熱センサ
【課題】機械的な構造のみにより差動式熱感知の機能を実現して大幅に小型化可能とする。
【解決手段】熱センサ10は外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージ12とパッケージ室16に収納されたセンサチップ20により構成される。センサチップ20は、パッケージ室16の圧力変化により変位するメンブレン部位26を形成したチップ変位部22と、チップ変位部22に密着配置されて内部に密閉された接点室28を形成するチップ接点部24と、接点室28に配置されメンブレン部位の変位により閉じるノーマルオープンの接点30、32と、接点室28を外気に開放する通気孔38と、外気の緩慢な温度上昇時にパッケージ室の空気を、通気孔38を介して外部に漏洩させて圧力変化を抑制するリーク構造40を備える。
【解決手段】熱センサ10は外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージ12とパッケージ室16に収納されたセンサチップ20により構成される。センサチップ20は、パッケージ室16の圧力変化により変位するメンブレン部位26を形成したチップ変位部22と、チップ変位部22に密着配置されて内部に密閉された接点室28を形成するチップ接点部24と、接点室28に配置されメンブレン部位の変位により閉じるノーマルオープンの接点30、32と、接点室28を外気に開放する通気孔38と、外気の緩慢な温度上昇時にパッケージ室の空気を、通気孔38を介して外部に漏洩させて圧力変化を抑制するリーク構造40を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災による温度上昇の時間変化率が所定値を越えたときに接点を閉じて火災信号を出力する差動式熱感知器に使用される熱センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の差動式熱感知器は、感知器内に数十ミリメートル大の金属製のチャンバーをダイヤフラムで仕切り、火災による温度上昇を受け、気密空気室内の空気が膨張することにより、気密空気室に連なるダイヤフラムが押され、接点を閉じることにより火災信号を出力するようにしている。また暖房等による緩慢な温度変化による膨張は、気密空気室に設けたリーク管により外部に漏らし、接点を閉じないようにしている。
【0003】
このように従来の差動式熱感知器は、電気的な要素は接点のみであり、特別な電気回路を必要とせずに単純な機械的構造で済み、そのため低価格を実現し、建物内の火災報知設備の感知器として広く普及している
【特許文献1】特開2003−132457号公報
【特許文献2】特開2000−132760号公報
【特許文献3】特開平5−250580号公報
【特許文献4】特開2001−243567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来のダイヤフラム式の差動式熱感知器にあっては、チャンバー内にダイヤフラムを配置して気密空気室を形成するという構造上の制約があり、百ミリメートル大の感知器サイズが必要であり、これ以上小さくできないことから、建物内に設置した際に室内デザインを損なう恐れがあり、デザイン面から採用が制約されるという問題がある。
【0005】
一方、MEMS(Micro Electro Mecahanical System)技術を応用した小型化された圧力センサが商品化されており、数ミリメートルといった半導体パッケージに収められ、圧力に応じた電気信号を出力する。
【0006】
そこで、このような圧力センサを利用して差動式火災感知器の小型化を図ることが考えられるが、この種の圧力センサは検出素子として圧電素子や静電容量を応用したものであり、検出素子から信号を処理して出力するために電気回路部を必要とし、機械的な構造のみで済んでいる既存の差動式熱感知器と同じ機能を持たせるには、小型化はできても高価格になるという問題がある。
【0007】
本発明は、電気回路部を必要とせずに機械的な構造のみにより差動式熱感知の機能を実現して大幅に小型化可能な熱センサ部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は熱センサを提供するものであり、
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端にパッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位(薄膜部位)を一体に形成したチップ変位部と、
チップ変位部における支持壁の他端に密着配置されて内部に密閉された接点室を形成するチップ接点部と、
接点室に配置され、メンブレン部位の変位により閉じるノーマルオープン構造の接点と、
チップ接点部及びパッケージに形成され、接点室をチップ接点部及びパッケージを介して外気に開放する通気孔と、
外気の緩慢な温度上昇時にパッケージ室の空気を、通気孔を介して外部に漏洩させて圧力変化を抑制するリーク構造と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明による熱センサの別の形態にあっては、チップ接点部及びパッケージに形成され、接点室をチップ接点部及びパッケージを介して外気に開放する通気孔をなくしている。
【0010】
即ち本発明の熱センサは、
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端にパッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位を一体に形成したチップ変位部と、
チップ変位部における支持壁の他端に密着配置されて内部に密閉された接点室を形成するチップ接点部と、
接点室に配置され、メンブレン部位の変位により閉じるノーマルオープン構造の接点と、
外気の緩慢な温度上昇時に前記パッケージ室の空気を接点室に漏洩させてメンブレン部位の変位を抑制するリーク構造と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の別の形態にあっては、ノーマルクローズの接点構造を備える。即ち本発明の熱センサは、
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端にパッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位を一体に形成したチップ変位部と、
チップ変位部のメンブレン部位側に密着配置され、メンブレン部位に相対してパッケージ室に連通した接点室を形成したチップ接点部と、
接点室に配置され、前記メンブレン部位の変位により開くノーマルクローズ構造の接点と、
チップ変位部の空洞をパッケージを介して外気に開放する通気孔と、
外気の緩慢な温度上昇時にパッケージ室の空気を通気孔を介して外部に漏洩させて圧力変化を抑制するリーク構造と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の別の形態にあっては、通気孔なしで且つノーマルクローズの接点構造を備える。即ち、本発明の熱センサは、
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端にパッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位を一体に形成したチップ変位部と、
チップ変位部のメンブレン部位側に密着配置され、メンブレン部位に相対してパッケージ室に連通した接点室を形成したチップ接点部と、
接点室に配置され、メンブレン部位の変位により開くノーマルクローズ構造の接点と、
外気の緩慢な温度上昇時に前記パッケージ室の空気を接点室に漏洩させてメンブレン部位の変位を抑制するリーク構造と、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
ここで、センサチップを構成するチップ変位部及びチップ接点部は、シリコン又はシリコン化合物からなり、チップ変位部のメンブレン部位を異方性エッチング又はドライエッチングにより形成する。
【0014】
リーク構造は、センサチップにおけるシリコン又はシリコン化合物の微細加工により形成され、幅100μm以下、深さ100μm以下の多角形断面形状をもつリーク溝をメンブレン部位に対して水平に備える。もしくはメンブレン部位の一部に、直径10μm以下の円形、または一辺10μm以下の多角形の穴形状を持つリーク孔を、メンブレン部位に対して垂直に設ける。
【0015】
本発明の熱センサは、火災による温度の時間変化率を検出して火災検出信号を送出する差動式熱感知器に組み込む。この場合、熱センサのパッケージを外部に露出するように差動式熱感知器の外カバーに設ける。また熱センサのパッケージを差動式熱感知器の外カバーと一体に形成しても良い。
【0016】
本発明の熱センサは、監視区画に配置された空気管の火災による空気膨張量から、火災による温度の時間変化率を検出して火災検出信号を送出する差動式熱感知器に組み込む。この場合、熱センサのパッケージ部に空気管を直接接続してパッケージ室に空気管の空気を導入する。
【0017】
センサチップは、シリコンまたはシリコン化合物からなる基板の一部を加工して得た、一辺約1mm以下の矩形または直径約1mm以下の円筒形の窪地状のメンブレン部を持ち、前記メンブレン部は厚さ1μm乃至10μmのシリコン化合物または金属からなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、半導体プロセスにより製造される機械的な差動式熱感知として機能するセンサチップ構造としたことにより、従来の百ミリメートル大の差動式熱感知器を、数ミリメートル大にまで小さくすることができ、大幅な小型化により設置場所のデザインを損なわないというメリットだけでなく、大幅な小型化により省資源と低価格化を果たすことができる。
【0019】
またセンサチップはシリコン及びシリコン化合物で作られており、長期間使用してもシリコン及びシリコン化合物は腐食せず、疲労破壊もしないことが知られており、長期間に亘り安定した品質を実現することができ、信頼性を高めることができる。
【0020】
更に、半導体プロセスによる製造で、特性の平準化を図ことができ、製造上のメリットとして感度調整等を不要とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明による熱センサの実施形態を示した断面図である。図1において、熱センサ10は、パッケージ12と、その内部に収納されたセンサチップ20で構成される。パッケージ12は、キャップ状の容器の下部にステム14を固着して、内部に密封されたパッケージ室16を形成しており、ステム14には一対のリード18が外部に向けて取り出されている。
【0022】
パッケージ12としては、例えば半導体素子のパッケージとして知られた一般的なCANパッケージを使用することができる。CANパッケージは、鉄、ニッケルなどの金属薄膜の円筒状容器と、電気信号を出力するリードを備えており、内部に図1のように本実施形態のセンサチップ20を配置する。
【0023】
パッケージ室16に配置されたセンサチップ20は、上部側のチップ変位部22と下側のチップ接点部24で構成される。チップ変位部22はシリコン及びシリコン化合物を用いて半導体プロセスにより形成されており、空洞を形成する支持壁25の上端側にパッケージ室16の圧力変化により変位するメンブレン部位(薄膜部位)26を一体に形成し、メンブレン部位26を形成するために刳り貫いた下側の空洞は接点室28としている。
【0024】
一方、チップ接点部24側は、チップ変位部22と同様にシリコン及びシリコン酸化物の基板を用いた半導体プロセスで形成されており、チップ変位部22における支持壁25の下端側に密着配置させることで、内部に密閉された接点室28を形成している。
【0025】
接点室28側となるメンブレン部位26の下側には接点30が配置され、また接点30に相対したチップ接点部24側には別の接点32が配置されている。接点30,32はノーマル接点構造を実現する。
【0026】
メンブレン部位26の下側に設けた接点30は、外側に配置した上部電極34に電気的に貫通接続され、上部電極34はボンディングワイヤ36により一方のリード18に電気的に接続される。
【0027】
チップ接点部24側に設けた接点32は、下部電極35を介してパッケージ室16側に取り出され、そこからボンディングワイヤ36により他方のリード端子18に電気的に接続している。
【0028】
更にチップ接点部24には、接点室28に連通する通気孔38が縦方向に貫通形成されており、通気孔38はステム14に形成した開口部14aを介して接点室28を外気に開放している。
【0029】
このチップ接点部24に形成した通気穴38の上部のチップ変位部22との接触面の位置には、横方向にリーク構造40が設けられている。リーク構造40はパッケージ室16と通気孔38を連通する微細なリーク溝であり、外気の緩慢な温度上昇時に、パッケージ室16の空気を通気孔38を介して外部に漏洩させて、パッケージ室16の圧力変化を抑制する。
【0030】
図2は図1のセンサチップ20を上下に分離して分離側から示した平面図である。図2(A)は図1のセンサチップ20の上側のチップ変位部22を分離して分離面側を示した平面図であり、中央に空洞を刳り貫いて支持壁25を形成することで、端面にメンブレン部位26が形成されており、メンブレン部位26の中央には接点30が設けられている。
【0031】
図2(B)は図1のセンサチップ20の下側のチップ接点部24を分離面から示している。チップ接点部24にあっては、図2(A)のメンブレン部位26に相対する接点室28に面する部分に接点32を配置し、接点32から外側に下部電極35が引き出されている。
【0032】
また接点室28に開放する位置に通気孔38が設けられ、接点室28を外部に連通している。この通気孔38の開口部に対しては、チップ接点部24の外側、即ちパッケージ室16側からリーク構造40が設けられており、パッケージ室16をリーク構造40及び通気孔38を介して外部に連通させている。
【0033】
図1及び図2に示す本実施形態の熱センサ10にあっては、火災により設置場所の建物内の温度が急激に上昇すると、まずパッケージ12が加熱され、その熱を受けてパッケージ室16の内部空気が暖まっていく。
【0034】
パッケージ室16は微小なリーク構造40を介して外気に通じているが、火災による熱を受けてパッケージ室16の空気が暖まっていくときの圧力上昇に伴うリーク構造40からの空気漏れ量は、短時間においてはほぼゼロと看做せ、火災に伴う温度上昇の際にパッケージ室16は密封されていると看做してよい。
【0035】
パッケージ室16の内部空気が火災による温度上昇を受けると、温度上昇に従い内部の圧力が上昇していく。上昇したパッケージ室16の内部空気の圧力は、センサチップ20に設けているチップ変位部22側のメンブレン部位26の薄膜を押し下げ、メンブレン部位26の下側への変位により、接点室28側に設けている接点30が下側の接点32に接触し、火災接点信号を出力する。
【0036】
このような火災接点信号の出力については、特別な電気回路は不要であり、単純な機械的な構造によってのみ火災接点信号を出力することができる。
【0037】
熱センサ10は一対のリード18を受信機から感知器回線に接続しており、接点30が接点32に接触すると感知器回線に発報電流が流れ、この発報電流を火災受信機で受信することで火災警報を発することができる。
【0038】
一方、熱センサ10は季節変動、冷暖房などによる緩慢なパッケージ室16の内部圧力の変化に対しては誤動作をしてはならない。このため、緩慢なパッケージ室16の圧力変化に対し緩やかに膨張空気を漏らすことのできるリーク構造40を設け、パッケージ室16の内部圧を外気圧と同じになるようにしている。
【0039】
次に図1の本実施形態におけるパッケージ室16の内部圧力の増加に対し、メンブレン部位26が変位して接点を閉じる構造の詳細を説明する。
【0040】
本実施形態において、例えば標準的なCANパッケージであるTO−18をパッケージ12に採用にして熱センサ10を構築する場合、CANパッケージ内の容量は38.2mm3となる。ここで、図2に示す矩形形状を持つセンサチップ20を縦横=1.5mm×1.5mmで構築し、メンブレン部位26の径RをR=1.2mmφにしたとする。また外部の温度が25℃の常温から、火災により65℃まで温度が上昇したと仮定する。
【0041】
外部の温度が上昇すると、CANパッケージを用いたパッケージ12を介してパッケージ室16の空気の温度も急激に上昇し、例えば60℃まで達したとする。このときメンブレン部位26に変位がないと仮定した場合、パッケージ室16の内部圧力Pは
P=(273+60)/(275+25)=1.12(atm)
まで上昇する。
【0042】
この内部圧力Pによりメンブレン部位26を接点方向に押し下げられ、接点30を接点32に閉じる。一方、接点室28は通気孔38及び開口14aを介して圧力的に外気に開放されており、接点室28の圧力は1atmを示す。
【0043】
ここでメンブレン部位26の曲げ強さを無視すれば、温度上昇によるパッケージ室16の空気膨張量Qは
Q=38.2×1.12=4.58(mm3)
となる。
【0044】
この空気膨張量Qは、径R=1.2mmφのメンブレン部位26を全体にH=2.4mm押し下げる体積に相当する。実際には、メンブレン部位26の強度に打ち勝って接点30,32を閉じることが必要になる。
【0045】
次にメンブレン部位26の強度を計算し、一定圧力とした場合のメンブレン寸法(厚さ)の違いによる接点の変位量を計算する。メンブレン部位26を酸化シリコンSiO2により構築した場合を考える。
【0046】
円盤状のメンブレン部位26を構成する薄膜に圧力が加わったときの変位δは
δ=k・ΔP・D4/(E・t3) (1)
で求められる。
【0047】
ここで、ΔPは圧力上昇分、Dはメンブレン直径、Eは酸化シリコンSiO2のヤング率、tはメンブレン厚、kは定数となる。
【0048】
この(1)式によりΔP=1.12(atm)が加わったときのメンブレン厚tと、メンブレン部位26に生ずる変位δの関係を求めた結果を、図3のグラフに示す。図3は横軸にメンブレン厚tをとり、縦軸に接点変位量δをとっており、メンブレン直径R=0.8mmφのときの特性42と、R=1.2mmφのときの特性44を示している。
【0049】
この場合、例えばメンブレン直径R=0.8mmφのメンブレン部位によれば、メンブレン厚t=4(μm)において、特性42から接点の変位δとしてδ=55(μm)を得ることができる。
【0050】
図3にあっては、火災検出の動作温度を60℃と仮定して必要な寸法を求めているが、熱センサ10においては、目標とする動作温度を求めるチップの大きさにより、適当なメンブレン径R、メンブレン厚tを定めればよい。また図3にあっては、メンブレン部位26を酸化シリコンSiO2で構築したが、他の材質においても同様のプロセスにより、必要とする接点変位量を得るためのメンブレン径R及びメンブレン厚tを求めることができる。
【0051】
次に図1の実施形態に設けたリーク構造40について説明する。いま、暖房による緩慢な温度上昇により誤動作を起こさないことを目標にリーク構造を考える。暖房の能力を10℃/10minと仮定すると、図1の実施形態のパッケージ12としてCANパッケージを使用した場合のパッケージ室16の空気体積は、1分当たりでは
ΔQ=38.2 (299/298−1)=0.128 (m3/min)
=1.28E−4 (cc/min) (2)
だけ膨張する。このような空気膨張ΔQをキャンセルするようにリーク構造40を定める。
【0052】
ここでリーク構造40におけるリーク溝として、図4(B)に示すように、矩形断面形状を有する長孔のリーク構造40を対象とする。このリーク構造40において、リーク溝深さをD、リーク構造溝幅をW、リーク構造溝長さをLとする。
【0053】
図4(B)のリーク構造40に示す矩形断面形状を有する長孔を通過する気体は粘性の影響を受け、その体積Qvは次式により表される。
Qv=Δp・d・W3/K・η・L (3)
この(2)式により、リーク構造40からの漏れ空気量を計算する。
【0054】
矩形断面を持つリーク構造40の長さLをL=500μmと一定にした場合のリーク溝深さDと、リーク溝幅Wの違いによる漏れ空気量の変化を、図4(A)のグラフ図に示す。図4(A)のグラフ図は、横軸にリーク溝幅W、縦軸に漏れ空気量を取り、特性46はリーク溝深さDをD=10μmとした場合であり、特性48はリーク溝深さDをD=20μmとした場合である。
【0055】
ここで、前記(2)式で算出された暖房による空気膨張である
ΔQ=1.28E−4(cc/min)
をキャンセルするためには、図4(A)におけるリーク溝深さD=10μmとした場合、特性46のB点で与えられるリーク溝幅W=4μmが適合する。
【0056】
リーク構造40として他の断面形状や長さ、溝深さをとった場合にも、同様な最適リーク構造を設定することが可能である。
【0057】
一方、メンブレン部位上にメンブレン部位に対して垂直に設けリーク孔とする場合は、たかだか厚さ10μmのメンブレンよりも短いか同等のリーク孔長さとなり、この場合50μm以下の穴が適当な大きさとなる。
【0058】
これは本願発明者の実施した、本実施形態の熱センサについての実験およびシミュレーションにより求められた。図5(A)にシミュレーションの結果を示す。熱感知器には自治省令(昭和56年第17号)の「火災報知設備の感知器及び発信機に係る技術上の規格を定める省令」により、例えば差動式スポット型感知器1種であれば、温度上昇率10℃毎分により作動し、温度上昇率2℃毎分によっては作動してはならないと規定されている。さらに室温より20℃高い気流により30秒以内に作動し、10℃高い気流では1分以内に作動しないことと規定されている。
【0059】
この両条件を満足するためのメンブレン膜厚およびリーク孔径を図5(A)に示す。図5(A)によれば、メンブレン膜厚毎に、差動式スポット型感知器1種に適合するリーク孔直径は異なり、その最大寸法はメンブレン膜厚10μm以下の条件の下で50μmとなる。
【0060】
差動式スポット型感知器としては1種のほか、より低感度に規定される2種がある。これについても同様にシミュレーションを行ったところ図5(B)の結果が得られ、50μm以下のリーク孔直径により所望の特性が得られることが確認された。
【0061】
図6は図4(A)に対し、例えば空気管式の差動式熱感知器に用いられるより大きなリーク量を求められるリーク構造寸法を得るためのリーク溝幅Wに対する漏れ空気量の特性を示している。
【0062】
図6にあっては、リーク溝長さLをL=2000μmとし、リーク溝深さD=2μmについて特性50が得られ、一方、リーク溝深さD=100μmについて特性52が得られている。
【0063】
この図4(C)について、例えば最大漏れ空気量を1.0E−1(cc/min)とすれば、最適なリーク構造としては、リーク溝深さD=100μmの特性52におけるC点からリーク溝幅W=100μmが得られる。即ち、最適なリーク構造は
リーク溝深さD=100μm
リーク溝幅 W=100μm
リーク溝長さL=2000μm
となる。
【0064】
この最適なリーク構造の深さ、幅、長さの値は、後の説明で明らかにする空気管式差動式熱感知器における最適な値を与える。
【0065】
図7は本実施形態におけるチップ変位部22の半導体プロセスによる製造工程を示した説明図である。チップ変位部22の加工プロセスは、次の(A)〜(E)のようになる。この(A)〜(E)は、図7(A)〜(E)に対応している。
(A) 図2(A)に示したチップ変位部22を構成する矩形ブロックとなるSi基盤54を準備する。
(B) Si基板54の下側に異方性ウエットエッチングまたはドライエッチングにより、円柱状に刳り貫いた接点室28を形成し、これによって上部に所定の厚さtを持つメンブレン部位26を形成する。メンブレン部位26の形成により、その周囲は内周がほぼ環状の支持壁25を形成することになる。ここで、メンブレン部位26の径Dは1.2mmφで、厚さtはt=4μmとなるように開口する。
(C) メンブレン部位26の下側の接点室28側に接点36の電極膜を成膜する。
(D) メンブレン部位26に接点30から電極を取り出すための通線孔56を掘る。
(E) ワイヤボンディングのため上部電極34を成膜する。
【0066】
図8は図7(B)のメンブレン部位26を形成するための半導体加工プロセスの詳細を示した説明図であり、次の(A)〜(F)の加工プロセスからなり、これは図8(A)〜(F)に対応している。
(A) 図7(A)と同様、所定の矩形ブロック形状を持つSi基板54を用意する。
(B) Si基板54上にメンブレン部位の薄膜を形成するためのSiO2層58を酸化炉中などで成膜する。
(C)SiO2層58上にSi3N4層60を化学気相成長法CVD(Chemical Vapor Deposition)などにより成膜する。
(D) Si基板54の下側にフォトレジスト膜62を塗布し、フォトリソグラフにより、エッチングする部分のフォトレジスト膜を除去する。
(E) 異方性ウエットエッチングまたはドライエッチングによりSi基板54をエッチングして、接点室28に相当する刳り貫き部分を形成する。
(F) 残ったフォトレジスト62を除去することでチップ変位部22が完成する。
【0067】
なお図8にあっては、メンブレン部位26としてSiO2層58とSi3N4層60で薄膜を形成したが、これに限定されず、例えばSiO基板を用いることで、図8(B)(C)のプロセスを省略することもできる。
【0068】
またエッジングは異方性ウエットエッチングまたはドライエッチング以外に、TMAH(Tetra Methyl Ammoniumb Hydroxide)、水酸化カリウムKOHなどのエッチング液によるウエットエッチングまたはRIE(Reactive Ion Etching)などのドライエッチングを行ってもよい。その他のプロセスにおいても同様にフォトリソグラフィ法を活用し、所望の成膜、成型を行えばよい。
【0069】
図9は図1のチップ接点部24の半導体加工プロセスを示しており、次の(A)〜(D)のプロセスからなり、これは図9(A)〜(D)に対応している。
(A) 図2(B)に対応したブロック形状を持つSi基板64を準備する。
(B) 接点室側からステム外部に抜ける通気孔38を異方性ウエットエッチングまたはドライエッチングにより加工する。
(C) 接点室側となる通気孔38の開口部に、接点室からパッケージ室に抜けるリーク構造40を実現するリーク溝を、異方性ウエットエッチングまたはドライエッチングにより加工する。
(D) 接点室側の面に接点32を構成する電極を成膜し、これによってチップ接点部24が完成する。
【0070】
図10は本実施形態におけるチップ変位部22とチップ接点部24のアッセンブル工程を示した説明図である。図10のアッセンブル工程にあっては、チップ接点部24側をベースとして、その上にチップ変位部22を接合して、センサチップ20を形成する。この接合により、チップ変位部22側に密封された接点室28が形成され、接点室28は通気孔38を通って外部に連通している。
【0071】
このようにセンサチップ20を形成したならば、図1に示すステム14上にセンサチップ20をマウントする。このときステム14側には、チップ接点部24側の通気孔38に通じる開口14aが設けられている。
【0072】
続いて、メンブレン部位26側の上部電極34及びチップ接点部24側の下部電極35のそれぞれにボンディングワイヤ36を接続し、ステム14側のリード18と接続する。最終的に、パッケージ12として用いたCANパッケージをステム14と接合する。この際、パッケージ室16の内部に対し空気のリークがないように、ステム14に対しパッケージ12を接着あるいは溶接などにより接合する。
【0073】
図11は本実施形態の熱センサを適用した差動式熱感知器を示した断面図である。図11において、差動式熱感知器66は本体68と外カバー70で構成される。外カバー70側には図1に示した本実施形態の熱センサ10が配置される。
【0074】
熱センサ10は、そのパッケージ12を外カバー70の中央に露出するように配置しており、これによって外部からの火災による熱を効率よくパッケージ室16に伝えるようにしている。パッケージ16室には、図1に示した構造を持つセンサチップ20が内蔵されている。
【0075】
熱センサ10の底部側に取り出されたリード18は本体68側に取り付けられ、更に本体68に設けている火災感知器からの信号線に接続するための導通金具72に接続している。
【0076】
実際の感知器設置にあっては、天井面側に感知器ベースが受信機からの信号線に接続されて固定されており、天井側の感知器ベースに設けた導通受け金具に対し、差動式熱感知器66の本体68側を押し付けて回し込むことで、導通金具72を感知器ベース側の導通受け金具に機械的且つ電気的に接続する。
【0077】
外カバー70に対し、熱センサ10は火災からの熱気流を効率よく捉えることのできるほぼ中央の位置に露出して配置しているが、必要があれば熱センサ10に対する人や異物の接触を回避するため、熱センサ10の上部にガードを設けるようにしてもよい。
【0078】
図12は本実施形態の熱センサを適用した他の差動式熱感知器を示した断面図である。図12の差動式熱感知器66にあっては、外カバー70に熱センサ10のパッケージ部74を一体に形成し、パッケージ74の中にセンサチップ20を密封状態で配置している。
【0079】
このようにパッケージ74をプラスチック成型などにより外カバー70と共に一構造部品として構成し、センサチップ20のみをこの構造部品と一体化することで、より低価格化を図ることができる。
【0080】
また3次元射出成型回路部品技術(MID技術)などを応用し、センサチップ20を直接パッケージ74と共に外カバー70の一構成部品に配置してもよい。
【0081】
外カバー70に一体化したパッケージ74の外気に接する部分については、熱を効率よくパッケージ74の内部の空気に伝えるように、薄肉構造とすることが望ましい。
【0082】
図13は本実施形態の熱センサを適用した空気管式差動式熱感知器を示した断面図である。図13において、空気管式差動式熱感知器76は、警戒区域となる部屋の天井に、密封された空気管(チューブ)80を敷設し、部屋の外部に設置した感知部に空気管を接続した構造を持つ。
【0083】
本実施形態にあっては、感知部として熱センサ10を使用し、熱センサ10のパッケージ12にジョイント部78を一体に形成し、ジョイント部78に空気管80を直接接続している。このため、警戒区域に敷設している空気管80が火災による熱を受けて、空気管80の内部の空気が膨張すると、この膨張空気は直接、熱センサ10のパッケージ室16に伝わり、センサチップ20のメンブレン部位26を変位させて接点を閉じることにより、火災接点信号を出力することができる。
【0084】
ここで空気管80内の空気膨張量はパッケージ室16に比べてはるかに大きく、この空気管内の空気膨張量を考慮して接点を閉じるためのメンブレン部位26の直径、厚さなどを決めればよい。また空調などによる緩慢な温度変化に対し誤動作を防止するためのリーク構造については、図6について既に示した空気管式差動式熱感知器に対応した値として、リーク溝深さD=100μm、リーク溝幅W=100μm、リーク溝長さL=2000μmを用いることができる。
【0085】
図14はチップ変位部22に垂直方向のリーク構造を設けた他の実施形態を示した断面図であり、図15に図14の実施形態におけるセンサチップ20を取り出して、分離平面と共に示している。
【0086】
図142の熱センサ10にあっては、基本的には図1の実施形態と同じであるが、外気の緩慢な温度上昇時にパッケージ室16の空気を外部に漏洩させて圧力変化を抑制するリーク構造として、この実施形態にあっては、チップ変位部22におけるメンブレン部位26に対し垂直方向にリーク構造40を設けている。
【0087】
このリーク構造40は図15から明らかになる。図15(A)はセンサチップ20の平面図であり、チップ変位部22の上部面にリーク構造40が開口している。
【0088】
図15(B)はセンサチップ20の断面図であり、チップ変位部22に形成したメンブレン部位26の右側に、接点室28と外側のパッケージ室16を連通するリーク構造40が設けられ、更に接点室28は図1の実施形態と同様、通気孔38により外部に連通するようにしている。
【0089】
図15(C)は図15(B)のセンサチップ20の接合面で分離したチップ変位部22を分離面側から示した平面図であり、接点室28の右側にリーク構造40が開口している。
【0090】
図15(D)は図15(B)のセンサチップ20におけるチップ接点部24側を分離して分離面から示した平面図であり、接点室28に臨む位置に通気孔38が開口している。
【0091】
この図14及び図15に示した実施形態については、縦方向のリーク構造40であることから、リーク溝長さLが小さく、このためパッケージ室16から必要とする最大漏れ空気量が小さい場合に、この実施形態の縦方向に開けたリーク構造40を使用することができる。
【0092】
図16は外部に対する通気孔をなくした他の実施形態を示した断面図であり、図17に図16の実施形態におけるセンサチップを取り出して分離平面と共に示している。
【0093】
図1の実施形態の熱センサ10にあっては、パッケージ室16の温度による空気膨張を高感度で捉えるため、接点室28の圧力が外気と常に同じとなるように、接点室28から外気につながる通気孔38を設けている。しかしながら、通気孔38を経由して接点室28に異物や水分が進入し、接点30,32の動作に悪影響を及ぼす不具合も考えられる。そこで図16の実施形態にあっては、通気孔をなくすことで、接点室28に異物や水分が進入することによる悪影響を排除する。
【0094】
このように通気孔をなくすことでパッケージ室16からの圧力変化によりメンブレン部位26が変位すると、接点室28の圧力もメンブレン部位26の変位と共に上昇してしまう。このため接点室28に対する通気孔をなくした場合には、メンブレン部位26の変位による内部圧力を極力上昇しにくいような構造とする必要がある。
【0095】
図16の実施形態にあっては、メンブレン部位26の直径Rを図1の実施形態に対し小さくすると共に、接点室28の一方を仕切るチップ接点部24側に掘下げ部82を形成することで接点室28の容量を大きくし、メンブレン部位26の変位による接点室28の圧力変化を小さくしている。
【0096】
図17(A)は図14の熱センサ10に設けているセンサチップ20の平面図であり、図17(B)にその断面図を示す。図17(B)の断面図から明らかなように、接点室28はチップ変位部22側に掘下げ部82を形成することで容積が拡大され、またメンブレン部位26はその直径を小さくして変位を抑えるようにしている。
【0097】
図17(C)(D)は、図17(B)のチップ変位部22とチップ接点部24を分離して分離側の平面をそれぞれ示している。
【0098】
ここでリーク構造40は、図17(D)に示すように、チップ接点部24側に半導体加工プロセスにより断面矩形の溝形状が形成されており、パッケージ室16の緩慢な温度上昇時にリーク構造40を介して接点室28に空気を漏洩させることで、パッケージ室16と接点室28の圧力変化をなくすようにしている。
【0099】
図18はノーマルクローズ接点構造を備えた他の実施形態を示した断面図であり、図19に図18のセンサチップ20を取り出して分離平面と共に示している。
【0100】
図18において、図1に示したノーマルオープン接点構造に対し、ノーマルクローズ接点構造を実現するため、チップ変位部22を下側に配置し、その上側にチップ接点部24を配置しており、この関係は図1の実施形態と逆になっている。チップ変位部22には、空洞部84の形成によりメンブレン部位26が形成されている。
【0101】
一方、チップ接点部24には、チップ変位部22との接触面の部分に接点室28を形成している。接点室28の部分には、メンブレン部位26に設けた接点30とチップ接点部24側に設けた接点32が配置されており、図示の組付け初期状態で接点30は接点32に接触してノーマルクローズ接点を構成している。
【0102】
接点30,32が配置されている接点室28に対しては、チップ接点部24側より連通孔86が形成され、接点室28をパッケージ室16に連通している。
【0103】
更にパッケージ室16の緩慢な温度上昇に伴う空気を外部に漏洩させるため、リーク構造40が設けられている。リーク構造40はステム14に形成した開口部14aに連通している。
【0104】
図19(A)は図16のセンサチップ20の断面図であり、図19(B)(C)はチップ変位部22とチップ接点部24を分離して、その分離側の平面を示している。
【0105】
ここで図19(C)に示すように、リーク構造40はチップ変位部22のチップ接点部24と密着する面に半導体加工プロセスにより断面矩形のリーク溝として形成されており、且つ図19(A)の断面図に示すようにリーク溝の奥行部分で垂直方向にリーク溝を形成し、チップ変位部22の下側にリーク溝を開口している。
【0106】
このリーク構造40によって、図16におけるパッケージ室16の緩慢な温度上昇に伴う空気圧力の増加を、空気をリーク構造40を介してステム14の開口部14aに漏洩させることで、外気とパッケージ室16の圧力差をなくすようにしている。
【0107】
図18のノーマルクローズ接点構造を持つ熱センサ10の動作は、火災による熱を受けてパッケージ室16の空気が加圧されて膨張すると、この空気の膨張に伴う圧力が連通孔86を介して接点室28に作用し、メンブレン部位26を変形して押し下げ、これによって接点32に対し接点30が離れ、接点オフとなる火災接点信号を出力することができる。
【0108】
また緩やかな温度変化によるパッケージ室16の空気の膨張については、リーク構造40によりパッケージ室16から外部に空気が漏れているため、メンブレン部位26における接点室28と外気に連通した空洞部84の間に圧力差が発生せず、接点が開くことはない。
【0109】
またノーマルクローズ接点構造とした図18の熱センサ10にあっては、接点室28は直接、外気に連通しておらず、リーク構造40を介してパッケージ室16は外気に連通しているが、リーク構造40では異物や水分の進入はほとんどなく、接点室28に対する異物や水分の進入による悪影響を防止できる。
【0110】
図20は外部に対する通気孔をなくしたノーマルクローズ接点構造を備えた他の実施形態を示した断面図であり、図21に図20におけるセンサチップ20を取り出して分離平面と共に示している。
【0111】
図20の熱センサ10にあっては、その構造は基本的に、図18に示したノーマルクローズ接点構造の熱センサ10と同じであるが、図18のステム14に設けている外気に連通する開口14aをなくして、パッケージ室16を外気に対し密封構造としている。このパッケージ室16の密封構造に伴い、リーク構造40はパッケージ室16と空洞部84を連通している。
【0112】
図21(A)は図20のセンサチップ20の断面図であり、図21(B)(C)にチップ接点部24とチップ変位部22を分離して分離側の平面図を示している。リーク構造40は図21(C)のように、チップ変位部22の接合面側に半導体加工プロセスにより断面矩形のリーク溝40を形成した後、図21(A)に示すように縦方向にリーク孔を形成し、更に底部で横方向にリーク溝を形成することで、接点室28と外側のパッケージ室16を連通している。
【0113】
この図20及び図21の通気孔を持たない実施形態にあっては、パッケージ室16が外気から完全に密閉されるため、外部からの異物や水分の進入を完全に防止できる。
【0114】
なお上記の実施形態はパッケージ12としてCANパッケージを使用した場合を例に取って、メンブレン部位26の直径R、厚さt、リーク構造40におけるリーク溝深さD、リーク溝幅W、及びリーク溝長さLを決めているが、これ以外に適宜のパッケージにつき、その内容積に応じた適切な値を必要に応じて決めることができる。
【0115】
また本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明による熱センサの実施形態を示した断面図
【図2】図1のセンサチップを上下に分離して分離側から示した平面図
【図3】本実施形態におけるメンブレン部位の径をパラメータとしたメンブレン厚と接点変位量の関係を示したグラフ図
【図4】本実施形態におけるリーク溝深さをパラメータとしたリーク構造溝幅と漏れ空気量の関係を示したグラフ図
【図5】差動式スポット型感知器についてリーク孔直径とメンブレン膜厚との関係のシミュレーション結果を示したグラフ図
【図6】大きなリーク量が求められる本実施形態におけるリーク溝深さをパラメータとしたリーク構造溝幅と漏れ空気量の関係を示したグラフ図
【図7】本実施形態におけるチップ変位部の製造工程を示した説明図
【図8】図7(B)のメンブレン部位を形成する半導体加工プロセスの詳細を示した説明図
【図9】本実施形態におけるチップ接点部の半導体加工プロセスを示した説明図
【図10】本実施形態におけるチップ変位部とチップ接点部のアッセンブルブル工程を示した説明図
【図11】本実施形態の熱センサを適用した差動式熱感知器を示した断面図
【図12】本実施形態の熱センサを適用した他の差動式熱感知器を示した断面図
【図13】本実施形態の熱センサを適用した空気管式差動式熱感知器を示した断面図
【図14】チップ変位部に垂直方向のリーク構造を設けた他の実施形態を示した断面図
【図15】図14の実施形態におけるセンサチップを取り出して分離平面と共に示した説明図
【図16】外部に対する通気孔をなくした他の実施形態を示した断面図
【図17】図16の実施形態におけるセンサチップを取り出して分離平面と共に示した説明図
【図18】ノーマルクローズ接点を備えた他の実施形態を示した断面図
【図19】図18の実施形態におけるセンサチップを取り出して分離平面と共に示した説明図
【図20】外部に対する通気孔をなくしたノーマルクローズ接点を備えた他の実施形態を示した断面図
【図21】図20の実施形態におけるセンサチップを取り出して分離平面と共に示した説明図
【符号の説明】
【0117】
10:熱センサ
12,74:パッケージ部
14:ステム
16:パッケージ部
18:リード
20:センサチップ
22:チップ変位部
24:チップ接点部
25:支持壁
26:メンブレン部位
28:接点室
30,32:接点
34:上部電極
35:下部電極
36: ボンディングワイヤ
38:通気孔
40:リーク構造
54,64:Si基板
58:Si02層
60:Si3N4層
62:フォトレジスト膜
66:差動式熱感知器
68:本体
70:外カバー
72:導通金具
76:空気管式差動式熱感知器
78:ジョイント部
80:空気管
82:掘下げ部
84:空洞部
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災による温度上昇の時間変化率が所定値を越えたときに接点を閉じて火災信号を出力する差動式熱感知器に使用される熱センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の差動式熱感知器は、感知器内に数十ミリメートル大の金属製のチャンバーをダイヤフラムで仕切り、火災による温度上昇を受け、気密空気室内の空気が膨張することにより、気密空気室に連なるダイヤフラムが押され、接点を閉じることにより火災信号を出力するようにしている。また暖房等による緩慢な温度変化による膨張は、気密空気室に設けたリーク管により外部に漏らし、接点を閉じないようにしている。
【0003】
このように従来の差動式熱感知器は、電気的な要素は接点のみであり、特別な電気回路を必要とせずに単純な機械的構造で済み、そのため低価格を実現し、建物内の火災報知設備の感知器として広く普及している
【特許文献1】特開2003−132457号公報
【特許文献2】特開2000−132760号公報
【特許文献3】特開平5−250580号公報
【特許文献4】特開2001−243567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来のダイヤフラム式の差動式熱感知器にあっては、チャンバー内にダイヤフラムを配置して気密空気室を形成するという構造上の制約があり、百ミリメートル大の感知器サイズが必要であり、これ以上小さくできないことから、建物内に設置した際に室内デザインを損なう恐れがあり、デザイン面から採用が制約されるという問題がある。
【0005】
一方、MEMS(Micro Electro Mecahanical System)技術を応用した小型化された圧力センサが商品化されており、数ミリメートルといった半導体パッケージに収められ、圧力に応じた電気信号を出力する。
【0006】
そこで、このような圧力センサを利用して差動式火災感知器の小型化を図ることが考えられるが、この種の圧力センサは検出素子として圧電素子や静電容量を応用したものであり、検出素子から信号を処理して出力するために電気回路部を必要とし、機械的な構造のみで済んでいる既存の差動式熱感知器と同じ機能を持たせるには、小型化はできても高価格になるという問題がある。
【0007】
本発明は、電気回路部を必要とせずに機械的な構造のみにより差動式熱感知の機能を実現して大幅に小型化可能な熱センサ部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は熱センサを提供するものであり、
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端にパッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位(薄膜部位)を一体に形成したチップ変位部と、
チップ変位部における支持壁の他端に密着配置されて内部に密閉された接点室を形成するチップ接点部と、
接点室に配置され、メンブレン部位の変位により閉じるノーマルオープン構造の接点と、
チップ接点部及びパッケージに形成され、接点室をチップ接点部及びパッケージを介して外気に開放する通気孔と、
外気の緩慢な温度上昇時にパッケージ室の空気を、通気孔を介して外部に漏洩させて圧力変化を抑制するリーク構造と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明による熱センサの別の形態にあっては、チップ接点部及びパッケージに形成され、接点室をチップ接点部及びパッケージを介して外気に開放する通気孔をなくしている。
【0010】
即ち本発明の熱センサは、
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端にパッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位を一体に形成したチップ変位部と、
チップ変位部における支持壁の他端に密着配置されて内部に密閉された接点室を形成するチップ接点部と、
接点室に配置され、メンブレン部位の変位により閉じるノーマルオープン構造の接点と、
外気の緩慢な温度上昇時に前記パッケージ室の空気を接点室に漏洩させてメンブレン部位の変位を抑制するリーク構造と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の別の形態にあっては、ノーマルクローズの接点構造を備える。即ち本発明の熱センサは、
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端にパッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位を一体に形成したチップ変位部と、
チップ変位部のメンブレン部位側に密着配置され、メンブレン部位に相対してパッケージ室に連通した接点室を形成したチップ接点部と、
接点室に配置され、前記メンブレン部位の変位により開くノーマルクローズ構造の接点と、
チップ変位部の空洞をパッケージを介して外気に開放する通気孔と、
外気の緩慢な温度上昇時にパッケージ室の空気を通気孔を介して外部に漏洩させて圧力変化を抑制するリーク構造と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の別の形態にあっては、通気孔なしで且つノーマルクローズの接点構造を備える。即ち、本発明の熱センサは、
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端にパッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位を一体に形成したチップ変位部と、
チップ変位部のメンブレン部位側に密着配置され、メンブレン部位に相対してパッケージ室に連通した接点室を形成したチップ接点部と、
接点室に配置され、メンブレン部位の変位により開くノーマルクローズ構造の接点と、
外気の緩慢な温度上昇時に前記パッケージ室の空気を接点室に漏洩させてメンブレン部位の変位を抑制するリーク構造と、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
ここで、センサチップを構成するチップ変位部及びチップ接点部は、シリコン又はシリコン化合物からなり、チップ変位部のメンブレン部位を異方性エッチング又はドライエッチングにより形成する。
【0014】
リーク構造は、センサチップにおけるシリコン又はシリコン化合物の微細加工により形成され、幅100μm以下、深さ100μm以下の多角形断面形状をもつリーク溝をメンブレン部位に対して水平に備える。もしくはメンブレン部位の一部に、直径10μm以下の円形、または一辺10μm以下の多角形の穴形状を持つリーク孔を、メンブレン部位に対して垂直に設ける。
【0015】
本発明の熱センサは、火災による温度の時間変化率を検出して火災検出信号を送出する差動式熱感知器に組み込む。この場合、熱センサのパッケージを外部に露出するように差動式熱感知器の外カバーに設ける。また熱センサのパッケージを差動式熱感知器の外カバーと一体に形成しても良い。
【0016】
本発明の熱センサは、監視区画に配置された空気管の火災による空気膨張量から、火災による温度の時間変化率を検出して火災検出信号を送出する差動式熱感知器に組み込む。この場合、熱センサのパッケージ部に空気管を直接接続してパッケージ室に空気管の空気を導入する。
【0017】
センサチップは、シリコンまたはシリコン化合物からなる基板の一部を加工して得た、一辺約1mm以下の矩形または直径約1mm以下の円筒形の窪地状のメンブレン部を持ち、前記メンブレン部は厚さ1μm乃至10μmのシリコン化合物または金属からなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、半導体プロセスにより製造される機械的な差動式熱感知として機能するセンサチップ構造としたことにより、従来の百ミリメートル大の差動式熱感知器を、数ミリメートル大にまで小さくすることができ、大幅な小型化により設置場所のデザインを損なわないというメリットだけでなく、大幅な小型化により省資源と低価格化を果たすことができる。
【0019】
またセンサチップはシリコン及びシリコン化合物で作られており、長期間使用してもシリコン及びシリコン化合物は腐食せず、疲労破壊もしないことが知られており、長期間に亘り安定した品質を実現することができ、信頼性を高めることができる。
【0020】
更に、半導体プロセスによる製造で、特性の平準化を図ことができ、製造上のメリットとして感度調整等を不要とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明による熱センサの実施形態を示した断面図である。図1において、熱センサ10は、パッケージ12と、その内部に収納されたセンサチップ20で構成される。パッケージ12は、キャップ状の容器の下部にステム14を固着して、内部に密封されたパッケージ室16を形成しており、ステム14には一対のリード18が外部に向けて取り出されている。
【0022】
パッケージ12としては、例えば半導体素子のパッケージとして知られた一般的なCANパッケージを使用することができる。CANパッケージは、鉄、ニッケルなどの金属薄膜の円筒状容器と、電気信号を出力するリードを備えており、内部に図1のように本実施形態のセンサチップ20を配置する。
【0023】
パッケージ室16に配置されたセンサチップ20は、上部側のチップ変位部22と下側のチップ接点部24で構成される。チップ変位部22はシリコン及びシリコン化合物を用いて半導体プロセスにより形成されており、空洞を形成する支持壁25の上端側にパッケージ室16の圧力変化により変位するメンブレン部位(薄膜部位)26を一体に形成し、メンブレン部位26を形成するために刳り貫いた下側の空洞は接点室28としている。
【0024】
一方、チップ接点部24側は、チップ変位部22と同様にシリコン及びシリコン酸化物の基板を用いた半導体プロセスで形成されており、チップ変位部22における支持壁25の下端側に密着配置させることで、内部に密閉された接点室28を形成している。
【0025】
接点室28側となるメンブレン部位26の下側には接点30が配置され、また接点30に相対したチップ接点部24側には別の接点32が配置されている。接点30,32はノーマル接点構造を実現する。
【0026】
メンブレン部位26の下側に設けた接点30は、外側に配置した上部電極34に電気的に貫通接続され、上部電極34はボンディングワイヤ36により一方のリード18に電気的に接続される。
【0027】
チップ接点部24側に設けた接点32は、下部電極35を介してパッケージ室16側に取り出され、そこからボンディングワイヤ36により他方のリード端子18に電気的に接続している。
【0028】
更にチップ接点部24には、接点室28に連通する通気孔38が縦方向に貫通形成されており、通気孔38はステム14に形成した開口部14aを介して接点室28を外気に開放している。
【0029】
このチップ接点部24に形成した通気穴38の上部のチップ変位部22との接触面の位置には、横方向にリーク構造40が設けられている。リーク構造40はパッケージ室16と通気孔38を連通する微細なリーク溝であり、外気の緩慢な温度上昇時に、パッケージ室16の空気を通気孔38を介して外部に漏洩させて、パッケージ室16の圧力変化を抑制する。
【0030】
図2は図1のセンサチップ20を上下に分離して分離側から示した平面図である。図2(A)は図1のセンサチップ20の上側のチップ変位部22を分離して分離面側を示した平面図であり、中央に空洞を刳り貫いて支持壁25を形成することで、端面にメンブレン部位26が形成されており、メンブレン部位26の中央には接点30が設けられている。
【0031】
図2(B)は図1のセンサチップ20の下側のチップ接点部24を分離面から示している。チップ接点部24にあっては、図2(A)のメンブレン部位26に相対する接点室28に面する部分に接点32を配置し、接点32から外側に下部電極35が引き出されている。
【0032】
また接点室28に開放する位置に通気孔38が設けられ、接点室28を外部に連通している。この通気孔38の開口部に対しては、チップ接点部24の外側、即ちパッケージ室16側からリーク構造40が設けられており、パッケージ室16をリーク構造40及び通気孔38を介して外部に連通させている。
【0033】
図1及び図2に示す本実施形態の熱センサ10にあっては、火災により設置場所の建物内の温度が急激に上昇すると、まずパッケージ12が加熱され、その熱を受けてパッケージ室16の内部空気が暖まっていく。
【0034】
パッケージ室16は微小なリーク構造40を介して外気に通じているが、火災による熱を受けてパッケージ室16の空気が暖まっていくときの圧力上昇に伴うリーク構造40からの空気漏れ量は、短時間においてはほぼゼロと看做せ、火災に伴う温度上昇の際にパッケージ室16は密封されていると看做してよい。
【0035】
パッケージ室16の内部空気が火災による温度上昇を受けると、温度上昇に従い内部の圧力が上昇していく。上昇したパッケージ室16の内部空気の圧力は、センサチップ20に設けているチップ変位部22側のメンブレン部位26の薄膜を押し下げ、メンブレン部位26の下側への変位により、接点室28側に設けている接点30が下側の接点32に接触し、火災接点信号を出力する。
【0036】
このような火災接点信号の出力については、特別な電気回路は不要であり、単純な機械的な構造によってのみ火災接点信号を出力することができる。
【0037】
熱センサ10は一対のリード18を受信機から感知器回線に接続しており、接点30が接点32に接触すると感知器回線に発報電流が流れ、この発報電流を火災受信機で受信することで火災警報を発することができる。
【0038】
一方、熱センサ10は季節変動、冷暖房などによる緩慢なパッケージ室16の内部圧力の変化に対しては誤動作をしてはならない。このため、緩慢なパッケージ室16の圧力変化に対し緩やかに膨張空気を漏らすことのできるリーク構造40を設け、パッケージ室16の内部圧を外気圧と同じになるようにしている。
【0039】
次に図1の本実施形態におけるパッケージ室16の内部圧力の増加に対し、メンブレン部位26が変位して接点を閉じる構造の詳細を説明する。
【0040】
本実施形態において、例えば標準的なCANパッケージであるTO−18をパッケージ12に採用にして熱センサ10を構築する場合、CANパッケージ内の容量は38.2mm3となる。ここで、図2に示す矩形形状を持つセンサチップ20を縦横=1.5mm×1.5mmで構築し、メンブレン部位26の径RをR=1.2mmφにしたとする。また外部の温度が25℃の常温から、火災により65℃まで温度が上昇したと仮定する。
【0041】
外部の温度が上昇すると、CANパッケージを用いたパッケージ12を介してパッケージ室16の空気の温度も急激に上昇し、例えば60℃まで達したとする。このときメンブレン部位26に変位がないと仮定した場合、パッケージ室16の内部圧力Pは
P=(273+60)/(275+25)=1.12(atm)
まで上昇する。
【0042】
この内部圧力Pによりメンブレン部位26を接点方向に押し下げられ、接点30を接点32に閉じる。一方、接点室28は通気孔38及び開口14aを介して圧力的に外気に開放されており、接点室28の圧力は1atmを示す。
【0043】
ここでメンブレン部位26の曲げ強さを無視すれば、温度上昇によるパッケージ室16の空気膨張量Qは
Q=38.2×1.12=4.58(mm3)
となる。
【0044】
この空気膨張量Qは、径R=1.2mmφのメンブレン部位26を全体にH=2.4mm押し下げる体積に相当する。実際には、メンブレン部位26の強度に打ち勝って接点30,32を閉じることが必要になる。
【0045】
次にメンブレン部位26の強度を計算し、一定圧力とした場合のメンブレン寸法(厚さ)の違いによる接点の変位量を計算する。メンブレン部位26を酸化シリコンSiO2により構築した場合を考える。
【0046】
円盤状のメンブレン部位26を構成する薄膜に圧力が加わったときの変位δは
δ=k・ΔP・D4/(E・t3) (1)
で求められる。
【0047】
ここで、ΔPは圧力上昇分、Dはメンブレン直径、Eは酸化シリコンSiO2のヤング率、tはメンブレン厚、kは定数となる。
【0048】
この(1)式によりΔP=1.12(atm)が加わったときのメンブレン厚tと、メンブレン部位26に生ずる変位δの関係を求めた結果を、図3のグラフに示す。図3は横軸にメンブレン厚tをとり、縦軸に接点変位量δをとっており、メンブレン直径R=0.8mmφのときの特性42と、R=1.2mmφのときの特性44を示している。
【0049】
この場合、例えばメンブレン直径R=0.8mmφのメンブレン部位によれば、メンブレン厚t=4(μm)において、特性42から接点の変位δとしてδ=55(μm)を得ることができる。
【0050】
図3にあっては、火災検出の動作温度を60℃と仮定して必要な寸法を求めているが、熱センサ10においては、目標とする動作温度を求めるチップの大きさにより、適当なメンブレン径R、メンブレン厚tを定めればよい。また図3にあっては、メンブレン部位26を酸化シリコンSiO2で構築したが、他の材質においても同様のプロセスにより、必要とする接点変位量を得るためのメンブレン径R及びメンブレン厚tを求めることができる。
【0051】
次に図1の実施形態に設けたリーク構造40について説明する。いま、暖房による緩慢な温度上昇により誤動作を起こさないことを目標にリーク構造を考える。暖房の能力を10℃/10minと仮定すると、図1の実施形態のパッケージ12としてCANパッケージを使用した場合のパッケージ室16の空気体積は、1分当たりでは
ΔQ=38.2 (299/298−1)=0.128 (m3/min)
=1.28E−4 (cc/min) (2)
だけ膨張する。このような空気膨張ΔQをキャンセルするようにリーク構造40を定める。
【0052】
ここでリーク構造40におけるリーク溝として、図4(B)に示すように、矩形断面形状を有する長孔のリーク構造40を対象とする。このリーク構造40において、リーク溝深さをD、リーク構造溝幅をW、リーク構造溝長さをLとする。
【0053】
図4(B)のリーク構造40に示す矩形断面形状を有する長孔を通過する気体は粘性の影響を受け、その体積Qvは次式により表される。
Qv=Δp・d・W3/K・η・L (3)
この(2)式により、リーク構造40からの漏れ空気量を計算する。
【0054】
矩形断面を持つリーク構造40の長さLをL=500μmと一定にした場合のリーク溝深さDと、リーク溝幅Wの違いによる漏れ空気量の変化を、図4(A)のグラフ図に示す。図4(A)のグラフ図は、横軸にリーク溝幅W、縦軸に漏れ空気量を取り、特性46はリーク溝深さDをD=10μmとした場合であり、特性48はリーク溝深さDをD=20μmとした場合である。
【0055】
ここで、前記(2)式で算出された暖房による空気膨張である
ΔQ=1.28E−4(cc/min)
をキャンセルするためには、図4(A)におけるリーク溝深さD=10μmとした場合、特性46のB点で与えられるリーク溝幅W=4μmが適合する。
【0056】
リーク構造40として他の断面形状や長さ、溝深さをとった場合にも、同様な最適リーク構造を設定することが可能である。
【0057】
一方、メンブレン部位上にメンブレン部位に対して垂直に設けリーク孔とする場合は、たかだか厚さ10μmのメンブレンよりも短いか同等のリーク孔長さとなり、この場合50μm以下の穴が適当な大きさとなる。
【0058】
これは本願発明者の実施した、本実施形態の熱センサについての実験およびシミュレーションにより求められた。図5(A)にシミュレーションの結果を示す。熱感知器には自治省令(昭和56年第17号)の「火災報知設備の感知器及び発信機に係る技術上の規格を定める省令」により、例えば差動式スポット型感知器1種であれば、温度上昇率10℃毎分により作動し、温度上昇率2℃毎分によっては作動してはならないと規定されている。さらに室温より20℃高い気流により30秒以内に作動し、10℃高い気流では1分以内に作動しないことと規定されている。
【0059】
この両条件を満足するためのメンブレン膜厚およびリーク孔径を図5(A)に示す。図5(A)によれば、メンブレン膜厚毎に、差動式スポット型感知器1種に適合するリーク孔直径は異なり、その最大寸法はメンブレン膜厚10μm以下の条件の下で50μmとなる。
【0060】
差動式スポット型感知器としては1種のほか、より低感度に規定される2種がある。これについても同様にシミュレーションを行ったところ図5(B)の結果が得られ、50μm以下のリーク孔直径により所望の特性が得られることが確認された。
【0061】
図6は図4(A)に対し、例えば空気管式の差動式熱感知器に用いられるより大きなリーク量を求められるリーク構造寸法を得るためのリーク溝幅Wに対する漏れ空気量の特性を示している。
【0062】
図6にあっては、リーク溝長さLをL=2000μmとし、リーク溝深さD=2μmについて特性50が得られ、一方、リーク溝深さD=100μmについて特性52が得られている。
【0063】
この図4(C)について、例えば最大漏れ空気量を1.0E−1(cc/min)とすれば、最適なリーク構造としては、リーク溝深さD=100μmの特性52におけるC点からリーク溝幅W=100μmが得られる。即ち、最適なリーク構造は
リーク溝深さD=100μm
リーク溝幅 W=100μm
リーク溝長さL=2000μm
となる。
【0064】
この最適なリーク構造の深さ、幅、長さの値は、後の説明で明らかにする空気管式差動式熱感知器における最適な値を与える。
【0065】
図7は本実施形態におけるチップ変位部22の半導体プロセスによる製造工程を示した説明図である。チップ変位部22の加工プロセスは、次の(A)〜(E)のようになる。この(A)〜(E)は、図7(A)〜(E)に対応している。
(A) 図2(A)に示したチップ変位部22を構成する矩形ブロックとなるSi基盤54を準備する。
(B) Si基板54の下側に異方性ウエットエッチングまたはドライエッチングにより、円柱状に刳り貫いた接点室28を形成し、これによって上部に所定の厚さtを持つメンブレン部位26を形成する。メンブレン部位26の形成により、その周囲は内周がほぼ環状の支持壁25を形成することになる。ここで、メンブレン部位26の径Dは1.2mmφで、厚さtはt=4μmとなるように開口する。
(C) メンブレン部位26の下側の接点室28側に接点36の電極膜を成膜する。
(D) メンブレン部位26に接点30から電極を取り出すための通線孔56を掘る。
(E) ワイヤボンディングのため上部電極34を成膜する。
【0066】
図8は図7(B)のメンブレン部位26を形成するための半導体加工プロセスの詳細を示した説明図であり、次の(A)〜(F)の加工プロセスからなり、これは図8(A)〜(F)に対応している。
(A) 図7(A)と同様、所定の矩形ブロック形状を持つSi基板54を用意する。
(B) Si基板54上にメンブレン部位の薄膜を形成するためのSiO2層58を酸化炉中などで成膜する。
(C)SiO2層58上にSi3N4層60を化学気相成長法CVD(Chemical Vapor Deposition)などにより成膜する。
(D) Si基板54の下側にフォトレジスト膜62を塗布し、フォトリソグラフにより、エッチングする部分のフォトレジスト膜を除去する。
(E) 異方性ウエットエッチングまたはドライエッチングによりSi基板54をエッチングして、接点室28に相当する刳り貫き部分を形成する。
(F) 残ったフォトレジスト62を除去することでチップ変位部22が完成する。
【0067】
なお図8にあっては、メンブレン部位26としてSiO2層58とSi3N4層60で薄膜を形成したが、これに限定されず、例えばSiO基板を用いることで、図8(B)(C)のプロセスを省略することもできる。
【0068】
またエッジングは異方性ウエットエッチングまたはドライエッチング以外に、TMAH(Tetra Methyl Ammoniumb Hydroxide)、水酸化カリウムKOHなどのエッチング液によるウエットエッチングまたはRIE(Reactive Ion Etching)などのドライエッチングを行ってもよい。その他のプロセスにおいても同様にフォトリソグラフィ法を活用し、所望の成膜、成型を行えばよい。
【0069】
図9は図1のチップ接点部24の半導体加工プロセスを示しており、次の(A)〜(D)のプロセスからなり、これは図9(A)〜(D)に対応している。
(A) 図2(B)に対応したブロック形状を持つSi基板64を準備する。
(B) 接点室側からステム外部に抜ける通気孔38を異方性ウエットエッチングまたはドライエッチングにより加工する。
(C) 接点室側となる通気孔38の開口部に、接点室からパッケージ室に抜けるリーク構造40を実現するリーク溝を、異方性ウエットエッチングまたはドライエッチングにより加工する。
(D) 接点室側の面に接点32を構成する電極を成膜し、これによってチップ接点部24が完成する。
【0070】
図10は本実施形態におけるチップ変位部22とチップ接点部24のアッセンブル工程を示した説明図である。図10のアッセンブル工程にあっては、チップ接点部24側をベースとして、その上にチップ変位部22を接合して、センサチップ20を形成する。この接合により、チップ変位部22側に密封された接点室28が形成され、接点室28は通気孔38を通って外部に連通している。
【0071】
このようにセンサチップ20を形成したならば、図1に示すステム14上にセンサチップ20をマウントする。このときステム14側には、チップ接点部24側の通気孔38に通じる開口14aが設けられている。
【0072】
続いて、メンブレン部位26側の上部電極34及びチップ接点部24側の下部電極35のそれぞれにボンディングワイヤ36を接続し、ステム14側のリード18と接続する。最終的に、パッケージ12として用いたCANパッケージをステム14と接合する。この際、パッケージ室16の内部に対し空気のリークがないように、ステム14に対しパッケージ12を接着あるいは溶接などにより接合する。
【0073】
図11は本実施形態の熱センサを適用した差動式熱感知器を示した断面図である。図11において、差動式熱感知器66は本体68と外カバー70で構成される。外カバー70側には図1に示した本実施形態の熱センサ10が配置される。
【0074】
熱センサ10は、そのパッケージ12を外カバー70の中央に露出するように配置しており、これによって外部からの火災による熱を効率よくパッケージ室16に伝えるようにしている。パッケージ16室には、図1に示した構造を持つセンサチップ20が内蔵されている。
【0075】
熱センサ10の底部側に取り出されたリード18は本体68側に取り付けられ、更に本体68に設けている火災感知器からの信号線に接続するための導通金具72に接続している。
【0076】
実際の感知器設置にあっては、天井面側に感知器ベースが受信機からの信号線に接続されて固定されており、天井側の感知器ベースに設けた導通受け金具に対し、差動式熱感知器66の本体68側を押し付けて回し込むことで、導通金具72を感知器ベース側の導通受け金具に機械的且つ電気的に接続する。
【0077】
外カバー70に対し、熱センサ10は火災からの熱気流を効率よく捉えることのできるほぼ中央の位置に露出して配置しているが、必要があれば熱センサ10に対する人や異物の接触を回避するため、熱センサ10の上部にガードを設けるようにしてもよい。
【0078】
図12は本実施形態の熱センサを適用した他の差動式熱感知器を示した断面図である。図12の差動式熱感知器66にあっては、外カバー70に熱センサ10のパッケージ部74を一体に形成し、パッケージ74の中にセンサチップ20を密封状態で配置している。
【0079】
このようにパッケージ74をプラスチック成型などにより外カバー70と共に一構造部品として構成し、センサチップ20のみをこの構造部品と一体化することで、より低価格化を図ることができる。
【0080】
また3次元射出成型回路部品技術(MID技術)などを応用し、センサチップ20を直接パッケージ74と共に外カバー70の一構成部品に配置してもよい。
【0081】
外カバー70に一体化したパッケージ74の外気に接する部分については、熱を効率よくパッケージ74の内部の空気に伝えるように、薄肉構造とすることが望ましい。
【0082】
図13は本実施形態の熱センサを適用した空気管式差動式熱感知器を示した断面図である。図13において、空気管式差動式熱感知器76は、警戒区域となる部屋の天井に、密封された空気管(チューブ)80を敷設し、部屋の外部に設置した感知部に空気管を接続した構造を持つ。
【0083】
本実施形態にあっては、感知部として熱センサ10を使用し、熱センサ10のパッケージ12にジョイント部78を一体に形成し、ジョイント部78に空気管80を直接接続している。このため、警戒区域に敷設している空気管80が火災による熱を受けて、空気管80の内部の空気が膨張すると、この膨張空気は直接、熱センサ10のパッケージ室16に伝わり、センサチップ20のメンブレン部位26を変位させて接点を閉じることにより、火災接点信号を出力することができる。
【0084】
ここで空気管80内の空気膨張量はパッケージ室16に比べてはるかに大きく、この空気管内の空気膨張量を考慮して接点を閉じるためのメンブレン部位26の直径、厚さなどを決めればよい。また空調などによる緩慢な温度変化に対し誤動作を防止するためのリーク構造については、図6について既に示した空気管式差動式熱感知器に対応した値として、リーク溝深さD=100μm、リーク溝幅W=100μm、リーク溝長さL=2000μmを用いることができる。
【0085】
図14はチップ変位部22に垂直方向のリーク構造を設けた他の実施形態を示した断面図であり、図15に図14の実施形態におけるセンサチップ20を取り出して、分離平面と共に示している。
【0086】
図142の熱センサ10にあっては、基本的には図1の実施形態と同じであるが、外気の緩慢な温度上昇時にパッケージ室16の空気を外部に漏洩させて圧力変化を抑制するリーク構造として、この実施形態にあっては、チップ変位部22におけるメンブレン部位26に対し垂直方向にリーク構造40を設けている。
【0087】
このリーク構造40は図15から明らかになる。図15(A)はセンサチップ20の平面図であり、チップ変位部22の上部面にリーク構造40が開口している。
【0088】
図15(B)はセンサチップ20の断面図であり、チップ変位部22に形成したメンブレン部位26の右側に、接点室28と外側のパッケージ室16を連通するリーク構造40が設けられ、更に接点室28は図1の実施形態と同様、通気孔38により外部に連通するようにしている。
【0089】
図15(C)は図15(B)のセンサチップ20の接合面で分離したチップ変位部22を分離面側から示した平面図であり、接点室28の右側にリーク構造40が開口している。
【0090】
図15(D)は図15(B)のセンサチップ20におけるチップ接点部24側を分離して分離面から示した平面図であり、接点室28に臨む位置に通気孔38が開口している。
【0091】
この図14及び図15に示した実施形態については、縦方向のリーク構造40であることから、リーク溝長さLが小さく、このためパッケージ室16から必要とする最大漏れ空気量が小さい場合に、この実施形態の縦方向に開けたリーク構造40を使用することができる。
【0092】
図16は外部に対する通気孔をなくした他の実施形態を示した断面図であり、図17に図16の実施形態におけるセンサチップを取り出して分離平面と共に示している。
【0093】
図1の実施形態の熱センサ10にあっては、パッケージ室16の温度による空気膨張を高感度で捉えるため、接点室28の圧力が外気と常に同じとなるように、接点室28から外気につながる通気孔38を設けている。しかしながら、通気孔38を経由して接点室28に異物や水分が進入し、接点30,32の動作に悪影響を及ぼす不具合も考えられる。そこで図16の実施形態にあっては、通気孔をなくすことで、接点室28に異物や水分が進入することによる悪影響を排除する。
【0094】
このように通気孔をなくすことでパッケージ室16からの圧力変化によりメンブレン部位26が変位すると、接点室28の圧力もメンブレン部位26の変位と共に上昇してしまう。このため接点室28に対する通気孔をなくした場合には、メンブレン部位26の変位による内部圧力を極力上昇しにくいような構造とする必要がある。
【0095】
図16の実施形態にあっては、メンブレン部位26の直径Rを図1の実施形態に対し小さくすると共に、接点室28の一方を仕切るチップ接点部24側に掘下げ部82を形成することで接点室28の容量を大きくし、メンブレン部位26の変位による接点室28の圧力変化を小さくしている。
【0096】
図17(A)は図14の熱センサ10に設けているセンサチップ20の平面図であり、図17(B)にその断面図を示す。図17(B)の断面図から明らかなように、接点室28はチップ変位部22側に掘下げ部82を形成することで容積が拡大され、またメンブレン部位26はその直径を小さくして変位を抑えるようにしている。
【0097】
図17(C)(D)は、図17(B)のチップ変位部22とチップ接点部24を分離して分離側の平面をそれぞれ示している。
【0098】
ここでリーク構造40は、図17(D)に示すように、チップ接点部24側に半導体加工プロセスにより断面矩形の溝形状が形成されており、パッケージ室16の緩慢な温度上昇時にリーク構造40を介して接点室28に空気を漏洩させることで、パッケージ室16と接点室28の圧力変化をなくすようにしている。
【0099】
図18はノーマルクローズ接点構造を備えた他の実施形態を示した断面図であり、図19に図18のセンサチップ20を取り出して分離平面と共に示している。
【0100】
図18において、図1に示したノーマルオープン接点構造に対し、ノーマルクローズ接点構造を実現するため、チップ変位部22を下側に配置し、その上側にチップ接点部24を配置しており、この関係は図1の実施形態と逆になっている。チップ変位部22には、空洞部84の形成によりメンブレン部位26が形成されている。
【0101】
一方、チップ接点部24には、チップ変位部22との接触面の部分に接点室28を形成している。接点室28の部分には、メンブレン部位26に設けた接点30とチップ接点部24側に設けた接点32が配置されており、図示の組付け初期状態で接点30は接点32に接触してノーマルクローズ接点を構成している。
【0102】
接点30,32が配置されている接点室28に対しては、チップ接点部24側より連通孔86が形成され、接点室28をパッケージ室16に連通している。
【0103】
更にパッケージ室16の緩慢な温度上昇に伴う空気を外部に漏洩させるため、リーク構造40が設けられている。リーク構造40はステム14に形成した開口部14aに連通している。
【0104】
図19(A)は図16のセンサチップ20の断面図であり、図19(B)(C)はチップ変位部22とチップ接点部24を分離して、その分離側の平面を示している。
【0105】
ここで図19(C)に示すように、リーク構造40はチップ変位部22のチップ接点部24と密着する面に半導体加工プロセスにより断面矩形のリーク溝として形成されており、且つ図19(A)の断面図に示すようにリーク溝の奥行部分で垂直方向にリーク溝を形成し、チップ変位部22の下側にリーク溝を開口している。
【0106】
このリーク構造40によって、図16におけるパッケージ室16の緩慢な温度上昇に伴う空気圧力の増加を、空気をリーク構造40を介してステム14の開口部14aに漏洩させることで、外気とパッケージ室16の圧力差をなくすようにしている。
【0107】
図18のノーマルクローズ接点構造を持つ熱センサ10の動作は、火災による熱を受けてパッケージ室16の空気が加圧されて膨張すると、この空気の膨張に伴う圧力が連通孔86を介して接点室28に作用し、メンブレン部位26を変形して押し下げ、これによって接点32に対し接点30が離れ、接点オフとなる火災接点信号を出力することができる。
【0108】
また緩やかな温度変化によるパッケージ室16の空気の膨張については、リーク構造40によりパッケージ室16から外部に空気が漏れているため、メンブレン部位26における接点室28と外気に連通した空洞部84の間に圧力差が発生せず、接点が開くことはない。
【0109】
またノーマルクローズ接点構造とした図18の熱センサ10にあっては、接点室28は直接、外気に連通しておらず、リーク構造40を介してパッケージ室16は外気に連通しているが、リーク構造40では異物や水分の進入はほとんどなく、接点室28に対する異物や水分の進入による悪影響を防止できる。
【0110】
図20は外部に対する通気孔をなくしたノーマルクローズ接点構造を備えた他の実施形態を示した断面図であり、図21に図20におけるセンサチップ20を取り出して分離平面と共に示している。
【0111】
図20の熱センサ10にあっては、その構造は基本的に、図18に示したノーマルクローズ接点構造の熱センサ10と同じであるが、図18のステム14に設けている外気に連通する開口14aをなくして、パッケージ室16を外気に対し密封構造としている。このパッケージ室16の密封構造に伴い、リーク構造40はパッケージ室16と空洞部84を連通している。
【0112】
図21(A)は図20のセンサチップ20の断面図であり、図21(B)(C)にチップ接点部24とチップ変位部22を分離して分離側の平面図を示している。リーク構造40は図21(C)のように、チップ変位部22の接合面側に半導体加工プロセスにより断面矩形のリーク溝40を形成した後、図21(A)に示すように縦方向にリーク孔を形成し、更に底部で横方向にリーク溝を形成することで、接点室28と外側のパッケージ室16を連通している。
【0113】
この図20及び図21の通気孔を持たない実施形態にあっては、パッケージ室16が外気から完全に密閉されるため、外部からの異物や水分の進入を完全に防止できる。
【0114】
なお上記の実施形態はパッケージ12としてCANパッケージを使用した場合を例に取って、メンブレン部位26の直径R、厚さt、リーク構造40におけるリーク溝深さD、リーク溝幅W、及びリーク溝長さLを決めているが、これ以外に適宜のパッケージにつき、その内容積に応じた適切な値を必要に応じて決めることができる。
【0115】
また本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明による熱センサの実施形態を示した断面図
【図2】図1のセンサチップを上下に分離して分離側から示した平面図
【図3】本実施形態におけるメンブレン部位の径をパラメータとしたメンブレン厚と接点変位量の関係を示したグラフ図
【図4】本実施形態におけるリーク溝深さをパラメータとしたリーク構造溝幅と漏れ空気量の関係を示したグラフ図
【図5】差動式スポット型感知器についてリーク孔直径とメンブレン膜厚との関係のシミュレーション結果を示したグラフ図
【図6】大きなリーク量が求められる本実施形態におけるリーク溝深さをパラメータとしたリーク構造溝幅と漏れ空気量の関係を示したグラフ図
【図7】本実施形態におけるチップ変位部の製造工程を示した説明図
【図8】図7(B)のメンブレン部位を形成する半導体加工プロセスの詳細を示した説明図
【図9】本実施形態におけるチップ接点部の半導体加工プロセスを示した説明図
【図10】本実施形態におけるチップ変位部とチップ接点部のアッセンブルブル工程を示した説明図
【図11】本実施形態の熱センサを適用した差動式熱感知器を示した断面図
【図12】本実施形態の熱センサを適用した他の差動式熱感知器を示した断面図
【図13】本実施形態の熱センサを適用した空気管式差動式熱感知器を示した断面図
【図14】チップ変位部に垂直方向のリーク構造を設けた他の実施形態を示した断面図
【図15】図14の実施形態におけるセンサチップを取り出して分離平面と共に示した説明図
【図16】外部に対する通気孔をなくした他の実施形態を示した断面図
【図17】図16の実施形態におけるセンサチップを取り出して分離平面と共に示した説明図
【図18】ノーマルクローズ接点を備えた他の実施形態を示した断面図
【図19】図18の実施形態におけるセンサチップを取り出して分離平面と共に示した説明図
【図20】外部に対する通気孔をなくしたノーマルクローズ接点を備えた他の実施形態を示した断面図
【図21】図20の実施形態におけるセンサチップを取り出して分離平面と共に示した説明図
【符号の説明】
【0117】
10:熱センサ
12,74:パッケージ部
14:ステム
16:パッケージ部
18:リード
20:センサチップ
22:チップ変位部
24:チップ接点部
25:支持壁
26:メンブレン部位
28:接点室
30,32:接点
34:上部電極
35:下部電極
36: ボンディングワイヤ
38:通気孔
40:リーク構造
54,64:Si基板
58:Si02層
60:Si3N4層
62:フォトレジスト膜
66:差動式熱感知器
68:本体
70:外カバー
72:導通金具
76:空気管式差動式熱感知器
78:ジョイント部
80:空気管
82:掘下げ部
84:空洞部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
前記パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、前記センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端に前記パッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位を一体に形成したチップ変位部と、
前記チップ変位部における前記支持壁の他端に密着配置されて内部に密閉された接点室を形成するチップ接点部と、
前記接点室に配置され、前記メンブレン部位の変位により閉じるノーマルオープン構造の接点と、
前記チップ接点部及びパッケージに形成され、前記接点室を前記チップ接点部及びパッケージを介して外気に開放する通気孔と、
外気の緩慢な温度上昇時に前記パッケージ室の空気を前記通気孔を介して外部に漏洩させて圧力変化を抑制するリーク構造と、
を備えたことを特徴とする熱センサ。
【請求項2】
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
前記パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、前記センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端に前記パッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位を一体に形成したチップ変位部と、
前記チップ変位部における前記支持壁の他端に密着配置されて内部に密閉された接点室を形成するチップ接点部と、
前記接点室に配置され、前記メンブレン部位の変位により閉じるノーマルクローズ構造の接点と、
外気の緩慢な温度上昇時に前記パッケージ室の空気を前記接点室に漏洩させて前記メンブレン部位の変位を抑制するリーク構造と、
を備えたことを特徴とする熱センサ。
【請求項3】
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
前記パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、前記センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端に前記パッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位を一体に形成したチップ変位部と、
前記チップ変位部のメンブレン部位側に密着配置され、前記メンブレン部位に相対して前記パッケージ室に連通した接点室を形成したチップ接点部と、
前記接点室に配置され、前記メンブレン部位の変位により開くノーマルクローズ構造の接点と、
前記チップ変位部の空洞を前記パッケージを介して外気に開放する通気孔と、
外気の緩慢な温度上昇時に前記パッケージ室の空気を前記通気孔を介して外部に漏洩させて圧力変化を抑制するリーク構造と、
を備えたことを特徴とする熱センサ。
【請求項4】
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
前記パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、前記センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端に前記パッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位を一体に形成したチップ変位部と、
前記チップ変位部のメンブレン部位側に密着配置され、前記メンブレン部位に相対して前記パッケージ室に連通した接点室を形成したチップ接点部と、
前記接点室に配置され、前記メンブレン部位の変位により開くノーマルクローズ構造の接点と、
外気の緩慢な温度上昇時に前記パッケージ室の空気を前記接点室に漏洩させて前記メンブレン部位の変位を抑制するリーク構造と、を備えたことを特徴とする熱センサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱センサに於いて、前記センサチップのチップ変位部及びチップ接点部は、シリコン又はシリコン化合物からなり、前記チップ変位部のメンブレン部位を異方性エッチング又はドライエッチングにより形成することを特徴とする熱センサ。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱センサに於いて、前記リーク構造は、前記センサチップにおけるシリコン又はシリコン化合物の微細加工により形成され、幅100μm以下、深さ100μm以下の多角形断面形状をもつリーク溝をメンブレン部位に対して水平に備えたことを特徴とする熱センサ。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱センサに於いて、前記リーク構造は、メンブレン部位の一部に、直径50μm以下の円形、または一辺50μm以下の多角形の穴を、メンブレン部位に対して垂直に設けたことを特徴とする熱センサ。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱センサに於いて、火災による温度の時間変化率を検出して火災検出信号を送出する差動式熱感知器に組み込んだことを特徴とする熱センサ。
【請求項9】
請求項6記載の熱センサに於いて、前記熱センサのパッケージを外部に露出するように前記差動式熱感知器の外カバーに設けたことを特徴とする熱センサ。
【請求項10】
請求項6記載の熱センサに於いて、前記熱センサのパッケージを前記差動式熱感知器の外カバーと一体に形成したことを特徴とする熱センサ。
【請求項11】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱センサに於いて、監視区画に配置された空気管の火災による空気膨張量から、火災による温度の時間変化率を検出して火災検出信号を送出する差動式熱感知器に組み込んだことを特徴とする熱センサ。
【請求項12】
請求項9記載の熱センサに於いて、前記パッケージに前記空気管を直接接続してパッケージ室に空気管の空気を導入したことを特徴とする熱センサ。
【請求項13】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱センサに於いて、前記センサチップは、シリコンまたはシリコン化合物からなる基板の一部を加工して得た、一辺約1mm以下の矩形または直径約1mm以下の円筒形の窪地状のメンブレン部を持ち、前記メンブレン部は厚さ1μm乃至10μmのシリコン化合物または金属からなることを特徴とする熱センサ。
【請求項1】
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
前記パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、前記センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端に前記パッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位を一体に形成したチップ変位部と、
前記チップ変位部における前記支持壁の他端に密着配置されて内部に密閉された接点室を形成するチップ接点部と、
前記接点室に配置され、前記メンブレン部位の変位により閉じるノーマルオープン構造の接点と、
前記チップ接点部及びパッケージに形成され、前記接点室を前記チップ接点部及びパッケージを介して外気に開放する通気孔と、
外気の緩慢な温度上昇時に前記パッケージ室の空気を前記通気孔を介して外部に漏洩させて圧力変化を抑制するリーク構造と、
を備えたことを特徴とする熱センサ。
【請求項2】
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
前記パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、前記センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端に前記パッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位を一体に形成したチップ変位部と、
前記チップ変位部における前記支持壁の他端に密着配置されて内部に密閉された接点室を形成するチップ接点部と、
前記接点室に配置され、前記メンブレン部位の変位により閉じるノーマルクローズ構造の接点と、
外気の緩慢な温度上昇時に前記パッケージ室の空気を前記接点室に漏洩させて前記メンブレン部位の変位を抑制するリーク構造と、
を備えたことを特徴とする熱センサ。
【請求項3】
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
前記パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、前記センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端に前記パッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位を一体に形成したチップ変位部と、
前記チップ変位部のメンブレン部位側に密着配置され、前記メンブレン部位に相対して前記パッケージ室に連通した接点室を形成したチップ接点部と、
前記接点室に配置され、前記メンブレン部位の変位により開くノーマルクローズ構造の接点と、
前記チップ変位部の空洞を前記パッケージを介して外気に開放する通気孔と、
外気の緩慢な温度上昇時に前記パッケージ室の空気を前記通気孔を介して外部に漏洩させて圧力変化を抑制するリーク構造と、
を備えたことを特徴とする熱センサ。
【請求項4】
外気の熱を受容し内部に外気から仕切られたパッケージ室を形成するパッケージと、
前記パッケージ室に収納されたセンサチップと、
を有し、前記センサチップは、
空洞を形成する支持壁の一端に前記パッケージ室の圧力変化により変位するメンブレン部位を一体に形成したチップ変位部と、
前記チップ変位部のメンブレン部位側に密着配置され、前記メンブレン部位に相対して前記パッケージ室に連通した接点室を形成したチップ接点部と、
前記接点室に配置され、前記メンブレン部位の変位により開くノーマルクローズ構造の接点と、
外気の緩慢な温度上昇時に前記パッケージ室の空気を前記接点室に漏洩させて前記メンブレン部位の変位を抑制するリーク構造と、を備えたことを特徴とする熱センサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱センサに於いて、前記センサチップのチップ変位部及びチップ接点部は、シリコン又はシリコン化合物からなり、前記チップ変位部のメンブレン部位を異方性エッチング又はドライエッチングにより形成することを特徴とする熱センサ。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱センサに於いて、前記リーク構造は、前記センサチップにおけるシリコン又はシリコン化合物の微細加工により形成され、幅100μm以下、深さ100μm以下の多角形断面形状をもつリーク溝をメンブレン部位に対して水平に備えたことを特徴とする熱センサ。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱センサに於いて、前記リーク構造は、メンブレン部位の一部に、直径50μm以下の円形、または一辺50μm以下の多角形の穴を、メンブレン部位に対して垂直に設けたことを特徴とする熱センサ。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱センサに於いて、火災による温度の時間変化率を検出して火災検出信号を送出する差動式熱感知器に組み込んだことを特徴とする熱センサ。
【請求項9】
請求項6記載の熱センサに於いて、前記熱センサのパッケージを外部に露出するように前記差動式熱感知器の外カバーに設けたことを特徴とする熱センサ。
【請求項10】
請求項6記載の熱センサに於いて、前記熱センサのパッケージを前記差動式熱感知器の外カバーと一体に形成したことを特徴とする熱センサ。
【請求項11】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱センサに於いて、監視区画に配置された空気管の火災による空気膨張量から、火災による温度の時間変化率を検出して火災検出信号を送出する差動式熱感知器に組み込んだことを特徴とする熱センサ。
【請求項12】
請求項9記載の熱センサに於いて、前記パッケージに前記空気管を直接接続してパッケージ室に空気管の空気を導入したことを特徴とする熱センサ。
【請求項13】
請求項1乃至4のいずれかに記載の熱センサに於いて、前記センサチップは、シリコンまたはシリコン化合物からなる基板の一部を加工して得た、一辺約1mm以下の矩形または直径約1mm以下の円筒形の窪地状のメンブレン部を持ち、前記メンブレン部は厚さ1μm乃至10μmのシリコン化合物または金属からなることを特徴とする熱センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2009−146249(P2009−146249A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324305(P2007−324305)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000003403)ホーチキ株式会社 (792)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000003403)ホーチキ株式会社 (792)
【Fターム(参考)】
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