説明

照射後貯蔵安定性の直接注入可能なデュアルペースト型骨セメントを製造するシステムおよびリン酸カルシウム組成物

本発明は、最終滅菌されていて、製品の輸送および貯蔵中には別個の容器内に保持される2種の貯蔵安定性ペーストの形態で提示される骨セメント前駆体システムに関する。本製品が手術中に使用される場合は、これらのペーストは印加される注入力の作用によって静的混合器具を通して適用部位に注入される。2種のペーストが混合されると、それらは注出される間に相互に反応し始める。結果として生じる組成物は、高度に生体適合性、骨伝導性、注入可能、迅速硬化型および生体吸収性であり、例えば頭蓋顎顔面、外傷および整形外科領域における骨修復手技と結び付けると有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、その開示が参照により本明細書に組み入れられる2009年12月18日に出願された米国特許仮出願第61/287,793号明細書の出願日の恩典を要求するものである。
【0002】
[発明の分野]
本発明の分野は、骨充填材用途のための骨セメントおよび当該セメントの製造に関する。より詳細には、本発明は、ヒトの身体内に植え込むために適合する照射後貯蔵安定性の直接注入可能なデュアルペースト型骨セメント前駆体システムおよび同一物を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リン酸カルシウムをベースとするセメント(CaPC)は、ほぼ20年間にわたり代用骨および骨移植片として使用されてきた。1980年代における研究の焦点は、臨床用途の使用目的のために生体適合性である調製物を開発することであった。これらのCaPC調製物は、歴史的には、混合されるとペーストとなり、部分溶解を経由して沈降反応を開始し、結果としてセメントの硬化を生じる粉末および液体系の形態で提供されてきた。そのようなセメントは、通常はハイドロキシアパタイトもしくはブルシャイト(brushite)であると同定されるリン酸カルシウム相の形態を取る塩を形成する酸−塩基反応に基づいていることが多い。
【0004】
現在利用可能なリン酸カルシウム前駆体セメント調製物の大多数は、今もなお粉末/液体系であり、このとき粉末および液体成分は別個に包装され、手術時の使用前にのみ結合される。この混合は、(a)手動混合、または(b)市販製品で提供される機械式混合システムの使用のいずれかによって遂行される。しかし、どちらのアプローチにも幾つかの欠点がある。手動システムは、多大な時間を要し、使用者依存性/感受性であると考えられることがある。特注設計の機械システムは、最終使用者に一貫性および再現性を提供することによって使用者により満足できる経験を提供することを目的とするが、依然として煩わしく、使用法が面倒で、費用効率が低いと考えられている。
【0005】
したがって、予め混合されたプレミックスの自己硬化性セメントペーストを開発するという目的を備える試験が報告されてきた。例えば、米国特許第6,793,725号明細書は、液体グリセロール、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびリン酸ナトリウムと混合されている、リン酸カルシウムをベースとする自己硬化性骨セメントペーストについて記載している。このプレミックスペースト調製物は、ある期間にわたって安定性のままであり、ヒトの身体内の所望部位に送達された場合にのみ硬化すると言われている。しかしこのプレミックスペースト調製物は、ヒトの身体内の開放湿潤野(open wet field)に適用された場合に良好な流出(washout)抵抗性を示さないので、このため実用性が制限される。
【0006】
米国特許出願公開第2006/0263443号明細書は、さらにまた、ペースト凝集性および流出抵抗性を増強するために、ゲル化剤、例えばヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キトサン、コラーゲン、ガム、ゼラチンおよびアルギン酸塩などを含有するリン酸カルシウムをベースとするプレミックス自己硬化性骨セメントペーストについて開示している。このタイプのセメントは素晴らしい物理的特性を有すると言われているが、例えば組織から利用できる水の量が制限される、またはセメントの内部が至近の移植片−組織界面から数ミリメートル以上離れている一部の臨床的骨移植条件下ではセメント塊の内部でのセメント硬化が緩徐であるために、同様に実用性が制限されている。
【0007】
米国特許出願公開第2007/0092580号明細書は、少なくともその内の一方は水性である、別個の第1および第2容器から構成される自己硬化性二重相セメント前駆体システムについて教示している。しかしこれらの2つの相を結合することによって形成されるセメントは、個別の容器内に包装されたこれら2種のペースト各々の相が貯蔵中に不安定化/分離する傾向があるので、長期貯蔵寿命を有していない。これは特に、デュアルペースト系がγ線を用いて滅菌された後に当てはまる。このため、この調製物もまた実用性が制限されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、インビボ(生体内)使用のためにγ線を使用して滅菌された後にさえ貯蔵安定性である、および結合されると素晴らしい物理的特性を有する生体適合性骨セメントとして迅速に硬化する注入可能なプレミックスのデュアルペースト型骨セメント前駆体システムを提供するという、現時点ではかなえられていない使用者の必要を満たすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様では、本発明は、製品の輸送および貯蔵中には別個の容器内に保持される2つの貯蔵安定性ペーストの形態で提示される迅速硬化型骨セメント前駆体システムに関する。本製品が手術中に使用される場合は、これらのペーストは印加される注入力の作用によって特別設計された静的混合器具を通して適用部位に注入される。2種のペーストが混合されると、それらは注出される間に相互に反応し始める。この反応は身体環境内の適用部位で持続され、ペーストの混合物は規定時間で骨セメントに変換する。結果として生じるセメントは、高度に生体適合性、骨伝導性、注入可能および生体吸収性であり、例えば頭蓋顎顔面、外傷および整形外科領域における骨修復手技と結び付けると有用である。
【0010】
本発明のまた別の態様では、骨セメント前駆体を含有する該少なくとも2種のペーストは、インビボ使用のために、例えばγ線を使用した最終滅菌後でさえ貯蔵安定性である。
【0011】
本発明のさらに別の態様では、本発明は、3カ月より長い、好ましくは6カ月、および最も好ましくは1年間より長い貯蔵寿命を備える照射後貯蔵安定性製品を提供する。
【0012】
本発明の1つの態様は、さらに酸性水性ペーストおよびアルカリ性非水性ペーストを含む安定性で注入可能な骨セメント前駆体システムを提供することである。これらのペースト自体はセメントではないが、結合されると、骨修復手技と結び付けると有用である生体適合性骨セメントを形成することができる。
【0013】
好ましい実施形態では、酸性水性ペーストおよびアルカリ性非水性ペーストは、最終滅菌、例えばγ線に抵抗するように設計されていて、それでも依然として別個に貯蔵された場合の長期貯蔵寿命安定性および注入可能性、ならびに混合された場合に規定時間で硬化してヒドロキシアパタイトをベースとする骨セメントを形成する相互に対する反応性を満たす。結果として生じる骨セメントは、優れた生体適合性および素晴らしい湿潤野流出抵抗特性を示す機械的特性を有する。
【0014】
最終滅菌、例えばγ線、およびpHは、これら2種のペーストが低分子量種に分解する、または粘度を変化させるポリマーゲルに架橋結合するいずれかであるため、これらの2種のペーストに使用できるポリマー添加物の構造的安定性に劇的な影響を及ぼす。したがって、照射後貯蔵安定性骨セメント前駆体システムを提供するために、本発明の1つの態様によるポリマー添加物は、最終滅菌および極度のpH条件を耐え抜くことができなければならない。
【0015】
本出願人らは、照射後安定性が、天然セルロースをベースとするポリマーではなくむしろ合成ポリマーを酸性水性ペースト中のペースト安定化剤として使用することによって達成されることを見いだした。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、セルロースポリマーは、最終滅菌中の酸性水性媒体内では低分子量種に分解し易く、それにより貯蔵中の該ペーストの粘度に影響を及ぼすと考えられている。酸性水性ペーストのために好ましいポリマーをベースとする安定化剤は、ポリビニルピロリドン(PVP)およびポリエチレングリコール(PEG)である。
【0016】
アルカリ性非水性ペーストに関しては、本出願人らは、酸化防止剤との組み合わせに優先的に使用された場合の天然ポリマーまたは合成ポリマーの使用はいずれも、最終滅菌プロセス、例えばγ線に曝露させられた後でさえ、アルカリ性非水性ペーストの長期貯蔵安定性に影響を及ぼさないことを見いだした。アルカリ性非水性ペーストのための好ましいペースト安定化剤は、チオグリセロールなどの酸化防止剤が優先的に使用される場合は、ポリエチレングリコール(PEG)、セルロースをベースとするポリマー、例えばヒドロキシエチルセルロース(HEC)である。
【0017】
本発明の1つの態様によると、酸性水性ペースト組成物は、少なくとも1つの酸性リン酸カルシウム鉱物、少なくとも1つの合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤、pH緩衝剤および保湿剤を含んでいる。
【0018】
少なくとも1つの酸性リン酸カルシウム鉱物は、好ましくはリン酸一カルシウム一水和物(MCPM)、リン酸一カルシウム無水物(MCPA)、リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)、およびリン酸二カルシウム無水物(DCPA)である。
【0019】
少なくとも1つの合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤は、好ましくは、ポリビニルピロリドン(PVP)およびポリエチレングリコール(PEG)である。
【0020】
pH緩衝剤は、好ましくは、クエン酸、酒石酸およびリンゴ酸、ならびにクエン酸三ナトリウムおよび酒石酸二ナトリウムを含むそれらの塩である。最も好ましいpH緩衝剤は、クエン酸である。
【0021】
保湿剤は、好ましくは、グリセロールおよびプロピレングリコールである。
【0022】
好ましい実施形態では、酸性ペースト組成物は、リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)およびリン酸二カルシウム無水物(DCPA)、クエン酸、水、グリセロール、PVPおよびPEGを含んでいる。
【0023】
本発明の1つの態様によると、アルカリ性非水性ペーストは、少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物、少なくとも1つのペースト安定化剤、界面活性剤および溶媒を含んでいる。
【0024】
少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物は、好ましくは、β−リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、オキシアパタイト、ヒドロキシアパタイトまたはカルシウム欠乏性ヒドロキシアパタイトである。最も好ましい少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物は、リン酸四カルシウム(TTCP)である。
【0025】
アルカリ性非水性ペースト中で使用される少なくとも1つの安定化剤は、好ましくは酸化防止剤を含む、もしくは含まない天然ポリマーまたは合成ポリマーをベースとするいずれかである。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、水を含まないペースト系中では、天然および合成ポリマーのどちらも耐え抜けると考えられている。このため、最終滅菌および貯蔵中のペースト安定性を提供する。好ましい少なくとも1つの安定化剤は、ポリエチレングリコール(PEG)、セルロースをベースとするポリマー、例えばヒドロキシエチルセルロース(HEC)であり、そしてセルロースをベースとするポリマーとともに使用するために好ましい少なくとも1つの酸化防止剤は、チオグリセロールである。
【0026】
界面活性剤は、好ましくは、モノステアリン酸グリセロール、レシチン、リン脂質、ジステアリン酸グリセロール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、PEG−PPG−PEGもしくはPPG−PEG−PPGのブロックコポリマー、Tween、Span、任意のポリソルベート脂肪酸エステルまたはソルビトールエステルである。最も好ましい界面活性剤は、ポリソルベート80(Tween80)である。
【0027】
溶媒は、好ましくは、グリセロール、チオグリセロール、エタノール、プロパノール、およびプロピレングリコールの内の1つ以上である。最も好ましい溶媒は、グリセリンおよびプロピレングリコールである。
【0028】
好ましい実施形態では、アルカリ性非水性ペーストは、リン酸四カルシウム、ポリエチレングリコール、ポリソルベート80、およびプロピレングリコールを含んでいる。
【0029】
本発明の他の態様によると、アルカリ性非水性ペーストは、ペースト安定性およびセメント反応性を最大化するために、少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物の二峰性平均粒径分布を含んでいる。より好ましくは、TTCPの二峰性平均粒径分布を備えるアルカリ性非水性ペーストは、酸性水性ペーストと混合されると、アルカリ性非水性ペースト中のTTCPの一峰性平均粒径分布の場合より優れている骨セメントを生成することが証明された。
【0030】
本発明の1つの態様は、本発明の酸性水性ペーストとアルカリ性非水性ペーストとを混合することによって生成されるリン酸カルシウム組成物である。1つの実施形態では、リン酸カルシウムセメントは、迅速硬化型である。また別の実施形態では、リン酸カルシウムセメントは、注入可能である。
【0031】
さらにまた別の実施形態では、リン酸カルシウムセメントは、迅速硬化型および注入可能である。本発明の1つの態様は、手術におけるCaPCの混合および適用を容易にすることである。ここで、それにより使用者が(i)セメントペーストを形成するために粉末および液体成分を混合しなければならない、(ii)セメントペーストを送達用シリンジ内に移さなければならない、および(iii)該セメントペーストを骨空洞内に注入しなければならない、3つの別個の工程の必要を完全に排除するための戦略が立てられた。その代りに、本発明の意図は、それによりセメントペーストをシリンジシステム内に移す必要を排除し、および注入工程中に成分を同時かつ均質に混合するシステムが使用者に提供されるようにこれらの3つの別個の工程を1つの工程に結合することによって単純化することである。
【0032】
本発明のさらに別の態様は、少なくとも1つの合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤、pH緩衝剤、および水を混合する工程と、酸性水性ペーストを形成するために少なくとも1つの合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤、pH緩衝剤および水の混合物に少なくとも1つの酸性リン酸カルシウム鉱物を加える工程と、少なくとも1つのペースト安定化剤、界面活性剤および溶媒を混合する工程と、およびアルカリ性非水性ペーストを製造するために少なくとも1つのペースト安定化剤、界面活性剤、および溶媒の混合物に少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物を加える工程とを含む、照射後貯蔵安定性の直接注入可能なデュアルペースト型骨セメント前駆体組成物を製造する方法である。
【0033】
本発明によると、本方法は、前記酸性水性ペーストおよび前記アルカリ性非水性ペーストの前記混合されたペーストを印加された注入力の作用によって適用部位へ注入できるように、1つの容器内に該酸性水性ペーストを貯蔵する工程と、該アルカリ性非水性ペーストを別の容器内に貯蔵する工程と、および別個の容器から静的混合器具へ該ペーストを同時に注入する器具を提供する工程とをさらに含むことができる。
【0034】
本発明の1つの態様は、2つのホールディングチャンバを含む注入可能なデュアルペースト型セメント前駆体システムであって、第1ホールディングチャンバは酸性水性ペーストを含み、第2ホールディングチャンバはアルカリ性非水性ペーストを含む注入可能なデュアルペースト型セメント前駆体システム、および混合器具を含むキットを提供することであり、このとき該水性ペーストおよび該アルカリ性非水性ペーストは混合され、適用された注入力の作用によって適用部位へ注入される。
【0035】
本発明のまた別の態様は、シリンジ本体および静的混合チップであって、該シリンジ本体は少なくとも1つの酸性リン酸カルシウム鉱物、少なくとも1つの合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤、pH緩衝剤および保湿剤を含む酸性水性ペーストを含有する第1ホールディングチャンバと、少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物、少なくとも1つのペースト安定化剤、界面活性剤および溶媒を含むアルカリ性非水性ペーストを含有する第2ホールディングチャンバを含み、該静的混合チップは、該2つのペーストがブレンドされて所望部位に適用されることを許容する構造を含む、注入可能なデュアルペースト型骨セメント前駆体システムのための器具を提供することである。1つの実施形態では、器具は、静的ミキサを有するデュアルバレル・シリンジシステムであり、本発明の酸性水性ペーストおよび本発明のアルカリ性非水性ペーストは各バレル内に1:1の比率で貯蔵され、ブレンドして硬化を開始させるために静的ミキサ内で混合され、所望の部位へ適用される。また別の態様では、本器具および/またはデュアルバレル・シリンジシステムは、貯蔵寿命保護を保証するために水分および空気漏れを減少させるためのシールを保持している。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の酸性水性ペーストおよびアルカリ性非水性ペーストの分散分析結果を示すグラフである。
【図2】老化試験前後の、実施例2の酸性水性ペーストEおよび実施例3のアルカリ性非水性ペーストD1を含む、本発明の調製物の湿潤野試験の分析結果を示すグラフである。
【図3】老化試験前後の、実施例2の酸性水性ペーストEおよび実施例3のアルカリ性非水性ペーストD1を含む、本発明の調製物の注入可能性試験の分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
特許請求の範囲を含む本明細書の全体を通して、用語「含む」およびこの用語の変形、例えば「含んでいる」、ならびに「有する」、「有している」、「包含する」、および「包含している」など、およびそれらの変形は、それが参照する指名された工程、要素もしくは材料は重要であるが、その他の工程、要素、もしくは材料も加えることができ、そしてまた本特許請求の範囲または本開示の範囲内の構成物を形成できることを意味している。本発明の説明および特許請求の範囲内で言及された場合は、この用語は、本発明および要求されることがそれに続くこと、潜在的にそれ以上のことがあると考えられることを意味している。これらの用語は、特に特許請求の範囲に適用される場合は、包含的もしくは無制限であり、追加の言及されていない要素または方法、工程を排除しない。
【0038】
本明細書の用語「セメント」は、セメント調製物、セメント組成物および骨セメントと互換的に使用される。
【0039】
1つの範囲と結び付けて使用される用語「〜の間」は、状況が他のことを示唆しない限り終点を包含する。
【0040】
本明細書で使用される用語「長期貯蔵寿命」または「貯蔵安定性」は、該デュアルペースト系が以下で詳細に記載する促進老化試験によると密閉容器中に規定期間、少なくとも1.5カ月間、好ましくは3カ月間、より好ましくは少なくとも6カ月間および最も好ましくは1年間超にわたり貯蔵された後に、該ペースト内のセメント前駆体、例えばリン酸カルシウム鉱物、およびその他の粉末材料が実時間および促進老化状態に曝露させられた場合に液体から分離しないこと、そして対応する酸性水性/アルカリ性非水性ペーストと混合され骨セメントを形成すると硬化することを意味している。
【0041】
本明細書において本発明で使用される用語「アルカリ性非水性ペースト」は、このペーストが非水性溶媒、例えばグリセロールもしくはプロピレングリコールおよび塩基性リン酸カルシウム鉱物を包含すること、該ペーストが該酸性水性ペーストと混和可能であることを意味している。アルカリ性非水性ペースト内では、微量の水分、例えばそのような水分を排除するために合理的に賢明な工程にもかかわらず不回避的に存在する水分が存在する可能性があることは想定されている。アルカリ性非水性ペースト自体は、該ペースト自体が普通の使い方では硬化して硬質材料を形成することはないという点で、セメントではない。むしろ、アルカリ性非水性ペーストが酸性水性ペーストと結合されると、それによりセメントが形成される。
【0042】
本明細書において本発明で使用される用語「酸性水性ペースト」は、このペーストが水および酸性リン酸カルシウム鉱物を包含すること、該ペーストが該アルカリ性非水性ペーストと混和可能であることを意味している。酸性水性ペースト自体は、該ペースト自体が普通の使い方では硬化して硬質材料を形成することはないという点で、セメントではない。むしろ、酸性水性ペーストがアルカリ性非水性ペーストと結合されると、それによりセメントが形成される。
【0043】
本明細書において本発明で使用される用語「注入可能」は、1つの容器内に保持されている酸性水性ペースト、および別個の容器内に保持されているアルカリ性非水性ペーストが、印加された注入力の作用によってカニューラ、ニードル、カテーテル、シリンジまたは特別設計静的混合器具を通して適用部位に送達できることを意味している。この注入力は、以下の実施例1、2および3で設定したように18℃〜22℃の間の周囲温度で試験され、最終使用者に容易な注入可能性を許容するために225N、およびより好ましくは150Nを超えない。
【0044】
本明細書によって使用される用語「迅速硬化」は、該酸性水性ペーストおよびアルカリ性非水性ペーストが混合されて欠損部位へ送達された場合に、欠損部温度が約32℃である場合に該混合物が約10分間以内、好ましくは約9分間以内、最も好ましくは約8分間以内にセメントを形成することを意味している。
【0045】
本明細書において本発明で使用される用語「硬化」は、以下で詳細に記載する湿潤野貫入抵抗性(wet field penetration resistance test)試験によって測定される貫入力が好ましくは10MPaを超える、より好ましくは20MPaを超える、および最も好ましくは24MPaを超えることを意味している。
【0046】
セメントと結び付けて使用される場合の用語「生体適合性」は、所定の適用においてインビボで使用された場合に軟組織もしくは硬組織によって拒絶されないセメントを想定している。
【0047】
キットについて
好ましくは、本システムはキットの形態で提供されるが、本キットは、製品の貯蔵寿命を通して別個の水分不透過性ホールディングチャンバ(例えば、ガラス、環式オレフィンコポリマープラスチックなど)内に酸性水性ペーストおよびアルカリ性非水性ペーストを含む注入可能なデュアルペースト型セメント前駆体システムと適合する混合器具とを含んでいる。混合器具は、従来型であってよく、またはさもなければ当技術分野で教示されたセメント前駆体システムと一緒に使用するために適合する器具であってよい。
【0048】
好ましくは、本発明によると静的混合チップを備えるシリンジ本体を有する器具が使用されるが、該混合チップは2種のペーストを迅速にブレンドし、引き続いて所望領域に適用することを許容するオーガ(auger)様構造を含んでいる。シリンジ本体は、酸性水性ペーストおよびアルカリ性非水性ペーストのための別個のホールディングチャンバを提供することによって、別個のペースト用の容器として機能する領域を含むことができる。
【0049】
任意の適合する容器を本発明と結び付けて使用することができるので、そこで例えば、容器は任意の適合する箱、またはバッグ、またはパッケージであってよい。
【0050】
ペースト内のセメント前駆体について
セメント前駆体は、生体適合性セメントを形成する際に使用するために適合する任意の材料であってよい。本発明と結び付けて、多数のセメント化学を使用できる。好ましい実施形態では、リン酸カルシウムセメントが使用される。1つの実施形態では、リン酸カルシウムセメントは、2種の前駆体ペーストの内の少なくとも一方の中で少なくとも1つのリン酸カルシウム材料を結合する工程によって形成できる。また別の実施形態では、リン酸カルシウムセメント、例えばヒドロキシアパタイトは、2つの前駆体ペースト中に各々存在する少なくとも2つの異種のリン酸カルシウム材料を結合する工程によって形成される。
【0051】
ペーストは単一のリン酸カルシウム材料だけを包含する必要はないので、このため例えば、ペーストは各々複数のリン酸カルシウム材料を包含することができ、そして第3リン酸カルシウム材料の一部は該ペーストの一方または両方の中に最初に存在してよい。
【0052】
一般に、Ca/P比は、各ペースト内で0.5〜2.0の範囲に及ぶことが好ましい。一部の実施形態では、特にヒドロキシアパタイトを形成することが望ましい場合は、ペーストの一方はCa/P比が5/3未満であるリン酸カルシウムを包含し、もう一方はCa/P比が5/3より大きいリン酸カルシウム化合物を包含している。ヒドロキシアパタイト内のCa/P比は5/3であり、より多い、およびより少ない量の両方のカルシウムおよびリン酸塩を提供することはヒドロキシアパタイトの形成を駆動すると考えられる。特に硬化促進剤が使用される場合は、2種のそのようなペーストを使用することは必要とされない。一部の実施形態では、ペーストの一方でのCa/P比は、5/3に等しい。上記に記載したリン酸カルシウムセメントを用いたヒドロキシアパタイトの形成においては、ヒドロキシアパタイトの形成は、該セメントが約8を超えるpHで最初に形成される場合、およびそのようなセメントのための前駆体の選択が8以上のpHを提供する場合には緩徐に進行する可能性があるので、硬化促進剤の使用が好ましい。一部の実施形態では、結果として生じるセメント、例えばDCPAまたはDCPDにおいて相違するリン酸カルシウムの形成を誘発するために全Ca/Pを選択することができる。
【0053】
さらに、少なくとも1つのリン酸カルシウムの粒径は、粒径がpHを、および結果として硬化反応速度および強度を制御することによって硬化反応の化学的性質に作用を及ぼすので、セメントの混合および注入中のリン酸カルシウム鉱物の迅速な溶解速度を修飾するために調整できる。
【0054】
リン酸カルシウム鉱物(ならびに各ペーストに加えられる任意の他の粉末成分)の粒径は、Beckman Coulter社製のLS 13320シリーズ粒径分析装置を使用して測定した。本明細書に言及した粒径値は、体積平均径を意味することに留意されたい。
【0055】
分析用サンプルは、担体媒体中に少量の粉末を加えることによって調製した。粉末材料がリン酸カルシウムの場合は、エタノールを使用した。スラリーは、サンプルの分析前に短時間にわたり強力に混合した。
【0056】
次に平均径値の体積分布を入手した。測定が完了したら、セルを空にして洗浄し、担体媒体中の粉末のスラリーを再充填し、これを数回繰り返した。
【0057】
リン酸カルシウム鉱物について
本発明によって有用なリン酸カルシウムの少なくとも1つの入手源は、一般には既に当技術分野において公知である、例えばそれらの教示が参照により本明細書に組み入れられるBrown and Chowの米国再発行特許第33,161号明細書および第33,221号明細書、Chow and Takagiの米国特許第5,522,893号明細書、第5,542,973号明細書、第5,545,294号明細書、第5,525,148号明細書、第5,695,729号明細書および第6,325,992号明細書ならびにConstantzの米国特許第4,880,610号明細書および第5,047,031号明細書に記載された極めて多数のリン酸カルシウム鉱物を包含する。
【0058】
本発明のこの実施形態と結び付けて、任意の適合するカルシウム化合物を使用できる。好ましい実施形態では、カルシウム化合物は、約0.5〜2.0の範囲内のCa/P比を有するリン酸カルシウムである。または、あるいはそれに加えて、カルシウム化合物は、適合するカルシウム塩、または酸中でやや溶けにくい任意の適合するカルシウム化合物であってよい。
【0059】
本発明と結び付けて使用するために適合する典型的なカルシウム化合物には、リン酸四カルシウム(TTCP)、リン酸二カルシウム無水物(DCPA)、リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)、リン酸一カルシウム無水物(MCPA)、リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)、α−リン酸三カルシウム(α−TCP)、β−リン酸三カルシウム(β−TCP)、ヒドロキシアパタイト(HA)、非晶質リン酸カルシウム(ACP)、リン酸五カルシウム(OCP)、カルシウム欠乏性ヒドロキシアパタイト(CDH)、炭酸塩含有ヒドロキシアパタイト(CHA)、フッ化物含有ヒドロキシアパタイト(FHA)、乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化カルシウム、および酸性環境内で少なくとも約2重量%の溶解度を備える他の生体適合性カルシウム化合物が包含される。一般に、生体適合性である、および適合するセメントを形成するカルシウム化合物を使用できる。特定のカルシウム化合物の選択は、例えば該化合物と選択された酸との反応性、およびさらに該セメントの全酸含有量および全塩基含有量、ならびに所望の最終セメント製剤を含む数多くの要素に基づいてよい。
【0060】
酸性水性ペーストについて
好ましい実施形態では、酸性水性ペースト組成物は、少なくとも1つの酸性リン酸カルシウム鉱物、少なくとも1つの合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤、pH緩衝剤、保湿剤、および水を含んでいる。
【0061】
酸性リン酸カルシウム鉱物について
酸性リン酸カルシウム鉱物は、好ましくはリン酸一カルシウム一水和物(MCPM)、リン酸一カルシウム無水物(MCPA)、リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)、およびリン酸二カルシウム無水物(DCPA)である。
【0062】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの酸性リン酸カルシウム鉱物の平均粒径は、約0.4μm〜約200μm、好ましくは約0.7μm〜約150μm、および最も好ましくは約1μm〜約90μmの間である。
【0063】
酸性水性ペーストがMCPMおよびDCPAを含有するより好ましい実施形態では、MCPMの平均粒径は、約0.4μm〜約200μm、好ましくは約10μm〜約150μm、および最も好ましくは約30μm〜約90μmの間である。DCPAの平均粒径は、約0.4μm〜約200μm、好ましくは約0.7μm〜約50μm、および最も好ましくは約1μm〜約20μmの間である。
【0064】
酸性水性ペースト中に存在する酸性リン酸カルシウム鉱物の量に関しては、酸性リン酸カルシウム鉱物は、酸性水性ペーストの総重量に基づいて約1%w/w〜約80%w/w、および好ましくは約5%w/w〜約65%w/wの間の量で存在してよい。
【0065】
酸性水性ペーストがMCPMおよびDCPAを含有する好ましい実施形態では、MCPMは酸性水性ペーストの総重量に基づいて約1%w/w〜約40%w/w、より好ましくは約5%w/w〜約20%w/wの間の量で存在してよい;およびDCPAは、酸性水性ペーストの総重量に基づいて約20%w/w〜約80%w/w、より好ましくは約40%w/w〜約65%w/wの間の量で存在してよい。
【0066】
酸性水性ペーストのための合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤について
本発明による合成ペースト安定化剤は、物理的状態の望ましくない変化、例えばペーストが最終滅菌のためのγ線に曝露させられた後にさえ粉末成分の液体成分からの分離を防止する、または遅延させるための、酸性水性ペーストを安定化するために有用な任意の材料であってよい。
【0067】
本出願人らは、酸性水性ペーストの照射後安定性が、天然セルロースをベースとするポリマーよりむしろ合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤の使用によって達成されることを見いだした。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、天然セルロースポリマーは最終滅菌中に酸性水性媒体内では低分子量種に分解し易く、それにより貯蔵中の該ペーストの粘度に影響を及ぼすと考えられている。
【0068】
本発明による合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤は、滅菌のためにγ線に曝露させられた後でさえ、酸性水性ペーストが長期間にわたり貯蔵安定性のままであることを許容する。
【0069】
酸性水性ペースト中で使用できるペースト安定化剤の例は、制限なく、PVPおよびPEGである。
【0070】
PVPは最終滅菌中に塩基性媒体中では極めて頻回に架橋結合するが、酸性媒体中では、ピロリドン環は主としてイオン相互作用を通してカルシウム塩と係合するので、特にカルシウム塩の存在下では架橋結合の速度が緩徐であると考えられている。したがって、ピロリドン環は、開環して架橋結合することから保護される。より高量のPVPを含む酸性水性ペーストはより高度の安定性を提供するが、これはアルカリ性非水性ペーストに対する反応性の減少を生じさせる。このため、PVPが酸性水性ペーストのための合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤として使用される場合は、最適レベルで存在しなければならない。
【0071】
酸性水性ペースト中のPVPの平均分子量(Mw)は、約1,000Mw〜約1,000,000Mw、好ましくは約10,000Mw〜約100,000Mw、より好ましくは約20,000〜約80,000Mw、いっそうより好ましくは約40,000Mw〜約70,000Mw、最も好ましくは50,000Mw〜約60,000の間である。
【0072】
酸性水性ペースト中のPVPの量に関して、該PVPは、該ペーストの総重量に基づいて約0%w/w〜約40%w/w、より好ましくは約0.05%w/w〜約20%w/w、最も好ましくは1%w/w〜10%w/wの間の量で存在してよい。
【0073】
さらに、PEGは酸性水性ペースト中の水素分子と結合し、それにより安定性を生成するために本システム内の水分子の移動度を緩徐化すると考えられる。PEG鎖の分子量は、鎖自体の剛性が安定性において重要な役割を果たすので、重要である。より高量のPEGを含む酸性水性ペーストはより高度の安定性を提供するが、これはアルカリ性非水性ペーストに対する反応性の減少を生じさせる。このため、PEGが酸性水性ペーストのための合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤として使用される場合は、最適レベルで存在しなければならない。
【0074】
酸性水性ペースト中のPEGの平均分子量(Mw)は、約1,000Mw〜約60,000Mw、好ましくは約5,000Mw〜約40,000Mw、より好ましくは約10,000Mw〜約40,000Mw、最も好ましくは15,000Mw〜約25,000Mwの間である。
【0075】
酸性水性ペースト中のPEGの量に関して、該PEGは、該ペーストの総重量に基づいて約0%w/w〜約40%w/w、より好ましくは約0.05%w/w〜約20%w/w、最も好ましくは1%w/w〜10%w/wの間の量で存在してよい。
【0076】
pH緩衝剤について
酸性水性ペースト中では、pH緩衝剤は、ペースト安定性を提供する目的で、より低いpHを提供するため、ならびに少なくとも1つの酸性リン酸カルシウム鉱物とのイオン相互作用を形成するために該ペーストに加えられる。1つの理論に結び付けることを望まなくても、本発明によるpH緩衝剤は、酸性水性ペーストおよびアルカリ性非水性ペーストがいったん結合されると、硬化反応に影響を及ぼす硬化促進剤として機能できる。
【0077】
本発明において使用できるpH緩衝剤の例は、制限なく、クエン酸、リン酸、酒石酸およびリンゴ酸、ならびにクエン酸三ナトリウム、リン酸一ナトリウムおよび酒石酸二ナトリウムを包含するそれらの塩である。好ましいpH緩衝剤は、クエン酸である。クエン酸は、無水物、一水和物、または二水和物である幾つかの形態で提供されることがある。クエン酸の好ましい形態は、一水和物形である。
【0078】
pH緩衝剤は、約1%w/w〜約10%w/wの間の量で、またはより好ましくは約5%w/w〜約8%w/wの間の量で存在している。
【0079】
保湿剤について
本発明による保湿剤は、水素結合の形成を通して酸性水性ペースト中の水分子を無傷に保ち、そこで該ペーストのペースト安定性および注入可能性を増強するのに役立つ任意の材料であってよい。より高量の保湿剤を含む酸性水性ペーストはより高度の注入可能性を提供するが、これはアルカリ性非水性ペーストに対する反応性の減少を生じさせる。このため、酸性水性ペースト中で保湿剤が使用される場合は、最適レベルで存在しなければならない。
【0080】
本発明において使用できる保湿剤の例は、制限なく、グリセロール、プロピレングリコール、グリコールトリアセテート、ソルビトール、乳酸、および尿素である。最も好ましい保湿剤は、グリセロールである。
【0081】
保湿剤の量に関して、保湿剤は、酸性水性ペースト中において該酸性水性ペーストの総重量に基づいて約0%w/w〜約4%w/w、より好ましくは約0.5%w/w〜約2%w/wの間の量で存在してよい。
【0082】
水について
酸性水性ペースト中に存在する水の量は、該水性ペーストの総重量に基づいて約10w/w%〜約30w/w%、より好ましくは約15w/w%〜約25w/w%の間であってよい。
【0083】
アルカリ性非水性ペーストについて
好ましい実施形態では、アルカリ性非水性ペースト組成物は、少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物、少なくとも1つのペースト安定化剤、界面活性剤、および溶媒を含んでいる。
【0084】
塩基性リン酸カルシウム鉱物について
塩基性リン酸カルシウム鉱物は、好ましくは、β−リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、オキシアパタイト、ヒドロキシアパタイトまたはカルシウム欠乏性ヒドロキシアパタイトである。最も好ましい少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物は、リン酸四カルシウム(TTCP)である。
【0085】
また別の好ましい実施形態では、少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物の平均粒径は、約0.4μm〜約200μm、好ましくは約2μm〜約90μm、より好ましくは30μm〜約70μm、および最も好ましくは45μm〜約55μmの間である。
【0086】
アルカリ性非水性ペーストがTTCPの二峰性分布を含有するまた別の実施形態では、第1セットのTTCPの平均粒径は、好ましくは2μm〜約60μm、より好ましくは10μm〜30μmであり、および第2セットのTTCPの平均粒径は、10μm〜90μm、より好ましくは25μm〜60μmである。
【0087】
アルカリ性非水性ペースト中に存在する塩基性リン酸カルシウム鉱物の量に関しては、該アルカリ性非水性ペーストの総重量に基づいて、約1%w/w〜約90%w/w、および好ましくは約10%w/w〜約80%w/wの間の量で存在してよい。
【0088】
アルカリ性非水性ペーストがTTCPを含有する最も好ましい実施形態では、該TTCPは、該アルカリ性非水性ペーストの総重量に基づいて約40%w/w〜約90%w/w、より好ましくは約60%w/w〜約80%w/wの間の量で存在してよい。
【0089】
アルカリ性非水性ペーストのためのペースト安定化剤について
本発明によるペースト安定化剤は、物理的状態の望ましくない変化、例えばペーストが最終滅菌のためのγ線に曝露させられた後にさえ粉末成分の液体成分からの分離を防止する、もしくは遅延させるための、アルカリ性非水性ペーストを安定化するために有用な任意の材料であってよい。
【0090】
アルカリ性非水性ペーストに関しては、本出願人らは驚くべきことに、天然または合成ポリマーのいずれかの使用は、最終滅菌プロセス、例えばγ線に曝露させられた後でさえ非水性ペーストの長期貯蔵安定性に影響を及ぼさないことを見いだした。
【0091】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、ペースト安定化剤、例えばPEGおよび/またはセルロースポリマーが、非水性溶媒、例えばグリセロールもしくはプロピレングリコール中に溶解させられると、その中にTTCP粒子が懸濁させられ、それによって長期間にわたり該ペーストを貯蔵安定性にさせる複合水素結合ネットワークが形成されると考えられている。
【0092】
アルカリ性非水性ペースト中で使用できるペースト安定化剤の例は、制限なく、合成ポリマー、例えばPEG、または天然セルロースをベースとするポリマー、例えばヒドロキシエチルセルロース(HEC)、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。アルカリ性非水性ペーストのための最も好ましいペースト安定化剤は、チオグリセロールなどの酸化防止剤が優先的に使用される場合はPEGおよびHECである。
【0093】
アルカリ性非水性ペースト中のPEGの平均分子量(Mw)は、約1,000Mw〜約60,000Mw、好ましくは約5,000Mw〜約40,000Mw、より好ましくは約10,000Mw〜約40,000Mw、最も好ましくは15,000Mw〜約25,000Mwの間である。
【0094】
アルカリ性非水性ペースト中のPEGの量に関して、該PEGは、該ペーストの総重量に基づいて約0%w/w〜約20%w/w、より好ましくは約0.5%w/w〜約10%w/w、しかし最も好ましくは1%w/w〜5%w/wの間の量で存在してよい。
【0095】
アルカリ性非水性ペースト中のHECの平均分子量(Mw)は、約90,000Mw〜約1,500,000Mw、好ましくは約1,000,000Mw〜約1,400,000Mwの間である。
【0096】
アルカリ性非水性ペースト中に存在するHECの量に関して、該HECは、該ペーストの総重量に基づいて約0%w/w〜約5%w/w、より好ましくは約0%w/w〜約1%w/w、しかし最も好ましくは0%w/w〜0.5%w/wの間の量で存在してよい。
【0097】
界面活性剤について
本発明による界面活性剤は、液体中に粒子を懸濁させることに役立つことによりコロイド粒子の凝集を防止するため、およびアルカリ性非水性ペースト中の塩基性リン酸カルシウム鉱物の表面張力を低下させるために有用な任意の材料であってよい。
【0098】
本発明の界面活性剤は、少なくとも2種のペーストの内の一方にだけ、または少なくとも2種のペーストの全部に供給されてよい。しかし、酸性水性ペーストおよびアルカリ性非水性ペーストを含有する系内で2種のペーストが存在する好ましい実施形態では、界面活性剤はアルカリ性非水性ペースト中にのみ存在する。
【0099】
本発明において使用できる界面活性剤の例は、制限なく、モノステアリン酸グリセロール、レシチン、リン脂質、ジステアリン酸グリセロール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、PEG−PPG−PEGもしくはPPG−PEG−PPGのブロックポリマー、Tween、Span、任意のポリソルベート脂肪酸エステルまたはポリソルベートオレイン酸(オレイン酸から)またはソルビトールエステルである。最も好ましい界面活性剤は、ポリソルベート80である。
【0100】
界面活性剤の量に関して、界面活性剤は、少なくとも2種のペーストが結合された場合に、全調製物の総重量に基づいて約0%w/w〜約4%w/w、より好ましくは約0.5%w/w〜約2%w/wの間の量で存在してよい。
【0101】
本発明の好ましい実施形態では、界面活性剤は、MCPMおよびDCPAを含有する酸性水性ペーストの総重量に基づいて、約0%w/w〜約4%w/w、より好ましくは約0.5%w/w〜約2%w/wの間の量で存在してよい。そして、反応遅延剤は、TTCPを含有するアルカリ性非水性ペーストの総重量に基づいて約0%w/w〜約4%w/w、より好ましくは約0.5%w/w〜約2%w/wの間の量で存在してよい。
【0102】
アルカリ性非水性ペースト中の溶媒について
アルカリ性非水性ペーストのための溶媒は、水を除く、室温で任意の適合する非水性液体であってよい。本発明によるアルカリ性非水性ペーストのための溶媒の例は、制限なく、グリセロール、エタノール、プロパノール、およびプロピレングリコールである。好ましい溶媒は、それらが生体適合性および水との完全混和性であるために、グリセリンおよびプロピレングリコールである。
【0103】
アルカリ性非水性ペースト中の非水性液体溶媒は、該アルカリ性非水性ペーストの総重量に基づいて約10%w/w〜約40%w/w、より好ましくは約20%w/w〜約30%w/w、および最も好ましくは約22%w/w〜約28%w/wの間の量で存在してよい。
【0104】
添加物について
本発明のセメント、スラリーおよびペースト中には、それらの特性およびそれらから製造されるヒドロキシアパタイト製品の特性を調整するために様々な添加物を包含することができる。例えば、タンパク質、骨誘導性および/または骨伝導性材料、X線不透過剤、医薬品、支持用もしくは強化用充填材料、結晶成長調整剤、粘度修飾剤、孔形成剤、およびその他の添加物ならびにそれらの混合物は、本発明の範囲から逸脱することなく組み入れることができる。
【0105】
セメント内に存在する化合物および機能的材料の性質は、上記に記載した成分には限定されず、それとは反対に、任意の他の適合する骨伝導性、生物活性、生物不活性、または他の機能的材料は本発明と結び付けて使用できる。使用されると、これらの最適な成分は、それらの所定の目的に適合する任意の量で存在してよい。例えば、特にリン酸カルシウムセメントの場合には、一方または両方のセメント前駆体相は、硬化促進剤、例えばリン酸、塩酸、硫酸、シュウ酸、およびそれらの塩、ならびにリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、およびフッ化ナトリウムを包含することができる。一部の実施形態では、リン酸カルシウム材料自体の一部は、硬化を促進できる。例えば、MCPMおよび所定のナノサイズのリン酸カルシウム材料は、セメントの硬化を促進できる。本発明と結び付けて、任意の他の適合する硬化促進剤を使用できる。硬化促進剤は、2005年4月7日に公表されたChow et al.の米国特許出願公開第2005/0074415号明細書により詳細に記載されている。
【0106】
一部の実施形態では、セメント前駆体の1つは骨誘導性タンパク質を包含していて、それにより骨形成を支援する、または誘導する際に有用である任意のタンパク質が想定されている。骨誘導性タンパク質は、少なくとも多数の公知の骨誘導性タンパク質のためには、そのようなタンパク質がアルカリ性pHでは変性し得るので、カルボキシル/カルシウムセメント系と結び付けて使用するために特に適合すると見なされている。
【0107】
また別の任意の成分は、充填材、例えばX線不透過性充填材である。X線不透過充填材は、例えば、適合するビスマス、バリウム、またはヨウ化物化合物、例えば硫酸バリウムまたは水酸化ビスマスであってよい。その他の適合する充填材には、バイオガラス、シリカベース、アルミナベース、二相性のリン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、顆粒状リン酸カルシウムセラミックスなどが含まれる。
【0108】
医薬品、例えば亜鉛、マグネシウム、ストロンチウム、ホウ素、銅、シリカまたは任意の他の適合する医薬品は、セメント前駆体の一方または両方の相に包含されてよい。
【0109】
これらの相のいずれかまたは両方は、相の粘度、凝集性、または注入可能性に影響を及ぼすことが意図される材料を包含することができる。任意の適合する生体適合性成分。
【0110】
一部の実施形態では、マクロ孔形成材料を使用できる。例えば以前に米国特許第7,018,460号明細書および第6,955,716号明細書において開示されたように、マクロ孔形成材料、例えばマンニトールは、マクロ孔、または150ミクロンより大きな径を有する孔を形成する際に有用である。そのような孔は時々は望ましい、そしてそれらはこれらのセメントの領域内もしくは近傍での軟組織の成長を促進する際に有用な可能性がある構造を作り出すと見なされている。
【0111】
さらに米国特許第7,018,460号明細書および第6,955,716号明細書に記載されているように、一部の実施形態では、1つ以上の強度増強成分、例えば繊維、メッシュなどを使用できる。そのような成分は、吸収性または非吸収性であってよい。
【実施例】
【0112】
本発明による数種の調製物は、以下の実施例1〜3に例示した通りに製造した。以下には実施例1〜3で使用した略語の表を提供した。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
【表3】

【0116】
【表4】

【0117】
本発明の骨セメントのための前駆体を含有するデュアルペーストに、それらが性能要件を満たすことを検証するために一連の認定試験を受けさせた。本発明のデュアルペースト系を長期安定性について分析した。
【0118】
長期安定性は、任意の技術によって、または適切と見なされる任意の基準を使用することによって測定できる。1つのそのような技術によると、該ペーストを構成する材料のサンプルを最初にγ線照射し、促進老化チャンバ内に入れて相対湿度75%で40℃の温度に加熱し、この温度を規定期間にわたって保持する。次にセメントを形成するために酸性水性ペーストおよびアルカリ性非水性ペーストを混合し、セメントの硬化時間を、熱処理を行わずにこれらのペーストのいずれかから製造された類似セメントの元来の硬化時間と比較して評価する。熱処理された相を用いて製造されたセメントの硬化時間が類似のセメントの硬化時間とほぼ同等である場合は、このペーストは本発明と結び付けて使用するために適切に安定性であると見なすことができる。本発明は、この基準を満たすセメント前駆体システムには限定されない。むしろ、上記は、安定性を評価するための多数の考えられる方法の1つを例示するために提供されている。
【0119】
本発明の場合に、実施例1〜3に例示したペーストを、最初にγ線を用いて滅菌し、促進老化試験チャンバ内に入れた。引き続いて、骨セメントを形成するために酸性水性ペーストおよびアルカリ性非水性ペーストを混合し、以下でより詳細に記載するように、生じた骨セメントを、(1)老化安定性、(2)湿潤野貫入抵抗性、(3)圧縮強度および(4)注入可能性について試験した。
【0120】
γ線照射
実施例1〜3のペーストを滅菌するために、その開示が参照により本明細書に組み込まれるISO 11137−2プロトコルにしたがって25〜35kGyの範囲に及ぶ照射線量を使用した。上記で言及した照射線量は単なる好ましい範囲であり、照射線量は上述した範囲内に限定するべきではないが、有害作用、例えばペーストの分解、安定性消失、有効性消失などを最小限に抑えながら滅菌のために十分であるように選択しなければならない。
【0121】
滅菌のためのγ線への曝露後、ペーストは、老化前および以下で説明するような規定期間にわたって促進老化試験条件に置いた老化後の両方について試験した。
【0122】
老化試験
上記の実施例1〜3に記載した水性およびアルカリ性非水性ペーストを長期安定性に関して分析した。
【0123】
様々なペーストを空気および水分不浸透性のデュアルバレル・シリンジシステムに充填し、21℃の周囲温度に設定した気候オーブン内に配置し、規定期間にわたって老化させた。
【0124】
規定期間にわたる老化試験条件下への曝露後、デュアルペーストの安定性およびセメント性能を評価するためにペーストを分析した。ペースト老化試験結果が老化させていない、すなわち時点ゼロに試験されたコントロールサンプルと直接的に匹敵した場合に、ペースト安定性に関する良好な結果が達成されたと見なした。そのような結果は、使用した試験条件下で経時的にペースト系の検出可能な分解を全く示さなかった。結果は、下記の表Aに提示した。
【0125】
分散分析;LUMISIZER試験
セメントを実施例1、2および3に記載した通りに製造し、滅菌のためにγ線に曝露させ、LUMISIZER分析を使用することによって分散分析により安定性について試験した。試験対象のおよそ0.5mLのペーストを清浄なLUMISIZERバイアル内の規定ラインまで充填した。次にこのバイアルを添付のスクリューキャップ式の蓋で密封し、この密封したバイアルを次にLUMISIZER内に配置して固定した。これで分散分析試験を実施して完了まで実行することができる。この試験方法からの出力は、遠心力によってペースト上に印加される比重への時間に関連付けたペースト系の分散を提示する。この分散データは、ペースト系の安定性を間接的に相関付けるために使用でき、そして様々なペースト系間の比較目的に使用できる。老化ペースト分散試験結果が老化させていない、すなわち時点ゼロに試験されたコントロールサンプルと直接的に匹敵した場合に、ペースト安定性に関する良好な結果が達成されたと見なした。そのような結果は、使用した試験条件下で経時的にペースト系の検出可能な分解を全く示さなかった。図1は、様々な時点(各々、0、1、3、7、14、15、21および/または28日後)に試験された様々な調製物について生成された分散分析試験結果の要旨である。
【0126】
湿潤野貫入抵抗性試験
実施例1〜3に記載した通りに製造したセメントを滅菌のためのγ線および促進老化試験条件に曝露させ、湿潤野貫入抵抗性について試験した。本試験は、規定時点にセメントに通してロードアプリケータを適用する工程からなる。ロードアプリケータは、径が1/16”のステンレススチール製の小円筒形ニードルから作製した。酸性水性ペーストおよびアルカリ性非水性ペーストの最初の混合直後に、セメント組成物を32℃に加熱したブロックの長い溝(幅1/4”×深さ1/4”)の中に配置した。初期混合の1分後、20rpmに設定したWatson Marlow 323蠕動式ポンプを使用してセメントに飽和リン酸塩溶液の定常流を受けさせた。この溶液を32℃で一定に維持した。初期混合から10分後、ロードアプリケータをセメントに1.27mm貫入させ、生じた力を記録した。以下の表Aは、実施例1〜3にしたがって製造した骨セメントを用いた貫入抵抗性試験の結果を示している。図2は、老化試験前後の、実施例2の酸性水性ペーストEおよび実施例3のアルカリ性非水性ペーストD1を含む、本発明の調製物の湿潤野試験の分析結果を示すグラフである。この湿潤野貫入抵抗性試験結果は、この図から、統計的有意な差(p>0.05)を示さずに、老化ペーストの貫入試験結果が、老化させていない、つまり時点ゼロに試験されたコントロールサンプルと直接的に匹敵することが明らかであるので、ペースト安定性を証明することに関して良好な結果を有すると見なすことができる。そのような結果は、使用した試験条件下で経時的にペースト系の検出可能な分解を全く示していない。
【0127】
【表5】

【0128】
注入可能性試験
実施例1〜3に記載した通りに製造したセメントを滅菌のためのγ線および促進老化試験条件に曝露させ、さらに注入可能性について試験した。上記の表に記載したペースト系の組み合わせを含有するデュアルバレル・シリンジをTinius Olsen Tensometer電気機械的試験装置内のテストリグ(test rig)内に配置する。試験開始時は、T=0である。プランジャが設定前負荷(5N)に達すると、プランジャは、必要な伸長(15mm)に達するまで25mm/分の速度で移動する。20秒間の待機時間が経過すると、300Nの最大荷重に最初に達しない限り、試験は30mmの総移動に達するまで再開される。この「停止−起動」機能は、注入可能性領域を備えるデュアルペースト系の使用における柔軟性を使用者に提供するために必要とされる。
【0129】
本試験のために、最大初期注入可能性力は225Nを超えてはならず、初期注入可能性ならびに20秒間にわたり注入を停止させた後の再開の両方のためにより好ましくは150Nを超えてはならない。本試験の結果は上記の表Aに記録した。図3は、老化試験前後の、実施例2の酸性水性ペーストEおよび実施例3のアルカリ性非水性ペーストD1を含む、本発明の調製物の湿潤注入可能性試験の分析結果のグラフである。この試験結果は、この図から老化ペーストの注入可能性試験結果が老化させていない、つまり時点ゼロに試験されたコントロールサンプルと直接的に匹敵することが明らかであるので、ペースト安定性を証明することに関して良好な結果を有すると見なすことができる。そのような結果は、使用した試験条件下で経時的にペースト系の検出可能な分解を全く示していない。注入可能性の容易さを評価できるための注入力は、それによると男性の95%および女性の50%が4.5cm〜11cmのグリップスパン範囲にわたって107Nまで締め付けることのできるANSI/AAMI HE75:2009(p.367、図22.13)から入手できる。
【0130】
圧縮試験
実施例1〜3に記載した通りに製造したセメントを圧縮強度についても試験した。設定量のデュアルペースト系(表Aに列挙)を、径6mmおよび長さ12mmの硬化セメント形を形成するために円筒形型内に注入する。次にこの型をリン酸緩衝食塩(PBS)溶液中に入れ、この型の中でセメントを硬化させる。PBS中でのインキュベーションの4時間後の時点に硬化したセメントを取り出す。
【0131】
Tinius Olsen張力計電気機械的試験機械上に試験対象の各サンプルを別個に配置する前に、負荷速度が1mm/分に設定されていることを保証するために、各試験片の直径および長さを測定する。円筒形サンプルが圧縮loaditratrng下で破損する最大荷重を記録する。本試験の結果は上記の表Aに記録した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨セメント前駆体システムであって、
少なくとも1つの酸性リン酸カルシウム鉱物、少なくとも1つの合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤、pH緩衝剤および保湿剤を含む酸性水性ペーストを含有する第1容器と、
少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物、少なくとも1つのペースト安定化剤、界面活性剤および溶媒を含むアルカリ性非水性ペーストを含有する第2容器と
を含む骨セメント前駆体システム。
【請求項2】
前記システムは、最終滅菌後に貯蔵安定性である、請求項1に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項3】
前記最終滅菌は、γ線照射である、請求項2に記載の骨セメント。
【請求項4】
前記酸性水性ペーストのための前記少なくとも1つの酸性リン酸カルシウム鉱物は、リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)、リン酸一カルシウム無水物(MCPA)、リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)、リン酸二カルシウム無水物(DCPA)およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの酸性リン酸カルシウム鉱物の平均粒径は、約1μm〜約90μmの間である、請求項4に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項6】
前記酸性水性ペースト中に存在する前記酸性リン酸カルシウム鉱物の量は、前記酸性水性ペーストの総重量に基づいて約5%w/w〜約65%w/wの間である、請求項4に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項7】
前記酸性水性ペーストのための前記少なくとも1つの酸性リン酸カルシウム鉱物は、リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)およびリン酸二カルシウム無水物(DCPA)である、請求項4に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項8】
前記リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)の平均粒径は、約30μm〜約90μmである、請求項7に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項9】
前記リン酸二カルシウム無水物(DCPA)の平均粒径は、約1μm〜約20μmである、請求項7に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項10】
前記酸性水性ペーストのための前記少なくとも1つの合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤は、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項11】
前記酸性水性ペースト中に存在する前記少なくとも1つの合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤の量は、前記酸性水性ペーストの総重量に基づいて1%w/w〜約10%w/wである、請求項10に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項12】
前記酸性水性ペーストのための前記pH緩衝剤は、クエン酸、酒石酸、それらの塩およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項13】
前記酸性水性ペースト中に存在する前記pH緩衝剤の量は、前記酸性水性ペーストの総重量に基づいて約5%w/w〜約8%w/wの間である、請求項12に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項14】
前記酸性水性ペーストのための前記保湿剤は、グリセロール、プロピレングリコールおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項15】
前記酸性水性ペースト中に存在する前記保湿剤の量は、前記酸性水性ペーストの総重量に基づいて約0.5%w/w〜約2%w/wの間である、請求項14に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項16】
前記酸性水性ペースト中に存在する前記水の量は、前記酸性水性ペーストの総重量に基づいて約15w/w%〜約25w/w%の間である、請求項1に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項17】
前記アルカリ性非水性ペーストのための前記1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物は、β−リン酸三カルシウム(β−TCP)、α−リン酸三カルシウム(α−TCP)、リン酸四カルシウム(TTCP)、オキシアパタイト、ヒドロキシアパタイト、カルシウム欠乏性ヒドロキシアパタイトおよびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項18】
前記少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物の平均粒径は、約10μm〜約60μmの間である、請求項17に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項19】
前記アルカリ性非水性ペースト中に存在する前記少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウムの量は、前記アルカリ性非水性ペーストの総重量に基づいて約10w/w%〜約80w/w%の間である、請求項17に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項20】
前記アルカリ性非水性ペーストのための前記1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物は、リン酸四カルシウム(TTCP)である、請求項17に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項21】
前記アルカリ性非水性ペーストは、前記少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物の二峰性平均粒径分布を含む、請求項1に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項22】
前記少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物の第1セットの平均粒径は、約10μm〜約30μmの間であり、前記少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物の第2セットの平均粒径は、約25μm〜約60μmの間である、請求項21に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項23】
前記アルカリ性非水性ペーストのための前記少なくとも1つのペースト安定化剤は、天然ポリマー、合成ポリマーまたはそれらの混合物である、請求項1に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項24】
前記アルカリ性非水性ペースト中に存在する前記合成ポリマーの量は、前記アルカリ性非水性ペーストの総重量に基づいて約1w/w%〜約5w/w%の間である、請求項23に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項25】
前記合成ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である、請求項23に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項26】
前記アルカリ性非水性ペースト中に存在する前記天然ポリマーの量は、前記アルカリ性非水性ペーストの総重量に基づいて約0w/w%〜約0.5w/w%の間である、請求項23に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項27】
前記アルカリ性非水性ペーストのための前記少なくとも1つのペースト安定化剤は前記天然ポリマーであり、前記アルカリ性非水性ペーストは酸化防止剤をさらに含む、請求項23に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項28】
前記酸化防止剤は、チオグリセロールである、請求項27に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項29】
前記アルカリ性非水性ペーストのための前記界面活性剤は、モノステアリン酸グリセロール、レシチン、リン脂質、ジステアリン酸グリセロール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、PEG−PPG−PEGのブロックコポリマー、PPG−PEG−PPGのブロックコポリマー、ポリソルベート80、Span、任意のポリソルベート脂肪酸エステル、ソルビトールエステル、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項30】
前記アルカリ性非水性ペースト中に存在する前記界面活性剤の量は、前記アルカリ性非水性ペーストの総重量に基づいて約0.5w/w%〜約2w/w%の間である、請求項29に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項31】
前記アルカリ性非水性ペーストのための前記溶媒は、グリセロール、チオグリセロール、エタノール、プロパノール、プロピレングリコールおよびそれらの混合物である、請求項1に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項32】
前記アルカリ性非水性ペースト中に存在する前記溶媒の量は、前記アルカリ性非水性ペーストの総重量に基づいて約22w/w%〜約28w/w%の間である、請求項31に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項33】
前記酸性水性ペーストは、リン酸一カルシウム一水和物(MCPM)およびリン酸二カルシウム無水物(DCPA)、クエン酸、水、グリセロール、ポリビニルピロリドン(PVP)およびポリエチレングリコール(PEG)を含む、請求項1に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項34】
前記アルカリ性非水性ペーストは、リン酸四カルシウム(TTC)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリソルベート80、およびプロピレングリコールを含む、請求項1に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項35】
前記システムは、添加物をさらに含む、請求項1に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項36】
前記添加物は、タンパク質、骨誘導性材料、骨伝導性材料、X線不透過剤、医薬品、支持用もしくは強化用充填材料、結晶成長調整剤、粘度修飾剤、孔形成剤、X線不透過充填材およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項35に記載の骨セメント前駆体システム。
【請求項37】
請求項1に記載の前記酸性水性ペーストおよび前記アルカリ性非水性ペーストを混合する工程によって生成されるリン酸カルシウム組成物。
【請求項38】
前記リン酸カルシウム組成物は、迅速硬化型である、請求項37に記載のリン酸カルシウム組成物。
【請求項39】
前記リン酸カルシウム組成物は、注入可能である、請求項37に記載のリン酸カルシウム組成物。
【請求項40】
シリンジ本体および静的混合チップを含む、注入可能なデュアルペースト型骨セメント前駆体システムのための装置であって、
前記シリンジ本体は、
少なくとも1つの酸性リン酸カルシウム鉱物、少なくとも1つの合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤、pH緩衝剤および保湿剤を含む酸性水性ペーストを含有する第1ホールディングチャンバと、
少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物、少なくとも1つのペースト安定化剤、界面活性剤および溶媒を含むアルカリ性非水性ペーストを含有する第2ホールディングチャンバとを含み、および
前記静的混合チップは、2種のペーストがブレンドされ、所望部位に適用されることを許容する構造を含む装置。
【請求項41】
骨セメントを製造する方法であって、
少なくとも1つの合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤、pH緩衝剤、および水を混合する工程と、
酸性水性ペーストを形成するために少なくとも1つの酸性リン酸カルシウム鉱物を前記少なくとも1つの合成ポリマーをベースとするペースト安定化剤、前記pH緩衝剤および前記水の混合物に加える工程と、
少なくとも1つのペースト安定化剤、界面活性剤、および溶媒を混合する工程と、
アルカリ性非水性ペーストを形成するために少なくとも1つの塩基性リン酸カルシウム鉱物を前記少なくとも1つのペースト安定化剤、前記界面活性剤および前記溶媒の混合物に加える工程と、
前記骨セメントを形成するために前記酸性水性ペーストを前記アルカリ性非水性ペーストと混合する工程と
を含む方法。
【請求項42】
前記酸性水性ペーストを第1容器内に貯蔵する工程と、
前記アルカリ性非水性ペーストを第2容器内に貯蔵する工程と、
前記第1容器および前記第2容器各々から前記酸性水性ペーストおよび前記アルカリ性非水性ペーストのブレンドされたペーストが印加された注入力の作用によって適用部位へ注入できるように前記酸性水性ペーストおよび前記アルカリ性非水性ペーストを同時に静的混合器具内へ注入する器具を提供する工程と
をさらに含む、請求項41に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−524821(P2012−524821A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508835(P2012−508835)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/060793
【国際公開番号】WO2011/075580
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(500239373)ハウメディカ・オステオニクス・コーポレイション (13)
【Fターム(参考)】