説明

照明用ガラス

【課題】 313nm等の長波長側の紫外線遮蔽が可能であり、しかもTiO2系の結晶を生じたり、分相を起こしたりし難い照明用ガラスを提供する。
【解決手段】 質量百分率で、SiO2 50〜75%、B23 12〜25%、Al23 0〜3.2%未満、Li2O 0〜0.5%未満、Na2O 0〜7%、K2O 3〜15%、Li2O+Na2O+K2O 6〜15%、Al23+Li2O 0〜3.2%、BaO 0〜20%、ZnO 0〜15%、TiO2 2.5〜4.9%、As23+Sb23 0〜5%含有し、30〜380℃における熱膨張係数が45〜58×10-7/℃であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明用ガラスに関し、特に液晶表示素子のバックライト光源として使用される蛍光ランプ用外套容器を作製するための照明用ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネルは、自己発光しないためバックライト等の照明装置が必要である。その照明装置はバックライトユニットと呼称され、光源であるランプ、ランプから後方に放射された光を前面に反射する反射板、光を均質に平均化する拡散板や液晶開口部に光を集中させ、その他を反射するレンズシートからなる。反射板、拡散板、レンズは樹脂で形成されている。具体的には、蛍光ランプを液晶パネルの直下に置き、反射板でパネル側に光を出し、これを拡散板で均質な光とする直下型照明装置と、蛍光ランプを液晶パネルの後ろ側方に設置して、反射板からの光を導光板に導き、拡散板を通して液晶パネル側に光を出すエッジ型照明装置がある。直下型液晶表示装置はTVなどの大型液晶表示パネルに好適であり、エッジ型液晶表示装置は薄型化が可能であるためパーソナルコンピューター(PC)に広く使用されている。
【0003】
光源として使用される蛍光ランプには、冷陰極蛍光ランプが使用されるのが一般的である(例えば特許文献1)。冷陰極蛍光ランプは、コバール、モリブデン等の電極と、電極を封着するための封着ビーズと、蛍光体が内面に塗布されたホウケイ酸ガラス製の外套管を用いて作製される。また、電極が外套管表面に形成された外部電極ランプ(たとえば特許文献2)と呼ばれる蛍光ランプも使用され始めている。
【0004】
これらのランプの発光原理は、一般の熱陰極ランプと同様で、電極間の放電によって封入された水銀ガス等が励起し、励起したガスから放射される紫外線によって外套管の内壁面に塗られた蛍光体が可視光線を発光するというものである。
【0005】
バックライトユニットの寿命は、当初の光束の半分になった時間で表される。光束劣化原因は、光源の蛍光ランプのみならず、その光を効率良く反射する樹脂製の反射板や、その光を拡散する拡散板の劣化による着色によって、反射率や透過率が劣化することでも引き起こされる。これら樹脂材料の劣化は、ランプ内部で発生する紫外線が管外に漏れることが原因である。特に、TV用途では長期にわたって使用されるため、比較的寿命が短いPC用途では問題にならないような、より長波長側の紫外線(313nm等)の漏洩の影響が無視できなくなっている。
【0006】
そこで、長寿命が要求される蛍光ランプの外套管には、紫外線遮蔽性のあるホウケイ酸ガラスで作製することが検討されている。例えば特許文献3〜5には、TiO2を用いて紫外線遮蔽性を付与した蛍光ランプ外套管ガラス材質が開示されている。
【特許文献1】特開平6-111784号公報
【特許文献2】特開2005-93422号公報
【特許文献3】特許3575114
【特許文献4】特開2002-68775号公報
【特許文献5】特開2005-41768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
313nm等の長波長側の紫外線吸収能力を高めるためには、TiO2を多量に含有させることが有効である。
【0008】
しかしながらTiO2を多量に含むガラスは、ガラス管成形時に耐火物と接触するとTiO2を主体とする結晶を生じ易い。ガラス中に結晶が生じると、ガラス管の真円度が悪くなって、蛍光体が均質に塗布できずにランプ明るさにムラを生じる。また結晶の部分の周辺が凹むため、結晶析出部分が封着部分と重なる場合には、封着部分に隙間が生じてスローリークを生じ、ランプが点灯しなくなることがある。
【0009】
またTiO2含有量が多くなると、ガラスの分相傾向が強くなる。それゆえガラス管内に塗布した蛍光体の焼結工程で、ガラスが分相して透過率が劣化するという現象が生じ易い。このような現象が生じると、得られるランプが暗くなる。
【0010】
本発明の目的は、313nm等の長波長側の紫外線遮蔽が可能であり、しかもTiO2系の結晶を生じたり、分相を起こしたりし難い照明用ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の照明用ガラスは、質量百分率で、SiO2 50〜75%、B23 12〜25%、Al23 0〜3.2%未満、Li2O 0〜0.5%未満、Na2O 0〜7%、K2O 3〜15%、Li2O+Na2O+K2O 6〜15%、Al23+Li2O 0〜3.2%、BaO 0〜20%、ZnO 0〜15%、TiO2 2.5〜4.9%、As23+Sb23 0〜5%含有し、30〜380℃における熱膨張係数が45〜58×10-7/℃であることを特徴とする。
【0012】
また本発明の蛍光ランプ用外套容器は、上記照明用ガラスからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の照明用ガラスは、313nmにおける必要な紫外線遮蔽能力を有しており、バックライトユニットの構成樹脂部材を劣化させることがない。またTiO2の結晶の析出量が極めて少ないため、寸法精度及び封着信頼性が高い外套管を作製することができる。しかも分相性が弱いためにランプが暗くならない。それゆえ蛍光ランプの外套管材質、特にTV用途などの長期間の使用を前提とした液晶表示素子の照明装置の光源に用いられる細径蛍光ランプの外套管材質として好適である。
【0014】
また上記ガラスからなる外套管を用いれば、輝度が高く、しかも輝度劣化が殆どない蛍光ランプを作製することができる。それゆえTV用途等、長期間使用される装置のバックライトユニット用蛍光ランプの外套管として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の照明用ガラスは、機械的強度が高いホウケイ酸ガラスからなる。また電極にコバールやモリブデンを使用する冷陰極蛍光ランプの外套管を作製する場合には、30〜380℃における熱膨張係数が45〜58×10-7/℃の範囲に調整することが好ましい。
【0016】
またTiO2を多量に含有することにより、313nmの紫外線を有効に遮蔽することが可能になる。しかも本発明では、TiO2を多量に含有することによって起こるTiO2系結晶の析出や、分相傾向の強まりを防止するために、Al23とLi2Oの含有量を制限している。詳述すると、Al23の含有量が少ないほど、ガラスが耐火物と接触した場合に生じるTiO2系結晶の析出が少なくなる。またLi2Oの含有量が少ないほど、ガラスの分相傾向が弱まる。しかもガラスが分相すると結晶が析出し易くなるが、Li2Oの含有量を低下させて分相傾向を弱めれば、TiO2系結晶の析出を一層抑制することができる。
【0017】
なおLi2Oの含有量を低下させることなく、Al23の含有量のみを低下させると、ガラスの粘性が低下して従来品と同等の粘度特性を得ることが難しくなる。またAl23の含有量を低下させることなく、Li2Oの含有量のみを低下させると、ガラスの粘性が上昇して従来品と同等の粘度特性を得ることが難しくなる。そこで両者を同時に低下させれば、粘度特性を変化させることなく上記効果を得ることが可能となる。ただしTiO2の含有量が多くなり過ぎると、Al23とLi2Oの含有量を制限しても、TiO2系結晶の析出や分相傾向の強まりを抑制することが困難になる。以下にAl23とLi2OとTiO2の好適な含有量を示す。
【0018】
Al23とLi2OとTiO2の割合は、質量百分率で、Al23 0〜3.2%未満、Li2O 0〜0.5%未満、Al23+Li2O 0〜3.2%、TiO2 2.5〜4.9%、好ましくはAl23が0〜3%、Li2Oが0〜0.4%、Al23+Li2Oが0〜3%、TiO2が2.5〜4.2%である。
【0019】
以下に本発明の照明用ガラスの組成を上記のように限定した理由を述べる。
【0020】
SiO2は、ガラスの骨格を構成するために必要な主成分であり、その含有量は50%以上、好ましくは55%以上、さらに好ましくは58%以上である。また75%以下、好ましくは72%以下、さらに好ましくは69%以下である。SiO2が75%以下であればシリカ原料の溶融に長時間を要しない。72%以下であればガラス中にSiO2の結晶が発生し難くなる。さらに69%以下であれば、部分的な粘性の不均質さが原因で起こる寸法精度悪化についても効果的に抑制することができる。一方、SiO2が50%以上であれば、TiO2との相乗効果により優れた耐候性を得ることができる。55%以上であれば、結晶が発生しにくいために安定したガラスが得られる。最も好ましいのは58%以上である。
【0021】
23は、溶融性の向上、粘度の調整、耐候性の向上、及び膨張係数の調整のために比較的多量に含有させる成分である。その含有量は12%以上、好ましくは15%以上であり、またその上限は25%以下、好ましくは22%以下である。B23が25%以下であるとガラス融液からの蒸発が少ないために均一なガラスが得られる。また22%以下であるとランプ製造工程中の熱加工時にもガラス成分の蒸発が少なくなるため、加工が容易になる。一方、B23が12%以上であれば、粘度が十分に低くなり、寸法精度のよい管ガラスが得やすくなる。15%以上であれば、熔融がより容易になることから大量生産に好適となる。
【0022】
Al23は、アルカリ成分の含有によって切断されたガラスのネットワークを強化し、溶融時のガラスの失透性を著しく改善する成分である。一方で、TiO2のガラスへの溶け込みを阻害するため、TiO2系結晶を生成しやすくする。また、ガラスの粘性を上げる成分である。Al23の含有量は3.2%未満、好ましくは3%以下、さらに好ましくは2.5%以下である。Al23が3.2%未満であればTiO2系結晶が生じにくくなり、3%以下であればさらに好ましい。2.5%以下であれば粘度が十分に低くなって寸法精度のよい管ガラスが得やすくなる。また低温域においてもTiO2系結晶が出にくくなる。なおAl23は必須成分ではないが、均質なガラスの製造や安定した成形を行うためには0.1%以上含有することが好ましい。
【0023】
アルカリ金属酸化物(R2O)であるLi2O、Na2O、及びK2Oは、熱膨張係数や粘度を調節する効果があり、また溶融性を高めて寸法性の優れたガラスを得やすくする。その一方で、ガラスの耐候性を悪化させる。例えば空気中の炭酸ガスや水と反応して生成物を形成しガラス表面の異物の原因になる。このためアルカリ含有量を適切な範囲に管理する必要がある。
【0024】
Li2Oは、TiO2を多量に含有するホウケイ酸ガラスにおいて、上記の他に分相を促進する作用がある。加えて分相によりTiO2系結晶を生じ易くする成分でもある。Li2Oの含有量は0.5%未満、好ましくは0.4%以下、さらに好ましくは0.3%以下に制限される。Li2Oが0.5%未満であれば分相が発生しにくくなってランプが暗くなりにくい。さらにTiO2系結晶を出にくくするためには0.3%以下であることが好ましい。他のアルカリ成分等の使用によって溶融性、膨張特性、粘度特性等、所定の特性を得ることができるのであれば、Li2Oは必ずしも含有する必要がない。またAl23量の低下に伴って必要となる粘度調整は、Li2O量の低減によって効果的に行うことができる。
【0025】
Na2Oは任意成分であり、7%以下、好ましくは5%以下含有させることができる。Na2Oが7%以下であれば、実用上十分な耐候性を確保でき、また管引き成形が容易になり、5%以下であれば熱膨張係数をコバールやモリブデンの熱膨張係数に適合させることが容易となる。なおアルカリ混合効果を得る目的でアルカリ金属酸化物を2種以上含有させる場合、Na2Oの含有量を0.1%以上とすることが好ましい。
【0026】
2Oは3%以上、特に5%以上含有することが好ましい。またその上限は15%以下、特に11%以下であることが好ましい。K2Oが15%以下であれば熱膨張係数をコバールやモリブデンに合致させやすく、11%以下であれば十分に高い耐候性を維持できる。
【0027】
アルカリ金属酸化物の含有量は合量で6%以上、好ましくは7%以上である。またその上限は15%以下、好ましくは12%以下である。これらの成分の合量が15%以下であれば熱膨張係数が高くなり過ぎず、コバール等の封入金属のそれと適合させやすくなる。12%以下であれば十分に高い耐候性を維持できるため、異物発生等を防止できる。一方、これらの成分の合量が6%以上であれば、熱膨張係数が小さくなり過ぎず、コバールやモリブデンのそれと適合させやすくなる。7%以上であればガラス化がより容易になって均質なガラスが得られやすい。
【0028】
なおアルカリ混合効果による電気抵抗の向上を図るためには、アルカリ金属酸化物を2種類以上含有することが望まれる。アルカリ金属酸化物の中で、K2Oの含有量が多くなるほど150℃における電気抵抗を高くできる傾向にある。これはK+のイオン半径が他のアルカリイオンに比べて大きく、ガラス中で移動しにくいためである。このためK2O含有量はアルカリ金属酸化物中で、最も多量に含有させることが望ましい。
【0029】
Al23とLi2Oは、TiO2系結晶を析出させたり、分相性を強めたりする成分であるため、その含有量は合量で3.2%以下、好ましくは3%以下、特に2.9%以下、さらには2.5%以下に制限することが望ましい。またその下限は0.1%以上、特に0.5%以上であることが望まれる。これらの成分の合量が3.2%以下であれば、TiO2系結晶析出防止の効果がある。しかし量産性を考慮すると、より低い成形温度が求められるため2.9%以下に、また信頼性向上のために、できうれば2.5%以下に制限することが望まれる。また、0.1%以上であれば溶融性改善の効果が認められる。0.5%以上含有すれば溶融し易く、生産効率が良くなる。
【0030】
BaOは融点を下げ、またガラスの分相を抑制して安定させる成分である。BaOは任意成分であり、20%以下、好ましくは8%以下含有させることができる。BaOが20%以下であれば、BaOを主成分とする結晶の析出傾向が小さくなる。8%以下であればより寸法精度に優れたガラスが得られて好ましい。
【0031】
ZnOはガラスの溶融を助ける成分である。また分相を防止し、安定性を向上させることにより、ガラスの透明性を維持する効果がある。またガラスの粘度を下げる効果がある。一方でZnO自身が揮発しやすいため、15%以下、特に3%以下にすることが好ましい。
【0032】
TiO2は、紫外領域に吸収を持つことが知られており、紫外線を吸収してガラスに遮蔽効果を与える成分である。さらに耐短波長紫外線変色性をガラスに与える成分である。またガラスの耐候性を高めたり、弾性率を向上させて強度を高めたりする効果がある。一方含有量が多くなるとTiO2系結晶を生じ易く、また分相を強く促進する成分である。TiO2の含有量は2.5%以上、好ましくは3.1%以上、より好ましくは3.6%以上、さらに好ましくは3.8%以上である。またその上限は4.9%以下、好ましくは4.4%以下、さらに好ましくは4.2%以下である。現状使用されるガラス外套管肉厚は、強度の関係から、特殊用途を除いて、0.3mmが最も薄い。求められる紫外線遮蔽能力は、蛍光体の吸収を考慮すると、0.3mm厚での紫外線透過率が313nmで約25%以下である。TiO2が2.5%以上であれば、ガラス肉厚が厚い場合には、313nm紫外線を遮蔽できるようになる。3.1%以上であればガラス肉厚が0.5mm程度で、3.6%以上であればガラス肉厚が0.3mm程度のガラス管で、それぞれ十分な313nm紫外線の遮蔽性を得ることができる。一方、4.9%以下であればTiO2系結晶を生じながらも生産が可能である。4.4%以下であればさらに結晶を生じにくくなるため大量生産に好適である。さらに、成形温度を下げて量産効率を上げ、かつ封着時の信頼性を高めるためには、TiO2系結晶が殆ど生じないことが必要となる。これを達成し易くするためには4.2%以下に制限することが推奨される。
【0033】
As23とSb23は清澄効果を与える成分である。またTiO2を多量に含有させる場合にはFe23による不純物着色が生じやすいが、後述するように、As23やSb23はこの着色を防止する効果がある。これらの成分は合量で5%以下、好ましくは1%以下含有する。これらの合量が5%を超えるとガラス加工の加熱時にガラスが黒くなる不都合が生じる。なお上記した効果を得るためには、少なくとも何れか一方を含有することが好ましくい。また合量で0.0001%以上、特に0.001%以上、0.01%以上、さらには0.1%以上含有することが望ましい。
【0034】
As23は任意成分であるが、添加する場合には0.0001%以上、さらには0.001%以上含有することが好ましい。またその上限は1%以下、特に0.1%以下、さらには0.05%以下、最適には0.01%以下であることが好ましい。As23の含有量が0.0001%以上であれば上記した効果が現れはじめるが、0.001%以上であることが望ましい。一方、多すぎるとガラス溶融条件により還元傾向が発生する場合がある。また環境面を考慮すれば、その含有量は少ないほどよい。
【0035】
Sb23もAs23と同様、任意成分である。Sb23は、As23に比較してその効果が弱いものの、環境への負担が小さいという特徴がある。Sb23は0.0001%以上、特に0.001%以上、さらには0.01%以上含有することが好ましい。また5%以下、特に3%以下であることが望ましい。Sb23が0.0001%以上であれば、その効果が現れはじめるが、0.001%以上、特に0.01%以上であれば、大量生産する上で清澄力に余裕がでるため好ましい。Sb23はガラス中に多量に含まれると、ランプ加工時に還元による黒化が生じやすくなる。しかしSb23が5%以下であれば黒化が生じにくく、3%以下であればより安定したガラスの加工が可能になる。
【0036】
本発明の照明用ガラスは、上記成分以外にも種々の成分を含有可能である。例えばMgO、CaO、SrO、Nb25、WO3、ZrO2、Ta25、SnO2、CeO2、SO3、Fe23、Cl2等を含有してもよい。
【0037】
MgO、CaOはガラスの溶融を助ける成分である。MgO、CaOは何れも任意成分であり、それぞれ10%以下、好ましくは5%以下含有させることができる。各成分が10%以下であれば結晶傾向が小さくなる。5%以下であればより寸法精度に優れたガラスが得られて好ましい。
【0038】
SrOも、BaOと同様に融点を下げ、またガラスの分相を抑制して安定させる成分である。SrOは任意成分であり、20%以下、好ましくは8%以下含有させることができる。SrOが20%以下であればSrOを主成分とする結晶の析出傾向が小さくなる。8%以下であればより寸法精度に優れたガラスが得られて好ましい。
【0039】
Nb25は、TiO2の長波長側の紫外線遮蔽効果を高める成分である。また紫外線を吸収することでガラスの短波長紫外線変色防止に寄与するものである。上記効果を得るためには0.005%以上含有することが望ましい。なおNb25は分相を促進する傾向があり、ランプの輝度や色調に影響を与えやすいため、多量に使用することは避けるべきである。それゆえNb25の含有量は10%以下、特に7%以下であることが好ましい。
【0040】
WO3は紫外線吸収効果のある成分であり、紫外線を吸収することでガラスの短波長紫外線変色防止に寄与するものである。上記効果を得るためには0.005%以上含有することが望ましい。なおWO3は可視光を吸収する傾向があり、ランプの輝度や色調に影響を与えやすいため、多量に使用することは避けるべきである。それゆえWO3の含有量は10%以下、特に7%以下であることが好ましい。
【0041】
ZrO2はガラスの耐候性を向上させる一方、ガラスの粘度を上げる成分でもあり、9%まで、好ましくは6%まで含有することができる。ZrO2が多くなるとガラスの粘度が高くなり、泡が残りやすくなる。またガラス中に結晶を生じ、管引き成形が難しくなる傾向があるが、9%以下であれば蛍光ランプ用途に使用可能な管ガラスを安定して成形することができる。6%以下であれば結晶析出傾向が少なくなり、より寸法精度に優れたガラスが得られやすい。一方、ZrO2はガラス原料や耐火物から0.001%以上混入することがあるが、これらを含めた総ZrO2量が0.002%以上であれば上記効果が期待できる。
【0042】
Ta25は短波長紫外線変色の防止効果があり、10%まで、好ましくは6%まで含有することができる。10%以下であれば結晶が析出しにくく寸法精度に優れたガラス管が得られる。6%以下であれば結晶傾向が小さくなり、より寸法精度に優れたガラスが得られて好ましい。
【0043】
SnO2は清澄剤として効果がある。清澄効果を得るためには0.0001%以上含有することが望ましい。なおSnO2は多量に含有するとガラス中に結晶を析出させてしまうが、5%以下であれば結晶を生じることがなく、3%以下であればより安定した溶融が可能になる。
【0044】
CeO2もAs23と同様に清澄効果がある。その含有量は3%以下、特に0.2%以下、さらには0.05%以下、最適には0.01%以下であることが好ましい。CeO2が3%以下であれば、ガラス中に結晶を生じるおそれがない。ただしTiO2と共存すると黄色着色を生じやすいため、できる限り使用量を制限することが望ましい。なお上記効果を得るためには0.0001%以上含有することが望ましい。
【0045】
SO3を発生させる化合物もAs23と同様に清澄効果があるが、SO3自身は泡の原因になりやすいという不都合がある。なおガラス中のSO3は、ガラス原料(芒硝(Na2SO4)等の硫酸塩原料や不純物)だけでなく、ガラス溶融時の燃焼雰囲気中のSO2ガスがガラス融液に溶け込むことにより、ガラス組成中に取り込まれる。As23と同様の効果を得るためには、ガラス(ガラス製品)中のSO3が0.0001%以上、特に0.0005%以上となるようにガラス原料を添加すればよい。ただし多量の泡が発生することを防止するために、ガラス(ガラス製品)中のSO3が0.2%以下、特に0.1%以下、さらには0.05%以下、最適には0.01%以下となるように調整することが望ましい。なおガラス原料以外から取り込まれるSO3を低減する手段としては、溶融雰囲気中のSO3分圧の低減や、溶融温度の調整、他の清澄剤の使用、バブリング等を行えばよい。またガラス溶融に使用する燃料を選定し、管理することも重要である。
【0046】
Fe23は、0.05%以下、特に0.02%以下、さらには0.01%以下であることが好ましい。Fe23の含有量が0.05%以下であればガラスが著しく着色するという事態を避けることができる。0.02%以下であればTiO2の多い組成系においても着色しにくくなる。0.01%以下であれば極めて着色しにくくなる。なおFe23は、不純物としても容易に混入するため、その含有量は不純物も含めて厳密に管理する必要がある。またFe23をガラス組成から完全になくすことは、極めてコストが高くなり、また技術的にも困難である。それゆえFe23の下限値は不純物も含めて0.001%以上とすることが現実的である。
【0047】
Fe2+イオンは、可視域の一部から赤外域にかけてブロードな吸収を持つため、それ自身が着色原因となる。また、Fe2+イオンは低配位数のFe3+イオンによる着色を管理する指標として利用できる。つまり、ガラスがより酸化状態となれば、Fe3+の多くが可視域に吸収を持たない高配位数のFe3+として存在することになる。高配位数のFe3+が多く存在する場合、紫外領域に強い光吸収が起こるのみで、可視域には吸収をもたないガラスとなる。つまりガラスの透過率曲線が紫外域にシャープな吸収端をもち、無色透明なガラスが得られる。一方、Fe2+が多いと、それ自身が着色を引き起こすとともに、Fe2+量に比例して低配位数のFe3+が増加して着色を示す。従って、十分に無色透明なホウケイ酸ガラスを得るためには、できる限り酸化状態にしてFe2+や低配位数のFe3+の割合を少なくし、高配位数のFe3+の割合を極力高めるようにすることが望ましい。
【0048】
ガラスを酸化状態にするためには、酸化剤を用いたり、ガラス原料に混入する有機物や金属鉄を排除したり、酸素バブリングや、溶融雰囲気の酸素分圧の管理によって行うことができる。例えば本発明で添加するAs23やSb23もこのような効果を有している。
【0049】
Cl2は任意成分である。Cl2は清澄剤としての効果があり、その効果を得たい場合には、ガラス(ガラス製品)中の残存量をCl2で表して0.001%以上であることが好ましい。なお労働環境維持の観点からCl2は0.5%以下であることが好ましい。
【0050】
また本発明の照明用ガラスは、30〜380℃における熱膨張係数が45〜58×10-7/℃である。通常、蛍光ランプの電極(導入金属)を封着する封着ビーズは外套管と同材質のガラスで作製される。従って外套管は、電極材料であるコバール(熱膨張係数58×10-7/℃)、モリブデン(熱膨張係52×10-7/℃)と適合する熱膨張係数を有する必要がある。熱膨張係数が上記範囲にあれば、コバールやモリブデンを電極材料として使用することが可能になる。なお、内部に電極を持たない外部電極ランプの外套管としても使用できることは言うまでもない。
【0051】
さらに上記以外にも、ガラス徐冷点がコバールに対して適合すること(コバールを電極として用いる場合)、ガラス軟化点が十分に高いこと、紫外線によるガラス着色のないこと等の特性が求められる。
【0052】
具体的には、コバールは450℃付近にキュリー点を持ち、急激に膨張が変化するため、これに膨張を合わせるために、ガラス歪点が460℃付近にあることが好ましい。また蛍光体を焼付ける際にガラス管が変形しないように、ガラスの軟化点が700℃程度以上であることが好ましい。さらにランプの輝度が低下しないように、短波長紫外線(253.7nm、185nm等)によって変色しないことが望ましい。
【0053】
次に本発明の蛍光ランプ用外套管を説明する。
【0054】
まず上記照明用ガラスの組成を有するガラスとなるように原料を調合し、溶融する。次いで溶融ガラスをダンナー法、ダウンドロー法、アップドロー法等の管引き方法により、管状に成形する。なお量産性の観点からはダンナー法を採用することが望ましい。ダンナー法を採用する場合、ガラスと耐火物が他の方法に比べて長時間接することになるため、TiO2系結晶が析出し易い傾向がある。それゆえ上記ガラス組成を採用するメリットが大きいと言える。
【0055】
なおガラスをダンナー法等で管状に成形した後の冷却速度は、従来のガラスよりも早くすることが望ましい。
【0056】
その理由は、ガラスを管状に成形した後、急冷することでガラスの着色を低減することができるからである。つまり溶融中のガラスは無色透明であるが、800℃程度から500℃程度までの領域をゆっくり冷却すると着色しやすくなる。急冷により着色が減少する理由は次のように考えられる。この現象は陽イオン(Fe,Ti)と配位子(O)の距離が冷却速度によって変化することが原因で起こると考えられる。溶融中のガラスはガラスを構成するイオンが自由に移動できるため、イオン間距離が大きい。冷却につれてイオン間距離は小さくなり、互いの結合や配位に影響を与えるようになる。冷却速度が遅いほどイオン間距離はより小さくなり相互に影響する。冷却速度が高ければ熔融中のガラスに近い状態で固化されるため、イオン間距離は大きくなり、相互影響は小さくなる。イオン間距離が狭くなれば、TiイオンがFe3+イオンの配位状態に影響を与え、あたかも低配位数状態に近似する配位状態となって着色させると考えられる。
【0057】
続いて管状ガラスを所定の寸法に切断し、必要に応じて後加工することにより、本発明の蛍光ランプ用外套管を得ることができる。
【0058】
このようにして得られる本発明の蛍光ランプ用外套管は、無色透明であり、また313nm以下の紫外線を効果的に遮蔽できる。さらに優れた耐短波長紫外線変色性を有している。
【0059】
また本発明の外套管は、上記組成を有するガラスからなるために、TiO2系結晶の析出が少ない。具体的には、管内表面に存在するTiO2系結晶が10個/100cm2以下、特に1個/100cm2以下であることが望ましい。なおTiO2系結晶とは、結晶構成成分としてTiO2を含む結晶である。
【0060】
この蛍光ランプ用外套管は、例えば液晶表示素子のバックライト用蛍光ランプの作製に供される。
【実施例】
【0061】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。表は本発明の実施例(試料No.1〜5、12〜14)及び比較例(試料No.6〜11)を示している。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
各試料は次のようにして調製した。
【0065】
まず、表の組成となるようにガラス原料を調合した後、白金坩堝を用いて1550℃で8時間溶融した。次いでガラス融液を所定の形状に成形、加工した後、各評価に供した。なお表中のFe23の含有量は、原料からの混入した不純物量である。SO3の含有量は、原料及び/又は燃焼雰囲気からの混入量である。Fe23の含有量は、ガラス試料作製後に蛍光X線によって定量した値を示している。またSO3は化学分析によって求めた値を示している。
【0066】
ガラス原料としては、石粉、アルミナ、硼酸、炭酸リチウム、炭酸ソーダ、炭酸カリウム、硝酸カリウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アンチモン、五酸化ニオブ、酸化タングステン、ジルコン、酸化セリウム、硫酸ナトリウムを用いた。なお原料の種類はこれに限定されるものはなく、ガラスの酸化還元状態や水分含有量等を考慮して適宜選択すればよい。また、組成に示される成分は換算値であり、表記の酸化物価数に限定されない。
【0067】
表1から明らかなように、本発明の実施例であるNo.1〜5及び12〜14の試料は、TiO2の結晶を生じさせる温度が低いために、ガラス管を精度良く成形可能である。また得られるガラス管を気密封着する場合に、隙間が生じてスローリークを生じる、というおそれがない。
【0068】
なお熱膨張係数は、熱膨張測定装置にて求めた。
【0069】
歪点は、ASTM C336に準じて求めた。
【0070】
軟化点は、ASTM C338に準じて求めた。
【0071】
白金界面での結晶析出温度(TiO2系結晶の析出温度)は、白金製ボート(15cmの細長い容器)にガラスを入れ全体を1250℃で2時間加熱して、泡抜きしたガラスを温度傾斜炉(850〜1050℃に70時間投入して得られた試料を冷却して取り出し、白金と接触していた底面を50倍の偏向顕微鏡で観察し、結晶の検出された最も高い部分に相当する温度で求めた。なお白金界面で析出する結晶は、TiO2系結晶であることがEPMA分析により確認された。
【0072】
次に上記ガラス試料と同一組成を有するガラスを用いて蛍光ランプ用外套管を作製した。
【0073】
まず各試料と同等のガラス(表1の組成)となるように調製した原料を耐火物窯で、1600℃で溶融した。その後、ガラス融液をダンナー成形装置に供給して管引き成形し、切断することにより、外径4mm、肉厚0.3mm、長さ1600mmの外套管を得た。なおダンナー装置には、Al23を約60%含有するアルミナシリケート系耐火物製スリーブを用いた。
【0074】
得られた外套管試料について、313nmの紫外線遮蔽性、管内面のTiO2系結晶量、分相性、着色度及び耐短波長紫外線変色性を評価した。結果を表に示す。
【0075】
評価の結果、本発明の実施例である各試料は、313nmにおける紫外線遮蔽能力を有している。またTiO2の結晶の析出量が極めて少ないことが確認された。また分相性が弱く、しかも耐短波長紫外線で変色し難いために、輝度が高く、しかも輝度が低下し難い蛍光ランプを作製することができる。
【0076】
なお313nm紫外遮蔽性は、外形4mm肉厚0.3mmの管ガラスを半割にして資料を作製した後、波長313nmの分光透過率を測定し、25%以下を「○」とした。なお313nmの波長は水銀の輝線である。
【0077】
TiO2系結晶の析出量は、ガラス管の内面を10倍の拡大鏡で観察し検出できたものの個数を観察し、単位管ガラス内表面積(100cm2)に換算して評価した。
【0078】
分相性は、長さ100mmの管ガラスを蛍光体焼成温度である700℃で10分間加熱した後、着色度と同様の方法で観察して、焼成前と明るさに変化がない場合を「○」、管ガラス肉厚方向にも曇りが発生する場合を「×」とした。
【0079】
着色度は、次のようにして評価した。まず黒色の紙を貫通した状態で長さ500mmの管ガラスを垂直に吊り下げた後、下端から指向性のない均質な白色の光を照射し、管ガラス上端面の色調を観察した。同様にして評価した同じ長さの日本電気硝子株式会社製バックライト用ガラスBFKと比較して、明らかに色調が同等以上であれば「○」とした。
【0080】
耐短波長紫外線変色性は、短波長紫外線照射前後の可視域における透過率差にて評価した。まず、厚さ1mmの板状ガラスの両面を鏡面研磨して試料を得た。次いで短波長紫外線照射前の試料の透過率が80%を示す光の波長を測定した。さらにその試料に40Wの石英ガラスの低圧水銀ランプによって主波長253.7nm(その他波長185nm、313nm、365nm)の短波長紫外線を60分間照射(照射距離25mm)した後、照射前に透過率80%を示した波長における透過率を改めて測定することによって、短波長紫外線照射による透過率の低下が測定誤差を考えて0.3%以下である場合を「○」とした。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の照明用ガラス及び外套管は、コバール、モリブデン等の電極を有する冷陰極蛍光ランプ用として使用される。またこれ以外にも、電極が外套容器表面に形成された外部電極ランプに使用することもできる。さらに本発明の照明用ガラスは、箱型或いは平面型の蛍光ランプの外套容器としても使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量百分率で、SiO2 50〜75%、B23 12〜25%、Al23 0〜3.2%未満、Li2O 0〜0.5%未満、Na2O 0〜7%、K2O 3〜15%、Li2O+Na2O+K2O 6〜15%、Al23+Li2O 0〜3.2%、BaO 0〜20%、ZnO 0〜15%、TiO2 2.5〜4.9%、As23+Sb23 0〜5%含有し、30〜380℃における熱膨張係数が45〜58×10-7/℃であることを特徴とする照明用ガラス。
【請求項2】
質量百分率で、Al23が0〜3%であることを特徴とする請求項1の照明用ガラス。
【請求項3】
質量百分率で、Li2Oが0〜0.4%であることを特徴とする請求項1又は2の照明用ガラス。
【請求項4】
質量百分率で、TiO2が2.5〜4.2%であることを特徴とする請求項1〜3の何れかの照明用ガラス。
【請求項5】
質量百分率で、Al23が0〜3%、Li2Oが0〜0.4%、Al23+Li2O 0〜3%、TiO2が2.5〜4.2%であることを特徴とする請求項1の照明用ガラス。
【請求項6】
蛍光ランプの外套管として使用されることを特徴とする請求項1〜5の何れかの照明用ガラス。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかのガラスからなることを特徴とする蛍光ランプ用外套管。
【請求項8】
管内表面に存在するTiO2系結晶が10個/100cm2以下であることを特徴とする請求項7の蛍光ランプ用外套管。

【公開番号】特開2007−186404(P2007−186404A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321351(P2006−321351)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】