説明

焼成炉

【課題】グラファイトヒータを使用した抵抗加熱による焼成炉に比較して、焼成に必要な時間を短縮することができ、焼成された被焼成体の気孔径及び曲げ強度のばらつきを小さくすることができ、しかも、発熱体の耐久性を向上させることができる焼成炉を提供する。
【解決手段】焼成炉本体11は、断熱材14で周囲を覆われた焼成室13内に、導電性の材料で形成された筒状の発熱体16が設けられている。断熱材14の外側には誘導コイル21が配設されている。誘導コイル21に高周波電源22から周波数変換装置23を介して高周波電流が供給されると、誘導加熱により発熱体16が発熱する。発熱体16内に被焼成体を収容した状態で誘導コイル21に高周波電流が供給されると被焼成体が焼成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成炉に係り、詳しくは炭化珪素成形体の焼成に好適な焼成炉に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バス、トラック等の車両や建設機械等で使用されるディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれるパティキュレートが環境や人体に悪影響を及ぼすことが問題となっており、この排気ガス中のパティキュレートを捕集して排ガスを浄化するセラミックフィルタ(以下、DPFと称す。)が種々提案されている。このようなDPFとしては、炭化珪素を主成分とする多孔質のハニカム構造体(ハニカムフィルタ)が提案され、また、実施されている。
【0003】
従来、このような多孔質炭化珪素製のDPFを製造する際は、まず、炭化珪素粉末とバインダーと分散液とを混合して成形体製造用の混合組成物を調製した後、炭化珪素成形体を作製する。次に、得られた炭化珪素成形体を乾燥させ、一定の強度を有し、容易に取り扱うことができる炭化珪素成形体の乾燥体を製造する。
【0004】
この乾燥工程の後、炭化珪素成形体を酸素含有雰囲気下において、400〜600℃に加熱し、有機バインダー成分中の溶剤を揮発させるとともに、樹脂成分を分解消失させる脱脂工程を行う。その後、さらに、炭化珪素粉末を不活性ガス雰囲気下、所定の焼成温度(例えば、2000〜2300℃)に加熱することにより焼結させる焼成工程を経て多孔質炭化珪素製のDPFが製造される。
【0005】
そして、このような脱脂後の炭化珪素成形体の焼成に使用する焼成炉として、炉の上下両側にグラファイトヒータを配置した構成のものがある(例えば、特許文献1参照。)。この焼成炉は、図5に示すように、焼成炉内に配設された筒状のマッフル(焼成室)51の上下両側に棒状のグラファイトヒータ52が複数本ずつ一定間隔で配設されている。そして、マッフル51内に被焼成体53が載置された焼成用治具54を複数段積み重ねて支持台55上に載置した状態で、グラファイトヒータ52に通電することによりグラファイトヒータ52が発熱して、その熱によりマッフル51内の被焼成体53を加熱する。なお、炉の左右両側にグラファイトヒータを配設した構成のものもある。
【特許文献1】特開2002−193670号公報(明細書の段落[0008],[0021],[0022]、図1,図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に開示された焼成炉のように、棒状のグラファイトヒータ52を使用して被焼成体53を焼成する焼成炉において、炭化珪素成形体を焼成した場合には、発熱体であるグラファイトヒータ52が被焼成体から発生するガスと反応して劣化することにより破損し易いという問題がある。
【0007】
なぜならば、炭化珪素成形体は、その製造条件に起因して炭化珪素粉末中に約3%程度のSiOを含有している。そして、焼成工程において、炭化珪素成形体から上記SiOが昇華して放出され、その一部がSiOガスとなり、このSiOガスとグラファイトヒータ52を構成する炭素とにより下記反応式(1)に示す反応が進行する。
【0008】
SiO+2C→SiC+CO・・・(1)
その結果、グラファイトヒータ52は、その径が徐々に細くなり、径が細くなると抵抗が大きくなる。例えば、グラファイトヒータ52として、最初の直径が35〜45mmのものを使用した場合、直径が3〜4mm細くなると、溶断してしまう。そのため、3ヶ月程度でグラファイトヒータ52の交換が必要になる。また、複数本(十数本)のグラファイトヒータ52のうち2本又は3本溶断しても炉内温度が予定する最高温度(例えば、2300℃)に到達できない状態となり、メンテナンス周期が短くなるという問題もある。径が細くなることを考慮して、グラファイトヒータ52として最初の直径が50mmのものを使用すると、抵抗加熱(通電加熱)に必要な電圧が高くなりすぎるため、設備的に難しい。
【0009】
また、特許文献1に記載の焼成炉では、被焼成体53はマッフル51の中に配置された焼成用治具54に支持された状態で加熱される。そのため、グラファイトヒータ52の熱が被焼成体53に効率良く伝達されず、焼成完了(焼結完了)までに時間がかかると共に、被焼成体53の焼成状態にもばらつきが生じ易い。焼成状態にばらつきがあると、焼成された被焼成体(多孔質炭化珪素成形体)53の平均気孔径にばらつきが存在する。平均気孔径に大きなばらつきが存在する多孔質炭化珪素成形体は、その曲げ強度にもばらつきが発生するとともに、パティキュレートの捕集効率が劣るという問題もある。
【0010】
本発明の目的は、グラファイトヒータを使用した抵抗加熱(通電加熱)による焼成炉に比較して、焼成に必要な時間を短縮することができるとともに、焼成された被焼成体の気孔径及び曲げ強度のばらつきを小さくすることができ、発熱体の耐久性を向上させることができる焼成炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、焼成炉に係る請求項1に記載の発明は、断熱材で周囲を覆われた焼成室と、その焼成室内に配設される導電性の材料で形成された発熱体と、前記断熱材の外側に配設された誘導コイルと、前記誘導コイルに高周波電流を供給する高周波電流供給装置とを備えたことを要旨としている。
【0012】
この構成によれば、断熱材の外側に配設された誘導コイルに高周波電流が供給されることによって高周波磁束が発生し、断熱材の内側に配設された発熱体を前記高周波磁束が貫通する。その結果、発熱体に起電力が起こり、渦電流が誘導されて発熱体が渦電流によって加熱される。そして、焼成される被焼成体は発熱体から発生する熱で加熱される。従って、マッフル(焼成室)の外側に配設されたヒータでマッフル内の被焼成体を加熱する外部加熱による焼成炉に比較して、焼成に必要な時間を短縮することができる。被焼成体が炭化珪素成形体の場合、被焼成体自身も誘導加熱で加熱されるため、焼成時間をより短縮することができる。また、発熱体が発熱して焼成温度まで高められるのは焼成室の内部空間であり、高温にすべき空間の体積を従来の外部加熱に比較して小さくすることができるため、被焼成体が均一に加熱され易くなり、焼成された被焼成体の気孔径及び曲げ強度のばらつきを小さくすることができる。また、発熱体を誘導加熱方式で発熱させる場合も、炭化珪素成形体を被焼成体とした場合には、発生するSiOガスにより発熱体が攻撃される。しかし、発熱体は抵抗加熱(通電加熱)ではなく誘導加熱されるものであり、その体積を大きくしても供給電力はあまり影響を受けないため、例えば直径や厚さを大きくすることで発熱体の長寿命化を図ることも可能となり、メンテナンスの周期を長くできる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の焼成炉において、前記発熱体は、焼成室内において被焼成体に内面側が対面する板状部を備えていることを要旨としている。この構成によれば、炭化珪素成形体を被焼成体とした場合においてその被焼成体から発生するSiOガスにより発熱体が攻撃され、その発熱体における板状部の一部に穴があいても、該発熱体は継続して誘導過熱により発熱することが可能とされる。従って、発熱体が棒状をなす場合に比して、発熱体の長寿命化を確実に図ることができ、より一層メンテナンスの周期を長くできる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の焼成炉において、前記発熱体は、その内部に被焼成体を収容可能な筒状に形成されていることを要旨としている。この構成によれば、被焼成体は筒状の発熱体の内部に収容されて四方から加熱されるため、均熱加熱がより良好に行われる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載の焼成炉において、前記発熱体は、前記被焼成体に対して下方から対面する板状部を備えており、当該板状部の上面には被焼成体を載置支持する治具を移動可能とするローラが設けられていることを要旨としている。この構成によれば、被焼成体の焼成位置へのセットや焼成炉からの取り出しが容易になる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載の焼成炉において、前記発熱体はカーボンで形成されていることを要旨としている。この構成によれば、被焼成体が炭化珪素焼成体である場合、その焼成温度である、例えば2200〜2300℃でも充分な耐熱性を有し、誘導加熱に適した導電性を有する発熱体を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来のグラファイトヒータを使用した抵抗加熱(通電加熱)による焼成炉に比較して、焼成に必要な時間を短縮することができるとともに、焼成された被焼成体の気孔率及び強度のばらつきを小さくすることができ、しかも、発熱体の耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を多孔質炭化珪素成形体であるDPFの製造に好適な焼成炉に具体化した一実施形態を図1及び図2に従って説明する。
図1に示すように、焼成炉10は四方を壁面で囲まれた焼成炉本体11を有している。焼成炉本体11は、その周壁部分に水冷ジャケット12を備え、水冷ジャケット12で囲まれた空間内に焼成室13が設けられている。水冷ジャケット12は鉄製で内部に冷却水が循環されるようになっている。焼成室13は、絶縁材で四角筒状に形成され、その周囲を断熱材14で覆われている。焼成室13は、水冷ジャケット12の内側下部に設けられたフレーム15上に立設された複数本(図1では2本が見えている。)の支柱15aにより支持されている。
【0019】
焼成室13の内側には四角筒状の発熱体16が横置き(水平)に配設されている。すなわち、発熱体16は上下左右4つの板状部16aが四角環状に連続した四角筒状をなしている。発熱体16はその下面と焼成室13の下壁面との間にスペーサ13aを介して配置されている。発熱体16はカーボンで形成され、その厚さ(具体的には、板状部16aの厚さ)が、例えば50mmに形成されている。
【0020】
発熱体16の下部には、被焼成体17(図2(a),(b)に図示)を載置支持する治具としての焼成用治具18を発熱体16の軸方向に沿って移動可能とするローラ19が設けられている。焼成用治具18は支持台20上に複数段に載置された状態で、支持台20と共に発熱体16の内部に収容可能に構成されている。ローラ19及び支持台20は、前記焼成炉10における焼成時の最高温度(例えば、2300℃)の高温に耐える材質、例えばカーボンで形成されている。
【0021】
断熱材14の外側には誘導コイル21が配設されている。誘導コイル21は、高周波電流を供給する高周波電源(交流電源)22に、周波数変換装置23を介して接続されている。即ち、誘導コイル21は、その各端子21a,21bが周波数変換装置23にそれぞれ接続されている。周波数変換装置23は、誘導コイル21に供給する高周波電流の電圧及び周波数を調整可能に構成され、図示しない整流器、直流リアクトル、インバータ等を備えており、インバータは複数のサイリスタで構成されている。周波数変換装置23は制御装置24からの指令信号に基づいて制御される。高周波電源22と周波数変換装置23及び制御装置24は、誘導コイル21に高周波電流を供給する高周波電流供給装置を構成する。
【0022】
焼成炉本体11内の空気は、図示しない真空ポンプにより真空引きされるようになっている。また、焼成炉本体11には、不活性ガス(例えば、アルゴンガス)を導入するためのガス導入管25が、周壁部分からその一端を焼成室13内に連通させるように配設されている。
【0023】
図2(b)に示すように、焼成用治具18は四角箱状に形成され、内部に複数本の被焼成体17が平行に収容可能に構成されている。図2(a)に示すように、焼成用治具18は、被焼成体17を直接、焼成用治具18上に載置するのではなく、焼成用治具18上に載置された下駄材26の上に被焼成体17を載置するようになっている。そして、焼成用治具18は、下駄材26の上に被焼成体17を載置した状態において、上段側に他の焼成用治具18を積み重ねても、被焼成体17が上段側の焼成用治具18と干渉しない深さに形成されている。
【0024】
次に、前記のように構成された焼成炉の作用を説明する。
炭化珪素粉末とバインダーと分散液とを混合して調製された成形体製造用の混合組成物で作製された炭化珪素成形体が、乾燥工程で乾燥された後、脱脂工程において脱脂されたものが焼成炉での被焼成体17となる。
【0025】
脱脂後の炭化珪素成形体は、機械的強度が低く、壊れ易いため、保形性が不安定となる。従って、脱脂後の炭化珪素成形体を焼成炉での焼成の際に、焼成用治具18に移載する作業を行うと、被焼成体17が型崩れする等して損傷する虞がある。そのような不都合を回避するため、被焼成体17は、脱脂工程の段階で、焼成工程で使用される焼成用治具18に収容された状態で脱脂される。即ち、乾燥工程で乾燥された炭化珪素成形体は、焼成用治具18上に下駄材26を介して載置支持された状態で脱脂処理を受ける。
【0026】
そして、脱脂工程を終了した被焼成体17が収容された焼成用治具18は、支持台20上に複数個積み重ねられた状態で、焼成炉本体11の筒状の発熱体16内に搬入される。搬入は支持台20を押すことにより、ローラ19が転動して支持台20が焼成用治具18と共に安定した状態で移動することにより行われる。
【0027】
被焼成体17の搬入が終了すると、焼成炉本体11の図示しないシャッタが閉じられる。次に焼成炉本体11内が真空引きされた後、ガス導入管25からアルゴンガスが導入される。その後、焼成が開始される。焼成は予め設定された条件(昇温速度、最高温度(2300℃)での保持時間、降温速度等)を満たすように、高周波電源22の電流が周波数変換装置23を介して誘導コイル21に供給されることにより行われる。
【0028】
誘導コイル21に高周波電流が供給されると、誘導コイル21の内側を貫通するように高周波磁束が発生し、誘導コイル21の内側に配置された物体である発熱体16、被焼成体17、焼成用治具18等を高周波磁束が貫通する。そして、この場合、磁束が導電体を貫通すると導電体に渦電流が発生し、その渦電流によって導電体が加熱される現象である誘導加熱が生じる。ここで、発熱体16は導電体であるため誘導加熱により加熱されて発熱する。そして、被焼成体17は発熱体16から発生する熱で加熱される。
【0029】
焼成用治具18も発熱体16と同様にカーボンで形成されているため、焼成用治具18も誘導加熱によって発熱し、その熱によっても被焼成体17が加熱される。また、被焼成体17は炭化珪素成形体のため、カーボンより導電性は悪いが導電体である。従って、被焼成体17においては弱い誘導加熱が生じて加熱される。
【0030】
この実施形態の焼成炉10においても、被焼成体17の焼成時にSiOガスが発生し、SiOガスと発熱体16のカーボンとが反応する。即ち、発熱体16は従来技術の場合と同様にSiOガスにより攻撃される。従来技術のグラファイトヒータの場合は棒状で、その直径が3〜5mm減少した時点で抵抗値の増大によって溶断し易くなり、2本又は3本が溶断すると、焼成時の最高温度(2300℃)まで加熱することができなくなる。しかし、この実施形態の発熱体16は被焼成体17を四方から囲むように4つの板状部16aが四角環状に繋がった筒状でSiOガスの攻撃を受け止める面積が広いため、単位面積当たりの失われるカーボンの量が少なくなる。また、仮に多少穴があいても誘導加熱される上での支障はなく、継続して所定の焼成温度(最高温度)まで加熱することができる。
【0031】
被焼成体17として、外形寸法が33mm×33mm×167mmのDPFをこの実施形態の焼成炉10で焼成して製造した場合と、従来技術であるマッフル(焼成室)の外側に配設されたグラファイトヒータで抵抗加熱(通電加熱)する焼成炉で焼成して製造した場合について、得られたDPFの曲げ強度、平均気孔径及びそれらのばらつきを測定した。
【0032】
その結果、誘導加熱を使用したこの実施形態の被焼成体17では、曲げ強度は40MPa以上ある部分で、断面方向でのばらつきは3点曲げで最大値と最小値との差が4.9MPaとなり、外部加熱による従来品では、曲げ強度は40MPa以上ある部分で、断面方向でのばらつきは3点曲げで最大値と最小値との差が8.6MPaであった。即ち、曲げ強度のばらつきは半分近くに低下した。
【0033】
また、誘導加熱を使用したこの実施形態の被焼成体17では、平均気孔径が9±2μmで、断面方向でのばらつきが1.31μmとなり、外部加熱による従来品では、平均気孔径が9±2μmで、断面方向でのばらつきが1.45μmであった。即ち、気孔径のばらつきも従来技術に比較して小さくなった。
【0034】
この実施形態によれば以下のような効果を得ることができる。
(1)焼成炉10は、断熱材14で周囲を覆われた焼成室13内に導電性の材料で形成された発熱体16が設けられ、断熱材14の外側に配設された誘導コイル21に高周波電流を供給することにより、誘導加熱で発熱体16が加熱され、発熱体16からの発熱で被焼成体17が焼成される。従って、マッフル(焼成室)の外側に配設されたヒータで抵抗加熱する従来の焼成炉に比較して、焼成に必要な時間を短縮することができる。また、高温にすべき空間の体積(この実施形態では発熱体16の内部)を小さくすることができ、被焼成体17が均一に加熱され易くなり、焼成された被焼成体17の気孔径及び曲げ強度のばらつきを小さくすることができる。
【0035】
(2)炭化珪素成形体を被焼成体17とした場合、棒状のグラファイトヒータを複数本使用する従来構成では、発生するSiOガスによりグラファイトヒータが損傷し、2本又は3本溶断すると、予定する最高温度(2300℃)まで加熱することができなくなる。炭化珪素成形体を被焼成体17とした場合には、発熱体16を誘導加熱方式で発熱させる場合も、発生するSiOガスにより発熱体16が攻撃される。しかし、発熱体16は、焼成室13内において被焼成体17に内面側が対面する板状部16aからなる構成であるため、その一部に穴があいても最高温度(2300℃)まで加熱が可能であり、メンテナンスの周期を長くできる。ちなみに、従来の棒状ヒータを使用する抵抗加熱の場合は、3ヶ月で寿命が来て棒状ヒータを交換する必要があったが、誘導加熱の場合は6ヶ月たってもSiOガスによる損傷での発熱体16の交換は不要であった。
【0036】
(3)棒状ヒータを使用する抵抗加熱の場合は、棒状ヒータの径を大きくすると供給電圧が大きくなる。そして、設備の関係から供給電圧はあまり高くできないため、棒状ヒータの径を大きくしてヒータの寿命を長くすることは難しい。しかし、誘導加熱の場合は発熱体16の厚さを厚くしても供給電力はあまり影響を受けないため、発熱体16の厚さ(すなわち、板状部16aの厚さ)を厚くして発熱体16の寿命を長くすることが容易で、メンテナンス周期をより長くすることができる。
【0037】
(4)焼成用治具18はカーボンで形成されているため、発熱体16と同様に誘導加熱で発熱し、その熱によっても被焼成体17が加熱されるため、焼成時間をより短縮することができる。
【0038】
(5)被焼成体17が炭化珪素成形体であり、被焼成体17自身も導電体のため、誘導加熱で加熱される。従って、焼成時間をより短縮することができる。
(6)発熱体16は筒状に形成され、その内部に被焼成体17が収容可能に構成されている。従って、被焼成体17は筒状の発熱体16の内部に収容されて四方から加熱されるため、均熱加熱がより良好に行われる。また、筒状のため強度が大きくなる。
【0039】
(7)発熱体16の下部(下側の板状部16aの上面)には被焼成体17を載置支持する焼成用治具18を筒状をなす発熱体16の軸方向に沿って移動可能とするローラ19を備えている。従って、被焼成体17の焼成位置へのセットや焼成炉からの取り出しが容易になる。
【0040】
(8)発熱体16はカーボンで形成されている。従って、炭化珪素焼成体の焼成温度である、例えば2200〜2300℃でも充分な耐熱性を有し、誘導加熱に適した導電性を有する発熱体16を容易に形成することができる。
【0041】
(9)被焼成体17は、箱状の焼成用治具18上に直接載置されるのではなく、下駄材26を介して焼成用治具18との間に空間を設けて載置されているため、被焼成体17と焼成用治具18とのくっつきが回避される。
【0042】
(10)焼成炉本体11は、焼成室13に不活性ガスを導入するためのガス導入管25を備えている。従って、非酸化雰囲気下で焼成を行うのが容易になる。
なお、上記実施形態は、例えば次のような別の実施形態(別例)に具体化してもよい。
【0043】
・ 発熱体16は、複数積み重ねられた焼成用治具18の1組を、あるいは複数組を1列に収容できる形状に限らず、例えば、図3に示すように、焼成用治具18を2列で収容可能な筒状としてもよい。この場合、被焼成体17の1個当たりに必要な焼成時間を短くでき、生産性が向上する。
【0044】
・ 筒状の断熱材14の外周に配設される(巻き付けられる)誘導コイル21は1本に限らない。例えば、断熱材14における筒状部が長い場合、1本の誘導コイル21を筒状部の全長に亘って巻き付けるのではなく、複数本の誘導コイル21を使用するとともに、筒状部を長手方向において複数の領域に分割して、各領域に異なる誘導コイル21を巻き付けてもよい。
【0045】
・ バッチ式の焼成炉に限らず、連続式の焼成炉に適用してもよい。連続式の焼成炉の場合には、焼成用治具18が焼成炉の中を入口側から出口側へと一定方向に間欠的に移動して、温度が異なる領域を通過することで被焼成体17の焼成が行われる。即ち、筒状の焼成炉内の温度が入口部から中央部に向かうに従って高くなり、最高温度の領域を過ぎると出口部に向かって次第に低くなるように発熱体の発熱量が制御される。誘導コイル21は、温度が異なる領域に対応して複数設けられ、各誘導コイル21には異なる周波数の高周波電流が供給される。
【0046】
・ 発熱体16は筒状に限らない。例えば、図4に示すように、発熱体16を断面U字状としたりあるいは逆U字状としたりして、3つの板状部16aにより3方向から加熱する構成としてもよい。これらの場合も、従来の棒状のグラファイトヒータで外部加熱する構成に比較して、焼成に必要な時間を短縮することができるとともに、焼成された被焼成体17の気孔率及び曲げ強度のばらつきを小さくすることができ、しかも、発熱体16の耐久性を向上させることができる。
【0047】
・ 発熱体16を1つの板状部16aからなる1枚の平板状としたり、2枚の平板状の発熱体を上下方向や左右方向で向かい合わせて配置したりしてもよい。
・ 被焼成体17の形状はDPFの場合でも外形が四角柱状に限らず、円柱状あるいは四角柱状以外の多角柱状(例えば、三角柱状、六角柱状)であってもよい。
【0048】
・ 被焼成体17がDPFの場合でも、炭化珪素成形体に限らず、他のセラミック成形体であってもよい。例えば、被焼成体17として主成分をコージェライトとしたりあるいは炭化珪素とシリコン(Si)との混合物としたセラミック成形体であってもよい。被焼成体17の成分(材料)により焼成時の最高温度(最高維持温度)が異なり、被焼成体17がコージェライトを主成分とした場合、大気雰囲気下、焼成温度は1400〜1450℃が好ましい。また、炭化珪素とシリコンとの混合物を主成分とする場合は、窒素ガス、アルゴンガス等の非酸化性雰囲気下、1400〜1800℃の温度で焼成するのが好ましい。従って、誘導加熱を利用した焼成炉であっても、焼成される被焼成体17の成分によっては、最高温度が2300℃に達する必要はなく、例えば、最高温度が1500℃又は1800℃であってもよい。
【0049】
・ 被焼成体17はDPFに限らず、他のセラミック製品であってもよい。また、成分も炭化珪素に限らない。
・ 焼成用治具18を支持台20を介してローラ19上を移動させる代わりに、焼成用治具18を直接ローラ19上を移動させる構成としてもよい。しかし、支持台20を使用する方が安定した状態で移動させ易い。
【0050】
・ 焼成炉10内を真空引きした後、不活性ガスを充填する構成に代えて、不活性ガスを充填せずに、単に真空引きするだけでもよい。また、真空引きをせずに、不活性ガスを充填する構成としてもよい。
【0051】
・ 焼成室13を構成する絶縁体と断熱材14とを別々に設けずに、絶縁性の断熱材で焼成室13を構成し、その外側に誘導コイル21を配設してもよい。
・ 焼成用治具18は、導電性の材質ではなく焼成温度に耐えうる絶縁性のセラミックスで形成してもよい。
【0052】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(1)前記焼成室に不活性ガスを導入するガス導入管を備えている請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の焼成炉。この場合、非酸化雰囲気下で焼成を行うのが容易になる。
【0053】
(2)前記治具は導電性の材料で形成されている請求項4に記載の焼成炉。この場合、発熱体と同様に治具も誘導加熱で発熱し、その熱によっても被焼成体が加熱されるため、焼成時間をより短縮することができる。
【0054】
(3)炭化珪素成形体の焼成方法であって、カーボン製の筒状の発熱体の筒内に被焼成体を収容し、前記発熱体の外周に配設された誘導コイルに高周波電流を供給して被焼成体を加熱する炭化珪素成形体の焼成方法。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】一実施形態の焼成炉の模式断面図。
【図2】(a)は焼成用治具の積み重ねられた状態を示す模式断面図、(b)は焼成用治具の模式斜視図。
【図3】別の実施形態の焼成炉の模式断面図。
【図4】更に別の実施形態の焼成炉の模式断面図。
【図5】従来の焼成炉の模式断面図。
【符号の説明】
【0056】
10…焼成炉、13…焼成室、14…断熱材、16…発熱体、16a…板状部、17…被焼成体、18…治具としての焼成用治具、19…ローラ、21…誘導コイル、22…高周波電流供給装置を構成する高周波電源、23…高周波電流供給装置を構成する周波数変換装置、24…高周波電流供給装置を構成する制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱材で周囲を覆われた焼成室と、その焼成室内に配設される導電性の材料で形成された発熱体と、前記断熱材の外側に配設された誘導コイルと、前記誘導コイルに高周波電流を供給する高周波電流供給装置とを備えた焼成炉。
【請求項2】
前記発熱体は、焼成室内において被焼成体に内面側が対面する板状部を備えている請求項1に記載の焼成炉。
【請求項3】
前記発熱体は、その内部に被焼成体を収容可能な筒状に形成されている請求項1又は請求項2に記載の焼成炉。
【請求項4】
前記発熱体は、前記被焼成体に対して下方から対面する板状部を備えており、当該板状部の上面には被焼成体を載置支持する治具を移動可能とするローラが設けられている請求項2又は請求項3に記載の焼成炉。
【請求項5】
前記発熱体はカーボンで形成されている請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載の焼成炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−46764(P2006−46764A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227131(P2004−227131)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】