説明

焼結平板の製造方法

【課題】熱間静水圧プレス処理において、その加圧空間を有効に利用した新規の焼結平板の製造方法を提供する。
【解決手段】目的の平板形状に比して投影寸法を縮める如きわん曲部あるいは屈曲部を形成した焼結容器1に原料粉末を充填した後、該焼結容器にHIP処理を施して焼結体を得て、次いで該焼結体を塑性加工によって平板形状とする焼結平板の製造方法である。焼結容器1は、熱間静水圧プレス処理に適用される加圧空間の許容寸法内であり、目的の平板形状は、前記加圧空間の許容寸法を超えた寸法とすることもできる。本発明は、特に大型平板形状が要求されるスパッタリング用ターゲットの製造に対して有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間静水圧プレスにおいて、その密封空間となる加圧空間を有効利用できる焼結平板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間静水圧プレス(以下、HIPと略す)処理は、加圧空間を特定温度に加熱することで高圧環境を形成し、加圧空間に配置した処理品に、特定温度で高圧且つ等方的な圧力を作用させる技術である。
HIP処理の適用は多岐にわたるが、その用途の一例として粉末冶金における焼結プロセスへの適用がある。具体的には、軟鉄やステンレス製などの圧密用の焼結容器に粉末を充填した後、容器内を脱気、封止して、これをHIP装置内の加圧空間で加圧焼結するものである。この方法によれば、均一微細な組織を得ることができるとともに、溶製法では製造の困難な高融点の金属材料を得ることも可能である。
一方、HIP処理は、高温高圧下に耐えうる加圧空間が必要であり、装置としてはきわめて大がかりで高価なものとなる。またその加圧空間サイズを簡単には変更できないものである。
そのため、HIP処理の効率を高めるためには、その加圧空間を効率よく利用しなければならない。その一つの方法として、特許文献1には、大面積の焼結材を得るために、粉末を充填した実質的に直方体形状の圧密容器の長辺を、鉛直方向に立てた状態で、HIP処理を行ない、これを切断する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−113188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示した方法は、一度に多数枚の焼結平板が得られ、生産効率の観点からも好ましいものである。
しかしながら、特許文献1に記載する方法であっても、HIP処理においてはその加圧空間サイズによる制約がある点には変わりなく、HIP処理ではその加圧空間サイズを超える焼結体を得ることはできない。現実には、焼結による収縮もあるので、加圧空間サイズよりも小さい焼結体しか得ることができない。
なお、HIP処理後に焼結体を圧延等により塑性加工する方法もあるが、この方法は塑性加工性の高い材料への適用に限られるという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、HIP処理において、その加圧空間を有効に利用した新規の焼結平板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、HIP処理においては、等方加圧であるため、ほぼ焼結容器の形状と相似形状の焼結体が得られることから、あらかじめ縮んだ状態の焼結体を得られるように調整し、これを元に戻すように変形させれば、加圧空間の制約を超えられることを見いだし、本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明は、目的の平板形状に比して投影寸法を縮める如きわん曲部あるいは屈曲部を形成した焼結容器に原料粉末を充填した後、該焼結容器にHIP処理を施して焼結体を得て、次いで該焼結体を塑性加工によって平板形状とする焼結平板の製造方法である。
【0008】
本発明においては、前記焼結容器を、HIP処理に適用される加圧空間の許容寸法とし、目的の平板形状は、前記加圧空間の許容寸法を超えた寸法とすることもできる。
また、本発明に適用する塑性加工は、形状矯正加工とすることができる。
また、本発明は、原料粉末として、鉄よりも融点の高い高融点金属を用いる場合に特に有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、HIP処理における加圧空間サイズの制約を超えた焼結平板が得ることができる。これは、HIP装置の有効利用としてきわめて重要な事項であり、特に大型平板形状が要求されるスパッタリング用ターゲットの製造に対して有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明で用いる焼結容器の一例を模式的に示す図である。
【図2】本発明で用いる焼結容器と加圧空間の一例を模式的に示す図である。
【図3】本発明における塑性加工の一例を模式的に示す図である。
【図4】本発明で用いる焼結容器の別の例を模式的に示す図である。
【図5】本発明で用いる焼結容器の別の例を模式的に示す図である。
【図6】本発明で用いる焼結容器と加圧空間の関係の別の例を模式的に示す図である。
【図7】本発明で用いる焼結容器と加圧空間の関係の別の例を模式的に示す図である。
【図8】実施例の試験1で用いる焼結容器を模式的に示す図である。
【図9】実施例の試験1で用いる焼結容器を示す上面図および平面図である。
【図10】実施例の試験2で用いる焼結容器を模式的に示す図である。
【図11】実施例の試験2で用いる焼結容器を示す上面図および平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明においては、目的の平板形状に比して投影寸法を縮める如きわん曲部あるいは屈曲部を形成した焼結容器に原料粉末を充填する。ここで、目的の平板形状に比して投影寸法を縮める如きわん曲部あるいは屈曲部を形成した形状とは、単純に言えば、例えば元々平板であるものを曲げた形状である。
これにより、焼結容器の少なくとも、いずれか1方向は縮んだことになり、HIP処理の加圧空間が持つの許容寸法に対して余裕が生まれるのである。
【0012】
HIP処理により得られた焼結体は、焼結容器が実質的に等方的に収縮した形状となる。
つまり、わん曲部あるいは屈曲部が形成された焼結体となる。これを塑性加工によって平板形状とすれば、わん曲部あるいは屈曲部の形成分だけ投影面積が広がった焼結平板を得ることができる。
ここで、重要なのは、平板形状とすることで元々のわん曲部あるいは屈曲部の形成分だけ投影面積が広がるということであり、制限されていた焼結平板のディメンジョンを少しでも広げることができることは、圧延の難しい材質や、圧延等による大きな歪みの影響を避けるべき製品に対して有用である。
【0013】
以下、さらに具体的な例をふまえて詳しく説明する。
図1に本発明に適用した焼結容器の形状の一例を示し説明する。焼結容器として、まず原料粉末を充填する空間がS字形状となるよう、側板を2枚合わせて溶接し、さらに底面に下蓋を全周溶接する。解放されている上蓋部分から所定の粉末を充填した後、脱気パイプ2を溶接設置した上蓋を配置し、気密性を保つことができるように全周溶接する。これにより、図1に示す焼結容器1となる。次いで、脱気パイプ2より、焼結容器内を脱気した後、脱気パイプ2を封止する。
なお、焼結容器の材質としては、軟鉄SPCCやステンレス等の材質が適用でき、HIP処理における圧縮変形を阻害せず、かつ圧縮変形で破壊しない厚さが選択される。通常、厚さは5mm以下である。
【0014】
図2に示すように、封止した焼結容器をHIPの加圧空間3に配置し、HIP処理を行う。
HIP処理は、焼結容器1が溶融しない温度で可能な範囲の高圧を発生させる。焼結容器として上記に示す鉄基材質を適用した場合であれば、1000℃〜1400℃程度の温度、50〜150MPaの圧力、0.5〜10hの保持時間が用いられることが多い。
この条件により、例えば鉄よりも融点の高いCr、Mo、Wなどの焼結体を得ることができる。また、複数の元素の粉末を混合して充填することで合金の焼結体とすることも可能であり、CuO等の酸化物や窒化物など、非金属の粉末を用いることも可能である。
なお、当然ながら焼結対象の粉末が低融点で容易に焼結可能である場合は、HIP条件は融点以下の温度が適用される。
【0015】
HIP処理後、収縮した焼結容器1を取り出し、そのまま上下のプレス定盤4を備えた図3に示すプレス装置により、矢印方向に加圧することで塑性加工し目的の焼結平板形状を得る。この塑性加工では、S字断面が平板化されるため、投影寸法が拡大される。
図3に示す例では、矯正加工だけの塑性加工を適用する例を示したが、本発明における塑性加工は、形状矯正だけの軽加工でも良いし、許容されるなら圧延等を施しても良い。また、熱間、冷間を問わず、目的とする平板形状への塑性変形が可能な条件を選択することができる。
この時、図3でも示すとおり、塑性加工での表面割れを防止するために焼結容器ごと、塑性変形させ、その後に焼結容器を機械加工等で除去することが好ましい。
【0016】
なお、例えば、鉄よりも高融点の材料のMo焼結体を平板形状に塑性加工する場合には、塑性加工前に1100℃以上に加熱した熱間加工とすることが好ましい。Moの場合には、1100℃未満の加熱条件では変形抵抗が大きく十分な塑性加工効果が得られない場合があり、塑性加工後にスプリングバックを起こしたり、強制的に塑性加工を行う場合には割れにいたる場合がある。更に好ましくは1200〜1400℃の範囲内である。本温度域ではこれらの問題を回避でき、スムーズな塑性加工が行える。
【0017】
上記は、S字断面の焼結容器の例で説明したが、本発明はS字形状に限られるものではない。例えば、図4に示すくの字形状、図5に示す波形形状、単純な湾曲形状等も使用できる。なお、屈曲点を持つ場合、曲率半径が小さい場合は、HIP処理後の塑性加工で、応力が集中し易いため、可能な範囲で曲率半径が大きいわん曲部あるいは屈曲部を形成することが望ましい。
また、焼結容器1を単純湾曲形状とした場合は、例えば、図6に示す通り、加圧空間3に対して1つを配置することもできるし、図7に示すように2つ配置することも可能である。
図7のように円筒状の加圧空間3の円周に沿った湾曲形状とすることで、目的の平板形状として加圧空間の許容寸法で加圧空間の直径を超えた寸法のものを得ることも可能である。
また、本発明においては、焼結容器1を放射状あるいは千鳥状に配置しても良く、配置形態は制約されないが、限られた加圧空間3を有効に活用する点から、平板の厚みを形成する一面(側面)を底面として、加圧空間に自立するように配置することが望ましい。
【実施例】
【0018】
以下の本実施例においては、熱間静水圧プレス処理に適用される加圧空間としてΦ680mm×2000mmのHIP処理許容寸法を有する熱間静水圧プレス装置でHIP処理を実施した。
試験1として、まず、原料粉末として純度99.9%のMo粉末を準備し、図8に示す目的の平板形状に比して投影寸法を縮める如きわん曲部を有するS字型の焼結容器にMo粉末を充填した。次いで、焼結容器を600℃で加熱しながら脱気パイプから真空脱気をした後、脱気パイプを封止した。封止した焼結容器を上記の熱間静水圧プレス装置の炉内に戴置し、温度1250℃、圧力150MPaで2時間保持する条件でHIP処理を施して焼結体を得た。続いて、得られた焼結体を焼結容器を付けたまま、1250℃で3時間加熱した後、プレス装置を用いて圧力50MPaで加圧することで塑性加工し平板形状とした焼結平板を得た。
焼結容器の寸法については、図9の上面図・平面図に示すa〜dの箇所について、HIP処理前・後で測定した。また、焼結体を塑性加工し平板形状とした後の寸法も同様に測定した。以上の結果を表1に示す。
【0019】
試験2として、原料粉末として純度99.9%のMo粉末を準備し、図10に示すわん曲部や屈曲部を形成しない形状の焼結容器にMo粉末を充填した。次いで、試験1と同様に真空脱気をした後、脱気パイプを封止し、同様の条件でHIP処理を施して焼結体を得た。
試験2においても、焼結容器の寸法については、図11の上面図・平面図に示すb〜dの箇所について、HIP処理前・後で測定し、結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
また、試験1で得られた本発明例の焼結体について、水浸超音波探傷によって焼結体の内質を確認したところ内部欠陥の発生は確認されなかった。
【0022】
以上から、HIP処理に適用される加圧空間の許容寸法内の焼結容器で、HIP処理を行なった場合、本発明例の試験1では、HIP後に収縮した寸法を、塑性加工によって投影寸法に拡大することが可能であることが分かる。さらに、試験2のわん曲部を形成しない焼結容器を使用してHIP処理した場合に比べて、同一の加圧空間を有するHIP装置を使用した場合により大型の焼結平板を製造することが可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0023】
1.焼結容器、2.脱気パイプ、3.加圧空間、4.定盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的の平板形状に比して投影寸法を縮める如きわん曲部あるいは屈曲部を形成した焼結容器に原料粉末を充填した後、該焼結容器に熱間静水圧プレス処理を施して焼結体を得て、次いで該焼結体を塑性加工によって平板形状とすることを特徴とする焼結平板の製造方法。
【請求項2】
塑性加工は、形状矯正加工であることを特徴とする請求項1に記載の焼結平板の製造方法。
【請求項3】
原料粉末として、鉄よりも融点の高い高融点金属を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の焼結平板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−100935(P2010−100935A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218545(P2009−218545)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】