説明

焼成用転写フィルム

【課題】機能性パターンを含む積層体に機能性パターンの形状不良や粘着層の粘着力の低下がなく、基体への転写性に優れ、機能性パターンの焼成体に形状や機能不良等の欠陥を生じない焼成用転写フィルムを提供する。
【解決手段】基体の表面に機能性パターンを含む積層体を転写し、焼成することにより、機能性パターンの焼成体を形成するために用いる、焼成用転写フィルムにおいて、焼成用転写フィルムは、剥離フィルムと、剥離フィルムの一方の表面に接するように形成された積層体とを含み、積層体はさらに、機能性パターンと、機能性パターンの表面に直接接するように形成される、1層またはそれより多数の層からなる接触層とを含み、機能性パターンは、無機粉体と焼成により除去可能な有機物とを含有し、接触層は、焼成により除去可能な有機物と溶媒とを含有し、機能性パターンに含まれる有機物は、接触層に含まれる溶媒と相溶しない、焼成用転写フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス等の基体に配線回路や電極等の導電性パターンや模様等の装飾パターンを形成すための転写フィルムに関するもので、特に基体に機能性パターンを転写した後、焼成するのに適した焼成用転写フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上への電気回路等のパターンの形成、陶磁器の装飾、プラズマディスプレイパネルにおける電極パターンやリブの形成、車載用ガラス板へのアンテナ形成等、ガラスや陶磁器等の基体に機能性パターンを付与することが各分野で行われている。
機能性パターンを形成する方法は、例えば、フォトリソグラフィー/エッチング法やスクリーン印刷法、スパッタリング法等が広く採用されている。しかし、基体の形状が平滑な面であれば直接上記の方法で形成することも可能であるが、基体が湾曲している場合や凹凸している場合では、上記の方法では対応ができない。そのためフィルム上に機能性パターンをあらかじめ形成しておき、フィルムから基体へこの機能性パターンを転写する転写方式が検討されている。転写方式であれば、基体の寸法や形状にかかわらず、機能性パターンを基体に追従させることが可能で、パターニング性や生産性に優れ、低コストで、任意の基体上に形成することができる。例えば、特許文献1〜5にはこのような転写用フィルムが記載されている。
【0003】
特許文献1には、印刷台紙上に複数の着色層と着色層の間に中間層をスクリーン印刷により順次形成し、最上部にカバー層を設けた陶磁器装飾用の転写紙が、特許文献3には、ベースフィルム上に、剥離可能に設けられた転写層と応力吸収層を設け、転写層はガラスフリットを含む無機成分と、焼成により除去可能な有機成分を含有し、応力吸収層の複素弾性率を転写層の複素弾性率より小さくしたプラズマディスプレイパネル作製用の転写シートが、特許文献4には、転写フィルム上に積層された導体パターンを車載用ガラス板に転写方式で形成した車載用対数周期ダイポールアンテナが、特許文献5には、転写フィルム上にガラスペーストにより印刷パターンを形成し、この印刷パターンを基板上に熱転写し、転写された印刷パターンを焼成する電気回路等のパターン形成方法が、それぞれ開示されている。これらは基体に転写した後、焼成することにより機能性パターンを形成する焼成用転写フィルムである。
【0004】
【特許文献1】特開平05−139020号公報
【特許文献2】特開平11−135009号公報
【特許文献3】特開平11−260250号公報
【特許文献4】特開2001−211020号公報
【特許文献5】特開2000−151080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
焼成用転写フィルムの機能性パターンを含む積層体は、機能性パターンの他に、少なくとも機能性パターンを基体に接着するための接着層を必要とし、必要によりいくつかの層が積層された構成を有する。機能性パターンは、焼成後の所望の機能に応じた各種機能性材料としての無機粉体と、焼成後の機械的強度を発現するための熱融着可能な無機粉体と、焼成前の形状を維持し、焼成除去される有機物を少なくとも含有する。接着層は焼成により除去可能な有機物により構成される。
有機物は高温で焼成すると各有機物固有の温度で熱分解がおこり熱分解ガスとなって除去される。一方、機能性パターン中の無機粉体は粉体表面が溶融し粉体同士や基体と融着する。焼成用転写フィルムでは、機能性パターンに含有される有機物の量はできるだけ少なくした方が、焼成後の機械的強度に優れ、所望の機能を十分に発現させることができ、また機能性パターンの設計上も好ましい。
【0006】
焼成用転写フィルムは、例えば剥離フィルムを支持体として、機能性パターン、粘着層等を印刷方式等の方法で積層形成することにより作製される。このとき、機能性パターンに含有される有機物と機能性パターンに直接接して積層形成される層(以下、接触層という)に含有される溶媒とが、相溶しやすい組み合わせの場合、機能性パターンと接触層との各材料が互いに混ざり合うことがある。このため、機能性パターンが、機能性パターンに含有される有機物の溶出による収縮や接触層に含有される材料の流入による膨張を起こし、パターン形状に変形や断裂等の欠陥が生じることがある。また、接触層においても、機能性パターンからの材料の流入や機能性パターンへの材料の流出により、本来の機能を発揮できないことがある。接触層が粘着層である場合は、粘着力の低下が起こることがある。その結果、機能性パターンの焼成に悪影響を与える現象を引き起こすことがある。特に、機能性パターンに含有する有機物の量が少ない場合、機能性パターンに接して積層形成する層に含有する溶媒は、機能性パターンに浸透しやすく、機能性パターンの焼成に悪影響を引き起こしやすい。
【0007】
よって本発明の目的は、機能性パターンを含む積層体に機能性パターンの形状不良や粘着層の粘着力の低下がなく、基体への転写性に優れ、機能性パターンの焼成体に形状や機能不良等の欠陥を生じない焼成用転写フィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基体の表面に機能性パターンを含む積層体を転写し、焼成することにより、機能性パターンの焼成体を形成するために用いる、焼成用転写フィルムにおいて、剥離フィルムと、剥離フィルムの一方の表面に接するように形成された上記積層体とを含み、上記積層体はさらに、機能性パターンと、前記機能性パターンの表面に直接接するように形成される、1層またはそれより多数の層からなる接触層とを含み、機能性パターンは、無機粉体と焼成により除去可能な有機物とを含有し、接触層は、焼成により除去可能な有機物と溶媒とを含有し、機能性パターンに含まれる有機物は、接触層に含まれる溶媒と相溶しないことを特徴とする焼成用転写フィルムである。
【0009】
本発明の1つの実施形態によると、機能性パターンに含まれる有機物の溶解性パラメーター(SPb)と接触層に含まれる溶媒の溶解性パラメーター(SP)とは、5<|SP−SPb|の関係を満たす。
本発明の別の実施形態によると、接触層は、上記積層体を基体に転写する際に基体の表面に粘着される粘着層である。
本発明のさらに別の実施形態によると、上記積層体は、上記積層体を基体に転写する際に基体の表面に粘着される粘着層をさらに含み、接触層は、機能性パターンと粘着層との間に挟まれる中間層である。
本発明のまた別の実施形態によると、接触層のうちの1層は、機能性パターンの、剥離フィルムの上記一方の表面に間接的に接する表面を保護するための保護層である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る焼成用転写フィルムは、剥離フィルムと、前記剥離フィルムの一方の表面に接するように形成された前記積層体とを含んでいる。前記積層体は、無機粉体と焼成により除去可能な有機物とを含有する機能性パターンと、前記機能性パターンの表面に直接接するように形成される、1層またはそれより多数の層からなる、焼成により除去可能な有機物と溶媒とを含有する接触層とを含んでいる。そして、機能性パターンに含有される有機物が、接触層に含まれる溶媒と相溶しないことを特徴とする。従って、前記溶媒が機能性パターンに含有される有機物を溶解し、機能性パターンと接触層との各材料が互いに混ざり合うことがないので、機能性パターンの形状に変形や断裂等の欠陥のない焼成用転写フィルムを得ることができる。
【0011】
また、機能性パターンを含む積層体に別の層を追加する場合に、接触層を介して別の層を形成することにより、機能性パターンと別の層とが直接接することがないので、別の層に含有される溶媒が機能性パターンに含有される有機物に影響を与えることがない。例えば、別の層は、機能性パターンを含む積層体を基体に転写するための接着性に優れた接着層とすることができる。従って、機能性パターンの形状に変形や断裂等の欠陥がなく、転写性にも優れた焼成用転写フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明について詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1と図4は、本発明の第1実施形態である焼成用転写フィルムの構造を例示する拡大断面模型図である。図1の例では、焼成用転写フィルムは、剥離フィルム1と、前記剥離フィルムの一方の表面に接するように形成された機能性パターンを含む積層体とを含んでいる。図4の例では、焼成用転写フィルムは、第1剥離フィルム1と、第2剥離フィルム6と、前記第1剥離フィルム1と第2剥離フィルム6との間に形成された機能性パターンとを含む積層体と、を含んでいる。
前記積層体は、無機粉体と焼成により除去可能な有機物を含有する機能性パターン2と、焼成により除去可能な有機物と溶媒とを含有する粘着層3と、を含んでいる。
これらの例では、機能性パターンは略等間隔に配置された複数の線条の集まりとして表されており、そして図4の例では、粘着層3も機能性パターンと略同じパターンで形成されており、これらは連続して形成されていない。しかし、本発明においては、このようなパターンもそれぞれ一つの層として扱うものとする。
【0013】
前記積層体の構成においては、粘着層3が機能性パターン2に直接接するので接触層に該当する。図1の例では、接触層3が機能性パターン2の全ての線条を覆って形成されており、図4の例では接触層3が機能性パターン2と同じパターンで形成されている。図4の例では、さらに接着層3と接して第2剥離フィルム6が追加されている。
【0014】
積層体が(第1)剥離フィルム1を支持体として形成される場合は、第2剥離フィルム6は、必須の構成要件ではないが、焼成用転写フィルムの保管や基体へ積層体を転写するまでの間の積層体の保護の役割を担っている。積層体が第2剥離フィルム6を支持体として形成される場合は、第2剥離フィルム6は、形成後に取り除いてもよいが、そのまま残してもよい。
【0015】
(第2実施形態)
図2と図5は、本発明の第2実施例である焼成用転写フィルムの構造を例示する拡大断面模型図である。この構成の機能性パターンを含む積層体は、第1実施形態に示した積層体の機能性パターン2と粘着層3との間に、焼成により除去可能な有機物と溶媒とを含有する中間層4を含んでいる。この積層体の構成においては、中間層4が機能性パターン2に直接接触するので接触層に該当する。
【0016】
(第3実施形態)
図3と図6は、本発明の第3実施例である焼成用転写フィルムの構造を例示する拡大断面模型図である。この構成の機能性パターンを含む積層体は、第2実施形態に示した積層体の機能性パターン2の粘着層3と反対側つまり(第1)剥離フィルム1の表面に直接形成された焼成により除去可能な有機物と溶媒とを含有する保護層5をさらに含んでいる。この積層体の構成においては、中間層4と保護層5が機能性パターン2に直接接触するので共に接触層に該当する。なお、第3実施例においては、中間層4は必須の構成要件ではない。中間層4を有さない積層体の構成においては、粘着層3と保護層5が機能性パターン2に直接接触するので共に接触層に該当する。
【0017】
上記第1ないし第3実施形態に示した焼成用転写フィルムは、前記第2剥離フィルム6を有する場合はこれを剥離し、前記粘着層3を基体(図示せず)の表面に貼着した後、前記(第1)剥離フィルム1を剥がすことにより機能性パターンを含む積層体を基体の表面に転写し、そして前記積層体が転写された基体を焼成することにより基体の表面に機能性パターンの焼成体を付与することができる。
【0018】
以下に、焼成用転写フィルムの各構成要素について説明する。
剥離フィルムは、機能性パターンを含む積層体を構成する機能性パターンと粘着層、さらに中間層や保護層を印刷方式等で形成するときの支持体の役割を有している。
剥離フィルムは機能性パターンを含む積層体と剥離性を有するものであれば良く、フィルム基材をそのまま用いても良いが、必要によりフィルム基材上にシリコーン系やアルキド樹脂系等からなる剥離層や再剥離用の微粘着層を形成した構成であっても良い。機能性パターンを含む積層体の粘着層面に第2剥離フィルムを有する場合、第1剥離フィルム側の剥離荷重よりも、第2剥離フィルム側の剥離荷重が軽いことが必要であり、剥離界面の接着強度は、フィルム基材や剥離層の種類、膜厚等によって調整可能である。
【0019】
剥離フィルムの基材は、転写時の施工性を考慮してフレキシブル性のある基材が好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、アクリル等のプラスチックや紙等が使用できる。また基材の厚みは特に限定されるものではないが、転写時の圧力や熱の伝達性とフィルムの屈曲性とのバランスの点から最適な厚みを選定すればよく、25〜250μm、好ましくは35〜125μm、さらに好ましくは50〜75μmが、作製上もしくは施工上好適に用いられる。
【0020】
剥離フィルム上への機能性パターンや各層の形成には、スクリーン印刷、オフセット印刷等の印刷方式やグラビアコーティング、メイヤーバー等の塗布方式を使用可能である。パターンを形成する場合は、前記印刷方法が好適に用いられる。広い面積に一様に層を形成する場合は、前記印刷方法に加えて前記塗布方法も好適に用いられる。
【0021】
前記印刷方法や塗布方法により機能性パターンや各層を形成する場合は、これらに含有される無機粉体や有機物を溶媒中に分散または溶解してなる塗布液(ペースト)を作製し、使用する。溶媒としては、有機物の溶解性や分散性、印刷工程に適した沸点を考慮し、水系、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系、炭化水素系等を、単独または混合して使用することが可能である。そしてこれらの溶媒は、粘度やチキソ性等の印刷適正、そして固形分を適宜調整して用いる。これらの溶媒は、機能性パターンの印刷や塗布後に大部分が揮発するが、残留する分は焼成によって揮発または分解除去される。
必要により印刷時の気泡対策や粘度調整のために消泡剤や増粘剤等の添加剤を使用することも可能である。添加剤は焼成によって分解除去できるものを使用する。
【0022】
機能性パターンは、焼成後の所望の機能に応じた各種機能性材料としての無機粉体と、主に焼成後の機械的強度を発現するための基体に熱融着可能な無機粉体と、焼成前の形状を維持し、焼成除去される有機物とを含有する。
機能性パターンは一つのパターンでも複数のパターンでもよい。例えば、一つの焼成用転写フィルムに、複数のアンテナパターンを形成することができる。また、複数の機能性パターンを積層してもよい。例えば、導電性の機能性パターンが絶縁性の機能性パターンによって覆われるように形成することができる。機能性パターンの膜厚は、目的とする機能に合わせて適宜決定される。
【0023】
機能性パターンに含有される熱融着可能な無機粉体としては、各種機能性材料を焼成後に基体に担持させ、耐久性を向上させる等の目的のために、ガラスフリット等の材料が使用可能であり、焼成温度や熱収縮率等のバランスを考慮して、好適な組成のガラスフリットを選定すればよい。
【0024】
機能性パターンに含有される機能性材料としては、焼成後の所望の機能に応じた材料を適宜選択して使用する。例えば、配線や電極等には、Au、Ag、Cu、Ni、Co、Sn、Pb、Zn、Bi、Inの粉体やこれらを含む合金の粉体を使用することが可能である。またコンデンサ部品等の誘電体や高抵抗部品等に使用される材料として、BaTiO、SiC、TiO2、SiO2、やRuO等の粉体が挙げられる。
【0025】
機能性パターンに含有される有機物としては、焼成により除去可能な材料を用いれば特に限定されず、例えば、アクリル、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエステル等の樹脂が挙げられ、単独、またはこれらの混合物を主要成分として使用することができる。また補助の有機成分として焼成前の塗膜に可とう性を付与する目的で可塑剤を添加してもよい。可塑剤としては脂肪酸エステル系、リン酸エステル系等が使用可能である。
【0026】
しかし、機能性パターンに含有される有機物は、接触層を形成するための塗布液(以下、接触層ペーストという)に含有される溶媒と相溶しないことが重要である。先に形成された機能性パターンの上に後から接触層ペーストを塗布する場合は、特に重要である。先に形成された接触層の上に後から機能性パターンを形成する場合は、接触層から殆どの溶媒を揮発させることにより、相溶しやすさの影響を軽減することが可能である。しかしこの場合でも、機能性パターンに含有される有機物は、接触層に含有される溶媒と相溶しないことが重要である。
【0027】
一般的に、溶解性パラメーターの差が大きいほど物質同士は相溶しにくくなり、小さいほど相溶しやすくなるので、接触層に含有される溶媒の溶解性パラメーター(SP)と機能性パターンに含有される有機物の溶解性パラメーター(SPb)とが、5<|SP−SPb|を満たすことが好ましい。なお、補助の有機成分を添加した場合、その溶解性パラメーターも考慮する必要があるが、添加物が少量であれば、無視することができる。また、先に形成された接触層の上に後から機能性パターンを形成する場合でも、接触層に含有する有機物と機能性パターンに含有される溶媒の溶解性パラメーターの差を、接触層に含有される溶媒の溶解性パラメーター(SP)と機能性パターンに含有される有機物の溶解性パラメーター(SPb)との差とみなし、5<|SP−SPb|を満たすことが好ましい。
【0028】
例えば、機能性パターンに含有される有機物としてエチルセルロース樹脂を用いた場合、エチルセルロース樹脂の溶解性パラメーター(SPb)は10〜12である。この機能性パターン上に形成される接触層に含有される溶媒として水(溶解性パラメーター(SP) 23.4)を用いれば、これら溶解性パラメーターの差の絶対値(以下、単に溶解性パラメーターの差という)|SP−SPb|は11.4〜13.4となる。この溶解性パラメーターの差の値は相溶しにくいことを表している。一方、接触層に含有される溶媒としてトルエン(溶解性パラメーター(SP) 8.9)を用いれば、溶解性パラメーターの差は1.1〜3.1となる。この溶解性パラメーターの差の値は相溶しやすいことを表している。
【0029】
複合材料の溶解性パラメーターは、各材料の重量割合と溶解性パラメーターの積の和として表すことができる。例えば、溶媒が水(溶解性パラメーター 23.4)とイソプロピルアルコール(溶解性パラメーター 11.4)との50対50の混合溶媒の場合、その溶解性パラメーターは、17.4(=23.4×0.5+11.4×0.5)となる。
【0030】
粘着層は焼成により除去可能な有機物であれば特に限定はされないが、常温で粘着性を有するアクリル系、ゴム系等の粘着剤が使用可能である。
粘着層は、機能性パターンに重なるように同様のパターンを形成してもよく(図4参照)、機能性パターンが露出しない程度に機能性パターンを覆うように形成してもよい(図5参照)。このようにすると、広い範囲に機能性パターンの各構成部分が離れて形成されている場合に、粘着層の材料を節約することができる。しかし、機能性パターンが、細い線条や小さなドット等の場合は、機能性パターンと同様または覆う程度では、粘着層の粘着力が確保できなくなることがある。このような場合は、粘着層は粘着力が確保できる程度に広く形成してもよく、剥離フィルムの支持体全面を覆うように形成してもよい(図1参照)。
【0031】
第1実施形態に示したように、粘着層が接触層として機能性パターンに直接接する場合は、前述したように接触層を形成するときに用いる溶媒は機能性パターンに含有される有機物と相溶しないことが重要である。
【0032】
粘着層の膜厚は、1〜20μm、好ましくは2〜10μmである。1μm未満の場合、粘着力が不足し転写性が低下する。膜厚が20μmよりも厚くなると、熱分解ガスの発生量が多くなるため機能性パターンに欠陥が生じやすく焼成不良となる。よって、粘着層の膜厚は、粘着力を維持できる範囲でできるだけ薄くすることが好ましい。粘着層が接触層である場合は、機能性パターンが形成されている部分において、粘着層が前記膜厚を有することが好ましい。
【0033】
第2実施形態に示したように、本発明は機能性パターンと粘着層との間に中間層を設けることができる。機能性パターンと粘着層とは、それぞれの機能により材料が選ばれるので、機能性パターンに含有される有機物と粘着層に含有される溶媒とが相溶しやすい組み合わせとなる場合がある。このような場合に、中間層は機能性パターンと粘着層との間のバリアの役割を担っている。中間層は焼成により除去可能な有機物であれば特に限定されず、機能性パターンに用いられる有機物と同様なものから選ぶことができる。しかし、機能性パターンに含有される有機物と相溶しない組み合わせとすることが好ましい。また、特にガラス転移温度が50℃以上である高分子樹脂が好ましい。
【0034】
中間層は機能性パターンと粘着層とが直接接しないように形成される必要がある。機能性パターンの存在しない部分には形成しなくてもよい(図5参照)が、粘着層と重なる大きさとすることにより、基体への転写後に粘着力の強い粘着層への異物の付着を防止することができる。
中間層が接触層として機能性パターンに直接接する場合は、前述したように接触層を形成するときに用いる溶媒は、機能性パターンに含有される有機物と相溶しないことが重要である。
【0035】
中間層の膜厚は、機能性パターンが形成されている部分において0.5μm以上であればバリア効果はあるが、好ましくは1μm以上を必要とする。中間層が厚くなると熱分解ガスの発生量が多くなるため機能性パターンに欠陥が生じやすく焼成不良となることがある。よって、中間層の膜厚は10μm以下、好ましくは5μm以下とし、できるだけ薄膜にすることが好ましい。
【0036】
第3実施形態に示したように、本発明は剥離フィルムと機能性パターンとの間に保護層を設けることができる。保護層は基体に転写形成した焼成前の機能性パターンを異物の付着や傷の原因となる衝撃から保護する役割を担っている。機能性パターンは含有する有機物の割合が少ないため焼成前の膜質は硬く脆い傾向にある。このため、転写フィルムを屈曲させた場合、機能性パターンにひび割れが発生しやすい。このような硬く脆い層をそれよりも柔らかく柔軟性のある2つの層で挟むことにより、ひび割れを防止することができる。このため保護層は、粘着層や中間層と共にフィルムを屈曲した際のひび割れ等を防止する役割も担っている。保護層は焼成により除去可能な有機物であれば特に限定されず、機能性パターンに用いられる有機物と同様のものから選ぶことができるが、機能性パターンに含有される有機物と相溶しない組み合わせとすることが好ましい。
【0037】
保護層が接触層として機能性パターンに直接接する場合は、前述したように接触層を形成するときに用いる溶媒は、機能性パターンに含有される有機物と相溶しないことが重要である。
保護層は機能性パターンを覆うように形成されていればよく、機能性パターンと同様のパターン形状で形成してもよい。また、粘着層と保護層との間に中間層が形成されていない部分が存在する場合には、保護層を粘着層に重なるように形成することが好ましい。このようにすれば、基体への転写後に粘着力の強い粘着層への異物の付着を防止することができる。
保護層の膜厚は、機能性パターンが形成されている部分において0.1〜2μmであることが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の具体例を説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
(焼成用転写フィルムの作製)
以下の手順で、第1実施形態に示した焼成用転写フィルムを作製した。
剥離フィルムとしてシリコーン系離形層を設けたPETフィルム「A70」(帝人デュポンフィルム(株)製、フィルムサイズ 20cm×30cm、厚み 50μm)を用意した。
機能性パターンの塗布液として黒色顔料とガラスフリットを含有したカラーペーストを表1に示す組成に基づき3本ロール式攪拌機を用いて作製した。このカラーペーストに含有される焼成により除去可能な有機物の溶解性パラメーター(SPb)は11であった。
粘着層の塗布液としてアクリル系粘着剤「リカボンドS200」(中央理化工業(株)製)を、溶媒として水(溶解性パラメーター(SP) 23.4)を用いて希釈し、粘着層ペーストとした。
【0039】
前記剥離フィルムの離形層上に、スクリーン印刷機を用いて前記カラーペーストをサイズ 2cm×5cm、膜厚 15μmとなるように印刷し、機能性パターンを形成した。
前記機能性パターンに重なるように、メイヤーバーを用いて前記粘着層ペーストをサイズ 2cm×5cm、膜厚 3μmとなるように塗布し、粘着層を形成した。
乾燥は、120℃で10分間行った。
【0040】
(機能性パターン付き基体の作製)
以下の手順で、機能性パターン付き基体を作製した。
基体としてフロート法により製造されたガラス板(サイズ 30cm×30cm)を用意した。
このガラス板の表面に、前記焼成用転写フィルムをその粘着層を向かい合わせて、ゴムローラーを用いて剥離フィルム上から0.5kg/cmの圧力で貼り合わせた。その後、剥離フィルムを剥離して、機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製した。
【0041】
そして、このガラス板を焼成炉を用いて焼成した。焼成条件は、昇温速度 500℃/minで室温から650℃まで昇温し、その温度を30分間維持した後、炉内放冷で100℃以下まで冷却することとした。
そして、冷却された機能性パターン付きガラス板を焼成炉から取り出した。
【0042】
【表1】

【0043】
(比較例1)
粘着層の塗布液としてアクリル系粘着剤「SK1309」(綜研化学工業(株)製)を、溶媒としてトルエンと酢酸エチルとの50対50の混合物を用いて希釈し、粘着層ペーストとした。この混合溶媒の溶解性パラメーター(SP)は9であった。
その他は、実施例1と同様の方法により、焼成用転写フィルムを作製した。
実施例1と同様の方法により、機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板の作製を試みたが、転写できなかった。
【0044】
(評価)
表2に、実施例1と比較例1における機能性パターンに含有される有機物と接着層に含有される溶媒の各溶解性パラメーター、これらの溶解性パラメーターの差、そして転写性と焼成性の評価を示した。転写性の評価は、機能性パターンを含む積層体に歪みや浮き等の欠陥がなく良好なものを「○」で、転写できず不良なものを「×」で示した。焼成性の評価は、機能性パターンの焼成体に歪みやひび割れ、剥がれ等の欠陥がなく良好なものを「○」で、焼成できなかったものを「−」で示した。
実施例1における評価は、転写性、焼成性共に良好であった。これに対して、比較例1における機能性パターンを含む積層体は転写できず、従って、焼成は行わなかった。
【0045】
【表2】

【0046】
(対比)
実施例1と比較例1との対比を行う。
実施例1における機能性パターンに含有される有機物と粘着層ペーストに含有さる溶媒との溶解性パラメーターの差は、表2に示したように12.4であり、この値はほとんど相溶しないことを表している。これに対して、比較例1における前記溶解性パラメーターの差は、表2に示したように2であり、この値は相溶しやすいことを表している。従って、実施例1における機能性パターンに含有される有機物が粘着層ペーストに含有され形成後の粘着層に残留する溶媒に溶解されることなく、良好な機能性パターンが得られ、粘着層も粘着性を失わなかったと考えられる。これに対して、比較例1における機能性パターンに含有される有機物が粘着層ペーストに含有され形成後の粘着層に残留する混合溶媒に溶解され、良好な機能性パターンが得られず、溶解された前記有機物が粘着層と混じり合い粘着層の粘着性を失わせたと考えられる。
【0047】
(実施例2)
(焼成用転写フィルムの作製)
以下の手順で、第2実施形態に示した焼成用転写フィルムを作製した。
第1剥離フィルムとして実施例1と同様のPETフィルムを用意した。
第2剥離フィルムとしてシリコーン系離形層を設けたPETフィルム「A31」(帝人デュポンフィルム(株)製、フィルムサイズ 20cm×30cm、厚み 25μm)を用意した。
機能性パターンの塗布液として実施例1と同様のカラーペーストを作製した。
中間層の塗布液としてポリビニルアセタール系樹脂「KW3」(積水化学工業(株)製)を、溶媒として水とイソプロピルアルコールとの50対50の混合物を用いて希釈し、中間層ペーストとした。この混合溶媒の溶解性パラメーター(SP)は18であった。
粘着層の塗布液として比較例2と同様の粘着層ペーストを作製した。
【0048】
前記第1剥離フィルムの離形層上に、スクリーン印刷機を用いて前記導電性ペーストをサイズ 2cm×5cm、膜厚 15μmとなるように印刷し、機能性パターンを形成した。
前記機能性パターンを覆うように、メイヤーバーを用いて前記中間層ペーストをサイズ 5cm×10cm、機能性パターン上で膜厚 2μmとなるように塗布し、中間層を形成した。
前記中間層に重なるように、メイヤーバーを用いて前記粘着層ペーストをサイズ 5cm×10cm、中間層上で膜厚 3μmとなるように塗布し、粘着層を形成した。
前記粘着層を覆うように、第2剥離フィルムを離形層側から貼り合わせた。
【0049】
(機能性パターン付き基体の作製)
以下の手順で、機能性パターン付き基体を作製した。
基体としてフロート法により製造されたガラス板(サイズ 30cm×30cm)を用意した。
前記焼成用転写フィルムから第2剥離フィルムを剥離した。ガラス板の表面に、前記焼成用転写フィルムをその粘着層を向かい合わせて、ゴムローラーを用いて第1剥離フィルム上から0.5kg/cmの圧力で貼り合わせた。その後、第1剥離フィルムを剥離して、機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製した。
【0050】
そして、このガラス板を焼成炉を用いて焼成し、機能性パターン付きガラス板を作製した。焼成条件は、昇温速度 500℃/minで室温から650℃まで昇温し、その温度を10分間維持した後、炉内放冷で100℃以下まで冷却することとした。
そして、冷却された機能性パターン付きガラス板を焼成炉から取り出した。
【0051】
(比較例2)
中間層の塗布液としてブチラール系樹脂「BM−1」(積水化学工業(株)製)を、溶媒としてトルエン(溶解性パラメーター(SP) 8.9)を用いて希釈し、中間層ペーストとした。
その他は、実施例2と同様の方法により、焼成用転写フィルムを作製した。しかし、機能性パターンと中間層との接触部分において、均一な中間層を形成することができなかった。この部分の中間膜上に形成した接着層も同様であった。
実施例2と同様の方法により、ガラス板の表面に機能性パターンを含む積層体の転写を試みたが、積層体が転写されない部分があった。従って、焼成は行わなかった。
【0052】
(比較例3)
中間層の塗布液として比較例2と同じ中間層ペーストを用いた。
中間層の膜厚を5μm、粘着層の膜厚を10μmとした他は、比較例2と同様の方法により、焼成用転写フィルムを作製した。
そして、実施例2と同様の方法により、機能性パターン付きガラス板を作製した。
【0053】
(評価)
表3に、実施例2と比較例3、4における機能性パターンに含有される有機物と中間層に含有さる溶媒の各溶解性パラメーター、これらの溶解性パラメーターの差、そして転写性と焼成性の評価を示した。転写性の評価は、機能性パターンを含む積層体に歪みや浮き等の欠陥がなく良好なものを「○」で、転写できず不良なものを「×」で示した。焼成性の評価は、機能性パターンの焼成体に歪みやひび割れ、剥がれ等の欠陥がなく良好なものを「○」で、欠陥があるものを「×」で、焼成できなかったものを「−」で示した。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例2における評価は、転写性、焼成性共に良好であった。これに対して、比較例2における機能性パターンを含む積層体は、転写されない部分があったので転写性の評価は不良であり、焼成したとしても焼成性の評価も不良であることは明らかであったので、焼成は行わなかった。比較例3における機能性パターンを含む積層体は、転写性の評価は良好であったが、焼成後の機能性パターンの焼成体は色目の低下、ひび割れ、密着不良が部分的に発生したので、焼成性の評価は、不良であった。
【0056】
(対比)
まず、比較例2と比較例3との対比を行う。
比較例2と比較例3における機能性パターンを含む積層体の中間層と粘着層は同じ材料で形成され、相違点は各層の膜厚だけであり、比較例3の各層の膜厚が比較例2の各層の膜厚よりも厚く形成されていた。
【0057】
機能性パターンに含有される有機物と中間層に含有される溶媒とは、溶解性パラメーターの差が2.1であるので相溶しやすい組み合わせであり、機能性パターンに含有される有機物と粘着層に含有される溶媒とも、溶解性パラメーターの差が2であるので相溶しやすい組み合わせであることが分かる。そして、中間層に含有される溶媒の溶解性パラメーターは8.9であり、粘着層に含有される溶媒の溶解性パラメーターも略等しい9であるので、この2つの層は混ざりやすいことが分かる。従って、機能性パターンに含有される有機物と中間層および粘着層に含有される各溶媒や各有機物とは、互いに混ざり合いやすいことが分かる。
【0058】
比較例2の場合は、中間層と粘着膜の各膜厚が薄いので、上記の混ざり合いが顕著に起こり、粘着層の粘着力を弱めたと考えられる。これに対して、比較例3の場合は、中間層と粘着層の各膜厚が厚いので、上記の混ざり合いが粘着層の粘着力を弱めるほどではなかったと考えられる。しかし、機能性パターンに含有される有機物は部分的に溶解され、中間層または/および粘着層の各溶媒や各有機物と混ざり合ったために、機能性パターンの焼成体に、不良が発生したと考えられる。
比較例2と比較例3との対比から、機能性パターンに含有される有機物と粘着層に含有される溶媒との溶解性パラメーターの差が小さく相溶しやすい組み合わせであっても、中間層または/および粘着層の各膜厚を厚くすることにより、転写性を良好に保つことは可能であるが、良好な機能性パターンの焼成体が得られないことが分かった。
【0059】
次に、実施例2と比較例2との対比を行う。
実施例2と比較例2における機能性パターンを含む積層体の相違点は、中間膜の材料のみであった。実施例2の場合は、機能性パターンに含有される有機物と中間層に含有される溶媒とは、溶解性パラメーターの差が7であり相溶しにくい組み合わせであったので、実施例2の中間膜と粘着膜の各膜厚が、比較例2の中間膜と粘着膜の各膜厚と同じにもかかわらず、転写性と焼成性の両方に良好な結果が得られたと考えられる。
【0060】
実施例2と比較例2との対比から、機能性パターンに含有される有機物と粘着層に含有される溶媒とが相溶しやすい組み合わせであったとしても、これらの間に機能性パターンに含有される有機物と相溶しにくい組み合わせの溶媒を含有する中間層を設けることにより、転写性と焼成性を改善可能なことが分かった。これは、バリアの役割を担う中間層を設けることにより、粘着層の材料を機能性パターンに含有される有機物との相溶しやすさに関係なく、粘着層の機能により決定可能なことを表している。例えば、粘着性の調整や、膜厚を調整するための溶媒による塗布液の粘度の調整等を比較的自由に行うことが可能となる。
【0061】
次に、実施例2と比較例3との対比を行う。
実施例2における中間層と粘着層との合計の膜厚は5μmであり、比較例3における前記合計の膜厚は15μmであった。つまり、比較例3における中間層と粘着層とに含有される有機物の熱分解ガスの量は、実施例2における前記熱分解ガスの量よりも多くなることが分かる。比較例3におけるこの比較的多くの熱分解ガスが、不均一になった機能性パターンに比較的大きな圧力を与えたことが考えられ、このことが、機能性パターンに欠陥が生じた理由の一つであるとも考えられる。従って、機能性パターンと粘着層の間にバリアの役割を担う中間層を設けることにより、中間層と粘着層との合計の膜厚を比較的薄くしても粘着層の粘着性を損なうことがなく、中間層と粘着層とに含有される有機物の熱分解ガスの圧力が機能性パターンに与える影響を小さくすることが可能なことが分かった。
【0062】
以上の実施例2、比較例2および比較例3の対比により、機能性パターンと粘着層の間にバリアの役割を担う中間層を設けることにより、機能性パターンと粘着層との間の各材料が互いに影響しないようにできるので、粘着層の材料の選定が比較的自由にできることが分かった。また、溶解性パラメーターの差が7の場合には相溶しにくく、前記差が2.1の場合には相溶しやすいことが確認できたので、本発明における相溶しやすさと相溶しにくさの境目は、溶解性パラメーターの差が5付近であると考えられる。
【0063】
(実施例3)
(焼成用転写フィルムの作製)
以下の手順で、第3実施形態に示した焼成用転写フィルムを作製した。
第1剥離フィルムとして微粘着層を設けたPETフィルム「SRL−0754」(リンテック(株)製、フィルムサイズ 20cm×30cm、厚み 75μm)を用意した。
第2剥離フィルムとしてシリコーン系離形層を設けたPETフィルム「A31」(帝人デュポンフィルム(株)製、フィルムサイズ 20cm×30cm、厚み 38μm)を用意した。
機能性パターンの塗布液として実施例1と同様のカラーペーストを作製した。
中間層の塗布液としてポリビニルアセタール系粘着剤「KW1」(積水化学工業(株)製)を、溶媒として水とイソプロピルアルコールとの50対50の混合物を用いて希釈し、中間層ペーストとした。この混合溶媒の溶解性パラメーター(SP)は18であった。
粘着層の塗布液としてアクリル系粘着剤「SK1309」(綜研化学工業(株)製)を用意し、粘着層ペーストとした。
保護層の塗布液としてポリエチレンオキサイド系樹脂「PEO−8Z」(住友精化(株)製)を、溶媒として水(溶解性パラメーター(SPc) 23.4)を用いて希釈し、保護層ペーストとした。
【0064】
前記第2剥離フィルムの離形層上に、メイヤーバーを用いて前記粘着層ペーストをサイズ 5cm×10cm、膜厚 5μmとなるように塗布し、粘着層を形成した。
前記粘着層を覆うように、アプリケーターを用いて前記中間層ペーストをサイズ 6cm×12cm、粘着上で膜厚 2μmとなるように塗布し、中間層を形成した。
前記中間層上の中央付近に、スクリーン印刷機を用いて前記カラーペーストをサイズ2cm×5cm、膜厚15μmとなるように印刷し、機能性パターンを形成した。
前記中間層に重なり前記機能性パターンを覆うように、アプリケーターを用いて前記保護層ペーストをサイズ 6cm×12cm、機能性パターン上で膜厚 3μmとなるように塗布し、保護層を形成した。
前記保護層を覆うように、第2剥離フィルムを微粘着層側から貼り合わせた。
【0065】
(機能性パターン付き基体の作製)
以下の手順で、機能性パターン付き基体を作製した。
基体としてフロート法により製造されたガラス板(サイズ 30cm×30cm)を用意した。
前記焼成用転写フィルムから第2剥離フィルムを剥離した。前記ガラス板の表面に、前記焼成用転写フィルムをその粘着層を向かい合わせて、Φ5mmの曲率で屈曲させながら、ゴムローラーを用いて第1剥離フィルム上から0.5kg/cmの圧力で貼り合わせた。その後、第1剥離フィルムを剥離して、機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製した。
【0066】
そして、このガラス板を焼成炉を用いて焼成した。焼成条件は、昇温速度 20℃/minで室温から650℃まで昇温し、その温度を30分間維持した後、炉内放冷で100℃以下まで冷却することとした。
そして、冷却された機能性パターン付きガラス板を焼成炉から取り出した。
【0067】
(比較例4)
中間層の塗布液としてエチルセルロース系樹脂「N4」(ダウコーニング製)を、溶媒としてトルエン(溶解性パラメーター(SP) 8.9)を用いて希釈し、中間層ペーストとした。前記中間層ペーストの塗布にはメイヤーバーを用いたが、サイズと膜厚は実施例3と同様とした。
その他は、実施例3と同様の方法により、焼成用転写フィルムを作製した。
そして、実施例3と同様の方法により、機能性パターン付きガラス板を作製した。
【0068】
(実施例4)
(焼成用転写フィルムの作製)
以下の手順で、第3実施形態に示した焼成用転写フィルムを作製した。実施例4の焼成用転写フィルムの機能性パターンを含む積層体の形成順は、実施例3の前記積層体の形成順と反対とした。
第1剥離フィルムとしてシリコーン系離形層を設けたPETフィルム「A54」(帝人デュポンフィルム(株)製、フィルムサイズ 20cm×30cm、厚み 50μm)を用意した。
第2剥離フィルムとしてシリコーン系離形層を設けたPETフィルム「A31」(帝人デュポンフィルム(株)製、フィルムサイズ 20cm×30cm、厚み 25μm)を用意した。
機能性パターンの塗布液として実施例1と同様のカラーペーストを作製した。
中間層の塗布液としてポリビニルアセタール系樹脂「KW3」(積水化学工業(株)製)を、溶媒として水とイソプロピルアルコールとの50対50の混合物を用いて希釈し、中間層ペーストとした。この混合溶媒の溶解性パラメーター(SP)は18であった。
粘着層の塗布液としてアクリル系粘着剤「SK1309」(綜研化学工業(株)製)を用意し、粘着層ペーストとした。
保護層の塗布液としてメチルセルロース系樹脂「60MP50」(松本油脂(株)製)を、溶媒として水(溶解性パラメーター(SPc) 23.4)を用いて希釈し、保護層ペーストとした。
【0069】
前記第1剥離フィルムの離形層上に、アプリケーターを用いて前記保護層ペーストをサイズ 6cm×12cm、膜厚2μmなるように塗布し、保護層を形成した。
前記保護層上の中央付近に、スクリーン印刷機を用いて前記カラーペーストをサイズ 2cm×5cm、膜厚15μmとなるように印刷し、機能性パターンを形成した。
前記保護層上に重なり前記機能性パターンを覆うように、メイヤーバーを用いて前記中間層ペーストをサイズ 6cm×12cm、機能性パターン上で膜厚 2μmとなるように塗布し、中間層を形成した。
前記中間層に重なるように、メイヤーバーを用いて前記粘着層ペーストをサイズ 6cm×12cm、膜厚 3μmとなるように塗布し、粘着層を形成した。
前記粘着層を覆うように、第2剥離フィルムを離形層側から貼り合わせた。
【0070】
(機能性パターン付き基体の作製)
以下の手順で、機能性パターン付き基体を作製した。
基体としてフロート法により製造されたガラス板(サイズ 30cm×30cm)を用意した。
前記焼成用転写フィルムから第2剥離フィルムを剥離した。前記ガラス板の表面に、前記焼成用転写フィルムをその粘着層を向かい合わせて、ゴムローラーを用いて第1剥離フィルム上から0.5kg/cmの圧力で貼り合わせた。その後、第1剥離フィルムを剥離して、機能性パターンを含む積層体が転写されたガラス板を作製した。
【0071】
そして、このガラス板を焼成炉を用いて焼成した。焼成条件は、昇温速度 500℃/minで室温から650℃まで昇温し、その温度を10分間維持した後、炉内放冷で100℃以下まで冷却することとした。
そして、冷却された機能性パターン付きガラス板を焼成炉から取り出した。
【0072】
(比較例5)
保護層の塗布液としてアクリル系樹脂「BR1122」(三菱レイヨン(株)製)を、溶媒としてトルエン(溶解性パラメーター(SPc) 8.9)を用いて希釈し、保護層ペーストとした。前記保護層ペーストの塗布にはメイヤーバーを用い、膜厚は3μmとしたが、サイズは実施例4と同様とした。
その他は、実施例4と同様の方法により、焼成用転写フィルムを作製した。
そして、実施例4と同様の方法により、機能性パターン付きガラス板を作製した。
【0073】
(評価)
表4に、実施例3、4と比較例4、5における機能性パターンに含有される有機物と中間層に含有される溶媒と保護層に含有される溶媒の各溶解性パラメーター、それらの溶解性パラメーターの差、そして焼成用転写フィルムの機能性パターンの形状、転写性、焼成性の評価を示した。焼成用転写フィルムの機能性パターンの形状の評価は、パターン形状ににじみやひび割れ等の欠陥がなく良好なものを「○」で、欠陥があり不良なものを「×」で示した。転写性の評価は、良好に転写できたなものを「○」で、転写が不安定なものを「△」で示した。焼成性の評価は、機能性パターンの焼成体に歪みやひび割れ、剥がれ等の欠陥がなく良好なものを「○」で、欠陥があるものを「×」で示した。
【0074】
【表4】

【0075】
実施例3、4における評価は、パターン形状、転写性、焼成性共に良好であった。
比較例4における機能性パターンを含む積層体では、機能性パターンににじみが発生し、さらに乾燥中にひび割れが発生したので、パターン形状の評価は、不良であった。この積層体の転写性は再現性が不安定であり、幾つかのサンプルで試した結果、転写できたものとできなかったものがあった。転写できたサンプルで確認した焼成性は、機能性パターンの焼成体の密着力が弱く、その形状にも変形が見られたので、不良であった。
比較例5における機能性パターンを含む積層体では、機能性パターンににじみが発生し、さらに乾燥中にひび割れが発生したので、パターン形状の評価は不良であった。転写性の評価は、良好であったが、機能性パターンの焼成体には色目の低下とパターン形状の変形が見られたので、燃焼性の評価は不良であった。
【0076】
(対比)
まず、実施例3と比較例4との対比を行う。
実施例3における機能性パターンと中間層との間には、互いの材料が混ざり合った形跡は見られなかった。これは、機能性パターンに含有される有機物と中間層に含有される溶媒との溶解性パラメーターの差が7であり、これらが相溶しにくい組み合わせになっていたからと考えられる。そして、同じく機能性パターンと保護層との間にも、互いの材料が混ざり合った形跡は見られなかった。これも、機能性パターンに含有される有機物と保護層に含有される溶媒との溶解性パラメーターの差が12.4であり、これらも相溶しにくい組み合わせになっていたからと考えられる。
【0077】
これに対して、比較例4における機能性パターンと中間層との間には、互いの材料が混ざり合った結果と考えられるにじみが見られた。これは、機能性パターンに含有される有機物と中間層に含有される溶媒との溶解性パラメーターの差が1.9であり、相溶しやすい組み合わせになっていたからと考えられる。そして、この溶解の影響が粘着層まで達した結果、粘着力が弱まり、転写性が不安定になったと考えられる。なお、機能性パターンと保護層との間には、互いの材料が混ざり合った形跡は見られなかった。これは、実施例3と同様に、機能性パターンに含有される有機物と保護層に含有される溶媒との溶解性パラメーターの差が12.4であったからと考えられる。
【0078】
次に、実施例3と実施例4との対比を行う。
実施例3と実施例4とは、前述したように焼成用転写フィルムの機能性パターンを含む積層体の形成を反対の手順で行った。そのため実施例3と実施例4とでは、中間層と保護層の材料をそれぞれ異なるものを用いた。しかし、各層の溶媒は同じものを用いたので、各溶解性パラメーターの差は同じであった。その結果、表4に示したように、実施例4における各評価も実施例3における各評価と同様に良好なものであった。
【0079】
実施例3と実施例4との対比により、焼成用転写フィルムを作製するときの各層の形成順に係わりなく、機能性パターンに含有される有機物と接触層に含有される溶媒との溶解性パラメーターの差を大きくして、相溶しにくくすることが、良好な焼成用転写フィルムおよび機能性パターンが転写された基体を作成するために重要となることが分かった。
【0080】
次に、実施例4と比較例5との対比を行う。
実施例4における各評価は、前述したように良好なものであった。
これに対して、比較例5における機能性パターンと保護層との間には、互いの材料が混ざり合った結果と考えられるにじみが見られた。これは、機能性パターンに含有される有機物と保護層に含有される溶媒との溶解性パラメーターの差が1.9であり、相溶しやすい組み合わせになっていたからと考えられる。なお、機能性パターンと中間層との間には、互いの材料が混ざり合った形跡は見られなかった。これは、実施例4と同様に、機能性パターンに含有される有機物と中間層に含有される溶媒との溶解性パラメーターの差が7であったからと考えられる。この中間層がバリアの役割を果たしたために、積層体の転写性が良好であったと考えられる。
【0081】
機能性パターンの焼成体にはパターン形状の変形と共に色目の低下が見られた。この原因として、保護層に含有される溶媒により、機能性パターンに含有される有機物が溶解され、機能性パターンの組成にむらが発生し、機能性パターンに含有されている無機成分である顔料とガラスフリットの混合状態が変化したことが考えられる。
【0082】
以上の実施例3、実施例4、比較例4および比較例5の対比により、良好な機能性パターンの焼成体を得るためには、機能性パターンを含む積層体において機能性パターンとこれに直接接する全ての接触層との間で、機能性パターンに含有される有機物と接触層に含有される溶媒との溶解性パラメーターの差を大きくする、つまり相溶しにくくすることが重要であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1実施形態の焼成用転写フィルムを例示する拡大断面模型図である。
【図2】本発明の第2実施形態の焼成用転写フィルムを例示する拡大断面模型図である。
【図3】本発明の第3実施形態の焼成用転写フィルムを例示する拡大断面模型図である。
【図4】本発明の第1実施形態の別の焼成用転写フィルムを例示する拡大断面模型図である。
【図5】本発明の第2実施形態の別の焼成用転写フィルムを例示する拡大断面模型図である。
【図6】本発明の第3実施形態の別の焼成用転写フィルムを例示する拡大断面模型図である。
【符号の説明】
【0084】
1 剥離フィルム(第1剥離フィルム)
2 機能性パターン
3 粘着層
4 中間層
5 保護層
6 第2剥離フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面に機能性パターンを含む積層体を転写し、焼成することにより、機能性パターンの焼成体を形成するために用いる、焼成用転写フィルムにおいて、
前記焼成用転写フィルムは、剥離フィルムと、前記剥離フィルムの一方の表面に接するように形成された前記積層体とを含み、
前記積層体はさらに、機能性パターンと、前記機能性パターンの表面に直接接するように形成される、1層またはそれより多数の層からなる接触層とを含み、
前記機能性パターンは、無機粉体と焼成により除去可能な有機物とを含有し、
前記接触層は、焼成により除去可能な有機物と溶媒とを含有し、
前記機能性パターンに含まれる有機物は、前記接触層に含まれる溶媒と相溶しないことを特徴とする焼成用転写フィルム。
【請求項2】
前記機能性パターンに含まれる有機物の溶解性パラメーター(SPb)と前記接触層に含まれる溶媒の溶解性パラメーター(SP)とが、5<|SP−SPb|の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の焼成用転写フィルム。
【請求項3】
前記接触層は、前記積層体を前記基体に転写する際に前記基体の表面に粘着される粘着層であることを特徴とする請求項1または2に記載の焼成用転写フィルム。
【請求項4】
前記積層体は、前記積層体を前記基体に転写する際に前記基体の表面に粘着される粘着層をさらに含み、
前記接触層は、前記機能性パターンと前記粘着層との間に挟まれる中間層であることを特徴とする請求項1または2に記載の焼成用転写フィルム。
【請求項5】
前記接触層のうちの1層は、前記機能性パターンの、前記剥離フィルムの前記一方の表面に間接的に接する表面を保護するための保護層であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の焼成用転写フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−311356(P2008−311356A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156490(P2007−156490)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(591186888)株式会社トッパンTDKレーベル (46)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】