説明

熱伝導シート及びその製造方法

【課題】 熱伝導性、柔軟性を維持しながら、表面からのグラファイト粉末の脱離を防止し、絶縁性に優れかつ化学的に安定で、熱抵抗の少なくなるような表面を持つ熱伝導シートを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、グラファイトシートの表面に絶縁膜層を5μm以下に薄く設けることにより、電気的絶縁性、柔軟性に優れ、グラファイト粉末が脱離しにくく、熱抵抗が小さいといった特性を持つ良品質の熱伝導シ−トを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、グラファイトシートを用いた熱伝導シート及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】グラファイトシートとして、黒鉛粉末をバインダー樹脂と混合して、シート状にするもの、膨張黒鉛を圧延してシート状にするもの及びポリイミドを原料として熱処理及び圧延処理によって柔軟性のあるグラファイトシートを直接的に得る方法がすでに特公平1−49642号公報で知られている。このシートの特性としては電気伝導性、熱伝導性に優れている。特にポリイミドを原料としたものは、高品質で折れ曲げに強く柔軟性に富む熱伝導性に優れた、グラファイトシートが得られる。
【0003】一方、近年、電子機器の小型化、高性能化が進むにつれて、高密度に集積されたCPUなどから発生する熱問題、微細な制御を必要とする半導体製造装置においても熱問題が重要な検討項目になってきている。熱については放熱性のみならず、いかに場所による温度ばらつきを低減するかという均熱性が重要である。
【0004】これまでは、熱伝導性に優れたアルミ板や銅板などの金属板が適当に加工されたり、冷却ファンと組み合わせたりして放熱対策がなされているのが現状である。
【0005】かかる状況下で、グラファイトシートは、金属板と比較すると熱伝導性がよく、軽く柔軟性があるなどの特長を有するために、電子機器や装置、設備の熱伝導材として期待され始めてきている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、グラファイトシートをそのまま電子機器の内部で熱伝導材として使用する際には、電気伝導性を有するために、電子部品間の電気的ショートを発生する可能性がある。また、表面より炭素粉が摩耗したりして同様に電気的に悪影響する場合がある。
【0007】さらに、機械的強度の点においても、使用方法によっては、破断強度、引っ張り強度などが十分でない場合がある。
【0008】これらの不都合を防ぐために、グラファイトシートの表面を高分子フィルムで覆うことが提案されている。しかしながら、グラファイトシート表面を発熱源や冷却部と接触させて使用する場合には、表面の高分子フィルムの熱伝導度が低いため、高分子フィルムの厚さが大きくなるに従って熱抵抗が大きくなる。このため、できるだけ薄い高分子フィルムを使用することが望ましいが、5μm以下の高分子フィルムは取り扱いが困難である。
【0009】また、グラファイトシート表面に高分子フィルムを貼って一体化する場合には、接着層や粘着層が存在することになり、これらの層も熱伝導度が低いため、熱抵抗の原因となる。
【0010】従って、絶縁性に優れかつ化学的に安定で、熱抵抗の少なくなるような表面を持つグラファイトシートの実現が待望されている状況にある。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明は、グラファイトシートの表面に絶縁膜層を5μm以下に薄く設けることを特徴とする熱伝導シートである。
【0012】絶縁膜材料としては有機材料薄膜または無機材料薄膜、または無機材料及び有機材料からなる複合薄膜からなるものでよい。有機材料で薄い絶縁膜を設けるとすると蒸着やCVD、イオンプレーティングなどの真空法が最適となる。材料としては芳香環あるいは複素環を有する有機化合物で各種、真空法で製膜可能なフタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物の有機化合物が良好である。
【0013】また、絶縁膜材料がフッ素系化合物系を用いても表面絶縁化が効果的に実現できる。絶縁膜が高分子薄膜層で、ポリパラキシリレンなどをCVDで製膜すると厚さ1μm程度でも十分な表面絶縁化方法となる。また、絶縁膜材料として金属酸化物や金属窒化物を用いることも有効なグラファイトシートの表面絶縁化方法となる。金属酸化物としてはSiO2、Al23など、金属窒化物としてはAlN、TiN、SiNなどが良好である。グラファイトシートとしてはポリイミドフィルムを原料としたものが熱伝導性、柔軟性に優れているので高性能化に向いている。
【0014】このような構成により、絶縁性に優れ、化学的に安定な熱伝導シートが実現される。
【0015】
【発明の実施の形態】請求項1記載の本発明は、グラファイトシートと、前記グラファイトシートの表面に設けられた厚ら5μm以下の絶縁膜とを有する熱伝導シートである。
【0016】このような構成により、グラファイトシートの表面の絶縁化、機械的強度の向上、及びグラファイト粉末の脱離防止の作用を呈する。
【0017】請求項2に記載の発明は、絶縁膜が有機材料、無機材料又は無機材料及び有機材料からなる複合材料を有する請求項1記載の熱伝導シートである。これによりグラファイトシートの表面の絶縁化、機械的強度の向上、及びグラファイト粉末の脱離防止の作用を呈する。
【0018】請求項3に記載の発明は、有機材料が芳香環又は複素環を有する請求項2記載の熱伝導シートである。この構成により、グラファイトシートの表面の絶縁化、機械的強度の向上、及びグラファイト粉末の脱離防止の作用を呈する。
【0019】請求項4に記載の発明は、有機材料がフタロシアニン系化合物又はポルフィリン系化合物を有する請求項2記載の熱伝導シートである。これによりグラファイトシートの表面の絶縁化、機械的強度の向上、及びグラファイト粉末の脱離防止の作用を呈する。
【0020】請求項5に記載の発明は、絶縁膜がフッ素系化合物系の材料を有する請求項1又は2記載の熱伝導シートである。これによりグラファイトシートの表面の絶縁化、機械的強度の向上、及びグラファイト粉末の脱離防止の作用を呈する。
【0021】請求項6に記載の発明は、絶縁膜がポリパラキシリレンを有する高分子薄膜である請求項1又は2記載の熱伝導シートである。この高分子薄膜層は、CVD法により形成されることが好ましい。というのは、CVD法による気相蒸着重合薄膜は緻密で強度の大きな薄膜となるため、厚さが薄くても均一で欠陥のない高分子薄膜を形成することが可能となるためである。高分子薄膜層としては、ポリパラキシリレン薄膜が電気絶縁性に優れ、有機溶剤に不溶であり、酸、アルカリにも腐食されにくいという特長を持っており、真空中でもガスが発生せず、真空中および不活性ガス中では200℃以上の耐熱性があり、低温でも柔軟性を持っている。
【0022】また、気相蒸着重合法によるコーティングであるため、ミクロンオーダーの狭い隙間へも浸透し、グラファイトシートのように表面に凹凸があってもコンフォーマル(同形)コーティングが可能となる。このことから、ポリパラキシリレンによる高分子薄膜層をもちいた絶縁層は、強度的にも優れており、また被覆性に優れているため、厚さが薄くても絶縁性、強度を持たせることが可能である。
【0023】請求項7に記載の発明は、絶縁膜が金属酸化物又は金属窒化物を有する請求項1又は2記載の熱伝導シートである。これによりグラファイトシートの表面の絶縁化、機械的強度の向上、及びグラファイト粉末の脱離防止の作用を呈する。
【0024】請求項8に記載の発明は、グラファイトシート上に蒸着やCVDなどの真空蒸着法を用いて絶縁層を設ける工程を有する熱伝導シートの製造方法である。この方法により、薄くて均一な絶縁膜を形成することが可能であり、グラファイトシートの表面の絶縁化、機械的強度の向上、及びグラファイト粉末の脱離防止の作用を呈する。
【0025】請求項9に記載の発明は、絶縁膜が有機材料、無機材料又は無機材料及び有機材料からなる複合材料を有する請求項8記載の熱伝導シートの製造方法である。この方法により、薄くて均一な絶縁膜を形成することが可能であり、グラファイトシートの表面の絶縁化、機械的強度の向上、及びグラファイト粉末の脱離防止の作用を呈する。
【0026】請求項10に記載の発明は、有機材料が芳香環又は複素環を有する請求項9記載の熱伝導シートの製造方法である。この方法により、薄くて均一な絶縁膜を形成することが可能であり、グラファイトシートの表面の絶縁化、機械的強度の向上、及びグラファイト粉末の脱離防止の作用を呈する。
【0027】請求項11に記載の発明は、有機材料がフタロシアニン系化合物又はポルフィリン系化合物を有する請求項9記載の熱伝導シートの製造方法である。この方法により、薄くて均一な絶縁膜を形成することが可能であり、グラファイトシートの表面の絶縁化、機械的強度の向上、及びグラファイト粉末の脱離防止の作用を呈する。
【0028】請求項12に記載の発明は、絶縁膜がフッ素系化合物系の材料を有する請求項8又は9記載の熱伝導シートの製造方法である。この方法により、薄くて均一な絶縁膜を形成することが可能であり、グラファイトシートの表面の絶縁化、機械的強度の向上、及びグラファイト粉末の脱離防止の作用を呈する。
【0029】請求項13に記載の発明は、絶縁膜がポリパラキシリレンを有する高分子薄膜である請求項8又は9記載の熱伝導シートの製造方法である。この方法により、薄くて均一な絶縁膜を形成することが可能であり、グラファイトシートの表面の絶縁化、機械的強度の向上、及びグラファイト粉末の脱離防止の作用を呈する。
【0030】請求項14に記載の発明は、絶縁膜が金属酸化物又は金属窒化物を有する請求項8又は9記載の熱伝導シートの製造方法である。この方法により、薄くて均一な絶縁膜を形成することが可能であり、グラファイトシートの表面の絶縁化、機械的強度の向上、及びグラファイト粉末の脱離防止の作用を呈する。
【0031】請求項15に記載の発明は、ポリイミドフィルムを原料として不活性ガス中で室温から昇温した後、1000℃から1600℃の温度範囲で焼成する予備処理工程と、前記予備処理工程後、室温から昇温して2500℃以上の温度で焼成してグラファイトシートを作製する工程を有する請求項8ないし14のいずれか記載の熱伝導シートの製造方法。
【0032】このようにして作成したグラファイトシートを使用することにより、可撓性、柔軟性に優れた熱伝導材料として、絶縁性に優れかつ化学的に安定で、熱抵抗の少なくなるような表面を持つグラファイトシートの実現が可能となる。
【0033】このような構成により、高分子フィルムを絶縁層とした場合に比較して、熱伝導率の小さな高分子薄膜層による絶縁層の厚さを薄くできるため、熱抵抗を小さくすることができ、グラファイトシートの優れた熱伝導性への影響を小さくできる。さらにこのような構成では、高分子薄膜層とグラファイトシートとの間の密着性が良いため、粘着材や接着材を使用することが必要なく、作業性が良好である。
【0034】以下、本発明の各実施の形態に即して、より詳細に説明をしていく。
【0035】(実施の形態1)本実施の形態では、出発原料のポリイミドフィルムとして、東レ・デュポン社製(商品名カプトン)の厚さ75μmのものを用いて実験を行った。予備熱処理として、窒素雰囲気中で最高処理温度を1200℃まで上げた後、室温まで温度を下げて取り出した。さらに高温熱処理として、Arガス雰囲気下で、最高処理温度2700℃まで上昇させた後に、室温まで温度を下げて焼成を行った。この後に圧延を行い作成したグラファイトシートは、繰り返し折り曲げが可能な可撓性及び柔軟性があり、厚さは約100μmであった。
【0036】以上に示したグラファイトシートの作成条件は、代表例であり、確実にグラファイト化され繰り返し折り曲げが可能な可撓性及び柔軟性があるのであれば、かかる条件に限定されるものでない。
【0037】こうして得られたグラファイトシートの両面に、絶縁膜材料として錫フタロシアニン薄膜を真空蒸着法により作成した。真空蒸着は10-4Paの真空中で、蒸着原料のとして錫フタロシアニン粉末をTaボートに入れ、360℃に加熱して行った。このようにして作成したグラファイトシート上の錫フタロシアニン薄膜の厚さは2μmであり、表面は絶縁性があった。
【0038】錫フタロシアニン薄膜により表面を絶縁化したグラファイトシートの熱伝導特性を評価するために、発熱源とヒートシンクとの間にグラファイトシートを挟み、発熱源とヒートシンクとの温度差を測定した。
【0039】本実施の形態では、2×1.5cmの大きさの発熱源とヒートシンクとの間に、2×1.5cmの大きさのグラファイトシート、およびグラファイトシートの両面を上記したように、2μmの厚さに錫フタロシアニン薄膜による絶縁層を形成したものを各々挟んで固定した。固定はM3ビスにより、締め付けトルクを1MPaとして固定した。発熱源に4Wの電力を投入して発熱させ、定常状態になった時点での発熱源とヒートシンクとの温度差を測定した。
【0040】その結果は、グラファイトシートのみの場合には発熱源とヒートシンクとの温度差は4.8℃であり、錫フタロシアニン薄膜による絶縁層を形成したグラファイトシートを用いた場合は5.2℃と、温度差の増大は0.4℃であった。
【0041】また、両面にかかる絶縁層を形成したグラファイトシートは、単独のグラファイトシートと同様な可撓性及び柔軟性を保っていた。
【0042】さらに、両面に絶縁層を形成したグラファイトシートは、表及び裏方向に各々100回湾曲させた場合でも剥離や亀裂などの破損は全く発生しなかった。
【0043】従って、本実施の形態による両面が絶縁層で覆われたグラファイトシートは、グラファイトシート本来の熱伝導性、可撓性及び柔軟性を保ったまま、機械的強度の向上、グラファイト粉末の脱離の防止、表面の絶縁化を実現したものであるといえる。
【0044】なお、本実施の形態のグラファイトシートを電子機器装置内に取り付けるために、切断、トリミング、取り付け穴あけ等の加工をする場合には、グラファイトシートに加工すると同じ扱いですむことも確認した。
【0045】(実施の形態2)第1の実施の形態と同様の方法で得られたグラファイトシートの両面に、絶縁膜材料としてテトラフェニルポルフィリン薄膜を真空蒸着法により作成した。真空蒸着は10-4Paの真空中で、蒸着原料のテトラフェニルポルフィリン粉末をTaボートに入れ、180℃に加熱して行った。このようにして作成したグラファイトシート上のテトラフェニルポルフィリン薄膜の厚さは2μmであり、表面は絶縁性があった。
【0046】テトラフェニルポルフィリン薄膜により表面を絶縁化したグラファイトシートの熱伝導特性を評価するために、発熱源とヒートシンクとの間にグラファイトシートを挟み、発熱源とヒートシンクとの温度差を測定した。
【0047】その結果は、グラファイトシートのみの場合には発熱源とヒートシンクとの温度差は4.8℃であり、テトラフェニルポルフィリン薄膜による絶縁層を形成したグラファイトシートを用いた場合は5.3℃と、温度差の増大は0.5℃であった。
【0048】(実施の形態3)グラファイトシートの両面に、絶縁膜材料としてフッ化カルシウム薄膜によるコーティングを行った以外には、第1の実施の形態と同様にして表面を絶縁化したグラファイトシートを作成した。フッ化カルシウム薄膜は10-4Paの真空中で、電子線加熱蒸着法により作成した。
【0049】このようにして作成したグラファイトシート上のフッ化カルシウム薄膜の厚さは3μmであった。表面は絶縁性があり、こすっても表面からシートのグラファイト粉末が落ちることはなかった。
【0050】フッ化カルシウム薄膜により表面を絶縁化したグラファイトシートの熱伝導特性を評価するために、発熱源とヒートシンクとの間にグラファイトシートを挟み、発熱源とヒートシンクとの温度差を測定した。
【0051】その結果は、グラファイトシートのみの場合には発熱源とヒートシンクとの温度差は4.8℃であり、フッ化カルシウム薄膜による絶縁層を形成したグラファイトシートを用いた場合は5.7℃と、温度差の増大は0.9℃であった。
【0052】(実施の形態4)グラファイトシートの両面に、絶縁膜材料としてポリパラキシリレン薄膜によるコーティングを行った以外には、第1の実施の形態と同様にして表面を絶縁化したグラファイトシートを作成した。ポリパラキシリレンの構造、製造法、重合法等は公知であり、固体二量体のジパラキシリレンを原料として、気相蒸着重合法により形成した。2Paの真空中で、昇華温度150℃、分解温度690℃、グラファイトシートの温度は室温でポリパラキシリレン薄膜を形成した。
【0053】このようにして作成したグラファイトシート上のポリパラキシリレン薄膜の厚さは5μmであった。表面は絶縁性があり、こすっても表面からシートのグラファイト粉末が落ちることはなかった。
【0054】ポリパラキシリレン薄膜により表面を絶縁化したグラファイトシートの熱伝導特性を評価するために、発熱源とヒートシンクとの間にグラファイトシートを挟み、発熱源とヒートシンクとの温度差を測定した。
【0055】本実施の形態では、2×1.5cmの大きさの発熱源とヒートシンクとの間に、2×1.5cmの大きさのグラファイトシート、およびグラファイトシートの両面を上記したように、5μmの厚さにポリパラキシリレン薄膜による絶縁層を形成したものを各々挟んで固定した。
【0056】その結果は、グラファイトシートのみの場合には発熱源とヒートシンクとの温度差は4.8℃であり、ポリパラキシリレン薄膜による絶縁層を形成したグラファイトシートを用いた場合は5.9℃と、温度差の増大は1.1℃であった。
【0057】また、両面にかかる絶縁層を形成したグラファイトシートは、単独のグラファイトシートと同様な可撓性及び柔軟性を保っていた。
【0058】さらに、両面に絶縁層を形成したグラファイトシートは、表及び裏方向に各々100回湾曲させた場合でも剥離や亀裂などの破損は全く発生しなかった。
【0059】従って、本実施の形態による両面が絶縁層で覆われたグラファイトシートは、グラファイトシート本来の熱伝導性、可撓性及び柔軟性を保ったまま、機械的強度の向上、グラファイト粉末の脱離の防止、表面の絶縁化を実現したものであるといえる。
【0060】なお、本実施の形態のグラファイトシートを電子機器装置内に取り付けるために、切断、トリミング、取り付け穴あけ等の加工をする場合には、グラファイトシートに加工すると同じ扱いですむことも確認した。
【0061】(実施の形態5)ポリパラキシリレン薄膜の厚さを、1μm、3μmとした以外には、第4の実施の形態と同様にして表面を絶縁化したグラファイトシートを作成した。
【0062】どの厚さのポリパラキシリレン薄膜の場合も、絶縁性が十分であり、表面をこすっても表面からグラファイトシートのグラファイト粉末が落ちることはなかった。
【0063】第4の実施の形態と同様にして、ポリパラキシリレン薄膜により表面を絶縁化したグラファイトシートの熱伝導特性を評価するために、発熱源とヒートシンクとの間にグラファイトシートを挟み、発熱源とヒートシンクとの温度差を測定した。
【0064】2×1.5cmの大きさの発熱源とヒートシンクとの間に、2×1.5cmの大きさのグラファイトシート、およびその両面を上記したように1μm、3μmの厚さにポリパラキシリレン薄膜による絶縁層を形成したグラファイトシートを各々挟んで固定した。
【0065】その結果は、素材のグラファイトシートのみの場合には発熱源とヒートシンクとの温度差は4.8℃であり、ポリパラキシリレンの厚さが1μm、3μmの絶縁層を形成したグラファイトシートを用いた場合は、それぞれ5.0℃、5.4℃であり、厚さが大きくなるにつれ、温度差が大きくなった。
【0066】(実施の形態6)グラファイトシートの両面に、絶縁膜材料として窒化シリコン薄膜によるコーティングを行った以外には、第1の実施の形態と同様にして表面を絶縁化したグラファイトシートを作成した。
【0067】グラファイトシートの温度を250℃にして、SiH4とNH3とN2からなる混合ガスを用いてプラズマCVDにより窒化シリコン薄膜を作成した。
【0068】このようにして作成したグラファイトシート上の窒化シリコン薄膜の厚さは2μmであった。表面は絶縁性があり、こすっても表面からシートのグラファイト粉末が落ちることはなかった。
【0069】窒化シリコン薄膜により表面を絶縁化したグラファイトシートの熱伝導特性を評価するために、発熱源とヒートシンクとの間にグラファイトシートを挟み、発熱源とヒートシンクとの温度差を測定した。
【0070】本実施の形態では、2×1.5cmの大きさの発熱源とヒートシンクとの間に、2×1.5cmの大きさのグラファイトシート、およびグラファイトシートの両面を上記したように、2μmの厚さに窒化シリコン薄膜による絶縁層を形成したものを各々挟んで固定した。
【0071】その結果は、グラファイトシートのみの場合には発熱源とヒートシンクとの温度差は4.8℃であり、窒化シリコン薄膜による絶縁層を形成したグラファイトシートを用いた場合は5.2℃と、温度差の増大は0.4℃であった。
【0072】なお、グラファイトシート上の絶縁膜としては、上述した窒化シリコンばかりでなく窒化アルミ(AlN)や窒化チタン(TiN)などを用いることができる。また、成膜方法は、上述のプラズマCVDによる方法だけでなく、スパッタ法などの他の方法によっても目的を達成できる。
【0073】(実施の形態7)グラファイトシートの両面に、絶縁膜材料としてスパッタ法によりAl23(アルミナ)薄膜によるコーティングを行った以外には、第1の実施の形態と同様にして表面を絶縁化したグラファイトシートを作成した。
【0074】このようにして作成したグラファイトシート上のアルミナ薄膜の厚さは2μmであった。表面は絶縁性があり、こすっても表面からシートのグラファイト粉末が落ちることはなかった。
【0075】アルミナ薄膜により表面を絶縁化したグラファイトシートの熱伝導特性を評価するために、発熱源とヒートシンクとの間にグラファイトシートを挟み、発熱源とヒートシンクとの温度差を測定した。
【0076】本実施の形態では、2×1.5cmの大きさの発熱源とヒートシンクとの間に、2×1.5cmの大きさのグラファイトシート、およびグラファイトシートの両面を上記したように、2μmの厚さにアルミナ薄膜による絶縁層を形成したものを各々挟んで固定した。
【0077】その結果は、グラファイトシートのみの場合には発熱源とヒートシンクとの温度差は4.8℃であり、アルミナ薄膜による絶縁層を形成したグラファイトシートを用いた場合は5.3と、温度差の増大は0.5℃であった。
【0078】なお、グラファイトシート上の絶縁膜としては、上述したアルミナばかりでなく二酸化ケイ素(SiO2)などを用いることができる。また、成膜方法は、上述のスパッタ法による方法だけでなく、蒸着などの他の方法によっても目的を達成できる。
【0079】(実施の形態8)本実施の形態では、グラファイトシートの作製方法として、ポリイミドフィルムを用いた予備焼成を、窒素中で、昇温速度5℃/minで昇温し、最高処理温度を1600℃として行った以外は第1の実施の形態と同様にして熱処理を行った。その後に圧延を行い作成したグラファイトシートは、繰り返し折り曲げが可能な可撓性及び柔軟性があり、厚さは約100μmであった。
【0080】この様にして作製したグラファイトシートについて、第1の実施の形態から第7の実施の形態における方法と同様にして絶縁材料層を設けたところ、いずれも良好な特性を示した。
【0081】また、予備焼成の最高処理温度を1400℃として、上記と同様な実験を行った時も、上記と同様な結果が得られた。
【0082】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、グラファイトシートの表面に厚さ5μm以下の絶縁材料層を設けることにより、電気的絶縁性、柔軟性に優れ、グラファイト粉末が脱離しにくく、熱抵抗が小さいといった特性を持つ良品質の熱伝導シ−トが得られるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 グラファイトシートと、前記グラファイトシートの表面に設けられた厚さ5μm以下の絶縁膜とを有する熱伝導シート。
【請求項2】 絶縁膜が有機材料、無機材料又は無機材料及び有機材料からなる複合材料を有する請求項1記載の熱伝導シート。
【請求項3】 有機材料が芳香環又は複素環を有する請求項2記載の熱伝導シート。
【請求項4】 有機材料がフタロシアニン系化合物又はポルフィリン系化合物を有する請求項2記載の熱伝導シート。
【請求項5】 絶縁膜がフッ素系化合物系の材料を有する請求項1又は2記載の熱伝導シート。
【請求項6】 絶縁膜がポリパラキシリレンを有する高分子薄膜である請求項1又は2記載の熱伝導シート。
【請求項7】 絶縁膜が金属酸化物又は金属窒化物を有する請求項1又は2記載の熱伝導シート。
【請求項8】 グラファイトシート上に蒸着やCVDなどの真空蒸着法を用いて絶縁層を設ける工程を有する熱伝導シートの製造方法。
【請求項9】 絶縁膜が有機材料、無機材料又は無機材料及び有機材料からなる複合材料を有する請求項8記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項10】 有機材料が芳香環又は複素環を有する請求項9記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項11】 有機材料がフタロシアニン系化合物又はポルフィリン系化合物を有する請求項9記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項12】 絶縁膜がフッ素系化合物系の材料を有する請求項8又は9記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項13】 絶縁膜がポリパラキシリレンを有する高分子薄膜である請求項8又は9記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項14】 絶縁膜が金属酸化物又は金属窒化物を有する請求項8又は9記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項15】 ポリイミドフィルムを原料として不活性ガス中で室温から昇温した後、1000℃から1600℃の温度範囲で焼成する予備処理工程と、前記予備処理工程後、室温から昇温して2500℃以上の温度で焼成してグラファイトシートを作製する工程を有する請求項8ないし14のいずれか記載の熱伝導シートの製造方法。

【公開番号】特開2001−287299(P2001−287299A)
【公開日】平成13年10月16日(2001.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−104649(P2000−104649)
【出願日】平成12年4月6日(2000.4.6)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】