説明

焼結用治具およびこれを用いた焼結対象物の焼結方法

【課題】焼結時の焼結対象物の変形防止の精度を高めることができるようにする。
【解決手段】網状構造により断面凹凸形状に形成された載置面21aを有するベース板21と、載置面21aの上方に配設され、焼結対象物である成形体100を載置面21a上に縦置きした状態で支持する複数の開口22aを有するガイド板22とからなる焼結用治具20を用いて焼結を行うことで、成形体100と焼結用治具20との間の接触部分が極めて少なくなるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結用治具およびこれを用いた焼結対象物の焼結方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属又は合金粉末を高温に加熱して焼結することで、一定の形状の焼結体を製造するのが粉末冶金法である。このような粉末冶金法は、例えば、Tb−Dy−Fe系金属間化合物等からなり、リニアアクチュエータ、振動子、圧力トルクセンサ、振動センサ等の各種用途に利用される磁歪素子の製造に用いられている。すなわち、所定の組成の合金粉を所定形状に加圧成形し、得られた成形体を焼結することで磁歪素子を製造するようにしている。このような成形体の焼結を行う際には、一般に、セッターと称される焼結用治具が使用され、この焼結用治具上に成形体を載置した状態で、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気或いは還元性ガス雰囲気等の環境下で焼結(熱処理)を行うようにしている。
【0003】
ここで、焼結用治具は、焼結に際して成形体と直接接触するため、焼結用治具の構成材料には、耐熱性を有すること、焼結時に成形体と反応しないこと、成形体に変形を起こさせないこと、高い機械強度を有すること等の特性が要求される。
【0004】
このような焼結用治具の一例として、一部に開口した容器本体内に設けられ、焼結対象物(成形体)が焼結により磁歪素子になったときの当該磁歪素子の駆動方向に沿って当該焼結対象物を挿入できる凹部を有するセッターがある(例えば、特許文献1参照)。このようなセッターを用いることで、成形体を、容器内に立てた状態で焼結するようにしている。また、セッターは、磁歪素子の材料と同じ成分であるDyの酸化物、具体的には、Dyを含む材料で形成されている。これにより、セッターと焼結対象物との反応温度に至ったときに、焼結対象物とセッターの凹部の表面とが非接触となるようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−129704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、焼結時の焼結対象物(成形体)の変形防止に関して、一層の精度向上が要望されている。特に、焼結対象物の一例である磁歪素子は、細長い棒状の成形体として成形した後、焼結処理を施し、焼結後に、表面を加工処理することで仕上げられる。よって、焼結時に焼結対象物に変形が生じると、表面を加工する際に割れや欠けを生じてしまい製品歩留まりが低下するとか、表面を加工する際に加工代を多くとる必要があり、材料費が嵩み、コスト高となってしまう等の不具合が生ずるため、焼結時の変形を極力抑えることが要望される。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、焼結時の焼結対象物の変形防止の精度を高めることができる焼結用治具およびこれを用いた焼結対象物の焼結方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるは、縦置きされる焼結対象物の底面が部分的に接触するように断面凹凸形状に形成された載置面を有するベース板と、前記載置面の上方に配設され、前記焼結対象物を前記載置面上に縦置きした状態で支持する複数の開口を有するガイド板と、からなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる焼結用治具は、上記発明において、前記載置面は、網状構造により断面凹凸形状に形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる焼結用治具は、上記発明において、前記ベース板および前記ガイド板は、前記焼結対象物の主成分を主成分とする材質からなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる焼結用治具は、上記発明において、前記ベース板および前記ガイド板は、Mo、W、Hf、Ir、Nb、Ta、Ti、Zrのうちの少なくとも一種を主成分とする金属または合金からなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる焼結用治具は、上記発明において、網状の前記載置面は、前記焼結対象物の載置面積に対して30〜50%の開口率で形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる焼結用治具は、上記発明において、前記開口は、前記ガイド板の断面において5〜30%の開口率で形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる焼結用治具は、上記発明において、前記開口は、縦置きされる前記焼結対象物の水平断面の最大寸法より0.1〜0.5mm大きく形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる焼結用治具は、上記発明において、前記ガイド板は、前記載置面上に縦置きされる前記焼結対象物の中心より上部側位置に配設されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる焼結対象物の焼結方法は、網状に形成された載置面を有するベース板と、前記載置面の上方に配設され、焼結対象物を前記載置面上に縦置きした状態で支持する複数の開口を有するガイド板とからなる焼結用治具を容器内に配置し、焼結体となる複数の前記焼結対象物を前記焼結用治具によって縦置き状態でセットする工程と、前記焼結用治具によって前記容器内に縦置き状態でセットされた複数の前記焼結対象物を焼結する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる焼結用治具およびこれを用いた焼結対象物の焼結方法によれば、焼結対象物は焼結用治具において断面凹凸形状に形成された載置面上に縦置きされて底面が部分的に接触する状態で支持されて焼結されるため、焼結対象物と焼結用治具との間の接触部分を極めて少なくすることができ、焼結時に焼結対象物において収縮率の異なる部位が生じにくくなり、よって、焼結時の焼結対象物の変形防止の精度を高めることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明にかかる焼結用治具およびこれを用いた焼結対象物の焼結方法を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。なお、本実施の形態では、磁歪材料の焼結に使用する焼結用治具および粉末冶金法を用いた磁歪材料の製造方法中の焼結工程に適用される焼結方法の例について説明するが、本発明がこれに限られるものでないことはいうまでもない。
【0019】
まず、本発明の焼結用治具を含む焼結用容器を用いて粉末冶金法により製造される磁歪材料について説明する。粉末冶金法により製造される磁歪材料は、例えばRT(ここで、Rは1種類以上の希土類金属、Tは1種類以上の遷移金属であり、yは1<y<4を表す。)で示される組成の合金粉を焼結することによって得られる。このような磁歪材料からなる磁歪素子は、例えばリニアアクチュエータ、振動子、圧力トルクセンサ、振動センサ、ジャイロセンサ等に用いられる。
【0020】
ここで、Rは、Yを含むランタノイド系列、アクチノイド系列の希土類金属から選択される1種以上を表している。これらの中で、Rとしては、特に、Nd、Pr、Sm、Tb、Dy、Hoの希土類金属が好ましく、Tb、Dyがより一層好ましく、これらを混合して用いることができる。Tは、1種以上の遷移金属を表している。これらの中で、Tとしては、特に、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、Mo等の遷移金属が好ましく、Fe、Co、Niが一層好ましく、これらを混合して用いることができる。
【0021】
RTで表す合金で、yは、1<y<4を表す。RTは、y=2で、RとTとが形成するRTラーベス型金属間化合物は、キュリー温度が高く、磁歪値が大きいため、磁歪素子に適する。ここで、yが小さくなると、主相にあたるRT2相が少なくなり、磁歪値が低下する。また、yが4以上では、RT相が多くなり、磁歪値が低下する。このため、RTがリッチな相を多くするために、yは、1<y<4の範囲が好ましい。
【0022】
Rは、2種以上の希土類金属を用いてもよく、特に、TbとDyを用い、TbDy(1−a)で表される組成とするのが好ましい。ここで、aが0.27以下では室温以下では十分な磁歪値を示さず、0.50を超えると室温付近では十分な磁歪値を示さない。このため、磁歪素子を、室温付近で用いるのであれば、aは、0.27<a≦0.50とするのが好ましい。
【0023】
また、aが0.50以下では、この磁歪素子を用いてトルクセンサ等のセンサを構成した場合、雰囲気温度に応じてインダクタンスが変化し、特に低温領域においてインダクタンスが低下する。そこで、aを0.50<a≦1.00の範囲とすると、温度変化に伴うインダクタンスの変化が少ない、安定した温度特性が得られる。ここで、aは、a=1.00、つまりDyを含有しない場合を含むものとする。すなわち、aは、磁歪素子が使用されると想定できる環境に応じて適宜選択すれば良い。
【0024】
Tは、特に、Feが好ましく、FeはTb、Dyと(Tb、Dy)Fe金属間化合物を形成して、大きな磁歪値を有し磁歪特性の高い焼結体が得られる。このときに、Feの一部をCo、Niで置換するものであってもよいが、Coは磁気異方性を大きくするが透磁率を低くし、また、Niはキュリー温度を下げ、結果として常温・高磁場での磁歪値を低下させるために、Feは70wt%以上、一層好ましくは80wt%以上が良い。
【0025】
上記のような磁歪素子の製造工程の流れの詳細は、以下の通りである。本実施の形態において、磁歪素子は、例えば特開2002−129274号公報に示すような、3種類の異なる組成の原料粉末を混合して作製する。すなわち、(Tb(x)Dy(1−x))T(y)(ここで、Tは、Fe、Ni、Coの群から選択される少なくとも1種類の金属をいう、以下同じ。x、yは、0.35<x≦0.50、1.70≦y≦2.00の範囲にある。)で表される原料と、Dy(t)T(1−t)(ここで、Dyは、TbとHoの双方又はいずれか一方を含むことがある。tは、0.37≦t≦1.00の範囲にある。)で表され、7000ppm≦水素量≦22000ppmの範囲にある水素を含む原料と、Tを含有する原料との3種類の原料粉末を混合して作製する。また、原料粉末となる合金粉の一部に、水素吸蔵処理される原料を含んでいることが好ましい。合金粉に水素を吸蔵させることにより、歪みが生じ、その内部応力によって割れが生ずる。このために、混合される合金粉は、成形体を形成する時に圧力を受け、混合した状態の内部で粉砕されて細かくなり、焼結したときに緻密な高密度焼結体を得ることができる。さらに、Tb、Dyの希土類は酸化されやすいために、わずかな酸素があっても表面に融点の高い酸化膜を形成し、焼結の進行を抑制するが、水素が存在することによって酸化されにくくなる。したがって、合金粉の一部に水素吸蔵処理を施して高密度焼結体を製造することができる。
【0026】
ここで、水素を吸蔵する原料は、Dy(1−b)で、bが0.37≦b≦1.00で表される組成であることが好ましい。TはFe単独でも、Feの一部をCo、Niで置換されたものでもよい。これにより、原料の合金粉の焼結体密度を高くすることができる。
【0027】
まず、原料の一つとして、Tb、Dy、Feを秤量して、Arガスの不活性雰囲気中で溶融して、合金を製造する(以下、これを「原料A」と記す。)。ここでは、原料Aとして、例えばTb0.4Dy0.6Fe1.95の組成にする。この原料Aを、1170℃で20時間安定させてアニールする熱処理を行い、合金製造時の各金属元素の濃度分布を一様にし、また、析出した異相を消滅させてから、例えばブラウンミルで粉砕し、粗粉を得る。そしてこの粗粉をメッシュにて2mm以上のものを除去する。また、原料の一つとして、Dy、Feを秤量して、Arガスの不活性雰囲気中で溶融して、合金を製造する(以下、これを「原料B」と記す。)。ここでは、原料Bとして、例えばDy2.0Feの組成にする。この原料Bを、水素雰囲気(水素濃度80%)中にて、150℃で1時間安定させる熱処理を行い、水素を例えば約18000ppm吸蔵させて粉砕し、粉砕粉を得る。そして得られた粉砕粉から、メッシュにて2mm以上のものを除去する。さらに、原料の一つとして、鉄粉を用いる(以下、これを「原料C」と記す。)。
【0028】
次いで、得られた原料A、B、Cを秤量した後、これをアトマイザーにより、Arガスの不活性雰囲気中で粉砕・混合処理して、組成を例えばTb0.34Dy0.66Fe1.87にした合金粉(原料粉末)を得る。この後、得られた合金粉を型に入れ、所定強度、例えば12kOeの横磁場中で、8ton/cm2の圧力で成形し、成形体を得る。このとき、合金粉は、酸化防止のため、配管内に窒素ガスを充填した中を移動させる。また、合金粉の流動性向上のために、パーフルオロポリエーテルの蒸気等を供給することも有効である。
【0029】
そして、得られた成形体を、炉中で所定の温度プロファイルで昇温し、焼結体を得る。焼結は、成形した原料粉を炉中で昇温し、温度をほぼ一定に保持する安定温度にして行うのが好ましい。この安定温度は、1150〜1300℃の範囲が好ましい。安定温度が1150℃未満では、焼結が促進されないため主相の粒径が小さくなり磁歪値が低下し、安定温度が1300℃を超えると、RTyで表される合金の融点に近くなるために焼結体が溶融することがあるからである。また、昇温速度は、3〜20℃/minで行う。昇温速度が、3℃/min未満では生産性が低く、昇温速度が20℃/minを超えると原子の拡散が不十分となり、偏析や異相が生ずる。
【0030】
ところで、Rは、酸素と極めて容易に反応し、安定な希土類酸化物を形成する。これらの酸化物は、低い磁性を有するが実用上の磁性材料になるような磁気特性を示さない。高温焼結ではわずかな酸素であっても、焼結体の磁気特性を大きく低下するため、焼結等の熱処理では、特に水素ガスを含む雰囲気が好ましい。また、酸化を防ぐ雰囲気としては、不活性ガスによる雰囲気があるが、不活性ガスだけでは完全に酸素を除去することが難しく、酸素と反応性の大きい希土類金属では酸化物を形成するため、この酸化を防止するために、水素ガスと不活性ガスの混合ガスの雰囲気が好ましい。
【0031】
Arガスは不活性ガスでRを酸化することがないので水素ガスと混合して還元作用を有する雰囲気を得ることができる。このため、還元作用を有するために、X(vol%)は、少なくとも0<Xであることがよい。また、X(vol%)は、50≦Xでは還元作用が飽和するため、X<50であることがよい。したがって、焼結は、水素ガス雰囲気又は水素ガス:アルゴン(Ar)ガス=X:100−Xと表す式におけるXが、0<X<50である水素ガス及び不活性ガスの混合雰囲気下で行うのが好ましい。特に、当初はArガスの雰囲気で昇温を開始し、昇温の途中で水素を導入し、水素ガスとArガスの混合雰囲気で焼成を行い、その後、Arガスの雰囲気とするのが好ましい。
【0032】
このようにして得られる焼結体に対し時効処理を行った後、焼結体を所定サイズに分割することで、磁歪素子を得ることができる。
【0033】
図1〜図4は、上述したような磁歪素子の製造工程中の焼結工程で用いる焼結用治具を含む焼結用容器の構成を説明するための図であり、図1は、焼結用容器に成形体を納めた状態を示す縦断正面図であり、図2は、その一部を切り欠いて示す斜視図であり、図3は、成形体および焼結用治具の一部を拡大して示す斜視図であり、図4は、成形体の断面形状を示す平面図である。
【0034】
本実施の形態において、最終的に磁歪素子となる成形体(焼結対象物)100は、焼結用容器10に納められた状態で焼結される。ここで、成形体100は、例えば直径7mm程度、長さ100mm程度の円柱形状の棒状のものである。
【0035】
図1等に示すように、焼結用容器10は、上方に開口した容器本体11と、容器本体11の開口を着脱自在に塞ぐ蓋体12とを備えて構成されている。成形体100は、焼結中に酸化しやすく、また、焼結用熱源となるヒータの輻射熱の影響による変色等を生じやすいため、焼結時にこのような焼結用容器10を用いて成形体100を密封する。さらに、焼結用容器10は、容器本体11内に着脱自在に装填されて焼結時に成形体100を支持する焼結用治具20を備える。
【0036】
焼結用治具20は、ベース板21とガイド板22との組合せ構造からなる。ベース板21は、全体的に網状に形成されもので、載置面21aと支持部21bとを有する。載置面21aは、容器本体11内に収まる大きさで平坦に形成されて容器本体11の底面上に直接配置される。なお、ベース板21は、載置面21aの平坦性を維持できれば、適宜スペーサ部材を介して容器本体11の底面上に配置させるようにしてもよい。支持部21bは、載置面21aから上方に直角に曲げられてガイド板22を所定高さ位置に支持するとともに、ベース板21自体の補強を兼ねている。なお、支持部21bは、ベース板21とは別体に設けるようにしてもよい。ガイド板22は、支持部21b上に載置させることにより載置面21aの上方の所定高さ位置に配設される板状のものであり、成形体100を載置面21a上に縦置きした状態(棒状の成形体100の長手方向が垂直方向となる状態)で支持する略円形形状の複数の開口22aを有する。
【0037】
ここで、焼結用容器10の構成部材、すなわち、容器本体11、蓋体12並びにベース板21とガイド板22とからなる焼結用治具20は、全て、高融点金属材料で形成することが好ましい。高融点金属材料としては、例えばMo、W、Hf、Ir、Nb、Ta、Ti、Zrのうちの少なくとも一種を主成分とする金属または合金があり、本実施の形態では、融点が2610℃のMo製とされている。
【0038】
また、網状のベース板21は、図3に拡大して示すように、複数本の針金状のMo線を用いて焼き網状に形成されて、略円柱状の成形体100の端面を支持するものである。ここで、網状に形成されたベース板21の載置面21aにおける開口率は、成形体100の載置面積Sに対して30〜50%、本実施の形態では約40%とされている。載置面21aの開口率をこのように設定するのは、成形体100の端面(底面)に対する載置面21aの接触面積を極力減らしつつ、載置面21a上のいずれの位置に載置されても成形体100が網状空間内に落ち込まないようにするためである。
【0039】
また、ガイド板22において2次元的に整然と配列された開口22aは、例えば図1に示すような開口22aが存在する位置でのガイド板22の断面において5〜30%の開口率、本実施の形態では十数%の開口率で形成されている。ガイド板22によって支持される成形体100の配列が密になりすぎず、かつ、ガイド板22の強度が低下しないようにするためである。
【0040】
さらに、ガイド板22における各開口22aは、縦置きされる成形体100の水平断面の最大寸法より0.1〜0.5mm、本実施の形態では0.3mm程度大きく形成されている。ここで、本実施の形態の成形体100は、前述したように横磁場成形で作製するため、図4に示すような、やや扁平で四隅に矩形形状部を有する形状となっており(なお、図1〜図3では、成形体100は、簡略化して円柱形状として図示している)、図4に示す対角線の長さDが水平断面の最大寸法となる。隙間が0.5mmより大きいと、成形体100の倒れ防止機能が低下し、焼結時の変形が大きくなってしまうためである。また、隙間が0.1mmより小さいと、開口22aに円柱棒状の成形体100を挿通させる際に、成形体100が開口22aの縁部に触れて不純物となる成形体粉が発生しやくなるとともに、成形体100の焼結時に成形体100から抜けるガスがガイド板22の上下間で移動しにくくなり、ガイド板22の上下で密度のばらつきを生じてしまうためである。
【0041】
また、ガイド板22の配設位置は、載置面21a上に縦置きされた成形体100の縦方向の中心より上部側となるように設定されている。本実施の形態では、ガイド板22は、例えば底面側から2/3程度の高さ位置で成形体100を支持するように配設されている。ガイド板22の配設位置が成形体100の中心より下部側では、成形体100の縦置き状態の支持が不安定になりやすいのに対して、上部側とすることで、成形体100を真っ直ぐ支持しやすくなるためである。また、ガイド板22の配設位置が成形体100の上端側すぎると、成形体100の取扱性が損なわれるため、成形体100の上端側がガイド板22上に突出する位置とすることが好ましい。
【0042】
このような焼結用治具20を含む焼結用容器10で成形体100を焼結する際には、焼結用治具20を焼結用容器10内に配置し、所定本数の成形体100をガイド板22の開口22aに挿通させて端面(底面)をベース板21の載置面21a上に載置させることで、成形体100を縦置きした状態でセットする。ここで、成形体100を縦置きした状態でセットするようにしているので、焼結用治具20(焼結用容器10)に対する成形体100の積載数量を多くすることができ、焼結作業効率を向上させることができる。
【0043】
そして、所定本数の成形体100が焼結用治具20によって縦置きした状態でセットされた焼結用容器10を炉内に入れ、所定の温度プロファイルで炉を加熱し、焼結用容器10内に納められた成形体100を焼結することで、磁歪素子となる焼結体を得る。
【0044】
このような焼結工程において、成形体の曲がり等の変形は、焼結用治具との接触部分と非接触部分とで成形体の収縮率が異なるために生ずると思われる。この点、本実施の形態においては、成形体100は、縦置きとされて底面が網状構造により断面凹凸形状に形成されたベース板21の載置面21a上に載置されて部分的に接触し、かつ、ガイド板22の開口22a部分で倒れないように支持されているだけであり、成形体100と焼結用治具20との間の接触部分は極めて少ないため、焼結時に成形体100において収縮率の異なる部位が生じにくくなる。よって、成形体100は、曲がり等の変形が極力少ない状態で焼結される。そして、焼結体は、焼結後に表面を加工処理することで仕上げられるが、本実施の形態によれば、焼結体は変形が極めて少ないため、表面加工処理に際して割れや欠けを生ずることが少なく、製品歩留まりを向上させることができる上に、表面を加工する際に加工代を多くとる必要がなく、材料を節約でき、コスト低減を図ることもできる。
【0045】
また、成形体100の焼結工程においては、緻密に焼結させるために内部からのガス抜きが必要となる。この点、本実施の形態によれば、成形体100と焼結用治具20との間の接触部分が極めて少なく、成形体100の大部分が露出した支持状態であり、成形体100と開口22aとの間にはガスがガイド板22の上下に流通し得る隙間が確保され、さらには、成形体100の底面が載置される載置面21aも網状に形成されてガスの流通性がよいため、成形体100の内部から抜けたガスは、ベース板21とガイド板22とによる空間内に滞留したりする偏りを生ずることなく、焼結用容器10内全体に万遍なく逃がすことができる。このように焼結時のガス抜けが良好なため、焼結後の巣(穴)が発生しにくく、得られる焼結体の密度や磁歪値のばらつきを抑制することができる。特に、本実施の形態では、焼結用治具20を、例えばMo製としているので、成形体100との反応がなく、不純物の混入もない上に、多孔質でないため、ガスの吸収による焼結ロット間の密度、磁歪値の変動も抑制することができる。
【0046】
本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、種々の変形が可能である。例えば、本実施の形態では、Mo等の高融点金属製の焼結用治具20としたが、焼結対象物の主成分を主成分とする材質により形成するようにしてもよい。成形体100の場合であれば、主成分であるDyを含む材質、例えばDyによって焼結用治具を形成するようにしてもよい。Dyによれば、成形体100と同じ成分であるDyの酸化物であり安定している上に、成形体100に用いられる元素以外の不純物が入らず、成形体100と反応を生じにくい材料であり、焼結を良好に行わせることができる。
【0047】
また、対象となる焼結対象物は、磁歪素子用の成形体100に限らず、焼結工程により製造されて焼結体となるものであればよく、磁石、その他(例えば、フェライト)のものであっても同様に適用可能である。例えば、R(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種類以上からなる)、TM(Feを主成分とする遷移元素)、およびB(ホウ素)を主成分として含む希土類磁石からなり粉末冶金法により製造される磁石素体をベースとする永久磁石に適用可能である。なお、希土類元素Rは、Nd、Pr、Ho、Tbのうち少なくとも1種、あるいはさらにLa、Sm、Ce、Gd、Er、Dy、Eu、Pm、Tm、Yb、Yのうち1種以上を含むものが好ましい。また、所望の組成の合金を作製し、微粉砕して得られた粉末を、好ましくは磁場中にて成形し、得られた成形体を焼結対象物として、900〜1200℃の温度で、0.5〜24時間焼結し、急冷することで磁石素体を作製する。なお、焼結雰囲気は、Arガス等の不活性ガスまたは真空中であることが好ましい。このような永久磁石は、例えばモータなどの回転機器、ハードディスクドライブ(HDD)用のボイスコイルモータ(VCM)などに使用されるものである。
【0048】
また、本実施の形態では、1枚のガイド板22を用いたが、2枚以上のガイド板を高さ方向に離間させて平行に配置させるようにしてもよい。これによれば、縦置きされる成形体100の倒れ防止効果を向上させることができる。さらには、直線性が良くなる効果もある。
【0049】
また、本実施の形態では、焼結用治具20の載置面21aを網状構造により断面凹凸形状に形成したが、縦置きされる成形体100等の焼結対象物の底面が部分的に接触するように断面凹凸形状に形成された載置面であればよく、網状構造に限られない。例えば、図5に示すように、細かな剣山構造により断面凹凸形状に形成された載置面21cを有する焼結用治具20Aを用いるようにしてもよい。この他、細かな升目状の溝構造により断面凹凸形状に形成された載置面や、有底枠構造により断面凹凸形状に形成された載置面であってもよい。
【0050】
さらに、対象となる焼結対象物の形状は、棒状のものに限らず、例えば上述の磁石用の場合の如く、やや湾曲した板状(ビスケット状)のものであってもよい。この場合、板状の焼結対象物を厚み方向が水平方向となるように縦置きした状態で支持するように焼結用治具のガイド板の開口を構成すればよい。これにより、板状の焼結対象物を焼結用治具との接触面積が極めて少ない状態で焼結することができ、その変形を極力防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態の焼結用容器に成形体を納めた状態を示す縦断正面図である。
【図2】焼結用容器の一部を切り欠いて示す斜視図である。
【図3】成形体および焼結用治具の一部を拡大して示す斜視図である。
【図4】成形体の断面形状を示す平面図である。
【図5】焼結用治具の載置面の変形例を示す縦断正面図である。
【符号の説明】
【0052】
10 焼結用容器
20,20A 焼結用治具
21 ベース板
21a,21c 載置面
22 ガイド板
22a 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦置きされる焼結対象物の底面が部分的に接触するように断面凹凸形状に形成された載置面を有するベース板と、
前記載置面の上方に配設され、前記焼結対象物を前記載置面上に縦置きした状態で支持する複数の開口を有するガイド板と、
からなることを特徴とする焼結用治具。
【請求項2】
前記載置面は、網状構造により断面凹凸形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の焼結用治具。
【請求項3】
前記ベース板および前記ガイド板は、前記焼結対象物の主成分を主成分とする材質からなることを特徴とする請求項1または2に記載の焼結用治具。
【請求項4】
前記ベース板および前記ガイド板は、Mo、W、Hf、Ir、Nb、Ta、Ti、Zrのうちの少なくとも一種を主成分とする金属または合金からなることを特徴とする請求項1または2に記載の焼結用治具。
【請求項5】
網状の前記載置面は、前記焼結対象物の載置面積に対して30〜50%の開口率で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の焼結用治具。
【請求項6】
前記開口は、前記ガイド板の断面において5〜30%の開口率で形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の焼結用治具。
【請求項7】
前記開口は、縦置きされる前記焼結対象物の水平断面の最大寸法より0.1〜0.5mm大きく形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の焼結用治具。
【請求項8】
前記ガイド板は、前記載置面上に縦置きされる前記焼結対象物の中心より上部側位置に配設されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の焼結用治具。
【請求項9】
縦置きされる焼結対象物の底面が部分的に接触するように断面凹凸形状に形成された載置面を有するベース板と、前記載置面の上方に配設され、前記焼結対象物を前記載置面上に縦置きした状態で支持する複数の開口を有するガイド板とからなる焼結用治具を容器内に配置し、焼結体となる複数の前記焼結対象物を前記焼結用治具によって縦置き状態でセットする工程と、
前記焼結用治具によって前記容器内に縦置き状態でセットされた複数の前記焼結対象物を焼結する工程と、
を含むことを特徴とする焼結対象物の焼結方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−235436(P2009−235436A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79532(P2008−79532)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】