説明

熱交換器用対極

【課題】 本発明は、狭い流水路に生物やスケールなどが付着することを電気化学的に防止する熱交換器を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明に係わる熱交換器は、被防汚面表面積に対する対極表面積の比が0.002以上10以下である熱交換器であり、且つ対極電流密度が20mA/m以上500A/m以下であり、且つ被防汚面に負の電圧を印加する時間に対する正の電圧を印加する時間の比が1以上10以下であり、且つ被防汚面に通電された負の電荷量に対する正の電荷量の比が1以上10以下である電気化学的制御をなすことを特徴とすることで、上記課題を解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器等に、生物やスケールなどが付着することを電気化学的に防止する被防汚導電性部材に対となる対極、特に狭い流路に設置される対極に関する。
【背景技術】
【0002】
海水や淡水中には多くの生物が存在し、水中構造物表面に付着し、様々な問題を引き起こしている。例えば、船舶に付着すると推進抵抗の増大といった問題が発生する。また、養殖用生け簀に付着すると海水の交流阻害といった問題が発生する。更に、定置網などの漁網に付着すると網成りの変形といった問題などが発生する。
また、給排水のパイプ内やバルブ等に付着した微生物は海水や淡水を介して人や生産物を汚染するといった問題を発生する。
【0003】
海水や淡水に接している構造物表面への生物の一般的な付着機構は以下の通りである。まず付着性のグラム陰性菌が構造物表面に吸着して脂質に由来するスライム状物質を多量に分泌する。さらにグラム陰性菌は、このスライム層に集まって増殖し、微生物皮膜を形成する。そして、海水中ではこの微生物皮膜上に大型生物である藻類、貝類、フジツボ等の大型の生物が付着する。付着した大型生物が繁殖成長し、最終的に水中構造物表面を覆い尽くすことになる。
【0004】
上記、海水や淡水に接している水中構造物の表面に付着した生物による汚染に対する防汚方法としては、殺菌性を有する物質を被防汚面に添加したり、有機スズ系化合物を含有した塗料で塗膜を形成し、有機スズ系化合物を溶出させたり、海水を電気分解する事により発生する塩素を利用したりする防汚方法が一般的に行われていた。しかし、これらの方法は有害物質が発生し、水質の汚染による生物への影響が懸念される
【0005】
近年、有害物質を発生させないで電気化学的に水中構造物や海水や淡水に接しているものの表面などに付着する生物を制御する方法が提案されている。この電気化学的な生物の制御方法は、微生物との直接電気化学反応が確認されている所定電位以上の電位を微生物に印加すると、微生物内部の酸化還元物質の一つである補酵素Aが不可逆的に酸化され、微生物の呼吸活性及び微生物膜の透過障壁の低下を誘発し、微生物を死滅させることが可能であるというものである(特公平6−91821号公報:特許文献1参照)。また、特開平9−248554号公報(特許文献2参照)には、水中において、導電性基板に正電位を印加することにより、水中の微生物を前記導電性基板表面に吸着して殺菌する工程と、前記導電性基板にさらに高い正電位を印加することにより、前記導電性基板表面に吸着している微生物の細胞を破壊し、導電性基板に付着し殺菌された微生物やその分解物を脱離する工程とを行うことを特徴とする水中微生物の制御方法を要旨とする発明が記載されている。また、特許3105024号公報(特許文献3参照)には、水中において、導電性基板に正電位を印加することにより、水中の微生物を前記導電性基板表面に吸着して殺菌する工程(+0〜1.5VvsSCE)と、前記導電性基板に負電位を印加することにより、前記導電性基板表面に吸着している殺菌された微生物を脱離する工程(−0〜−0.4VvsSCE)とを行うことを特徴とする水中微生物の制御方法を要旨とする発明が記載されている。また、特開2001−198572号公報(特許文献4参照)には、水中において、導電性基板に電気分解の起こらない正電位を印加することにより、水中の微生物を前記導電性基板表面に吸着して殺菌する工程と、前記導電性基板に電気分解の起こる負電位を印加し、導電基板表面を還元すると共にアルカリ性物質を導電性基板表面に誘導し、前記導電性基板表面に吸着している殺菌された微生物やその分解物を脱離する工程とを行うことを特徴とする水中微生物の制御方法を要旨とする発明が記載されている。
【0006】
さらに、近似した防汚方法としては、導電性基板に酸素を発生させて防汚する方法が、特公平1−46595号公報(特許文献5参照)及び特開平11−303041号公報(特許文献6参照)に開示されている。これらの方法では、塩素発生電位以下で酸素発生する電位を0.55V〜1.1V程度とする範囲として制御している。
しかしながら、前記電気化学的防汚方法では、細胞と導電性基材とが直接接触したときに微生物の殺菌ができることを明らかにしているのに対して、上記近似した防汚方法では、ほぼ同電位にて発生する酸素が、導電性基材に接触しない微生物を殺菌し、防汚できること示す明確な証明がない。従って、導電性基材に微生物などが付着しないのは、前記電気化学的防汚方法との概念的分離が難しい。
また、導電性塗膜皮膜に正電位を印加し、次亜塩素酸イオンや塩素イオンを生成させる防汚方法が、特公平6−15069号公報(特許文献7参照)及び特公平8−14036号公報(特許文献8参照)に記載されており、海水電解装置による塩素注入方式による防汚効果を、被防汚面で直接塩素などを発生させているものと考えられる。
【0007】
また、電気化学的制御を実施するに当たり該防汚面と対になる対極構造及び配線方法が特開2002−102858号公報(特許文献9参照)に、溶出系の材質を用いた場合の接続方法を要旨とする発明が記載されている。
【0008】
【特許文献1】特公平6−91821号公報(第3頁第42行〜第46行、第8頁第42行〜第44行)
【特許文献2】特開平9−248554号公報(第6頁第4行〜第8行)
【特許文献3】特許3105024号公報(第3頁第20行〜第27行、図1−4)
【特許文献4】特開2001−198572号公報(第3頁第5行〜第8行)
【特許文献5】特公平1−46595号公報(第5頁第3行〜第6行、第5頁第30行〜第34行)
【特許文献6】特開平11−303041号公報(第5頁第5行〜第6行、図1)
【特許文献7】特公平6−15069号公報(第3頁第1行〜第6行)
【特許文献8】特公平8−14036号公報(第3頁第10行〜第12行)
【特許文献9】特開2002−102858号公報(第2頁第38行〜第3頁第3行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
水生生物を電気化学的制御する方法は、海水や水の電気分解が起こらない電位を印加することによって、微生物の殺菌や付着防止を行うことができることから海洋汚染が無く、さらに海洋生物の生態系への影響がないことから優れた防汚方法であり、制御用電極は、被防汚面である導電性基材とこれと対になる対極、及び場合によっては導電性基材の電位を照合するための基準電極から構成されている。
従来、電気化学的制御を行う際、被防汚面である導電性基材の制御ができれば、対になる対極については、問題とされなかった。しかし、熱交換器等の狭い流水路の防汚を目的とした場合、対極近傍での電気化学的反応による生成物の析出という問題が生じる。
特に、対極近傍での電気化学的反応により析出する物質は、被防汚面である導電性基材で防汚効果を得るためには正電流もしくは正電位を通電することになるので、対極には負電流もしくは負電位が通電されることになる。その結果、対極近傍はアルカリ性になりアルカリ性物質が対極表面上に析出する。この析出物が増加すると熱交換器内の配管を狭くし、所定の流量が維持できなくなり、熱交換効率が低下するといったものである。
【0010】
本発明は、狭い流水路に生物やスケールなどが付着することを電気化学的に防止する熱交換器用対極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一部又は全部が導電性基材から成る熱交換部材を被防汚面とし、前記被防汚面に正負相互に変換する電位を印加して該被防汚面表面で電気化学的反応を発生させ、水中の微生物及び有機物量を制御する熱交換器の対極において、被防汚面表面積に対する対極表面積の比が0.002以上10以下であることを特徴とする熱交換器用対極を第1の要旨とし、一部又は全部が導電性基材から成る熱交換部材を被防汚面とし、前記被防汚面に正負相互に変換する電位を印加して該被防汚面表面で電気化学的反応を発生させ、水中の微生物及び有機物量を制御する熱交換器の対極において、被防汚面表面積に対する対極表面積の比が0.002以上10以下であり、且つ対極電流密度が20mA/m以上500A/m以下であり、且つ対極に正電流を流す時間に対する負電流を流す時間の比が1以上10以下であり、且つ対極に通電された正電流による電荷量に対する負電流による電荷量の比が1以上10以下である電気化学的制御をなすことを特徴とする熱交換器用対極を第2の要旨とし、プレート式熱交換器用対極であることを特徴とする請求項1乃至請求項2に記載の熱交換器用対極を第3の要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る熱交換器用対極は、熱交換器の被防汚面である導電性基材に電気化学的反応が起こる電位を印加できるように電極及び電源を設け、生物が付着することを抑制する防汚機能を出力電圧の調節によって維持向上する効果を示し、長期間高い防汚効率が維持され、且つ、電位印加により対極に析出する物質が抑制されることにより、狭い流水路においても析出物の生成による流水量の減少を招かないため、配管の詰まりが抑制でき熱交換効率の低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
被防汚面となる導電性基材は金属、樹脂、無機材料からなり、構造を維持する機能を有するものであれば特に限定されない。金属材料の例としては鉄、アルミニウム、銅、チタン、タンタル、ニオブ、およびそれらの合金、ステンレス等が挙げられる。樹脂材料の例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ナイロン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、繊維強化プラスチック(FRP)等が挙げられる。無機材料の例としては、ガラス、アルミナ、ジルコニア、セメント等が挙げられる。
被防汚面となる導電性基材として、樹脂、無機材料などの非導電性材料を用いる場合、導電性微粒子を材料に充填し、基材を形成することにより導電性を付与し用いればよい。導電性微粒子の例としては、グラファイト、カーボンブラック、カーボン繊維からなる短繊維などの炭素微粒子、金、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウムまたはこれらの貴金属の酸化物の微粒子、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化バナジウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化クロム等の金属窒化物、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化タングステン等の金属炭化物、ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウム、ホウ化ハーフニウム、ホウ化バナジウム、ホウ化ニオブ、ホウ化タンタル、ホウ化クロム、ホウ化モリブデン、ホウ化タングステン等の金属ホウ化物、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化ニオブ、ケイ化タンタル、ケイ化バナジウム、ケイ化タングステン等の金属ケイ化物などの微粒子が挙げられる。
【0014】
また、上記導電性微粒子をバインダー樹脂に充填、分散させた導電性組成物を、前記非導電性材料製基材表面に被覆して導電性を付与してもよい。バインダー樹脂の例としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル−ウレタン樹脂、ポリエステル−ウレタン樹脂、シリコン−ウレタン樹脂、シリコン−アクリル樹脂、エポキシ樹脂や、熱硬化型のメラミン−アルキッド樹脂、メラミン−アクリル樹脂、メラミン−ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂などの樹脂、または天然ゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、ニトリルブチレンゴム、ポリエチレンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリプロピレンエラストマー等のゴム弾性材料が挙げられる。導電性組成物は、導電性シートを形成して非導電性基材上に接着剤を介して積層したり、塗膜層として形成してもよい。
【0015】
上記の導電性微粒子の他に、電子移動反応を促進する作用を有する特定の化合物を添加してもよい。すなわち、電子移動を媒介する電子メディエータを導電性材料と共に使用することによって、より効率的に反応を行うことができる。電子メディエータの例としては、フェロセン、フェロセンモノカルボン酸、フェロセンジカルボン酸または、〔(トリメチルアミン)メチル〕フェロセン等のフェロセンおよびその誘導体、H4Fe(CN)6、K4Fe(CN)6、Na4Fe(CN)6等のフェロシアン類、2,6−ジクロロフェノールインドール、フェナンジンメトサルフェート、ベンゾキノン、フタロシアニン、ブリリアントクレジルブルー、カロシアニン、レゾルシン、チオニン、N,N−ジメチル−ジスルフォネイティド・チオニン、ニューメチレンブルー、トブシンブルーO、サフラニン−O、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、ベンジルビオロゲン、アリザリンブリリアントブルー、フェノシアジノン、フェナジンエトサルフェート等が挙げられる。
この様な電子メディエータを担持した導電性基材としてはフェロセン修飾電極を挙げることができる。
【0016】
また、抗菌性を有する材料を添加してもよい。抗菌性を有する物質は、無機物に属するものと有機物に属するものとがある。
無機物としては、銀、銅、ニッケル、亜鉛、鉛、ゲルマニウム等の金属およびこれらの酸化物、酸素酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、有機キレート化合物などが挙げられる。
有機物としては、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、4,5,6,7−テトラクロル−2−トリフルオロメチルベンズイミダゾール、10,10’−オキシスフェノキシアルシン、トリメトキシシリル−プロピルオクタデシルアンモニウムクロライド、2−N−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛などが挙げられる。
【0017】
さらに、導電性基材の一部又は全部が、少なくともチタン、チタン合金及びそれらの酸化物や白金及び/又は金属酸化物から選ばれた単一金属酸化物又は混合金属酸化物又は複合金属酸化物からなるものを使用してもよい。このような導電性基材に電位を印加することにより、水や海水から酸素や塩素の発生の無い正電位を印加することにより、導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物を殺菌し、増殖を抑制すると共に、酸素や塩素が発生する電位を印加することにより、水や海水などから塩素化合物や酸素などの電解物質を生成させ、導電性基材表面に直接または間接的に接触する水生生物の殺菌及びスケールなどの有機物の脱離洗浄、また導電性基材を再活性化させることができる。
電解液が海水の場合には、塩素過電圧が酸素過電圧より低い正電位となるように、少なくともチタン、チタン合金及びそれらの酸化物や白金及び/又は金属酸化物から選ばれた単一金属酸化物又は混合金属酸化物又は複合金属酸化物を構成することが好ましい。また、電解液が塩素化合物を含まない水の場合には、酸素過電圧が、微生物との直接電子移動反応が起こる電位との間に電位差が認められる正電位となるように、白金及び/又は金属酸化物から選ばれた単一金属酸化物又は混合金属酸化物又は複合金属酸化物を構成することが好ましい。導電性基材の基盤上に上記の物質を導電性膜となしたものも好ましく用いられる。
【0018】
この導電性膜は、金属又はその化合物から構成でき、具体的には、白金族金属、バルブ金属及びそれらの酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物の何れかから構成することができる。特に、金属酸化物が、酸化チタン、酸化ロジウム、酸化パラジウム、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化スズおよび酸化アンチモン、酸化ニオブ、酸化タンタル及び酸化ジルコニウムから選ばれた少なくとも1種又は2種以上から構成されることが好ましい。
導電性膜を形成するに当たっては、溶射やスパッタリング、イオンプレーティングなどの方法を採用することができる。
金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物については既に記載してあるが、記載した材料はその一部であり、形成方法によっては2種類以上の金属が含まれたり、酸化物の一部が含まれたり、さらにはこれらの化合物が2種以上混合されることから、特に限定はされない。これらの金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物は0.1μm以上の厚さの膜であればよく、最大の厚さは特に限定しないが、金属窒化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物の形成方法や使用目的により適宜設定すればよい。
【0019】
本発明で使用される対極は、全体が導電性材料から形成されていてもよいが、少なくともその表面または水中に浸漬している一部表面が導電性であることが必要である。上記被防汚面である導電性基材と同様の材料を対極材料として用いることができる。
また、対極形状は特に限定されることなく、板状、くし状、棒状、円錐状、円筒状等を単数もしくは複数又はこれらを組み合わせて用いればよい。
一方、対極と被防汚面の表面積の関係は、被防汚面表面積に対する対極表面積の比は0.002以上であることが必要である。0.002以下の場合には、対極表面上に析出したアルカリ性物質が増加し、狭い流水路を持つ熱交換器内等では配管を狭くし、所定の流量が維持できなくなり、熱交換効率が低下するといった問題がある。電気化学反応の均一性を要求する場合、対極は作用極に対して十分大きい、例えば20倍程度とすることが一般的であるが、本発明においては、鋭意研究の結果10倍以下で十分均一性を満足できることを見出した。
対極面積は、流路の流れや熱交換効率を低下させることのないよう、また、防汚面を構成する導電性基材と接触しないように設置しなければならないため、設置する装置の構造上の制約を受けることになり、実質上、被防汚面表面積に対する対極表面積の比は1が上限である。従って、被防汚面表面積に対する対極表面積の比は0.002以上1以下であることが特に好ましい。
【0020】
上記、被防汚面である導電性基材と対極は、リード線により電源装置に接続されている。この電源装置は、被防汚面である導電性基材と対極との間に直流を通電する装置であって、極性が変換できる機能を有しているものである。
ポテンショスタット又はガルバノスタットを用いて被防汚面である導電性基材に定電位の印加や定電流を流すこともできる。使用できるポテンショスタット、ガルバノスタットとしては、被防汚面である導電性基材に、予め定められた電位を印加できるものや、定電流を流すことのできるものであれば特に限定されない。特に、直流電源装置に電圧の制御または電流の制御およびそのタイミングの制御手段を付加したもので実施することが好ましい。
【0021】
上記構成以外、必要に応じて参照極を用いることもできる。参照極は、電気化学反応が進む被防汚面である導電性基材の電位を測るときに基準とするものであって、参照極と導電性部材の電位差を計測し、電源によって被防汚面である導電性基材の電位を適正に補正するものである。
従って、予め通電状態において参照極と被防汚面である導電性基材の電位差を計測しておけば、防汚のための通電条件を知ることができるので、参照極を常設しなくてもよい。
参照極は、参照電極表面で電極反応が可逆で電解液中のある化学種とNernstの平衡電位式に従って応答し、その電位は時間に対して安定で、微少電流が流れてもすぐ最初の電位に戻り、温度変化も一定の温度になれば一定の電位を出すもの、といったものを用いる。例えば水素電極(NHE、RHE、白金黒電極)、カロメル電極(SCE)、銀・塩化銀電極(Ag/AgCl)、硫酸第一水銀電極、酸化水銀電極などが挙げられる。参照極の設置は、作用極として働く被防汚面である導電性基材の近傍が好ましい。
なお、本発明において、参照電極を使用する場合、被防汚面である導電性基材を電気化学的計測系で呼称される作用極とし、この作用極に対する電極を対極とする。
【0022】
次に制御条件について説明する。
定電流の制御条件は以下の通りである。
定電流による防汚効果の発現には、20mA/m以上の電流密度が有効で、防汚面積により適宜電流値を調節することが好ましい。また、被防汚体の防汚面の材質や形状及び防汚面の維持状態の目的により適宜電流密度の設定を変更することができる。一般的には、
20mA/mから1000mA/m程度でよい。好ましくは、微生物との直接反応を利用して、防汚効果の発現を期待する場合には、50mA/mから500mA/mが好ましく、被防汚体の防汚面に付着した有機物等を除去することを目的とする場合には、100mA/mから800mA/m程度とすることが好ましい。一方、対極での負の電流密度は、20mA/m以上500A/m以下であることが必要である。500A/m以上では、対極表面上に析出したアルカリ性物質が増加し、狭い流水路を持つ熱交換器内等では配管を狭くし、所定の流量が維持できなくなり、熱交換効率が低下するといった問題がある。20mA/m以下では、被防汚面での防汚効果の発現が期待できない。
また、被防汚体の防汚面が酸化状態になり、出力電圧が高くなるような場合は、設定する電流を正負相互に通電することによって、導電性基材を還元し出力電圧を低い状態に保つことができる。ただし、防汚面である導電性基材に負の電流を定電流で流す時間が長過ぎると防汚効果の低下を招くことがあるので、正の電流を流す時間に対する負の電流を流す時間の比は1以下である必要がある。逆に、負の電流を流す時間が短過ぎると防汚面の酸化状態が解消されず、対極表面上に析出したアルカリ性物質が増加し、狭い流水路を持つ熱交換器内等では配管を狭くし、所定の流量が維持できなくなり、熱交換効率が低下するといった問題がある。正の電流を流す時間に対する負の電流を流す時間の比は0.1以上である必要がある。言い換えれば、対極において正の電流を流す時間に対する負の電流を流す時間の比は1以上10以下である必要がある。
防汚面である導電性基材での負電流の電流密度についても、電極材料により防汚効果と導電材料の還元化とにより適宜選択し使用することが好ましい。
防汚面である導電性基材表面の単位面積当たりに流入出する電荷量(電流密度と通電時間との積)という観点からすれば、正電流による単位面積当たりの電荷量に対する負電流による単位面積当たりの電荷量の比が大き過ぎると防汚効果の低下を招き、小さ過ぎると防汚面の酸化状態が解消されず、対極表面上に析出したアルカリ性物質が増加し、狭い流水路を持つ熱交換器内等では配管を狭くし、所定の流量が維持できなくなり、熱交換効率が低下するといった問題がある。防汚面である導電性基材表面での正電流による単位面積当たりの電荷量に対する負電流による単位面積当たりの電荷量の比は、0.1以上1以下であることが必要である。言い換えれば、対極表面での正電流による単位面積当たりの電荷量に対する負電流による単位面積当たりの電荷量の比は、1以上10以下であることが必要である。
【0023】
被防汚面における定電位の制御条件は以下の通りである。
(1)殺菌工程:生物付着防止材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない正電位を印加することにより殺菌する工程(+0〜1.5VvsSCE)と、
(2)脱離工程:前記生物付着防止材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させない負電位を印加し、直接または間接的に付着接触する水生生物およびスケールを静電的機能により脱離する工程(−0〜−0.6VvsSCE)と、
(3)洗浄還元工程:前記生物付着防止材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させる負電位を印加し、前記生物付着防止材に付着接触した水生生物およびスケールをアルカリ分解洗浄及び前記生物付着防止材表面を還元する工程(−0.6〜−2.0VvsSCE)と、
(4)分解洗浄再活性化工程:前記生物付着防止材に電解液中から電気化学的に生成物を発生させる正電位を印加し、前記生物付着防止材表面に直接または間接的に付着接触した水生生物およびスケールを、塩素化合物もしくはラジカルの生成により脱離分解洗浄し、前記生物付着防止材表面をクリーニングし、再活性化する工程(+1.5VvsSCEより高い正電位)との、任意の工程を被防汚面たる生物付着防止材に対して実施し、最も電解生成化学物質による水や海水への負荷が少なく、且つ、安定的に長期の防汚効果を得るようにするものである。
但し、これらの電位は、使用される被防汚面たる生物付着防止材及び対極の材料とその組み合わせや水や海水の基準電位を測定する基準電極により変化しうるものである。例えば、基準電極として、SCE(飽和カンコウ電極)やAg/AgCl(銀/塩化銀電極)など一般的に電気化学計測に使用する照合電極が挙げられる。
【0024】
次に各工程での電位印加条件について説明する。
(1)殺菌工程
水生生物を含む水中において、生物付着防止材に正電位を印加すると、水中の水生生物は生物付着防止材表面に吸着する。さらに生物付着防止材に印加されている正電位には、生物付着防止材表面に吸着して接触した水生生物を電気化学的に殺菌する作用がある。即ち、水生生物は、正電位によって生物付着防止材表面に吸着させられ、表面上で殺菌される。このとき、設定される電位は電解液中から電気化学的に生成物が発生しない電位であり、水や海水の分解に伴う酸素や塩素の発生電位以下の電位である。
好ましい電位は、+0〜1.5Vvs.SCE、より好ましくは+0.5〜+1.2Vvs.SCEである。しかしながら、本電位は、使用される生物付着防止材の物性に依存するものであり、水の分解に伴う酸素や塩素の発生電位以下であれば、水や海水中への電解生成物質による汚染を最小限に抑制でき、長期に渡り安定的な防汚効果を示すことができる。また、+0Vvs.SCEから微生物との直接電子移動反応が確認される正電位未満では水生生物を基材に吸着させて殺菌することができないが、生物付着防止材の劣化や消耗を考慮し、間欠的に電位を変動させることが好ましい。
電解液中から電気化学的に生成物が発生しない正電位を印加する時間は、生物付着防止材の特性によって適宜選択することができる。一般的には生物付着防止材の耐久性、生物付着防止材表面に直接または間接的に接触する水生生物の付着量によって異なるが0.5〜24時間程度でも、数年間でも防汚効果が維持されるのであれば、電解生成化学物質による水や海水への負荷が少ないため、単位時間あたりなるべく長く設定されることが好ましい。生物付着防止材によってはその酸化物の形成速度にもよるが0.1〜1000時間の印加がより好ましい。
【0025】
(2)脱離工程
次に、前記生物付着防止材表面に負電位を印加すると、直接または間接的に接触する水生生物およびスケールが脱離する。電解液中から電気化学的に生成物を発生しない負電位は、0〜−1.0Vvs.Ag/AgClである。好ましくは、−0〜−0.6Vvs.Ag/AgClである。その際、生物付着防止材に付着した水生生物、その他の細胞、殺菌された水生生物の細胞および/またはその破損物や有機物は、静電的機構や電位変動による生物付着防止材表面でのpH等の変動により脱離する。
さらに、負電位における電位を変動させることによって脱離と洗浄をより効率よくさせることもできる。変動する電位の幅は−0.3Vから−0.9V程度が好ましく、周期は10Hzから0.001Hzが好ましい。
電解液中から電気化学的に生成物が発生しない負電位を印加する時間は、生物付着防止材の特性によって適宜選択することができる。一般的には生物付着防止材の耐久性、生物付着防止材表面に直接または間接的に接触する水生生物の付着量によって異なるが0.1〜24時間程度が好ましい。生物付着防止材の劣化を考慮すると0.1〜2時間の印加がより好ましい。
【0026】
(3)(洗浄還元工程)
さらに、水や海水などの電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位は、−1.0Vvs.Ag/AgClより負電位で、好ましくは−1.0V〜−2.0Vvs.Ag/AgCl程度である。この負電位を印加することによって、生物付着防止材に付着した水生生物、その他の細胞、殺菌された水生生物の細胞および/またはその破損物や有機物の脱離が促進される。それは、電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位を印加すると、電解液の分解により生物付着防止材表面では水素が発生し、この水素によって生物付着防止材表面の付着物が除去されるためである。また、生物付着防止材近傍ではpHがアルカリ性となる。さらに、強アルカリ雰囲気になることによって水酸化物の析出が起こる場合があり、印加する電位及び印加時間を適宜選択する必要がある。しかし、該水酸化物によって、有機物は溶解する。これらの除去及び溶解によって、生物付着防止材表面は洗浄されることになる。また、生物付着防止材表面の酸化物を還元し、生物付着防止材界面での電子移動反応を阻害する酸化物を還元し、殺菌工程の機能を維持回復するために必要な場合がある。さらに、負電位における電位を変動させることによって脱離と洗浄をより効率よくさせることもできる。変動する電位の幅は−0.3V〜−2V程度が好ましく周期は10Hz〜0.001Hzが好ましい。
電解液中から電気化学的に生成物が発生する負電位を印加する時間は、生物付着防止材の特性によって適宜選択することができる。一般的には生物付着防止材の耐久性、生物付着防止材表面に直接または間接的に接触する水生生物の付着量によって異なるが0.5〜24時間程度が好ましい。生物付着防止材の劣化を考慮すると0.5〜2時間の印加がより好ましい。
【0027】
(4)(分解洗浄再活性化工程)
また、電解液中から電気化学的に生成物が発生する電位とは、水や海水の分解にともない酸素や塩素の発生する電位であり、+1.5Vvs.Ag/AgClを越えた電位により、明確に確認される。これらの高い電位を長時間印加すると水や海水が電気分解して塩素や未知の物質を発生する可能性が高く、また、生物付着防止材の劣化が起こることがあるので、長期に渡って安定的に防汚効果を維持し、水や海水中への電解生成物質による汚染を最小限に抑制するためには、不適切な場合がある。
しかしながら、長期間の防汚を目的とした本発明においては、被防汚面となる生物付着防止材表面に各種電位印加を行っても排除できない殺菌された微生物、有機物及びスケールが付着することがあり、これらを生物付着防止材の交換などのコスト無く、再活性化させて長期間の防汚効果を再現させるためには、必要最小限の塩素化合物及びラジカル発生機能を制御することが好ましい。
ちなみに、生物付着防止材表面の物性が、塩素過電圧が酸素過電圧より低い場合には、塩素化合物の生成が起こり、逆であれば酸素が先に発生する現象が確認できる。
電解液中から電気化学的に生成物が発生する正電位を印加する時間は、生物付着防止材の特性によって適宜選択することができる。一般的には生物付着防止材の耐久性は、生物付着防止材表面に直接または間接的に接触する水生生物の付着量によって異なるが、生物付着防止材の劣化及び水や海水の電解物質による汚染を最小限とするための設定を行うことが好ましい。その点を考慮すると一ヶ月あたり0.5〜24時間程度の印加がより好ましい。また、(1)の殺菌工程の設定時間と比較して、10分の1〜一万分の1程度の時間に設定して運用することも可能である。
【0028】
本発明では、化学物質による水や海水の汚染を最小限とし、且つ長期に渡り防汚効果を維持するため、上記(1)殺菌工程、(2)脱離工程、(3)洗浄還元工程、(4)分解洗浄再活性化工程の各工程は、印加電位及び印加時間を適宜設定したうえで、状況に応じて任意の順序及び頻度で周期的に適用することができる。
【0029】
上記定電位制御方法においても、直接制御しているか否かは別にして、前述の定電流制御方法の場合と同様に、(1)対極での負の電流密度は、20mA/m以上500A/m以下であること、(2)対極において正の電流を流す時間に対する負の電流を流す時間の比は1以上10以下であること、(3)対極表面での正電流による単位面積当たりの電荷量に対する負電流による単位面積当たりの電荷量の比は、1以上10以下であることが必要である。
【0030】
本発明により利用できる電解液は、特に限定されない。例えば、海水、河川の水、湖沼の水、水道水、飲料水、または各種緩衝液などが挙げられる。また、対象となる生物も、それらの水中に存在する生物であれば特に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
実施例中図1〜7は、装置図面が煩雑にならないよう単純な構成を模式的に表現したものである。本発明は、以下の実施例に限定されるものでなく、本発明の技術範囲において、種々の変形例を含むものである。また、各実施例において、同じ構成については同じ参照符号を付けた。
【0032】
(実施例1)
図1は実施例1の対極の評価に用いる熱交換器の構成図である。
参照符号1はチタン溶接管(JIS−H4631、厚さ0.5mm、外径φ10mm、浸漬部分の流路長さ2000mm)からなる高温流体側(被冷却側)熱交換部材であり、参照符号2は、海水7を汲入・排出し、温度を25℃に設定した恒温槽である。この熱交換部材1を恒温槽2内に浸漬したものを熱交換器とした。本実施例の評価においては、熱交換部材1を作用極となした。
熱交換部材1と対になる対極3としては、下記A〜Gの大きさの鉄棒材を用い、塩化ビニール製支持材によって恒温槽2内に熱交換部材1と接触しない位置に設置した。鉄棒材は、円柱状の側面のみが対極として作用し、円状の両端面は作用しないように成してある。
対極A:φ10mm×長さ2000mm
対極B:φ10mm×長さ1000mm
対極C:φ2.5mm×長さ1000mm
対極D:φ2.5mm×長さ400mm
対極E:φ2.5mm×長さ100mm
対極F:φ2.5mm×長さ40mm
対極G:φ2.5mm×長さ20mm
電源4は、熱交換部材1と対極3に通電可能なように接続され、出力電圧、電流を可変させることによって制御条件を変えることができるものである。
熱交換部材1の表面電位は、恒温槽2内に浸漬した基準電極5との電位差として、電圧計6により測定した。
熱交換部材1を恒温槽2内に浸漬し、42℃の清水を通水し、以下に示す条件で通電しながら、60日間試験を実施した。
制御条件1:熱交換部材1に 85mA/mで180分間通電後、
−50mA/mを40分間通電し、これを繰り返した。
また、対極Gについては、上記試験とは別に、以下に示す条件で通電しながらの60日間の同様の試験も実施した。
制御条件2:熱交換部材1に 130mA/mで180分間通電後、
−50mA/mを50分間通電し、これを繰り返した。
【0033】
(比較例1)
熱交換部材1と対になる対極3として、下記Hの大きさの鉄棒材を用いて実施例1と同様にして、制御条件1及び3にて試験を実施した。
対極H:φ2.5mm×長さ15mm
制御条件3:熱交換部材1に 25mA/mで180分間通電後、
−30mA/mを20分間通電し、これを繰り返した。
【0034】
試験後、対極表面上の析出物の有無及び熱交換部材表面上の付着物の有無による防汚効果を目視にて評価した。また、試験前後での流出する清水の温度変化により、熱交換効率の低下の有無を評価した。評価結果を表1に示す。
表1の結果より被防汚面表面積に対する対極表面積の比が0.002以上であれば対極の析出物が抑制でき、防汚効果があり、熱交換効率の低下がないことが確認できた。
【0035】
【表1】

【0036】
(実施例2)
図2は実施例2の対極を評価するために用いたプレート式熱交換器の側面から見た構成図であり、図3は正面から見た構成図である。
市販のプレート式熱交換器(M6−MFML、アルファ・ラバル(株)製)の液流通路を構成するチタンプレート基材1は以下の条件で表面処理した熱交換部材1である。
熱交換部材の作成(酸化被膜被覆チタンプレート基材の作成)
プレート式熱交換器(M6−MFML)用チタンプレート(JIS2種相当、t0.5mm×w246mm×L748mm)をアルコールで洗浄後、20℃の8重量%弗化水素水溶液中で2分間処理した後、水洗し乾燥した。更に、加熱酸化処理温度600℃で10分間焼成し、酸化被膜被覆チタンプレート基材を作成した。
上記酸化被膜を被覆した熱交換器用チタンプレート基材1を7枚(冷却用海水接触面は6面:3水路分)用い、これらと対になる対極3としては、下記I〜Lの部材を用い、熱交換器内冷却用海水循環側の出入口に各1セット合計2セット設置した。
対極I:塩化ビニル板(150×100mm、厚さ20mm)に海水に接触する有効長さが100mm、直径10mmの鉄棒を、中心間間隔18mmで3本挿入したものを対極Iとした。(図4参照)
対極J:塩化ビニル板(150×100mm、厚さ20mm)に海水に接触する有効長さが100mm、幅10mm、厚さ5mmの鉄板を、間隔10mmで3枚挿入したものを対極Jとした。(図5参照)
対極K:塩化ビニル板(150×100mm、厚さ20mm)に鉄製ラス状基板(厚さ1mm、網目縦寸法(SW)5mm、網目横寸法(LW)2.5mm)を直径15mmの円筒状に加工し、設置した。海水に接触する有効高さは100mmで、これを対極Kとした。(図6参照)
対極L:塩化ビニル板(150×100mm、厚さ20mm)に海水に接触する有効長さが100mm、直径10mmの鉄棒を1本挿入したものを対極Lとした。(図7参照)
また、参照極5は銀・塩化銀(Ag/AgCl)電極(ECAG−16A230、大機エンジアリング(株)製)を用い、熱交換器内海水循環側の出口に設置した。
上記酸化被膜形成チタンプレートに電源4を設置した熱交換器にて、冷却用の海水として実海水を用い、取水パイプ8a側から排水パイプ8b側へ循環ポンプで流量1.5t/hrを流すと共に、清水側に温水(42℃)を取水パイプ9a側から排水パイプ9b側へ循環ポンプで流量1.5t/hrを流し、上記4種の各々の対極に対し、以下の条件でチタンプレート基材1に通電して2ヶ月間試験を行った。
制御条件1:チタンプレート基材1に 85mA/mで180分間通電後、
−50mA/mを40分間通電し、これを繰り返した。
制御条件4:チタンプレート基材1に 100mA/mで180分間通電後、
−50mA/mを40分間通電し、これを繰り返した。
制御条件5:チタンプレート基材1に 50mA/mで180分間通電後、
−50mA/mを30分間通電し、これを繰り返した。
制御条件6:チタンプレート基材1に 50mA/mで180分間通電後、
−50mA/mを60分間通電し、これを繰り返した。
【0037】
試験後、対極表面上の析出物の有無及び熱交換部材表面上の付着物の有無による防汚効果を目視にて評価した。また、試験前後での流出する清水の温度変化により、熱交換効率の低下の有無を評価した。評価結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2の結果より、対極形状は特に限定されることなく(板状、くし状、棒状、円筒状等の単数もしくは複数)、対極への析出が抑制されることが確認された。
【0040】
(実施例3)
実施例2と同様の熱交換器にて、冷却用の海水として実海水を用い、取水パイプ8a側から排水パイプ8b側へ循環ポンプで流量1.5t/hrを流すと共に、清水側に温水(42℃)を取水パイプ9a側から排水パイプ9b側へ循環ポンプで流量1.5t/hrを流し、実施例2の対極Iを用いて、以下の条件でチタンプレート基材1に通電して2ヶ月間試験を行った。
制御条件7:チタンプレート基材1に 50mA/mで180分間通電後、
−50mA/mを19分間通電し、これを繰り返した。
制御条件8:チタンプレート基材1に 50mA/mで180分間通電後、
−50mA/mを180分間通電し、これを繰り返した。
制御条件9:チタンプレート基材1に 45mA/mで180分間通電後、
−50mA/mを17分間通電し、これを繰り返した。
制御条件10:チタンプレート基材1に 100mA/mで180分間通電後、
−50mA/mを19分間通電し、これを繰り返した。
制御条件11:チタンプレート基材1に 100mA/mで180分間通電後、
−50mA/mを17分間通電し、これを繰り返した。
制御条件12:チタンプレート基材1に 50mA/mで180分間通電後、
−50mA/mを190分間通電し、これを繰り返した。
【0041】
試験後、対極表面上の析出物の有無及び熱交換部材表面上の付着物の有無による防汚効果を目視にて評価した。また、試験前後での流出する清水の温度変化により、熱交換効率の低下の有無を評価した。評価結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3の結果より、対極において正の電流を流す時間に対する負の電流を流す時間の比が1以上10以下であり、且つ対極表面での正電流による単位面積当たりの電荷量に対する負電流による単位面積当たりの電荷量の比が1以上10以下であれば、対極析出物の抑制、防汚効果、熱交換効率を有効に行うことができる。
【0044】
(実施例4)
実施例3と同様の系においてチタンプレート基材1の表面処理及び制御条件を変えて試験を行った。
市販のプレート式熱交換器(M6−MFML、アルファ・ラバル(株)製)の液流通路を構成するチタンプレート基材1として、以下の条件で表面処理した熱交換部材を用いた。
熱交換部材の作成(酸化被膜被覆チタンプレート基材の作成)
プレート式熱交換器(M6−MFML)用チタンプレート(JIS2種相当、t0.5mm×w246mm×L748mm)をアルコールで洗浄後、 20℃の8重量%弗化水素水溶液中で2分間処理した後、120℃の60重量%硫酸水溶液中で3分間処理した。次いでチタンプレートを硫酸水溶液から取り出 し、窒素雰囲気中で冷水を噴霧し急冷した。更に20℃の0.3重量%HF水溶液に2分間浸漬した後、水洗した。
水洗後チタンプレートの中心を帯状(図8参照)に残しシーリングした後、Pt(NH(NOを硫酸溶液に溶解して白金含有量5g/リットル、pH約2、50℃に調整した状態の白金メッキ液中で15mA/cmで約50秒間のメッキを行って、Ptを分散析出させた。分散被覆量は1g/mであった。また、このときのチタンプレート上へのPt被覆率は約40%であった。
このようにして、Ptを分散被覆したチタンプレートを40℃の大気中で1時間加熱処理した。
次いで、シーリングを除去した後、塩化イリジウム酸のブタノール溶液と塩化タンタルのエタノール溶液を混合し、Ir13.0g/リットル及びTa50.0g/リットル(金属換算)を含有する塗布液を調製し、マイクロピペットで1cm当たり2.7マイクロリットル秤量し、それを上記の様にして作製したPtを分散被覆したチタンプレート上に塗布した後、室温で30分間真空乾燥させ、更に500℃の大気中で10分間焼成した。この工程を2回繰り返した。
最後に、塩化イリジウム酸のブタノール溶液と塩化タンタルのエタノール溶液を混合し、Ir50.0g/リットル及びTa20.0g/リットル(金属換算)を含有する塗布液を調製した後、この塗布液を用いて前記と同様の工程を8回繰り返した。
こうして、シーリングを施さなかった部分にはチタン酸化被膜上にタンタルやイリジウム等の複合酸化物が点在した酸化被膜を有し、シーリングを施していた部分にはチタン酸化被膜を有した熱交換器用チタンプレート基材1が得られた。
【0045】
このチタンプレート基材を用いた以外は、実施例2と同様の熱交換器にて、冷却用の海水として実海水を用い、取水パイプ8a側から排水パイプ8b側へ循環ポンプで流量1.5t/hrを流すと共に、清水側に温水(42℃)を取水パイプ9a側から排水パイプ9b側へ循環ポンプで流量1.5t/hrを流し、実施例2の対極Iを用いて、以下の条件でチタンプレート基材1に通電して2ヶ月間試験を行った。
制御条件13:チタンプレート基材1に
0.9Vvs.Ag/AgClを60分間通電後、
−0.1Vvs.Ag/AgClを20分間交互に印加した。
定電位制御であるため、チタンプレート基材における電流密度は、正電位印加時、負電位印加時共に27〜72mA/mの範囲で変動したが、1サイクル内での平均電流密度は50mA/mであった。(対極での平均電流密度は5717mA/mであった。)
【0046】
試験後、対極表面上の析出物の有無及び熱交換部材表面上の付着物の有無による防汚効果を目視にて評価した。また、試験前後での流出する清水の温度変化により、熱交換効率の低下の有無を評価した。評価結果を表4に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
表4の結果より、被防汚面を定電位制御している対極においても対極の析出物抑制ができ、防汚効果があり、熱交換効率の低下がないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施例の対極の評価に用いる熱交換器の構成図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部又は全部が導電性基材から成る熱交換部材を被防汚面とし、前記被防汚面に正負相互に変換する電位を印加して該被防汚面表面で電気化学的反応を発生させ、水中の微生物及び有機物量を制御する熱交換器の対極において、被防汚面表面積に対する対極表面積の比が0.002以上10以下であることを特徴とする熱交換器用対極。
【請求項2】
一部又は全部が導電性基材から成る熱交換部材を被防汚面とし、前記被防汚面に正負相互に変換する電位を印加して該被防汚面表面で電気化学的反応を発生させ、水中の微生物及び有機物量を制御する熱交換器の対極において、被防汚面表面積に対する対極表面積の比が0.002以上10以下であり、且つ対極電流密度が20mA/m以上500A/m以下であり、且つ対極に正電流を流す時間に対する負電流を流す時間の比が1以上10以下であり、且つ対極に通電された正電流による電荷量に対する負電流による電荷量の比が1以上10以下である電気化学的制御をなすことを特徴とする熱交換器用対極。
【請求項3】
プレート式熱交換器用対極であることを特徴とする請求項1乃至請求項2に記載の熱交換器用対極。

【図2】プレート式熱交換器の側面構成図
【図3】プレート式熱交換器の正面構成図
【図4】本発明の実施例における対極の構成図
【図5】本発明の実施例における別の対極の構成図
【図6】本発明の実施例における別の対極の構成図
【図7】本発明の実施例における別の対極の構成図
【符号の説明】
【0050】
1 熱交換部材
2 恒温槽
3 対極
4 電源
5 参照極
6 電位差計
7 海水
8a 冷却水取水パイプ
8b 冷却水排水パイプ
9a 清水取水パイプ
9b 清水排水パイプ
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−35144(P2006−35144A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220923(P2004−220923)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】