説明

焼成炉の排ガス燃焼装置

【課題】炭素繊維製造用の焼成炉から排ガス燃焼装置に送り込まれる排ガスの流路内に蓄積される前駆体繊維の分解生成物の効率的な除去が実現でき安定的な稼働を可能にした排ガス燃焼装置を提供する。
【解決手段】焼成炉2の底部に配される焼成炉で発生する排ガスの排ガス送出口4と、排ガス送出口4に接続され、焼成炉2外で上方へと延びる第1排ガス流路5aと、排ガス燃焼室3内に向けて開口する排ガス導入口3aに通じる第2排ガス流路6aとを有している。第1排ガス流路5aと第2排ガス流路6aとの交差部に、排ガス流量調整弁7が配されている。排ガス流量調整弁の弁体7aには排ガス導入口3aに向けて貫通する貫通孔7dが形成され、貫通孔7dに挿通されて第2排ガス流路6a内を進退可能で、且つ第1排ガス流路5aから外部に延設する操作部9aと棒本体9bとを有するロッド状の分解生成物除去部材9を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維製造時の炭素化工程や耐炎化工程に適用される焼成炉の排ガス燃焼装置に関し、具体的には排ガス燃焼時に発生し排ガス流路に蓄積される異物の効率的な除去機能と操作機構とを有する排ガス流量調整弁を備えた焼成炉の排ガス燃焼装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、比強度、比弾性率、耐熱性、耐薬品性等に優れ、各種素材の強化材として使用されている。炭素繊維は、前駆体繊維として、例えばポリアクリロニトリル繊維を用いた場合、まず、耐炎化工程にて、空気中、200〜300℃の温度で前駆体繊維を予備酸化して耐炎繊維を得る。次いで、炭素化工程にて、不活性雰囲気中、300〜2000℃の温度で耐炎繊維を炭素化して炭素繊維を得る。
【0003】
炭素繊維の製造装置は、焼成炉としての耐炎化炉と炭素化炉とを備えており、例えば特開2009−174078号公報(特許文献1)にも記載されているように、更に耐炎化工程と炭素化炉工程においてそれぞれ発生する排ガスを独立して燃焼させる排ガス燃焼装置が設置されている。
【0004】
従来の排ガス燃焼装置は、例えば上記特許文献1や特開2001−324119号公報(特許文献2)に記載されているとおり、前記排ガス燃焼装置を耐炎化炉及び炭素化炉の上方部位に配し、前期耐炎化炉及び炭素化炉から排出される排ガスを、耐炎化炉及び炭素化炉の各処理繊維用熱処理室の天井部に設けられた排ガス排出口から鉛直方向に立ち上がる排ガス管路を通して、耐炎化炉及び炭素化炉の上方部位に配された前記排ガス燃焼装置へと導入するのが一般的である。例えば、前述の特許文献1や特開2006−057223号公報(特許文献3)にも開示されているように、排ガス燃焼装置で燃焼した排ガスと外気との間で熱交換し、熱交換されて加熱された外気を前記耐炎化炉や炭素化炉へと導入することが行われる。
【0005】
特許文献2には、炭素化工程における排ガス燃焼装置の具体例が紹介されている。図6に示す排ガス燃焼装置10において、耐炎化工程を経て耐炎化された前駆体繊維を炭素化炉2において炭素化するときに発生した排ガスを積極的に燃焼させる。このときの排ガス中には、前駆体繊維の分解生成物である、珪素化合物や、アンモニア、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、気化したタール成分等が含まれている。これらの分解生成物、特にシアン化水素などの有害物質を含む排ガスは、そのままでは大気中に放出することができないので、分解生成物を排ガス燃焼装置10において燃焼処理し酸化する必要がある。排ガスの燃焼処理は、炭素化炉2内で発生した分解生成物を含む排ガスを、排ガス燃焼装置10の燃焼室12内に送り込み、図示せぬ空気供給管を介して外部から取り込んだ空気と混合して燃焼させる。
【0006】
特許文献2に記載された排ガス燃焼装置10の概略を述べると、図6及び図7に示すように、炭素化炉2の天井部に設けられた排ガス排出口21から鉛直上方に立ち上がる鉛直排ガス流路11の上端には、前記燃焼室12の排ガス導入口12aに向けて水平に延びる水平排ガス流路23が連結されている。該水平排ガス流路23の内部には排ガス流量調整弁26が配されている。この排ガス流量調整弁26は、弁体26aと同弁体26aを水平方向に操作する操作ロッド26bとを備えている。弁体26aの縦断面は、上底面26a−1が前記鉛直排ガス流路11に向けられ、下底面26a−2が燃焼室12の排ガス導入口12a側に向けられ、その一方の連結面26a−3が上底及び下底の各一端とを直角に
連結し、他方の連結面26a−4が上底及び下底の各他端同士を斜めに連結した梯形状を呈している。
【0007】
同弁体26aは、その斜面をなす前記連結面26a−4が前記鉛直排ガス流路11の方向に向けられ、前記直角に連結した一方の連結面26a−3が水平排ガス流路23の底面上を摺動可能に配されている。前記操作ロッド26bは前記燃焼室12内を水平に横切って一端を炉外へと突出させるとともに、他端を前記鉛直排ガス流路11に向けて水平に前記弁体26aの下底面26a−2の中央まで延びて固設されている。なお、符号27は空気供給管を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−174078号公報
【特許文献2】特開2001−324119号公報
【特許文献3】特開2006−057223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のとおり、特許文献2によれば排ガス流量調整弁が炭素化炉の天井と燃焼室とを直角につなぐ鉛直排ガス流路及び水平排ガス流路のうち、水平排ガス流路に水平可能に配されている。排ガスの流量を調整するに当たっては、操作ロッドの炉外操作端を手動にて操作して弁体を水平方向に移動させることにより行われる。この排ガスの流量調整時には、高熱下におかれて熱変形により偏芯した周辺機器や排ガス流路を構成するダクト、更には同じく高熱のもとにおかれる前記操作ロッド自体の撓みから、ダクトとの摩擦が増加する。そのため、作業員が試行錯誤を繰り返しながら操作ロッドを操作せざるを得なかった。
【0010】
また、排ガス流量調整弁の調整は作業員の経験に依存することが多く、時には急激な焼成炉内の圧力の変動による糸切れや毛羽を発生させてしまうこともあり、品質の安定性を欠いていた。現場における作業員による手動による弁操作時は、管理室で工程の状況を確認しながら行うことになるため、2人作業とせざるを得ず人員コストの増加に繋がっていた。
【0011】
更に上記特許文献2によれば、焼成炉から燃焼室へと送り込む排ガスの流量調整を、上述のように排ガス流量調整弁の弁体を手操作により水平方向に移動操作させなければならないため、特殊形状をした弁体が操作の邪魔をして円滑な操作が困難な上に、燃焼装置内の排ガス導入口の先端内面に付着するシリカ化合物をうまく除去できず、また弁とダクトの間にタールなどの分解生成物が付着してしまい、排ガス導入路を閉塞させていた。また、排ガス流量調整弁の弁体は排ガス燃焼装置の排ガス導入口の近傍を水平方向に往復動するとき、排ガスの燃焼に晒されるため早期に焼損していた。その結果、弁体の材質を耐熱性材料、耐火材料とし、かつ定期的な交換を行わざるを得なかった。
【0012】
また従来の排ガス燃焼装置は、焼成炉の上方に配され、焼成炉で発生する排ガスは上述のとおり鉛直排ガス流路と水平排ガス流路とを通して燃焼装置へと送り込まれる。このとき、水平排ガス流路に付着して堆積する前駆体繊維の分解生成物であるタールや炭化物などが、水平排ガス流路内を往復動する操作ロッドの先端に固設された上記排ガス流量調整弁の弁体により掻き取られるため、それらの分解生成物が垂直排ガス流路を通して焼成炉内で処理される繊維上に落下して、糸切れによる工程異常や毛羽等が発生し、品質を低下させ、生産性を低下させる原因ともなっていた。
【0013】
本発明は、こうした従来の炭素繊維製造工程における焼成炉の排ガスを燃焼処理する排
ガス燃焼装置が抱える課題を解消することを目的としてなされたものであり、特に焼成炉から同排ガス燃焼装置に送り込まれる排ガスの円滑な流れを実現すると同時に、自動化をも可能にする排ガス流路内に蓄積される前駆体繊維の分解生成物の効率的な除去が実現可能で安定的な稼働が可能である排ガス燃焼装置を提供することを主な目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的は、本発明の基本構成である、炭素繊維製造工程における焼成炉にて発生する排ガスを燃焼処理する排ガス燃焼装置であって、焼成炉の底部に配され、焼成炉で発生する排ガスを炉外に排出する排ガス導出口と、該排ガス導出口に接続され、炉外で上方へと延びる第1排ガス流路と、該第1排ガス流路と連通し、前記排ガス燃焼装置の燃焼室内に開口する排ガス導入口の側方位置にて排ガス導入口に通じる第2排ガス流路とを有し、前記第1排ガス流路と前記第2排ガス流路との交差部に、前記第1排ガス流路から前記第2排ガス流路に導入される排ガス流量を調整する排ガス流量調整弁が配されてなり、該排ガス流量調整弁には前記排ガス導入口に向けて貫通する貫通孔が形成され、該貫通孔に挿通されて前記水平排ガス流路内を進退可能であり、前記第1排ガス流路から外部に延設する操作部を有し、前記第2排ガス流路に蓄積される前駆体繊維の分解生成物を除去する分解生成物除去部材を備えてなる、排ガス燃焼装置により達成される。
【0015】
好ましい態様によれば、第2排ガス流路と第1排ガス流路との交差部に配される前記排ガス流量調整弁が、前記交差部内を第1排ガス流路に沿って昇降可能である弁体を有しており、また前記弁体の前記第2排ガス流路と前記第1排ガス流路とを同時に含む側面から見た断面形状が、上底を上記排ガス導入孔側に配し、下底を反排ガス導入孔側に配し、その上底面と下底面とをつなぐ斜面を下方に向けた略梯形を呈しているとよい。
【0016】
一方、上記分解生成物除去部材を、前記弁体に形成された貫通孔に挿通され、同貫通孔を前後に摺動できる単純なロッド状とすることが好ましく、前記排ガス流量調整弁に形成された貫通孔は円筒型または鼓型であることが望ましく、前記ロッド状の分解生成物除去部材が前記貫通孔に挿通できればよい。また、前記排ガス流量調整弁の弁体を前記鉛直排ガス流路内で制御作動させるサーボモータを有していると自動化が可能となり好ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上の構成を備えた本発明の排ガス燃焼装置によれば、まず排ガス流量調整弁の弁体を従来の水平方向の動きから燃焼室内の燃焼領域とは距離を置いた鉛直排ガス流路内での鉛直方向の動作に変えて流炉内の開度調整ができるようにしたことと、同弁体と分解生成物除去部材とを独立して動作可能とすることとによって、鉛直排ガス流路を構成する各種機器やダクトと鉛直排ガス流路を鉛直方向に動く弁体の熱膨張や周辺機器の高温による変形が大幅に改善され、排ガス流路と弁体との間の摩擦による問題が解消されるとともに、排ガス流量調整弁をサーボモータによって駆動できるようになり自動化も可能となる。
【0018】
また本発明によれば、一方で横方向に延びる第2排ガス流路内を進退動する分解生成物除去部材を前記排ガス流量調整弁とは独立して横方向に自由に動かせるようにしたため、排ガス流量調整弁の動きに規制されずに自由に操作ができるようになり、排ガス燃焼室の排ガス導入口周辺に付着堆積して排ガス流路を閉塞させやすい、特にシリカなどの珪素化合物やタールなどの掻き落としがしやすくなる。また本発明では、排ガス流路を排ガス発生部である焼成炉の底部から一旦炉外へと導き、第1排ガス流路を通して上方へと導いているため、前述のように燃焼室に向けて横方向に延びる第2排ガス流路内に付着する前駆体繊維の分解生成物を分解生成物除去部材により掻き取り、鉛直排ガス流路内へと落下させたとしても、鉛直排ガス流路の直下には焼成炉内を走行する繊維製品が存在しないため、前記落下物が繊維製品上に落下して付着することもなくなり、製品の品位低下が回避され安定した焼成を行うことができる。
【0019】
上記分解生成物除去部材にロッド状の操作杆を採用し、上記弁体に形成された貫通孔に前記操作杆を摺接自在に挿通している。弁体の貫通孔に挿通された操作杆は、その操作部を第1排ガス流路を横切って装置外に突出させている。一方、操作杆の分解生成物除去端部は第2排ガス流路を通して、燃焼室の排ガス導入口まで延びている。前記弁体に形成される貫通孔は操作杆の径より大きな内径をもつ円筒型としてもよいが、その内面形状を鼓型に形成すると、操作杆は貫通孔内を前後に摺動可能とできる上に、鼓状の貫通孔の中央狭部を支点として操作杆の分解生成物除去端部側を円錐状に回転操作することができるため、第2排ガス流炉の壁面を隈なく滑動させることが可能となり、同壁面や燃焼室の排ガス導入口の周辺に付着堆積する分解生成物を効率的に除去することができるようになる。
【0020】
更に流量調整弁の弁体は前記操作杆とは独立して上下に動作させることができるため、上述のとおり排ガスの燃焼熱の影響を直接受けることがなくなり、弁体を構成する材質のグレードを下げることができ、定期的な交換も不要となる。また前記弁体の動作をサーボモータで行い、上述の様に特徴ある弁形状を採用することにより、弁体の動きを自動的に制御することができると同時に、排ガス流量の微量調整に耐え得るようになる。これにより急激な炉内圧力変動がなくなり、糸切れや毛羽の発生が減少し、品質向上に寄与できる。排ガス流量調整弁の弁体動作は、サーボモータの回転駆動を台形ネジを介して上下方向の直線運動に変換し、その直線運動を制御することにより行われる。こうして、排ガス流量調整弁を自動化することで、管理室からの遠隔操作が可能となり、2人作業から1人作業へと切り換えることができ、省力化が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の排ガス燃焼装置の代表的な構成例を概略で示す側断面図である。
【図2】本発明における分解生成物除去部材及び排ガス流量調整弁の構成の一例を部分的に示す拡大側断面図である。
【図3】本発明における分解生成物除去部材及び排ガス流量調整弁の構成の他例を部分的に示す拡大側断面図である。
【図4】本発明の排ガス燃焼装置の他の構成例を概略で示す側断面図である。
【図5】本発明の排ガス燃焼装置の他の構成例を概略で示す側断面図である。
【図6】従来の一般的な焼成炉用の排ガス燃焼装置を備えた炭素繊維製造装置の製造工程の概略説明図である。
【図7】従来の炭素化炉用の排ガス燃焼装置の構成例を側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の代表的な実施形態を図面を参照しながら具体的に説明する。
図1は、炭素繊維製造装置における本発明に係る排ガス燃焼装置の概略構成例を示している。
【0023】
炭素繊維は、比強度、比弾性率、比抵抗、耐薬品性などに優れることから、様々な産業分野において、繊維強化樹脂の補強繊維などとして多く用いられている。炭素繊維の製造は、例えば、前駆体繊維としてポリアクリロニトリル系繊維(以下、PAN系繊維と記す。)を用いる場合、図示せぬ耐炎化炉にて、空気などの酸化性気体中にて、200〜300℃の温度で耐炎化処理した耐炎化繊維束を、炭素化炉2において、不活性雰囲気中にて、300〜2000℃の温度で耐炎化繊維束を炭素化処理して炭素繊維束1を得ている。
【0024】
耐炎化処理には、通常、酸化性気体の熱風(以下、単に熱風という。)を循環させる熱風循環型の耐炎化炉が用いられている。この熱風循環型の耐炎化炉では、該耐炎化炉内に設けられた熱処理室内に、多数の前駆体繊維束をシート状に引き揃えて走行させ、シート状に並列されたそれら前駆体繊維束を、熱処理室の外部入口側と出口側にそれぞれ複数段
に設けられる多数の各ロールに掛け回し、走行方向を一方と他方とに交互に変更させながら、熱処理室を多段に走行させる。これら連続して走行する前駆体繊維束は、鉛直方向より200℃以上の熱風が吹き付けられて加熱され、所望の耐炎化密度になるまで酸化反応されることで、耐炎化処理がなされる。
【0025】
前記耐炎化工程においては、前駆体繊維束を構成する単繊維同士の膠着が発生しやすいため、前駆体繊維束にはあらかじめシリコン系油剤が塗布されている。しかし、前駆体繊維束の耐炎化処理を長時間続けた場合、耐炎化炉内を循環する熱風中のシリコン系油剤に由来する揮発性珪素が高濃度となり、該揮発性珪素が珪素化合物などの粒子状物となって耐炎化炉内に蓄積する。そして、該珪素化合物などの粒子状物や前記前駆体繊維束のケバなどに由来する異物が耐炎化繊維に付着して、耐炎化繊維を汚染する恐れがある。また、耐炎化工程においては、前駆体繊維束の酸化反応によって、耐炎化炉内でシアン化合物、アンモニア、一酸化炭素、タール分などの各種化合物(以下「炉内ガス」と省略する。)が発生し、耐炎化炉周辺の環境を汚染する恐れがある。
【0026】
そのため、耐炎化炉内を循環する熱風を少しずつ排出しながら、新鮮な外気を耐炎化炉内に少しずつ給気して、熱風中の揮発性珪素や炉内ガス濃度を低減することが通常行われている。ところが、温度の低い外気を耐炎化炉に導入する場合、耐炎化炉内の熱風に温度斑が生じて、前駆体繊維束の発火や糸切れが引き起こされるなど、耐炎化処理を安定して行えない恐れが生じる。前駆体繊維束の発火や糸切れが引き起こされると、最終製造物である炭素繊維束の品質が低下することになる。したがって、外気を加熱してから耐炎化炉に給気することが望まれる。
【0027】
そこで、例えば上記特許文献1や特許文献3などに開示されているように、炭素化炉からの排ガスを熱源として利用し、熱交換器によって排ガスと新鮮な外気との間で熱交換を行った後、加熱された外気(以下、加熱外気と称す。)を耐炎化炉に給気する方法が提案されている。
【0028】
本実施形態に係る排ガス燃焼装置にあっては、図1に示すように、炭素化炉2内で発生する排ガスを炭素化炉2の底部から炭素化炉2の上方に配された排ガス燃焼室3へと送り出すため、炭素化炉2の底部に排ガス送出口4が設けられている。同排ガス送出口4には排ガス導出管5が接続されている。この排ガス導出管5は、前記排ガス導出口4から一旦鉛直下方へと突出したのち、炭素化炉2の側壁外に達するまで水平に延び、次いで炭素化炉2の上方に配された本発明の排ガス燃焼装置の一部である前記排ガス燃焼室3の配設部位まで鉛直上方に延びている。ここで、前記排ガス導出管5の鉛直上方へと立ち上がる部分が本発明における第1排ガス流路5aを構成する。以下の説明では前記第1排ガス流路として、鉛直上方に延びる排ガス流路5aを例にとって説明するが、例えば図4及び図5に示すように、第1排ガス流路は傾斜して立ち上げてもよい。また、図1に示す燃焼装置の説明では、排ガス燃焼室3に向けて水平に延びる第2排ガス流路を水平排ガス流路として説明するが、後述するように、この第2排ガス流路を一端が上下に傾斜するように配することができる。
【0029】
上記排ガス燃焼室3の側壁の一部には排ガス導入口3aが開口しており、この排ガス導入口3aと上記鉛直排ガス流路5aの上端部との間を水平に延びる排ガス導入管6にて接続している。上記排ガス導出管5の鉛直排ガス流路5aにおける、前記水平に延びる排ガス導入管6の水平排ガス流路6aとの分岐領域には、前記鉛直排ガス流路5aから水平排ガス流路6aへと導入される排ガス流量を調整する排ガス流量調整弁7が鉛直排ガス流路5aを上下に移動可能に配されている。この排ガス流量調整弁7の弁体7aは、円柱体の一端部を斜め45°の斜面に切断した形状を有し、その側面視で上記排ガス導入口3a側に上底面7a−1が配され、その反対側に下底面7a−2が配され、斜面7a−3を下方
に向けて上記分岐領域を上下に移動可能に挿入されている。なお、前記排ガス流路5a,6aの流路断面は、通常、上述のように円形であるが、四角形又は多角形や長円形としてもよい。
【0030】
また、水平排ガス流路6aに関しても、図1に示すような水平流路に限るものではなく、例えば図4及び図5に示すように、傾斜させて配することができる。ここで、特に図4に示すように燃焼室3に向けて下傾斜させて設ける場合には、排ガス導入口3aにこびり付いた珪素化合物などの粒子状物やタールなどは、排ガス燃焼室3内に自重で落下しやすいが、図5に示すように排ガス燃焼室3に向けて上傾斜させて設ける場合には、粒子状物やタールなどは第2排ガス流路6aの斜面に沿って第1排ガス流路5aに向けて移動しやすくなり、しかも第1及び第2排ガス流路の交差部において、弁体7aの上下動作により下方へと落下されやすくなるため、図4に示す構成と比較するとあまり好ましくはないが、傾斜する第1排ガス流路5aと組み合わせる場合には、粒子状物やタールなどが第2排ガス流路6aに停滞することが少なくなり、第1排ガス流路5aが炭素化炉2に達することをも考慮すると、上傾斜する意味はある。
【0031】
図1において、上記弁体7aの円形端面7a−4の中心部にピストンロッド7bの一端が固着一体化されており、同ピストンロッド7bの他端にはピストンロッド7bに直交する支軸7cが固着されており、本実施形態にあっては前記支軸7cに本発明における上記排ガス流量調整弁7の自動化装置8が連設されている。この排ガス流量調整弁7の自動化装置8は、矩形枠状のピストンロッド作動部本体8aと、同ピストンロッド作動部本体8aの動きに連動して上記ピストンロッド7bを上下に作動させる連動部8bとを有している。
【0032】
前記矩形枠状のピストンロッド作動部本体8aの左右の第1支柱部8a−1及び第2支柱部8a−2の一方の支柱部である第1支柱部8a−1は台形ねじから構成され、その上端は上側支持台8a−3に固設されたサーボモータMの出力軸が図示せぬ傘歯車を介して第1支柱部8a−1を回転可能に連結されている。上記連動部8bは、前記第1支柱部8a−1に螺合したナット部材8b−1と、同ナット部材8b−1から上記鉛直排ガス流路5aの上部に向けて水平に延びる連動部本体8b−2とを備えている。この連動部本体8b−2の途中には、前記連動部本体8b−2を支持するとともに、前記第2支柱部8a−2を挿通して同第2支柱部8a−2に案内されて上下に移動するブロック状の連動部本体支持部材8b−3が固設されている。前記連動部本体8b−2の一端は、前記ナット部材8b−1に固設一体化され、他端は鉛直下方に向けて屈曲され、その屈曲部8b−4は上記鉛直排ガス流路5a内を上下に移動する上記ピストンロッド7bの上端の支軸7cによって回動可能に支持されている。
【0033】
図1において、いま例えば鉛直排ガス流路5a及び水平排ガス流路6aを介して排ガス燃焼室3に送り込まれる炭素化炉2で発生する排ガスの供給量が所定の量を越えると、図示せぬガス流量検出手段から同じく図示せぬ制御部へと検出信号が送られる。同制御部からは前記検出信号に応じた駆動信号が上記サーボモータMの駆動部に送られ、サーボモータMを所定の回転数で駆動回転させる。この駆動により、第1支柱部8a−1が一方向に所要数回転し、同第1支柱部8a−1に螺合するナット部材8b−1を所定の距離下方へと移動させる。この下方への移動に伴って、前記ナット部材8b−1に一端を固設した連動部本体8b−2も下方へと移動する。このとき同時に、連動部本体8b−2に固着するブロック状の連動部本体支持部材8b−3が上記第2支柱部8a−2に案内されて下方へと移動する。この連動部本体8b−2の下降に応じて、上記屈曲部8b−4及びピストンロッド7bを介して排ガス流量調整弁7の弁体7aが鉛直排ガス流路5aを所定距離下降して、弁体7aと水平排ガス流路6aとの間の交差間隙を所定の間隔まで狭めて、排ガス燃焼室3へと送り込まれる排ガスの流量を減少させる。
【0034】
排ガス燃焼室3に送り込まれる排ガスの供給量が所定の量以下になると、上記ガス流量検出手段から上記制御部へと検出信号が送られ、同制御部からの駆動信号を受けて、上記サーボモータMの駆動部が作動して、サーボモータMを上記回転とは逆方向に所定の回転数で駆動回転する。この回転により、第1支柱部8a−1も上記とは反対方向に所要数回転し、連動部本体8b−2に固着するブロック状の連動部本体支持部材8b−3が上記第2支柱部8a−2に案内されて上方へと移動し、上記屈曲部8b−4及びピストンロッド7bを介して排ガス流量調整弁7の弁体7aを鉛直排ガス流路5aを所定距離上昇させ、弁体7aと水平排ガス流路6aとの間の交差間隙を所定の間隔まで拡げて、排ガス燃焼室3へと送り込まれる排ガスの流量を所定量まで増加させる。
【0035】
こうして、排ガス燃焼室3に送り込まれた排ガスは、外部から取り入れられる空気及び燃料の混合気体を図示せぬバーナにより着火し、或いは燃焼中の排ガスの燃焼を利用して燃焼させる。このように燃焼される排ガスには、炭素化炉2にて炭素化するときに、前駆体繊維束の分解生成物である、シアン化水素、アンモニア、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、気化したタール成分等や、シリコン系油剤に由来する揮発性珪素が含まれている。これらの分解生成物、特にシアン化水素などの有害物質を含む排ガスは、そのままでは大気中に放出することができないため、分解生成物を排ガス燃焼室3において燃焼処理し酸化する。
【0036】
燃焼によりタール化したタール成分及び固化した珪素化合物などの粒子状物は、主に上記水平排ガス流路6aの内壁面に付着し蓄積されて、水平排ガス流路6aを閉塞してしまう。更には、これらの分解生成物は鉛直排ガス流路5a内を落下して、従来であれば、鉛直排ガス流路5aが炭素化炉2の天上部から直接立ち上げられているため、炭素化炉2にて処理される製品上に直接落下して付着し、製品を汚染するだけでなく単繊維を切断させたり、製品に損傷を与えて、炭素繊維製品としての本来の物性が失われかねない。しかるに、本発明にあっては、鉛直排ガス流路5aを炭素化炉の焼成室の底部から一旦下方へと外部に排出し、続いて炉外を水平に送り出したのち、鉛直上方に立ち上げるように配置しているため、この鉛直排ガス流路5a内を落下する分解生成物は同流路5aの底部に蓄積され、直接製品上に落下することはなく、前述のような問題は生じない。鉛直排ガス流路5aの底部に蓄積される燃焼後の分解生成物は、例えば鉛直排ガス流路5aに図示せぬ開閉口を設けておき、同開閉口を開けて外部へと回収する。
【0037】
また、特に上記珪素化合物は、排ガス燃焼室3の排ガス導入口3aとその近傍に固化して蓄積されるため、時機を得て確実に取り除く必要がある。本発明にあっては、上記水平排ガス流路6a、特に排ガス燃焼室3への排ガス導入口3aとその近傍の流路壁面とに付着して蓄積されるタール分や珪素化合物を掻き落として除去するための分解生成物除去部材9を備えている。
【0038】
本実施形態における分解生成物除去部材9は、一端部に排ガス導入口3aの周辺と水平排ガス流路6aの内壁面に付着する分解生成物の掻き取り操作のための操作部9aと、他端部にて壁面などに付着する分解生成物を掻き取るとともに、掻き取られた分解生成物を鉛直排ガス流路5a又は排ガス燃焼室3へと排出する棒本体9bとを有する単純なロッド状の棒材からなり、その長さは上記排ガス導入口3aから水平排ガス流路6aを通して鉛直排ガス流路5aを横断し、その横断部の流路壁を貫通させて、排ガス流路外にて手操作を可能にするに十分な長さを有している。
【0039】
一方、上記排ガス流量調整弁7には、その弁体7aの上底面7a−1と下底面7a−2との間を水平に貫く貫通孔7dが形成されており、この貫通孔7dに前記ロッド状の分解生成物除去部材9が上記排ガス導入口3aに向けて進退可能に遊挿されている。前記貫通
孔7dは、上述のように、分解生成物除去部材9の操作部9aを操作することにより、その棒本体9bの先端部にて排ガス導入口3aの周辺と水平排ガス流路6aの内壁面に付着する分解生成物の掻き取るため、その先端部を水平排ガス流路6aの内壁面に沿って隈なく摺動できるように、操作部9aの操作を確実に棒本体9bの先端に伝達する必要がある。そのため、前記貫通孔7dの内径を前記分解生成物除去部材9の操作部を9aを含めて棒本体9bの径よりも大きくしている。通常は、図2に示すように、前記貫通孔7dは、長さ方向で径に変化を与えていない。
【0040】
これに対して、図3に示す実施形態では、上記貫通孔7dの内面形状を、上述の形態のように均一な円形断面とせず、入り口及び出口から中間部に欠けて漸次径を減少させた鼓状に形成されている。このような内面形状とすることにより、分解生成物除去部材9の棒本体9bが鼓状の貫通孔7dの最も狭まった部位を支点として、操作部9aの小さな動きに対して棒本体9bの先端掻き落とし端部を大きな動きに変換しやすくなり、操作部9aの僅かな操作量で、先端掻き落とし端部を大きく動かすことができ、排ガス導入口3aの周辺と水平排ガス流路6aの内壁面に付着する分解生成物を確実に掻き取り排出しやすくなる。
【0041】
本実施形態が上述の通りの構成を備えているため、炭素繊維の製造工程及び品質の安定性が確保される。すなわち、流量調整弁が鉛直方向の動作により排ガス流路全体の閉塞が減少すること、流量調整弁の自動化により作業員の手作業が無くなること、排ガスを焼成炉の下部から排出し、炉外を迂回して焼成炉の上方に配された排ガス燃焼装置の排ガス導入口へと送るようにしたため、鉛直排ガス流路を落下する分解生成物が焼成路内の処理製品上に直接落下することがなくなり、処理工程が安定化し、炉内圧力変動や落下物による糸切れ、毛羽が減少し、歩留まりが向上する。
【0042】
また、排ガス流量調整弁の調整操作が自動化できるため、高温排ガスが流れる排ガス流路内の流量調整弁を作業員の手で操作することがなくなり安全性が向上するとともに、現場での作業員による手動による弁操作が無くなり、管理室にて1人で工程の状況を確認しながら遠隔操作も可能となり、省力化を図れる。更に、排ガス流量調整弁が排ガス燃料室から離れた部位に配されるため、排ガス流量調整弁だけでなく分解生成物除去部材の焼失が無くなり、定期的な交換も不要となる。
【0043】
以上を具体的に述べると、焼成炉から排ガス燃焼装置に送られる排ガスの流量調整弁を従来の水平方向の動作から上下方向の動作へと変更して流路開度の調整ができるようにしたことにより、周辺機器やダクトの熱伸びによる偏芯、弁体の撓みによるダクトとの摩擦がなくなり、流量調整弁の自動化が可能となった。
【0044】
排ガス流量調整弁と分解生成物除去部材とを別個に動けるようにして、排ガス流量調整弁を水平方向から鉛直方向の動作で開度調整できるようにし、一方で分解生成物除去部材を排ガス流量調整弁とは独立して、その操作部を排ガス燃焼室側とは反対側の外部で操作して水平方向に動くようにしたことで、排ガス燃焼室の排ガス導入口に付着し、排ガス流路を閉塞させていた珪素化合物を容易に掻き落として除去できるようになり、それらの付着物により発生する上記問題が解消される。また、排ガス流量調整弁の開度調整を第1排ガス流路における上下方向の動作により実行できるため、弁体と配管との間に付着し、排ガス流路を閉塞させていたタール等が無くなり、排ガス流路が閉塞されなくなる。更に、排ガス流量調整弁が上下に動作するようにしたことにより、排ガスの燃焼による熱の影響を直接受けることがなくなり、弁体材質のグレードを下げることができ、定期的な交換も不要となる。
【0045】
排ガス流量調整弁の動作をサーボモータで行い、特異な弁形状とすることにより、排ガ
ス流量の微量調整に耐え得る構造とした。これにより急激な炉内圧力変動が無くすことができるようになり、糸切れ、毛羽の発生が減少し、品質向上にもつながっている。また、前記排ガス流量調整弁の動作を、台形ネジを使用して行わせているため、弁体が落下することはない。
【符号の説明】
【0046】
1 炭素繊維束
2 炭素化炉
3 排ガス燃焼室
3a 排ガス導入口
4 排ガス送出口
5 排ガス導出管
5a 鉛直排ガス流路(第1排ガス流路)
6 水平排ガス導入管
6a 水平排ガス流路(第2排ガス流路)
7 排ガス流量調整弁
7a 弁体
7a−1 上底面
7a−2 下底面
7a−3 斜面
7a−4 円形端面
7b ピストンロッド
7c 支軸
7d 貫通孔
8 自動化装置
8a ピストンロッド作動部本体
8a−1 第1支柱部
8a−2 第2支柱部
8a−3 上側支持台
8b 連動部
8b−1 ナット部材
8b−2 連動部本体
8b−3 連動部本体支持部材
8b−4 屈曲部
9 分解生成物除去部材
9a 操作部
9b 棒本体
10 排ガス燃焼装置
11 鉛直排ガス流路
12 燃焼室
12a 排ガス導入口
21 排ガス排出口
23 水平排ガス流路
26 排ガス流量調整弁
26a 弁体
26a−1 上底面
26a−2 下底面
26a-3,26a-4 一方及び他方の連結面
26b 操作ロッド
27 空気供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維製造工程における焼成炉にて発生する排ガスを燃焼処理する排ガス燃焼装置であって、
焼成炉の底部に配され、焼成炉で発生する排ガスを炉外に排出する排ガス導出口と、
該排ガス導出口に接続され、炉外で上方へと延びる第1排ガス流路と、
該第1排ガス流路と連通し、前記排ガス燃焼装置の燃焼室内に開口する排ガス導入口の側方位置にて排ガス導入口に通じる第2排ガス流路とを有し、
前記第1排ガス流路と前記第2排ガス流路との交差部に、前記第1排ガス流路から前記第2排ガス流路に導入される排ガス流量を調整する排ガス流量調整弁が配されてなり、
該排ガス流量調整弁には前記排ガス導入口に向けて貫通する貫通孔が形成され、
該貫通孔に挿通されて前記第2排ガス流路内を進退可能であり、前記第1排ガス流路から外部に延設する操作部を有し、前記第2排ガス流路に蓄積される前駆体繊維の分解生成物を除去する分解生成物除去部材を備えてなる、排ガス燃焼装置。
【請求項2】
第2排ガス流路と第1排ガス流路との交差部に配される前記排ガス流量調整弁が、前記交差部内を第1排ガス流路に沿って昇降可能である弁体を有してなる請求項1記載の排ガス燃焼装置。
【請求項3】
前記弁体の前記第2排ガス流路と前記第1排ガス流路とを同時に含む側面から見た断面形状が、上底を前記排ガス導入孔側に配し、下底を反排ガス導入孔側に配し、その上底と下底とをつなぐ斜面を下方に向けた梯形を呈してなる請求項2記載の排ガス燃焼装置。
【請求項4】
前記分解生成物除去部材が前記弁体に形成された貫通孔に挿通されて、同貫通孔を前後に摺動可能なロッド状である請求項2記載の排ガス燃焼装置。
【請求項5】
前記第1排ガス流路内で前記排ガス流量調整弁の弁体を制御作動させるサーボモータを有してなる請求項2記載の排ガス燃焼装置。
【請求項6】
前記排ガス流量調整弁に形成された貫通孔が鼓型である請求項1記載の排ガス燃焼装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−67977(P2012−67977A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214200(P2010−214200)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】