説明

焼結用セッター材

【課題】焼結時における炭素系母材による被焼結体への浸炭現象や、被焼結体の炭素系母材との溶着などを抑制し得る焼結用セッター材を提供する。
【解決手段】炭素系母材表面に、ガラス状カーボン40質量%以上を含む炭素質材料を用いて形成された厚さ10〜1000μmの被覆層を形成し、かつ当該被覆層がその表面に露出したセラミックス粒子を保持する焼結用セッター材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結用セッター材に関する。さらに詳しくは、本発明は、炭素系母材表面に、ガラス状カーボンを主体とする炭素系被覆層を形成し、その被覆層表面に露出したセラミックス粒子を保持する焼結用セッター材であって、焼結時における炭素系母材による被焼結体への浸炭現象や、被焼結体の炭素系母材との溶着などを抑制し得る上、繰り返し使用において耐久性に優れた焼結用セッター材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、焼結金属製品やセラミックス製品などを焼結する際には、被焼結体と受台との間に焼付きなどを防止するために、通常板状の敷板や棚板など、いわゆる焼結用セッター材が使用されている。
この焼結用セッター材に対しては、耐熱性、熱伝導性に優れていること、軽量でかつ強度が高いこと、被焼結体に不純物が混入しないこと、作業性や取扱い性に優れ、被焼結体の焼結工程における生産性が高いことなどの特性が要求される。
このような特性が要求される焼結用セッター材としては、これまで、セラミックス系、金属系、炭素系のものなどが用いられてきた。
セラミックス系セッター材としては、シリカ(以下SiO2)やアルミナ(以下Al23)などを焼結したものが知られており、また、セラミックス基板の表面を、微粒子状のAl23やジルコニア(以下ZrO2)で被覆したものも提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このようなセラミックス系セッター材は、一般に熱伝導性が悪く、また、セラミックス基板に微粒子状の金属酸化物を被覆したものは密着性が不十分であって、剥離しやすく、繰り返し使用性に劣るなどの問題がある。
一方、金属系セッター材は、熱伝導性は良好であるものの、重量が比較的大きく、取扱い性に劣るという欠点を有している。
【0003】
これらに対し、炭素系セッター材は、耐熱性や熱伝導性が良好で、比較的軽量であるなどの特徴を有することから、焼結用セッター材として多用されている。
この炭素系セッター材としては、例えばコークスなどの粉粒体を、ピッチを用いて成形、焼成、黒鉛化したもの、あるいはAl23などの粉体と炭素粉末又は炭素繊維をメチルセルロース及び熱硬化性樹脂をバインダーにして混練し、シート化して焼成してなるものなどが知られている。
このような炭素系セッター材は、焼結用セッター材として優れているものの、被焼結体が金属製品の場合、焼結中に金属製品に炭素が混入、いわゆる浸炭の問題が生じることがある。したがって、この浸炭の問題を解決するため、従来表面にカーボンブラック、Al23、酸化マグネシウム(以下MgO)、窒化アルミニウム(以下AlN)、窒化ジルコニウム(以下ZrN)などの粉末を塗布することが行われていた。
しかしながら、被焼結体が炭化タングステン(以下WC)などの超硬合金である場合、以下に示す問題が生じやすい。超硬合金は、各種鋼や鋳鉄などの切削用工具等として用いられ、例えばWC粉末を、コバルトを結合剤として加圧、成形して1300〜1700℃程度の温度で焼結することにより作製される。このような超硬合金の焼結時においては、炭素系セッター材との間で反応や溶着が起こりやすく、前記のようにセッター材表面に各種粉末を塗布する方法では、被焼結体の溶着、浸炭不良、変形などが生じやすい。また、粉末塗布では、使用するごとに、清掃除去と再塗布を行う必要があり、作業性が低下するのを免れないという問題もあった。
【0004】
そこで、炭素系セッター材表面に、超硬合金と反応や溶着を起こしにくい物質の被覆膜を形成することが試みられている。例えば硝酸アルミニウムの水溶液を含浸させた高純度炭素基板を高温焼結することによって、基板の細孔にAl23が充填された超硬合金チップ焼結用トレーが開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この焼結用トレーにおいては、基板細孔中のAl23は脱落しにくく、粉末を再塗布する必要はないものの、焼結時にAl23と超硬合金とが比較的反応しやすいため、寿命が短く、還元生成したAlが超硬合金中に拡散して品質を低下させるという問題がある。
また、20重量%以上のZrO2を有する平均厚さ10μm以上のY23膜を被覆したグラファイトトレーを使用する超硬合金又はサーメットの焼結方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。このグラファイトトレーは、被覆層がAl23のものよりも安定なために、寿命はかなり改善されているものの、高価であって、経済性に問題がある。
一方、品質的に安定した製品の焼結を可能にした硬質焼結合金の焼結用セッターとして、例えば炭素質材の表面に、ランタン系希土類金属酸化物を主成分とする被覆膜を形成してなる硬質焼結合金の焼結用セッターが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
しかしながら、この焼結用セッターにおいては、被覆膜として、高価なランタン系希土類金属酸化物を用いている上、被覆膜の形成にプラズマ溶射法などが採用されており、コスト高になるのを免れない。また、炭素質材と、その上に設けられる被覆膜との熱膨張係数が異なることから、被焼結体の焼結中における熱膨張差によって、繰り返し使用することで、被覆膜が炭素質材から剥離しやすくなり、寿命が短いなどの欠点がある。
ところで、近年自動車業界等で金属粉末成形体を焼結してなる各種焼結金属部品の性能向上が図られており、前記浸炭の問題は重要になってきている。さらにその生産量も大量になっており、それに必要とする焼結用セッターも多量となる。このため焼結用セッターも生産性が高く、安価であることが求められている。
【0005】
【特許文献1】特開平3−69565号公報
【特許文献2】特開平7−89769号公報
【特許文献3】特表2000−509102号公報
【特許文献4】特開2003−82402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況下で、本発明の目的は、焼結時における炭素系母材による被焼結体への浸炭現象や、被焼結体の炭素系母材との溶着などを抑制し得る上、繰り返し使用において耐久性に優れ、かつコストの低い焼結用セッター材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、本発明の目的を達成するために鋭意研究を重ね、まずガラス状カーボンに着目した。
ガラス状カーボンは、フェノール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂やセルロースなどを熱処理することによって得られるアモルファス組織を有する炭素であって、高い硬度と低ガス透過性(気孔率が小さく、閉気孔である。)とが特徴であり、反応性が低いことが知られている。
本発明者らは、このようなガラス状カーボンの利用について、さらに検討を進めた結果、炭素系母材表面に、前記ガラス状カーボンをある割合以上で含む炭素質材料からなる炭素系被覆層を形成すると、炭素系母材と該被覆層との熱膨張係数の差が小さいことから、熱処理を繰り返しても被覆層が剥離しにくく、耐久性に優れていることを見出した。
また、炭素系母材表面に、前記ガラス状カーボンをある割合以上で含む炭素質材料からなる炭素系被覆層を形成し、その被覆層表面に露出したセラミックス粒子、好ましくはその表面占有率が15%以上であるセラミックス粒子を保持させた焼結用セッター材は、焼結時における炭素系母材による被焼結体への浸炭現象や、被焼結体の炭素系母材との溶着などを抑制し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1) 炭素系母材表面に、ガラス状カーボンを主成分とする厚さ10〜1000μmの炭素系被覆層を有し、かつ当該被覆層はその表面に露出した20〜600μmのセラミックス粒子を保持していることを特徴とする焼結用セッター材。
(2) セラミックス粒子が、Mo2C、ZrC、TiC、SiC、B4C、AlN、Al23、SiO2、TiO2、ZrO2、MgO及びBNの中から選ばれる少なくとも一種の粒子である上記(1)の焼結用セッター材。
(3) 被覆層表面に露出したセラミックス粒子の表面占有率が15%以上である上記(1)の焼結用セッター材。
(4) 炭素系母材が、黒鉛又はC/Cコンポジットを含むものである上記(1)の焼結用セッター材。
(5) 炭素質粒子を混合した熱硬化性樹脂を炭素系母材の表面に被覆し、これを不活性雰囲気下で焼成することにより形成される炭素系被覆層を有する上記(1)の焼結用セッター材。
(6) 熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、ポリカルボジイミド樹脂及びフラン樹脂の中から選ばれる少なくとも一種である上記(5)の焼結用セッター材。
(7) 炭素質粒子が、黒鉛、コークス、ピッチ及びカーボンブラックの中から選ばれる少なくとも一種の粒子である上記(5)の焼結用セッター材。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、焼結時における炭素系母材による被焼結体への浸炭現象や被焼結体の炭素系母材との溶着などを抑制し得る上、繰り返し使用において耐久性に優れ、かつコストの低い炭素系の焼結用セッター材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の焼結用セッター材(以下、単にセッター材と称することがある。)は、炭素系母材表面に、ガラス状カーボンを主成分とする炭素系被覆層を有し、かつ当該被覆層はその表面に露出したセラミックス粒子を保持していることを特徴とする。
本発明で使用される炭素系母材については特に制限はないが、黒鉛又はC/Cコンポジットを含むものが好ましく用いられる。
黒鉛を含む炭素系母材は、従来公知の方法により作製することができる、例えばコークス粉末などの主原料(骨材)を、それ自体が加熱処理により炭化、黒鉛化するコールタールピッチなどの結合剤を用いて成形したのち、これを700〜1200℃程度の温度で焼成炭化し、さらに2000〜3000℃程度の温度で黒鉛化することにより、黒鉛質炭素材料からなる炭素系母材が得られる。
このようにして得られた黒鉛質炭素系母材においては、炭化工程での結合剤中の揮発分の脱ガスによる気孔が生じるのを避けられず、本発明においては、気孔率は20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。この気孔率が20%以下であれば、その表面に被覆層を形成する際に施される被覆用材料の塗布、乾燥工程において、該材料が気孔内に入り込む量を抑制することができる。
【0011】
一方、C/Cコンポジットを含む炭素系母材は、従来公知の方法により作製することができる。
C/Cコンポジットは、炭素繊維によって強化された黒鉛基複合材料を指し、例えば炭素繊維の短繊維と、コールタールピッチやフェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂などの樹脂類とを混合したのち、インジェクションモールドなどによって成形し、これを700〜1200℃程度の温度で炭素化、次いで2000〜3000℃程度の温度で黒鉛化することにより、C/Cコンポジットからなる炭素系母材が得られる。
あるいは炭素繊維からなる二次元織物の積層物や三次元の成形物を骨材とし、その繊維の間隙にコールタールピッチや前記樹脂類を含浸させ、前記と同様に炭素化、次いで黒鉛化することにより、C/Cコンポジットからなる炭素系母材が得られる。
このようにして得られた炭素系母材の算術平均表面粗さRaは、その表面に設けられる被覆層との密着性などの面から、0.5μm以上が好ましく、0.5〜2μmの範囲がより好ましい。このように粗面化された表面を形成するには、必要に応じ、酸化処理、薬品処理(アルカリ、酸、水蒸気などによる処理)、ヤスリやサンドブラストによる処理などの表面改質処理を施すことができる。
この炭素系母材の厚さは、通常0.5〜10mm程度、好ましくは1〜6mmである。該炭素系母材の厚さが0.5〜10mmの範囲にあれば、セッター材の母材としての機能を充分に発揮することができる。
【0012】
炭素系母材表面に形成される炭素系被覆層中のガラス状カーボンは、基本構造としては、結晶子寸法の極めて小さい乱層構造を有し、微細組織としては無配向組織をとっている。このガラス状カーボンは高い硬度を有すると共に、嵩密度は1.3〜1.5g/cm3程度と小さいが、極めて低いガス透過性(気孔率が小さく、閉気孔である。)を有しており、また反応性が低く、難黒鉛化性であって、耐酸化性も黒鉛製品に比べて高い。反応性が低く熱硬化性樹脂由来であることから、被覆層表面に露出したセラミックス粒子を保持させて、焼結用セッター材として用いた場合、被焼結体への浸炭を抑える効果を発揮する。
本発明においては、前記炭素系被覆層における炭素質材料中のガラス状カーボンの含有量は、40質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。このガラス状カーボンの含有量が40質量%以上であれば、その表面にセラミックス粒子を効果的に保持することができる。
【0013】
ガラス状カーボンは、一般にフェノール樹脂やフラン樹脂などの熱硬化性樹脂、あるいはセルロースなどを熱処理することにより得られる。
本発明においては、熱硬化性樹脂と炭素質粒子を含むもので炭素系母材表面を被覆し、不活性雰囲気下に焼成することにより、ガラス状カーボン40質量%以上の炭素質材料からなる炭素系被覆層を形成することができる。
【0014】
前記熱硬化性樹脂としては,易炭素化性であって、焼成炭化後の炭素含有量が高い樹脂、特に芳香族性の熱硬化性樹脂が好ましい。このような芳香族性の熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリイミド樹脂、フラン樹脂、アセトフェノン−ホルムアルデヒド樹脂(ケトン樹脂)などが挙げられるが、これらの中で、フェノール樹脂、ポリカルボジイミド樹脂及びフラン樹脂が好適である。これらの熱硬化性樹脂は、一種を単独で用いてもよく二種以上を組み合わせて用いてもよい。
フェノール樹脂としては、ノボラック型及びレゾール型のいずれも用いることができるが、粉末状で用いる場合はノボラック型が好ましく、液状で用いる場合はレゾール型が好ましい。
ポリカルボジイミド樹脂としては、一般式(I)
−R−N=C=N− (I)
(式中、Rは有機ジイソシアネート残基を示す。)
で表される繰り返し単位を少なくとも一種有する単独重合体又は共重合体を用いることができる。
前記一般式(I)において、Rで示される有機ジイソシアネート残基としては、芳香族ジイソシアネート残基が好適である。
ポリカルボジイミド樹脂は、従来公知の方法、例えば有機ジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素を伴う縮合反応により、容易に製造することができる。
一方、フラン樹脂は、フラン環をもつ合成樹脂の総称であり、例えばフルフリルアルコール−フルフラール共縮合樹脂、フルフリルアルコール樹脂、フルフラール−フェノール共縮合樹脂、フルフラール−ケトン共縮合樹脂、フルフリルアルコール―尿素共縮合樹脂、フルフリルアルコール−ジメチロールユリア樹脂、フルフリルアルコール−アンモニウムチオシアネート−アルデヒド樹脂などがあり、本発明においては、いずれも用いることができる。
【0015】
本発明の炭素系被覆層を形成する炭素質材料において、前記熱硬化性樹脂と共に含有する炭素質粒子としては特に制限はないが、例えば黒鉛、コークス、ピッチ及びカーボンブラックなどの粒子を挙げることができる。
黒鉛としては、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれも用いることができ、その平均粒径が1〜80μm程度、好ましくは1〜10μmの粉末が好適に用いられる。
コークスとしては、石油コークス、石炭コークスのいずれも用いることができ、その平均粒径が1〜80μm程度、好ましくは1〜10μmの粉末が好適に用いられる。
ピッチは、縮合多環芳香族を主体とする種々の分子量をもつ分子の集合体であり、石油由来のピッチ、石炭由来のピッチ、さらにはポリ塩化ビニルを熱分解し、脱塩素化することにより得られるピッチなど、いずれも用いることができ、その平均粒径が500μm以下、好ましくは250μm以下のピッチ粒子が好適に用いられる。
カーボンブラックは、ガス状又は液状の炭化水素化合物を不完全燃焼させるか、あるいは1300℃前後で熱分解することによって得られる結晶性の低い炭素であって、数十nmから数百nmの粒子径を有し、それらが集合して粒子集合体を形成している。このカーボンブラックは、製造方法により、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどに分類され、いずれも用いることができる。
本発明の炭素系被覆層においては、前記炭素質粒子は、一種のみが含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよいが、形成される被覆層の接着性、浸炭防止性及び取り扱い性などの面から、炭素質粒子としては、コークス及びピッチを、質量比で、好ましくは100:0〜60:40、より好ましくは90:10〜70:30の割合で含むものが好適である。
【0016】
本発明の炭素系被覆層を形成する炭素質材料における、熱硬化性樹脂と炭素質粒子の含有割合については特に制限はないが、形成される被覆層におけるガラス状カーボンの含有量、該被覆層の接着性や浸炭防止性及び取り扱い性などの面から、熱硬化性樹脂100質量部当たり、コークスを25〜60質量部及びピッチを0〜10質量部の割合で含有することが好ましい。
【0017】
また、本発明の被覆用材料においては、作業性などの面から、熱硬化性樹脂と炭素質粒子との混合物の室温における粘度は、200〜5000dPa・s程度が好ましく、500〜1000dPa・sがより好ましい。
本発明の被覆用材料における熱硬化性樹脂と炭素質粒子との混合物の粘度を、前記範囲に調整するためには、必要に応じ、適当な分散媒、例えばヘキサメタリン酸ナトリウム、メタノールなどを用いることができる。
本発明の被覆用材料の調製方法については特に制限はなく、例えば熱硬化性樹脂と炭素質材料、及び必要に応じて用いられるセラミックス粒子や分散媒を、それぞれ所定の割合で用い、混練機により均質に混練することにより、所望の被覆用材料を調製することができる。
本発明の被覆用材料を用い、炭素系母材表面に被覆層を形成するには、以下に示す方法を用いることができる。
【0018】
まず、炭素系母材表面に、前記のようにして調製された被覆用材料を、焼成後の厚さが所定の厚さになるように塗工、平坦化して、塗膜を形成したのち、25〜38℃/h程度の昇温速度で150〜250℃程度まで昇温し、その温度で10分〜4時間程度保持して該塗膜を乾燥、硬化させる。
次いで、乾燥、硬化塗膜を不活性雰囲気下、例えば窒素雰囲気下に、700〜2000℃程度の温度で1〜20時間程度焼成処理することにより、ガラス状カーボン40質量%以上を含む炭素質材料を含有する被覆層を形成することができる。
この被覆層の厚さは10〜1000μmである。10μm以上であれば、セッター材として実用的な寿命を有し、また1000μm以下であれば、被覆層の剥離や亀裂発生などが生じにくい。好ましい厚さは30〜700μm、より好ましい厚さは50〜500μmである。
【0019】
本発明のセッター材は、上記炭素系被覆層が、その表面に露出したセラミックス粒子を保持することを特徴とする。
セラミックス粒子としては、金属の炭化物、窒化物、酸化物、具体的にはMo2C、ZrC、TiC、SiC、AlN、Al23、SiO2、TiO2、ZrO2、MgO、BNなどの粒子を挙げることができ、これらは一種を単独で含有させてもよく、二種以上を組み合わせて含有させてもよい。これらの中でSiC及びZrCが好ましく、特にSiCが好ましい。
前記セラミックス粒子の平均粒径は20〜600μmである。これより粒径が小さいと本発明の効果を奏することができず、また粒径が大きいとセラミック粒子の保持が難しい。
【0020】
本発明のセッター材は、表面に露出したセラミックス粒子を保持することから、焼結時に被焼結体が被覆層に溶着するのを抑制することができる。この溶着抑制性の点から、当該被覆層表面に露出したセラミックス粒子の表面占有率(セッター材作製(焼成)後、セラミックス粒子の露出部が被覆層表面に占める割合)は15%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
このような表面に露出したセラミックス粒子を保持する被覆層は、例えば以下に示す2つの方法により形成することができる。
まず、第1の方法について説明する。
この方法においては、まず、被覆用材料として、熱硬化性樹脂と炭素質粒子を含み、セラミックス粒子を含まない材料を調製する。この被覆用材料を、炭素系母材に塗工し、平坦化して塗膜を形成したのち、その上に、焼成後の被覆層表面に露出したセラミックス粒子の表面占有率が15%以上の所定の値になるようにセラミックス粉末を均質に戴置する。
次に、前述した被覆用材料の説明で示したように、前記塗膜を乾燥、硬化させ、次いで焼成することにより、表面に露出したセラミックス粒子の表面占有率が所定の値である被覆層を形成する。
【0022】
次に、第2の方法について説明する。
この方法においては、まず被覆用材料として、熱硬化性樹脂と炭素質粒子を含むと共に、その合計100質量部当たり、セラミックス粒子50〜200質量部程度、好ましくは100〜150質量部を含む材料を調製する。この被覆用材料を、炭素系母材に塗工し、平坦化して塗膜を形成したのち、その上に、必要に応じ、焼成後の被覆層表面に露出したセラミックス粒子の表面占有率が15%以上の所定の値になるように、セラミックス粉末を均質に戴置する。
次に、前述した被覆用材料の説明で示したように、前記塗膜を乾燥、硬化させ、次いで焼成することにより、表面に露出したセラミックス粒子の表面占有率が所定の値である被覆層を形成する。
このようにして、本発明の焼結用セッター材を作製することができる。
本発明の焼結用セッター材は、特に超硬合金工具やサーメット工具などの焼結工具材料の作製に好適に用いられる。
【0023】
超硬合金としては、WC+Co系超硬合金や、WC+TiC+Co系超硬合金などがある。WC+Co系超硬合金は、WCの粉末に結合剤としてCo粉末を加え、混合したのち、型に入れて圧縮成形し、これを水素気流中で1300〜1700℃程度の温度で焼結することにより、作製される。
一方、WC+TiC+Co系超硬合金は、前記のWC+Co系超硬合金の改良型で、WC粉末にTiC粉末を加え、これをCo粉末を結合剤として前記と同様にして焼結することにより、作製される。さらにWC−TiC−TaC−Co系超硬合金も知られている。
これらの超硬合金からなる工具は鋼切削用、鋳鉄切削用、非鉄金属や非金属材料の切削用などとして用いられる。
一方、サーメット工具は、TiCを、Ni−Mo合金、Ni−Mo−Cr合金などのNi合金で焼結することにより、作製される超耐熱合金工具であって、超硬合金工具とセラミックス工具の中間的存在であり、各種材料の切削用工具として用いられる。
【0024】
本発明の焼結用セッター材は、以下に示す効果を奏する。
(1)本発明のセッター材は、炭素系母材表面に、ガラス状カーボンを主体とする炭素質材料を含み、かつ表面に露出したセラミックス粒子を有する被覆層が密着性よく、形成されてなるものであって、軽量で、耐熱性及び熱伝導性に優れる上、コストが低く、重量の大きい金属系セッター材や熱伝導性の悪いセラミックス系セッター材の欠点をカバーすることができる。
(2)本発明のセッター材は、被覆層が前記性状を有することから、焼結時における炭素系母材による被焼結体への浸炭現象や被焼結体の炭素系母材との溶着などを抑制することができると共に、繰り返し使用において耐久性に優れ、長寿命を有している。
(3)本発明のセッター材は、母材が炭素系材料であるので、複雑な形状でも作製でき、また、被覆層の炭化処理(ガラス状カーボンの形成)を、セラミックス焼結用の設備で行うことができる。
(4)本発明のセッター材は、被覆層を一旦炭化処理すれば、その炭化処理温度以下で、繰り返しセッター材として使用することができ、また、ある程度消耗した場合、同じ母材を再利用してその表面に被覆層を同様に形成することができる。
(5)炭素系母材上に、セラミックス被覆層をプラズマ溶射法による形成や、マイクロ波法による共晶結合させたものは、母材と被覆層との熱膨張差によって、繰り返し使用することで、被覆層が炭素系母材から剥離しやすくなり、寿命が短い上、コストも高くつく。これに対し、本発明のセッター材は、母材と被覆層が同じ炭素質材料を有することから、熱膨張差が小さく、繰り返し使用しても被覆層が母材から剥離しにくく、耐久性に優れ、寿命が長く、しかもコストが低い。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例における諸特性は、以下の方法に従って測定もしくは計算した。
(1)黒鉛系母材の気孔率
比重測定装置(島津製作所社製「SGM300P」)によって嵩密度、真密度を測定し、次式より気孔率を求めた。
気孔率=[1−(嵩密度/真密度)]×100(%)
(2)黒鉛系母材及びC/Cコンポジット系母材の算術平均表面粗さRa
表面粗さ測定器(ミツトヨ社製「SURFTEST SV 500」)にて測定した。
(3)被覆層における炭素質材料中のガラス状カーボンの含有量
次式にしたがってガラス状カーボンの含有量を求めた。
含有量=樹脂重量×炭化収率/(樹脂重量×炭化収率+炭素質粒子重量)
(4)被覆層における表面に露出したセラミックス粒子の表面占有率
セッター材作製(焼成)後の被覆層表面について、エネルギー分散型X線分析装置(堀場製作所社製「EMAX−7000」)にて測定した。
【0026】
実施例1
(1)被覆用材料の調製
液状フェノール樹脂[群栄化学社製「PL4804」]100質量部、コークス粉末[エスイーシー社製「SCL−1」、平均粒径1μm]30質量部、ピッチ粉末[新日鐵化学社製「含浸ピッチ」、粒径500μm以下に粉砕]5質量部、及び平均粒径20μmのSiC粉末200質量部又は平均粒径20μmのZrC粉末200質量部を、遊星運動式混練機[シンキー社製「あわとり練太郎」]により2分間混練して、被覆用材料を調製した。なお、セラミックス粉末(SiC粉末又はZrC粉末)を加えない場合の液状フェノール樹脂とコークス粉末と含浸ピッチとの混合液の温度℃における粘度は850dPa・s(振動式簡易粘度測定器(山一電機工業社製「ビスコメイトVM−1A−L」)で測定)であった。
(2)セッター材の作製
厚さ3mmのグラファイト製炭素系母材[東洋炭素社製「IG−11」、気孔率12%、Ra0.7μm]表面に、前記(1)で得られた被覆用材料を、0.3mmのマスキング(通常のマスキングテープにて0.3mmにする)をしてスパチュラで被覆し、塗膜を形成した。次いで、この塗膜上に、該被覆用材料中に含有している同種のセラミックス粉末(平均粒径200μm)を適量載置し、表面に300g(2.9N)の重石(全面を覆う大きさのもの)を載せたまま、乾燥機で室温から200℃まで8時間かけて昇温し、さらにその温度で1時間保持して乾燥、硬化させた。
次に、窒素雰囲気下で9時間かけて1500℃まで昇温し、その温度で1時間保持して焼成処理することにより、被覆層の厚さが120μmの焼結用セッター材を作製した。
該被覆層における炭素質材料中のガラス状カーボンの含有量は59質量%(液状フェノール樹脂の炭化収率:50%)であり、該炭素質材料の気孔率は3%であった。
また、被覆層表面に露出したセラミックス粒子の表面占有率は、SiCの場合92%であり、ZrCの場合84%であった。
(3)セッター材の評価
前記(2)で作製したセッター材上に、試験片としてWCのチップ(12×12×4mm)を載せ、真空中(40Pa)1000℃で1時間保持したのち、試験片及びセッター材の表面を目視観察し、下記の基準で評価した。
<試験片>
○:変色なし、×:変色あり
<セッター材>
○:変色なし、×:変色、劣化あり
これらの結果を第1表に示す。
【0027】
実施例2
実施例1(2)において、グラファイト製炭素系母材の代わりに、厚さ2mmのC/Cコンポジット(格子状織物使用)製炭素系母材[東洋炭素社製「CX−31」、Ra0.6μmに調整]を用いた以外は、実施例1と同様にしてセッター材を作製し、その評価を行った。結果を第1表に示す。
【0028】
実施例3
実施例1(2)において、グラファイト製炭素系母材の代わりに、厚さ1mmのC/Cコンポジット(短繊維使用)製炭素系母材[アクロス社製「エクセルシー」、Ra0.8μmに調整]を用いた以外は、実施例1と同様にしてセッター材を作製し、その評価を行った。結果を第1表に示す。
【0029】
比較例1〜3
実施例1、2及び3において、それぞれ被覆層を設けずに、炭素系母材のみについて、同様に評価を行った。その結果を第1表に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例4〜8
実施例3において、セラミックス粉末の種類をSiC、その平均粒径を20、49、101、351、570μm、試験片にWCのチップを使用して同様に評価を行った。その結果を第2表に示す。
【0032】
比較例4〜5
実施例3において、セラミックス粉末の種類をSiC、その平均粒径を0.7、1200μm、試験片にWCのチップを使用して同様に評価を行った。その結果を第2表に示す。
【0033】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の焼結用セッター材は、焼結時における炭素系母材による被焼結体への浸炭現象や被焼結体の炭素系母材との溶着などを抑制し得る上、繰り返し使用において耐久性に優れ、かつコストが低いなどの長所を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系母材表面に、ガラス状カーボンを主成分とする厚さ10〜1000μmの炭素系被覆層を有し、かつ当該被覆層はその表面に露出した20〜600μmのセラミックス粒子を保持していることを特徴とする焼結用セッター材。
【請求項2】
セラミックス粒子が、Mo2C、ZrC、TiC、SiC、B4C、AlN、Al23、SiO2、TiO2、ZrO2、MgO及びBNの中から選ばれる少なくとも一種の粒子である請求項1に記載の焼結用セッター材。
【請求項3】
被覆層表面に露出したセラミックス粒子の表面占有率が15%以上である請求項1に記載の焼結用セッター材。
【請求項4】
炭素系母材が、黒鉛又はC/Cコンポジットを含むものである請求項1に記載の焼結用セッター材。
【請求項5】
炭素質粒子を混合した熱硬化性樹脂を炭素系母材の表面に被覆し、これを不活性雰囲気下で焼成することにより形成される炭素系被覆層を有する請求項1に記載の焼結用セッター材。
【請求項6】
熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、ポリカルボジイミド樹脂及びフラン樹脂の中から選ばれる少なくとも一種である請求項6に記載の焼結用セッター材。
【請求項7】
炭素質粒子が、黒鉛、コークス、ピッチ及びカーボンブラックの中から選ばれる少なくとも一種の粒子である請求項6に記載の焼結用セッター材。


【公開番号】特開2007−84395(P2007−84395A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277192(P2005−277192)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】