説明

無線ネットワークにおけるデータ転送方法および装置

【課題】 無線ネットワークにおいてデータを効率的かつ確実に転送することができるデータ転送方法を提供する。
【解決手段】 無線ネットワークにおいてデータを転送するための中継クラスタのメンバノードを選択するデータ転送方法が提供される。無線ネットワークは1以上の中継クラスタG1_1〜3(第1中継段階のクラスタ)およびG2_1〜4(第2中継段階のクラスタ)を含み、その各クラスタは無線ネットワークの一群のノードから形成される。本方法では、無線ネットワークに属する1つの斯かる中継クラスタのノードによって受信されたデータは、中継クラスタのノードが集団的かつ同時に受信データの中継ノードとして働くように、その受信データを該一群のノードが受信した後に同時に転送することによって同期して転送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線ネットワークにおけるデータ転送方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現行の無線ネットワークにおいてマルチキャストデータの伝送をサポートする技術は新しいマルチキャスト動画サービスの登場によってますます必要なものとなっている。この目的のための一部のソリューションは到来信号を増幅してから転送する中継基地局に重点を置いている。このソリューションの1つの不利な点は、これらの特殊な中継ノードは基地局ほど高価ではないがそれらのコストはそれでも相当なものであるということである。このソリューションの別の不利な点は、中継ノードは決まった場所に決まった設定で展開されているので動的なネットワークトポロジー、チャネル変動またはユーザプリファレンスに適応できないということである。CSMA/CAといった特定のコンテンションベースのアクセスメカニズムを備えたネットワークではマルチキャストはうまくサポートされず、マルチキャスト伝送技術を改善するために提案されたソリューションのほとんどは端末から来るフィードバックまたはACK(Acknowledgement)に依存し過ぎている。また一部の提案されたソリューションではACKフレームは代表格またはクラスタリーダの端末群によってAP(アクセスポイント)に送られる。
【0003】
以下、背景技術のいくつかの例を説明する。
【0004】
最初の例は802.11標準における従来のマルチキャストソリューションである。IEEE802.11準拠WLANの標準的なマルチキャストソリューションではマルチキャストフレームを受信したいステーションはある特定のマルチキャストグループアドレスに登録(あるいは加入)しなければならない。斯かるマルチキャストグループアドレスに登録した宛先ステーションの各ステーションはマルチキャストフレームを受信することができるが、ACKで応答はしない。結果として、マルチキャストはある特定のグループアドレスに登録した全てのステーションへの完全で信頼できるデータフローを保証しない。一般的に言えば、WLANインフラにおけるアクセスポイント(AP)のマルチキャストデータレートが高い値に設定できた場合には、斯かるグループアドレスに登録したステーションのうち、APに近いものは受信状態が良く、それに対してAPから遠いものは何も受信できない可能性がある。これとは全く正反対にマルチキャストフレームのAPにおけるデータレートが最小値(802.11標準で指定されたもの)に設定される場合、例えばAPに近い全てのステーションはマルチキャストフレームを本来ずっと高いデータレートでスムーズに受信することができたので、システムはきわめて非効率となろう。例えばAPに近いステーションの数がAPから遠いステーションの数よりも大きい場合には、上記の非効率性はさらに悪化する。
【0005】
まとめると、802.11標準に対するレガシーマルチキャストソリューションは開ループ系であり、このため受信ノードへ損失パケットを再送したりあるいは受信ノードへの通信路状態に基づいて最良の物理層データレートを選択することは可能ではない。
【0006】
802.11標準におけるマルチキャストでACKが欠如していることはアプリケーションが送るデータの一部が全ての宛先に行き渡っていない可能性があり、受信の成功を示すものが何もないことを意味する。しかし、例えば一部のアプリケーション、特にデータにギャップがあっても構わないようなものについては、このことは全く問題にならい場合がある。例えば、発電所における監視システムからの圧力情報の連続的なストリーミングはトラブルを引き起こすことなく状況更新を時々し損なうことがあり得る。しかしながら、パケットエラーが例えば音声や映像のユーザが認識するクォリティの大きな低下をもたらすことがあり得る他のリアルタイムアプリケーションが存在する。
【0007】
別の例として、非特許文献1は固定されたインフラ中継局を用いた2ホップ伝送プロトコルの理論的な解析を示している。想定されたモデルは非常にシンプルで、2つの中継局と1つの移動局(移動端末)しか持たない。異なる中継メカニズムを平均レート(ビット/秒/Hz)で比較すると、最初のホップで、基地局が移動局を対象とするデータのサブセットだけを各中継局に送信するMIMO同報符号化技術の使用は全データが両方のリレーへ送信されるMIMOマルチキャストと比べて優れたパフォーマンスを持つことが結論付けられる。
【0008】
更なる例として、非特許文献2では3G(第三世代)WCDMA方式のマルチキャスト伝送に分散アンテナを使用することが研究されている。その目的のため、多数のアンテナがカバレッジエリア内に分散し、そのパフォーマンスが従来のマクロセル方式のパフォーマンスと比較される。提案されたシステムは通信事業者(運営者)が膨大な数の加入者に豊富なマルチメディアをWCDMAに割り当てられた無線周波数で同報(ブロードキャスト)することによって配信することを可能にするMBMS(Multimedia Broadcast Multicast Service)の候補と見なされる。研究の結論は、分散アンテナを使用することでより高いデータレートがサポートされ、現行のマクロセルアーキテクチャよりも広いカバレッジが実現されるということである。同じくそれにより、容量(キャパシティ)の均一な分配が実現され、集中制御に対する依存度が低減される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】I. Hammerstrom, M.Kuh and A.Wittneben, “Distributed MIMO for Cellular Networks with Multihop Transmission Protocols", Asilomar Conference on Signals, Systems, and Computers 2006, Pacific Grove, CA, Oct. 2006
【非特許文献2】A. Boal, A.Soares and A. Correia, “Distributed Antenna Cellular System for Transmission of Broadcast/Multicast Services", Vehicular Technology Conference, 2007. VTC2007-Spring, IEEE 65th.
【発明の概要】
【0010】
本発明は、一態様において、無線ネットワークにおいてデータを転送するための中継クラスタ(relay cluster)のメンバノードを選択するデータ転送方法を提供する。前記無線ネットワークは1以上の前記中継クラスタを含み、その各クラスタは前記無線ネットワークの一群のノードから形成されており、前記無線ネットワークに含まれる1つの中継クラスタを構成する一群のノードによって受信されたデータは、中継クラスタのノードが集団的かつ同時に受信データの中継ノードとして働くように、該一群のノードが受信した後に当該受信データを同時に転送することによって、同期して転送され、本方法は、
前記一群のノードから形成された前記中継クラスタのクラスタヘッドを選択するステップと、
選択されたクラスタヘッドから受信された信号の信号強度がある特定の閾値を上回るノードを当該中継クラスタのメンバノードとして選択するステップとを含み、
前記一群のノードから形成された前記さらなる中継クラスタについて、既存の他のクラスタから受信された信号の信号強度がある特定の閾値を下回っているノードのみが該クラスタヘッドの候補と見なされるように、クラスタヘッドを選択し、
前記クラスタヘッドが選択された後に、その選択されたクラスタヘッドから受信された信号の信号強度がある特定の閾値を上回っているノードを当該中継クラスタのメンバノードとして選択することを含むことを特徴とする。
【0011】
中継クラスタのノード達による同時かつ集団的な送信は中継されるべき信号の発信元である基地局またはアクセスポイントのカバレッジを拡大することを可能にする。集団的な行動によってノード達は単一の中継ノードとして働く。
【0012】
本方法は、前記クラスタヘッドからの最大距離を確保することによって、クラスタの異なるノード同士の間のネガティブな干渉を避ける方法でクラスタ形成を実現することができる。
【0013】
上記選択ステップは異なるクラスタ間の最小距離を確保することでクラスタの効率的な分布を実現する。
【0014】
本方法において、その一態様として、前記無線ネットワークは複数の中継クラスタを含んでおり、前記データ転送は複数の連続する中継段階で実行され、各中継段階には前中継段階の間にその前中継段階に割り当てられた中継クラスタから受信したデータを転送する1以上の中継クラスタから構成される対応するグループが割り当てられる。
【0015】
それぞれの対応するクラスタのグループが属する複数の中継段階により、信号伝送のカバレッジと効率を更に拡げる階層化アーキテクチャが実現される。
【0016】
例えば、受信機における十分な高さの信号強度(これはシンプルな屋外伝搬環境では十分短い距離に相当する)によって前中継段階またはAP送信からの良い受信クォリティを推測することができる。従って、以下の説明では用語“距離”は斯かるシンプルな屋外シナリオを想定して使用されることがあるが、このことは提案されたメカニズムの適用範囲を制限するものと解するべきではない。
【0017】
本方法において、その一態様として、クラスタの複数のグループ(以下、それぞれのグループをクラスタグループと呼ぶ)が生成され、その各クラスタグループは対応する中継段階に属し、この対応する中継段階に属する全てのクラスタは信号を同時に送信して転送するように設定されており、
1つのクラスタグループに属するクラスタのメンバは以下の条件、
それらのクラスタヘッドは前中継段階からまたはゼロ番目の中継段階からある特定の閾値を上回る強度で信号を受信する、および/または、
異なるクラスタのクラスタヘッドはそれらが他の既存のクラスタから受信する信号の信号強度がある特定の閾値を下回るようにそれらを選択することによって確保される相互の最小距離を有する、および/または、
クラスタのメンバノードはそれらの対応するクラスタヘッドからある特定の閾値を上回る信号強度で信号を受信する、
に基づいて選択される。
【0018】
クラスタヘッドに対する最小信号強度は基地局からまたは前中継段階からの最大距離(つまり良好な受信クォリティ)を保証する。本方法の一態様としてクラスタヘッドがゼロ番目の中継段階から受信する信号強度は前中継段階のクラスタヘッドがゼロ番目の中継段階から受信する信号強度より低いことが更に必要とされる。
【0019】
クラスタ間の最大信号強度はそれらの間の最小距離を保証する。
【0020】
クラスタメンバに対する最小信号強度はクラスタのメンバが互いに離れすぎていないことを保証する。
【0021】
本方法は、その一態様として、同じ中継段階の2つの同時伝送の間に人為的な遅延時間を導入するステップを更に含む。
【0022】
これにより受信ノードが2つのクラスタの間にあっても信号を復号する能力が確保される。
【0023】
本発明は、一態様において、無線ネットワークにおいてデータを転送するための中継クラスタのメンバノードを選択するデータ転送装置も提供する。前記無線ネットワークは1以上の前記中継クラスタを含み、その各クラスタは前記無線ネットワークの一群のノードから形成されており、前記無線ネットワークに含まれる1つの中継クラスタを構成する一群のノードによって受信されたデータは、中継クラスタのノードが集団的かつ同時に受信データの中継ノードとして働くように、該一群のノードが受信した後に当該受信データを同時に転送することによって、同期して転送され、本装置は、
前記中継クラスタのクラスタヘッドを選択するためのモジュールと、
選択されたクラスタヘッドから受信された信号の信号強度がある特定の閾値を上回るノードを当該中継クラスタのメンバノードとして選択するためのモジュールとを備え、
前記クラスタヘッドを選択するためのモジュールは、前記さらなる中継クラスタについて、既存の他のクラスタから受信された信号の信号強度がある特定の閾値を下回っているノードのみがクラスタヘッドの候補と見なされるように、クラスタヘッドを選択するように構成され、
前記メンバノードを選択するためのモジュールは、前記クラスタヘッドが選択された後に、その選択されたクラスタヘッドから受信された信号の信号強度がある所定の閾値を上回っているノードを当該中継クラスタのメンバノードとして選択するように構成されることを特徴とする。
【0024】
本装置において、その一態様として、前記無線ネットワークは複数の中継クラスタを含んでおり、前記データ転送は複数の連続する中継段階で実行され、各中継段階には前中継段階の間にその前中継段階に割り当てられた中継クラスタから受信したデータを転送する1以上の中継クラスタから成る対応するグループが割り当てられる。
【0025】
本装置は、その一態様として、上記いずれかの態様の方法を実行するためのモジュールを更に備える。
【0026】
本発明は、その一態様として、上記いずれかの態様の方法に従ってデータが転送される無線ネットワークにおいて中継ノードとして働くことを可能にするための1以上のモジュールを備えた無線ネットワークにおけるノードも提供する。
【0027】
本発明は、その一態様として、コンピュータによって実行されたときにこのコンピュータが上記いずれかの態様の方法を実行することを可能にするコンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラムも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】カバレッジ対データレートの特性曲線を示す図である。
【図2】本発明の実施形態が適用された無線ネットワークを示す図である。
【図3】本発明の実施形態における受信信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の最良の形態を添付図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
その前に最初に、以下の説明で用いられる用語(主に頭文字語)について説明する。
SNR:Signal to Noise Ratio、信号対ノイズ比
CRC:Cyclic Redundancy Check、巡回冗長検査
ACK:Acknowledgement Frame、ACKフレーム
RTS:Request-to-Send Frame defined by IEEE 802.11、IEEE802.11に準拠した送信要求フレーム
CTS:Clear-to-Send Frame defined by IEEE 802.11、IEEE802.11に準拠した受信準備完了フレーム
CSMA/CA:Carrier-Sense Multiple Access with Collision Avoidance、搬送波感知多重アクセス/衝突回避方式
AP:AP
MIMO:Multiple Input Multiple Output、多入力多出力方式
MAC:Medium Access Control、媒体アクセス制御
AP:Access Point、アクセスポイント
RSSI:Received Signal Strength Indicator、受信信号強度表示信号
SIFS:Short Inter-Frame Space defined by IEEE 802.11、IEEE802.11に準拠した短フレーム間隔
PHY:Physical Layer、物理レイヤ(または物理層)
【0031】
実施の一形態によれば、無線ネットワーク内にノードから成る1以上のクラスタが形成される。各クラスタはクラスタを形成する複数のノードが受信信号を同時に転送(フォワード)する事実によって仮想的な単一の中継ノードの役割を果たす。
【0032】
実施の一形態として、APまたは基地局によって最初に送信されたマルチキャストデータフレームを同時に送信する協調的中継クラスタを形成する完全分散型スキームが提供される。協調的中継クラスタは、マルチキャストサービスのために提案されたほとんどの代替ソリューションと同様、基地局から/までのリンクのクォリティが低いノードが特定ノードからAPへの大きなフィードバックオーバヘッドを負担する必要なしにマルチキャストパケットを復号するのを支援する分散型MIMOシステムとして振る舞う。パケットを中継するためのノード達の協調のおかげで、本メカニズムはフレームの受信成功率を大きく増大させ、所与のエリアをカバーするためのホップ数を低減し、ネットワークの総スループットを押し上げる。斯かるシステムが802.11標準で機能するようにするにはMAC(媒体アクセス制御)レイヤを少しだけ拡張するだけで済む。以下、これらの拡張の一例に言及する。
・推定段階と中継クラスタ形成段階の間、全てノードは全ての他のノードからの送信を立ち聞きできるようにプロミスキャスモード(Promiscuous Mode)で動作すべきである。
・m番目の段階で形成されるクラスタの最大数はAPによって決定され、N_mと表される。パラメータN_mはあらゆるノードで事前に設定されるかまたはAPによってビーコンで通知される。後者の方法の場合、従来の802.11ビーコンは変更されるべきである。
・m番目の中継段階の最初のクラスタヘッド(第1クラスタヘッド)が自己選択された後、APは第1クラスタヘッドのMACアドレスを含む特別なACKパケットを同報し、第1クラスタヘッドが選ばれたことと、m番目の中継段階伝送に対して最大N_m−1個のクラスタヘッドが残っていることがアナウンスされる。
・m番目の中継段階のクラスタが選択された後、APは最大N_(m+1)個のクラスタヘッドが存在する(m+1)番目の中継段階のクラスタ選択の開始をアナウンスするメッセージを送信する−一般にN_(m+1)はN_mより大きい(N_(m+1)>N_m)。段階の終了と(あれば)次の段階の開始をアナウンスするAPからの特別メッセージは802.11の拡張と言える。
・隠れたクラスタ問題を処理するため、同じ中継段階における2つの連続する中継伝送の間に数ミリ秒程度の人為的な遅延時間Δが信号推定(等価器トレーニング)段階と一緒に導入されることがある。この遅延時間も802.11の拡張を表しているといえる。
【0033】
本発明の実施形態はどんな種類の無線ネットワークにも適用することが可能であり、マルチキャスト伝送とブロードキャスト伝送に適用することができる。以下、本発明の一部の実施形態をIEEE802.11技術に関連して説明する。しかし当業者であればここで説明される原理は他のタイプのネットワークにも、あるいはもっと一般的にどんな種類の無線ネットワークにも適用することができることは理解されよう。
【0034】
実施の一形態によれば、協調的で良く調整された方法でマルチキャストパケットの即時即刻の同時中継を実行するノード(nodes)のクラスタ(cluster)が生成される。ノードクラスタは1つのクラスタからの総受信電力がAPからの受信電力に比肩できる場合に仮想APとして振る舞う。協調クラスタの形成およびそれらの伝送の調整は実施の一形態によれば4つの連続する段階をふむ。
i)推定段階:あらゆるノードは自分自身と他の端末との間のリンクのチャネル状態(通信路状態)を推定する。
ii)データレートの選択段階:APは適正なデータレートを選択し、これは原則的にその後の中継伝送で逐次繰り返される。
iii)クラスタヘッドの選択段階:ノードは自己選択アルゴリズムを実行して中継クラスタのヘッドノードを選択する。
iv)マルチキャスト中継段階:段階iii)で形成されたクラスタ内部の中継ノードの日和見的選択(opportunistic selection)。この段階は段階iii)と同時に実行できる。
【0035】
本発明の実施形態は従来技術と比較して次の様な利点を有する。
1.マルチキャストまたはブロードキャストに対する無線ネットワークのカバレッジエリアが大幅に拡大する。
2.マルチキャスト伝送に対するACKフレームその他のタイプのフィードバックを大幅に削減することが可能である。
3.ネットワークエリアの大きさを固定する場合、ユーザが認識するエンド・ツー・エンドのデータレートが増大する。
4.802.11標準に適用した場合、この標準に対する少しの拡張だけで実装可能である。
【0036】
次に実施の一形態によるメカニズムを以下のネットワーク要素と仮定を含む場合についてより詳しく説明する。
1)マルチキャストデータフレームをM個のマルチキャストグループに加入したいくつかの端末に送信するAPまたは基地局Node−B。
2)APに付随しておりM個のマルチキャストグループに加入したN個の端末。簡単のため、端末はただ1つのマルチキャストグループに加入できると仮定する。
3)ネットワーク内の全てのノードは既存のチャネル状態に基づいてデータレートを変更する適応型レート選択を利用する。
4)N個の端末はNode−Bがカバーするエリア内にランダムかつ均一に拡散している。
5)原則的にはクラスタヘッドノードは定位置にとどまっており、各クラスタの一般ノードの移動性レベルは適度である。
【0037】
これらは本発明を実施するための絶対的な要件ではないが、以下に述べる実施形態の環境を規定するものであることは留意すべきである。当業者であればこの環境は変更できること、例えば上記の伝送はブロードキャスト伝送(同報伝送)も可能であることは理解されよう。
【0038】
実施の一形態において本メカニズムは以下の4段階を包含する。
i)推定段階:あらゆるノードは自分自身と他の端末との間のチャネル状態(通信路状態)を評価する。
ii)データレート選択段階。
iii)クラスタヘッドの選択段階:ノードは自己選択アルゴリズムを実行して中継クラスタのリーダーを選択する。
iv)マルチキャスト中継段階:クラスタ内の中継ノードの日和見的選択。
動的環境では、特にモビリティ(移動性)が存在する場合には、全ての段階は定期的に実行されるべきである。以下、これら4つの段階の各段階についてより詳しく説明する。
【0039】
しかしながら、当業者であれば、中継ノードのクラスタがネットワーク管理者によって事前指定される場合には、例えばクラスタヘッド選択などの一部の段階は必要とはされない。この場合、実施形態はマルチキャスト中継段階(段階iv)だけから成り得る。
【0040】
<推定段階>
推定段階の間、ノードはプロミスキャスモードに設定され、他のノードが基地局にデータパケットまたはプローブパケットを送信しているときにアップリンクチャネルを立ち聞きする。こうして、ノードはそれら自身と他の端末との間のチャネル状態情報、例えばRSSI(Received Signal Strength Indicator)、を収集することができる。この段階の最後にあらゆるノードは聞くことができる全てのノードのノードごとのRSSIを含むリストを手にする。推定段階のデュレーションはネットワーク管理者がネットワークトポロジーとトラフィック状態に基づいて設定することができる。
【0041】
<データレート選択>
ノードは他のノードのチャネル状態についての十分な情報を収集し終わると第2段階(データレート選択)に進む。原則的には中継クラスタはAPがマルチキャストパケットを送信するために先に使用したのと正確に同じデータレートを使用しなければならない。従って、まず最初に、APは特定の802.11g屋外環境に対する図1に示すようなカバレッジ対データレートの特定曲線(例えば非特許文献[Romano, “The Range vs. Rate Dilemma of WLANs", April 2004, CommsDesign, http://www.commsdesign.com]参照)に基づいてマルチキャストパケットを送信するための適正なデータレートを決定しなければならない。この曲線は現場測定で得られる。受信側で遅延信号の重ね合わせ(これがあるとパケットの復号が不可能になる)を避けたいのであれば中継クラスタの選択は注意深く実行されなければならない。このプロセスは次の段階で実行される。
【0042】
<中継クラスタの形成段階>
実施の一形態においてクラスタを形成するメインゴールは仮想的な中継APとして機能することが可能な互いに近いノードから成るグループを生成することにある。さらに、実施の一形態によれば、受信側で重畳信号を復号することが不可能なレベルのマルチユーザ干渉を避けることができるようにクラスタは互いに十分遠く離れていなければならない。
【0043】
実施の一形態によれば中継クラスタの選択は完全分散方式で実行される。マルチキャスト伝送の間、ノードクラスタ群はAPが送信したマルチキャストパケットを一群の連続する中継伝送で中継する。これらの中継段階の各段階ごとに、中継伝送はマルチキャストパケットを受信した所定の期間、好ましくは短い期間(例えば802.11標準におけるSIFS期間)後に始まり、前中継段階(前回の中継段階)と正確に同じPHYレートを使用する。
【0044】
以下、実施の一形態によるクラスタ形成プロセスについてより詳しく説明する。
【0045】
最初に、第1中継段階(1番目の中継段階)のクラスタが形成される。本実施形態では信号の発信元(0番目の中継段階)はアクセスポイントまたは基地局である。第1中継段階のクラスタは基地局から受信した信号の転送を実行し、第2中継段階のクラスタは第1中継段階の間にこの第1中継段階に属するクラスタから受信した信号を転送する。以下、同様である。
【0046】
クラスタのノードを選択するため、実施の一形態によれば最初にクラスタヘッドがランダムに選択される。可能なクラスタヘッドの数を制限し、それらが前回の中継ステージに十分近くにあることを保証するため、前回の中継ステージからまたは信号の発信元であるアクセスポイントから所定の閾値を上回る強度で転送されるように信号を受信するノードだけがクラスタヘッドの候補と見なされることが許される。結果の候補の中からクラスタヘッドはランダムに選ぶことが許される。クラスタヘッドが選択されたら、クラスタの更なるノードはそれらがクラスタヘッドから所定の閾値を上回る強度で信号を受信するという基準に基づいて選択されることが許される。
【0047】
次のクラスタヘッドは再びランダムに選ばれることが許される。この場合、更なる基準として既存のクラスタから信号を所定の閾値を下回る強度で受信するノードのみがクラスタヘッドの候補となり得ることが用いられることがある。これにより、クラスタ間の最初距離が確保され、クラスタ同士の間のネガティブな干渉が避けられる。
【0048】
このようにしてクラスタヘッドおよびそれらの対応するノードは第1中継段階の全てのクラスタが形成されるまでに選択することができる。
【0049】
2番目の中継段階のクラスタも同様に形成することができる。
【0050】
次に実施の一形態によるクラスタ形成についてより詳しく説明する。
【0051】
第1段階の間に形成されるクラスタの最大数(第1中継段階のクラスタの最大数)はAPによって決定され、N_1で表される。パラメータN_1はあらゆるノードで事前設定されるかまたはAPによってビーコンを通じて通知される。APからパケットを所定値R_AP_1よりも大きなRSSIで受信する全てのノードはクラスタヘッドに成ることを争うために一様分布確率pをローカルに計算する。この確率フィルタ(p≦閾値)を通過するノードは「私が1番目の中継クラスタヘッドであり、フェーズ1における残りのクラスタヘッドは最大(N_1−1)個である」と読めるメッセージを送信するためにチャネルを争い取る。この後すぐに、APは、第1クラスタヘッドのMACアドレスを含む特別なACKパケットを同報して、第1クラスタヘッドが選ばれており、第1段階の中継伝送の残りのクラスタヘッドは最大(N_1−1)個であることをアナウンスする。このACKパケットはネットワーク内の全ての移動局がそれを復号することが可能なように可能な最低PHYレート(例えば802.11gにおける6Mbps)で送信されるべきである。
【0052】
第1クラスタヘッドが選ばれた後、以下の条件を満足するノードは第1クラスタのメンバとして自己選択する。
条件:第1クラスタヘッドからパケットをRSSI_clusterよりも大きなRSSIで受信すること−第1クラスタヘッドのMACアドレスまたはID(identity)は全てのノードに既知である。
【0053】
第1クラスタのメンバが選択されたら、クラスタヘッドのアナウンスACKから所与の時間(例えば802.11におけるSIFS)の後、それらの全てはネットワーク内の全ての他のノードによって聞かれる所定数のプローブパケットを同時に送信する。
【0054】
第2クラスタヘッドを選択するために同じ基本手続きが繰り返される。つまり、APからメッセージを所定値R_AP_1よりも大きなRSSIで受信し(これによりAPからの最大距離が確保される)、かつ第1クラスタによる同時伝送をR_C1より小さなRSSIで受信する(これにより既存クラスタからの最小距離が確保される)全てのノードはチャネルを獲得して第2クラスタヘッドに成ることを争うために一様分布確率pをローカルに計算する。最初のRSSI条件をパスするとともに確率フィルタを通過するノードは第2クラスタヘッドになることを争う。第2クラスタヘッドは最小PHYレートで「私が第2クラスタヘッドであり、フェーズ1における残りのクラスタヘッドは最大(N_1−2)個である」と読めるパケットを送信する。APはこのメッセージにACK応答し、第2クラスタヘッドのMACアドレスを同報する。第2クラスタヘッドが選ばれたら、第2クラスタの他のメンバは以下の条件に従って第1クラスタのものと正確に同じ方法で自己選択する。
条件:第2クラスタヘッドからパケットをRSSI_clusterよりも大きなRSSIで受信すること−第2クラスタヘッドのMACアドレスまたはID(identity)は全てのノードに既知である。
【0055】
第2クラスタの全てのメンバが選択された後、第2クラスタヘッドのアナウンスACKの受信から決まった時間の後、全てのノードはネットワーク内の全ての他のノードによって聞かれるいくつかのプローブパケットを同時に送信する。
【0056】
第3クラスタヘッドはAPをR_APよりも大きなRSSIで聞き、それと同時にクラスタ1および2による送信をR_C1より小さなRSSIで聞かなければならない。以下、同様である。フェーズ1のN_1個全てのクラスタが選択されるまであるいはn番目のクラスタの同時伝送とn+1番目のクラスタヘッドからのメッセージの間でSIFSより長い期間が経過するまで、実施の一形態による全体の手続きが繰り返される。最初の中継段階のクラスタが選択された後、APは最大N_2個のクラスタヘッドが存在する第2段階のクラスタ選択の開始をアナウンスするメッセージを送信する。ただし実施の一形態によればN_2はN_1よりも大きい。
【0057】
第2中継段階のクラスタは第1段階と同じような方法で選択される。しかしながら、RSSIの閾値レベルはこの場合APと他のクラスタの送信に対してそれぞれR_AP_2とR_C2である。実施の一形態によれば強度R_AP_2はアクセスポイントまたは基地局(第ゼロ中継段階)から受信される信号の強度である。また更なる実施形態によればそれは前中継段階からの1以上のノードから受信される信号の強度である。第2段階の中継クラスタが第1段階の中継クラスタよりもアクセスポイントから更に遠く離れていることを確実にするため、追加の条件として、R_AP_2がある閾値を超えているという条件だけでなく更にそれがある閾値未満にあるという条件も使うことが許される。
【0058】
第3段階または(必要なら)何か更なる段階に対して、クラスタノードを選択するための手続きが正確に同じ方法で実行することが許される。
【0059】
全てのクラスタが形成されたら、システムはマルチキャスト中継段階に移行することができる。
【0060】
<マルチキャスト中継段階>
前段階において全ての中継段階のあらゆるクラスタのメンバの選択が完了している。本段階では、クラスタノードはそれらがいくつかの中継段階でAPから受信するマルチキャストパケットを中継する。従って、第1中継段階のクラスタノード(基地局を中心とする最初の“円”上に存在するもの)はAPによって選ばれた同じデータレートで同時に送信する。第1中継段階から決まった時間(例えば実施の一形態によれば802.11のケースにおけるSIFS期間)の後に第2中継段階の全てのクラスタノード(基地局を中心とする2番目の“円”上に存在するもの)が同時に送信する。以下同様である。
【0061】
同期は例えば実施の一形態によれば受信信号のユニット(フレームまたはパケット)を受信した後にある所定の時間(非常に短くほとんどゼロであることが可能である)が経過するのを待って中継伝送をトリガーすることによって実現可能である。このようにして信号(またはそのユニット)の受信の完了によって中継伝送をトリガーすることが可能である。このメカニズムは全ての中継ステージで次の中継伝送をトリガーすることに使用することができる。
【0062】
集団的な中継伝送によってカバレッジを拡げることが可能であり、データレートが増大可能である。
【0063】
説明を明確にするため、図2に示した例においてノードAを議論することができる。APは図1に示したような特性曲線に基づいて伝送速度を18Mbpsに選択したとする。ノードAはAPから非常に遠く離れているが、まもなく始まるマルチキャスト期間をアナウンスするビーコンを聞くことが可能である。ビーコンは6Mbpsで送信されるからである。ノードAはマルチキャストトラフィックが到来していることを知っているが、APによって18Mbpsで送信されたパケットも18Mbpsの第1中継伝送もSNRが低いために復号することができない。ノードAはクラスタG2_1に近く、従って中継伝送の第2段階においてクラスタG2_1のノードの同時伝送から非常に強い信号を受信し、図3に示すようなクラスタG2_2、G2_3およびG2_4からはずっと弱い遅延信号を受信する。従って、ノードAはG2_1による伝送からマルチキャストパケットを復号することが可能である。
【0064】
ノードが同じ中継段階のお互いに譲らない2以上の異なるクラスタの送信エリア内にある場合、高い確率で両方のクラスタから到来する重畳信号(重ね合わせ信号)を復号することは不可能である。図2に示した例ではノードBはG2_1とG2_2の間のそのような位置にある。この問題に対処するため、同じ中継段階における2つの中継伝送の間に人為的な短い遅延時間Δ(例えば数ミリ秒程度の短さ)を信号推定(等価器トレーニング)段階と一緒に導入することができる。
【0065】
しかしながら、その難しい位置関係にあっても図2のノードBは、単に偶然に、APのまたは第1段階の中継伝送の際に、マルチキャストパケットを事前に復号することが可能な状態にあり、第2中継段階はそれにとっては既に関係のないものとなっていた可能性がある。以前の中継段階のこの日和見的受信は、APから遠く離れているノードにとってパケットを成功裏に復号するチャンスを増やし、実施の一形態によるメカニズムの複数の中継段階の別の利点である。
【0066】
複数のクラスタの衝突を避けるための別の解決策として受信端末において指向性アンテナを使用することが考えられる。これにより特定のクラスタの方向に他のクラスタの方向よりも高い利得が得られる。
【0067】
<パフォーマンス評価>
次に“グループ”形成と“同時”マルチキャストまたはブローキャスト伝送といった2つの特徴によって与えられる利得について説明する。“同時伝送”と“グループ形成”の利得を個別に説明する前に、非常にシンプルな例を最初に説明する。
【0068】
<一般例>
図1に示すような屋外環境における802.11g標準の一般的なデータレート対距離曲線を議論することにする。またネットワークトポロジーはAPが同報パケット(ブロードキャストパケット)を送信している以下に示すものであると仮定する。従来の802.11マルチキャスト方式ではAPは最低可能データレート(6Mbps)で送信してAPから300m離れたところに位置するステーションGとHを含む全てのステーションに到達しなければならない。
【0069】
従来のマルチキャスト方式:
A D
(AP) B E G
C F H
←―――300m――――→
6Mbps
【0070】
ステーションの送信電力はAPの1/3であると考えることが許される。同時伝送を行う提案された中継クラスタを使用すると、APは代わりにカバレッジが160mの18Mbpsで送信ができる。このときノードABCはパケットをカバレッジが160mの18Mbpsで中継でき、最後にノードDEFは再びパケットをカバレッジが160mの18Mbpsで中継できる。結果は、下の図が示すように、エンド・ツー・エンドのデータレートは6Mbpsで、しかしカバレッジは480mである。これは当初の方式と比べてカバレッジが50%以上増大することを示している。しかし結果はそれだけではない。多重中継伝送はネットワーク内の多数のノードに時間・空間ダイバーシチも与える。
【0071】
本発明の実施の一形態によるマルチキャスト方式:
A D K L
(AP) B E G M N
C F H O
←――――――480m――――――→
6Mbps
【0072】
次に、上記ネットワーク例の300mのカバレッジは固定されたと考えることが許される。図1の特性曲線によれば、このケースではAPはカバレッジが105mの24Mbpsで送信することができる。このときクラスタ{ABC}はカバレッジが105mの24Mbpsで中継し、最後にクラスタ{DEF}はカバレッジが105mの24Mbpsで中継する。従って下の図が示すように、エンド・ツー・エンドのデータレートは8MBpsでカバレッジは315mになる。このことは従来のマルチキャスト方式と比べてデータレート利得は33%であり、カバレッジ利得はわずかに増大することを示している。
【0073】
本発明の実施の一形態によるマルチキャスト方式:
A D
(AP) B E G
C F H
←―――315m―――→
8Mbps
【0074】
上述した利点が現実のものとなるには、クラスタ{ABC}およびクラスタ{DEF}はそれらの送信電力、相互距離およびネットワーク内の全ての他のノードまでの距離を考慮に入れて注意深く形成されるべきである。前述の説明では効率的な方法でクラスタを形成するためにこの問題に対処するためのメカニズムが提案された。
【0075】
次に、単純化したシナリオを使用して、“同時”伝送と“グループ”伝送を個別に説明する。
【0076】
<“同時”伝送の利得>
次の様なトポロジーを考えることが許される。
(AP)
A B
C D
(AP):アクセスポイント
A、B:2つの別個のノード
【0077】
APがAとBによって(それらの“領域”CとDをそれぞれカバーするために)中継されるデータを流す古典的なマルチキャストシナリオでは、3つの時間スロットが必要とされる。つまり、APが送信し、次にAが送信し、次いでBが送信する。
【0078】
AとBが“同時”に送信することを許すことにより、マルチキャストは2つの時間スロットで済まされる(3つの時間スロットに対して2つの時間スロットで済むので、利得=3/2)。これが成功裏に実行されるためには、AとBの間の距離にいくつかの制約(以下、制約群1と呼ぶ)を課すことが必要である。
【0079】
<“グループ”伝送の利得>
次の様なシナリオを考えることが許される。
(AP) ABC DE F
(AP):アクセスポイント
A、B、C、D、E、F:6つの別個のノード
【0080】
APは、全てのエリアをカバーすることを意図して、ブロードキャストデータを流す。
A.マルチホップ対シングルホップ
−−−−−−−−−−−−−−−−
APがシングルホップ(単一ホップ)であらゆるノードに限られた送信電力で到達しようとする場合、APは長い距離を低い誤り率でカバーするために低いデータレートを使用しなければならない。マルチホップを使用すると、1つの時間スロットの代わりに少なくとも2つの時間スロットを必要とするが、より高いエンド・ツー・エンドレートが実現できる。
B.クラスタヘッド単独またはクラスタ全体が中継すべきか?
−−−−−−−−−−−−−−−−
BがクラスタABCのクラスタヘッドであると仮定することが許される。グループ再送が一切用いられない場合、クラスタヘッドBはAPからのデータを中継し、次いで(例えば)Dがそれを最終的に3ホップでFに到達するように再び中継する。
その他の可能性は単一の送信でFに到達するのに十分な合成電力を持つ“中継グループ”ABCを形成することであろう。
前パラグラフではホップ数を増やすことが好まれたが、いまの場合はホップ数を減らすことを考えていることに留意すべきである。しかしながら、これは最適なエンド・ツー・エンドのデータレートはシングルホップと多すぎるホップとの間のどこかにあるからである。
3ホップの代わりに2ホップはデータレートの利得3/2をもたらす。
宛先で復号可能でありながら(ちょうどマルチパス無線伝搬のような)斯かる中継“グループ”を形成することが“第2制約群”と見なされる。
【0081】
<考察>
前例に示したグループ中継の利得(3/2)は線形トポロジーに相当する。2Dトポロジーでは、それは前述の同時(単一ノード)中継の利得(3/2)と組み合わされる。
【0082】
一般例は下図のようなものである。
AP
/ \
ABC−−DEF
/ \
GH IJ
/ \
K L
【0083】
同時伝送のない単一ノード(クラスタヘッド)中継のみを考える場合には、あらゆるものに到達するのに5回の送信で終わる。つまり、
APが送信し、次にB、次にEが送信し、続いてG(Bの後)、続いてI(Eの後)が送信する。
【0084】
同時グループ中継を使用する場合には、2回の送信(時間スロット)だけを用いてあらゆるものに到達することができる。つまり、
APが送信し、次にABCとDEFが(同時に)送信する。
【0085】
従って、このときの利得は5/2である。これは楽観的シナリオであるが、しかしネットワークトポロジーが何であれ、グループが適正に形成されるならばネガティブな利得は決して得られることはない。
【0086】
それ故、“同時”中継“グループ”を構築するための制約は両方の制約群の組み合わせである。同様にこれらの同時中継伝送からの利得は前述した両方のシナリオの結果である。
【0087】
上記の実施形態は、ハードウェア、ソフトウェア、あるいはハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって実施することができることは当業者であれば理解できよう。本発明の実施形態に関連して説明されたモジュールおよび機能は、全体的または部分的に、本発明の実施形態に関連して説明された方法の通りに動作するように適切にプログラムされたマイクロプロセッサまたはコンピュータによって実現することができる。本発明の実施形態を実現する装置は例えば、本発明の実施形態で説明された方法を実行することが可能なように適切にプログラムされており無線ネットワーク内のノードその他の構成要素として働くコンピュータデバイスまたは携帯電話機その他のモバイル機器を構成することができる。
【0088】
本発明の実施の一形態として、データキャリアに格納された、あるいは他の方法で記録媒体もしくは伝送リンクといった何らかの物理的手段によって具現化されたコンピュータプログラムであって、コンピュータ上で実行されたときにこのコンピュータが上記実施形態に従って動作することを可能にするコンピュータプログラムが提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線ネットワークにおいてデータを転送するための中継クラスタのメンバノードを選択する方法であって、前記無線ネットワークは1以上の前記中継クラスタを含み、その各クラスタは前記無線ネットワークの一群のノードから形成されており、前記無線ネットワークに含まれる1つの中継クラスタを構成する一群のノードによって受信されたデータは、中継クラスタのノードが集団的かつ同時に受信データの中継ノードとして働くように、該一群のノードが当該受信データを受信した後に同時に転送することによって、同期して転送され、
前記一群のノードから形成された前記中継クラスタのクラスタヘッドを選択するステップと、
選択されたクラスタヘッドから受信された信号の信号強度がある特定の閾値を上回るノードを当該中継クラスタのメンバノードとして選択するステップとを含む方法であり、
前記一群のノードから形成された前記さらなる中継クラスタについて、既存の他のクラスタから受信された信号の信号強度がある特定の閾値を下回っているノードのみがクラスタヘッドの候補と見なされるように、クラスタヘッドを選択し、
前記クラスタヘッドが選択された後に、その選択されたクラスタヘッドから受信された信号の信号強度がある特定の閾値を上回っているノードを当該中継クラスタのメンバノードとして選択する、方法。
【請求項2】
前記無線ネットワークは複数の中継クラスタを含んでおり、前記データ転送は複数の連続する中継段階で実行され、各中継段階には前中継段階の間にその前中継段階に割り当てられた中継クラスタから受信したデータを転送する1以上の中継クラスタから成る対応するグループが割り当てられている、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
クラスタの複数のグループが生成され、その各グループは対応する中継段階に属し、この対応する中継段階に属する全てのクラスタは信号を同時に送信して転送するように設定されており、
1つのグループに属するクラスタのメンバは以下の条件、
1)それらのクラスタヘッドは前中継段階の最大全てのノードまでの1以上のノードからまたはゼロ番目の中継段階からある特定の閾値を上回る強度で信号を受信する、および/または、
2)それらのクラスタヘッドは前中継段階の最大全てのノードまでの1以上のノードからまたはゼロ番目の中継段階からある更なる特定の閾値を下回る強度で信号を受信する、および/または、
3)異なるクラスタのクラスタヘッドはそれらが他の既存のクラスタから受信する信号の信号強度がある特定の閾値を下回るようにそれらを選択することによって確保される相互の最小距離を有する、および/または、
4)クラスタのメンバノードはそれらの対応するクラスタヘッドからある特定の閾値を上回る信号強度で信号を受信する、
に基づいて選択される、ことを特徴とする請求項1または2に記載の転送方法。
【請求項4】
同じ中継段階の2つの同時伝送の間に人為的な遅延時間を導入するステップを更に含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
無線ネットワークにおいてデータを転送するための中継クラスタのメンバノードを選択する装置であって、前記無線ネットワークは1以上の前記中継クラスタを含み、その各クラスタは前記無線ネットワークの一群のノードから形成されており、前記無線ネットワークに含まれる1つの中継クラスタを構成する一群のノードによって受信されたデータは、中継クラスタのノードが集団的かつ同時に受信データの中継ノードとして働くように、該一群のノードが当該受信データを受信した後に同時に転送することによって、同期して転送され、
前記中継クラスタのクラスタヘッドを選択するためのモジュールと、
選択されたクラスタヘッドから受信された信号の信号強度がある特定の閾値を上回るノードを当該中継クラスタのメンバノードとして選択するためのモジュールとを備えている装置であり、
前記クラスタヘッドを選択するためのモジュールは、前記さらなる中継クラスタについて、既存の他のクラスタから受信された信号の信号強度がある特定の閾値を下回っているノードのみがクラスタヘッドの候補と見なされるように、クラスタヘッドを選択するように構成され、
前記メンバノードを選択するためのモジュールは、前記クラスタヘッドが選択された後に、その選択されたクラスタヘッドから受信された信号の信号強度がある所定の閾値を上回っているノードを当該中継クラスタのメンバノードとして選択するように構成される、装置。
【請求項6】
前記無線ネットワークは複数の中継クラスタを含んでおり、前記データ転送は複数の連続する中継段階で実行され、各中継段階には前中継段階の間にその前中継段階に割り当てられた中継クラスタから受信したデータを転送する1以上の中継クラスタから構成される対応するグループが割り当てられている、ことを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載された方法を実行するためのモジュールを更に備えていることを特徴とする請求項5または6に記載の装置。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載された方法に従ってデータが転送されるネットワークにおいて前記ノードが中継ノードとして働くことを可能にするための1以上のモジュールを備えていることを特徴とする無線ネットワークにおけるノード。
【請求項9】
コンピュータによって実行されたときにこのコンピュータが請求項1乃至4のいずれか1項に記載された方法を実行することを可能にするコンピュータプログラムコードを含むコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−260967(P2009−260967A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−97997(P2009−97997)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】