説明

無線通信方法および無線通信装置

【課題】空間分割多元接続方式を用いた、適応変調方式による複数の端末との無線通信方法において、各端末の移動速度の検出が不要で、かつ、各端末のQoSを考慮してスループットを向上できる無線通信方法及び無線通信装置を提供する。
【解決手段】無線通信装置100は、各端末における下りリンクのデータレートを取得するデータレート取得部190と、各端末の上りリンクの信号品質に基づいて、各端末の下りリンクにおけるデータレートを推定するデータレート推定部140と、データレート推定部により推定されたデータレートと、データレート取得部により取得したデータレートとの差を、端末毎に求めるデータレート差算出部150と、データレート差算出部で求めたデータレート差に基づいて、各端末へのチャネル割当てを制御するチャネル割当て制御部180とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信方法および無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空間分割多元接続(Space Division multiple Access:SDMA)方式では、複数のユーザに同一の周波数および同一の時間スロットを共有させつつ、基地局に装備したアダプティブアレーアンテナ(AAA)が形成するビームパターンによって空間的にユーザを分離して、互いの干渉を回避した多元接続を実現する。この方式では、各端末の最新の電波伝搬状況に応じて、互いの干渉を回避するビームパターンを適切に形成するために、時分割多元接続(Time Division Duplex:TDD)方式の通信システムにおける伝搬路の可逆性を利用する。即ち、基地局が各端末から受信した上りリンク信号に基づいてAAAの重みを計算し、必要に応じて補正を加えて、下りリンク信号にこの重みを乗算して送信する。このように、下りリンク信号に乗算する重みを、上りリンク信号に基づいて計算するため、端末が高速移動する場合、基地局が下りリンク信号を送信する際に、基地局によって重みの計算に用いられた上りリンク信号を端末が送信した位置から、その端末が既に離れている場合がある。この場合、AAAで形成したビームパターンによる干渉の抑制効果が薄れ、各端末における信号の受信品質が悪化し、システムのスループットが低下してしまう。
【0003】
上述した問題に対処するため、従来技術のチャネル割当て方式に、端末の移動速度を考慮して、各端末の移動速度の順に、基本チャネルおよび空間チャネルを割り当てることにより、端末の移動により発生する干渉を回避し、スループット特性を改善するものが提案されている(特許文献1を参照されたい。)。
【0004】
しかしながら、特許文献1では、各端末の移動速度(すなわち、フェージング速度)を検出する必要が生じる。移動速度の検出方法は幾つか提案されているが、有効性、実用性、精度などにおいて更なる検証が必要なものが多く不便である。また、有効性および精度の高いGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)を用いる方法もあるが、コストが高く、さらに、フェージング速度を検出できないといった欠点を有する、といった問題がある。
【0005】
また、端末の移動のみを考慮してチャネル割当てを行っても、例えばQoS(Quality of Service)が要求される優先度の高い端末(例えば、VoIP:Voice over Internet Protocolを行っている端末)に空間チャネルが割り当てられると、同一周波数の別の空間チャネルからの干渉を受けやすくなり、優先度が高いにもかかわらず、適切なサービスが提供できないといった不具合が生じてしまう、といった問題がある。なお、本明細書において、「基本チャネル」とは、利用できるキャリア(周波数)、タイムスロットを指し、「空間チャネル」とは、基本チャネルと同じ周波数およびタイムスロットを用いるが、基地局のAAAが形成するアンテナのビームパターンにより空間多重が行われているチャネルを指すものとする。なお、基本チャネルに空間多重を行えば空間チャネルになり得るが、説明の便宜上、そのようなチャネルも「基本チャネル」と称することとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−215052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した諸課題を解消し、空間分割多元接続方式(および周波数分割多元接続方式)を用いて、複数の端末と適応変調方式で無線通信を行う無線通信装置(基地局)における無線通信方法において、各端末の移動速度の検出が不要で、かつ、各端末のQoSを考慮してスループットを向上させる無線通信方法及び無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決すべく、第1の発明による無線通信方法は、空間分割多元接続方式(および周波数分割多元接続方式)を用いて、複数の端末(移動局)と適応変調方式で無線通信を行う無線通信装置(基地局)における無線通信方法であって、各端末の上りリンクの信号品質に基づいて、各端末の下りリンクにおけるデータレートを推定するデータレート推定ステップと、各端末における下りリンクのデータレートを取得(受信)するデータレート取得ステップと、前記データレート推定ステップにより推定されたデータレートと、前記データレート取得ステップにより取得したデータレートとのデータレート差を、端末毎に(CPUなどの演算手段を用いて)求めるデータレート差算出ステップと、前記データレート差算出ステップで求めたデータレート差に基づいて、各端末へのチャネル割当てを制御するチャネル割当て制御ステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、第2の発明による無線通信方法は、前記データレート推定ステップは、上りリンクの信号品質と下りリンクにおけるデータレートとの対応付けを用いて、前記各端末の上りリンクの信号品質から、各端末の下りリンクにおけるデータレートを推定する、ことを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明による無線通信方法は、(前記データレート差算出ステップは、前記複数の端末のそれぞれについてデータレート差を求め、)前記割当て制御ステップは、前記複数の端末を、該複数の端末のうち前記データレート差の大きいものから順に、空間分割されていないチャネル(周波数分割多元接続方式用のチャネル)に優先的に割り当てる、ことを特徴とする。
【0011】
また、第4の発明による無線通信方法は、(前記データレート差算出ステップは、前記複数の端末のそれぞれについてデータレート差を求め、)前記割当て制御ステップは、前記複数の端末を、該複数の端末のうち前記データレート差の小さいものから順に、空間分割されたチャネルに優先的に割り当てる、ことを特徴とする。
【0012】
また、第5の発明による無線通信方法は、前記複数の端末のQoS(Quality of Service)に関する情報(各移動局が送信するQoS属性(VoIP、ファイル転送またはビデオ・ストリームなど))を取得するQoS取得ステップをさらに含み、前記割当て制御ステップは、前記データレート差算出ステップで求めたデータレート差と、前記QoS取得ステップで取得したQoS情報とに基づいて、前記複数の端末へのチャネル割当てを制御する、ことを特徴とする。
【0013】
上述のように本発明の解決手段を方法として説明してきたが、本発明はこれらの方法を実施するための装置、プログラム、プログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものであり、本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0014】
例えば、本発明を装置として実現させた第6の発明による無線通信装置(基地局)は、空間分割多元接続方式(および周波数分割多元接続方式)を用いて、複数の端末(移動局)と適応変調方式で無線通信を行う無線通信装置(基地局)であって、各端末の上りリンクの信号品質に基づいて、各端末の下りリンクにおけるデータレートを推定するデータレート推定部と、各端末における下りリンクのデータレートを取得するデータレート取得部と、前記データレート取得部で取得したデータレートと、前記データレート推定部で推定されたデータレートとのデータレート差を、端末毎に求めるデータレート差算出部と、前記データレート差算出部で求めたデータレート差に基づいて、各端末へのチャネル割当てを制御するチャネル割当て制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上述のように、基本チャネルおよび空間チャネルを適切に端末に割り当てることで、スループットの向上およびQoSの保証が可能な、低コストで簡易に実現できる無線通信方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による無線通信装置のブロック図である。
【図2】本発明で使用する無線チャネルの、基本チャネルおよび空間チャネルを、割当て順序とともに示した図である。
【図3】本発明による無線通信方法の、チャネル割当て処理のフローチャートである。
【図4】本発明による無線通信方法のチャネル割当て処理のうち、QoSに基づいて各移動局の配列順序を調整する処理のフローチャートと、配列順序の調整例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の具体的な説明に先立ち、本発明の原理を説明する。TDD方式では、下り(ダウンリンク、基地局から端末への送信)と上り(アップリンク、端末から基地局への送信)で同じ周波数を用いるので、各端末が静止している場合、送受信チャネルにおいて可逆性が成立する。従って、アップリンク信号の基地局における受信品質と、ダウンリンク信号の端末における受信品質は一定の関係を持ち、アップリンク信号の応答特性から、基地局はダウンリンク信号の応答特性を推定することができる。表1に、このチャネルの可逆性が成立する場合の、ダウンリンク信号とアップリンク信号と間の受信信号品質の関係を示す。この表1のように、ダウンリンク信号とアップリンク信号の受信品質には、一定の関係が成立する。なお、この表は一例として示すものであり、厳密な数値ではないことに注意されたい。
【0018】
【表1】

また、適応変調方式を利用する無線通信では、電波伝搬環境(干渉やフェージング等)を監視して、その状態に応じて、データを送受信するための変調方式(変調クラス)を、適応的に変化させている。例えば、基地局に近く電波伝搬環境(回線状態)が良好なところで低速に移動している端末には、受信信号の強度が強い場合に適した64QAM変調方式を用いてデータを伝送し、一方で、基地局から遠く回線状態が悪い、または高速移動している端末には、受信信号の品質が弱い場合に適したBPSK変調方式を用いてデータを伝送する。表2に、受信信号の品質と、その品質時にとるべき変調方式、およびその変調方式で取り得るデータレートの関係を示す。なおこの表も一例として示すものである。
【0019】
【表2】

表1および表2から、アップリンク信号の受信品質とダウンリンク信号のデータレートとの間に、表3のような関係が成立する。
【0020】
【表3】

基地局は、端末から受信したアップリンク信号受信品質から、端末が使用する回路状態を推定し、表3に基づいて、ダウンリンク信号を送信する際に採用すべき変調方式すなわちデータレートを推定する。しかしながら、端末が移動している場合、基地局がダウンリンク信号を送信する時点で、基地局が変調方式の推定に用いたアップリンク信号を端末が送信した場所から端末が既に離れているため、AAAによって形成したアンテナビームの方向から端末がずれてしまう。この場合、SDMAの性能が劣化して、ダウンリンクの変調方式が多値数の少ない変調方式にシフトしたり、端末への送信エラーおよびそれに続く再送処理が発生して、最終的なダウンリンク信号の品質、すなわちデータレートが悪くなる。表4に、この現象の一例を示す。
【0021】
【表4】

表4のように、上述したように例えば端末が移動すること等によって、基地局が予測したダウンリンクデータレートと最終的なダウンリンクデータレートとの間に差異が生じる。本発明は、表4の現象、すなわち、基地局が予測したダウンリンクデータレートと、最終的なダウンリンクデータレートとの差異を利用して、新規なチャネル割当て方法を提案するものである。
【0022】
以降、諸図面を参照しながら、本発明による無線通信装置の実施態様を詳細に説明する。無線通信装置としては、基地局を例に説明する。図1は、本発明による無線通信装置のブロック図である。無線通信装置100は、アレーアンテナ、アダプティブアレーアンテナAAA送受信部110、信号品質推定部120、対応関係保存部130、データレート推定部140、データレート差計算部150、QoS制御部160、ソート部170、チャネル割当て部180、および、データレート監視部190を備える。アダプティブアレーアンテナAAA送受信部110は、従来技術で既知であり、説明を省略する。
【0023】
信号品質推定部120は、各移動局(端末)(M個と仮定する)のアップリンク信号の受信品質を推定する。品質の推定方法は多数存在するが、例として、受信信号フレームにおける既知の部分を用いて、次式に従い推定する。
【0024】
【数1】

ここで、SINRは受信信号の品質を表す指標(Signal to Interference And Noise Ratio)であり、U(i)(i=1,……,N)は受信信号フレームにおける既知の部分、R(i)(i=1,……,N)は参照信号、*は複素数共役を表す。また、受信信号品質をCNR(Carrier to Noise Ratio)で表す場合もあるが、ここではSINRとCNRを特に区別せず、信号品質と称することとする。通常、SINR(またはCNR)はdB単位で表示する。なお、アップリンク信号の受信品質の推定は、無線通信回線に接続中の、全移動局に対して行う。
【0025】
対応関係保存部130は、表3に示すような、アップリンク信号の受信品質から決定されるダウンリンクの変調方式と、それに対応するデータレートとの関係を予めテーブルとして格納する。データレート推定部140は、信号品質推定部120で推定した移動局のアップリンク信号の受信品質と対応関係保存部130に格納された表3のテーブルとに基づき、その移動局へのダウンリンクのデータレートを推定する。例えば表3に基づけば、ある移動局のアップリンク信号の受信品質が、−4.9dB以上、−0.1dB未満である場合は、この移動局のダウンリンク信号の変調方式をQPSKと推定し、データレートが245kbpsになると推定する。この、ダウンリンク変調方式およびデータレートの推定は、無線通信回線に接続中の、全ての移動局に対して行う。
【0026】
データレート監視部190は、実際のダウンリンク信号のデータレートを取得し、データレート差計算部150に出力する。なお、基地局がダウンリンク信号のデータレートに関する情報を予め持っている場合、その情報から、対応するデータレートをデータレート差計算部150に出力してもよい。ここでは、基地局が推定したデータレートに対して、実際のダウンリンク信号のデータレートに関する情報が必要であるという意味で、データレート監視部190を設けている。データレートに関する情報がない場合は、次式で計算することができる。
【0027】
データレート=(送信に成功したビット数)/(計算期間)
上式の「計算期間」は、データレートを計算する時間範囲を指し、例えば、0.1〜0.2秒に設定する。「送信に成功したビット数」は、計算期間内に送信に成功したビット数、すなわち、移動局が受信に成功したビット数のことを指す。なお、上記データレートの計算は、ビット数に限るものではなく、フレーム数としてもよい。
【0028】
データレート差計算部150は、データレート推定部140が推定したデータレートと、データレート監視部190から入力される該当移動局の実際のダウンリンク信号のデータレートとの差を、以下の式で計算する。
【0029】
データレート差=(予測データレート)−(実際のデータレート)
また、上式の計算は、接続中の全移動局に対して行い、テーブル化して、図示しない格納部あるいは対応関係保存部130に格納してもよい。
【0030】
データレート差が大きいということは、基地局がダウンリンク信号のデータレートの推定に使用したアップリンク信号を、移動局が送信した際の電波伝搬環境が、移動局の移動等によって変化し、かつ、その変化の程度が大きいことを意味する。よって、データレート差の大きい移動局は、回線状態が劣化している可能性があるため、より耐性の高いチャネルを採用すべきである。このことを考慮して、データレート差計算部150が計算したデータレート差の結果は、ソート部170へ出力され、ソート部170は、各移動局をデータレート差の大きい順に配列する。この配列順序はテーブル化して、図示しない格納部に格納してもよい。例えば、M個(#1、#2、……#M)の移動局があり、説明の便宜上、計算したデータレート差の数値が#1>#2>……>#Mと仮定すると、配列した結果は、#1、#2、……#Mとなり、表5のようなテーブルが作成される。
【0031】
【表5】

なお、データレート差が同じ移動局が複数存在する場合は、それらの移動局の間で、基地局が推定したデータレート、または、実際のデータレートを比較し、データレートの小さい移動局から順に配列する。データレートも同じ移動局が存在する場合は、それらの移動局をランダム的に配列しても良い。
【0032】
QoS制御部160は、移動局から取得するQoSに関する情報(例えば、移動局が送受信しているデータが、VoIP、ビデオ・ストリーミング、ファイル転送、Web閲覧その他のいずれかであるか否か、および、各移動局の識別番号)を、ソート部170へ出力する。ソート部170は、QoS制御部160から入力されたQoS情報に基づき、QoSを必要とする重要な移動局(例えば、VoIPを行っている移動局)を優先するように、配列順序を調整する。例えば、データレート差に基づいて配列した移動局のうち、QoSを必要とする重要な移動局を、配列順序の最上位におくように並び替える。重要な移動局が複数ある場合は、複数の重要な移動局をデータレート差の順に配列して、その順序を維持したままそれら全てを上位におく配列順序を並び替える。
【0033】
なお他の並び替え方法として、重要な移動局の空間多重数および通信速度を監視しつつ、まず、配列順序を1つ上位に並べ替えて、その移動局の空間多重数が小さくなったか、または通信速度が改善されたか否かを確認し、改善された場合は配列順序の調整を終了し、改善されなければ、配列順序をより1つ上位にする方法も考えられる。
【0034】
チャネル割当て部180は、ソート部170による配列結果に基づいて、基本チャネルおよび空間チャネルを、各移動局に対し割り当てる。以下に、その具体例を説明する。図2は、無線通信に用いることのできる基本チャネルおよび空間チャネルを、チャネル番号と各チャネルへの割当て順番とともに示すテーブルである。図のように、基本チャネルがN個(C10,C20,……,CN0)あると仮定し、基本チャネルC10の空間チャネル(C10と同一周波数、同一時間スロットを持つ、空間的に分離されたチャネル)がL個(C11,C12,……,C1L)あると仮定する(この場合、L+1空間多重と言う。)。同様に、基本チャネルC20の空間チャネルがL個(C21,C22,……,C2L)、基本チャネルC30の空間チャネルがL個(C31,C32,……,C3L)と、N個の基本チャネルに対してそれぞれL個の空間チャネルがあるものとする。この場合、各移動局には、図内に示すように、基本チャネルを優先的に割当て、割り当てるべき基本チャネルがない場合に、空間チャネルを割り当てる。ここでは、移動局の数M>基本チャネルの数Nと仮定する。なお、M≦Nの場合は、基本チャネルの数が移動局に対して十分であり、移動局への空間チャネルの割当ては不要になる。
【0035】
チャネル割当て部180は、ソート部170によって配列され、QoS制御部160からのQoS情報に基づいて調整された各移動局の配列順(説明の便宜上、配列順序を#1,……#Mの順と仮定する)に、図2に示された割当て順番で、基本チャネルと空間チャネルを割り当てる。例えば、移動局#1,……#Mのうち、優先順位の最上位である#1に割当て順番1のチャネルC10(基本チャネル)を割当て、#2には割当て順番2のチャネルC20を割り当てるように、移動局#Mまで、チャネルを割り当てる。
【0036】
上述したチャネルの割当て方法を、フローチャートを用いて説明する。図3に、本発明による無線通信方法のチャネル割当て制御のフローチャートを示す。まず、各移動局が、セッションの開始要求を無線通信装置(基地局)100(およびその制御系を含む無線アクセス・ネットワーク)に送信してセッションの開始が許可され、セッションが開始されたものとする。無線通信装置100は、接続中の各移動局のアップリンク信号の受信品質を、例えば上述したSINRの計算等によって推定する(ステップS11)。次に、予めテーブルとして持っているアップリンク信号の品質に応じた採用すべきダウンリンク信号の変調クラスおよび対応するデータレートとの関係に基づき、推定したアップリンク信号の品質から各移動局のダウンリンク信号のデータレートを推定する(ステップS12)。その後、データレート監視部190は、各移動局の実際のダウンリンク信号のデータレートを取得し(ステップS13)、データレート差計算部150は、データレート推定部140が推定したデータレートと、データレート監視部190から入力される各移動局の実際のダウンリンク信号のデータレートとの差を、(CPU等の演算手段を用いて、)数値的に算出する(ステップS14)。ステップS11〜S14までの処理は、接続中の移動局全てに対して行うため、全ての移動局を処理したか否かを判定する(ステップS15)。
【0037】
全ての移動局に対するデータレート差の計算が終了すると、ソート部170は、計算したデータレート差に基づいて、データレート差の大きい順に、各移動局を配列する(ステップS16)。次に、QoS制御部160は、各移動局のQoSの属性を取得し、ソート部170へ出力し、ソート部170は、QoSの属性に基づいて、データレート差による配列順序を調整する処理を行う(ステップS17)。この調整する処理を、図4(a)のフローチャートおよび同図(b)の、各移動局の調整例によって説明する。ソート部170は、QoS制御部160からQoS属性に関する情報(QoSを必要とする重要な移動局の識別番号等)を取得し(ステップS21)、重要な移動局があるか否かを判定する(ステップS22)。重要な移動局がある場合は、ステップS16において作成した配順序を、重要な移動局が上位になるように調整する(ステップS23)。重要な移動局が複数存在する場合は、それらを、データレート差による配列順序を維持したまま上位に配列する。例えば、図4(b)の例では、データレート差による配列順序では、優先順位の高いものから(#2,#1,#4,#A,#3,#B)であるが、移動局#Aと#Bが、QoSを必要とする重要な移動局であったため、配列順序が調整され、#Aと#Bとの間のデータレート差に基づく配列順序(#A,#B)を維持したまま、(#A,#B,#2,#1,#4,#3)という配列順序に並び替えられる。なお、QoSを必要とする移動局が存在しない場合には、上述の処理は行わない。
【0038】
図3のフローチャートに戻り説明を続ける。その後ステップS18にて、チャネル割当て部180は、ソート部170による配列順序に基づき、優先順位の高い移動局から、基本チャネルを割り当てていく。割り当てるべき基本チャネルに空きがない場合は、図2を用い空間チャネルを順次割り当てていく。なお、上記アップリンク信号の品質の推定、ダウンリンク信号のデータレートの推定、データレート差の計算、配列、および、チャネルの割当ては所定の周期で行う。この所定の周期は通信システムに依存するが、例えば、1〜2秒に設定してもよい。
【0039】
本発明の効果を再度述べる。本発明によれば、空間分割多元接続方式を用いた、適応変調方式による複数の端末との無線通信方法において、各端末が使用するチャネルの電波環境を考慮したチャネルの割当て制御が可能であるため、スループットを向上できる。また、QoSを必要とする端末に対して優先的に干渉に強いチャネルを割り当てるため、QoSを保証できる。さらに、本発明では、各端末の移動速度やフェージング速度の検出が不要であるため、本発明による方法や装置は低コストかつ簡易に実現することができる。
【0040】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段やステップなどを1つに組み合わせたり、あるいは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0041】
100 無線通信装置
110 アダプティブアレーアンテナ(AAA)送受信部
120 信号品質推定部
130 対応関係保存部
140 データレート推定部
150 データレート差計算部
160 QoS制御部
170 ソート部
180 チャネル割当て部
190 データレート監視部
C10,C20,……,CN0 基本チャネル
C11,C12,……,C1L 空間チャネル
C21,C22,……,C2L 空間チャネル
C31,C32,……,C3L 空間チャネル
#1〜#4,#A,#B 端末(移動局)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間分割多元接続方式を用いて、複数の端末と適応変調方式で無線通信を行う無線通信装置における無線通信方法であって、
各端末の上りリンクの信号品質に基づいて、各端末の下りリンクにおけるデータレートを推定するデータレート推定ステップと、
各端末における下りリンクのデータレートを取得するデータレート取得ステップと、
前記データレート推定ステップにより推定されたデータレートと、前記データレート取得ステップにより取得したデータレートとのデータレート差を、端末毎に求めるデータレート差算出ステップと、
前記データレート差算出ステップで求めたデータレート差に基づいて、各端末へのチャネル割当てを制御するチャネル割当て制御ステップと、
を含むことを特徴とする無線通信方法。
【請求項2】
空間分割多元接続方式を用いて、複数の端末と適応変調方式で無線通信を行う無線通信装置であって、
各端末の上りリンクの信号品質に基づいて、各端末の下りリンクにおけるデータレートを推定するデータレート推定部と、
各端末における下りリンクのデータレートを取得するデータレート取得部と、
前記データレート取得部で取得したデータレートと、前記データレート推定部で推定されたデータレートとのデータレート差を、端末毎に求めるデータレート差算出部と、
前記データレート差算出部で求めたデータレート差に基づいて、各端末へのチャネル割当てを制御するチャネル割当て制御部と、
を備えることを特徴とする無線通信装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−9386(P2013−9386A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−171072(P2012−171072)
【出願日】平成24年8月1日(2012.8.1)
【分割の表示】特願2007−156321(P2007−156321)の分割
【原出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】