説明

無電解パラジウムめっき浴及び無電解パラジウムめっき方法

【課題】建浴後、所定日数が経過してもめっき析出速度が著しく低下せず、長期に亘ってほぼ一定のめっき析出速度を維持する無電解パラジウムめっき浴及び無電解パラジウムめっき方法を提供する。
【解決手段】パラジウムを0.1〜g/0.4L含有し、且つ、パラジウムと錯形成する錯化剤をパラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)が25〜250となる濃度で含有する無電解パラジウムめっき浴に被めっき物を浸漬して被めっき物上に無電解パラジウムめっき皮膜を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解パラジウムめっきを行うための無電解パラジウムめっき浴、及び、当該無電解パラジウムめっき浴を用いた無電解パラジウムめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品を搭載するプリント基板や半導体を搭載する半導体搭載用基板、或いは表面実装用の電子部品等の表面処理において、はんだ接合信頼特性及びワイヤボンディング接続信頼特性を向上させるために、無電解ニッケルめっき皮膜と無電解金めっき皮膜との間に無電解パラジウムめっき皮膜を形成させる3段階のめっきが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−92092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無電解パラジウムめっきにおいて使用される無電解パラジウムめっき浴は、建浴後時間経過に伴ってめっき析出量(めっき析出速度)が著しく低下するという問題を有する。
【0005】
通常、めっき皮膜の膜厚は、表面実装用のプリント基板や半導体搭載用基板等の被めっき物やめっき製造ラインによって設定されている。めっき処理は、前処理からの各工程の時間制御により行われるが、めっき浴の建浴後時間経過に伴ってめっき析出速度が著しく低下すると、建浴時に設定されているめっき処理時間では一定値以上の膜厚のめっき皮膜を形成させることができず、必要なめっき皮膜性能を得ることができない。また、所定のめっき皮膜の膜厚を得るためには、めっき析出速度の低下に伴って頻繁にめっき処理時間を変更する必要があるため、各工程の時間制御が煩雑となり、めっきの生産性が低下する。
【0006】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、建浴後所定日数経過後のめっき析出速度の著しい低下を抑制することで、長期に亘ってほぼ一定のめっき析出速度を維持する無電解パラジウムめっき浴及びこの無電解パラジウムめっき浴を用いた無電解パラジウムめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、所定の低濃度のパラジウム溶液に、パラジウムと錯形成する錯化剤をパラジウムとのモル比が所定値となる濃度で添加することにより、建浴後所定日数が経過してもめっき析出速度が著しく低下することなく、長期に亘ってほぼ一定のめっき速度が維持されることを見出した。
【0008】
すなわち、上述した課題を解決するために、本発明に係る無電解パラジウムめっき浴は、パラジウムを0.1〜0.4g/L含有し、且つ、上記パラジウムと錯形成する錯化剤を上記パラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)が25〜250となる濃度で含有する。
【0009】
また、上述した課題を解決するために、本発明に係る無電解パラジウムめっき方法は、パラジウムを0.1〜0.4g/L含有し、且つ、上記パラジウムと錯形成する錯化剤を上記パラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)が25〜250となる濃度で含有する無電解パラジウムめっき浴に被めっき物を浸漬して当該被めっき物上に無電解パラジウムめっき皮膜を形成させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、建浴後所定日数が経過してもめっき析出速度が著しく低下することなく、長期に亘ってほぼ一定のめっき析出速度を維持させることが可能となる。これにより、めっき処理時間を変更することなく所定の膜厚のめっき皮膜を形成させることが可能となり、めっきの生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】無電解パラジウムめっき浴の建浴後常温で放置した際の、無電解パラジウムめっきのめっき析出速度[μm/15min]の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について説明する。
【0013】
<無電解パラジウムめっき浴>
本実施の形態における無電解パラジウムめっき浴は、水を溶媒として、パラジウム(Pd)と、パラジウムと錯形成する錯化剤と、還元剤とを含有し、パラジウムイオンが還元剤の働きによって還元されてニッケル(Ni)表面にパラジウムを析出させる還元型の無電解パラジウムめっき浴である。
【0014】
パラジウム塩としては、特に限定されるものではなく、例えば、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、テトラアンミンパラジウムジクロライド、ジクロロジエチレンジアミンパラジウム等を挙げることができる。
【0015】
錯化剤としては、無電解パラジウムめっき浴中でパラジウムに配位してパラジウムと錯形成する化合物であり、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,3−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,3−ジアミノペンタン、2,4−ジアミノペンタン、1,4−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ベンジルアミン、テトラメチレンジアミン、ジエチレントリアミン等を挙げることができる。錯化剤としては、これらの化合物のうち少なくとも1種を挙げることができるが、中でもエチレンジアミンが特に好ましい。
【0016】
錯化剤の濃度は、0.025〜2mol/Lであることが好ましい。錯化剤の濃度が0.025mol/L未満である場合、めっき浴は不安定になり分解する虞がある。また、錯化剤の濃度が2mol/Lよりも大きい場合、めっき浴の浴安定性は向上するもののめっき析出速度は低下するとともに経済的にも不利である。
【0017】
還元剤としては、例えば、次亜リン酸、亜リン酸、ギ酸、それらの塩から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。還元剤として次亜リン酸塩を用いた無電解パラジウムめっき浴からは、無電解パラジウム−リンめっき皮膜が得られ、パラジウムめっき皮膜中のリン含有率は2〜7%である。また、還元剤として亜リン酸塩を用いた無電解パラジウムめっき浴からは、無電解パラジウム−リンめっき皮膜が得られ、パラジウムめっき皮膜中のリン含有率は0〜2%である。また、還元剤としてギ酸塩を用いた無電解パラジウムめっき浴からは、無電解純パラジウムめっき皮膜が得られる。
【0018】
無電解パラジウムめっき皮膜は、このような還元剤の還元作用によりパラジウムが析出される無電解パラジウムめっきにより得られるものであり、均一且つ緻密に下地の無電解ニッケルめっき皮膜上に形成されるため、無電解ニッケルめっき皮膜とは強固に密着し、両者間での剥がれが有効に防止されている。
【0019】
還元剤として例えば次亜リン酸ナトリウムを用いた場合、次亜リン酸ナトリウム濃度は、0.001〜0.5mol/L、特に0.005〜0.2mol/Lであることが好ましい。次亜リン酸ナトリウム濃度が0.001mol/L未満である場合にはめっき析出速度が低くなり、次亜リン酸ナトリウム濃度が0.5mol/Lよりも大きい場合にはめっき浴が不安定になる虞がある。
【0020】
なお、本実施の形態における無電解パラジウムめっき浴には、下地の無電解ニッケルめっき皮膜のニッケルと錯形成する錯化剤をさらに添加してもよい。ニッケルと錯形成する錯化剤は、無電解ニッケルめっき皮膜と無電解パラジウムめっき皮膜とを強固に密着させることが可能である。このような錯化剤としては、例えば、アミノカルボン酸又はこの塩、ポリカルボン酸又はこの塩等を挙げることができる。アミノカルボン酸としては、例えばグリシン、エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム、トリエチレンジアミンテトラ酢酸、グルタミン酸、アスパラギン酸等を挙げることができる。ポリカルボン酸としては、例えばマロン酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸等を挙げることができる。このような錯化剤として、例えばエチレンジアミン4酢酸4ナトリウムを用いた場合、エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム濃度は、0.0002〜0.3mol/L程度、より好ましくは0.001〜0.1mol/L程度とすることが可能である。
【0021】
無電解パラジウムめっき浴が含有するパラジウム塩におけるパラジウム濃度は、0.1〜0.4g/Lであることが好ましい。パラジウム濃度が0.1g/L未満である場合、めっき皮膜となるパラジウムの濃度が不十分であるため、めっき析出速度が低くなり、これにより、無電解パラジウムめっきの生産性が低下する。また、パラジウム濃度が低い場合、無電解パラジウムめっき浴の経時的なめっき析出速度の低下におけるめっき析出速度の低下率が大きくなる。めっき析出速度の低下率が大きい場合、めっき浴におけるパラジウム塩の補充を頻繁に行う必要があり、めっきの生産性が低下するとともにめっき浴の管理が困難となる。
【0022】
また、パラジウム濃度が0.4g/Lよりも大きい場合、無電解パラジウムめっき浴の建浴後の経時的なめっき析出速度が著しく低下するとともに、めっき浴が不安定になりめっき浴が分解する虞があり、また、経済的にも不利である。
【0023】
また、錯化剤とパラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)は25〜250であることが好ましい。錯化剤とパラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)が25未満である場合、無電解パラジウムめっき浴の経時的なめっき析出速度の低下が起こりやすくなるとともに、めっき浴が不安定となりめっき浴が分解する虞がある。また、錯化剤とパラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)が250よりも大きい場合、めっき浴の安定性は向上するものの、めっき析出速度は低くなり、経済的にも不利である。
【0024】
これにより、本実施の形態における無電解パラジウムめっき浴では、パラジウム濃度を0.1〜0.4g/Lとし、且つ、錯化剤とパラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)を25〜250とすることが好ましい。なお、錯化剤とパラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)は、錯化剤となる化合物の分子量に応じて適宜調整するようにする。これは、錯化剤となる化合物の分子量が大きくなると、錯化力が弱くなる傾向にあるためである。すなわち、錯化剤とパラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)は、25〜250の範囲のうち、錯化剤の分子量を考慮した適性な値となるように調整する。
【0025】
本実施の形態における無電解パラジウムめっき浴では、パラジウム濃度を0.1〜0.4g/Lとし、且つ、錯化剤とパラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)を25〜250とすることにより、建浴後所定日数が経過しても、無電解パラジウムめっきのめっき析出速度が著しく低下せず、長期に亘ってほぼ一定のめっき析出速度を維持させることができ、建浴直後のめっき析出速度に対する建浴後所定日数経過後のめっき析出速度の速度維持率を高い値とすることができる。これにより、所定日数以内では時間経過に拘らずほぼ一定の膜厚の無電解パラジウムめっき皮膜を形成させることが可能である。
【0026】
上述のパラジウム濃度、及び、錯化剤とパラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)の内、例えばパラジウム濃度を0.1g/Lとした場合、錯化剤とパラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)を50〜250とすることにより、建浴後所定日数が経過してもめっき析出速度は低下せず、建浴直後のめっき析出速度に対する建浴後所定日数経過後のめっき析出速度の速度維持率をより高い値とすることができる。また、例えばパラジウム濃度を0.4g/Lとした場合、錯化剤とパラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)を25〜100とすることにより、建浴後所定日数が経過してもめっき析出速度は著しく低下せず、建浴直後のめっき析出速度に対する建浴後所定日数経過後のめっき析出速度の速度維持率をより高い値とすることができるとともに、無電解パラジウムめっき処理工程においてより好適なめっき析出速度を実現できる。
【0027】
また、従来の無電解パラジウムめっき浴においては、パラジウム濃度を0.5g/L以上とするのが一般的であったが、本実施の形態における無電解パラジウムめっき浴では、パラジウム濃度を0.1〜0.4g/Lと低濃度にすることにより、従来の無電解パラジウムめっき浴を用いた場合よりもコストメリットを図ることが可能となる。
【0028】
本実施の形態における無電解パラジウムめっき浴では、特に、パラジウム濃度を0.2〜0.4g/Lとし、且つ、錯化剤とパラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)を25〜150とすることが好ましい。パラジウム濃度を0.2〜0.4g/Lとし、且つ、錯化剤とパラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)を25〜150とすることにより、無電解パラジウムめっき処理工程においてより好適なめっき析出速度を実現できる。
【0029】
本実施の形態における無電解パラジウムめっき浴には、さらに安定剤を添加してもよい。安定剤としては、例えば、イオウ化合物、鉛、その他有機化合物等を挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0030】
<無電解ニッケル/無電解パラジウム/無電解金めっき>
本実施の形態における無電解パラジウムめっき浴は、例えば、クリーナ処理、酸洗浄、エッチング、プレディップ、キャタリストからなる前処理を施した銅張り積層板等の基板の表面に、無電解ニッケルめっき皮膜、無電解パラジウムめっき皮膜、無電解金(Au)めっき皮膜を順次形成する無電解ニッケル/無電解パラジウム/無電解金めっきを行う3段階のめっきに適用することが可能である。このような無電解ニッケル/無電解パラジウム/無電解金めっきによって形成された3層構造のめっき皮膜は、主に鉛フリーはんだボール接合やワイヤボンディング等に適用される。
【0031】
本実施の形態では、基板に対して上述の前処理を行った後に上述の3段階のめっきを行うことにより、基板上に無電解ニッケルめっき皮膜と、無電解パラジウムめっき皮膜と、無電解金めっき皮膜とを順次形成させる。
【0032】
被めっき物である基板の材料としては、銅が好ましいが、これに限られず、例えば、鉄、コバルト、錫、銀、金、白金、パラジウム等或いはこれらの合金といった無電解パラジウムめっきの還元析出に触媒性のある金属等を用いることができる。また、触媒性のない金属であっても、種々の方法により被めっき物として用いることができる。
【0033】
本実施の形態では、例えば、クリーナ処理、酸洗浄、エッチング、プレディップ、キャタリストからなる前処理を施した基板を無電解ニッケルめっき浴に所定時間浸漬する無電解ニッケルめっきを行い、基板上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成させる。
【0034】
無電解ニッケルめっき浴としては、例えば、リンを数%含有する無電解ニッケル−リン(Ni−P)めっき浴を用いることができる。ニッケル−リン合金めっきは、耐食性、耐摩耗性に優れた特徴を有するため、機械部品、電子部品等の表面材料として広く使用されている。
【0035】
無電解ニッケル−リンめっき等により無電解ニッケルめっき皮膜が形成された基板を被めっき物として無電解パラジウムめっき浴に浸漬する。この無電解パラジウムめっきにより、無電解ニッケルめっき皮膜上に無電解パラジウムめっき皮膜を形成させる。無電解パラジウムめっき皮膜は、従来の無電解ニッケル/無電解金めっきにより無電解ニッケルめっき皮膜を腐食していた無電解金めっき皮膜に対する保護皮膜として有効である。
【0036】
本実施の形態では、無電解ニッケルめっき皮膜上に無電解パラジウムめっき皮膜が形成された基板を被めっき物として無電解金めっき浴に浸漬する。これにより、無電解パラジウムめっき皮膜上に無電解金めっき皮膜を形成させる。無電解金めっきは、例えば下地のパラジウム表面を活性化し、パラジウムを触媒として還元剤により金を析出させ、析出した金を触媒として金を析出させる置換還元型の無電解金めっきとすることができる。このような置換還元型の無電解金めっきからは均一な膜厚の金めっき皮膜を得ることができる。
【0037】
無電解ニッケル/無電解パラジウム/無電解金めっきにより無電解ニッケル/無電解パラジウム/無電解金めっき皮膜が形成された基板は、プリント基板や電子部品の表面処理に有用であり、無電解ニッケル/無電解金めっき皮膜が形成された基板よりもはんだ接合信頼性及びワイヤボンディング接続信頼性の点でより良い効果を発揮する。
【0038】
パラジウム濃度を0.1〜0.4g/Lとし、且つ、錯化剤とパラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)を25〜250とした本実施の形態における無電解パラジウムめっき浴を、無電解ニッケル/無電解パラジウム/無電解金めっきに適用することにより、無電解パラジウムめっき浴を建浴後、所定日数が経過しても時間経過に伴うめっき析出速度の著しい低下が起こらないため、めっき処理時間を変更する必要が無く、各工程の時間制御を簡易なものとすることが可能となる。そして、このような簡易な制御で必要な皮膜性能を有する所定の膜厚の無電解パラジウムめっき皮膜を無電解ニッケルめっき皮膜上に形成させることができ、この無電解パラジウムめっき皮膜上に無電解金めっき皮膜が形成されることにより、基板の製造処理においては、優れたはんだ接合性及びワイヤボンディング性を有する基板を製造することが可能となる。
【0039】
さらに、本実施の形態では、無電解パラジウムめっき浴中のパラジウム濃度を0.1〜0.4g/Lと低濃度にすることにより、コストメリットを図ることが可能となる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0041】
本実施例では、銅張り積層板(基板)(大きさ10cm×20cm、厚さ0.1mm)に対し、[表1]に示す処理(1)〜(8)を順次行い、無電解パラジウムめっきのめっき析出速度(15分間に析出した無電解パラジウムめっき皮膜の膜厚)[μm/15min]を測定した。また、BGA基板に対して処理(1)〜(8)を順次行い、BGA基板上に形成された電解ニッケル/無電解パラジウム/無電解金めっき皮膜のはんだ接合性、ワイヤボンディング性をそれぞれ測定した。
【0042】
【表1】

【0043】
<無電解パラジウムめっき浴の調製>
処理(7)で使用する無電解パラジウムめっき浴を、[表2]に示すように、水を溶媒とし、錯化剤としてエチレンジアミン、還元剤として次亜リン酸ナトリウム、パラジウム化合物としてテトラアンミンパラジウムジクロライド、エチレンジアミン4酢酸4ナトリウムをそれぞれ[表2]に示す濃度で含有するように調整し、[サンプル1]〜[サンプル21]とした。
【0044】
[表2]に、[サンプル1]〜[サンプル21]の組成、パラジウム濃度[g/L]、エチレンジアミン濃度[g/L]、錯化剤であるエチレンジアミンとパラジウムとのモル比(エチレンジアミン/パラジウム)を示す。
【0045】
[サンプル1]〜[サンプル21]の何れにおいても、次亜リン酸ナトリウム濃度を0.03mol/L、エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム濃度を0.03mol/Lとした。また、パラジウム濃度[g/L]は、テトラアンミンパラジウムジクロライド濃度[mol/L]からパラジウム原子量106.4を用いて算出されたものであり、小数点第2位以下を切り捨て有効数字1桁とした値である。
【0046】
<無電解パラジウムめっきのめっき析出速度の測定>
本実施例では、[サンプル1]〜[サンプル21]にて50℃で15分間めっき処理した際の無電解パラジウムめっきのめっき析出速度を測定した。
【0047】
具体的には、処理(1)〜(8)により無電解ニッケル/無電解パラジウム/無電解金めっきが形成された銅張り積層板を用いて、浸漬後15分間に形成した無電解パラジウムめっき皮膜の膜厚[μm](無電解パラジウムめっきのめっき析出速度[μm/15min])をエスアイアイナノテクノロジー製 蛍光X線膜厚計 SFT−9550により測定した。この測定結果から、無電解パラジウムめっき浴の建浴後、常温で放置した際の無電解パラジウムめっきのめっき析出速度の経時的な変化を調べた。
【0048】
[表2]に、[サンプル1]〜[サンプル21]における建浴直後のめっき析出速度[μm/15min]、建浴後5日間常温で放置した後のめっき析出速度[μm/15min]、建浴後10日間常温で放置した後のめっき析出速度[μm/15min]、建浴後30日間常温で放置した後のめっき析出速度[μm/15min]を示す。
【0049】
また、測定されためっき析出速度[μm/15min]を用いて、建浴後10日間、30日間それぞれ常温で放置した後の建浴直後(初期)のめっき析出速度に対するめっき析出速度の速度維持率(x日後/初期×100)[%](x=10,30))を算出した。[表2]に、建浴直後(初期)のめっき析出速度に対する建浴後10日間常温で放置した後のめっき析出速度の速度維持率(10日後/初期×100)[%]、建浴直後のめっき析出速度に対する建浴後30日間常温で放置した後のめっき析出速度の速度維持率(30日後/初期×100)[%]を示す。また、図1に、無電解パラジウムめっき浴の建浴後常温で放置した際の、無電解パラジウムめっきのめっき析出速度[μm/15min]の経時変化を示す。
【0050】
[表2]及び図1に示すように、パラジウム濃度を0.1〜0.4g/Lとし、且つ、エチレンジアミンとパラジウムとのモル比(エチレンジアミン/パラジウム)を25〜250とした[サンプル1]〜[サンプル16]は、建浴直後のめっき析出速度に対する建浴後10日間常温で放置した後のめっき析出速度の速度維持率(10日後/初期×100)[%]が71%以上であり、建浴直後のめっき析出速度に対する建浴後30日間常温で放置した後のめっき析出速度の速度維持率(30日後/初期×100)[%]が57%以上であった。
【0051】
この内、例えばパラジウム濃度を0.1g/Lとした場合には、エチレンジアミンとパラジウムとのモル比(エチレンジアミン/パラジウム)を50〜250とすることにより、建浴直後のめっき析出速度に対する建浴後10日間常温で放置した後のめっき析出速度の速度維持率を83%以上とすることができた([サンプル4]、[サンプル6]、[サンプル7])。また、例えばパラジウム濃度を0.4g/Lとした場合には、エチレンジアミンとパラジウムとのモル比(エチレンジアミン/パラジウム)を25〜100とすることにより、建浴後、常温で所定日数放置しても十分なめっき析出速度(0.1μm/15min以上)を実現することができた([サンプル1]、[サンプル5]、[サンプル12])。
【0052】
また、特に、パラジウム濃度を0.2〜0.4g/Lとし、且つ、エチレンジアミンとパラジウムとのモル比(エチレンジアミン/パラジウム)を25〜150とした[サンプル1]〜[サンプル3]、[サンプル5]、[サンプル8]〜[サンプル12]は、建浴後10日間常温で放置した後のめっき析出速度が0.06μm/15min以上であり、建浴後30日間常温で放置した後のめっき析出速度が0.05μm/15min以上であるめっき浴とすることができた。
【0053】
本実施例の無電解パラジウムめっき浴において、パラジウム濃度を0.2〜0.4g/Lとし、且つ、エチレンジアミンとパラジウムとのモル比(エチレンジアミン/パラジウム)を25〜150とすることにより、建浴後所定日数経過しても、めっき析出速度が低下しないため、無電解パラジウムめっき処理工程において、めっき処理時間を変更することなく好適なめっき析出速度(0.05μm/15min以上或いは0.06μm/15min以上)で無電解パラジウムめっき皮膜を形成させることが可能となる。これにより、無電解パラジウムめっき処理工程において実用性及び生産性が高い無電解パラジウムめっき浴とすることが可能となる。
【0054】
一方、[サンプル17]〜[サンプル20]は、建浴直後のめっき析出速度に対する建浴後10日間常温で放置した後のめっき析出速度の速度維持率(10日後/初期×100)[%]が50%以下となった。また、[サンプル21]は、建浴後、常温で放置しても無電解パラジウムめっきのめっき析出速度の大きな変化はなかったが、建浴後、常温で30日間放置すると、15分間浸漬した被めっき物の無電解ニッケルめっき皮膜上に無電解パラジウムめっき皮膜は全く形成されなくなった。
【0055】
このように、パラジウム濃度を0.1〜0.4g/Lとし、且つ、錯化剤であるエチレンジアミンとパラジウムとのモル比(エチレンジアミン/パラジウム)を25〜250とした[サンプル1]〜[サンプル16]は、建浴後常温で30日間放置しても、めっき析出速度は低下せず建浴時よりほぼ一定のめっき析出速度が維持された。
【0056】
<はんだ接合性及びワイヤボンディング性の測定>
また、本実施例では、BGA基板に形成された電解ニッケル/無電解パラジウム/無電解金めっき皮膜のはんだ接合性、ワイヤボンディング性をそれぞれ測定した。
【0057】
≪はんだ接合性≫
Dage社製ボンドテスタSERIES4000により、以下の測定条件で1条件につき20点評価し、はんだ破断率が90%以上である場合を「優」、80%以上90%未満である場合を「良」、80%未満である場合を「不良」とした。
〔測定条件〕
測定方式:ボールプルテスト
基板:上村工業(株)製BGA基板(パット径 φ0.5mm)
半田ボール:千住金属製 φ0.6mm Sn−3.0Ag−0.5Cu
リフロー装置:タムラ製作所製 TMR−15−22LH
リフロー条件:Top 240℃
リフロー環境:Air
リフロー回数:5回
フラックス:千住金属製 529D−1(RMAタイプ)
テストスピード:1000μm/秒
半田マウント後エージング:1時間
【0058】
≪ワイヤボンディング性≫
TPT社製セミオートマチックワイヤボンダHB16によりワイヤボンディングを行い、Dage社製ボンドテスタSERIES4000により、以下の測定条件で1条件につき20点評価し、ワイヤボンディング性評価としてワイヤボンディング平均強度が9g以上である場合を「優」、8g以上9g未満である場合を「良」、8g未満である場合を「不良」とした。
〔測定条件〕
キャピラリー:B1014−51−18−12(PECO)
ワイヤ:1Mil−Gold
ステージ温度:150℃
超音波(mW):250(1st),250(2nd)
ボンディング時間:(ミリ秒):200(1st),50(2nd)
引っ張り力(gf):25(1st),50(2nd)
ステップ(第1から第2への長さ):0.700mm
測定方式:ワイヤープルテスト
基板:上村工業(株)BGA基板
テストスピード:170μm/秒
【0059】
[表2]に、建浴直後、建浴後5日間常温で放置した後、建浴後10日間常温で放置した後、及び、建浴後30日間常温で放置した後の[サンプル1]〜[サンプル21]を用いた場合における無電解ニッケル/無電解パラジウム/無電解金めっき皮膜のはんだ接合性及びワイヤボンディング性の測定結果を示す。[表2]に示すように、パラジウム濃度を0.1〜0.4g/Lとし、且つ、錯化剤であるエチレンジアミンとパラジウムとのモル比(エチレンジアミン/パラジウム)を25〜250とした[サンプル1]〜[サンプル16]におけるはんだ接合性及びワイヤボンディング性は、それぞれ「優」又は「良」の結果が得られた。
【0060】
一方、[サンプル17]〜[サンプル19]は、建浴直後においてはんだ接合性が「不良」であった。また、[サンプル20]は、建浴直後及び建浴後5日間常温放置後においてはんだ接合性が「不良」であった。また、[サンプル21]は、建浴直後、建浴後5日間常温で放置した後、建浴後10日間常温で放置した後、及び、建浴後30日間常温で放置した後の何れにおいてもはんだ接合性及びワイヤボンディング性がともに「不良」であった。
【0061】
本実施例の[サンプル1]〜[サンプル16]は、パラジウム濃度を低濃度とした無電解パラジウムめっき浴において、建浴後所定日数が経過しても無電解パラジウムめっきのめっき析出速度が著しく低下せず長期に亘ってほぼ一定のめっき析出速度を維持させることが可能であり、めっき処理時間を変更することなく、必要な皮膜性能を有する所定の膜厚の無電解パラジウムめっき皮膜を形成させることが可能となる。
【0062】
また、このような所定のめっき皮膜の膜厚を有する無電解パラジウムめっき皮膜上に無電解金めっき皮膜が形成されることにより、基板の製造処理においては、優れたはんだ接合性及びワイヤボンディング性を有する基板を製造することが可能となる。
【0063】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムを0.1〜0.4g/L含有し、且つ、上記パラジウムと錯形成する錯化剤を上記パラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)が25〜250となる濃度で含有する無電解パラジウムめっき浴。
【請求項2】
上記錯化剤は、エチレンジアミンである請求項1記載の無電解パラジウムめっき浴。
【請求項3】
無電解ニッケルめっき皮膜上に無電解パラジウムめっき皮膜を形成させる請求項1記載の無電解パラジウムめっき浴。
【請求項4】
パラジウムを0.1〜0.4g/L含有し、且つ、上記パラジウムと錯形成する錯化剤を上記パラジウムとのモル比(錯化剤/パラジウム)が25〜250となる濃度で含有する無電解パラジウムめっき浴に被めっき物を浸漬して当該被めっき物上に無電解パラジウムめっき皮膜を形成させる無電解パラジウムめっき方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−196121(P2010−196121A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43041(P2009−43041)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】