説明

無線通信システム、これを構成する無線中継装置及び無線通信端末

【課題】帰属中のAPで無線通信環境が悪くなった場合に、ローミングを行えるようにする。
【解決手段】AP100aは、帰属しているNIC200cからの信号に関するRSSI値が閾値未満になると(S106)、このNIC200cをローミング候補とし、このRSSI値を含むローミング候補情報を作成して(S107a)、これを他のAP100b,100dへ送信する(S108a)。他のAP100b,100dは、ローミング候補200cからの信号に関するRSSI値と、ローミング候補情報に含まれているRSSI値とを含むローミング判定情報を作成し(S107b,S107d)、これをローミング候補200cへ送信する(S108b,S108d)。ローミング候補200cは、ローミング判定情報に含まれている各APのRSSI値を用いて、帰属先を定める(S204)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線LAN(Local Area Network)のように、アクセスポイントと呼ばれる無線中継装置と、この無線中継装置により他の端末と通信する無線通信端末と、を備えている無線通信システムにおけるローミング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように無線LANでは、アクセスポイント(以下、APと略す)と呼ばれる無線中継装置と無線通信端末との間は、無線通信で接続される。複数のAPは、有線LANを経由して互いに接続され、必要に応じてルータなどのノード経由でインターネットなどの公衆網に接続されている。一般に、無線通信端末は、移動可能であるため、移動に伴って、現在帰属中のAPから、近くのAPへ帰属先を切替える必要がある。
【0003】
以下の特許文献1には、以上のような場合に、無線通信端末が帰属先を替えるローミング技術について開示されている。この技術では、無線通信端末が、APからの信号の強度を測定し、移動に伴い帰属中のAPからの信号強度が弱くなると、より強い信号を受信できる近くのAPへ帰属先を切替えている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−359864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、無線通信端末がAPから受信する信号の強度と、このAPがこの無線通信端末から受信する信号の強度とは、ほぼ等しい。しかしながら、APの設置位置や、このAPと無線通信端末と相対位置関係等から、無線通信端末がAPから受信する信号の強度に対して、このAPがこの無線通信端末から受信する信号の強度が弱い場合がある。このような場合、上記特許文献1に記載の技術では、無線通信端末は、帰属中のAP側での信号強度が弱く、ローミングを行った方が好ましいときでも、帰属中のAPとの無線通信を継続してしまう、という問題点がある。
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点に着目し、帰属中のAPで無線通信環境が悪くなった場合でもローミングを行え、無線通信端末が良好な無線通信を継続することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記問題点を解決するための発明に係る無線中継装置は、
1以上の無線中継装置と有線で接続され、該1以上の無線通信装置との間で有線通信する有線通信手段と、無線通信端末との間で無線通信する無線通信手段とを備え、該無線通信端末と他の端末との通信を中継する無線中継装置において、
無線通信端末からの信号強度を検知する信号強度検知手段と、
前記信号強度検知手段により、帰属中の無線通信端末からの信号強度が検出されると、該信号強度が所定値未満であるか否かを判断する判断手段と、
前記判断手段で、前記帰属中の無線通信端末からの前記信号強度が所定値値未満であると判断された場合に、該無線通信端末をローミング候補端末として、該ローミング候補端末の通信アドレスと該信号強度と無線中継装置自身の通信アドレスとを含むローミング候補情報を作成して、前記有線通信手段により前記1以上の無線中継装置へ該ローミング候補情報を送信させるローミング候補情報作成手段と、
前記有線通信手段により、前記ローミング候補情報を受信すると、該ローミング候補情報で特定されるローミング候補端末からの信号強度を前記信号強度検知手段から取得し、該信号強度と、該ローミング候補情報に含まれている前記通信アドレス及び前記信号強度と、無線中継装置自身の通信アドレスと、を含むローミング判定情報を作成して、前記無線通信手段により該ローミング候補端末へ該ローミング判定情報を送信させるローミング判断情報作成手段と、
を備えていることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記無線中継装置は、
さらに、前記無線通信手段による無線通信負荷を検出する負荷検出手段を備え、
前記ローミング候補情報作成手段は、前記ローミング候補情報に、前記負荷検出手段で検出された前記無線通信負荷を含め、前記ローミング判定情報作成手段は、前記ローミング判定情報に、前記負荷検出手段で検出された前記無線通信負荷と、前記ローミング候補情報に含まれている無線通信負荷とを含める、ものであることが好ましい。
【0009】
また、前記問題点を解決するための無線通信端末は、
互いに有線で接続されている複数の前記無線中継装置のうちのいずれか一の無線中継装置と無線通信する無線通信手段と、
前記無線通信手段が、帰属していない無線中継装置から前記ローミング候補情報を受信すると、該ローミング候補情報に含まれている各無線中継装置毎の信号の強度を用いて、帰属先を定めるローミング判定手段と、
前記ローミング判定手段により、帰属中の無線中継装置と異なる他の無線中継装置が帰属先として定められると、該帰属中の無線中継装置から該他の無線中継装置へのローミング処理を行うローミング処理手段と、
を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、無線通信端末は、ローミング判定情報に含まれている各無線中継装置での当該無線通信端末からの信号の強度を用いて、帰属先を定めるので、帰属中のAPで無線通信環境が悪くなった場合でもローミングを行え、良好な無線通信を継続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る無線LANシステムの一実施形態について、図面を用いて説明する。
【0012】
本実施形態の無線LANシステムは、図1に示すように、無線通信端末であるNIC(Network Interface Card)200a,200b,200c,…と、これが装着されているコンピュータ250a,250b,250c,…と、各無線通信端末の中継装置であるAP(Access Point)100a,100b,100c,…と、を備えている。各AP100a,100b,100c,…は、有線LAN1により、相互に通信可能に接続されている。この有線LAN1は、ルータ2を介して、WAN3に接続されている。なお、以下では、NICに関して、複数のNIC200a,200b,200c,…のうち、特定のNICを示す場合を除いて、単に、NIC200と示すことにする。また、コンピュータやAPに関しても、同様に、特定のものを示す場合を除いて、単に、コンピュータ250、AP100と示すことにする。
【0013】
各NIC200は、いずれかのAP100に帰属することにより、この無線LANに収容されている他のNIC200、又はWAN3に接続されている他の端末と通信することができる。
【0014】
各NIC200は、図3に示すように、各種演算処理を実行するプロセッサ210と、プロセッサ210が実行するプログラムが格納されているプログラムメモリ220と、プロセッサ210のワークエリアであるワークメモリ211と、無線インタフェース230と、アンテナ235と、コンピュータ250に装着するためのコネクタ240と、を備えている。
【0015】
プロセッサ210は、機能的に、帰属先APを定めて、ローミングを行うか否かの判定を行うローミング判定部212と、ローミング処理を実行するローミング処理部213と、を有している。プロセッサ210は、以上の機能の他、通信データフレームを生成する通信データフレーム生成部、AP100からのビーコン信号等を解析する解析部、コンピュータ250との間でのデータのやりとりを管理する管理部等の各種機能を有しているが、これらの機能は、本発明を説明するために重要な機能ではないので、ここでは、これらの機能をまとめて実行する機能部を制御部211としている。以上の各機能部211〜213は、いずれも、プロセッサ210がプログラムメモリ220に格納されているプログラムを実行することで機能する。
【0016】
無線インタフェース230は、プロセッサ210からの指示で信号を変調してアンテナ235から無線送信する無線送信部231と、アンテナ235で受信されたAP100からの信号を復調する無線受信部232と、を有している。無線送信部231は、図示していないが、送信するデータを一次的に溜めておく送信バッファと、送信バッファからのディジタル送信データをアナログ信号に変換するD/A変換器と、このアナログ信号に対して変調処理を施す変調部と、変調された信号を増幅して、これをアンテナ235に出力するアンプと、を有している。また、無線受信部232は、アンテナ235で受信した信号を増幅するアンプと、アンプからの信号に対して復調処理を施す復調部と、復調されたアナログ信号をディジタルデータに変換するA/D変換器と、ディジタルデータを一次的に溜めておく受信バッファと、を有している。
【0017】
無線受信部232は、さらに、図3に示すように、AGC(Automatic Gain Control)233を有している。このAGC233は、入力信号のレベルの大小にかかわらず出力を常に一定に保つための補助回路である。このため、このAGC233は、入力信号の強度を検知する機能を有している。このAGC233が検知した入力信号の強度であるRSSI(Received Signal Strength Indicator)値は、ローミング判定部212に送られ、ここでのローミング判定に用いられる。
【0018】
コンピュータ250は、CPU251と、メモリ252と、入出力インタフェース253と、以上で説明したNICが装着されるコネクタ254と、入出力インタフェース253に接続された表示装置255及び入力装置256と、を有している。
【0019】
AP100は、図2に示すように、各種演算処理を実行するプロセッサ110と、プロセッサ110が実行するプログラムが格納されているプログラムメモリ120と、プロセッサ110のワークエリアであるワークメモリ111と、無線インタフェース130と、アンテナ135と、有線インタフェース140と、を備えている。
【0020】
プロセッサ110は、機能的に、当該AP100の無線通信負荷を検知する無線通信負荷検知部112と、帰属中のNIC200からの信号のRSSI値のうちのいずれかが予め定められた閾値未満であるか否かを判断するRSSI判断部113と、RSSI判断部113での判断結果に応じてローミング候補のNIC200の情報を作成するローミング候補情報作成部114と、他のAP100から送られてきたローミング候補情報に基づいて当該ローミング候補のNIC200へ送るローミング判定情報を作成するローミング判定情報作成部115と、を有している。プロセッサ110は、以上の機能の他、通信データフレームを生成する通信データフレーム生成部、ビーコンフレームを生成するビーコンフレーム生成部と、無線通信端末であるNIC200やWAN12に接続されている各種端末からの信号等を解析する解析部等の各種機能を有しているが、これらの機能は、本発明を説明するために重要な機能ではないので、ここでは、これらの機能をまとめて実行する機能部を制御部111としている。以上の各機能部111〜115は、いずれも、プロセッサ110がプログラムメモリ120に格納されているプログラムを実行することで機能する。
【0021】
無線インタフェース130は、プロセッサ110から指示で信号を変調してアンテナ135から無線送信する無線送信部131と、アンテナ135で受信されたNIC200からの信号を復調する無線受信部132と、を有している。無線送信部131は、図示していないが、送信するデータを一次的に溜めておく送信バッファと、送信バッファからのディジタル送信データをアナログ信号に変換するD/A変換器と、このアナログ信号に対して変調処理を施す変調部と、変調された信号を増幅して、これをアンテナ135に出力するアンプと、を有している。また、無線受信部132は、アンテナ135で受信した信号を増幅するアンプと、アンプからの信号に対して復調処理を施す復調部と、復調されたアナログ信号をディジタルデータに変換するA/D変換器と、ディジタルデータを一次的に溜めておく受信バッファと、を有している。
【0022】
無線受信部132は、さらに、図2に示すように、AGC133を有している。このAGC133が検知した入力信号の強度であるRSSI値は、制御部111とローミング判定情報作成部115に送られる。
【0023】
次に、図5に示すシーケンス図に従って、本実施形態における無線通信システムの主要動作について説明する。なお、ここでは、図1に示すように、複数のNIC200a,200b,200c,…のうちのNIC200cが、AP100aに帰属し、その後、このNIC200cの移動により、このNIC200cの帰属先がAP100bに切り替わる場合について説明する。
【0024】
各AP100a,100b,100c…は、ブロードキャストで、ビーコン信号を無線送出する(S100a,S100b,S100d,…)。これに対して、NIC200cは、各AP100a,100b,100d,…からのビーコン信号を受信し、各ビーコン信号を解析して、利用可能なAPを見出し、利用可能なAP100aに接続要求(プローブ・リクエスト)を行う(S200a)。
【0025】
AP100aは、この接続要求に対する応答(プローブ・レスポンス)を返す(S101a)。以降、必要に応じて認証処理等を経て、最終的に、NIC200cがAP100aに帰属要求(アソシエーション・リクエスト)を行い(S201a)、AP100aがこれに対して帰属応答(アソシエーション・レスポンス)を返すと(S102a)、NIC200cは、AP100aに帰属し(S202a)、AP100aと無線によるデータ通信等が可能になり、このAP100aを介して他の端末と通信可能になる。
【0026】
NIC200cが帰属すると、AP100aのAGC133は、このNIC200cからの信号の強度検知を開始する(S103)。さらに、AP100aの制御部111は、ワークメモリ121上に展開している帰属中端末情報テーブル122を更新する(S104)。この帰属中端末情報テーブル122は、図4に示すように、帰属した端末のIPアドレスが格納されるIPアドレス領域122bと、帰属した端末のMACアドレスが格納されるMACアドレス領域122cと、帰属した端末に関するSSID(Service Set Identifier)が格納されるSSID領域122eと、帰属した端末からの信号強度であるRSSI値が格納されるRSSI領域122fと、当該APに帰属している無線端末の総数が格納される帰属中端末総数領域122aと、を有している。NIC200cが帰属した場合、AP100aの制御部111は、この帰属中端末情報テーブル122に、新たなレコードを確保し、例えば、この新たなレコードのIPアドレス領域122bに「10.1.1.3」、MACアドレス領域122cに「0000.0000.0003」、SSID領域122eに「XXY」、RSSI領域122fに「-56」を格納する。さらに、帰属中端末総数領域122aの値を「2」から「3」へ変更する。ここでは、無線通信負荷検知部112が、帰属中端末情報テーブル122中のレコード数をカウントし、これを制御部111が受け取って、帰属中端末総数領域122aの値を更新する。
【0027】
AP100aのAGC133は、帰属中の端末からの信号を受信する毎に、この端末のRSSI値を検知し、これを制御部111へ渡す。制御部111は、AGC133からRSSI値を受け取る毎に、帰属中端末情報テーブル122中のSSID領域122eを、この新たなRSSI値に更新する(S105)。
【0028】
帰属中端末情報テーブル122中のSSID領域122eが更新されると、RSSI判断部113は、この新たなRSSI値が予め定められている閾値(例えば、−70dBm)未満であるか否かを判断する(S106)。例えば、MACアドレスが「0000.0000.0003」のNIC200cからの信号に関するRSSI値が、図4の帰属中端末情報テーブル122に示されているように、「-73」に更新された場合、このRSSI値は予め定められている閾値(−70dBm)未満であると判断される。ローミング候補情報作成部114は、新たなRSSI値が予め定められている閾値未満であると判断されると、RSSI値が予め定められている閾値未満であるとされた信号の送信元のNIC200cをローミング候補として、このローミング候補に関するローミング候補情報を作成する(S107a)。
【0029】
ローミング候補情報10は、図8に示すように、ローミング候補のMACアドレス「0000.0000.0003」11と、ローミング候補と自APとの間の通信に用いられている通信チャネル「♯1」12と、帰属先APのBSSID(Basic Service Set Identifier)「BSSI♯0000.0000.1111」13と、予め定められた閾値未満であるとされたRSSI値、つまりAP側RSSI値「-73 dBm」14と、AP無線通信負荷「3台」15と、を有している。ローミング候補情報作成部114は、それぞれ、帰属中端末情報テーブル112のMACアドレス領域122c、RSSI領域122f、帰属中端末総数領域122aを参照して、ローミング候補情報10を構成する各データのうち、ローミング候補のMACアドレス11、AP側RSSI値14、AP無線通信負荷15のデータを取得する。また、通信チャネルは、ワークメモリ121に格納されているので、ローミング候補情報作成部114は、このワークメモリ121から通信チャネルを取得する。帰属先APのBSSIDは、自APのMACアドレスそのものであるため、ローミング候補情報作成部114は、ワークメモリ121に格納されている自APのMACアドレスを帰属先APのBSSIDとする。
【0030】
ローミング候補情報作成部114は、ローミング候補情報を作成すると、これを有線インタフェース140に渡して、有線LAN1に接続されている全AP100b,100c,100d,…へ、このローミング候補情報を送信させる(S108a)。
【0031】
ローミング候補情報を受け取った各AP100b,100c,100d,…は、このローミング候補情報に基づいてローミング判定情報を作成し(S107b,S107d)、このローミング判定情報をローミング候補であるNIC200cへ無線送信する(S108b,S108d)。
【0032】
ここで、ローミング候補情報を受け取った際の各AP100の動作について、図6に示すフローチャートに従って説明する。
【0033】
AP100の制御部111は、有線インタフェース140が他のAP100からローミング候補情報を受信したか、常に監視している(S110)。制御部111は、有線インタフェース140が他のAP100からローミング候補情報を受信すると、このローミング候補情報を解析して、ローミング候補のMACアドレス、及びローミング候補が無線通信に使用している通信チャネルを取得し、無線受信部232に、この通信チャネルによる無線通信でこのMACアドレスの無線通信フレームのRSSI値を取得させる(S111)。
【0034】
無線受信部232のAGC233で、指定した信号のRSSI値が取得できなかった場合、ステップ110に戻り、取得できた場合、ローミング判定情報作成部115が、AGC233からこのRSSI値を受け取り、先に受け取ったローミング候補情報とこのRSSI値等とを用いて、ローミング判定情報を作成する(S113(図5中のS107b,S107dに対応))。すなわち、ローミング判定情報は、ローミング候補情報を受け取った全AP100により作成されるのではなく、ローミング候補のNICからの信号を受信でき且つこの信号に関するRSSI値を取得できたAP100のみにより作成される。
【0035】
ローミング判定情報20は、図9に示すように、帰属先APのBSSID「BSSI♯0000.0000.1111」23と、帰属先AP側RSSI値「-73 dBm」24と、帰属先AP無線通信負荷「3台」25と、帰属候補APのBSSID「BSSI♯0000.0000.1112」27と、帰属候補AP側RSSI値「-49 dBm」28と、帰属候補AP無線通信負荷「2台」29と、を有している。ローミング判定情報20中の帰属先APのBSSID23、帰属先AP側RSSI値24、帰属先AP無線通信負荷25は、それぞれ、ローミング候補情報10(図8)に含まれている、帰属先APのBSSID13、AP側RSSI値14、AP無線通信負荷15が用いられる。また、ローミング判定情報20中の帰属候補BSSID27は、自APのMACアドレスそのものであるため、ローミング判定情報作成部115は、ワークメモリ121に格納されている自APのMACアドレスを帰属候補APのBSSIDとする。ローミング判定情報20中の帰属候補AP側RSSI値28は、前述のステップ111で取得されたRSSI値が用いられる。なお、このRSSI値は、自APがローミング候補からの信号に関するRSSI値である。また、ローミング判定情報20中の帰属候補AP無線通信負荷29は、帰属中端末情報テーブル122の帰属中端末総数領域122aに格納されている値が用いられる。
【0036】
ローミング判定情報作成部115は、ローミング判定情報を作成すると、前述のローミング候補情報に含まれているローミング候補MACアドレスで指定されたNIC200cに対して、このローミング判定情報を無線送信部131からユニキャストで送信させる(S114(図5中のS108b,S108dに対応))。
【0037】
以上で、ローミング候補情報を受け取った際の各AP100の動作は終了する。
【0038】
ローミング候補であるNIC200cが、AP100b,100d,…からローミング判定情報を受信すると、図5のシーケンス図に示すように、各AP100b,100d,…からのローミング判定情報に基づいて、ローミングを実施するか否かを判定する(S204)。
【0039】
NIC200cは、ローミングを実施しないと判定した場合には、帰属先を現状のまま維持し、ローミングを実施すると判定した場合には、ローミング候補のAP100bに対して、接続要求(プローブ・リクエスト)を行う(S200b)。
【0040】
AP100bは、この接続要求に対する応答(プローブ・レスポンス)を返す(S101b)。以降、認証処理や、帰属要求/応答処理等を経て、NIC200cはAP100bに帰属する(S202b)。
【0041】
次に、図7に示すフローチャートに従って、無線通信端末であるNIC200によるローミング判定時の処理について説明する。
【0042】
NIC200の制御部111は、いずれかのAP100に帰属すると(S210)、帰属先APを除く他のAPからのローミング判定情報に含まれているAP側RSSI値に基づくローミング判定の処理と、自身が取得した各APからのビーコン信号に関する端末側RSSI値に基づくローミング判定処理とを並行して実行する。
【0043】
まず、端末側RSSI値に基づくローミング判定処理について説明する。
【0044】
NIC200のAGC233は、帰属先AP100を含む各APからのビーコン信号に関するRSSI値を検知し(S230)、これをローミング判定部212に渡す。ローミング判定部212は、AGC233が各APからのビーコン信号に関するRSSI値を検知する毎に、帰属先AP100からのビーコン信号に関するRSSI値と、他のAPからのビーコン信号に関するRSSI値とを比較し、帰属先AP100からのビーコン信号に関するRSSI値よりも、他のAPからのビーコン信号に関するRSSI値のうちで所定値以上大きいものがあるか否かを判断する(S231)。所定値以上大きいものがなければ、ステップ210に戻り、所定値以上大きいものがあれば、このAPからのビーコン信号に含まれている、このAPのMACアドレス等をローミング処理部213に渡す。ローミング処理部213は、ローミング判定部212からAPのMACアドレス等を受け取ると、このAPへのローミング処理を実行する(S211)。なお、以上のステップ230,231,211の処理は、従来から行われている処理である。
【0045】
次に、AP側RSSI値に基づくローミング判定の処理について説明する。
【0046】
NIC200の制御部211は、無線受信部232がいずれかのAP100からローミング判定情報を受信したか、常に監視している(S211)。制御部211は、無線受信部232がいずれかのAP100からローミング判定情報を受信すると、さらに他のAPからのローミング判定情報の取得待ち時間の計測を開始する(S212)。そして、この待ち時間だけ、さらに他のAPからのローミング判定情報の受信を待つ(S213)。
【0047】
待ち時間が終了すると(S214)、ローミング判定部213は、ローミング対象とすべきAP側RSSI値の閾値Aを、例えば、−20 dBmに初期設定する(S215)。次に、ローミング判定部213は、最初に受信したローミング判定情報と待ち時間の間に受信したローミング判定情報とに含まれているAP側RSSI値のうちで、閾値A(-20 dBm)より大きいAP側RSSI値のAPが存在するか否かを判断する(S216)。閾値Aより大きいAP側RSSI値のAPが存在すると判断した場合には、ステップ218に進み、閾値Aより大きいAP側RSSI値のAPが存在しないと判断した場合には、現閾値Aから10 dBm)を減算した値を新たな閾値Aとして(S217)、再び、閾値Aより大きいAP側RSSI値のAPが存在するか否かを判断する(S216)。ステップ216及びステップ217の処理は、ステップ216において、閾値Aより大きいAP側RSSI値のAPが少なくとも一台存在すると判断されるまで、繰り返される。
【0048】
ステップ218では、ローミング判定部213が、閾値Aより大きいAP側RSSI値のAPは一台であるか否かを判断する。1台であれば、ステップ220に進み、複数台であれば、ステップ219に進み、ここで、複数台のAPのうちから無線通信負荷の最も低いAPを一つ抽出する。
【0049】
各APから送られてくるローミング判定情報には、図9に示すように、各APの無線通信負荷として、自APに帰属している無線通信端末の台数の情報が含まれている。ローミング判定部213は、ステップ216で複数台のAPを抽出した場合には、ステップ219において、各APから送られてきたローミング判定情報を参照して、該当APの無線通信負荷を取得し、この無線通信負荷に基づいて、1台のAPを抽出する。
【0050】
ローミング判定部213は、ステップ218で、閾値Aより大きいAP側RSSI値のAPは一台であると判断すると、又は、ステップ219で、複数台のAPのうちから無線通信負荷の最も低いAPを一台抽出すると、この一台のAPは、現在帰属中のAPであるか否かを判断する(S220)。
【0051】
ローミング判定情報には、図9に示すように、現在帰属中のAPでのRSSI値が含まれている。仮に、このNIC200cからの信号に関するRSSI値が、現在帰属中のAP100でのRSSI値よりも、他のAPでのRSSI値の方が低ければ、抽出した一台のAPが現在帰属中のAP100になりえる。この場合、つまり、抽出した一台が現在帰属中のAP100であると判断した場合には、ローミング処理は行わず、ステップ210に戻る。また、抽出した一台が現在帰属中のAP100ではないと判断すると、抽出した一台のAPからのローミング判定情報に含まれている、このAPのMACアドレス等をローミング処理部213に渡す。ローミング処理部213は、ローミング判定部212からAPのMACアドレス等を受け取ると、このAPへのローミング処理を実行する(S211)。
【0052】
なお、以上のステップ中で、図5中のローミング判定処理(S204)は、ステップ215〜ステップ220の処理が対応する。
【0053】
以上のように、本実施形態では、NIC200は、各APからのローミング判定情報に含まれているAP側RSSI値に基づいて、ローミング判定を行っているので、帰属先APにおいて、このNIC200からの無線信号の強度が低下した場合にローミングを行うことができる。しかも、本実施形態では、NIC200が各APからのビーコン信号の強度も検知し、この信号強度が低下した場合もローミングを行うので、的確なタイミングでローミングを行うことができ、良好な無線通信を継続することができる。
【0054】
なお、以上の実施形態では、無線通信端末がNIC200である場合を例にしたが、本発明は、これに限定されるものではなく、無線通信端末は、例えば、無線LANボードを搭載しているものであってもよい。
【0055】
また、以上の実施形態では、図5中のステップ106において、帰属先AP100がローミング候補を選ぶ際のAP側RSSI値の閾値として、固定値(-70 dBm)を用いているが、これは固定値でなくてもよい。例えば、図4に示す帰属中端末情報テーブル122に格納されている全レコードのRSSI値の平均値を求め、この平均値に割増値を加えた値を閾値としてもよい。この割増値としては、例えば、図10に示すようなグラフを用いて、RSSI平均値に対する割増率を求め、RSSI平均値にこの割増率を掛けた値を割増値としてもよい。具体的には、RSSI平均値が-60dBmの場合、図10のグラフから割増率0.2を求め、RSSI平均値に割増率を掛けた値(-12 dBm= -60 dBm×0.2)を割増値とし、これにRSSI平均値を加えた値(-72 dBm= -12 dBm -60 dBm)を閾値としてもよい。
【0056】
また、以上の実施形態では、図7中のステップ208において、複数台のAPから一台のAPを抽出するための無線通信負荷として、AP100に帰属している無線通信端末の台数を用いているが、以下のいずれかの値1)〜3)を用いてもよい。
【0057】
1)APの単位時間当たりの実際の送信ビット数、つまり通信トラフィック量、又は単位時間当たりの最大送信ビット数に対する単位時間当たりの実際の送信ビット数の割合
2)予め定めた帰属台数に対する実際の帰属台数の割合
3)APの通信処理を実行するCPUの最大処理能力に対する実処理能力の割合
また、以上では、端末側RSSI値に基づくローミング判定処理では、端末側RSSI値のみを用いてローミング判定を行っているが、前述した各APの無線通信負荷をさらに用いてローミング判定を行うようにしてもよい。例えば、帰属先AP100からのビーコン信号に関するRSSI値よりも、他のAPからのビーコン信号に関するRSSI値のうちで所定値以上大きいものが複数存在する場合に、無線通信負荷が最も低いAPを新たな帰属先とするようにしてもよい。なお、この場合、各APがビーコン信号中の予め定められた空き領域に、自APの無線通信負荷を挿入し、無線通信端末は、各APからのビーコン信号から各APの無線通信負荷を取得するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る一実施形態における無線LANシステムの系統図である。
【図2】本発明に係る一実施形態におけるアクセスポイントの構成図である。
【図3】本発明に係る一実施形態における無線通信端末の構成図である。
【図4】本発明に係る一実施形態における帰属中端末情報テーブルのデータ構成を示す説明図である。
【図5】本発明に係る一実施形態における無線LANシステムの動作を示すシーケンス図である。
【図6】本発明に係る一実施形態における、ローミング候補情報を受信した際のアクセスポイントの動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明に係る一実施形態における、ローミング判定時の無線通信端末の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明に係る一実施形態におけるローミング候補情報のデータ構成を示す説明図である。
【図9】本発明に係る一実施形態におけるローミング判定情報のデータ構成を示す説明図である。
【図10】RSSI平均値と割増率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0059】
1:有線LAN、2:ルータ、3:WAN、100,100a,100b,100c,100d,100e:アクセスポイント、110:プロセッサ、111:制御部、112:無線通信負荷検知部、113:RSSI判断部、114:ローミング候補情報作成部、115:ローミング判定情報作成部115、120:プログラムメモリ、121:ワークメモリ、122:帰属中端末情報テーブル、130:無線インタフェース、131:無線送信部、132:無線受信部、133:AGC、140:有線インタフェース、200,200a,200b,200c,200d,200e,200f,200g,200h,200i:NIC、210:プロセッサ、211:制御部、212:ローミング判定部、213:ローミング処理部、220:プログラムメモリ、211:ワークメモリ、230:無線インタフェース、231:無線送信部、232:無線受信部、233:AGC、250, 250a,250b,250c,250d,250e,250f,250g,250h,250i:コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の無線中継装置と有線で接続され、該1以上の無線通信装置との間で有線通信する有線通信手段と、無線通信端末との間で無線通信する無線通信手段とを備え、該無線通信端末と他の端末との通信を中継する無線中継装置において、
無線通信端末からの信号強度を検知する信号強度検知手段と、
前記信号強度検知手段により、帰属中の無線通信端末からの信号強度が検出されると、該信号強度が所定値未満であるか否かを判断する判断手段と、
前記判断手段で、前記帰属中の無線通信端末からの前記信号強度が所定値値未満であると判断された場合に、該無線通信端末をローミング候補端末として、該ローミング候補端末の通信アドレスと該信号強度と無線中継装置自身の通信アドレスとを含むローミング候補情報を作成して、前記有線通信手段により前記1以上の無線中継装置へ該ローミング候補情報を送信させるローミング候補情報作成手段と、
前記有線通信手段により、前記ローミング候補情報を受信すると、該ローミング候補情報で特定されるローミング候補端末からの信号強度を前記信号強度検知手段から取得し、該信号強度と、該ローミング候補情報に含まれている前記通信アドレス及び前記信号強度と、無線中継装置自身の通信アドレスと、を含むローミング判定情報を作成して、前記無線通信手段により該ローミング候補端末へ該ローミング判定情報を送信させるローミング判断情報作成手段と、
を備えていることを特徴とする無線中継装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無線中継装置において、
前記無線通信手段による無線通信負荷を検出する負荷検出手段を備え、
前記ローミング候補情報作成手段は、前記ローミング候補情報に、前記負荷検出手段で検出された前記無線通信負荷を含め、
前記ローミング判定情報作成手段は、前記ローミング判定情報に、前記負荷検出手段で検出された前記無線通信負荷と、前記ローミング候補情報に含まれている無線通信負荷とを含める、
ことを特徴とする無線中継装置。
【請求項3】
無線通信手段を備え、互いに有線で接続されている複数の無線中継装置のうちのいずれか一の無線中継装置と該無線通信手段で無線通信し、該一の無線中継装置を介して他の端末と通信する無線通信端末において、
帰属先の無線中継装置により検知された自身からの信号の強度と、帰属していない無線中継装置により検知された自身からの信号の強度と、該帰属していない無線中継装置の通信アドレスとを含むローミング判定情報を、前記無線通信手段が、該帰属していない無線中継装置から受信すると、該ローミング判定情報に含まれている各無線中継装置毎の信号の強度を用いて、帰属先を定めるローミング判定手段と、
前記ローミング判定手段により、帰属中の無線中継装置と異なる他の無線中継装置が帰属先として定められると、該帰属中の無線中継装置から該他の無線中継装置へのローミング処理を行うローミング処理手段と、
を備えていることを特徴とする無線通信端末。
【請求項4】
請求項3に記載の無線通信端末において、
前記複数の無線中継装置からの信号の強度を検知する信号強度検知手段を備え、
前記ローミング判定手段は、前記ローミング判断情報に含まれている各無線中継装置毎の信号の強度を用いて、帰属先を定めると共に、前記信号強度検知手段により検知された前記複数の無線中継装置からの信号強度を用いても、帰属先を定める、
ことを特徴とする無線通信端末。
【請求項5】
請求項1及び2のいずれか一項に記載の無線中継装置を複数備えていると共に、
請求項3及び4のいずれか一項に記載の無線通信端末を複数備えている、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項6】
無線通信手段と演算処理手段とを備え、互いに有線で接続されている複数の無線中継装置のうちのいずれか一の無線中継装置と該無線通信手段で無線通信し、該一の無線中継装置を介して他の端末と通信する無線通信端末の動作プログラムにおいて、
帰属先の無線中継装置により検知された自身からの信号の強度と、帰属していない無線中継装置により検知された自身からの信号の強度と、該帰属していない無線中継装置の通信アドレスとを含むローミング判定情報を、前記無線通信手段が、該帰属していない無線中継装置から受信すると、該ローミング判定情報に含まれている各無線中継装置毎の信号の強度を用いて、帰属先を定めるローミング判定ステップと、
前記ローミング判定ステップで、帰属中の無線中継装置と異なる他の無線中継装置が帰属先として定められると、該帰属中の無線中継装置から該他の無線中継装置へのローミング処理を行うローミング処理ステップと、
を前記演算処理手段に実行させる無線通信端末の動作プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−34745(P2010−34745A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193266(P2008−193266)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000233295)日立情報通信エンジニアリング株式会社 (195)
【Fターム(参考)】