説明

焼結鉱の製造方法

【課題】充填層全体の通気性を低下させることなく、上層部の焼結鉱の成品歩留および強度を改善する。
【解決手段】鉄鉱石の銘柄毎に融液浸透性の評価試験を行い、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上であり、かつ、粒径1mm以上の粒子を10質量%以下に破砕した鉄鉱石と、その他の鉄鉱石、副原料、固体燃料、および、返鉱と混合、造粒した後の焼結原料を、前記焼結パレット内に形成する原料充填層上部の全層厚に対する層厚比率で5〜50%の範囲に装入することを特徴とする焼結鉱の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄原料として使用される焼結鉱の製造方法に関し、特に、焼結パレット内に形成される原料充填層上部の成品歩留および強度を改善するための焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本で使用する主要鉄鉱石である豪州産の鉄鉱石においては、良質なヘマタイト鉱石の枯渇化が進み、現状ピソライト鉱床、さらには、マラマンバ鉱床や、高燐ブロックマン鉱床の開発が進んでいる。
【0003】
これらの鉱床から産出される鉄鉱石は、良質なヘマタイト鉱石に比べて粒度が小さく、かつ、結晶水の含有量が高いことから、焼結時に、通気性の低下や、焼結反応性の悪化の原因となる。
【0004】
既存の高結晶水鉱石であるピソライト鉱石を加えると、これらの鉱床から産出される鉄鉱石のうちの9割は、結晶水含有量が4質量%以上の鉄鉱石である。
【0005】
焼結原料として、高結晶水鉱石を多量に配合した場合の焼結操業に及ぼす影響について以下に説明する。
【0006】
一般に、下方吸引型焼結機を用いた焼結鉱の製造は、次のようにして行われる。
【0007】
焼結原料は、主原料である鉄鉱石や製鉄プロセスで発生する製鉄ダストなどの鉄含有原料と、焼結反応に必要となる石灰石および蛇紋岩などの副原料と、熱源としてのコークス粉等の固体燃料とを配合して形成される。
【0008】
焼結原料は、下方吸引型焼結機に装入する前に、ドラム型ミキサーなどの混合・造粒機を用いて、水添加しながら混合、造粒し、主として、粒径1mm以上の核粒子と、その周囲に付着した粒径0.5mm以下の付着粉とからなる擬似粒子とする。
【0009】
このことにより、焼結機に装入した後、焼結パレット内に形成された焼結充填層内の通気性を維持し、焼結原料の焼結反応を促進し、高い生産性を確保することができる。
【0010】
擬似粒子化された焼結原料は、焼結機の給鉱部で、焼結パレット内に装入され、原料充填層を形成した後、点火炉で、その表面のコークス粉に点火されるとともに、焼結機下部に空気吸引することにより、コークス粉の燃焼点を下方に移動させる。
【0011】
燃焼熱により原料充填層の上層から下層にかけての焼結反応は順次進行し、焼結パレットが移動し排鉱部に到達するまでに焼結は完了する。焼結パレット内の焼結ケーキ(塊)は、排鉱部から排出された後、破砕され、所定粒度の高炉用の焼結鉱が製造される。
【0012】
焼結鉱の製造において発生した、高炉用の焼結鉱としての所定粒径より小さい焼結鉱粉は、返鉱として、焼結原料中に配合されて、再度焼結される。
【0013】
焼結原料の焼結反応は、1200℃付近で、主として、鉄含有原料中のFe23と石灰石中のCaOとの反応で、カルシウムフェライト(CaO−Fe23)の初期融液を生成し、この融液中に鉄鉱石また副原料中の成分が溶け込む同化反応により進行する。
【0014】
この焼結反応は、初期融液の生成から数分程度で終了する極めて短い反応であり、この反応により、焼結鉱の成品歩留および生産性、並びに、焼結鉱の強度などの品質が大きく影響される。
【0015】
例えば、焼結反応が過剰に進み、生成する融液量が極端に増加すると、焼結操業において、焼結層内の通気が悪化し、これによる焼けムラが発生するため、成品歩留および生産性が低下し、強度などの焼結鉱の品質も悪化することになる。
【0016】
一方、焼結反応が十分に進まない場合は、残留鉄鉱石(残留元鉱)等の未溶融部同士を結合させるための融液が減少するため、成品歩留が低下し、強度や還元粉化(RDI)などの焼結鉱の品質の悪化を引き起こすこととなる。
【0017】
この焼結反応は、配合原料中の主原料であり、全体の6割以上を占める鉄鉱石の鉱物組成や性状などに起因する焼結性(同化性)や、焼結原料充填層の通気性を左右する造粒性に大きく影響される。
【0018】
鉄鉱石として、ピソライト鉱石などの高結晶水鉄鉱石を配合する場合は、鉄鉱石中のゲーサイト組織に由来する結晶水が、300℃付近からで熱分解、脱水を開始し、この際、ゲーサイト組織に亀裂が発生する。
【0019】
このため、1200℃付近から開始する焼結反応時に生成した融液中に気孔が生成したり、残留して凝固、結合相が生成したり、亀裂を含む未溶融元鉱石が残存する結果、焼結鉱は脆弱で多孔質な組織となり、焼結鉱の成品歩留が低下し、強度などの焼結鉱の品質の悪化を引き起こすことになる。
【0020】
また、鉄鉱石として、マラマンバ鉱石や高燐鉱石などの結晶水の含有量が高く、粒度が細かい鉄鉱石を配合する場合は、上記の結晶水による問題に加えて、造粒性が悪くなるため、擬似粒子が生成し難く、搬送時や原料装入時に崩壊し易くなる。
【0021】
このため、原料をパレットに装入する際に、造粒されないか、崩壊して生成した鉄鉱石の微粉粒子が原料充填層の上層側に偏析して分布することとなり、上層部の通気性を低下させる原因となる。また、結晶水を含むゲーサイト組織は、脆いため、粒度が細かい鉄鉱石粒子に多く存在する。
【0022】
このため、原料充填層の上層側に偏析して分布する鉄鉱石の微粉粒子は、上記の結晶水に起因する問題を引き起こす原因にもなる。
【0023】
一般に、下方吸引型焼結機を用いた焼結鉱の製造においては、室温に近い空気の吸引により、着火後の原料充填層の表層部の温度が低下することに起因し、上層部における焼結鉱の成品歩留の低下および強度等の品質悪化が、従来から問題となっていた。
【0024】
この上層部における焼結鉱の成品歩留および強度等の品質の問題は、近年の鉄鉱石として焼結原料高結晶水鉄鉱石および細粒鉄鉱石を配合する焼結操業において顕著である。
【0025】
上記下方吸引型焼結機を用いた焼結鉱の製造における、焼結原料充填層の上層部における成品歩留および強度などの品質を向上するための方法は、今までに、数多く提案されている。
【0026】
例えば、原料充填層上層部へ固体燃料を増加させる方法(例えば、特許文献1、参照)が提案されている。
【0027】
また、磁気を利用した装入装置により、返鉱、ミルスケール、マグネタイトなどの高FeO強磁性原料および強磁性原料と炭材の造粒物を、原料充填層の表層部に装入する方法(例えば、特許文献2〜6、参照)も提案されている。
【0028】
また、焼結原料に配合する鉄鉱石の同化溶融性を考慮し、原料充填層の上層に易溶融性鉄鉱石を装入し、その下層部に、難溶融性鉄鉱石を装入する方法(例えば、特許文献7参照)も提案されている。
【0029】
これらの方法は、着火後の原料充填層の表層部の温度を上昇させるために、原料充填層の表層部の固体燃料を増加したり、原料充填層の表層部中に副原料中のCaOやSiO2と融液(CaO−SiO2−FeO)を生成し易いFeOを多く含有する強磁性原料や、易溶融性鉄鉱石などを装入することにより、原料充填層上層部の焼結鉱の成品歩留および強度等の品質を向上させる方法である。
【0030】
また、本願発明の発明者等は、先願において複数銘柄の鉄鉱石を含む鉄含有原料、副原料、固体燃料、および、返鉱を配合して焼結原料とし、該焼結原料を混合、造粒した後、焼結パレット内に装入し、焼成する焼結鉱の製造方法において、前記鉄鉱石の銘柄毎に融液浸透性の評価試験を行い、鉄鉱石粉中への融液浸透距離の測定値に基づいて、前記複数銘柄の鉄鉱石のうちで、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上である1種または2種以上からなる鉄鉱石を、前記焼結パレット内に形成する原料充填層上部の全層厚に対する層厚比率で5〜12%の範囲に装入し、その他の鉄鉱石を原料充填層下部に装入し、かつ、前記副原料、固体燃料、および、返鉱は、原料充填層の上部および下部で、同じ配合割合で装入することを特徴とする焼結鉱の製造方法と提案している(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開2000−144266号公報
【特許文献2】特開2000−328148号公報
【特許文献3】特開2001−234257号公報
【特許文献4】特開2001−271122号公報
【特許文献5】特開2001−335849号公報
【特許文献6】特開2002−130957号公報
【特許文献7】特公昭60−47887号公報
【特許文献8】国際公開第2010/032466号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
しかし、特許文献1乃至7に記載の発明は、原料充填層の上層の熱量や融液生成量を適度に制御することは難しく、熱量が高過ぎたり、融液が過度に増加すると、原料充填層全体の通気性が悪化して、生産性を低下させ、被還元性などの焼結鉱の品質を低下させるという問題があった。
【0033】
また、本願発明の発明者等による先願に係る発明(特許文献8)においては、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上である鉄鉱石を、焼結パレット内の原料充填層上部に装入する場合に、前記鉄鉱石の装入は、全層厚に対する層厚比率で5〜12%の範囲に制限されるという問題があった。
【0034】
上記従来技術の問題点に鑑みて、本発明は、下方吸引型焼結機を用いた焼結鉱の製造方法において、原料充填層の上層の融液が過度に増加することにより、原料充填層全体の通
気性を悪化させ、生産性を低下させ、被還元性などの焼結鉱の品質を低下させることなく
、原料充填層上部に微粉部への融液浸透性に優れ、原料充填層上部の成品歩留および強度を改善し、焼結鉱の生産性を向上することができる焼結鉱の製造方法を提供することを目的とする。
更に、本願発明の発明者等による先願に係る発明(特許文献8)を一歩進め、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上である鉄鉱石を、焼結パレット内の原料充填層上部に装入する場合に、前記鉄鉱石の装入を、全層厚に対する層厚比率で5〜50%の範囲に広げることができる焼結鉱の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明者らは、焼結鉱の製造において焼結パレットに形成される原料充填層上部の成品
歩留および強度を改善するための方法を鋭意検討した。
【0036】
その結果、焼結原料を構成する複数銘柄の鉄鉱石のうちで、鉄鉱石粉中への融液浸透性
の評価試験により測定した鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上であり、かつ、粒径1mm以上の粒子を10質量%以下に破砕した鉄鉱石を、焼結パレットを形成する原料充填層上部の所定範囲に装入することにより、原料充填層上部の成品歩留および強度を改善できることを確認した。
【0037】
この方法によれば、従来提案されている原料充填層上部の固体燃料やFeO源を増加する方法や、原料充填層の上層に易溶融性鉄鉱石を装入する方法に比べて、原料充填層上部に過度の融液を生成し、原料充填層全体の通気性を低下させることなく、上層部の焼結鉱の成品歩留および強度を改善できる。
【0038】
また、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上の鉄鉱石を粒径1mm以上の粒子を10質量%以下に破砕して、焼結パレット内の原料充填層上部に装入する場合は、全層厚に対する上層厚比率で5〜50%の範囲に広げることができる。
【0039】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その発明の要旨は、以下のとおりである。
【0040】
(1)複数銘柄の鉄鉱石を含む鉄含有原料、副原料、固体燃料、および、返鉱を配合して焼結原料とし、該焼結原料を混合、造粒した後、焼結パレット内に装入し、焼成する焼結鉱の製造方法において、
前記複数銘柄の鉄鉱石を銘柄毎に融液浸透性の評価試験を行い、鉄鉱石粉中への融液浸透距離の測定値に基づいて鉄鉱石粉中への融液浸透距離を測定する融液浸透距離測定工程と、
前記複数銘柄の鉄鉱石のうち、融液浸透距離が4.0mm以上の鉄鉱石を、粒径1mm以上の粒子が10質量%以下となるように破砕する鉱石破砕工程と、
破砕した鉄鉱石と、その他の鉄鉱石、副原料、固体燃料、および返鉱とを混合、造粒して原料を製造する混合、造粒工程と、
前記混合、造粒した原料を、焼結パレット内に形成する原料充填層の上部に全層厚に対する層厚比率で5〜50%の範囲に装入する装入工程とを実施することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【0041】
(2)前記(1)に記載の焼結鉱の製造方法において、
前記装入工程は、二段装入法により行われることを特徴とする焼結鉱の製造方法。
(3)前記(1)に記載の焼結鉱の製造方法において、
前記装入工程は、原料粒度偏析装入法により行われることを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【0042】
(4)前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の焼結鉱の製造方法において、
前記融液浸透距離が4.0mm以上の鉄鉱石が、更に、気孔率が0.05cc/g以上であることを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、下方吸引型焼結機を用いた焼結鉱の製造方法において、焼結原料に配合する各銘柄鉄鉱石の微粉部への融液浸透性を評価し、この評価結果に基づき、各銘柄鉄鉱石のうち、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上であり、かつ、粒径1mm以上の粒子を10質量%以下に破砕した鉄鉱石を原料充填層上部に装入することにより、原料充填層上部の成品歩留および強度を改善し、焼結鉱の生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】焼結機の原料充填層から採取した焼結原料の擬似粒子断面の顕微鏡組織を示す図。
【図2】焼成後のタブレットにおける融液浸透距離の測定位置を示す図。
【図3】主要銘柄の鉄鉱石の鉄鉱石粉中への融液浸透距離の比較を示す図。
【図4】焼結原料の混合、造粒で形成される擬似粒子の概念図。
【図5】焼結鍋試験におけるB(b)鉱石の破砕前と破砕後の乾式粒度を示す図。
【図6】B(b)鉱石の破砕後の乾式粒度と湿式粒度の比較を示す図。
【図7】B(b)鉱石の破砕前と破砕後の付着力を示す図。
【図8】配合原料と混合、造粒した場合のSEMによる擬似粒子の表面構造を示す図。
【図9】焼結鍋試験の充填槽への充填方法を示す図。
【図10】焼結機実機試験の概略設備を示す図。
【図11】焼結機実機試験におけるB(b)鉱石の破砕前後の粒度を示す図。
【図12】焼結機実機試験における原料の偏析装入の状態を示す図。
【図13】焼結機実機操業試験結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0045】
まず、本発明の技術思想について説明する。
【0046】
図1は、焼結機の原料充填層から採取した焼結原料の擬似粒子断面の顕微鏡組織を示す図である。
【0047】
焼結過程で初期融液は、鉄鉱石(Fe23)と石灰石(CaO)が接触した部位で生成すると考えられるが、図1に示すとおり、焼結原料の擬似粒子(粒径1mm以上の核粒子と、その周囲の粒径0.5mm以下の付着粉部で構成される)の付着粉部のミクロ観察によれば、鉄鉱石(Fe23)と石灰石(CaO)の接触部位は少なく、これらは、不規則に分布している。
【0048】
このことから、実際の焼結過程では、焼結原料の擬似粒子の付着粉部中の鉄鉱石(Fe23)と石灰石(CaO)の接触部位で、カルシウムフェライト(CaO−Fe23)の初期融液が生成した後、初期融液が原料微粉内に浸透し、その他の鉄鉱石や副原料と接触し、同化、合体を繰り返しながら融液量を増加させることで焼結反応が進行し、その結果、焼結鉱の結合相が形成されると考えられる。
【0049】
なお、本発明者らは、焼結過程で生成した初期融液が鉄鉱石充填層内に浸透する挙動、即ち、融液浸透性は鉄鉱石の鉱物特性に依存し、この融液の拡がりが焼結鉱の結合相形成に大きく影響することを明らかにしている(ISIJ−Int.43(2003),p.1384、参照)。
【0050】
本発明者らは、焼結操業中で焼結原料充填層の上層部の温度は低くなり易く、かつ、鉄鉱石(Fe2)と石灰石(CaO)との初期融液の生成から焼結反応(同化反応)が完了する時間は短いことに鑑みて、原料充填層の上層部における焼結鉱の成品歩留を向上するためには、原料充填層の上層部に、融液浸透性の高く、かつ、粒径1mm以上の粒子を10質量%以下に破砕した鉄鉱石を選択的に装入し、生成した初期融液を、速やかに原料微粉部中に浸透させ、同化反応を促進することが有効であると考えた。
【0051】
本発明は、この技術思想に基づいてなされたものであり、複数銘柄の鉄鉱石を含む鉄含有原料、副原料、および、固体燃料を配合して焼結原料とし、該焼結原料を混合、造粒した後、焼結パレット内に装入し、焼成する焼結鉱の製造方法において、前記鉄鉱石の銘柄毎に融液浸透性の評価試験を行い、鉄鉱石粉中への融液浸透距離の測定値に基づいて、前記複数銘柄の鉄鉱石のうちで、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上である鉄鉱石を、粒径1mm以上の粒子が10質量%以下となるように破砕し、前記焼結パレット内に形成する原料充填層上部の層厚5〜50%の範囲に装入することを特徴とする。
【0052】
本発明において、鉄鉱石の融液浸透性(初期融液が粒径0.5mm以下の鉄鉱石粉中へ浸透する際の拡がり易さ)、および、鉄鉱石粉中の融液浸透距離は、本発明者らが、特開2002−62290号公報などで提案した評価試験(以下、「鉄鉱石の融液浸透性評価試験」という)によって評価、測定することができる。
【0053】
つまり、本発明における鉄鉱石の融液浸透性評価試験、および、鉄鉱石粉中への融液浸透距離の測定は、以下の要領で行うことができる。
【0054】
鉄鉱石試料は、粒径:0.25〜0.5mmの割合が50質量%で、かつ、粒径:0.25mm以下の割合が50質量%となるように粒度調整し、十分に混合した後、金型成形ダイスを用いて、成形圧力:4Mpaで成形し、直径:15mm、高さ:5mmの鉄鉱石タブレット(水銀圧入法による空隙率(開気孔率):約30%)とする。
【0055】
一方、初期融液材は、CaO−Fe23の2元系状態図の共晶組成に近いCaO:26質量%、Fe2:74質量%の組成になるように、Fe2試薬とCaO試薬を配合し、自動乳鉢で20分間混合した後、鉄鉱石タブレットと同様に、金型成形ダイスを用いて成形圧力:4MPaで成形し、直径:5mm、高さ:5mmの初期融液材タブレットとする。
【0056】
鉄鉱石粉中への融液浸透距離は、前記鉄鉱石タブレット上面の中心部に、前記初期融液材タブレットを載せて、Ni製円筒型坩堝(内径20mm、高さ15mm)に装入し、電気炉内において空気気流中で加熱し、焼成した後、焼成後のタブレットの断面観察により融液浸透距離を測定する。
【0057】
なお、焼成後のタブレットにおける融液浸透距離の測定は、タブレット径方向中央部で垂直に切断し、切断面を研磨し、図2に示すように、切断面の鉱物組織を顕微鏡により観察し、撮影した断面組織において、融液が浸透した部分の幅方向(タブレット径方向)中心部(図2中(3)と、この中心部(3)と先端(1)と(5)の中間点である(2)および(4)の3箇所で浸透距離を実測し、それらの平均値から融液浸透距離を求めることが好ましい。
【0058】
上記評価試験において、タブレットの焼成条件は、実機の焼結ヒートパターンに近似させ、1100℃から1290℃(最高温度)までを1分で加熱した後、1290℃から1100℃までを3分で冷却し、直ちに、タブレットを炉外へ取り出し空冷する。
【0059】
表1に、焼結原料に配合する主要銘柄の鉄鉱石の化学成分組成と、融液浸透性評価試験で測定された鉄鉱石粉中への融液浸透距離を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1において、B(a)およびB(b)は、2種類のブラジル産鉱石、H(a)およびH(b)は、2種類の豪州産ヘマタイト鉱石、M(a)およびM(b)は、2種類の豪州産マラマンバ鉱石、HP(a)およびHP(b)は、2種類の豪州産高りん鉱石、P(a)およびP(b)は、2種類の豪州産ピソライト鉱石、HPMは、豪州産新規ブレンド鉱石、I(a)およびI(b)は、2種類のインド産鉱石を示す。また、Sは、製鉄プロセスで発生するスケールを示す。
【0062】
図3は、表1に示す主要銘柄の鉄鉱石の鉄鉱石粉中への融液浸透距離の比較を示す図である。表1および図3によれば、主要銘柄の鉄鉱石の中で、2種類のブラジル産鉱石B(a)およびB(b)は、いずれも、鉄鉱石粉中の融液浸透距離が4.0mm以上と高いことが解る。
【0063】
一方、2種類の豪州産ヘマタイト鉱石H(a)およびH(b)、2種類の豪州産高りん鉱石HP(a)およびHP(b)、および、2種類の豪州産ピソライト鉱石P(a)およびP(b)は、何れも鉄鉱石粉中の融液浸透距離は2.0mm以下と低いことが解る。
【0064】
また、豪州産新規ブレンド鉱石HPM、2種類の豪州産マラマンバ鉱石M(a)、M(b)、および、2種類のインド産鉱石I(a)およびI(b)は、融液浸透距離が2.0mm超〜4.0mm未満の範囲にあることが解る。
【0065】
なお、豪州産ピソライト鉱石P(a)およびP(b)は、結晶水含有量が高く、焼結反応において同化溶融し易い、易溶融性鉄鉱石として知られるが、鉄鉱石粉中の融液浸透距離は2.0mm以下と低く、融液浸透性は良くない鉄鉱石であることが解る。また、製鉄プロセスで発生するスケールSも、粉中の融液浸透性距離が4.0mm以上と高いことが解る。
【0066】
ここで、本願発明者等は、先願(特許文献8)において焼結鉱の製造方法を提案しているので、先願発明との対比において、本願発明を説明する。
先願(特許文献8)に係る発明は、「複数銘柄の鉄鉱石を含む鉄含有原料、副原料、固体燃料、および、返鉱を配合して焼結原料とし、該焼結原料を混合、造粒した後、焼結パレット内に装入し、焼成する焼結鉱の製造方法において、前記鉄鉱石の銘柄毎に融液浸透性の評価試験を行い、鉄鉱石粉中への融液浸透距離の測定値に基づいて、前記複数銘柄の鉄鉱石のうちで、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上である1種または2種以上からなる鉄鉱石を、前記焼結パレット内に形成する原料充填層上部の全層厚に対する層厚比率で5〜12%の範囲に装入し、その他の鉄鉱石を原料充填層下部に装入し、かつ、前記副原料、固体燃料、および、返鉱は、原料充填層の上部および下部で、同じ配合割合で装入することを特徴とする焼結鉱の製造方法」である。
【0067】
これに対し、本願発明は、「複数銘柄の鉄鉱石を含む鉄含有原料、副原料、固体燃料、および、返鉱を配合して焼結原料とし、該焼結原料を混合、造粒した後、焼結パレット内に装入し、焼成する焼結鉱の製造方法において、前記複数銘柄の鉄鉱石を銘柄毎に融液浸透性の評価試験を行い、鉄鉱石粉中への融液浸透距離の測定値に基づいて鉄鉱石粉中への融液浸透距離を測定し、前記融液浸透距離が4.0mm以上の鉄鉱石を粒径1mm以上の粒子が10質量%以下に破砕した鉄鉱石を製造し、前記鉄鉱石と、その他の鉄鉱石、副原料、固体燃料、および、返鉱と混合、造粒した原料を製造し、前記混合、造粒した原料を、焼結パレット内に形成する原料充填層の上部に全層厚に対する層厚比率で5〜50%の範囲に装入することを特徴とする焼結鉱の製造方法」である。
【0068】
先願発明が、「鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上である1種または2種以上からなる鉄鉱石を、前記焼結パレット内に形成する原料充填層上部の全層厚に対する層厚比率で5〜12%の範囲に装入する」のに対し、本願発明は、「鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上である鉄鉱石を粒径1mm以上の粒子が10質量%以下に破砕し、原料充填層上部の全層厚に対する層厚比率で5〜50%の範囲に装入する」点で相違する。
【0069】
本願発明は、融液浸透性が優れた鉄鉱石を、粒径1mm以上の粒子を10質量%以下に破砕することに技術的特徴を有しているので、その意義を説明する。
【0070】
鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上の融液浸透性を有する鉄鉱石は、前記表1に示すB(a)又はB(b)であり、ブラジル産鉱石である。近年、日本で使用する主要鉄鉱石である豪州産鉱石は、微粉が多く、かつ、結晶水含有率が高い劣質鉱石であるのに対し、前記ブラジル産鉱石は、鉄分は高く、結晶水や微粉の少ない高品位鉱石である。当該高品位鉱石は、破砕することなく擬似粒子の核粒子として使用されているのが、当業者の周知な技術である。
【0071】
本願発明は、従来の当業者の常識に反し、当該高品位鉄鉱石をあえて破砕して使用することに特徴がある。即ち、本願発明は、前記ブラジル産鉱石が、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上の融液浸透性を有するという特性を活用し、当該鉄鉱石を擬似粒子の核粒子としてではなく、擬似粒子への付着粉として使用することに特徴がある。
【0072】
焼結原料の混合・造粒で形成される擬似粒子の概念図を図4に示す。通常の焼結鉱原料を混合、造粒した場合を図4(A)に示す。鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上であり、かつ、粒径1mm以上の粒子を10質量%以下に破砕した鉄鉱石をその他の原料と混合・造粒した場合を図4(B)に示す。
【0073】
焼結機における原料充填層への原料装入は、装入時の粗粒の転がりにより、通常、粗粒が下層に充填され、細粒が上層に充填される。通常の焼結鉱原料を混合、造粒した場合の図4(A)では、それぞれの粒子は、粒径1mm以上の粒子を核として、その表面に1mm以下の微粒子が付着する。しかし、水分の管理が不十分な場合や、微粒子の量が不十分の場合、または、微粒子の付着力が弱く擬似粒子の強度が弱いことが原因で崩壊する場合等は、核粒子の表面に微粒子が付着されず、擬似粒子の造粒が不十分となって、微粒の鉄鉱石が焼結充填層に存在することになる。したがって、充填層上部は、細粒が装入され、擬似粒子が崩壊すると微粉が増え、通気性が阻害される。
【0074】
一方、下方吸引型焼結機を用いた焼結鉱の製造においては、焼結パレット内の充填層下層の焼結原料は、下方に吸引される上層コークスの燃焼排ガスにより余熱され、熱が十分伝えられる。これに対し、充填層上層の鉱石は、排ガスにより余熱されないため熱が不足し、また、焼成後の焼結鉱は、上方より吸引された空気により急速冷却され、脆い焼結鉱となる。その結果、上層部における焼結鉱の成品歩留の低下および強度等の品質悪化をまねく。
【0075】
以上の如く、原料充填層の上層部は、微粉や細粒が存在し通気抵抗が大きく、かつ熱的に不十分な環境にあるため、それに対応した原料充填層上層部の擬似粒子の形成が必要である。
【0076】
図4(B)は、融液浸透性が優れた鉄鉱石B(b)を粒径1mm以上の粒子を10質量%以下にした破砕品を通常の焼結鉱原料と混合、造粒した場合であり、鉄鉱石B(b)は、粒径1mm以上の粒子が10質量%以下に破砕されているため、核粒子になることはなく、粒径1mm以上の粒子表面に付着し、擬似粒子を形成する。この場合、鉄鉱石B(b)の破砕粉は後述する如く、粒径1mm以上の粒子表面への付着力が強力である。その結果、鉄鉱石B(b)が粒径1mm以上の粒子表面に付着した擬似粒子は、輸送又は装入による崩壊が少なく、充填層の上層部で、強固な擬似粒子を形成し、焼結充填層上層において微粉の鉄鉱石の存在が少なくなる。
【0077】
融液浸透性が優れた鉄鉱石を粒径1mm以上の粒子が10質量%以下の破砕品が核粒子表面に付着した鉱石は、融液浸透性が優れているから、1200℃程度の比較的低温で、鉄含有原料中のFe23と石灰石中のCaOとの反応でカルシウムフェライト(CaO−Fe2)の初期融液を生成する。当該初期融液は、擬似粒子の表面に形勢された融液浸透性の優れた鉄鉱石層に良く融液浸透し、この融液中に鉄鉱石または副原料中の成分が更に溶け込む同化反応を起こし焼結反応を進行させる。その結果、下層に比べ熱的に低温の条件にある原料充填層の上層部でも、強度が高く歩留のよい焼結鉱を製造することができる。
【0078】
先願(特許文献8)では、融液浸透性が高い鉄鉱石は破砕されていないので、造粒性が低く、焼結機装入時および焼成過程で擬似造粒子が崩壊し、原料充填層内の通気性が低下し易いため、原料充填層全体の焼結性が悪化し、焼結鉱の成品歩留、強度、および、生産率は悪化する(特許文献8、段落「0093」、図7、図8)。これに対し、本願発明は、融液浸透性が高い鉄鉱石を粒径1mm以上の粒子が10質量%以下に破砕しているので、破砕後の粉鉱石は、核粒子への付着力が強く造粒性が高く(本願の後述段落「0090」)、融液浸透性の優れた鉱石が核粒子の表面に付着することで、カルシウムフェライト(CaO−Fe2)の初期融液が鉄鉱石と同化反応を引き起こし、原料充填層上部の全層厚に対する層厚比率で5〜12%の範囲に制限されることなく5〜50%の範囲に装入しても、強度と歩留の優れた焼結鉱を製造することができる。
【0079】
ここで、前記鉱石を原料充填層上部に装入する場合に、全層厚に対する層厚比率で5%以上とするのは、層厚比率で5%以下の最上層は、熱不足が極めて厳しく効果が発揮できないからであり(特許文献8の段落「0084」、図7、図8、段落「0092」)、全層厚に対する層厚比率で50%以下とするのは、原料充填層上部の熱不足対策が解消すれば目的が達成されるからである。
【0080】
次に、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上の鉄鉱石が、更に、気孔率が0.05cc/g以上であることの技術的意義について説明する。
【0081】
気孔率は、水銀圧入法により、33000Psiの圧力で測定した場合を言う。各種鉄鉱石の気孔率を表1に示す。鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上であり、かつ、粒径1mm以上の粒子を10質量%以下に破砕した1種または2種以上からなる鉄鉱石では、カルシウムフェライト(CaO−Fe22)の初期融液が、気孔によく浸透し、気孔内で、鉄鉱石と同化反応を引き起こし、ボンドの強い焼結鉱を製造することができる。
【0082】
鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上であり、かつ、粒径1mm以上の粒子を10質量%以下に破砕した鉄鉱石を、原料充填層上部の全層厚に対する層厚比率で5〜50%の範囲に装入する方法としては、たとえば、原料二段装入法がある。その他原料用の第一のサージホッパーと、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上であり、かつ、粒径1mm以上の粒子が10質量%以下に破砕した鉄鉱石用の第二のサージホッパーを設け、第一のサージホッパーから原料を充填槽下層に装入した後、第二のサージホッパーから、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上であり、かつ、粒径1mm以上の粒子が10質量%以下に破砕した鉄鉱石を充填層上層に装入する方法である。
【0083】
また、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上であり、かつ、粒径1mm以上の粒子を10質量%以下に破砕した鉄鉱石を、原料充填層上部の全層厚に対する層厚比率で5〜50%の範囲に装入する方法としては、たとえば、原料粒度偏析装入法がある。
原料粒度偏析装入法は、原料充填層の上層側に細粒を、下層側に粗粒を偏析装入する方法であり、たとえば、サージホッパーからの原料の落下軌跡に、焼結ストランド幅方向に水平に(中島ら:CAMP-ISIJ,4(1991),116.)、又は、ストランドの走行方向に回転バーを設け(稲角ら:鉄と鋼,77(1991),63.)、バーの篩上の粗粒を原料充填層の下層に、篩下の細粒を原料充填層の上層に装入する方法である。
【0084】
本発明において、融液浸透距離が4.0mm以上であり、かつ、粒径1mm以上の粒子を10質量%以下に破砕した鉄鉱石は、細粒の表面に多く付着し擬似粒子を形成する。前記粒度偏析装入装置を用いることにより、融液浸透性が優れた破砕鉄鉱石が表面に付着した擬似粒子を比較的低温雰囲気にある原料充填層上層に装入し、焼成し難い粗粒鉄鉱石を比較的熱余裕のある原料充填層の下層に装入することで強度と歩留の優れた焼結鉱を製造することができる。ただし、この場合、融液浸透性が優れた破砕鉄鉱石が表面に付着した細粒の擬似粒子は、原料充填層の下層にも紛れ込むので、融液浸透性が優れた破砕鉄鉱石の全部が原料充填層の上層に装入されるものではない。
【実施例】
【0085】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0086】
(実施例1)
本発明は、複数銘柄の鉄鉱石のうちで、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上であり、かつ、粒径1mm以上の粒子を10質量%以下に破砕した鉄鉱石を使用することを特徴とするので、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上の鉄鉱石を粒径1mm以上の粒子が10質量%以下に破砕した効果を確認するための焼結鍋試験を行った。
【0087】
鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上の鉄鉱石であるB(b)を粒径1mm以上の粒子が10質量%以下にする破砕は、ボールミルで行った。
【0088】
B(b)鉱石の破砕前と破砕後の乾式粒度を図5に示す。破砕前のB(b)は、平均粒度(MS)が2.64mmであるのに対し、破砕後のB(b)は、平均粒度(MS)が0.58mmであり、粒径1mm以上の粒子が10質量%以下であった。
粒度測定方法は、JISM8706の7.4.3(−40mm、+1mm区分の手動篩分け)および、7.4.4(−1mm区分の手動篩分け)にしたがった。
【0089】
B(b)鉱石の破砕後の乾式粒度と湿式で測定した粒度の比較を図6に示す。湿式で測定した粒度は、−0.020mmの微粒が約40%を占めていた。
湿式粒度測定方法は、JISM8706の7.4.6にしたがった。ただし、各篩区分毎に、超音波振動(300W、45KHe、15分間)を行い、サンプル取り扱いは、前記JIS図3方法―1に従った。
【0090】
B(b)鉱石の破砕前と破砕後の付着力を図7に示す。ボールミルによる破砕によって、付着力が大幅に増加した。破砕したB(b)鉱石の付着物の向上により、核粒子への表面に付着し、強固な擬似粒子が形成されるものと考えられる。
ここで、付着力の測定方法は以下による。破砕後鉄鉱石の場合は、1mm以下に破砕した鉄鉱石を直径30mmで高さ30mmの材質がステンレスの円筒に、充填層の気孔率が45体積%(一定)となるような圧力で装入し、円筒を引き上げる力から付着力(g/cm)を算出した。破砕前鉄鉱石の場合は、破砕していない1mm以下鉱石を同様に測定した。鉱石を破砕すると破砕後の新しい破砕面により、付着力が向上したと考えられる。
【0091】
B(b)鉱石を破砕しないで配合原料と混合、造粒した場合と、破砕した後に配合原料と混合、造粒した場合のSEMによる擬似粒子の表面構造を図8に示す。図8(A)で、B(b)鉱石が破砕されていない場合は、核粒子の表面が微粉鉱石により被覆されていない箇所が観測されたが、B(b)鉱石が破砕された図8(B)では、B(b)鉱石により核粒子の表面が被覆されていることが観測された。
【0092】
焼結鍋試験に用いた原料配合条件を表2に示す。充填槽への充填方法を図9に示す。ベース条件の図9図(A)では、鉱石B(b)、P(b)、P(a)、B(a)、HPMを混合、造粒し、充填層全域(600mm)に装入した。図9図(B)のテストにおいては、原料配合割合はベース条件と同じであるが、鉱石B(b)は全量、粒径1mm以上の粒子が10質量%以下に破砕したものを充填層の上層(300mm)に集中させ、充填層の下層(300mm)は、ベース条件の配合からB(b)を除いたものを混合、造粒して装入した。
【0093】
【表2】

【0094】
焼結鉱石の強度を示す指標であるSIは、下記成品歩留測定後の焼結鉱の中から粒径:10〜25mmの焼結鉱10kgを採取し、これを、2m高さから4回落下させた後、落下前の焼結鉱の質量(kg)に対する、落下後の粒径:5mm以上の焼結鉱の質量(kg)の割合(質量%)を示す。
【0095】
焼結鉱の成品歩留は、焼結ケーキ(塊)を2m高さから5回落下させた後、落下前の焼結ケーキ(塊)(但し、床敷鉱分を除く)の質量(kg)に対する、落下後の粒径:5mm以上の焼結鉱(但し、床敷鉱分を除く)の質量(kg)の割合(質量%)を示す。
【0096】
この焼結鍋試験の焼成条件は、層厚:600mm、吸引負圧:14.7KPa、焼成時間:27分とした。
【0097】
焼結鍋試験結果を表3に示す。粒径1mm以上の粒子が10質量%以下に破砕したB(b)を上層(300mm)に集中させることで、成品歩留が8.1%向上した。また、生産率と焼結強度(SI)も向上した。
【0098】
【表3】

【0099】
(実施例2)
鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上の鉄鉱石を粒径1mm以上の粒子が10質量%以下に破砕した効果を実機で確認するため、600mの実機焼結機において操業試験を行った。
試験に使用した原料配合条件は、焼結鍋試験に用いた配合と同じである。焼結機実機試験の概略設備を図10に示す。図10で、融液浸透距離が4.0mm以上の鉄鉱石B(b)1をボールミル2に装入し破砕した。破砕前後の粒度を図11に示す。破砕前の平均粒径1.97mmに対し、破砕後の平均粒径は0.65mmで、粒径1mm以上の粒子が10質量%以下であった。B(b)鉱石は破砕した後、B(b)鉱石槽3に貯留した。図10で、破砕したB(b)は、他の原料槽4の原料とともに切り出され、ミキサー5で、混合・造粒され、粒径1mm以上の粗粒の表面に付着し、擬似粒子を形成し、擬似粒子は、原料ホッパー6に貯留した。原料ホッパー6から切り出された擬似粒子を、偏析装入装置(回転式スリットバー7)により焼結機パレット上に装入した。この場合、原料の粗粒は、回転式スリットバー7の篩上として原料充填層の下層に挿入され、その後、原料の細粒は充填層下層の上に上層として装入され、原料充填層が形成された。原料充填後、点火炉8で点火された後、焼結機ストランド9で焼結鉱が焼成された。
【0100】
原料の偏析状態を図12に示す。0.25〜1.0mmの細粒の割合は、充填槽下層が25%であるのに対し、充填槽上層は35%であり、0.25〜1.0mmの細粒の割合が増加している。その結果、融液浸透距離が4.0mm以上の鉄鉱石を粒径1mm以上の粒子が10質量%以下に破砕した鉄鉱石の58%が全層厚に対する層厚比率で5〜50%の範囲の充填層上層に装入されていた。
【0101】
実機操業試験結果を図13に示す。ベース操業と比較して、融液浸透距離が4.0mm以上のB(b)鉄鉱石を粒径1mm以上の粒子が10質量%以下に破砕して、他の原料と混合、造粒後に原料充填層に偏析装入したテストの結果では、生産率、成品歩留の向上が図れた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
下方吸引型焼結機を用いた焼結鉱の製造方法において、焼結原料に配合する各銘柄鉄鉱石の微粉部への融液浸透性を評価し、この評価結果に基づき、各銘柄鉄鉱石のうち、鉄鉱石粉中への融液浸透距離が4.0mm以上であり、かつ、粒径1mm以上の粒子が10質量%以下に破砕した鉄鉱石を原料充填層上部に装入することにより、原料充填層上部の成品歩留および強度を改善し、焼結鉱の生産性を向上することができる。
【符号の説明】
【0103】
1…鉄鉱石B(b)、2…ボールミル、3…B(b)鉱石槽、4…他の鉱石槽コークス、5…ミキサー、6…原料ホッパー、7…回転式スリットバー、8…点火炉、9…焼結機ストランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数銘柄の鉄鉱石を含む鉄含有原料、副原料、固体燃料、および、返鉱を配合して焼結原料とし、該焼結原料を混合、造粒した後、焼結パレット内に装入し、焼成する焼結鉱の製造方法において、
前記複数銘柄の鉄鉱石を銘柄毎に融液浸透性の評価試験を行い、鉄鉱石粉中への融液浸透距離の測定値に基づいて鉄鉱石粉中への融液浸透距離を測定する融液浸透距離測定工程と、
前記複数銘柄の鉄鉱石のうち、融液浸透距離が4.0mm以上の鉄鉱石を、粒径1mm以上の粒子が10質量%以下となるように破砕する鉱石破砕工程と、
前記破砕した鉄鉱石と、その他の鉄鉱石、副原料、固体燃料、および返鉱とを混合、造粒して原料を製造する混合、造粒工程と、
前記混合、造粒した原料を、焼結パレット内に形成する原料充填層の上部に全層厚に対する層厚比率で5〜50%の範囲に装入する装入工程とを実施することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の焼結鉱の製造方法において、
前記装入工程は、二段装入法により行われることを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の焼結鉱の製造方法において、
前記装入工程は、前記混合、造粒した原料のうちの前記破砕した鉄鉱石を、焼結パレット内に形成する原料充填層の上部に全層厚に対する層厚比率で5〜50%の範囲に、原料粒度偏析装入法により装入することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の焼結鉱の製造方法において、
前記融液浸透距離が4.0mm以上の鉄鉱石が、更に、気孔率が0.05cc/g以上であることを特徴とする焼結鉱の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図8】
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