説明

焦電型赤外線センサ

【課題】出力電圧の高出力化を図れ且つS/N比の向上を図ることが可能な焦電型赤外線センサを提供する。
【解決手段】焦電型赤外線センサ10は、基板1の一表面側に設けられたダイアフラム部2の一面側に複数の受光部3を備えている。各受光部3の各々は、ダイアフラム部2の厚み方向において互いに対向する第1電極31と第2電極32との間に焦電体薄膜33を有する複数個の受光エレメント3aを有し且つ当該複数個の受光エレメント3aが直列接続されている。要するに、各受光部3の各々は、複数個の受光エレメント3aに分割され直列接続されている。また、複数の受光部3は、逆直列に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦電型赤外線センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、赤外線検出装置として、焦電素子と、焦電素子がゲートに接続されるインピーダンス変換用の電界効果トランジスタ(FET)と、この電界効果トランジスタのゲート電位を設定するための抵抗とを用いたものが広く知られている。
【0003】
上述の焦電素子としては、周囲環境(使用環境)の温度変化によるノイズを低減するために、1枚の焦電体基板に2個の受光部(赤外線受光部)を形成したデュアル素子(デュアルタイプの焦電素子)が広く実用化されている。また、焦電素子としては、1枚の焦電体基板に4個の受光部を形成したクワッド素子(クワッドタイプの焦電素子)も広く実用化されている。なお、焦電素子としては、1枚の焦電体基板に1個の受光部を形成したシングル素子(シングルタイプの焦電素子)も実用化されている。
【0004】
また、従来から、MEMS(micro electro mechanicalsystems)製造技術を利用して製造された焦電型赤外線センサ(MEMS赤外線センサとも呼ばれている)が知られている。MEMS製造技術としては、バルクマイクロマシニング技術、表面マイクロマシニング技術などがある。
【0005】
この種の焦電型赤外線センサとしては、例えば、シリコン基板の一表面側に薄肉部が形成され、薄肉部上にアルミニウムの薄膜からなる下部電極が形成され、下部電極上にポリ尿素の薄膜からなる焦電体が形成され、焦電体上にアルミニウムの薄膜からなる上部電極が形成されてなる赤外線センサが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−174547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の焦電型赤外線センサは、薄肉部上に、下部電極と焦電体と上部電極とで構成される受光部が1つであるが、薄肉部上に2個の受光部を設けてデュアルタイプの焦電型赤外線センサとすることや、薄肉部上に4個の受光部を設けてクワッドタイプの焦電型赤外線センサとすることが考えられる。
【0008】
しかしながら、このようなデュアルタイプあるいはクワッドタイプの焦電型赤外線センサでは、受光部における焦電体の膜厚が薄いので、焦電体の抵抗値が低く、1つの受光部あたりの出力電圧が低くなってしまう。
【0009】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、出力電圧の高出力化を図れ且つS/N比の向上を図ることが可能な焦電型赤外線センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の焦電型赤外線センサは、基板の一表面側に設けられたダイアフラム部の一面側に複数の受光部を備えた焦電型赤外線センサであって、前記各受光部の各々は、前記ダイアフラム部の厚み方向において互いに対向する第1電極と第2電極との間に焦電体薄膜を有する複数個の受光エレメントを有し且つ前記複数個の前記受光エレメントが直列接続されてなり、前記複数の前記受光部は、逆直列に接続されてなることを特徴とする。
【0011】
この焦電型赤外線センサにおいて、前記複数の前記受光部の配置は、1行2列、2行2列、1行4列のいずれかのマトリクス状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の焦電型赤外線センサにおいては、出力電圧の高出力化を図れ且つS/N比の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は実施形態1の焦電型赤外線センサの概略平面図、(b)は(a)のA−A’概略断面図、(c)は(a)のB−B’概略断面図である。
【図2】実施形態1の焦電型赤外線センサを用いた赤外線検出器の回路図である。
【図3】(a)は実施形態2の焦電型赤外線センサの概略平面図、(b)は(a)のA−A’概略断面図、(c)は(a)のB−B’概略断面図である。
【図4】実施形態2の焦電型赤外線センサを用いた赤外線検出器の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
以下では、図1に基づいて本実施形態の焦電型赤外線センサ10を説明する。
【0015】
焦電型赤外線センサ10は、基板1の一表面側に設けられたダイアフラム部2の一面側に複数(ここでは、2つ)の受光部3を備えている。
【0016】
各受光部3の各々は、ダイアフラム部2の厚み方向において互いに対向する第1電極31と第2電極32との間に焦電体薄膜33を有する複数個(ここでは、8個)の受光エレメント3aを有し且つ当該複数個の受光エレメント3aが直列接続されている。要するに、各受光部3の各々は、複数個の受光エレメント3aに分割され直列接続されている。互いに直列接続される受光エレメント3aどうしは、一方の受光エレメント3aの第2電極32と他方の受光エレメント3aの第1電極31とが、第1配線34を介して電気的に接続されている。ここで、受光部3は、電気的には各受光エレメント3aの各々が極性のあるコンデンサであり、図2中に示すように直列接続されている。
【0017】
また、複数の受光部3は、逆直列に接続されている。互いに逆直列に接続される受光部3どうしは、第2配線35を介して電気的に接続されている。ここにおいて、複数の受光部3の配置は、1行2列のマトリクス状である。要するに、本実施形態の焦電型赤外線センサ10は、2つの受光部3が逆直列に接続されたデュアルタイプの焦電型赤外線センサである。ここで、2つの受光部3は、逆直列回路において互いに接続される2つの受光エレメント3aの第2電極32どうしが接続されている。
【0018】
基板1としては、一表面が(100)面の単結晶のシリコン基板を用いている。また、基板1は、シリコン基板に限らず、例えば、MgO基板などを用いてもよい。
【0019】
ダイアフラム部2は、基板1の上記一表面側に形成された薄膜20の一部により形成されている。ここにおいて、薄膜20は、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜との積層膜からなる。焦電型赤外線センサの製造時には、基板1の上記一表面側にシリコン酸化膜を熱酸化法によって形成し、続いて、シリコン窒化膜をCVD法によって形成した後で、基板1の所定領域を他表面側からエッチングして基板1に空洞部11を形成することによって、ダイアフラム部2を形成している。なお、ダイアフラム部2の積層構造や材料は、特に限定するものではない。
【0020】
焦電型赤外線センサ10は、基板1の上記一表面側に、一対のパッド4,4が設けられており、複数の受光部3の逆直列回路の出力電圧を一対のパッド4,4から取り出すことが可能となっている。一対のパッド4,4は、薄膜20の上記一部以外の部分の上に形成されている。要するに、一対のパッド4,4は、薄膜20において空洞部11の投影領域の外側に配置してある。一対のパッド4,4と、複数の受光部3の逆直列回路とは、一対の第3配線36を介して電気的に接続されている。
【0021】
受光エレメント3aは、第1電極31がダイアフラム部2の上記一面上に形成され、第1電極31におけるダイアフラム部2側とは反対側に焦電体薄膜33が形成され、焦電体薄膜33における第1電極31側とは反対側に第2電極32が形成されている。
【0022】
焦電体薄膜33の材料としては、鉛系の酸化物強誘電体の一種であるPZT(:Pb(Zr,Ti)O3)を採用しているが、鉛系の酸化物強誘電体は、PZTに限らず、例えば、PZT−PLT(:Pb(Zr,Ti)O3−(Pb,La)TiO3)、PLT(:(Pb,La)TiO3)やPZT−PMN(Pb(Zr,Ti)O3−Pb(Mn,Nb)O3)などやその他の不純物を添加したPZT系強誘電体などを採用してもよい。
【0023】
焦電体薄膜33の形成にあたっては、例えば、スパッタ法、CVD法、ゾルゲル法などによって基板1の上記一表面側の全面に焦電体薄膜33を成膜してから、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して所定の形状にパターニングすればよい。
【0024】
第1電極31は、第3配線36と同時に形成してある。第1電極31および第3配線36の材料としては、焦電体薄膜33との格子整合性の良い導電性材料を採用することが好ましく、例えば、Pt、Au、Al、Cuなどを採用することができる。ただし、本実施形態では、第1電極31とダイアフラム部2との密着性を改善するために、第1電極31が、Pt、Au、Al、Cuなどに比べてダイアフラム部2との密着性のよい材料(例えば、Ti、Crなど)からなる密着層を備えていることが好ましい。一例を挙げれば、第1電極31は、ダイアフラム部2上のTi膜と当該Ti膜上のPt膜とで構成することが好ましい。
【0025】
第1電極31および第3配線36の形成にあたっては、基板1の上記一表面側に薄膜20を形成した後で、基板1の上記一表面側の全面に、第1電極31および第3配線36の基礎となる第1導電層をスパッタ法、CVD法、蒸着法などにより成膜し、その後、この第1導電層上に上述の焦電体薄膜33を形成し、その後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して第1導電層をパターニングすることによって、それぞれ第1導電層の一部からなる第1電極31および第3配線36を形成すればよい。
【0026】
なお、焦電型赤外線センサ10は、第1電極31の直下に、シリコンに比べて焦電体薄膜33との格子整合性の良い材料からなる緩衝層(図示せず)を形成するようにしてもよい。これにより、焦電体薄膜33の結晶性および性能(ここでは、焦電係数γ)の向上を図れ、且つ、デバイス特性(ここでは、性能指数や、応答速度など)の向上を図れることが可能となる。なお、緩衝層の材料としては、例えば、SrRuO3を採用することができるが、これに限らず、例えば、PbTiO3、MgO、LaNiOなどを採用してもよい。
【0027】
第2電極32は、第1配線34および第2配線35と同時に形成してある。ここで、第2電極32、第1配線34および第2配線35は、Ti膜とPt膜との積層膜により構成してある。この場合、第2電極32、第1配線34および第2配線35は、第1電極31と同様、Ti膜に代えてCr膜を採用してもよいし、Pt膜に代えて、Au膜、Al膜、Cu膜のいずれかを採用してもよい。第2電極32上には、NiCr膜、Ni膜、金黒膜などからなる赤外線吸収膜(図示せず)を設けることが好ましい。第2電極32の材料としては、NiCr、Ni、金黒などの、導電性を有する赤外線吸収材料を採用してもよい。これにより、第2電極32は、赤外線吸収膜を兼ねることとなる。
【0028】
また、ダイアフラム部2の上記一面側には、各受光エレメント3aでの第1電極31と第2電極33との短絡を防止する絶縁層5が形成されている。絶縁層5は、例えば、BPSG膜などにより構成することができる。絶縁層5の材料は、特に限定するものではない。なお、絶縁層5は、第2電極32と焦電体薄膜33との接するエリアを規定し、且つ、第2電極32に電気的に接続される第2配線34ないし第3配線35と第1電極31との短絡を防止するように、パターニングされている。
【0029】
第2電極32、第1配線34および第2配線35の形成にあたっては、基板1の上記一表面側に上述のパターニングされた絶縁層5を形成した後、第2電極32、第1配線34および第2配線35の基礎となる第2導電層を形成し、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して第2導電層をパターニングすることによって、それぞれ第2導電層の一部からなる第2電極32、第1配線34および第2配線35を形成すればよい。
【0030】
空洞部11の形成にあたっては、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術などを利用して基板1の他表面側のシリコン酸化膜(図示せず)をパターニングし、その後、シリコン酸化膜およびレジスト層をマスクとして、基板1を他表面側からエッチングすればよい。
【0031】
以上説明した本実施形態の焦電型赤外線センサ10は、上述の説明から分かるように、MEMS製造技術を利用して製造することができる。ここにおいて、焦電型赤外線センサ10の製造にあたっては、空洞部11を形成する工程が終了するまでをウェハレベルで行ってから(つまり、シリコンウェハに多数の焦電型赤外線センサ10を形成してから)、ダイシング工程を行うことで個々の焦電型赤外線センサ10に分割するようにしている。
【0032】
本実施形態の焦電型赤外線センサ10では、各受光部3の各々が、ダイアフラム部2の厚み方向において互いに対向する第1電極31と第2電極32との間に焦電体薄膜33を有する複数個の受光エレメント3aを有し且つ当該複数個の受光エレメント3aが直列接続されてなり、複数の受光部3が、逆直列に接続されているので、出力電圧の高出力化を図れ且つS/N比の向上を図ることが可能となる。出力電圧については、受光部3をN(2以上の整数)分割することでN個の受光エレメント3aを有することによって、N個の受光エレメント3aを合わせた受光面積の受光エレメントを1つだけ設ける場合に比べて、N倍の出力電圧を得ることが可能となる。
【0033】
ここで、例えば図2に示すように、焦電型赤外線センサ10を用いた赤外線検出器20としては、焦電型赤外線センサ10と、この焦電型赤外線センサ10がゲートに接続される電界効果トランジスタ7とを備えたものが好ましい。この赤外線検出器20は、焦電型赤外線センサ10および電界効果トランジスタ7が、1つのパッケージ8内に収納されていることが好ましい。パッケージ8としては、例えば、キャンパッケージを採用することができ、焦電型赤外線センサ10への赤外線の入射を可能とするための赤外線透過部材(図示せず)として、例えば、シリコンやゲルマニウムなどの赤外線透過材料により形成された平板状やレンズ状のものを用いることができる。なお、赤外線透過部材は、キャンパッケージにおける焦電型赤外線センサ10の前方の開口部を閉塞するように、配置される。
【0034】
また、本実施形態の焦電型赤外線センサ10では、複数の受光部3が、1行2列のマトリクス状に配置されていることにより、環境温度の変化などによる2つ受光部3でのノイズ(暗雑音など)が相殺されるので、誤検知を防止することが可能となる。
【0035】
(実施形態2)
以下では、図3に基づいて本実施形態の焦電型赤外線センサ10を説明する。
【0036】
本実施形態の焦電型赤外線センサ10は、受光部4の数が4つである点などが実施形態1と相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0037】
各受光部3の各々は、ダイアフラム部2の厚み方向において互いに対向する第1電極31と第2電極32との間に焦電体薄膜33を有する複数個(ここでは、4個)の受光エレメント3aを有し且つ当該複数個の受光エレメント3aが直列接続されている。ここで、受光部3は、電気的には各受光エレメント3aの各々が極性のあるコンデンサであり、図4中に示すように直列接続されている。
【0038】
複数の受光部3の配置は、2行2列のマトリクス状である。要するに、本実施形態の焦電型赤外線センサ10は、4つの受光部3が逆直列に接続されたクワッドタイプの焦電型赤外線センサである。ここで、互いに逆直列に接続される2つの受光部3の組については、逆直列回路において互いに接続される2つの受光エレメント3aの第2電極32どうし、あるいは、第1電極31どうしが接続されている。なお、図3(a)の左上の受光部3と左下の受光部3との組では、第2電極32どうしが接続され、左下の受光部3と右下の受光部3との組では、第1電極31どうしが接続され、右下の受光部3と右上の受光部3との組では、第2電極32どうしが接続されている。
【0039】
本実施形態の焦電型赤外線センサ10では、実施形態1と同様、各受光部3の各々が、ダイアフラム部2の厚み方向において互いに対向する第1電極31と第2電極32との間に焦電体薄膜33を有する複数個の受光エレメント3aを有し且つ当該複数個の受光エレメント3aが直列接続されてなり、複数の受光部3が、逆直列に接続されている。これにより、本実施形態の焦電型赤外線センサ10は、出力電圧の高出力化を図れ且つS/N比の向上を図ることが可能となる。
【0040】
ここで、例えば図4に示すように、焦電型赤外線センサ10を用いた赤外線検出器20としては、焦電型赤外線センサ10と、この焦電型赤外線センサ10がゲートに接続される電界効果トランジスタ7とを備えたものが好ましい。この赤外線検出器20は、焦電型赤外線センサ10および電界効果トランジスタ7が、1つのパッケージ8内に収納されていることが好ましい。
【0041】
また、本実施形態の焦電型赤外線センサ10では、複数の受光部3が、2行2列のマトリクス状に配置されていることにより、環境温度の変化などによる受光部3でのノイズ(暗雑音など)が相殺されるので、誤検知を防止することができる。焦電型赤外線センサ10は、複数の受光部3の配置を、1行4列のマトリクス状としたクワッドタイプの焦電型赤外線センサでもよく、この場合も、環境温度の変化などによる受光部3でのノイズ(暗雑音など)が相殺されるので、誤検知を防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1 基板
2 ダイアフラム部
3 受光部
3a 受光エレメント
10 焦電型赤外線センサ
20 赤外線検出器
31 第1電極
32 焦電体薄膜
33 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一表面側に設けられたダイアフラム部の一面側に複数の受光部を備えた焦電型赤外線センサであって、前記各受光部の各々は、前記ダイアフラム部の厚み方向において互いに対向する第1電極と第2電極との間に焦電体薄膜を有する複数個の受光エレメントを有し且つ前記複数個の前記受光エレメントが直列接続されてなり、前記複数の前記受光部は、逆直列に接続されてなることを特徴とする焦電型赤外線センサ。
【請求項2】
前記複数の前記受光部の配置は、1行2列、2行2列、1行4列のいずれかのマトリクス状であることを特徴とする請求項1記載の焦電型赤外線センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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