説明

煙感知器の試験設備の制御方法

【課題】実際の煙発生状況に近い状況下において、煙感知器の実際の作動状況を試験することに適した煙感知器の試験設備の制御方法を提供する。
【解決手段】煙感知器の試験空間を構成する試験室10と、当該試験室10に配置されたものであって木材チップを加熱することにより煙を発生させる煙発生装置30と、当該試験室10に配置された煙感知器50と、を備えて構成された煙感知器の試験設備1を制御する制御方法であって、煙発生装置30における木材チップの加熱温度を制御する制御盤80により、当該加熱温度を、木材チップから煙が発生される温度であって、かつ、木材チップの燃焼温度未満の温度に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬似火災煙を生成等して煙感知器の作動試験を行うための煙感知器の試験設備の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、煙感知器の試験設備として、感知器製造工場等においては、煙箱と称される箱体が使用されていた。この煙箱は、例えば1m立方程度の金属製の箱体であって、その上面には煙感知器を取り付け可能な蓋体が設けられると共に、その側方には濾紙を燃やした状態で箱体の内部に出し入れ可能な引出しが設けられている。そして、濾紙を用いて発生させた煙を箱体の内部に充満させた後、蓋体に取り付けた煙感知器を箱体の内部に露出させ、所定時間以内に煙感知器が作動するか否かを確認することで、煙感知器の試験を行っていた。
【0003】
あるいは、煙感知器の試験設備として、建屋に設置済みの煙感知器の試験を行う場合には、加煙試験器が使用されていた。この加煙試験器は、棒状体の先端部に筒体を設けると共に、この筒体の内部にガススプレーからガスを放出可能なように構成されている。そして、筒体にて煙感知器の外周を覆った状態で、この筒体の内部にガススプレーのガスを充満させ、所定時間以内に煙感知器が作動するか否かを確認することで、煙感知器の作動試験を行っていた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−331367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、住宅用火災警報器の設置義務化に伴い、煙感知器の実際の作動状況を一般ユーザ等に理解してもらうことの必要性が一層高まっている。このため、例えば、様々なイベントや展示会において、煙感知器を実際に作動させることで、煙感知器が、どの程度の煙環境下で、どのように動作するのかを、デモンストレーションすることが考えられる。
【0006】
しかしながら、煙箱は、煙感知器を、箱体の内部という、実際の設置状況とは全く異なる特殊設置状況下で作動させるものであるため、煙感知器の実際の作動状況を一般ユーザ等に見せることには不向きである。また、加煙試験器は、実際の設置状況下での試験を行うことができるが、ガスを放出することにより煙感知器を作動させるものであり、実際の煙発生状況に近い状況下での煙感知器の作動状況を一般ユーザ等に見せることには不向きである。
【0007】
また、濾紙を燃やすことで煙を発生させる従来の試験装置においては、比較的短時間で燃焼して一酸化炭素を大量に発生させる等、煙感知器の試験としては好ましくない自体が考えられる。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、実際の煙発生状況に近い状況下において、煙感知器の実際の作動状況を試験することに適した煙感知器の試験設備の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の煙感知器の試験設備の制御方法は、煙感知器の試験空間を構成する試験室と、当該試験室に配置されたものであって木材チップを加熱することにより煙を発生させる煙発生手段と、当該試験室に配置された煙感知器と、を備えて構成された煙感知器の試験設備を制御する制御方法であって、前記煙発生手段における前記木材チップの加熱温度を制御する制御手段により、当該加熱温度を、前記木材チップから煙が発生される温度であって、かつ、前記木材チップの燃焼温度未満の温度に制御することを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の煙感知器の試験設備の制御方法は、請求項1に記載の煙感知器の試験設備の制御方法において、前記加熱温度を、前記木材チップの種別毎に記憶した記憶手段を備え、前記制御手段は、所定方法で特定された前記木材チップの種別に基づいて、当該木材チップの種別に対応する前記加熱温度を前記記憶手段から取得し、当該取得した加熱温度に基づいて制御を行うことを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の煙感知器の試験設備の制御方法は、請求項2に記載の煙感知器の試験設備の制御方法において、前記記憶手段は、前記加熱温度を、試験において再現したい火災状況の種別毎に記憶し、前記制御手段は、所定方法で特定された前記火災状況の種別に基づいて、当該火災状況の種別に対応する前記加熱温度を前記記憶手段から取得し、当該取得した加熱温度に基づいて制御を行うことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の煙感知器の試験設備の制御方法は、請求項2又は3に記載の煙感知器の試験設備の制御方法において、前記記憶手段は、前記加熱温度を、試験開始から試験終了までの試験時間毎に記憶し、前記制御手段は、所定方法で特定された前記試験時間に基づいて、当該試験時間に対応する前記加熱温度を前記記憶手段から取得し、当該取得した加熱温度に基づいて制御を行うことを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載の煙感知器の試験設備の制御方法は、請求項2から4のいずれか一項に記載の煙感知器の試験設備の制御方法において、前記試験室の少なくとも一つの側面の下方位置に形成した開口部から、前記煙発生手段及び前記煙感知器を順次介して、前記試験室の少なくとも一つの側面の上方位置に形成した排気口に向けて排気する気流形成手段を備え、前記記憶手段は、排気量を記憶し、前記制御手段は、前記記憶手段から取得した排気量に基づいて、前記気流形成手段の制御を行うことを特徴とする。
【0014】
また、請求項6に記載の煙感知器の試験設備の制御方法は、請求項5に記載の煙感知器の試験設備の制御方法において、前記気流形成手段は、前記試験室の天井に形成した排気口と、前記試験室の側面の上方位置に形成した排気口と、に向けて排気を行うものであり、前記制御手段は、前記試験室の天井に形成した排気口からの排気を開始した後、所定時間経過後に、前記試験室の側面の上方位置に形成した排気口からの排気を開始することを特徴とする。
【0015】
また、請求項7に記載の煙感知器の試験設備の制御方法は、請求項2から6のいずれか一項に記載の煙感知器の試験設備の制御方法において、前記煙発生手段の近傍に、布体に照明を当てると共に、当該布体を送風にて揺動させる擬似火災炎形成手段を設け、前記記憶手段は、前記布体に対する照明の照度を記憶し、前記制御手段は、前記記憶手段から取得した照度に基づいて、前記擬似火災炎形成手段の制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の煙感知器の試験設備の制御方法によれば、木材チップの加熱温度を、木材チップから煙が発生される温度であって、かつ、木材チップの燃焼温度未満の温度に制御するので、木材チップから発生される煙を用いて煙感知器の試験が可能になると共に、木材チップが燃焼して一酸化炭素が発生することを防止できるので、安全に試験を行うことが可能となる。
【0017】
また、請求項2に記載の煙感知器の試験設備の制御方法によれば、木材チップの種別に対応する加熱温度を記憶手段から取得して制御を行うので、木材チップの種別によって最適な加熱温度が異なる場合であっても、試験に使用する木材チップの種別に応じた最適な加熱温度で試験を行うことが可能となる。
【0018】
また、請求項3に記載の煙感知器の試験設備の制御方法によれば、試験において再現したい火災状況の種別に対応する加熱温度を記憶手段から取得して制御を行うので、火災状況の種別によって最適な加熱温度が異なる場合であっても、試験において再現したい火災状況の種別に応じた最適な加熱温度で試験を行うことが可能となる。
【0019】
また、請求項4に記載の煙感知器の試験設備の制御方法によれば、試験開始から試験終了までの試験時間に対応する加熱温度を記憶手段から取得して制御を行うので、試験時間によって最適な加熱温度が異なる場合であっても、所望の試験時間に応じた最適な加熱温度で試験を行うことが可能となる。
【0020】
また、請求項5に記載の煙感知器の試験設備の制御方法によれば、記憶手段から取得した排気量に基づいて制御を行うので、試験に最適な排気状態を形成でき、実際の火災状況や所望の試験状態に合致した排気状態で試験を行うことが可能となる。
【0021】
また、請求項6に記載の煙感知器の試験設備の制御方法によれば、試験室の天井に形成した排気口からの排気を開始することによって、天井方向に至る気流を形成した後、所定時間経過後に、試験室の側面の上方位置に形成した排気口からの排気を開始することによって、側方に至る気流を形成できるので、煙感知器を試験室の側方の壁に設置したような場合であっても、煙を煙感知器に導入して試験を行うことが可能となる。
【0022】
また、請求項7に記載の煙感知器の試験設備の制御方法によれば、記憶手段から取得した照度に基づいて制御を行うので、試験で再現したい火災を模擬的に生成するために最適な照明状態を形成でき、実際の火災状況や所望の試験状態に合致した照明状態で試験を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態に係る煙感知器の試験設備の全体斜視図である。
【図2】図1の水平面による横断面図である。
【図3】図1のX方向に沿った断面による縦断面図である。
【図4】煙発生装置の縦断面図である。
【図5】擬似火災炎形成装置の縦断面図である。
【図6】煙発生装置と擬似火災炎形成装置を一体化した装置の縦断面図である。
【図7】制御盤のブロック図である。
【図8】制御テーブルの構成例を示す図である。
【図9】試験制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る煙感知器の試験設備の実施の形態を詳細に説明する。ここで、「試験」とは、煙感知器の性能が規格に合致するか否かを確認するための検定試験に限らず、実際の煙発生状況に近い状況下において、煙感知器が実際に作動するか否かを確認することも意味し、場合によっては、この作動状況を一般ユーザ等の見学者に見せることを含み得る。
【0025】
(構成)
まず、煙感知器の試験設備1の構成を説明する。図1は煙感知器の試験設備1の全体斜視図(一部を破断して示す)、図2は図1の水平面による横断面図、図3は図1のX方向に沿った断面による縦断面図である。これら図1から図3に示すように、煙感知器の試験設備1は、試験室10と付室20を備えて構成されている。なお、以下の説明では、図1に示す方向のうち、X方向を前後方向(試験室10から付室20に至る方向を前方、付室20から試験室10に至る方向を後方)、Y方向を左右方向(付室20から試験室10を見た場合の右手側を右側、付室20から試験室10を見た場合の左手側を左側)、Z方向を上下方向(鉛直上方を上方、鉛直下方を下方)とする。
【0026】
(構成−試験室)
試験室10は、煙を発生させて後述する煙感知器50に導入することで当該煙感知器を作動させる試験空間を形成するものである。この試験室10は、一般住宅内における煙発生から煙感知に至るまでの煙の自然な流動過程を再現可能な構造、形状、及び大きさで形成されることが好ましい。例えば、構造面に関しては、煙の自然な流動経路を再現できるように外部からの風を遮蔽すべく、試験室10は、前後左右の壁11〜14と、天井15と、試験設備1が設置された設置面Gとによって試験空間を囲繞するように構成されている。ただし、外気を導入することにより所望の試験環境を構築できるように、各壁11〜14の任意の位置に開口を形成してもよい(排気口12a、12bや開口部26については後述する)。また例えば、形状面や大きさ面に関しては、一般住宅の各階の内部空間を再現すべく、試験室10は、高さが2mから4m程度で、平面形状の1辺が1.5mから3m程度であって、全体として略直方体に構成されている。
【0027】
さらに、試験室10は、煙発生から煙感知に至るまでの煙の自然な流動過程を付室20から容易に観察可能なように形成されることが好ましく、例えば、煙が白色煙であることを想定して、後方の壁12の内面を黒色としている。特に、観察者が煙を外部から見やすいように、照明や太陽の光の向きに応じて、黒色部分の場所を変更ができるようにしてもよく、例えば、後方の壁12の内面の任意の位置に、黒色シートを面ファスナーやテープ等にて貼付可能としてもよい。あるいは、後述するように試験室10及び付室20を組み立て式として可搬可能とした場合には、試験室10及び付室20を照明や太陽の光の向きに応じて全体的に移動させてもよい。なお、前方及び左右の壁11、13、14の内面についても同様に黒色としてもよいが、ここでは、これら各壁11、13、14を介して試験室10の内部を観察する可能性を考慮して、これら各壁11、13、14については無色透明としている。その他、試験室10に求められる性能としては、耐熱性、耐久性、可搬性、及び低コスト性を挙げることができる。耐熱性及び耐久性の観点からは、各壁11〜14や天井15を構成する素材としては、例えば、石膏ボードや耐熱ガラスの如き耐熱素材を用いることができるが、後述する煙発生装置30からの発熱が少ないことが想定される場合には、耐熱素材を必ずしも用いる必要はなく、最も安価なビニールシートを用いることで、可搬性及び低コスト性を優先させてもよい。また、これら耐熱素材やビニールシートを支持するための支持材としては、木製や金属製のパイプ柱を用いることができる。例えば、ビニールシートや金属製のパイプ柱を用いたものとしては、市販の農業用のビニールハウスを流用することが考えられる。例えば、試験室10及び付室20の骨組みを複数本のパイプを連結することによって構成することで、試験室10及び付室20を組み立て式として容易に可搬できるようにし、どこでも簡単に試験設備1を形成することができるようにしてもよい。
【0028】
(構成−付室)
付室20は、試験室10の内部を観察するための観察空間を形成するものであり、試験室10の前方に隣接して設置されている。この付室20は、試験空間における煙発生から煙感知に至るまでの煙の自然な流動過程を容易に観察可能な構造、形状、及び大きさで形成されることが好ましい。例えば、構造面に関しては、付室20から試験室10に対する余分な気流の流入を遮蔽すべく、付室20は、前方及び左右の壁21〜23と、後方の壁24(試験室10の前方の壁11と共通)と、天井25と、付室20が設置された設置面G(試験室10の設置面Gと共通)とによって観察空間を囲繞するように構成されており、前方の壁21には観察者の出入り口28が設けられている。このように付室20を設けたことで、外気が直接的に試験室10に流入する可能性が低減され、試験室10の内部の気流に与える影響が低減される。ただし、外気を導入することにより所望の観察環境を構築できるように、各壁21〜24の任意の位置に開口を形成してもよい(開口部26については後述する)。また例えば、形状面や大きさ面に関しては、少なくとも一人の観察者が立つことが可能なように、付室20は、高さが1.8mから2m程度で、平面形状の1辺が1m程度であって、全体として略直方体に構成されている。ただし、複数の観察者が同時に観察可能なように、この形状や大きさを変更可能としてもよく、例えば、試験室10と同一の形状及び大きさとしてもよい。なお、付室20の各壁21〜24、天井25、あるいは支持材を構成する素材としては、試験室10と同じ素材を用いることができる。
【0029】
また、安全性を一層高める観点から、付室20の後方の壁24に形成された開口部26には、シャッター27が設置されている。このシャッター27は、開口部26の開閉を自動的に行う開閉手段であり、例えば、開口部26に対応した形状の平板と、この平板をシリンダ等の公知の機構で開閉するための開閉機構とを備えて構成されている。このシャッター27は、図示しない信号線を介して後述する制御盤80に接続されており、この制御盤80からの制御信号によって開閉駆動される。
【0030】
次に、試験室10の内部又は外部に配置された設備について説明する。試験室10の内部には、煙発生装置30、擬似火災炎形成装置40、煙感知器50、及びガス感知器60が設けられており、試験室10の外部には、気流形成機構70、及び制御盤80が設けられている。
【0031】
(構成−煙発生装置)
煙発生装置30は、煙感知器50を作動させるための煙を発生する煙発生手段であって、試験室10の内部における下方位置(ここでは試験室10が設置された設置面上)に配置されている。この煙発生装置30の原理や構造としては、公知のものを採用することができるが、ここでは、木材チップ(木片)を加熱することによって煙を発生させる。この煙発生装置30の縦断面図を図4に示す。この煙発生装置30は、加熱用トレー31、電気ヒータ32、温度センサ33、煙導管34、及び目隠し板35を備えている。
【0032】
加熱用トレー31は、木材チップを加熱する金属製の平板体であり、この加熱用トレー31の上面に木材チップを載せて加熱することが可能となっている。電気ヒータ32は、加熱用トレー31を介して木材チップを加熱する加熱手段であり、加熱用トレー31の下方に設けられている。この電気ヒータ32は、図示しない信号線を介して制御盤80に接続されており、制御盤80からの制御信号によって温度を制御される。温度センサ33は、加熱用トレー31の温度を検知する温度検知手段であり、例えば熱電対であって、図示しない信号線を介して制御盤80に接続されており、検知した温度を制御盤80に出力する。煙導管34は、電気ヒータ32にて加熱された木材チップから発せられた煙を煙感知器50に向けて導出する煙導手段であり、例えば両端が開口された金属製の円筒として構成され、加熱用トレー31及びその上方の空間を囲繞するように、かつ、円筒の側面が煙感知器50に至る方向(ここでは鉛直上方)に沿うように配置されている。なお、加熱用トレー31と煙導管34は相互に分離する必要はなく、底板のある円筒容器を用いて両者を一体化してもよい。目隠し板35は、煙発生装置30における最前方の位置に立設された金属製の板状体のつい立てであり、煙発生装置30の他の部分が観察者に露出することを防止している。ただし、擬似火災炎形成装置40により煙発生装置30を観察者から隠すことができる場合には、目隠し板35は省略してもよい。
【0033】
なお、加熱対象となる木材チップの具体的種類は任意であるが、例えば、燻製調理用に市販されている「さくら」や「リンゴ」のチップを使用することができる。本願発明者の実験によれば、燻製用木材としては、チップ状ではなく棒状体のものも考えられるが、発煙量の制御性の観点から、チップ状を選択することが好ましい。また、木材チップの加熱温度は、木材チップから十分に煙が放出される温度であり、かつ、木材チップからの一酸化炭素の排出量を増大させることがない温度(木材チップの燃焼温度未満の温度)とすることが好ましい。具体的には、煙を放出させるためには、一般に燻製調理用の燻製温度が40℃から60℃であるのに対して、それより高温の300℃から500℃程度とすることが好ましく、400℃程度とすることがより好ましい。特に、加熱温度が600℃を超える場合には、木材チップから炎が出てしまうと共に、一酸化炭素の排出量が格段に増えてしまい危険性が生じるため、加熱温度を600℃未満に維持することが好ましい。この範囲の加熱温度を生成するためには、電気ヒータ32としては、例えば600Wから800W程度のものを使用することが好ましい。
【0034】
(構成−擬似火災炎形成装置)
擬似火災炎形成装置40は、煙発生装置30の近傍に配置されるもので、火災発生時の炎を擬似的に形成することによって、火災が実際に発生したような視覚的演出を行って観察者の臨場感を高める擬似火災炎形成手段である。この擬似火災炎形成装置40の縦断面図を図5に示す。この擬似火災炎形成装置40は、円環状のフレーム41と、このフレーム41の周囲に一辺が固定された複数の布体42と、このフレーム41の下方に配置された揺動ファン43及び赤色ランプ44を備えて構成されている。各布体42は略三角形状をしており、このような複数の布体42を揺動ファン43からの送風にて揺動させつつ、赤色ランプ44からの光によって赤く照らすことにより、炎を擬似的に形成する。ここでは、特に、煙発生装置30の前方正面に擬似火災炎形成装置40を配置し、付室20の観察者からは煙発生装置30が見えずに擬似火災炎形成装置40のみが見えるようにしたことで、擬似火災炎形成装置40にて形成された炎から煙が出ているような視覚的効果を与えることができる。ここで、揺動ファン43及び赤色ランプ44は、図示しない信号線を介して制御盤80に接続されており、制御盤80からの制御信号によって揺動ファン43の送風量及び赤色ランプ44の光量が制御される。
【0035】
なお、これら煙発生装置30と擬似火災炎形成装置40は、相互に一体化してもよい。図6には煙発生装置30と擬似火災炎形成装置40を一体化した煙火炎出力装置90の縦断面図を示す。この煙火炎出力装置90は、下方に煙発生部91を備えると共に、その上方に擬似火災炎形成部92を備える。煙発生部91は、煙発生装置30と同様に、加熱用トレー31、電気ヒータ32、温度センサ33、煙導管34を備えている。擬似火災炎形成部92は、擬似火災炎形成装置40と同様に、円環状のフレーム41と、このフレーム41の周囲に一辺が固定された複数の布体42と、このフレーム41の下方に配置された揺動ファン43及び赤色ランプ44を備えて構成されている。そして、煙発生部91においては加熱用トレー31に載せた木材チップを加熱して煙を発生させ、その上方の擬似火災炎形成部92においては複数の布体42を揺動ファン43からの送風にて揺動させつつ、赤色ランプ44からの光によって赤く照らすことにより、炎を擬似的に形成する。特に、煙発生部91にて発生させた煙を揺動ファン43からの送風により上昇させることができるので、実際の火災時の熱気流によって上昇する煙の発生状況を、一層正確に再現することができる。
【0036】
(構成−煙感知器)
図1から3において、煙感知器50は、煙を感知して警報を出力する煙感知手段である。この煙感知器50の作動原理や具体的構造は任意であり、例えば散乱光式の煙感知器50を用いることができる。この煙感知器50は、試験室10の壁11〜14又は天井15において、煙発生装置30から発生された煙が流入する位置(試験室10の内部における上方位置であって、ここでは、煙発生装置30の鉛直上方の近傍位置)に一つ又は複数配置されている。この煙感知器50は、図示しない信号線を介して制御盤80に接続されており、煙の感知量が所定の閾値を超えた場合には、煙感知信号を制御盤80に出力する。
【0037】
(構成−ガス感知器)
ガス感知器60は、特定種類のガス(ここでは一酸化炭素)を感知して警報を出力する煙感知手段である。このガス感知器60の作動原理や具体的構造は任意であり、例えば半導体式や電気化学式のガス感知器60を用いることができる。このガス感知器60は、試験室10の壁11〜14又は天井15において、煙発生装置30から発生された一酸化炭素が流入する位置に一つ又は複数配置されている。このガス感知器60は、図示しない信号線を介して制御盤80に接続されており、ガスの感知量が所定の閾値を超えた場合には、ガス感知信号を制御盤80に出力する。このガス感知器60を付室20内にも配置して、付室20に有毒ガスが流入して観察者が危険状態になったことを検出して警報を行い、観察者の退避を促してもよい。この場合において、付室20のガス感知器60が作動したときは、電気ヒータ32を停止するように、制御盤80にて電気ヒータ32を制御しても良い。
【0038】
(構成−気流形成機構)
気流形成機構70は、煙発生装置30から煙感知器50に至る気流を形成する気流形成手段である。具体的には、気流形成機構70は、排気ダクト71と排気ファン72から構成されている。排気ダクト71は、中空管体であって、その一端は、上方排気ダクト71aと、後方排気ダクト71bに分岐されている。上方排気ダクト71aは、主として煙の気流を形成するための排気を行うものであり、試験室10の天井15における位置であって、煙発生装置30の鉛直上方の近傍位置に形成された排気口12aに接続されている。後方排気ダクト71bは、主として煙の量を調整するための排気を行うものであり、試験室10の後方の壁12における位置に形成された排気口12bに接続されている。また、上方排気ダクト71aにはダンパ71a、後方排気ダクト71bにはダンパ71bがそれぞれ設けられており、これらダンパ71a、71bによって、上方排気ダクト71aと後方排気ダクト71bによる排気量が個別的に制御される。一方、排気ダクト71の他端は、試験室10の外部において排気ファン72に接続されている。この排気ファン72は、試験室10の空気を、排気口12a及び排気ダクト71を順次介して排気する。この排気ファン72は、上述したダンパ71a、71bは、図示しない信号線を介して制御盤80に接続されており、この制御盤80からの制御信号によって駆動される。
【0039】
(構成−制御盤)
制御盤80は、試験設備1の電気的制御を行う制御手段である。この制御盤80のブロック図を図7に示す。この制御盤80は、制御部81、記憶部82、及び入出力端子83を備えて構成されている。制御部81は、例えばCPU(Central Processing Unit)及びこのCPU上で実行させる各種のプログラムから構成されている。この制御部81は、機能概念的に、試験制御部81aを備える。この試験制御部81aは、煙の発生から煙感知器50が作動するまでの一連の試験動作を制御する煙感知試験制御手段である。記憶部82は、制御盤80による制御に必要なプログラム及び各種のデータを記憶する記憶手段であって、例えば、HD(Hard Disk)の如き外部記憶装置として構成されている。この記憶部82には、制御テーブル82aが格納されている。この制御テーブル82aの具体的構成例については後述する。入出力端子83は、入力及び出力を行うためのインターフェースであって、上述のように、図示しない信号線を介して、シャッター27、電気ヒータ32、温度センサ33、揺動ファン43、赤色ランプ44、煙感知器50、ガス感知器60、排気ファン72、及びダンパ71a、71bに接続されている。
【0040】
制御テーブル82aの具体的構成例について説明する。図8にはこの構成例を示す。制御テーブル82aは、項目「火災状況の種別」、項目「試験時間」、項目「木材チップの種別」、項目「加熱温度」、項目「排気量」、及び項目「照度」と、これら各項目に対応するデータとを、相互に対応付けて構成されている。項目「火災状況の種別」に対応するデータは、試験において再現したい火災状況の種別(ここでは「通常火災」と「燻焼火災」の2種類)を特定するための火災状況特定情報である。項目「試験時間」に対応するデータは、試験開始から試験完了までの時間(ここでは「5分」と「10分」の2種類)を特定するための試験時間特定情報である。項目「木材チップの種別」に対応するデータは、試験に使用する木材チップの種別(ここでは「さくら」と「リンゴ」の2種類)を特定するための煙材料特定情報である。項目「加熱温度」に対応するデータは、電気ヒータ32による加熱温度を特定するための加熱温度特定情報であり、例えば、加熱温度を縦軸とし、試験開始からの経過時間を横軸とした、グラフデータとして格納されている。項目「排気量」に対応するデータは、排気ファン72による排気量を特定するための排気量特定情報であり、例えば、排気量を縦軸とし、試験開始からの経過時間を横軸とした、グラフデータとして格納されている。項目「照度」に対応するデータは、赤色ランプ44による照度を特定するための照度特定情報であり、例えば、照度を縦軸とし、試験開始からの経過時間を横軸とした、グラフデータとして格納されている。これら項目「加熱温度」に対応するデータ、項目「排気量」に対応するデータ、及び項目「照度」に対応するデータとしては、項目「火災状況の種別」に対応するデータ、項目「試験時間」に対応するデータ、及び項目「木材チップの種別」に対応するデータの組み合わせに応じて、同一又は異なるデータが格納されている。すなわち、通常火災と燻焼火災では、煙量の変化、火災による熱気流量の変化、あるいは火災による照度の変化が相互に異なる。また、同じ種類の火災であっても、5分で煙が煙感知器50の閾値に達する場合と、10分で煙が煙感知器50の閾値に達する場合とでは、煙量の出方、気流量の変化、あるいは照度の変化が相互に異なる。さらに、同一加熱温度下において木材チップを加熱する場合であっても、木材チップの種別によって、煙量の出方、気流量の変化、あるいは照度の変化が相互に異なる。これらを考慮して、項目「火災状況の種別」に対応するデータ、項目「試験時間」に対応するデータ、及び項目「木材チップの種別」に対応するデータの各組み合わせにおける煙量の変化、気流の変化、及び照度の変化が再現可能なように、これら各変化を、各組み合わせ毎に予め実験等によって求めておき、この変化を特定するためのデータを制御テーブル82aに格納している(ただし、煙量は加熱温度に換算して格納している)。
【0041】
(気流形成)
次に、実際の煙発生状況に近い状況下において、煙感知器50の実際の作動状況を試験するための気流形成について、一層詳細に説明する。一般住宅内の火災によって発生した煙は、火災の熱による熱気流によって、火源から鉛直上方に上昇して天井に至る。これに対して、試験室10では、煙発生装置30によって煙を発生させており、電気ヒータ32による熱では十分な熱気流は生成できないため、煙が、煙発生装置30から鉛直上方に上昇せず、側方に拡散する可能性がある。そこで、煙発生装置30の鉛直上方の近傍位置に形成された排気口12aから排気を行うことで、煙発生装置30から煙感知器50に至る気流を形成している(なお、本実施の形態においては、排気口12aを天井15に形成しているが、後方の壁12における上方位置等に形成してもよい)。
【0042】
特に、試験空間を閉鎖空間とした場合には気流形成が困難になり得るため、試験室10の側面のうち、少なくとも一つの側面の下方位置に開口部26を形成している。このように下方位置に開口部26を形成することで、煙発生装置30の鉛直上方の近傍位置に形成された排気口12aから排気した場合、開口部26から流入した外気が煙発生装置30及び煙感知器50を順次介して排気口12aに向けて排気されるので、煙発生装置30から煙感知器50に至る気流形成が一層容易になる。
【0043】
このような開口部26を設ける位置は、試験室10の側面の下方位置のいずれの位置でもよいが、ここでは、試験室10の側面のうち、付室20との境界面の一部を開口部26としている。すなわち、図2に示すように、この境界面となる壁の例えば下側半分程度(1m程度)を開口部26としており、この開口部26を介して、付室20から試験室10への空気の流入を可能としている。そして、この構成において、排気口12aから排気を行うことで、試験室10を付室20に対して負圧とし、試験室10の煙が付室20に流入することを防止できるので、付室20の観察者に煙が触れることを防止でき、観察者の快適性や安全性を一層高めることが可能となる。
【0044】
また、このように排気による気流形成以外にも、煙発生装置30から煙感知器50に至る気流を形成するための様々な措置を講ずることが可能である。例えば、この実施の形態では、擬似火災炎形成装置40を煙発生装置30の近傍に配置し、特に、擬似火災炎形成装置40から外部への気流の発生位置(フレーム41の上端位置)を、煙発生装置30から外部への煙の発生位置(煙導管34の上端位置)より下方に設定しているので、擬似火災炎形成装置40から発生した気流によって、煙発生装置30から発生した煙を上昇させることが可能となり、煙発生装置30から煙感知器50に至る気流形成が一層容易になる。
【0045】
また、この実施の形態では、上述した煙導管34を用いている。すなわち、単に、加熱用トレー31を試験室10に露出させた場合には、木材チップから発せられた煙が側方に拡散する可能性が高いが、この加熱用トレー31やその周囲を煙導管34で囲い、円筒の側面が煙感知器50に至る方向に沿うように煙導管34を配置したことにより、木材チップから発せられた煙の流動方向が、煙導管34の側面に沿って煙感知器50に至る方向に規制されるので、煙発生装置30から煙感知器50に至る気流形成が一層容易になる。
【0046】
さらに、一旦所望の気流を形成した後、煙発生装置30の鉛直上方に設けた排気口12aからの排気のみを継続した場合には、煙の大部分が排気口12aから排気されてしまい、煙感知器50に流れない可能性がある。特に、試験室10の後方の壁12や側方の壁13、14に煙感知器50を設置して試験を行うことも考えられるので、このような場合には、煙感知器50への気流を形成できない可能性がある。そこで、一旦所望の気流を形成した後には、排気口12aからの排気量を低減させると共に、試験室10の後方の壁12の排気口12bからも排気を行うことで、煙発生装置30から鉛直上方に至り、さらに側方に至る気流を形成し、煙発生装置30から煙感知器50に煙を確実に導入するための気流を形成している。
【0047】
(試験制御処理)
最後に、制御盤80の試験制御部81aにより実行される試験制御処理について説明する。図9は、試験制御処理のフローチャートである。なお、以下の説明においては、ステップを「S」と略記する。作業者が加熱用トレー31に木材チップを所定量載せた後、図示しない入力手段を介して、試験において再現したい火災状況の種別、試験時間、及び試験に使用する木材チップの種別を制御盤80に入力すると共に、煙感知試験制御の開始を指示する。
【0048】
すると、試験制御部81aは、シャッター27を開くことで、付室20から試験室10への空気の流入を可能とする(SA1)。次いで、試験制御部81aは、記憶部82の制御テーブル82aを参照し、入力された火災状況の種別、入力された試験時間、及び入力された木材チップの種別の組み合わせに対応する加熱温度のグラフデータ、排気量のグラフデータ、及び照度のグラフデータを取得する(SA2)。そして、これらグラフデータを参照し、加熱温度の初期値になるように電気ヒータ32を制御し、排気量の初期値になるように排気ファン72を制御し、照度の初期値になるように赤色ランプ44を制御する(SA3)。また同時に、試験制御部81aは、揺動ファン43を回して布体42を揺動させる(SA4)。このことにより、電気ヒータ32によって木材チップが加熱されて煙が発生すると共に、揺動ファン43にて揺動させた布体42が赤色ランプ44によって段々と赤く照らされ、火災の炎が擬似的に生成される。また、試験制御部81aは、ダンパ71aを全開にすると共に、ダンパ71bを全閉にすることで(SA5)、排気口12a及び上方排気ダクト71aを順次介した排気のみを行い、煙発生装置30から鉛直上方に至る気流を形成する。
【0049】
その後は、試験制御部81aは、試験開始からの経過時間を公知の方法にて取得し(SA6)、この経過時間に基づいてグラフデータを定期的に参照することで、各経過時間における加熱温度、排気量、及び照度を特定して、これら加熱温度、排気量、及び照度になるように電気ヒータ32、排気ファン72、及び赤色ランプ44を制御する(SA7)。なお、加熱温度については、温度センサ33による検知温度に基づくフィードバック制御を行うことで、正確な制御を行う。このような制御を行うことで、通常火災又は燻焼火災の際の煙量の変化、気流の変化、及び照度の変化が、木材チップの種別に応じて再現される。特に、木材チップの加熱温度は、上述のように、木材チップから十分に煙が放出される温度であり、木材チップが燃焼する前の温度であり、かつ、木材チップからの一酸化炭素の排出量を増大させることがない温度に制御しているので、煙を発生させる一方で、一酸化炭素の排出量の増大を抑制できる。
【0050】
また、試験制御部81aは、試験開始からの経過時間が所定時間に達した場合には(SA8、Yes)、ダンパ71aを半開にすると共に、ダンパ71bを半閉にすることで(SA9)、排気口12a及び上方排気ダクト71aを順次介した排気の排気量を低減させると共に、排気口12b及び後方排気ダクト71bを順次介した排気を開始する。このことにより、煙発生装置30から鉛直上方に至る気流に加えて、この鉛直上方位置から後方に向う気流を形成できる。
【0051】
また、試験制御部81aは、試験開始後、ガス感知器60からのガス感知出力を監視する(SA10)。ガス感知器60は、所定の閾値以上のガスを感知した場合には、警報音出力や警報灯点滅を行うと共に、制御盤80にガス感知信号を出力する。またこの場合には(SA10、Yes)、予想を上回る一酸化炭素が何らかの原因で発生したと考えられ、試験を中止することが好ましいため、ガス感知信号の出力を受けた制御盤80の試験制御部81aは、電気ヒータ32を制御して加熱を停止し、ダンパ71a1、71bを全開にすると共に排気ファン72を制御して排気量を最大化することで排気を行い、かつ、シャッター27を閉じることで一酸化炭素が付室20に流出することを防止する(SA12)。ただし、シャッター27を閉じることで排気ファン72による排気が阻害されて却って好ましくない場合には、シャッター27を閉じることなく排気を継続するようにしてもよい。これにて試験制御処理が終了する。
【0052】
一方、ガス感知信号が出力されない場合(SA10、No)、試験制御部81aは、煙感知器50からの煙感知出力を監視し(SA11)、煙感知信号が出力されるまでSA6からSA10を繰り返す。煙感知器50は、所定の閾値以上の煙を感知した場合には、警報音出力や警報灯点滅を行う。この様子を観察することで、観察者は、煙感知器50の作動の状況を学ぶことができる。またこの場合には(SA11、Yes)、試験が予定通り終了したと考えられ、それ以上に煙を発生させることが好ましくないため、煙感知信号の出力を受けた制御盤80の試験制御部81aは、煙感知器50の作動が十分に観察されたと考えられる所定時間後(例えば煙感知信号の出力から1分後)、電気ヒータ32を制御して加熱を中止することで木材チップが燃焼することを防止し、ダンパ71a1、71bを全開にすると共に排気ファン72を制御して排気量を最大化することで排気を行い、かつ、シャッター27を閉じることで煙が付室20に流出することを防止する(SA12)。ただし、シャッター27を閉じることで排気ファン72による排気が阻害されて却って好ましくない場合には、シャッター27を閉じることなく排気を継続するようにしてもよい。これにて試験制御処理が終了する。
【0053】
(効果)
このように本実施の形態によれば、試験空間の下方で発生させた煙を、気流によって上方に導いて煙感知器50にて感知させることができるので、実際の煙発生状況に近い状況下において、煙感知器50の実際の作動状況を試験することが可能となる。特に、試験室10を住宅の天井高さに設計し、煙感知器50を実際に住宅で設置される高さに配置して試験をおこなうことで、観察者に対して実際の火災時の煙感知器50の作動状態をデモンストレーションすることができると共に、試験者としてもより実際の設置状況に合わせた煙感知器50の試験を容易に行うことができる。また、可搬性の試験設備1で外部から観察者が試験室10の内部を観察できる構成とすることで、従来のように特別な固定式の試験設備を用意することなく、簡単にどこでも試験設備1を提供することができる。
【0054】
また、試験室10の側面の下方位置に形成した開口部26から吸引した気体を、煙発生装置30及び煙感知器50を順次介して排気口12aに向けて排気することができるので、煙発生装置30にて発生させた煙を気流によって上方に導いて煙感知器50にて感知させることができる。
【0055】
また、付室20を設けたので、外気が直接的に試験室10に流入する可能性が低減され、試験室10の内部の気流に与える影響が低減される。また、付室20と試験室10との境界面に形成した開口部26から気体を吸引し、試験室10を付室20に対して負圧とすることで、試験室10から付室20に煙が流入することを防止でき、付室20の観察者に煙が触れることを防止できて、観察者の快適性や安全性を一層高めることが可能となる。
【0056】
また、木材チップを加熱して煙を発生させることで、発煙量の制御性を向上させることが可能となる。また、木材チップから発せられた煙を煙感知器50に向けて導出する煙導管34を設けたので、煙発生装置30から煙感知器50に至る気流形成が一層容易になる。また、木材チップが燃焼する温度(例えば600℃等の高温)に上げないように電気ヒータ32を制御して発煙させるため、一酸化炭素の発生を抑制して試験を行うことができ、人体に悪影響を与えることなく試験を行うことができる。
【0057】
また、排気ファン72の排気と、擬似火災炎形成装置40の送風により、煙発生装置30から煙感知器50に至る気流を形成することで、煙発生装置30から煙感知器50に至る気流形成が一層容易になる。
【0058】
また、擬似火災炎形成装置40と煙発生装置30とを相互に一体に形成したので、擬似火災炎形成装置40からの送風により煙を上昇させることができるので、実際の火災時の熱気流によって上昇する煙の発生状況を、一層正確に再現することができる。
【0059】
(各実施の形態に対する変形例)
以上、本発明に係る各実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0060】
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、本発明によって、前記に記載されていない課題を解決したり、前記に記載されていない効果を奏することもでき、また、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。
【0061】
試験室10は、一室に限らず、同一又は異なる構造や形状のものを複数併設してもよい。あるいは、試験室10は、様々な住宅での煙の流動経路を再現可能なように、形状や大きさを変更可能としてもよい。付室20は、省略してもよく、あるいは共通の試験室10に対して同一又は異なる構造や形状の複数の付室20を隣接配置してもよい。例えば試験室10の後方にも付室20を設けてもよく、この場合には、当該後方の付室20から作業者が出入りして、試験室10のメンテナンス等を行うことが容易となる。
【0062】
上記実施の形態では、加熱対象として木材チップを用いた例を示したが、この木材チップの裁断形状や裁断サイズは任意である。また、必ずしも料理用に製造されたものに限定されず、例えば、舞台演出用に製造されたものや、当初から本試験を意図して製造されたものを使用してもよい。
【0063】
上記実施の形態では、煙感知器50の試験をおこなうために、木材チップを一酸化炭素が発生しない程度に加熱して発煙を行っているが、試験設備1によってガス感知器60についても試験を行うことができるようにしてもよく、この場合には、木材チップが灰になって一酸化炭素を出させるように加熱時間を長く制御したり、加熱温度を上げたりしても良い。このように、煙感知器50の試験とガス感知器60の試験を、同じ試験設備1で行えるようにしても良い。
【0064】
また、試験室10の内部において、試験対象となる煙感知器50の付近に、煙濃度を測定できる装置(例えば分離型煙感知)を配置し、この装置によって試験室10の煙濃度を検出して、煙感知器50が作動する所定の煙濃度になるよう、電気ヒータ32や排気ファン72を制御するようにしてもよい。
【0065】
さらに、試験室10の天井側の温度を測定する手段を備えてもよく、この温度が高い場合は、上昇気流で上がる煙が天井まで届かない可能性があるため、温度が高い時には排気ファン72を回して気流が上昇し易くし、温度が低い時には排気ファン72を止めて実際の火災時の気流のない状態として、試験を行うようにしても良い。
【0066】
あるいは、試験中にシャッター27を開閉制御しているが、吸気口はシャッター27に限られず、例えば試験室10の床に設けてもよく、この場合には当該床に設けた吸気口をシャッター27にて開閉制御しても良い。
【符号の説明】
【0067】
1 煙感知器の試験設備
10 試験室
11〜14、21〜24 壁
12a、12b 排気口
15、25 天井
G 設置面
20 付室
26 開口部
27 シャッター
28 出入り口
30 煙発生装置
31 加熱用トレー
32 電気ヒータ
33 温度センサ
34 煙導管
35 目隠し板
40 擬似火災炎形成装置
41 フレーム
42 布体
43 揺動ファン
44 赤色ランプ
50 煙感知器
60 ガス感知器
70 気流形成機構
71 排気ダクト
71a 上方排気ダクト
71b 後方排気ダクト
71a1、71b ダンパ
72 排気ファン
80 制御盤
81 制御部
82 記憶部
83 入出力端子
90 煙火炎出力装置
91 煙発生部
92 擬似火災炎形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
煙感知器の試験空間を構成する試験室と、当該試験室に配置されたものであって木材チップを加熱することにより煙を発生させる煙発生手段と、当該試験室に配置された煙感知器と、を備えて構成された煙感知器の試験設備を制御する制御方法であって、
前記煙発生手段における前記木材チップの加熱温度を制御する制御手段により、当該加熱温度を、前記木材チップから煙が発生される温度であって、かつ、前記木材チップの燃焼温度未満の温度に制御すること、
を特徴とする煙感知器の試験設備の制御方法。
【請求項2】
前記加熱温度を、前記木材チップの種別毎に記憶した記憶手段を備え、
前記制御手段は、所定方法で特定された前記木材チップの種別に基づいて、当該木材チップの種別に対応する前記加熱温度を前記記憶手段から取得し、当該取得した加熱温度に基づいて制御を行うこと、
を特徴とする請求項1に記載の煙感知器の試験設備の制御方法。
【請求項3】
前記記憶手段は、前記加熱温度を、試験において再現したい火災状況の種別毎に記憶し、
前記制御手段は、所定方法で特定された前記火災状況の種別に基づいて、当該火災状況の種別に対応する前記加熱温度を前記記憶手段から取得し、当該取得した加熱温度に基づいて制御を行うこと、
を特徴とする請求項2に記載の煙感知器の試験設備の制御方法。
【請求項4】
前記記憶手段は、前記加熱温度を、試験開始から試験終了までの試験時間毎に記憶し、
前記制御手段は、所定方法で特定された前記試験時間に基づいて、当該試験時間に対応する前記加熱温度を前記記憶手段から取得し、当該取得した加熱温度に基づいて制御を行うこと、
を特徴とする請求項2又は3に記載の煙感知器の試験設備の制御方法。
【請求項5】
前記試験室の少なくとも一つの側面の下方位置に形成した開口部から、前記煙発生手段及び前記煙感知器を順次介して、前記試験室の少なくとも一つの側面の上方位置又は天井に形成した排気口に向けて排気する気流形成手段を備え、
前記記憶手段は、排気量を記憶し、
前記制御手段は、前記記憶手段から取得した排気量に基づいて、前記気流形成手段の制御を行うこと、
を特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の煙感知器の試験設備の制御方法。
【請求項6】
前記気流形成手段は、前記試験室の天井に形成した排気口と、前記試験室の側面の上方位置に形成した排気口と、に向けて排気を行うものであり、
前記制御手段は、前記試験室の天井に形成した排気口からの排気を開始した後、所定時間経過後に、前記試験室の側面の上方位置に形成した排気口からの排気を開始すること、
を特徴とする請求項5に記載の煙感知器の試験設備の制御方法。
【請求項7】
前記煙発生手段の近傍に、布体に照明を当てると共に、当該布体を送風にて揺動させる擬似火災炎形成手段を設け、
前記記憶手段は、前記布体に対する照明の照度を記憶し、
前記制御手段は、前記記憶手段から取得した照度に基づいて、前記擬似火災炎形成手段の制御を行うこと、
を特徴とする請求項2から6のいずれか一項に記載の煙感知器の試験設備の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−160768(P2010−160768A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4073(P2009−4073)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000003403)ホーチキ株式会社 (792)
【Fターム(参考)】