説明

焼結部品の製造方法

【課題】焼結時に発生する板状の焼結体の反りを簡単に且つ効果的に矯正することができる焼結部品の製造方法を提供する。
【解決手段】下部耐火板の上に、金属粉末を加圧成形して得られる板状の成形体を載置した状態で焼結処理を行う焼結部品の製造方法。前記下部耐火板は、開口部又は凹所を有しており、前記成形体は、前記下部耐火板の開口部又は凹所を覆うように当該下部耐火板上に載置される。焼結処理により下部耐火板側が凸になる反りが付与された焼結体を、凸面を有する第1パンチと、前記凸面に対応する凹面を有する第2パンチとでサイジング処理する工程を含んでいる。前記反りが付与された焼結体は、当該反りの凸の指す方向が、前記第1パンチの凸面の凸の指す方向と反対になるように、前記第1パンチと第2パンチとの間に配設されてサイジング処理される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼結部品の製造方法に関する。さらに詳しくは、金属粉末を加圧成形して得られる板状の薄肉成形体を焼結処理する工程を含む焼結部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の部品などにおいて、純鉄粉又は鉄を主成分とする合金粉末の加圧成形体を焼結処理した焼結部品が用いられている。かかる焼結部品のうち、板状で薄肉の部品は、成形密度の差などに起因して、焼結処理を施すことによって部品に反りが生じることがある。
【0003】
許容値を超える反りが生じた部品は、そのままでは出荷することができないので、かかる反りの発生を抑制するために、一対の耐火板の間に複数枚の成形体を挟んだ状態で焼結処理を行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1記載の焼結体の製造方法では、重石板としての上側の耐火板の自重により成形体を押さえ付けることで焼結処理時に発生する反りを矯正するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−209400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の製造方法によっても、成形体の反りを完全に矯正することはできず、ある程度の割合で不良品(反りが、製品に規定されている許容値を超える製品)が発生する。
【0006】
かかる不良品は、例えば図7に示されるようなサイジングパンチを用いたサイジング処理を行うことで、反りの矯正を行っている。図7に示されるサイジングパンチ10は、上パンチ11と、この上パンチ11と対向して配設される下パンチ12とからなっており、上パンチ11の加圧面11a及び下パンチ12の加圧面12aは、いずれも平坦な面とされている。
【0007】
サイジング処理を施すことで一定割合の不良品の反りを許容値以下にすることができるが、その割合は低く、多くの不良品が矯正しきれずに廃棄処分となっていた。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、焼結時に発生する板状の焼結体の反りを簡単に且つ効果的に矯正することができる焼結部品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の焼結部品の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう)は、下部耐火板の上に、金属粉末を加圧成形して得られる板状の成形体を載置した状態で焼結処理を行う焼結部品の製造方法であって、
前記下部耐火板は、開口部又は凹所を有しており、
前記成形体は、前記下部耐火板の開口部又は凹所を覆うように当該下部耐火板上に載置され、
焼結処理により下部耐火板側が凸になる反りが付与された焼結体を、凸面を有する第1パンチと、前記凸面に対応する凹面を有する第2パンチとでサイジング処理する工程を含んでおり、且つ
前記反りが付与された焼結体は、当該反りの凸の指す方向が、前記第1パンチの凸面の凸の指す方向と反対になるように、前記第1パンチと第2パンチとの間に配設されてサイジング処理されることを特徴としている。
【0010】
本発明の製造方法では、下部耐火板の開口部又は凹所を覆うように成形体を当該下部耐火板の上に載置した状態で焼結処理を行うことで、成形体の自重を利用して当該成形体に対して強制的に一方向の反り(下部耐火板側が凸になる反り)を与えている。かかる反りが付与された焼結体を、この反り方向と反対形状の凹凸が付与されたサイジングパンチを用いて、サイジング処理を行ない、反り方向と反対方向に圧力を加えて塑性変形させることで、焼結体の反りを小さくすることができる。
【0011】
(2)前記(1)の製造方法において、複数枚の成形体を下部耐火板の上に載置してもよい。この場合、複数枚の成形体を同時に焼結処理することで量産性を向上させることができる。
【0012】
(3)前記(1)又は(2)の製造方法において、成形体の上に上部耐火板を載置した状態で焼結処理を行ってもよい。この場合、上部耐火板の重さによって、上側が凸になる反りが焼結体に発生するのを防止することができ、前記下部耐火板側が凸になる反りを確実に焼結体に付与することができる。
【0013】
(4)前記(1)〜(3)の製造方法において、第1パンチの凸面の頂部の突出高さが、前記焼結体の許容反り量以下であってもよい。
【0014】
(5)前記(1)〜(4)の製造方法において、成形体が、厚さ8mm以下の薄板からなっていてもよい。厚さ8mm以下の薄板の場合、焼結処理に起因する反りの発生が顕著になってくるが、本発明の製造方法によれば、かかる反りを矯正することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、焼結時に発生する板状の焼結体の反りを簡単に且つ効果的に矯正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る製造方法における焼結時の成形体の説明図である。
【図2】焼結体の反りを説明する側面説明図である。
【図3】サイジングに用いるサイジングパンチの説明図である。
【図4】実施例に係る焼結体の測定点を示す図である。
【図5】成形体の右側のA点の反り量を示す図である。
【図6】成形体の左側のB点の反り量を示す図である。
【図7】従来のサイジングパンチの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る製造方法における焼結時の成形体1の説明図である。本実施の形態では、焼成炉内に配設されたメッシュベルトコンベヤ(図示せず)の金網2の上に進行方向に沿って並んで配置された下部耐火板3の上に3枚の成形体1が積層され、その上に更に上部耐火板4が配設されている。3枚の成形体1は、下部耐火板2と上部耐火板4とで挟持された状態で焼結処理される。
【0018】
成形体1は、純鉄粉又は鉄を主成分とする合金粉末を金型を用いて加圧成形されたものであり、板形状を呈している。成形体1の表面及び裏面には、当該成形体1の用途に応じて浅い凹所が形成されることがあり、また、成形体1に孔部ないし開口部が形成されることもあるが、成形体1の表面及び裏面は全体として実質的に平坦な面となっている。
【0019】
成形体1の外形は、円形、長円形、矩形、多角形など用途に応じて適宜選定することができ、本発明において特に限定されるものではない。また、成形体1の厚さも本発明において特に限定されるものではなく、例えば2〜10mmとすることができるが、焼結処理時に反りが発生し易い、例えば8mm以下の薄肉の場合に、本発明における反り矯正効果が顕著である。
【0020】
下部耐火板3及び上部耐火板4は、いずれもセラミックなどの耐熱性材料で作製されており、その表面は研磨加工によって平坦にされている。下部耐火板3の略中央には、開口部5が形成されており、成形体1は、この開口部5を覆うように当該下部耐火板3の上に載置されている。なお、本明細書において「覆う」とは、成形体1によって下部耐火板3の開口部5が完全に覆われる場合だけでなく、開口部5が部分的に覆われる場合も含まれる。
【0021】
図1に示される状態で成形体1の焼結処理を行うと、当該成形体1の下面側に開口部5、すなわち空間が存在しているので、成形体1の自重により当該成形体1に対して強制的に一方向の反り(下部耐火板3側が凸になる反り)が付与される。その際、本実施の形態では、成形体1の上に「重し」として機能する上部耐火板4が載置されているので、上側が凸になる反りが焼結体に発生するのを防止することができ、前記下部耐火板側が凸になる反りを確実に焼結体に付与することができる。図2は、反りが付与された焼結体1´を示している。実際の反り量は、焼結体1´の最大寸法(例えば、後出する図4に示される焼結体における左右方向の寸法)に比べると非常に小さい量であり、通常、0.2〜0.7mm程度であるが、図2においては、分かり易くするために焼結体1´の反りを誇張して描いている。
【0022】
本発明では、かかる反りが付与された焼結体1´を、この反り方向と反対形状の凹凸が付与されたサイジングパンチ6を用いてサイジング処理を行っている。
【0023】
サイジングパンチ6は、図3に示されるように、第1パンチである上パンチ7と、第2パンチである下パンチ8とで構成されており、図示しない油圧機構により駆動される。上パンチ7の先端面7aは凸面とされており、一方、当該上パンチ7と対向する下パンチ8の先端面8aは凹面とされている。上パンチ7の凸面と下パンチ8の凹面は、互いに対応する形状及び寸法であり、両面を実質的に隙間なく当接させることが可能である。
【0024】
上パンチ7の凸面の頂部の突出高さhは、本発明において特に限定されるものではないが、通常、0.1〜0.6mm程度であり、焼結体1´の反り量を当該焼結体1´に対する許容値以下にする確率を高めるという点からは、前記許容値以下とすることが好ましい。
【0025】
焼結体1´の反り方向と反対形状の凹凸が付与されたサイジングパンチ6を用い、当該焼結体1´の反りの凸の指す方向が、前記上パンチ7の凸面の凸の指す方向と反対になるように(図3参照)、前記上パンチ7と下パンチ8との間に焼結体1´を配設してサイジング処理を行うことにより、当該焼結体1´に反り方向と反対方向に圧力を加えることができる。これにより、焼結体1´を塑性変形させて当該焼結体1´の反りを小さくすることができる。ただし、サイジング処理された焼結体1´が完全に塑性変形するのではなく、成形体1の材質や焼結条件などにより、弾性的に変形する場合もあるため、サイジング処理後の焼結体1´の形状が上パンチ7の凸面形状と完全に一致するものではない。
【0026】
[実施例]
次に本発明の製造方法の実施例を説明するが、本発明はもとよりかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【0027】
鉄を主成分とする合金粉末を金型を用いて加圧成形して、図4に示されるような板状の成形体を得た。成形体の厚さは5.7mmであった。ついで、この成形体をセラミック製の下部耐火板の上に3枚積み重ねた状態のものを複数用意し、それらを焼成炉にて焼結処理を行った。下部耐火板の中央には開口部が形成されており、成形体は、この開口部を覆うように当該下部耐火板の上に載置された。
【0028】
得られた複数の焼結体について、図4でa、b、cで示される点を基準点として平坦なマスターに対する右側測定点A及び左側測定点Bにおける反り量(mm)をダイアルゲージを用いて測定した。より詳細には、ベース板の縁からA点及びB点が突出するように前記焼結体の基準点a、b、cを当該ベース板に固定し、この状態においてA点及びB点の下方に配設されているダイアルゲージを用いてA点及びB点の反り量を測定した。
【0029】
反り量の許容値を0.2mmとし、右側測定点Aにおける反り量が0.2mmを超える10個のサンプル(焼結体)、及び左側測定点Bにおける反り量が0.2mmを超える10個のサンプル(焼結体)に対し、図3に示されるサイジングパンチを用いてサイジング処理を行った。上パンチの凸面の頂部の突出高さは、0.15mmであった。サイジングに際しては、焼結体の反りの指す方向が、上パンチの凸面の凸の指す方向と反対になるように、当該焼結体を上パンチと下パンチの間に配設してサイジング処理を行った。
【0030】
右側測定点Aにおけるサイジング処置前の反り量とサイジング処理後の反り量を図5に示す。また、左側測定点Bにおけるサイジング処置前の反り量とサイジング処理後の反り量を図6に示す。図5及び図6より、反り方向と反対形状の凹凸が付与されたサイジングパンチを用いてサイジング処理を施すことで、反り量が許容値を超えていた焼結体のうち70〜80%の焼結体の反り量を許容値以下に矯正できることが分かる。平坦な加圧面を有する従来のサイジングパンチを用いたサイジング処理では、不良品(反り量が許容値を超える製品)の20〜30%程度しか矯正することができなかったが、本発明によれば、矯正率を大幅に向上できることが分かる。
【0031】
〔その他の変形例〕
なお、今回開示された実施の形態はすべての点において単なる例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、前記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【0032】
例えば、前述した実施の形態では、下部耐火板の上に載置する成形体の数を3としているが、その数は1であってもよいし、3以外の複数であってもよい。
【0033】
また、前述した実施の形態では、成形体の上に上部耐火板を載せているが、成形体の自重によって下向きの反りを当該成形体に付与することができるので、上部耐火板の使用は省略することも可能である。
【0034】
また、前述した実施の形態では、焼結体の反りを許容するスペースを与えるために成形体が載置される下部耐火板に開口部を形成しているが、下部耐火板の成形体載置面に形成した凹所により前記反りを許容するスペースを与えることもできる。
【符号の説明】
【0035】
1 成形体
1´ 焼結体
3 下部耐火板
4 上部耐火板
5 開口部
6 サイジングパンチ
7 上パンチ
7a 先端面
8 下パンチ
8a 先端面
10 サイジングパンチ
11 上パンチ
11a 加圧面
12 下パンチ
12a 加圧面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部耐火板の上に、金属粉末を加圧成形して得られる板状の成形体を載置した状態で焼結処理を行う焼結部品の製造方法であって、
前記下部耐火板は、開口部又は凹所を有しており、
前記成形体は、前記下部耐火板の開口部又は凹所を覆うように当該下部耐火板上に載置され、
焼結処理により下部耐火板側が凸になる反りが付与された焼結体を、凸面を有する第1パンチと、前記凸面に対応する凹面を有する第2パンチとでサイジング処理する工程を含んでおり、且つ
前記反りが付与された焼結体は、当該反りの凸の指す方向が、前記第1パンチの凸面の凸の指す方向と反対になるように、前記第1パンチと第2パンチとの間に配設されてサイジング処理されることを特徴とする、焼結部品の製造方法。
【請求項2】
複数枚の成形体を下部耐火板の上に載置する、請求項1に記載の焼結部品の製造方法。
【請求項3】
前記成形体の上に上部耐火板を載置した状態で焼結処理を行う、請求項1又は2に記載の焼結部品の製造方法。
【請求項4】
前記第1パンチの凸面の頂部の突出高さが、前記焼結体の許容反り量以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の焼結部品の製造方法。
【請求項5】
前記成形体が、厚さ8mm以下の薄板からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の焼結部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−246508(P2012−246508A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116797(P2011−116797)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】