説明

焼結体、焼結体を用いた切削工具および焼結体の製造方法

【課題】切削工具の材料として用いた場合に、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有する切削工具を得ることのできる焼結体およびその製造方法ならびにその焼結体を用いた切削工具を提供する。
【解決手段】立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかとを含む焼結体であって、第1化合物は、鉄、コバルト、ニッケル、周期律表の第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、第2化合物は、第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および硼素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体、前記焼結体を用いた切削工具および前記焼結体の製造方法に関し、より特定的には、立方晶型窒化硼素を含む焼結体、前記焼結体を用いた切削工具および前記焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サイアロン(以下、SiAlONともいう)は、窒化ケイ素にアルミニウムと酸素が固溶した構造を有しており、六方晶系に属するα型とβ型の2種類の結晶形がある(以下、それぞれα型サイアロン、β型サイアロンともいう)。サイアロンを用いた焼結体は、被加工材との反応性が低いという特性を有するため、切削工具用材料としての研究が進められている。
【0003】
たとえば、特許文献1(特許第2849055号公報)には、α型サイアロンおよび/またはβ型サイアロンを主成分とし、希土類元素と4a族元素と2a、6a、7a、8a族との複合酸化物などを残部とすることを特徴とするサイアロン基焼結体が開示されている。
【0004】
特許文献2(特開2005−212048号公報)には、Si34もしくはサイアロン粒子を金属および/または合金と非晶質相にて結合してなることを特徴とするセラミックスが開示されている。
【0005】
上記のサイアロンセラミックスは、被加工材との反応性は低いが、立方晶型窒化硼素と比べると硬度が低く、切削工具材料として用いた場合に耐摩耗性が不十分である。
【0006】
したがって、硬度および被加工材との反応性の観点から、切削工具の材料として用いた場合に、優れた耐摩耗性を有すると同時に、優れた耐欠損性を備える切削工具を得ることのできる焼結体が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2849055号公報
【特許文献2】特開2005−212048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、切削工具の材料として用いた場合に、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有する切削工具を得ることのできる焼結体およびその製造方法ならびにその焼結体を用いた切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の焼結体は、立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかとを含む焼結体であって、第1化合物は、鉄、コバルト、ニッケル、周期律表の第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、第2化合物は、第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および硼素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物である。
【0010】
本発明の焼結体の製造方法は、以下の工程を備える。立方晶型サイアロンが準備される。β型サイアロンが準備される。第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかが準備される。立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかとが混合されて混合物が得られる。混合物が焼結される。立方晶型サイアロンは、β型サイアロンを衝撃圧縮法で処理することにより得られる。第1化合物は、鉄、コバルト、ニッケル、第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。第2化合物は、第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および硼素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物である。
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、焼結体を上記のとおり、立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかとを含むように形成することで、その焼結体を材料として用いた切削工具が、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有することを見出した。これは、本発明の焼結体が高い硬度を有し、被加工材との反応性が低く、優れた硬度と靭性のバランスを有するためであると考えられる。そして、焼結体が高い硬度を有することの理由として、焼結体が、α型サイアロンやβ型サイアロンに比べて硬度が高い立方晶型サイアロンを含むことが考えられる。焼結体が被加工材との反応性が低いことの理由として、焼結体が被加工材との反応性の低いサイアロンを含むことが考えられる。焼結体が優れた硬度と靭性のバランスを有することの理由として、焼結体が立方晶型サイアロンとβ型サイアロンの両者を含み、さらにサイアロン粒子間の結合力を高める第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかを含むことが考えられる。
【0012】
本発明の焼結体および焼結体の製造方法において好ましくは、焼結体中もしくは混合物中の、立方晶型サイアロンの質量γとβ型サイアロンの質量αが、下記式(I)で表わされる。
【0013】
0.2≦γ/(γ+α)≦0.8 (I)
本発明の焼結体および焼結体の製造方法によれば、この焼結体および得られた焼結体を材料として用いた切削工具は、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有する。立方晶型サイアロンとβ型サイアロンを上記の割合で含む焼結体は、硬度と靭性がバランスよく向上している考えられる。この焼結体の特性が、切削工具の耐摩耗性および耐欠損性の向上をもたらすと考えられる。
【0014】
本発明の焼結体において好ましくは、焼結体中に、第1化合物および第2化合物が、合計で0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれる。
【0015】
本発明の焼結体の製造方法において好ましくは、混合物中に、第1化合物および第2化合物が、合計で0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれる。
【0016】
本発明の焼結体および焼結体の製造方法によれば、この焼結体および得られた焼結体を材料として用いた切削工具は、優れた耐欠損性を有する。第1化合物および第2化合物は、焼結体中の立方晶型サイアロンの粒子間、β型サイアロンの粒子間およびこれらの粒子間の結合力を高め、焼結体の靭性を向上することができると考えられる。そして、第1化合物と第2化合物を上記の範囲で含む焼結体は、硬度と靭性がバランスよく向上していると考えられる。この焼結体の特性が、切削工具の耐摩耗性および耐欠損性の向上をもたらすと考えられる。
【0017】
本発明の焼結体において好ましくは、焼結体は第3化合物をさらに含み、第3化合物は、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、および第3a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、酸素とからなる少なくとも1種の化合物である。
【0018】
本発明の焼結体の製造方法において好ましくは、混合物を得る工程において、第3化合物がさらに混合され、第3化合物は、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、および第3a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、酸素とからなる少なくとも1種の化合物である。
【0019】
本発明の焼結体および焼結体の製造方法によれば、この焼結体および得られた焼結体を材料として用いた切削工具は、優れた耐欠損性を有する。第3化合物は、焼結体中の立方晶型サイアロンの粒子間、β型サイアロンの粒子間およびこれらの粒子間の結合力を高め、焼結体の靭性を向上することができると考えられる。この焼結体の特性が、切削工具の耐欠損性の向上をもたらすと考えられる。
【0020】
本発明の切削工具は、上記の焼結体よりなる。上記の焼結体を材料として用いた切削工具は、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有する。
【0021】
本発明の焼結体は、上記の焼結体の製造方法により得られる。得られた焼結体を材料として用いた切削工具は、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の焼結体、焼結体の製造方法および焼結体を用いた切削工具によれば、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有する切削工具を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態における焼結体の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施の形態1・焼結体]
本発明の一実施の形態において、焼結体は立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかとを含む。
【0025】
立方晶型サイアロンは、窒化ケイ素にアルミニウムと酸素が固溶した構造を有するサイアロンのうち、立方晶の結晶構造を有するものである。立方晶型サイアロンは、α型サイアロンおよびβ型サイアロンに比べて高い硬度を有する。したがって、立方晶型サイアロンを含む焼結体は、低反応性というサイアロンの特徴を維持したまま、高い硬度を有することができると考えられる。
【0026】
立方晶型サイアロンの含有量は、焼結体100質量%中、20質量%以上80質量%以下であることが好ましい。立方晶型サイアロンの含有量が20質量%未満であると、立方晶型サイアロンの有する高硬度という特性を、焼結体において十分に得ることができないと考えられる。一方、立方晶型サイアロンの含有量が80質量%を超えると、焼結体は高硬度であるものの、耐欠損性が低下すると考えられる。
【0027】
β型サイアロンは、被加工材との反応性が低いため、β型サイアロンを含む焼結体を切削工具材料として用いた場合、優れた耐摩耗性を有する切削工具を得ることができると考えられる。
【0028】
そして、焼結体は、立方晶型サイアロンと、β型サイアロンを含むため、硬度および靭性がバランスよく向上していると考えられる。焼結体が、立方晶型サイアロンを含み、β型サイアロンを含まないと、焼結体の靭性が低下すると考えられる。一方、焼結体が、β型サイアロンを含み、立方晶型サイアロンを含まない場合は、硬度が不十分であると考えられる。
【0029】
焼結体中の、立方晶型サイアロンの質量γとβ型サイアロンの質量αが、下記式(I)で表わされることが好ましい。
【0030】
0.2≦γ/(γ+α)≦0.8 (I)
焼結体中の、立方晶型サイアロンとβ型サイアロンの質量比が上記式(I)の範囲であると、得られた焼結体が優れた硬度および靭性を有することができる。
【0031】
さらに、立方晶型サイアロンの質量γとβ型サイアロンの質量αが、下記式(II)で表わされることが、より好ましい。
【0032】
0.5≦γ/(γ+α)≦0.8 (II)
立方晶型サイアロンおよびβ型サイアロンの合計の含有量は、焼結体100質量%中、95質量%以上99.5質量%以下であることが好ましい。焼結体の立方晶型サイアロンおよびβ型サイアロンの合計の含有量が前記の範囲であると、焼結体と被加工材との反応が抑制されると考えられる。
【0033】
第1化合物は、鉄、コバルト、ニッケル、周期律表の第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。第1化合物は、焼結体中の立方晶型サイアロンの粒子間、β型サイアロンの粒子間およびこれらの粒子間の結合力を高め、焼結体の靭性を向上することができると考えられる。この焼結体の特性が、切削工具の耐欠損性の向上をもたらすと考えられる。
【0034】
第1化合物は、特に鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、ハフニウムを用いることが好ましい。これらの第1化合物は一種類を用いても、異なる種類を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
第2化合物は、第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および硼素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物であり、該化合物の固溶体も含む。第2化合物は、焼結体中の立方晶型サイアロンの粒子間、β型サイアロンの粒子間およびこれらの粒子間の結合力を高め、焼結体の靭性を向上することができると考えられる。この焼結体の特性が、切削工具の耐欠損性の向上をもたらすと考えられる。
【0036】
第2化合物は、第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の炭化物、前記元素の窒化物、前記元素の炭窒化物、および前記元素の硼化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。たとえば、TiN、TiC、TiCN、TiB2、ZrN、ZrC、ZrB2、VN、VC、WCを用いることが好ましい。これらの第2化合物は一種類を用いても、異なる種類を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
焼結体中に、第1化合物および第2化合物が、合計で0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。焼結体に第1化合物のみが含まれ、第2化合物が含まれていない場合は、第1化合物が0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。焼結体に第2化合物のみが含まれ、第1化合物が含まれていない場合は、第2化合物が0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。焼結体に第1化合物および第2化合物の両方が含まれている場合は、これらが合計で0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。
【0038】
[実施の形態2・焼結体]
本発明の一実施の形態において、焼結体は立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかと、第3化合物とを含む。
【0039】
立方晶型サイアロン、β型サイアロン、第1化合物および第2化合物は、実施の形態1と同様のものを用いることができる。
【0040】
第3化合物は、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、および第3a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、酸素とからなる少なくとも1種の化合物であり、該化合物の固溶体も含む。第3化合物は、焼結体中で、立方晶型サイアロンの粒子同士、β型サイアロンの粒子同士、あるいは、立方晶型サイアロン粒子とβ型サイアロン粒子を結合する機能を有する。したがって、第3化合物を有する焼結体は、粒子間の結合力が向上し、優れた靭性を有すると考えられる。
【0041】
第3化合物は、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、および第3a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であることが好ましい。たとえば、Al23、Y23、ZrO2、MgOを用いることが好ましい。これらの第3化合物は一種類を用いても、異なる種類を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
[実施の形態3・焼結体の製造方法]
本発明の焼結体の製造方法を図1を用いて説明する。立方晶型サイアロンを準備する(S1a)。β型サイアロンを準備する(S1b)。第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかを準備する(S1c)。次に、立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかとを混合して混合物を得る(S2)。次に、混合物を焼結する(S3)。
【0043】
(立方晶型サイアロンを準備する工程(S1a))
立方晶型サイアロンを準備する(S1a)。立方晶型サイアロンは、たとえば、β型サイアロンを衝撃圧縮法で処理することにより得られたものである。この場合、β型サイアロンは平均粒径が0.1〜10μmのものを用いることが好ましい。
【0044】
衝撃圧縮法は、2000℃以上4000℃以下かつ40GPa以上50GPa以下の雰囲気にて行われることが好ましい。この条件で処理することで、β型サイアロンの30〜50%を、立方晶型サイアロンに変換することができる。
【0045】
衝撃圧縮法で処理することにより得られた立方晶型サイアロンは、精製することが好ましい。上記のとおり、β型サイアロンを衝撃圧縮法で処理すると、これらのサイアロンの一部は、立方晶型サイアロンに変換されずに残る。したがって、衝撃圧縮処理後の粉末には、立方晶型サイアロンとともに、β型サイアロン、およびわずかな非晶質物質が含まれる。したがって、処理後の粉末から立方晶型サイアロンを精製することで、立方晶型サイアロンの含有量が高い粉末を得ることができる。
【0046】
立方晶型サイアロンの精製は、たとえば以下の方法で行うことができる。初めに、衝撃圧縮法で処理後の粉末を、フッ酸などの酸性溶液で洗浄する。非晶質物質は酸性溶液に溶解するため、前記粉末を酸性溶液で洗浄すると、非晶質物質を除去することができる。次に、洗浄後の粉末に含まれる立方晶型サイアロンと、β型サイアロンとを、比重の差を利用して分離する。立方晶型サイアロンの密度は4.0g/cm3であり、β型サイアロンの密度は3.14g/cm3と異なるため、遠心分離することで、立方晶型サイアロンを精製することができる。このようにして得られた立方晶型サイアロンの平均粒径は0.01μm〜5μm程度である。
【0047】
(β型サイアロンを準備する工程(S1b))
β型サイアロンを準備する(S1b)。β型サイアロンは市販のものを用いることができる。また、β型サイアロンは、前記の立方晶型サイアロンを準備する工程で衝撃圧縮法により処理されたβ型サイアロンのうち、立方晶型サイアロンに変換されずに残存しているβ型サイアロンを用いることもできる。
【0048】
β型サイアロンは、粒径が0.01〜0.5μmの粒子であることが好ましい。
(第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかを準備する工程(S1c))
第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかを準備する(S1c)。
【0049】
第1化合物は、鉄、コバルト、ニッケル、周期律表の第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。第1化合物は、焼結体中の立方晶型サイアロンの粒子間、β型サイアロンの粒子間およびこれらの粒子間の結合力を高め、焼結体の靭性を向上することができると考えられる。この焼結体の特性が、切削工具の耐欠損性の向上をもたらすと考えられる。
【0050】
第1化合物は、特に鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、ハフニウムを用いることが好ましい。これらの第1化合物は一種類を用いても、異なる種類を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
第2化合物は、第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および硼素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物であり、該化合物の固溶体も含む。第2化合物は、焼結体中の立方晶型サイアロンの粒子間、β型サイアロンの粒子間およびこれらの粒子間の結合力を高め、焼結体の靭性を向上することができると考えられる。この焼結体の特性が、切削工具の耐欠損性の向上をもたらすと考えられる。
【0052】
第2化合物は、第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の炭化物、前記元素の窒化物、前記元素の炭窒化物、および前記元素の硼化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。たとえば、TiN、TiC、TiCN、TiB2、ZrN、ZrC、ZrB2、VN、VC、WCを用いることが好ましい。これらの第2化合物は一種類を用いても、異なる種類を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
(混合物を得る工程(S2))
次に、立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかとを混合して混合物を得る(S2)。
【0054】
混合物中の、立方晶型サイアロンの質量γとβ型サイアロンの質量αが、下記式(I)で表わされることが好ましい。
【0055】
0.2≦γ/(γ+α)≦0.8 (I)
混合物中の、立方晶型サイアロンとβ型サイアロンの質量比が上記式(I)の範囲であると、得られた焼結体を用いて作製された切削工具は、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有することができる。
【0056】
さらに、立方晶型サイアロンとβ型サイアロンの質量比が、下記式(II)で表わされることが、より好ましい。
【0057】
0.5≦γ/(γ+α)≦0.8 (II)
混合物中の、立方晶型サイアロンおよびβ型サイアロンの合計の含有量は、混合物100質量%中、95質量%以上99.5質量%以下であることが好ましい。混合物中の立方晶型サイアロンおよびβ型サイアロンの合計の含有量が前記の範囲であると、得られた焼結体と被加工材との反応が抑制されると考えられる。
【0058】
混合物中に、第1化合物および第2化合物が、合計で0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。混合物に第1化合物のみが含まれ、第2化合物が含まれていない場合は、第1化合物が0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。混合物に第2化合物のみが含まれ、第1化合物が含まれていない場合は、第2化合物が0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。混合物に第1化合物および第2化合物の両方が含まれている場合は、これらが合計で0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。
【0059】
混合物は、たとえば、予め立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかを、エタノールなどの有機溶媒中で超音波分散するか又はボールミル中で混合し、得られたスラリーをドライヤーなどで乾燥して得ることができる。
【0060】
立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかとを混合する工程(S2)において、第3化合物をさらに混合することが好ましい。
【0061】
第3化合物は、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、および第3a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、酸素とからなる少なくとも1種の化合物であり、該化合物の固溶体も含む。第3化合物は、焼結体中で、立方晶型サイアロンの粒子同士、β型サイアロンの粒子同士、あるいは、立方晶型サイアロン粒子とβ型サイアロン粒子を結合する機能を有する。したがって、第3化合物を有する混合物を用いて作製された焼結体は、粒子間の結合力が向上し、優れた靭性を有すると考えられる。
【0062】
第3化合物は、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、および第3a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であることが好ましい。たとえば、Al23、Y23、ZrO2、MgOを用いることが好ましい。これらの第3化合物は一種類を用いても、異なる種類を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
(混合物を焼結する工程(S3))
次に、混合物を焼結して焼結体を得る(S3)。
【0064】
焼結は、混合物を加圧成形した後に行うことができる。また、加圧成形と焼結とを同時に行うこともできる。
【0065】
たとえば、ホットプレスのように加圧成形しながら焼結すると、焼結が促進される。加圧成形の圧力は1MPa〜50MPaが好ましく、10MPa〜30MPaがより好ましい。また、焼結温度は1400℃〜2000℃が好ましく、1400℃〜1600℃がより好ましい。
【0066】
また、冷間静水圧加圧(CIP)で成形した後、さらに熱間静水圧加圧(HIP)を用いて焼結することもできる。この場合も、焼結を促進することができる。
【0067】
<切削工具>
[実施の形態4]
本発明の一実施の形態において、上記の焼結体は、たとえば耐熱合金の施削、フライス、エンドミルなどに用いられる刃先交換型切削工具として用いることができる。
【実施例】
【0068】
<実施例1〜53、比較例1〜3>
(立方晶型サイアロンの準備)
β型サイアロン粒子300gをステンレス製容器に充填し、爆薬の爆発による衝撃圧縮法により、約40GPaの圧力および2000℃〜2500℃の温度で処理した。衝撃圧縮法による処理後に、ステンレス製容器を硝酸に溶解し、粉末を回収した。回収した粉末をX線回折で分析すると、立方晶型サイアロン、β型サイアロンおよび非晶質物質が含まれていた。
【0069】
回収した粉末をフッ酸溶液で洗浄して非晶質物質を除去したのち、粉砕機で粉砕して、粉末の粒径を約0.05〜0.2μmに揃えた。次に、粒径を揃えた粉末を遠心分離法を用いて、立方晶型サイアロン粒子とβ型サイアロン粒子とに分離した。この結果、立方晶型サイアロン粒子128gを得た。
【0070】
(焼結体の作製)
次に、表1に示す配合組成にしたがって、立方晶型サイアロン粒子と、β型サイアロン粒子、第1化合物粒子、第2化合物粒子、第3化合物粒子とを混合し、得られた混合粒子をセラミックス製ボールミル容器に入れた。なお、第1化合物を2種類使用している場合は、表1の第1化合物の「種類(質量比)」欄には、種類とともにその種類の第1化合物の質量比が記載され、「配合量」欄には、2種類の第1化合物の配合量の合計値が記載されている。
【0071】
次に、セラミックスボールとエタノール100mlをボールミル容器内に添加し、ボールミル混合を2時間行った。
【0072】
ボールミル混合後、スラリー状になった混合物を100℃に保持した乾燥機に入れてエタノールを蒸発させ、立方晶型サイアロン粒子と、β型サイアロン粒子と、第1化合物粒子および第2化合物粒子の少なくともいずれかを含む混合粉末を得た。
【0073】
次に前記混合粉末4gを、超高圧プレスを用いて、5GPaの圧力を加えながら、1500℃で30分間焼結した。
【0074】
前記混合粉末および得られた焼結体をX線回折した結果、焼結の前後で立方晶型サイアロンの質量とβ型サイアロンの質量の比率はほとんど変化しないことが確認された。また、前記混合粉末および得られた焼結体を、走査電子顕微鏡に付属のEPMA(Electron Probe X-ray Micro Analyzer:試料に電子線を照射した際に発生する特性X線を検出し、含有元素の有無と量を知ることができる装置)により分析した結果、両者は同様の元素比率となており、焼結の前後でその元素比率はほとんど変化しないことが確認された。
【0075】
(性能評価1)
得られた焼結体をISO型番SNGN120408形状の切削工具形状に加工し、以下の条件で切削試験を行い、切削距離が200mの時の工具刃先のVb摩耗幅を調べた。
【0076】
被削剤:Ni基耐熱合金(スペシャルメタル社製のインコネル718(登録商標))
切削速度:350m/min
切込み深さ:0.3mm
送り量:0.15mm/rev
条件:湿式
結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
(評価結果1)
実施例1〜42は、立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第1化合物とを含む混合物から作製された焼結体を材料とする切削工具であった。実施例1〜42は、いずれも欠損することなく、β型サイアロンを含まない比較例1〜3に比べて、耐欠損性および耐摩耗性が向上した。また、同種の第1化合物を使用した実施例同士を比較すると、γ/(γ+α)の値が大きいほど、耐摩耗性が優れていた。
【0079】
実施例43〜53は、立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第2化合物とを含む混合物から作製された焼結体を材料とする切削工具であった。実施例43〜53は、いずれも欠損することなく、β型サイアロンを含まない比較例1〜3に比べて、耐欠損性および耐摩耗性が向上した。
【0080】
比較例1〜3は、立方晶型サイアロンと、第1化合物とを含む混合物から作製された焼結体を材料とする切削工具であった。いずれも欠損が生じた。
【0081】
<実施例54〜86、比較例4〜7>
(立方晶型サイアロンの準備)
実施例1と同様の方法で、立方晶型サイアロン粒子を準備した。
【0082】
(焼結体の作製)
実施例1と同様の方法で、表2に示す配合組成にしたがって、混合粉末を得た。なお、「第1化合物/第2化合物」および「第1化合物/第3化合物」の「種類(質量比)」欄には、種類とともに2種類の化合物の質量比が記載され、「配合量」欄には、2種類の化合物の配合量の合計値が記載されている。
【0083】
次に前記混合粉末4gを、ホットプレスを用いて、30MPaの圧力を加えながら、1800℃で1時間焼結した。
【0084】
前記混合粉末および得られた焼結体をX線回折した結果、焼結の前後で立方晶型サイアロンの質量とβ型サイアロンの質量の比率はほとんど変化しないことが確認された。また、前記混合粉末および得られた焼結体を、走査電子顕微鏡に付属のEPMA(Electron Probe X-ray Micro Analyzer:試料に電子線を照射した際に発生する特性X線を検出し、含有元素の有無と量を知ることができる装置)により分析した結果、両者は同様の元素比率となており、焼結の前後でその元素比率はほとんど変化しないことが確認された。
【0085】
(性能評価2)
得られた焼結体をISO型番SNGN120408形状の切削工具形状に加工し、以下の条件で切削試験を行い、切削距離が200mの時の工具刃先のVb摩耗幅を調べた。
【0086】
被削剤:Ni基耐熱合金(スペシャルメタル社製のインコネル718(登録商標))
切削速度:350m/min
切込み深さ:0.3mm
送り量:0.15mm/rev
条件:湿式
結果を表1に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
(評価結果2)
実施例58〜64,69〜75,80〜86は、立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第1化合物と、第2化合物とを含む混合物から作製された焼結体を材料とする切削工具であった。いずれも欠損することなく、β型サイアロンを含まない比較例4〜7に比べて、耐欠損性および耐摩耗性が向上した。
【0089】
実施例54〜57,65〜68,76〜79は、立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第1化合物と、第3化合物とを含む混合物から作製された焼結体を材料とする切削工具であった。いずれも欠損することなく、β型サイアロンを含まない比較例4〜7に比べて、耐欠損性および耐摩耗性が向上した。
【0090】
比較例4〜7は、立方晶型サイアロンと、第3化合物とを含む混合物から作製された焼結体を材料とする切削工具であった。いずれも欠損が生じた。
【0091】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶型サイアロンと、β型サイアロンと、第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかとを含む焼結体であって、
前記第1化合物は、鉄、コバルト、ニッケル、周期律表の第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、
前記第2化合物は、第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および硼素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物である、焼結体。
【請求項2】
前記焼結体中の、前記立方晶型サイアロンの質量γと前記β型サイアロンの質量αが、下記式(I)で表わされる、請求項1に記載の焼結体。
0.2≦γ/(γ+α)≦0.8 (I)
【請求項3】
前記焼結体中に、前記第1化合物および第2化合物が、合計で0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれる、請求項1または2に記載の焼結体。
【請求項4】
前記焼結体は第3化合物をさらに含み、
前記第3化合物は、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、および第3a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、酸素とからなる少なくとも1種の化合物である、1〜3のいずれかに記載の焼結体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の焼結体よりなる切削工具。
【請求項6】
立方晶型サイアロンを準備する工程と、
β型サイアロンを準備する工程と、
第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかを準備する工程と、
前記立方晶型サイアロンと、前記β型サイアロンと、前記第1化合物および第2化合物の少なくともいずれかとを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を焼結する工程とを備え、
前記立方晶型サイアロンは、β型サイアロンを衝撃圧縮法で処理することにより得られたものであり、
前記第1化合物は、鉄、コバルト、ニッケル、第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、
前記第2化合物は、第4a族元素、第5a族元素、および第6a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および硼素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物である、
焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記混合物中の、前記立方晶型サイアロンの質量γと前記β型サイアロンの質量αが、下記式(I)で表わされる、請求項6に記載の焼結体の製造方法。
0.2≦γ/(γ+α)≦0.8 (I)
【請求項8】
前記混合物中に、前記第1化合物および第2化合物が、合計で0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含まれる、請求項6または7に記載の焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記混合物を得る工程において、第3化合物をさらに混合し、
前記第3化合物は、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、および第3a族元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、酸素とからなる少なくとも1種の化合物である、請求項6〜8のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかに記載の焼結体の製造方法により製造された焼結体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−256067(P2011−256067A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131222(P2010−131222)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】