説明

熱伝導性ペースト

【課題】放熱性が高くハンドリング性に優れた熱伝導性ペーストを提供する。
【解決手段】メソフェーズピッチを原料とし、平均繊維径が5〜20μm、平均長さが5〜6000μm、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が5〜20である熱伝導性の高く表面が平滑な、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが5nm以上であるピッチ系炭素短繊維フィラーを5〜80重量%をポリオルガノシロキサンに複合化し、粘度を抑制しハンドリング性に優れかつ熱伝導性ペーストを作成する。当該熱伝導性ペーストの熱伝導率が3W/(m・K)以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッチ系炭素短繊維フィラーを原料に用いた熱伝導性ペーストに関わるものである。さらに詳しくは、メルトブロー法によって作製した三次元ランダムマット状ピッチ系炭素繊維マットを粉砕してなるピッチ系炭素短繊維フィラーのサイズ、熱伝導率や表面性を制御することで、ハンドリング性及び熱伝導性に優れた熱伝導性ペーストに関わり、発熱性電子部品の放熱材料に適している。
【背景技術】
【0002】
近年、発熱性電子部品の高密度化や、携帯用パソコンをはじめとする電子機器の小型、薄型、軽量化に伴い、それらに用いられる放熱部材の低熱抵抗化の要求が益々高まっており、放熱部材の薄化が要求されている。放熱部材としては、シリコーンゴムに熱伝導性無機粉末が充填された硬化物からなる熱伝導性シート、シリコーンゲルに熱伝導性無機粉末が充填され、柔軟性を有する硬化物からなる熱伝導性スペーサー、液状シリコーンに熱伝導性無機粉末が充填された流動性のある熱伝導性ペースト、樹脂の相変化を利用したフェーズチェンジ型放熱部材等が例示される。これらのうち、薄葉化が容易なものは、放熱ペースト及びフェーズチェンジ型放熱部材であるが、汎用品においては、価格メリットと実績から放熱ペーストが好んで使用されている。
【0003】
熱伝導性グリースの熱伝導率を向上させるには、液状マトリクスに熱伝導材を高充填させると共に、薄葉化すればよく、その薄葉化のためにはペーストの粘度と充填材のサイズを調整すればよい。熱伝導性が優れた物質として、酸化アルミニウムや窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、石英、水酸化アルミニウムなどの金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物などが知られている。しかし、金属材料系の充填材は比重が高く熱伝導性グリースの重量が大きくなってしまう。また、粉末状の熱伝導材を用いた場合、ネットワークを形成しにくいため、高い熱伝導性を得にくい。よって、熱伝導性を向上させるには熱伝導材を多量に使用する必要があり、その結果として、熱伝導性ペーストの重量増やコスト増につながり、必ずしも使い勝手の良いものとはいい難い。
【0004】
そこで、比重が低く熱伝導率の高い炭素材料、中でも炭素繊維を用いた熱伝導性ペーストが(特許文献1参照)研究されている。しかし、既存の炭素繊維はピッチやPANなどから繊維を作成し、これを不融化、黒鉛化した後に粉砕して作成しているため、その表面が乱れており分散性に優れているとは言いがたく、粘度の高くハンドリング性に劣る熱伝導性ペーストが得られてしまう。
【特許文献1】特開2002−146672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、熱伝導性が高く低粘度でハンドリング性に優れるペーストが求められているという観点から、分散性に優れた熱伝導材をペーストに添加するのが望ましい。また、ここに用いられる熱伝導材は高い熱伝導性を有すると同時に、ペーストの中で繊維状態を維持できるような強度を有することが求められている。
【0006】
そこで、適切な熱伝導率を有し、さらに熱伝導性が向上し、加えてタック性を有する熱伝導性ペーストが強く望まれていた。また、マネジメントすべき素子・部材・部品の発熱が大きいため、耐熱性も必要とされていた。その他用途として、電波遮蔽の効果も必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、熱伝導性ペーストの熱伝導性を向上させ、更に低粘度でハンドリング性を向上させることを鑑み、表面が平滑なピッチ系炭素短繊維フィラーが、ペースト内での分散性に優れ良好な熱伝導率を達成しつつ、熱伝導性ペーストのハンドリング性が著しく改善されることを見出し本願発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明の目的は、
熱伝導材としてのピッチ系炭素短繊維フィラーとオルガノポリシロキサンとを複合した熱伝導性ペーストであって、当該ピッチ系炭素短繊維フィラーの走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平滑であり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが5nm以上であり、当該熱伝導性ペーストに当該ピッチ系炭素短繊維フィラーを5〜80重量%含み、当該熱伝導性ペーストの熱伝導率が3W/(m・K)以上であることを特徴とする熱伝導性ペーストによって達成される。
【0009】
更に、本発明には、当該炭素繊維がメソフェーズピッチを原料とし、平均繊維径が5〜20μm、平均長さが5〜6000μm、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が5〜20であること、当該熱伝導性ペーストの粘度が25℃、シェアレート1.7(1/s)の条件において5〜150Pa・S(50〜1500poise)であること、熱伝導材としてのピッチ系炭素短繊維フィラーに対して、1〜50重量%の酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、石英、水酸化アルミニウムの群より選ばれる1種以上の無機フィラーを含むことが包含される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱伝導性ペーストは、黒鉛結晶の広がり(六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズ)を一定サイズ以上に制御したピッチ系炭素短繊維フィラーの表面の平滑性を利用することで、高い熱伝導性と低粘度に由来する高いハンドリング性が両立できることを可能にせしめている。さらに、タック性に富むことより、電子部品用放熱シートや熱交換器等への密着性を高め、熱伝導効率を高めるとともに、軽量化を達成することが可能になる。また、耐熱性の高いシリコーンを使用することで耐熱性が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態について順次説明していく。
本発明で用いられるピッチ系炭素短繊維フィラーの原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特に光学的異方性ピッチ、すなわちメソフェーズピッチが好ましい。これらは、一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよいが、メソフェーズピッチを単独で用いることが炭素繊維の熱伝導性を向上させる上で特に好ましい。
【0012】
原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることができ、250℃以上350℃以下が好ましい。軟化点が250℃より低いと、不融化の際に繊維同士の融着や大きな熱収縮が発生する。また、350℃より高いとピッチの熱分解が生じ糸状になりにくくなる。
【0013】
原料ピッチはメルトブロー法により紡糸され、その後不融化、焼成、粉砕を経て最後に黒鉛化することによってピッチ系炭素短繊維フィラーとする。以下各工程について説明する。
【0014】
本発明においては、ピッチ系炭素短繊維フィラーの原料となるピッチ繊維の紡糸ノズルの形状については特に制約はないが、ノズル孔の長さと孔径の比3よりも小さいものが好ましく用いられ、更に好ましくは1.5よりも小さいものが用いられる。紡糸時のノズルの温度についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる温度、即ち、紡糸ピッチの粘度が2〜200Pa・S、好ましくは30〜150Pa・Sになる温度であればよい。
【0015】
ノズル孔から出糸されたピッチ繊維は、100〜350℃に加温された毎分100〜10000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって短繊維化される。吹き付けるガスは空気、窒素、アルゴンを用いることができるが、コストパフォーマンスの点から空気が好ましい。
【0016】
ピッチ繊維は、金網ベルト上に捕集され連続的なマット状になり、さらにクロスラップされることで3次元ランダムマットとなる。
3次元ランダムマットとは、クロスラップされていることに加え、ピッチ繊維が三次元的に交絡しているマットをいう。この交絡は、ノズルから、金網ベルトに到達する間にチムニと呼ばれる筒において達成される。線状の繊維が立体的に交絡するために、通常一次元的な挙動しか示さない繊維の特性が立体においても反映されるようになる。
【0017】
このようにして得られたピッチ繊維よりなる3次元ランダムマットは、公知の方法で不融化する。不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いて200〜350℃で達成される。安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが好ましい。また、不融化したピッチ繊維は、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガス中で焼成されるが、常圧で、且つコストの安い窒素中で実施される。不融化後、ピッチ繊維を粉砕することで、ピッチ系短繊維フィラーを得ることができる。粉砕は公知の方法によって行うことができる。具体的には、ボールミル、ジェットミル、クラッシャーなどを用いることができる。粉砕後、ピッチ系短繊維フィラーを焼成し黒鉛化する。焼成温度は、炭素繊維としての熱伝導率を高くするためには、2000〜3500℃にすることが好ましい。より好ましくは2300〜3500℃である。焼成の際に黒鉛性のルツボに入れ処理すると、外部からの物理的、化学的作用を遮断でき好ましい。黒鉛製のルツボは上記の原料となるピッチ系短繊維フィラーを、所望の量入れることが出来るものであるならば大きさ、形状に制約はないが、焼成中または冷却中に炉内の酸化性のガス、または炭素蒸気との反応によるピッチ系炭素短繊維フィラーの損傷を防ぐために、フタ付きの気密性の高いものが好適に利用できる。
【0018】
本発明で用いるピッチ系炭素短繊維フィラーは、走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平滑であることを特徴とする。ここで平滑であるとは、走査型電子顕微鏡による観察において、表面の凹凸が確認されないこと、表面の亀裂が確認されないこと、フィラーに割れが確認されないことを意味する。ここで、実質的にとは、例えば電子顕微鏡での観察のおいて、視野中(倍率1000)に上記欠陥部が10箇所以下であれば、含まれていてもよいことを意味し、走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平滑であると、ピッチ系炭素短繊維フィラーとマトリクスを混合して熱伝導性ペーストを作成した場合、ピッチ系炭素短繊維フィラーとマトリクスの相互作用が小さくなり、その結果、熱伝導性ペーストの粘度が小さくなり、ハンドリング性が向上する。逆に、ピッチ系炭素短繊維フィラーが平滑でないと、ピッチ系炭素短繊維フィラーとマトリクスの相互作用が大きくなり、その結果、熱伝導性ペーストの粘度が大きくなり、ハンドリング性が低下する。
【0019】
ピッチ系炭素短繊維フィラーの観察表面を平滑にするには、炭素繊維フィラーを粉砕後に黒鉛化することによりピッチ系炭素短繊維フィラーの欠損を抑制することによって達成することができる。黒鉛後に粉砕すると、ピッチ系炭素短繊維フィラーの欠損が多くなり、走査型電子顕微鏡での観察表面に欠損が観察される。
【0020】
本発明で用いるピッチ系炭素短繊維フィラーは、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが5nm以上であることが必要である。六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは公知の方法によって求めることができ、X線回折法にて得られる炭素結晶の(110)面からの回折線によって求めることができる。結晶子サイズが重要になるのは、熱伝導が主としてフォノンによって担われており、フォノンを発生するのが結晶であることに由来している。より好ましくは、20nm以上であり、さらに好ましくは30nm以上である。
【0021】
3次元ランダムマット状炭素繊維の平均繊維径は5〜20μmであることが必要である。5μm以下の場合には、マットの形状が保持できなくなることがあり生産性が悪い。繊維径が20μmを超えると、不融化工程でのムラが大きくなり部分的に融着が起こったりするところが発生する。より好ましくは5〜15μmであり、さらに好ましくは8〜12μmである。
【0022】
これに対してピッチ系炭素短繊維フィラーの平均長さは5〜6000μmであることが好ましい。5μmを下回ると繊維としての特徴が失われ、十分な熱伝導度を発揮できない。一方6000mmを超えると繊維の交絡が著しく増大し、熱伝導性ペーストの粘度が高くなりハンドリングが困難になる。より好ましくは10〜3000μm、さらに好ましくは20〜1000mmである。
【0023】
なお、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率として求められるCV値は、5〜20であることが好ましい。CV値が5を下回ることは工程上あり得ない。また、CV値が20を超えると不融化でトラブルを起こす直径が20μm以上の繊維が増える可能性が高くなり、生産性の観点から好ましくない。
【0024】
本願発明に関わる熱伝導性ペーストの熱伝導率は公知の方法によって測定することができるが、その中でも、プローブ法、ホットディスク法、レーザーフラッシュ法が好ましく、特にプローブ法が簡易的で好ましい。一般に炭素繊維そのものの熱伝導度は数百W/(m・K)であるが、ペーストなど複合体にすると、欠陥の発生・空気の混入・予期せぬ空隙の発生により、熱伝導率は急激に低減する。よって、熱伝導性ペーストとしての熱伝導率は実質的に2W/(m・K)を超えることが困難であるとされてきた。しかし、本願発明ではピッチ系炭素短繊維フィラーを用いることでこれを解決し、ペーストとして3W/(m・K)以上を実現した。より望ましくは、5W/(m・K)以上であり、さらに望ましくは10W/(m・K)以上である。
【0025】
ピッチ系炭素短繊維フィラーの含有率は、熱伝導性ペースト中、5〜80質量%である。5質量%未満であると、熱伝導率が低く、いくら薄化しても低熱抵抗化は困難となる。80質量%をこえると、ペーストの流動性が低くなり、薄葉化が困難となる。さらに望ましくは10〜70質量%である。
【0026】
ペーストの粘度はシェアレート1.7(1/s)の時、50〜1500poiseであることが好ましい。さらに好ましくは100〜1000poiseである。50poise未満の時はペーストの流動性が高すぎて、直ぐに流れ出てしまいペーストとして不向きである。1500poiseを超えると、流動性が低すぎて薄葉化が困難になる。なお、粘度は公知の方法を用いて測定できるが、具体的にはB型粘度計を用いて測定することができる。
【0027】
また、ピッチ系炭素短繊維フィラー以外の熱伝導材として、酸化アルミニウムや窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素、石英、水酸化アルミニウム、銀粉などの金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、金属を添加剤として加えても構わない。より具体的には酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、石英、水酸化アルミニウムの群より選ばれる1種以上の無機フィラーを添加しても構わない。添加量は、ピッチ系炭素短繊維フィラーに対して1〜50重量%である。これらを用いることにより、熱伝導性ペーストの絶縁性を向上させることができる。
【0028】
本発明で用いられるマトリクスとして使用されるオルガノポリシロキサンは、耐熱性・絶縁性等、電子材料の特性が備わったものである。これをマトリクスとすることによって信頼性の高い熱伝導性ペーストが得られる。本発明において用いるオルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で示されるものである。
SiO(4−a)/2 (1)
【0029】
上記式(1)において、Rは炭素数1〜18の飽和又は不飽和の1価炭化水素基から選択される1種もしくは2種以上の基である。このような基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロヘキシル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基等のアラルキル基、3,3,3−トリフロロプロピル基、2−(パーフロロブチル)エチル基、2−(パーフロロオクチル)エチル基、p−クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基などが挙げられるが、特にメチル基、フェニル基、及び炭素数6〜14のアルキル基が好ましい。aはシリコーンペースト組成物として要求される粘度の観点から、1.8〜2.2の範囲の正数がよく、特に1.9〜2.2の範囲の正数が好ましい。
【0030】
また、本発明で使用するオルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、50mm/sより低いとシリコーンペースト組成物にした時にオイルブリードが出やすくなるし、500000mm/sより大きくなるとシリコーンペースト組成物にしたときの伸展性が乏しくなることから、25℃における動粘度が50〜500000mm/sであることが好ましく、特に100〜10,000mm/sであることが好ましい。なお、動粘度は公知の方法により測定できるが、具体的にはオストワルド粘度計により測定することができる。
【0031】
本発明の熱伝導性ペーストは、上記諸材料を万能混合攪拌機、ニーダー等で混練することによって製造することができる。さらに、MEK、MIBKのようなケトン系溶剤や各種アルコール、シクロヘキサンやヘキサン、トルエン、ベンゼン等で粘度を調整することができる。
【0032】
本発明の熱伝導性ペーストの用途は、電子部品の放熱部材、熱伝導性充填剤、温度測定用等の絶縁性充填剤等がある。たとえば、本発明の熱伝導性ペーストは、MPUやパワートランジスタ、トランス等の発熱性電子部品からの熱を放熱フィンや放熱ファン等の放熱部品に伝熱させるために使用され、発熱性電子部品と放熱部品の間に挟み込まれて使用される。これによって、発熱性電子部品と放熱部品間の伝熱が良好となり、長期的に発熱性電子部品の誤作動を軽減させることができる。或いは、ヒートパイプとヒートシンクの接続や、種々の発熱体の入ったモジュールとヒートシンクとの接続に好適に用いることができる。
【0033】
本発明の熱伝導性ペーストは、タック性を有し、貼合したい物質とのアラインメントを確保することが容易である。タック性の度合いは、ペーストの処理温度によって変化させることが可能である。
【0034】
混練する前にピッチ系炭素短繊維フィラーは、電解酸化などによる酸化処理やカップリング剤やサイジング剤で処理することで、表面を改質させたものを用いることもできる。また、無電解メッキ法、電解メッキ法、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理的蒸着法、化学的蒸着法、塗装、浸漬、微細粒子を機械的に固着させるメカノケミカル法などの方法によって金属やセラミックスを表面に被覆させたものでもよい。以下、更に詳しく本発明について説明する。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を示すが、本願発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系炭素短繊維フィラーの直径は、焼成を経たフィラーを光学顕微鏡下でスケールを用いて測定した。
(2)ピッチ系炭素短繊維フィラーの糸長は、焼成を経たフィラーを抜き取り測長器で測定した。
(3)ピッチ系炭素短繊維フィラーの結晶子サイズは、X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
(4)ピッチ系炭素短繊維フィラーの表面は走査型電子顕微鏡で観察した。
(5)熱伝導性ペーストの熱伝導率は、ペーストをリファレンスプレート上に1mm厚に塗布し、京都電子製QTM−500を用いプローブ法で求めた。
(6)熱伝導性ペーストの粘度は、B型粘度計を用いて求めた。
【0036】
[実施例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径14.5μmのピッチ系短繊維を作製した。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付320g/mのピッチ系短繊維からなる3次元ランダムマットとした。
【0037】
この3次元ランダムマットを空気中で170℃から285℃まで平均昇温速度6℃/分で昇温して不融化を行った。不融化した3次元ランダムマットをボールミルで粉砕し、3000℃で焼成した。焼成後のピッチ系炭素短繊維フィラーの糸径は平均で9.8μm、平均糸径に対する糸径分散の比は12%であった。糸長は平均で50mmであった。六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズは17nmであった。ピッチ系炭素短繊維フィラーの走査型電子顕微鏡で観察した表面は平滑であった。
【0038】
ピッチ系炭素短繊維フィラーを35重量%、シリコーンオイル(東芝シリコーン社製商品名「TSF451−500」)65重量%とをプラネタリーミキサーを用いて30分間混合しながら真空脱泡してペーストを製造した。
作製した熱伝導性ペーストの熱伝導率を測定したところ、6.2W/(m・K)であった。粘度は11Pa・S(110poise)であった。
【0039】
[実施例2]
実施例1と同様の手法で3次元ランダムマット状炭素繊維を作製した。
ピッチ系炭素短繊維フィラーを50重量%、シリコーンオイル(東芝シリコーン社製商品名「TSF451−500」)50重量%とをプラネタリーミキサーを用いて30分間混合しながら真空脱泡してペーストを製造した。
作製した熱伝導性ペーストの熱伝導率を測定したところ、10.2W/(m・K)であった。粘度は45Pa・S(450poise)であった。
【0040】
[実施例3]
実施例1と同様の手法で3次元ランダムマット状炭素繊維を作製した。
ピッチ系炭素短繊維フィラーを25重量%、窒化ホウ素を10重量部、シリコーンオイル(東芝シリコーン社製商品名「TSF451−500」)65重量%とをプラネタリーミキサーを用いて30分間混合しながら真空脱泡してペーストを製造した。
作製した熱伝導性ペーストの熱伝導率を測定したところ、3.9W/(m・K)であった。粘度は10Pa・S(100poise)であった。
【0041】
[比較例1]
3次元ランダムマット状炭素繊維を焼成後に粉砕し、ピッチ系炭素短繊維フィラーを得た以外は、実施例1と同じ方法で熱伝導性ペーストを作製した。ピッチ系炭素短繊維フィラーの走査型電子顕微鏡で観察した表面は凹凸が目立って平滑でなかった。
作製した熱伝導性ペーストの熱伝導率を測定したところ、5.9W/(m・K)であった。粘度は240Pa・S(2400poise)と非常に高かった。
【0042】
[比較例2]
ピッチ系炭素短繊維フィラーの含有率を3%とした以外は、実施例1と同じ方法で熱伝導性ペーストを作製した。
成形された熱伝導性ペーストの熱伝導率を測定したところ、0.5W/(m・K)であった。粘度は3Pa・S(30poise)であった
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の熱伝導性ペーストは、黒鉛結晶の広がりを一定サイズ以上に制御したピッチ系炭素短繊維フィラーの表面の平滑性を利用することで、粘度を抑制しハンドリング性を高めつつ、高い熱伝導性が発現させることを可能にせしめている。さらに電子部品用放熱シートや熱交換器等への密着性を高め、熱伝導効率を高めるとともに、軽量化を達成することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導材としてのピッチ系炭素短繊維フィラーとオルガノポリシロキサンとを複合した熱伝導性ペーストであって、走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平滑であり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが5nm以上であり、当該熱伝導性ペーストに当該ピッチ系炭素短繊維フィラーを5〜80重量%含み、当該熱伝導性ペーストの熱伝導率が3W/(m・K)以上であることを特徴とする熱伝導性ペースト。
【請求項2】
当該炭素繊維がメソフェーズピッチを原料とし、平均繊維径が5〜20μm、平均長さが5〜6000μm、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が5〜20である、請求項1記載の熱伝導性ペースト。
【請求項3】
当該熱伝導性ペーストの粘度が25℃、シェアレート1.7(1/s)の条件において5〜150Pa・S(50〜1500poise)である、請求項1〜2のいずれかに1項に記載の熱伝導性ペースト。
【請求項4】
熱伝導材としてのピッチ系炭素短繊維フィラーに対して、1〜50重量%の酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、石英、水酸化アルミニウムの群より選ばれる1種以上の無機フィラーを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱伝導性ペースト。

【公開番号】特開2008−31295(P2008−31295A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206183(P2006−206183)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】