説明

無線通信装置及び方法

【課題】 情報信号を空間方向に符号化し複数のアンテナから同一の情報信号を送信する第2の伝送方式と、複数のアンテナから各々独立した情報信号を送信する第2の伝送方式との切り替え制御を改良し、もって高信頼性伝送及び高速伝送を両立させる。
【解決手段】 通信中の受信SNRを定期的に検出し(S101)、一定時間内に検出された受信SNRの変動幅を算出する(S103)。一定時間内に検出された受信SNRの平均値を算出し(S104)、算出した変動幅に応じた幅を有するSNR区間を設定する(S107)。算出した平均値が設定したSNR区間の最小値より小さいときは、送信方法を第1の伝送方式に切り替え(S109)、算出した平均値が設定したSNR区間の最大値より大きいときは、送信方法を第2の伝送方式に切り替える(S111)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線通信技術に関する。特に、STBC(時空間ブロック符号化)伝送方式と非STBC伝送方式等の情報信号を空間方向に符号化して複数のアンテナから同一の情報信号を送信する伝送方式と、複数のアンテナから各々独立した情報信号を送信する伝送方式とを利用する無線通信に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線LANシステムはIEEE802.11b、IEEE802.11g等のISMバンドを使用している。この周波数帯は無線認可を受けることによって自由に使用可能な周波数帯であるがゆえに使用する端末数も増加し、込み合った状況にある。この周波数帯域内で使用する無線通信システムの広帯域化をするためには周波数利用効率を上げる必要がある。
【0003】
このような状況の中で、無線通信システムの広帯域化を目的としたIEEE802.11nの規格がある。IEEE802.11nの規格は周波数利用効率向上には最適なものである。IEEE802.11nの規格は、複数の送信アンテナと複数の受信アンテナを用いるMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術を利用する。また、STBC(時空間ブロック符号化)伝送と呼ばれる技術も利用する。STBC伝送は、MIMOチャネルを構成し、送信側で一つの情報信号系列を時間方向、空間方向に空間時間符号化し、符号化した信号系列を複数の送信アンテナから並列に送信する。受信側では、推定した各MIMOチャネルの伝達関数を用いて復号する。これにより、結果的に送信ダイバーシティ効果と同等の効果を得ることができる。
【0004】
STBC伝送方式は、送信データを複数のアンテナから並列に同一のデータを送信するため伝送レートは低くなるが、送信ダイバーシティ効果により受信CNR(Carrier to Noise ratio)を向上でき、信頼性の高い伝送が可能である。
【0005】
また、周波数利用効率を向上させる他の手法として、非STBC伝送方式がある。この方式は、複数の送信アンテナと複数の受信アンテナを用いて同様にMIMOチャネルを構成する。受信側においては、複数の受信アンテナの受信信号から推定した各MIMOチャネルの伝達関数を用いて各送信アンテナからの送信信号を復号する。この手法は複数の送受信アンテナを用いることで、空間的に独立な伝送路を送信アンテナ数だけ増加し、これらの各伝送路に各々独立なデータを伝送することによって伝送レートを増加させるものである。
【0006】
非STBC伝送方式は、複数のアンテナを使用し、キャリブレーション処理を行って固有ストリームを形成することで高速な無線通信を実現する伝送方式である。この固有ストリームは無線伝播特性に依存するため、無線伝搬特性が変化すると非STBC伝送方式が維持できなくなり高速な無線通信を行うことが困難となる。
【0007】
STBC伝送方式は、送信ダイバーシティと同等の効果をもつ伝送方式であって受信側のアンテナが1本であっても2本のアンテナで受信した場合と同じ受信特性が得られる高信頼性の伝送方式である。
【0008】
図9に、複数のアンテナを用いた通信システムの概念を説明する図を示す。
【0009】
図中、基地局装置901はアンテナ903とアンテナ904を有し、端末装置902と無線回線を介して通信を行う。端末装置902はアンテナ905とアンテナ906を有する。
【0010】
ここで、アンテナ903とアンテナ905との間の伝送路におけるチャネル伝達関数をh11(t)とし、アンテナ903とアンテナ906との間の伝送路における伝達関数をh12(t)とする。同様に、アンテナ904とアンテナ905との間の伝送路における伝達関数をh21(t)とし、アンテナ904とアンテナ906との間の伝送路における伝達関数をh22(t)とする。伝達関数h11(t)、h12(t)、h21(t)、h22(t)は基地局装置901から送信される伝搬環境推定シンボル、例えばパイロット信号などを用いて端末装置902が推定する関数である。
【0011】
STBC伝送方式では、図9に示すアンテナ905の受信信号をR1(t)とすると、以下の式が成り立つ。
【0012】
式(1)

【0013】
この式から分かるように、STBC伝送方式ではデータシンボルSyAとSyBを時間t=iとt=i+1で繰り返し送信している。
【0014】
一方、非STBC方式では、図9に示すアンテナ905、906の受信信号をそれぞれR1(t)、R2(t)とすると、以下の式が成り立つ。
【0015】
式(2)

【0016】
この式から分かるように、非STBC方式ではデータシンボルSyAとSyBを時間t=1のみで送信している。
【0017】
このように、STBC方式は非STBC方式より伝送速度は劣るものの、受信品質から見ると良好であるといえる。逆に、非STBC方式では伝送速度は高速となるが受信品質が劣るということが言える。
【0018】
図5に、複数のアンテナを用いた通信システムの基地局装置901における送信装置の概略ブロック図を示す。
【0019】
同図において、フレーム生成指示部506は、端末装置902から送信された送信方法要求情報に基づいて送信方法(STBC方式、非STBC方式)を決定し、決定した内容をフレーム生成指示信号S1でデータ系列生成部501に指示する。
【0020】
データ系列生成部501は、フレーム生成指示部506からの指示に従って送信データから変調信号Aの送信デジタル信号S2、及び変調信号Bの送信デジタル信号S3を生成する。
【0021】
変調部502は、複数の変調方式で変調することができ、データ系列生成部501から出力された変調信号Aの送信デジタル信号S2を、指示された変調方式で変調する。変調された信号は無線部503にて無線周波数信号に変換されアンテナ903を介して送信される。
【0022】
同様に、変調部504は複数の変調方式で変調することができ、データ系列生成部501から出力された変調信号Bの送信デジタル信号S3を指示された変調方式で変調する。変調された信号は無線部505にて無線周波数信号に変換されアンテナ904を介して送信される
【0023】
図6に、複数のアンテナを用いた通信システムの端末装置902の受信部の概略ブロック図を示す。
【0024】
同図において、アンテナ905は、基地局装置901のアンテナ903とアンテナ904とから送信された信号の合成信号を受信し、無線部601は、受信信号を所望の周波数に変換し逆拡散復調部602に供給する。逆拡散復調部602は、受信信号から逆拡散を行いそれを第一伝送路推定部603、第二伝送路推定部604、データ復調部607に供給する。
【0025】
第一伝送路推定部603は、フレーム同期部(図示せず)で生成された同期信号に従って逆拡散復調部602から出力された信号のうち変調信号Aの伝送路の推定をパイロット信号を用いて行う。推定された変調信号Aの伝送路情報は第一伝送路推定部603からデータ復調部607及び固有値算出部609に出力される。変調信号Aの伝送路推定信号は式(2)のh11(t)に相当する。
【0026】
第二伝送路推定部604は、フレーム同期部(図示せず)で生成された同期信号に従って逆拡散復調部602から出力された信号のうち変調信号Bの伝送路の推定をパイロット信号を用いて行う。推定された変調信号Bの伝送路情報は第二伝送路推定部604からデータ復調部607及び固有値算出部609に出力される。変調信号Bの伝送路推定信号は式(2)のh12(t)に相当する。
【0027】
なお、アンテナ906で受信された無線信号は無線部611、逆拡散復調部612、第一伝送路推定部605、第二伝送路推定部606において同様の処理が行われるので説明は省略する。第一伝送路推定部605からデータ復調部607に出力される伝送路推定信号はh21(t)に相当し、第二伝送路推定部606からデータ復調部607に出力される伝送路推定信号はh22(t)に相当する。
【0028】
データ復調部607は、フレーム同期部(図示せず)から出力されたタイミング信号に従って第一伝送路推定部603,605、及び第二伝送路推定部604,606からの出力信号を用いて逆拡散復調部602,612から出力された信号の復調を行う。これにより変調信号Aの受信デジタル信号と変調信号Bの受信デジタル信号を得る。このとき、データ復調部607では逆拡散復調部602,612から出力された信号のパイロット信号に含まれる送信方法通知シンボルから当該信号の送信方法(STBC方式、非STBC方式)の識別を行い、内容に応じてデータシンボルを復調する。
【0029】
受信電界強度検出部608は、逆拡散復調部602、612から出力された信号に基づいて受信電界強度を検出し、検出結果を送信方法/変調形式決定部610に出力する。
【0030】
固有値算出部609は、第一伝送路推定部603,605、及び第二伝送路推定部604,606から出力された伝送路情報を式(2)に示すようにチャネル行列としたとき、その固有値を算出し、送信方法/変調形式決定部610に出力する。
【0031】
送信方法/変調形式決定部610は、固有値算出部609から出力された固有値信号と受信電界強度検出部608から出力された検出信号とに基づいて通信開始時に基地局装置901が適用する送信方法及び変調形式を決定する。具体的には、送信方法としてSTBC方式か非STBC方式かを決定し、変調形式としてQPSK,QAM等を決定する。
【0032】
決定された情報は送信方法要求情報として端末装置902から基地局装置901に送信され、基地局装置901はその情報を基づいた送信方法で送信を行う。
【0033】
従来、このようなSTBC伝送方式と非STBC伝送方式を利用した無線通信において、2つの伝送方式のうち、どちらの伝送方式を選択し、切り替えるかは、上述した従来例のように受信部の受信電界強度に基づいて行っていた。
【0034】
また、送信データの優先度(QoS)、受信SNR(Signal to Noise Ratio)、通信相手の数、に応じても選択、切り替えを行っていた。
【0035】
【特許文献1】特開2005−094255号公報
【特許文献2】特開2005−039807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
しかしながら、2つの伝送方式のどちらが高速伝送に適しているかは、受信電界強度や受信SNRからは一義的に決定することはできない。最適な受信SNR値は、通信する変調方式(多値数)によって大きく変わるものであるからである。
【0037】
本発明は、情報信号を空間方向に符号化して複数のアンテナから同一の情報信号を送信する伝送方式と、複数のアンテナから各々独立した情報信号を送信する伝送方式との切り替え制御を改良し、もって高信頼性伝送及び高速伝送を両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0038】
本発明の一側面によれば、送信方法として、情報信号を空間方向に符号化して複数のアンテナから同一の情報信号を送信する第1の伝送方式と、複数のアンテナから各々独立した情報信号を送信する第2の伝送方式とを選択的に切り替えて無線通信を行う無線通信装置であって、信号の受信品質を定期的に検出する検出手段と、一定時間内に前記検出手段が検出した受信品質の変動幅を算出する変動幅算出手段と、一定時間内に前記検出手段が検出した受信品質の平均値を算出する平均値算出手段と、前記変動幅に応じた幅を有する区間を設定する設定手段と、前記平均値が前記区間の最小値より小さいときは、送信方法を前記第1の伝送方式に切り替え、前記平均値が前記区間の最大値より大きいときは、送信方法を前記第2の伝送方式に切り替える制御手段とを備えることを特徴とする無線通信装置が提供される。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、情報信号を空間方向に符号化して複数のアンテナから同一の情報信号を送信する第1の伝送方式と該情報信号を各々独立した情報信号として送信する第2の伝送方式との切り替え制御が改良され、高信頼性伝送及び高速伝送を両立できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の実施に有利な具体例を示すにすぎない。また、以下の実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の課題解決手段として必須のものであるとは限らない。
【0041】
<実施形態1>
本実施形態に係る、送信側及び受信側でそれぞれ複数のアンテナを用いた通信システムの基本構成自体は、図9に示した構成と同様であるため、本実施形態においてもこの図9を援用する。本実施形態における無線通信装置は、送信方法として2つの伝送方式を選択的に切り替えて無線通信を行うように構成されている。第1の伝送方式は、情報信号を空間方向に符号化して複数のアンテナから同一の情報信号を送信するSTBC伝送方式である。第2の伝送方式は、複数のアンテナから各々独立した情報信号を送信する非STBC伝送方式である。
【0042】
図2に、本実施形態に係る複数のアンテナを用いた通信システムにおける、無線通信装置としての端末装置における受信部の概略ブロック図を示す。
【0043】
同図において、アンテナ905は、基地局装置901のアンテナ903とアンテナ904とから送信された信号の合成信号を受信し、無線部201は、受信信号を所望の周波数に変換し同期復調部202に供給する。同期復調部202は、受信信号を用いて同期検出を行い同期信号(図示せず)によりベースバンド信号を得る。得られた信号は、データ復調部203、第一伝送路推定部206、及び受信SNR検出部208に供給される。
【0044】
第一伝送路推定部206は、フレーム同期部(図示せず)で生成された同期信号に従って同期復調部202から出力された信号である変調信号A及び変調信号Bの伝送路の推定をパイロット信号を用いて行う。推定された変調信号A及び変調信号Bの伝送路情報は第一伝送路推定部206からデータ復調部203及び固有値算出部214に出力される。変調信号Aの伝送路推定信号は式(2)のh11(t)に、変調信号Bの伝送路推定信号はh12(t)に相当する。
【0045】
なお、アンテナ906で受信された無線信号は無線部204、同期復調部205、第二伝送路推定部207、において同様の処理が行われるので説明は省略する。第二伝送路推定部207からデータ復調部203に出力される変調信号Aの伝送路推定信号はh21(t)に、変調信号Bの伝送路推定信号はh22(t)に相当する。
【0046】
データ復調部203は、フレーム同期部(図示せず)から出力されたタイミング信号に従って第一伝送路推定部206、及び第二伝送路推定部207からの出力信号を用いて同期復調部202,205から出力された信号の復調を行う。これにより変調信号Aの受信デジタル信号と変調信号Bの受信デジタル信号を得る。このとき、データ復調部203では同期復調部202,205から出力された信号のパイロット信号に含まれる送信方法通知シンボルから当該信号の送信方法(STBC方式、非STBC方式)の識別を行い、内容に応じてデータシンボルを復調する。
【0047】
受信SNR検出部208は、同期復調部202,205から出力された信号に基づいて受信品質としての受信SNRを定期的に検出し、検出結果を制御部200内の履歴格納部209に格納する。
【0048】
固有値算出部214は、第一伝送路推定部206、及び第二伝送路推定部207から出力された伝送路情報を式(2)に示すようにチャネル行列としたとき、その固有値を算出し、送信方法/変調形式決定部213に出力する。
【0049】
送信方法/変調形式決定部213は、固有値算出部214から出力された固有値信号と受信SNR検出部208から出力された検出信号とに基づいて、後述する手順により、通信開始時に基地局装置901が適用する送信方法を決定する。具体的には、送信方法として、STBC方式か非STBC方式かを決定する。
【0050】
決定された情報は送信方法要求情報として端末装置902から基地局装置901に送信され、基地局装置901はその情報を基づいた送信方法で送信を行う。
【0051】
受信SNR検出部208によって検出された受信SNR値は履歴格納部209に格納され、一定時間内の受信SNR値の変動を記憶する。
【0052】
閾値格納部210は、変調形式に対応した受信SNRの閾値をテーブルとして格納しているもので、受信SNRの閾値は変調方式によって異なる閾値をもつ。図10にテーブルのデータ構造例を示す。同図に示す例では、QPSK,16QAM,64QAMの各変調形式に対応する閾値SNR(QPSK)、SNR(16QAM)、SNR(64QAM)が記述されている。
【0053】
変調形式格納部211は、通信中の変調形式を格納している。比較部212は、履歴格納部209に格納されている受信SNR値と閾値格納部210に格納されているある変調方式に対応した閾値とを比較する。送信方法/変調形式決定部213は、比較部212の比較結果に応じて送信方法を決定し、決定した送信方法に応じた送信方法要求情報を通信相手に送信する。ここで、閾値格納部210に格納されている受信SNRの閾値は送信方法がSTBC方式の場合と非STBC方式の場合とでスループットが等しくなるときの受信SNR値のを示すものである。
【0054】
図3の(a)に、変調形式がQPSKの場合のSTBC方式と非STBC方式の受信SNRに対するスループットの関係を示す。
【0055】
図3の(a)より、受信SNR値が閾値SNR(QPSK)より小さく比較的ノイズレベルが大きい環境ではSTBC方式がスループットが高い。逆に、受信SNR値が閾値(QPSK)より大きくノイズレベルが小さい環境では非STBC方式の方がスループットは高くなる。すなわち図3の(a)は、変調形式がQPSKの場合のスループットはSTBCで通信した場合と非STBCで通信した場合とで受信SNR値の閾値SNR(QPSK)を境に逆転することを示している。
【0056】
図3において、切替禁止領域Wは履歴格納部209に格納されている受信SNR値の一定時間内の変動幅に対応する。具体的には、切替禁止領域Wは、閾値SNR(QPSK)を中心として、受信SNR値の一定時間内の変動幅に等しいか、その変動幅に応じた幅を有するSNR区間として設定される。
【0057】
SNR1,SNR2はそれぞれ、切替禁止領域の最小SNR値、最大SNR値を示す。履歴格納部209に格納されている一定期間の受信SNR値の平均値が切替禁止領域内である場合、送信方法は切り替えないで現状の送信方法を維持する。
【0058】
受信SNR値の平均値が切替禁止領域の最大値SNR2より大きいときは、送信方法を非STBC方式に切り替え、最小値SNR1より小さいときは、通信環境が悪いと判断し、送信方法をSTBC方式に切り替える。
【0059】
切替禁止領域Wは、通信中の環境の変動、すなわち、履歴格納部209に格納された受信SNR値の変動幅、に応じてその都度変わるもので、その幅に応じてSNR1,SNR2の値も変化する。図3の(a)は受信SNRの変動が大きい場合を表し、(b)は受信SNRの変動が小さい場合を示している。
【0060】
図4の(a)に、変調形式が16QAMの場合のSTBC方式と非STBC方式の受信SNRに対するスループットの関係を示す。
【0061】
変調方式が16QAMの場合も、図3の(a)と同様に、閾値SNR(QAM)を中心に受信SNRの変動幅に等しい切替禁止領域Wを設定し、切替禁止領域の最小値SNR3、最大値SNR4を決定する。
【0062】
履歴格納部209に格納されている一定期間の受信SNR値の平均値が切替禁止領域内である場合は、送信方法は切り替えないで現状の送信方法を維持する。
【0063】
受信SNR値の平均値が切替禁止領域の最大値SNR4より大きいときは、送信方法を非STBC方式に切り替え、最小値SNR3より小さいときは、通信環境が悪いと判断し、送信方法をSTBC方式に切り替える。
【0064】
切替禁止領域Wは、通信中の環境の変動、すなわち、履歴格納部209に格納された受信SNR値の変動幅、に応じてその都度変わるもので、その幅に応じてSNR1,SNR4の値も変化する。図4の(a)は受信SNRの変動が大きい場合を表し、(b)は受信SNRの変動が小さい場合を示している。
【0065】
図8に、変調形式がQPSKの場合と16QAMの場合の2つの送信方法での、受信SNRとスループットとの関係を示す。
【0066】
同図は2つの送信方法で変調形式によってスループットが逆転する閾値が異なることを示している。具体的には、変調形式がQPSKの場合の閾値SNR(QPSK)より16QAMの場合の閾値SNR(QAM)が大きい。変調形式が多値化されるほど閾値が大きくなっている。つまり、多値化された変調形式ほど通信環境が良くないと非STBC方式で高速伝送を行うことができないことを示している。
【0067】
図1に、本実施形態における、複数のストリームが同一の変調形式で通信を行っている場合の送信方法の切り替え手順のフローを示す。
【0068】
S101において、受信SNR値を取り込み、制御部200の履歴格納部209に格納する。次にS102で、一定時間経過したか否かを判定し、経過したならばS103に進み、過去の受信SNR値の変動幅を算出しこれをWとする。次にS104で、過去の受信SNR値の平均値を算出しこれをAvとする。
【0069】
次にS105で、現在通信中の変調形式を識別する。S106で変調形式がQPSKと判定された場合はS107で送信方法の切替禁止領域の最小値SNR1、最大値SNR2を算出する。最小値SNR1は、SNR1=SNR(QPSK)-W/2で求め、最大値SNR2は、SNR2=SNR(QPSK)+W/2で求める。ここで、変調形式がQPSKの場合の閾値SNR(QPSK)は、閾値格納部210に格納されているテーブルの値を用いる。
【0070】
次にS108で、比較部212は、S104で算出した受信SNRの平均値Avを、S107で算出した切替禁止領域の最小SNR値であるSNR1と比較する。送信方法/変調形式決定部213は、平均値AvがSNR1より小さい場合はS109にて送信方法としてSTBC方式を選択し、STBC方式に切り替える旨の要求情報を送信する。S108にてAvがSNR1以上と判定された場合はS110に進む。ここで比較部212はAvと切替禁止領域の最大値SNR2とを比較する。AvがSNR2より大きい場合はS111に進み、送信方法/変調形式決定部213は送信方法として非STBC方式を選択し、非STBC方式に切り替える旨の要求情報を送信する。S110にてAvがSNR2以下の場合は送信方法は切り替えずそのまま戻る。すなわち、このときのAvの値は切替禁止領域の値であるため、送信方法の切り替えは行わない。
【0071】
S106にて変調方式が16QAMと判定された場合は、S112で送信方法の切替禁止領域の最小値SNR3及び最大値SNR4を算出する。最小値SNR3はSNR3=SNR(QAM)-W/2で求め、最大値SNR4はSNR4=SNR(QAM)+W/2で求める。ここで、変調形式がQAMの場合の閾値SNR(QAM)は閾値格納部210に格納されているテーブルの値を用いる。
【0072】
次にS113で、比較部212は、S104で算出した受信SNRの平均値Avを、S112で算出した切替禁止領域の最小SNR値であるSNR3と比較する。送信方法/変調形式決定部213は、平均値AvがSNR3より小さい場合S114にて送信方法としてSTBC方式を選択し、STBC方式に切り替える旨の要求情報を送信する。S113にてAvがSNR4以上の場合はS115に進む。ここで比較部212はAvと切替禁止領域の最大値SNR4と比較する。AvがSNR4より大きい場合はS116に進み、送信方法/変調形式決定部213は送信方法として非STBC方式を選択し、非STBC方式に切り替える旨の要求情報を送信する。S115にてAvがSNR4以下の場合は送信方法は切り替えずそのまま戻る。すなわち、このときのAvの値は切替禁止領域の値であるため、送信方法の切り替えは行わない。
【0073】
図7に、複数のストリームが異なる変調形式で通信を行っている場合の送信方法の切り替え手順のフローを示す。
【0074】
S701において、受信SNR値を取り込み、制御部200の履歴格納部209に格納する。次にS702で、一定時間経過したか否かを判定し、経過したならばS703に進み、過去の受信SNR値の変動幅算出を行いこれをWとする。次にS704で、過去の受信SNR値の平均値算出を行いこれをAvとする。
【0075】
次にS705で、各変調形式における送信方法の切替禁止領域の最小値SNR1及びSNR3、最大値SNR2及びSNR4を算出する。変調方式が第1の変調方式としてのQPSKのストリームの場合の最小値SNR1は、SNR1=SNR(QPSK)-W/2で求め、最大値SNR2は、SNR2=SNR(QPSK)+W/2で求める。これにより、最小値をSNR1、最大値をSNR2とする第1区間が求められる。また、変調方式が第2の変調方式としての16QAMのストリームの場合の最小値SNR3は、SNR3=SNR(QAM)-W/2で求め、最大値SNR4は、SNR4=SNR(QAM)+W/2で求める。これにより、最小値をSNR3、最大値をSNR4とする第2区間が求められる。ここで、各変調方式の閾値SNR(QPSK)、SNR(160QAM)は閾値格納部210に格納されているテーブルの値を用いる。
【0076】
次にS706で、比較部212は、S704で算出した受信SNRの平均値Avを、S705で算出した変調形式がQPSKの場合の切替禁止領域の最小SNR値であるSNR1と比較する。送信方法/変調形式決定部213は、平均値AvがSNR1より小さい場合はS707にて送信方法としてSTBC方式を選択し、STBC方式に切り替える旨の要求情報を送信する。S706にてAvがSNR1以上と判定された場合はS708に進む。ここで比較部212はAvを、変調方式が16QAMの場合の切替禁止領域の最大値SNR4と比較する。AvがSNR4より大きい場合はS709に進み、送信方法/変調形式決定部213は送信方法として非STBC方式を選択し、非STBC方式に切り替える旨の要求情報を送信する。S708にてAvがSNR4以下の場合は送信方法は切り替えずそのまま戻る。
【0077】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用してもよいし、また、一つの機器からなる装置に適用してもよい。
【0078】
なお、本発明は、前述した実施形態の各機能を実現するプログラムを、システム又は装置に直接又は遠隔から供給し、そのシステム又は装置に含まれるコンピュータがその供給されたプログラムコードを読み出して実行することによっても達成される。
【0079】
したがって、本発明の機能・処理をコンピュータで実現するために、そのコンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明を実現するものである。つまり、上記機能・処理を実現するためのコンピュータプログラム自体も本発明の一つである。
【0080】
その場合、プログラムの機能を有していれば、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給するスクリプトデータ等、プログラムの形態を問わない。
【0081】
プログラムを供給するためのコンピュータ読み取り可能な記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、MO、CD−ROM、CD−R、CD−RWなどがある。また、記録媒体としては、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM、DVD(DVD−ROM,DVD−R)などもある。
【0082】
また、プログラムは、クライアントコンピュータのブラウザを用いてインターネットのホームページからダウンロードしてもよい。すなわち、ホームページから本発明のコンピュータプログラムそのもの、もしくは圧縮され自動インストール機能を含むファイルをハードディスク等の記録媒体にダウンロードしてもよい。また、本発明のプログラムを構成するプログラムコードを複数のファイルに分割し、それぞれのファイルを異なるホームページからダウンロードする形態も考えられる。つまり、本発明の機能・処理をコンピュータで実現するためのプログラムファイルを複数のユーザに対してダウンロードさせるWWWサーバも、本発明の構成要件となる場合がある。
【0083】
また、本発明のプログラムを暗号化してコンピュータ読み取り可能なCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納してユーザに配布してもよい。この場合、所定条件をクリアしたユーザにのみ、インターネットを介してホームページから暗号化を解く鍵情報をダウンロードさせ、その鍵情報で暗号化されたプログラムを復号して実行し、プログラムをコンピュータにインストールしてもよい。
【0084】
また、コンピュータが、読み出したプログラムを実行することによって、前述した実施形態の機能が実現されてもよい。なお、そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOSなどが、実際の処理の一部又は全部を行ってもよい。もちろん、この場合も、前述した実施形態の機能が実現され得る。
【0085】
さらに、記録媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれてもよい。そのプログラムの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行ってもよい。このようにして、前述した実施形態の機能が実現されることもある。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】実施形態における、複数のストリームが同一の変調形式の場合の切り替え手順を示すフローチャート。
【図2】実施形態に係る複数のアンテナを用いた通信システムの端末装置における受信部の概略ブロック図。
【図3】実施形態における、変調形式がQPSKの場合のSTBC方式と非STBC方式の切替禁止領域の例を示す図。
【図4】実施形態における、変調形式が16QAMの場合のSTBC方式と非STBC方式の切替禁止領域の例を示す図。
【図5】従来の複数のアンテナを用いた通信システムの基地局装置における送信装置の概略ブロック図。
【図6】従来の複数のアンテナを用いた通信システムの端末装置における受信部の概略ブロック図。
【図7】実施形態における、複数のストリームが異なる変調形式で通信を行っている場合の送信方法の切り替え手順を示すフローチャート。
【図8】変調形式がQPSKの場合と16QAMの場合のそれぞれの送信方法での、受信SNRとスループットとの関係を示す図。
【図9】送信装置、受信装置に複数のアンテナを有する通信システムの概略構成図。
【図10】実施形態における閾値格納部が保持するテーブルのデータ構造例を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信方法として、情報信号を空間方向に符号化して複数のアンテナから同一の情報信号を送信する第1の伝送方式と、複数のアンテナから各々独立した情報信号を送信する第2の伝送方式とを選択的に切り替えて無線通信を行う無線通信装置であって、
信号の受信品質を定期的に検出する検出手段と、
一定時間内に前記検出手段が検出した受信品質の変動幅を算出する変動幅算出手段と、
一定時間内に前記検出手段が検出した受信品質の平均値を算出する平均値算出手段と、
前記変動幅に応じた幅を有する区間を設定する設定手段と、
前記平均値が前記区間の最小値より小さいときは、送信方法を前記第1の伝送方式に切り替え、前記平均値が前記区間の最大値より大きいときは、送信方法を前記第2の伝送方式に切り替える制御手段と、
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
変調方式を識別する識別手段を更に備え、
前記設定手段は、前記変調方式に応じた値を中心とする前記変動幅に応じた幅を有する区間を設定することを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記設定手段は、第1の変調方式に対応する値を中心とする前記変動幅を有する第1区間を求めるとともに、第2の変調方式に対応する値を中心とする前記変動幅を有する第2区間を求め、前記第1区間の最小値から前記第2区間の最大値を前記区間として設定することを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項4】
送信方法として、情報信号を空間方向に符号化して複数のアンテナから同一の情報信号を送信する第1の伝送方式と、複数のアンテナから各々独立した情報信号を送信する第2の伝送方式とを選択的に切り替えて無線通信を行う無線通信方法であって、
信号の受信品質を定期的に検出する検出ステップと、
一定時間内に前記検出ステップで検出された受信品質の変動幅を算出する変動幅算出ステップと、
一定時間内に前記検出ステップで検出された受信品質の平均値を算出する平均値算出ステップと、
前記変動幅に応じた幅を有する区間を設定する設定ステップと、
前記平均値が前記区間の最小値より小さいときは、送信方法を前記第1の伝送方式に切り替え、前記平均値が前記区間の最大値より大きいときは、送信方法を前記第2の伝送方式に切り替える制御ステップと、
を有することを特徴とする無線通信方法。
【請求項5】
請求項4に記載の無線通信方法をコンピュータによって実現するためのプログラム。
【請求項6】
請求項4に記載の無線通信方法をコンピュータによって実現するためのプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−253379(P2009−253379A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95431(P2008−95431)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】