説明

無線通信システム

【課題】所定範囲内で移動するとともにその移動先の位置においてその移動の頻度よりも高い頻度で無線通信の障害物となる部分を動かす動作を行う移動体1上に配置された無線端末10と,その移動体1の移動経路に沿う複数箇所に配置された複数の無線中継局20とが混在する無線通信システムXにおいて,トポロジーの変化による通信効率の悪化の防止,及び無線端末10に対する設定情報更新の手間の発生の回避を実現できること。
【解決手段】移動体1上の無線端末10が,無線中継局20をアクセスポイントとしてローミングを行いつつ無線通信を行い,無線中継局20が,前記アクセスポイントとして無線通信を行うとともに,他の無線中継局20との間でダイナミックルーティングによる無線通信により通信データの中継伝送を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,移動するとともに移動先で無線通信の障害物となる部分を動かす動作を行う移動体上に配置された無線端末を含む複数の無線通信局(無線ノード)が無線通信を行う無線通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に,複数の無線通信局(無線ノード)を含む無線通信システムでは,無線通信プロトコルとして次の2つのいずれかが採用される。
その1つは,インフラストラクチャモードの無線通信プロトコルである。また,他の1つは,ダイナミックルーティング(動的ルーティング)によるアドホックモードの無線通信プロトコルである。
インフラストラクチャモードでの無線通信は,無線端末が,アクセスポイントとの間で無線通信を確立し,そのアクセスポイントを介して他の装置との通信を行う通信形態である。その際,通信の確立に必要となるアクセスポイントの情報(通信アドレス等)は,予め無線端末の記憶部に記録(登録)される。
また,インフラストラクチャモードでの無線通信では,通信相手となり得る複数のアクセスポイントの情報を予め無線端末の記憶部に記録(登録)しておき,あるアクセスポイントとの無線通信中に通信エラーが発生した場合に,自動的に通信相手(アクセスポイント)を切り替えるローミングも行われる。このローミングによれば,無線端末の移動や回転によってアクセスポイントとの距離の変化やアクセスポイントとの間の障害物の存在状況の変化が生じても,通信相手とするアクセスポイントの高速な切り替えにより,通信効率の悪化を防止できる。
但し,インフラストラクチャモードでの無線通信は,アクセスポイントの増減等のトポロジーの変化があった場合には,その変化に自動的に対応(適応)することができない。
例えば,高速に通信相手を切り替えるローミングの方式としては,キーキャッシング方式のローミングやIPアドレスを維持するL3ローミング等が知られている。
インフラストラクチャモードでの無線通信は,ローミングを伴うものも含め,広く普及している無線LANに採用されている。
【0003】
一方,ダイナミックルーティングによるアドホックモードの無線通信(以下,単にアドホックモードでの無線通信という)は,アクセスポイントを介さずに無線ノード(無線端末やアクセスポイント等)どうしがピアツーピアで行う無線通信である。その際,無線ノードどうしが,自ノードが記憶しているルーティング情報(ルーティングテーブル)をやり取りすることにより,各無線ノードが自動的に自ノードのルーティング情報の記録内容を動的に更新する。ルーティング情報のやり取りに用いられるルーティングプロトコルとしては,例えば,OLSR(Optimized Link State Routing Protocol),TBRPF(Topology Broadcast based on Reverse-Path Forwarding),LANMAR(Landmark Routing Protocol),FSR(Fisheye State Routing Protocol),IARP(Inverse Address Resolution Protocol)等がある。これらのルーティングプロトコルは,いずれもProactive型のルーティングプロトコルである。Proactive型のルーティングプロトコルとは,各無線ノードが,データ通信の要求の発生前に,随時パケットを送出して周辺に存在する他のノードの確認を行ない,その確認結果からルーティング情報を自動設定するタイプのルーティングプロトコルである。
また,省電力化の観点から,無駄な電波発信を極力抑えるため,データ通信の要求が発生してからルーティング情報の設定を行うReactive型のルーティングプロトコルも存在する。しかしながら,通信の応答速度が要求されるシステムでは,通常,Proactive型のルーティングプロトコルが採用される。
アドホックモードでの無線通信によれば,アクセスポイントの増減等のトポロジーの変化があった場合でも,その変化の内容がダイナミックルーティングによって自動的にルーティング情報(ルーティングテーブル)に反映される。従って,アドホックモードでの無線通信は,トポロジーの変化に対して自動的に対応(適応)することができる。
但し,トポロジーの変化に応じてダイナミックルーティングの処理が発生すると,次に通信が可能となるまでに比較的長い時間を要するため,通信効率が悪化する。
また,特許文献1には,インフラストラクチャモードでの無線通信からアドホックモードでの無線通信への移行を行う無線通信システムに示されている。
【0004】
ところで,臨海地に設置されて船舶に対する積み荷の積み降ろしを行う荷役クレーンシステムにおいて,荷役情報を管理するための無線通信システムが導入されている。
図5は,荷役クレーンシステムにおける従来の無線通信システムAの一例の概略構成図である。
荷役クレーンシステムは,移動や回転の動作を比較的高い頻度で行う回転型クレーン1と,その回転型クレーン1に比較的近い範囲においてその回転型クレーン1よりも低い頻度で移動動作を行う門型クレーン2とを備えている。そして,荷役クレーンシステムは,接岸した船舶6と沿岸に設置された倉庫8との間で積み荷の搬送を行う。
前記回転型クレーン1は,沿岸に沿って敷設されたレール7上を走行する台車部1aと,その台車部1aに支持されて回転動作を行うとともに,荷物の上げ下ろしを行うアーム部1cが設けられた回転部1bとを有している。この回転型クレーン1は,それに搭乗したオペレータにより,前記回転部1bに設けられた荷物の積み降ろし用の前記アーム部1cの動作(回動及び上げ下ろしの動作)が制御される。
また,前記門型クレーン2は,前記回転型クレーン1と同様に前記レール7上を走行するが,回転動作は行わない。
前記回転型クレーン1及び前記門型クレーン2は,比較的低い頻度で沿岸に沿って(即ち,前記レール7に沿って)目的の船舶6や倉庫8の位置まで大きく移動し,移動先の位置において,前記回転型クレーン1が,荷物の積み降ろしのために比較的狭い範囲において高い頻度で移動や回転の動作を行う。
そして,荷役クレーンシステムにおける従来の無線通信システムAは,前記回転型クレーン1に配置された無線端末10’と,前記回転型クレーン1及び前記門型クレーン2の移動経路に沿って間隔を隔てて固定設置された複数の無線中継局20’及び1つの無線基地局30’とを備えている。また,前記無線基地局30’は,外部ネットワーク9と接続されている。そして,前記無線端末10’においてオペレータによって入力された荷役のデータが,前記無線端末10’から最寄りの前記無線中継局20’に無線伝送され,さらに,その無線中継局20’から前記無線基地局30’を経由して外部ネットワーク9へ伝送される。
なお,前記無線端末10’,前記無線中継局20’及び前記無線基地局30’は無線通信システムAにおける無線ノードである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−110135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記荷役クレーンシステムにおける無線通信システムAにおいて,前記回転型クレーン1が所定の位置(移動先)で前記アーム部1cを頻繁に動作させているときには,回転する前記アーム部1cやそれが保持する荷物等が前記無線端末10’と通信中の前記無線中継局20’との間に入るごとに,それが障害物となって頻繁に通信エラーが発生する。
また,前記回転型クレーン1が前記門型クレーン2とともに大きく移動した場合,前記無線端末10’に対して最寄りの前記無線中継局20’が全く異なるものに入れ替わってしまい,無線通信システムAのトポロジーが激変するためにルーティングの再構築が必要となる。
【0007】
ここで,図5に示されるような無線通信システムAにインフラストラクチャモードでの無線通信が採用された場合を考える。この場合,前記無線端末10’が,前記無線中継局20’をアクセスポイントとしてインフラストラクチャモードでの無線通信を行うことになる。
そして,前記回転型クレーン1が移動先の比較的狭い範囲で頻繁に動作しているときには,前記無線端末10’が,最寄りの複数の前記無線中継局20’を通信相手の候補として高速にローミングを行いつつ無線通信を行えば,前記回転型クレーン1の回転動作が頻発しても,比較的高い通信品質(通信効率)を確保できる。
しかしながら,前記回転型クレーン1が大きく移動した場合には,トポロジーが激変するためにインフラストラクチャモードでの無線通信ではそのトポロジーの変化に対応できないという問題が生じる。また,セキュリティ上の効果を期待して端末が予め設定したアクセスポイント(無線中継局)にのみ接続する構成では,前記無線中継局20’の配置変更や増減等に伴うトポロジーの変化があった場合,その都度,端末の無線ノードに対してインフラストラクチャモードでの無線通信を行うための情報(アクセスポイントのアドレス等)を設定しなければならず,それが手間であるという問題も生じる。更に,周囲に多数のアクセスポイント(無線中継局)が存在する場合には,ローミング動作が不安定になるおそれもある。
【0008】
また,図5に示されるような無線通信システムAにアドホックモードでの無線通信が採用された場合を考える。この場合,前記無線端末10’及び複数の前記無線中継局20’が,ダイナミックルーティングの処理を行いつつ,相互にピアツーピアの無線通信を行うことになる。
そして,前記回転型クレーン1が大きく移動した場合には,ダイナミックルーティングによってルーティングの再構築が行われるので,移動先の位置において,前記無線端末10’と前記無線中継局20’との間でピアツーピアでの無線通信が可能となる。また,そのような移動の頻度が低ければ,ダイナミックルーティングの処理に多少の時間を要しても,大きな通信効率の悪化にはつながらない。
しかしながら,前記回転型クレーン1が比較的狭い範囲で頻繁に動作しているときには,前記無線端末10’と最寄りの複数の前記無線中継局20’との間の局所的なトポロジーの変化が頻発し,それに応じてダイナミックルーティングの処理の負荷(時間)が著しく増大する。そのため,通信効率の著しい悪化を招くという問題が生じる。また,アドホックモードでの無線通信においては,前記無線端末10’及びその周辺の前記無線中継局20’でのみトポロジーの変化が生じた場合でも,ダイナミックルーティングによるルーティング情報の変更が広範囲に渡って発生してその完了により長時間を要する。そのため,前記無線通信システムAにアドホックモードでの無線通信を採用した場合,システムの規模が大きくなるほど通信効率の悪化が顕著となる。
以上に示した問題は,所定範囲内で移動するとともにその移動先の位置においてその移動の頻度よりも高い頻度で無線通信の障害物となる部分(前記アーム部1cやそれが保持する荷物等)を動かす動作を行う移動体上に配置された無線ノード(前記無線端末10’に相当)と,その移動体の移動経路に沿う複数箇所に配置された複数の無線ノード(前記無線中継局20’に相当)や所定位置に固定配置された無線ノード(前記無線基地局30’に相当)とが混在する無線通信システムにおいて共通する問題である。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,所定範囲内で移動するとともにその移動先の位置においてその移動の頻度よりも高い頻度で無線通信の障害物となる部分を動かす動作を行う移動体上に配置された無線ノードと,その移動体の移動経路に沿う複数箇所に配置された複数の無線ノードとが混在する無線通信システムにおいて,トポロジーの変化による通信効率の悪化の防止,及び無線ノードに対する設定情報更新の手間の発生の回避を実現できる無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る無線通信システムは,次の(1)〜(3)に示される各構成要素を備えている。
(1)所定範囲内で移動するとともにその移動先の位置においてその移動の頻度よりも高い頻度で無線通信の障害物となる部分を動かす動作を行う第1の移動体上に配置された無線端末。
(2)前記第1の移動体に対する所定範囲内で移動する第2の移動体上及び前記第1の移動体の移動経路に沿う複数箇所に配置された複数の無線中継局。
(3)所定位置に固定配置された無線基地局。
さらに,上記目的を達成するために本発明に係る無線通信システムは,次の(4)〜(8)に示される各構成要素を備えている。
(4)前記無線端末に設けられ,通信エリア内にある前記無線中継局をアクセスポイントとしてローミングを行いつつ無線通信を行う第1の無線通信手段。
(5)前記無線中継局それぞれに設けられ,無線通信のアクセスポイントとして通信エリア内にある前記無線端末との間で無線通信を行う第2の無線通信手段。
(6)前記無線中継局それぞれに設けられ,他の前記無線中継局及び前記無線基地局との間でダイナミックルーティングによる無線通信を行うことにより,前記第2の無線通信手段を通じて送受信される通信データの中継伝送を行う第3の無線通信手段。
(7)前記無線基地局に設けられ,前記無線中継局との間でダイナミックルーティングによる無線通信を行う第4の無線通信手段。
(8)前記無線基地局に設けられ,外部ネットワークとの間で通信を行うことにより,前記第4の無線通信手段を通じて送受信される通信データの中継伝送を行う外部通信手段。
【0010】
本発明においては,前記第1の移動体が移動先の比較的狭い範囲で頻繁に動作し,前記無線通信の障害物となる部分の動きにより通信エラーが頻発する状況であっても,前記無線端末が,前記第2の移動体上の前記無線中継局を含む最寄りの複数の無線中継局を通信相手の候補として高速にローミングを行いつつ無線通信を行うので,比較的高い通信品質(通信効率)を確保できる。
また,本発明においては,前記第1の移動体及び前記第2の移動体が大きく移動してシステムのトポロジーが激変した場合でも,前記無線端末は,少なくとも前記第2の移動体上の前記無線中継局とは無線通信が可能である。さらにその場合,複数の前記無線中継局及び前記無線基地局の相互間では,ダイナミックルーティングによってルーティングの再構築が行われる。そのため,前記第1の移動体及び前記第2の移動体が大きく移動した後においても,複数の前記無線中継局及び前記無線基地局相互間でピアツーピアでの無線通信が可能となり,その無線通信により前記無線端末が送受信する通信データの伝送が行われる。また,そのような移動の頻度が低ければ,ダイナミックルーティングの処理に多少の時間を要しても,大きな通信効率の悪化にはつながらない。
【0011】
また,本発明に係る無線通信システムが,前記無線中継局それぞれと通信可能な管理装置をさらに具備することが考えられる。この場合,前記管理装置に,次の(9−1)及び(9−2)に示される各構成要素が設けられ,さらに,前記無線端末に,次の(9−3)に示される構成要素が設けられる。
(9−1)前記無線中継局から前記ダイナミックルーティングにより随時自動設定されるルーティング情報を取得するルーティング情報取得手段。
(9−2)前記ルーティング情報取得手段により取得された前記ルーティング情報に基づいて,前記無線端末によるローミングの対象となる前記無線中継局を特定するローミング対象情報を設定し,該ローミング対象情報を前記無線中継局を通じて前記無線端末に対して送信するローミング対象情報送信手段。
(9−3)前記第1の無線通信手段を通じて得られる前記ローミング対象情報に基づいて,ローミングの対象とする前記無線中継局の宛先情報を更新するローミング対象更新手段。
また,前記管理装置が設けられる代わりに,前記無線端末が,前記管理装置の機能を兼ねることも考えられる。即ち,前記無線端末に,次の(10−1)及び(10−2)に示される各構成要素が設けられることが考えられる。
(10−1)前記無線中継局から前記ダイナミックルーティングにより随時自動設定されるルーティング情報を前記第1の無線通信手段を通じて取得するルーティング情報取得手段。
(10−2)前記ルーティング情報取得手段により取得された前記ルーティング情報に基づいて,前記無線端末によるローミングの対象となる前記無線中継局を特定し,その特定結果に基づいてローミングの対象とする前記無線中継局の宛先情報を更新するローミング対象更新手段。
これにより,前記無線中継局の配置変更や増減,前記第1の移動体の移動等に伴い,前記無線端末に関するトポロジーの変化があった場合でも,その都度,前記無線端末に対して無線通信を行うための情報(アクセスポイント(前記無線中継局)のアドレス等)を設定(手動更新)する手間を要しない。更に,接続先アクセスポイントとなる前記無線中継局が限定されるため,周囲に多数の前記無線中継局が存在する場合であっても,安定してローミング動作を行うことができる。
また,前記無線基地局が,さらに前記第2の無線通信手段を具備することにより前記無線中継局を兼ねるものであってもよい。
【0012】
ところで,前記無線端末各々のIPアドレスを該無線端末各々が接続された前記無線中継局各々に応じて異なるIPアドレスに設定するIPアドレス設定手段と,前記無線端末と前記外部ネットワークに接続された外部装置との間の通信経路上に設けられて前記無線端末及び前記外部装置の通信を中継する外部通信中継手段とを更に備えてなる構成が考えられる。この場合,前記外部通信中継手段が,次の(11−1)〜(11−4)に示される各構成要素を備えることが考えられる。
(11−1)前記無線端末各々の現在のIPアドレスを特定するIPアドレス特定手段。
(11−2)前記無線端末各々に対応して予め定められた中継IPアドレスと前記無線端末各々について前記IPアドレス設定手段が設定する複数のIPアドレスの候補とが対応付けられたIP変換対応情報を記憶するIP変換対応情報記憶手段。
(11−3)前記無線端末から前記外部装置を送信先としてデータ送信が行われるときに,該データに付加された送信元の前記無線端末の現在のIPアドレスを,前記IP変換対応情報記憶手段に記憶された前記IP変換対応情報において該IPアドレスに対応付けられた前記中継IPアドレスに変換する第1のIPアドレス変換手段。
(11−4)前記外部装置から前記中継IPアドレスを送信先としてデータ送信が行われるときに,該データに付加された送信先の前記中継IPアドレスを,前記IP変換対応情報において該中継IPアドレスに対応付けられた前記IPアドレスの候補のうち前記IPアドレス特定手段によって特定されたIPアドレスに変換する第2のIPアドレス変換手段。
このような構成によれば,前記無線端末各々のIPアドレスが変更された場合であっても,該無線端末各々と前記外部装置との間のデータの送受信を継続的に行うことができる。
【0013】
具体的には,前記IP変換対応情報が,前記無線端末各々に対応して予め定められた中継IPアドレスと,前記無線端末各々について前記IPアドレス設定手段が設定する複数のIPアドレスの候補と,前記無線端末各々の現在のIPアドレスが前記IPアドレスの候補のいずれであるかを示すアクティブアドレス情報とが対応付けられたものであることが考えられる。
そして,前記IPアドレス特定手段によって特定された前記無線端末各々の現在のIPアドレスに応じて前記IP変換対応情報の前記アクティブアドレス情報を変更するIP変換対応情報変更手段を更に備える構成が考えられる。
この場合,前記第2のIPアドレス変換手段は,前記IP変換対応情報変更手段により変更された前記IP変換対応情報に基づいて,前記中継IPアドレスを,前記IP変換対応情報において該中継IPアドレスに対応付けられた前記IPアドレスの候補のうち前記アクティブアドレス情報が示すIPアドレスに変換することができる。
【0014】
例えば,前記外部通信中継手段が,前記無線端末各々による前記外部ネットワークを介する通信を中継するゲートウェイ装置である場合,前記IPアドレス特定手段は,前記無線端末各々による前記外部ネットワークを介する通信の際に該無線端末各々から受信するデータに付加された送信元のIPアドレスが前記IP変換対応情報に含まれている場合に,該IPアドレスが該無線端末の現在のIPアドレスであると特定することが可能である。
特に,前記無線端末各々が,接続先の前記無線中継局が変更されて自己の現在のIPアドレスが変更されたことを条件に,前記外部通信中継手段へのデータ送信を行うものであることが望ましい。これにより,前記IPアドレス特定手段は,前記無線端末各々のIPアドレスが変更されたときに,迅速に該無線端末の変更後のIPアドレスを特定することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,所定範囲内で移動するとともにその移動先の位置においてその移動の頻度よりも高い頻度で無線通信の障害物となる部分を動かす動作を行う移動体上に配置された無線ノード(前記無線端末)と,その移動体の移動経路に沿う複数箇所に配置された複数の無線ノード(前記無線中継局及び前記無線基地局)とが混在する無線通信システムにおいて,トポロジーの変化による通信効率の悪化の防止,及び無線ノードに対する設定情報更新の手間の発生の回避を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る無線通信システムX全体の概略構成図。
【図2】本発明の実施形態に係る無線通信システムXにおける無線端末の構成を表すブロック図。
【図3】本発明の実施形態に係る無線通信システムXにおける無線中継局の構成を表すブロック図。
【図4】本発明の実施形態に係る無線通紙システムXにおける無線基地局の構成を表すブロック図。
【図5】従来の無線通信システムAの一例の概略構成図。
【図6】本発明の実施例に係る無線通信システムX全体の概略構成図。
【図7】本発明の実施例に係る無線通信システムXにおけるNATサーバ50の概略構成を示すブロック図。
【図8】一般的なIP変換対応情報の一例を示す図。
【図9】本発明の実施例に係る無線通信システムXで用いるIP割当対応情報の一例を示す図。
【図10】本発明の実施例に係る無線通信システムXで用いるIP変換対応情報の一例を示す図。
【図11】本発明の実施例に係る無線通信システムXで用いるIP変換対応情報の一例を示す図。
【図12】本発明の実施例に係る無線通信システムXで実行されるIP変換対応情報変更処理の手順の一例を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
本発明の実施の形態に係る無線通信システムXは,臨海地に設置されて船舶に対する積み荷の積み降ろしを行う荷役クレーンシステムに適用される無線通信システムの一例である。
【0018】
図1に示されるように,無線通信システムXの適用対象である前記荷役クレーンシステムは,図5に示した荷役クレーンシステムと同じであり,前記回転型クレーン1及び前記門型クレーン2を有している。
即ち,前記回転型クレーン1は,沿岸に沿って敷設された前記レール7上を所定範囲内(前記レール7が存在する範囲内)で移動するとともに,その移動先の位置においてその移動の頻度よりも高い頻度で無線通信の障害物となる物(前記アーム部1cやそのアーム部1cに保持された荷物)を回動(旋回)及び上下動させる動作を行う移動体である(前記第1の移動体の一例)。
また,前記門型クレーン2は,前記回転型クレーン1が大きく移動する際に,その移動に応じて前記レール7上を移動する移動体である(前記第2の移動体の一例)。その際,前記門型クレーン2は,前記回転型クレーン1に対する所定範囲内,即ち,通信用の電波が届く範囲内で移動する。また,前記門型クレーン2は,前記回転型クレーン1に対し,その移動方向の両側に存在する。
そして,無線通信システムXは,無線端末10,無線中継局20及び無線基地局30を有するシステムである。
前記無線端末10は,前記回転型クレーン1上に配置(搭載)されている。
複数の前記無線中継局20は,その一部が前記門型クレーン20上に配置(搭載)され,他の一部が,前記回転型クレーン1の移動経路(前記レール7)に沿う複数の箇所に配置されている。
また,前記無線基地局30は,前記レール7に沿う所定位置に固定配置されている。
固定配置される前記無線中継局20及び前記無線基地局30は,例えば,沿岸に設置された倉庫8等に設置される。
無線通信システムXにおいては,前記無線端末10においてオペレータによって入力された荷役のデータが,前記無線端末10から最寄りの前記無線中継局20へ無線伝送され,さらに,その無線中継局20から前記無線基地局30へ無線伝送され,その無線基地局30から外部ネットワーク9へ伝送される。そして,そのデータは,前記外部ネットワーク9に接続された不図示のサーバ装置により受信及び蓄積される。
また,前記外部ネットワーク9に接続された不図示のサーバ装置から,荷役に関するデータが,前記外部ネットワーク9,前記無線基地局30及び前記無線中継局20を介して前記無線端末10に伝送される。
なお,後述するように,前記無線基地局30は,前記無線中継局20を兼ねた装置であるため,前記無線端末10と前記無線基地局30とが直接的に無線通信を行う場合もある。
【0019】
次に,図2に示されるブロック図を参照しつつ,前記無線端末10の構成について説明する。
図2に示されるように,前記無線端末10は,CPU11,無線LAN端末インターフェース12,操作・表示部13及び記憶部14を備え,それらがバス接続された計算機である。
前記CPU11は,前記記憶部14に予め記憶されたコンピュータプログラムを実行することにより,前記無線LAN端末インターフェース12や前記操作・表示部13を制御しつつ各種の処理を実行する。
前記記憶部14は,ハードディスクやフラッシュメモリ等のデータ記憶媒体であり,前記CPU11により実行或いは参照される各種のプログラムやデータが格納される。
前記無線LAN端末インターフェース12は,通信エリア内にある前記無線中継局20をアクセスポイントとして,ローミングを行いつつインフラストラクチャモードでの無線通信を行う無線通信インターフェースである(前記第1の無線通信手段に相当)。
なお,前記CPU11が,前記記憶部14に記憶された無線LAN端末ドライバp11(プログラム)を実行して前記無線LAN端末インターフェース12を制御することにより,前記無線LAN端末インターフェース12をインフラストラクチャモードでの無線通信における無線端末として機能させる。その際,前記無線LAN端末インターフェース12は,前記CPU11から引き渡されたローミング情報d11に基づいて,通信エラー発生時に通信相手となるアクセスポイント(即ち,後述する前記無線中継局20における無線LANアクセスポイント32)を自動的に切り替えて通信を続行するローミングを実行する。このローミングによる通信相手(アクセスポイント)の切り替えは,ごく短時間(例えば,50ミリ秒以下)のうちに行われる。高速に通信相手を切り替えるローミングの方式としては,キーキャッシング方式のローミングやIPアドレスを維持するL3ローミング等が採用され得る。
前記記憶部14に予め記録されている前記ローミング情報d11は,ローミングによる通信相手の候補となる前記無線LANアクセスポイント32(前記無線中継局20)のアドレス(MACアドレス又はIPアドレス等)のリストである。
【0020】
前記操作・表示部13は,例えば,液晶タッチパネルや,液晶パネル及びマウス等からなるマンマシンインターフェースである。前記回転型クレーン1に搭乗したオペレータは,前記操作・表示部13を通じて各種の荷役データの入力及び確認を行う。
例えば,前記CPU11が,前記記憶部14に記憶された荷役管理プログラムp13を実行することにより,前記操作・表示部13(の表示部)に荷役データの入力画面を表示させる処理や,前記操作・表示部13(の操作部)を通じて荷役データを入力し,その荷役データを前記無線LAN端末インターフェース12を通じて前記外部ネットワーク9に接続されたサーバ(不図示)に送信する処理を実行する。
【0021】
次に,図3に示されるブロック図を参照しつつ,前記無線中継局20の構成について説明する。
図3に示されるように,前記無線中継局20は,CPU21,無線LAN端末アクセスポイント22,アドホック無線通信インターフェース23及び記憶部24を備え,それらがバス接続された計算機である。
前記CPU21は,前記記憶部24に予め記憶されたコンピュータプログラムを実行することにより,前記無線LAN端末アクセスポイント22や前記アドホック無線通信インターフェース23を制御しつつ各種の処理を実行する。
前記記憶部24は,ハードディスクやフラッシュメモリ等のデータ記憶媒体であり,前記CPU21により実行或いは参照される各種のプログラムやデータが格納される。
【0022】
前記無線LANアクセスポイント22は,インフラストラクチャモードでの無線通信のアクセスポイントとして,通信エリア内にある前記無線端末10における前記無線LAN端末インターフェース12との間で無線通信を行う通信インターフェースである(前記第2の無線通信手段に相当)。
また,前記アドホック無線通信インターフェース23は,他の前記無線中継局20及び前記無線基地局30との間でダイナミックルーティングによるアドホックモードでの無線通信を行う通信インターフェースである(前記第3の無線通信手段に相当)。このアドホック無線通信インターフェース23による無線通信により,前記無線LANアクセスポイント22を通じて送受信される通信データの中継伝送が行われる。
なお,前記CPU21が,前記記憶部14に記憶されたアクセスポイントドライバp21(プログラム)を実行して前記無線LAN端末アクセスポイント22を制御することにより,前記無線LANアクセスポイント22をインフラストラクチャモードでの無線通信におけるアクセスポイントとして機能させる。同様に,前記CPU21が,前記記憶部14に記憶されたアドホック通信ドライバp22(プログラム)を実行して前記アドホック無線通信インターフェース23を制御することにより,前記アドホック無線通信インターフェース23をアドホックモードでの無線通信を行う通信インターフェースとして機能させる。
そして,前記無線中継局20それぞれにおける前記アドホック無線通信インターフェース23は,自装置が前記記憶部20に記憶しているルーティング情報d21(ルーティングテーブル)を他の前記無線中継局20における前記アドホック無線通信インターフェース23との間でやり取りする(授受する))。
なお,ダイナミックルーティングの処理においてやり取りされる情報には,その情報の提供元である前記無線中継局20それぞれのアドレス(前記アドホック無線通信インターフェース33のアドレス)と,その無線中継局20がピアツーピア通信の相手とする他の無線中継局20のアドレスとが対応付けられた情報が含まれる。
さらに,そのようにやり取りされる前記ルーティング情報d21に基づいて,前記アドホック通信ドライバ22を実行する前記CPU21は,自装置の前記ルーティング情報d21の記録内容を動的に(自動的に)更新する。前記ルーティング情報d21のやり取りに用いられるルーティングプロトコルとしては,例えば,OLSR(Optimized Link State Routing Protocol),TBRPF(Topology Broadcast based on Reverse-Path Forwarding),LANMAR(Landmark Routing Protocol),FSR(Fisheye State Routing Protocol),IARP(Inverse Address Resolution Protocol)等が考えられる。これらはいずれもProactive型のルーティングプロトコルである。
なお,前記記憶部24に記憶される前記ルーティング情報d21には,自装置がピアツーピア通信の相手とする他の無線中継局20のアドレスの情報が含まれる。
【0023】
次に,図4に示されるブロック図を参照しつつ,前記無線基地局30の構成について説明する。
図4に示されるように,前記無線基地局30は,CPU31,無線LAN端末アクセスポイント32,アドホック無線通信インターフェース33,有線通信インターフェース35及び記憶部34を備え,それらがバス接続された計算機である。
ここで,前記無線基地局30における前記CPU31,前記無線LAN端末アクセスポイント32,前記アドホック無線通信インターフェース33及び前記記憶部34は,それぞれ前記無線中継局20における前記CPU21,前記無線LAN端末アクセスポイント22,前記アドホック無線通信インターフェース23及び前記記憶部24と同じものである。
そして,前記アドホック無線通信インターフェース33は,前記無線中継局20における前記アドホック無線通信インターフェース23との間でダイナミックルーティングによるアドホックモードでの無線通信を行う無線通信インターフェースである(前記第4の無線通信手段に相当)。
また,前記有線通信インターフェース35は,前記外部ネットワーク9との間で有線での通信を行うことにより,前記アドホック無線通信インターフェース33を通じて送受信される通信データの中継伝送を行う通信インターフェースである(前記外部通信手段に相当)。
なお,前記記憶部34には,前記CPU31によって実行されるアクセスポイントドライバp31及びアドホック通信ドライバp32が記憶されている。これらは,前記無線中継局20における前記アクセスポイントドライバp21及び前記アドホック通信ドライバp22と同じものである。
従って,前記CPU31も,前記無線中継局20との間で自装置のルーティング情報d31及び他装置の前記ルーティング情報d21をやり取りし,その情報に基づいて自装置の前記ルーティング情報d31の記録内容を動的に(自動的に)更新するダイナミックルーティングの処理を行う。
また,前記CPU31が,前記記憶部14に記憶された有線通信ドライバp33(プログラム)を実行して前記有線通信インターフェース35を制御することにより,前記有線通信インターフェース35を前記外部ネットワーク9を通じた通信を行うインターフェースとして機能させる。
即ち,前記無線基地局30は,前記無線LANアクセスポイント32を備えることによって前記無線中継局20を兼ねるものである。
なお,前記無線基地局30が,前記無線LANアクセスポイント32を備えず,前記無線中継局20と前記外部ネットワーク9との間のデータ伝送の中継のみを行うことも考えられる。
【0024】
続いて,前記無線端末10における前記CPU11が実行するルーティング情報取得処理及びローミング対象更新処理について説明する。
前記CPU11は,前記記憶部14に予め記憶されたローミング情報更新プログラムp12(コンピュータプログラム)を実行することにより,以下に示すルーティング情報取得処理及びローミング対象更新処理とを実行する。
前記ルーティング情報取得処理は,前記無線中継局20から,その無線中継局20においてダイナミックルーティングの処理により随時自動設定されるルーティング情報を,前記無線LAN端末インターフェース12を通じて無線通信により取得する処理である。この処理は,例えば,周期的に行われることや,或いは,前記無線LAN端末インターフェース12を通じた通信におけるエラーの発生頻度が所定の頻度を超えた場合等に行われること等が考えられる。
前記ルーティング情報取得処理では,例えば,前記CPU11が,前記無線LAN端末インターフェース12を通じて前記ルーティング情報を要求する特殊コマンドを送信する。さらに,前記CPU11が,前記特殊コマンドの送信に応じて返信される前記ルーティング情報を受信して前記記憶部14に記録する。
一方,前記無線中継局20における前記CPU21は,前記無線LANアクセスポイント22を通じて前記特殊コマンドが受信されたことを検知した場合,前記アドホック無線通信インターフェース35を通じて,前記ルーティング情報d21,d31の要求コマンドを他装置に送信する。この要求コマンドの送信機能は,例えば,前記CPU21により実行される前記アクセスポイントドライバp21及び前記アドホック通信ドライバp22の一機能として実現される。
これに応じて他装置(前記無線中継局20又は前記無線基地局30)は,自装置の前記ルーティング情報d21,d31を返信する。なお,前述したように,前記ルーティング情報d21,d31をやり取りする機能は,前記ダイナミックルーティングの処理の一部として(前記アドホック通信ドライバp22の一機能として)一般的に組み込まれている機能である。
【0025】
また,前記ローミング対象更新処理は,前記ルーティング情報取得処理により取得された前記ルーティング情報に基づいて,当該無線端末10によるローミングの対象となる前記無線中継局20のアドレスを特定し,その特定結果に基づいて,ローミングの対象とする前記無線中継局20のアドレス(宛先情報)のリストである前記ローミング情報d11を更新する処理である。
例えば,前記CPU11は,前回取得して前記記憶部14に記録された前記ルーティング情報と今回取得した前記ルーティング情報とを比較し,前記無線中継局20のアドレスに増減がある場合に,その増減に応じて,前記ローミング情報d11における前記無線中継局20のアドレスの増減を行う。
また,当該無線端末10が搭載される前記回転型クレーン1に対して所定範囲内で移動する(即ち,当該回転型クレーン1の両隣に位置する)前記門型クレーン2に配置された前記無線中継局20(以下,近隣移動中継局と称する)のアドレスを予め前記記憶部14に記憶しておくことが考えられる。
この場合,今回取得された前記ルーティング情報において,前記近隣移動中継局のアドレスに対し,直接のデータ伝送先(ピアツーピアの通信相手)として対応付けられている前記無線中継局20のアドレスは,通常,前記近隣移動中継局に対して最寄りの前記無線中継局20のアドレスであると考えられる。
そこで,例えば,前記CPU11が,前記近隣移動中継局のアドレスと,今回取得された前記ルーティング情報において,前記近隣移動中継局のアドレスに対して直接のデータ伝送先(ピアツーピアの通信相手)として対応付けられている前記無線中継局20のアドレスとのみ,或いは,さらにその無線中継局20のアドレスに対して直接のデータ伝送先として対応付けられている前記無線中継局20のアドレスまでを,前記ローミング情報d11に設定することが考えられる。
これにより,前記ローミング情報d11において,前記無線端末10に対して近い位置の前記無線中継局20のみが通信相手(前記無線中継局20)の候補として設定されるので,効率的なローミングが実現される。
なお,システムのトポロジーが激変した場合に自動的に通信相手(アクセスポイント)を切り替えるローミングを行うという観点からすれば,上述したようにローミングの対象を近隣の前記無線中継局20に限定する場合に限らず,例えば前記無線通信システムXに存在する全ての前記無線中継局20のアドレスを前記ローミング情報d11に設定し,全ての前記無線中継局20をローミング対象とすることも考えられる。
【0026】
以上に示した無線通信システムXにおいては,前記回転型クレーン1が移動先の比較的狭い範囲で頻繁に動作し,無線通信の障害物となる前記アーム部1cやそれに保持された荷物の動きにより通信エラーが頻発する状況であっても,前記無線端末10が,近くに存在する前記門型クレーン2上の前記無線中継局20を含む最寄りの複数の無線中継局20を通信相手の候補として高速にローミングを行いつつインフラストラクチャモードでの無線通信を行う。そのため,比較的高い通信品質(通信効率)が確保される。
また,無線通信システムXにおいては,前記回転型クレーン1及び前記門型クレーン2が大きく移動してシステムのトポロジーが激変した場合でも,前記無線端末10は,少なくとも近くに存在する前記門型クレーン2上の前記無線中継局20とはインフラストラクチャモードでの無線通信が可能である。
さらにその場合,複数の前記無線中継局20及び前記無線基地局30の相互間では,ダイナミックルーティングによってルーティングの再構築が行われる。そのため,前記回転型クレーン1及び前記門型クレーン2が大きく移動した後においても,複数の前記無線中継局20及び前記無線基地局30相互間でピアツーピアでの無線通信が可能となり,その無線通信により前記無線端末10が送受信する通信データの伝送が行われる。また,そのような移動の頻度が低ければ,ダイナミックルーティングの処理に多少の時間を要しても,大きな通信効率の悪化にはつながらない。
また, 前記無線中継局20の配置変更や増減,前記回転型クレーン1及び前記門型クレーン2の移動等に伴い,前記無線端末10に関するトポロジーの変化があった場合でも,前記ローミング対象更新処理によって前記ローミング情報d11が適切な状態に更新される。従って,前記無線端末10に関するトポロジーの変化の度に,前記無線端末10に対してインフラストラクチャモードでの無線通信を行うための情報(アクセスポイント(前記無線中継局)のアドレス等)を設定(手動更新)する手間を要しない。更に,接続先アクセスポイントとなる前記無線中継局20が限定されるため,周囲に多数の前記無線中継局20が存在する場合であっても,安定してローミング動作を行うことができる。
【0027】
ところで,前述した実施形態は,前記無線端末10が,前記ルーティング情報取得処理及び前記ローミング対象更新処理を行う例であったが,他の実施例も考えられる。
例えば,前記無線通信システムXが,前記無線中継局20それぞれと通信可能な管理装置をさらに有することが考えられる。この管理装置は,例えば,前記無線基地局30或いは最寄りの前記門型クレーン2に配置された前記無線中継局20がその役割を担うことが考えられる。以下,前記無線基地局30が前記管理装置の役割を兼ねる実施例について説明する。
前記管理装置を兼ねる前記無線基地局30において,前記無線中継局20それぞれと通信する手段は,前記アドホック無線通信インターフェース33である。
そして,前記無線基地局30における前記CPU31は,前記無線中継局20それぞれから,ダイナミックルーティングにより随時自動設定される前記ルーティング情報d21を前記アドホック無線通信インターフェース33を通じて取得するルーティング情報取得処理を実行する。
さらに,前記CPU31は,前記ルーティング情報取得処理により取得された前記ルーティング情報d21に基づいて,前記無線端末10によるローミングの対象となる前記無線中継局20を特定するローミング対象情報を設定する。前記無線端末10によるローミングの対象となる前記無線中継局20を特定する方法は,前述した実施形態の場合と同様である。なお,前記ローミング対象情報には,前記無線端末10によるローミングの対象となる前記無線中継局20のアドレスの情報が含まれる。
さらに,前記CPU31は,前記ローミング対象情報を前記無線中継局20を通じて前記無線端末10に対して送信するローミング対象情報送信処理を実行する。その送信は,前記アドホック無線通信インターフェース33を用いて行われる。
一方,前記無線端末10においては,前記CPU11が,前記無線LAN端末インターフェース12を通じて前記ローミング対象情報が受信されたか否かを監視する。そして,前記CPU11は,前記ローミング対象情報の受信を検知すると,その前記ローミング対象情報に基づいて,ローミングの対象とする前記無線中継局20のアドレス(宛先情報)のリストである前記ローミング情報d11を更新する(ローミング対象更新処理)。
このような実施例においても,前記無線端末10に関するトポロジーの変化の度に,前記ローミング情報d11を設定(手動更新)する手間を要しない。
【実施例】
【0028】
ところで,前記無線通信システムXが,前記無線中継局20各々が提供するIPセグメントが異なる場合など,前記無線端末10の接続先の前記無線中継局20が変更されるときに,該無線端末10のIPアドレスが変更される構成であることが考えられる。
この場合,前記無線端末10からの通信発信には大きな支障はないが,上位ネットワークから前記無線端末10へ通信を行う場合には,その無線端末10の現在のIPアドレスが不明なために通信ができなくなるおそれがある。また,前記無線端末10の管理上も上位ネットワークとしては,同じ無線端末10については常に同じIPアドレスで継続的に通信を行いたいという要望もある。
なお,前記無線端末10各々のIPアドレスが動的に変更される場合であっても継続的な通信を可能とする技術としてSIP(Session Initiation Protocol)が知られている。SIPとは,例えばIP電話のシステムなどで呼制御に用いられるプロトコルであって,各端末がIPアドレスとは異なる固有のID番号を持っており,各端末の最新の状態をSIPサーバが管理するというものである。
しかしながら,このSIP技術を利用する場合には,前記無線端末10各々や上位ネットワークの端末にSIPを実装する必要がある。また,通信アプリケーションもSIPに対応したものである必要がある。そのため,前記無線端末10各々の設計の制約や既存通信システムの一部分を利用することを考えると,該無線端末10やアプリケーションに変更を加えずに通常のIPプロトコルが透過的に通信できるようなシステムが望ましい。
【0029】
そこで,本実施例では,前記無線端末10各々や上位ネットワークの端末などに変更を加えることなく,該無線端末10各々のIPアドレスの動的な変更に対応することのできる無線通信システムXの構成例について説明する。
ここに,図6は,前記無線通信システムXの概略構成を示す要部ブロック図である。図6にも示しているように,以下では,前記無線端末10や前記無線中継局20を区別して説明するため,便宜的に一部の前記無線端末10,前記無線中継局20を無線端末10a,10b,10c,無線中継局20a,20bと称する。但し,以下においても前記無線端末10a,10b,10cを総称する場合は無線端末10と,前記無線中継局20a,20bを総称する場合は無線中継局20という。
図6に示すように,本実施例に係る前記無線通信システムXは,前記無線端末10(10a,10b,10c,…)と,前記無線中継局20(20a,20b,…),前記無線基地局30,DHCPサーバ40(IPアドレス設定手段の一例),NATサーバ50(外部通信中継手段の一例),外部サーバ60(外部端末の一例)などから構成されている。
前記無線端末10a,10b,10c,前記無線中継局20a,20b,前記無線基地局30の各々は無線LAN100で接続可能であり,前記無線中継局20a,20b,前記無線基地局30各々は無線通信網200で接続可能である。ここでは,前記無線端末10aが前記無線中継局20a,前記無線端末10bが前記無線中継局20b,前記無線端末10cが前記無線基地局30にそれぞれ接続されているものとする。
一方,前記無線基地局30,前記DHCPサーバ40,前記NATサーバ50は,前記外部ネットワーク9を介して通信可能に接続されている。また,前記外部サーバ60は,前記NATサーバ50を介して前記外部ネットワーク9に接続されている。
【0030】
前記DHCPサーバ40は,前記無線通信システムX全体において,前記無線LAN100や前記無線通信網200におけるIPアドレスの割り当て及び管理を行うDHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)機能を有するサーバである。具体的に,前記DHCPサーバ40は,前記無線端末10各々が前記無線中継局20,前記無線基地局30などに新たに接続したときに行うIPアドレスの割当要求に応じて,該無線端末10各々のIPアドレスを,該無線端末10各々が接続された前記無線中継局20,前記無線基地局30各々に応じて異なるIPアドレスに設定する。
前記無線通信システムXでは,図6に示すように,前記無線端末10aが前記無線中継局20a,前記無線端末10bが前記無線中継局20b,前記無線端末10cが前記無線基地局30にそれぞれ接続されているときの前記無線端末10a,10b,10c各々のIPアドレスが[192.168.1.1],[192.168.2.2],[192.168.3.3]であることが予め定められているものとする。
また,前記無線基地局20a,20b,前記無線基地局30各々のIPアドレスは,前記無線LAN100側が[192.168.1.250],[192.168.2.250],[192.168.3.250],前記無線通信網200側が[192.168.200.1],[192.168.200.2],[192.168.200.3]であり,前記無線基地局30の前記外部ネットワーク9側のIPアドレスが[192.168.200.250]であることが予め定められている。なお,前記DHCPサーバ40のIPアドレスは,[192.168.200.252]である。
さらに,前記NATサーバ50のIPアドレスは,前記外部ネットワーク9側が[192.168.200.251],前記外部サーバ60側が[192.168.100.251]であることが予め定められている。また,前記外部サーバ60のIPアドレスは[192.168.100.250]である。
なお,前記DHCPサーバ40と同様の機能が,前記無線中継局20,前記無線基地局30各々に設けられていることも考えられる。この場合,前記無線中継局20,前記無線基地局30各々は,前記無線通信システムXの全体において重複しないように個々に予め設定された特定範囲内で前記無線端末10各々にIPアドレスを割り当てる。このときは前記無線中継局20,前記無線基地局30などがIPアドレス設定手段に相当する。
【0031】
前記NATサーバ50は,前記無線端末10各々と前記外部ネットワーク9に接続された前記外部サーバ60との間の通信経路上に設けられ,前記無線端末10及び前記外部サーバ60の通信を中継するものである。また,前記NATサーバ50は,前記無線端末10各々が前記外部ネットワーク9を介して前記外部サーバ60以外の端末と通信を行う場合にもその通信を中継するゲートウェイ装置としても機能する。
ここで,図7を用いて前記NATサーバ50の概略について説明する。
前記NATサーバ50は,図7に示すように,規格に従って標準的なNAT(Network Address Translation;ネットワークアドレス変換)動作を行うNAT部51,前記NAT部51におけるNAT動作で用いられる後述のIP変換対応情報(図8,10など参照)が予め記憶されるIP変換対応情報記憶部52(IP変換対応情報記憶手段の一例),前記IP変換対応情報記憶部52に記憶されたIP変換対応情報の設定変更を行う設定制御部53,前記外部ネットワーク9との間でデータを送受信する通信インターフェース54,前記外部サーバ60との間でデータを送受信する通信インターフェース55などを備えている。以下,前記NATサーバ50から見て前記無線端末10側を下流側,前記外部サーバ60側を上流側という。
前記NAT部51は,一般にプライベートネットワークとグローバルネットワークとの間で通信を行う場合に,通過するパケットの送信元IPアドレス/送信先IPアドレスの書き換えを行い,プライベートネットワーク/グローバルネットワーク間の通信を中継するものである。なお,前記NAT部51は,例えばMPUやRAM,ROMなどの制御機器を有しており,該MPUによってROMに記憶された制御プログラムを実行することによりNAT動作などの各種処理を実行する。
【0032】
ここで,図6(a),(b)を参照しつつ,前記NATサーバ50の前記NAT部51によって実行される一般的なNAT動作について,前記無線端末10a及び前記外部サーバ60の間における通信を例に挙げて説明する。ここに,図6(a)は前記無線端末10aから前記外部サーバ60へのパケット送信,図6(b)は前記外部サーバ60から前記無線端末10aへのパケット送信におけるNAT動作の結果を示すものである。
まず,前記無線端末10aから前記外部サーバ60を送信先としてパケットが送信されると,該パケットは前記無線LAN100上の前記無線中継局20a,前記無線通信網200上の前記無線基地局30,前記外部ネットワーク9を経て前記NATサーバ50に送信される。このとき,前記無線端末10aから送信されるパケットには,図6(a)に示すように,前記無線端末10aに対応する送信元IPアドレス[192.168.1.1],前記外部サーバ60に対応する送信先IPアドレス[192.168.100.250]の情報が付されている。
【0033】
ここでは,前記IP変換対応情報記憶部52が,例えば図8に示すように,前記外部サーバ60で送受信されるパケットに付加されるIPアドレスである上流側IPアドレスと,前記無線端末10で送受信されるパケットに付加されるIPアドレスである下流側IPアドレスとの対応関係が予め設定されたIP変換対応情報を記憶しているものとする。
そして,前記NAT部51は,前記無線端末10aから送信されたパケットに含まれた送信元IPアドレス[192.168.1.1]の情報を前記IP変換対応情報(図8参照)に基づいて,送信元IPアドレス[192.168.100.1]に変換し,該パケットを前記外部サーバ60に送信する。これにより,前記外部サーバ60は,前記NATサーバ50で変換された後の送信元IPアドレス[192.168.100.1]からの通信として前記パケットを受信する。
【0034】
一方,前記外部サーバ60から前記無線端末10aを送信先としてパケットが送信されるとき,該パケットには送信元IPアドレス[192.168.100.250],送信先IPアドレス[192.168.100.1]の情報が付加される。
そして,前記外部サーバ60から前記パケットを受信した前記NATサーバ50は,該パケットに含まれた送信先IPアドレス[192.168.100.1]の情報を前記IP変換対応情報(図8参照)に基づいて,送信元IPアドレス[192.168.1.1]に変換し,該パケットを前記無線端末10aに向けて送信する。
これにより,前記無線端末10aは,前記外部サーバ60から前記外部ネットワーク9,前記無線通信網200上の前記無線基地局30,前記無線LAN100上の前記無線中継局20aを介して送信された前記パケットを受信する。
【0035】
しかしながら,前述したように,前記無線通信システムXでは,前記無線端末10が移動可能であり,前記無線端末10の接続先が該無線端末10の移動に伴うローミング(ハンドオーバー)処理により複数の前記無線中継局20や前記無線基地局30の間で変動する。このとき,前記無線端末10各々のIPアドレスは,該無線端末10の接続先となる前記無線中継局20,前記無線基地局30各々のIPセグメントによって異なるIPアドレスに変更されることがある。
そのため,図8に示したIP変換対応情報における上流側IPアドレスと下流側IPアドレスとの対応関係が固定である場合には,前記無線端末10が移動してそのIPアドレスが変更されたときに,前記外部サーバ60から前記無線端末10への通信を行うことができないという問題が生じる。
そこで,本実施例に係る前記無線通信システムXでは,前記無線端末10の移動によるIPアドレスの動的な変更に対応するべく,前記NATサーバ50によって,前記IP変換対応情報が適宜変更され,前記無線端末10各々と前記外部サーバ60との間で送受信されるパケットに付加される前記無線端末10各々のIPアドレスの変換が行われる。以下,係る構成について詳説する。
【0036】
前記DHCPサーバ40は,図9に示すように,前記無線端末10(10a,10b,10c)各々のMACアドレスと,前記無線中継局20(20a,20b)及び前記無線基地局30の前記無線LAN100側のIPアドレスと,前記無線端末10(10a,10b,10c)各々に割り当てるIPアドレスとの対応関係が定められたIP割当対応情報を記憶している。
そして,前記DHCPサーバ40は,前記無線端末10各々からIPアドレスの割当要求があった場合,前記IP割当対応情報(図9参照)に基づいて,該無線端末10から送信されたMACアドレスと該無線端末10が接続されている前記無線中継局20,前記無線基地局30のIPアドレスとに対応するIPアドレスを抽出して該無線端末10に割り当てる。
例えば,前記DHCPサーバ40は,前記無線端末10aが前記無線中継局20aに接続されている場合には,前記無線中継局20aのIPアドレス[192.168.1.250]に対応するIPアドレス[192.168.1.1]を前記無線端末10aに割り当て,前記無線端末10aが前記無線中継局20bに接続されている場合には,前記無線中継局20bのIPアドレス[192.168.2.250]に対応するIPアドレス[192.168.2.1]を前記無線端末10bに割り当てる。
【0037】
一方,前記NATサーバ50では,前記IP変換対応情報記憶部52に,図8に示した一般的なIP変換対応情報に代えて,図10(図11)に示すIP変換対応情報(IP変換対応情報の一例)が記憶されている。
ここに,図10(図11)に示すIP変換対応情報は,前記無線端末10各々に対応して予め定められた上流側IPアドレス(中継IPアドレスの一例)と,前記無線端末10各々について前記DHCPサーバ40が設定する複数のIPアドレスの候補として予め定められた下流側IPアドレスと,前記無線端末10各々の現在のIPアドレス(アクティブアドレス)を示す情報とが対応付けられたものである。このIP変換対応情報のうち前記アクティブアドレスの情報は可変であって,前記上流側IPアドレスごとに,複数の前記下流側IPアドレスのいずれかがアクティブアドレスであることを択一的に示すものである。
そして,前記設定制御部53は,後述のIP変換対応情報変更処理(図12参照)を実行することにより,前記無線端末10各々の現在のIPアドレスを特定し,前記IP変換対応情報記憶部52に記憶された前記IP変換対応情報の前記無線端末10各々に対応するアクティブアドレスの情報を変更する。
【0038】
ここで,図12を参照しつつ,前記設定制御部53によって実行されるIP変換対応情報変更処理の手順の一例について説明する。ここに,図示するS1,S2,…は,前記設定制御部53による処理手順の番号を表す。
まず,前記NATサーバ50が起動すると,前記設定制御部53は,ステップS1において,前記IP変換対応情報における前記アクティブアドレスの情報を既定の初期状態に設定する初期設定を実行する。例えば,前記アクティブアドレスの情報を予め設定された初期値や前回起動終了時における設定値に設定すること,前記アクティブアドレスの情報をブランクとしておくことなどが考えられる。また,前記IP変換対応情報における前記下流側IPアドレスの全てについて死活確認を行うためのICMP Pingなどの応答確認パケットを送信し,その応答に応じて前記アクティブアドレスの情報を設定することも考えられる。なお,前記応答確認パケットを送信しても応答がない無線端末10については,定期的に該応答確認パケットを送信して死活確認を行ってもよい。
そして,前記設定制御部53は,ステップS2において,前記NAT部51に対して前記IP変換対応情報記憶部52から前記IP変換対応情報を読み出す旨を指示する。これにより,前記NAT部51は,前記IP変換対応情報を読み出して内部メモリに記憶し,以後は,その内部メモリに記憶された前記IP変換対応情報を用いて前記無線端末10及び前記外部サーバ60の通信時における送信先IPアドレス又は送信元IPアドレスの変換を行う。なお,前記NAT部51は,前記IP変換対応情報を参照する度に前記IP変換対応情報記憶部52にアクセスして該IP変換対応情報を読み出すものであってもよい。
【0039】
続いて,ステップS3では,前記設定制御部53は,前記無線端末10各々から前記外部ネットワーク9に向けて何らかのパケットが送信されたか否かを判断する。なお,前述したように前記NATサーバ50は,前記無線端末10各々が前記外部ネットワーク9を介して通信を行う際のゲートウェイ装置として機能するものであるため,該無線端末10各々からのパケットの送信の有無を判断し得る。
ここで,前記無線端末10各々からパケットが送信されていないと判断されている間は(S3のNo側),処理はステップS3で待機されるが,前記無線端末10のいずれかからパケットが送信されたと判断されると(S3のYes側),処理はステップS4に移行する。
【0040】
ステップS4では,前記設定制御部53は,前記パケットに付加された送信元IPアドレスを前記IP変換対応情報(図10参照)に含まれたIPアドレスの候補である下流側IPアドレスと照合する。
ここで,前記IP変換対応情報に前記下流側IPアドレスとしてその送信元IPアドレスが含まれていない場合には(S4のNo側),処理は前記ステップS3に戻される。
一方,前記IP変換対応情報に前記下流側IPアドレスとしてその送信元IPアドレスが含まれている場合(S4のYes側),前記設定制御部53は,その送信元IPアドレスがその無線端末10の現在のIPアドレスであると特定し,処理はステップS5に移行される。このように,前記無線端末10各々の現在のIPアドレスを特定するときの前記設定制御部53がIPアドレス特定手段に相当する。
【0041】
ステップS5では,前記設定制御部53は,前記ステップS4における特定結果に応じて,その送信元IPアドレスがアクティブであることを示すようにアクティブアドレスの情報を変更する。ここに,前記IP変換対応情報の前記アクティブアドレス情報を変更するときの前記設定制御部53がIP変換対応情報変更手段に相当する。
なお,前記IP変換対応情報においてアクティブアドレスであるとされたIPアドレスを送信元又は送信先とする通信が所定時間行われない場合に,前記設定制御部53が該IPアドレスがアクティブアドレスでなくなったと判断し,前記IP変換対応情報における前記アクティブアドレスの情報をブランクにすることも考えられる。
そして,前記ステップS5が実行されると,処理は前記ステップS2に移行され,前記設定制御部53から前記NAT部51に対して再読込が指示されることにより,該NATサーバ50は,前記設定制御部53によって変更された後の前記IP変換対応情報の再読込を行う。
【0042】
ところで,前述したように,前記無線端末10各々が前記外部ネットワーク9を介して通信を行うタイミングで,該無線端末10各々の現在のIPアドレスを特定する手法では,該無線端末10各々から前記外部ネットワーク9を介して何らかの通信が行われるまでの間は,前記設定制御部53は前記無線端末10各々の現在のIPアドレスを特定することができない。そのため,前記アクティブアドレスの更新が遅れ,前記無線通信システムXにおいて前記外部サーバ60から前記無線端末10各々への通信が可能となるまでの時間が長くなるおそれがある。
そこで,前記無線端末10各々は,該無線端末10の接続先である前記無線中継局20,前記無線基地局30が変更され,前記DHCPサーバ40によって自己のIPアドレスが変更されたことを条件に,その旨を通知するパケットやその他所定のパケットを前記NATサーバ50に送信するように構成されていることが望ましい。これにより,前記設定制御部53が,前記無線端末10各々のIPアドレスが変更された直後に前記IP変換対応情報を更新することが可能となるため,前記無線通信システムXにおいて前記外部サーバ60から前記無線端末10各々への通信を行うことが可能となる。
【0043】
そして,前記無線通信システムXにおいては,このように前記設定制御部53によって前記IP変換対応情報変更処理が実行されると共に,前記無線端末10各々と前記外部サーバ60との間で送受信されるパケットに付加される送信元IPアドレスや送信先IPアドレスが,前記NAT部51によって,前記IP変換対応情変更処理で変更された後の前記IP変換対応情報に基づいて変換される。
具体的に,前記NAT部51は,前記無線端末10各々から前記外部サーバ60を送信先としてデータ送信が行われるときに,該データに付加された送信元の前記無線端末10の現在のIPアドレスを,前記IP変換対応情報記憶部52に記憶された前記IP変換対応情報において該IPアドレスに対応付けられた前記上流側IPアドレスに変換する。ここに,係る処理を実行するときの前記NAT部51が第1のIPアドレス変換手段に相当する。
また,前記NAT部51は,前記外部サーバ60から前記上流側IPアドレスを送信先としてデータ送信が行われるときに,該データに付加された送信先の前記上流側IPアドレスを,前記IP変換対応情報において該上流側IPアドレスに対応付けられた複数の前記下流側IPアドレスのうち前記アクティブアドレスの情報により指定されている下流側IPアドレスに変換する。ここに,係る処理を実行するときの前記NAT部51が第2のIPアドレス変換手段に相当する。
【0044】
最後に,図6(a)〜(d)を参照しつつ,本実施例に係る前記無線通信システムXにおいて,前記NATサーバ50の前記NAT部51によって実行されるNAT動作について,前記無線端末10a及び前記外部サーバ60の間における通信を例に挙げて説明する。ここに,図6(a),(b)は,前記無線端末10aが前記無線中継局20aと接続中である場合,図6(a),(b)は,前記無線端末10aが前記無線中継局20bと接続中である場合におけるNAT動作の結果を示すものである。
まず,前記無線端末10aが前記無線中継局20aと接続中である場合には,前記DHCPサーバ40によって該無線端末10aに[192.168.1.1]が割り当てられる(図9参照)。そのため,前記設定制御部53によって設定された前記IP変換対応情報では,図10に示すように,前記無線端末10aに対応するアクティブアドレスの情報が,該無線端末10aの現在のIPアドレスが[192.168.1.1]である旨を示すこととなる。
この場合には,図6(a)に示すように,前記無線端末10aから前記外部サーバ60を送信先としてパケットが送信されるとき,前記NAT部51は,そのパケットに付加された下流側IPアドレスである送信元IPアドレス[192.168.1.1]を,前記IP変換対応情報(図10参照)を参照して該下流側IPアドレスに対応する上流側IPアドレス[192.168.100.1]に変換する。
一方,図6(b)に示すように,前記外部サーバ60から前記無線端末10aを送信先としてパケットが送信されるとき,前記NAT部51は,そのパケットに付加された上流側IPアドレスである送信元IPアドレス[192.168.100.1]を,前記IP変換対応情報(図10参照)を参照して該上流側IPアドレスに対応する複数の下流側IPアドレスのうちアクティブアドレスであると指定された下流側アドレス[192.168.1.1]を選択して変換する。これにより,前記無線端末10aは,前記外部サーバ60から前記無線通信網200,前記無線基地局30,前記無線中継局20aを介して送信された前記パケットを受信する。
【0045】
これに対し,前記無線端末10aが前記無線中継局20bと接続中である場合には,前記DHCPサーバ40によって該無線端末10aに[192.168.2.1]が割り当てられる(図9参照)。そのため,前記設定制御部53は,図11に示すように,前記IP変換対応情報における前記無線端末10aに対応するアクティブアドレスの情報が,該無線端末10aの現在のIPアドレスが[192.168.2.1]である旨を示すように変更する。
この場合には,図6(c)に示すように,前記無線端末10aから前記外部サーバ60を送信先としてパケットが送信されるときは,図6(a)に示した場合と同様に,前記NAT部51は,そのパケットに付加された下流側IPアドレスである送信元IPアドレス[192.168.2.1]を,前記IP変換対応情報(図11参照)を参照して該下流側IPアドレスに対応する上流側IPアドレス[192.168.100.1]に変換する。
一方,図6(d)に示すように,前記外部サーバ60から前記無線端末10aを送信先としてパケットが送信されるとき,前記NAT部51は,そのパケットに付加された上流側IPアドレスである送信元IPアドレス[192.168.100.1]を,前記IP変換対応情報(図11参照)を参照して該上流側IPアドレスに対応する複数の下流側IPアドレスのうちアクティブアドレスであると指定された下流側アドレス[192.168.2.1]を選択して変換する。これにより,前記無線端末10aは,前記外部サーバ60から前記無線通信網200,前記無線基地局30,前記無線中継局20bを介して送信された前記パケットを受信する。
【0046】
以上説明したように,本実施例に係る前記無線通信システムXにおいては,前記無線端末10各々のIPアドレスが変更された場合に,前記IP変換対応情報を適宜変更することにより,既存の前記DHCPサーバ40や前記NATサーバ50などの汎用装置を用いた構成でも,該無線端末10各々と前記外部サーバ60との間のデータの送受信を継続的に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は,無線通信システムへの利用が可能である。
【符号の説明】
【0048】
X :無線通信システム
1 :回転型クレーン
1a:回転型クレーンの台車部
1b:回転型クレーンの回転部
1c:回転型クレーンのアーム部
2 :門型クレーン
6 :船舶
7 :レール
8 :倉庫
9 :外部ネットワーク
10(10a,10b,10c):無線端末
11,21,31:CPU
12:無線LAN端末インターフェース
13:操作・表示部
14,24,34:記憶部
20(20a,20b,20c):無線中継局
22,32:無線LANアクセスポイント
23,33:アドホック無線通信インターフェース
30:無線基地局
35:有線通信インターフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定範囲内で移動するとともにその移動先の位置においてその移動の頻度よりも高い頻度で無線通信の障害物となる部分を動かす動作を行う第1の移動体上に配置された無線端末と,前記第1の移動体に対する所定範囲内で移動する第2の移動体上及び前記第1の移動体の移動経路に沿う複数箇所に配置された複数の無線中継局と,所定位置に固定配置された無線基地局と,を備えた無線通信システムであって,
前記無線端末に設けられ,通信エリア内にある前記無線中継局をアクセスポイントとしてローミングを行いつつ無線通信を行う第1の無線通信手段と,
前記無線中継局それぞれに設けられ,無線通信のアクセスポイントとして通信エリア内にある前記無線端末との間で無線通信を行う第2の無線通信手段と,
前記無線中継局それぞれに設けられ,他の前記無線中継局及び前記無線基地局との間でダイナミックルーティングによる無線通信を行うことにより,前記第2の無線通信手段を通じて送受信される通信データの中継伝送を行う第3の無線通信手段と,
前記無線基地局に設けられ,前記無線中継局との間でダイナミックルーティングによる無線通信を行う第4の無線通信手段と,
前記無線基地局に設けられ,外部ネットワークとの間で通信を行うことにより,前記第4の無線通信手段を通じて送受信される通信データの中継伝送を行う外部通信手段と,
を具備してなることを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記無線中継局それぞれと通信可能な管理装置をさらに具備し,
前記管理装置に,
前記無線中継局から前記ダイナミックルーティングにより随時自動設定されるルーティング情報を取得するルーティング情報取得手段と,
前記ルーティング情報取得手段により取得された前記ルーティング情報に基づいて,前記無線端末によるローミングの対象となる前記無線中継局を特定するローミング対象情報を設定し,該ローミング対象情報を前記無線中継局を通じて前記無線端末に対して送信するローミング対象情報送信手段と,が設けられ,
前記無線端末に,
前記第1の無線通信手段を通じて得られる前記ローミング対象情報に基づいて,ローミングの対象とする前記無線中継基地局の宛先情報を更新するローミング対象更新手段が設けられてなる請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記無線端末に,
前記無線中継局から前記ダイナミックルーティングにより随時自動設定されるルーティング情報を前記第1の無線通信手段を通じて取得するルーティング情報取得手段と,
前記ルーティング情報取得手段により取得された前記ルーティング情報に基づいて,前記無線端末によるローミングの対象となる前記無線中継局を特定し,その特定結果に基づいてローミングの対象とする前記無線中継基地局の宛先情報を更新するローミング対象更新手段と,が設けられてなる請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記無線基地局が,さらに前記第2の無線通信手段を具備することにより前記無線中継局を兼ねるものである請求項1〜3のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記無線端末各々のIPアドレスを該無線端末各々が接続された前記無線中継局各々に応じて異なるIPアドレスに設定するIPアドレス設定手段と,前記無線端末と前記外部ネットワークに接続された外部装置との間の通信経路上に設けられて前記無線端末及び前記外部装置の通信を中継する外部通信中継手段とを更に備えてなり,
前記外部通信中継手段が,
前記無線端末各々の現在のIPアドレスを特定するIPアドレス特定手段と,
前記無線端末各々に対応して予め定められた中継IPアドレスと前記無線端末各々について前記IPアドレス設定手段が設定する複数のIPアドレスの候補とが対応付けられたIP変換対応情報を記憶するIP変換対応情報記憶手段と,
前記無線端末から前記外部装置を送信先としてデータ送信が行われるときに,該データに付加された送信元の前記無線端末の現在のIPアドレスを,前記IP変換対応情報記憶手段に記憶された前記IP変換対応情報において該IPアドレスに対応付けられた前記中継IPアドレスに変換する第1のIPアドレス変換手段と,
前記外部装置から前記中継IPアドレスを送信先としてデータ送信が行われるときに,該データに付加された送信先の前記中継IPアドレスを,前記IP変換対応情報において該中継IPアドレスに対応付けられた前記IPアドレスの候補のうち前記IPアドレス特定手段によって特定されたIPアドレスに変換する第2のIPアドレス変換手段と,
を含んでなる請求項1〜4のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記IP変換対応情報が,前記無線端末各々に対応して予め定められた中継IPアドレスと,前記無線端末各々について前記IPアドレス設定手段が設定する複数のIPアドレスの候補と,前記無線端末各々の現在のIPアドレスが前記IPアドレスの候補のいずれであるかを示すアクティブアドレス情報とが対応付けられたものであって,
前記IPアドレス特定手段によって特定された前記無線端末各々の現在のIPアドレスに応じて前記IP変換対応情報の前記アクティブアドレス情報を変更するIP変換対応情報変更手段を更に備えてなり,
前記第2のIPアドレス変換手段が,前記IP変換対応情報変更手段により変更された前記IP変換対応情報に基づいて,前記中継IPアドレスを,前記IP変換対応情報において該中継IPアドレスに対応付けられた前記IPアドレスの候補のうち前記アクティブアドレス情報が示すIPアドレスに変換するものである請求項5に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記外部通信中継手段が,前記無線端末各々による前記外部ネットワークを介する通信を中継するゲートウェイ装置であって,
前記IPアドレス特定手段が,前記無線端末各々による前記外部ネットワークを介する通信の際に該無線端末各々から受信するデータに付加された送信元のIPアドレスが前記IP変換対応情報に含まれている場合に,該IPアドレスが該無線端末の現在のIPアドレスであると特定するものである請求項5又は6のいずれかに記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記無線端末各々が,接続先の前記無線中継局が変更されて自己の現在のIPアドレスが変更されたことを条件に,前記外部通信中継手段へのデータ送信を行うものである請求項7に記載の無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−109594(P2011−109594A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265184(P2009−265184)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】