説明

無線通信システムとその時刻補正方法

【課題】 送信機が受信機にタイムスタンプを無線送信することで、両者間の時刻同期が正確に行われているか否かの判定や、両者間の時刻同期を正確に行う。
【解決手段】 送信機41は、次の(a)の送信遅延時間を自身のローカル時刻に加算したタイムスタンプTsを受信機51に送信し、受信機51は、次の(b)の受信遅延時間と(c)の再生遅延時間の合計値をタイムスタンプTsに加算して補正時刻値を求める。(a)タイムスタンプTsのセット時から電波送信時までの送信遅延時間
(b)電波受信時からSDU再生部53へのプリアンブルの到達時までの受信遅延時間
(c)SDU再生部53へのプリアンブルの到達時からタイムスタンプTsの取得時までの再生遅延時間。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport System)として好適な無線通信システムに関する。より具体的には、その無線通信システムを構成する送信機と受信機との時刻補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通安全の促進や交通事故の防止を目的として、道路に設置されたインフラ装置からの情報を受信し、この情報を活用することで車両の安全性を向上させる高度道路交通システムが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
かかる高度道路交通システムは、主として、インフラ側の無線通信装置である複数の路側通信機と、各車両に搭載される無線通信装置である複数の車載通信機とによって構成される。
【0003】
この場合、各通信主体間で行う通信の組み合わせには、路側通信機同士が行う路路間通信と、路側通信機と車載通信機とが行う路車(又は車路)間通信と、車載通信機同士が行う車車間通信とが含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2806801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記高度道路交通システムにおいては、車車間通信をはじめ、路車間通信や路路間通信及び路歩間通信も含め、これらの各通信の共存を図るに当たって、帯域を有効利用してどのような通信制御を行うかが課題となる。
そこで、限られた周波数帯域内で路路間、路車間及び車車間の各通信を行うべく、マルチアクセス(Multiple Access)が用いられることが検討されている。
【0006】
このマルチアクセス方式としては、周波数分割多重(FDMA:Frequency Division Multiple Access)や符号分割多重(CDMA:Code Division Multiple Access)があるが、山間部などで少数の車載通信機のみでの通信も想定される車車間通信としてのマルチアクセス方式としては、例えばCSMA(Carrier Sense Multiple Access)に代表される自律的なランダムアクセス方式を採用するのが好ましい。
しかし、路側通信機が存在するエリアでは、路車間通信、路路間通信及び車車間通信が共存する。
【0007】
この場合、インフラ側である路側通信機の取り扱う情報の優先度が高いのが一般的であることから、車車間通信よりも路車間通信や路路間通信が優先的に行われる仕組みが必要である。
このように、路側通信機の情報送信を優先的に行うためには、通信に用いる周波数帯域を一定時間ごとに時分割して路側通信機の送信専用のタイムスロットを設ける、時分割多重(TDMA:Time Division Multiple Access)によるマルチアクセスが有効となる。
【0008】
従って、例えば、交差点ごとに設置された複数の路側通信機群で構成される通信システムを想定すると、路側通信機が無線送信する路側からの無線送信専用のタイムスロットをTDMA方式で割り当て、残ったタイムスロットをCSMA方式による車車間通信に使用させるのが、合理的な通信システムになると考えられる。
このような高度道路交通システムでは、例えば、各路側通信機が使用するタイムスロットに関するスロット情報をダウンリンク信号で車載通信機に通知し、車載通信機はそのタイムスロット以外の時間帯でCSMA方式にて無線送信を行うことが考えられる。
【0009】
この場合、路側通信機同士及び路側通信機と車載通信機とで正確な時刻同期が取られていないと、各路側通信機及び車載通信機が把握するタイムスロットの開始時刻と終了時刻にずれが生じてしまい、路側通信機のダウンリンク信号と車載通信機の送信信号とで電波干渉が生じることになる。
【0010】
一方、路側通信機同士の時刻同期の方法としては、例えば、自身のローカル時刻をGPS(Global Positioning System)時刻に合わせるGPS同期や、自身のローカル時刻を他の路側通信機から通知された時刻情報(タイムスタンプ)に合わせるエア同期等が考えられる。
このうち、精度としては、GPS時刻による同期方法が優れているが、例えばGPS受信機が故障したり、GPS受信機のアンテナに氷雪が付着したりする等の不具合が発生すると、GPS受信機から正確な基準時刻を取得できなくなる。
【0011】
このため、かかるデバイスの故障や不具合を考慮すると、必ずしもGPS同期が一律に有利であるとは限らず、その故障や不具合がそのまま放置されると、路側通信機が通知するスロット情報が狂ったままで路車間通信が継続されることになる。
そこで、上記故障や不具合を検出可能であるとともに、通信機がGPS受信機を備えていなくても、エア同期による時刻同期を正確に行える無線通信システムが望まれる。
【0012】
本発明は、このような問題点に鑑み、送信機が受信機にタイムスタンプを無線送信することで、両者間の時刻同期が正確に行われているか否かの判定や、両者間の時刻同期を正確に行うことができる無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1) 本発明の第1の無線通信システムは、送信機と受信機とを備えた無線通信システムであって、前記送信機は、タイムスタンプを付したPDUを生成するPDU生成部と、前記PDUにより搬送波を変調して送信アンテナから電波送信する変調送信部と、次の(a)の送信遅延時間を自身のローカル時刻に加算して前記タイムスタンプを求める第1の時刻補正部と、を有しており、前記受信機は、受信アンテナに到達した電波信号から前記PDUを取り出す復調受信部と、前記PDUからSDUと前記タイムスタンプとを再生するSDU再生部と、次の(b)の受信遅延時間と(c)の再生遅延時間との合計値を前記タイムスタンプに加算して補正時刻値を求める第2の時刻補正部と、を有することを特徴とする。
【0014】
(a) タイムスタンプのセット時から電波送信時までの送信遅延時間
(b) 電波受信時からSDU再生部へのプリアンブルの到達時までの受信遅延時間
(c) SDU再生部へのプリアンブルの到達時からタイムスタンプの取得時までの再生遅延時間
【0015】
本発明の無線通信システムによれば、送信機の第1の時刻補正部が、上記送信遅延時間を送信側のローカル時刻に加算してタイムスタンプとするので、送信機のタイムスタンプは、PDUの電波を送信アンテナから送出する時点とほぼ厳密に一致する。
一方、受信機の第2の時刻補正部は、上記受信遅延時間と再生遅延時間との合計値をタイムスタンプに加算して補正時刻値を求めるが、この補正時刻値は送信機のローカル時刻とほぼ正確に一致する。
【0016】
従って、受信機側において、上記補正時刻値を用いた送受信機間の時刻同期や、その間の時刻同期が正確であるか否かの判定を行うことができる。
(2) 例えば、送信機がGPS同期を行っているが、受信機がGPSを搭載していない場合のように、送信機の方がローカル時刻の精度が高い場合には、前記第2の時刻補正部は、自身のローカル時刻を前記補正時刻値に合わせるようにすればよい。
【0017】
(3) もっとも、第2の時刻補正部が、自身のローカル時刻を補正時刻値に合わせる同期処理を行うと、受信機側でのローカル時刻を基準とする内部処理のタイミングが一斉に不連続にシフトするので、時刻同期を行う頻度が多すぎると、受信機側のシステムが不安定になる可能性がある。
従って、所定の通信条件を満足しない程度のずれが生じた場合にだけ、第2の時刻補正部が補正時刻値にローカル時刻を合わせる同期処理を行い、受信機のローカル時刻が不連続にシフトして不安定化する頻度を、出来るだけ少なくすることが好ましい。
【0018】
そこで、前記第2の時刻補正部は、自身のローカル時刻と前記補正時刻値とのずれが所定の閾値以上であるか否かを判定し、この判定結果が肯定的であることを条件として、自身のローカル時刻を前記補正時刻値に合わせることが好ましい。
(4) また、前記第2の時刻補正部は、上記判定結果が肯定的である場合において、前記送信機又は前記受信機若しくはこれらの双方についての異常発生時の対応処理を実行することにしてもよい。
【0019】
この異常発生時の対応処理としては、送信機と受信機の双方が路側通信機に搭載されている場合を想定すると、例えば、路側通信機の内部クロックの異常発生を外部(中央装置)に通知したり、路側通信機の無線送信を中止したりする処理が考えられる。
(5) この場合、前記第2の時刻補正部は、自身のローカル時刻を前記補正時刻値に合わせた後に、更に前記判定結果が肯定的である場合に、前記送信機又は前記受信機若しくはこれらの双方についての異常発生時の対応処理を実行することにしてもよい。
【0020】
(6) また、前記送信機と前記受信機にOFDMによる変復調方式が採用されている場合には、前記所定の閾値はOFDM変調波のガードインターバルに設定されていることが好ましい。
この場合、送信機と受信機の間の時刻誤差をガードインターバル以下に抑えられるので、例えば、路側通信機同士の送信タイミングの時刻誤差を路路間通信によるエア同期によってガードインターバル以下に抑えることができ、シンボル間干渉による劣化を有効に回避できる。
【0021】
なお、ここにいう「前記所定の閾値をOFDM変調波のガードインターバルに設定する」とは、時刻誤差を確実にガードインターバル以下にするために、実質的にガードインターバルとほぼ同じ値であってガードインターバルよりも少し小さい値(例えば、規格等で定められたガードインターバル値の80%や90%程度の値)に設定することも含む。
従って、例えば、ガードインターバル値が3.2μ秒であれば、前記所定の閾値を3.1μ秒や3.0μ秒といった値に設定しておいても良い。
【0022】
(7) 本発明の無線通信システムにおいて、前記第2の時刻補正部は、具体的には、前記PDUにおける前記タイムスタンプよりも前の部分の記載情報から特定可能な通信フレームの伝送速度に基づいて、前記再生遅延時間を求めることができる。
例えば、PDUがMACフレームの場合には、当該フレームのシグナルに変調方法が格納されており、この変調方法に基づいて伝送速度を特定することができる。従って、タイムスタンプの格納場所を受信機側が察知できるようにすれば、プリアンブルの到達時からタイムスタンプの到達時までの再生遅延時間を求めることができる。
【0023】
(8) また、本発明の無線通信システムにおいて、前記PDUに前記送信機の位置特定情報が含まれている場合には、前記第2の時刻補正部は、更に次の(d)の伝送遅延時間を前記タイムスタンプに加算して前記補正時刻値を求めることが好ましい。
(d) 位置特定情報から定まる送信機の位置と自装置である受信機の位置までの距離に応じた伝送遅延時間
【0024】
この場合、第2の時刻補正部が、上記伝送遅延時間をタイムスタンプに加算して補正時刻値を求めるので、送信機及び受信機の位置が変化しても、送信機のローカル時刻により正確に一致した補正時刻値を求めることができる。
このため、受信機のローカル時刻を送信機側に合わせるエア同期による時刻同期をより正確に行えるとともに、その両者間の時刻同期が正確に行われているか否かの判定についてもより正確に行うことができる。
【0025】
(9) 本発明の無線通信システムにおいて、前記送信機と前記受信機にOFDMによる変復調方式が採用されている場合には、前記第1の時刻補正部が求める前記タイムスタンプの精度(当該タイムスタンプの送信アンテナからの送出時刻とそのスタンプ値との時刻差)がOFDM変調波のガードインターバル以下であることが好ましい。
この場合、例えば、路側通信機同士の送信タイミングの時刻誤差を路路間通信によるエア同期によってガードインターバル以下に抑えることができ、シンボル間干渉による劣化を有効に回避できる。
【0026】
(10) 本発明の無線通信システムは、専用のタイムスロットが時分割で割り当てられた複数の路側通信機と、前記タイムスロット以外の時間帯だけ無線送信するのが許容された複数の移動通信機と、を備えており、前記送信機が前記路側通信機に搭載され、前記受信機が前記路側通信機又は前記移動通信機若しくはこれらの双方に搭載されていることを特徴とする。
【0027】
この無線通信システムによれば、前記送信機が路側通信機に搭載され、前記受信機が路側通信機又は移動通信機若しくはこれらの双方に搭載されているので、路路間又は路車間若しくはこれらの双方について、両者間の時刻同期が正確に行われているかの判定や、その両者間の時刻同期を正確に行うことができる。
【0028】
(11) 本発明の時刻補正方法は、本発明の無線通信システムの送信機と受信機がタイムスタンプの送受信の際に発生する遅延時間を分担して補正する方法であって、本発明の無線通信システムと同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0029】
以上の通り、本発明によれば、送信機が受信機にタイムスタンプを送信することで、両者間の時刻同期が正確に行われているかの判定や、両者間の時刻同期を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】高度道路交通システムの全体構成を示す概略斜視図である。
【図2】高度道路交通システムの管轄エリアの一部を示す道路平面図である。
【図3】路側通信機と車載通信機の内部構成を示すブロック図である。
【図4】路車間通信のタイムスロットの一例を示す概念図である。
【図5】無線通信システムの送信機と受信機の構成をプロトコルスタック形式で示すブロック図である。
【図6】(a)はタイムスタンプの送受信において生じるイベントを示すタイムチャートであり、(b)はそのイベント間の遅延時間の内容を示す表である。
【図7】(a)は通信フレームのフォーマットの一例を示す図であり、(b)は変調方法と伝送速度に応じたフレーム再生の所要時間を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明の実施形態に係る高度道路交通システム(ITS)の全体構成を示す概略斜視図である。なお、本実施形態では、道路構造の一例として、南北方向と東西方向の複数の道路が互いに交差した碁盤目構造を想定している。
図1に示すように、本実施形態の高度道路交通システムは、交通信号機1、路側通信機2、車載通信機3(図2及び図3参照)、中央装置4、車載通信機3を搭載した車両5、及び、車両感知器や監視カメラ等よりなる路側センサ6を含む。
【0032】
交通信号機1と路側通信機2は、複数の交差点Ji(図例では、i=1〜12)のそれぞれに設置されており、電話回線等の通信回線7を介してルータ8に接続されている。このルータ8は交通管制センター内の中央装置4に接続されている。
中央装置4は、自身が管轄するエリアに含まれる各交差点Jiの交通信号機1及び路側通信機2とLAN(Local Area Network)を構成している。従って、中央装置4は、各交通信号機1及び各路側通信機2との間で双方向通信が可能である。なお、中央装置4は、交通管制センターではなく道路上に設置してもよい。
【0033】
路側センサ6は、各交差点Jiに流入する車両台数をカウントする等の目的で、管轄エリア内の道路の各所に設置されている。この路側センサ6は、直下を通行する車両5を超音波感知する車両感知器、或いは、道路の交通状況を時系列に撮影する監視カメラ等よりなり、感知情報S4や画像データS5は通信回線7を介して中央装置4に送信される。
なお、図1及び図2では、図示を簡略化するために、各交差点Jiに信号灯器が1つだけ描写されているが、実際の各交差点Jiには、互いに交差する道路の上り下り用として少なくとも4つの信号灯器が設置されている。
【0034】
〔中央装置〕
中央装置4は、ワークステーション(WS)やパーソナルコンピュータ(PC)等よりなる制御部を有しており、この制御部は、路側通信機2、路側センサ6からの各種の交通情報の収集・処理(演算)・記録、信号制御及び情報提供を統括的に行う。
具体的には、中央装置4の制御部は、自身のネットワークに属する交差点Jiの交通信号機1に対して、同一道路上の交通信号機1群を調整する系統制御や、この系統制御を道路網に拡張した広域制御(面制御)を行うことができる。
【0035】
また、中央装置4は、通信回線7を介してLAN側と接続された通信インタフェースである通信部を有しており、この通信部は、信号灯器の灯色切り替えタイミングに関する信号制御指令S1や、渋滞情報等を含む交通情報S2を所定時間ごとに交通信号機1及び路側通信機2に送信している(図1参照)。
信号制御指令S1は、前記系統制御や広域制御を行う場合の信号制御パラメータの演算周期(例えば、1.0〜2.5分)ごとに送信され、交通情報S2は、例えば5分ごとに送信される。
【0036】
また、中央装置4の通信部は、各交差点Jiに対応する路側通信機2から、その通信機2が車載通信機3から受信した車両5の現在位置等を含む車両情報S3、車両通過時に生じるパルス信号よりなる車両感知器(図示せず)の感知情報S4、及び、監視カメラが撮影した道路のデジタル情報よりなる画像データS5等を受信しており、中央装置4の制御部は、これらの各種情報に基づいて前記系統制御や広域制御を実行する。
【0037】
〔無線通信の方式等〕
図2は、上記高度道路交通システムの管轄エリアの一部を示す道路平面図である。
図2では、互いに交差する2つの道路の各々が上りと下りで片側1車線のものとして例示されているが、道路構造はこれに限られるものではない。
図2にも示すように、本実施形態の高度道路交通システムは、車載通信機3との間で無線通信が可能な複数の路側通信機2と、キャリアセンス方式で他の通信機2,3と無線通信を行う移動無線送受信機の一種である車載通信機3と備えた無線通信システムとしても機能している。
【0038】
図1及び図2の例では、複数の路側通信機2は、それぞれ路側の交差点Jiごとに設置されていて、交通信号機1の支柱に取り付けられている。一方、車載通信機3は、道路を走行する車両5の一部又は全部に搭載されている。
車両5に搭載された各車載通信機3は、路側通信機2からのダウンリンク信号の到達範囲であるダウンリンクエリアAにおいてダウンリンク信号を受信可能である。
【0039】
また、本実施形態では、車載通信機3の送信信号の到達距離は、路側通信機2のダウンリンク信号の到達距離以下であるとする。従って、各路側通信機2は、自装置のダウンリンクエリアAの範囲内を走行する車載通信機3との無線通信が可能である。
このように、本実施形態ITSでは、車載通信機3同士(車車間通信)の通信と、路側通信機2と車載通信機3との間(「路」から「車」への路車間通信と「車」から「路」への車路間通信との双方を含む。)の通信については、無線通信が用いられている。
【0040】
また、隣接する路側通信機2同士の設置位置が比較的近く、互いのダウンリンクエリアAが重複(一部重複でも全部重複でもよい。)する場合には、その路側通信機2同士での無線通信(路路間通信)が可能である。
なお、前記した通り、交通管制センターに設けられた中央装置4は、各路側通信機2と有線での双方向通信が可能であるが、これらの間も無線通信であってもよい。
【0041】
路側通信機2は、自身が無線送信するための専用のタイムスロット(図4の第1スロットT1)をTDMA方式で割り当てており、このタイムスロット以外の時間帯(図4の第2スロットT2)には無線送信を行わない。
すなわち、路側通信機2用のタイムスロット以外の時間帯は、車載通信機3のためのCSMA方式による送信時間として開放されている。
【0042】
また、路側通信機2は、自身の送信タイミングを制御するために他の路側通信機2との時刻同期機能を有している。
この路側通信機2の時刻同期は、例えば、自身の時計をGPS衛星から取得した時刻に合わせるGPS同期や、自身の時計を他の路側通信機2からの送信信号に合わせるエア同期等によって行うことができる。
【0043】
〔路側通信機〕
図3は、路側通信機2と車載通信機3の内部構成を示すブロック図である。
路側通信機2は、無線通信のためのアンテナ20が接続された無線通信部(送受信部)21と、中央装置4と双方向通信する有線通信部22と、それらの通信制御を行うプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)等よりなる制御部23と、制御部23に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部24とを備えている。
【0044】
路側通信機2の記憶部24は、制御部23が実行する通信制御のためのコンピュータプログラムや、各通信機2,3の通信機ID等を記憶している。
路側通信機2の制御部23は、上記コンピュータプログラムを実行することで達成される機能部として、無線通信部21の送信タイミングを制御する送信制御部23Aと、各通信部21,22の受信データの中継処理を行うデータ中継部23Bと、自身のローカル時刻を補正したタイムスタンプTsを生成する時刻補正部23Cとを有する。
【0045】
路側通信機2のデータ中継部23Bは、有線通信部22が受信した中央装置4からの交通情報S2等を、いったん記憶部24に一時的に記憶させ、無線通信部21にブロードキャスト送信させる。
また、データ中継部23Bは、無線通信部21が受信した車両情報S3を、いったん記憶部24に一時的に記憶させ、有線通信部22を介して中央装置4に転送する。
【0046】
路側通信機2の送信制御部23Aは、他装置との間で送信タイミングを同期させつつ、自装置に割り当てられた所定のスロット番号iのタイムスロットT1(図4参照:以下、「スロットi」ということがある。)内において、所定の送信時間だけ無線送信を行う。
すなわち、路側通信機2の記憶部24は、例えば次のa)及びb)の情報を含むスロット情報S6を記憶している。このスロット情報S6は路側通信機2ごとに個別に設定されている。
a) 自装置が使用中のスロット番号i(図4参照)
b) スロット番号iの第1スロットT1(図4参照)の開始時刻及び継続時間
【0047】
また、路側通信機2の記憶部24は、自装置からダウンリンク送信すべき情報量(送信データ量)に対応する送信時間と、その送信開始時刻とを記憶している。この送信開始時刻と送信時間は、自装置に割り当てられたタイムスロットT1内に収まるように、路側通信機2ごとに個別に設定される。
送信制御部23Aは、設定された送信時間長のダウンリンク信号を生成して、このダウンリンク信号を設定された送信開始時刻に無線通信部21に送信させる。
【0048】
路側通信機2の送信時間は、自装置に割り当てられたタイムスロットT1の継続時間(スロット長)の最大限に設定してもよいが、他の通信機2,3との同期ずれや受信側の情報処理時間等を考慮して、所定のマージン(例えば10μsオーダーのガードタイム)をもってスロット長よりもやや短めに設定されることが好ましい。
また、路側通信機2の送信時間は、自装置に割り当てられたスロット長の範囲内で任意の時間長さに設定可能であり、そのスロット長よりも大幅に短い時間(例えば、1/3や1/2)に設定することもできる。
【0049】
なお、ダウンリンク信号の送信開始時刻と送信時間のうち、送信開始時刻については、自装置のスロット情報S6に含まれるスロットiの開始時刻に基づいて、各路側通信機2の送信制御部23Aが自律的に生成するようにしてもよい。
路側通信機2の送信制御部23Aは、上記スロット情報S6を含むダウンリンク信号に、時刻補正部23Cが現在時刻に対して補正を加えたタイムスタンプTsを付して、無線通信部21にブロードキャスト送信させる。
【0050】
車載通信機3は、上記スロット情報S6と、時刻補正部23Cが補正したタイムスタンプTsを含むダウンリンク信号を受信すると、そのタイムスタンプTsの値(以下、「スタンプ値」ということがある。)を基準として、スロット情報S6に記されたスロット番号iの第1スロットT1以外の時間帯(図4の第2スロットT2)に無線送信を行う。
なお、後述するメイン周期Cmをスロット情報S6に含めるようにすれば、スロットiの開始時刻やスタンプ値をメイン周期Cm内の相対時刻で表現することができる。この場合、スタンプ値を絶対時刻で表現する場合に比べて、スロット情報S6のビット数を低減することができる。
【0051】
上記スロット情報S6には、少なくとも、自装置が使用するスロットiの時間が含まれていればよいが、路路間通信や中央装置4との通信によって他の路側通信機2のスロット情報S6が分かっている場合は、他装置のスロット情報S6を自装置から送信することにしてもよい。
なお、路側通信機3における、制御部23の補正時刻部23CによるタイムスタンプTsの生成処理については、後述する。
【0052】
〔タイムスロットの内容〕
図4は、路車間通信のタイムスロットの一例を示す概念図である。
図4に示すように、路車間通信のタイムスロットは、第1スロットT1と第2スロットT2とを含み、これらの合計期間が一定のスロット周期Csで繰り返ようになっている。各スロット周期Csの第1スロットT1は、路側通信機2用のタイムスロットであり、この時間帯では路側通信機2による無線送信が許容される。
【0053】
第1スロットT1にはスロット番号iが付されており、このスロット番号iは周期的にインクリメント(デクリメントであってもよい。)される。
また、第2スロットT2は、車載通信機3用のタイムスロットであり、この時間帯は車載通信機3による無線送信用として開放するため、路側通信機2の送信制御部23Aは第2スロットT2では無線送信を行わない。
【0054】
スロット番号iは、予め定められた所定数nとなると当初番号(図例ではi=1)に戻る。従って、n回分のスロット周期Csをメイン周期Cmとすると、各スロット番号i〜nの第1スロットT1はそのメイン周期Cmごとに1回ずつ生じる。
なお、各周期Cs,Cmの時間長やスロット周期Csの総数nについては、システム事業者が適宜設定することができるが、本実施形態では、一例として、Cs=10ms、Cm=100ms及びn=10とする。
【0055】
図4において、スロット番号i=1〜3の第1スロットT1に記したドット●は、当該スロット番号iの第1スロットT1に無線送信する路側通信機2を示し、ドット●が複数あるスロット1,2は、複数の路側通信機2が共用していることを示す。
すなわち、図4の例では、スロット1を、交差点J1と交差点J11に設置された2つの路側通信機2が共用しており、スロット2を、交差点J2、交差点J9、交差点J10に設置された3つの路側通信機2が共用している。
【0056】
その理由は、例えば図1の交差点J1と交差点J11のように、距離が離れた路側通信機2同士はダウンリンクエリアAが重複しておらず、1つの車載通信機3が複数の路側通信機2から同時にダウンリンク信号を受ける直接干渉(図6(a)参照)が生じないか、或いはその可能性が極めて低いことから、これらに同じスロットiを設定して各路側通信機2の送信時間が重複しても、車載通信機3が各路側通信機2からダウンリンク信号を適切に受信できるからである。
【0057】
一方、1つの車載通信機3について上記直接干渉が発生し得る、比較的近い位置関係にある路側通信機2同士の場合は、スロット番号iを同じに設定して送信時間を重複させることはできない。
もっとも、直接干渉が発生し得る路側通信機2同士でも、第1スロットT1内において時分割で送信時間をスケジューリングすれば、同じスロット番号iを共用することもできる。
【0058】
〔車載通信機〕
図3に戻り、車載通信機3は、無線通信のためのアンテナ30に接続された通信部(送受信部)31と、この通信部31に対する通信制御を行うプロセッサ等よりなる制御部32と、この制御部32に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部33とを備えている。
記憶部33は、制御部32が実行する通信制御のためのコンピュータプログラムや、各通信装置2,3の通信機ID等を記憶している。
【0059】
車載通信機3の制御部32は、車車間通信のためのキャリアセンス方式による無線通信を通信部31に行わせるものであり、路側通信機2のような時分割多重方式での通信制御機能は有していない。
従って、車載通信機3の通信部31は、所定の搬送波周波数の受信レベルを常時感知しており、その値がある閾値以上である場合は無線送信を行わず、当該閾値未満になった場合にのみ無線送信を行うようになっている。
【0060】
車載通信機3の制御部32は、前記コンピュータプログラムを実行することで達成される機能部として、通信部31の無線送信タイミングを制御する送信制御部32Aと、通信部31の受信データの中継処理を行うデータ中継部32Bと、受信したタイムスタンプTsを補正して補正時刻値Ta(図5参照)を求める時刻補正部32Cとを有する。
車載通信機3の送信制御部32Aは、路側通信機2から取得したスロット情報S6の開始時刻とスロット情報S6に従って、自身に許容された無線送信の時間帯を設定し、この時間帯だけ通信部31に無線送信を行わせる。
【0061】
すなわち、送信制御部32Aは、路側からのダウンリンク信号や車側からの受信フレームから路側通信機2のスロット情報S6を抽出するともに、ダウンリンク信号に含まれるタイムスタンプTsに時刻補正部32Cが補正を加えた時刻を基準として、スロット情報S6に記されたスロット番号iのタイムスロットT1以外の時間帯(図4の第2スロットT2)においてのみ、キャリアセンス方式による無線送信を通信部31に行わせる。
【0062】
また、車載通信機3の送信制御部32Aは、車両5(車載通信機3)の現時の位置、方向及び速度等を含む車両情報S3を送信フレームに格納し、この送信フレームを、通信部31を介して外部にブロードキャストで無線送信させる。
車載通信機3のデータ中継部32Bは、通信部31が受信した受信フレームから所定のデータを抽出し、抽出したデータを送信フレームに含めて同通信部31に送信させる中継処理を行うことができる。
【0063】
例えば、データ中継部32Bは、路側通信機2のダウンリンク信号から交通情報S3や他の車両5の車両情報S3を抽出し、抽出したデータを含む送信フレームを生成して通信部31に送信させる。
また、データ中継部32Bは、路側通信機2のダウンリンク信号や他の車両5から受信した受信フレームにスロット情報S6が含まれている場合には、そのスロット情報S6を抽出して記憶部33に一時的に記憶させるとともに、そのスロット情報S6を送信フレームに格納して通信部31に送信させる。
【0064】
本実施形態では、車載通信機3の制御部32は、他の車両5(車載通信機3)から直接受信した車両情報S3や、路側通信機2から受信した他の車両5の車両情報S3に含まれる、位置、速度及び方向に基づいて、右直衝突や出合い頭衝突等を回避する安全運転支援制御を行うことができる。
なお、車載通信機3における、制御部32の時刻補正部32CによるタイムスタンプTsの補正処理については、後述する。
【0065】
〔時刻補正方法〕
上記の通り、本実施形態の無線通信システムでは、路側通信機2の時刻補正部23Cが、自身のローカル時刻を補正したタイムスタンプTsを生成してこれを含むダウンリンク信号を車載通信機3に送信し、車載通信機3の時刻補正部32Cが、取得したタイムスタンプTsを更に補正して補正時刻値Taを求めることにより、路側通信機2のダウンリンク信号の送受信において生じる遅延時間を送信側と受信側でそれぞれ分担して補正する時刻補正方法を採用している。
【0066】
図5は、上記時刻補正方法を示すための、無線通信システムの送信機41と受信機51の構成をプロトコルスタック形式で示すブロック図である。以下、この図5を参照して、本実施形態の時刻補正方法を説明する。
なお、ここでは路車間の時刻同期を問題にしているので、図5では、送信機41が路側通信機2であり、受信機51が車載通信機3である場合を例示している。
【0067】
図5に示すように、送信機41は、上位側から順に、上位レイヤ42,MAC(Media Access Control)部43、PHY(Physical)部44及びRF(Radio Frequency )部45を有しており、RF部45には送信アンテナ46が繋がっている。レイヤ42〜44のプロトコル制御は、路側通信機2の制御部23が行う。
また、受信機51は、上位側から順に、上位レイヤ52,MAC(Media Access Control)部53、PHY(Physical)部54及びRF(Radio Frequency )部55を有しており、RF部55には送信アンテナ56が繋がっている。レイヤ52〜54のプロトコル制御は、車載通信機3の制御部32が行う。
【0068】
送信機41のMAC部(PDU生成部)43は、上位レイヤ42からSDU(Servise Data Unit )を受けると、このSDUからPDU(Protocol Data Unit)を生成するに当たって、時刻補正部23Cが求めたタイムスタンプTsを付して当該PDUを生成し、生成したPDUを下位のPHY部44に渡す。
PHY部44は、生成されたPDUにより搬送波(マルチキャリア)を変調してデジタル変調を行い、この変調信号を下位のRF部45に渡す。RF部45は、変調信号をアナログ信号に変換しかつ増幅して、送信アンテナ46から外部に電波送信する。
【0069】
従って、PHY部44とRF部45は、PDUにより搬送波を変調して送信アンテナから電波送信する変調送信部を構成している。
なお、本実施形態では、送信機41のPHY部44の変調には、OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)方式の変調処理が含まれているものとする。従って、受信機51のPHY部54の復調には、OFDM方式による復調処理が含まれる。
【0070】
一方、送信電波が受信アンテナ56に到達すると、受信機51のRF部55は、受信信号を増幅してデジタル信号に変換し、この信号をPHY部54に渡す。PHY部54は、デジタル信号に所定のデジタル復調を施して搬送波からPDUを取り出し、これをMAC部53に渡す。
従って、PHY部54とRF部55は、受信アンテナに到達した電波信号からPDUを取り出す復調受信部を構成している。
【0071】
受信機51のMAC部(SDU再生部)53は、取り出されたPDUからSDUとタイムスタンプTsを再生し、再生したSDUを上位レイヤに52に渡すとともに、再生したタイムスタンプTsを時刻補正部32Cに渡す。
ここで、送信機41の時刻補正部(第1の時刻補正部)23Cは、送信側で補正すべき所定の遅延時間を自身のローカル時刻に加算してタイムスタンプTsを求め、このタイムスタンプTsをMAC部(PDU生成部)43に通知する。
【0072】
また、受信機51の時刻生成部32Cは、MAC部(SDU再生部)53から取得したタイムスタンプTsの値に、受信側で補正すべき所定の遅延時間を加算して補正時刻値Taを求める。
この場合、送信側と受信側で加算すべき遅延時間を、送信機41と受信機51とにそれぞれ適切に設定しておれば、上記補正時刻値Taを送信機41のローカル時刻にほぼ厳密に一致させることができる。
【0073】
〔遅延時間の内容〕
そこで、図6を参照して、通信フレームの送受信の際に発生する遅延時間の内容を説明する。
ここで、図6(a)は、タイムスタンプTsの送受信において生じるイベントを示すタイムチャートであり、図6(b)はそのイベント間の遅延時間の内容を示す表である。
図6(a)に示すように、タイムスタンプTsが送受信される間のイベントには、次のものが含まれる。
【0074】
1) 送信機MACがタイムスタンプTsをセットする時点A
2) 送信アンテナ46が電波送信する時点B
3) 受信アンテナ56が電波受信する時点C
4) 受信機MACにプリアンブルが到達する時点D
5) 受信機MACがタイムスタンプTsを取得する時刻E
【0075】
このうち、時刻Aから時刻Bまでの「送信遅延時間」は、送信機41のMAC部43やPHY部44におけるデジタル信号処理や、送信機41のRF部45におけるアナログフィルタの遅延特性によって発生し、送信機41側において、回路特性をもとにした計算や事前に測定を行うことによって予測可能である。この時間は、例えば実機では5μ秒程度である。
【0076】
時刻Bから時刻Cまでの「伝送遅延時間」は、送信機41と受信機51の間の距離に依存するため、送受信いずれの側でも単独では予測できないが、その距離が判明すれば演算可能である。
従って、送信機41の座標(緯度・経度)等よりなる位置情報を、SDUやPDUに含めておけば、受信機51において、送信機41の位置と自装置(受信機51)の位置までの距離に基づいて、伝送遅延時間を算出することができる。
【0077】
なお、この伝送遅延時間は、300m毎に約1μ秒増加するので、例えばITSでの通信距離を600mとすると、最大で2μ秒程度になる。
また、送信機41の位置を特定する情報としては、上記座標のような位置を直接特定するものだけでなく、例えば路側通信機2の通信機IDのような識別情報であってもよい。この場合、受信機51において、その通信機IDと対応する位置情報を記憶しておけば、当該通信機IDから送信機41の位置を求めることができる。
【0078】
時刻Cから時刻Dまでの「受信遅延時間」は、受信機51のRF部55におけるアナログフィルタの遅延特性や、受信機51のMAC部53やPHY部54におけるデジタル信号処理によって発生し、受信機51側において、回路特性をもとにした計算や事前に測定を行うことによって予測可能である。また、この時間は例えば実機では5μ秒である。
【0079】
時刻Dから時刻Eまでの「再生遅延時間」は、受信機51における、MAC部(SDU再生部)53へのプリアンブルの到達時からタイムスタンプTsの取得時までの時間である。この時間は、タイムスタンプTsを通信フレームのどの部分に格納するかと、通信速度によって変動する。
図7は、再生遅延時間の説明図であり、図7(a)は通信フレームのフォーマットの一例を示す図であり、図7(b)は変調方法と伝送速度に応じたフレーム再生の所要時間を示す表である。
【0080】
図7(a)に示すように、IEEE802.11に準拠したフレームフォーマットでは、プリアンブルとシグナルの再生時間はそれぞれ固定長であり、ヘッダのデータ量は30バイトである。また、図例では、時刻情報(タイムスタンプTs)がデータの前から30バイトの部分に格納されている。
また、MACフレームでは、ヘッダの前の部分(従って、タイムスタンプTsの格納部分よりも前の部分)にあるシグナルに、当該フレームの変調方法(BPSK、QPSK又は16QAM)が記載されているので、これをもとに伝送速度を算出することができる。
【0081】
従って、図7(b)の表に示すように、ヘッダ部の先頭からタイムスタンプTsの先頭までの再生時間t1と、プリアンブルの先頭からタイムスタンプTsの先頭までの再生時間t2を、各変調方法に対応して求めることができる。
そこで、タイムスタンプTsの格納場所(データの先頭からのバイト数等)を予め取り決めしておき、図7(b)のような参照テーブルを受信機51のメモリに記憶させることにより、シグナルの変調速度から前記再生遅延時間を求めることができる。
【0082】
なお、タイムスタンプTsの格納場所を予めデータの先頭付近に記録しておくことにしてもよい。この場合には、データの先頭部からタイムスタンプTsまでの所用時間を算出できるので、この時間に、データより前の部分の時間を合計することにより、前記再生遅延時間を求めることができる。
【0083】
〔時刻補正の具体的内容〕
本実施形態では、上記各遅延時間を送信側と受信側で分担して補正するため、受信機51の時刻補正部32Cは、次の(a)の送信遅延時間を自身のローカル時刻に加算してタイムスタンプTsを求める。
(a) タイムスタンプTsのセット時から電波送信時までの送信遅延時間(図6の時点A〜時点Bの時間)
【0084】
また、本実施形態では、受信機51の時刻補正部32Cは、次の(b)の受信遅延時間、(c)の再生遅延時間及び(d)の伝送遅延時間の合計値をタイムスロットTsに加算して、自身のローカル時刻を求める。
(b) 電波受信時からMAC部(SDU再生部)53へのプリアンブルの到達時までの受信遅延時間(時点C〜時点Dの時間)
【0085】
(c) MAC部(SDU再生部)53へのプリアンブルの到達時からタイムスタンプTsの取得時までの再生遅延時間(図6の時点D〜時点Eの時間)
(d) 位置特定情報から定まる送信機41の位置と自装置である受信機51の位置までの距離に応じた伝送遅延時間(図6の時点B〜時点Cの時間)
【0086】
このように、本実施形態の無線通信システムによれば、送信機41の時刻補正部23Cが、自装置内の上記送信遅延時間を自身のローカル時刻に加算してタイムスタンプTsを求めるので、送信機41のタイムスタンプTsは、当該PDUの搬送波を送信アンテナ46から送出する時点とほぼ厳密に一致する。
一方、受信機51の時刻補正部32Cは、上記受信遅延時間、再生遅延時間及び伝送遅延時間をタイムスタンプTsに加算して補正時刻値Taを求めるので、この補正時刻値Taは送信機41のローカル時刻とほぼ厳密に一致する。
【0087】
このため、本実施形態の無線通信システムによれば、例えば、受信機51の時刻補正部32Cが、自身のローカル時刻を上記補正時刻値Taに合わせることにより、車載通信機(受信側)のローカル時刻を路側通信機2(送信側)のローカル時刻を精度よく一致させることができ、両者間の時刻同期を正確に行うことができる。
なお、路側通信機2と車載通信機3の路車間通信において、送信機41と受信機51の間の距離が600m程度であるとすると、図6(b)に示すように、伝送遅延時間の値(2μ秒)は他の遅延時間に比べて小さいので、伝送遅延時間については補正処理の対象から外すことにしてもよい。
【0088】
〔路路間通信の場合の時刻同期〕
図5の例では、送信機41が路側通信機2にあり受信機51が車載通信機41にある路車間通信の場合を想定して、車載通信機3が路側通信機2のローカル時刻に合わせる時刻同期(エア同期)を例示したが、送信機41と受信機51は、電波到達範囲にある異なる路側通信機2にそれぞれ搭載されていてもよい。
この場合、特定の路側通信機2が他の路側通信機2のローカル時刻に合わせる時刻同期(エア同期)を行うことができる。
【0089】
この路路間通信によるエア同期においては、例えば一方の路側通信機2がGPS同期を行っているが、他方の路側通信機2がGPSを搭載していない場合に特に有効である。
この場合、ローカル時刻の精度が高いGPS同期を行う路側通信機2の送信機41が、補正したタイムスタンプTsを送信し、これを受けたGPS同期を行わない別の路側通信機2の受信機51において、そのタイムスタンプTsを補正した補正時刻値Taに自身のローカル時刻を合わせるようにすればよい。
【0090】
〔タイムスロットと補正時刻値の精度について〕
ところで、本実施形態の送受信機41,51が採用するOFDM方式では、OFDM変調波のガードインターバルが約3.2μ秒になっている。これに対して、図6(b)に示すように、送信遅延時間(5μ秒)、受信遅延時間(5μ秒)及び再生遅延時間(80〜200μ秒)は、いずれもガードインターバルよりも大きい。
【0091】
従って、これらの遅延時間を考慮せずに、例えば路側通信機2同士がエア同期を行うと、両者のローカル時刻にガードインターバルを超えた時刻誤差が生じる恐れがある。
このため、例えば、直接干渉の位置関係にある複数の路側通信機2の送信時間を1つのタイムスロットT1に連続的に割り当てるような場合に、連続して送信される路側通信機2の前後のダウンリンク信号について、シンボル間干渉による劣化を回避できない場合がある。
【0092】
この点、本実施形態の無線通信システムでは、送信機41が送信遅延時間を考慮して高精度のタイムスロットTsを生成するので、送信機41が生成するタイムスタンプTsの精度(タイムスタンプTsの送信アンテナ46からの送出時刻とそのスタンプ値との時刻差)をガードインターバル以下に抑えることができる。
また、受信機51が、少なくとも受信遅延時間と再生遅延時間をタイムスタンプTsに加えて時刻補正値Taを求めるので、この時刻補正値Taの精度もガードインターバル以下に抑えることができる。
【0093】
このため、本実施形態の無線通信システムによれば、複数の路側通信機2の送信時間を連続して割り当てるような場合でも、シンボル間干渉による劣化を有効に回避することができる。
【0094】
〔エア同期の実行頻度〕
一方、受信機51の時刻補正部32Cが、自身のローカル時刻を補正時刻値Taに合わせる時刻同期を行うと、ローカル時刻を基準とする受信機51の内部処理のタイミングが一斉に不連続にシフトする。
このため、受信機51が時刻合わせを行う頻度が多すぎると、受信機51側の信号処理が不安定になる可能性がある。
【0095】
そこで、受信機51の時刻補正部32Cは、自身のローカル時刻と補正時刻値Taとのずれが所定の閾値以上であるか否かを判定し、この判定結果が肯定的である場合に、自身のローカル時刻を補正時刻値Taに合わせることが好ましい。
このようにすれば、上記閾値を適切に設定することで、所定の通信条件を満足しない程度のずれが生じた場合にだけ、受信機51が時刻同期を行うことができるので、受信機51の時刻が不連続にシフトして不安定化する頻度が必要最小限に抑えられる。
【0096】
上記所定の閾値としては、送信機41と受信機51にOFDMによる変復調方式が採用されている本実施形態の場合には、例えば、OFDM変調波の前記ガードインターバル(約3.2μ秒)に設定すればよい。
この場合、送信機41と受信機51の間の時刻誤差がOFDM変調波のガードインターバル以下に抑えられる。従って、路路間通信の場合を想定すると、各路側通信機2の送信タイミングの時刻誤差がガードインターバル以下に抑えられるので、シンボル間干渉による劣化を回避できる無線通信システムが得られる。
【0097】
〔補正時刻値の他の利用方法〕
また、本実施形態の無線通信システムにおいて、路路間通信の場合は、受信機51の時刻補正部32Cは、自身のローカル時刻を単純に補正時刻値Taに合わせるだけでなく、その補正時刻値Taを用いて送受信機41,51間の時刻が正確か否かを判定し、その判定結果に基づいて異常発生時の対応処理を行うこともできる。
【0098】
例えば、補正時刻値Taを求めた受信側の路側通信機2において、自装置のローカル時刻が複数の路側通信機2についての補正時刻値Taに対して前記閾値以上のずれが生じておれば、自身の内部クロックに異常が発生している可能性があり、複数の路側通信機2についての補正時刻値Taのうちのいずれか1つだけが前記閾値以上のずれを示す場合は、当該路側通信機2の内部クロックに異常が発生している可能性がある。
また、自装置のローカル時刻を、いったん1つの路側通信機2についての補正時刻値Taに合わせたが、その後、所定時間(例えば1時間)以内に、再度、自装置のローカル時刻が補正時刻値Taと閾値以上ずれている場合には、送信側と受信側の路側通信機2のうちの少なくとも一方の内部クロックに、異常が発生している可能性がある。
【0099】
そこで、上記のような場合には、受信機51の時刻補正部32Cが、送信側又は受信側のいずれか若しくは双方の路側通信機2の内部クロックに異常がある旨の情報を生成し、この情報を路側通信機2の有線通信部22を通じて中央装置4に送信することにより、内部クロックの異常発生を自動的に通知することができる。
また、この場合、異常発生情報の通知と併せて、或いはこの通知とは別に、内部クロックの異常が推定される路側通信機2の無線送信を停止することにしてもよい。
【0100】
〔その他の変形例〕
今回開示した各実施形態は本発明の例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、上記実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲とその構成と均等な意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【0101】
例えば、上記実施形態の高度道路交通システムおいて、車載通信機3の代わりに或いは車載通信機3に加えて、歩行者等が携帯する通信機(携帯通信端末)を用いることもできる。もっとも、この場合には、その携帯通信端末が、上記実施形態の車載通信機3の場合と同様に、路側通信機2の送信時間(第1スロットT1)中においては無線送信を行わないという規約に従う必要がある。
【符号の説明】
【0102】
2 路側通信機
3 車載通信機(移動通信機)
21 無線通信部
23 制御部
23A 送信制御部
23B データ中継部
23C (第1の)時刻補正部
31 通信部
32 制御部
32A 送信制御部
32B データ中継部
32C (第2の)時刻補正部
41 送信機
42 上位レイヤ
43 MAC部(PDU生成部)
44 PHY部(変調送信部)
45 RF部(変調送信部)
46 送信アンテナ
51 受信機
52 上位レイヤ
53 MAC部(SDU再生部)
54 PHY部(復調受信部)
55 RF部(復調受信部)
56 受信アンテナ
Ts タイムスタンプ
Ta 補正時刻値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機と受信機とを備えた無線通信システムであって、
前記送信機は、
タイムスタンプを付したPDUを生成するPDU生成部と、
前記PDUにより搬送波を変調して送信アンテナから電波送信する変調送信部と、
次の(a)の送信遅延時間を自身のローカル時刻に加算して前記タイムスタンプを求める第1の時刻補正部と、を有しており、
前記受信機は、
受信アンテナに到達した電波信号から前記PDUを取り出す復調受信部と、
前記PDUからSDUと前記タイムスタンプとを再生するSDU再生部と、
次の(b)の受信遅延時間と(c)の再生遅延時間との合計値を前記タイムスタンプに加算して補正時刻値を求める第2の時刻補正部と、を有することを特徴とする無線通信システム。
(a) タイムスタンプのセット時から電波送信時までの送信遅延時間
(b) 電波受信時からSDU再生部へのプリアンブルの到達時までの受信遅延時間
(c) SDU再生部へのプリアンブルの到達時からタイムスタンプの取得時までの再生遅延時間
【請求項2】
前記第2の時刻補正部は、自身のローカル時刻を前記補正時刻値に合わせる請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記第2の時刻補正部は、自身のローカル時刻と前記補正時刻値とのずれが所定の閾値以上であるか否かを判定し、この判定結果が肯定的であることを条件として、自身のローカル時刻を前記補正時刻値に合わせる請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記第2の時刻補正部は、自身のローカル時刻と前記補正時刻値とのずれが所定の閾値以上であるか否かを判定し、この判定結果が肯定的である場合に、前記送信機又は前記受信機若しくはこれらの双方についての異常発生時の対応処理を実行する請求項1〜3のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記第2の時刻補正部は、自身のローカル時刻を前記補正時刻値に合わせた後に、更に前記判定結果が肯定的である場合に、前記送信機又は前記受信機若しくはこれらの双方についての異常発生時の対応処理を実行する請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記送信機と前記受信機にOFDMによる変復調方式が採用されており、
前記所定の閾値はOFDM変調波のガードインターバルに設定されている請求項3〜5のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記第2の時刻補正部は、前記PDUにおける前記タイムスタンプよりも前の部分の記載情報から特定可能な通信フレームの伝送速度に基づいて、前記再生遅延時間を求める請求項1〜6のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記PDUに前記送信機の位置特定情報が含まれており、
前記第2の時刻補正部は、更に次の(d)の伝送遅延時間を前記タイムスタンプに加算して前記補正時刻値を求める請求項1〜7のいずれか1項に記載の無線通信システム。
(d) 位置特定情報から定まる送信機の位置と自装置である受信機の位置までの距離に応じた伝送遅延時間
【請求項9】
前記送信機と前記受信機にOFDMによる変復調方式が採用されており、
前記第1の時刻補正部が求める前記タイムスタンプの精度がOFDM変調波のガードインターバル以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項10】
専用のタイムスロットが時分割で割り当てられた複数の路側通信機と、前記タイムスロット以外の時間帯だけ無線送信するのが許容された複数の移動通信機と、を備えており、
前記送信機が前記路側通信機に搭載され、前記受信機が前記路側通信機又は前記移動通信機若しくはこれらの双方に搭載されている請求項1〜9のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項11】
送信機と受信機とを備えた無線通信システムの時刻補正方法であって、
前記送信機が、次の(a)の送信遅延時間を自身のローカル時刻に加算したタイムスタンプを前記受信機に送信するステップと、
前記受信機が、次の(b)の受信遅延時間と(c)の再生遅延時間との合計値を前記タイムスタンプに加算して補正時刻値を求めるステップと、
を含むことを特徴とする無線通信システムの時刻補正方法。
(a) タイムスタンプのセット時から電波送信時までの送信遅延時間
(b) 電波受信時からSDU再生部へのプリアンブルの到達時までの受信遅延時間
(c) SDU再生部へのプリアンブルの到達時からタイムスタンプの取得時までの再生遅延時間


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−17211(P2013−17211A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−187822(P2012−187822)
【出願日】平成24年8月28日(2012.8.28)
【分割の表示】特願2010−65343(P2010−65343)の分割
【原出願日】平成22年3月22日(2010.3.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】