説明

焼結体

【課題】製造工程や製品出荷後における割れや欠けを有効に防止することが可能な焼結体を提供すること。
【解決手段】エッジ部Eで交差する少なくとも2つの面を有する立体形状の焼結体2であり、少なくとも1つの面において、対向するエッジ部E同士を直線で結んだ場合に、直線状部分Liにおけるエッジ部E同士の中点Cから、エッジ部Eに向かって、ビッカース硬度が低下するように構成してあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばフェライトコアなどの電子部品に用いられる焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライトコアなどの電子部品は、金型等を用いて粉体を圧縮成形した後に、焼成を行うことにより成形される。このように圧縮成形後に焼成して得られた焼結体は、焼結体同士が衝突すると、焼結体に割れや欠けが生じやすい(特許文献1参照)。
【0003】
特に、焼結体の製造工程(たとえば輸送、ハンドリング、バレル研磨、ブラスト処理、後加工等)や、製品出荷後においても、焼結体同士が衝突することで、焼結体に割れや欠けが生じる虞がある。また、このような焼結体は、たとえば半田処理等の熱衝撃にも弱いという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−151190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、製造工程や製品出荷後における割れや欠けを有効に防止することが可能な焼結体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る焼結体は、
エッジ部で交差する少なくとも2つの面を有する立体形状の焼結体であり、
少なくとも1つの面において、対向する前記エッジ部同士を直線で結んだ場合に、前記直線における前記エッジ部同士の中点から、前記エッジ部に向かって、ビッカース硬度が低下するように構成してあることを特徴とする。
【0007】
本発明者等は、焼結体に生じる割れや欠けの原因について鋭意検討したところ、以下に示す新たな知見を見い出すことにより、本発明を完成させるに至った。すなわち、従来の焼結体のように、対向するエッジ部同士の中点からエッジ部へ向かってビッカース硬度が上昇する場合には、焼結体同士が衝突すると、比較的硬く脆いエッジ部同士が衝突することとなり、焼結体に割れや欠けが生じやすいのではないかと推測した。従来の製法では、粉体を圧縮成形する際に、成形体のエッジ部が比較的密に成形される。その結果、エッジ部が比較的硬く脆い焼結体を得ることとなる。
【0008】
これに対して、本発明の焼結体は、少なくとも1つの面において、対向するエッジ部同士の中点からエッジ部へ向かって、ビッカース硬度が徐々に低下していく硬度傾斜を有している。このため、本発明では、焼結体同士が衝突しても、焼結体に割れや欠けが生じにくくなると共に、耐熱衝撃特性が向上することが判明した。また、焼結体のエッジ部の加工が容易となり、たとえばバレル加工において、短時間でエッジ部の加工ができる。
【0009】
好ましくは、前記中点における前記ビッカース硬度(CHV)に対する、前記エッジ部における前記ビッカース硬度(EHV)の比(EHV/CHV)が、0.3≦EHV/CHV≦0.9、より好ましくは、0.5≦EHV/CHV≦0.8、さらに好ましくは、0.6≦EHV/CHV≦0.8である。
【0010】
上記の硬度比(EHV/CHV)が0.9以下なので、焼結体同士が衝突しても、焼結体に割れや欠けが生じることを、より効果的に防止できると共に、耐熱衝撃特性がより向上する。また、上記の硬度比(EHV/CHV)が0.3以上なので、焼結体となる成形体の形状保持が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るフェライトコアの斜視図である。
【図2】図2は、図1に示すフェライトコアの一面の中点を通る直線で見た場合の断面概念図である。
【図3】図3は、図2に示す各位置におけるビッカース硬度の傾斜を示す概念図である。
【図4】図4は、図1に示すフェライトコアの製造方法を示す部分断面図である。
【図5A】図5Aは、図1に示すフェライトコアの変形例を示す斜視図である。
【図5B】図5Bは、図1に示すフェライトコアの変形例を示す斜視図である。
【図5C】図5Cは、図5Bに示すフェライトコアの平面図である。
【図5D】図5Dは、図1に示すフェライトコアの変形例を示す斜視図である。
【図6A】図6Aは、図1に示すフェライトコアの変形例を示す斜視図である。
【図6B】図6Bは、図1に示すフェライトコアの変形例を示す斜視図である。
【図6C】図6Cは、図1に示すフェライトコアの変形例を示す斜視図である。
【図6D】図6Dは、図1に示すフェライトコアの変形例を示す斜視図である。
【図6E】図6Eは、図1に示すフェライトコアの変形例を示す斜視図である。
【図6F】図6Fは、図1に示すフェライトコアの変形例を示す斜視図である。
【図6G】図6Gは、図1に示すフェライトコアの変形例を示す斜視図である。
【図6H】図6Hは、図1に示すフェライトコアの変形例を示す斜視図である。
【図6I】図6Iは、図1に示すフェライトコアの変形例を示す斜視図である。
【図7A】図7Aは、実施例におけるフェライトコアの斜視図である。
【図7B】図7Bは、実施例における各測定位置におけるビッカース硬度の傾斜を示すグラフである。
【図7C】図7Cは、実施例における各測定位置におけるビッカース硬度の傾斜を示すグラフである。
【図7D】図7Dは、比較例における各測定位置におけるビッカース硬度の傾斜を示すグラフである。
【図7E】図7Eは、比較例における各測定位置におけるビッカース硬度の傾斜を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る焼結体としてのフェライトコア2は、直方体形状をしている。フェライトコア2のサイズは特に限定されないが、長さL=0.1〜100.0mm、横幅W=0.1〜100.0mm、後述する圧縮方向の高さH=0.1〜100.0mmであることが好ましい。
【0013】
フェライトコア2の材質としては特に制限されないが、本実施形態では、Mn−Znフェライト、パーマロイなどの軟磁性金属、金属圧粉などの導電性磁性材で構成してある。
【0014】
フェライトコア2は、後述する成形体(粉体)の圧縮方向に垂直な長方形の圧縮面4a,4bと、圧縮面4a,4bの各辺と垂直に交わる側面6a〜6dを有している。圧縮面4a,4bおよび側面6a〜6d同士がそれぞれ交わるエッジ部Eは、曲率半径Rを有する曲面部分(図2に示すR1,R2)または傾斜状部分(図示せず)で構成されている。傾斜状部分は、エッジ部を面取りした場合などに形成される。
【0015】
図1に示す圧縮面4aの重心Gを通る直線(IIa,IIb,IIc,…)を引いた場合の切断面を、図2に模式的に示す。図2に示す曲面部分R1,R2の曲率半径R=0.01〜5.00mmをしている。圧縮面4aと側面6a〜6dとの境界であるエッジ部Eは、曲面部分R1,R2で構成されるが、曲面部分R1,R2においてビッカース硬度の測定を行うことは困難なので、図2に示す直線状部分Liと曲面部分R1,R2との境界を、エッジ部Eにおける硬度測定点(P1,P5)とする。
【0016】
圧縮面4aにおける硬度状態を表すために、以下に述べる5つの測定点において、ビッカース硬度を測定する。すなわち、エッジ部Eとしての硬度測定点P1,P5、エッジ部E同士の中点Cとしての硬度測定点P3、硬度測定点P1,P3同士の中点の硬度測定点P2、硬度測定点P3,P5同士の中点の硬度測定点P4の各測定点において、ビッカース硬度を測定するものとする。
【0017】
フェライトコア2は、圧縮面4aの重心Gを通る直線を引いた場合に、図3に示すように、硬度測定点P3において、ビッカース硬度が最も高く、硬度測定点P1,P5へ向かって、ビッカース硬度が徐々に低下していくように構成してある。圧縮面4aと対向する圧縮面4b(図1に示す)も、図3に示す硬度傾斜と同様の傾向を有している。
【0018】
このように、特に、成形体(粉体)の圧縮方向に垂直な圧縮面4a(および圧縮面4b)において、少なくとも、圧縮面4a(および圧縮面4b)の重心を通る直線上に位置する2つのエッジ部E同士の中点Cから、エッジ部Eへ向かって、ビッカース硬度が徐々に低下していく。フェライトコア2のある面において、硬度を測定するために引く直線とは、ある面における対向するエッジ部E相互を結ぶ任意の直線であるが、本実施形態では、少なくとも、ある面の重心を通る直線である。なお、図1に示す場合には、中点Cとフェライトコア2の圧縮面4a(および圧縮面4b)の重心Gとは、一致している。
【0019】
中点Cにおけるビッカース硬度(CHV)に対する、エッジ部Eにおけるビッカース硬度(EHV)の比(EHV/CHV)は、所定の値を有しており、好ましくは、0.3≦EHV/CHV≦0.9である。より好ましくは、0.5≦EHV/CHV≦0.8であり、さらに好ましくは、0.6≦EHV/CHV≦0.8である。
【0020】
なお、圧縮面4a,4bに限定されず、フェライトコア2の側面6a〜6dにおいても、対向するエッジ部相互を結ぶ任意の直線において、図3に示すような硬度傾斜を有しても良い。
【0021】
次に、図1に示すフェライトコア2の製造方法について説明する。
まず、フェライト原料粉末を準備する。フェライトコア2を製造するための原料は、最終的に焼成されるフェライトコアの用途によって適宜選択され、特に限定されるものではない。たとえばNi−Zn系フェライト、またはNi−Zn−Cu系フェライトを製造するためには、たとえばFe、NiO、CuO、MnO、MgO、ZnOを主成分とし、必要に応じて、副成分を添加する。なお、この原料には、不可避的不純物として、Co、W、Bi、Si、B、Zr等の金属酸化物が含まれても良い。
【0022】
上記の各原料粉末を秤量して混合し、これを仮焼する。次に、この仮焼物を粉砕する。図4に示すように、粉砕後の粉末12を金型に入れて、圧縮成形を行う。本実施形態で用いるプレス金型は、可動金型16,17と、固定金型14で構成されている。固定金型14と可動金型16とのクリアランスCL(片側)は、従来と比較して大きく、好ましくは0.050〜5.000mm、さらに好ましくは0.100〜1.000mmである。従来では、成形後のバリを小さくするために、クリアランスCL(片側)は0.005mm以下にすることが一般的であった。図4に示す矢印方向が、可動金型16の圧縮方向である。このようなプレス金型を用いて圧縮成形し、成形体(不図示)を得た後、焼成して焼結体(フェライトコア2)を得る。焼結体には通常、圧縮成形時に形成されたバリが残っているため、たとえばバレル研磨によってバリを除去して、曲面部分R1,R2を形成する。本実施形態では、前述したクリアランスCLが比較的に大きいため、焼成後のバリも比較的柔らかく、バリを除去しやすいという効果もある。
【0023】
このようにして製造された本実施形態のフェライトコア2は、少なくとも1つの面において、対向するエッジ部E同士の中点Cからエッジ部Eへ向かって、ビッカース硬度が徐々に低下していく硬度傾斜を有している。そのため、本実施形態では、フェライトコア2同士が衝突しても、フェライトコア2に割れや欠けが生じにくくなると共に、耐熱衝撃特性が向上する。また、フェライトコア2のエッジ部Eの加工が容易となり、たとえばバレル加工において、短時間でエッジ部Eの加工ができる。
【0024】
また、上記の硬度比(EHV/CHV)が0.9以下なので、フェライトコア2同士が衝突しても、フェライトコア2に割れや欠けが生じることを、より効果的に防止できると共に、耐熱衝撃特性がより向上する。また、上記の硬度比(EHV/CHV)が0.3以上なので、フェライトコア2となる成形体2の形状保持が容易である。
【0025】
なお、本実施形態では、焼結体としてフェライトコアについて説明を行ったが、これに限定されない。たとえば、コンデンサ、バリスタ、磁気ディスク等であっても良い。
【0026】
また、フェライトコア2は、以下に例示するように、様々な形状を有しても良い。
【0027】
図5Aに示すように、圧縮方向の高さHが小さくなるようにフェライトコア21が構成されていても良い。この場合にも、特に圧縮面31a(および31b)において、たとえば図5Aに例示する切断面II’−II’におけるビッカース硬度が、図3に示すような傾斜を有している。
【0028】
また、図5Bに示すように、フェライトコア22には、圧縮面32a,32bを貫通する孔50が形成されていても良い。この場合には、図5Cに示すように、フェライトコア22の圧縮面32aの重心Gは、孔50に位置しており、重心Gと中点Cの位置は異なる。しかし、この場合においても、少なくとも、圧縮面32aの重心Gを通る直線を引いた場合に、直線上で対向するエッジ部E(図5Cに▲で示す)同士の中点C(図5Cに×で示す)からエッジ部Eへ向かって、ビッカース硬度が徐々に低下していくようになっている。このため、たとえば図5Bに例示する切断面II’−II’におけるビッカース硬度が、図3に示すような傾斜を有している。
【0029】
また、図5Dに示すように、フェライトコア23に形成される孔は、円柱形であっても良い。また、フェライトコア23には、面取り部61〜64が形成してあっても良い。この場合においても、たとえば図5Dに例示する切断面II’−II’におけるビッカース硬度が、図3に示すような傾斜を有している。
【0030】
また、図6Aに示すように、フェライトコア24は円柱形状をしていても良い。この場合にも、特に圧縮面34a(および34b)において、たとえば図6Aに例示する切断面II’−II’におけるビッカース硬度が、図3に示すような傾斜を有している。
【0031】
また、図6Bに示すように、フェライトコア25は、所定厚みの円盤状の顎部81,82と、顎部81,82に比較して断面直径が小さい巻芯部71とを有していても良い。この場合にも、特に圧縮面35a(および35b)において、たとえば図6Bに例示する切断面II’−II’におけるビッカース硬度が、図3に示すような傾斜を有している。
【0032】
また、図6Cに示すように、フェライトコア26は、図6Bに示す例と比べて顎部81の厚みが小さくても良い。この場合にも、特に圧縮面36a(および36b)において、たとえば図6Cに例示する切断面II’−II’におけるビッカース硬度が、図3に示すような傾斜を有している。
【0033】
また、図6Dに示すように、フェライトコア27は、図6Cに示す例と比べて顎部81の直径が小さく形成されていても良い。この場合にも、特に圧縮面37a(および37b)において、たとえば図6Dに例示する切断面II’−II’におけるビッカース硬度が、図3に示すような傾斜を有している。
【0034】
また、図6Eに示すように、フェライトコア28は、顎部81からはみ出すように、第2巻芯部72が形成されていても良い。この場合にも、特に圧縮面38a(および38b)において、たとえば図6Eに例示する切断面II’−II’におけるビッカース硬度が、図3に示すような傾斜を有している。
【0035】
また、図6Fに示すように、フェライトコア29には、顎部が3個以上形成されていても良い。この場合にも、特に圧縮面39a(および39b)において、たとえば図6Fに例示する切断面II’−II’におけるビッカース硬度が、図3に示すような傾斜を有している。
【0036】
また、図6Gに示すように、フェライトコア120の顎部81,82には、それぞれ切欠き部91,92が形成されていても良い。この場合にも、特に圧縮面40a(および40b)において、たとえば図6Gに例示する切断面II’−II’におけるビッカース硬度が、図3に示すような傾斜を有している。
【0037】
また、図6Hに示すように、フェライトコア121は円筒形状をしていても良い。この場合にも、特に圧縮面41a(および41b)において、たとえば図6Hに例示する切断面II’−II’におけるビッカース硬度が、図3に示すような傾斜を有している。
【0038】
また、図6Iに示すように、フェライトコア122の圧縮面42a,42bが、たとえば楕円形をしており、さらに圧縮面42a,42bを貫通する複数の孔52,53が形成されていても良い。この場合においても、少なくとも、圧縮面42a(および42b)の重心Gを通る直線(たとえば図6Iに例示する切断面II’−II’)を引いた場合に、直線上で対向するエッジ部E同士の中点Cからエッジ部Eへ向かって、ビッカース硬度が徐々に低下していくようになっている。なお、この変形例では、それぞれの孔52,53の重心を通る直線(たとえば図6Iに例示する切断面II’’-II’’)を引いた場合に、直線上で対向するエッジ部E同士の中点Cからエッジ部Eへ向かって、ビッカース硬度が徐々に低下していくようになっていても良い。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
実施例1
酸化鉄を主成分とするフェライト原料粉末を混合し、混合物を800〜1100度の仮焼条件で1〜3時間、仮焼した。この仮焼物を粉砕し、粉砕後の粉末12を得た。図4に示すように、粉末12をプレス金型に入れ、圧縮成形を行った。固定金型14と可動金型16とのクリアランスCL(片側)は、0.100mmとした。粉末12を、図4に示す矢印方向から、4.47KNの圧力で圧縮成形し、成形体を得た。この成形体を、1040度の焼成条件で7時間、焼成して焼結体(フェライトコア)を得た。このようにして1000個のフェライトコアを得た後、フェライトコアのバレル研磨を行い、バリを除去した。
【0040】
このようにして製造したフェライトコアの中から、割れ欠けの発生していないフェライトコア2を100個サンプリングし、サイズの測定を行った。フェライトコア2における各辺の平均値を以下に示す。図7Aに示すフェライトコア2の長さL=3.2mm、横幅W=2.5mm、高さH=2mmであった。また、図2に示す曲面部分R1,R2の曲率半径R=20μmであった。なお、プレス金型による圧縮方向を、図7Aに矢印で示した。
【0041】
次に、割れ欠けの発生していないフェライトコアを1個サンプリングし、フェライトコア2の圧縮面4aにおいて、図7Aに示すように重心G1を通る直線上で、図2に示す硬度測定点P1〜P5でビッカース硬度の測定を行った。エッジ部Eの硬度を測定するために、曲面部分R1,R2との境界から10μm内側の直線状部分Liの位置において、硬度測定点P1およびP5のビッカース硬度の測定を行った。結果を表1および図7Bに示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示す測定結果から、エッジ部Eの硬度を(P1+P5)/2とし、中点Cにおけるビッカース硬度(CHV)に対する、エッジ部Eにおけるビッカース硬度(EHV)の比(EHV/CHV)を求めた。硬度比(EHV/CHV)=0.73であった。
【0044】
次に、フェライトコア2の側面を代表して、側面6bにおいて、図7Aに示すように重心G2を通る直線上で、硬度測定点P1’〜P5’で、同様にしてビッカース硬度の測定を行った。結果を図7Cに示す。なお、この直線は、プレス金型による圧縮方向と平行である。
【0045】
ここで、ビッカース硬度の定義を述べる。対面角α=136度の正四角錐ダイヤモンドで作られたピラミッド形をしている圧子をフェライトコア2の表面に押し込み、荷重を除いた後に残った凹みの対角線の長さd(mm)から表面積S(mm)を算出する。試験荷重F(N)を、算出した表面積S(mm)で割った値がビッカース硬度(HV)であり、以下の式で求められる。
HV=0.102F/S=0.102sin(α/2)×(2F/d)=0.189F/d
【0046】
次に、1000個製造したフェライトコア2の中から、バレル研磨が終了するまでの工程において、割れ欠けの発生しているフェライトコア2の個数を求め、割れ欠け発生率を算出した。結果を表2に示す。
【0047】
次に、製造したフェライトコア2の中から、割れ欠けの発生していないフェライトコア2を100個選び出し、以下に述べるヒートショック不良試験を行った。ヒートショックは、420℃のハンダ槽内に、100個のフェライトコア2を2.0秒入れて、顕微鏡で表面状態を観察し、クラックの発生したフェライトコア2を不良と判定した。ヒートショック不良試験で不良と判定されたフェライトコア2の数をカウントし、ヒートショック不良率を求めた。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
比較例1
固定金型14と可動金型16とのクリアランスCL(片側)を、0.003mmとした以外は、上述した実施例1と同様にしてフェライトコア2を製造し、圧縮面4aにおけるビッカース硬度の測定を行い、硬度比を求めた。硬度比(EHV/CHV)=1.38であった。結果を表1および図7Dに示す。図7Dに示すように、硬度測定点P1〜P5において、対向するエッジ部E同士の中点Cからエッジ部Eへ向かってビッカース硬度が上昇していることが確認できた。また、図7Eに示すように、側面においても、同様の傾向を確認することができた。実施例1と同様に、フェライトコア2の割れ欠け発生試験およびヒートショック不良試験を行った。結果を表2に示す。
実施例2〜9
【0050】
固定金型14と可動金型16とのクリアランスCL(片側)を、0.050mm〜1.000mmと変化させた以外は、上述した実施例1と同様にしてフェライトコア2を製造し、ビッカース硬度の測定を行い、硬度比を求めた。実施例1と同様に、フェライトコア2の割れ欠け発生試験およびヒートショック不良試験を行った。結果を表2に示す。
比較例2
【0051】
固定金型14と可動金型16とのクリアランスCL(片側)を、0.005mmとした以外は、上述した実施例1と同様にしてフェライトコア2を製造し、ビッカース硬度の測定を行い、硬度比を求めた。硬度比(EHV/CHV)=1.30であった。実施例1と同様に、フェライトコア2の割れ欠け発生試験およびヒートショック不良試験を行った。結果を表2に示す。
比較例3
【0052】
固定金型14と可動金型16とのクリアランスCL(片側)を、5.5mmとした以外は、上述した実施例1と同様にしてフェライトコア2の製造を試みた。硬度比(EHV/CHV)=0.25(目標値)では、粉末12の圧縮成形が困難であり、成形体を作製することが困難であった。
評価
【0053】
表2に示す実験結果から、硬度比(EHV/CHV)が0.9以下になるようにフェライトコア2を形成することにより、フェライトコア2同士が衝突しても、フェライトコア2に割れや欠けが生じることを、より効果的に防止できると共に、耐熱衝撃特性がより向上することが判明した。特に、0.5≦EHV/CHV≦0.8、とりわけ、0.6≦EHV/CHV≦0.8の場合において、これらの効果が顕著であった。これは、図7Aに示すように、フェライトコア2の圧縮面6a(圧縮面6b)において、対向するエッジ部E同士の中点Cからエッジ部Eへ向かって、ビッカース硬度が徐々に低下していく硬度傾斜を有しているためと考えられる。また、図7Cに示す実験結果から、フェライトコア2の側面6a〜6dにおいても、圧縮面6a(圧縮面6b)ほどではないが、似たような硬度傾斜を有していることが判明した。
【符号の説明】
【0054】
E…エッジ部
C…中点
Li…直線状部分
2,21〜29,120〜122…フェライトコア
4a,6a…圧縮面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッジ部で交差する少なくとも2つの面を有する立体形状の焼結体であり、
少なくとも1つの面において、対向する前記エッジ部同士を直線で結んだ場合に、前記直線における前記エッジ部同士の中点から、前記エッジ部に向かって、ビッカース硬度が低下するように構成してあることを特徴とする焼結体。
【請求項2】
前記中点における前記ビッカース硬度(CHV)に対する、前記エッジ部における前記ビッカース硬度(EHV)の比(EHV/CHV)が、0.3≦EHV/CHV≦0.9であることを特徴とする請求項1に記載の焼結体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【図6H】
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【図6I】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【公開番号】特開2012−96435(P2012−96435A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245272(P2010−245272)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】