説明

無電解ニッケルめっき浴及びそれを用いためっき方法

【課題】Pb、Bi、Tl、Cdなどの重金属イオンを含まないため人体や環境に優しく、しかも、無電解ニッケルめっき浴として実用に耐えるめっき浴を提供する。
【解決手段】水溶性ニッケル塩、有機酸又はその塩、次亜リン酸塩又はホウ素化合物、及びアセチレン化合物を含有する無電解ニッケルめっき浴において、Pb、Bi、Tl、及びCdのいずれの金属イオンも含まず、かつ以下の(2),(3)のいずれかの特徴を有するめっき浴、及びそれを用いためっき方法。(2)前記有機酸又はその塩が(A)アミノ酸又はその塩とヒドロキシカルボン酸又はその塩、又は(B)ヒドロキシモノカルボン酸又はその塩とヒドロキシポリカルボン酸又はその塩を含有するめっき浴。(3)亜リン酸又はその塩を含有するめっき浴。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有害重金属を含有しない無電解ニッケルめっき浴、及び該無電解ニッケルめっき浴を用いためっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無電解ニッケルめっき浴には、光沢剤や安定剤としてPb、Bi、Tl、Cdなどの重金属イオンが含有されている。しかし、これらの重金属イオンは人体に有害であるため、環境への放出を極力避ける観点から使用されないことが好ましい。また、電子部品分野においては基板のパターン配線上にニッケルめっき層、金めっき層を順次形成することが行なわれるが、これらの重金属イオンを含有するめっき浴を使用する場合にはめっき皮膜にシミ(Pbがめっき金属層の表面に移動拡散し、酸化して生じる変色。)が生ずることがあり、めっき皮膜の信頼性の観点からも、なお改善の余地を有するものであった。
【0003】
一方、上記のような光沢剤としてアセチレン化合物を用いためっき浴が提案されている(特許文献1:特表昭62−502972号公報参照)。このようなめっき浴は上記重金属イオンの使用を低減可能であり、人体や環境への配慮という面において好適であるものの、上記重金属イオンを全く使用せずに上記アセチレン化合物のみを用いた場合には、形成されるめっき皮膜の柔軟性に劣る、被めっき物へのつきまわりが悪い、めっき浴の安定性に劣る等の問題があり、実用面からは、なお改善の余地を有するものであった。
人体や環境にとって有害な重金属イオンを含有せず、しかもニッケルめっき浴として実用に耐え得るニッケルめっき浴の開発が求められていた。
【0004】
【特許文献1】特表昭62−502972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、Pb、Bi、Tl、Cdなどの重金属イオンを含まないため人体や環境に優しく、しかも、無電解ニッケルめっき浴として実用に耐え得るめっき浴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、水溶性ニッケル塩、有機酸又はその塩、次亜リン酸塩又はホウ素化合物、及びアセチレン化合物を含有する無電解ニッケルめっき浴であって、
イオウ系化合物を含有する無電解ニッケルめっき浴、又は、
前記有機酸又はその塩が(A)アミノ酸又はその塩とヒドロキシカルボン酸又はその塩との組合せ又は(B)ヒドロキシモノカルボン酸又はその塩とヒドロキシポリカルボン酸又はその塩との組合せを含有する無電解ニッケルめっき浴、又は、
亜リン酸又はその塩を含有する無電解ニッケルめっき浴、
がPb、Bi、Tl、及びCdのいずれの金属イオンも全く使用せずに無電解ニッケルめっき浴を調製した場合においても形成されるめっき皮膜の柔軟性、つきまわり性に優れ、しかもめっき浴の安定性にも優れるという実用的なニッケルめっき浴となり得ることを知見し、本発明をなすに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記の無電解ニッケルめっき浴、及び無電解ニッケルめっき浴を用いためっき方法を提供する。
請求項1:
水溶性ニッケル塩、有機酸又はその塩、次亜リン酸塩又はホウ素化合物、及びアセチレン化合物を含有する無電解ニッケルめっき浴において、
前記有機酸又はその塩が(A)アミノ酸又はその塩とヒドロキシカルボン酸又はその塩との組合せ、又は(B)ヒドロキシモノカルボン酸又はその塩とヒドロキシポリカルボン酸又はその塩との組合せを含有し、且つPb、Bi、Tl、及びCdのいずれの金属イオンも含有しないことを特徴とする無電解ニッケルめっき浴。
請求項2:
前記アミノ酸が、カルボキシル基を2個以上有するアミノ酸である請求項1記載の無電解ニッケルめっき浴。
請求項3:
前記ヒドロキシカルボン酸が、グルコン酸である請求項1又は2記載の無電解ニッケルめっき浴。
請求項4:
水溶性ニッケル塩、有機酸又はその塩、次亜リン酸塩又はホウ素化合物、及びアセチレン化合物を含有する無電解ニッケルめっき浴において、
更に亜リン酸又はその塩を含有し、且つPb、Bi、Tl、及びCdのいずれの金属イオンも含有しないことを特徴とする無電解ニッケルめっき浴。
請求項5:
前記アセチレン化合物が、プロパルギルアルコール及び/又はその誘導体である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の無電解ニッケルめっき浴。
請求項6:
前記プロパルギルアルコール及び/又はその誘導体が、エトキシ化及び/又はプロポキシ化されたプロパルギルアルコールである請求項5記載の無電解ニッケルめっき浴。
請求項7:
前記無電解ニッケルめっき浴中における前記アセチレン化合物の配合量が10〜120ppmである請求項1乃至6のいずれか1項に記載の無電解ニッケルめっき浴。
請求項8:
フレキシブル基板にニッケルめっき皮膜を形成する際に用いられる請求項1乃至7のいずれか1項記載の無電解ニッケルめっき浴。
請求項9:
フレキシブル基板に、請求項1乃至7のいずれか1項記載の無電解ニッケルめっき浴を用いてニッケルめっき皮膜を形成することを特徴とするめっき方法。
請求項10:
40〜95℃でめっきすることを特徴とする請求項9記載のめっき方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の無電解ニッケルめっき浴により形成されるめっき皮膜は柔軟性に優れ、被めっき物へのつきまわりが良く、更に、電子部品分野において使用される場合であってもめっき皮膜にシミが生ずることがない。しかも、本発明の無電解ニッケルめっき浴はめっき浴の安定性に優れるのみならず、Pb、Bi、Tl、Cdなどの重金属イオンを含まないため人体や環境に優しいめっき浴である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の無電解ニッケルめっき浴は、水溶性ニッケル塩、有機酸又はその塩、次亜リン酸塩又はホウ素化合物、及びアセチレン化合物を含有する無電解ニッケルめっき浴であって、以下の(1)〜(3)のいずれか1又は2以上の特徴を有するめっき浴である。
(1)イオウ系化合物を含有し、且つPb、Bi、Tl、及びCdのいずれの金属イオンも含有しないことを特徴とする無電解ニッケルめっき浴。
(2)前記有機酸又はその塩が(A)アミノ酸又はその塩とヒドロキシカルボン酸又はその塩との組合せ、又は(B)ヒドロキシモノカルボン酸又はその塩とヒドロキシポリカルボン酸又はその塩との組合せを含有し、且つPb、Bi、Tl、及びCdのいずれの金属イオンも含有しないことを特徴とする無電解ニッケルめっき浴。
(3)亜リン酸又はその塩を含有し、且つPb、Bi、Tl、及びCdのいずれの金属イオンも含有しないことを特徴とする無電解ニッケルめっき浴。
【0010】
本発明における上記(1)の特徴を有する無電解ニッケルめっき浴において、上記イオウ系化合物としてはチオエーテル化合物、チオシアン化合物、及びチオン酸又はその塩等を挙げることができ、より具体的には硫化エチル、硫化メチル、チオジグリコール酸、チオシアン酸、チオシアン酸ナトリウム、二チオン酸、四チオン酸カリウム等が挙げられる。中でも、めっき浴中での安定性の観点からはチオジグリコール酸、チオシアン酸ナトリウム、四チオン酸カリウムが好適に用いられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0011】
上記(1)の特徴を有する無電解ニッケルめっき浴中における上記イオウ系化合物の配合量としては、通常0.01ppm以上、好ましくは0.03ppm以上、より好ましくは0.05ppm以上、上限として通常50ppm以下、好ましくは40ppm以下、更に好ましくは30ppm以下である。イオウ系化合物の上記配合量が0.01ppm未満であるとエッジ部のつきまわりが悪くなる場合があり、一方50ppmを超えると、めっき浴の安定性が悪くなる場合がある。
【0012】
本発明における上記(2)の特徴を有する無電解ニッケルめっき浴は、上記有機酸又はその塩として(A)アミノ酸又はその塩とヒドロキシカルボン酸との組合せ、又は(B)ヒドロキシモノカルボン酸とヒドロキシポリカルボン酸との組合せ、を含有するめっき浴である。
ここで、アミノ酸としては例えばグリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、フェニルアラニン等が挙げられ、これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
また、このようなアミノ酸としては、めっき浴中のニッケルイオンを安定に錯化し、浴安定性を高める観点から、カルボキシル基を2個以上有するアミノ酸であることが好ましく、上記アミノ酸の中でも特にアスパラギン酸、グルタミン酸が好適である。
なお、上記アミノ酸の塩としては、これらアミノ酸のカリウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩等を適宜使用することができる。
【0013】
上記ヒドロキシカルボン酸としては、例えばグリコール酸、乳酸、グルコン酸、サリチル酸等のヒドロキシモノカルボン酸;リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等のヒドロキシポリカルボン酸等が挙げられ、これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。中でも、広いpH範囲でもめっき浴中のニッケルイオンを安定に錯体形成し、浴安定性を高める観点から、上記ヒドロキシカルボン酸としてグルコン酸が好適に使用される。
なお、上記ヒドロキシカルボン酸の塩としては、これらヒドロキシカルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩等を適宜用いることができる。
【0014】
上記(2)の特徴を有する無電解ニッケルめっき浴が上記(A)アミノ酸又はその塩とヒドロキシカルボン酸又はその塩との組合せを含有する場合、該無電解ニッケルめっき浴中におけるアミノ酸又はその塩とヒドロキシカルボン酸又はその塩との総量の配合量としては、通常5g/L以上、好ましくは10g/L以上、より好ましくは20g/L以上、上限として通常70g/L以下、好ましくは60g/L以下、更に好ましくは50g/L以下である。アミノ酸又はその塩とヒドロキシカルボン酸又はその塩との総量の配合量が5g/L未満であると、めっき浴の白濁が生じる場合があり、一方70g/Lを超えると、めっき速度が低下し、形成された皮膜にピットが生じる場合がある。
また、上記(2)の特徴を有する無電解ニッケルめっき浴が上記(B)ヒドロキシモノカルボン酸又はその塩とヒドロキシポリカルボン酸又はその塩との組合せを含有する場合、該無電解ニッケルめっき浴中におけるヒドロキシモノカルボン酸又はその塩とヒドロキシポリカルボン酸又はその塩との総量の配合量としては、通常5g/L以上、好ましくは10g/L以上、より好ましくは15g/L以上、上限として通常70g/L以下、好ましくは60g/L以下、更に好ましくは50g/L以下である。ヒドロキシモノカルボン酸又はその塩とヒドロキシポリカルボン酸又はその塩との総量の配合量が5g/L未満であると、めっき浴の白濁が生じる場合があり、一方70g/Lを超えると、めっき速度が低下し、形成された皮膜にピットが生じる場合がある。
【0015】
本発明における上記(3)の特徴を有する無電解ニッケルめっき浴において、上記亜リン酸又はその塩としては亜リン酸、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸水素二ナトリウム、亜リン酸水素二カリウム等が挙げられる。中でも、フレキシブル基板をめっきする場合に安定して柔軟性のある皮膜を得る観点からは亜リン酸が好適に用いられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0016】
上記(3)の特徴を有する無電解ニッケルめっき浴中における上記亜リン酸又はその塩の配合量としては、通常8g/L以上、好ましくは12g/L以上、より好ましくは16g/L以上、上限として通常80g/L以下、好ましくは50g/L以下、更に好ましくは40g/L以下である。亜リン酸又はその塩の上記配合量が8g/L未満であるとめっき速度が低下する場合があり、一方80g/Lを超えると、めっき浴が白濁する場合がある。
【0017】
本発明における上記アセチレン化合物としては、めっき浴中に生成するニッケル等の微粒子を吸着し、浴安定性を高める観点から、分子中に−C≡C−構造を有する、実質的に水溶性のアセチレン系化合物が好適である。このようなアセチレン化合物としては、例えば分子中にヒドロキシル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシエトキシ基、スルホ基、アミノ基のような水溶性官能基を有するものが挙げられる。
好ましいアセチレン化合物としてより具体的には、下記一般式(I)
1−C≡C−R2・・・(I)
(式中、R1及び/又はR2は上述の水溶性官能基を有する置換基を示す。R1及びR2は同一でも異なっていても良い。)
で示されるアセチレン化合物が例示される。
ここで、上記置換基R1又はR2としては、例えば水素、ハロゲン基、ジエチルアミノエチル基、モルホリノメチル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シアノ基、及びこれらの置換基に上述の水溶性官能基を導入した置換基が挙げられる。
【0018】
上記アセチレン化合物としては、例えばブチンジオール、ブチンジオールエトキシレート、プロパルギルアルコール、プロパルギルアルコールエトキシレート、プロパルギルアルコールプロポキシレート、プロパルギルアルコールブトキシレート、ジメチルアミノプロピン、アミノプロピン等を挙げることができるが、ニッケル等の微粒子への吸着性の観点から、プロパルギルアルコール及び/又はその誘導体であることが好ましく、また、90℃前後という高温でめっきする場合にも気化せず安定に働くという観点から、中でもエトキシ化及び/又はプロポキシ化されたプロパルギルアルコールであることが好ましい。このようなエトキシ化及び/又はプロポキシ化されたプロパルギルアルコールとしてより具体的には、プロパルギルアルコールエトキシレート、プロパルギルアルコールプロポキシレートが挙げられる。
【0019】
本発明の無電解ニッケルめっき浴中における上記アセチレン化合物の配合量としては、通常10ppm以上、好ましくは20ppm以上、より好ましくは40ppm以上、上限として通常120ppm以下、好ましくは100ppm以下、更に好ましくは80ppm以下である。アセチレン化合物の上記配合量が10ppm未満であると浴安定性が悪くなったり皮膜の柔軟性が悪くなったりする場合があり、一方120ppmを超えると、めっき反応が停止する場合がある。
【0020】
本発明の無電解ニッケルめっき浴には、水溶性ニッケル塩、有機酸又はその塩、次亜リン酸塩又はホウ素化合物が含有される。
【0021】
本発明に用いられる上記水溶性ニッケル塩としては、本発明の無電解ニッケルめっき浴においてニッケル源となることが可能な水溶性ニッケル塩であれば特に限定されるものではないが、例えば硫酸ニッケル、塩酸ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル等を使用することができる。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を併用しても良い。
本発明の無電解ニッケルめっき浴中における上記水溶性ニッケル塩の配合量としては、ニッケル量として通常1g/L以上、好ましくは3g/L以上、より好ましくは4g/L以上、上限として通常10g/L以下、好ましくは8g/L以下、更に好ましくは7g/L以下である。水溶性ニッケル塩の上記配合量が1g/L未満であるとめっき速度が遅い場合があり、一方10g/Lを超えると、めっき浴の白濁が生じる場合がある。
【0022】
また、本発明に用いられる上記有機酸又はその塩としては、上述したアミノ酸又はその塩、ヒドロキシカルボン酸又はその塩に加え、酢酸等のモノカルボン酸又はその塩、こはく酸等のジカルボン酸又はその塩等が挙げられる。上述したアミノ酸又はその塩及びヒドロキシカルボン酸又はその塩はいずれもここでいう有機酸又はその塩の1種であり、本発明の無電解ニッケルめっき浴中においていわゆる錯化剤として作用する成分である。上記(1)乃至(3)のいずれかの特徴を有する無電解ニッケルめっき浴において、上記アミノ酸又はその塩或いはヒドロキシカルボン酸又はその塩が使用される場合には、さらに上記有機酸又はその塩を配合するか否かは任意であり、一方、上記アミノ酸又はその塩或いはヒドロキシカルボン酸又はその塩のいずれもが使用されない場合には、別途上記有機酸又はその塩が配合されることとなる。
本発明の無電解ニッケルめっき浴中における上記有機酸又はその塩の配合量としては、通常5g/L以上、好ましくは10g/L以上、より好ましくは20g/L以上、上限として通常70g/L以下、好ましくは60g/L以下、更に好ましくは50g/L以下である。上記有機酸又はその塩の配合量が5g/L未満であるとめっき浴が白濁する場合があり、一方70g/Lを超えると、めっき速度が低下し、形成した皮膜にピットが生じる場合がある。
【0023】
更に、本発明に用いられる上記次亜リン酸塩又はホウ素化合物は、本発明の無電解ニッケルめっき浴中において還元剤として作用する成分である。
このような次亜リン酸塩としては、例えば次亜リン酸カリウム、次亜リン酸ナトリウム等が挙げられ、本発明の無電解ニッケルめっき浴中におけるその配合量としては通常10g/L以上、好ましくは15g/L以上、より好ましくは20g/L以上、上限として通常50g/L以下、好ましくは40g/L以下、更に好ましくは35g/L以下である。次亜リン酸塩の上記配合量が10g/L未満であるとめっき速度が遅くなる場合があり、一方50g/Lを超えると、形成した皮膜にピットが生じたり、引張り応力が高くなったりする場合がある。
一方、ホウ素化合物としては、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化ホウ素化合物、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン等のアミンボラン化合物、ヒドラジン等が挙げられ、本発明の無電解ニッケルめっき浴中におけるその配合量としては通常1g/L以上、好ましくは2g/L以上、より好ましくは3g/L以上、上限として通常10g/L以下、好ましくは6g/L以下、更に好ましくは5g/L以下である。ホウ素化合物の上記配合量が1g/L未満であるとめっきが進行しない場合があり、一方10g/Lを超えると、浴安定性が悪くなる場合がある。
【0024】
本発明の無電解ニッケルめっき浴は、Pb、Bi、Tl、及びCdのいずれの金属イオンも含有しないことを特徴とする無電解ニッケルめっき浴である。Pb、Bi、Tl、及びCdの金属イオンよりなる群から選択された1種又は2種以上が含有されると、人体や環境にとって有害な金属イオンがめっき浴中に含まれることとなり、本発明の目的は達成し得ない。
【0025】
本発明の無電解ニッケルめっき浴を用いて無電解ニッケルめっきを行う際には、常法に従ってめっき操作を行えば良い。めっき操作時のめっき浴温度としても特に限定されるものではないが、通常40〜95℃、好ましくは60〜90℃である。めっき浴温度が上記範囲を外れると、めっき皮膜が析出しない場合や、めっき浴の分解が生じる場合がある。
また、めっき皮膜の析出速度としては、90℃のめっき浴温度において、通常2〜20μm/hr、好ましくは4〜16μm/hrである。めっき皮膜の析出速度が上記範囲を外れると、作業性が悪くなる場合や、めっき浴が不安定となる場合がある。
【0026】
本発明の無電解ニッケルめっき浴のpHとしては通常4.0以上、好ましくは4.4以上、上限として通常8.0以下、好ましくは7.0以下である。無電解ニッケルめっき浴のpHが4.0未満であると、めっき反応が起こらない場合があり、一方8.0を超えると、浴安定性が悪くなる場合がある。
本発明の無電解ニッケルめっき浴には、本発明の目的を損なわない範囲でpH調整剤等を適宜使用してもよく、このようなpH調整剤としては、例えば酸として硫酸、りん酸等、アルカリとして水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等が挙げられる。
【0027】
本発明の無電解ニッケルめっき浴は被めっき物を選ばないが、例えばフレキシブル基板等のプリント基板や、セラミックパッケージ等に対して無電解ニッケルめっきを施す際には特に好適に適用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0029】
[比較例1〜3]
下記A,B,Cのめっき浴を調整した。被めっき物として鉄板(SPCC材)を用い、調整した無電解ニッケルめっき浴1L中に、A,B浴は85℃にて20分、C浴は65℃にて60分間被めっき物を浸漬した。浸漬後に得られたニッケルめっき皮膜(膜厚15μm)の柔軟性とつきまわり、及び浴安定性につき下記方法及び下記基準にて評価を行った。結果を表1に示す。
A浴
硫酸ニッケル 20g/L
次亜リン酸ナトリウム 20g/L
コハク酸ナトリウム 20g/L
乳酸 30g/L
プロパルギルアルコールエトキシレート 10ppm
28%アンモニア水 15ml/L
pH 4.5

B浴
塩化ニッケル 18g/L
次亜リン酸ナトリウム 20g/L
コハク酸ナトリウム 20g/L
乳酸 30g/L
ブチンジオールエトキシレート 10ppm
28%アンモニア水 15ml/L
pH 6.0

C浴
硫酸ニッケル 27g/L
ジメチルアミンボラン 3g/L
コハク酸ナトリウム 10g/L
乳酸 30g/L
プロパルギルアルコールエトキシレート 10ppm
28%アンモニア水 40ml/L
pH 6.5
【0030】
浴安定性
被めっき物へのめっきを施した後の、めっき浴の様子を下記基準にて評価した。
良 :めっき浴中にニッケルの沈殿は観察されなかった。
不可:めっき浴中にニッケルの沈殿が確認された。
エッジ部つきまわり
同めっき浴でカッターナイフの刃にめっきを行い、刃先の様子を顕微鏡で下記基準にて評価した。
良 :ニッケルめっき皮膜により完全に覆われていた。
不可:一部ニッケルめっき皮膜が形成されていない、又は剥離している箇所がある。
皮膜柔軟性
形成されたニッケルめっき皮膜にエリクセン試験(1mm)を実施し、皮膜のワレ具合を観察した。
優 :ワレが全く見られない。
良 :ワレ具合がうろこ状に発生する。
不可:ワレ具合が放射状に発生する。
【0031】
【表1】

【0032】
[実施例1〜7,比較例4〜6]
上記めっき浴A,B,Cに、下記表2に示す化合物を添加して、上記比較例1〜3と同様の条件下でニッケルめっき皮膜を形成した。得られたニッケルめっき皮膜につき、上記比較例1〜3と同様の評価を行なった。結果を表2に併記する。
【0033】
【表2】

【0034】
[実施例8〜27、比較例7〜11]
下表3〜8に示す配合にて無電解ニッケルめっき浴を調製した。各原料の配合濃度の単位は、特に断りのない限りg/Lである。pH調整は28%アンモニア水を適宜添加することで行った。
被めっき物として鉄板(SPCC材)を用い、上記調製した無電解ニッケルめっき浴1L中に85℃にて20分間(還元剤にジメチルアミンボランを用いている場合には65℃にて60分間)被めっき物を浸漬した。めっき浴の調製時のpH、浸漬後に得られたニッケルめっき皮膜のつきまわり、及びニッケルめっき皮膜の柔軟性、浴安定性につき上述した方法及び基準にて評価を行った。結果を表3〜8に併記する。
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
【表6】

【0039】
【表7】

【0040】
【表8】

【0041】
[実施例28〜33]
被めっき物として銅めっきされたフレキシブル基板又はセラミック基板を用いて、公知の前処理、触媒付与を行った後、下表9に示す無電解ニッケルめっき浴に浸漬した。ニッケルめっき皮膜を形成後、下記に示す置換金めっき浴に85℃にて10分間被めっき物を浸漬して金めっき皮膜を形成した。この金めっき皮膜を形成した被めっき物を200℃で1時間加熱処理した後、下記方法にてシミの有無、及び被めっき物がフレキシブル基板である場合には加えてニッケルめっき皮膜のワレに起因する柔軟性の有無を評価した。結果を併せて表9に示す。

置換金めっき浴
シアン化金カリウム 2.9g/L
クエン酸アンモニウム 50g/L
EDTA 10g/L
pH 4.6
【0042】
シミの有無
金めっき皮膜にシミが発生しているかどうかを観察した。
良 :シミは観察されなかった。
不可:シミが観察された。
ニッケルめっき皮膜のワレに起因する柔軟性の有無
エリクセン試験機(1mm)で下記基準に従って評価した。
良 :ワレの発生が見られない。
不可:ワレの発生が見られる。
【0043】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ニッケル塩、有機酸又はその塩、次亜リン酸塩又はホウ素化合物、及びアセチレン化合物を含有する無電解ニッケルめっき浴において、
前記有機酸又はその塩が(A)アミノ酸又はその塩とヒドロキシカルボン酸又はその塩との組合せ、又は(B)ヒドロキシモノカルボン酸又はその塩とヒドロキシポリカルボン酸又はその塩との組合せを含有し、且つPb、Bi、Tl、及びCdのいずれの金属イオンも含有しないことを特徴とする無電解ニッケルめっき浴。
【請求項2】
前記アミノ酸が、カルボキシル基を2個以上有するアミノ酸である請求項1記載の無電解ニッケルめっき浴。
【請求項3】
前記ヒドロキシカルボン酸が、グルコン酸である請求項1又は2記載の無電解ニッケルめっき浴。
【請求項4】
水溶性ニッケル塩、有機酸又はその塩、次亜リン酸塩又はホウ素化合物、及びアセチレン化合物を含有する無電解ニッケルめっき浴において、
更に亜リン酸又はその塩を含有し、且つPb、Bi、Tl、及びCdのいずれの金属イオンも含有しないことを特徴とする無電解ニッケルめっき浴。
【請求項5】
前記アセチレン化合物が、プロパルギルアルコール及び/又はその誘導体である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の無電解ニッケルめっき浴。
【請求項6】
前記プロパルギルアルコール及び/又はその誘導体が、エトキシ化及び/又はプロポキシ化されたプロパルギルアルコールである請求項5記載の無電解ニッケルめっき浴。
【請求項7】
前記無電解ニッケルめっき浴中における前記アセチレン化合物の配合量が10〜120ppmである請求項1乃至6のいずれか1項に記載の無電解ニッケルめっき浴。
【請求項8】
フレキシブル基板にニッケルめっき皮膜を形成する際に用いられる請求項1乃至7のいずれか1項記載の無電解ニッケルめっき浴。
【請求項9】
フレキシブル基板に、請求項1乃至7のいずれか1項記載の無電解ニッケルめっき浴を用いてニッケルめっき皮膜を形成することを特徴とするめっき方法。
【請求項10】
40〜95℃でめっきすることを特徴とする請求項9記載のめっき方法。

【公開番号】特開2008−274444(P2008−274444A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212314(P2008−212314)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【分割の表示】特願2003−360248(P2003−360248)の分割
【原出願日】平成15年10月21日(2003.10.21)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】