説明

熱交換機およびその表面処理方法

【課題】 熱交換機を改良する。
【解決手段】 熱交換機、特に親水性の表面コーティング(2;12)を有する熱交換機において、表面コーティング(2;12)が、ナノ粒子(3)、コーティングされたナノ粒子および/または酸化物を有する、あるいは酸化物からなるグラフトされたナノ粒子(13)を有している。特に親水性の表面コーティング、とくに、ナノ粒子(3)、コーティングされたナノ粒子および/またはグラフトされたナノ粒子(13)を含む表面コーティング(2;12)が塗布される、熱交換機のコーティング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の熱交換機、特に自動車のための熱交換機(すなわち、特に親水性の表面コーティングを有する熱交換機)およびその表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の熱交換機においては、腐食、微生物増殖および汚れを伴う問題が発生している。これらの問題は、特にその原因を、冷却剤によって貫流されるディスクまたはパイプの間に配置されている波形フィンパケットを流れる空気からの復水の結露に有している。さらに、ほこりと汚れも堆積するので、湿った、汚れた表面に微生物が住み着くことができ、それが結果的に望ましくない臭いの形成をもたらす可能性がある。
【0003】
表面からの復水の流出は、熱交換機の表面を親水性に形成することによって支援することができ、その場合に親水性の結果、薄い水膜が形成され、それが常に波形フィン表面から流出することができる。これは、結果として、いわゆる自浄効果または洗浄効果を有しており、その場合にほこりと汚れの永続的な堆積を減少させ、かつ熱交換機の表面に微生物が住み着くことを回避することができる。さらに、波形フィン表面が、より迅速に乾燥する。それによって熱交換機のパワー全体が維持され、ないしは改善される。
【0004】
従来技術(たとえば、特許文献1を参照)から、熱交換機を化学的に表面処理する手段が知られており、その場合に5から1000nmの平均直径を有するケイ酸塩粒子と水溶液内のポリビニルアルコールが熱交換機の表面に塗布されている。表面を前処理するために、表面がまず酸洗浄されて、次にクロムまたはジルコニウムを含む転換層が構築される。このようにして前処理された熱交換機が、上述した親水性の化学薬品でコーティングされるので、そのように前処理された表面は、親水特性を有する。
【特許文献1】欧州特許出願公開EP1154042A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、改良された熱交換機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、請求項1の特徴を有する熱交換機(すなわち、表面コーティングが、ナノ粒子、コーティングされたナノ粒子および/または酸化物を有する、あるいは酸化物からなるグラフトされたナノ粒子を有していることを特徴とする熱交換機)によって解決される。好ましい形態が、従属請求項の対象である。
【発明の実施形態】
【0007】
本発明によれば、熱交換機、特に自動車のための熱交換機は、ナノ粒子、コーティングされたナノ粒子および/またはグラフトされたナノ粒子を含む、好ましくは親水性の表面コーティングを有している。親水性の表面コーティングは、表面上に薄い、閉鎖された水膜が形成されて、それが常に波形フィン表面から、あるいはまた熱交換機のディスク/パイプから流出できることを保証する。これが結果として、自浄効果または洗浄効果を有し、それによってほこりと汚れの永続的な堆積が減少され、熱伝達体の表面上の微生物の住着きを回避することができる。さらに、波形フィン表面が、より迅速に乾燥する。
【0008】
本発明の変形された実施形態においては、表面コーティングは親水性の作用に加えて、あるいはその代わりに、たとえば腐食を阻止または防止する作用のような、1つまたは複数の他の好ましい作用を有している。
【0009】
ナノ粒子は、好ましくはほぼ100%、あるいは完全に酸化物からなる。
【0010】
コーティングされたナノ粒子において、コーティングされたナノ粒子の少なくともコア内に設けられている、酸化物の代わりに、あるいはそれに加えて、コーティング内に他の化合物を設けることもできる。ナノ粒子のコーティングは、有機および/または無機の成分と抗微生物作用する有機および/または無機の成分を含むことができる。
【0011】
グラフトされたナノ粒子は、副族を支持する酸化物を有する、あるいは酸化物からなるコアを有するナノ粒子である。この副族は、ナノ粒子コアの表面上に、たとえば酸素または窒素のブリッジを介して、化学的に結合されている。この種のナノ粒子を形成するために、たとえば二官能の化合物、たとえばジアミンおよび/またはジアルコールが使用される。それによってナノ粒子の表面特性を変化させることができる(たとえば嫌水性、親水性、分散ないし溶液内の安定化)。さらに、たとえばOHまたはCOOHあるいはOR類属を含む、反応性側鎖を有するポリマー鎖、あるいはポリマー網内で発散されなかった反応性類属、たとえばOHまたはCOOHあるいはORを、ナノ粒子上にグラフトすることができる。
【0012】
好ましくはナノ粒子は(簡単にするために以下においてはその中にコーティングされたナノ粒子および/またはグラフトされたナノ粒子も含まれるものとする)、はっきりとそれとは異なる表現がない限り、酸化物および/または水酸化物および/または窒化物および/または炭化物を含んでいる。その場合に好ましくは、II−主属および/またはIII−主属の元素の酸化物および/またはゲルマニウム、スズ、鉛の酸化物および/または、好ましくはIV−副族とV−副族の、遷移金属の酸化物および/または亜鉛および/またはセリウムの酸化物が設けられている。
【0013】
水酸化物、窒化物および炭化物は、好ましくはII−主属および/またはIII−主属および/またはIV−主属の元素から、および/または、好ましくはIV−副族とV−副族の、遷移金属から、および/または亜鉛から、および/またはセリウムからなる。
【0014】
ナノ粒子は、好ましくは有機の結合剤を含む、水性の分散または溶液内および/または、好ましくは有機の結合剤を含む、有機分散剤ないし溶剤ベースの分散ないし溶液内および/または、ゾル−ゲル−コーティングの際にコーティング物質として機能することのできる、ゾル内に含まれている。
【0015】
ゾルの場合において、好ましくはIII−主属の元素、従ってたとえばアルミニウム、ホウ素、インジウムおよび/またはIV−主属の元素、従ってたとえばケイ素、スズおよび/または、チタン、ジルコニウム、ハフニウムのようなIV−副族の、および/またはバナジウム、ニオブ、タンタルのようなV−副族の遷移金属の、アルコキシ化合物が含まれている。
【0016】
好ましくはアルコキシ化合物において、加水分解可能なアルコキシ残基の一部がアルキル残基および/またはアリル残基によって置換されており、あるいは純粋なアルコキシ化合物と、一部アルキル残基および/またはアリル残基を含むアルコキシ化合物からなる混合物が設けられている。好ましくはこれらの化合物は、ハロゲン置換されており、好ましくは特にフッ素置換されている。
【0017】
好ましくは、ナノ粒子、コーティングされたナノ粒子およびグラフトされたナノ粒子は、1から1000nmの、特に50と500nmの間の、平均直径を有している。
【0018】
好ましくは、表面コーティングは抗微生物作用する成分を有している。これらは、たとえばグラフトされた、あるいはコーティングされたナノ粒子において、ナノ粒子の成分であることができ、あるいは表面コーティングの残りの部分に含まれていてもよい。この種の添加物は、表面コーティングの抗微生物作用を向上させ、熱伝達体の表面に微生物が住着くことを阻止し、あるいは少なくともそれを阻止する。
【0019】
表面コーティングの塗布は、好ましくは浸漬、注水および/またはスプレイによって行われる。
【0020】
好ましくは、前処理は、酸またはアルカリ洗いとそれに続く表面浄化および/または転換処理によって行われる。この前処理も、好ましくは浸漬、注水またはスプレイによって行われる。転換処理は、たとえば混合された酸化物の形成によって、表面との極めて堅固な結合をもたらす、不働態層を構築するために用いられる。この種の不働態層は、特に腐食攻撃を阻止する。
【0021】
前処理後に、乾燥を行うことができ、かつ本来の表面コーティングの後に、乾燥プロセスが必要である。
【実施例】
【0022】
以下、部分的に図面を参照しながら、2つの実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。
【0023】
図1は、第1の実施例に基づく、アルミニウムからなる熱交換機の波形フィン薄板1の表面近傍の領域を示しており、その波形フィン薄板は親水性の表面コーティング2を有している。その場合にこの表面コーティング2は、ほぼ純粋な酸化アルミニウムからなるナノ粒子3を含むゾルから形成される。ナノ粒子3は、10と100nmの間の平均的直径を有し、表面コーティング2全体内に比較的均一に分配されている。
【0024】
ゾルは、アルミニウムのアルコキシ化合物を有しており、その場合に純粋なアルコキシ化合物と、加水分解可能なアルコキシ残基の一部がアルキル残基によって置換されている、アルコキシ化合物との混合物が使用される。
【0025】
表面コーティング2の塗布は、コロイドゾル溶液にくぐらせる、酸漬による表面浄化後に行われ、そのコロイドゾル溶液内に酸化アルミニウムからなるナノ粒子が分散している。次に、乾燥プロセスが実施される。
【0026】
図2は、第2の実施例に基づく熱交換機の波形フィン薄板11の表面近傍の領域を示している。その場合にナノ粒子13を含む親水性の表面コーティング12の間に転換層14が設けられている。転換層14は、特にアルミニウムとジルコニウムからなる混合酸化物を有している。
【0027】
ナノ粒子13は、側類属を支持する、いわゆるグラフトされたナノ粒子である。その場合にナノ粒子13は、酸化物を含む核を有しており、その核が、ナノ粒子核の表面上に化学的に結合された、二官能有機化合物によって包囲されている。二官能有機化合物は、特に抗微生物的に作用する側類属を有している。本来の表面コーティング12は、有機結合剤を有する、有機マトリクスからなる。この有機マトリクスは、その中にグラフトされたナノ粒子13が分配されている、有機分散または溶液から構築される。グラフトされたナノ粒子13の酸化物を含むコアは、大体において二酸化ジルコニウムと二酸化チタンからなる。
【0028】
本来の表面コーティング13を塗布するために表面を前処理するために、表面にアルミニウムとジルコニウムからなる混合酸化物を含む転換層14が設けられる。そのために、ジルコニウムを含む化学薬品が浸漬によって塗布され、アルミニウムとジルコニウムの混合された酸化物が形成されるので、表面との極めて堅固な結合がもたらされる。
【0029】
表面コーティング12の塗布は、乾燥プロセスの後に行うことができる。表面コーティング12の塗布は、ナノ粒子13を含む分散に浸漬することによって行われる。次に、他の乾燥プロセスが実施される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1の実施例に従って、本発明に基づくコーティングを有する熱交換機の表面近傍の領域を断面で示している。
【図2】第2の実施例に従って、本発明に基づくコーティングを有する熱交換機の表面近傍の領域を断面で示している。
【符号の説明】
【0031】
1、11 波形フィン薄板
2、12 表面コーティング
3、13 ナノ粒子
14 転換層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換機、特に親水性の表面コーティング(2;12)を有する熱交換機において、
表面コーティング(2;12)が、ナノ粒子(3)、コーティングされたナノ粒子および/または酸化物を有する、あるいは酸化物からなるグラフトされたナノ粒子(13)を有していることを特徴とする熱交換機。
【請求項2】
II−主属および/またはIII−主属の元素の酸化物および/またはゲルマニウム、スズ、鉛の酸化物および/または遷移金属の酸化物および/または亜鉛の酸化物および/またはセリウムの酸化物が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の熱交換機。
【請求項3】
表面コーティング(12)が、ナノ粒子、コーティングされたナノ粒子および/または水酸化物および/または窒化物および/または炭化物を有する、あるいはそれからなるグラフトされたナノ粒子(13)を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の熱交換機。
【請求項4】
水酸化物、窒化物および炭化物が、III−主属および/またはIV−主属の元素から、および/または遷移金属から、および/またはセリウムからなることを特徴とする請求項3に記載の熱交換機。
【請求項5】
遷移金属が、IV−および/またはV−副族に属し、あるいは亜鉛であることを特徴とする請求項4に記載の熱交換機。
【請求項6】
ナノ粒子(3)、コーティングされたナノ粒子および/またはグラフトされたナノ粒子(13)が、好ましくは有機結合剤を含む、水性の分散または溶液内および/または好ましくは有機結合剤を含む、有機分散剤ないし溶剤ベースの分散または溶液内に、あるいはゾル−ゲル−コーティングの際にコーティング物質として用いられる、ゾル内に含まれていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の熱交換機。
【請求項7】
ゾルが、III−主属の元素の、および/またはIV−主属の元素の、および/または遷移金属の、アルコキシ化合物を含むことを特徴とする請求項6に記載の熱交換機。
【請求項8】
遷移金属が、IV−またはV−副族に属していることを特徴とする請求項7に記載の熱交換機。
【請求項9】
アルコキシ化合物において、加水分解可能なアルコキシ残基がアルキル残基および/またはアリル残基によって置換されており、あるいは
純粋なアルコキシ化合物と、一部アルキル残基および/またはアリル残基を含むアルコキシ化合物とからなる混合物が設けられていることを特徴とする請求項8に記載の熱交換機。
【請求項10】
ナノ粒子(3)、コーティングされたナノ粒子および/またはグラフトされたナノ粒子(13)が、1から1000nmの平均直径を有していることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の熱交換機。
【請求項11】
表面コーティング(2;12)が、抗微生物作用する成分を有していることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の熱交換機。
【請求項12】
特に親水性の表面コーティングで熱交換機をコーティングする方法であって、ナノ粒子(3)、コーティングされたナノ粒子および/またはグラフトされたナノ粒子(13)を含む表面コーティング(2;12)が請求項1から11のいずれか1項に従って塗布される、熱交換機をコーティングする方法。
【請求項13】
表面コーティング(2;12)が、浸漬、注水および/またはスプレイによって塗布されることを特徴とする請求項12に記載の熱交換機をコーティングする方法。
【請求項14】
前処理が、酸洗いまたはアルカリ洗いとそれに続く表面浄化および/または転換処理を用いて行われることを特徴とする請求項12から13のいずれか1項に記載の熱交換機をコーティングする方法。
【請求項15】
転換処理において、混合酸化物および/または混合フッ化物が生じることを特徴とする請求項14に記載の熱交換機をコーティングする方法。
【請求項16】
酸洗いまたはアルカリ洗いとそれに続く表面浄化および/または転換処理により前処理した後に、乾燥プロセスが行われることを特徴とする請求項12から15のいずれか1項に記載の熱交換機をコーティングする方法。
【請求項17】
表面コーティング(2;12)を設けるプロセスに、乾燥プロセスが続くことを特徴とする請求項12から16のいずれか1項に記載の熱交換機をコーティングする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2006−522304(P2006−522304A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504577(P2006−504577)
【出願日】平成16年3月8日(2004.3.8)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002337
【国際公開番号】WO2004/087339
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(594042033)ベール ゲーエムベーハー ウント コー カーゲー (222)
【Fターム(参考)】