説明

無線中継装置

【課題】マンホール蓋の取り扱いが容易で、マンホール蓋に穴をあけるなど、複雑な加工を施す必要がなく、設計・施工が容易な無線中継装置を提供する。
【解決手段】本発明の無線中継装置は、マンホール蓋1直下の地下道に設置され、地下道を伝搬する電波を反射して地下と地上との間の無線信号の送受信を仲介する無線中継装置であって、地下道を伝搬する電波をマンホール蓋1の周囲の電波透過性構造材料2に向けて反射する反射体5を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下の通信設備や電力設備、下水道設備等の状態監視に有用な無線中継装置に関する。なお、本発明の対象となるマンホール蓋は、直接は、地中や地下道に通じ作業員が入るための竪穴であるマンホールに被せる蓋を意味するが、本発明は作業員が入らない、いわゆるハンドホールに被せる蓋についても適用し得るから、本発明でいうマンホール蓋にはハンドホール蓋をも含むものである。また、本実施例において、地下埋設物は通信ケーブルとして説明するが、上下水道管、ガス管、電力ケーブルのいずれでもよく、これらの場合、測定事項は通水状態、水質、漏水、ガス漏れ、漏電、断線等となる。
【背景技術】
【0002】
インターネットでの動画配信など、高速・大容量の通信情報を各家庭に提供するために、地中に埋設された光ファイバケーブル網を使用した光通信システムが実用化されている。地中に埋設された光ファイバケーブルは、電柱を介して地上に引き出され、電線に設置されている架空クロージャを経由して、各家庭に設置される光回線終端装置に引き込まれる。さらに、光回線終端装置と接続されたパソコン等の情報端末機を使用し、インターネット網での通信の送受信に活用されている。
【0003】
このような光通信システムの地下に設置された通信設備の点検には、定期的に作業員がマンホール内に入って巡回点検を実施しているが、このような点検の作業は危険が伴う困難な作業となる。このため、地下の通信設備等の状態の遠隔監視のために、地下の通信設備等に温度センサや浸水センサ等を設置し、マンホールの内部と外部とを無線接続による中継を行うことで地上と地下とのセンサ情報のやりとりを行う方法が提案されている。このような用途に用いる無線中継装置として、これまでに以下の様々な方法が提案されている。
【0004】
(1)マンホール蓋そのものをアンテナとして動作させ、地上との無線接続に利用する無線中継装置(例えば特許文献1の「人孔内監視装置に使用する伝送装置」)。
【0005】
図11は従来のマンホール蓋そのものをアンテナとする構成の蓋部構造の詳細図である(本従来例は地中送電線路監視用のマンホールへの適用を目的としており、地中送電線路用の人孔の地上開口部は、強固な金属製外蓋34及び水没防止用の金属製中蓋35の二重構造となっている)。
【0006】
受信用中継アンテナ31は、インピーダンス整合回路32の入力端に接続されマンホール中蓋35の下面側に設置され、その長さは無線信号の半波長分の長さに設定されている。
【0007】
インピーダンス整合回路32は容量CとインダクタンスLとから構成される。インピーダンス整合回路32を収容した中継アンテナ用固定絶縁体33は、マンホール中蓋35に形成した窓部35aに嵌め込まれてマンホール中蓋35を上下に貫通し、その入力端がマンホール中蓋35の下面側に突き出し、その出力端がマンホール中蓋35の上面側に突き出している。マンホール中蓋35の上面側に突き出したインピーダンス整合回路32の出力端には静電容量形成用の電極36が接続される。電極36はマンホール外蓋34との間で静電容量37を形成するように適当な大きさの表面積を持ち、この静電容量結合によりマンホール外蓋34はアンテナとして機能する。
【0008】
マンホール内に設置された無線送信機38から送信された無線信号は、受信用中継アンテナ31によって無線信号の送信電力を抽出し、インピーダンス整合回路32、及びこれに接続された電極36とマンホール外蓋34の下面との間の静電容量Cを通してマンホール外蓋34に最大電力を給電する。これによりマンホール外蓋34はアンテナとして機能し、地上に無線信号が放射される。
【0009】
本従来例では、受信用中継アンテナ31とインピーダンス整合回路32はマンホール中蓋に設置されているだけであり、作業者が人孔内に出入りする場合に、マンホール中蓋の開閉に支障を来たすことはない。しかしながら、本従来例では、マンホール蓋そのものをアンテナとしているため、アンテナのインピーダンスマッチングをとる必要がある等、設計が難しいという問題がある。また、マンホール中蓋に穴をあけるなど、複雑な加工を施す必要があるという問題がある。
【0010】
(2)マンホール蓋に開けられている鍵穴等の穴に、スロットアンテナを嵌め込み、アンテナとして動作させ、地上との無線接続に利用する無線中継装置(例えば特許文献2の「スロットアンテナ」)。
【0011】
従来の無線中継装置に用いるスロットアンテナの構成を図12に示す。マンホール蓋42に設けられている鍵穴42a内に本体部41を装着し、本体部41を形成する導体部43に誘電体が充填されているスロット部44を形成する。本体部41の裏面であるマンホール内から、スロットアンテナ45に給電する。既存の鍵穴等の穴を利用するためマンホール等に加工を施すことがないと共に、マンホール等から突出することのないアンテナを形成できる。しかしながら、マンホール蓋の裏面近傍に給電点および給電ケーブルを取り付ける必要があり、マンホールの開閉によって給電ケーブルを損傷したり、場合によっては切断することがないよう、蓋の開閉動作を慎重に行う必要があるという問題点がある。
【0012】
(3)既設のマンホールの蓋の裏面の穴の近傍にアンテナを設置して電磁波を地上に放射し、無線接続に利用する無線中継装置(例えば特許文献3の「マンホールの遠隔監視装置」)。
【0013】
図13に示すように、既設のマンホール蓋の穴の近傍(例えば30cm以内)にマンホール蓋の裏面側から電磁波を放射するアンテナと通信ユニットを設置し、地上の携帯電話回線網と電磁波の授受を行う下水道のマンホール内の無線中継装置が提案されている。しかしながら、マンホール蓋の穴の近傍にアンテナを取り付けるため、マンホールの蓋の開閉の操作が煩雑になり、注意が必要となる。また、通信ユニットからの信号をマンホール蓋に設けたアンテナまで接続ケーブルを介して伝送するので、マンホール内に侵入した雨や泥水などによって腐食したり接触不良を起こす恐れもある。さらに、マンホールの蓋の穴の金属厚は数cm程度と厚く、穴の内径が数cm以下の場合は、電気的には一種の円形状の金属導波管とみなすことが可能である。導波管は、その内径によって決まる特定周波数(遮断周波数Fcと呼ぶ)以下の電磁波成分を遮断する特徴を有している。例えば、内径が25cmの円筒形状の導波管では、遮断周波数Fcが約0.7GHzとなり、これ以下の周波数では導波管の減衰量が無限大となる(例えば特許文献4の「ガス絶縁機器の内部異常検出装置」を参照)。
【0014】
なお、内径が小さくなるほど遮断周波数Fcは高くなる。したがって、使用する無線周波数にも依存するが、マンホールの穴の直径として数十cm以上の大きさが望ましく、穴の内径が数cm以下では電磁波の遮断による減衰量が極めて大きく効率が悪いという問題点を有している。
【0015】
(4)マンホールに地上の電波を送受信するアンテナとマンホール内の電波を送受信するアンテナを有する中継器を取り付け、マンホール内の分岐点に反射板を設置して地上との無線接続に利用する無線中継装置(例えば特許文献5の「移動通信システムと無線中継器」)。
【0016】
図14を参照すると、移動局(MS)61は、無線回線を介してアンテナ79により無線中継器(RPT)62と接続されており、無線中継器62はアンテナ70により下水道73内で上記と同じ周波数の無線回線を介してアンテナ70で受ける無線基地局(BS)
63と接続され、基地局制御装置(BSC)64、移動通信交換局(MSC)65を介して公衆電話網66と接続されている。
【0017】
無線中継器(RPT)62は、地下の下水道内向け無線送受信機並びにアンテナ、地上の移動局61向けの無線送受信機並びにアンテナ、そして制御部等から構成されている。無線周波数は地上の移動局61と下水道内の無線基地局(BS)63とへ同一周波数により送受信するので、ブースター又はリピータとして動作する。
【0018】
無線中継器62は、マンホール蓋75に組み入れられ、下水道内送受信アンテナ70により無線基地局との無線送受信を実行しており、下水道内反射板68、69を用いて、下水道内を伝搬する。下水道内反射板68、69それぞれの反射板の縦および横の寸法は下水道73内を伝搬する無線周波数の1波長分の長さで構成されている。
【0019】
下水道73が円筒形の排水筒である場合で、水平面状で直角に曲げられ、又は分路や合成路を設けられている場合でも、反射板68、69によって一方向へ無線電波を逐次反射して伝搬できるように配設され、配管に従って、無線伝送を実現できる。
【0020】
従来、直線部分の下水道ではそれほどの伝搬損失は発生しないが、分岐や折れ曲がりを伴った場合、無線伝搬損失が大きくなり、使用することができなかった。本従来例ではこのような問題点を解決するため、下水道内の分岐点に反射板を置くことで、曲がった先の下水道内の電界強度を確保することが可能となった。しかしながら、本従来例では、中継器を取り付けるためにマンホール蓋に穴をあけるなど、複雑な加工を施す必要があるという問題点を有している。
【0021】
(5)マンホール周囲に施されたアスファルト舗装あるいはコンクリート舗装から電波を通し、地上との無線接続に利用する無線中継装置(例えば非特許文献1)。
【0022】
図15は、従来の無線中継装置を設置した典型的な上水道マンホールの概略図とその構造の一部を拡大して示した拡大断面図である。土壌(土層)84には送水管87が埋設されており、送水管87に関連してマンホールが設置されている。マンホールはコンクリート壁83により内部に空間を確保し、上部にはマンホール蓋81が設けられている。アスファルト層あるいはコンクリート層82は埋設固定されている受け環81bをもち、蓋本体81aは、前記受け環81bで着脱または開閉自在に保持されている。また、コンクリート壁83の底から水道管空気弁86が内部空間内に突出させられている。配水される水の圧力、速度その他のデータは、配管に関連して設けられている図示しないセンサ等によって取得させる。これらのデータは地下無線装置85を介して地上に送出され、地上無線装置(図示せず)の情報も地下無線装置85に伝達される。マンホール内に置く無線装置用アンテナ85aは反射板付き棒状λ/4(λ:波長)アンテナとし、マンホール蓋の中心軸上に配置している。アンテナから下方へ向かう一次放射を抑えることで土に吸収される電力を抑え、上空への放射電力を強める目的で金属製の反射板85bを付している。地下無線装置85は、λ/4アンテナ85a、金属製の反射板85b、無線機ケース85c、処理装置85dを含んでいる。処理装置85dは、前述したセンサ等からの信号の処理または、その他の回路に制御信号等を送出する機能をもち、無線機ケース85cに含まれる高周波送受信回路に接続されている。λ/4アンテナ85aのマンホール内の空間内の位置については、地上空間への放射電力の効率が上がる位置に適宜調整して設定する。
【0023】
電波放射特性は以下の点に依存している。
1.マンホールなどの地中埋設構造物の幾何学的構造
2.アンテナの構造と配置位置と向き
3.使用する電波の周波数(波長)
4.土、コンクリート、アスファルトなどの誘電特性
【0024】
本従来例では、地表に滲み出てくる電波を積極的に利用して、埋設構造内におかれた電子装置と地上に置かれた電子装置を無線接続できる。しかしながら、アンテナから放射された電波はマンホール蓋で反射され、複雑な電磁界分布をマンホール空間内に作る。そのため、複雑な三次元電磁界数値解析を使用して精度高く放射特性を予測する必要があるという問題点がある。
【特許文献1】特許第2790975号公報
【特許文献2】特許第3926677号公報
【特許文献3】登録実用新案第3061715号公報
【特許文献4】特許第3302482号公報
【特許文献5】特開2000−68912号公報
【非特許文献1】水品静夫、安達惇、渡辺尚、「マンホール内430MHzアンテナからの放射」、2007年総合大会講演論文集BS−5−4、電子情報通信学会、2007年3月7日、p.S−33〜S−34
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
従来例(1)では、マンホール蓋そのものをアンテナとしているため、アンテナのインピーダンスマッチングをとる必要がある等、設計が難しいという問題がある。また、マンホール中蓋に穴をあけるなど、複雑な加工を施す必要があるという問題がある。
従来例(2)では、マンホール蓋裏面近傍に給電点および給電ケーブルを取り付ける必要があり、マンホールの開閉によって給電ケーブルを損傷したり、場合によっては切断することがないよう、蓋の開閉動作を慎重に行う必要があるという問題点がある。
従来例(3)では、マンホール蓋の穴の近傍にアンテナを取り付けるため、マンホールの蓋の開閉の操作が煩雑になり、注意が必要となる。また、通信ユニットからの信号をマンホール蓋に設けたアンテナまで接続ケーブルを介して伝送するので、マンホール内に侵入した雨や泥水などによって腐食したり接続不良を起こす恐れもある。さらに、マンホールの蓋の穴の内径が数cm以下では電磁波の遮断による減衰量が極めて大きく効率が悪いという問題点を有している。
従来例(4)では、中継器を取り付けるためにマンホール蓋に穴をあけるなど、複雑な加工を施す必要があるという問題がある。
従来例(5)では、アンテナから放射された電波はマンホール蓋で反射され、複雑な電磁界分布をマンホール空間内に作る。そのため、複雑な三次元電磁界数値解析を使用して精度高く放射特性を予測する必要があるという問題点がある。
【0026】
本発明は、上述した問題点を解決するため、マンホール蓋の取り扱いが容易で、マンホール蓋に穴をあけるなど、複雑な加工を施す必要がなく、設計・施工が容易な無線中継装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記の課題を解決するため、本発明の無線中継装置は、マンホール蓋直下の地下道に設置され、前記地下道を伝搬する電波を反射して地下と地上との間の無線信号の送受信を仲介する無線中継装置であって、前記地下道を伝搬する電波を前記マンホール蓋の周囲の電波透過性構造材料に向けて反射する反射体を備えていることを特徴とする。この構成によれば、マンホール内を伝搬してきた電波は、マンホール蓋の裏面側に設けられた反射体によって電波透過性構造材料に反射され、地表に伝達される。そのため、複雑な電磁界分布をマンホール空間内に形成することなく、効率良く地上に電波を伝達することができる。また、マンホール蓋と無線通信装置との間に信号線等の電気配線を設ける必要がないので、断線による故障がなく、マンホール蓋の取り扱いも容易になる。さらに、マンホール蓋に電波を通すための穴等を設ける必要がないので、設計・施工が容易で、マンホール蓋の堅牢性を減らすこともない。
【0028】
本発明においては、前記反射体は、頂点がマンホール蓋側に向けられた断面三角形状又は断面台形状の反射面を備えているものとすることができる。反射面の傾斜角(反射体の底面に対する傾斜角)は、反射体の底部よりも頂部の方が大きいことが望ましい。反射面の傾斜角の大きさは、反射体の底部から頂部に向けて段階的に変化していても良く(屈曲形状)、反射体の底部から頂部に向けて連続的に変化していても良い(湾曲形状)。また、屈曲形状と湾曲形状の双方を備えた形状でも良い。反射面の傾斜角をこのように変化させた場合、反射体に入射した電波はマンホール蓋周囲の所定の範囲に集約される。そのため、電波の集約される位置を例えばマンホール蓋周囲の電波透過性構造材料の最も薄い部分とすることで、電波の透過損失を最小限に抑えることができる。
【0029】
反射体の形状としては、円錐、角錐、三角柱等が含まれる。また、これらの頂部を切断した円錐台、角錐台、台形柱等も含まれる。「円錐」には、底面と平行な面で切った断面が楕円である楕円錐形状が含まれ、「角錐」や「三角柱」には、角部や頂点部が丸みを帯びた形状が含まれる。また、「円錐」や「角錐」には、円錐や角錐の母線が底面に対して一定の角度で傾斜しているものの他、円錐や角錐の母線が屈曲又は湾曲しているもの(以下、「略円錐」又は「略角錐」と呼ぶことがある)が含まれる。同様に、「三角柱」には、前記稜線を挟む2つの面が屈曲又は湾曲した形状(以下、「略三角柱」と呼ぶことがある)が含まれる。さらに、これらの形状において、内部が中空となった形状や底部が開口した形状が含まれる。なお、本明細書において、板状の反射体を「反射板」と呼ぶことがある。
【0030】
本発明においては、前記反射体は、頂点がマンホール蓋側に向けられた円錐状又は角錐状の反射面を備えていることが望ましい。この構成によれば、反射体に対して全方向から入射される電波を所望の方向に反射することができる。
【0031】
本発明においては、前記反射体は、頂点がマンホール蓋側に向けられた略円錐状又は略角錐状の反射面を備えており、前記反射面の底面に対する母線の傾斜角が前記反射面の底部よりも頂部において大きくなるように、前記反射面が屈曲または湾曲していることが望ましい。この場合、前記反射体の反射面は、前記反射面で反射された電波をマンホール蓋周辺部の前記電波透過性構造材料が最も薄くなる位置に集約することのできる形状に形成されていることが望ましい。この構成によれば、反射体に対して全方向から入射される電波を効率良く地上に伝達することができる。
【0032】
本発明においては、前記反射面の中心軸上に前記マンホール蓋の外接円の中心が配置されることが望ましい。この構成によれば、マンホール蓋の周囲に均一な分布で電波を放射することができる。電波の放射分布はマンホール蓋を中心とした円形又は多角形の形状となる。そのため、その円又は多角形の半径をマンホール蓋の外接円の半径と概ね一致させておけば、反射体で反射された電波が地上へ届くまでに通過する部分の距離(アスファルトやコンクリート等の電波透過性構造材料中を電波が伝搬する距離)が短くなり、電波の透過損失が小さくなる。
【0033】
本発明においては、前記反射体は、頂部となる稜線がマンホール蓋側に向けられた三角柱状の反射面を備えていることが望ましい。この構成によれば、三角柱の長さを変えることで、任意の大きさの反射面を形成することができる。円錐状又は角錐状の反射体の場合、地下道の大きさが大きい場合には、地下道の幅に合わせて複数の反射体を設置する必要があるが、三角柱状の反射体の場合は、三角柱の長さによって反射面の大きさが変えられるため、1つの反射体で地下道を伝搬する全ての電波を反射することができる。
【0034】
本発明においては、前記反射体は、頂部となる稜線がマンホール蓋側に向けられた略三角柱状の反射面を備えており、前記反射面の底面に対する側面の傾斜角が前記反射面の底部よりも頂部において大きくなるように、前記反射面が屈曲又は湾曲していることが望ましい。この場合、前記反射体の反射面は、前記反射面で反射された電波をマンホール蓋周辺部の前記電波透過性構造材料が最も薄くなる位置に集約することのできる形状に形成されていることが望ましい。この構成によれば、反射体に対して全方向から入射される電波を効率良く地上に伝達することができる。
【0035】
本発明においては、前記反射体は、樹脂で成型した形状物の表面に金属箔を蒸着あるいは貼り付けたものであることが望ましい。或いは、前記反射体は、金属線又は金属棒のグリッドにより構成されていることが望ましい。或いは、前記反射体は、金属製の板に多数の貫通穴を設けたメッシュ構造により構成されていることが望ましい。これらの構成によれば、反射体を軽量化でき、施工が簡便になる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、マンホール蓋の取り扱いが容易で、マンホール蓋に穴をあけるなど、複雑な加工を施す必要がなく、堅牢性を減らすこともない、設計・施工が容易な無線中継装置を提供することができる。また、電波の透過損失を減らしながら、地上の広範囲に渡って電波を伝達できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明による実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明によるマンホール周囲に施されたアスファルト舗装あるいはコンクリート舗装から電波を通し、地上との無線接続に利用する無線中継装置の構成例を示す図である。土壌(土層)4の上面にはアスファルト層あるいはコンクリート層2が敷設され、マンホールが設置されている。マンホールはコンクリート壁3により内部に空間を確保し、上部にはマンホール蓋1が設けられている。マンホール蓋1の真下の地下道には円錐状あるいは角錐状の金属製の反射板5が設けられており、図8の従来例のようにマンホール蓋(あるいはこれに組み入れられた無線中継器)に向けて電波を反射するのではなくマンホール蓋の端に向けて電波を反射し、マンホール蓋の端から電波を拡散して地上に出せるようにしている。地下の通信設備等の温度や浸水等の状態データは、図示しない温度センサや浸水センサ等によって取得される。これらのデータは、地下無線装置6を介して無線信号となってマンホール内を伝搬し、反射板5で反射されて、アスファルト層あるいはコンクリート層2を通過して地表に伝達される。
【0038】
数百MHzから数GHz周波数帯域におけるアスファルトとコンクリートの電波吸収率は、土に比べて低い。いいかえると、300MHzから3GHzの範囲で、誘電損失の大きさは、概略、土、コンクリート、アスファルトの順である。特に、アスファルトは誘電損失が小さく、厚さ10cm〜30cm程度であれば、実用的な強度の電磁波透過が期待できる(例えば非特許文献1)。従って、アスファルトあるいはコンクリート舗装層を通過して地表に滲み出てくる電波を利用して、マンホール内外の無線接続を確立することが可能である。仮にアスファルト舗装あるいはコンクリート舗装が施されていない場合でも、地表に近い土層から電波は地表に滲み出てくる。このように、地表に滲み出てくる電波を積極的に利用して、マンホール内に置かれた地下無線装置と地上に置かれた無線装置を無線接続できる。
【0039】
反射板5は、頂点がマンホール蓋1側に向けられた断面三角形状の反射面5aを備えている。本構成例の場合、反射面5aは円錐状又は角錐状に形成されており、反射面5aの母線は円錐又は角錐の底面に対して一定の角度で傾斜している。反射板5はマンホール蓋1と平面的に重なる位置(鉛直方向から見たときに重なる位置)に配置されている。反射面5aの母線の傾斜角は、地下道を伝搬する電波が全てマンホール蓋1の外側に反射されるような大きさに設定されていることが望ましい。例えば、電波が地下道を水平方向に伝搬する場合、反射面5aの頂点付近に入射した電波がマンホール蓋1の外側に反射されるように母線の傾斜角は45°よりも大きい値に設定されることが望ましい。
【0040】
なお、図1において、電波の伝搬方向には、高さの異なる複数の反射板5が設けられている。高さの低い反射板5では、高さの低い位置を伝搬する電波が反射され、高さの高い反射板5では、高さの高い位置を伝搬する電波が反射されるようになっている。
【0041】
図2(a)に示すように、反射面5aの中心軸(円錐又は角錐の頂点を含み円錐又は角錐の底面に垂直な軸)はマンホール蓋1の外接円の中心を通るように配置されることが望ましい。この構成によれば、マンホール蓋1の周囲に均一な分布で電波E1を放射することができる。また、図2(b)に示すように、反射板5を反射面5aの中心軸Cを通る平面で切った断面を見た場合に、反射面5aの母線と中心軸Cとのなす角度は45°未満であることが望ましい。この構成によれば、マンホール蓋1に垂直に入射した電波E1はマンホール蓋1の外周部を通って地表に伝達される。
【0042】
図3は、反射板5のバリエーションを示す図である。図3の例では、図2の反射板と同一高さの反射板をマンホール蓋1の外接円の中心から左側にずれた位置に配置している。この例では、図示右側に反射された電波E2がマンホール蓋1に遮蔽されないようにするために、円錐の頂角が図2の例(図示点線で示す)に比べて鋭くなっている。このため、反射板5の表面積が小さくなり、地下道に設置する場合に、反射板5で反射される電波の強度が弱くなる。
【0043】
図4は、反射板5の他のバリエーションを示す図である。図4の例では、図2の反射板と同一の底面積を有する反射板をマンホール蓋1の外接円の中心から左側にずれた位置に配置している。この例では、図示右側に反射された電波E2がマンホール蓋1に遮蔽されないようにするために、円錐の頂角が図2の例(図示点線で示す)に比べて鋭くなっている。このため、反射板5の高さが高くなり、マンホール内に収容しきれなくなる可能性がある。
【0044】
また、図3及び図4のいずれの例においても、図示左側に反射された電波E2は、アスファルトやコンクリート等の電波透過性構造材料中を伝搬する距離が大きくなり、透過損失が大きくなる。したがって、良好な無線中継を行うためには、反射板5の中心軸Cとマンホール蓋1の外接円の中心とを一致させることが望ましい。
【0045】
なお、反射板5の大きさは、使用する電波の波長に大きく依存する。すなわち、使用する電波の波長に対して十分な反射効果が得られる寸法として反射板5の側面の長さを伝搬電波の1/2波長以上にすることが望ましく、できれば3〜5波長程度にすることが好ましい(例えば特許第3395405号公報「反射アンテナ」を参照)。なお、反射板5の側面の長さを伝搬電波の1波長の整数倍にした場合には、共振により反射効率を向上できる(例えば特許文献5を参照)。このように反射板の大きさにより反射可能な電波の周波数は制限され、使用する電波の周波数の選定にあたっては実際のマンホール蓋の寸法を考慮する必要がある。
【0046】
図14に示した従来例では、下水道内を伝搬してきた電波は反射板により他の反射板あるいは下水道内送受信アンテナに向けて反射される。そのため、下水道内送受信アンテナに向けて反射された電波はマンホール蓋で反射され、複雑な電磁界分布をマンホール空間内に作る。また、図15に示した従来例では、アンテナから放射された電波はマンホール蓋で反射され、同様に複雑な電磁界分布をマンホール空間内に作る。そのため、複雑な三次元電磁界数値解析を使用して精度高く放射特性を予測する必要があるという問題点があった。一方、本発明では、マンホール内を伝搬してきた電波をマンホール蓋の裏面に設けられた反射板5で直接アスファルト層あるいはコンクリート層2に反射して地表に伝達されるため、複雑な三次元電磁界数値解析を使用することなく、効率よく伝達できるという効果がある。また、マンホール蓋と無線通信装置との間に信号線などの電気配線を設ける必要がない。そのため、電気配線により接続している場合に比べてその切断の心配がなくなるとともに、蓋の取り扱いも容易になる。さらに、マンホール蓋の堅牢性を減らすこともない。
【0047】
図5は、本発明によるマンホール周囲に施されたアスファルト舗装あるいはコンクリート舗装から電波を通し、地上との無線接続に利用する無線中継装置の他の構成例を示す図である。土壌(土層)10の上面にはアスファルト層あるいはコンクリート層8が敷設され、マンホールが設置されている。マンホールはコンクリート壁9により内部に空間を確保し、上部にはマンホール蓋7が設けられている。マンホール蓋7の真下の地下道には三角柱状の金属製の反射板11が設けられており、図14の従来例のようにマンホール蓋(あるいはこれに組み入れられた無線中継器)に向けて電波を反射するのではなくマンホール蓋の端に向けて電波を反射し、マンホール蓋の端から電波を拡散して地上に出せるようにしている。地下の通信設備等の温度や浸水等の状態データは、図示しない温度センサや浸水センサ等によって取得させる。これらのデータは、地下無線装置12を介して無線信号となってマンホール内を伝搬し、反射板11で反射されて、アスファルト層あるいはコンクリート層8を通過して地表に伝達される。
【0048】
数百MHzから数GHz周波数帯域におけるアスファルトとコンクリートの電波吸収率は、土に比べて低い。いいかえると、300MHzから3GHzの範囲で、誘電損失の大きさは、概略、土、コンクリート、アスファルトの順である。特に、アスファルトは誘電損失が小さく、厚さ10cm〜30cm程度であれば、実用的な強度の電磁波透過が期待できる(例えば非特許文献1)。従って、アスファルトあるいはコンクリート舗装層を通過して地表に滲み出てくる電波を利用して、マンホール内外の無線接続を確立することが可能である。仮にアスファルト舗装あるいはコンクリート舗装が施されていない場合でも、地表に近い土層から電波は地表に滲み出てくる。このように、地表に滲み出てくる電波を積極的に利用して、マンホール内に置かれた地下無線装置と地上に置かれた無線装置を無線接続できる。
【0049】
反射板11は、頂点となる稜線がマンホール蓋7側に向けられた断面三角形状の反射面11aを備えている。本構成例の場合、反射面11aは三角柱状に形成されている。反射面11aは、頂点となる稜線部を介して交差した2つの反射面(反射板11の側面)を備えている。稜線部を挟む2つの反射面は、三角柱の底面に対して一定の角度で傾斜している。反射板11はマンホール蓋7と平面的に重なる位置(鉛直方向から見たときに重なる位置)に配置されている。
【0050】
マンホール蓋7の外接円の中心は、反射面11aの頂部(稜線)を含む三角柱の底面に垂直な面内に配置されることが望ましい。これにより、マンホール蓋7の周囲に均一な電波分布を形成することができる。また、反射板11の側面の傾斜角は、地下道を伝搬する電波が全てマンホール蓋7の外側に反射されるような大きさに設定されていることが望ましい。例えば、電波が地下道を水平方向に伝搬する場合、反射面11aの頂点付近に入射した電波がマンホール蓋7の外側に反射されるように側面の傾斜角は45°よりも大きい値に設定されることが望ましい。
【0051】
なお、図5において、電波の伝搬方向には、高さの異なる複数の反射板11が設けられている。高さの低い反射板11では、高さの低い位置を伝搬する電波が反射され、高さの高い反射板11では、高さの高い位置を伝搬する電波が反射されるようになっている。
【0052】
図6は、反射板の設置例を示す平面図である。図6(a)は円錐状の反射板を用いた例であり、図6(b)は三角柱状の反射板を用いた例である。図6(a)及び図6(b)では、反射板を鉛直方向から見ており、反射板の左右には地下道のコンクリート壁が設けられている。
【0053】
図6(a)の例では、地下道の幅方向に複数の反射板5A、5Bが設けられている。地下道の図示左側を伝搬する電波Eは、地下道の図示左側に設けられた反射板5Aによって反射され、地下道の図示右側を伝搬する電波Eは、地下道の図示右側に設けられた反射板5Bによって反射される。この構成では、地下道の幅方向に複数の反射板を設けることで、地下道を伝搬する全ての電波Eを反射できるようになっている。しかしながら、1つ1つの反射板については、反射板の中心軸とマンホール蓋の中心とは一致しないため、図3及び図4で説明したような問題が発生する。底面の大きな単一の反射板を設けることも考えられるが、底面を大きくすると反射板の高さも大きくなるため、場合によっては反射板を地下道に収容しきれなくなる可能性がある。
【0054】
一方、図6(b)の例では、地下道の幅方向に長い反射板11を設けている。地下道を伝搬する電波Eは、単一の反射板11によって反射される。この構成では、マンホール蓋(図示略)の外接円の中心が、反射面11aの頂部(稜線)を含む三角柱の底面に垂直な面内に配置されている。そのため、図3及び図4で示したような問題は発生しない。また、三角柱状の反射板の場合、三角柱の長さを長くしても頂部の高さは変わらないので、反射板が地下道に収容しきれなくなるという問題は発生しない。
【0055】
なお、反射板11の大きさは、使用する電波の波長に大きく依存する。すなわち、使用する電波の波長に対して十分な反射効果が得られる寸法として反射板11の側面の長さを伝搬電波の1/2波長以上にすることが望ましく、できれば3〜5波長程度にすることが好ましい(例えば特許第3395405号公報「反射アンテナ」を参照)。なお、反射板11の側面の長さを伝搬電波の1波長の整数倍にした場合には、共振により反射効率を向上できる(例えば特許文献5を参照)。このように反射板の大きさにより反射可能な電波の周波数は制限され、使用する電波の周波数の選定にあたっては実際のマンホール蓋の寸法を考慮する必要がある。
【0056】
図14に示した従来例では、下水道内を伝搬してきた電波は反射板により他の反射板あるいは下水道内送受信アンテナに向けて反射される。そのため、下水道内送受信アンテナに向けて反射された電波はマンホール蓋で反射され、複雑な電磁界分布をマンホール空間内に作る。また、図15に示した従来例では、アンテナから放射された電波はマンホール蓋で反射され、同様に複雑な電磁界分布をマンホール空間内に作る。そのため、複雑な三次元電磁界数値解析を使用して精度高く放射特性を予測する必要があるという問題点があった。一方、本発明では、マンホール内を伝搬してきた電波をマンホール蓋の裏面に設けられた反射板11で直接アスファルト層あるいはコンクリート層8に反射して地表に伝達されるため、複雑な三次元電磁界数値解析を使用することなく、効率よく伝達できるという効果がある。また、マンホール蓋と無線通信装置との間に信号線などの電気配線を設ける必要がない。そのため、電気配線により接続している場合に比べてその切断の心配がなくなるとともに、蓋の取り扱いも容易になる。さらに、マンホール蓋の堅牢性を減らすこともない。また、図1の構成に比較して、反射板11の形状を簡易にしたため、加工・施工が容易になるという効果がある。
【0057】
図7は、本発明によるマンホール周囲に施されたアスファルト舗装あるいはコンクリート舗装から電波を通し、地上との無線接続に利用する無線中継装置の他の構成例を示す図である。土壌(土層)16の上面にはアスファルト層あるいはコンクリート層14が敷設され、マンホールが設置されている。マンホールはコンクリート壁15により内部に空間を確保し、上部にはマンホール蓋13が設けられている。マンホール蓋13の真下の地下道には円錐状又は角錐状の金属製の反射板17が設けられており、図14の従来例のようにマンホール蓋(あるいはこれに組み入れられた無線中継器)に向けて電波を反射するのではなくマンホール蓋の端に向けて電波を反射し、マンホール蓋の端から電波を拡散して地上に出せるように反射板17の側面の形状を曲面にしている。地下の通信設備等の温度や浸水等の状態データは、図示しない温度センサや浸水センサ等によって取得させる。これらのデータは、地下無線装置18を介して無線信号となってマンホール内を伝搬し、反射板17で反射されて、アスファルト層あるいはコンクリート層14を通過して地表に伝達される。
【0058】
数百MHzから数GHz周波数帯域におけるアスファルトとコンクリートの電波吸収率は、土に比べて低い。いいかえると、300MHzから3GHzの範囲で、誘電損失の大きさは、概略、土、コンクリート、アスファルトの順である。特に、アスファルトは誘電損失が小さく、厚さ10cm〜30cm程度であれば、実用的な強度の電磁波透過が期待できる(例えば非特許文献1)。従って、アスファルトあるいはコンクリート舗装層を通過して地表に滲み出てくる電波を利用して、マンホール内外の無線接続を確立することが可能である。仮にアスファルト舗装あるいはコンクリート舗装が施されていない場合でも、地表に近い土層から電波は地表に滲み出てくる。このように、地表に滲み出てくる電波を積極的に利用して、マンホール内に置かれた地下無線装置と地上に置かれた無線装置を無線接続できる。また、本構成では、反射面に入射する電波を透過損失の小さいマンホール蓋に近い領域に一度集約してから放射状に拡張して反射するため、電波の透過損失を減らすことができる。
【0059】
反射板17は、頂点がマンホール蓋13側に向けられた断面三角形状の反射面17aを備えている。本構成例の場合、反射面17aは略円錐状又は略角錐状に形成されている。反射面17aは、母線の傾斜角(円錐又は角錐の底面に対する傾斜角)が反射板の底部よりも頂部において大きくなるように、湾曲している。すなわち、母線が底面に対して一定の角度で配置される円錐状又は角錐状の形状に比べて、母線が反射板の内側に向けて湾曲しており、反射板17の底部に入射した電波が鉛直に近い角度で反射され、反射板17の頂部に入射した電波が水平に近い角度で反射されるようになっている。反射面17aの中心軸(円錐又は角錐の頂点を含み円錐又は角錐の底面に垂直な軸)はマンホール蓋13の外接円の中心を通るように配置されることが望ましい。図7では反射面17aの母線は底部から頂部に向けて滑らかな曲線を描いているが、母線の傾斜角は、反射板17の底部から頂部に向けて段階的に変化していても良く(屈曲形状)、反射板17の底部から頂部に向けて連続的に変化していても良い(湾曲形状)。また、屈曲形状と湾曲形状の双方を備えた形状でも良い。本構成例の場合、反射面17aの形状は、反射面17aで反射された電波がマンホール蓋周辺部のアスファルトやコンクリート等(電波透過性構造材料)が最も薄くなる位置に集約することのできるように、母線の傾斜角が反射板17の底部から頂部に向けて連続的に大きくなっている。
【0060】
なお、図7において、電波の伝搬方向には、高さの異なる複数の反射板17が設けられている。高さの低い反射板17では、高さの低い位置を伝搬する電波が反射され、高さの高い反射板17では、高さの高い位置を伝搬する電波が反射されるようになっている。
【0061】
なお、反射板17の大きさは、使用する電波の波長に大きく依存する。すなわち、使用する電波の波長に対して十分な反射効果が得られる寸法として反射板17の側面の長さを伝搬電波の1/2波長以上にすることが望ましく、できれば3〜5波長程度にすることが好ましい(例えば特許第3395405号公報「反射アンテナ」を参照)。なお、反射板17の側面の長さを伝搬電波の1波長の整数倍にした場合には、共振により反射効率を向上できる(例えば特許文献5を参照)。このように反射板の大きさにより反射可能な電波の周波数は制限され、使用する電波の周波数の選定にあたっては実際のマンホール蓋の寸法を考慮する必要がある。
【0062】
図14に示した従来例では、下水道内を伝搬してきた電波は反射板により他の反射板あるいは下水道内送受信アンテナに向けて反射される。そのため、下水道内送受信アンテナに向けて反射された電波はマンホール蓋で反射され、複雑な電磁界分布をマンホール空間内に作る。また、図15に示した従来例では、アンテナから放射された電波はマンホール蓋で反射され、複雑な電磁界分布をマンホール空間内に作る。そのため、複雑な三次元電磁界数値解析を使用して精度高く放射特性を予測する必要があるという問題点があった。一方、本発明では、マンホール内を伝搬してきた電波をマンホール蓋の裏面に設けられた反射板17で直接アスファルト層あるいはコンクリート層14に反射して地表に伝達されるため、複雑な三次元電磁界数値解析を使用することなく、効率よく伝達できるという効果がある。また、マンホール蓋と無線通信装置との間に信号線などの電気配線を設ける必要がない。そのため、電気配線により接続している場合に比べてその切断の心配がなくなるとともに、蓋の取り扱いも容易になる。さらに、マンホール蓋の堅牢性を減らすこともない。また、図1の構成に比較して、反射板17の側面の形状を曲面にしたため、地上へ電波が届くまでに通過する部分(マンホールのコンクリート壁や土壌(土層)、アスファルト層あるいはコンクリート層)が最も薄くなるマンホール蓋の端付近に一度電波を集約してから地上へ電波を出すことができ、地上の広範囲に渡って電波を伝達できるという効果がある。
【0063】
図8は、本発明によるマンホール周囲に施されたアスファルト舗装あるいはコンクリート舗装から電波を通し、地上との無線接続に利用する無線中継装置の他の構成例を示す図である。土壌(土層)24の上面にはアスファルト層あるいはコンクリート層22が敷設され、マンホールが設置されている。マンホールはコンクリート壁23により内部に空間を確保し、上部にはマンホール蓋21が設けられている。マンホール蓋21の真下の地下道には側面の形状を曲面にした三角柱状の金属製の反射板25が設けられており、図14の従来例のようにマンホール蓋(あるいはこれに組み入れられた無線中継器)に向けて電波を反射するのではなくマンホール蓋の端に向けて電波を反射し、マンホール蓋の端から電波を拡散して地上に出せるようにしている。地下の通信設備等の温度や浸水等の状態データは、図示しない温度センサや浸水センサ等によって取得させる。これらのデータは、地下無線装置26を介して無線信号となってマンホール内を伝搬し、反射板25で反射されて、アスファルト層あるいはコンクリート層22を通過して地表に伝達される。
【0064】
数百MHzから数GHz周波数帯域におけるアスファルトとコンクリートの電波吸収率は、土に比べて低い。いいかえると、300MHzから3GHzの範囲で、誘電損失の大きさは、概略、土、コンクリート、アスファルトの順である。特に、アスファルトは誘電損失が小さく、厚さ10cm〜30cm程度であれば、実用的な強度の電磁波透過が期待できる(例えば非特許文献1)。従って、アスファルトあるいはコンクリート舗装層を通過して地表に滲み出てくる電波を利用して、マンホール内外の無線接続を確立することが可能である。仮にアスファルト舗装あるいはコンクリート舗装が施されていない場合でも、地表に近い土層から電波は地表に滲み出てくる。このように、地表に滲み出てくる電波を積極的に利用して、マンホール内に置かれた地下無線装置と地上に置かれた無線装置を無線接続できる。また、本構成では、反射面に入射する電波を透過損失の小さいマンホール蓋に近い領域に一度集約してから放射状に拡張して反射するため、電波の透過損失を減らすことができる。
【0065】
反射板25は、頂点となる稜線がマンホール蓋21側に向けられた断面三角形状の反射面25aを備えている。本構成例の場合、反射面25aは略三角柱状に形成されている。反射面25aは、頂点となる稜線部を介して交差した2つの反射面(反射板25の側面)を備えている。稜線部を挟む2つの反射面は、当該反射面の傾斜角(三角柱の底面に対する傾斜角)が反射板の底部よりも頂部において大きくなるように、湾曲している。すなわち、2つの反射面(三角柱の側面)が底面に対して一定の角度で配置される三角柱状の形状に比べて、反射面が反射板の内側に屈曲又は湾曲しており、反射板25の底部に入射した電波が鉛直に近い角度で反射され、反射板25の頂部に入射した電波が水平に近い角度で反射されるようになっている。マンホール蓋21の外接円の中心は、反射面25aの頂部(稜線)を含む三角柱の底面に垂直な面内に配置されることが望ましい。図8では反射面25aの形状は底部から頂部に向けて滑らかな曲線を描いているが、反射面25aの傾斜角は、反射板25の底部から頂部に向けて段階的に変化していても良く(屈曲形状)、反射板25の底部から頂部に向けて連続的に変化していても良い(湾曲形状)。また、屈曲形状と湾曲形状の双方を備えた形状でも良い。本構成例の場合、反射面25aの形状は、反射面25aで反射された電波がマンホール蓋周辺部のアスファルトやコンクリート等(電波透過性構造材料)が最も薄くなる位置に集約することのできるように、反射面の傾斜角が反射板25の底部から頂部に向けて連続的に大きくなっている。
【0066】
なお、図8において、電波の伝搬方向には、高さの異なる複数の反射板25が設けられている。高さの低い反射板25では、高さの低い位置を伝搬する電波が反射され、高さの高い反射板25では、高さの高い位置を伝搬する電波が反射されるようになっている。
【0067】
なお、反射板25の大きさは、使用する電波の波長に大きく依存する。すなわち、使用する電波の波長に対して十分な反射効果が得られる寸法として反射板25の側面の長さを伝搬電波の1/2波長以上にすることが望ましく、できれば3〜5波長程度にすることが好ましい(例えば特許第3395405号公報「反射アンテナ」を参照)。なお、反射板25の側面の長さを伝搬電波の1波長の整数倍にした場合には、共振により反射効率を向上できる(例えば特許文献5を参照)。このように反射板の大きさにより反射可能な電波の周波数は制限され、使用する電波の周波数の選定にあたっては実際のマンホール蓋の寸法を考慮する必要がある。
【0068】
図14に示した従来例では、下水道内を伝搬してきた電波は反射板により他の反射板あるいは下水道内送受信アンテナに向けて反射される。そのため、下水道内送受信アンテナに向けて反射された電波はマンホール蓋で反射され、複雑な電磁界分布をマンホール空間内に作る。また、図15に示した従来例では、アンテナから放射された電波はマンホール蓋で反射され、複雑な電磁界分布をマンホール空間内に作る。そのため、複雑な三次元電磁界数値解析を使用して精度高く放射特性を予測する必要があるという問題点があった。一方、本発明では、マンホール内を伝搬してきた電波をマンホール蓋の裏面に設けられた反射板25で直接アスファルト層あるいはコンクリート層22に反射して地表に伝達されるため、複雑な三次元電磁界数値解析を使用することなく、効率よく伝達できるという効果がある。また、マンホール蓋と無線通信装置との間に信号線などの電気配線を設ける必要がない。そのため、電気配線により接続している場合に比べてその切断の心配がなくなるとともに、蓋の取り扱いも容易になる。さらに、マンホール蓋の堅牢性を減らすこともない。また、図5の構成に比較して、反射板の側面の形状を曲面にしたため、地上へ電波が届くまでに通過する部分(マンホールのコンクリート壁や土壌(土層)、アスファルト層あるいはコンクリート層)が最も薄くなるマンホール蓋の端付近に一度電波を集約してから地上へ電波を出すことができ、地上の広範囲に渡って電波を伝達できるという効果がある。
【0069】
なお、本実施形態では、電波透過性構造材料として土壌(土層)、アスファルト層あるいはコンクリート層を用いる場合を記述したが、それ以外にも、ゴムやプラスティック(合成樹脂)などの誘電体材料を用いてもよい。例えば、マンホール蓋の周囲を緩衝材としてゴムを覆うことにより、ゴムから電波を効率よく透過させることができる。
【0070】
また、本実施形態では、反射体として金属製の板を用いた場合を記述したが、例えばゴムやプラスティック(合成樹脂)などの樹脂で成型した形状物の表面に金属箔を蒸着あるいは貼り付けたものでもよい。この場合、反射体を軽量化でき、施工も簡便であり、低コスト化を図ることができるという効果が得られる。
【0071】
反射体の形状は、板状のもの(反射板)に限定されず、ブロック状のものでも良い。反射体は、断面三角形状のものに限らず、断面台形状のものでも良い。本実施形態では、反射体の形状を円錐、角錐、三角柱等としたが、これらの形状において頂部を切断した円錐台、角錐台、台形柱等を採用しても良い。ここで、「円錐」には、底面と平行な面で切った断面が楕円である楕円錐形状が含まれ、「角錐」や「三角柱」には、角部や頂点部が丸みを帯びた形状が含まれる。また、「円錐」や「角錐」には、円錐や角錐の母線が底面に対して一定の角度で傾斜しているものの他、円錐や角錐の母線が、円錐や角錐の頂点が鋭く尖るように、内側に屈曲又は湾曲しているもの(「略円錐」又は「略角錐」)が含まれる。同様に、「三角柱」には、頂点となる稜線部が鋭く尖るように、前記稜線を挟む2つの面が内側に屈曲又は湾曲した形状(「略三角柱」)が含まれる。さらに、これらの形状において、内部が中空となった形状や底部が開口した形状が含まれる。
【0072】
また、本実施形態では、反射体として金属製の板を用いた場合を記述したが、金属線又は金属棒のグリッドにより構成されるものでもよい。グリッドは、金属線又は金属棒をストライプ状に配置したものでも良く、格子状に配置したものでも良い。例えば、図9は、円錐状の反射体105を複数の金属線106で形成しており、図10は、三角柱状の反射体107を複数の金属棒108で形成している。これらの例では、格子状に編まれた複数の金属線又は金属棒によって、電波を反射する反射面が形成されている。この場合、反射体を軽量化でき、施工も簡便であり、低コスト化を図ることができるという効果が得られる。グリッドのピッチ(金属線同士又は金属棒同士の間隔)は、使用電波の波長の約10分の1又はそれ以下に設定すれば、反射損失を防ぐことができる。あるいは、反射体として金属製の板に多数の貫通穴を設けたメッシュ構造により構成されるものでもよい。この場合も、反射体を軽量化でき、施工も簡便であるという効果が得られる。網目である貫通穴は三角形でも四角形でも円形でもよい。メッシュの一辺は、使用電波の波長の約10分の1又はそれ以下に設定すれば、反射損失を防ぐことができる(例えば特開平8−37417号公報「電波反射板」を参照)。
【0073】
また、本実施形態では、反射体によって無線中継装置を構成したが、反射体の他に、信号強度を増幅する信号増幅器等の構成が必要に応じて付加されても良い。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施形態に係る無線中継装置の概略構成図である。
【図2】反射板の設置例を示す図である。
【図3】反射板の他の設置例の説明図である。
【図4】反射板の他の設置例の説明図である。
【図5】本発明の他の構成例に係る無線中継装置の概略構成図である。
【図6】反射板の他の設置例の説明図である。
【図7】本発明の他の構成例に係る無線中継装置の概略構成図である。
【図8】本発明の他の構成例に係る無線中継装置の概略構成図である。
【図9】本発明の無線中継装置の変形例の説明図である。
【図10】本発明の無線中継装置の変形例の説明図である。
【図11】従来例(1)の無線中継装置の概略構成図である。
【図12】従来例(2)の無線中継装置の概略構成図である。
【図13】従来例(3)の無線中継装置の概略構成図である。
【図14】従来例(4)の無線中継装置の概略構成図である。
【図15】従来例(5)の無線中継装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0075】
1…マンホール蓋、2…アスファルト層又はコンクリート層(電波透過性構造材料)、3…コンクリート壁(電波透過性構造材料)、4…土層(電波透過性構造材料)、5…反射板(反射体)、5a…反射面、7…マンホール蓋、8…アスファルト層又はコンクリート層(電波透過性構造材料)、9…コンクリート壁(電波透過性構造材料)、10…土層(電波透過性構造材料)、11…反射板(反射体)、11a…反射面、13…マンホール蓋、14…アスファルト層又はコンクリート層(電波透過性構造材料)、15…コンクリート壁(電波透過性構造材料)、16…土層(電波透過性構造材料)、17…反射板(反射体)、17a…反射面、21…マンホール蓋、22…アスファルト層又はコンクリート層(電波透過性構造材料)、23…コンクリート壁(電波透過性構造材料)、24…土層(電波透過性構造材料)、25…反射板(反射体)、25a…反射面、105…反射体、106…金属線、107…反射体、108…金属棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンホール蓋直下の地下道に設置され、前記地下道を伝搬する電波を反射して地下と地上との間の無線信号の送受信を仲介する無線中継装置であって、
前記地下道を伝搬する電波を前記マンホール蓋の周囲の電波透過性構造材料に向けて反射する反射体を備えていることを特徴とする無線中継装置。
【請求項2】
前記反射体は、頂点がマンホール蓋側に向けられた円錐状又は角錐状の反射面を備えていることを特徴とする請求項1に記載の無線中継装置。
【請求項3】
前記反射体は、頂点がマンホール蓋側に向けられた略円錐状又は略角錐状の反射面を備えており、前記反射面の底面に対する母線の傾斜角が前記反射面の底部よりも頂部において大きくなるように、前記反射面が屈曲または湾曲していることを特徴とする請求項1に記載の無線中継装置。
【請求項4】
前記反射面の中心軸上に前記マンホール蓋の外接円の中心が配置されることを特徴とする請求項2又は3に記載の無線中継装置。
【請求項5】
前記反射体は、頂部となる稜線がマンホール蓋側に向けられた三角柱状の反射面を備えていることを特徴とする請求項1に記載の無線中継装置。
【請求項6】
前記反射体は、頂部となる稜線がマンホール蓋側に向けられた略三角柱状の反射面を備えており、前記反射面の底面に対する側面の傾斜角が前記反射面の底部よりも頂部において大きくなるように、前記反射面が屈曲又は湾曲していることを特徴とする請求項1に記載の無線中継装置。
【請求項7】
前記反射体の反射面は、前記反射面で反射された電波をマンホール蓋周辺部の前記電波透過性構造材料が最も薄くなる位置に集約することのできる形状に形成されていることを特徴とする請求項3又は6に記載の無線中継装置。
【請求項8】
前記反射体は、樹脂で成型した形状物の表面に金属箔を蒸着あるいは貼り付けたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の無線中継装置。
【請求項9】
前記反射体は、金属線又は金属棒のグリッドにより構成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の無線中継装置。
【請求項10】
前記反射体は、金属製の板に多数の貫通穴を設けたメッシュ構造により構成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の無線中継装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−147610(P2009−147610A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322037(P2007−322037)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】