説明

熱交換器用アルミニウムフィン材、熱交換器用アルミニウムフィン材の製造方法及び熱交換器

【課題】優れた親水性と被膜密着性を有し、かつ、結露水などの水滴が付着した場合にもドレンパンの劣化やカビなどの微生物の発生を抑制できる熱交換器用アルミニウムフィン材、該アルミニウムフィン材の製造方法、および該アルミニウムフィン材を備えた熱交換器の提供。
【解決手段】本発明の熱交換器用アルミニウムフィン材10は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板材13と、この板材13の上に、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有する塗料を用いて形成されてなる親水性被膜14とを備え、この親水性被膜14から水への溶解物質量が0.05g/m以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアーコンディショナーなどの熱交換器に用いられるアルミニウムフィン材、該アルミニウムフィン材の製造方法及び熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
エアーコンディショナーでは、熱交換器を冷却側で使用する場合に水が凝集して水滴(結露水)となり、隣り合うフィン間に水のブリッジが形成される場合がある。このような現象が発生すると、空気の通路が狭くなって通風抵抗が大きくなり、熱交換効率が低下することになる。このため、熱交換器用フィンの表面に濡れ性(親水性)を付与する処理を施すことにより、速やかに結露水などの水滴を排出させる技術が知られている。
【0003】
熱交換器用フィンの表面に親水性を付与する技術としては、フィン材表面を多孔性シリカ微粒子を含有する有機高分子樹脂溶液で表面処理する技術や、アクリル系樹脂などからなる被膜形成有機高分子物質とSiO及びまたはTiOを含む水性組成物で塗装してから乾燥し、乾燥後の被膜でもって被覆する技術が知られている。
しかし、上述の無機酸化物粉末を含有させた組成物を塗布して塗膜を形成する技術では、シリカ粒子の硬度が高いために、アルミニウムの板材をフィン材に成形加工する際に金型が摩耗しやすいという欠点がある。
【0004】
そこで、近年では、上述の無機成分を使用することなく、親水性の高分子体を複数組み合わせた処理剤をフィン材などの表面に塗布して親水性の塗膜を形成する方法が広く行われている。この親水性の塗膜は、ポリアクリル酸を含むアクリル樹脂やポリビニルアルコール等と共に、ポリエチレングリコールやポリエチレンオキサイド等のポリオキシエチレン鎖を含む化合物を含有する処理剤より形成される場合が多い(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−200983号公報
【特許文献2】特開平8−261688号公報
【特許文献3】特開2004−331693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のポリオキシエチレン鎖を含む化合物を処理剤に添加することにより、形成される塗膜に親水性、潤滑性を付与し、かつ、塗膜のフィン材への密着性を高めることができる。
しかしながら、本発明者らが検討を行ったところ、前記したポリオキシエチレン鎖を含む化合物を含有する処理剤より形成した親水性被膜を備える熱交換器用フィン材が熱交換器の冷却側で使用される場合、熱交換器の運転時に結露水がフィン表面に付着すると、このフィン表面に形成された親水性被膜から結露水中にポリオキシエチレン鎖を含む化合物が溶け出すことが確認された。このように被膜成分が結露水中に溶け出すと、溶け出した成分がエアーコンディショナーのドレンパン等に用いられている可塑剤を抽出するなどして、ドレンパンが劣化する場合がある。また、被膜から溶け出した成分がドレンパンや配水管中で乾燥した場合、この乾燥物がカビなどの微生物の温床となり悪臭の原因になる場合もある。
【0007】
本願発明は、これらの問題を解決するためになされたものであり、優れた親水性と被膜密着性を有し、かつ、結露水などの水滴が付着した場合にもドレンパンの劣化やカビなどの微生物の発生を抑制できる熱交換器用アルミニウムフィン材、該アルミニウムフィン材の製造方法、および該アルミニウムフィン材を備えた熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、優れた親水性と被膜密着性を有し、かつ、被膜から結露水への溶出物に起因する各種の弊害を解消するために鋭意検討を行った結果、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有する塗料を塗布、焼付けした後に、洗浄することによって、水への溶解物質量が0.05g/m以下の親水性被膜を備えるアルミニウムフィン材が前記課題を解決できることを見出し、本願発明に到達した。
【0009】
本発明の熱交換器用アルミニウムフィン材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板材と、この板材の上に、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有する塗料を用いて形成されてなる親水性被膜とを備え、この親水性被膜から水への溶解物質量が0.05g/m以下であることを特徴とする。
本発明の熱交換器用アルミニウムフィン材において、前記親水性被膜が、前記板材の上に、前記塗料を塗布、焼付けした後に、水洗浄することにより形成されてなることが好ましい。
本発明の熱交換器用アルミニウムフィン材において、前記塗料が、ポリオキシアルキレン鎖及び重合性二重結合を有するモノマーを必須成分として重合した高分子化合物を含むこともできる。
【0010】
本発明の熱交換器は、上記熱交換器用アルミニウムフィン材を複数枚備えてなることを特徴とする。
本発明の熱交換器用アルミニウムフィン材の製造方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板材の上に、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有する塗料を塗布、焼付けした後に、水洗浄することにより、前記板材上に親水性被膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱交換器用アルミニウムフィン材は、親水性被膜を備えることにより、優れた親水性を有することができる。
本発明の熱交換器用アルミニウムフィン材は、水への溶解物質量が0.05g/m以下の親水性被膜を備えることにより、フィン材表面に結露水が付着した場合にも、親水性被膜の成分が結露水中に溶出することを抑制することができる。従って、親水性被膜から結露水中への溶出成分により、ドレンパンの樹脂が劣化することを抑制できる。また、結露水中に親水性被膜の成分が溶出することを抑制することができるので、結露水がドレンパンや配管中で乾燥した場合にも、残留物の残存を防ぐことができ、この残存物に起因するカビなどの微生物の発生を抑制できる。
また、本発明の熱交換器用アルミニウムフィン材は、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有する塗料を用いて親水性被膜を形成することにより、該塗料の塗布焼付け時に、塗膜の硬化反応が充分促進されるので、形成される親水性被膜の板材への密着性を高めることができる。
したがって、本発明によれば、優れた親水性と被膜密着性を有し、かつ、結露水などの水滴が付着した場合にもドレンパンの劣化やカビなどの微生物の発生を抑制できる熱交換器用耐アルミニウムフィン材並びにそれを備えた熱交換器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材の一構成例を示す部分断面図。
【図2】図1に示すアルミニウムフィン材の部分断面図。
【図3】図1に示すアルミニウムフィン材を複数備えた熱交換器の一例を示す斜視図。
【図4】実施例におけるABS樹脂に対する影響の評価方法を示す図。
【図5】実施例における結露水の黴発生への影響の評価方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材の一例を示す斜視図、図2は同アルミニウムフィン材の部分断面図、図3は同アルミニウムフィン材を備えた熱交換器の一例を示す斜視図である。
この例のアルミニウムフィン材10は細長い短冊形状を有しており、銅製の伝熱管を通すラッパ状のフレア11が、長さ方向に単列、或いは複数列で等間隔に配されている。また、アルミニウムフィン材10の表面には、伝熱性能の向上を目的にスリット12などを必要箇所に設けることがある。
図1に示すフィン材10は、図2に示すように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるフィン用の板材13の表面に、親水性被膜14が形成されてなるものである。
フィン用の板材13としては、燐酸クロメート処理などの表面処理を施したアルミニウムまたはアルミニウム合金板などが好適に用いられる。板材13の形状は、特に限定されず、フィン材が適用される熱交換器の形態に応じて適宜選択される。
【0014】
親水性被膜14は、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有する塗料を用いて形成されてなる。本発明において、親水性被膜14から水への溶解物質量は0.05g/m以下とされている。
親水性被膜14は、板材13の表面に、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有する塗料を塗布して塗膜を形成し、この塗膜を焼付けした後に、水洗浄することによって形成することが好ましい。
ここで、本発明の明細書および特許請求の範囲において、「水への溶解物質量(g/m)」とは、以下の方法により得られる値を意味する。まず、図2に示すように、板材の両面に親水性被膜が形成されたフィン材1000cm(親水性被膜の面積としては2000cm)を、20℃の水1000mLに24時間浸漬し、その後、フィン材を取り出す。次に、フィン材を浸漬していた水溶液(水とフィン材からの溶出物を含む溶液)より、ロータリーエバポレーターなどを用いて水を蒸発乾固し、得られた残留物の重量を測定する。得られた残留物の重量を親水性被膜形成面1m当りに換算した値を、「水への溶解物質量(g/m)」とした。
【0015】
親水性被膜14の形成に用いられる塗料(親水性被膜14形成用塗料)は、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有してなる。
HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドが挙げられる。HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物の重量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、重量平均分子量(Mw)が4000以上であることが好ましく、4000〜300000の範囲とすることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)を4000以上とすることにより、焼付け時に充分な塗膜密着性を得ることが出来る。また、重量平均分子量(Mw)が300000を超えると、塗料が著しく粘度が上昇し塗装が難しくなるおそれがある。
HO−(CH−CH−O)−Hで表される化合物は、分子量の異なる2種以上を混合して用いても構わない。
【0016】
親水性被膜14形成用の塗料が、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有することにより、親水性被膜14形成時に、塗膜の焼付け反応(塗膜の硬化反応)を促進して、親水性被膜14の板材13への密着性を向上させることができる。また、親水性被膜14形成用の塗料が、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有することにより、形成される親水性被膜14に潤滑性を与え、プレス加工時の金型への焼きつきの防止を図るとともに、材料の送りをスムーズにするなどの効果を奏することができる。
【0017】
HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有することにより、塗膜の硬化が促進される理由については定かではないが、ポリエチレングリコールやポリエチレンオキサイドなどのHO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物は、焼付け工程時に融点以上200℃以下の温度で熱分解するまでの間、液相で存在する。この溶融した化合物は、その他の高分子成分に対して良溶剤となるため、その他の高分子の流動性を高め官能基同士の反応に寄与していると考えられる。
【0018】
しかしながら、アルミニウムフィン材10がエアーコンディショナーなどの熱交換器の冷却側で使用される場合、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物はその他の未硬化樹脂成分と共に結露水中に溶出し、結露水の流路に用いられているドレンパンなどの樹脂製品の劣化を促進する場合がある。また、この溶出成分を含む結露水がドレンパンや配管中で乾燥した場合、乾燥後の残留物がカビなどの微生物の温床となり、悪臭などの各種問題を惹き起こすことがある。
【0019】
そこで、本発明においては、塗料の塗布、焼付けによって作成した塗膜を、水洗浄することにより、結露水などの水滴に溶けるような低分子成分を予め除去し、形成される親水性被膜14から水への溶解物質量を0.05g/m以下とする。
親水性被膜14から水への溶解物質量を0.05g/m以下に限定した理由としては、溶解物質量が0.05g/mを超えると、結露水へ溶出する溶出物の量が多いため、樹脂製のドレンパンが劣化したり、溶出物を含む結露水が乾燥して残存した場合に、カビなどの微生物の温床になる場合があるためである。ここで、通常、ドレンパンの材質としては、フタル酸エステルなどの可塑剤が用いられたABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂)などが使用されている。本発明者らが検討した結果、前記可塑剤は、単なる水には抽出されないが、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含む水には抽出されやすいことを知見した。ドレンパンから可塑剤が抽出されると、ドレンパンを形成する樹脂が割れやすくなるなどの問題が生じる。
【0020】
また、本発明において、親水性被膜14の形成時、塗料の塗布、焼付け時までは、塗膜がHO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含んだ状態であるため、塗膜の焼付け(塗膜の硬化反応)は充分に促進され、形成される親水性被膜14は、板材13への充分な密着性を有する。また、焼付け後に、水洗浄することにより、水に溶解する成分を除去することができるので、実際に熱交換器として使用される際に、親水性被膜14の成分が結露水へと溶出されることを抑制できる。
【0021】
HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物のもう一つの役割である、滑り性(潤滑性)の付与に関しては、ごく少量(例えば、0.01g/m程度)でもHO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物が残存していれば、加工の際の滑り性(潤滑性)としては充分であるので、水洗浄の程度を調整し、少量のポリオキシエチレン鎖を残存させ滑り性(潤滑性)を維持できるようにすることができる。
【0022】
親水性被膜14形成用の塗料としては、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有していれば特に制限されないが、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物と、その他の親水性樹脂を含有してなることが好ましい。
親水性被膜14形成用の塗料において、塗料中全固形分100重量部に対して、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を10〜40重量部含有していることが好ましい。HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物の含有量を前記範囲とすることにより、焼付け時の塗膜の硬化反応を充分に促進して、形成される親水性被膜14の密着性を高めることができる。
【0023】
親水性被膜14形成用の塗料に含有されていてもよいその他の親水性樹脂としては、水酸基、カルボキシル基、エーテル基等の親水性官能基を有する樹脂が挙げられる(但し、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を除く)。
その他の親水性樹脂として具体的には、例えば、ポリオキシアルキレン鎖及び重合性二重結合を有するモノマーを必須成分として重合した高分子化合物、ポリアクリル酸を主成分としたアクリル樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース樹脂等が挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
これらの中でも、ポリオキシアルキレン鎖及び重合性二重結合を有するモノマーを必須成分として重合した高分子化合物を、上記したHO−(CH−CH−O)−Hに加えて含有する塗料により親水性被膜14が形成されてなることが好ましい。
ポリオキシアルキレン鎖及び重合性二重結合を有するモノマーを必須成分として重合した高分子化合物をさらに含む塗料を用いて親水性被膜14を形成した場合は、ポリオキシアルキレン鎖及び重合性二重結合を有するモノマーを必須成分として重合した高分子化合物は、水に不溶な成分だけで加工に充分な滑り性(潤滑性)を有している樹脂であるため、滑り性(潤滑性)を付与する成分であるHO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物が水洗浄により大部分除去された場合にも、形成される親水性被膜14の潤滑性が充分に保たれる。ポリオキシアルキレン鎖及び重合性二重結合を有するモノマーを必須成分として重合した高分子化合物をさらに含む塗料を用いて親水性被膜14を形成した場合は、水洗浄の程度を如何に強化しても滑り(潤滑性)不足の問題は生じない。
【0025】
親水性被膜14形成用の塗料が、ポリオキシアルキレン鎖及び重合性二重結合を有するモノマーを必須成分として重合した高分子化合物を含有する場合、塗料中全固形分100重量部に対して、ポリオキシアルキレン鎖及び重合性二重結合を有するモノマーを必須成分として重合した高分子化合物を30〜90重量部含有することが好ましい。前記範囲でポリオキシアルキレン鎖及び重合性二重結合を有するモノマーを必須成分として重合した高分子化合物を含有することにより、HO−(CH−CH−O)−H成分が水洗により全部流れ落ちても滑り性を維持することができる。
【0026】
ポリオキシアルキレン鎖及び重合性二重結合を有するモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートなどを挙げることができる。これらのモノマーを単独又は2種以上組み合わせて重合した高分子体、もしくは、これらのモノマーとN−メチロールアクリルアミド又はN−メチロールメタクリルアミドなどと共重合した高分子体を、ポリオキシアルキレン鎖及び重合性二重結合を有するモノマーを必須成分として重合した高分子化合物として用いることができる。2種以上のモノマーを必須成分として重合する場合、各モノマーの重量比は特に制限されず、適宜調整可能である。ポリオキシアルキレン鎖及び重合性二重結合を有するモノマーを必須成分として重合した高分子化合物の重量平均分子量(Mw)は特に制限されない。
【0027】
親水性被膜14形成用の塗料が、その他の親水性樹脂としてポリアクリル酸を主成分としたアクリル樹脂を含有する場合、その含有量は特に制限されず適宜調整可能であるが、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物の含有量が前記した好ましい範囲を満たすような含有量とすることが望ましい。
【0028】
ポリアクリル酸を主成分としたアクリル樹脂としては、例えば、アクリル酸ホモポリマーのほかアクリル酸とメタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリルアミドなど各種アクリルモノマーの共重合体等が挙げられ、これらを2種以上用いても構わない。ポリアクリル酸を主成分としたアクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は特に制限されない。
【0029】
親水性被膜14形成用の塗料が、その他の親水性樹脂としてポリビニルアルコール系樹脂を含有する場合、塗料中全固形分100重量部に対して、ポリビニルアルコール系樹脂を0〜40重量部含有することが好ましい。
【0030】
ポリビニルアルコール系樹脂は、1種用いても良いし、2種以上用いても構わない。ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量(Mw)は特に制限されない。
【0031】
親水性被膜14形成用の塗料が、その他の親水性樹脂としてセルロース樹脂を含有する場合、塗料中全固形分100重量部に対して、セルロース樹脂を0〜40重量部含有することが好ましい。セルロース樹脂の含有量が40重量部を超えると、塗膜の密着性が低下する場合がある。
【0032】
セルロース樹脂としては、例えば、カルボキシメチルセルロースNa、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等が挙げられ、これらを2種以上用いても構わない。セルロース樹脂の重量平均分子量(Mw)は特に制限されない。
【0033】
上記のような組成でHO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物、及び、必要に応じて、その他の親水性樹脂を配合して混合することにより、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有する塗料を調製し、この塗料を基材13の表面に塗布装置を用いて塗布して塗膜を形成し、この塗膜を加熱炉で焼付けた後、水洗浄することにより、水への溶解物質量が0.05g/m以下の親水性被膜14を得ることができる。なお、塗料は必要に応じて水、又は水を主成分とする溶媒を含有していてもよい。
【0034】
ここでフィン用の板材13にあっては、無処理のもの、リン酸クロメート被膜を形成したもの、または、プライマーとなる樹脂被膜を予め塗装したものなど、いずれの形態であっても差し支えない。
塗料の塗布は通常ロールコーター等の塗布装置を用いて、適当な膜厚になるように塗布される。また、焼付けは、通常の熱風式のオーブン等の加熱炉で行われる。焼付けの温度と時間は、配合されている樹脂によって異なってくるが、その配合に於いて親水性、密着性などの特性を踏まえて決定される。塗膜の焼付けは、例えば、200℃以上300℃未満の板到達温度で5秒以上保持することにより行うことができる。
【0035】
親水性被膜14を形成する塗膜の厚さは、特に限定されないが、3μm以下であることが望ましい。塗膜の厚さが3μmを超えると、これを焼付け、水洗浄して得られる親水性被膜14の厚さも厚くなる。その結果、フィン材10を熱交換器に組み込んだとき、チューブとフィンの板材13とが比較的厚い親水性被膜14を介して接続されることになり、チューブ−フィン材10間の伝熱抵抗が大きくなる可能性がある。塗膜の焼付け、水洗浄により形成される親水性被膜14に厚さは、3μm以下とすることが好ましい。親水性被膜14の厚さを3μm以下とすることにより、チューブ−フィン材10間の伝熱抵抗が大きくなることを抑制できる。また、親水性被膜14の厚さが薄過ぎると、親水性被膜14を設ける効果が十分に得られない場合がある。以上の観点から、塗膜の厚さは、必要な親水性が得られる厚さ範囲の下限程度に設定するのが望ましく、具体的には、親水性被膜14の厚さを0.5μm以上とすることが好ましい。
【0036】
水洗浄の方法としては、常温の水または加温した水(湯)を用いることができる。ここで、本発明の明細書および特許請求の範囲において、「水洗浄」とは、液体状のHOを使用した洗浄を意味し、如何なる温度のHOも用いることができる。また、水洗浄に用いる水は、不純物や少量(例えば、1重量%以下)の界面活性剤が含まれていてもよく、pH10以下のアルカリ性水溶液であってもよい。
また、水洗浄の方法としては、高圧水を用いてスプレーで洗浄する、水洗槽(水槽)の中を潜らせること(浸漬)により洗浄するなど、種々の方法を用いることができる。なお、水に浸漬することにより水洗浄を行う場合、水洗槽中に洗浄によりフィン材10の塗膜より除去された物質が多量に溶解した状態になると、フィン材10に再付着してしまうおそれがあるため、水洗浄中は、必要に応じて新水を水洗槽に補給するなどの措置を行い、水質を保つことが望ましい。
【0037】
水洗浄の方法、水温、時間などの条件は、洗浄するフィン材10の塗膜の組成、厚さなどにより、適宜調整すればよい。例えば、高圧水を用いてスプレーで洗浄する場合、水圧を0.1〜0.5MPaとし、水温は室温〜80℃で1〜10秒間洗浄することができる。また、水洗槽へ塗膜が形成されたフィン材を浸漬することにより洗浄する場合は、水温は室温〜80℃で5〜60秒間の浸漬を行うことができる。このような条件で水洗浄することにより、親水性被膜14から水への溶解物質量を0.05g/m以下とすることができる。
【0038】
以上により、本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材10を得ることができる。
【0039】
本発明のアルミニウムフィン材10は、親水性被膜14を備えることにより、優れた親水性(水濡れ性)を有することができる。
本発明のアルミニウムフィン材10は、水への溶解物質量が0.05g/m以下の親水性被膜14を備えることにより、フィン材10表面に結露水が付着した場合にも、親水性被膜14の成分が結露水中に溶出することを抑制することができる。従って、親水性被膜から結露水中への溶出成分により、エアーコンディショナーのドレンパンなどの樹脂が劣化することを抑制できる。また、結露水中に親水性被膜14の成分が溶出することを抑制することができるので、結露水がドレンパンや配管中で乾燥した場合にも、残留物の残存を防ぐことができ、この残存物に起因するカビなどの微生物の発生を抑制できる。
また、本発明のアルミニウムフィン材10は、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有する塗料を用いて親水性被膜14を形成することにより、該塗料の塗布焼付け時に、塗膜の硬化反応が充分促進されるので、形成される親水性被膜14の板材13への密着性を高めることができる。
【0040】
図3は、本発明のアルミニウムフィン材10を備えた熱交換器の一例を示した斜視図である。
図3に示す熱交換器20は、図1及び図2に示すフィン10と、複数の伝熱管30とを備えたものである。アルミニウムフィン材10は、一定の等間隔で平行に並べられており、アルミニウムフィン材10の相互間に空気が流動するようになっている。伝熱管30は、アルミニウムフィン材10のフレア11を貫通しており、その内部を冷媒が流動するようになっている。
図3に示す熱交換器20は、図1及び図2に示すアルミニウムフィン材10を備えているので、アルミニウムフィン材10の表面(親水性被膜14の表面)に付着した水が容易に濡れ広がって流れ落ち、水滴が発生し難い。このため、フィン材10の隣合う壁面同士の間に、水のブリッジが形成されるのが抑えられ、空気の通風抵抗を小さく抑えることができる。そのため、長期にわたって使用した場合でも熱交換能力が低下しにくいものとなる。
また、フィン材10の表面に結露水が付着した場合でも、上述の説明の如く親水性被膜14の成分が結露水中へと溶出することが抑制されているため、結露水中の溶出物に起因するドレンパンの劣化や、カビなどの微生物の発生が抑制された熱交換器20を提供できる。
【0041】
以上、本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材及びその製造方法、並びに熱交換器の実施形態について説明したが、上記した熱交換器用アルミニウムフィン材および熱交換器を構成する各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
「親水性被膜形成用塗料の調製」
表1記載の樹脂を、同表記載の重量部で配合し、混合することにより、親水性被膜形成用塗料A〜Gを得た。なお、塗料の調製は、予め各樹脂に水または水を主成分とする溶媒を加えて固形分濃度10重量%の水溶液または分散液を調製し、これらを配合、混合することにより行った。
【0044】
【表1】

【0045】
「フィン材の作製」
(実施例1〜10、比較例1〜5)
リン酸クロメート処理したJIS規定A1050のアルミニウムからなる板材上にバーコーターを用いて表2記載の塗布膜厚になるように塗工し、同表記載の温度で30秒間焼付けを行い、塗膜を硬化させた。次に、表面に塗膜が形成された板材を、表2記載の水洗浄条件で水洗浄することにより、板材の表面上に親水性被膜が形成された実施例1〜10および比較例1〜5のフィン材を作製した。なお、スプレー洗浄は水圧0.3MPaで行った。
【0046】
得られた実施例1〜10および比較例1〜5の各フィン材について、水への溶解物質量(g/m)を求めた。結果を表2に併記した。なお、水への溶解物質量(g/m)は、以下の手順で求めた。
まず、実施例1〜10および比較例1〜5の各フィン材について、フィン材1000cm(親水性被膜の面積としては2000cm)を、20℃の水1000mLを満たした水槽に24時間浸漬した後、フィン材を取り出した。次に、フィン材を浸漬していた水槽中の水溶液中の水を、ロータリーエバポレーター用いて蒸発乾固させて、得られた残留物の重量を測定した。得られた残留物の重量を親水性被膜形成面1m当りに換算することにより、算出された値を「水への溶解物質量(g/m)」とした。
【0047】
【表2】

【0048】
「評価」
上記で作製した実施例1〜10および比較例1〜5の各フィン材について、耐擦性(密着性)、潤滑性、親水性、ABS樹脂に対する影響、および結露水のカビ発生への影響の評価を行った。結果を表3に示す。なお、評価手法は以下の通りである。
(1)耐擦性(密着性)
フィン材上にティッシュペーパー4枚を介して7mmφの鋼球を載せ、この鋼球に100gの負荷をかけながら、フィン材の親水性被膜表面上をティッシュペーパーを介して10回往復させて擦った。その後のフィン材の親水性被膜の状態を目視で観察することにより、耐擦性(密着性)を評価した。評価は以下の3段階とした。なお、評価結果が△以上のフィン材は、実用上問題の無いレベルの耐擦性(密着性)を有する。
○印:変化無し
△印:僅かに擦り取れている
×印:板材が露出している
【0049】
(2)潤滑性(摩擦係数)
バウデン式摩擦係数測定器(協和界面化学社製 トライボスターTS−501)を用いて(5mmφ鋼球、荷重500g)、摩擦係数μの測定を行った。摩擦係数μにより、フィン材の潤滑性を以下の3段階で判定した。なお、判定が△以上であれば実用レベルである。
○印:摩擦係数μがμ<0.1
△印:摩擦係数μが0.1≦μ<0.2
×印:摩擦係数μが0.2≦μ
(3)親水性(水接触角)
水接触角を測定し、得られた水接触角の値よりフィン材の親水性を以下の3段階で判定した。なお、判定が△以上であれば実用レベルである。
○印:水接触角が20°未満
△印:水接触角が20°以上40°未満
×印:水接触角が40°以上
【0050】
(4)ABS樹脂に対する影響
フィン材1mを水1Lで抽出(室温にて5分間超音波洗浄)した液を5mLまで濃縮した。この濃縮液を5.0cm×1.0cm角、厚さ1mmのABS樹脂板の上に塗布し、塗布した濃縮液が乾かないように該ABS樹脂板をラップで覆った。次に、図4に示すように、2枚の押さえ板32A、32Bと、この押さえ板32A、32Bを貫通し、かつ、その端部にねじが切られたボルト33と、押さえ板32A、32Bの外方に突き出たボルト端部を止めるナット34、34を備える装置を準備する。この装置は、ボルト33とナット34、34との締め付け状態を調整することにより、押さえ板32A、32B間の距離Lを調整可能とされている。このような装置に、濃縮液を塗布し、ラップしたABS樹脂板31を、板31の短辺が押さえ板32A、32Bに接触する様に設置し、押さえ板32A、32B間の距離L=42mmとして、図4に示すように、ABS樹脂板31を上方に凸となるように膨らませた状態にした。この状態で、室温にて7日間放置した後、ABS樹脂板を装置から取り外した。続いて、このABS樹脂板に10mmφの丸棒を載せ、この丸棒を折り曲げの支点として、折り曲げ角度が90°になるまでABS樹脂板を折り曲げた。折り曲げの際の音と、折り曲げ面の状態を目視で観察することにより、ABS樹脂に対する影響を以下の3段階で判定した。なお、判定が△以上であれば実用レベルである。
○:無音で90°まで折り曲げられ、折り曲げ面にクラックが生じていない
△:折り曲げ面にクラックは生じていないものの、折り曲げの際に音が発生した
×:折り曲げ面にクラックが生じた
【0051】
(5)結露水のカビ発生への影響
上記で作製したフィン材を20cm×30cm角に裁断してフィン材サンプルを作製した。次に、図5に示すように、5℃に冷却した冷却板42を、水平方向に対して15°傾けて設置し、この冷却板42上にフィン材サンプル41を貼り付けて結露水を発生させた。フィン材サンプル41から垂れてきた結露水44を、下方に設置したシャーレ43に集めた。実施例1〜10、比較例1〜5の各フィン材について、同操作を繰り返し行い、フィン材サンプル5枚分を同一のシャーレに集めた。このシャーレを25℃、湿度60%の環境に1ヶ月間放置した後、シャーレ内におけるカビの発生状況を目視で観察することにより、結露水のカビ発生への影響を判定した。判定基準は以下の通りである。
○:カビの発生が確認できなかった
×:カビの発生が確認された
【0052】
【表3】

【0053】
表3に示す結果から、本発明に係るアルミニウムフィン材(実施例1〜10)は、良好な親水性、密着性、潤滑性を有することが確認された。また、本発明に係るアルミニウムフィン材(実施例1〜10)を水で抽出した水溶液はABS樹脂に対する影響が無いことが確認された。従って、本発明のアルミニウムフィン材は、フィン材に付着した結露水がABS樹脂等の樹脂製のドレンパンに流れ出た場合にも、ドレンパンを劣化させることが無いことが明らかである。
さらに、本発明に係るアルミニウムフィン材(実施例1〜10)の表面に発生した結露水からはカビが発生かったことから、本発明のアルミニウムフィン材は、結露水などの水滴が付着した場合にもカビなどの微生物の発生を抑制できることが明らかである。
【符号の説明】
【0054】
10…耐アルカリ性アルミニウムフィン材、12…スリット、13…板材、14…親水性被膜、20…熱交換器、30…伝熱管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板材と、この板材の上に、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有する塗料を用いて形成されてなる親水性被膜とを備え、この親水性被膜から水への溶解物質量が0.05g/m以下であることを特徴とする熱交換器用アルミニウムフィン材。
【請求項2】
前記親水性被膜が、前記板材の上に、前記塗料を塗布、焼付けした後に、水洗浄することにより形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用アルミニウムフィン材。
【請求項3】
前記塗料が、ポリオキシアルキレン鎖及び重合性二重結合を有するモノマーを必須成分として重合した高分子化合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の熱交換器用アルミニウムフィン材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱交換器用アルミニウムフィン材を複数枚備えてなる熱交換器。
【請求項5】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる板材の上に、HO−(CH−CH−O)−Hで表される高分子化合物を含有する塗料を塗布、焼付けした後に、水洗浄することにより、前記板材上に親水性被膜を形成することを特徴とする熱交換器用アルミニウムフィン材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−117702(P2012−117702A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265485(P2010−265485)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】