説明

煮崩れ防止剤

【課題】食品素材を煮込む工程を有する飲食品の製造において、食品素材の風味に影響を与えることなく、また、食品素材に広く一般的に適用可能な、十分な煮崩れ防止効果を有する煮崩れ防止剤及び該煮崩れ防止剤を用いた煮崩れ防止方法を提供すること。
【解決手段】乳清ミネラルを有効成分として含有する煮崩れ防止剤、及び食品素材を煮込む工程を有する飲食品の製造において、乳清ミネラルを有効成分として含有する煮崩れ防止剤の存在下で、食品素材を煮込み処理することを特徴とする、食品の煮崩れ防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煮崩れ防止剤及び煮崩れ防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜、肉類、魚介類等の形状を有する食品素材は、煮込み調理を行なうと、少なからず組織が崩壊し、その形状が崩れ、煮込み時間が長い場合は完全に形状を失い溶解してしまう。このことを煮崩れといい、特にジャガイモ、ニンジン、ダイコン等の根菜類や、白身魚等の堅固な外殻構造を有さない食品素材は、穀類と異なりこの煮崩れをおこし易いことが知られている。煮込み調理自体、硬い食感の食品素材を軟らかくして咀嚼を容易にするための調理方法ではあるが、上記のような煮崩れを起こすと、食品素材の外観、風味や食感を失うことから調理食品としては好ましくないものとなってしまう。
【0003】
この食品素材の煮崩れを防止する方法は大きく分けると、次の(1)〜(6)の方法に分類することができる。
(1)増粘安定剤で食品素材の表面に皮膜構造を生成させる方法(例えば特許文献1参照)
(2)塩類、特にカルシウム製剤により食品素材の細胞表面を改質して不溶化させる方法(例えば特許文献2参照)
(3)高濃度のリン酸塩やナトリウム塩等の塩類溶液に浸漬させて食品素材内部の浸透圧を高めておいてから煮込む方法(例えば特許文献3参照)
(4)エタノール処理を行う方法(例えば特許文献4参照)
(5)糖類を使用する方法(例えば特許文献5参照)
(6)予め焼成やフライ等の加熱処理を行う方法(例えば非特許文献1参照)
【0004】
しかし、上記(1)の増粘安定剤で皮膜構造を生成させる方法では、食品素材表面の食感や風味が変わってしまうことに加え、煮崩れ防止効果が弱いという問題がある。上記(2)のカルシウム製剤を使用する方法では、食品素材内部と外周部で食感が異なってしまうため違和感のある食感になってしまうという問題に加え、野菜には効果があるが魚介類や肉類には効果が極めて弱いという問題がある。上記(3)のリン酸塩やナトリウム塩等の塩類溶液に浸漬させる方法では、良好な効果を示すためには極めて高濃度の塩類溶液(食塩の場合5質量%以上)が必要であるが、極めて高濃度の塩類溶液を用いると食味が大きく変化してしまうという問題があり、更には長時間(120分以上)の浸漬が必要であることに加え、長時間の浸漬を行うと食品素材の内部の旨味が逃げてしまうという問題がある。上記(4)のエタノールを使用する方法では、効果が弱く、食品素材の種類によっては逆に煮崩れし易くなってしまうという問題がある。上記(5)の糖類を使用する方法では、たとえ低甘味度の糖類を使用したとしても煮崩れ防止効果を呈するためには多量の添加が必要であり、糖類を多量に添加すると食味が変化してしまうという問題がある。上記(6)の加熱処理する方法では、食品素材表面に硬い層が生成するため違和感のある食感になってしまうことに加え、食品素材の内部の旨味が逃げてしまうという問題や、焦げや加熱臭等が発生し易いという問題がある。
【0005】
このように、従来の煮崩れ防止方法では不十分であるため、食品素材を煮込む工程を有する飲食品の製造において、食品素材や得られる飲食品の風味に影響を与えることなく、また、食品素材に広く一般的に適用可能であり、ごく少量の添加で十分な煮崩れ防止効果を有する煮崩れ防止剤が望まれている。
【0006】
ここで、塩類を多く含有する食品原料として、乳清ミネラルがある。この乳清ミネラルは牛乳中に含まれる水溶性の塩類を濃縮したものであるため、その使用方法としては飲食品への乳風味の付与が一般的であるが、食塩代替品としての使用も開示されている(例えば特許文献6参照)。最近では、特定の乳清ミネラルが、塩味の強化(例えば特許文献7参照)、好ましくない風味のマスキング効果(例えば特許文献8参照)、調味効果(例えば特許文献9参照)等の効果を有することが見出されている。
【0007】
このように、乳清ミネラルは飲食品の食感を変えることなく風味を改良する目的で使用される乳原料であり、乳清ミネラルが、飲食品の物性を改良する効果を有することについては見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−315519号公報
【特許文献2】特開2005−58002号公報
【特許文献3】特開平01−181767号公報
【特許文献4】特開2008−118939号公報
【特許文献5】特開2006−304793号公報
【特許文献6】特開昭64−013968号公報
【特許文献7】特開2008−54665号公報
【特許文献8】特開2008−54667号公報
【特許文献9】特開2008−54666号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本調理科学会誌 Vol.36 No.4 403〜409頁(2003年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、食品素材を煮込む工程を有する飲食品の製造において、食品素材の風味に影響を与えることなく、また、食品素材に広く一般的に適用可能な、十分な煮崩れ防止効果を有する煮崩れ防止剤及び該煮崩れ防止剤を用いた煮崩れ防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、乳清ミネラルは、広く一般の食品に対し煮崩れ防止効果を示すこと、更には、予め食品中に浸漬させなくても煮込み調理時に少量添加しただけで、煮崩れ防止効果を示すことを知見した。
【0012】
そして更に検討を進めたところ、煮込み時に添加する場合、カルシウムの効果が一番高いという常識に反し、カルシウム分を大きく削減した特定の乳清ミネラルを使用した場合、煮込み処理後の食品素材の食感に違和感がなく、煮込み処理時に極少量添加しただけであっても、上記の問題を全て解決可能であること、及び、風味を調整する作用を有することが知られている乳清ミネラルでありながら、煮込み処理においては、風味を大きく変えることなく食品素材の食感を改良することができることを知見した。
【0013】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、乳清ミネラルを有効成分として含有する煮崩れ防止剤を提供するものである。
【0014】
また、本発明は食品素材を煮込む工程を有する飲食品の製造において、乳清ミネラルを有効成分として含有する煮崩れ防止剤の存在下で、食品素材を煮込み処理することを特徴とする、食品の煮崩れ防止方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、上記煮崩れ防止剤を使用して得られた飲食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、食品素材を煮込む工程を有する飲食品の製造において、食品素材の風味に影響を与えることなく、ごく少量の添加で十分な煮崩れ防止効果を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
先ず、本発明の煮崩れ防止剤で使用する乳清ミネラルについて詳述する。
通常、乳清ミネラルとは、乳又は乳清(ホエー)から可能な限り蛋白質や乳糖を除去したものであり、高濃度に乳中の灰分を含有するという特徴を有する。そのため、その灰分組成は、原料となる乳やホエー中の組成に近い比率で含有する。本発明で使用する乳清ミネラルとしては、該乳清ミネラルであってもよいが、煮込み調理時に違和感のない食感とすることが可能である点で、固形分中のカルシウム含量が2質量%未満、特に1質量%未満の乳清ミネラルを使用することが好ましい。尚、該カルシウム含量は低いほど好ましい。
【0018】
更に、本発明の煮崩れ防止剤で使用する乳清ミネラルは、次の(a)〜(e)の条件を満たすことより一層煮崩れ防止効果を高めることができる。
(a)乳清ミネラルの固形分中の灰分含量が25〜75質量%
(b)乳清ミネラルの灰分中のカルシウム含量が5質量%未満
(c)乳清ミネラルの固形分中の乳酸含量が1.0質量%以上
(d)乳清ミネラルの固形分0.1質量%水溶液のpHが6.0〜7.5
(e)乳清ミネラルの固形分中の乳糖含量が50質量%未満
以下、上記の(a)〜(e)の条件について順に説明する。
【0019】
<(a)の条件>
本発明の煮崩れ防止剤で使用する乳清ミネラルは、固形分中の灰分含量が好ましくは25〜75質量%、更に好ましくは30〜75質量%である。25質量%未満であると、他の有機成分が多くなり、この有機成分により食品素材の風味が悪くなったり、煮崩れ防止効果を付与できなくなる場合がある。75質量%を超えると、苦味が強くなりやすい。
【0020】
<(b)の条件>
本発明の煮崩れ防止剤で使用する乳清ミネラルは、灰分中のカルシウム含量が好ましくは5質量%未満、更に好ましくは3質量%未満、最も好ましくは2質量%未満である。5質量%以上であると、食品素材の表面が硬い食感になってしまうおそれがある。尚、下限は特に制限はない。
【0021】
<(c)の条件>
本発明の煮崩れ防止剤で使用する乳清ミネラルは、固形分中の乳酸含量が好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは2〜25質量%、最も好ましくは3〜15質量%である。1.0質量%未満であると、煮崩れ防止効果を付与できなくなる場合がある。尚、ここでいう乳酸含量とは、一般的な手法である検体を過塩素酸によって処理した後、高速液体クロマトグラフ法で測定した結果得られるデータに基づくものであり、よって乳酸のみならず、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウム等の塩の形態で含有するものも一括した量である。
【0022】
<(d)の条件>
本発明の煮崩れ防止剤で使用する乳清ミネラルは、固形分0.1質量%水溶液のpHが好ましくは6.0〜7.5、更に好ましくはpHが6.5〜7.0である。6.0未満であると、煮崩れ防止効果を付与できなくなる場合がある。また、7.5を超えると、煮込み調理時の加熱で褐変等が発生し易くなる。
【0023】
<(e)の条件>
本発明の煮崩れ防止剤で使用する乳清ミネラルは、固形分中の乳糖含量が好ましくは50質量%未満、更に好ましくは40質量%未満、最も好ましくは30質量%未満である。50質量%以上であると、煮崩れ防止効果を付与できなくなる場合がある。尚、下限に特に制限はない。
【0024】
次に、上記乳清ミネラルの製造方法について説明する。
本発明で使用する乳清ミネラルは、通常の乳清ミネラルの場合は、乳又はホエーから、膜分離及び/又はイオン交換、更には冷却により、可能な限り乳糖と蛋白質を除去する方法により製造することができる。また、上記固形分中のカルシウム含量が2質量%未満の乳清ミネラルは、次の(i)又は(ii)の方法により製造することができる。
(i)乳又はホエーから、膜分離及び/又はイオン交換、更には冷却により、乳糖と蛋白質を除去して乳清ミネラルを得る際に、予めカルシウムを低減した乳を使用した酸性ホエーを用いる方法
(ii)甘性ホエーから乳清ミネラルを製造する際にカルシウムを除去する工程を挿入する方法
【0025】
上記(i)及び(ii)の方法のうち、工業的に実施する上での効率やコストの点で、上記(ii)の方法、具体的には、甘性ホエーから乳清ミネラルを製造する際にある程度ミネラルを濃縮した後に、カルシウムを除去する工程を挿入する方法を採ることが好ましい。
【0026】
ここで使用する脱カルシウムの方法としては特に限定されず、調温保持による沈殿法やイオン交換等公知の方法を採ることができる。また、固形分中の灰分含量は、例えばナノ濾過膜分離時の膜処理条件を調整することによって調製でき、またpHは、例えば出発原料として使用する甘性ホエーを得る際のチーズ製造時の発酵時間を調整することで調製できる。尚、ホエーとして乳酸発酵を強度に進めるか、或いは、酸性ホエーを得る際に大量の乳酸を用い乳酸量を増やす方法等も考えられるが、得られた乳清ミネラルが(d)のpH条件を満たすことが困難となる。こうした場合、更にアルカリ等の添加による中和工程を行う方法もあるが、味質が低下するため好ましくない。
【0027】
即ち、上記特徴を有する乳清ミネラルとしては、以下の(f)、(g)及び(h)の工程を経て得られたものであることが好ましい。
(f)乳又はホエーを、膜分離及び/又はイオン交換により脱ミネラル液を分離し、高ミネラル液(I)を得る工程
(g)高ミネラル液(I)から、カルシウム−リン酸複合体を分離・除去し、高ミネラル液(II)を得る工程
(h)高ミネラル液(II)を、固形分が20質量%以上となるまで濃縮及び/又は乾燥し、乳清ミネラルを得る工程
ここで先ず、上記特徴を有する乳清ミネラルを得る工程において、その出発物質として使用する乳又はホエーについて説明する。
【0028】
上記乳としては、牛乳をはじめ、人乳、山羊乳、馬乳、更にそれらを使用した脱脂乳、加工乳及びクリーム等が挙げられ、その何れでも使用することが可能である。
【0029】
また上記ホエーとしては、上記乳を使用してチーズを製造する際に副産物として得られるホエー、更には、カゼイン製造の際に副産物として得られるホエー、乳を限外濾過することによって得られるホエー等の何れでも使用することができる。
【0030】
更に、チーズを製造する際に副産物として得られるホエー、及びカゼイン製造の際に副産物として得られるホエーは、その製造方法により酸性ホエーと甘性ホエーがあるが、どちらも使用することができる。
【0031】
本発明の煮崩れ防止剤では、上記乳又はホエーの中でも、特に食感改良効果が高いことから、牛乳を使用してチーズを製造する際に副産物として得られるホエー、又はカゼイン製造の際に副産物として得られるホエーを使用することが好ましく、牛乳を使用してチーズを製造する際に副産物として得られるホエーを使用することが更に好ましく、牛乳を使用してチーズを製造する際に副産物として得られる甘性ホエーを使用することが特に好ましい。
次に、上記(f)、(g)及び(h)工程について順に説明する。
【0032】
<(f)工程>
本工程では、上記乳又はホエーを、膜分離及び/又はイオン交換により、脱ミネラル液と高ミネラル液(I)に分離する。ここで使用する膜分離の方法としては、精密濾過膜分離、限外濾過膜分離、ナノ濾過膜分離、逆浸透膜分離、透析膜分離等の各種の方法が挙げられる。また、ここで使用するイオン交換の方法としては、陽イオン交換膜法や陰イオン交換膜法を用いる電気透析膜分離や、イオン交換樹脂による方法があり、これらの膜分離方法やイオン交換方法の1種又は2種以上を適宜組合せて使用することができる。本工程においては、特に分離効率が高いことから、ナノ濾過膜分離及び/又は逆浸透膜分離の方法によることが好ましく、ナノ濾過膜分離をした後に逆浸透膜分離を行なうことが更に好ましい。
【0033】
<(g)工程>
本工程では、上記(f)工程で得られた高ミネラル液(I)から、カルシウム−リン酸複合体を分離及び除去し、高ミネラル液(II)を得る。カルシウム−リン酸複合体の分離及び除去は、加熱処理を行うか又はイオン交換を行う。ここで、該加熱処理における加熱方法としては特に限定されず、直接加熱又は間接加熱のどちらの方法でも可能である。また、該加熱処理における加熱温度としては、好ましくは50〜99℃、更に好ましくは70〜90℃であり、その温度での保持時間は、好ましくは2〜60分、更に好ましくは15〜25分である。上記加熱処理を行うことで、不溶性のカルシウム−リン酸複合体が生成するので、これを分離及び除去し、高ミネラル液(II)を得る。該分離及び除去の方法としては、濾過、遠心分離等の一般的な方法を採ることができる。
【0034】
上記イオン交換の方法としては、陽イオン交換膜法や陰イオン交換膜法を用いる電気透析膜分離や、イオン交換樹脂による方法が挙げられ、これらの膜分離方法やイオン交換方法の1種又は2種以上を適宜組合せて使用することができる。
【0035】
<(h)工程>
本工程では、上記(g)工程で得られた、高ミネラル液(II)を、固形分が20質量%以上、好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60〜100質量%となるまで濃縮及び/又は乾燥し、乳清ミネラルを得る。上記濃縮方法としては特に限定されないが、水分のみを効率よく除去可能なことから、エバポレ−ターを用いた減圧濃縮法が好ましい。また、上記乾燥方法としては特に限定されず、スプレードライ法や凍結乾燥法等の一般的な乾燥方法を適宜選択することができる。本工程においては、水分の除去を効率的に行なうことが可能な点で、上記濃縮工程を行った後、上記乾燥工程を行なうことが好ましい。その場合、濃縮工程では、固形分が好ましくは20〜60質量%になるまで濃縮した後、続けて、固形分が好ましくは60〜100質量%となるまで乾燥することが好ましい。
【0036】
以上説明した乳清ミネラルは、固形分が20質量%以上であれば流動状、ペースト状、粉末状等、どのような形態であってもよい。尚、上記の乳清ミネラルが流動状やペースト状である場合、その固形分は好ましくは20〜80質量%、更に好ましくは40〜70質量%であり、粉末状である場合、その固形分は好ましくは40〜100質量%、更に好ましくは70〜100質量%である。
【0037】
本発明の煮崩れ防止剤は、上記乳清ミネラルを有効成分として含有するものである。本発明の煮崩れ防止剤は、上記乳清ミネラルをそのまま単独で使用してもよく、また、各種の添加剤と混合して、常法により粉体、顆粒状、錠剤、液剤等の形状に製剤化して用いてもよい。
【0038】
本発明の煮崩れ防止剤が粉体、顆粒状、錠剤等の固形状である場合、上記乳清ミネラルの好ましい含有量は、少量の添加で煮崩れ防止剤効果を呈するという目的及び保存中の吸湿を避けるために、乳清ミネラルの固形分として5〜80質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることが更に好ましい。
【0039】
上記粉体、顆粒状、錠剤等の形状に製剤化するための添加剤としては、ペクチン、海藻多糖類、カルボキシメチルセルロース等の増粘多糖類や、でんぷん、二酸化ケイ素等の賦形剤、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、ソルビトール、ステビア等の甘味料、微粒二酸化ケイ素、炭酸マグネシウム、リン酸二ナトリウム、酸化マグネシウム等の固結防止剤、ビタミン類、香料、酸化防止剤、光沢剤等が挙げられ、これらの一種又は二種以上のものが適宜選択して用いられる。本発明の煮崩れ防止剤中における上記各種添加剤の含有量は、添加剤によって異なるが好ましくは90質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0040】
また、本発明の煮崩れ防止剤が液剤の形状である場合、上記乳清ミネラルの好ましい含有量は、少量の添加で煮崩れ防止剤効果を呈するという目的及び保存中の結晶の析出を避けるために、乳清ミネラルの固形分として1〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることが更に好ましい。
【0041】
液剤の形状に製剤化する場合は、上記乳清ミネラル及び上記各種添加剤等を、液体に溶解又は分散させればよい。そのような液体としては、水、エタノール、プロピレングリコール等が挙げられる。本発明の煮崩れ防止剤中における上記液体の含有量は、好ましくは99質量%以下、更に好ましくは95質量%以下である。
【0042】
本発明の煮崩れ防止剤は、上記乳清ミネラルに加え、本発明の効果を阻害しない範囲において、上記製剤化のための添加剤以外に、他の品質改良剤や添加剤と併用することができる。
【0043】
これらの例としては各種植物油脂、動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂等の油脂;グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン等の乳化剤、アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、リポキシシゲナーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ等の酵素、酢酸、クエン酸、グルコン酸等の酸、重炭安等のアルカリ、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、β―カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料類、コンソメ、ブイヨン等の植物及び動物エキス、着香料、調味料、酒類、糖類や糖アルコール類、甘味料、デキストリン、オリゴ糖、ゲル化剤や増粘安定剤、卵類、上記乳清ミネラル以外の乳や乳製品、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果汁、香辛料、ハーブ等が挙げられる。
【0044】
本発明の煮崩れ防止剤が油脂を含有する場合は、ショートニング等の油脂や、マーガリン等のW/O型乳化物、クリーム、マヨネーズ等のO/W型乳化物中に添加分散又は溶解した形態とすることもできる。
【0045】
次に、本発明の食品の煮崩れ防止方法について述べる。
本発明の食品の煮崩れ防止方法は、食品素材を煮込む工程を有する飲食品の製造において、乳清ミネラルを有効成分として含有する煮崩れ防止剤の存在下で、食品素材を煮込み処理することを特徴とするものである。
【0046】
上記食品素材としては、煮込み処理(調理)可能な食品素材であれば問題なく使用することができ、イモ類(サトイモ、ジャガイモ、サツマイモ、ヤツガシラ、エビイモ等)、イモ類以外の根菜類(大根、にんじん、カブ、ビーツ、ユリネ等)、根菜類以外の塊状野菜(かぼちゃ等)、葉野菜(キャベツ等)、海藻類(わかめ、昆布、茎わかめ、もずく等)、豆類(インゲン、大豆、小豆、黒豆、さやえんどう等)、果実類(イチゴ、ブドウ等)、魚介類(サバ、ブリ、タイ、ヒラメ、カレイ、フグ等)、肉類(豚肉、牛肉等)、麺類(うどん、パスタ、ラーメン等)、澱粉加工食品(もち、つみれ等)等を挙げることができるが、中でも本発明では、煮崩れの顕著な食品素材において高い効果を示すことから、イモ類、イモ類以外の根菜類を使用することが好ましい。また、豆類においては煮崩れしないだけでなく、ふっくらとした食感を付与することもできる。
【0047】
また、上記飲食品としては、上記食品素材を煮込む工程を経て得られるものであり、例えば、肉じゃが、筑前煮、煮しめ、ぶり大根、煮豆、味噌煮、クリーム煮、カレー、スープ、クリームシチュー、ブラウンシチュー、豚の角煮、煮込みうどん等の煮込み食品をはじめ、レトルト食品や、缶詰食品も含まれる。
【0048】
煮崩れ防止剤の存在下で煮込み処理する方法としては、煮込み処理時に食品素材と乳清ミネラルが接触した条件下で処理する方法であればよく、具体的には、煮崩れ防止剤を、乳清ミネラルを固形分として0.001〜5質量%、好ましくは0.01〜2質量%含有するように溶解させた溶液中に、食品素材を、浸漬した後、煮込み処理する方法や、煮崩れ防止剤を、乳清ミネラルを固形分として0.001〜5質量%、好ましくは0.01〜2質量%含有するように溶解した溶液下で、食品素材を煮込み処理する方法を挙げることができる。
【0049】
前者の方法では、浸漬することにより食品素材の表層或いは食品素材内部に乳清ミネラルが含まれる状態となるため、浸漬した後煮込み処理する場合は、必ずしも煮込み処理時に使用する溶液自体に乳清ミネラルを含む必要はないが、乳清ミネラルを上記含有量含む溶液を使用して煮込み処理することが好ましい。
【0050】
上記浸漬方法としては、全部浸漬や一部浸漬、溶液噴霧、塗布、ピックル、被覆等の方法があるが、全部浸漬が好ましい。浸漬時間としては、好ましくは5〜300分である。300分を超えると煮崩れ防止剤の効果が減じられてしまうおそれがある。
【0051】
また、上記煮込み処理方法としては、通常の加熱(例えば50〜100℃)以外にも、加圧熱処理(レトルト処理)しても良く、上記各種飲食品の製造工程に適した加熱方法や加熱時間を用いれば良い。
【0052】
上記煮崩れ防止剤を溶解させる溶液としては、水(湯を含む)、乳又は乳製品(牛乳、クリーム、濃縮乳、脱脂乳等)、酒類(ワイン、日本酒、焼酎等)、飲料(茶、紅茶、珈琲、果汁飲料等)、だし汁、調味液等を挙げることができる。
【0053】
本発明で用いる乳清ミネラルは乳製品であり、乳の風味成分を濃縮したものであることから、上記飲食品は、クリーム煮、クリームシチュー等の乳又は乳製品で煮込む飲食品であると、乳清ミネラルの添加量が多い場合であっても苦味を感じにくい点で好ましい。
【実施例】
【0054】
<乳清ミネラルの製造>
〔製造例1〕
チーズを製造する際に副産物として得られる甘性ホエーをナノ濾過膜分離後、更に、逆浸透濾過膜分離により固形分が20質量%となるまで濃縮した後、更に80℃で20分間の加熱処理をして生じた沈殿を遠心分離して除去し、これを更にエバポレーターで濃縮し、スプレードライ法により、固形分97質量%の乳清ミネラル1を得た。
【0055】
〔製造例2〕
上記乳清ミネラル1の加熱処理工程において、処理時間を半分にした以外は、製造例1と同様にして乳清ミネラル2を得た。
【0056】
〔製造例3〕
上記乳清ミネラル1の加熱処理工程を行わない以外は、製造例1と同様にして乳清ミネラル3を得た。
【0057】
以下の表1に各製造例において得られた乳清ミネラルの、固形分中のカルシウム含量、固形分中の灰分含量、灰分中のカルシウム含量、固形分中の乳酸含量、固形分0.1質量%水溶液のpH、及び固形分中の乳糖含量を示す。
【0058】
【表1】

【0059】
以上の製法によって製造された乳清ミネラルを使用して、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0060】
<煮崩れ防止剤の製造>
製造例1〜3で得られた乳清ミネラル1〜3を、水で溶解し、固形分10質量%溶液とし、それぞれ煮崩れ防止剤A〜Cとした。
【0061】
<煮込み試験>
〔実施例1〕
市販ジャガイモ(男爵)の皮を取り除き30mm角に切り出した。一方、上記煮崩れ防止剤Aを、乳清ミネラルを固形分として0.025質量%含有するように、1000mmlの水に溶解した。この水溶液を鍋に入れ、上記角切りしたジャガイモを4個投入し、4時間煮沸した。この時点での煮崩れの程度を目視により下記の評価基準に従い評価を行い、その結果を表2に記載した。
更に、煮沸後に取り出したジャガイモを室温で30分放冷後、下記評価基準に従い食感の評価を行い、結果を表2に記載した。
【0062】
〔実施例2〕
煮崩れ防止剤Aに代えて煮崩れ防止剤Bを使用した以外は、実施例1と同様にして、煮込み試験による評価(煮崩れ及び食感)を行ない、同様に結果を表2に記載した。
【0063】
〔実施例3〕
煮崩れ防止剤Aに代えて煮崩れ防止剤Cを使用した以外は、実施例1と同様にして、煮込み試験による評価(煮崩れ及び食感)を行ない、同様に結果を表2に記載した。
【0064】
〔実施例4〕
実施例1において、角切りしたジャガイモを4個投入した後、煮沸前に3時間放置して浸漬処理をし、煮沸時間を2時間とした以外は実施例1と同様にして、煮込み試験による評価を行ない、同様に結果を表2に記載した。
【0065】
〔比較例1〕
煮崩れ防止剤を無添加とした以外は実施例1と同様にして、煮込み試験による評価(煮崩れ及び食感)を行ない、同様に結果を表2に記載した。
【0066】
〔比較例2〕
煮崩れ防止剤Aに代えてカルシウム製剤(塩化カリウム)を、0.025質量%含有するように、1000mmlの水に溶解して使用した以外は、実施例1と同様にして、煮込み試験による評価(煮崩れ及び食感)を行ない、同様に結果を表2に記載した。
【0067】
<煮崩れの評価基準>
◎ :煮崩れを起していない。
○ :若干の煮崩れを起しているが問題はない程度である。
△ :煮崩れを起しており商品価値がない。
× :溶解を起しており全く商品価値がない。
【0068】
<食感の評価基準>
◎ :ジャガイモ全体に特有のホクホク感がある状態。
○ :ジャガイモの表面は若干ぬるりとしているが、内部は特有のホクホク感がある状態。
△ :食感にばらつきがある状態。
× :舌の上で潰れるほどで食感がなく喫食に適さない状態。
【0069】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳清ミネラルを有効成分として含有する煮崩れ防止剤。
【請求項2】
上記乳清ミネラルが、固形分中のカルシウム含量が2質量%未満であることを特徴とする請求項1記載の煮崩れ防止剤。
【請求項3】
食品素材を煮込む工程を有する飲食品の製造において、乳清ミネラルを有効成分として含有する煮崩れ防止剤の存在下で、食品素材を煮込み処理することを特徴とする、食品の煮崩れ防止方法。
【請求項4】
上記煮崩れ防止剤を、乳清ミネラルを固形分として0.001〜5質量%含有するように溶解させた溶液中に、食品素材を浸漬した後、煮込み処理することを特徴とする、請求項3記載の食品の煮崩れ防止方法。
【請求項5】
上記煮崩れ防止剤を、乳清ミネラルを固形分として0.001〜5質量%含有するように溶解させた溶液下で、食品素材を煮込み処理することを特徴とする、請求項3記載の食品の煮崩れ防止方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載の煮崩れ防止剤を使用して得られた飲食品。
【請求項7】
乳又は乳製品により煮込んだ請求項6記載の飲食品。

【公開番号】特開2011−87480(P2011−87480A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−241862(P2009−241862)
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】