説明

焼成助剤、及びそれを含有してなる焼成用樹脂組成物

【課題】
本発明は、焼成工程での加熱温度が、従来より低温であっても、バインダー樹脂の熱分解を促進でき、自己燃焼性にも優れ、さらにはバインダー樹脂中における無機粒子の分散性を向上させることが可能な焼成助剤を提供することである。
【解決手段】
本発明は、アルキレンオキサイド由来の構造単位を5〜30mol有するポリオール(A)、及びモノカルボン酸(B)を縮合反応させて得られるエステル化合物を含有してなることを特徴とする焼成助剤に関するものである。
また、本発明は、前記焼成助剤、バインダー樹脂、有機溶剤、及び無機粒子を含有してなる焼成用樹脂組成物に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイ用パネルの製造をはじめ、焼成処理を必要とする様々な場面で使用可能な、バインダー樹脂の燃焼を促進可能で、自己燃焼性にも優れる焼成助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化ケイ素やガラスセラミックス等の無機粒子がバインダー樹脂に分散してなる樹脂組成物が、多種多様の用途、特に情報産業用機器の部品や、回路パターンを形成する際に使用されることが多い。
前記樹脂組成物を用いて部品等を製造する方法としては、たとえば前記樹脂組成物を任意の方法で成形した後、高温で焼成することにより、該樹脂組成物中に含まれるバインダー樹脂を完全に燃焼させ、かつ無機粒子を熱により融着させる方法がある。この方法は、プラズマディスプレイを製造する際に使用されるプラズマディスプレイパネルの一部分に、格子壁、いわゆるバリアリブを形成する方法として一般的である。
【0003】
これまで、前記樹脂組成物を焼成しバリアリブ等を形成する際の温度は、該樹脂組成物中に含まれるバインダー樹脂をほぼ完全に燃焼させるために、おおむね600℃程度という高温である必要があった。
しかし、前記樹脂組成物が、前記したプラズマディスプレイパネルのような高精密性が求められる用途に使用される場合、焼成工程における温度が前記したように高温であると、熱によってプラズマディスプレイパネルにひずみ等が生じ、パネルにとって最も重要な特性のひとつである平滑性が損なわれる場合があるという問題を有していた。
また、前記したパネル等のひずみは、大型のパネルほど発生しやすいため、大型ディスプレイの開発をより一層加速させるためには、焼成処理を施しても、パネル等にひずみ等を生じさせることのない樹脂組成物を開発する必要がある。
【0004】
前記樹脂組成物としては、例えば、表面平滑性に優れたバリアリブなどを形成可能な、無機粒子と、アクリル樹脂等の結着樹脂と、グリセリン−1,2−ジアセチル−3−モノラウレートに代表される特定の可塑剤とを含有する無機粒子含有組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかし、前記特定の可塑剤を含有する無機粒子含有組成物を焼成して得られた成形物は、バインダー樹脂由来の残留物(有機物)を比較的多く含んでいるため、得られる成形物の着色や、光透過率の低下等の問題を引き起こす場合があった。特に、該組成物を前記バリアリブ形成に使用すると、例えばパネルにプラズマを放電させた際に、前記有機物由来のガスが発生し、格子内の真空度を低下させるため、前記パネルの発光寿命や発光効率等を低下させると言う問題を有していた。また、前記成形物中には、前記可塑剤自体が比較的多く残留してしまうため、前記無機粒子含有組成物を高精密性の求められる用途に使用することは、依然として困難であった。また、前記組成物では、焼成処理を依然として高温で行う必要があるため、パネル自体のひずみ等を十分に抑制することは未だ困難な場合にあった。
【0006】
一方で、焼成工程における加熱温度が、前記パネルのひずみ等を引き起こさないレベルの低温であっても、得られる成形物中に前記有機物が残留しにくい樹脂組成物の検討もまた進められているが、かかる要求性能を満たす樹脂組成物は、未だ見出されていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開2003−96305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、焼成工程での加熱温度が、従来より低温であっても、バインダー樹脂の熱分解を促進でき、自己燃焼性にも優れ、さらにはバインダー樹脂中における無機粒子の分散性を向上させることが可能な焼成助剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来よりアクリル樹脂用の可塑剤として一般的に知られているエステル化合物のなかで、特定のアルキレンオキサイド付加量を有するポリエーテルエステル化合物が、バインダー樹脂の燃焼性を促進でき、バインダー樹脂中における無機粒子の分散性を向上でき、さらには該ポリエーテルエステル化合物自身の燃焼性も良好であることを見出した。
【0010】
即ち、本発明は、アルキレンオキサイド由来の構造単位を5〜30mol有するポリオール(A)、及びモノカルボン酸(B)を縮合反応させて得られるエステル化合物を含有してなることを特徴とする焼成助剤に関するものである。
また、本発明は、前記焼成助剤、バインダー樹脂、有機溶剤、及び無機粒子を含有してなる焼成用樹脂組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低温で焼成した際にバインダー樹脂の熱分解を促進でき、自己燃焼性にも優れ、さらにはバインダー樹脂中における無機粒子の分散性を向上させることが可能である。かかる特徴を利用して、本発明の焼成助剤は、プラズマディスプレイの製造に使用する、パネル、隔壁、蛍光体、誘電体層、カラーフィルター等の部品や、回路パターンなどを作製する際に使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の焼成助剤は、アルキレンオキサイド由来の構造単位を5〜30mol有するポリオール(A)が有する複数の水酸基の一部または全部に、モノカルボン酸(B)が縮合反応したエステル化合物からなる。
焼成助剤とは、後述するバインダー樹脂を含む組成物を焼成した際に、バインダー樹脂の燃焼を支援し、焼成後にバインダー樹脂由来の有機物が残留することを抑制することが可能なものである。
【0013】
前記アルキレンオキサイド由来の構造単位を5〜30mol有するポリオール(A)は、低分子量ポリオールにアルキレンオキサイドが開環付加した構造を有する。
【0014】
前記低分子量ポリオールとしては、特に限定されるものではないが、3〜6個の水酸基を有するものを使用することが好ましい。
【0015】
前記3〜6個の水酸基を有する低分子量ポリオールとしては、例えばトリメチロールエタン、グリセリン、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビトール等を、単独で使用または2種以上を併用して使用することができる。なかでも分岐したアルキル基や分岐したアルキレン基を有する低分子量ポリオールを使用することが好ましい。
【0016】
前記低分子量ポリオールに開環付加しうるアルキレンオキサイドは、後述するバインダー樹脂の燃焼を支援しうる酸素原子を有するものであり、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドを使用することが好ましく、これらを単独で使用または2種以上を併用して使用することができる。2種以上の前記アルキレンオキサイドを使用する場合、それらが、ランダム重合していてもブロック重合していてもよい。
【0017】
アルキレンオキサイドの付加量は、5〜30molの範囲であることが好ましく、10〜25molの範囲であることがより好ましい。前記範囲の付加量を有するポリオールを用いて得られた焼成助剤は、熱分解性に優れ、さらには、後述するバインダー樹脂の熱分解を支援しうる発熱型分解挙動を有し、また、バインダー樹脂との相溶性にも優れる。
【0018】
また、本発明の焼成助剤を製造する際に使用するモノカルボン酸(B)としては、特に限定されず、直鎖状、分岐状であっても、また不飽和二重結合を有していてもよい。
【0019】
前記モノカルボン酸(B)としては、比較的長鎖のアルキル基を有するものを使用することが好ましく、6〜20個の炭素原子を有するモノカルボン酸を使用することがより好ましく,6〜10個の炭素原子を有するモノカルボン酸を使用することが更に好ましい。前記範囲の炭素原子数を有するモノカルボン酸(B)を使用することによって、後述するバインダー樹脂との相溶性に優れ、ブリードを引き起こしにくい焼成助剤を得ることができる。
【0020】
前記モノカルボン酸(B)としては、例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクチル酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸等を単独で使用または2種以上を併用して使用することができ、なかでもオクチル酸(2−エチルヘキサン酸)を使用することが、後述するバインダー樹脂との相溶性に優れた焼成助剤を得ることができるため好ましい。
【0021】
本発明の焼成助剤は、前記ポリオール(A)と前記モノカルボン酸(B)とを一般公知の方法により縮合反応させることによって製造することができる。たとえば、前記ポリオール(A)と前記モノカルボン酸(B)とを、必要に応じてエステル化触媒の存在下で、180〜250℃の温度範囲内で、10〜25時間、縮合反応させることによって製造することができる。
【0022】
前記エステル化触媒としては、例えばテトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、p−トルエンスルホン酸、ジブチル錫オキサイド等を使用することができる。前記エステル化触媒は、前記ポリオール(A)と前記モノカルボン酸(B)との合計量100質量部に対して0.01〜0.1質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0023】
本発明の焼成助剤は、100以下の水酸基価を有し、且つ1.0以下の酸価を有することが好ましく、50以下の水酸基価を有し、且つ0.5以下の酸価を有することがより好ましい。
【0024】
前記焼成助剤が示す水酸基価は、前記モノカルボン酸(B)と縮合反応していない前記ポリオール(A)が有する水酸基に由来する。つまり、本発明の焼成助剤としては、前記ポリオール(A)が有する複数の水酸基の一部に前記モノカルボン酸(B)が縮合反応したものが好ましい。
前記焼成助剤が有する水酸基は、後述する無機粒子との親和性が高いため、後述する本発明の焼成用樹脂組成物中における無機粒子の分散性を向上させる。しかし、前記水酸基が過剰に存在すると、低温焼成の際の前記焼成助剤自体の燃焼性が若干低下する傾向があるため、焼成助剤としては、前記範囲の水酸基価を有するものを使用することが好ましい。
【0025】
また、前記焼成助剤が示す酸価は、未反応の前記モノカルボン酸(B)が有するカルボキシル基に由来する。未反応のモノカルボン酸(B)は、焼成工程において熱分解しにくい傾向であるため、前記焼成助剤中に残留している量としては、できる限り少ないことが好ましく、目安として酸価が前記範囲内であることが好ましい。
【0026】
前記焼成助剤は、25℃において液体または固体のいずれであっても使用することが可能である。前記焼成助剤の重量平均分子量は、10000以下であることが、有機溶剤に対する前記焼成助剤の良好な溶解性を維持するうえで好ましい。
【0027】
次に、前記焼成助剤、バインダー樹脂、無機粒子、及び有機溶剤を含有してなる焼成用樹脂組成物について説明する。
【0028】
まずはじめに、前記バインダー樹脂は、焼成用樹脂組成物に良好な成形加工性を付与し、かつ該樹脂組成物を成形加工し焼成処理した際の、無機粒子間の熱融着のしやすさを向上させる。
【0029】
前記バインダー樹脂としては、例えばアクリル樹脂、セルロースエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂等を使用することができるが、アクリル樹脂やセルロースエステル樹脂を使用することが好ましく、アクリル樹脂を使用することがより好ましい。
【0030】
前記アクリル樹脂は、各種単量体を公知慣用の方法で重合することにより製造することができる。
【0031】
前記単量体としては、例えばメタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル(EMA)、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル(IBMA)、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸アルキルエステルや、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールなどのメタクリル酸エステルや、メタクリル酸(MAA)、アクリルアミド(ADM)、メタクリルアミドなどを、単独で使用又は二種以上を併用して使用することができる。
【0032】
前記単量体としては、前記アクリル樹脂の熱分解温度を低下させ、かつ焼成して得られた成形物中に残存するアクリル樹脂由来の残留物を低減させる観点から、メタクリル酸アルキルエステルを使用することが好ましく、具体的には、メタクリル酸イソブチル(IBMA)、メタクリル酸2−エチルヘキシルを使用することがより好ましい。
前記メタクリル酸アルキルエステルは、前記アクリル樹脂を製造する際に使用する単量体の全量に対して、50質量%以上であることが好ましく、90質量%以上の範囲であることがより好ましい。かかるアクリル樹脂をバインダー樹脂として含有する焼成用樹脂組成物は、例えば集積回路用ガラスセラミック基板や、プラズマディスプレイ用の誘電体層や隔壁などのパネル構成要素部材、感光性ガラスペーストによる電子部材等を製造する際に好適に使用することができる。
【0033】
本発明で使用可能な前記アクリル樹脂は、好ましくは1万〜100万の範囲の重量平均分子量を有することが好ましく、10万〜50万の範囲の重量平均分子量を有することがより好ましい。尚、前記アクリル樹脂の重量平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用し、ポリスチレン換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)により測定した値である。
【0034】
前記アクリル樹脂は、例えば、トルエンやターピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等の有機溶剤中に、前記単量体と重合開始剤とを滴下し重合する溶液重合法等により製造することができる。
【0035】
また、前記アクリル樹脂としては、後述する無機粒子、特にガラス粒子の分散性を向上させる観点から、水酸基を有するアクリル樹脂を使用することが好ましい。
【0036】
また、前記バインダー樹脂として使用可能なセルロースエステル樹脂としては、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ニトロセルロースなどが挙げられ、単独で使用または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
また、前記バインダー樹脂として使用可能なポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルアルコールとブチルアルデヒドとの反応生成物であるポリビニルブチラールなどが使用することができる。
【0038】
本発明の焼成用樹脂組成物中における前記バインダー樹脂の含有量は、前記焼成用樹脂組成物100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、5〜20質量部の範囲であることがより好ましい。
【0039】
また、本発明の焼成用樹脂組成物に使用可能な無機粒子としては、特に限定されるものではなく、当該組成物を使用する用途に応じて適宜選択して使用することができる。例えば、酸化ホウ素−酸化ケイ素系ガラス粉末、アルミナ、窒化珪素などの無機粉末、プラズマディスプレイ用で用いられる低温軟化温度タイプのガラスフリット、光触媒活性を有する酸化チタン粉末などを使用することができる。
【0040】
本発明の焼成用樹脂組成物中における前記無機粒子の含有量は、前記焼成用樹脂組成物100質量部に対して、90質量部以下であることが好ましく、50〜90質量部の範囲であることがより好ましい。
【0041】
また、本発明の焼成用樹脂組成物に使用可能な有機溶剤としては、特に限定されるものではなく、バインダー樹脂の溶解性及び無機粒子との親和性に優れ、適正な粘度を付与でき、かつ乾燥によって容易に除去可能なものを使用することができる。例えば、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、ターピネオール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテルアセテートなどが挙げられ、単独で使用または2種類以上を組み合わせて使用することができる。本発明の焼成用樹脂組成物中における前記有機溶剤の含有量は、該組成物の粘度を適正な範囲に調整する観点から、前記焼成用樹脂組成物100質量部に対して、35質量部以下であることが好ましく、5〜30質量部の範囲であることがより好ましい。
【0042】
また、本発明の焼成用樹脂組成物中における前記焼成助剤の質量割合は、バインダー樹脂との相溶性と焼成助剤としての熱分解支援効果の観点から、前記バインダー樹脂100質量部に対して1〜30質量部の範囲であることが好ましく、5〜20質量部の範囲であることがより好ましい。
【0043】
本発明の焼成用樹脂組成物は、前記バインダー樹脂、前記焼成助剤、前記無機粒子、及び前記有機溶剤を混合、攪拌することにより、前記バインダー樹脂に前記焼成助剤、前記無機粒子、及び前記有機溶剤を分散させ、ペースト化することによって製造することができる。
【0044】
本発明の焼成用樹脂組成物を製造する際に使用可能な攪拌装置としては、例えばニーダー、3本ロール、ボールミル、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー、擂潰機等を使用することができる。
【0045】
本発明の焼成用樹脂組成物は、前記バインダー樹脂、前記焼成助剤、前記無機粒子、及び前記有機溶剤の他に、必要に応じて後述する各種添加剤等を使用することができる。これら添加剤等は、前記焼成助剤と前記バインダー樹脂と前記無機粒子と前記有機溶剤とを混合、攪拌する際に、併せて使用することができる。
【0046】
前記添加剤等としては、例えば可塑剤、チキソ剤、界面活性剤などを使用することができる。
【0047】
前記可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル系、安息香酸エステル系、クエン酸エステル系、燐酸エステル系、アジピン酸エステル系、セバチン酸エステル系、トリメリット酸エステル系、ピロメリット酸エステル系、エポキシ化エステル系、ポリエステル系などを使用することができる。
【0048】
前記チキソ剤としては、ベントナイト等の無機系チキソ剤も使用できるが、熱分解特性の点から、完全分解される有機系チキソ剤の方がより好適である。有機系チキソ剤としては、例えば肪酸酸アマイド系ワックス、長鎖脂肪酸エステル系ワックス、水添ひまし油系ワックス、水添ひまし油アマイド系ワックス等を使用することができる。前記チキソ剤は、前記バインダー樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲内で使用することが好ましい。
【0049】
前記界面活性剤としては、アニオン型、カチオン型、ノニオン型のいずれかが使用できるが、熱分解特性の点でC,H,Oのみで構成されるノニオン型界面活性剤が好適である。ノニオン型界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテルに代表されるエーテル型界面活性剤、ポリグリセリンオレイン酸エステルに代表されるポリグリセリンアルキルエステル型界面活性剤、ソルビタンモノオレートに代表されるソルビタンエステル型界面活性剤等を使用することができる。
【0050】
本発明の焼成用樹脂組成物を成形する方法としては、一般公知の方法、例えばスクリーン印刷法、ブレードコーター法、スプレー法、ロールコート法などが挙げられ、そのパターン化方法も、例えばスクリーン印刷法で直接パターン化する方法や、ペースト塗布施工した後、例えばサンドブラスト法によりパターン化する方法、感光性樹脂を含有させた焼成用樹脂組成物を用いフォトリソグラフィー法によりパターン化する方法などが挙げられる。
【0051】
また、本発明の焼成用樹脂組成物を焼成する方法としては、一般公知の方法が用いることができ、焼成処理の温度としては、通常樹脂組成物中の有機物質が焼失される温度、通常350〜600℃で焼成することが好ましく、400〜500℃で焼成することがより好ましい。
【0052】
本発明の焼成用樹脂組成物は、450℃で加熱し熱分解したときの残留物が、加熱した焼成用樹脂組成物の全量に対して0.5重量%以下であり、また、前記焼成用樹脂組成物に使用する焼成助剤もまた、350℃で加熱し熱分解したときの残留物が、加熱した焼成助剤の全量に対して、0.5質量%以下であるという点で焼成工程に於ける熱分解性に優れているといえ、残炭率の極めて少ない成形物を提供することが可能である。また、無機物との相溶性にも優れ、優れた分散安定性を付与できることから、その品質も均一性に富み好適であり、例えば、集積回路用ガラスセラミック基板や、プラズマディスプレイ用の誘電体層や隔壁などのパネル構成要素部材、感光性ガラスペーストによる電子部材等、多岐にわたる用途に有用である。
【実施例】
【0053】
以下に本発明の実施例を示す。
【0054】
[実施例1]
表1に示すように、温度計、撹拌機、還流冷却器及びデカンターを付した内容積2リットルの4ッ口フラスコに、エチレンオキサイドが付加したグリセリン(付加量9モル)を594g、オクチル酸を612g、及びエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートを0.24g仕込み、窒素気流下で撹拌しながら加熱し、反応液温度を220℃まで昇温し、15時間、脱水縮合反応した。反応後、200℃に降温し、過剰のモノカルボン酸を減圧留去することによって、焼成助剤Iを得た。(粘度81mPa・s、酸価0.36、水酸基価10)
【0055】
[実施例2〜4、比較例1〜2]
実施例1に記載のエチレンオキサイドが付加したグリセリンやオクチル酸の代わりに、表1に示す各種アルキレンオキサイドが付加したポリオールやモノカルボン酸を使用する以外は、実施例1と同様の方法で、焼成助剤II〜VIを得た。
【0056】
[比較例3]及び[比較例4]
実施例1に記載の焼成助剤Iの代わりにフタル酸ジn−ブチル(焼成助剤VII)、グリセリン−1,2−ジアセチル−3−モノラウレート(焼成助剤VIII)を使用した。
【0057】
[焼成助剤の熱分解性]
実施例1〜4及び比較例1〜4の焼成助剤を、示差熱分析法(測定条件:示差熱熱重量同時測定装置 TG/DTA6200、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、試料量10±1mg、空気気流中、空気流量200ml/分、昇温速度10℃/分)により、350℃で熱分解したときの残炭率を測定した。残炭率は、概ね0.5質量%以下であることが、実用上好ましい。その結果を表1及び表2に示す。
なお、残炭率とは、前記熱分解性の評価に使用した焼成助剤の全量に対する、熱分解後に確認された残留物の質量割合である。
【0058】
また、「残留物の色」を以下のように評価観察した。残留物の色が黒色、茶褐色、または灰色等でなく、比較的透明であれば、得られる成形物の透明性を阻害しない点で好ましい。
○:残留物が目視では観察されず、また着色もしていない。
×:残留物の色が黒色、茶褐色、または灰色であった。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
バインダー樹脂の合成例
[アクリル樹脂の合成例]
攪拌機、還流冷却器、滴下装置及び温度計を装着した反応器内に、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテルアセテート550gを加え、85℃に調整した。次いで、窒素雰囲気下、前記反応器内に、メタクリル酸2−エチルヘキシル360g、メタクリル酸メチル90gと、ベンゾイルパーオキサイド1.3gとジエチレングリコールモノn−ブチルエーテルアセテート50gとの混合物、及びメタクリル酸を、それぞれ別々に、3時間で滴下した。滴下終了後、110℃で5時間保持することによって重合反応を完結させ、重量平均分子量が35万、不揮発分40質量%、粘度が5500mPa・s(25℃)のアクリル樹脂溶液を得た。
【0062】
[セルロースエステル樹脂の合成例]
攪拌器内に、エチルセルロース(エトキシ基含有量48〜49.5質量%)100gとジエチレングリコールモノn−ブチルエーテルアセテート900gを加え、80℃の条件下で溶解することにより、不揮発分10質量%、粘度が80000mPa・s(25℃)であるエチルセルロース樹脂溶液を得た。
【0063】
[焼成用樹脂組成物の熱分解性]
本発明の焼成用樹脂組成物の熱分解性は、無機粒子を含まない、すなわちバインダー樹脂と焼成助剤と有機溶剤とを含有する樹脂溶液を用いて評価した。それは、無機粒子を含まない状態で焼成した方が、残炭率を精度良く測定することが可能であるためである。
前記アクリル樹脂または前記セルロースエステル樹脂のバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂の全量に対して20質量%の前記焼成助剤とを、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテルアセテートに溶解することで、アクリル樹脂溶液(不揮発分40質量%)またはセルロースエステル樹脂溶液(不揮発分10質量%)を得た。
得られた各溶液をガラス板上にドクターブレードを用いて塗工し、120℃×30分の条件でジエチレングリコールモノn−ブチルエーテルアセテートを除去することで、厚さ300μmのフィルムを作製した。
得られた各フィルムの熱分解性を、前記焼成助剤の熱分解性の評価方法と同様の方法で、450℃で加熱したときの残炭率、すなわち前記熱分解性の評価に使用した焼成用樹脂組成物の全量に対する、熱分解後に確認された残留物の質量割合を測定した。
【0064】
[焼成用樹脂組成物の調製例]
[実施例5]
無機粒子(PbOを75質量%、Bを10質量%、及びSiOを15質量%含有。平均粒子経10μm)を100g、バインダー樹脂として前記アクリル樹脂を20g、有機溶剤としてジエチレングリコールモノn−ブチルエーテルアセテートを35g、前記した焼成助剤Iを20gを分散器を用いて混合・攪拌することにより焼成用樹脂組成物を得た。
【0065】
[実施例6〜8及び比較例5〜8]
実施例5に記載のアクリル樹脂及び焼成助剤Iの代わりに、表3及び表4に示す各種バインダー樹脂及び焼成助剤を使用する以外は、実施例5と同様の方法で、焼成用樹脂組成物を得た。
【0066】
[無機粒子の分散性]
長さ11cmの試験管に、高さ8cmのところまで各焼成用樹脂組成物を注ぎ入れ、常温常湿度下で7日間放置した。放置後、無機粒子の沈降の有無を観察し分散性の評価を行った。評価基準を以下に示す。
【0067】
◎:無機粒子の沈降なし
○:液面から1mm未満の無機粒子の沈降が確認できる。
△:液面から5mm未満の無機粒子の沈降が確認できる。
×:液面から5mm以上の無機粒子の沈降が確認できる。
【0068】
【表3】

【0069】
【表4】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレンオキサイド由来の構造単位を5〜30mol有するポリオール(A)、及びモノカルボン酸(B)を縮合反応させて得られるエステル化合物を含有してなることを特徴とする焼成助剤。
【請求項2】
前記エステル化合物が、5〜100の範囲の水酸基価を有し、かつ1.0以下の酸価を有する、請求項1に記載の焼成助剤。
【請求項3】
前記ポリオール(A)が、10〜25molのアルキレンオキサイド由来の構造単位を有するものである、請求項1に記載の焼成助剤。
【請求項4】
前記アルキレンオキサイド由来の構造単位が、エチレンオキサイド由来の構造単位及び/またはプロピレンオキサイド由来の構造単位である、請求項1〜3のいずれかに記載の焼成助剤。
【請求項5】
前記ポリオール(A)が、3〜6個の水酸基を有するものである、請求項1〜4のいずれかに記載の焼成助剤。
【請求項6】
前記ポリオール(A)が、分岐したアルキル基または分岐したアルキレン基を有するものである、請求項1〜5のいずれかに記載の焼成助剤。
【請求項7】
前記モノカルボン酸(B)が、6〜20個の炭素原子を有するものである、請求項1〜6のいずれかに記載の焼成助剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の焼成助剤、バインダー樹脂、有機溶剤、及び無機粒子を含有してなる焼成用樹脂組成物。
【請求項9】
前記バインダー樹脂が、アクリル樹脂及びセルロースエステル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載の焼成用樹脂組成物。
【請求項10】
前記焼成助剤が、前記バインダー樹脂100質量部に対して、1〜30質量部の範囲で含まれる、請求項8または9に記載の焼成用樹脂組成物。



【公開番号】特開2007−31659(P2007−31659A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220676(P2005−220676)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】