無線通信システム
【課題】 質問器の通信エリア内に存在する応答器と確実に、また、短時間で通信が開始できる無線通信システムを提供する。
【解決手段】 質問器1が、指向性が可変制御できる2つの送信アンテナ11,12を備え、質問器1の2つの送信アンテナ11,12から周波数の互いに異なる第1及び第2質問波を指向性を可変制御しながら送信し、第1質問波と第2質問波が重なる地点に存在する応答器2だけが、第1及び第2質問波を共に受信して応答波を返信する。
【解決手段】 質問器1が、指向性が可変制御できる2つの送信アンテナ11,12を備え、質問器1の2つの送信アンテナ11,12から周波数の互いに異なる第1及び第2質問波を指向性を可変制御しながら送信し、第1質問波と第2質問波が重なる地点に存在する応答器2だけが、第1及び第2質問波を共に受信して応答波を返信する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質問器と応答器間で無線通信する無線通信システムに関し、特に、質問器が所望の応答器と確実に通信できるようにする無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、質問器から質問波を放射し、この質問波の通信エリア内に存在する応答器が質問波を受信して応答波を質問器に返信する、例えばRFID(Radio Frequency Identification)システム等で代表される質問器−応答器による無線通信システムが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開平8−248127号公報
【特許文献2】特開平10−224259号公報
【特許文献3】特開2004−88755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来のこの種の無線通信システムでは、質問器から予め定めた通信エリアに質問波を放射し、通信エリア内に応答器が存在すると、応答器は質問波を受信して電力供給を受け、十分な電力が得られると動作を開始して応答波を返信する。このため、例えば応答器が質問器の通信エリアを高速で通過するようなシステムの場合、十分な電力が得られる通信可能領域の滞在時間が限られるので、通信時間を確保するための対策として、無線出力を増大して質問波の送信エリアを広げることが考えられる。しかし、電波法により無線出力は制限されている。また、仮に質問波の送信エリアを広げた場合、所望の応答器以外の応答器が反応する虞れがあり、単に送信エリアを広げることは好ましくない。
【0004】
また、質問波の通信エリアに複数の応答器が存在すると、通信エリア内の複数の応答器が質問波を受信して応答波を返信するが、応答波を返信した複数の応答器に中に、応答波がマスクされて質問器側で認識できない応答器が存在すると、質問器側で認識してないにも拘わらず応答器側では通信が完了したと判断し、システム上、不具合が発生する。
【0005】
更に、例えばRFIDシステム等において、一定時間内に複数の応答器と通信を行う必要性がある場合、例えば、従来では各応答器と通信する場合、応答器に付されたID番号の上位のビットから1ビットづつ各応答器の応答波だけが受信されるまでID番号を絞って行くような通信プロトコルにより対応している。例えば、図11に示すように質問器100の通信エリア(図の斜線部分)内に、例えばID番号がそれぞれ「0011」、「0010」、「1100」、「1111」の4つの応答器101が存在している場合、ID番号「0010」の応答器を読み出す場合は図12のフローチャートのようになり、ID番号「1111」の応答器を読み出す場合は図13のフローチャートのようになる。図中、各応答器と通信を開始されるまでの経路を実線で示してある。図12、13から分かるように、ID番号「0010」と「1111」の各応答器では、通信が開始されるまでの時間が異なる。このように、従来の無線通信システムでは、通信エリア内の複数の応答器と一定時間内に通信を行う必要性があるシステムの場合、各応答器と通信できるまでに時間がかかると共に、応答器によって通信開始までの時間が不規則であった。
【0006】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、質問器が所望の応答器と確実に、また、短時間で通信が開始できる無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、請求項1の発明では、質問器から質問波を送信し、該質問波を受信した応答器が応答波を返信することにより、質問器と応答器間で情報を交信する無線通信システムであって、前記質問器が、周波数の互いに異なる第1及び第2質問波を送信する2つの送信アンテナと、該2つの送信アンテナの少なくとも一方の指向性を可変制御する指向性制御部とを備え、前記第1及び第2質問波が重なった位置に存在する応答器とだけ交信する構成とした。
【0008】
かかる構成では、質問器は、2つの送信アンテナから周波数の互いに異なる第1質問波と第2質問波を、指向性制御部により少なくとも一方の送信アンテナの指向性を可変制御して送信する。第1及び第2質問波が重なった位置に存在する応答器だけから応答波を受信し、その応答器と交信するようになる。
【0009】
請求項2のように、前記応答器は、前記質問器の送信する前記第1及び第2質問波を共に受信したときに前記応答波の返信モードとなる構成とした。
かかる構成では、応答器は、質問器の送信する第1及び第2質問波を共に受信したときに応答するようになる。
【0010】
請求項3のように、前記2つの送信アンテナが、前記指向性制御部により指向性を可変可能な構成とするとよい。
請求項4のように、前記第1質問波を送信する送信アンテナの指向性を固定して送信する一方、前記第1質問波より送信エリアの狭い第2質問波をその送信アンテナの指向性を可変制御して第1質問波の送信エリアを含んで走査可能とする構成とするとよい。
【0011】
請求項5のように、前記質問器は、受信電波の強度を計測する電波強度計測手段と、該電波強度計測手段の計測値が所定値以上のときに前記受信電波が前記応答器の電波と判断し前記各送信アンテナの指向性情報に基づいて応答器の位置を推定する位置推定手段とを備える構成とするとよい。
かかる構成では、質問器は、電波強度計測手段により受信電波の強度を計測し、計測値が所定値以上のときは応答器からの電波と判断して位置推定手段により応答器の位置を推定する。
【0012】
請求項6のように、指向性が可変可能な前記各送信アンテナの指向性を順次可変設定して当該送信アンテナからの質問波を走査し、前記電波強度計測手段の計測値が所定値以上になったときに応答器ありと判断する構成とするとよい。
請求項7のように、前記質問器に接続する管理装置から与えられた特定の応答器の位置情報に基づいて前記指向性制御部により前記各送信アンテナの指向性を制御する構成とするとよい。
請求項8のように、前記応答器は、前記第1及び第2質問波を用いて内蔵されるCPUの動作クロックが生成される構成とするとよい。
【0013】
請求項9のように、前記固定された第1質問波の送信エリアに進入したときに応答器が停止モードから待機モードに移行し、該待機モードにおいて応答器が前記2質問波を受信すると当該応答器が通信モードになる構成とするとよい。
かかる構成では、応答器が第1質問波の送信エリアに進入すると停止モードから待機モードに移行し、待機モードにおいて第2質問波を受信したときに応答器は通信モードに移行する。これにより、第1質問波の送信エリアを広く設定して通信時間を確保し、また、他の応答器と混信も防止できるようになる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明の無線通信システムによれば、2つの質問波の少なくとも1つの質問波の指向性を可変制御し、2つの質問波が重なる位置に存在する応答器だけと交信する構成としたので、質問器の通信エリア内に多数の応答器が存在する場合でも、各応答器と確実に通信することができ、従来のような応答器が応答したにも拘わらず質問器が認識しないという問題は解消できる。また、質問波の走査速度を高速とすることで、多数の応答器と短時間で通信することが可能であり、質問器−応答器間の通信の高速化が可能である。更には、質問波の送信方向を任意の方向に可変できるので、マルチパスフェージングに起因する通信不能の問題が解消でき、応答器の存在場所に関係なく確実に応答器と通信できる。
【0015】
また、第1質問波の指向性を固定して送信し第1質問波より送信エリアの狭い第2質問波の指向性を可変して第1質問波の送信エリアを走査する構成とし、応答器が、第1質問波の送信エリアに進入したときに停止モードから待機モードに移行し、第2質問波を受信すると通信モードになる構成すれば、質問器の通信エリアを応答器が高速で通過するようなシステムにおいて、第1質問波の送信エリアを広く設定することで、応答器に立上り速度の早い高価なCPU等を使用することなく、十分な通信時間の確保が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る無線通信システムの第1実施形態を示すシステム概略図である。
図1において、本実施形態の無線通信システムは、質問器1と、例えばタグ等の応答器2と、前記質問器1に接続されて情報を交信する管理装置3とを備えて構成される。
【0017】
前記質問器1は、周波数が互いに異なる2つの質問波を送信アンテナ11,12の指向性を可変制御して送信すると共に応答器2からの応答波を受信して応答器2とデータを交信するものであり、図2に構成を示す。
図2において、質問器1は、質問波を送信するための2つの送信アンテナ11,12と、応答波を受信するための受信アンテナ13と、互いに周波数の異なる質問波を送信アンテナ11,12にそれぞれ出力する各送信部14,15と、受信アンテナ13から応答波を受信する受信部16と、送信アンテナ11,12の指向性を制御する指向性制御部17と、応答波が受信されたときに応答器2の位置を推定する位置情報検出部18と、質問器1の各部の動作を制御すると共に、管理装置3との間で情報を交信する制御部19とを備える。
【0018】
前記送信アンテナ11,12は、複数のアンテナ素子がアレイ状に配置されて指向性が可変可能で質問波の送信方向が変えられる従来公知のアダプティブアレイアンテナで構成される。送信部14は、例えば周波数f1の搬送波を送信データで変調した質問波を第1質問波として送信アンテナ11に出力する。送信部15は、周波数f2の無変調の搬送波を第2質問波として送信アンテナ12に出力する。尚、本実施形態では、送信アンテナ11,12から送信する送信電波は、従来の送信アンテナに比べて指向性の高い送信エリアの狭いものとする。
【0019】
前記指向性制御部17は、制御部19の指向性制御指令に基づいて送信部14,15をそれぞれ制御して送信アンテナ11,12の指向性、言い換えれば、質問波の放射方向を可変制御する。位置情報検出部18は、受信部16の受信状態に基づいて受信アンテナ13を介して受信された電波の強度を計測する受信強度計測機能と、受信強度の計測値が所定値以上のときに送信アンテナ11,12の質問波放射方向情報と送信アンテナ11,12間の距離情報を用いて応答器2までの距離と応答器2の位置(例えば緯度経度等)を推定する距離計測機能及び位置推定機能とを備え、推定した応答器位置情報を制御部19に送る。従って、位置情報検出部18は、受信強度計測手段及び位置推定手段の機能を備えている。
【0020】
前記応答器2は、質問器1から送信される互いに異なる周波数f1、f2の第1及び第2質問波を共に受信したときに応答波の返信モードとなるもので、図3に構成を示す。
図3において、応答器2は、質問波を受信する受信アンテナ21と、質問波を受信すると共に受信した質問波を応答データで変調した応答波を返信する送受信アンテナ22と、受信アンテナ21の受信した第1質問波と第2質問波を例えばミキサによるミキシング処理等によりデータを抽出するデータ抽出部23と、受信アンテナ21の受信した質問波から電力を抽出供給する電力供給部24と、電力供給部24からの電力供給により動作しデータ抽出部23で抽出されたデータに対応する応答データを出力するCPU25と、送受信アンテナ22が受信した第2質問波を前記CPU25の出力する応答データで変調した応答波を送受信アンテナ22に出力する変調部26とを備える。尚、応答器2のCPU25等を動作させるためのクロックは、従来と同様にして質問波の搬送波成分や変調波成分を用いて生成すればよい。
【0021】
次に、本実施形態の無線通信システムの動作を図4及び図5に示すフローチャートを参照して説明する。
図4は、管理装置3が特定した所望の応答器を指定して通信する場合の例である。
ステップ1(図中S1で示し、以下同様とする)では、管理装置3が所望の応答器2のIDを指定して質問器1の制御部19に伝送する。
ステップ2では、制御部19は、送信アンテナ12の指向性、即ち、第2質問波の送信方向θ2を初期値に設定するよう指向性制御部17に指令する。これにより、指向性制御部17は、送信アンテナ12の質問波送信方向が初期値θ2(0)となるよう送信部15を制御する。
【0022】
ステップ3では、ステップ2と同様にして、指向性制御部17により送信アンテナ11の質問波送信方向が初期値θ1(0)となるよう送信部14を制御する。
ステップ4では、位置情報検出部18が受信部16の出力状態に基づいて受信電波の強度を計測し所定値以上か否かを判定し、所定値以上で判定がYESであれば受信電波は応答器2からの応答波と判断してステップ5に進み、所定値未満で判定がNOであればステップ5を飛び越して後述するステップ8に進む。
【0023】
ステップ5では、受信した応答波から得られたID情報が管理装置3で指定されたIDと一致するか否かを判定し、一致すれば所望の応答器2であると判断してステップ6に進み、不一致であればステップ8に進む。
ステップ6では、位置情報検出部18がその時の第1及び第2質問波の各送信方向情報と予め記憶された送信アンテナ11,12間の距離データに基づいて質問器1から応答器2までの距離計測と応答器の位置を推定し所望の応答器2の位置検出動作を実行する。
ステップ7では、応答器2と通信を開始する。
【0024】
一方、ステップ4、5の各判定がNOとなりステップ8に進んだ場合、ステップ8で送信アンテナ11の送信方向θ1が予め定めた最大値MAXか否かを判定し、MAXでなければステップ9に進み、送信アンテナ11の送信方向θ1をΔθ1増加し、ステップ4に戻り受信強度の計測を実行する。また、ステップ8の判定がYESとなった場合は、ステップ10に進み、送信アンテナ12の送信方向θ2が予め定めた最大値MAXか否かを判定し、MAXでなければステップ11に進み、送信アンテナ12の送信方向θ2をΔθ2増加し、ステップ3に戻り、送信アンテナ11の送信方向θ1を初期値θ1(0)に戻した後、送信アンテナ11の送信方向θ1を初期値θ1(0)〜MAXまで再度可変する。ステップ10の判定がYESのときはステップ12で、所望の応答器は存在しないと判断する。
【0025】
このようにして、送信アンテナ12の各送信方向θ2(0)〜MAXについて送信アンテナ11の送信方向θ1を順次可変させ、2つの質問波を走査して2つの質問波が重なる位置に応答器2が存在すれば、応答器2は2つの質問波を共に受信アンテナ21で受信し、電力供給部24からCPU25に電力供給されてCPU25が動作すると共に、データ抽出部23でデータが抽出されてCPU25に伝送される。CPU25は受信データに対応する応答データを変調部26に伝送し、変調部26で送受信アンテナ22により受信した無変調の第2質問波を応答データで変調し、応答波として送受信アンテナ22を介して返信する。質問器1は、受信した応答波のID情報が管理装置3で指定された所望の応答器2のIDと一致すれば通信を開始する。
【0026】
図5は、管理装置3が所望の応答器の位置を指定して通信する場合の例である。
ステップ21では、管理装置3が所望の応答器2の位置を指定して質問器1の制御部19に伝送する。
ステップ22では、制御部19は入力した位置情報に基づいて、指定された地点で2つの質問波が重なるよう各送信アンテナ11,12の送信方向を計算し、得られた送信アンテナ11の送信方向θ1の設定値θ1(m)を指向性制御部17に指令し、指向性制御部17が送信アンテナ11の指向性が設定値θ1(m)となるよう送信部14を制御する。
ステップ23では、ステップ22と同様にして、指向性制御部17により送信アンテナ12の送信方向θ2が設定値θ2(n)となるよう送信部15を制御する。
【0027】
ステップ24では、位置情報検出部18が受信部16の受信状態に基づいて受信電波の強度を計測し計測値が所定値以上か否かを判定する。所定値以上で判定がYESであれば、指定した位置に応答器が存在すると判断し、ステップ25に進み、その応答器2と通信を開始する。一方、受信強度が所定値未満で判定がNOであれば、指定した位置には応答器が存在しないと判断する。応答器が存在しない場合、管理装置3から別の位置情報を指定するか、或いは、別の位置情報を指定せず動作を終了する。
【0028】
以上のように本実施形態の無線通信システムは、2つの質問波が重なる位置に存在する応答器2だけと交信するので、質問器1の通信エリア内に多数の応答器が存在する場合でも、各応答器2と確実に通信することができる。従って、従来のような応答器2が応答したにも拘わらず質問器1が認識しないという問題は解消できる。また、質問波の走査速度はアダプティブアレイアンテナにより極めて高速でできるので、通信エリア内に存在する多数の応答器と短時間で通信することが可能であり、質問器−応答器間の通信の高速化が可能である。
【0029】
また、従来の無線通信システムでは、応答器2の存在場所によってはマルチパスフェージングなどによって応答器2との通信が不能となる場合もあるが、本実施形態の無線通信システムでは第1及び第2質問波の送信方向をそれぞれ任意の方向に可変できるので、マルチパスフェージングに起因する通信不能の問題も解消でき、また、質問波が受信できない場所(ヌル点)を無くすことができるので、応答器の存在場所に関係なく確実に応答器2と通信できるようになる。
【0030】
ここで、本実施形態の無線通信システムの応答器位置推定動作について図6及び図7を参照して説明する。
図6は、応答器2が質問器1と同一平面にあるものとした2次元の場合の説明図である。
【0031】
図6において、既知情報として、送信アンテナ11,12間の距離をD、送信アンテナ11の質問波の送信方向をθ1、送信アンテナ12の質問波の送信方向をθ2とする。
質問器1から応答器2までの距離をLとし、各送信アンテナ11,12から見た応答器2のオフセット量をY1,Y2とすると、
Y1=Ltanθ1
Y2=Ltanθ2
D=Y1+Y2
となる。
上記の3つの式から、Y1,Y2,Lが求まる。即ち、
Y1=Dtanθ1/(tanθ1+tanθ2)
Y2=Dtanθ2/(tanθ1+tanθ2)
L=D/(tanθ1+tanθ2)
となる。
【0032】
そして、例えば質問器1の送信アンテナ11の位置を基準(例えば位置座標の原点)として、前述のY1,Y2,Lの値を補正処理することにより、質問器1から応答器2までの距離と、質問器1に対する応答器2の位置を推定でき、応答器2の位置情報を得ることができる。
【0033】
図7は、垂直方向も含めた3次元で応答器の位置情報を推定する場合の説明図である。
図7において、既知情報として、上述した既知情報に加えて各送信アンテナ11,12の垂直方向の送信方向角度をそれぞれφ1,φ2とする。
この場合、図6から得られた位置情報を例えば送信アンテナ11を原点として補正処理した応答器の平面内位置を(x1、y1)とすると、この平面内位置から応答器までの垂直方向の距離を計算すればよい。この垂直方向の距離をz1とすると、
z1=(x12+y12)1/2・tanφ1
として求めることができ、これにより、質問器1に対する応答器2の位置情報を得ることができる。質問器と応答器間の距離L′は、
L=(x12+y12+z2)1/2
となる。
【0034】
このように、本実施形態の無線通信システムでは、送信アンテナ11,12の指向性情報、言い換えれば、質問波の送信方向情報に基づいて応答器の位置情報を知ることができる。
【0035】
次に、図8に本発明の無線通信システムに適用する応答器の別の構成例を示す。
図8の応答器2′は、第1質問波と第2質問波を共に受信したときにCPUの動作クロックを生成する構成であり、図3に示す応答器2と同様の受信アンテナ21、送受信アンテナ22、データ抽出部23、電力供給部24、CPU25及び変調部26を備えると共に、受信アンテナ21で受信された第1質問波と第2質問波を例えばミキサによりミキシング処理してCPU25の動作クロックを生成するクロック生成部27を備える。
【0036】
かかる応答器2′は、第1質問波と第2質問波が共に受信できたときに、クロック生成部27でクロックが生成され、CPU25が起動し、抽出されたデータに対応する応答データを変調部26に出力して応答波を返信する。
【0037】
従来、質問波搬送波成分を用いてクロック生成する構成では、クロック周波数が高くなり過ぎるために別途CPU用の低速用クロック発生回路を応答器に内蔵する必要があり、また、変調波成分を用いる場合には変調波成分を得るために別途ローカル発振器が必要であった。図8の構成では、例えば第1質問波と第2質問波の周波数の差分が、CPU用として適切なクロック周波数となるよう、第1質問波と第2質問波の各周波数を適切に設定するようにすれば、前記低速用クロック発生回路やローカル発振器を応答器に内蔵する必要がない。従って、応答器のコスト、重量、大きさ、厚み等を低減できる。
【0038】
次に、図9及び図10に本発明の無線通信システムの第2実施形態を示し説明する。
図9は、第2実施形態のシステム概略図を示し、図10は、本実施形態の質問器1′の構成を示す。
本実施形態の質問器1′は、第1質問波を送信する送信アンテナ11′が指向性の固定された通常のアンテナで構成され、送信部14′が無変調波の質問波を出力し、送信部15′が変調波を出力する構成であることを除いては、図10に示すように第1実施形態の質問器1(図2に示す)と略同様の構成である。そして、送信アンテナ11′から図9に斜線で示すような広い送信エリアの無変調の第1質問器を放射する。送信アンテナ12は、指向性が可変制御されて第1質問波より送信エリアの極めて狭い変調された第2質問波を第1質問波の送信エリアを含んで走査する。
【0039】
応答器2は、第1質問波の送信エリアに進入すると第1質問波の受信により電力供給部24で電力が生成され、CPU25が無電力の停止モードから待機モードに移行し、微弱な電波或いは自身のID情報を返信する。また、第2質問波を受信するとデータ抽出部23でデータが抽出されCPU25から抽出データに対応した応答データを出力する通信モードに移行し、受信データに対応した応答データを含んだ応答波を返信する構成である。
【0040】
次に、第2実施形態の無線通信システムの動作について図9を参照して説明する。
例えば、応答器2が第1質問波の送信エリアを図9中の矢印方向に高速で通過するようなシステムを考える。応答器2は、第1質問波の送信エリアに進入する前では無電力の停止モードである。この状態で、応答器2が第1質問波の送信エリアに進入すると、第1質問波を受信して待機モードとなり、電力が生成されCPU25が動作可能な状態となり、微弱な電波或いは自身のID情報を返信する。質問器1′は、送信アンテナ12の指向性を極めて高速で可変制御し、第2質問波を第1質問波の送信エリアを含んで高速走査している。これにより、第1質問波の送信エリア内に進入した応答器2が、高速走査されている第2質問波を受信すると、応答器2は通信モードになり、質問器1′からの質問波に含まれるデータがデータ抽出部23で抽出されてCPU25に入力し、CPU25は入力したデータに対応した応答データを出力して応答波を返信する。第2質問波の走査速度が極めて高速であるため、第1質問波の送信エリア内に応答器2が存在する間は、実質的に連続して応答器2で第2質問波が受信され、質問器1′と応答器2との間の通信は正常に維持されて情報の交信を行うことができる。応答器2が第1質問波の送信エリアを抜ければ応答器2は停止モードとなる。
【0041】
かかる第2実施形態によれば、応答器2が高速で質問器の通信エリアを通過するシステムでも、立上り時間の早い高価なCPUを使用したり、CPU立上げ用のバッテリを内蔵したりしなくとも、第1質問波の送信エリアを広く設定することにより、情報を正常に交信するための通信時間を十分確保できる。また、第2質問波を受信した応答器2だけが応答波を返信するので、他の応答器との混信も防止できる。
【0042】
尚、上述の第2実施形態において、質問器1′の受信アンテナ13に、アダプティブアレイアンテナを使用し、例えばMUSIC(Multiple Signal Classification)法等の従来公知の到来角推定アルゴリズムを用いた到来角推定技術により、第1質問波の送信エリアに進入した応答器2からの電波の到来方向を推定し、推定した電波到来方向に向けて第2質問波を送信するようにすれば、第1質問波の送信エリアに進入した応答器2と直ちに情報を交信でき、より一層十分な通信時間を確保でき、更に質問器と応答器間の通信の高速化を図ることが可能となる。また、この場合、応答器2からの電波の到来方向を推定することで応答器2の位置が把握できるので、応答器2の移動に追従させて送信アンテナ12の指向性を制御して第2質問波の送信方向を可変制御することが可能であり、所望の応答器2の移動動作をトラッキングすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る無線通信システムの第1実施形態を示す概略図
【図2】同上実施形態の質問器の構成図
【図3】応答器の構成図
【図4】第1実施形態の動作例を説明するフローチャート
【図5】第1実施形態の別の動作例を説明するフローチャート
【図6】応答器の位置を2次元で推定する場合の説明図
【図7】応答器の位置を3次元で推定する場合の説明図
【図8】応答器の別の構成例を示す構成図
【図9】本発明に係る無線通信システムの第2実施形態を示す概略図
【図10】同上実施形態の質問器の構成図
【図11】従来の無線通信システムの動作例の説明図
【図12】図11の無線通信システムでID番号「0010」の応答器の読み出し動作を説明するフローチャート
【図13】図11の無線通信システムでID番号「1111」の応答器の読み出し動作を説明するフローチャート
【符号の説明】
【0044】
1,1′ 質問器
2,2′ 応答器
3 管理装置
11,11′,12 送信アンテナ
13 受信アンテナ
17 指向性制御部
18 位置情報検出部
19 制御部
21 受信アンテナ
22 送受信アンテナ
23 データ抽出部
24 電力供給部
25 CPU
26 変調部
27 クロック生成部
【技術分野】
【0001】
本発明は、質問器と応答器間で無線通信する無線通信システムに関し、特に、質問器が所望の応答器と確実に通信できるようにする無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、質問器から質問波を放射し、この質問波の通信エリア内に存在する応答器が質問波を受信して応答波を質問器に返信する、例えばRFID(Radio Frequency Identification)システム等で代表される質問器−応答器による無線通信システムが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開平8−248127号公報
【特許文献2】特開平10−224259号公報
【特許文献3】特開2004−88755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来のこの種の無線通信システムでは、質問器から予め定めた通信エリアに質問波を放射し、通信エリア内に応答器が存在すると、応答器は質問波を受信して電力供給を受け、十分な電力が得られると動作を開始して応答波を返信する。このため、例えば応答器が質問器の通信エリアを高速で通過するようなシステムの場合、十分な電力が得られる通信可能領域の滞在時間が限られるので、通信時間を確保するための対策として、無線出力を増大して質問波の送信エリアを広げることが考えられる。しかし、電波法により無線出力は制限されている。また、仮に質問波の送信エリアを広げた場合、所望の応答器以外の応答器が反応する虞れがあり、単に送信エリアを広げることは好ましくない。
【0004】
また、質問波の通信エリアに複数の応答器が存在すると、通信エリア内の複数の応答器が質問波を受信して応答波を返信するが、応答波を返信した複数の応答器に中に、応答波がマスクされて質問器側で認識できない応答器が存在すると、質問器側で認識してないにも拘わらず応答器側では通信が完了したと判断し、システム上、不具合が発生する。
【0005】
更に、例えばRFIDシステム等において、一定時間内に複数の応答器と通信を行う必要性がある場合、例えば、従来では各応答器と通信する場合、応答器に付されたID番号の上位のビットから1ビットづつ各応答器の応答波だけが受信されるまでID番号を絞って行くような通信プロトコルにより対応している。例えば、図11に示すように質問器100の通信エリア(図の斜線部分)内に、例えばID番号がそれぞれ「0011」、「0010」、「1100」、「1111」の4つの応答器101が存在している場合、ID番号「0010」の応答器を読み出す場合は図12のフローチャートのようになり、ID番号「1111」の応答器を読み出す場合は図13のフローチャートのようになる。図中、各応答器と通信を開始されるまでの経路を実線で示してある。図12、13から分かるように、ID番号「0010」と「1111」の各応答器では、通信が開始されるまでの時間が異なる。このように、従来の無線通信システムでは、通信エリア内の複数の応答器と一定時間内に通信を行う必要性があるシステムの場合、各応答器と通信できるまでに時間がかかると共に、応答器によって通信開始までの時間が不規則であった。
【0006】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、質問器が所望の応答器と確実に、また、短時間で通信が開始できる無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、請求項1の発明では、質問器から質問波を送信し、該質問波を受信した応答器が応答波を返信することにより、質問器と応答器間で情報を交信する無線通信システムであって、前記質問器が、周波数の互いに異なる第1及び第2質問波を送信する2つの送信アンテナと、該2つの送信アンテナの少なくとも一方の指向性を可変制御する指向性制御部とを備え、前記第1及び第2質問波が重なった位置に存在する応答器とだけ交信する構成とした。
【0008】
かかる構成では、質問器は、2つの送信アンテナから周波数の互いに異なる第1質問波と第2質問波を、指向性制御部により少なくとも一方の送信アンテナの指向性を可変制御して送信する。第1及び第2質問波が重なった位置に存在する応答器だけから応答波を受信し、その応答器と交信するようになる。
【0009】
請求項2のように、前記応答器は、前記質問器の送信する前記第1及び第2質問波を共に受信したときに前記応答波の返信モードとなる構成とした。
かかる構成では、応答器は、質問器の送信する第1及び第2質問波を共に受信したときに応答するようになる。
【0010】
請求項3のように、前記2つの送信アンテナが、前記指向性制御部により指向性を可変可能な構成とするとよい。
請求項4のように、前記第1質問波を送信する送信アンテナの指向性を固定して送信する一方、前記第1質問波より送信エリアの狭い第2質問波をその送信アンテナの指向性を可変制御して第1質問波の送信エリアを含んで走査可能とする構成とするとよい。
【0011】
請求項5のように、前記質問器は、受信電波の強度を計測する電波強度計測手段と、該電波強度計測手段の計測値が所定値以上のときに前記受信電波が前記応答器の電波と判断し前記各送信アンテナの指向性情報に基づいて応答器の位置を推定する位置推定手段とを備える構成とするとよい。
かかる構成では、質問器は、電波強度計測手段により受信電波の強度を計測し、計測値が所定値以上のときは応答器からの電波と判断して位置推定手段により応答器の位置を推定する。
【0012】
請求項6のように、指向性が可変可能な前記各送信アンテナの指向性を順次可変設定して当該送信アンテナからの質問波を走査し、前記電波強度計測手段の計測値が所定値以上になったときに応答器ありと判断する構成とするとよい。
請求項7のように、前記質問器に接続する管理装置から与えられた特定の応答器の位置情報に基づいて前記指向性制御部により前記各送信アンテナの指向性を制御する構成とするとよい。
請求項8のように、前記応答器は、前記第1及び第2質問波を用いて内蔵されるCPUの動作クロックが生成される構成とするとよい。
【0013】
請求項9のように、前記固定された第1質問波の送信エリアに進入したときに応答器が停止モードから待機モードに移行し、該待機モードにおいて応答器が前記2質問波を受信すると当該応答器が通信モードになる構成とするとよい。
かかる構成では、応答器が第1質問波の送信エリアに進入すると停止モードから待機モードに移行し、待機モードにおいて第2質問波を受信したときに応答器は通信モードに移行する。これにより、第1質問波の送信エリアを広く設定して通信時間を確保し、また、他の応答器と混信も防止できるようになる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明の無線通信システムによれば、2つの質問波の少なくとも1つの質問波の指向性を可変制御し、2つの質問波が重なる位置に存在する応答器だけと交信する構成としたので、質問器の通信エリア内に多数の応答器が存在する場合でも、各応答器と確実に通信することができ、従来のような応答器が応答したにも拘わらず質問器が認識しないという問題は解消できる。また、質問波の走査速度を高速とすることで、多数の応答器と短時間で通信することが可能であり、質問器−応答器間の通信の高速化が可能である。更には、質問波の送信方向を任意の方向に可変できるので、マルチパスフェージングに起因する通信不能の問題が解消でき、応答器の存在場所に関係なく確実に応答器と通信できる。
【0015】
また、第1質問波の指向性を固定して送信し第1質問波より送信エリアの狭い第2質問波の指向性を可変して第1質問波の送信エリアを走査する構成とし、応答器が、第1質問波の送信エリアに進入したときに停止モードから待機モードに移行し、第2質問波を受信すると通信モードになる構成すれば、質問器の通信エリアを応答器が高速で通過するようなシステムにおいて、第1質問波の送信エリアを広く設定することで、応答器に立上り速度の早い高価なCPU等を使用することなく、十分な通信時間の確保が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る無線通信システムの第1実施形態を示すシステム概略図である。
図1において、本実施形態の無線通信システムは、質問器1と、例えばタグ等の応答器2と、前記質問器1に接続されて情報を交信する管理装置3とを備えて構成される。
【0017】
前記質問器1は、周波数が互いに異なる2つの質問波を送信アンテナ11,12の指向性を可変制御して送信すると共に応答器2からの応答波を受信して応答器2とデータを交信するものであり、図2に構成を示す。
図2において、質問器1は、質問波を送信するための2つの送信アンテナ11,12と、応答波を受信するための受信アンテナ13と、互いに周波数の異なる質問波を送信アンテナ11,12にそれぞれ出力する各送信部14,15と、受信アンテナ13から応答波を受信する受信部16と、送信アンテナ11,12の指向性を制御する指向性制御部17と、応答波が受信されたときに応答器2の位置を推定する位置情報検出部18と、質問器1の各部の動作を制御すると共に、管理装置3との間で情報を交信する制御部19とを備える。
【0018】
前記送信アンテナ11,12は、複数のアンテナ素子がアレイ状に配置されて指向性が可変可能で質問波の送信方向が変えられる従来公知のアダプティブアレイアンテナで構成される。送信部14は、例えば周波数f1の搬送波を送信データで変調した質問波を第1質問波として送信アンテナ11に出力する。送信部15は、周波数f2の無変調の搬送波を第2質問波として送信アンテナ12に出力する。尚、本実施形態では、送信アンテナ11,12から送信する送信電波は、従来の送信アンテナに比べて指向性の高い送信エリアの狭いものとする。
【0019】
前記指向性制御部17は、制御部19の指向性制御指令に基づいて送信部14,15をそれぞれ制御して送信アンテナ11,12の指向性、言い換えれば、質問波の放射方向を可変制御する。位置情報検出部18は、受信部16の受信状態に基づいて受信アンテナ13を介して受信された電波の強度を計測する受信強度計測機能と、受信強度の計測値が所定値以上のときに送信アンテナ11,12の質問波放射方向情報と送信アンテナ11,12間の距離情報を用いて応答器2までの距離と応答器2の位置(例えば緯度経度等)を推定する距離計測機能及び位置推定機能とを備え、推定した応答器位置情報を制御部19に送る。従って、位置情報検出部18は、受信強度計測手段及び位置推定手段の機能を備えている。
【0020】
前記応答器2は、質問器1から送信される互いに異なる周波数f1、f2の第1及び第2質問波を共に受信したときに応答波の返信モードとなるもので、図3に構成を示す。
図3において、応答器2は、質問波を受信する受信アンテナ21と、質問波を受信すると共に受信した質問波を応答データで変調した応答波を返信する送受信アンテナ22と、受信アンテナ21の受信した第1質問波と第2質問波を例えばミキサによるミキシング処理等によりデータを抽出するデータ抽出部23と、受信アンテナ21の受信した質問波から電力を抽出供給する電力供給部24と、電力供給部24からの電力供給により動作しデータ抽出部23で抽出されたデータに対応する応答データを出力するCPU25と、送受信アンテナ22が受信した第2質問波を前記CPU25の出力する応答データで変調した応答波を送受信アンテナ22に出力する変調部26とを備える。尚、応答器2のCPU25等を動作させるためのクロックは、従来と同様にして質問波の搬送波成分や変調波成分を用いて生成すればよい。
【0021】
次に、本実施形態の無線通信システムの動作を図4及び図5に示すフローチャートを参照して説明する。
図4は、管理装置3が特定した所望の応答器を指定して通信する場合の例である。
ステップ1(図中S1で示し、以下同様とする)では、管理装置3が所望の応答器2のIDを指定して質問器1の制御部19に伝送する。
ステップ2では、制御部19は、送信アンテナ12の指向性、即ち、第2質問波の送信方向θ2を初期値に設定するよう指向性制御部17に指令する。これにより、指向性制御部17は、送信アンテナ12の質問波送信方向が初期値θ2(0)となるよう送信部15を制御する。
【0022】
ステップ3では、ステップ2と同様にして、指向性制御部17により送信アンテナ11の質問波送信方向が初期値θ1(0)となるよう送信部14を制御する。
ステップ4では、位置情報検出部18が受信部16の出力状態に基づいて受信電波の強度を計測し所定値以上か否かを判定し、所定値以上で判定がYESであれば受信電波は応答器2からの応答波と判断してステップ5に進み、所定値未満で判定がNOであればステップ5を飛び越して後述するステップ8に進む。
【0023】
ステップ5では、受信した応答波から得られたID情報が管理装置3で指定されたIDと一致するか否かを判定し、一致すれば所望の応答器2であると判断してステップ6に進み、不一致であればステップ8に進む。
ステップ6では、位置情報検出部18がその時の第1及び第2質問波の各送信方向情報と予め記憶された送信アンテナ11,12間の距離データに基づいて質問器1から応答器2までの距離計測と応答器の位置を推定し所望の応答器2の位置検出動作を実行する。
ステップ7では、応答器2と通信を開始する。
【0024】
一方、ステップ4、5の各判定がNOとなりステップ8に進んだ場合、ステップ8で送信アンテナ11の送信方向θ1が予め定めた最大値MAXか否かを判定し、MAXでなければステップ9に進み、送信アンテナ11の送信方向θ1をΔθ1増加し、ステップ4に戻り受信強度の計測を実行する。また、ステップ8の判定がYESとなった場合は、ステップ10に進み、送信アンテナ12の送信方向θ2が予め定めた最大値MAXか否かを判定し、MAXでなければステップ11に進み、送信アンテナ12の送信方向θ2をΔθ2増加し、ステップ3に戻り、送信アンテナ11の送信方向θ1を初期値θ1(0)に戻した後、送信アンテナ11の送信方向θ1を初期値θ1(0)〜MAXまで再度可変する。ステップ10の判定がYESのときはステップ12で、所望の応答器は存在しないと判断する。
【0025】
このようにして、送信アンテナ12の各送信方向θ2(0)〜MAXについて送信アンテナ11の送信方向θ1を順次可変させ、2つの質問波を走査して2つの質問波が重なる位置に応答器2が存在すれば、応答器2は2つの質問波を共に受信アンテナ21で受信し、電力供給部24からCPU25に電力供給されてCPU25が動作すると共に、データ抽出部23でデータが抽出されてCPU25に伝送される。CPU25は受信データに対応する応答データを変調部26に伝送し、変調部26で送受信アンテナ22により受信した無変調の第2質問波を応答データで変調し、応答波として送受信アンテナ22を介して返信する。質問器1は、受信した応答波のID情報が管理装置3で指定された所望の応答器2のIDと一致すれば通信を開始する。
【0026】
図5は、管理装置3が所望の応答器の位置を指定して通信する場合の例である。
ステップ21では、管理装置3が所望の応答器2の位置を指定して質問器1の制御部19に伝送する。
ステップ22では、制御部19は入力した位置情報に基づいて、指定された地点で2つの質問波が重なるよう各送信アンテナ11,12の送信方向を計算し、得られた送信アンテナ11の送信方向θ1の設定値θ1(m)を指向性制御部17に指令し、指向性制御部17が送信アンテナ11の指向性が設定値θ1(m)となるよう送信部14を制御する。
ステップ23では、ステップ22と同様にして、指向性制御部17により送信アンテナ12の送信方向θ2が設定値θ2(n)となるよう送信部15を制御する。
【0027】
ステップ24では、位置情報検出部18が受信部16の受信状態に基づいて受信電波の強度を計測し計測値が所定値以上か否かを判定する。所定値以上で判定がYESであれば、指定した位置に応答器が存在すると判断し、ステップ25に進み、その応答器2と通信を開始する。一方、受信強度が所定値未満で判定がNOであれば、指定した位置には応答器が存在しないと判断する。応答器が存在しない場合、管理装置3から別の位置情報を指定するか、或いは、別の位置情報を指定せず動作を終了する。
【0028】
以上のように本実施形態の無線通信システムは、2つの質問波が重なる位置に存在する応答器2だけと交信するので、質問器1の通信エリア内に多数の応答器が存在する場合でも、各応答器2と確実に通信することができる。従って、従来のような応答器2が応答したにも拘わらず質問器1が認識しないという問題は解消できる。また、質問波の走査速度はアダプティブアレイアンテナにより極めて高速でできるので、通信エリア内に存在する多数の応答器と短時間で通信することが可能であり、質問器−応答器間の通信の高速化が可能である。
【0029】
また、従来の無線通信システムでは、応答器2の存在場所によってはマルチパスフェージングなどによって応答器2との通信が不能となる場合もあるが、本実施形態の無線通信システムでは第1及び第2質問波の送信方向をそれぞれ任意の方向に可変できるので、マルチパスフェージングに起因する通信不能の問題も解消でき、また、質問波が受信できない場所(ヌル点)を無くすことができるので、応答器の存在場所に関係なく確実に応答器2と通信できるようになる。
【0030】
ここで、本実施形態の無線通信システムの応答器位置推定動作について図6及び図7を参照して説明する。
図6は、応答器2が質問器1と同一平面にあるものとした2次元の場合の説明図である。
【0031】
図6において、既知情報として、送信アンテナ11,12間の距離をD、送信アンテナ11の質問波の送信方向をθ1、送信アンテナ12の質問波の送信方向をθ2とする。
質問器1から応答器2までの距離をLとし、各送信アンテナ11,12から見た応答器2のオフセット量をY1,Y2とすると、
Y1=Ltanθ1
Y2=Ltanθ2
D=Y1+Y2
となる。
上記の3つの式から、Y1,Y2,Lが求まる。即ち、
Y1=Dtanθ1/(tanθ1+tanθ2)
Y2=Dtanθ2/(tanθ1+tanθ2)
L=D/(tanθ1+tanθ2)
となる。
【0032】
そして、例えば質問器1の送信アンテナ11の位置を基準(例えば位置座標の原点)として、前述のY1,Y2,Lの値を補正処理することにより、質問器1から応答器2までの距離と、質問器1に対する応答器2の位置を推定でき、応答器2の位置情報を得ることができる。
【0033】
図7は、垂直方向も含めた3次元で応答器の位置情報を推定する場合の説明図である。
図7において、既知情報として、上述した既知情報に加えて各送信アンテナ11,12の垂直方向の送信方向角度をそれぞれφ1,φ2とする。
この場合、図6から得られた位置情報を例えば送信アンテナ11を原点として補正処理した応答器の平面内位置を(x1、y1)とすると、この平面内位置から応答器までの垂直方向の距離を計算すればよい。この垂直方向の距離をz1とすると、
z1=(x12+y12)1/2・tanφ1
として求めることができ、これにより、質問器1に対する応答器2の位置情報を得ることができる。質問器と応答器間の距離L′は、
L=(x12+y12+z2)1/2
となる。
【0034】
このように、本実施形態の無線通信システムでは、送信アンテナ11,12の指向性情報、言い換えれば、質問波の送信方向情報に基づいて応答器の位置情報を知ることができる。
【0035】
次に、図8に本発明の無線通信システムに適用する応答器の別の構成例を示す。
図8の応答器2′は、第1質問波と第2質問波を共に受信したときにCPUの動作クロックを生成する構成であり、図3に示す応答器2と同様の受信アンテナ21、送受信アンテナ22、データ抽出部23、電力供給部24、CPU25及び変調部26を備えると共に、受信アンテナ21で受信された第1質問波と第2質問波を例えばミキサによりミキシング処理してCPU25の動作クロックを生成するクロック生成部27を備える。
【0036】
かかる応答器2′は、第1質問波と第2質問波が共に受信できたときに、クロック生成部27でクロックが生成され、CPU25が起動し、抽出されたデータに対応する応答データを変調部26に出力して応答波を返信する。
【0037】
従来、質問波搬送波成分を用いてクロック生成する構成では、クロック周波数が高くなり過ぎるために別途CPU用の低速用クロック発生回路を応答器に内蔵する必要があり、また、変調波成分を用いる場合には変調波成分を得るために別途ローカル発振器が必要であった。図8の構成では、例えば第1質問波と第2質問波の周波数の差分が、CPU用として適切なクロック周波数となるよう、第1質問波と第2質問波の各周波数を適切に設定するようにすれば、前記低速用クロック発生回路やローカル発振器を応答器に内蔵する必要がない。従って、応答器のコスト、重量、大きさ、厚み等を低減できる。
【0038】
次に、図9及び図10に本発明の無線通信システムの第2実施形態を示し説明する。
図9は、第2実施形態のシステム概略図を示し、図10は、本実施形態の質問器1′の構成を示す。
本実施形態の質問器1′は、第1質問波を送信する送信アンテナ11′が指向性の固定された通常のアンテナで構成され、送信部14′が無変調波の質問波を出力し、送信部15′が変調波を出力する構成であることを除いては、図10に示すように第1実施形態の質問器1(図2に示す)と略同様の構成である。そして、送信アンテナ11′から図9に斜線で示すような広い送信エリアの無変調の第1質問器を放射する。送信アンテナ12は、指向性が可変制御されて第1質問波より送信エリアの極めて狭い変調された第2質問波を第1質問波の送信エリアを含んで走査する。
【0039】
応答器2は、第1質問波の送信エリアに進入すると第1質問波の受信により電力供給部24で電力が生成され、CPU25が無電力の停止モードから待機モードに移行し、微弱な電波或いは自身のID情報を返信する。また、第2質問波を受信するとデータ抽出部23でデータが抽出されCPU25から抽出データに対応した応答データを出力する通信モードに移行し、受信データに対応した応答データを含んだ応答波を返信する構成である。
【0040】
次に、第2実施形態の無線通信システムの動作について図9を参照して説明する。
例えば、応答器2が第1質問波の送信エリアを図9中の矢印方向に高速で通過するようなシステムを考える。応答器2は、第1質問波の送信エリアに進入する前では無電力の停止モードである。この状態で、応答器2が第1質問波の送信エリアに進入すると、第1質問波を受信して待機モードとなり、電力が生成されCPU25が動作可能な状態となり、微弱な電波或いは自身のID情報を返信する。質問器1′は、送信アンテナ12の指向性を極めて高速で可変制御し、第2質問波を第1質問波の送信エリアを含んで高速走査している。これにより、第1質問波の送信エリア内に進入した応答器2が、高速走査されている第2質問波を受信すると、応答器2は通信モードになり、質問器1′からの質問波に含まれるデータがデータ抽出部23で抽出されてCPU25に入力し、CPU25は入力したデータに対応した応答データを出力して応答波を返信する。第2質問波の走査速度が極めて高速であるため、第1質問波の送信エリア内に応答器2が存在する間は、実質的に連続して応答器2で第2質問波が受信され、質問器1′と応答器2との間の通信は正常に維持されて情報の交信を行うことができる。応答器2が第1質問波の送信エリアを抜ければ応答器2は停止モードとなる。
【0041】
かかる第2実施形態によれば、応答器2が高速で質問器の通信エリアを通過するシステムでも、立上り時間の早い高価なCPUを使用したり、CPU立上げ用のバッテリを内蔵したりしなくとも、第1質問波の送信エリアを広く設定することにより、情報を正常に交信するための通信時間を十分確保できる。また、第2質問波を受信した応答器2だけが応答波を返信するので、他の応答器との混信も防止できる。
【0042】
尚、上述の第2実施形態において、質問器1′の受信アンテナ13に、アダプティブアレイアンテナを使用し、例えばMUSIC(Multiple Signal Classification)法等の従来公知の到来角推定アルゴリズムを用いた到来角推定技術により、第1質問波の送信エリアに進入した応答器2からの電波の到来方向を推定し、推定した電波到来方向に向けて第2質問波を送信するようにすれば、第1質問波の送信エリアに進入した応答器2と直ちに情報を交信でき、より一層十分な通信時間を確保でき、更に質問器と応答器間の通信の高速化を図ることが可能となる。また、この場合、応答器2からの電波の到来方向を推定することで応答器2の位置が把握できるので、応答器2の移動に追従させて送信アンテナ12の指向性を制御して第2質問波の送信方向を可変制御することが可能であり、所望の応答器2の移動動作をトラッキングすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る無線通信システムの第1実施形態を示す概略図
【図2】同上実施形態の質問器の構成図
【図3】応答器の構成図
【図4】第1実施形態の動作例を説明するフローチャート
【図5】第1実施形態の別の動作例を説明するフローチャート
【図6】応答器の位置を2次元で推定する場合の説明図
【図7】応答器の位置を3次元で推定する場合の説明図
【図8】応答器の別の構成例を示す構成図
【図9】本発明に係る無線通信システムの第2実施形態を示す概略図
【図10】同上実施形態の質問器の構成図
【図11】従来の無線通信システムの動作例の説明図
【図12】図11の無線通信システムでID番号「0010」の応答器の読み出し動作を説明するフローチャート
【図13】図11の無線通信システムでID番号「1111」の応答器の読み出し動作を説明するフローチャート
【符号の説明】
【0044】
1,1′ 質問器
2,2′ 応答器
3 管理装置
11,11′,12 送信アンテナ
13 受信アンテナ
17 指向性制御部
18 位置情報検出部
19 制御部
21 受信アンテナ
22 送受信アンテナ
23 データ抽出部
24 電力供給部
25 CPU
26 変調部
27 クロック生成部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質問器から質問波を送信し、該質問波を受信した応答器が応答波を返信することにより、質問器と応答器間で情報を交信する無線通信システムであって、
前記質問器が、周波数の互いに異なる第1及び第2質問波を送信する2つの送信アンテナと、該2つの送信アンテナの少なくとも一方の指向性を可変制御する指向性制御部とを備え、前記第1及び第2質問波が重なった位置に存在する応答器とだけ交信する構成としたことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記応答器は、前記質問器の送信する前記第1及び第2質問波を共に受信したときに前記応答波の返信モードとなる構成とした請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記2つの送信アンテナが、前記指向性制御部により指向性を可変可能な構成である請求項1又は2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記第1質問波を送信する送信アンテナの指向性を固定して送信する一方、前記第1質問波より送信エリアの狭い第2質問波をその送信アンテナの指向性を可変制御して第1質問波の送信エリアを含んで走査可能とする構成とした請求項1又は2に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記質問器は、受信電波の強度を計測する電波強度計測手段と、該電波強度計測手段の計測値が所定値以上のときに前記受信電波が前記応答器の電波と判断し前記各送信アンテナの指向性情報に基づいて応答器の位置を推定する位置推定手段とを備える構成とした請求項1〜4のいずれか1つに記載の無線通信システム。
【請求項6】
指向性が可変可能な前記送信アンテナの指向性を順次可変設定して当該送信アンテナからの質問波を走査し、前記電波強度計測手段の計測値が所定値以上になったときに応答器ありと判断する構成である請求項5に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記質問器に接続する管理装置から与えられた特定の応答器の位置情報に基づいて前記指向性制御部により前記送信アンテナの指向性を制御する構成である請求項1〜6のいずれか1つに記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記応答器は、前記第1及び第2質問波を用いて内蔵されるCPUの動作クロックが生成される構成である請求項1〜7のいずれか1つに記載の無線通信システム。
【請求項9】
前記固定された第1質問波の送信エリアに進入したときに応答器が停止モードから待機モードに移行し、該待機モードにおいて応答器が前記2質問波を受信すると当該応答器が通信モードになる請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項1】
質問器から質問波を送信し、該質問波を受信した応答器が応答波を返信することにより、質問器と応答器間で情報を交信する無線通信システムであって、
前記質問器が、周波数の互いに異なる第1及び第2質問波を送信する2つの送信アンテナと、該2つの送信アンテナの少なくとも一方の指向性を可変制御する指向性制御部とを備え、前記第1及び第2質問波が重なった位置に存在する応答器とだけ交信する構成としたことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記応答器は、前記質問器の送信する前記第1及び第2質問波を共に受信したときに前記応答波の返信モードとなる構成とした請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記2つの送信アンテナが、前記指向性制御部により指向性を可変可能な構成である請求項1又は2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記第1質問波を送信する送信アンテナの指向性を固定して送信する一方、前記第1質問波より送信エリアの狭い第2質問波をその送信アンテナの指向性を可変制御して第1質問波の送信エリアを含んで走査可能とする構成とした請求項1又は2に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記質問器は、受信電波の強度を計測する電波強度計測手段と、該電波強度計測手段の計測値が所定値以上のときに前記受信電波が前記応答器の電波と判断し前記各送信アンテナの指向性情報に基づいて応答器の位置を推定する位置推定手段とを備える構成とした請求項1〜4のいずれか1つに記載の無線通信システム。
【請求項6】
指向性が可変可能な前記送信アンテナの指向性を順次可変設定して当該送信アンテナからの質問波を走査し、前記電波強度計測手段の計測値が所定値以上になったときに応答器ありと判断する構成である請求項5に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記質問器に接続する管理装置から与えられた特定の応答器の位置情報に基づいて前記指向性制御部により前記送信アンテナの指向性を制御する構成である請求項1〜6のいずれか1つに記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記応答器は、前記第1及び第2質問波を用いて内蔵されるCPUの動作クロックが生成される構成である請求項1〜7のいずれか1つに記載の無線通信システム。
【請求項9】
前記固定された第1質問波の送信エリアに進入したときに応答器が停止モードから待機モードに移行し、該待機モードにおいて応答器が前記2質問波を受信すると当該応答器が通信モードになる請求項4に記載の無線通信システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
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【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−121156(P2006−121156A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303997(P2004−303997)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】
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