説明

熱交換器保護構造

【課題】 車両衝突時に熱交換器が破損するのを防止するとともに、その製造費用および修理費用を安価に抑えながら熱交換器の支持剛性のバラツキを小さくして確実に熱交換器を支持することができる熱交換器保護構造を提供する。
【解決手段】熱交換器取付ピン3を熱交換器ユニット1とは別体に構成して熱交換器に取り付け、熱交換器取付ピン3におけるピン部32の付け根部に所定以上の外力が作用した場合に破断する脆弱部を構成する小径部32aを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時に、車両前方に搭載された熱交換器が破損するのを防ぐようにした熱交換器保護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジエータなどの熱交換器は、通常、車両の前方でエンジンの前に搭載されているため、熱交換器の前方に配置されたバンパー・レインフォースメント等が車両の衝突により変形・後退すると、これらが熱交換器のコア部に当たって高価な熱交換器を破損させてしまい、その結果、修理費用が高く付いてしまう。そこで、このような衝突時にあっても、熱交換器が破損するのを防ぐ試みが従来からなされている。
【0003】
このような従来の熱交換器保護構造としては、以下のものが知られている。
すなわち、そのうちの一つとして、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。この熱交換器保護構造にあっては、バンパー・レインフォースメントに固着されたバンパー・ステーが下方後方へ伸ばされて、熱交換器の下端部との間に車両前後方向の隙間(バンパー・レインフォースメントと熱交換器との車両前後方向の隙間より小さく設定)が設けられるとともに、熱交換器に対して車両後方へ所定以上の外力が作用したとき、熱交換器の下端部と熱交換器指示パネルを連結する連結部材の固定状態が解除され、熱交換器の下端部が車両後方へ移動するようにして、熱交換器とバンパー・レインフォースメントが干渉しないようにしている。
【0004】
また、別の従来の熱交換器保護構造としては、特許文献2に記載されたものが知られている。この熱交換器保護構造にあっては、熱交換器を車体の支持部に結合するブラケットまたは取付ピンが熱交換器の樹脂タンクに一体成形されるとともに、ブラケットまたは取付ピンにこれらに車両衝突によって過大な負荷がかかったとき破損して樹脂タンクへその破損が進行するのを防止する脆弱部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−21700号公報
【特許文献2】実開昭64−6123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の熱交換器保護構造には、それぞれ以下に説明するような問題がある。
すなわち、特許文献1に記載の熱交換器保護構造にあっては、連結部材としてロア・メンバに熱交換器支持用の挿入穴部やクリップ係止用の2つの係止用穴部を形成するとともに、その挿入穴部に熱交換器の下端部を挿入した状態でその開口部を塞ぐように、ロア・メンバにこの後方から装着するクリップが必要となる。
この結果、特許文献1に記載の熱交換器保護構造には、製造費用および組立工数が増大してしまう他、クリップとロア・メンバの係止用穴部との係合による支持剛性のばらつきや不完全係合等が発生する虞があるといった問題がある。
【0007】
一方、特許文献2に記載の熱交換器保護構造にあっては、車両衝突時にブラケットまたは取付ピンの脆弱部が破損して樹脂タンクまでには破損が及ばないようにすることで、タンク内の液漏れ等を防ぐことは可能になるものの、一旦ブラケットまたは取付ピンの脆弱部が破損してしまうと、その樹脂タンクは再使用できなくなってしまう。
この結果、特許文献2に記載の熱交換器保護構造には、修理費用が増大するといった問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、車両衝突時に熱交換器が破損するのを防止するとともに、その製造費用および修理費用を安価に抑えながら、熱交換器の支持剛性のバラツキを小さくして確実に熱交換器を支持することができる熱交換器保護構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため、請求項1に記載の本発明による熱交換器保護構造は、
それぞれ係合孔が形成された支持部を設けたアッパ・メンバおよびロア・メンバを有する熱交換器支持メンバと、
アッパ・メンバおよびロア・メンバに、係合孔に挿入した取付ピンを介して、支持される熱交換器と、
を備えた熱交換器保護構造において、
取付ピンを熱交換器とは別体にて構成して熱交換器に取り付け、
取付ピンには、これに所定以上の外力が作用した場合に取付ピンが支持部にて破断し熱交換器を支持部に対して相対移動可能にする脆弱部を設けた、
ことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の本発明による熱交換器保護構造は、
請求項1に記載の熱交換器保護構造において、
取付ピンが、熱交換器への取付部から熱交換器から離れる方向に伸びるピン部を有し、
取付部へのピン部の付け根部近傍に脆弱部が形成されている、
ことを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の本発明による熱交換器保護構造は、
請求項2に記載の熱交換器保護構造において、
ピン部が、中空部である、
ことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の本発明による熱交換器保護構造は、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱交換器保護構造において、
取付ピンが、熱交換器のタンクに形成したピン取付部に嵌合する嵌合部を有する、
ことを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載の本発明による熱交換器保護構造は、
請求項4に記載の熱交換器保護構造において、
嵌合部が、ピン取付部に車両前後方向からそれぞれ係合する、
ことを特徴とする。
【0014】
また、請求項6に記載の本発明による熱交換器保護構造は、
請求項4又は5に記載の熱交換器保護構造において、
取付ピンに、この嵌合部と熱交換器との間に抜き用の隙間を設けるか、取付ピンの熱交換器の奥方向長さを、熱交換器の嵌合部が嵌合する部分の奥方向長さより長くした部分を設けるかして、取り外し用取手部を形成した、
ことを特徴とする。
【0015】
また、請求項7に記載の本発明による熱交換器保護構造は、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の熱交換器保護構造において、
バンパー・レインフォースメントを、取付ピンを支持する熱交換器支持メンバと熱交換器の前方に配置し、
バンパー・レインフォースメントおよび熱交換器の少なくとも一方の車両幅方向両端側部分に、他方の車両幅方向両端側部分との間に隙間を有し、車両衝突時に車両幅方向両端側部分同士が当接して外力を伝える外力伝達メンバをそれぞれ設けた、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の本発明の熱交換器保護構造にあっては、車両衝突時に取付ピンの脆弱部が破損することで熱交換器が破損するのを防止することができる。また、衝突後は取付ピンを取り替えるだけで済み、熱交換器を交換する必要がないので、修理費用を安価に抑えることができる。また、取付ピンは熱交換器と別体で製造するだけあり、また、熱交換器の熱交換器支持メンバへの支持は取付ピンで行うので、製造費用が少なくて済む。
【0017】
請求項2に記載の本発明の熱交換器保護構造にあっては、取付ピンのピン部の付け根部近傍に脆弱部を設けたので、所定以上の外力が作用した場合に、アッパ・メンバ、ロア・メンバの支持部が起点となって取付ピンの脆弱部が破断するようになるので、確実に取付ピンの脆弱部が破断することで熱交換器が相対移動可能となり、熱交換器が破損から保護される。
【0018】
請求項3に記載の本発明の熱交換器保護構造にあっては、取付ピンのピン部が中空部であるので、取り付けピンと支持部との間にゴム・ブッシュのような弾性体が介在し、所定以上の外力が作用して弾性体が弾性変形した場合にあっても、取付ピンの脆弱部を確実に破断させて、熱交換器を保護することができる。
【0019】
請求項4に記載の本発明の熱交換器保護構造にあっては、取付ピンが、熱交換器のタンクに形成したピン取付部に嵌合する嵌合部を有するので、取付ピンのタンクへの装着を容易に行い、取付ピンが破断した場合にもこの破断した取付ピンを容易にタンクから外して新しい取付ピンに交換してタンクに安価かつ簡単に取り付けることができる。
さらに、取付ピンを熱交換器に係合するので、大きな係合面と確保することが可能となり、この結果、熱交換器の支持剛性のバラツキを小さくし、また不完全支持を防止することで、確実に熱交換器をアッパ・メンバ及びロア・メンバに支持することができる。
【0020】
請求項5に記載の本発明の熱交換器保護構造にあっては、嵌合部が、ピン取付部に車両前後方向からそれぞれ係合するようにしたので、外力が所定より小さい場合には取付ピンをしっかりとタンクに係止することができ、外力が所定以上になった場合には、弾性変形等によりタンクから取付ピンを外すことができ、熱交換器を保護することができる。
【0021】
請求項6に記載の本発明の熱交換器保護構造にあっては、取付ピンに取り外し用取手部を設けたので、取付ピンの熱交換器からの取り外し時に、作業者が容易に取付ピンの取り外し用取手部を掴んで取付ピンの取り外しを行うことができる。
【0022】
請求項7に記載の本発明の熱交換器保護構造にあっては、熱交換器支持メンバおよび熱交換器の少なくとも一方の車両幅方向両端側部分に、衝突時に他方の車両幅方向両端側部分に当接して外力を伝える外力伝達メンバを設けたので、正面衝突時はもちろん斜め前方などの、いわゆるオフセット衝突時にあっても確実に外力を車両幅方向両端側部分同士間に伝えることができ、これらいずれの方向であっても取付ピンの脆弱部が破損することで、熱交換器の破損を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施例1の熱交換器保護構造を示す車両前方からの斜視図である。
【図2】本発明に係る実施例1の熱交換器保護構造を示す要部の横断平面図である。
【図3】本発明に係る実施例1の熱交換器保護構造の要部を示す拡大斜視図である。
【図4】図3のS4−S4線における縦断面図である。
【図5】本発明に係る実施例1の熱交換器保護構造の作用説明図であり、(イ)は車両衝突がない通常状態あるいは車両衝突直前の状態を示す平面図、(ロ)は車両衝突によりバンパー・レインフォースメントと外力伝達メンバが当接した瞬間の状態を示す平面図、(ハ)は衝突により熱交換器が後方へ移動させられる状態を示す平面図である。
【図6】本発明に係る実施例2の熱交換器保護構造の要部を示す拡大縦断面図である。
【図7】本発明に係る実施例2の熱交換器保護構造の変形例を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
まず、実施例1の熱交換器保護構造の全体構成を説明する。
この実施例1の熱交換器保護構造は、図1に示すように、熱交換器ユニット1と、熱交換器支持メンバ2と、熱交換器取付ピン3と、バンパー・レインフォースメント4と、外力伝達メンバ5と、を備えている。
【0026】
熱交換器ユニット1は、図1、2に示すように、図示を省略したエンジンの冷却水を冷却するラジエータ(本発明の熱交換器に相当)11と、図示を省略したエア・コンディショニング・システム等の冷媒を冷却するコンデンサ(本発明の熱交換器に相当)12と、コンデンサ12及びラジエータ11に冷却風を送風して強制冷却する送風機13と、ファンシュラウド14等から構成されている。
【0027】
ラジエータ11は、冷却水を左右方向に流通させるように上下方向へ並べた複数本のチューブと隣り合うチューブ間に配置された冷却フィンとからなるラジエータコア11aと、このラジエータコア11aの上下に配置された上部のラジエータタンク11b及び下部のラジエータタンク11c等から構成されている。
上部のラジエータタンク11bの左右両端部付近の上面と、下部のラジエータタンク11cの左右両端部付近の下面には、図4に示すようにピン取付部16がそれぞれ形成される。
【0028】
上方のピン取付部16は、上部のラジエータタンク11bの上端側に設けられて上面がフラットな形状にされている。なお、ジエータタンク11bのピン取付部16のすぐ下側は、車両前後方向に少し窪ませて形成され、ピン取付部16の前後端部がそれぞれ車両前後方向に突出して後述するように取付ピン3が係合可能にしてある。
下方のピン取付部16は、下部のラジエータタンク11cの下端側に設けられて下面がフラットな形状にされている。なお、ジエータタンク11cのピン取付部16のすぐ上側は、車両前後方向に少し窪ませて形成され、ピン取付部16の前後端部がそれぞれ車両前後方向に突出させられて嵌合用係止部16aが設けられ、これらに後述するように取付ピン3が係合可能にしてある。
【0029】
コンデンサ12は、冷却水を左右方向に流通させるように上下方向へ並べた複数本のチューブと隣り合うチューブ間に配置された冷却フィンとからなるコンデンサコア12aと、このコンデンサコアの左右側端部にそれぞれ設けたタンク12b、12cと、車両左側に設けたタンク12b、12cに取り付けられたレシーバー・タンク12d等から構成されて、ラジエータ11の車両前方に配置されている。
【0030】
熱交換器ユニット1は、コンデンサ12と送風機13を組み付けたファンシュラウド14をボルト15等の締結部材によりラジエータ11に組み付け固定され、一つのユニットとして熱交換器支持メンバ2に組み付け固定されている。
【0031】
熱交換器支持メンバ2は、図1の2点鎖線で示すように、車両幅方向に延びるアッパ・メンバ21及びロア・メンバ22と、上下方向に延びてアッパ・メンバ21とロア・メンバ22を連結する図示を省略した左右のサイド・メンバ等で構成されている。
アッパ・メンバ21には、車両幅方向に離間されて熱交換器ユニット1を支持する2つ支持部に係合孔21aが、また、ロア・メンバ22には、車両幅方向に離間されて熱交換器ユニット1を支持する2つの支持部に係合孔22aが、それぞれ形成されている。
【0032】
熱交換器取付ピン3は、図1、3、4に示すように、熱交換器ユニット1を熱交換器支持メンバ2に組み付けるための部材であり、熱交換器ユニット1とは別体に構成され、熱交換器支持メンバ2に対しゴム・ブッシュ6a、6bを介して可能係脱可能に嵌合される。
【0033】
すなわち、熱交換器取付ピン3は、ラジエータタンク11bの上面、およびラジエータタンク11cの下面のピン取付部16の車両前後端部に、それぞれ車両前後方向から係脱可能に嵌合する嵌合部31と、ラジエータタンク11b、11cへの係合時に嵌合部31から離れる方向の垂直方向、すなわちアッパ・メンバ21、ロア・メンバ22に向かってそれぞれ伸びるピン部32と、を備えている。
【0034】
取付ピン3の嵌合部31は、ピン取付部16を車両前後方向に被せる状態でピン取付部16に車両前後方向から嵌合する鞍状に形成されている。その嵌合部31からラジエータコア11a側に向けて上下方向に突出させられた前後両側片31aには、これらの一部を切り欠いて形成された窓部31bが設けられる。この窓部31b内には、ピン取付部16の嵌合用係止部16aが入るようにして、これらの嵌合用係止部16aに窓部31bのラジエータコア11a側端部に設けた係合片31cを弾性的に係合させて、取付ピン3をピン取付部16に係合させるようにしてある。
なお、嵌合用係止部16aの上面側は係合片31の係合をスムーズに行うための下り斜面θ(図4を参照)に形成されている。
【0035】
また、嵌合部31の上面(下方の取付ピン31の場合には下面)から突出形成されたピン部32は、その先端部の上端面((下方の取付ピン31の場合には下端面)の開口から底が嵌合部31の上面(下方の取付ピン31の場合には下面)より若干深くなる深さまで軸方向長さL1(図4参照)にわたって、内部に軸方向の孔が開けられた中空部に形成されるとともに、その基部(付け根部)でアッパ・メンバ21、ロア・メンバ22の上記支持部に相対する部分(図4中、軸方向長さL2に相当する部分)に、ピン部32に所定値以上の外力が作用した場合に破断するようにした脆弱部を構成する小径部32aが形成されている。
この所定値は、車両が衝突してバンパー・レインフォースメント4が変形・後退してラジエータ11を変形させる大きさより若干小さくした値に設定されている。
【0036】
一方、図1、図2に示すように、バンパー・レインフォースメント4は、車両衝突時における熱交換器ユニット1を破損から保護するため、その両端部がバンパー・ステー41を介して熱交換器支持メンバ2とは独立した車体部分に固定されている。
【0037】
外力伝達メンバ5は、車両衝突時にパンパ・レインフォースメント4が変形・後退することでパンパ・レインフォースメント4からの受ける外力を熱交換器ユニット1側に伝える役目をなす。すなわち、この外力伝達メンバ5は、熱交換器ユニット1におけるファンシュラウド14の車幅方向両端部に車両前方のパンパ・レインフォースメント4へ向けて車両前後方向に突出した状態に設けられるが、この外力伝達メンバ5とパンパ・レインフォースメント4との間には車両前後方向に所定の隙間E(図2を参照)が形成されている。この隙間Eは、パンパ・レインフォースメント4が車両衝突で後退したとき、熱交換器ユニット1に当接することがない寸法に設定されている。
【0038】
次に、実施例1の熱交換器保護構造の作用を説明する。
[熱交換器破損防止作用]
たとえば、図5に示すように、車両左方前方からのオフセット車両衝突が発生した時には、同図(イ)の通常状態、すなわち、外力伝達メンバ5とパンパ・レインフォースメント4との車両幅方向両端側部分間に、車両前後方向に所定の隙間Eが形成されている状態から、パンパ・レインフォースメント4が変形しながら特にこの車両左側部分(図5では右側の部分)が大きく後退して左側隙間Eを詰めていく。
【0039】
このように、パンパ・レインフォースメント4の右側部分が後退して行くと、同図(ロ)に示すように、ファンシュラウド14の両端部に車両前方のパンパ・レインフォースメント4方向へ向けて突出した状態に設けられた外力伝達メンバ5のうち右側の外力伝達メンバ5にバンパ・レインフォーメント4が当接する。このとき、バンパ・レインフォーメント4は、コンデンサ12やラジエータ11には当接しない。
【0040】
バンパ・レインフォーメント4がさらに後退して行くと、同図(ハ)に示すように、外力伝達メンバ5を介して熱交換器ユニット1全体が車両後方へ押し込まれ、熱交換器ユニット1と熱交換器支持メンバ2との間に外力が作用し、この外力が所定以上の値になると、まずは右側の熱交換器取付ピン3におけるピン部32の小径部32aが破断する。この結果、熱交換器ユニット1と熱交換器支持メンバ2との結合関係が解除されて、熱交換器ユニット1が熱交換器支持メンバ2から離脱して車両後方へ相対移動するので、熱交換器ユニット1にこれを変形させるような過大な力が作用するのを防ぐことができる。なお、外力が大きい場合には、右側の熱交換器取付ピン3の小径部32aが破断した後、左側の熱交換器取付ピン3の小径部32aが破断することもある。
【0041】
なお、この小径部32aの破断にあっては、脆弱部となる小径部32aの嵌合部31のすぐ上方(下方の取付ピン31の場合には下方)となるピン部32の付け根近傍に設けたので、上記破断時に、アッパ・メンバ2、ロア・メンバ3の支持部近傍が破断の起点となるようにして、確実に脆弱部から破断して熱交換器を保護する。
また、ピン部32は、中空部とされ、その底が嵌合部31の上面(下方の取付ピン31の場合には下面)より若干深くなる深さに設定されているので、所定値以上の外力が取付ピン3に作用したとき、ゴム・ブッシュ6a、6bが弾性体でありその外力を吸収して弾性変形するものの、中空部は容易かつ確実に破断して熱交換器の移動を可能としてこれを保護する。
【0042】
上記は車両左方向前方からのオフセット衝突の場合につき説明したが、車両右方向前方からのオフセット衝突の場合も、左右が逆になるだけで同様に作用する。また、正面衝突時の場合には、左右の外力伝達メンバ5を介して熱交換器ユニット1全体が車両後方へ押し込まれ左右両方の熱交換器取付ピン3の小径部32aが破断して熱交換器ユニット1を破損から防止する。このように、実施例1の熱交換器保護構造にあっては、いずれの方向からの車両衝突であっても、確実に熱交換器ユニット1が破損から保護されることになる。
【0043】
[組み付け性向上作用]
熱交換器取付ピン3の製造ライン上での組み付けは、熱交換器取付ピン3の鞍状に形成した嵌合部31を、ラジエータ11の上下のラジエータタンク11b、11cのピン取付部16(車両前後に配置される両側面を内側に窪ませた部分)に嵌合し、両係合片31cを係合用係止部16aにそれぞれ係合させて組み付けを完了する。これにより、安価かつ簡単に熱交換器取付ピン3をラジエータ11に係合固定することができるようになるとともに、熱交換器ユニット1の支持剛性のバラツキや不完全支持を抑えて確実に熱交換器ユニット1を支持することができるようになる。
【0044】
[修理費用低減作用]
衝突後は、熱交換器ユニット1におけるラジエータ11を交換することなしに上記製造ラインでの組付けと同様に、熱交換器取付ピン3を取り替えて熱交換器ユニット1と熱交換器支持メンバ2とに取り付ける。これにより、ラジエータ11を再利用することができる。これにより、修理費用が安価に抑えられる。
【0045】
次に、実施例1の熱交換器保護構造の効果を説明する。
(1)実施例1の熱交換器保護構造にあっては、上述のように、熱交換器取付ピン3におけるピン部32の基部に脆弱部を構成する小径部32aを形成したので、車両衝突時に熱交換器取付ピン3のピン部32の小径部32aが破断することで熱交換器ユニット1が破損するのを防止することができる。
【0046】
(2)また、熱交換器取付ピン3を熱交換器ユニット1とは別体に構成したため、衝突後は熱交換器取付ピン3を取り替えるだけで済み、熱交換器ユニット1を交換する必要がないので、修理費用を安価に抑えることができる。
【0047】
(3)また、熱交換器取付ピン3は、ラジエータタンク11b、11cと別体で製造するだけあり、また、熱交換器ユニット1の熱交換器支持メンバ2への支持は熱交換器取付ピン3のみで行うので、製造費用が少なくて済む。
【0048】
(4)さらに、熱交換器取付ピン3の鞍状の嵌合部31を熱交換器ユニット1の車両前後の両側面に形成した窪み部分に車両全豪方向から嵌合させて支持するので、熱交換器ユニット1の支持剛性のバラツキや不完全支持を抑えて確実に熱交換器ユニット1を支持することができる。
【0049】
(5)また、熱交換器ユニット1におけるファンシュラウド14の両端部に車両前方のパンパ・レインフォースメント4方向へ向けて突出した状態に外力伝達メンバ5をそれぞれ設け、この外力伝達メンバ5とパンパ・レインフォースメント4との間には所定の隙間Eが形成される構成としたことで、正面衝突時はもちろん斜め前方などの、いわゆるオフセット衝突時にあっても外力が伝わって、いずれの方向であっても熱交換器取付ピン3におけるピン部32の小径部32aが破断することで、確実に熱交換器ユニット1を破損から保護することができる。
【0050】
(6) しかも、この場合、取付ピン3のピン部32の小径部31a、32bをその付け根部に設けたので、取付ピン3の破断をアッパ・メンバ2、ロア・メンバ3の支持部近傍が破断の起点となるようにして、確実に脆弱部から破断して熱交換器を保護することができる。
また、取付ピン3を中空部とし、その底を嵌合部31の上面(下方の取付ピン31の場合には下面)より若干深くなる深さに設定したので、所定値以上の外力が取付ピン3に作用したとき、ゴム・ブッシュ6a、6bが弾性体でありその外力を吸収して弾性変形するものの、中空部が容易かつ確実に破断して熱交換器の移動を可能とするので、熱交換器を確実に保護することができる。
【0051】
次に、他の実施例について説明する。この他の実施例の説明にあたっては、前記実施例1と同様の構成部分については図示を省略し、もしくは同一の符号を付けてその説明を省略し、相違点についてのみ説明する。
【実施例2】
【0052】
この実施例2の熱交換器保護構造は、その熱交換器取付ピン30が、図6にその要部拡大断面図を示すように、基部に脆弱部を構成する小径部33aを有するピン部33の基部に取り外し用取手部34を備えるとともに、取り外し用取手部34の裏面にはラジエータタンク11b(11c)に形成された嵌合用凹部(嵌合部)11dに嵌合して組み付け可能な嵌合凸部35を備えた点が、上記実施例1とは相違したものである。その他の構成は実施例1と同様である。
【0053】
さらに詳述すると、ラジエータタンク11b(11c)の上面が断面半円状に形成されていて、取り外し用取手部34は、ラジエータタンク11b(11c)の幅方向に長い板状で、ラジエータタンク11b(11c)の幅W1とほぼ同一長さに形成されることで、取り外し用取手部34の前後両端部とラジエータタンク11b(11c)の前後両端上面の円弧部分との間に指挿入隙間Hが形成された構造になっている。
【0054】
次に、この実施例2の作用を説明する。
この実施例2の熱交換器保護構造では、上述のように構成されるため、上記実施例1と同様に、車両衝突時にパンパ・レインフォースメント4が変形後退して熱交換器ユニット1に外力が伝達されると、熱交換器取付ピン30のピン部33の小径部33aが破断し、熱交換器ユニット1が熱交換器支持メンバ2から離脱して車両後方へ移動する。これにより、熱交換器ユニット1が破損するのが防止される。なお、熱交換器取付ピン30のピン部33は、実施例1と同様に中空部とし、その底は嵌合凸部35の上面(下側の熱交換器取付ピン30ではその下面)より若干深い位置に設定してある。
【0055】
また、上下のラジエータタンク11b(11c)に対する熱交換器取付ピン30の組み付けは、熱交換器取付ピン30に備えた嵌合凸部35をラジエータ11の上下のラジエータタンク11b(11c)の嵌合凹部11dに嵌合することで完了する。
【0056】
また、熱交換器取付ピン30の交換は、取り外し用取手部34の前後両端部とラジエータタンク11b(11c)の前後両端上面の円弧部分との間に形成される指挿入隙間Hに作業者が指を差し込んだ状態で、取り外し用取手部34の端部を掴んで持ち上げることにより、ラジエータタンク11b(11c)の嵌合凹部11dから嵌合凸部35を容易に抜き取って、熱交換器取付ピン30を取り外し、新しい熱交換器取付ピン30と交換することができる。
【0057】
次に、この実施例2の効果を説明する。
この実施例2の熱交換器保護構造にあっては、実施例1と同様の効果に加え、熱交換器取付ピン30に取り外し用取手部34を設けたので、熱交換器取付ピン30の熱交換器ユニット1からの取り外し時には、作業者が取り外し用取手部34を掴んで熱交換器取付ピン30を容易かつ迅速に取り外すことができる。
【0058】
以上、本発明を上記各実施例に基づき説明してきたが、本発明はこれらの実施例に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等があった場合でも、本発明に含まれる。
【0059】
たとえば、実施例では、熱交換器取付ピン3、30に所定以上の外力が作用した場合に破断する脆弱部として、ピン部32、33の基部に環状溝を形成して小径部32a、33aを形成したが、脆弱部の構造及び形成方法は任意である。
また、取付ピン3、30の熱交換器への取付は、上記実施例に限られない。
【0060】
また、実施例2では、取り外し用取手部34として、ラジエータタンク11b(11c)の幅方向に長い板状で、ラジエータタンク11b(11c)の幅とほぼ同一に形成し、取手部34の前後両端部とラジエータタンク11b(11c)の前後両端上面の円弧部分との間に指挿入隙間Hが形成された構造としたが、図7に示すように、熱交換器取付ピン30における取り外し用取手部34のラジエータ奥方向長さW2を、嵌合凸部35が嵌合するラジエータ11の嵌合凹部11dが形成された部分の奥方向長さW1より長くした部分を設けるようにしてもよい。これにより、ラジエータタンク11b(11c)の上面形状に係わらず、取り外し用取手部34の端部を掴んで持ち上げることにより、ラジエータタンク11b(11c)の嵌合凹部11dから嵌合凸部35を容易に抜き取って、熱交換器取付ピン30を取り外すことができる。
【符号の説明】
【0061】
1 熱交換器ユニット
11 ラジエータ(熱交換器)
11a ラジエータコア
11b 上部のラジエータタンク
11c 下部のラジエータタンク
11d 嵌合凹部
12 コンデンサ(熱交換器)
13 送風機
14 ファンシュラウド
15 ボルト
16 ピン取付部
16a 係合用係止部
2 熱交換器支持メンバ
21 アッパ・メンバ
22 ロア・メンバ
3 熱交換器取付ピン
30 熱交換器取付ピン
31 嵌合部
31a 前後両側片
31b 窓部
31c 係合片
32 ピン部
32a 小径部(脆弱部)
33 ピン部
33a 小径部(脆弱部)
34 取り外し用取手部
35 嵌合凸部
4 バンパー・レインフォースメント
5 外力伝達メンバ
θ 斜面
E 隙間
H 指挿入隙間
W1 ラジエータタンクの幅
W2 取り外し用取手部の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ係合孔が形成された支持部を設けたアッパ・メンバおよびロア・メンバを有する熱交換器支持メンバと、
前記アッパ・メンバおよび前記ロア・メンバに、前記係合孔に挿入した取付ピンを介して、支持される熱交換器と、
を備えた熱交換器保護構造において、
前記取付ピンを前記熱交換器とは別体にて構成して前記熱交換器に取り付け、
前記取付ピンには、これに所定以上の外力が作用した場合に前記取付ピンが前記支持部にて破断し前記熱交換器を前記支持部に対して相対移動可能にする脆弱部を設けた、
ことを特徴とする熱交換器保護構造。
【請求項2】
請求項1に記載の熱交換器保護構造において、
前記取付ピンは、前記熱交換器への取付部から前記熱交換器から離れる方向に伸びるピン部を有し、
前記取付部への前記ピン部の付け根部近傍に前記脆弱部が形成されている、
ことを特徴とする熱交換器保護構造。
【請求項3】
請求項2に記載の熱交換器保護構造において、
前記ピン部は、中空部である、
ことを特徴とする熱交換器保護構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱交換器保護構造において、
前記取付ピンは、前記熱交換器のタンクに形成したピン取付部に嵌合する嵌合部を有する、
ことを特徴とする熱交換器保護構造。
【請求項5】
請求項4に記載の熱交換器保護構造において、
前記嵌合部は、前記ピン取付部に車両前後方向からそれぞれ係合する、
ことを特徴とする熱交換器保護構造。
【請求項6】
請求項4または5に記載の熱交換器保護構造において、
前記取付ピンに、前記嵌合部と前記熱交換器との間に抜き用の隙間を設けるか、前記取付ピンの前記熱交換器の奥方向長さを、前記熱交換器の前記嵌合部が嵌合する部分の奥方向長さより長くした部分を設けるかして、取り外し用取手部を形成した、
ことを特徴とする熱交換器保護構造。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の熱交換器保護構造において、
前記取付ピンを支持する熱交換器支持メンバと前記熱交換器の前方にバンパー・レインフォースメントを配置し、
該バンパー・レインフォースメントおよび前記熱交換器の少なくとも一方の車両幅方向両端側部分に、他方の車両幅方向両端側部分との間に隙間を有し、車両衝突時に前記車両幅方向両端側部分同士が当接して前記外力を伝える外力伝達メンバをそれぞれ設けた、
ことを特徴とする熱交換器保護構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−224327(P2012−224327A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−56726(P2012−56726)
【出願日】平成24年3月14日(2012.3.14)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】