説明

無線装置

【課題】伝送距離の低下を補うことのできる無線装置を提供すること。
【解決手段】アンテナと、探索情報を交換する情報交換部と、該アンテナの指向性パターンを切替えつつ第1の探索信号を送信する探索送信部と、他の無線装置のアンテナの各指向性パターン一つごとに前記アンテナの指向性パターンを順次切替えながら第2の探索信号を受信する探索受信部と、該第2の探索信号の受信状態が最良となる他の無線装置のアンテナの指向性パターンを示す第1のパターン情報を他の無線装置に送信するとともに、他の無線装置による第1の探索信号の受信状態が最良となるアンテナの指向性パターンに関する第2のパターン情報を受信するフィードバック部と、該第2の探索信号の受信状態が最良となるアンテナの指向性パターンと、第2のパターン情報が示すアンテナの指向性パターンとに基づいて、送受信それぞれにおけるアンテナの指向性パターンを設定するアンテナ制御部とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指向性アンテナを備えた無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波を用いた無線通信では、フェイズシフタなどデバイスの大きな消費電力や、無線伝搬中の大きな経路損失・反射損等により、リンクが限定されてしまう点が課題の一つとして挙げられる。大気中の酸素による電波の吸収は、異なるピコネット間の混信を低減できる点で有益ではあるものの、60GHz帯においては、送信エネルギーが、大気中の酸素分子により極めて急速に吸収されてしまい、多くのケースでむしろリンクの品質が悪くなる。さらに、多重経路の損失のため、見通し外接続(non-line-of sight: NLOS)による通信はさらに厳しい状態になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−36723公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、従来の無線装置では、特にミリ波帯のように伝搬損失の大きい周波数帯を用いた場合や、消費電力を抑えるべく送信電力を小さくした場合に、伝送距離が限られるという問題がある。本発明はかかる課題を解決するためになされたもので、伝送距離の低下を補うことのできる無線装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、実施形態に係る無線装置は、複数の指向性パターンを選択可能なアンテナと、他の無線装置と自己のアンテナの指向性パターンの数を含む探索情報を交換する情報交換部と、前記アンテナを介して該アンテナの指向性パターンを切替えつつ第1の探索信号を送信する探索送信部と、前記他の無線装置がアンテナの指向性パターンを切替えつつ第2の探索信号を送信する場合に、前記他の無線装置のアンテナの各指向性パターン一つごとに前記アンテナの指向性パターンを順次切替えながら前記アンテナを介して前記第2の探索信号を受信する探索受信部と、前記探索受信部による前記第2の探索信号の受信の結果、該第2の探索信号の受信状態が最良となる前記他の無線装置のアンテナの指向性パターンを示す第1のパターン情報を前記他の無線装置に送信するとともに、前記探索送信部による前記第1の探索信号の送信の結果、前記他の無線装置による前記第1の探索信号の受信状態が最良となる前記アンテナの指向性パターンに関する第2のパターン情報を受信するフィードバック部と、前記探索受信部による前記第2の探索信号の受信の結果、該第2の探索信号の受信状態が最良となる前記アンテナの指向性パターンと、前記第2のパターン情報が示す前記アンテナの指向性パターンとに基づいて、送受信それぞれにおける前記アンテナの指向性パターンを設定するアンテナ制御部とを具備する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、伝送距離の低下を補うことのできる無線装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施形態に係る無線システムおよび無線装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態に係る無線装置のアンテナの具体例を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係る無線装置のアンテナのパターンIDを説明する図である。
【図4】実施形態に係る無線装置のアンテナのパターンIDを説明する図である。
【図5】実施形態に係る無線装置のアンテナのパターンIDを説明する図である。
【図6A】実施形態に係る無線装置のアンテナの動作例を示す図である。
【図6B】実施形態に係る無線装置のアンテナの動作例を示す図である。
【図7A】実施形態に係る無線装置のアンテナ調整について説明する概念図である。
【図7B】実施形態に係る無線装置のアンテナ調整について説明する概念図である。
【図8】実施形態に係る無線システムのアンテナ調整タイミングの一例を示す図である。
【図9】実施形態に係る無線システムのアドホックモードのアンテナ調整動作を示す図である。
【図10】実施形態に係る無線システムのアンテナ調整において用いるデータ列の一例を示す図である。
【図11】実施形態に係る無線システムのアンテナ調整において用いるデータの一例を示す図である。
【図12】実施形態に係る無線システムのアンテナ調整において用いるデータの一例を示す図である。
【図13】実施形態に係る無線システムのアンテナ調整において用いるデータの一例を示す図である。
【図14】実施形態に係る無線システムのインフラストラクチャモードのアンテナ調整動作を示す図である。
【図15】実施形態に係る無線システムのアンテナ調整において用いるデータの一例を示す図である。
【図16】実施形態に係る無線システムの絞込モードのアンテナ調整動作を示す図である。
【図17】実施形態に係る無線システムの絞込モードを説明する概念図である。
【図18】実施形態に係る無線システムのアンテナ調整において用いるデータの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(アンテナビームフォーミング)
実施形態に係る無線装置は、指向性パターンを制御することのできる指向性アンテナを備えている。すなわち、指向性アンテナの指向性パターンを送受信相手に向けることで、伝送損失や小電力に起因する伝送距離の低下を補うことができる。しかし、一般に指向性アンテナはメインローブ以外の方向についての利得が相対的に低いので、通信する両者が互いに自己のアンテナのメインローブを合わせる必要がある。
【0009】
実施形態の無線装置は、自己および通信相手の指向性アンテナの電波放射方向を最適化する機能を有している。以下に説明する実施形態の無線装置は、端末同士が直接通信するいわゆるアドホックモードと、端末が基地局を介して通信するいわゆるインフラストラクチャモードの少なくとも一方を用いて通信するものとして説明する。
【0010】
(実施形態の無線システムの構成)
以下、図面を参照して、実施形態の無線システムおよび無線装置の構成を詳細に説明する。図1に示すように、実施形態の無線システムは、アクセスポイントとして機能するAP装置1(AP1)およびクライアントとして機能するSTA装置2(STA2)から構成されている。実施形態に係る無線システムは、さらにSTA装置2と構成が共通するSTA装置3(STA3)を具備してもよい。
【0011】
[AP装置の構成]
実施形態のAP装置1は、STA装置2およびSTA装置3を収容する無線装置である。図1に示すように、AP装置1は、アンテナ11、アンテナ制御部12(ANT制御部)、受信部13、送信部14、インタフェース部15(I/F15)を有している。
【0012】
アンテナ11は、AP装置1が電波を放射し受け取る高周波装置であり、アンテナ制御部12は、アンテナ11の指向性を制御する装置である。すなわち、アンテナ11およびアンテナ制御部12は、ともに協働して、任意の指向特性パターンをもつアンテナとして機能する。アンテナ11は、送受信別個のアンテナ素子を備えてもよいし、複数のアンテナ素子からなるアンテナ配列として実現してもよい。
【0013】
受信部13は、通信相手たるSTA装置2・3から送られる電波をアンテナ11を介して受信し、所定の方式で復調する。送信部14は、STA装置2・3に対する情報を変調して無線信号を生成し、アンテナ11を介して通信相手に送信する。I/F15は、受信部13および送信部14を図示しない他の装置やネットワークなどと接続する。
【0014】
受信部13および送信部14は、少なくとも、例えばミリ波のようなEHF帯(以下「高周波数帯」と称する。)について受信および送信する能力を有している。受信部13および送信部14は、さらに2.4GHz帯や5GHz帯のような高周波数帯よりも伝搬損失の小さいUHF帯/SHF帯(以下「低周波数帯」と称する。)について受信および送信する能力を具備してもよい。アンテナ11は、受信部13および送信部14と同様に、対応する送受信周波数帯で利用可能に構成されている。ここで、アンテナ11およびアンテナ制御部12は、少なくとも、高周波数帯ではアンテナ制御部12の制御による所定の指向性パターン、低周波数帯ではオムニの指向性パターン(いわゆる無指向性パターン)を形成可能に構成されている。受信部13および送信部14は、例えば、ミリ波帯無線システムやIEEE802.11規格に準拠したシステムなどにより実現することができる。
【0015】
受信部13は、アンテナ11を介して通信相手からの電波を受信し、所定の方式で復調してI/F15を経由して図示しないネットワークなどに送る。一方、ネットワークなどからの情報は、I/F15を介して送信部14に送られ、送信部14は、当該情報を無線信号に変換してアンテナ11を介して通信相手に送信する。すなわち、受信部13、送信部14およびI/F15は、クライアントたる通信相手を収容するWLANのアクセスポイントとして機能する。なお、送信部14は、STA装置2・3と同期をとるビーコン信号を送信する機能をも有してもよい。ビーコン信号は、高周波数帯を用いて送信され、当該ビーコン信号のタイミングなどを示すビーコン送信情報が低周波数帯を用いて送信される。
【0016】
また、図1に示すように、実施形態のAP装置1は、送信制御部16、受信制御部17、探索処理部18および記憶部19を備えている。
【0017】
送信制御部16および受信制御部17は、送信および受信それぞれにおけるアンテナ11の指向性パターンをアンテナ制御部12に指示する演算装置である。探索処理部18は、通信相手たるSTA装置2・3に向けてアンテナ11の指向性を決定する手順を実行する演算装置である。記憶部19は、アンテナ制御部12が制御しうるアンテナ11の指向性パターン情報などが格納されたメモリである。送信制御部16、受信制御部17および探索処理部18は、いずれも協働して、アンテナ11の送信時および受信時それぞれの指向性パターンを、通信相手との関係や信号の内容(ビーコン信号かデータ信号か等)に応じて変更することができる。
【0018】
[STA装置の構成]
実施形態のSTA装置2および3は、対応するAP装置1に収容される無線装置である。図1に示すように、STA装置2および3は、AP装置1と共通する構成を有しており、アンテナ11、アンテナ制御部12、受信部13、送信部14およびインタフェース部15と共通する機能をもつアンテナ21・31、アンテナ制御部22・32、受信部23・33、送信部24・34およびインタフェース部25・35をそれぞれ有している。同様に、STA装置2および3は、送信制御部16、受信制御部17、探索処理部18および記憶部19と共通する機能を持つ送信制御部26・36、受信制御部27・37、探索処理部28・38および記憶部29・39をそれぞれ有している。なお、受信部23・33は、AP装置1のビーコン信号を受信して通信や処理の同期をとる機能をも有している。
【0019】
(実施形態の無線装置のアンテナの構成)
続いて、図2ないし図5を参照して、実施形態に係るAP装置1やSTA装置2・3のアンテナ11・21・31の構成例を詳細に説明する。前述したとおり、AP装置1やSTA装置2・3のアンテナ11・21・31は、少なくとも、特定方向の指向性パターンを持ち高周波数帯で動作する。図2ないし図5は、この高周波数帯に用いる特定方向の指向性パターンを持つアンテナの例である。以下、代表してアンテナ21および31について説明する。
【0020】
図2に示すように、STA装置2のアンテナ21は、所定の配列(例えば平面方向に直線状または円形状)に配置されたMt個の送信アンテナ素子とMr個の受信アンテナ素子を有している。アンテナ制御部22は、送信部24からの送信信号をMt個に分配するとともに、各々の送信信号の位相をシフトさせてMt個の送信アンテナ素子各々に供給する。
【0021】
アンテナ制御部22において分配される送信信号の位相の変位量は、送信ウェイトベクトル(Transmit Weight Vector)により表される。すなわち、アンテナ制御部22に対してある送信ウェイトベクトルを与えると、アンテナ制御部22は、Mt個に分配された送信信号それぞれに当該ウェイトベクトルに対応した位相変位を与える。Mt個のアンテナ素子それぞれは、アンテナ制御部22により位相が変位された送信信号の電波を放射するから、アンテナ21全体としては、所定の指向性パターンを持つ位相制御アダプティブアレイとして動作することになる。
【0022】
受信の場合も同様である。Mr個の受信アンテナ素子が受信信号を受けると、アンテナ制御部22は、Mr個の受信アンテナ素子それぞれが受信した受信信号に対して、受信ウェイトベクトルで特定される位相変位を与える。位相変位されたMr個の受信信号は合成されて受信部23に送られる。このとき、Mr個の受信アンテナ素子が受信した受信信号それぞれの位相が、受信ウェイトベクトルで特定される所定量分シフトされることから、アンテナ21全体として特定方向に対して利得をもつ指向性パターンを得ることができる。
【0023】
STA装置3のアンテナ31も同様である。図2に示す例では、Nr個の受信アンテナ素子は、アンテナ21が送信する電波をそれぞれ受信し、アンテナ制御部32は、それぞれの受信信号の位相を所定の受信ウェイトベクトルで特定される位相量分シフトさせて合成し、受信部33に入力する。また、アンテナ制御部32は、送信部34からの送信信号をNt個に分配するとともに、各々の送信信号の位相をシフトさせてNt個のアンテナ素子各々に供給する。結果として、アンテナ31は、所定の送信指向性パターン・受信指向性パターンを持つアンテナとして機能する。
【0024】
なお、AP装置1やSTA装置2・3のアンテナ11・21・31は、それぞれ異なる数の送信・受信アンテナ素子を備えてもよい。また、アンテナ11・21・31は、送信アンテナ素子と受信アンテナ素子の数が異なっていても構わない。
【0025】
図3は、送信(または受信)ウェイトベクトルを複数定義したコードブックの一例である。コードブックは、アンテナ制御部に与えるウェイトベクトルを列挙した行列で表現され、各列がアンテナのビームを形成するウェイトベクトルとなる。図3に示す例では、アンテナが4つのアンテナ素子を備えており、合計8つのウェイトベクトルパターンを有している。すなわち、図3に示すウェイトベクトルと4つのアンテナ素子を組み合わせると、パターンIDが0〜7にて示される8つの指向性パターンを得ることができる。
【0026】
図4は、図3に示すウェイトベクトルにより生じる最大利得の方位角θmax、半電波強度ビーム幅HPBW(Half Power Beam Width)、最大利得Dmaxの一例であり、図5は、同じく指向性パターンの例である。図4および図5に示すように、4つのアンテナ素子と図3に示すウェイトベクトルを用いると、8通りの指向性パターンを得ることができる。すなわち、送信制御部16・26・36や受信制御部17・27・37は、アンテナ制御部12・22・32に、コードブックから任意のウェイトベクトルを与えることで、アンテナ11・21・31の指向特性を変更することができる。
【0027】
(実施形態におけるアンテナの調整動作例)
実施形態のAP装置1やSTA装置2・3のアンテナ11・21・31の指向性パターンを合わせるには、同期動作・初期動作・探索動作・フィードバック動作の4つのステップを実行する。同期動作は、アンテナを調整する装置間の同期を取り、初期動作は、アンテナを調整する相手方装置を特定する。探索動作は、アンテナを調整する装置が交互に電波の発射とアンテナ指向性の制御とを行って最適な指向性を探索する。フィードバック動作は、探索動作によって得られた装置各々のアンテナ指向性の最適値を交換して、アンテナ指向性を最終決定する。加えて、アンテナの指向性を詳細に調整する絞り込み動作を行ってもよい。
【0028】
[同期動作]
同期動作では、STA装置2・3は、AP装置1が送信するビーコン信号を受信して、アンテナの調整タイミングを同期する。併せて、STA装置2・3は、AP装置1に対して自己のアンテナ21・31の指向性パターンを粗調整する。
【0029】
AP装置1やSTA装置2・3が高周波数帯でビーコン信号の送受信を行う際、AP装置1やSTA装置2・3のアンテナ制御部12および22・32は、図6Bに示すようにアンテナ11および21・31の指向性パターンを、それぞれオムニ特性(クアジ・オムニ特性)およびビームの指向性パターン特性とする。一方、AP装置1やSTA装置2・3が低周波数帯でビーコン送信情報を送受信する際、AP装置1やSTA装置2・3のアンテナ制御部12および22・32は、図6Aに示すようにアンテナ制御部12および22・32の指向性パターンをオムニ特性(クアジ・オムニ特性)とする。
【0030】
STA装置2・3のアンテナ制御部22・32は、AP装置1のビーコン信号に基づいてアンテナ22・32の指向性パターンを粗調整する。この「粗調整」の意味は、少なくともビーコン信号の送受信ができる程度にアンテナの指向性パターンを調整する趣旨である。
【0031】
[初期動作]
初期動作では、AP装置1およびSTA装置2・3は、相互にビーム形成要求信号BFRqtおよびビーム形成応答信号BFRspを交換する。すなわち、通信相手たる無線装置と自己のアンテナの指向性パターンの数を含む探索情報を交換する。ビーム形成要求信号BFRqtおよびビーム形成応答信号BFRspを交換する意義は、(1)通信を開始しようとするAP装置またはSTA装置が通信相手に対してビーム形成の要求をすること、(2)互いにビーム形成能力に関する情報を交換すること、(3)AP装置によりビーム形成要求を各装置に伝達すること、(4)ネットワークアロケーションベクター(NAV)の仕組みを用いて、ビーム形成を行う二者以外の装置に対し電波の発射を停止させること、である。そのため、ビーム形成要求信号BFRqtおよびビーム形成応答信号BFRspは、アンテナ調整を行う相手方たる無線装置を特定するIDやビーム形成の方法などを示す情報を含んでいる。
【0032】
AP装置1やSTA装置2・3の送信部14・24・34は、信号の衝突を防止するCSMA/CAモードで、ビーム形成要求信号BFRqtおよびビーム形成応答信号BFRspを交換する。ここでは、既に同期動作によりAP装置1およびSTA装置2・3間の通信が可能になっているから、AP装置1やSTA装置2・3は高周波数帯を用いて通信してもよいし、低周波数帯を用いて通信してもよい。ビーム形成要求信号BFRqtおよびビーム形成応答信号BFRspの交換は、装置間で確実に実行する必要があるから、伝搬損失を補償する変調方式や符号化方式を用いてもよい。
【0033】
[探索動作]
探索動作では、初期動作にて交換したビーム形成要求信号BFRqtおよびビーム形成応答信号BFRspの内容に基づき、一方が電波を送信中に他方がアンテナ指向性を変えつつ受信することで最適な指向性を探索した後、送受信を入れ替えて探索を繰り返す。すなわち、第1の無線装置がアンテナの指向性パターンを切替えつつ第1の探索信号を送信するとともに、通信相手たる第2の無線装置が第1の無線装置のアンテナの送信指向性パターン一つごとに自己のアンテナの受信指向性パターンを複数切替えて受信する。同様に、第2の無線装置がアンテナの指向性パターンを切替えつつ第2の探索信号を送信するとともに、通信相手たる第1の無線装置が第2の無線装置のアンテナの送信指向性パターン一つごとに自己のアンテナの受信指向性パターンを複数切替えて受信する。
【0034】
図7Aおよび図7Bを参照して、STA装置2・3間で探索動作をする場合を例に説明する。STA装置2の送信制御部26は、ビーム形成要求信号BFRqtおよびビーム形成応答信号BFRspの交換内容に基づき、アンテナ21の指向性を所定の指向性パターン(図7Aでは「送信方向1」)にセットし、送信部24は、所定のタイミングで電波を発射する。一方、STA装置3の受信制御部37は、STA装置2が「送信方向1」に向けて電波を発射している期間中にアンテナ31の指向性パターンを順次切替え(図7Aでは「受信方向1」→「受信方向2」)、受信部33は、STA装置2からの電波を受信する。このとき、アンテナ31の指向性パターンの制御は、STA装置2が一の方向に電波を発射している期間中に、電波到来の可能性のある全方位に指向性パターンが向く(あるいは全ての受信指向性パターンに切替える)ようにすることが望ましい。受信制御部37は、受信部33がSTA装置2からの電波を最も強く受信できた指向性パターン(例えば「受信方向2」)を記憶部39に記憶させる。
【0035】
次いで、STA装置2の送信制御部26は、アンテナ21の指向性パターンを切替え(図7Bでは「送信方向2」)、送信部24は、同様に電波を発射する。STA装置3の受信制御部37は、STA装置2が「送信方向2」に向けて電波を発射している期間中にアンテナ31の指向性パターンを順次切替え(図7Bでは「受信方向1」→「受信方向2」)、受信部33は、STA装置2からの電波を受信する。このとき、アンテナ31の指向性パターンの制御は、STA装置2が一の方向に電波を発射している期間中に、電波到来の可能性のある全方位に指向性パターンが向く(あるいは全ての受信指向性パターンに切替える)ように制御してもよいし、記憶部39に記憶した方向およびその周辺方向を中心に制御してもよい。受信制御部37は、受信部33がSTA装置2からの電波を最も強く受信できた指向性パターン(例えば「受信方向2」)と、記憶部39に記憶した指向性パターンとを比較し、結果の良好な組み合わせ(図7Aおよび図7Bでは、「2巡目(送信方向2)」と「受信方向2」の組み合わせ)を記憶部39に記憶させる。
【0036】
以後、STA装置2の送信制御部26が所定の指向性パターン全てについて電波の発射を終えると(8パターンであれば8回分)、引き続きSTA装置3が同様の手順で電波を発射し、STA装置2がアンテナを制御しつつ電波を受信する。こうした手順により、STA装置2およびSTA装置3は、相手方の送信指向性パターンと自己の受信指向性パターンの最適な組み合わせ(送信方向および受信方向の最適な組み合わせ)を取得することができる。
【0037】
[フィードバック動作]
フィードバック動作では、探索動作を行った装置間で、探索動作において取得した最適な組み合わせ(最適な相手方の送信指向性パターン)を交換する。すなわち、第2の探索信号の受信の結果、該第2の探索信号の受信状態が最良となる通信相手たる無線装置のアンテナの指向性パターンを示す第1のパターン情報を送信するとともに、第1の探索信号の送信の結果、通信相手たる無線装置による第1の探索信号の受信状態が最良となるアンテナの指向性パターンに関する第2のパターン情報を受信する。図7Aおよび図7Bに示す例で、例えばSTA装置3が「2巡目(送信方向2)の受信方向2」を最適な組み合わせとして取得した場合、STA装置3は、「2巡目」を最適な送信指向性パターンとしてSTA装置2に送る。STA装置2は、「2巡目(送信方向2)」が最適であったことを知ることができるから、STA装置3に対する最適な送信指向性パターンとして「送信方向2」を取得することになる。送信制御部26は、この情報を記憶部29に記憶させ、STA装置3に対して信号を送信する際、アンテナ制御部22を介してアンテナ21の送信指向性パターンを「送信方向2」となるように制御する。STA装置2に対するSTA装置3の送信指向性パターンについても同様である。
【0038】
このような動作を繰り返すことにより、STA装置2・3は、送信および受信双方についてアンテナの最適な指向性パターンを得ることができる。なお、受信側装置において送信側装置のアンテナの送信指向性パターンを取得する方法としては、探索動作において発射される電波に送信指向性パターンを示す情報を載せておく方法や、あらかじめ送信側装置がアンテナの送信指向性パターンを変更するタイミングを決めておく方法が考えられる。
【0039】
(アンテナ調整のタイミング)
アンテナの送受信指向性パターンの最適化は、通信開始前に行われる。しかし、STA装置が移動する場合は、移動に伴ってアンテナのビーム方向にズレが生じる。そのため、図8に示すようにデータ送信後にアンテナ調整(微調整)を行ったり(図中a)、データ送信前後にアンテナ調整を行ったり(同b)、所定のタイミングで定期的に行ったり(同c)してもよい。
【0040】
ここで、探索動作において、アンテナの送受信指向性パターンの最適な組み合わせを記憶部に保存するだけではなく、2番目に良好な組み合わせを記憶部に保存することも有効である。すなわち、STA装置の移動に伴って行うアンテナ調整において通信設定前と同じ条件で処理を行うのは冗長であり、2回目以降のアンテナ調整においてはまず2番目に良好な組み合わせを試行することが有利だからである。
【0041】
(実施形態の無線システムの動作例:アドホックモード)
次に、図1、図9ないし図13を参照して、実施形態の無線システムの具体的動作例について詳細に説明する。図9は、STA装置2がSTA装置3とアンテナ調整を実行する例を示している。なお、AP装置1およびSTA装置2・3の間で前述の同期動作は既に完了しているものとする。
【0042】
[初期動作]
図9に示すように、STA装置2の送信部24は、記憶部29に予め記憶したテンプレートを用いてビーム形成要求信号BFRqt(1)を生成してAP装置1に送信する。AP装置1の受信部13がビーム形成要求信号BFRqt(1)を受信すると、探索処理部18は、記憶部19に予め記憶したテンプレートを用いてビーム形成応答信号BFRsp(1)を生成し、送信部14は、送信禁止期間(SIFS: Short Inter Frame Space)経過後、アンテナ11を介してビーム形成応答信号BFRsp(1)を送信する。このとき、アンテナ制御部12は、アンテナ11をオムニ特性として動作させる。従って、ビーム形成応答信号BFRsp(1)は、AP装置1の通信圏にあるSTA装置2・3などに到達する。ビーム形成応答信号BFRsp(1)を受信したSTA装置は、当該信号に規定された装置を除き、送信禁止期間(Network Allocation Vector: NAV)中の送信が禁止される。
【0043】
図10は、ビーム形成要求信号BFRqt(1)およびビーム形成応答信号BFRsp(1)をなすデータ列の一例を示している。図10に示すように、ビーム形成要求信号BFRqt(1)およびビーム応答信号BFRsp(1)は、フレーム制御データ(Frame Control)、ビーム探索の継続時間(Duration)、データ発信元アドレス(Address 1)、データ宛先アドレス(Address 2)、ビーム形成対象アドレス(Address 3)、要求または応答の区別(Rqt/Rsp)、ビーム形成能力(BF Capability)、探索または絞込の区別(Searching/Refine)およびフレームチェックシーケンス(FCS)などの各種データを含んでいる。また、ビーム形成能力の要素として、オムニ特性アンテナの使用可否(Quasi-Omni capable)、ビーム形成の可否(BF capable)、送信アンテナのパターン数(# of Tx patterns)および受信アンテナのパターン数(# of Rx patterns)などのパラメータを含んでいる。
【0044】
図11は、ビーム形成要求信号BFRqt(1)およびビーム形成応答信号BFRsp(1)に格納されるアドレスの例である。図11に示すように、STA装置2が送信するビーム形成要求信号BFRqt(1)には、データ発信元アドレスとしてSTA装置2のアドレス、データ宛先アドレスとしてAP装置1のアドレス、ビーム形成対象アドレスとしてSTA装置3のアドレスが格納される。同様に、AP装置1が送信するビーム形成応答信号BFRsp(1)には、データ発信元アドレスとしてAP装置1のアドレス、データ宛先アドレスとしてSTA装置3のアドレス、ビーム形成対象アドレスとしてSTA装置2のアドレスが格納される。
【0045】
ビーム形成応答信号BFRsp(1)をSTA装置3の受信部33が受信すると、探索処理部38は、記憶部39に予め記憶したテンプレートを用いてビーム形成要求信号BFRqt(2)を生成し、送信部34は、送信禁止期間経過後、生成したビーム形成要求信号BFRq(2)をAP装置1に送信する。AP装置1の受信部13がビーム形成要求信号BFRqt(2)を受信すると、探索処理部18は、記憶部19に記憶したテンプレートを用いてビーム形成応答信号BFRsp(2)を生成し、送信部14は、送信禁止期間経過後、アンテナ11を介してビーム形成応答信号BFRsp(2)を送信する。ビーム形成応答信号BFRsp(2)は、STA装置2・3により受信される。
【0046】
なお、前述したとおり、ビーム形成要求信号BFRqtおよびビーム形成応答信号BFRspの交換は、オムニ特性の送受信パターンのアンテナにより行われる。
【0047】
図11に示すように、STA装置3が送信するビーム形成要求信号BFRqt(2)には、データ発信元アドレスとしてSTA装置3のアドレス、データ宛先アドレスとしてAP装置1のアドレス、ビーム形成対象アドレスとしてSTA装置2のアドレスが格納される。同様に、AP装置1が送信するビーム形成応答信号BFRsp(2)には、データ発信元アドレスとしてAP装置1のアドレス、データ宛先アドレスとしてSTA装置2のアドレス、ビーム形成対象アドレスとしてSTA装置3のアドレスが格納される。
【0048】
ビーム形成要求信号BFRqtおよびビーム形成応答信号BFRspを交換することにより、STA装置2・3は、互いに相手のビーム形成能力を知ることができる。
【0049】
[探索動作]
ビーム形成応答信号BFRsp(2)を受信したSTA装置2の探索処理部28は、図7Aおよび図7Bに示す探索動作のための電波送信を送信部24に指示し、送信部24は、送信禁止期間経過後、所定時間中電波を発射する(Training 1)。このとき、図7Aおよび図7Bに示すように、送信制御部26は、アンテナ制御部22を介してアンテナ21の送信指向性パターンを順次切替える。一方、STA装置3の探索処理部38は、アンテナ31および受信部33を介してSTA装置2からの電波を受信する。このとき、受信制御部37は、図7Aおよび図7Bに示すように、STA装置2の送信指向性パターンが切り替わらない間に、アンテナ制御部32を介してアンテナ31の受信指向性パターンを順次切替える。なお、この切替える指向性パターンの数は、図9に示すようにビーム形成能力パラメータ(BF capability)としてSTA装置2・3の間で交換されており、STA装置2の送信継続時間は、図9に示すように継続時間パラメータ(Duration)としてSTA装置2・3の間で交換されているから、STA装置3の受信制御部37は、全ての送受信指向性パターンの組み合わせについて受信強度を取得することになる。
【0050】
STA装置2の電波送信が終わると、STA装置3の受信制御部37は、受信部33がSTA装置2からの電波を最も強く受信できた受信指向性パターンと、記憶部39に記憶した指向性パターンとを比較し、結果の良好なSTA装置2の送信指向性パターンおよびSTA装置3の受信指向性パターンの組み合わせを記憶部39に記憶させる。
【0051】
次いで、探索処理部38は、同様に探索動作のための電波送信を送信部34に指示し、送信部34は、送信禁止期間経過後、所定時間中電波を発射する(Training 2)。図7Aおよび図7Bに示すように、送信制御部36は、アンテナ制御部32を介してアンテナ31の送信指向性パターンを順次切替え、STA装置2の探索処理部28は、アンテナ21および受信部23を介してSTA装置3からの電波を受信する。受信制御部27は、STA装置3の送信指向性パターンが切り替わらない間に、アンテナ制御部22を介してアンテナ21の受信指向性パターンを順次切替える。その結果、受信制御部27は、受信部23がSTA装置3からの電波を最も強く受信できた指向性パターンと、記憶部29に記憶した指向性パターンとを比較し、結果の良好なSTA装置3の送信指向性パターンおよびSTA装置2の受信指向性パターンの組み合わせを記憶部29に記憶させる。
【0052】
図12は、探索動作においてSTA装置2・3が送信する電波に含まれるデータ列の例を示している。図11に示すように、探索動作においては、フレーム制御(Frame Control)、送信パターンID(Tx pattern ID)、探索シーケンスカウンタ(Training Sequence Counter)、総探索シーケンス(Total Training Sequence)およびフレームチェックシーケンス(FCS)などの各種データが格納された信号が送信される。
【0053】
このように、STA装置3の探索処理部38は、STA装置2からの電波送信により全ての指向性パターンの受信信号強度を取得し、STA装置2の探索処理部28は、STA装置3からの電波送信により全ての指向性パターンの受信信号強度を取得することができる。また、探索動作における送信信号には送信パターンIDが含まれているので、受信側STA装置は送信側STA装置の送信指向性パターンを知ることができる。
【0054】
[フィードバック動作]
STA装置3の電波送信が終わると、STA装置3の探索処理部38は、記憶部39に記憶した良好な組み合わせに係るSTA装置2の送信指向性パターンを含んだビーム形成フィードバック信号BFFdbk(1)を生成し、送信部34は、ビーム形成フィードバック信号BFFdbk(1)をAP装置1に送信する。
【0055】
AP装置1の探索処理部18は、受信したビーム形成フィードバック信号BFFdbk(1)に基づいてビーム形成フィードバック信号BFFdbk(2)を生成し、送信部14は、ビーム形成フィードバック信号BFFdbk(2)をSTA装置2・3に送信する。ビーム形成フィードバック信号BFFdbk(2)についても、良好な組み合わせに係るSTA装置2の送信指向性パターンが含まれている。
【0056】
STA装置2の探索処理部28は、受信したビーム形成フィードバック信号BFFdbk(2)に応じて、記憶部29に記憶した良好な組み合わせに係るSTA装置3の送信指向性パターンを含んだビーム形成フィードバック信号BFFdbk(3)を生成し、送信部24は、ビーム形成フィードバック信号BFFdbk(3)をSTA装置3に送信する。ビーム形成フィードバック信号BFFdbk(3)の受信に応じて、STA装置3の送信部34は、送信禁止期間経過後にACK信号を送信する。
【0057】
ビーム形成フィードバック信号BFFdbk(1)〜BFFdbk(3)には、相手方との通信において受信信号強度が最も強い組み合わせとなる当該相手方の送信指向性パターンの情報が含まれている。すなわち、ビーム形成フィードバック信号BFFdbkの交換により、STA装置2・3は、相手に最も強力な電波を送り届けることのできる送信指向性パターンを取得することができる。
【0058】
図13は、フィードバック動作において交換されるビーム形成フィードバック信号BFFdbk(1)〜(3)に含まれるデータ列の一例である。図12に示すように、ビーム形成フィードバック信号BFFdbkには、フレーム制御データ(Frame Control)、ビーム探索の継続時間(Duration)、データ発信元アドレス(Address 1)、データ宛先アドレス(Address 2)、ビーム形成対象アドレス(Address 3)、相手方の送信指向性パターンのうち最良のパターンID(Best Pattern ID)、当該最良のパターンにおけるSN比(Signal Noise Ratio)の値(SNR of best pattern)、さらなる探索動作の要否(More training)、ビーム形成能力(BF Capability)およびフレームチェックシーケンス(FCS)などの各種データを含んでいる。フィードバック信号BFFdbk(1)〜(3)におけるデータ発信元アドレス(Address 1)、データ宛先アドレス(Address 2)およびビーム形成対象アドレス(Address 3)の具体例を図11に示す。
【0059】
このように、実施形態の無線システムでは、STA装置2・3が、AP装置1を介してビーム形成要求信号BFRqtおよびビーム形成応答信号BFRspを交換し、次いでSTA装置2・3が交互に探索動作のための電波を送信(Training 1/2)した後、フィードバック信号BFFdbkを交換する。かかる動作により、STA装置2・3は、互いに相手方と通信する際に用いるべき送信指向性パターンおよび受信指向性パターンを取得することができる。
【0060】
(実施形態の無線システムの動作例:インフラストラクチャモード)
次に、図1、図9ないし図15を参照して、実施形態の無線システムの他の具体的動作例について詳細に説明する。図14は、STA装置2およびSTA装置3がAP装置1とアンテナ調整を実行する例を示している。図14に示す動作例は、図9に示す動作例のようにSTA装置2・3の間ではなく、AP装置1とSTA装置2・3それぞれとの間でアンテナのビーム形成を行うものである。以下の説明において、共通する要素・動作について共通の符号等を付して示し、重複する説明を省略する。
【0061】
図14に示す動作例では、まずSTA装置2がビーム形成要求信号BFRqt(1)をAP装置1に送信し、これに応じてAP装置1はビーム形成応答信号BFRsp(1)を返信する。これにより、AP装置1とSTA装置2との間でビーム形成に必要な情報交換が行われる。すなわち、図15に示すように、ビーム形成要求信号BFRqt(1)の発信元アドレスはSTA装置2、宛先アドレスはAP装置1、ビーム形成対象アドレスはAP装置1となる。また、ビーム形成応答信号BFRsp(1)の発信元アドレスはAP装置1、宛先アドレスはSTA装置2、ビーム形成対象アドレスはSTA装置2となる。
【0062】
ビーム形成応答信号BFRsp(1)の受信に応じて、まずSTA装置2が探索動作のための電波を所定期間AP装置1に送信し(Training 1)、次いでAP装置1が探索動作のための電波を所定期間STA装置2に送信する(Training 2)。これにより、AP装置1とSTA装置2は、それぞれの通信においてアンテナの最適な受信指向性パターンと、相手方のアンテナの最適な送信指向性パターンを取得する。
【0063】
続いて、AP装置1はビーム形成フィードバック信号BFFdbk(1)をSTA装置2に送信し、これに応じてSTA装置2は、フィードバック信号BFFdbk(2)を送信する。フィードバック信号BFFdbk(2)を受信したAP装置1は、ACK信号をSTA装置2に返す。これにより、AP装置1およびSTA装置2は、互いに通信する際に最適なアンテナの送信指向性パターンを取得する。
【0064】
ここまでの動作で、AP装置1およびSTA装置2は、互いに通信する際の最適なアンテナの送受信指向性パターンの組み合わせを取得することができる。以後、必要に応じてAP装置1は、ビーム形成応答信号BFRpt(2)をSTA装置3に送信し、AP装置1およびSTA装置3の間のビーム形成処理を続行する。この場合、図15に示すように、ビーム形成要求信号BFRqt(2)の発信元アドレスはAP装置1、宛先アドレスはSTA装置3、ビーム形成対象アドレスはSTA装置3となる。
【0065】
このように、AP装置とSTA装置との間のアンテナのビーム形成処理は、ビーム形成要求信号BFRqtやビーム形成応答信号BFRspを直接交換するので、短時間でビーム形成処理を行うことができる。
【0066】
(実施形態の無線システムの動作例:リファインモード)
次に、図1、図9ないし図18を参照して、実施形態の無線システムの他の具体的動作例について詳細に説明する。図16は、STA装置2およびSTA装置3の間でアンテナのビーム形成の絞込動作を実行する例である。図16に示す動作例は、図9に示す動作例と同様にSTA装置2・3の間でアンテナのビーム形成の絞込を行うものである。以下の説明において、共通する要素・動作について共通の符号等を付して示し、重複する説明を省略する。
【0067】
図16に示す動作例では、まずSTA装置2がビーム形成要求信号BFRqt(1)をAP装置1に送信し、これに応じてAP装置1はビーム形成応答信号BFRsp(1)をSTA装置3に送信する。さらに、ビーム形成応答信号BFRsp(1)の受信に応じて、STA装置3は、ビーム形成要求信号BFRqt(2)をSTA装置2に送信し、STA装置2は、ビーム形成応答信号BFRsp(2)を返信する。これにより、STA装置2とSTA装置3との間でビーム形成に必要な情報交換が行われる。すなわち、ビーム形成の絞込動作は、一旦ビーム形成を行った後に実行するものであるから、ビーム形成要求信号BFRqt(2)およびビーム形成応答信号BFRsp(2)の交換は、AP装置1を介さず、STA装置2およびSTA装置3の間で直接行われる。図18に示すように、ビーム形成要求信号BFRqt(2)の発信元アドレスはSTA装置3、宛先アドレスはSTA装置2、ビーム形成対象アドレスはSTA装置2となる。また、ビーム形成応答信号BFRsp(2)の発信元アドレスはSTA装置2、宛先アドレスはSTA装置3、ビーム形成対象アドレスはSTA装置3となる。
【0068】
ビーム形成応答信号BFRsp(2)を返信した後、STA装置2は、絞込動作のための電波を所定期間STA装置3に送信し(Training 1)、次いでSTA装置3は、絞込動作のための電波を所定期間STA装置2に送信する(Training 2)。絞込動作のための電波の発射は、探索動作のための電波の発射と同様に行われるが、探索動作によって得られたアンテナの良好な送受信指向性パターンの組み合わせをさらに絞り込む作用をする。そのため、図16に示すように、アンテナ制御部によるアンテナの制御は、図7Aおよび図7Bにより制御された指向性パターンよりも細かいパターン(図17に示すように「送信ビーム1」「送信ビーム2」や「受信ビーム1」「受信ビーム2」)を制御する。STA装置2およびSTA装置3は、それぞれの通信においてアンテナの最適な受信指向性パターンと、相手方のアンテナの最適な送信指向性パターンをさらに最適化することができる。
【0069】
続いて、STA装置3はビーム形成フィードバック信号BFFdbk(1)をSTA装置2に送信し、これに応じてSTA装置2は、フィードバック信号BFFdbk(2)を返信する。フィードバック信号BFFdbk(2)を受信したSTA装置3は、ACK信号をSTA装置2に返す。これにより、STA装置2およびSTA装置3は、互いに通信する際に最適なアンテナの送信指向性パターンを取得する。
【0070】
なお、この動作例では、図9に示すアドホックモードで絞込動作を行っているが、これには限定されない。図14に示すインフラストラクチャモードにおいて絞込動作を行っても構わない。
【0071】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…AP装置、2・3…STA装置、11・21・31…アンテナ、12・22・32…アンテナ制御部、13・23・33…受信部、14・24・34…送信部、15・25・35…インタフェース部、16・26・36…送信制御部、17・27・37…受信制御部、18・28・38…探索処理部、19・29・39…記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の指向性パターンを選択可能なアンテナと、
他の無線装置と自己のアンテナの指向性パターンの数を含む探索情報を交換する情報交換部と、
前記アンテナを介して該アンテナの指向性パターンを切替えつつ第1の探索信号を送信する探索送信部と、
前記他の無線装置がアンテナの指向性パターンを切替えつつ第2の探索信号を送信する場合に、前記他の無線装置のアンテナの各指向性パターン一つごとに前記アンテナの指向性パターンを順次切替えながら前記アンテナを介して前記第2の探索信号を受信する探索受信部と、
前記探索受信部による前記第2の探索信号の受信の結果、該第2の探索信号の受信状態が最良となる前記他の無線装置のアンテナの指向性パターンを示す第1のパターン情報を前記他の無線装置に送信するとともに、前記探索送信部による前記第1の探索信号の送信の結果、前記他の無線装置による前記第1の探索信号の受信状態が最良となる前記アンテナの指向性パターンに関する第2のパターン情報を受信するフィードバック部と、
前記探索受信部による前記第2の探索信号の受信の結果、該第2の探索信号の受信状態が最良となる前記アンテナの指向性パターンと、前記第2のパターン情報が示す前記アンテナの指向性パターンとに基づいて、送受信それぞれにおける前記アンテナの指向性パターンを設定するアンテナ制御部と
を具備したことを特徴とする無線装置。
【請求項2】
前記探索送信部は、前記アンテナの選択可能な全ての指向性パターンについて切替えつつ前記第1の探索信号を送信し、
前記探索受信部は、前記他の無線装置のアンテナの各指向性パターン一つごとに前記アンテナの全ての指向性パターンを順次切替えながら前記アンテナを介して前記第2の探索信号を受信すること
を特徴とする請求項1記載の無線装置。
【請求項3】
前記探索送信部は、送信に係る前記アンテナの指向性パターンを示す識別情報を含む前記第1の探索信号を送信し、
前記第2の探索信号は、前記他の無線装置の送信に係る前記他の無線装置のアンテナの指向性パターンを示す識別情報を含むこと
を特徴とする請求項1記載の無線装置。
【請求項4】
前記情報交換部は、前記アンテナを介して該アンテナの指向性パターンを無指向性パターンとして前記探索情報を交換することを特徴とする請求項1記載の無線装置。
【請求項5】
前記探索情報の交換に先立ち前記他の無線装置と同期をとる同期部をさらに備え、
前記他の無線装置が自己を収容するアクセスポイントであること
を特徴とする請求項1記載の無線装置。
【請求項6】
前記探索情報の交換に先立ち自己を収容するアクセスポイントと同期を取る同期部をさらに備え、
前記探索情報の交換が前記アクセスポイントを経由してなされること
を特徴とする請求項1記載の無線装置。
【請求項7】
複数の指向性パターンを選択可能なアンテナと、
他の無線装置のアンテナの指向性パターンの数を含む探索情報を受信する情報交換部と、
前記アンテナを介して該アンテナの指向性パターンを切替えつつ第1の探索信号を送信する探索送信部と、
前記他の無線装置がアンテナの指向性パターンを切替えつつ第2の探索信号を送信する場合に、前記他の無線装置のアンテナの各指向性パターン一つごとに前記アンテナの指向性パターンを順次切替えながら前記アンテナを介して前記第2の探索信号を受信する探索受信部と、
前記探索送信部による前記第1の探索信号の送信の結果、前記他の無線装置による前記第1の探索信号の受信状態が最良となる前記アンテナの指向性パターンに関するパターン情報を受信するフィードバック部と、
前記探索受信部による前記第2の探索信号の受信の結果、該第2の探索信号の受信状態が最良となる前記アンテナの指向性パターンと、前記パターン情報が示す前記アンテナの指向性パターンとに基づいて、送受信それぞれにおける前記アンテナの指向性パターンを設定するアンテナ制御部と
を具備したことを特徴とする無線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−199680(P2012−199680A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61474(P2011−61474)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)総務省委託「周波数ひっ迫対策のための技術試験事務」の一環、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】