説明

熱プレス用耐熱クッションシート材および熱プレス成形方法

【課題】 本発明は、熱プレス装置の熱盤と被成形物との間に配置して使用される熱プレス用耐熱クッションシート材において、特に減圧雰囲気で300〜350℃程度の高温で数分〜数時間の熱プレス(例えば、10−4torr、350℃、5kgf/cm、5時間)を行っても、プレス装置への設置性が良好で、発塵やガス発生がなく、耐熱耐久性が良好で、熱盤への焼付きがなく、しかも容易かつ安価に製造可能な熱プレス用耐熱クッションシート材およびそれを用いた熱プレス成形方法を提供する。
【解決手段】 本発明の熱プレス用耐熱クッションシート材は、熱盤と被成形物との間に介装される熱プレス用耐熱クッションシート材において、平均繊維径4μm以下の無機繊維層である無機繊維不織布シートからなるクッション基材の表裏面の少なくとも熱盤側当接面および被成形物側当接面の表面部の前記無機繊維同士が膨潤性層状粘土鉱物からなる無機バインダーで結着された実質的に無機物のみから構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂積層板やプリント基板等を製造する際に行われる熱プレス成形工程において、被成形物の全面へ均等に熱と圧力を加えるために、熱プレス装置の熱盤と被成形物との間に配置して使用される熱プレス用耐熱クッションシート材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空加熱および加圧により被成形物の積層貼合せを行う工程が熱プレス成形工程において主に行われていた。その一例としてはフレキシブルプリント基板(以下、FPC(Flexible Printed Circuits)と言う)を製造する工程がある。最近のFPCはHDDサスペンション、携帯電話の液晶部とキーボードとを接続するヒンジ、携帯電話のスライド部分等に導入されるため、屈曲を繰り返す場合の折れ、断線、短絡を防止するため、薄くて高強度のスーパーエンジニアリングプラスチック(以下、スーパーエンプラと言う)が採用されている。これらのスーパーエンプラとしてはPI(ポリイミド)や、液晶ポリマー等が使用され始めており、300℃を超えるプレス加工温度を必要としている。
【0003】
FPCの製造工程においては、PIフィルムや液晶ポリマーフィルム等と銅箔を積層し、減圧雰囲気で約350℃で数分から数時間に渡り加熱を与えてプレスを行うが、積層されたプリント配線基板に一定の圧力と熱を均一に加えるため、クッションシート材が使用されている。一定の圧力と熱を均一に加えるには、クッションシート材として、厚さに均一性がある抄紙式シートが適しており、しかも、上記減圧真空プレス加工条件(例えば、350℃、5kgf/cm、5時間、10−4torr)下での耐熱耐久性および分解ガス発生の問題を克服するため、ロックウール繊維、スラグ繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、炭素繊維等の無機繊維を主体とした抄紙式シートが使用されている。
【0004】
しかし、前記抄紙式シートを構成する無機繊維の繊維径は数μmと太く直線形状であり、そのままではシート状に抄紙することができないので、樹脂バインダーやバインダー効果のある合成繊維類を混合しているものが一般的であるが、何れも耐熱性が低く、減圧雰囲気での加熱時にガスを発生し、FPCを汚染したり、減圧するまでに時間がかかり、生産効率を低下させるといった問題がある。
【0005】
そこで、有機物のバインダーを使用せず純粋に無機繊維のみで抄紙式シートを形成するには、例えば平均繊維径が1.5μm以下程度の極細無機繊維を使用し、繊維の絡み合いの効果を高めてシート強度を得る方法があるが、抄紙したシートは、加圧を行うと、無機繊維が折れて微粉化して飛散するため、プレス成形時に被成形物を汚染する危険が伴うとともに、高価な真空加熱プレス機械を汚すので、メンテナンスに時間がかかるといった問題がある。
【0006】
このため、有機物のバインダーを使用せず純粋に無機繊維のみで抄紙した無機繊維不織布シートの表面を、耐熱性の外被材で被包した構成にすることで、該無機繊維不織布シートの繊維粉の飛散を防止しようとする方法が検討されている。耐熱性の外被材としては、金属箔や、最近市販され始めている350℃以上の耐熱性を備えたPIフィルム等がある。金属箔は、折り曲げ加工によりバインダー不要で被包が容易に行え、高温でのガス発生を防げる。PIフィルムは金属箔に比べ、通気性があり、ボイドの原因となる空気溜まりを防ぐ効果を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、無機繊維不織布シートの表面を金属箔で被包した構成のクッションシート材では、300℃以上、数時間の真空加熱プレスを行うと、金属箔がプレス装置の熱盤と焼付きを起こし、毎回プレスごとに機台を停止させ温度を下げて清掃するメンテナンスが必要となり、生産効率が低下するという課題を有していた。
【0008】
また、無機繊維不織布シートの表面をPIフィルムで被包した構成のクッションシート材では、クッション基材である無機繊維不織布シートのズレ防止や設置時のハンドリング性を向上させるためには、PIフィルムで全体を包むことが望ましいが、シール加工するのに350℃以上の高温シール工程が必要となり、また、PIフィルム自身が高価であり、クッションシート材単価が上記金属箔被包品と比べて非常に高価であるという課題を有していた。
【0009】
そこで、本発明は、熱プレス装置の熱盤と被成形物との間に配置して使用される熱プレス用耐熱クッションシート材において、特に減圧雰囲気で300〜350℃程度の高温で数分〜数時間の熱プレス(例えば、10−4torr、350℃、5kgf/cm、5時間)を行っても、プレス装置への設置性が良好で、発塵やガス発生がなく、耐熱耐久性が良好で、熱盤への焼付きがなく、しかも容易かつ安価に製造可能な熱プレス用耐熱クッションシート材およびそれを用いた熱プレス成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の熱プレス用耐熱クッションシート材は、前記目的を達成するべく、請求項1に記載の通り、熱盤と被成形物との間に介装される熱プレス用耐熱クッションシート材において、平均繊維径4μm以下の無機繊維層である無機繊維不織布シートからなるクッション基材の表裏面の少なくとも熱盤側当接面および被成形物側当接面の表面部の前記無機繊維同士が膨潤性層状粘土鉱物からなる無機バインダーで結着された実質的に無機物のみから構成されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の熱プレス用耐熱クッションシート材は、前記目的を達成するべく、請求項2に記載の通り、熱盤と被成形物との間に介装される熱プレス用耐熱クッションシート材において、平均繊維径4μm以下の無機繊維層である無機繊維不織布シートからなるクッション基材の表裏面の少なくとも熱盤側当接面および被成形物側当接面に自己造膜性を有する膨潤性層状粘土鉱物からなる通気性被膜が形成された実質的に無機物のみから構成されることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3記載の熱プレス用耐熱クッションシート材は、請求項1または2記載の熱プレス用耐熱クッションシート材において、前記クッション基材が実質的に前記無機繊維と前記膨潤性層状粘土鉱物のみから構成されることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4記載の熱プレス用耐熱クッションシート材は、請求項1〜3の何れか1項に記載の熱プレス用耐熱クッションシート材において、クッションシート材全体が珪酸塩系物質から構成されることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の熱プレス用耐熱クッションシート材。
【0014】
また、請求項5記載の熱プレス用耐熱クッションシート材は、請求項1〜4の何れか1項に記載の熱プレス用耐熱クッションシート材において、前記無機繊維不織布シートは、無機繊維を湿式抄造してなる抄紙シートであることを特徴とする。
【0015】
また、請求項6記載の熱プレス用耐熱クッションシート材は、請求項1〜4の何れか1項に記載の熱プレス用耐熱クッションシート材において、前記無機繊維層は、平均繊維径1.5μm以下の無機繊維層であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項7記載の熱プレス用耐熱クッションシート材は、請求項1〜6の何れか1項に記載の熱プレス用耐熱クッションシート材において、前記膨潤性層状粘土鉱物が、スメクタイト族であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の熱プレス成形方法は、前記目的を達成するべく、請求項8に記載の通り、請求項1〜7の何れか1項に記載の熱プレス用耐熱クッションシート材を、熱盤と被成形物との間に介装することを特徴とする。
【0018】
また、請求項9記載の熱プレス成形方法は、請求項8記載の熱プレス成形方法において、プレス時に熱盤と被成形物との間に介装状態にある前記クッションシート材を始めとする介装物全体(ただし、当て板は除く)が珪酸塩系物質から構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の熱プレス用耐熱クッションシート材は、無機繊維不織布シートからなるクッション基材の表裏面の少なくとも熱盤側当接面および被成形物側当接面の表面部の前記無機繊維同士が自己造膜性を有する膨潤性層状粘土鉱物からなる無機バインダーで結着され、前記熱盤側当接面および被成形物側当接面に膨潤性層状粘土鉱物からなる通気性被膜が形成された構成であるので、高温下でのプレス装置への焼付き現象が起きず、プレス作業性を向上させることができる。また、従来の金属箔被包構造に比べ、膨潤性層状粘土鉱物による被膜には通気性があり、ボイドの原因となる空気溜まりを発生させにくい。
【0020】
また、クッション基材および被覆層を含めてクッションシート材全体が実質的に無機物のみから構成されるので、最近のポリイミドや液晶ポリマーといったスーパーエンジニアリングプラスチックを使用したフレキシブルプリント基板の製造に見られるような減圧雰囲気で300〜350℃程度の高温で数分〜数時間の熱プレス(例えば、10−4torr、350℃、5kgf/cm、5時間)を行っても、加熱および真空処理時にガス発生がなく、被成形物やプレス装置を汚染せず、また、無機繊維自体の飛散(発塵)がなく、周囲を汚染しない。また、従来のような外被材でクッション基材を被包した構造ではないため、プレス装置への設置時に、クッションシート材と被成形物との位置決めが容易かつ短時間に行える。
【0021】
また、無機繊維不織布シートとして無機繊維を湿式抄造してなる抄紙シートにて構成した場合には、クッションシート材の優れた厚さ均一性が得られるので、被成形物に一定の圧力と熱を均一に加えることができ、被成形物の加工精度を向上することができ、被成形物の品質向上と生産性向上に顕著に寄与することができる。
【0022】
また、無機繊維不織布シートの自己発塵を防止するため、従来のような外表面を外被材で被包することが不要であるため、クッションシート材の製造が容易かつ安価に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の熱プレス用耐熱クッションシート材は、無機繊維不織布シートからなるクッション基材の表裏面の少なくとも熱盤側当接面および被成形物側当接面の表面部の前記無機繊維同士が自己造膜性を有する膨潤性層状粘土鉱物からなる無機バインダーで結着され、前記熱盤側当接面および被成形物側当接面に膨潤性層状粘土鉱物からなる通気性被膜が形成された構成であるので、自己発塵を防止する構造でありながら、別体に設ける外被材を不要にすることができ、実質的な無機物のみの構成により、300℃以上の高温熱プレスをガス発生なく容易に行うことを可能にする。尚、前記プレス装置の熱盤とは、ニクロム等の熱線や熱媒を配管したプレス基盤を言う。尚、前記熱盤側当接面とは、熱盤と直接接する面、熱盤との間に当て板等の別部材を介して熱盤と接する面の両方を指す。同様に、前記被成形物側当接面とは、被成形物と直接接する面、被成形物との間に当て板等の別部材を介して被成形物と接する面の両方を指す。
【0024】
前記無機繊維不織布シートは、平均繊維径4μm以下の無機繊維層である。ここで、平均繊維径4μm以下の無機繊維層とは、平均繊維径4μm以下の無機繊維材料のみから形成された無機繊維層のみでなく、平均繊維径4μm以下の無機繊維材料と平均繊維径4μm超えの無機繊維材料から混成して形成された繊維層全体で平均繊維径4μm以下となる無機繊維層も含めて言うものとする。前記無機繊維層は、更に平均繊維径1.5μm以下の無機繊維層であることが好ましい。前記無機繊維不織布シートを平均繊維径1.5μm以下の無機繊維層にて構成した場合は、無機繊維不織布シートを構成する無機繊維同士の絡み合いが増えシート強度が増すとともに、シートの厚さ均一性が増しクッションシート材使用時の被成形物への加圧力および熱伝達の均一性を向上させ被成形物の加工精度を向上させることができる。
【0025】
前記無機繊維としては、ガラス繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維等を使用できるが、繊維径の細い無機繊維を容易に入手できる点で、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維は他の無機繊維に比べ、溶融温度が低いため微細繊維化が容易であるため、微細ガラス繊維を湿式抄造してシート状に形成することが好ましい。これにより、クッション基材をより均一な厚さとすることができ、熱プレス成形工程において、被成形物に一定の圧力と熱を均一に加えることができる。例えば、FPCの場合であれば、銅箔と絶縁プラスチック材との接着精度、加工精度を向上することが可能になる。前記微細ガラス繊維は、例えば、耐酸性のCガラスを、約1100℃で溶融、紡糸後、バーナの火炎でエネルギーを与え、吹き飛ばして得られた平均繊維径が0.2〜4μmのものが好ましい。
【0026】
本発明のような基本的にバインダーを使用せず極細の無機繊維を使用することよる高度な繊維の絡み合いの効果によりシート強度を得るようにされた無機繊維不織布シートからなるクッションシート材では、熱プレス時に繊維飛散を生じ、プレス装置および被成形物を汚染することが考えられる。繊維飛散防止には、外被材で被包する方法、繊維脱離自体を防止する方法が考えられる。外被材で被包する方法では、クッションシート材の300℃以上への適用を考慮すると、外被材材料がPIフィルムや金属箔等に限定され、しかも被包加工を要するため生産性が劣りコスト高となる欠点がある。繊維離脱を防止する方法では、樹脂等を塗工あるいは浸漬処理を行い、無機繊維不織布シートの表面を覆うことは容易であるが、クッションシート材の300℃以上への適用を考慮すると、いわゆる有機物ではPI樹脂程度しか該当するものはなく、非常にコスト高となり加工も難しくなる欠点がある。
【0027】
本発明の前記膨潤性層状粘土鉱物は、無機物であり、溶媒に溶かす等して湿潤状態で使用し乾燥させることで、自己造膜性を有し、無機バインダーとして機能するものである。特に、スメクタイト族(鉱物名ではサポナイト、ヘクトライト、ソーマナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト等)の膨潤性層状粘土鉱物はナノサイズの鱗片状構造であり、これが層状に重なることで乾燥すると硬く強度のある膜形状を呈する。ただし、膨潤性層状粘土鉱物はそれ単体では、クラックを生じるため完全な膜を得ることは難しい。しかし、本発明のクッション基材を構成する平均繊維径4μm以下の無機繊維層である無機繊維不織布シートに塗工あるいは含浸処理を行うと、無機繊維間の距離が4μm以下と小さいため、無機繊維間に容易に膜形成させることができる。そして、無機繊維不織布シートに付着した膨潤性層状粘土鉱物の処理液は、溶媒の蒸発が進むにつれ表面張力により無機繊維の交点部分に集まるようになり、乾燥が完了すると、無機繊維同士を完全に結着固定して固まり、無機繊維間に形成された膜は縮小して無機繊維不織布シートの表面を覆う通気性の被膜となる。このように、本発明の無機繊維不織布シートの所定部位の無機繊維同士を膨潤性層状粘土鉱物で結着させたり、所定部位に膨潤性層状粘土鉱物の通気性被膜を形成するには、無機繊維不織布シートに対して膨潤性層状粘土鉱物の処理液を塗工あるいは含浸処理して所定の部位を濡らし、その後乾燥させるだけでよいので、製造条件の範囲が広く、設備費用も少なくてすむ利点がある。尚、水溶性のスメクタイト系膨潤性層状粘土鉱物の耐熱温度は700℃である。
【0028】
前記膨潤性層状粘土鉱物は、天然物、合成物のどちらでも使用できる。天然物の場合、非常に安価であるが、鉄分等の不純物を含み、色相では灰色等を呈するため、金属不純物を嫌う用途には不向きである。合成物の場合は、色相は通常無色透明であり、不純物を含まない利点があるが、天然物に比べ20倍以上高価である。
【0029】
尚、従来の一般的な無機バインダーとして酸化物ゾルが知られているが、積層して自己造膜する性質はなく、無機繊維の交点を強固に結着固定するため、酸化物ゾルを処理した無機繊維不織布シートは柔軟性がなくなり硬く脆いシートとなり、クッションシート材として機能しなくなる。また、従来の鱗片状の無機バインダーとして天然雲母や合成雲母が知られているが、平均粒径3μm以下のものが得られずサイズが大きいため、バインダーとしての接着力は得にくい。
【0030】
本発明の熱プレス用耐熱クッションシート材は、熱盤側当接面および被成形物側当接面に膨潤性層状粘土鉱物の付着面を設けた無機繊維不織布シートからなるクッション基材を基本構成とするものであり、具体的な構成例としては、(1)1枚の無機繊維不織布シートの表裏両面を膨潤性層状粘土鉱物の付着面としたもの、(2)無機繊維不織布シートの表裏面の少なくとも一方の面を膨潤性層状粘土鉱物の付着面としたシート2枚を膨潤性層状粘土鉱物の付着面がクッションシート材の表裏面となるように積層したもの、(3)更にその2層の間に別の無機繊維不織布シート、あるいは、ガラスクロスや開孔した金属箔等の補強用の通気性無機物シートを挟むようにして3層以上に積層したもの等が挙げられ、ただし、無機繊維不織布シートを複数枚積層構造にする場合は、膨潤性層状粘土鉱物の付着面を設けていない無機繊維不織布シートを所定枚積層後にその表裏面に膨潤性層状粘土鉱物の付着面を設けるようにしてもよい。単層構造、複層構造、何れの場合も、熱プレス時に熱盤側当接面や被成形物側当接面となり得るクッションシート材の使用状態での表裏両面が少なくとも膨潤性層状粘土鉱物の付着面となることが条件である。
【0031】
本発明の熱プレス用耐熱クッションシート材は、クッションシート材全体が珪酸塩系物質から構成されるものであることが好ましい。無機繊維不織布シートをクッション基材とするクッションシート材では、例えば300〜350℃の高温で加圧力5kgf/cm程度で数分〜数時間の熱プレスを行うと、無機繊維が折れ無機繊維不織布シートの構造が破壊されて厚さがへたり、クッション性が低下するとともにシートの厚さ均一性も低下するため、実質的に再利用は不可能であり、1回ごとに使い捨てされる部材である。よって、このようなクッションシート材を使用する熱プレス成形工程においては、大量のクッションシート材の廃棄物が生じることになり、しかも、プレス装置の熱盤と被成形物との間に介装されたクッションシート材は互いに別体のものでも熱プレス後では焼き付いて接着一体化する。例えば、従来の無機繊維不織布シートからなるクッション基材をアルミニウム箔やポリイミドフィルムの外被材で被包した構造のクッションシート材の場合では、接着一体化した無機繊維材とアルミニウム材、あるいは、接着一体化した無機繊維材とポリイミド材を、分離させた上で分別廃棄または分別回収する必要があり、分離作業および分別作業に多大なコストと工数が必要となる。しかし、本発明のクッションシート材の場合は、珪酸塩系物質から構成されるガラス繊維等の無機繊維不織布シートからなるクッション基材と、該クッション基材に設けられた珪酸塩系物質から構成される膨潤性層状粘土鉱物の被膜層のみから構成されるようにすれば、クッションシート材全体が珪酸塩系物質から構成されているため、例え熱プレス後に無機繊維不織布シート同士、あるいは、無機繊維シートと被膜層とが一体化していても、工数のかかる分離・分別をすることなくそのまま廃棄あるいは回収することができる。尚、前述したように、クッションシート材の構成として、無機繊維不織布シートの間に補強用の通気性無機物シートを挟むように構成する場合は、該通気性無機物シートとして珪酸塩系物質から構成されるガラスクロス(ガラス繊維織布)等を使用すれば、同様の効果が得られる。
【0032】
以上の考え方に基づき、本発明の無機繊維不織布シートを基本構成とするクッションシート材を熱盤と被成形物との間に介装するようにした熱プレス成形方法においては、プレス時に熱盤と被成形物との間に介装状態にあるクッションシート材を始めとする当て板を除いた介装物全体、つまり、プレス時に熱盤と被成形物との間に介装状態にある部材のうち、本発明のクッションシート材および該クッションシート材と同時に同頻度で廃棄または回収される部材のすべてが、珪酸塩系物質から構成されることが好ましい。尚、前記当て板とは、前記熱プレス成形方法において必要に応じて用いられる部材で、例えば、被成形物の加工性や表面平滑性を高めるため等に用いられる鏡面板(主に金属板)等を指す。
【0033】
本発明の無機繊維不織布シートからなるクッション基材の少なくとも熱盤側当接面および被成形物側当接面に膨潤性層状粘土鉱物の付着面を設けたクッションシート材を熱盤と被成形物との間に介装するようにした熱プレス成形方法においては、熱盤側に当てた膨潤性層状粘土鉱物の付着面がクッションシート材の熱盤側への焼付きを防止するとともに、熱盤側および被成形物側に当てた膨潤性層状粘土鉱物の付着面がクッションシート材からの発塵(繊維飛散)を防止することができる。
【0034】
次に、本発明の熱プレス用耐熱クッションシート材の具体的な製造方法について述べる。まず、無機繊維不織布シートからなるクッション基材の製造方法について、その一例を用いて説明する。
(1)無機繊維、例えば所定量の微細ガラス繊維を、ミキサー、パルパー等の分離機により水中で均一に分散・混合して、抄紙種を得、タンクに貯蔵する。
(2)タンクから連続的に抄紙種を円網、長網または傾斜式抄紙機に供給して湿式抄造し、乾燥して、所定厚みの無機繊維抄紙シートの原反シートを得る。
(3)原反シートを、所定サイズに裁断してクッション基材とする。尚、必要に応じ、複数枚を積層してクッション基材としてもよい。
【0035】
次に、得られた無機繊維抄紙シートからなるクッション基材に膨潤性層状粘土鉱物の付着面を設ける加工方法について、その一例を用いて説明する。
(1)スメクタイト族膨潤性層状粘土鉱物を規定濃度になるよう計量する。
(2)水(水道水でよい)およびスメクタイト族膨潤性層状粘土鉱物を撹拌機(ホモジナイザー)に投入し、5分間撹拌して均一に分散させ、チクソトロピー性の膨潤性層状粘土鉱物溶液を得る。
(3)膨潤性層状粘土鉱物溶液をスプレー、ロールコータ、ドクターコータ等の塗工法、もしくは、浸漬槽等を用いる含浸法により、無機繊維抄紙シートからなるクッション基材の表面ないしは内部まで規定量付着させる。ただし、本発明において膨潤性層状粘土鉱物の付着部を設ける意味は繊維飛散防止が主目的であることから、少なくとも表面部分に付着させられる方法であれば構わない。
(4)一般的な乾燥機(循環熱風乾燥炉等)で乾燥し、膨潤性層状粘土鉱物の付着面を設けたクッションシート材を得る。以上は、膨潤性層状粘土鉱物の付着面をクッション基材の表裏面の一方の面に設けた例であるが、表裏両面に設けるようにしてもよい。尚、1枚の無機繊維抄紙シートからなるクッション基材の表裏両面に膨潤性層状粘土鉱物の付着面を設けるようにしても、そのまま本発明のクッションシート材として利用可能であるが、更にクッションシート材のクッション性を高め被成形物であるプレス製品の収率を向上させる狙いには、クッション基材を複数枚の無機繊維抄紙シートを積層して構成しその表裏両面に膨潤性層状粘土鉱物の付着面を設ける、あるいは、表裏両面の少なくとも一方の面に膨潤性層状粘土鉱物の付着面を設けた無機繊維抄紙シートの2枚を膨潤性層状粘土鉱物の付着面が表裏面となるように積層する、あるいは、更にその2層の間に別の無機繊維抄紙シートを挟んで3層以上に積層するようにしてもよい。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の実施例について、従来例とともに詳細に説明する。
(実施例)
平均繊維径1.0μmのガラス繊維100重量%を水中で分散・混合後、通常の抄紙機にて湿式抄造し、105℃で乾燥して、厚さ3.0mm、坪量420g/mのガラス繊維抄紙シートを得た。
次に、自己造膜性およびバインダー機能を有する膨潤性層状粘土鉱物として合成スメクタイト粘土(コープケミカル社製 ルーセンタイトSWN)を50g採取し、ステンレス槽に投入し、水950gを加えて、ホモジナイザー(シルバーソン社製 L4R)を用いて5分間撹拌して均一分散させ、チクソトロピー性を備えた濃度5重量%の粘土水溶液を得た。
次に、前記ガラス繊維抄紙シートを300mm×300mmのサイズに裁断したシート(重量37.8g)の表裏面の一方の面に、前記粘土水溶液134g(固形分6.7g)をナイフコータで均一に塗布し、105℃の熱風乾燥機で乾燥させ、表裏面の一方の表面に合成スメクタイト粘土の付着面が形成され該表面部のガラス繊維同士が合成スメクタイト粘土で結着固定され該表面に合成スメクタイト粘土の通気性被膜が形成されたガラス繊維不織布シート(合成スメクタイト粘土の付着量15重量%)を得た。
次に、前記片面に合成スメクタイト粘土の付着面が形成されたガラス繊維不織布シート2枚を、該付着面が表裏面となるように積層し、本発明のクッションシート材とした。
【0037】
(従来例1)
実施例と同様に作製した厚さ3.0mm、坪量420g/mのガラス繊維抄紙シートを300mm×300mmのサイズに裁断したシート2枚を積層し、繊維飛散を防止するため、その外表面を厚さ40μmの硬質アルミニウム箔で被包し、従来例1のクッションシート材とした。
【0038】
(従来例2)
実施例と同様に作製した厚さ3.0mm、坪量420g/mのガラス繊維抄紙シートを300mm×300mmのサイズに裁断したシート2枚を積層し、繊維飛散を防止するため、その外表面を厚さ25μmで380mm×380mmのサイズのポリイミドフィルム(宇部興産社製 ユーピレックス−25S)で被包し、従来例2のクッションシート材とした。尚、ポリイミドフィルムは熱硬化性樹脂であり熱可塑性樹脂のような溶着シール加工を施すことができないため、繊維飛散防止のため1.3倍のサイズのフィルムを必要とした。
【0039】
次に、上記にて得られた実施例および従来例1〜2のクッションシート材を用いて、以下の方法により熱プレス成形試験を行い、その時の状況変化を観察、評価した。結果を表1に示す。
〈熱プレス成形試験〉
2枚の前記クッションシート材の間に、被成形物として銅箔と熱可塑性ポリイミドシートを挿入して、熱プレス装置の当接する部位に載せ、350℃で5時間、5MPaの加圧をかけて熱プレス成形を行った。尚、従来例2の場合、ポリイミドフィルムからのガス発生を抑えるため、通常約200℃で3時間以上の予備加熱を行うが、実施例および従来例1と条件を合わせるため、この予備加熱を行わずに熱プレス成形を行った。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果から以下のことが分かった。
(1)実施例および従来例1〜2のクッションシート材は何れも、クッション基材と自己発塵防止構成(被覆材)のみからなる構成であり、実施例のクッションシート材では、ガラス繊維とスメクタイト粘土からなるので、350℃の高温加熱時にも、変色や着火はなく、ガス発生もなかった。また、クッション基材を構成するガラス繊維不織布シートからの繊維飛散による発塵も、スメクタイト粘土によるガラス繊維の固定および表面被膜により防ぐことができた。また、自己発塵防止構成(被覆材)はクッション基材の表面にスメクタイト粘土の被膜が形成されているだけであり実質的にはクッション基材の外形そのままであるので、プレス装置への設置の際、位置決めを目視で容易に行え作業効率が良い。また、クッション基材の表面に形成されたスメクタイト粘土の被膜は通気性があり、ガラス繊維不織布シートの通気性を阻害しないため、被成形物内部のエアがプレス時にクッションシート材を通して容易に排出されるため、プレス後の被成形物にボイドの発生は見られなかった。また、プレス後、クッション基材と被覆材は焼き付いて一体化していたが、クッション基材、被覆材は何れも珪酸塩系物質から構成されているので、分離・分別をすることなくそのまま廃棄あるいは回収することができた。また、自己発塵防止構成(被覆材)はクッション基材の表面にスメクタイト粘土の被膜を形成するだけでよいため、自己発塵防止のための加工はスメクタイト粘土溶液の塗工だけで済み、自動化されたオンライン工程で安価に製造できた。
(2)これに対し、自己発塵防止構成(被覆材)をアルミニウム箔の外被材被包構成とした従来例1のクッションシート材では、350℃の高温加熱時にも、変色や着火はなく、ガス発生もなく、クッション基材の繊維飛散による発塵も防ぐことができたが、外被材被包構造を得るためのアルミニウム箔の折曲げ加工は自動化が困難で手作業が主体となるため、生産性が悪く製造コストが高くなった。また、アルミニウム箔の外被材被包構造では内部のクッション基材が視認できないため、プレス装置への設置の際の位置決めを容易に行うことができず作業効率が悪かった。また、アルミニウム箔の外被材被包構造では通気性が阻害されるため、被成形物内部のエアをプレス時にクッションシート材を通して排出することができないため、プレス後の被成形物にボイドの発生が見られた。また、プレス後、クッション基材と被覆材は焼き付いて強固に接着し一体化していたため、ガラス繊維材とアルミニウム材の廃棄あるいは回収のための分離・分別作業が容易ではなく作業効率が悪かった。
(3)また、自己発塵防止構成(被覆材)をポリイミドフィルムの外被材被包構成とした従来例2のクッションシート材では、350℃の高温加熱時にも、変色や着火はなかったが、通常行う約200℃で3時間以上の前処理を行わなかったためポリイミド内部の水分等によるガス発生があり、被成形物にボイドが少々観察された。また、ポリイミドフィルムの外被材被包構造により、クッション基材の繊維飛散による発塵は防ぐことができたが、外被材被包構造を得るための加工は、クッション基材の上下に薄くて柔らかなハンドリングの悪いフィルムを設置する作業であり生産性が悪く製造コストが高くなった。また、ポリイミドフィルムの外被材被包構造ではフィルムが薄茶色であり内部のクッション基材がある程度視認できるため、プレス装置への設置の際の位置決め作業は目視で比較的容易に行うことができた。また、ポリイミドフィルムは通気性があり、ガラス繊維不織布シートの通気性を阻害しないため、被成形物内部のエアがプレス時にクッションシート材を通して容易に排出されるため、プレス後の被成形物にボイドの発生は見られなかった。また、プレス後、クッション基材と被覆材は焼き付いて強固に接着し一体化していたため、ガラス繊維材とポリイミド材の廃棄あるいは回収のための分離・分別作業が容易ではなく作業効率が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱盤と被成形物との間に介装される熱プレス用耐熱クッションシート材において、平均繊維径4μm以下の無機繊維層である無機繊維不織布シートからなるクッション基材の表裏面の少なくとも熱盤側当接面および被成形物側当接面の表面部の前記無機繊維同士が膨潤性層状粘土鉱物からなる無機バインダーで結着された実質的に無機物のみから構成されることを特徴とする熱プレス用耐熱クッションシート材。
【請求項2】
熱盤と被成形物との間に介装される熱プレス用耐熱クッションシート材において、平均繊維径4μm以下の無機繊維層である無機繊維不織布シートからなるクッション基材の表裏面の少なくとも熱盤側当接面および被成形物側当接面に自己造膜性を有する膨潤性層状粘土鉱物からなる通気性被膜が形成された実質的に無機物のみから構成されることを特徴とする熱プレス用耐熱クッションシート材。
【請求項3】
前記クッション基材が実質的に前記無機繊維と前記膨潤性層状粘土鉱物のみから構成されることを特徴とする請求項1または2記載の熱プレス用耐熱クッションシート材。
【請求項4】
クッションシート材全体が珪酸塩系物質から構成されることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の熱プレス用耐熱クッションシート材。
【請求項5】
前記無機繊維不織布シートは、前記無機繊維を湿式抄造してなる抄紙シートであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の熱プレス用耐熱クッションシート材。
【請求項6】
前記無機繊維層は、平均繊維径1.5μm以下の無機繊維層であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の熱プレス用耐熱クッションシート材。
【請求項7】
前記膨潤性層状粘土鉱物が、スメクタイト族であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の熱プレス用耐熱クッションシート材。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の熱プレス用耐熱クッションシート材を、熱盤と被成形物との間に介装することを特徴とする熱プレス成形方法。
【請求項9】
プレス時に熱盤と被成形物との間に介装状態にある前記クッションシート材を始めとする介装物全体(ただし、当て板は除く)が珪酸塩系物質から構成されることを特徴とする請求項8記載の熱プレス成形方法。

【公開番号】特開2009−12195(P2009−12195A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173456(P2007−173456)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】