とホスト細胞による再構築を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年9月2日に提出され、その全体が参照により本明細書に取り込まれる米国仮出願第61/239,237号に対する優先権を主張する。
【0002】
本開示は大まかには血管移植片に関し、さらに詳細には無細胞性組織マトリックスに由来する血管移植片および該移植片の産生方法に関する。
【背景技術】
【0003】
生体工学および心血管研究の分野における最近の進歩により、バイパス手術のための血管導管の構築、損傷しているかまたは病的である血管の修復、およびその他の血管手術のための新規技術および材料の開発が導かれた。血管移植片には多種多様な合成および生物学的な構築物が含まれる。
【0004】
移植技術の発達にもかかわらず、血管構造の修復または置換は、特に、腸瘻形成のような合成移植片の使用からもたらされる合併症、遠位塞栓症、移植片の感染および閉塞、限られた耐久性、ならびに吻合周囲の移植片の伸展性の不足により困難なままであることから、さらなる介入が必要とされている。血管置換術への自家移植の応用は、収集した移植片の次元的な制限、ドナー部位の病的状態、および自己血管の収集に付随する外科的な費用のために妨げられる。加えて、非常に多くの患者は、予め存在する血管疾患、静脈ストリッピング、または事前の血管手術のために、移植に適した静脈を有していない。
【0005】
本開示は、血管移植片構築のための改良された方法および材料を提供する。
【0006】
本開示の一態様によれば、病的であるか、または損傷した血管を処置するための血管移植片が提供される。血管移植片は、血液を通さず、かつ血流通過のための管腔の輪郭を示す管状壁を含んでなる、管状導管を含んでなる。管状壁は、基底膜を有する無細胞性組織マトリックスのシートを含んでなる。基底膜は、管状導管の管腔表面を形成する。
【0007】
本開示の別の態様によれば、血管移植片を形成するための方法が提供される。該方法は、基底膜を有する無細胞性組織マトリックスのシートを提供する工程、及び該シートを管状導管内に形成する工程を含んでなる。基底膜は管状導管の内部の管腔表面を形成する。
【0008】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方は、単に典型的かつ説明的なものであり、特許請求される発明を限定するものではないことが理解されなければならない。
【0009】
取り込まれて本明細書の一部を構成する添付の図面は、本発明の方法および実施形態を図示し、明細書と共に本発明の様々な態様の原理を説明するために役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1Aは、病的であるか、または損傷した血管を処置するための血管移植片の代表的な実施形態を示した図である。図1Bは、血管移植片の互い違いの配置を示した図である。
【図2】図2Aは、病的であるか、または損傷した血管を処置するための血管移植片の、別の代表的な実施形態を示した図である。 図2Bは、病的であるか、または損傷した血管を処置するための血管移植片の、さらに別の代表的な実施形態を示した図である。
【図3】図3は、特定の実施形態に従った、血管移植片の形成方法を示した図である。
【図4】図4A〜4Hは、実施例1に記載するように、ヘマトキシリンとエオジンで染色した外植血管移植片の組織切片像を示した図である。
【図5】図5A〜5Fは、実施例1に記載するように、ヴァーヘフファンギーソン染色で染色した外植血管移植片の組織切片像を示した図である。
【図6】図6A〜6Fは、実施例1に記載するように、外植血管移植片の走査型電子顕微鏡写真を示した図である。
【図7】図7Aおよび7Bは、実施例1に記載するように、外植血管移植片およびラット大動脈の透過型電子顕微鏡写真を示した図である。
【図8】図8A〜8Dは、実施例1に記載するように、内皮細胞に対する抗体で染色した外植血管移植片の組織切片像を示した図である。図8E〜8Hは、実施例1に記載するように、フォン・ヴィレブランド因子に対する抗体で染色した外植血管移植片の組織切片像を示した図である。
【図9】図9A〜9Eは、実施例1に記載するように、平滑筋細胞に対する抗体で染色した外植血管移植片の組織切片像を示した図である。図9F〜9Jは、実施例1に記載するように、線維芽細胞に対する抗体で染色した外植血管移植片の組織切片像を示した図である。
【図10】図10A〜10Lは、実施例1に記載するように、ラットT細胞、B細胞、およびマクロファージに対する抗体で染色した外植血管移植片の組織切片像を示した図である。
【図11】図11A〜11Eは、実施例1に記載するように、ラットIgGに対する抗体で染色した外植血管移植片の組織切片像を示した図である。図11F〜11Gは、実施例1に記載するように、ラットIgMに対する抗体で染色した外植血管移植片の組織切片像を示した図である。
【図12】図12は、実施例2に記載するように、接着した無細胞性皮膚マトリックスの耐熱性の結果を示した図である。
【図13】図13は、実施例2に記載するように、無細胞性皮膚マトリックス上にコートしたヘパリンの抗血栓性の性質における生物接着剤の影響を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここで、その例が添付の図面に示される、本開示に一致する特定の実施形態に対する詳細な参照を行う。可能な限り、同一かまたは類似の部分を参照するために、図面を通して同一の参照番号が使用され得る。
【0012】
本出願では、他に特定の記載がない限り、単数形の使用には複数形が含まれる。本出願では、他に記載がない限り、「または」の使用は「および/または」を意味する。さらに、「含んでいる」の語の使用、ならびに「含む」および「含まれた」のようなその他の形は限定的なものではない。また、他に特定の記載がない限り、「要素」または「構成要素」のような語は、1単位を含んでなる要素および構成要素と、1を超えるサブユニットを含んでなる要素および構成要素の両方を包含する。また、「一部」の語の使用には、成分の部分または成分の全体が含まれてよい。
【0013】
本明細書で用いられる「無細胞性組織マトリックス」は、一般に細胞およびその他の抗原性物質を実質的に含まない、いずれの組織マトリックスも指す。様々な実施形態によれば、骨格を産生するためにヒトまたは異種源由来の無細胞性組織マトリックスが用いられてよい。本開示の範囲内で、皮膚、皮膚の一部(例えば真皮)、ならびに血管、心臓弁、筋膜、および神経結合組織のようなその他の組織が、組織骨格を産生するための無細胞性マトリックスを作り出すために用いられてよい。
【0014】
本明細書で用いられる節の見出しは編成目的のみのものであり、記載される主題を限定するものとして解釈されてはならない。特許、特許出願、論文、書籍、および専門書を含むがこれらに限定されない、本出願に引用される全ての文書、または文書の一部は、いずれの目的のためにも、それらの全体が参照によって本明細書に明確に取り込まれる。
【0015】
様々な実施形態によれば、血管の欠損を処置するための、動脈性または静脈性の移植片を構築するための材料および方法が提供される。様々な実施形態によれば、血管移植片は、病的であるか、または損傷した血管の一部の置換、例えば大動脈の弱くなった部分の置換、外傷により損傷した血管の処置、医学的状態(例えば糖尿病、自己免疫疾患など)により引き起こされる血管疾患の処置に用いられる。幾つかの実施形態によれば、血管移植片は、狭窄しているかまたは部分的に閉塞している血管の区域をバイパスおよび/または置換するため、例えば冠動脈および末梢動脈バイパス移植のために用いられる。
【0016】
幾つかの実施形態によれば、血管移植片は、管状導管内に形成された材料のシートを含んでなる。移植片の管状壁は、天然の血管によって経験される血行力学的な圧力下では血液を透過しない。様々な実施形態によれば、管状移植片を形成する材料シートは、血管へ応用する使用に対して十分な強度と耐久性を有し、かつ機械的性質(例えば弾性)は隣接するホスト血管のものと同様である。特定の実施形態によれば、移植片の管腔内面は抗血栓性である。幾つかの実施形態によれば、移植片を形成する材料シートは、組織の再構築およびホスト細胞の移植片への再集合を支持する。特定の実施形態によれば、移植片を形成する材料は、管腔表面における内皮細胞の堆積、および移植片の管状壁内への平滑筋細胞の統合を支持する。
【0017】
基底膜は、上皮細胞の基部側に隣接する細胞外物質の薄いシートである。塊状の上皮細胞のシートにより上皮が形成される。従って、例えば皮膚の上皮は表皮と呼ばれ、皮膚基底膜は表皮と真皮の間に位置する。基底膜は、上皮様細胞に対してバリア機能および接着表面を提供する特殊化された細胞外マトリックスである;しかしながら、これは下にある組織(例えば真皮)に対していずれの有意な構造的または生体力学的な役割も果たしていない。基底膜の構成要素には、例えばラミニン、VII型コラーゲン、およびナイドジェンが含まれる。上皮基底膜の時間的および空間的な組織化は、これを例えば真皮の細胞外マトリックスから区別する。
【0018】
幾つかの実施形態によれば、材料シートは無細胞性組織マトリックスを含み得る。様々な実施形態によれば、無細胞性組織マトリックスは未変化の基底膜を含んでなる。幾つかの実施形態によれば、基底膜は血管導管の管腔表面を形成する。基底膜は、連続した非多孔性の管腔表面を移植片に与えることによって、移植片の管腔からの血液の漏出を阻止する。加えて、基底膜は内皮細胞の増殖を支持して血栓症を阻止し得る。従って、基底膜は漏出および/または血栓症を阻止する内皮の内面の形成を可能にし得るが、外来性の細胞と共に播種または培養することは必要でない。
【0019】
無細胞性組織マトリックスは、基底膜を含む幾つかの異なる組織から形成することができる。例えば、無細胞性組織マトリックスは、皮膚、膀胱、腸、心膜組織、腹膜、または組織の組み合わせから形成することができる。無細胞性マトリックスの形成に適した一生体材料は、(LifeCell Corp、ブランチバーグ、ニュージャージー州)から市販されているALLODERM(登録商標)のように、ヒトの皮膚に由来する。ALLODERM(登録商標)は、組織の拒絶および移植片の不全を導き得る表皮ならびに細胞の両方を、真皮タンパク質および基底膜を損傷することなく除去するように処理されたヒトの無細胞性真皮マトリックスである。別の代表的な実施形態によれば、無細胞性組織マトリックスは、基底膜の完全性を維持しながら心膜組織を処理することによって産生された心膜マトリックスを含んでなる。さらに別の実施形態によれば、無細胞性組織マトリックスは、基底膜を未変化のまま維持して細胞を除去するように処理された腹膜由来のものである。以下に、適切な無細胞性組織マトリックスの産生について、さらに詳細に記載する。
【0020】
様々な実施形態によれば、移植片の管腔表面は、外科手術後の移植片の閉塞を抑制するために抗血栓性および/または抗石灰化剤を用いて修飾される。別の実施形態によれば、血管移植片の管腔表面は、管腔表面に沿った内皮細胞の増殖を増大させる増殖因子によって処理される。
【0021】
管内に無細胞性組織マトリックスのシートを形成するため、対立するシートの端を互いに付着してよい。様々な実施形態によれば、端は、移植片の長さに沿って長軸方向に伸展する流体密封の閉じ目を形成するため、縫合、生物学的に適合性の接着剤、または両方の組み合わせを用いて互いに付着される。幾つかの実施形態によれば、巻いたシートの端は熱および圧力処理を用いて固定される。適切な縫合には、例えばポリプロピレン縫合(PROLENE(登録商標))が含まれ、これは連続的かまたは断続的であってよい。適切な接着剤には、例えばフィブリン糊、シアノアクリレートを基にした組織接着剤(例えばDERMABOND(登録商標))、およびキトサン組織接着剤が含まれる。幾つかの実施形態によれば、シートの端は、管状の構築物内でシートを巻いた後に端が緩まないことを確実にするために、互いに、または材料の下層へ架橋結合される(例えば化学薬品または照射により誘導される架橋を用いて)。
【0022】
図1Aに、本開示に一致する血管移植片10の代表的な実施形態を示す。血管移植片10は、管腔13の輪郭を示す管状構築物内へ巻かれる材料シート12の、及び管腔表面17と反管腔側の表面19を有する管状壁15を含んでなる。シートの長軸方向の端14、16は管状構築物の反管腔側で互いに接触し、外科的な縫合および/または生物接着剤を用いて、移植片の長さに沿って付着される。長軸方向の端14、16の付着により、反管腔側の表面19の上に隆起し、管状移植片の長さに沿って伸展する、長軸方向の堤18が作り出される。一実施形態によれば、図1Bに示すように、長軸方向の堤18は折り畳まれ、血管移植片10の反管腔側の表面19に付着する。長軸方向の堤18は、縫合、接着剤、または両方の組み合わせを用いて、移植片の長さに沿って管状壁15に固定される。
【0023】
図2Aに、本開示に一致する血管移植片20の代表的な実施形態を示す。移植片20は、管腔23の輪郭を示す管状構造内へ巻かれる材料シート22を含んでなる。材料シート22は、管腔表面27と反管腔側の表面29を有する管状壁21を形成する。シート22は、第1の長軸方向の端24、およびシート22の反対の末端の、第2の長軸方向の端26を含んでなる。シート22が管内に巻かれる際、第2の長軸方向の端26は第1の端24を越えて伸展し、第1の端24と第2の端26の間に伸展する多層の重なった領域25が定義される。重なった領域25は、縫合および/または接着剤を用いて、移植片の長さに沿って封着される。特定の実施形態によれば、重なった領域は、個別の材料シートの幅の少なくとも10%である。
【0024】
適切な血管移植片は、幾つかの技術を用いて形成できる。一般に移植片は、選択されたインプラントの位置に必要とされる、望ましいサイズ、長さ、および生体力学的要件に基づいて産生され得る。例えば大動脈の血管移植片としての使用が意図された移植片は、一般に、より低い圧力と少ない血流の輸送が経験され得るその他の位置に対するよりも大きなサイズ、および高い生体力学的性質(例えば破裂強度)を有し得る。
【0025】
様々な実施形態によれば、材料シートの厚さは、血管移植片によって置換される血管の壁の厚さに一致する。特定の実施形態によれば、材料シートのサイズは、天然の血管の壁の厚さに対応するように決定される。
【0026】
幾つかの実施形態によれば、移植片は、材料シートを既定のサイズ(すなわち管腔直径)に巻くことによって形成することができる。幾つかの実施形態によれば、図2に示すように、血管移植片は、円筒型ロッドまたは管30の外部表面の周囲に生体材料シート32を巻きつけることによって形成できる。シートの長軸方向の区域34は、円筒型ロッド30の周囲に折り畳まれる。一実施形態によれば、ロッキングロッド35は、区域34を円筒型ロッドに対してロックするため、図3に示すように円筒型ロッド30と平衡に位置する。2つのホルダーの間に張られた縫合糸もまた、区域34を円筒型ロッドに対してロックするために用いることができる。次にロッドを、ロッドの長軸方向の軸31に対して少なくとも約360°回転させて、ロッドの外部表面の周囲に材料シートを巻きつける。一実施形態によれば、シート32は、多層移植片を形成するため、ロッドの周囲に複数回巻きつけられる。シートが円筒型ロッドの周囲に巻きつけられた後、図2に示すように、シートの外側の端36をシートの下にある層に固定する。
【0027】
一実施形態によれば、図3に示すように、粘着性ストリップ38がシートの幅にわたり、複数の位置においてシート32に取り付けられる。このような実施形態では、シートが円筒型ロッド30に巻きつけられるに従って、粘着性ストリップ38がシート32を材料の下層へ結合させる。
【0028】
管状移植片の内径は、円筒型ロッドまたは管30の外径と実質的に同じである。従ってロッドまたは管の直径は、移植片によって置換される天然の血管の管腔直径に一致するように選択される。一実施形態によれば、ロッドの直径はおおよそ4〜5mmであり、これは小直径(<6mm)の血管移植片を構築するために用いられる。別の実施形態によれば、管の壁の厚さは1mmである。シートがロッドの周囲に巻きつけられ、シートの長軸方向の単数または複数の端が固定された後、ロッドは巻いたシートの内部から取り除かれる。別の実施形態によれば、管は、シートを管から滑り落とすために長軸方向に伸展する。円筒型ロッドの材料は、ロッドの外部表面へのシートの付着を阻止するように選択される。代表的な一実施形態によれば、使用される円筒型ロッドはガラスロッドである。別の実施形態によれば、使用される円筒型の管はゴム管である。さらに別の実施形態によれば、使用される管はシリコン管である。
【0029】
適切な無細胞組織マトリックス
幾つかの実施形態によれば、適切な無細胞性組織マトリックスは、例えば、細胞認識、細胞結合、細胞伸展の支持能、細胞増殖、細胞の内殖、および細胞分化のような、特定の生物学的機能を保持し得る。このような機能は、例えば未変性のコラーゲン性タンパク質(例えばI型コラーゲン)および様々な非コラーゲン性分子(例えばインテグリン受容体、グリコサミノグリカン(例えばヒアルロナン)もしくはプロテオグリカンのような高い電荷密度を有する分子、またはその他の付着因子のようないずれかの分子に対するリガンドとして役立つタンパク質)によって提供され得る。幾つかの実施形態によれば、無細胞性組織マトリックスは、組織構造の維持および組織の構成要素の三次元配列の維持を含む、特定の構造的機能を保持し得る。本明細書に記載する無細胞性組織マトリックスはまた、例えば強度、弾性、および耐久性のような望ましい物理的特性、規定の多孔度、ならびに高分子の保持を示し得る。適切な無細胞性組織マトリックスは、架橋され得るかまたは架橋されない。
【0030】
幾つかの実施形態によれば、移植片材料は、関連するホスト組織の分化細胞、間葉系幹細胞のような幹細胞、または前駆細胞のような浸潤細胞によって再構築されることを受け入れる。これは例えば、移植されたマトリックス材料を周囲のホスト組織に同一の組織から形成することで達成され得るが、このような同一性は必用ではない。
【0031】
再構築は、上記の無細胞性組織マトリックス構成要素および周囲のホスト組織からのシグナル(例えばサイトカイン、細胞外マトリックス構成要素、生体力学的刺激、および生体電気刺激)によって方向付けられる。例えば、骨髄および末梢循環における間葉系幹細胞の存在が文献中に記載され、様々な筋骨格組織を再生することが示されている[Caplan(1991)J.Orthop.Res.9:641−650;Caplan(1994)Clin.Plast.Surg.21:429−435;およびCaplan et al.(1997)Clin Orthop.342:254−269]。加えて移植片は、再構築過程の間に、ある程度の(閾値よりも大きな)張力および生体力学的強度を提供しなければならない。
【0032】
無細胞性組織マトリックスは、様々な原料組織から製造され得る。例えば無細胞性組織マトリックスは、マトリックスによって上記の性質が保持されている限り、いずれのコラーゲン含有軟部組織および筋骨格(例えば真皮、筋膜、心膜、硬膜、臍帯、胎盤、心臓弁、靭帯、腱、血管組織(動脈および伏在静脈のような静脈)、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、または腸管組織)からも産生され得る。
【0033】
無細胞性組織マトリックスは、無細胞性組織マトリックス移植片のレシピエントと同じである種の1以上の個体から作られてよいが、必ずしもそうではない。従って例えば、無細胞性組織マトリックスはブタの組織から作られ、ヒト患者へ移植されてもよい。無細胞性組織マトリックスのレシピエントおよび無細胞性組織マトリックス産生のための組織または臓器のドナーとして役立ち得る種には、ヒト、非ヒト霊長類(例えばサル、ヒヒ、チンパンジー)、ブタ、雌ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、ラット、またはマウスが含まれるが、これらに限定されない。ドナーとして特に興味深いものは、末端のα−ガラクトース成分が欠如するように、遺伝的に改変された動物(例えばブタ)である。適切な動物についての記載は、それらの開示の全体が参照により本明細書に取り込まれる、同時係属の米国特許出願第10/896,594号および米国特許第6,166,288号を参照されたい。
【0034】
幾つかの実施形態によれば、凍結乾燥した無細胞性組織マトリックスがLifeCell Corporation(ブランチバーグ、ニュージャージー州)によってヒトの真皮から産生され、ALLODERM(登録商標)として小さなシートの形で市販されている。ALLODERM(登録商標)の凍結および乾燥に用いられる凍結保護物質は、35%マルトデキストリンと10mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の溶液である。従って、最終乾燥産物は約60重量%の無細胞性組織マトリックスと約40重量%のマルトデキストリンを含む。LifeCell Corporationはまた、ALLODERM(登録商標)に同一の無細胞性組織マトリックスおよびマルトデキストリンの比率を有する、ブタの真皮から作られた類似製品(XENODERMと名付けられた)も製造している。
【0035】
このような遺伝的に改変された動物をドナーとして使用するための別の方法として、適切な組織および臓器は、脱細胞の前または後に、例えば糖タンパク質上の糖鎖から末端のα−ガラクトース(α−gal)成分を除去する酵素であるα−ガラクトシダーゼによって処理することができる。これらの成分を除去するために組織をα−ガラクトシダーゼによって処理する方法は、例えば、その開示の全体が参照により本明細書に取り込まれる、米国特許第6,331,319号に記載されている。
【0036】
実行時には、無細胞性組織マトリックスにおいて細胞を死滅させる前または後のいずれかに、コラーゲン含有物質は1以上のグリコシダーゼ、特にα−ガラクトシダーゼのようなガラクトシダーゼによるコラーゲン含有物質のin vitro消化に供される。α−ガラクトシダーゼを用いた酵素処理によって、特にα−galエピトープが除去される。
【0037】
N−アセチルラクトサミン残基は、通常ヒトおよび哺乳類細胞に発現するエピトープであり、それ故に免疫原性ではない。グリコシダーゼによるコラーゲン含有物質のin vitro消化は、様々な方法によって達成され得る。例えばコラーゲン含有物質は、グリコシダーゼを含む緩衝液中に浸すか、または該緩衝液中でインキュベートすることができる。あるいはグリコシダーゼを含む緩衝液は、パルス洗浄工程により、圧力をかけてコラーゲン含有物質中に通すことができる。
【0038】
コラーゲン含有物質からのα−galエピトープの除去により、コラーゲン含有物質に対する免疫応答は減少し得る。α−galエピトープは、非霊長類の哺乳類および新世界ザル(南米のサル)において発現し、かつ細胞外構成要素の、プロテオグリカンのような高分子上に発現する。U.Galili et al.,J.Biol.Chem.263:17755(1988)。しかしながら、このエピトープは旧世界霊長類(アジアおよびアフリカのサルならびに類人猿)およびヒトには存在しない。同文献。抗gal抗体は、ヒトおよび霊長類において、胃腸の細菌上のα−galエピトープの炭水化物構造に対する免疫応答の結果として産生される。U.Galili et al.,Infect.Immun.56:1730(1988);R.M.Hamadeh et al.,J.Clin.Invest.89:1223(1992)。
【0039】
非霊長類の哺乳類(例えばブタ)はα−galエピトープを産生することから、これらの哺乳類に由来するコラーゲン含有物質を霊長類へ注入することによる異種移植は、コラーゲン含有物質上のこれらのエピトープへの霊長類抗Galの結合によってしばしば拒絶をもたらす。この結合は、補体結合および抗体依存性の細胞傷害性によってコラーゲン含有物質の破壊をもたらす。U.Galili et al.,Immunology Today 14:480(1993);M.Sandrin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:11391(1993);H.Good et al.,Transplant.Proc.24:559(1992);B.H.Collins et al.,J.Immunol.154:5500(1995)。さらに異種移植は、高親和性抗gal抗体の産生量を増大させる、免疫系の主要な活性化をもたらす。従って、細胞からの、およびコラーゲン含有物質の細胞外構成要素からのα−galエピトープの実質的な除去、ならびに細胞性α−galエピトープの再発現の防止によって、α−galエピトープへの抗gal抗体の結合に関連する、コラーゲン含有物質に対する免疫応答を減少させることができる。
【0040】
本開示における使用に適した無細胞性組織マトリックスは、それらによる産生が上記の生物学的および構造的性質を備えたマトリックスをもたらす限りにおいて、様々な方法によって産生することができる。一般に、無細胞性組織マトリックスの産生に関わる工程には、ドナー(例えばヒトの死体または上記哺乳類のいずれか)から組織を収集すること、生物学的および構造的機能を同様に保存する条件下での細胞除去と同時に、またはそれに続いて行われる、組織を安定化させ、かつ生化学的および構造的分解を避けるための化学処理が含まれる。最初の安定化溶液は、浸透圧性、低酸素性、自己融解性、およびタンパク質分解性の分解を停止および阻止し、微生物の混入から保護し、かつ、例えば平滑筋の構成要素(例えば血管)を含む組織に起こり得る機械的損傷を減少させる。安定化溶液は、適切な緩衝液、1以上の酸化防止剤、1以上の膠質剤、1以上の抗生物質、1以上のプロテアーゼ阻害剤、および幾つかの場合には平滑筋弛緩剤を含んでよい。幾つかの代表的な実施形態によれば、収集した組織(例えば真皮組織)は、組織サンプルから上皮を除去するために、化学的な脱上皮化溶液によって処理される。例えば幾つかの実施形態によれば、ヒトまたはブタの真皮組織を含んでなるサンプルは、上皮層を除去するため、1M NaCl溶液に室温にて一晩浸される。特定の実施形態によれば、上皮層の完全な除去を確実にするため、NaCl溶液の濃度は1.5Mに増大される。
【0041】
次に、基底膜複合体、またはコラーゲンマトリックスの生物学的および構造的完全性を損傷することなく、構造マトリックスから生細胞(例えば上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞)を除去するため、組織を脱細胞溶液中に置く。脱細胞溶液は、適切な緩衝液、塩、抗生物質、1以上の界面活性剤(例えばTRITON X−100(商標)、デオキシコール酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(20)モノオレイン酸ソルビタン)、架橋を阻止するための1以上の薬剤、1以上のプロテアーゼ阻害剤、および/または1以上の酵素を含んでよい。幾つかの実施形態によれば、脱細胞溶液はゲンタマイシンおよび25mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含むRPMI培地中の1% TRITON X−100(商標)を含んでなる。幾つかの実施形態によれば、組織は脱細胞溶液中で、37℃にて90rpmで穏やかに振盪しながら一晩インキュベートされる。特定の実施形態によれば、組織サンプルから脂肪を除くために、追加の界面活性剤が用いられてよい。例えば、幾つかの実施形態によると、腹膜を処理するため、脱細胞溶液に2%デオキシコール酸ナトリウムが添加される。
【0042】
脱細胞工程後、組織サンプルを生理食塩水で十分に洗浄する。幾つかの代表的な実施形態によれば、例えば異種性の材料を用いる際、脱細胞した組織は次にデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)溶液により、室温にて一晩処理される。幾つかの実施形態によれば、組織サンプル(例えば腹膜および心膜組織)は、DNase緩衝液(20mM HEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸)、20mM CaCl、および20mM MgCl)中で調製したDNase溶液によって処理される。DNase溶液には、任意に抗生物質溶液(例えばゲンタマイシン)を添加してもよい。
【0043】
DNase溶液を除去するために組織を生理食塩水で十分に洗浄した後、サンプル中に存在する可能性のあるいずれの免疫原性抗原も除去するため、組織サンプルを1以上の酵素による処理に供してよい。先に述べたように、組織に存在する可能性のあるα−galエピトープを除去するため、組織サンプルをα−ガラクトシダーゼ酵素によって処理してもよい。幾つかの実施形態によれば、組織は、pH6.0の100mM リン酸緩衝液中で調製された300U/Lの濃度のα−ガラクトシダーゼによって処理される。別の実施形態によれば、α−ガラクトシダーゼの濃度は、収集した組織からのα−galエピトープの十分な除去のため、400U/Lに増大される(例えばブタ由来の真皮組織の処理において)。
【0044】
死滅した、および/または溶解した細胞構成要素、ならびに炎症の原因となり得る抗原、同様にいずれの生体不適合性の細胞除去剤も完全に除去した後、マトリックスは、再び、記載したマトリックスの生物学的および構造的性質の維持に必要な条件下で凍結保存剤により処理して凍結保存してよく、任意に凍結乾燥してもよい。凍結保存または凍結乾燥後、無細胞性組織マトリックスはそれぞれ解凍または再水和されてよい。全ての工程は一般に無菌的、好ましくは無菌状態で行われる。
【0045】
無細胞性組織マトリックスを形成した後、ホストによってさらに再構成され得る移植片を産生するために、組織適合性の生細胞を任意に無細胞性組織マトリックスへ播種してよい。一実施形態によれば、組織適合性の生細胞は、移植前に標準的なin vitro細胞共培養技術によって、または移植後にin vivo再集合によって、マトリックスへ添加されてよい。In vivo再集合は、無細胞性組織マトリックスへ遊走したレシピエント自身の細胞によるか、またはレシピエントから得た細胞もしくは別のドナーからの組織適合性の細胞の、in situでの無細胞性組織マトリックス内への点滴または注射によるものであってよい。
【0046】
再構成のために選択される細胞の型は、無細胞性組織マトリックスが再構成される組織または臓器の性質に依存し得る。例えば、血管導管の再構成には内皮細胞が重要である。このような細胞は組織の内部表面を裏打ちし、培養によって増殖し得る。内皮細胞は、意図されたレシピエント患者に直接由来するか、または臍帯動脈または静脈に由来してよく、無細胞性組織マトリックスおよびレシピエントに移植された結果としての組成物を再構成するために用いることができる。あるいは、無細胞性組織マトリックスには培養した(自己または同種の)細胞を添加することができる。このような細胞は、例えば標準的な組織培養条件で増殖させた後、無細胞性組織マトリックスに添加することができる。別の実施形態によれば、細胞は組織培養により、無細胞性組織マトリックス内で、および/または無細胞性組織マトリックス上で増殖させることができる。組織培養により、無細胞性組織マトリックス内で、および/または無細胞性組織マトリックス上で増殖させる細胞は、適切なドナー(例えば意図されたレシピエントまたは同種のドナー)から直接得られるか、またはそれらは最初に無細胞性組織マトリックスなしで、組織培養により増殖させることができる。
【0047】
以下の実施例は様々な実施形態をよりよく説明するために提供されるものであり、本開示の範囲を限定するものとしてどのようにも解釈されてはならない。
【実施例1】
【0048】
真皮マトリックスに由来する血管移植片の機能試験
LifeCell Corporation(ブランチバーグ、ニュージャージー州)から市販されている、ヒト無細胞真皮マトリックス(HADM)であるALLODERM(登録商標)を用いて、血管移植片を形成した。HADMは、厚さ0.3〜0.5mmのシートとして供給された。HADMを生理食塩水に30分間浸し、0.5×1.5cmの薄片に切り取った。ALLODERM(登録商標)HADMは未変化の基底膜を含んでおり、HADMの薄片を基底膜と共に管内へ、管の管腔表面に沿って巻きこんだ。単層の管構築物が作り出されるように、管を、連結する端に沿って縫合した。
【0049】
次に血管移植片をラット腹部大動脈置換モデルにおいて試験した。20匹の成体(9〜11週齢)雄Lewisラットを40mg/kgの腹腔内ペントバルビタールによって麻酔した後、各ラットの腹部正中線を切開した。腎動脈の下から大動脈分岐部の直上までの、腹部大動脈の1cmの区域を正中線切開によって切除した。切除した大動脈区域を、HADM由来の血管移植片によって置換した。移植片は同所性の位置に、9−0ナイロンによる断続縫合を用いた端々吻合術によって移植した。移植片の質および移植部位の治癒の程度を、4つの試験エンドポイント(1、3、6、および12か月)において記録した。各エンドポイントで5匹の動物を屠殺した。屠殺した動物から、1cmの血管移植片、および吻合を越えて0.5cmのホスト組織材料(外植片の全長は2cm)を、脾臓およびリンパ節のサンプルと共に切除した。外植切片は、組織学的検査、免疫組織学的検査、SEM(走査型電子顕微鏡)、およびTEM(透過型電子顕微鏡)分析に用いた。移植片の中央部、および移植片−ホスト組織の接触面を示す切除したサンプルは、固定およびそれに続く分析のために、10%ホルマリンまたは8%グルタルアルデヒド中に置いた(SEMおよびTEM分析のため)。
【0050】
臨床所見
血管移植片を受け入れた全ての動物は、外科手術後には正常に回復し、手術されていない動物と同様に、試験期間の間に体重は維持されるかまたは増加した。14匹の動物は、下肢の動きの制限および下肢の病的変化によって証明される移植不全の臨床的徴候を示すことなく、予定された屠殺日まで生存した。1匹の動物は、内部出血により移植後4日目に死亡した。試験の間に、いずれの動物にも外科手術部位における感染は証明されなかった。外植した血管移植片の全体的な所見では、狭窄、動脈瘤、過形成、縫合の裂開、または血栓形成は証明されなかった。加えて、外植した移植片のほとんどは滑らかな管腔表面を有し、石灰化は観察されなかった。2つの移植片(6および12か月に外植された)は、正常な血管構造よりもさらに硬い領域を示したことから、血管の石灰化が示唆された。全ての移植片は、吻合部位において、天然のラット大動脈と良好に統合されていた。
【0051】
組織学的検査
外植した移植片を、H&E(ヘマトキシリンおよびエオジン)およびヴァーヘフファンギーソン染色によって処理した。3か月(図4Aおよび4B)および12か月(図4C〜4G)の、代表的な移植片断面のH&E染色により、線維芽細胞が移植片に再集合し、幾つかの内皮細胞が移植片の管腔表面を裏打ちしていることが示された。図4A〜4Eは、H&E染色した移植片の中央部断面、図4Fおよび4Gは、H&E染色した吻合部位の断面、および図4Hは、移植せずに試験のコントロールとして使用した移植片をH&E染色したものである。
【0052】
外植した吻合部位の組織学的検査により、組織の完全な統合、および移植片のホスト血管へのスムーズな移行が示された。1か月目には炎症性細胞の軽度の浸潤が観察されたが、時間が経つにつれてその程度は減弱し、3か月目には炎症性細胞は観察されなくなったことから、移植した移植片によって慢性炎症は誘導されなかったことが示された。
【0053】
図5Aおよび5Bは、移植片の中央部断面のヴァーヘフ染色を示し、図5Cおよび5Dは、吻合部位の断面のヴァーヘフ染色を示し、図5Eは正常ラット大動脈のヴァーヘフ染色を示し、図5Fはコントロールとして使用した移植前の血管移植片を示す。移植片断面のヴァーヘフ染色により、新媒体(neomedia)はコラーゲンリッチであり、細胞には広くエラスチンが沈着しているように見えることが示された。
【0054】
SEMおよびTEMによる分析
図6A〜6Fは、上記のように産生された血管移植片のSEM顕微鏡像である。図6Aに示すように、移植前の移植片のSEMによって、基底膜の表面には細胞構造が見られないことが示された。外植した血管移植片は、1か月目にその管腔表面に内皮細胞を有し(図6B)、3か月目に管腔表面は内皮型細胞によって完全に覆われた(図6C)。図6Dに示すように、移植片とラット大動脈の接触面には未変化の吻合が見られた。3か月目の移植片の表面(図6E)は、細胞で完全に覆われ、ラット大動脈の表面と区別がつかなかった(図6F)。
【0055】
同様に、1か月目の代表的な血管移植片のTEM顕微鏡像(図7A)は、移植片の管腔を裏打ちする基底膜(BM)を伴う、平坦な内皮細胞を示した。TEM像には、微小線維および濃密体を有する平滑筋細胞(SMC)もまた明らかに見られた。弾性線維の形成を表す、平滑筋細胞の表面に沿って暗く染色される物質がTEM顕微鏡像で観察されたが、形成された弾性線維は、正常ラット大動脈のTEM像に観察される内弾性板(IEL)に比較して未熟であった(図7B)。
【0056】
免疫染色
移植片の管腔表面の内皮細胞の発生を、内皮細胞の染色およびvWF(フォン・ヴィレブランド因子)の染色を用いて確認した。管腔表面における内皮細胞の堆積を同定するため、ラット内皮細胞およびvWFに対する特異的な抗体を用いた。図8Aに示すように、1か月目に内皮細胞が観察されたが、管腔を完全に覆ってはいなかった。図8B、8C、および8Dそれぞれに示すように、3か月目、6か月目、および12か月目には内皮細胞の有意な堆積が観察された。図8E〜8Hに示すように、vWFの免疫組織学的染色によると、移植片の表面全体が内皮細胞により裏打ちされていた。
【0057】
血管移植片への平滑筋細胞および線維芽細胞の再集合が、それぞれα−平滑筋アクチンおよびビメンチンに対する特異的な抗体を用いた染色によって確認された。コントロールとして使用するため、ラット腹部大動脈の断面もまた、α−平滑筋アクチンおよび線維芽細胞に対する抗体を用いて染色した(それぞれ図9Aおよび9F)。1か月目(図9Bおよび9G)、3か月目(図9Cおよび9H)、6か月目(図9Dおよび9I)、および12か月目(図9Eおよび9J)の移植片により、移植後1か月目から、移植片への平滑筋細胞および線維芽細胞の再集合が始まっていることが示された。
【0058】
炎症性および免疫応答
移植した移植片に対するホストの炎症性応答を同定するため、外植片を抗ラットT細胞、B細胞、およびマクロファージ抗体によって染色した。図10A〜10Dはそれぞれ、1か月目、3か月目、6か月目、および12か月目に抗ラットT細胞抗体によって染色した移植片を示す。同様に、図10E〜10HはB細胞抗体によって染色した移植片を示し、図10I〜10Lはマクロファージに対する抗体によって染色した移植片を示す。1か月目に、3つの型の炎症性細胞は全て、外植した移植片に中程度に浸潤していることが見出されたが、新媒体(neomedia)には炎症性細胞の浸潤は検出されなかった。炎症性細胞は3か月目には有意に減少し、観察されるものは主に移植片の周辺部に近いところに見られた。6か月後には炎症性細胞は観察されなかった。
【0059】
同様に、最初の3か月間、移植片には中程度のレベルのIgG抗体が見られたが、新媒体(neomedia)には見られなかった。血管移植片に結合したラットIgG(図11A〜11E)およびIgM(図11F〜11J)について、1か月目(図11Aおよび11F)、3か月目(図11Bおよび11G)、6か月目(図11Cおよび11H)、および12か月目(図11Dおよび11I)に試験した。正常ラット腹部大動脈(図11Eおよび11J)をコントロールとして用いた。図11A〜11Dに示すように、最初の3か月間、移植片には中程度のレベルのIgG抗体が見られた。3か月後、IgGのレベルは有意に減少した。試験の間には、どの移植片にもIgMの体積は見られなかった。
【実施例2】
【0060】
生物学的接着剤を用いて形成した血管移植片の、力学的強度、耐熱性、および血栓性効果の評価
この試験には、ヒト無細胞性真皮マトリックス(HADM)由来の血管移植片を用いた。HADMのシートを管状構築物内へ巻き込み、フィブリン糊を用いてシートの端を付着させた。破裂試験(American National Institute of Standards(ANSI)コード:ANSI/AAMI/ISO7198:1998/2001/(登録商標)2004)を用いて移植片の破裂強度を評価した。最大破裂強度は1639±432mmHg(n=2)と算出され、これにより生物接着剤を用いて形成した血管移植片が生理的な血圧を維持するために十分強いことが示された。
【0061】
真皮マトリックスにおけるコラーゲン変性の開始温度を、示差走査熱量測定(DSC)によって決定した。図12のグラフに示すように、接着させた血管移植片のコラーゲン変性の温度は、ヒト無細胞性真皮マトリックスのものと比較して遜色がない。グラフには、未処理のHADM、ならびにHADMをDERMABOND(登録商標)、フィブリノーゲン、およびキトサンを基にした接着剤により接着して形成した血管移植片の変性開始温度に対応するデータが含まれる。この実験のデータにより、生物接着剤はマトリックスの生化学的性質を変化させなかったことが示される。
【0062】
接着させた血管移植片における抗血栓薬(例えばヘパリン)の有効性を、血餅形成法を用いて評価した。血管移植片を、0.4%ヘパリンナトリウム塩溶液中に室温で24時間浮遊させることにより、ヘパリンコーティングを行った。血管移植片の1cm切片の管腔表面に200μlの血液および12.5μlの100mM CaClを加え、次に移植片切片を37℃、5%C0のインキュベーター内に1時間静置した。鉗子を用いて目に見える血餅を表面から除去し、試験管内に採取し、凍結乾燥後に秤量した。図13のグラフに示すように、ヘパリンの抗血栓性の性質は、ヘパリンが生物接着剤に接触しても影響を受けなかった。グラフには、未処理のHADM、ヘパリン処理したHADM(HADM+Hep)、フィブリノーゲン糊(FG)、ならびにヘパリンおよびフィブリノーゲン糊の両方で処理したHADM(HADM+FG+Hep)において形成された血餅の重量に対応するデータが含まれる。グラフに示すように、ヘパリンおよびフィブリノーゲン糊の両方で処理したHADMにおいて形成された血餅の量は、ヘパリン処理したHADMの血餅のデータと比較して遜色がなかったことから、フィブリノーゲン糊は、真皮マトリックスにおけるヘパリンコーティングの抗血栓作用を妨げないことが示された。
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状壁を含んでなる管状導管を含んでなる血管移植片であって、該管状壁が血流通過のための管腔の輪郭を示し;
該管状壁が、基底膜を有する無細胞性組織マトリックスを含んでなり、該基底膜が管状壁の管腔表面を形成する血管移植片。
【請求項2】
移植片の長さに沿って伸展する流体密封の閉じ目を形成するために、無細胞性組織マトリックスの第1の長軸方向の端が、無細胞性組織マトリックスの第2の長軸方向の端に付着する、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項3】
第1および第2の長軸方向の端の付着が、管状壁の反管腔側の表面から隆起する長軸方向の堤を作り出す、請求項2に記載の血管移植片。
【請求項4】
第1および第2の長軸方向の端が、縫合を用いて付着される、請求項2に記載の血管移植片。
【請求項5】
第1および第2の端が、少なくとも1の接着剤を用いて付着される、請求項2に記載の血管移植片。
【請求項6】
第1および第2の端が、縫合と少なくとも1の接着剤の組み合わせを用いて付着される、請求項2に記載の血管移植片。
【請求項7】
シートの第1の長軸方向の端が、シートの第2の長軸方向の端を越えて伸展することで多層の重なった領域が形成される、請求項2に記載の血管移植片。
【請求項8】
重なった領域における層が互いに付着される、請求項7に記載の血管移植片。
【請求項9】
無細胞性組織マトリックスが真皮マトリックスを含んでなる、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項10】
真皮マトリックスがヒトの皮膚に由来する、請求項9に記載の血管移植片。
【請求項11】
無細胞性組織マトリックスが心膜組織マトリックスを含んでなる、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項12】
無細胞性組織マトリックスが腹膜を含んでなる、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項13】
無細胞性組織マトリックスがヒトレシピエントに対して異種性の組織に由来する、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項14】
組織がα1,3−ガラクトース転移酵素(α1,3GT)を欠損するブタに由来する、請求項13に記載の血管移植片。
【請求項15】
無細胞性組織マトリックスがヒトレシピエントに対して同種の組織に由来する、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項16】
無細胞性組織マトリックスが複数の重ね合わせたシートを含んでなる、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
血管移植片を形成する方法であって、
基底膜を有する無細胞性組織マトリックスのシートを提供する工程;
該シートを管状導管内に形成する工程を含んでなり、該基底膜が管状導管の内部の管腔表面を形成する方法。
【請求項18】
無細胞性組織マトリックスがヒト真皮マトリックスである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
無細胞性組織マトリックスがブタの心膜組織マトリックスである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
シートが組織の再構築を促進する増殖因子によって処理される、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
シートの基底膜が内皮細胞の増殖を増大させる増殖因子によって処理される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
シートの基底膜が抗血栓薬によって処理される、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
シートの基底膜が抗石灰化剤によって処理される、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
基底膜が、管状導管の管腔表面に非多孔性の内面を提供する、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
移植片によって置換される血管組織の内径に実質的に等しい外径を有する円筒型ロッドを提供する工程;および
基底膜の少なくとも一部が円筒型ロッドと接触するように、ロッドの外部表面の周囲にシートを巻きつける工程をさらに含んでなる、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
円筒型ロッドの外部表面の周囲にシートを巻きつける間に、ロッキングロッドまたは張られた縫合糸が、円筒型ロッドに対して実質的に平行に、かつ隣接するように位置決めする工程をさらに含んでなる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
縫合を用いて、シートの少なくとも1の長軸方向の端を固定する工程をさらに含んでなる、請求項17に記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1の接着剤を用いて、シートの少なくとも1の長軸方向の端を固定する工程をさらに含んでなる、請求項17に記載の方法。
【請求項29】
縫合と少なくとも1の接着剤の組み合わせを用いて、シートの少なくとも1の長軸方向の端を固定する工程をさらに含んでなる、請求項17に記載の方法。
【請求項30】
移植片によって置換される天然の血管構造の壁の厚さに対応するように、無細胞性組織マトリックスのシートのサイズを決定する工程をさらに含んでなる、請求項17に記載の方法。

【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図4H】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【図8G】
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【図8H】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図9G】
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【図9H】
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【図9I】
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【図9J】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図10F】
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【図10G】
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【図10H】
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【図10I】
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【図10J】
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【図10K】
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【図10L】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【図11F】
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【図11G】
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【図11H】
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【図11I】
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【図11J】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2013−503696(P2013−503696A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527905(P2012−527905)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/046478
【国際公開番号】WO2011/028521
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(504154148)ライフセル コーポレーション (13)
【氏名又は名称原語表記】LifeCell Corporation
【Fターム(参考)】