説明

無線通信システム

【課題】 例えば、列車無線通信システムで、通信の効率化を図る。
【解決手段】 予め設定された軌道に沿って移動する移動局装置2と、軌道に沿って設けられる複数の基地局装置B1〜Bnと、複数の基地局装置を管理する制御局装置1を備え、移動局装置と基地局装置とが無線により通信し、移動局装置が軌道に沿って移動するに従って複数の基地局装置のそれぞれへハンドオフする構成において、移動局装置は自装置の進行方向を特定する情報を基地局装置を介して制御局装置へ送信し、制御局装置は、移動局装置から送信される情報を基地局装置を介して受信し、受信された情報に基づいて移動局装置のハンドオフ先となる基地局装置を予測し、予測結果に基づいてハンドオフを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車無線通信システムなどの無線通信システムに関し、特に、通信の効率化を図った無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、列車無線通信システムでは、列車が走行する線路に沿った配置などで複数の基地局装置を各位置に設置するとともに、列車に移動局装置となる子局装置を設置して、基地局装置と列車の移動局装置との間で無線により通信することが行われている。この場合、列車が進行するに従って、当該列車の移動局装置の通信相手となる基地局装置が順次切り替えられる、つまりハンドオフ(ハンドオーバ)が行われる。
【0003】
ハンドオフとしては、移動局装置の側では、使用中の幾つかの基地局装置から無線により送られる制御信号を受信し、自己の側(移動局装置の側)に登録されている基地局装置のサーチ順序に従って基地局装置を選択し、選択した基地局装置ヘ通信相手を切り替えることが行われている。
しかしながら、このようなハンドオフの構成では、ハンドオフ先の基地局装置の択一ができないため、場合によっては移動局装置が基地局装置からの制御信号を受信した際に、本来移動しなくてはならない基地局装置からの信号を検出することができずに、別の基地局装置へハンドオフしてしまうようなこともあり得る。このような場合には、結果的に、正常なハンドオフに要する時間が長くなってしまう、或いは不用意にハンドオフを繰り返してしまうような問題が発生する。
【0004】
また、上記のような列車無線通信システムでは、基地局装置の上位システムとなる制御局装置が、制御専用の無線回線により移動局装置の在線位置の情報を把握し、移動局装置の接続時にはその情報に基づいて必要な基地局装置のみから移動局装置を呼び出すことが行われていた。
しかしながら、このような在線位置管理の構成では、移動局装置の在線位置を把握するために、制御専用の無線回線を使用するため、その分、無線回線の有効利用性が低減してしまう問題が発生する。
【0005】
【特許文献1】特開2001−278049号公報
【特許文献2】特開2003−284131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、上記のような列車無線通信システムでは、基地局装置と列車の移動局装置との間の無線通信に関して、未だに非効率的な点があり、更なる効率化が望まれていた。
本発明は、このような従来の課題を解決するために為されたもので、通信の効率化を図ることができる無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る無線通信システムでは、予め設定された軌道に沿って移動する移動局装置と、前記軌道に沿って設けられる複数の基地局装置と、前記複数の基地局装置を管理する制御局装置を備え、前記移動局装置と前記基地局装置とが無線により通信し、前記移動局装置が前記軌道に沿って移動するに従って前記複数の基地局装置のそれぞれへハンドオフするに際して、次のような処理を行う。
すなわち、前記移動局装置では、情報送信手段が、自装置(前記移動局装置)の進行方向を特定する情報を前記基地局装置を介して前記制御局装置へ送信する。
前記制御局装置では、情報受信手段が、前記移動局装置から送信される情報を前記基地局装置を介して受信する。また、予測手段が、前記情報受信手段により受信された前記移動局装置の進行方向を特定する情報に基づいて、前記移動局装置のハンドオフ先となる基地局装置を予測する。また、制御手段が、前記予測手段による予測結果に基づいて、ハンドオフを制御する。
【0008】
従って、移動局装置の進行方向を特定する情報が移動局装置から制御局装置へ送信されて制御局装置により把握され、当該情報に基づいて制御局装置により移動局装置のハンドオフ先となる基地局装置が予測されてハンドオフが制御されるため、例えば、移動局装置の進行方向に基づいて、移動局装置のハンドオフ先となる基地局装置を適切に予測して、効率的なハンドオフを実現することができる。
【0009】
ここで、移動局装置の構成や数や、基地局装置の構成や数や、制御局装置の構成や数としては、それぞれ、種々な態様が用いられてもよい。
また、移動局装置と基地局装置とは無線により通信し、制御局装置と基地局装置とは有線又は無線により通信する。
また、移動局装置は、例えば、列車などの移動する物に設けられた無線通信装置から構成され、当該列車などの移動と共に移動する。なお、列車などの移動する機能と無線通信機能とを合わせて移動局装置とみなすことも可能である。
【0010】
また、移動局装置が移動する軌道としては、種々なものが用いられてもよく、例えば、列車の線路などを用いることができる。列車の線路では、通常、一方向及び逆方向の2通りの進行方向(移動方向)が存在する。また、軌道としては、分岐を有する軌道が用いられてもよい。また、例えば、複数の軌道が存在する場合には各軌道を識別するための情報が設けられ、また、1つの軌道に分岐が存在する場合には各分岐の軌道を識別するための情報が設けられる。
また、移動局装置において、自装置の進行方向は、例えば、人により設定されてもよく、或いは、装置により(自動的に)検出されてもよい。
また、複数の基地局装置のそれぞれは、例えば、軌道に沿って隣接する基地局装置の間の距離が所定の程度となるように並べられて設けられる。これら複数の基地局装置の通信エリアにより、軌道の全体にわたって、軌道を移動する移動局装置との間の無線通信を可能とし、移動局装置は移動に従って通信相手とする基地局装置を順次切り替えていく(つまり、ハンドオフしていく)。
【0011】
また、制御局装置は、例えば、各基地局装置と接続されて、各基地局装置と移動局装置との間の通信状況や、移動局装置の位置などの情報や、移動局装置のハンドオフの状況などを管理する。
また、制御局装置によりハンドオフを制御する態様としては、種々な態様が用いられてもよく、例えば、移動局装置の次のハンドオフ先となる基地局装置を予測した結果に基づいて、予測された基地局装置へのハンドオフを行うための準備処理を予め実行する態様や、或いは、予測された基地局装置以外へのハンドオフについては誤りであると判定して実行させない態様などを用いることができる。
【0012】
本発明に係る無線通信システムでは、一構成例として、次のような構成とした。
すなわち、前記制御局装置或いは前記移動局装置の一方又は両方では、記憶手段が、前記移動局装置の進行方向と前記移動局装置のハンドオフ先となる基地局装置の順序との対応を記憶する。そして、前記記憶手段に記憶された前記対応に基づいて、ハンドオフを制御する。
従って、例えば、移動局装置の進行方向から、移動局装置のハンドオフ先となる基地局装置の順序が把握され、これに基づいてハンドオフを適切に制御することができる。
【0013】
ここで、移動局装置においてハンドオフを制御することも可能であり、例えば、次のハンドオフ先となる基地局装置へのハンドオフを行うための準備処理を予め実行することや、或いは、前記記憶内容に基づいて次のハンドオフ先となる基地局装置として予測された基地局装置以外へのハンドオフについては誤りであると判定して実行しないようなことができる。
また、記憶手段としては、例えば、メモリを用いて構成することができる。
また、一例として、2通りの進行方向を有する軌道については、通常、一方向の進行方向についてハンドオフ先となる基地局装置の順序と、逆方向についてハンドオフ先となる基地局装置の順序とは、逆の順になる。
【0014】
本発明に係る無線通信システムでは、一構成例として、次のような構成とした。
すなわち、前記移動局装置では、前記情報送信手段が、更に、自装置(前記移動局装置)の速度を特定する情報を前記基地局装置を介して前記制御局装置へ送信する。
前記制御局装置では、前記予測手段は、前記情報受信手段により受信された前記移動局装置の進行方向を特定する情報及び前記移動局装置の速度を特定する情報に基づいて、前記移動局装置の位置を予測する。また、前記制御手段は、前記予測手段による予測結果に基づいて、前記移動局装置との間で通信接続する基地局装置を決定する。
従って、移動局装置の進行方向及び速度から位置が予測され、予測された位置に基づいて移動局装置と通信接続する基地局装置(逆に言えば、通信接続しない基地局装置)が決定されて、その基地局装置と移動局装置との間で通信接続して無線通信が行われるため、例えば、移動局装置の位置に応じて近辺の基地局装置のみとの間で通信接続させて、システム全体として通信の効率化を図ることができる。
【0015】
ここで、移動局装置において自装置の速度は、例えば、装置により(自動的に)検出されてもよく、或いは、人により設定されてもよい。一例として、列車に設けられた移動局装置では、当該列車の速度計により検出される速度の情報を自装置の速度の情報として用いることができる。
また、移動局装置の進行方向と速度から位置を予測する場合に、例えば、移動局装置が移動する軌道が存在する位置(位置が連続したもの)や距離などの情報や、移動局装置の初期状態の位置(例えば、出発駅などの出発位置)又は途中状態の位置(例えば、途中の駅などの途中位置)やその時刻などの情報が、人により設定されて或いは装置により(自動的に)設定されて、参照されてもよい。
【0016】
本発明に係る無線通信システムでは、一構成例として、次のような構成とした。
すなわち、前記制御局装置では、前記制御手段は、前記移動局装置が一の基地局装置の通信エリアから他の基地局装置の通信エリアへ移動するに際して、前記移動局装置の位置と前記他の基地局装置の位置との離隔距離が予め設定された閾値以下又は未満となったことに応じて、前記他の基地局装置から前記移動局装置への信号を無線送信する。
従って、例えば、移動局装置が一の基地局装置の通信エリアに存在して当該一の基地局装置と通信接続して無線通信している状況で、次のハンドオフ先となる他の基地局装置の通信エリアへ近付く或いはその中に入って進行する場合に、移動局装置が当該他の基地局装置に所定の閾値に基づく程度で近付く前は当該他の基地局装置から当該移動局装置への信号を無線送信せずに、移動局装置が当該他の基地局装置に所定の閾値に基づく程度で近付いたときから当該他の基地局装置から当該移動局装置への信号を無線送信し始めることにより、ハンドオフ時における無線通信の効率化を図ることができる。
【0017】
ここで、制御局装置は、例えば、各基地局装置の位置の情報を記憶する手段或いは検出する手段を有する。
また、移動局装置の位置と基地局装置の位置との離隔距離を求める場合に、基地局装置の位置としては、必ずしも実際に基地局装置が存在する位置が用いられなくともよく、例えば、一の基地局装置の通信エリアから他の基地局装置の通信エリアへの移動局装置のハンドオフを効率的に行う観点で、各基地局装置の位置として任意の位置が設定されて用いられてもよい。
また、移動局装置の位置と基地局装置の位置との離隔距離に関する閾値としては、種々な値が用いられてもよく、例えば、ハンドオフ先となる基地局装置からハンドオフ対象となる移動局装置への信号が必要なときのみに無線送信されるような値が用いられるのが好ましい。
【0018】
他の構成例として、移動局装置が一の基地局装置の通信エリアから他の基地局装置の通信エリアへ移動するに際して、前記移動局装置と前記他の基地局装置との位置関係を検出し、当該検出された位置関係が所定の条件を満たすようになったことに応じて、前記他の基地局装置から前記移動局装置への信号を無線送信することを開始するような構成を用いることも可能である。なお、所定の条件としては、例えば、移動局装置とハンドオフ先となる基地局装置との位置関係が、当該基地局装置から当該移動局装置への信号の無線送信が開始されるのが好ましい位置関係となったとみなすような条件を用いることができる。
【0019】
本発明に係る無線通信システムでは、一構成例として、次のような構成とした。
すなわち、前記移動局装置では、前記情報送信手段は、前記基地局装置との間の通話情報の通信のために設けられた無線回線の空きを使用して、情報を前記基地局装置に対して無線送信する。
従って、例えば、制御情報の通信のための無線回線(制御チャネル)ではなく、通話情報の通信のための無線回線(通信チャネル)が使用されて移動局装置の進行方向の情報や速度の情報などが無線通信されることにより、制御チャネルを無くすことが可能となり、無線回線を有効利用することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明に係る無線通信システムによると、移動局装置と、複数の基地局装置と、制御局装置を備えた構成において、移動局装置が軌道に沿って移動するに従って異なる基地局装置へハンドオフしていくに際して、例えば、制御局装置により移動局装置の進行方向の情報や速度の情報などを管理することにより、通信の効率化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る実施例を図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施例に係る列車無線通信システムの構成例を示してある。本実施例に係る列車無線通信システムでは、例えば、MCA(Multi−Channel Access)方式の無線通信が用いられている。
本実施例に係る列車無線通信システムには、制御局装置1と、制御局装置1に接続された複数であるn個の基地局装置B1〜Bnと、列車に設置された移動局装置2が設けられている。
ここで、移動局装置2は、これが設置された列車が移動することに従って移動する。
また、複数の基地局装置B1〜Bnは、それぞれ、列車が走行する線路に沿って距離間隔を空けて配置されており、例えば、線路を走行する列車の移動局装置2との間で無線通信が可能な程度で線路の近辺に設置されている。
また、移動局装置2は、各列車毎に設けられている。
また、制御局装置1としては、例えば、複数設けられてもよい。
【0022】
制御局装置1は、移動局装置2の在線位置の情報を記憶する移動局在線位置記憶部11と、複数であるn個の基地局接続部A1〜Anと、各種の制御を行う制御部12を備えている。各基地局接続部A1〜Anは、例えば有線回線或いは無線回線を介して、各基地局装置B1〜Bnと接続されており、インタフェースとして機能とする。
移動局装置2は、無線信号を送受信するアンテナ21と、無線通信処理を行う無線機22と、通信制御などを行う制御部23と、当該移動局装置2に関する情報の制御を行う移動局情報制御部24を備えている。
移動局装置2は、線上に配置された複数の基地局装置A1〜Anの周辺を線上に移動し、基地局装置A1〜Anとの間で無線回線を使用して互いに個別情報の送受信を行う。
【0023】
なお、本実施例に係る列車無線通信システムでは、移動局装置2の処理部21〜24が情報を送信する機能により情報送信手段が構成されており、制御局装置1の処理部12、A1〜Anが情報を受信する機能により情報受信手段が構成されており、制御局装置1の処理部11、12が移動局装置2のハンドオフなどに関する予測を行う機能により予測手段が構成されており、制御局装置1の処理部11、12がハンドオフに関する処理を制御して実行する機能により制御局装置1の制御手段が構成されている。
また、本実施例に係る列車無線通信システムでは、移動局装置2の処理部24が図3に示されるような登録内容をメモリに記憶する機能により移動局装置2の記憶手段が構成されており、制御局装置1の処理部11が図3に示されるような登録内容をメモリに記憶する機能により制御局装置1の記憶手段が構成されており、移動局装置2の処理部23、24がハンドオフに関する処理を制御して実行する機能により移動局装置2の制御手段が構成されている。
【実施例1】
【0024】
本発明の第1実施例を説明する。
本例の移動局装置2の内部のメモリには、移動局装置2が軌道上のいずれの方向へ進んでいるかを判別することが可能な情報、及びハンドオフする可能性のある基地局装置B1〜Bnの情報が記憶されている。なお、このメモリは、例えば移動局情報制御部24などに備えられている。
また、上位システムである制御局装置1の内部のメモリには、移動局装置2がハンドオフする可能性のある基地局装置B1〜Bnの情報が記憶されている。このメモリは、例えば移動局在線位置記憶部11などに備えられている。これにより、移動局装置2から送られてくる軌道上の方向の情報と現在において移動局装置2が位置する基地局装置B1〜Bnの情報に基づいてハンドオフ候補となる基地局装置B1〜Bnの択一を可能とする。
【0025】
図2を参照して、本例のハンドオフ方式の具体例を示す。
図2には、制御局装置1と、移動局装置2と、3個の基地局装置(基地局装置1、2、3)B1、B2、B3と、移動局装置2が移動する軌道Cを示してある。また、各基地局装置B1〜B3の通信エリアD1〜D3の分布を示してある。なお、例えば基地局装置B1と基地局装置B2といったように通信エリアが互いに重複する基地局装置では、例えば異なる周波数のキャリアを用いた無線通信が行われる、或いは、互いに干渉しないような態様で同一の周波数のキャリアが用いられてもよい。
図3には、移動局装置2のメモリ及び上位システムである制御局装置1のメモリに登録されて記憶される情報の一例を示してある。
本例では、進行方向情報と、基地局装置情報と、備考情報が対応付けられて登録されている。
【0026】
或る方向について、「1→3」という進行方向情報は移動局装置2の進行方向を表しており、これに対応した「1,2,3,・・」という基地局装置情報は当該進行方向においては基地局装置B1(基地局装置1)、基地局装置B2(基地局装置2)、基地局装置B3(基地局装置3)、・・という順序でハンドオフする(つまり、移動局装置2の通信相手が切り替わる)ことを表している。
逆方向について、「3→1」という進行方向情報は移動局装置2の進行方向を表しており、これに対応した「3,2,1,・・」という基地局装置情報は当該進行方向においては・・、基地局装置B3(基地局装置3)、基地局装置B2(基地局装置2)、基地局装置B1(基地局装置1)という順序でハンドオフする(つまり、移動局装置2の通信相手が切り替わる)ことを表している。
【0027】
一例として、移動中の移動局装置2が基地局装置B1の通信エリアD1から基地局装置B3の通信エリアD3へ向けて移動している場合には、移動局装置2では、このような移動の方向を示す進行方向情報(本例では、「1→3」)を基地局装置B1に対して無線送信して、この進行方向情報を基地局装置B1を介して制御局装置1へ送る。この進行方向情報を受信した基地局装置B1は当該進行方向情報を制御局装置1へ送信し、制御局装置1は当該進行方向情報を設定登録する。また、制御局装置1は、現在において移動局装置2が基地局装置B1の通信エリアD1に存在するという移動局装置2の在線位置情報を記憶する。なお、移動局装置2においても、現在における自装置2の進行方向を表す進行方向情報が記憶される。
【0028】
移動局装置2は、基地局装置B1の通信エリアD1から基地局装置B2の通信エリアへ移動した際に、自装置2内に予め登録されている次の基地局装置(ここでは、基地局装置B2)の択一を行う。つまり、ハンドオフの先として基地局装置B2を選択する。
また、上位システムである制御局装置1では、移動局装置2がハンドオフした際に、移動局装置2から既に通知されている進行方向情報及び図3に示される登録内容に基づいて、予め予測しているハンドオフ先の基地局装置(ここでは、基地局装置B2)のチャネルを割り当てる。
【0029】
また、移動局装置2が基地局装置B2の通信エリアD2から基地局装置B3の通信エリアD3へ移動する際にも、同様に、移動局装置2では図3に示される登録内容に基づいて基地局装置B3がハンドオフ先として認識され、制御局装置1においても図3に示される登録内容に基づいて基地局装置B3が移動局装置2のハンドオフ先として認識される。
【0030】
このように、移動局装置2及び上位システムである制御局装置1の双方で、予め予測されるハンドオフ先となる基地局装置B1〜Bnの情報を共有することにより、ハンドオフの誤認識を無くすことができる。
また、移動局装置2及び上位システムである制御局装置1において、ハンドオフ先が択一されることにより、スムーズなハンドオフが可能となり、ハンドオフ時間の短縮が図られる。
【0031】
以上のように、本例の列車無線通信システムでは、列車の移動局装置2が当該移動局装置2の進行方向(当該列車の進行方向)の情報を上位システムである制御局装置1へ通知し、制御局装置1が、当該進行方向情報を管理して把握し、この進行方向情報及び図3に示される登録内容に基づいて予測される次の基地局装置をハンドオフ先として準備する。
具体的には、或る決められた軌道C上を走行する移動局装置2により予め進行方向を示す情報をメモリのテーブル上に記憶しておき、この情報を上位システムである制御局装置1へ伝送し、制御局装置1は、この情報を受信してメモリのテーブル上に記憶し、走行している移動局装置2が次にいずれの基地局装置ヘハンドオフするかを予測する。また、移動局装置2においても、メモリのテーブル上に記憶された情報に基づいて、次にハンドオフする基地局装置を予め予測する。
【0032】
従って、本例の列車無線通信システムでは、移動局装置2や制御局装置1においてハンドオフ候補の基地局装置を択一することができ、ハンドオフをスムーズに行うことができ、結果としてハンドオフに要する時間を短縮することができる。また、上位システムである制御局装置1により移動局装置2のハンドオフ先を予め予測して、任意の1つに選定することにより、ハンドオフのシーケンスを安定化することができる。また、ハンドオフのシーケンスが安定化されることにより、ハンドオフの際に通話断することを防止すること或いは通話断する時間を短縮することができる。
【実施例2】
【0033】
本発明の第2実施例を説明する。
各基地局装置B1〜Bnは、常時、それぞれに個別な情報を移動局装置2に対して無線送信している。移動局装置2は、受信した基地局装置B1〜Bnからの個別情報に基づいて、いずれの基地局装置B1〜Bnと通信可能な位置に存在するかを把握する。
本例の移動局装置2では、移動局情報制御部24は、予め決められた時間毎に、列車番号の情報と進行方向の情報と速度の情報を取得する。また、移動局情報制御部24は、移動局装置2が基地局装置間を移動することにより新たな基地局装置(例えば、それまでに通信していた基地局装置とは異なる基地局装置)からの個別情報を受信した時に、空きの通話無線回線(通信チャネル)を使用して、当該新たな基地局装置へ列車番号情報と進行方向情報と速度情報からなる移動局個別情報を基地局装置向けの情報に付与して無線送信する。これにより、移動局情報制御部24は、新たな基地局装置からの個別情報を受信する毎に、当該新たな基地局装置へ移動局個別情報を送出する。当該新たな基地局装置は、移動局装置2から受信した移動局個別情報を制御局装置1へ中継送信する。
【0034】
ここで、列車番号情報としては、例えば、列車毎に固有の番号情報が設定されている。例えば、移動局情報制御部24は列車を構成する装置へアクセスして当該番号情報を取得する、或いは、当該番号情報が移動局情報制御部24などのメモリに記憶されてもよい。本例では、列車番号情報は、移動局装置2の識別情報として用いられている。
また、進行方向情報としては、例えば、列車の運転手などの人により設定される、或いは、装置により自動的に検出される。例えば、移動局情報制御部24は列車を構成する装置へアクセスして当該進行方向情報を取得する、或いは、当該進行方向情報が移動局情報制御部24などのメモリに記憶されてもよい。
【0035】
また、速度情報としては、例えば、列車或いは移動局装置2により検出される。例えば、移動局情報制御部24は列車を構成する装置へアクセスして当該速度情報を取得する、或いは、当該速度情報が移動局情報制御部24などにより取得されてもよい。
なお、速度としては、例えば、移動局装置2が移動している(列車が移動している)場合ばかりでなく、移動局装置2が停止している(列車が停車している)場合も含み、つまり、速度がゼロである場合も含む。
また、他の構成例として、各列車番号情報により特定される各列車(各移動局装置2)が移動する軌跡(駅)や時刻の情報を有する列車の時刻表の情報などが、制御局装置1などのメモリに記憶されて参照されるような構成を用いることも可能である。
【0036】
本例の制御局装置1では、移動局在線位置記憶部11が、複数の基地局装置B1〜Bnに対応して、各基地局装置B1〜Bnを介して送られてくる移動局装置2の識別情報(本例では、列車番号情報)と進行方向情報と速度情報をメモリに一定時間記憶し、進行方向情報と速度情報に基づいて、時間の経過とともに、移動局装置2が基地局装置のいずれに在線するかなどの位置情報を計算して記憶する。例えば、移動局在線位置記憶部11は、前記新たな基地局装置を経由して移動局装置2から送られてきた移動局個別情報を当該新たな基地局装置に対応付けて一定時間記憶し、移動局装置2の在線位置を予め決められた時間毎に計算して記憶する。制御局装置1は、基地局装置B1〜Bnの無線サービスエリア(通信エリア)内に存在する移動局装置2毎の情報を一定時間記憶することにより、それぞれの移動局装置2がいずれの位置(例えば、いずれの基地局装置の配下に存在するかという位置、及び、更に詳しい位置)に存在するかを識別する。
【0037】
図4(a)、(b)を参照して、本例の移動局装置2の接続方式の具体例を示す。
図4(a)、(b)には、制御局装置1と、複数の基地局装置B1〜Bnと、これら複数の基地局装置B1〜Bnの並び順序に沿って移動する移動局装置2(移動局装置2a、2b)を示してある。ここで、移動局装置2aと移動局装置2bは同一の移動局装置2を表しており、移動局装置2aは移動局装置2の移動前の位置に示されており、移動局装置2bは移動局装置2の移動後の位置に示されている。
【0038】
まず、移動局装置2が、基地局装置B1の通信エリアから基地局装置B2の通信エリアへ移動する時に、制御局装置1に対して当該移動局装置2の列車番号情報、進行方向情報、速度情報などの個別情報を送信する。
制御局装置1では、移動局装置2から受信した個別情報に基づいて、当該移動局装置2の在線位置を予め決められた時間毎に計算して記憶する。例えば、列車番号情報により移動局装置2が特定され、進行方向情報により移動局装置2の進行方向が特定され、速度情報により移動局装置2の速度が特定され、進行方向及び速度から移動局装置2が存在する線上の位置(在線位置)が特定される。なお、移動局装置2の初期の位置の情報は、例えば、初期の位置において移動局装置2から制御局装置1へ通知される、或いは、初期の位置の情報が予め制御局装置1のメモリに設定されている。
【0039】
図4(a)には、移動局装置2bが基地局装置B2の通信エリアに移動している場合であって、基地局装置B2の手前前半付近に在線している場合を示してある。
この場合、制御局装置1から移動局装置2への通信接続時に、一定時間記憶された移動局装置2毎の情報により、制御局装置1により計算した移動局装置2の在線位置が進行方向に対して基地局装置B2の手前前半付近に在線していると判断され、これに応じて、制御局装置1は基地局装置B2のみから移動局装置2への情報を無線送信して移動局装置2を接続する。
【0040】
図4(b)には、移動局装置2bが基地局装置B2の通信エリアに移動している場合であって、基地局装置B2の遠方後半付近に在線している場合を示してある。
この場合、制御局装置1から移動局装置2への通信接続時に、制御局装置1により計算した移動局装置2の在線位置が進行方向に対して基地局装置B2の遠方後半付近に在線していると判断され、これに応じて、制御局装置1は元の基地局装置B2と進行方向にある次の基地局装置B3の両方から移動局装置2への情報を無線送信して移動局装置2を接続する。
【0041】
以上のように、本例の列車無線通信システムでは、列車の移動局装置2が当該移動局装置2の進行方向(当該列車の進行方向)の情報などを上位システムである制御局装置1へ通知し、制御局装置1が、当該進行方向情報などを管理して把握し、この進行方向情報などに基づいて予測される次の基地局装置をハンドオフ先として準備する。
例えば、任意の基地局装置B1〜Bnの通信エリアに複数の移動局装置2(複数の列車)が存在している場合に、各移動局装置2の進行方向と移動速度(停車も含む)を予め管理しておき、管理情報に基づいて所定の時間帯に、(制御チャネルを使用せず、直接的に)通信チャネルにより当該基地局装置B1〜Bnと各移動局装置2との通信が行われる。
また、例えば、任意の基地局装置B1〜Bnの通信エリアに複数の移動局装置2(複数の列車)が存在している場合に、各移動局装置2の進行方向と移動速度(停車も含む)に応じて、当該基地局装置B1〜Bnと各移動局装置2との無線通信接続を行うか否かを決定して管理することが可能である。
【0042】
従って、本例の列車無線通信システムでは、制御局装置1が制御専用の無線回線を使用せずに移動局装置2の在線位置を検出して把握することにより、制御専用の無線回線を無くすことが可能となり、無線回線の有効利用性を向上させることができる。
また、本例の列車無線通信システムでは、移動局装置2が、空きの通話無線回線を使用して、進行方向や速度などの情報を基地局装置B1〜Bnを経由させて制御局装置1へ伝達し、これに基づいて、制御局装置1が、移動局装置2の在線位置を計算して記憶しておき、制御局装置1から移動局装置2を接続するときには必要な基地局装置B1〜Bnのみから移動局装置2への信号を送信することにより、制御用の無線回線を無くすことができ、無線回線を有効利用することができる。
【0043】
ここで、本発明に係る無線通信システムや各装置などの構成としては、必ずしも以上に示したものに限られず、種々な構成が用いられてもよい。また、本発明は、例えば、本発明に係る処理を実行する方法或いは方式や、このような方法や方式を実現するためのプログラムや当該プログラムを記録する記録媒体などとして提供することも可能であり、また、種々な装置やシステムとして提供することも可能である。
また、本発明の適用分野としては、必ずしも以上に示したものに限られず、本発明は、種々な分野に適用することが可能なものである。
また、本発明に係る無線通信システムや各装置などにおいて行われる各種の処理としては、例えばプロセッサやメモリ等を備えたハードウエア資源においてプロセッサがROM(Read Only Memory)に格納された制御プログラムを実行することにより制御される構成が用いられてもよく、また、例えば当該処理を実行するための各機能手段が独立したハードウエア回路として構成されてもよい。
また、本発明は上記の制御プログラムを格納したフロッピー(登録商標)ディスクやCD(Compact Disc)−ROM等のコンピュータにより読み取り可能な記録媒体や当該プログラム(自体)として把握することもでき、当該制御プログラムを当該記録媒体からコンピュータに入力してプロセッサに実行させることにより、本発明に係る処理を遂行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施例に係る列車無線通信システムの構成例を示す図である。
【図2】本発明の第1実施例に係るハンドオフ方式の一例を説明するための図である。
【図3】本発明の第1実施例に係る移動局装置及び上位システム(制御局装置)の登録内容の一例を示す図である。
【図4】(a)及び(b)は本発明の第2実施例に係る移動局装置の接続方式の一例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0045】
1・・制御局装置、 2、2a、2b・・移動局装置、 11・・移動局在線位置記憶部、 12、23・・制御部、 21・・アンテナ、 22・・無線機、 24・・移動局情報制御部、 A1〜An・・基地局接続部、 B1〜Bn・・基地局装置、 C・・軌道、 D1〜D3・・通信エリア、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された軌道に沿って移動する移動局装置と、前記軌道に沿って設けられる複数の基地局装置と、前記複数の基地局装置を管理する制御局装置を備え、前記移動局装置と前記基地局装置とが無線により通信し、前記移動局装置が前記軌道に沿って移動するに従って前記複数の基地局装置のそれぞれへハンドオフする無線通信システムにおいて、
前記移動局装置は、自装置の進行方向を特定する情報を前記基地局装置を介して前記制御局装置へ送信する情報送信手段を備え、
前記制御局装置は、前記移動局装置から送信される情報を前記基地局装置を介して受信する情報受信手段と、前記情報受信手段により受信された前記移動局装置の進行方向を特定する情報に基づいて前記移動局装置のハンドオフ先となる基地局装置を予測する予測手段と、前記予測手段による予測結果に基づいてハンドオフを制御する制御手段と、を備えた、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信システムにおいて、
前記制御局装置或いは前記移動局装置の一方又は両方は、前記移動局装置の進行方向と前記移動局装置のハンドオフ先となる基地局装置の順序との対応を記憶する記憶手段を備え、前記記憶手段に記憶された前記対応に基づいてハンドオフを制御する、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の無線通信システムにおいて、
前記移動局装置では、前記情報送信手段は、更に、自装置の速度を特定する情報を前記基地局装置を介して前記制御局装置へ送信し、
前記制御局装置では、前記予測手段は、前記情報受信手段により受信された前記移動局装置の進行方向を特定する情報及び前記移動局装置の速度を特定する情報に基づいて前記移動局装置の位置を予測し、
前記制御手段は、前記予測手段による予測結果に基づいて前記移動局装置との間で通信接続する基地局装置を決定する、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
請求項3に記載の無線通信システムにおいて、
前記制御局装置では、前記制御手段は、前記移動局装置が一の基地局装置の通信エリアから他の基地局装置の通信エリアへ移動するに際して、前記移動局装置の位置と前記他の基地局装置の位置との離隔距離が予め設定された閾値以下又は未満となったことに応じて、前記他の基地局装置から前記移動局装置への信号を無線送信することを開始する、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の無線通信システムにおいて、
前記移動局装置では、前記情報送信手段は、前記基地局装置との間の通話情報の通信のために設けられた無線回線の空きを使用して情報を前記基地局装置に対して無線送信する、
ことを特徴とする無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−82075(P2007−82075A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269942(P2005−269942)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】