説明

熱エンボス成形可能なエアフィルタ用濾材及びこれを用いたエアフィルタ

【課題】
エンボス成形可能なエアフィルタ用濾材において、低コストで、突起部が高くてもエンボス部分の破れがなくエンボス成形加工性が従来に比べて良好であり、エンボス部の「戻り現象」が生じず、高温雰囲気下で通風使用するときの経時の圧力損失上昇を抑制するエアフィルタ用濾材の提供。
【解決手段】
この課題は、ガラス繊維を主体繊維としたエアフィルタ用濾材において、その構成がガラス繊維を主体とした繊維97〜90質量%及び熱可塑性バインダー3〜10質量%であり、かつ、前記濾材の40℃における貯蔵弾性率に対する80℃における貯蔵弾性率の低下率が5%以下であることを特徴とする熱エンボス成形可能なエアフィルタ用濾材によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアフィルタ用濾材、特に半導体、液晶、バイオ・食品工業関係のクリーンルーム、クリーンベンチ等又はビル空調用エアフィルタ、空気清浄機用途などに使用される熱エンボス成形可能なエアフィルタ用濾材及び前記濾材を用いたエアフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気中のサブミクロン、又はミクロン単位の粒子を効率的に捕集するために、エアフィルタの捕集技術が用いられている。エアフィルタは、その対象とする粒子径や除塵効率の違いによって粗塵用フィルタ、中性能フィルタ、HEPAフィルタ、ULPAフィルタなどに大別される。これらエアフィルタの多くには、不織布状、織状、マット状などの繊維層エアフィルタ濾材が使用され、特に中性能フィルタ、HEPAフィルタ、ULPAフィルタには、不織布状のガラス繊維製エアフィルタ用濾材が多く使われている。これは、ガラス繊維のもつ不燃性に加え、エアフィルタの基本性能である圧力損失と捕集効率との特性が高いことに由来する。
【0003】
通常、エアフィルタ用濾材は、濾過面積を大きくするために、山谷のあるジグザグ状にプリーツ加工されたパックをアルミ枠、木枠などに収めてエアフィルタとする。ここで、プリーツされた濾材が互いに接触すると通風使用時に構造抵抗を起こすので、アルミ板製、紙製などのセパレーターを入れるか、ホットメルトリボン、糸などを濾材上に付着させてスペーサーとし、間隔を保持させることによって、濾材同士が直接接触させないようにしている。
【0004】
これとは別の考え方で、エアフィルタ濾材に熱エンボス加工を行い、濾材に浅いくぼみを形成させ、これをスペーサーとする方法が提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0005】
この方法で行うと、エアフィルタの濾過面積を大きく取れると同時に、セパレーターやスペーサーによる構造抵抗が少なくできるので、エアフィルタを低圧力損失化できるという特徴がある。
【0006】
ところが、エアフィルタ濾材を直接成形加工してくぼみをもたせるため、その熱加工方法や熱加工機の条件によって、くぼみ(エンボス)の深さが十分でない問題、濾材に亀裂や割れが生じる問題があった。エアフィルタ濾材を構成する繊維に有機繊維、特に熱可塑性の合成繊維を使用している場合は、この影響が少ないが、剛直で脆い特性をもつガラス繊維で構成された濾材の場合は、この問題が深刻である。これを解決する熱エンボス加工方法が提案されている(特許文献4、特許文献5)。
【0007】
しかし一方で、エアフィルタ濾材においても、エンボス深さなどの加工性の改善が求められている。ところが、本発明者らが調査した結果、エアフィルタ用濾材のシートを所定温度で予備加熱し、直後にエンボス成形加工した場合は、その後の放冷中にエンボス部の「戻り現象」が生じ、エンボス部の深さが浅くなってしまうことがわかった。これは、濾材シートが放冷されて表面温度が室温に冷めるまでの間に、エンボス部の歪エネルギーによって元に復元しようとする力が働いていたためと推定される。エンボス深さが浅くなるので、出来上がったエアフィルタのプリーツ折込数が多くなりすぎて設計どおりのフィルタにならない。そのため、予備加熱温度を上げたり、エンボスロールの突起高さを高くしたりするなどの対策を取ったが、ランニングコストが上がったり、突起部が高すぎてエンボス部分が破れたりするなどの問題があった。
【0008】
さらに、エアフィルタを高温雰囲気下で通風使用する場合があり、このときにおいてもエンボス部深さの「戻り現象」が起こって、エアフィルタの圧力損失が経時で上昇してしまうことによって使用できなくなる問題があった。
【0009】
したがって、これら問題についての改善が求められている。
【特許文献1】特開平3−101804
【特許文献2】特開平3−196805(特許第2935432号)号公報
【特許文献3】特開平3−196807(特許第2935433号)号公報
【特許文献4】特開平09−221269(特許第2865606号)号公報
【特許文献5】特開平09−221270(特許第2865607号)号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、エンボス成形可能なエアフィルタ用濾材において、低コストで、突起部が高くてもエンボス部分の破れがなくエンボス成形加工性が従来に比べて良好であり、エンボス部の「戻り現象」の生じない本濾材を使用したエアフィルタを70℃という高温雰囲気下で通風使用するときの経時の圧力損失上昇を抑制するエアフィルタ用濾材と前記濾材を用いたエアフィルタとを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、ガラス繊維を主体繊維としたエアフィルタ用濾材において、その構成がガラス繊維を主体とした繊維97〜90質量%及び熱可塑性バインダー3〜10質量%であり、かつ、前記濾材の40℃における貯蔵弾性率に対する80℃における貯蔵弾性率の低下率を5%以下としたものである。また、前記熱可塑性バインダーを、ガラス転移温度80℃以上の熱可塑性樹脂としたものである。さらに、前記エアフィルタ用濾材を熱エンボス成形し、プリーツ加工してフィルタカートリッジを作成した後、70℃熱風を面風速2.5m/sec.の条件で通風しても、エンボス成形部の戻りが無い構造としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエアフィルタ用濾材を使用することによって、低コストで、突起部が高くてもエンボス部分の破れがないのでエンボス成形加工性が従来に比べて良好であり、エンボス部の「戻り現象」が生じないためセパレーター、スペーサーなどを用いなくともよく、かつ、この「戻り現象」が生じないために、本濾材を使用したエアフィルタを70℃という高温雰囲気下で通風使用するときの経時の圧力損失上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のエアフィルタ用濾材は、ガラス繊維を主体繊維としたエアフィルタ用濾材において、その構成がガラス繊維97〜90質量%及び熱可塑性バインダー3〜10質量%で構成される。ガラス繊維を主体繊維としたエアフィルタ用濾材は、ガラス繊維だけでシート化しても強度が非常に弱いため、通常、有機系のバインダーを付与することで、所定強度をもたせている。エンボス成形可能なエアフィルタ用濾材は、前述の強度物性に加えて、このバインダーに熱成形機能をもたせる必要がある。ガラス繊維だけでは、熱エンボス成形を行ってもシートにはエンボスのくぼみができないか、又は加工した突起・エッジ部分などで破れてしまう。ガラス繊維に熱成形機能をもったバインダーを付与することによって、はじめてシートの熱流動性が発現する。このため、バインダーは、熱可塑性であるものを用いる。問題なく熱成形を行うためには、3質量%以上のバインダーを配合することが必要であり、バインダー分が高いほど熱流動特性が良好になる。ただし、バインダーを増やすことは逆に濾材の不燃・難燃性を悪化させるので、配合率10質量%以下が望ましい。より好ましくは、4〜7質量%である。
【0014】
ここで、本発明者らが鋭意検討を行った結果、エンボス成形時及びエアフィルタを高温雰囲気下で通風使用するときにおける濾材の「戻り現象」は、濾材を動的粘弾性装置で測定した結果で求められる式(1)の貯蔵弾性率と関係があることが分かった。
【0015】
貯蔵弾性率 E’= |σ/ε|cosδ (1)
式中、σは応力を、εは歪をそしてδは位相差を意味する。
【0016】
一般的に高分子材料に正弦的に変化する応力を与えるとき、歪は、同じ周波数となり、位相は、δだけ遅れた正弦波形となる。貯蔵弾性率は、1周期当たりに貯蔵され完全に回復するエネルギーの尺度であり、物質の弾性要素と考えることができる。すなわち、貯蔵弾性率が大きい値ほど、力を加えたときに押し返そうとする力が強いことを示している。
【0017】
濾材に熱を加えて昇温していくと、熱可塑性であるバインダーは、軟化し貯蔵弾性率が低下していく。熱エンボス成形時においては、濾材の表面温度が通常100〜200℃となるよう予備加熱した後、エンボスロールなどを使ってエンボス成形加工を行う。加工後の濾材表面温度が室温に戻るまでの冷却時間にはある程度の時間がかかるので、濾材が軟化状態から硬化するまでの間に前述の「戻り現象」が生じてしまう。本発明者らの検討では、40℃と80℃の貯蔵弾性率の差が少ない場合に、「戻り現象」を抑えることができることを新たに見出した。具体的には、エアフィルタ用濾材の40℃における貯蔵弾性率に対する80℃における貯蔵弾性率の低下率(以下、「貯蔵弾性率の低下率」と略す。)が5%以下であることが望ましい。貯蔵弾性率の低下率が5%以上では、「戻り現象」が明らかに生じ始めるので、エンボス深さが浅くなってしまう。より好ましくは、3%以下である。また、貯蔵弾性率の絶対値は、本発明では特に限定しないが、40℃における貯蔵弾性率が低すぎると加工後の濾材表面温度が室温に戻るまでの軟化状態が長時間続いて「戻り現象」が生じやすくなるので、少なくとも1.0×108Pa以上であることが好ましい。より好ましくは、5.0×108Pa以上である。
【0018】
エアフィルタ濾材において、貯蔵弾性率の低下率を5%以下とする方法としては一つに限定しないが、エアフィルタ濾材の熱可塑性バインダーの組成をガラス転移温度80℃以上とすることは特に有効な方法である。ガラス転移温度を80℃以上と高くすることによって濾材のガラス様状態が比較的高温まで保たれるため、放冷中の「戻り現象」が起る前に直ぐに固化する、いわゆる熱応答性が良好になると見られ、エンボス部の深さが設定のまま保持される。ガラス転移温度80℃の指標は、本発明者らが検討して結果得られた経験値であり、80℃以下の場合は、エンボス部の「戻り現象」が生じてしまう。
【0019】
前述のガラス転移温度80℃以上の熱可塑性バインダーは、スチレン−アクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。この中で、特にスチレン−アクリル酸エステル樹脂が特に好ましい。スチレン−アクリル酸エステル樹脂は、前記樹脂の中でも特に熱流動性と熱応答性がよく、「戻り現象」が生じにくいと見られる。
【0020】
スチレン−アクリル酸エステル樹脂は、基本骨格の構成として、スチレンモノマーとアクリル酸エチルモノマーの組み合わせ、スチレンモノマーとアクリル酸ブチルの組み合わせ、スチレンモノマーとアクリル酸2エチルヘキシルの組み合わせなどを共重合させた樹脂が挙げられる。ガラス転移温度は樹脂の分子量、橋かけ度及び結晶化度などにより若干変化するが、共重合体組成によって最も変化し、そのガラス転移温度は基本骨格を構成するホモポリマーのガラス転移温度とモノマーの重量分率からFoxの式を用いて理論計算できる。このことから、ガラス転移温度80℃以上においてのスチレンモノマーの構成割合(重量分率)は、理論計算値として、前述の順番に83.7%以上、87.0%以上、88.2%以上となる。また、本発明の効果を変えないならば、これら基本骨格にメタクリル酸メチル、アクリロニトリル、メタクリル酸エチル、酢酸ビニル、メタクリル酸ブチルなどの各モノマー成分、−COOH基、その他の官能基を、樹脂特性を変更する目的で適宜併用しても構わない。
【0021】
本発明で主体繊維として使用するガラス繊維は、必要とする濾過性能、その他物性に応じて、種々の繊維径、繊維長を有する極細ガラス繊維、チョップドガラス繊維の中から自由に選ぶことができる。特に、極細ガラス繊維は、火焔延伸法やロータリー法で製造されるウール状のガラス繊維であり、濾材の圧力損失を所定の値に保ち、適正な捕集効率とするための必須成分である。繊維径が細くなるほど捕集効率は高くなるため、高性能の濾材を得るためには、平均繊維径の細かい極細ガラス繊維を配合する必要がある。ただし、繊維径が細くなると圧力損失が上昇しすぎる場合があるので、この範囲内で適正な繊維径のものを選択すべきである。なお、数種の繊維径のものをブレンドして配合しても構わない。また、半導体工程用途などでシリコンウエハーのボロン汚染を防止する目的で、ローボロンガラス繊維、シリカガラス繊維を使用することもできる。さらに、副資材として、エンボス成形加工性に影響を与えない範囲内で、天然繊維、有機合成繊維などをガラス繊維中に配合しても差し支えない。その配合率は主体繊維中の20質量%以下が望ましく、さらに望ましくは10質量%以下である。
【0022】
本発明のエアフィルタ用濾材は、次に示す製造方法などを用いて得ることができる。すなわち、濾材を構成するガラス繊維をパルパーなどの分散機を用いて水中に分散させ、このスラリーを抄紙機で湿式抄紙して湿紙を得る。次に、本発明のバインダーを前述の湿紙に付着させ、その後乾燥させる方法である。また、湿紙をいったん乾燥した乾紙に、これら処理液を単独又は混合して付与しても、その効果は変わらない。
【0023】
原料繊維の分散工程では、分散性を良好にするために、硫酸酸性でpH2〜4の範囲で調整する方法が好ましいが、pH中性で分散剤などの界面活性剤を使用してもよい。また、撥水性及び/又は難燃性を付与するため、本発明の目的の範囲内でバインダー液に撥水剤及び/又は難燃剤を添加することも可能である。
【0024】
バインダー液の付与方法としては特に限定されるものではないが、湿紙又は乾紙をバインダー液に浸漬する方法、湿紙又は乾紙にバインダー液をスプレーで吹き付ける方法、ロールにバインダー液を付着させ湿紙又は乾紙に転写する方法が挙げられる。
【0025】
乾燥方法としては、熱風乾燥機、ロールドライヤーなどを利用し、120℃以上、好ましくは140℃以上の乾燥温度が望ましい。
[実施例]
【0026】
次に、実施例及び比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
本発明のエアフィルタ用濾材の熱エンボス成形方法の一例としては、図1のようにエアフィルタ濾材は、加熱ステーションで加熱されエンボスマーキングロールを通過して走行する。これによって連続的に、エンボス成形とマーキング(=折り筋)とが形成される。本発明のエアフィルタ用濾材は、エンボスマーキングロールを通過する前では表面温度が150〜175℃であり、150℃未満の温度では、エンボス成形部に亀裂、割れが発生することが分かった。
その他、エアフィルタ濾材を加熱する方法としては、電熱、蒸気などで加熱されたロール、プレス金型を通過させてもよい。
【実施例1】
【0027】
平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維65質量%、平均繊維径2.70μmの極細ガラス繊維30質量%、平均繊維径6μmのチョップドガラス繊維5質量%を、濃度0.5質量%、硫酸酸性pH3.5でミキサーを用いて離解した。次いで手抄装置を用いて抄紙し、湿紙を得た。次に、ガラス転移温度85℃でポリスチレン−アクリル酸エチル樹脂を組成とするエマルジョン製品の市販品Aを固形分濃度2.0質量%水溶液に希釈し、これをバインダー液として前記湿紙に付与し、その後120℃の熱風ドライヤーで乾燥し、坪量70g/m、バインダー付着量6.0質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
【実施例2】
【0028】
実施例1において、エマルジョン製品の市販品Aの代わりに、ガラス転移温度86℃でポリスチレン−アクリル酸エチル樹脂を組成とするエマルジョン製品の市販品Bを固形分濃度2.0質量%水溶液に希釈し、これをバインダー液として使用した以外は実施例1と同様にして、坪量70g/m、バインダー付着量6.0質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
【実施例3】
【0029】
実施例1において、エマルジョン製品の市販品Aの代わりに、ガラス転移温度92℃でポリスチレン−アクリル酸エチル樹脂を組成とするエマルジョン製品の市販品Cを固形分濃度2.0質量%水溶液に希釈し、これをバインダー液として使用した以外は実施例1と同様にして、坪量70g/m、バインダー付着量5.9質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
[比較例1]
【0030】
実施例1において、エマルジョン製品の市販品Aの代わりに、ガラス転移温度75℃でポリスチレン−アクリル酸エチル樹脂を組成とするエマルジョン製品の市販品Dを固形分濃度2.0質量%水溶液に希釈し、これをバインダー液として使用した以外は実施例1と同様にして、坪量70g/m、バインダー付着量5.9質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
[比較例2]
【0031】
実施例1において、エマルジョン製品の市販品Aの代わりに、ガラス転移温度60℃でポリスチレン−アクリル酸エチル樹脂を組成とするエマルジョン製品の市販品Eを固形分濃度2.0質量%水溶液に希釈し、これをバインダー液として使用した以外は実施例1と同様にして、坪量70g/m、バインダー付着量6.1質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
[比較例3]
【0032】
実施例1において、エマルジョン製品の市販品Aの代わりに、ガラス転移温度35℃でポリスチレン−アクリル酸エチル樹脂を組成とするエマルジョン製品の市販品Fを固形分濃度2.0質量%水溶液に希釈し、これをバインダー液として使用した以外は実施例1と同様にして、坪量70g/m、バインダー付着量5.9質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
【実施例4】
【0033】
実施例1において、実施例1の配合原料を硫酸酸性PH3.5の水中にて、10m3パルパー分散機を用い離解した。次いで抄紙機にて連続的に抄紙を行い、抄紙によって得られた湿紙に、実施例1のエマルジョン製品市販品Aを固形分濃度2.0質量%水溶液に希釈したバインダー液を付与し、これを120℃のロールドライヤーで乾燥し、坪量80g/m、バインダー付着量6.0質量%である610mm幅、300m長のエアフィルタ用濾材連続シートの巻取り品を作成した。次いで、これを図1の熱エンボス成形方法によってフィルタカートリッジを作成し、このフィルタカートリッジをアルミ製支持枠にはめ込み、外寸縦610mm、横610mm、奥行き292mmの本発明のエアフィルタを作成した。
[比較例4]
【0034】
実施例4において、エマルジョン製品の市販品Aの代わりに、ガラス転移温度60℃でポリスチレン−アクリル酸エチル樹脂を組成とするエマルジョン製品の市販品Eを固形分濃度2.0質量%水溶液に希釈し、これをバインダー液として使用した以外は実施例4と同様にして、坪量70g/m、バインダー付着量6.1質量%であるエアフィルタ用濾材連続シートの巻取り品を得た。次いで、実施例4と同様の熱エンボス成形方法によってフィルタカートリッジを作成し、このフィルタカートリッジを実施例4と同様のアルミ製支持枠にはめ込み、エアフィルタ用濾材成形装置にて加工を行い、外寸縦610mm、横610mm、奥行き292mmのエアフィルタを作成した。
【0035】
なお、これら実施例、比較例におけるガラス転移温度は、メーカーの公称値である。
【0036】
実施例及び比較例の物性評価は、次に示す方法で行った。
【0037】
(1)濾材圧力損失
実施例1〜3及び比較例1〜3の濾材について、自製の装置を用いて有効面積100cmの濾紙に面風速5.3cm/sec.で通風したときの圧力損失を微差圧計で測定した。
【0038】
(2)0.3μm濾材DOP透過率
実施例1〜3及び比較例1〜3の濾材について、ラスキンノズルで発生させた多分散DOP粒子を含む空気を、有効面積100cmの濾紙に面風速5.3cm/sec.で通風したときの上流及び下流の個数比からDOPの透過率を、リオン社製レーザーパーティクルカウンターを使用して測定した。なお、対象粒径を0.3μmとし、透過率を粒径区分0.2−0.3μm透過率と0.3−0.4μm透過率との幾何平均から求めた。
【0039】
(3)貯蔵弾性率及び貯蔵弾性率の低下率
実施例1〜3及び比較例1〜3の濾材について、試料から8×40mmの試験片を切り取り、粘弾性測定装置(DMS210 セイコーインスツルメンツ社製)にセットし、初期28℃から昇温させて、40℃及び80℃の貯蔵弾性率を測定した。
また、これらの測定値から、貯蔵弾性率の低下率も計算によって求めた。
【0040】
(4)エンボス評価
濾材加工時のエンボス部の戻りをラボラトリー的に評価するため、幅10mm、長さ70mm、深さ2mm及び幅10mm、長さ70mm、深さ3mmの2種類の凹凸金型を作成し、実施例1〜3及び比較例1〜3の濾材を150℃に加熱した凹凸金型の間に挟み、所定圧力で5秒間加圧した。このときのエンボスのつきかたを○(実用に耐える)、△(実用に耐えない)、×(実用に耐えない)で視感評価した。
【0041】
(5)エアフィルタエンボス評価
実施例4と比較例4のエアフィルタについて、70℃の熱風を面風速2.5m/sec.の条件で48時間通風した前後のエンボス成形部の深さを実測し、エンボス深さに変化が無いものを○(実用に耐える)、浅くなったものを×(実用に耐えない)と評価した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

実施例1、2、3と比較例1、2、3との比較によれば、ガラス転移温度80℃未満では、貯蔵弾性率の低下率が5%以上と大きく、ガラス転移温度75℃である比較例1のエンボス評価では、エンボス深さ2mmでやや不良程度であったが、更に厳しい深さ3mmでエンボスの戻り現象が顕著であった。また、更にガラス転移温度の低い比較例2,3では、エンボス深さ2mmと3mmでともにエンボスの戻り現象が顕著であった。一方、本発明のガラス転移温度80℃以上である実施例1、2及び3では、貯蔵弾性率の低下率が5%以下であり、エンボスの戻り現象が見られず、本発明の効果のあることが分かる。
【0044】
実施例4と比較例4との比較によれば、ガラス転移温度80℃以上のバインダーを付与した貯蔵弾性率の低下率が5%以下である濾材を使用した実施例4のエアフィルタは、70℃の熱風を面風速2.5m/sec.の条件で通風した後のエンボスの戻り現象が起こっていないことがわかる。一方、比較例4のエアフィルタは、エンボス深さが浅くなっており、エンボスの戻り現象が顕著に起っていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】は、この発明の実施の形態におけるエアフィルタ用濾材カートリッジ製造装置の斜視図である。
【図2】は、この発明の実施の形態におけるエアフィルタ用濾材カートリッジ製造装置内エンボスマーキングロール部の斜視図である。
【図3】は、実施例1における濾材の貯蔵弾性率測定データのグラフである。
【図4】は、比較例2における濾材の貯蔵弾性率測定データのグラフである。
【符号の説明】
【0046】
A・・・濾材供給ステーション
B・・・加熱ステーション
C・・・エンボスマーキングステーション
D・・・冷却ステーション
E・・・接着剤塗布ステーション
F・・・濾材幅断ちステーション
G・・・プリーティングステーション
I・・・養生ステーション
J・・・定長切断ステーション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維を主体繊維としたエアフィルタ用濾材において、その構成がガラス繊維を主体とした繊維97〜90質量%及び熱可塑性バインダー3〜10質量%であり、かつ、前記濾材の40℃における貯蔵弾性率に対する80℃における貯蔵弾性率の低下率が5%以下であることを特徴とする熱エンボス成形可能なエアフィルタ用濾材。
【請求項2】
前記熱可塑性バインダーがガラス転移温度80℃以上の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1記載の熱エンボス成形可能なエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
前記請求項2の熱可塑性バインダーの組成がスチレン−アクリル酸エステル樹脂であることを特徴とする請求項2記載の熱エンボス成形可能なエアフィルタ用濾材。
【請求項4】
前記エアフィルタ用濾材を熱エンボス成形してフィルタカートリッジを作成した後、70℃の熱風を面風速2.5m/sec.の条件で通風しても、エンボス成形部の戻りが無いことを特徴とする、請求項1、2又は3記載の熱エンボス成形可能なエアフィルタ。
















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−226260(P2009−226260A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72008(P2008−72008)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000241810)北越製紙株式会社 (196)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】