説明

熱交換用プレートの元板材、及び熱交換用プレートの元板材の製造方法

【課題】伝熱性が非常に優れた凹凸が表面に形成されると共に、プレス加工を経ることで熱交換用のプレートに成形される「熱交換用のプレートの元板材」、及び、係る「熱交換用のプレートの元板材」の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る熱交換用プレート4の元板材は、表面に微細な凹凸が形成されたチタン製の平板材1で構成され、後処理として当該平板材1に対してプレス加工が施された後に熱交換用プレート4となる元板材であって、凹凸に関し、凸部の高さ(μm)×[凹部の幅(μm)/隣り合う凸部のピッチ(μm)/凸部の角度(deg)]で定義される形状パラメータが0.94以下となるように、元板材の表面の凹凸が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換用プレートの元板材、及び熱交換用プレートの元板材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱交換器等に組み込まれる熱交換用プレートは高い伝熱性を有していることが望まれている。伝熱性を向上させるためには、プレートの表面にミクロンオーダの微細な凹凸を形成し表面積を拡大することがよく、このようにミクロンオーダの微細な凹凸を転写する方法として、例えば、特許文献1に示すような技術が開発されている。
この特許文献1の金属板表面への転写方法では、移送ロールの回転によって金属シートを移送させ、移送している金属シートに対して転写ロールの外周面に転写された凹凸状の転写部を押圧することによって、金属シートの表面に転写ロールの転写部と略同じ凹凸の形状の被転写部を形成させるようにしている。
【0003】
一方、特許文献2は、プレートに所定パターンの開孔列を形成し、2枚のプレートを開孔列を交差させて重ねてプレートセットとし、四隅に連通孔を開孔した隔壁プレートとプレートセットを交互に積層し、隔壁プレートで区画された流体の流通層を形成し、各流通層を上下の一層を隔てた流通層と連通させたプレート式熱交換器を開示する。この熱交換器に使用される熱交換用プレートは、伝熱性や強度を向上させるために、熱交換用プレート自体に、例えば「ヘリンボーン」と言われる高さ数mm〜数cmの複数の山形の溝をプレス成形し、その後、熱交換器内に組み込まれるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−239744号公報
【特許文献2】特開2009−192140号公報(例えば、図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された如く、熱交換用プレートにおいて、平板材の表面にミクロンオーダの微細な凹凸を形成し、表面積を拡大することで伝熱性を向上させているが、多くの場合、表面に微細な凹凸が形成された平板材は、そのままの形で熱交換用プレートとなることは少ない。
すなわち、特許文献2の図6に開示されているように、通常は微細な凹凸が形成された平板材は、その平面に例えば「ヘリンボーン」と言われる高さ数mm〜数cmの山形の溝がプレス成形され、その後、熱交換器内へ組み込まれる。そのため、微細な凹凸形成後の平板材に関しては、プレス成形性が望まれることとなる。
【0006】
特に、平板材がチタン製の場合、チタンは異方性を有する材料であり、材料の異方性が応力集中部における板厚の減少や歪み勾配等の変形挙動に影響するため、異方性のない他の材料と比較しプレス成形性などが著しく悪い。また、チタンは焼き付きやすい材料であり、プレス時に潤滑油の油膜切れを起こすと、材料の破断、プレス金型や工具との接触により疵が発生しやすくなる。
【0007】
当然ながら、特許文献1や特許文献2に開示された技術は、チタン製の平板材に対する困難性を克服した上で、熱交換用プレートを製造する技術を開示するものとはなっていない。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、表面に凹凸が形成されることで伝熱性が非常に優れると共に、後処理であるプレス成形での加工性が非常に良く、容易に熱交換用のプレートへと成形可能な熱交換用プレートの元板材、及びこの元板材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明における熱交換用プレートの元板材は、表面に微細な凹凸が形成されたチタン製の平板材で構成され、後処理として当該平板材に対してプレス加工が施された後に熱交換用プレートとなる元板材であって、前記凹凸に関し、凸部の高さ(μm)×[凹部の幅(μm)/隣り合う凸部のピッチ(μm)/凸部の角度(deg)]で定義される形状パラメータが0.94以下となるように、前記元板材の表面の凹凸が設定されている点にある。
【0009】
前記形状パラメータが0.14以上となるように、前記元板材の表面に前記凹凸を形成していることが好ましい。
前記形状パラメータが0.028以上となるように、前記元板材の表面に前記凹凸を形成していることが好ましい。
前記凸部は平面視で円形状であって、平板材の表面に千鳥状に配置されていることが好ましい。
【0010】
さらに、前記凸部の高さは、十点平均粗さRzが5μm以上であって、0.1×平板材の厚みμm以下とされていることが好ましい。
また、本発明における熱交換用プレートの元板材の製造方法は、表面に微細な凹凸が形成されたチタン製の平板材で構成され、後処理として当該平板材に対してプレス加工が施された後に熱交換用プレートとなる元板材の製造方法であって、前記凹凸に関し、凸部の高さ(μm)×[凹部の幅(μm)/隣り合う凸部のピッチ(μm)/凸部の角度(deg)]で定義される形状パラメータが0.94以下となるように、前記元板材の表面に前記凹凸を形成する点にある。
【0011】
前記形状パラメータが0.14以上となるように、前記元板材の表面に前記凹凸を形成することが好ましい。
前記形状パラメータが0.028以上となるように、前記元板材の表面に前記凹凸を形成していることが好ましい。
また、前記凸部を平面視で円形状に形成すると共に、平板材の表面に千鳥配置で形成することが好ましい。
【0012】
さらに、前記凸部の高さが、十点平均粗さRzが5μm以上であって、0.1×平板材の厚みμm以下となるように、平板材の表面に凸部を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の技術に係る元板材を用いることで、プレス加工時に割れ等を生じることなく熱交換用プレートを製造することができる。製造された熱交換用プレートは、伝熱性が非常に優れるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】熱交換用プレートの製造方法を示したものである。
【図2】凸部の形状を説明する説明図である。
【図3】元板材の表面に形成した凸部の配置図である。
【図4】元板材の表面に形成した凸部の別の配置図である。
【図5】L×Rz/Pと応力集中率との関係を示した図である。
【図6】元板材の表面に形成された凹凸形状の寸法形状と伝熱効率との関係及び元板材の表面に形成された凹凸形状の寸法形状とプレス成形性の良さとの関係を示した図である。
【図7】凸部の角度ηと流体の流れとの関係を示した図である。
【図8】形状パラメータと、伝熱性向上率との関係を示した図である。
【図9】形状パラメータと、伝熱性向上率及びプレス成形性との関係を示した図である。
【図10】元板材の表面に凹凸形状を形成する装置の概略を示した図である。
【図11】プレス成形性スコアを算出するための参考図である。
【図12】形状パラメータと、伝熱性向上率及びプレス成形性との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。
[第1実施形態]
図1は、熱交換用プレートの製造方法を示した概念図である。
図1に示すように、熱交換用プレートを製造するにあたっては、まず、図1(a)に示すように素材である平板材1を所定の大きさに形成する。そして、図1(b)に示すように、平板材1をプレス加工することによって平板材1の表面1aに微細な凹凸形状を形成したプレート元板(元板材)を作成する。次に、図1(c)に示すように、表面2aに微細な凹凸形状が形成されたプレート元板2(元板材)に、例えば、ヘリンボーンと言われる山形の溝3を形成することにより熱交換用プレート4を製造する。
【0016】
図1(a)に示す平板材1はチタン材であって、その寸法、板厚は最終製品である熱交換用プレート4にて所望される寸法、板厚を考慮して決定される。
この平板材1の表面1aに対して、後述する加工装置10を用いて微細な凹凸形状(複数の凸部5とこの凸部5に挟まれた凹部6)を形成することでプレート元板2が形成される。凹凸形状が形成されたプレート元板2は、伝熱性が非常によい(熱伝達率が非常に高い)ものとなっている。加えて、本発明のプレート元板2はチタン製とされているため、耐食性、強度、軽量化などの特性が他金属と比較し優れている。それゆえに、プレート式熱交換器のプレートなど耐食性、強度が必要となる製品に対して好適である。
【0017】
プレート元板2に形成されたヘリンボーン3は、骨格形状を呈した複数の山形溝であり、溝の大きさは、高さ数mm〜数cmとされている。この元板2は、熱交換器内へ組み込まれる。ヘリンボーン3などに代表される斜格子形状は、熱交換器内部の作動流体の流れが不均一である場合に関しても、どの方向からの流れに対しても凹凸が作動流体に対して直交する壁となり得て、乱流による伝熱性向上に寄与することとなる。
【0018】
以降、プレート元板2の表面の凹凸形状の詳細について述べる。
図2に示すように、プレート元板2の表面2aに形成された凸部5は、厚み方向(プレート元板2の厚み方向)に起立した複数の側壁7と、側壁7のそれぞれの上端(上縁)を結ぶ上壁8とから構成されている。言い換えれば、凸部5の頂部には平坦部が設けられている。凸部5が円柱形状乃至は円錐形状の場合は、側壁7は1つであるが、角柱形状乃至は角錐形状の場合は、側壁7は複数となる。
【0019】
図3(a)に示すように、プレート元板2の表面2aに形成された凸部5は、平面視で円形であって、その直径Dは400μm以上とされている。凸部5の平面視での配置は、千鳥状とされている。ここで千鳥状の配置(千鳥配置)とは、縦方向及び横方向において、いずれか一方に隣り合う凸部5、5の中心が一直線上に並ばないという意味である。
具体的には、プレート元板2において、縦方向に隣接する凸部5、5は、横方向に半ピッチだけズレており、横方向に隣接する凸部5の中心同士を結んだ直線(一点鎖線)Aと、縦方向に隣接する凸部5の中心同士を結んだ直線(一点鎖線)Bとの平面角度θが60°となるように凸部5を配置してもよい。
【0020】
このように千鳥格子配列とすることで、熱交換器内の作動流体の流れが不均一である場合に関し、どの方向からの流れに対しても凹凸が作動流体に対して直交する壁となり得ることができ、乱流による伝熱性向上に寄与する。また、チタン等の異方性のある材料に対して、異方性起因の応力集中に対応できる。
縦方向や横方向に隣り合う凸部5間(隣合う凸部5の側壁7間)の距離L(凹部6の幅L)は、200μm以上が好ましい。なお、凹部6の幅Lとは、横方向又は縦方向に隣接する凸部5同士(隣合う凸部5の側壁7同士)の最短距離であって、「凹部6の幅L=隣り合う凸部5のピッチP−(凸部5の直径D/2)×2」により求めることができる。また、隣り合う凸部5のピッチPとは、横方向又は縦方向に隣接する最も近い凸部5同士の中心間の距離(最短距離にある凸部5同士の中心間距離)である。
【0021】
図3(a)に示した凹部6の幅Lは、縦方向及び横方向ともに同じ値である(縦方向に隣接する凸部5同士の距離と、横方向に隣接する凸部5同士の距離とが共に同じ値)。隣り合う凸部5のピッチP(凸部5の中心間距離、即ち、上壁8の中心間の距離)は600μm以上が好ましい。
図3(b)に示すように、プレート元板2の表面に形成された凸部5は、断面視にて上方に立ち上がる上壁8と、この上壁8の上縁を水平に結ぶ表壁9とから台形状に構成されている。十点平均粗さRzにて示される凸部5(上壁8、即ち、側壁7)の高さ(以降、高さRzと示すことがある)は5μm以上であって、プレート元板2の板厚tの1/10(10分の1)以下となっている。プレート元板2の凸部5のRzは、例えば、25μm程度(Raで表せば10μm程度)となっている。
【0022】
凸部5の高さRzをこの範囲としているのは、板厚に対して凹凸形状が大きすぎると、後述する加工装置10での圧延転写の際に平坦度(形状)が確保できず圧延安定性が得られないためである。また、平坦度が確保できていない板では、後工程でのプレス成形時に応力分布が発生するため、応力が高い箇所において割れが発生するためである。すなわち、プレス加工の際に凸部5の高さRzが大きすぎると割れの原因(起点)となり、疵の原因となる。一方、高さRzが小さすぎる(5μm以下である)と、伝熱効率の向上を図ることができなくなる。
【0023】
ところで、凸部5は平面視形状は、完全な円形でなく、扁平率0.2程度の楕円形までも含む。なお、凸部5の平面視形状に関しては、他に角形など様々な形状が考えられるが、後工程で行われるプレス加工時の応力集中回避の観点から、略円形であることが好ましい。凸部5の千鳥配置状態は図2のものに限定はされない。
例えば、図4に示すように、横方向に隣接する凸部5の中心同士を結んだ直線(一点鎖線)Cと、縦方向に隣接する凸部5の中心同士を結んだ直線(一点鎖線)Dとの平面角度θが45°となるように凸部5を配置してもよいし、他の角度であってもよい。
【0024】
以上のようなプレート元板2の凹凸形状に関して、その根拠となる事項を説明する。
発明者は、プレート元板2を製造するにあたって、プレート元板2の表面に形成した凸部5の高さRz、凸部5の数(凹部6の幅L)、隣り合う凸部のピッチP、凸部の角度ηを最適なものとするため、これらを含む凹凸形状の形状パラメータ『凸部5の高さRz×(凹部6の幅L/隣り合う凸部のピッチP])/凸部の角度η』について着目した。
【0025】
まず、上述した形状パラメータのうち、凸部5の高さRzを一定として、凹部6の幅L/隣り合う凸部のピッチP(L/P)を変化させたときを考えると、図5に示すように、L/Pが増加するにしたがって応力集中率が増加する傾向がある。即ち、凹部6の幅Lが大きすぎたり、凸部のピッチPが狭すぎると、応力が集中してプレス成形(ヘリンボーン等を成形するためのプレス加工)を実施したときなどに、割れが発生し易い状況になる。
【0026】
一方、上述した形状パラメータのうち、凸部5の高さRzを変化させ、凸部5の高さRzを高くした状況を考えると、凹部6の幅Lや隣り合う凸部のピッチPと同様に、プレス成形を実施した際に、不均一な応力分布が発生して応力が高い箇所において割れが発生する恐れがある。
したがって、プレート元板2のプレス成形性を考えると、凸部5の高さRz又は凹部6の幅Lが大きすぎず、凸部のピッチPは狭すぎないことが最適であって、これらを表すパラメータには上限値があると考えられる。
【0027】
図6は、上述した凸部の立ち上がり角度ηを除くパラメータ『凸部5の高さRz×(凹部6の幅L/隣り合う凸部のピッチP)』を変化させたときのプレス成形性及び伝熱効率との関係をまとめたものである。図6のプレス成形性のスコアは、下記に示す押し込み量を正規化して表したものである。
プレス加工での成形性(プレス成形性)を評価する評価試験では、まず、図11に示すように、元プレート元板2にヘリンボーン(溝3)を成形して熱交換用プレート4を成形する。作成にあたっては、まず、熱交換器使用条件に応じた成形用の金型を一枚用意しておく。そして、各金型で元プレート元板2にヘリンボーン3を成形高さが0.1mm毎に異なる条件で成形して熱交換用プレート4を複数枚作成する。作成した評価用プレート(熱交換用プレート4)の中で、ネッキングが発生しない金型の成形限界高さ(ネッキングが発生しない最大の成形高さ)を押し込み量として評価する。
【0028】
上記した評価試験で、押し込み量が大きい場合はネッキングが発生し難くプレス成形性が良いと言え、評価試験で押し込み量が小さい場合はネッキングが発生し易くプレス成形性は悪いと言える。このように評価試験では、くびれ(ネッキング)が始まる成形深さ、成形に耐えうるひずみ量を評価することができる。
図6に示すように、パラメータが大きくなるにつれてプレス成形性のスコアは低下するものの、パラメータが85μm以下であれば、プレス成形性のスコアを1以上にすることができ、ネッキングの発生を防止しつつ確実なプレス成形を実現できる。即ち、パラメータが85μm以下であれば、ネッキングの発生を防止してプレス成形性が低下するといった状況は回避することができる。
【0029】
上述したように、パラメータが85μm以下であれば、プレス成形性が低下するといった状況は回避することができるものの、本発明のプレート元板2は、熱交換器を構成するプレートの元となるものであり、熱交換を行う隔壁となるものである。ゆえに、本発明のプレート元板2においては、熱伝達率が大きい(伝熱効率が大きい)ことも要求される。
そこで、「凹凸形状を形成していない平板」の伝熱効率を1.00とし、凹凸形状を形成したプレート(熱交換用プレート)における伝熱効率を考えると、熱交換用プレートの伝熱効率は1.00よりも大きいことが必要であるが、現実の熱交換器で著しい作用を奏するためには、伝熱効率は1.05以上あることが望ましいとされている。
【0030】
ここで、伝熱効率とパラメータとの関係を考える。図6に示すように、例えば、凸部5の高さRzを小さくしたり、凹部6の幅Lを小さくしたり、凸部のピッチPを大きくすることによって、パラメータは85μmから徐々に小さくなる。このように、パラメータを徐々に小さくすると伝熱効率も徐々に小さくなり、伝熱効率は、凹凸を形成していない平板に近づくことになる。しかしながら、パラメータが4μm以上であれば、現実の熱交換器にて必要とされる伝熱効率(1.05以上)を確保することができる。したがって、伝熱効率の点からすれば、プレート元板2を製造するにあたっては、『凸部5の高さRz×(凹部6の幅L/隣り合う凸部のピッチP)』で示されるパラメータは、4μm以上85μm以下にすることが好ましい。
【0031】
上述したように、凸部5の高さRz、凹部6の幅L及び隣り合う凸部のピッチPを設定することによってプレス成形性が良く、伝熱性に優れたプレート元板2を製造することができる。
さて、熱交換用プレート4を挟んで裏面(一方側)に温度の高い流体(高温流体)を流し、表面(他方側であって凹凸面を形成した側)に温度の低い流体(低温流体)を流したとする。ここで、低温流体に関しては、気体から液体に変化する(凝縮する)場合もあり、液体のままの場合もある。いずれの場合にしても、熱交換用プレート4の伝熱効率を高めるために、低温流体(液体)側に乱流、強制対流を発生させることが重要である。
そこで、発明者らは、熱交換用プレートの元材であるプレート元板2を製造するにあたっては、凸部5の高さRz、凹部6の幅L、凸部5のピッチPを考慮するだけでなく、凸部5の角度η(側壁7の立ち上がり角度η)も考慮して、乱流、強制対流を起こしやすい凸部5の形状を検証した。
【0032】
図7(a)は、凸部5の角度ηが大きい場合の流体の流れを模式的に示したものであり、図7(b)は、図7(a)よりも凸部5の角度ηが小さい場合の流体の流れを模式的に示したものである。
図7(a)に示すように、凸部の角度η、言い換えれば、凹部6を構成する底壁6aと側壁7とのなす角度ηが比較的大きい場合(側壁7がなだらかに立ち上がる場合)、流体は凸部5を乗り越え易く乱流が発生し難い状態となる。一方、図7(b)に示すように、凸部の角度ηが比較的小さい場合(側壁7が急峻に立ち上がる場合)、流体は凸部5に衝突し易く乱流が発生し易い。このように、凸部5の角度ηは、乱流に影響を与えて伝熱性が変化することになる。即ち、凸部5の角度ηが大きくなると伝熱性が低下する傾向があり、逆に凸部5の角度ηが小さくなると伝熱性が向上することから、発明者らは、形状パラメータに、凸部5の高さRz、凹部6の幅L、凸部5のピッチPだけでなく、伝熱性に影響の与える凸部5の角度ηを加えて、最適な形状パラメータを検討した。
即ち、上述したパラメータ『凸部5の高さRz×(凹部6の幅L/隣り合う凸部のピッチP)』を凸部5の角度ηで割った『凸部5の高さRz×(凹部6の幅L/隣り合う凸部のピッチP)/凸部5の角度η(deg)』を形状パラメータとした。
【0033】
図8は、形状パラメータと、伝熱性向上率との関係をまとめたものである。
図8に示すように、形状パラメータを増減させたときの、凝縮の伝熱効率の傾向と、強制対流の伝熱効率の傾向とを見てみると、両者の傾向が同じとなることから上述した形状パラメータは、凝縮及び強制対流の伝熱特性を表すのに最も適していると言える。
ここで、さらに、凝縮及び強制対流の伝熱特性をよく表すことができる形状パラメータに対して、上述したようにプレス成形性も考慮する。図9は、凸部の立ち上がり角度ηを含む形状パラメータ『凸部5の高さRz×(凹部6の幅L/隣り合う凸部のピッチP)/凸部5の角度(deg)』を変化させたときのプレス成形性及び伝熱効率との関係をまとめたものである。
【0034】
図9に示すように、形状パラメータが大きくなるにつれてプレス成形性のスコアは低下するものの、形状パラメータが0.94μm/deg以下であれば、プレス成形性のスコアを1以上にすることができ、ネッキングの発生を防止しつつ確実なプレス成形を実現できる。即ち、凝縮及び強制対流をも考慮した形状パラメータが0.94以下であれば、ネッキングの発生を防止してプレス成形性が低下するといった状況は回避することができる。
【0035】
つまり、『凸部5の高さRz×(凹部6の幅L/隣り合う凸部のピッチP)』で示されるパラメータに、凸部の角度ηを掛け合わせた形状パラメータが0.94以下となるように、凹凸を形成すれば、伝熱性が非常に優れると共にプレス成形もよいプレート元板2を製造することができる。なお、凸部の角度η以外のパラメータで説明したように、形状パラメータについても下限値を考慮した場合(伝熱効率を1.05以上を確保する)は、図9に示すように、形状パラメータは0.14μm/deg以上にする必要がある。形状パラメータは0.16以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.2以上であることが好ましい。
【0036】
したがって、形状パラメータ『凸部5の高さRz×(凹部6の幅L/隣り合う凸部のピッチP)/凸部5の角度(deg)』は0.14以上0.94以下にすることが好ましい。
さて、凸部5を形成するにあたって変形防止を考えるのであれば、プレート元板2における圧着面積比Sが、図3(a)の凹凸形状においては、式(1)を満たすようにすることが好ましい。
【0037】
平板材(チタン)の降伏応力σy>プレス時に凸部にかかる面圧(P/S) (1)
ここで、S1=P・P・tan(θ/180・π)/4
S2=π/4・D・D/2
S=圧着面積比=S2/S1
P=プレス加工時の荷重
式(1)のS1は、図3における平面の面積(図3に示した直線A及び直線Bにて囲まれる三角形の面積)である。式(2)のS2は、図3における凸部の面積(前述の三角形内に存在する凸部の面積)である。
【0038】
このように、チタン製であって、表面に形状パラメータが0.14〜0.94となるような凹凸が形成されている元板材2を用いることで、プレス加工時に割れ等を生じることなく、熱交換器を構成する熱交換用プレート4を製造することができる。このようにして製造された熱交換用プレート4は、伝熱性が非常に優れたものとなり、気液用の熱交換用プレートとして用いると共に液液用の熱交換用プレートとしても用いることができる。
【0039】
ところで、上記したプレート元板2は、図10に示すような加工装置10を用いて形成することができる。
この加工装置10は、移送ロール11と、加工ロール12と、支持ロール13とを備えている。移送ロール11は、平板材1を移送するためのものであって、加工ロール12から見て上流側及び下流側に配置されている。
【0040】
加工ロール12は、移送されている平板材1の表面にミクロンオーダ(数μm〜数百μm)の凹凸を形成するものである。具体的には、加工ロール12は加工後のプレート元板2において、形状パラメータが0.14〜0.94となるように、平板材1の表面1aに凸部5及び凹部6を形成するものである。即ち、加工ロール12には、形状パラメータが0.14〜0.94となるように、凸部5及び凹部6を形成させるための、凸部5の高さRz、凹部6の幅L、隣り合う凸部のピッチP、凸部の角度ηが設定されている。
【0041】
加工ロール12の外周面の全周には、凸状(台形の凸)となる加工部14がエッチングや放電ダルにより形成されている。加工部14の高さは、加工後におけるプレート元板2における凸部5の高さRzが5μm以上となり、且つ、0.1×平板材の厚みμm以下となるように設定されている。加工ロール12の表面層は、耐荷重性や耐摩耗性の観点より、Crメッキ又はタングステンカーバイト処理を行うとよい。
【0042】
この加工装置10では、加工ロール12を回転させながら、加工ロール12に設けた加工部14を、平板材1の表面に押しつけることによって、当該平板材1の表面に加工部14を反転した形状と同じ凸部5、凹部6を形成できる。即ち、加工装置10によって、形状パラメータが0.14〜0.94となり、高さRzが5μm以上で且つ板厚tに対して10%以下となる凹凸を有したプレート元板2を形成することができる。なお、凸部5の形成は、上記した加工装置に限定されない。
【0043】
[第2実施形態]
上述した第1実施形態では、凸部の立ち上がり角度ηを含む形状パラメータについて0.14〜0.94としていたが、第2実施形態では、形状パラメータについて、さらに、実験等により検証を進めた。なお、第1実施形態と同じ構成については説明を省略する。
図12は、凸部の立ち上がり角度ηを含む形状パラメータ『凸部5の高さRz×(凹部6の幅L/隣り合う凸部のピッチP)/凸部5の角度(deg)』を変化させたときのプレス成形性及び伝熱効率との関係をまとめたものである。
【0044】
図12に示すように、形状パラメータが大きくなるにつれてプレス成形性のスコアは低下するものの、形状パラメータが0.94μm/deg以下であれば、プレス成形性のスコアを1以上にすることができ、ネッキングの発生を防止しつつ確実なプレス成形を実現できる。即ち、凝縮及び強制対流をも考慮した形状パラメータが0.94以下であれば、ネッキングの発生を防止してプレス成形性が低下するといった状況は回避することができる。つまり、検証を進めた結果、形状パラメータの上限値については、0.94以下にする必要があり、第2実施形態においても第1実施形態と同じ結果となった。
【0045】
さて、熱交換用プレート4を様々な用途で用いる場合は、上述したように伝熱効率を1.05以上とすることが必要であるが、例えば、熱交換プレート4を気液用の熱交換用プレートや液液用の熱交換用プレートとしても用いる場合は、伝熱効率を1.03以上確保すればよいとされている。図12に示すように、形状パラメータを0.028以上にすれば、伝熱効率を1.03以上にすることができるため、形状パラメータの下限値は0.028であることが好ましい。なお、図12に示す強制対流の「●」と、凝縮の「○」とは重複していて略同じ値である。
【0046】
また、プレート元板2を製造するに際しては、形状パラメータが0.028〜0.94となるように、加工装置10(加工ロール12)を用いて凹凸を形成すればよく、製造方法の詳細については、第1実施形態と同じであるため、説明を省略する。
ところで、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0047】
例えば、熱交換用のプレート4は、プレート元板2をプレス加工することにより製造されるが、プレート元板2のプレス加工は何でも良く、上述したようなヘリンボーンを形成するものでなくてもよい。
また、プレート元板2に形成した凹凸に関して、形状パラメータが0.14〜0.94となる範囲は当該プレート元板2の少なくとも一部であればよく、好ましくは全体に亘るのがよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の熱交換用プレートの元板材は、温度差発電等に用いられる熱交換器を構成するプレートの元板として好適である。
【符号の説明】
【0049】
1 平板材
1a 平板材の表面
2 プレート元板(元板材)
2a プレート元板の表面
3 溝
4 熱交換用プレート
5 凸部
6 凹部
8 上壁
9 表壁
10 加工装置
11 移送ロール
12 加工ロール
13 支持ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に微細な凹凸が形成されたチタン製の平板材で構成され、後処理として当該平板材に対してプレス加工が施された後に熱交換用プレートとなる元板材であって、
前記凹凸に関し、凸部の高さ(μm)×[凹部の幅(μm)/隣り合う凸部のピッチ(μm)/凸部の角度(deg)]で定義される形状パラメータが0.94以下となるように、前記元板材の表面の凹凸が設定されていることを特徴とする熱交換用プレートの元板材。
【請求項2】
前記形状パラメータが0.14以上となるように、前記元板材の表面に前記凹凸を形成していることを特徴とする請求項1に記載の熱交換用プレートの元板材。
【請求項3】
前記形状パラメータが0.028以上となるように、前記元板材の表面に前記凹凸を形成していることを特徴とする請求項1に記載の熱交換用プレートの元板材。
【請求項4】
前記凸部は平面視で円形状であって、平板材の表面に千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱交換用プレートの元板材。
【請求項5】
前記凸部の高さは、十点平均粗さRzが5μm以上であって、0.1×平板材の厚みμm以下とされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱交換用プレートの元板材。
【請求項6】
表面に微細な凹凸が形成されたチタン製の平板材で構成され、後処理として当該平板材に対してプレス加工が施された後に熱交換用プレートとなる元板材の製造方法であって、 前記凹凸に関し、凸部の高さ(μm)×[凹部の幅(μm)/隣り合う凸部のピッチ(μm)/凸部の角度(deg)]で定義される形状パラメータが0.94以下となるように、前記元板材の表面に前記凹凸を形成することを特徴とする熱交換用プレートの元板材の製造方法。
【請求項7】
前記形状パラメータが0.14以上となるように、前記元板材の表面に前記凹凸を形成することを特徴とする請求項6に記載の熱交換用プレートの元板材の製造方法。
【請求項8】
前記形状パラメータが0.028以上となるように、前記元板材の表面に前記凹凸を形成することを特徴とする請求項6に記載の熱交換用プレートの元板材の製造方法。
【請求項9】
前記凸部を平面視で円形状に形成すると共に、平板材の表面に千鳥配置で形成することを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の熱交換用プレートの元板材の製造方法。
【請求項10】
前記凸部の高さが、十点平均粗さRzが5μm以上であって、0.1×平板材の厚みμm以下となるように、平板材の表面に凸部を形成することを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の熱交換用プレートの元板材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−76551(P2013−76551A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−284605(P2011−284605)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】