説明

無線基地局及び通信制御方法

【課題】無線端末における消費電力を低減させつつ、適切なアダプティブアレイ制御を可能とする。
【解決手段】無線基地局eNB1は、無線端末UE2からの無線周波数帯の上り無線信号を受信すると、当該上り無線信号に含まれる復調用の参照信号に基づいて、各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dの受信ウェイトを算出し、記憶する。更に、無線基地局eNB1は、記憶している各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dの受信ウェイトのうち、過去の所定期間内に算出され、対応する周波数帯が設定対象のPDSCHの周波数帯に最も近い受信ウェイトを、各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dの送信ウェイトに設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナを用いて、無線端末との間で無線信号の送信及び受信を行う無線基地局、及び、当該無線基地局における通信制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3GPP(Third Generation Partnership Project)において、現在、規格策定中のLTE(Long Term Evolution)に対応する無線通信システムでは、無線基地局eNB無線端末UEとの間の無線通信において、無線基地局eNBが無線リソースの割り当てを行っている(例えば、非特許文献1参照)。また、LTEに対応する無線通信システムでは、無線基地局eNB無線端末UEとの間の無線通信に、周波数分割複信(FDD:Firequency Division Duplex)と、時分割複信(TDD:Time Division Duplex)との何れかが採用される。
【0003】
更に、TDDを採用するLTE(TDD−LTE)の無線通信システムでは、無線基地局eNBと、移動する無線端末UEとの間の通信品質を確保すべく、無線基地局eNBが、下りの無線信号の送信時に無線端末UEの方向へ適応的にビームを向ける制御(アダプティブアレイ制御)を行うことが検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】3GPP TR 36.211 V8.7.0 ”Physical Channels and Moduration”, MAY 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、次世代PHS(XGP)の無線通信システムでは、無線端末に割り当てられる下りの無線信号用の周波数帯と、上りの無線信号用の周波数帯とが同一である。このため、無線基地局は、無線端末からの上りの無線信号により把握される、当該上りの無線信号用の周波数帯の伝搬環境に基づいて、当該上りの無線信号と同一の周波数帯の下りの無線信号に対するアンテナウェイトを算出できる。
【0006】
一方、TDD−LTEの無線通信システムでは、下りの無線通信には、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiplexing Access)が採用され、上りの無線通信には、SC−FDMA(Single Carrier Frequency Division Multiple Access)が採用されている。これらの多重化方式は、周波数と時間の2次元で無線リソースの配置を行ってユーザ多重を実現しており、無線端末UEに割り当てられる下りの無線信号用の周波数帯と、上りの無線信号用の周波数帯とが同一でない場合がある。
【0007】
このため、無線基地局eNBは、無線端末UEからの上りの無線信号を受信した場合、当該上りの無線信号用の周波数帯の伝搬環境に基づいて、当該上りの無線信号と同一の周波数帯の下りの無線信号に対するアンテナウェイトを算出できるとは限らない。
【0008】
上記問題点に鑑み、本発明は、適切なアダプティブアレイ制御を可能とした無線基地局及び通信制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明は以下のような特徴を有している。本発明の第1の特徴は、複数のアンテナ(アダプティブアレイアンテナ108A、アダプティブアレイアンテナ108B、アダプティブアレイアンテナ108C、アダプティブアレイアンテナ108D)を用いて、無線端末(無線端末UE2)との間で無線信号の送信及び受信を行うアダプティブアレイ方式の無線基地局(無線基地局eNB1)であって、上りの無線信号における複数の周波数帯毎の参照信号のそれぞれに基づいて、前記周波数帯毎にアンテナウェイトを算出する算出部(AAS処理部126)と、下りの無線信号に用いられる周波数帯に対するアンテナウェイトを設定する設定部(AAS処理部136)とを備え、前記設定部は、前記算出部により算出されたアンテナウェイトのうち、対応する前記周波数帯が、前記下りの無線信号に用いられる周波数帯に最も近い周波数帯に対応するアンテナウェイトを、前記下りの無線信号に用いられる周波数帯に対して設定することを要旨とする。
【0010】
このような特徴によれば、無線基地局は、上りの無線信号における複数の周波数帯毎の参照信号のそれぞれに基づいて、周波数帯毎にアンテナウェイトを算出し、算出されたアンテナウェイトのうち、下りの無線信号に用いられる周波数帯に最も近い周波数帯に対応するアンテナウェイトを、当該下りの無線信号に用いられる周波数帯に対して設定する。従って、上りの無線信号に用いられる周波数帯と下りの無線信号に用いられる周波数帯とが一致していない場合にも、下りの無線信号に用いられる周波数帯に最も近い周波数帯、換言すれば、下りの無線信号に用いられる周波数帯と伝搬環境が近いと考えられる周波数帯のアンテナウェイトを、下りの無線信号に用いられる周波数帯に設定することにより、下りの無線通信に障害が生じることが抑制され、適切なアダプティブアレイが可能となる。
【0011】
本発明の第2の特徴は、前記算出部は、前記上りの無線信号における所定の時間帯に属する複数の周波数帯毎の参照信号のそれぞれに基づいて、前記周波数帯毎にアンテナウェイトを算出することを要旨とする。
【0012】
本発明の第3の特徴は、前記所定の時間帯は、前半のタイムスロットと後半のタイムタイムスロットからなり、前記算出部は、前記上りの無線信号における前記前半のタイムスロットの時間帯に属する第1の参照信号に基づいて、前記第1の参照信号に対応する周波数帯のアンテナウェイトを算出し、前記上りの無線信号における前記後半のタイムスロットの時間帯に対応する第2の参照信号に基づいて、前記第2の参照信号に対応する周波数帯のアンテナウェイトを算出することを要旨とする。
【0013】
本発明の第4の特徴は、前記算出部は、過去の所定期間内における所定の周波数帯に属する複数の参照信号のそれぞれに基づいて、前記所定の周波数帯に対応するアンテナウェイトを算出することを要旨とする。
【0014】
本発明の第5の特徴は、前記無線端末が1つのアンテナを有し、下りの無線通信がマルチストリーム通信である場合に、前記設定部は、第1のデータストリームに対応する下りの無線信号の周波数帯に対して、第1のアンテナウェイトを設定し、第2のデータストリームに対応する下りの無線信号の周波数帯に対して、第1のアンテナウェイトに対応するビームの方向にヌルが向くような第2のアンテナウェイトを設定することを要旨とする。
【0015】
本発明の第6の特徴は、複数のアンテナを用いて、無線端末との間で無線信号の送信及び受信を行うアダプティブアレイ方式の無線基地局における通信制御方法であって、上りの無線信号における複数の周波数帯毎の参照信号のそれぞれに基づいて、前記周波数帯毎にアンテナウェイトを算出するステップと、下りの無線信号に用いられる周波数帯に対するアンテナウェイトを設定するステップとを備え、前記設定するステップは、算出されたアンテナウェイトのうち、対応する前記周波数帯が、前記下りの無線信号に用いられる周波数帯に最も近い周波数帯に対応するアンテナウェイトを、前記下りの無線信号に用いられる周波数帯に対して設定することを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、下りの無線信号に用いられる周波数帯と伝搬環境が近い周波数帯のアンテナウェイトを、下りの無線信号に用いられる周波数帯に設定でき、適切なアダプティブアレイが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る無線通信システムの全体概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る無線基地局の構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る、PUSCHのフォーマットを示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る無線端末の構成図である。
【図5】本発明の実施形態に係るタイムスロットの割り当ての動作を示すシーケンス図である。
【図6】本発明の実施形態に係る、PUSCHに対応する受信ウェイトと、PDSCHに対応する送信ウェイトとの対応関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。具体的には、(1)無線通信システムの構成、(2)無線通信システムの動作、(3)作用・効果、(4)その他の実施形態について説明する。以下の実施形態における図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。
【0019】
(1)無線通信システムの構成
まず、本発明の実施形態に係る無線通信システムの構成について、(1.1)無線通信システムの全体概略構成、(1.2)無線基地局の構成、(1.3)無線端末の構成の順に説明する。
【0020】
(1.1)無線通信システムの全体概略構成
図1は、本発明の実施形態に係る無線通信システム10の全体概略構成図である。
【0021】
図1に示す無線通信システム10は、TDD−LTEの無線通信システムである。無線通信システム10は、無線基地局eNB1と、無線端末UE2とを含む。図1において、無線基地局eNB1は、図示しない他の無線基地局eNBとともに、E−UTRAN(Evolved-UMTS Terrestrial Radio Access Network)を構成する。無線端末UE2は、無線基地局eNB1が提供する通信可能エリアであるセル3に存在する。なお、図1では、無線端末UE2は、1つのみが示されているが、実際には複数の無線端末UE2がセル3内に存在する。
【0022】
無線基地局eNB1と、無線端末UE2との間の無線通信には、時分割複信が採用されるとともに、下りの無線通信にはOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiplexing Access)、上りの無線通信にはSC−FDMA(Single Carrier Frequency Division Multiple Access)が採用される。ここで、下りとは、無線基地局eNB1から無線端末UE2へ向かう方向を意味し、上りとは、無線端末UE2から無線基地局eNB1へ向かう方向を意味する。
【0023】
無線基地局eNB1は、セル3内の無線端末UE2に対して、無線リソースとしてのリソースブロック(RB:Resource Block)を割り当てる。
【0024】
リソースブロックは、下りの無線通信に用いられる下りリソースブロック(下りRB)と、上りの無線通信に用いられる上りリソースブロック(上りRB)とがある。複数の下りリソースブロックは、周波数方向に配列される。同様に、複数の上りリソースブロックは、周波数方向に配列される。
【0025】
下りリソースブロックは、時間方向に、下りの制御情報伝送用の制御情報チャネル(PDCCH:Physical Downlink Control CHannel)と、下り方向のユーザデータ伝送用の共有データチャネル(PDSCH:Physical Downlink Shared CHannel)とにより構成される。
【0026】
一方、上りリソースブロックは、上りの無線通信に使用可能な全周波数帯の両端では、上りの制御情報伝送用の制御情報チャネル(PUCCH:Physical Uplink Control CHannel)が構成され、中央部では、上りのユーザデータ伝送用の共有データチャネル(PUSCH:Physical Uplink Shared CHannel)が構成される。
【0027】
リソースブロックの割り当てに際しては、割り当てられる周波数が、所定の周波数ホッピングパターンに従って変更する周波数ホッピングが適用される。
【0028】
以下、無線基地局eNB1と1つの無線端末UEとの間で無線通信が行われる場合について説明する。なお、以下では、初期状態において、無線端末UE2には下りリソースブロックと上りリソースブロックとが割り当てられているものとする。
【0029】
(1.2)無線基地局の構成
図2は、無線基地局eNB1の構成図である。図2に示すように、無線基地局eNB1は、アダプティブアレイ方式の無線基地局であり、制御部102、記憶部103、I/F部104、無線周波数(RF:Radio Frequency)受信処理部105、ベースバンド(BB:Base band)処理部106、RF送信処理部107、アダプティブアレイアンテナ108A、アダプティブアレイアンテナ108B、アダプティブアレイアンテナ108C、アダプティブアレイアンテナ108Dを含む。
【0030】
制御部102は、例えばCPUによって構成され、無線基地局eNB1が具備する各種機能を制御する。制御部102は、RB割当部120を含む。記憶部103は、例えばメモリによって構成され、無線基地局eNB1における制御などに用いられる各種情報を記憶する。I/F部104は、X1インタフェースを介して、他の無線基地局eNBとの間で通信可能である。また、I/F部104は、S1インターフェースを介して、EPC(Evolved Packet Core)、具体的には、MME(Mobility Management Entity)/S−GW(Serving Gateway)と通信可能である。
【0031】
RF受信処理部105は、アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dを介して、無線端末UE2からの無線周波数帯の上り無線信号を受信する。RF受信処理部105は、図示しないローノイズアンプ(LNA:Low Noise Amplifier)、ミキサを内蔵している。RF受信処理部105は、受信した無線周波数帯の上り無線信号を増幅し、ベースバンド信号に変換(ダウンコンバート)する。更に、RF受信処理部105は、ベースバンド信号をBB処理部106へ出力する。
【0032】
BB処理部106は、メモリ121、CP(Cyclic Prefix)除去部122、FFT(Fast Fourier Transform)処理部124、AAS(Adaptive Array System)処理部126、チャネル等化部128、IDFT(Inverse Discrete Fourier Transform)処理部130、復調復号部132、符号化変調部134、AAS処理部136、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform)処理部138、CP付加部140を有する。
【0033】
制御部102内のRB割当部120は、制御部102における、媒体アクセス制御(MAC:Media Access Control)層の処理によって得られるリソースブロックの割り当て値(RB割当値)を取得する。このRB割当値は、無線端末UE2に対して割り当てられる下りリソースブロック及び上りリソースブロックの識別情報であるリソースブロック番号が含まれる。RB割当部120は、RB割当値をAAS処理部126及びAAS処理部136へ出力する。
【0034】
CP除去部122は、入力されたベースバンド信号からCP(Cyclic Prefix)を除去する。CPは、OFDMシンボルの終わりの部分の複製であり、マルチパスによって引き起こされるシンボル間干渉を抑制するために設けられたガード・インターバルの期間に含まれる。FFT処理部124は、CPが除去されたベースバンド信号に対して、高速フーリエ変換を行い、周波数領域の信号を得る。
【0035】
AAS処理部126は、周波数領域の信号に基づいて、各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dについて、無線端末UE2からの上り無線信号の受信時において信号対干渉雑音比(SINR)が最大となるアンテナウェイト(受信ウェイト)を算出する。
【0036】
図3は、PUSCHのフォーマットを示す図である。図3に示すように、PUSCHは、時間方向では、1[ms]の時間長を有する1つのサブフレームによって構成される。サブフレームは、時間帯S1乃至時間帯S14からなる。これら時間帯S1乃至時間帯S14のうち、時間帯S1乃至時間帯S7は、前半のタイムスロット(タイムスロット1)を構成し、時間帯S8乃至時間帯S14は、後半のタイムスロット(タイムスロット2)を構成する。タイムスロット1における中央の時間帯S4は、復調用の参照信号(DRS:Demodulation Reference Signal)の伝送に用いられる。同様に、タイムスロット2における中央の時間帯S11は、復調用の参照信号の伝送に用いられる。
【0037】
復調用の参照信号の設定には、周波数方向と時間方向とで振幅変動が少ない、Zaddoff−Chuシーケンスが採用される。復調用の参照信号は、セル毎に異なっており、セル間の復調用の参照信号の相互相関は小さくなるように設計されている。
【0038】
また、図3に示すように、PUSCHは、周波数方向では、180[kHz]の周波数幅を有する。また、PUSCHは、15[kHz]の周波数幅を有する12個のシンボルキャリアF1乃至F12からなる。
【0039】
具体的には、AAS処理部126は、RB割当値に基づいて、無線端末UE2に割り当てられた上りリソースブロックの周波数帯を特定する。更に、AAS処理部126は、特定した上りリソースブロックの周波数帯に対応する周波数領域の信号に含まれる、復調用の参照信号を検出する。更に、AAS処理部126は、復調用の参照信号に基づいて、無線端末UE2に割り当てられた上りリソースブロック内のPUSCHの周波数帯に対応する、各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dの受信ウェイトを算出する。
【0040】
図3に示すように、1つのPUSCHにおいて、復調用の参照信号は、タイムスロット1とタイムスロット2のそれぞれに含まれる。従って、AAS処理部126は、1つのPUSCHの周波数帯について、2つの受信ウェイトを算出する。AAS処理部126は、算出した受信ウェイトを、対応する周波数帯の情報及び現在時刻の情報(タイムスタンプ情報)とともに、メモリ121に記憶させる。
【0041】
更に、AAS処理部126は、FFT処理部124からの周波数領域の信号のうち、無線端末UE2に割り当てられた上りリソースブロックの周波数帯に対応する周波数領域の信号をチャネル等化部128へ出力する。
【0042】
チャネル等化部128は、入力された周波数領域の信号に対して、チャネル等化処理を行う。IDFT処理部130は、チャネル等化処理がなされた信号に対して、逆離散フーリエ変換を行う。復調復号部132は、逆離散フーリエ変換がなされた信号に対して復調及び復号処理を行う。これにより、無線端末UE2が送信したデータが得られる。データは制御部102へ出力される。
【0043】
符号化変調部134は、制御部102からのデータが入力されると、当該データに対して符号化及び変調を行い、周波数領域の信号を得る。
【0044】
AAS処理部136は、各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dについて、無線端末UE2に対する下り無線信号の送信時のアンテナウェイト(送信ウェイト)を設定する。
【0045】
具体的には、AAS処理部136は、RB割当値に基づいて、無線端末UE2に割り当てられた下りリソースブロックの時間帯及び周波数帯を特定する。特定された下りリソースブロック内のPDSCHは、送信ウェイトの設定対象のPDSCHである。
【0046】
次に、AAS処理部136は、メモリ121に記憶されている、各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dに対応する受信ウェイトのうち、タイムスタンプ情報によって示される時刻が過去の所定期間内である受信ウェイトを抽出する。タイムスタンプ情報によって示される時刻が過去の所定期間内である受信ウェイトとは、過去の所定期間内に算出された受信ウェイトを意味する。
【0047】
AAS処理部136は、抽出した受信ウェイトのうち、対応する周波数帯が設定対象のPDSCHの周波数帯に最も近い受信ウェイトを特定する。更に、AAS処理部136は、特定した各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108D毎の受信ウェイトを、送信ウェイトの設定対象のPDSCHの周波数帯に対応する、各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dの送信ウェイトに設定する。AAS処理部136は、設定した送信ウェイトと周波数領域の信号とを合成する重み付け処理を行う。
【0048】
ここで、対応する周波数帯が設定対象のPDSCHの周波数帯に最も近い受信ウェイトが複数存在する場合には、AAS処理部136は、複数の受信ウェイトの平均値を送信ウェイトに設定してもよい。あるいは、AAS処理部136は、複数の受信ウェイトのうち、最新の受信ウェイトを送信ウェイトに設定してもよい。
【0049】
なお、特定された受信ウェイトに対応する周波数帯と、設定対象のPDSCHの周波数帯との周波数の差が所定値以上になる場合には、AAS処理部136は、送信ウェイトの設定対象のPDSCHの周波数帯に対応する、各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dの送信ウェイトを設定しないようにしてもよい。
【0050】
また、無線端末UE2のアンテナが1つのみであり、下りの無線通信に、マルチストリーム通信であるMIMO(Multi Input Multi Output)が採用される場合、AAS処理部136は、以下のような処理を行う。すなわち、AAS処理部136は、符号化変調部134において、MIMOに対応するプリコーディングが行われると、一方のレイヤについては、受信ウェイトを送信ウェイト(第1送信ウェイト)とし、他方のレイヤについては、第1送信ウェイトに対して直交する第2送信ウェイトとし、これら第1送信ウェイト及び第2送信ウェイトと信号とを空間分割多重接続(SDMA)合成する。例えば、無線基地局eNB1におけるアンテナ素子がK個でレイヤが2つの場合、受信ウェイトに基づいて算出されたK番目のアンテナ素子(素子(k))の第1送信ウェイトをWTX1(k)とすると、第2送信ウェイトWTX2(k)は、以下の式1により得られる。但し、無線基地局eNB1におけるアンテナ素子の数によって、第2送信ウェイトは複数求めることができる。レイヤ1の信号X1と素子(k)の第1送信ウェイトWTX1(k)との合成、及び、レイヤ2の信号X2と素子(k)の第2送信ウェイトWTX2(k)との合成は、式2により行われ、合成ウェイトW(k)となる。
【0051】
【数1】

・・・(式1)
【0052】
【数2】

・・・(式2)
【0053】
AAS処理部136は、重み付け後の周波数領域の信号をIFFT処理部138へ出力する。
【0054】
IFFT処理部138は、重み付け後の周波数領域の信号に対して、逆高速フーリエ変換を行い、ベースバンド信号を得る。CP付加部140は、入力されたベースバンド信号にCPを付加する。CP付加部140は、CPが付加されたベースバンド信号をRF送信処理部107へ出力する。
【0055】
RF送信処理部107は、図示しないミキサ、パワーアンプを内蔵している。RF送信処理部107は、CPが付加されたベースバンド信号を無線周波数帯の下り無線信号に変換(アップコンバート)する。更に、RF送信処理部107は、無線周波数帯の下り無線信号を増幅し、増幅後の無線周波数帯の下り無線信号を、送信ウェイトが設定されたアダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dを介して送信する。
【0056】
(1.3)無線端末の構成
図4は、無線端末UE2の構成図である。図4に示すように、無線端末UE2は、制御部202、記憶部203、無線周波数(RF)受信処理部205、ベースバンド(BB)処理部206、RF送信処理部207、アンテナ208を含む。
【0057】
制御部202は、例えばCPUによって構成され、無線端末UE2が具備する各種機能を制御する。記憶部203は、例えばメモリによって構成され、無線端末UE2における制御などに用いられる各種情報を記憶する。
【0058】
RF受信処理部205は、アンテナ208を介して、無線基地局eNB1からの無線周波数帯の下り無線信号を受信する。RF受信処理部205は、図示しないローノイズアンプ(LNA)、ミキサを内蔵している。RF受信処理部205は、受信した無線周波数帯の下り無線信号を増幅し、ベースバンド信号に変換(ダウンコンバート)する。更に、RF受信処理部205は、ベースバンド信号をBB処理部206へ出力する。
【0059】
BB処理部206は、RB割当部220、CP除去部222、FFT処理部224、チャネル等化部228、復調復号部232、符号化変調部234、DFT処理部236、IFFT処理部238、CP付加部240を有する。
【0060】
RB割当部220には、制御部202における、MAC層の処理によって得られるリソースブロックの割り当て値(RB割当値)が入力される。制御部202は、無線端末UE2が無線基地局eNB1に接続する際に、当該無線基地局eNB1からのリソースブロックの割当情報により、割り当てられたリソースブロックを認識できる。RB割当値は、上述したように、無線端末UE2に対して割り当てられる下りリソースブロック及び上りリソースブロックの識別情報であるリソースブロック番号が含まれる。RB割当部220は、RB割当値をチャネル等化部228及びDFT処理部236へ出力する。
【0061】
CP除去部222は、入力されたベースバンド信号からCPを除去する。FFT処理部224は、CPが除去されたベースバンド信号に対して、高速フーリエ変換を行い、周波数領域の信号を得る。
【0062】
チャネル等化部228は、RB割当部220からのRB割当値に基づいて、無線端末UE2に割り当てられた下りリソースブロックの周波数帯を特定する。更に、チャネル等化部228は、FFT処理部224からの周波数領域の信号のうち、無線端末UE2に割り当てられた下りリソースブロックの周波数帯に対応する周波数領域の信号に対して、チャネル等化処理を行う。復調復号部232は、チャネル等化処理がなされた信号に対して復調及び復号処理を行う。これにより、無線基地局eNB1が送信したデータが得られる。データは制御部202へ出力される。
【0063】
符号化変調部234は、制御部202からのデータが入力されると、当該データに対して符号化及び変調を行い、周波数領域の信号を得る。DFT処理部236は、RB割当部220からのRB割当値に基づいて、無線端末UE2に割り当てられた上りリソースブロックの周波数帯を特定する。更に、DFT処理部236は、周波数領域の信号に対して、離散フーリエ変換を行う。IFFT処理部238は、離散フーリエ変換がなされた信号に対して、逆高速フーリエ変換を行い、ベースバンド信号を得る。CP付加部240は、入力されたベースバンド信号にCPを付加する。CP付加部240は、CPが付加されたベースバンド信号をRF送信処理部207へ出力する。
【0064】
RF送信処理部207は、図示しないミキサ、パワーアンプを内蔵している。RF送信処理部207は、CPが付加されたベースバンド信号を無線周波数帯の上り無線信号に変換(アップコンバート)する。更に、RF送信処理部207は、無線周波数帯の上り無線信号を増幅し、増幅後の無線周波数帯の上り無線信号を、アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dを介して送信する。
【0065】
(2)無線通信システムの動作
図5は、無線通信システム10の動作を示すシーケンス図である。ステップS101において、無線端末UE2は、無線周波数帯の上り無線信号を送信する。無線基地局eNB1は、無線周波数帯の上り無線信号を受信する。
【0066】
ステップS102において、無線基地局eNB1は、受信した上り無線信号に含まれる復調用の参照信号を検出する。
【0067】
ステップS103において、無線基地局eNB1は、復調用の参照信号に基づいて、無線端末UE2に割り当てられた上りリソースブロック内のPUSCHの周波数帯に対応する、各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dの受信ウェイトを算出する。更に、無線基地局eNB1は、算出した各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dの受信ウェイトを記憶する。
【0068】
ステップS104において、無線基地局eNB1は、記憶している各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dの受信ウェイトのうち、過去の所定期間内に算出され、対応する周波数帯が設定対象のPDSCHの周波数帯に最も近い受信ウェイトを特定する。更に、無線基地局eNB1は、特定した受信ウェイトを、各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dの送信ウェイトに設定する。
【0069】
ステップS105において、無線基地局eNB1は、送信ウェイトが設定された各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dから無線周波数帯の下り無線信号を送信する。無線端末UE2は、無線周波数帯の下り無線信号を受信する。
【0070】
(3)作用・効果
以上説明したように、本実施形態によれば、無線基地局eNB1は、無線端末UE2からの無線周波数帯の上り無線信号を受信すると、当該上り無線信号に含まれる復調用の参照信号に基づいて、各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dの受信ウェイトを算出し、記憶する。更に、無線基地局eNB1は、記憶している各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dの受信ウェイトのうち、過去の所定期間内に算出され、対応する周波数帯が設定対象のPDSCHの周波数帯に最も近い受信ウェイトを、各アダプティブアレイアンテナ108A乃至アダプティブアレイアンテナ108Dの送信ウェイトに設定する。
【0071】
図6は、PUSCHに対応する受信ウェイトと、PDSCHに対応する送信ウェイトとの対応の一例を示す図である。図6は、上りリソースブロックの割り当てに際して周波数ホッピングが適用される場合の例である。周波数ホッピングの前においては、リソースブロック(RB)11がPUSCHの周波数帯として割り当てられ、周波数ホッピングの後においては、タイムスロット1の時間帯ではリソースブロック(RB)5がPUSCHの周波数帯として割り当てられ、タイムスロット2の時間帯ではリソースブロック(RB)17がPUSCHの周波数帯として割り当てられる。
【0072】
このような状況下において、過去の1[ms]の期間内に算出された受信ウェイトのみが、送信ウェイトの候補となるように定められている場合を考える。この場合、AAS処理部136は、RB5のタイムスロット1に対応する周波数帯の受信ウェイトと、RB17のタイムスロット2に対応する周波数帯の受信ウェイトとを抽出する。更に、受信ウェイトを、当該受信ウェイトに対応する周波数帯を中心とする7つの周波数帯に対応する送信ウェイトとして用いることが定められている場合を考える。この場合、AAS処理部136は、PDSCHの周波数帯のうち、RB5を中心とするRB2乃至RB8の周波数帯については、RB5のタイムスロット1に対応する周波数帯の受信ウェイトを、送信ウェイトに設定する。また、AAS処理部136は、PDSCHの周波数帯のうち、RB17を中心とするRB14乃至RB20の周波数帯については、RB17のタイムスロット2に対応する周波数帯の受信ウェイトを、送信ウェイトに設定する。
【0073】
このような送信ウェイトの設定が採用されることにより、上りの無線信号に用いられる周波数帯と下りの無線信号に用いられる周波数帯とが一致していない場合にも、下りの無線信号に用いられる周波数帯に最も近い周波数帯、換言すれば、下りの無線信号に用いられる周波数帯と伝搬環境が近い周波数帯の受信ウェイトを、下りの無線信号に用いられる周波数帯の送信ウェイトに設定することにより、下りの無線通信に障害が生じることが抑制され、適切なアダプティブアレイが可能となる。
【0074】
(4)その他の実施形態
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなる。
【0075】
上述した実施形態では、無線基地局eNB1は、復調用の参照信号に基づいて、受信ウェイトを算出したが、上り無線信号に含まれる他の信号に基づいて、受信ウェイトを設定してもよい。
【0076】
上述した実施形態では、TDD−LTEの無線通信システムについて説明したが、無線端末に割り当てられる上り無線信号の周波数帯と、下り無線信号の周波数帯とが異なる、上下非対称通信が採用される無線通信システムであれば、同様に本発明を適用できる。
【0077】
このように本発明は、ここでは記載していない様々な実施形態等を包含するということを理解すべきである。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0078】
eNB1…無線基地局、UE2…無線端末、3…セル、10…無線通信システム、102…制御部、103…記憶部、104…I/F部、105…RF受信処理部、106…BB処理部、107…RF送信処理部、108A、108B、108C、108D…アダプティブアレイアンテナ、120…RB割当部、121…メモリ、122…CP除去部、124…FFT処理部、126…AAS処理部、128…チャネル等化部、130…IDFT処理部、132…復調復号部、134…符号化変調部、136…AAS処理部、138…IFFT処理部、140…CP付加部、202…制御部、203…記憶部、205…RF受信処理部、206…BB処理部、207…RF送信処理部、208…アンテナ、220…RB割当部、222…CP除去部、224…FFT処理部、228…チャネル等化部、232…復調復号部、234…符号化変調部、236…DFT処理部、238…IFFT処理部、240…CP付加部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナを用いて、無線端末との間で無線信号の送信及び受信を行うアダプティブアレイ方式の無線基地局であって、
上りの無線信号における複数の周波数帯毎の参照信号のそれぞれに基づいて、前記周波数帯毎にアンテナウェイトを算出する算出部と、
下りの無線信号に用いられる周波数帯に対するアンテナウェイトを設定する設定部と
を備え、
前記設定部は、前記算出部により算出されたアンテナウェイトのうち、対応する前記周波数帯が、前記下りの無線信号に用いられる周波数帯に最も近い周波数帯に対応するアンテナウェイトを、前記下りの無線信号に用いられる周波数帯に対して設定する無線基地局。
【請求項2】
前記算出部は、前記上りの無線信号における所定の時間帯に属する複数の周波数帯毎の参照信号のそれぞれに基づいて、前記周波数帯毎にアンテナウェイトを算出する請求項1に記載の無線基地局。
【請求項3】
前記所定の時間帯は、前半のタイムスロットと後半のタイムタイムスロットからなり、
前記算出部は、前記上りの無線信号における前記前半のタイムスロットの時間帯に属する第1の参照信号に基づいて、前記第1の参照信号に対応する周波数帯のアンテナウェイトを算出し、前記上りの無線信号における前記後半のタイムスロットの時間帯に対応する第2の参照信号に基づいて、前記第2の参照信号に対応する周波数帯のアンテナウェイトを算出する請求項2に記載の無線基地局。
【請求項4】
前記算出部は、過去の所定期間内における所定の周波数帯に属する複数の参照信号のそれぞれに基づいて、前記所定の周波数帯に対応するアンテナウェイトを算出する請求項1乃至3の何れかに記載の無線基地局。
【請求項5】
前記無線端末が1つのアンテナを有し、下りの無線通信がマルチストリーム通信である場合に、
前記設定部は、第1のデータストリームに対応する下りの無線信号の周波数帯に対して、第1のアンテナウェイトを設定し、第2のデータストリームに対応する下りの無線信号の周波数帯に対して、第1のアンテナウェイトに対応するビームの方向にヌルが向くような第2のアンテナウェイトを設定する請求項1乃至4の何れかに記載の無線基地局。
【請求項6】
複数のアンテナを用いて、無線端末との間で無線信号の送信及び受信を行うアダプティブアレイ方式の無線基地局における通信制御方法であって、
上りの無線信号における複数の周波数帯毎の参照信号のそれぞれに基づいて、前記周波数帯毎にアンテナウェイトを算出するステップと、
下りの無線信号に用いられる周波数帯に対するアンテナウェイトを設定するステップと
を備え、
前記設定するステップは、算出されたアンテナウェイトのうち、対応する前記周波数帯が、前記下りの無線信号に用いられる周波数帯に最も近い周波数帯に対応するアンテナウェイトを、前記下りの無線信号に用いられる周波数帯に対して設定する通信制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−10298(P2012−10298A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146977(P2010−146977)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】