説明

熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法及び同装置、並びにコンピュータ読み取り可能な記録媒体及びコンピュータに実行させるためのプログラム

【課題】熱伝導性組成物の構成成分の連結状態を考慮した熱伝導性の評価を可能とする。
【解決手段】熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報を、2次元DFA法で解析することにより2次元DFAの傾きを得る第1手段31と、第1手段31で得られた2次元DFAの傾きから熱伝導性組成物のフラクタル性を評価し、この評価結果に基づいて、熱伝導性組成物の熱伝導性を評価する第2手段32とを備えた、熱伝導性組成物の熱伝導性評価装置30を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性組成物の熱伝導性評価を行う技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LSIなどの電子部品やコンピュータなどの電子装置からの熱の除去は、性能向上や安定性向上のために重要である。特に、パーソナルコンピュータ、携帯電話、タブレット携帯端末、スマートフォン、クラウドコンピューティングなどの情報技術の進歩によって、電子装置の高密度化、小型化が進んでおり、放熱はいっそう重要となってきている。また、電子装置を構成する電子部品も高集積化が進み、半導体素子の3次元積層などの技術では、発熱密度が高くなるために、より放熱が重要となってきている。
【0003】
種々の熱伝導性複合材料が開発されてきているが、電子部品、電子機器では、回路短絡の危険性をできるだけ小さくするために、熱伝導性とともに絶縁性が求められる。このため、高熱伝導性充填剤を絶縁性の樹脂に配合して複合材料とする熱伝導性複合材料が用いられる。高熱伝導性充填剤としては、金属、セラミックス、炭素材料やそれらの混合物、複合物を用いることができる。特に絶縁性を高めるために、高熱伝導性充填剤も絶縁性であることが好ましい。
【0004】
単一の物質、特に金属やセラミックスなどの熱伝導率はその状態(固体・液体・気体、結晶・非晶・液晶、配向その他の高次構造)により異なるが、通常成形体として用いられる場合は、どの部分でも均一な熱伝導率を有するものとして用いられることが多く、単一の物質の成形体における成分の分布やばらつきが性能上問題になることは少ない。
【0005】
一方、複合材料では、それを構成する成分、特に高熱伝導材料の成形体中での構成成分の大きさやその空間的分布やパーコレーション(連結)状態によっては、成形体全体の熱伝導性に大きな影響を与える。即ち、熱伝導パスが成形体中で形成されているかいないか、どのような形成の仕方であるか(熱の通りやすさに関係するパスの太さやパスの連続性)が熱伝導性にとって重要である。
【0006】
また、成形体中の熱伝導率に大きな分布(差)がある場合は、発熱部に接触する領域の熱伝導率がどの程度であるかが放熱性能に影響したり、あるいは二次加工によって大きな成形体から小片を加工して取り出して用いる場合などは、取り出した部分の熱伝導率にばらつきがあると、製品歩留まりが小さくなったり、所定の熱伝導率でない不良品が発生したりするという問題もある。
【0007】
前記成形体を形成するための熱伝導性組成物として、熱伝導性粒子と樹脂とから構成される熱伝導性樹脂組成物が知られている。熱伝導性樹脂組成物では、例えば生産性の観点から、熱伝導性粒子の含有量が低いことが求められている。
【0008】
このような高い熱伝導性、絶縁性等の他の所望の物性、及び生産性等の種々の問題に対して、熱伝導性粒子により構成される構造(例えば粒径、粒径分布、粒形状、粒子を予め固めた2次粒子、粒子密度によるパーコレーション)の制御により、解決が試みられているが、十分に高い熱伝導性を得る観点から、検討の余地が残されている。
【0009】
このような熱伝導性樹脂組成物として、例えば、酸化亜鉛、酸化アルミ、アルミニウム等の熱伝導性粒子を含有する熱伝導性シリコーン樹脂組成物であって、例えば熱伝導性粒子の含有量が窒化ホウ素粉体の含有量が92質量%である樹脂組成物であり、熱伝導率が約5W/(m・K)である樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
また前記熱伝導性樹脂組成物として、例えば、10〜35体積%の炭素繊維と窒化ホウ素粉体を1〜20体積%含有する樹脂組成物であって、その成形体の熱伝導率が約2〜4W/(m・K)であり、体積抵抗率が10〜10Ω・cmである樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0011】
また前記熱伝導性樹脂組成物として、例えば、表面積、粒度、タップ密度等の粒子特性の異なる二種の混合窒化ホウ素粉体を含有する樹脂組成物であって、例えば窒化ホウ素粉体の含有量が40体積%である樹脂組成物による成形体の熱伝導率が2〜13W/(m・K)である樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0012】
また前記熱伝導性樹脂組成物として、例えば、特定の粒度分布を有する窒化ホウ素粉体を含有する樹脂組成物であって、例えば窒化ホウ素粉体の含有量が40体積%であるシリコーン樹脂組成物による成形体の熱伝導性が2W/(m・K)弱である樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献4参照。)
【0013】
また前記熱伝導性樹脂組成物として、例えば、不規則非球状粒子をバインダで結合し、2未満のアスペクト比を有する球状窒化ホウ素凝集体を含有する樹脂組成物であって、例えば窒化ホウ素の含有量が約36質量%である樹脂組成物による成形体の熱伝導性が約2〜6W/(m・K)である樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献5参照。)。
【0014】
また前記熱伝導性樹脂組成物として、例えば、特定の粒径、粒度分布を有する窒化ホウ素粉体を含有する樹脂組成物であって、例えば窒化ホウ素粉体の含有量が55体積%である樹脂組成物による成形体の熱伝導率が約6〜11W/(m・K)である樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献6参照。)。
【0015】
また前記熱伝導性樹脂組成物として、例えば、平均粒径225μmのフレーク状結晶の凝集粒子である特殊な窒化ホウ素粉体を含有するポオリベンゾオキサジン組成物であって、例えば窒化ホウ素粉体の含有量が78.5体積%(88.0質量%)である樹脂組成物による成形体の熱伝導率が32.5W/(m・K)である樹脂組成物が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2009−221310号公報
【特許文献2】特開2008−266586号公報
【特許文献3】特表2010−505729号公報
【特許文献4】特開2005−343728号公報
【特許文献5】特表2008−510878号公報
【特許文献6】特開2008−189818号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Thermochimica Acta 320(1998) 177−186
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献1−6、非特許文献1に挙げるように、熱伝導性樹脂組成物の成形体に構造を持たせることにより、熱伝導性を改善した例が多数見られる。特に絶縁性を実現しつつ、熱伝導性を改善する場合には、自由電子の振動による熱伝導ではなく、熱伝導粒子の結晶格子振動の伝達による熱伝導が求められる。
【0019】
自由電子による熱伝導の場合には、熱伝導性粒子間の熱伝導を電子が介在するため、熱伝導粒子間に距離があっても良いが、格子振動による熱伝導の場合には、格子振動を伝えるために、粒子が直接接触していることが求められる。また、直接接触した場合には、粒子内の結晶格子振動に準じた熱伝導性が得られ、接触面積が小さくても十分に熱伝導性が得られる。
【0020】
特許文献1は、熱伝導粒子を濃密に含有させることによって、熱伝導粒子をより直接接触させている。特許文献2は、熱伝導粒子に加え、炭素繊維という繊維形状の熱伝導性粒子を介在させることによって、粒子同士をより直接接触させている。ただし、この場合には電気伝導性をもつ炭素繊維により熱伝導性樹脂組成物に電気伝導性が生じる。特許文献3は、2種類の大きさの熱伝導粒子により、大きい粒子の間に小さい粒子を介在させることによって、1種類の場合に対して、熱伝導粒子をより直接接触させている。この場合、電気伝導性は生じない。特許文献4は、明確な2種類の熱伝導粒子ではなく、粒子分布を持たせることにより、特許文献3と同じ効果を得ている。特許文献5は、事前に熱伝導粒子を直接接触させておいてから、熱伝導性樹脂組成物を得ている。特許文献6は特許文献4に対して、粒子の形状を選択することによって、異方性の少ない粒子接触により、異方性の少なく高い熱伝導性を得ている。非特許文献1では、形状をフレーク状のような複雑な形状にすることによって、熱伝導粒子をより直接接触させている。
【0021】
このように、特許文献1−6、非特許文献1に挙げるように、それぞれ個別の概念により、熱伝導粒子を直接接触させるための構造を熱伝導性組成物に持たせ、熱伝導性を改善している。しかしながら、特許文献1の概念で、特許文献2−6および非特許文献1の概念は評価できないし、また、非特許文献1の概念で、特許文献1−6の概念を評価できないし、他も同じである。このため、熱伝導性組成物の成形体の効率的な熱伝導性や諸特性の改善には、これら個別の概念を通観して評価できる概念を持った方法が必要である。
【0022】
熱伝導率をその物質の比熱と密度で割った値を熱拡散率といい、熱伝導率と比熱、密度をかけた値の平方根値を熱浸透率という。これらは、互いに変換できる値であり、測定方法の便宜により、使い分けている。
【0023】
熱伝導性組成物の放熱特性を評価する方法としては、熱伝導率を求める方法がある。熱伝導率は、レーザフラッシュ法、キセノンフラッシュ法、周期加熱法、ホットディスク法などにより熱拡散率を測定し、別に測定された複合材料の比熱と密度の3者を掛け合わせて、求めることができる。
【0024】
レーザフラッシュ法では、試料の表面をパルスレーザ光により瞬間的に均一加熱し、試料裏面の温度変化を放射温度計で測定する。キセノンフラッシュ法では、加熱源として、レーザ光に代わりキセノンランプを用いている。周期加熱法では、レーザ光やキセノンランプで試料の表面を周期的に均一に加熱し、同じく試料裏面の温度変化を放射温度計で測定する。ホットディスク法では、試料で挟んだセンサーに一定電流を通電することによって発熱させ、その時のセンサーの電圧変化を測定している。
【0025】
ホットディスク法を除きこれらの方法は、測定方法に適した厚みに薄片状に成形した、あるいは成形体から切削等によって熱伝導率を測定したい方向が厚み方向となるように薄片状に切り出したサンプルについて、その厚み方向の熱伝導率(熱拡散率から前記のように求める)を測定するものである。この方法では、直径数mm程度の領域の平均化された熱伝導率を複合材料としての物性値として得ることができるが、その分布を詳細に求めることは通常困難である。ホットディスク法では、試料でセンサーを挟み込むため、同じくその分布を詳細にもとめることは、通常困難である。
【0026】
一方、熱物性顕微鏡を用いた熱浸透率の測定のように、物体表面からの光の反射率が温度により変化するサーモリフレクタンスを利用して、絞ったレーザ光により試料を加熱し、試料の温度変化をもう一つの絞ったレーザ光による反射光の強度から検出して、熱浸透率を必要に応じて面積の狭い点から、線、面測定をする方法も開発されている。この方法は通常、厚さ数mmの試料の数×数mmの領域について、数μmの分解能で熱浸透率を求め、熱伝導率を求めることができる。
【0027】
この方法により、測定面表面付近の熱伝導率分布を求めることができるが、熱伝導率に影響を与えると考えられる高熱伝導性組成物のパーコレーション状態を評価するものではない。
【0028】
このように複合材料の熱伝導率を測定する様々な方法はあるが、それらは熱伝導性組成物の連結状態に関する情報を含んだ測定方法ではない。熱伝導性組成物の成形体は、成形体を構成する熱伝導性粒子により熱伝導性パスを形成することで熱伝導性が向上する。このため、熱伝導性組成物の連結状態の情報が得られれば、熱伝導性を評価することが可能となる。また、複合材料の構成物の種類の選択、形状・粉体特性の制御、混合方法や成形方法などの選択や加工条件の最適化、切削・トリミング・貼りあわせ・接着などの二次加工における方向や配置の最適化に関する因子を明確に得ることができる。
【0029】
なお、熱物性顕微鏡による測定により2次元熱伝導率分布を得て、格子上に分布エリアを分割し、その熱伝導率を、有限要素法で合成して熱伝導率を評価することもできるが、この場合は結果としての熱伝導率は得られるが、熱伝導率向上のための連結状態を直接評価できるものではない。
【0030】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、熱伝導性組成物の構成成分の連結状態を考慮して、熱伝導性組成物の熱伝導性の評価を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
発明者等による鋭意検討の結果、熱物性顕微鏡像により得られる熱伝導性組成物の熱伝導に関する分布情報を解析して、フラクタル情報を得ることにより、熱伝導材料の成形体中での空間的配置やその連結状態に関する情報が得られることを見出した。
【0032】
(1)即ち、本発明の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法は、熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報に所要の演算処理を施して、該熱伝導性組成物についてのフラクタル情報を得る第1ステップと、該第1ステップで得られた該フラクタル情報に基づいて、該熱伝導性組成物の熱伝導性を評価する第2ステップとを備えたことを特徴としている。
【0033】
(2)また、本発明の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法では、該第1ステップを、前記分布情報を、2次元DFA法で解析することにより、前記フラクタル情報を得るステップとしてもよい。
【0034】
(3)また、本発明の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法では、前記フラクタル情報を、2次元DFAプロットまたは該2次元DFAプロットの微分プロットから得られる2次元DFAの傾きとしてもよい。
【0035】
(4)また、本発明の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法では、該第2ステップを、前記2次元DFA法で得られた前記2次元DFAの傾きから前記熱伝導性組成物のフラクタル性を評価し、この評価結果に基づいて、該熱伝導性組成物の熱伝導性を評価するステップとしてもよい。
【0036】
(5)また、本発明の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法では、該第1ステップを、前記分布情報を、ボックス・カウンティング法で解析することにより、前記フラクタル情報を得るステップとしてもよい。
【0037】
(6)また、本発明の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法では、前記フラクタル情報を、フラクタル次元としてもよい。
【0038】
(7)また、本発明の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法では、該第2ステップを、前記ボックス・カウンティング法で得られた前記フラクタル次元から前記熱伝導性組成物のフラクタル性を評価し、この評価結果に基づいて、該熱伝導性組成物の熱伝導性を評価するステップとしてもよい。
【0039】
(8)また、本発明の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法では、前記熱伝導性組成物を熱伝導性樹脂組成物としてもよい。
【0040】
(9)また、本発明の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法では、前記熱伝導に関する分布情報を、熱拡散率分布情報、熱伝導率分布情報及び熱浸透率分布情報のうちのいずれかの分布情報としてもよい。
【0041】
(10)また、本発明の熱伝導性組成物の熱伝導性評価装置は、熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報を、2次元DFA法で解析することにより2次元DFAの傾きを得る第1手段と、該第1手段で得られた前記2次元DFAの傾きから前記熱伝導性組成物のフラクタル性を評価し、この評価結果に基づいて、該熱伝導性組成物の熱伝導性を評価する第2手段とを備えたことを特徴としている。
【0042】
(11)また、本発明の熱伝導性組成物の熱伝導性評価装置では、前記熱伝導性組成物を熱伝導性樹脂組成物としてもよい。
【0043】
(12)また、本発明の熱伝導性組成物の熱伝導性評価装置では、前記熱伝導に関する分布情報を、熱拡散率分布情報、熱伝導率分布情報及び熱浸透率分布情報のうちのいずれかの分布情報としてもよい。
【0044】
(13)また、本発明のコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、コンピュータを、熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報を、2次元DFA法で解析することにより2次元DFAの傾きを得る第1手段と、該第1手段で得られた前記2次元DFAの傾きから前記熱伝導性組成物のフラクタル性を評価し、この評価結果に基づいて、該熱伝導性組成物の熱伝導性を評価する第2手段として機能させるためのプログラムを記録したことを特徴としている。
【0045】
(14)また、本発明のプログラムは、コンピュータを、熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報を、2次元DFA法で解析することにより2次元DFAの傾きを得る第1手段と、該第1手段で得られた前記2次元DFAの傾きから前記熱伝導性組成物のフラクタル性を評価し、この評価結果に基づいて、該熱伝導性組成物の熱伝導性を評価する第2手段として機能させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報から、フラクタル情報を得ることにより、熱伝導性組成物の構成成分の連結状態の情報に基づいて、熱伝導性の評価を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施形態の一例としての熱伝導性評価装置のハードウェア構成を模式的に示す図である。
【図2】実施形態の一例としての熱物性顕微鏡の構成を模式的に示す図である。
【図3】実施形態の一例としての熱伝導性評価装置の機能ブロックを模式的に示す図である。
【図4】実施形態の一例としての熱伝導性評価装置における熱伝導性評価処理を説明するためのフローチャートである。
【図5】実施例に係る熱伝導性の評価の手順を説明するためのフローチャートである。
【図6】(a)〜(c)は、実施例に係る熱伝導性組成物の作成を説明するための模式図である。
【図7】(a−1)、(a−2)は、実施例に係る測定サンプルの熱拡散率分布を示す図であり、(b−1)、(b−2)は、実施例に係る測定サンプルの熱拡散率の2次元DFAプロットの微分プロットを示す図である。
【図8】実施例に係る熱伝導性組成物の熱伝導性の評価を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
[1.熱伝導性評価手法について]
本発明に係る熱伝導性評価方法(以下、本評価方法ともいう)は、熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報に所要の演算処理を施して、熱伝導性組成物についてのフラクタル情報を得る第1ステップ(フラクタル情報取得ステップ)と、第1ステップで得られたフラクタル情報に基づいて、熱伝導性組成物の熱伝導性を評価する第2ステップ(熱伝導性評価ステップ)とを備えている。
【0049】
また、本発明に係る熱伝導性評価装置(以下、本評価装置ともいう)は、熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報を、2次元DFA法で解析することにより2次元DFAの傾きを得る第1手段(フラクタル情報取得手段)と、第1手段で得られた2次元DFAの傾きから熱伝導性組成物のフラクタル性を評価し、この評価結果に基づいて、該熱伝導性組成物の熱伝導性を評価する第2手段(熱伝導性評価手段)とを備えている。
【0050】
本評価方法及び本評価装置(以下、本評価方法と装置本評価装置とを総称し、本評価手法という)は、発明者等の検討により、熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報がフラクタル構造をとる場合、即ち熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報がフラクタル性を有する場合に、熱伝導性組成物の熱伝導性が高いものと評価できることを見出し、完成させたものである。
【0051】
熱伝導性組成物の熱伝導に関する分布情報がフラクタル構造をとる場合に、熱伝導性組成物の熱伝導率が高いものとなる理由は明らかでは無いが、以下の機構によるものと考えられている。
【0052】
熱伝導性組成物の成形体は、それを構成する熱伝導性粒子等の構成成分、又は構成成分の集合体(例えば熱伝導性粒子(1次粒子)が凝集して得られる2次粒子(凝集粒子))の大きさや、空間的分布、又はパーコレーション(連結)状態に起因する構造を持つことにより、熱伝導性パスを形成し、これにより熱伝導性が向上すること考えられている。ここで、熱伝導性組成物の成形体内部に熱伝導性パスが形成されている場合には、熱伝導性パスの形成に起因して、熱伝導性組成物の表面に観察される熱伝導に関する分布情報に規則性が現れるものと考えられる。そこで、熱伝導性組成物の熱伝導に関する分布情報についてフラクタル性の確認を行うことにより、熱伝導に関する分布情報がフラクタル構造をとる場合には、熱伝導に関する分布情報が規則性を有する構造をなしているものと判断することが出来、さらには熱伝導性組成物の成形体内部に熱伝導性パスが形成されているものと予測することが出来る。即ち、熱伝導性組成物の熱伝導に関する分布情報から、熱伝導性組成物についてのフラクタル性の確認を行うことで、熱伝導性組成物内部の熱伝導性パスの形成状態について予測を行い、さらには熱伝導性の評価を行うことが可能であるものと考えられる。
【0053】
本評価手法では、熱伝導率に分布(差)を有する熱伝導性物質の評価に用いることが出来る。中でも、2種類以上の構成成分からなる組成物、又は複合材料が好ましく、熱伝導性粒子と樹脂とから構成される熱伝導性樹脂組成物及びその成形体に好適に用いられる。もちろん、熱伝導率に分布(差)を有する単一の物質の評価に用いることも出来る。
上記の各ステップは以下の項で詳しく説明する。
【0054】
[1−1.フラクタル情報取得ステップ又はフラクタル情報取得手段]
第1ステップ(フラクタル情報取得ステップ)又は第1手段(フラクタル情報取得手段)では、熱物性顕微鏡による測定から得られる熱伝導に関する分布情報について、フラクタル情報取得用コンピュータソフトウエア(以下、ソフトウェア、コンピュータプログラム、プログラムとも言うが、これらは同じものを指すものとする。)を用いて解析することにより、熱伝導性組成物についてのフラクタル情報を得る。
【0055】
熱伝導に関する分布情報としては、熱拡散率分布情報を用いても良く、熱伝導率分布情報を用いても良く、また、浸透率分布情報を用いても良い。これらのデータは熱物性顕微鏡による測定により、二次元状の数値情報として得られる。
【0056】
熱伝導に関する分布情報の解析は、2次元情報からフラクタル情報を得る公知の方法を用いることが出来るが、2次元DFA(Detrended Flactuation Analysis)法、又はボックス・カウンティング法を用いることが好ましい。
【0057】
2次元DFA法により2次元DFAプロット若しくは2次元DFAプロットの微分プロットから得られる2次元DFAの傾き、又はボックス・カウンティング法により得られるフラクタル次元を、熱伝導性組成物についてのフラクタル情報として、後述する熱伝導性評価ステップに用いることが出来る。
【0058】
[1−2.熱伝導性評価ステップ又は熱伝導性評価手段]
第2ステップ(熱伝導性評価ステップ)又は第2手段(熱伝導性評価手段)では、第1ステップ又は第1手段で得られた、フラクタル情報に基づいて、熱伝導性評価用コンピュータソフトウエアを用いて熱伝導性組成物の熱伝導性を評価する。
【0059】
2次元DFA法により得られた2次元DFAプロット若しくは2次元DFAプロットの微分プロットから得られた2次元DFAの傾き、又はボックス・カウンティング法で得られたフラクタル次元を、熱伝導性組成物についてのフラクタル情報として用いることが出来る。
【0060】
熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報がフラクタル構造をとる場合、即ち熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報がフラクタル性を有する場合には、熱伝導性組成物がフラクタル構造をとっており、熱伝導性が高いものと評価することが出来る。
【0061】
[1−3.熱伝導性組成物について]
本評価手法に用いられる、熱伝導性樹脂組成物について説明する。
熱伝導性樹脂組成物に含まれる熱伝導性粒子としては、例えば、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、シリカ、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化銀、アルミニウム粒子、銀粒子、銅粒子、錫粒子、炭素繊維、黒鉛、フラーレン、カーボンナノファイバー、銀ナノロッド、銅ナノロッド、セルロースナノファイバーが挙げられる。大きさは0.01μmから10μmのものが用いられる。
【0062】
熱伝導性粒子をそのまま1次粒子として使用してもよく、1次粒子を固め構造持たせた2次粒子として使用してもよい。2次粒子は、1次粒子を水スラリー(固体粒子を液体の中に入れてできる泥状になった流動体)にしたあと加熱または自然乾燥させ粉砕したり、水スラリーを微細な霧状にし、これを熱風中に噴出させ、瞬間的に乾燥させたり、1次粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱して固め粉砕し、流動性、熱伝導性の改善を目的に固め構造持たせることで得られる。2次粒子の大きさは、10μmから600μmになる。
【0063】
樹脂には、放熱材等の熱伝導性樹脂組成物による成形体に一般に用いられる樹脂成分やゴム成分を用いることができる。樹脂は一種でもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
樹脂成分としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルアミドイミド樹脂、ポリエーテルアミド樹脂及びポリエーテルイミド樹脂が挙げられる。また、それらのブロック共重合体、グラフト共重合体等の共重合体も含まれる。熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、及びフェノール樹脂が挙げられる。
【0065】
ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体ゴム、イソブチレン−イソプレン共重合体ゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、フッソゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、及びポリウレタンゴムが挙げられる。
【0066】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、及び多官能型エポキシ樹脂が挙げられる。また、エポキシ樹脂は二種類以上を混合して用いてもよい。
【0067】
本評価手法の対象の熱伝導性樹脂組成物は、さらなる成分を含有していてもよい。このようなさらなる成分としては、例えば、液晶エポキシ樹脂等の、前記の樹脂に機能性を付与した機能性樹脂、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、繊維状窒化ホウ素等の窒化物粒子、アルミナ、繊維状アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン等の絶縁性金属酸化物、ダイヤモンド、フラーレン等の絶縁性炭素成分、樹脂硬化剤、樹脂硬化促進剤、及び溶剤が挙げられる。
【0068】
樹脂硬化剤は、用いられる樹脂の種類に応じて適宜に選ばれる。例えばエポキシ樹脂用の樹脂硬化剤としては、酸無水物系硬化剤やアミン系硬化剤が挙げられる。酸無水物系硬化剤としては、例えば、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、及びベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物が挙げられる。アミン系硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン等の芳香族ポリアミン及びジシアンジアミドが挙げられる。エポキシ樹脂用の硬化剤であれば、通常、エポキシ樹脂に対して当量比で、0.3〜1.5の範囲で配合される。
【0069】
樹脂硬化促進剤は、用いられる樹脂や樹脂硬化剤の種類に応じて適宜に選ばれる。例えば前記酸無水系硬化剤用の樹脂硬化促進剤としては、例えば三フッ化ホウ素モノエチルアミン、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールが挙げられる。エポキシ樹脂用の硬化促進剤であれば、エポキシ樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部の含有量で用いられる。
【0070】
溶剤は、熱伝導性樹脂組成物の粘度を下げる観点から用いることができる。溶剤には、公知の溶剤の中から樹脂を溶解する溶剤が用いられる。このような溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、フェノール、及びヘキサフルオロイソプロパノールが挙げられる。溶剤は、樹脂100質量部に対して、0〜10,000質量部の含有量で用いられる。
【0071】
本評価手法の対象の熱伝導性樹脂組成物は、前記の窒化ホウ素粉体、樹脂、及び必要に応じてさらなる成分を撹拌や混錬によって均一に混合することによって得ることができる。例えば前記の樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、単軸又は二軸混錬機等の一般的な混錬機を用いて、熱可塑性樹脂の溶融温度以上で前記の材料を混錬することによって本評価手法に用いられる熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
【0072】
また例えば前記の樹脂がエポキシ樹脂やシリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂である場合には、窒化ホウ素粉体と硬化前の樹脂とを均一に混合することによって、又は得られる混合物を硬化させることによって、本評価手法の対象の熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
【0073】
本評価手法の対象の成形体は、前記の本評価手法の熱伝導性樹脂組成物を成形してなる。成形体の成形は、樹脂組成物の成形に一般に用いられる方法を利用して、熱伝導性樹脂組成物の状態や樹脂の種類に応じて適宜に行うことができる。
【0074】
例えば、可塑性や流動性を有する熱伝導性樹脂組成物による成形体の成形は、熱伝導性樹脂組成物を所望の形状で、例えば型へ収容した状態で、硬化させることによって行うことができる。このような成形体の製造では、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、及び圧縮成形を利用することができる。
【0075】
前記の樹脂がエポキシ樹脂やシリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂である場合では、成形体の成形、すなわち硬化は、それぞれの硬化温度条件で行うことができる。前記の樹脂が熱可塑性樹脂である場合では、成形体の成形は、熱可塑性樹脂の溶融温度以上の温度及び所定の成形速度や圧力の条件で行うことができる。
また前記成形体は、熱伝導性樹脂組成物の硬化物を所望の形状に削り出すことによって得ることができる。
【0076】
[1−4.熱物性顕微鏡による熱伝導に関する分布情報の測定]
本評価手法に用いられる、熱物性顕微鏡による、熱伝導性組成物の熱伝導に関する分布情報の測定について説明する。
【0077】
図2は、本評価手法に用いられる熱物性顕微鏡の一例の構成を示す模式図である。測定サンプル201はXYステージ221に置かれており、レーザー光の照射、集光位置を調節可能になっている。XYステージ221上の測定サンプル201に、加熱用レーザー211と検出用レーザー212からそれぞれレーザー光を照射する。
【0078】
加熱用レーザー211は、例えば830nm波長レーザーダイオードであって、ファンクションジェネレータ222から発生された999KHzの周波数で振幅変調された、80μmのビームスポットのレーザ光で加熱を行う。検出用レーザー212は、例えば782nm波長レーザダイオードであって、22μmのビームスポットの参照レーザ光で熱変動の測定を行う。
【0079】
検出用レーザー212の光軸上には、ビームスプリッタ223、224が設けられている。ビームスプリッタ223、224で反射されたレーザー光は、それぞれディテクタ225、CCDカメラ226に導かれる。
【0080】
ディテクタ225により検出用レーザーのレーザー光の検出を行う。ディテクタ225には、例えばシリコンフォトダイオードを用いることが出来る。ディテクタ225により測定される熱変動の振幅波形と、ファンクションジェネレータ222で発生された波形と比較することで、熱変動の周期ずれ(位相差)が得られる。
CCDカメラ226により、加熱用レーザー211と検出用レーザー212の照射の調整を行う。
【0081】
測定する試料の上にモリブデン、アルミ、金、ニッケル、白金、タングステン、タンタル、クロム、鉄のうち一つまたは、二種以上の合金の金属膜を付け、この金属膜を加熱用レーザー211から周期的に強度を変えた加熱用レーザ光を照射することにより加熱を行う。物体表面からの光の反射率が温度により変化することを利用して、金属膜表面の温度変化を検出する(周期サーモリフレクタンス法)。反射率は、金属膜に照射したもう一つの検出用レーザ光212の反射光の強度の変化から測定する。試料が熱を伝えやすいと、加熱の周期と温度の変化の周期は一致する。一方、熱を伝えにくい試料では2つの周期がずれる。このずれの量から試料の熱の伝わりやすさ(熱拡散率)を求めることができる。
【0082】
熱拡散率αである半無限の試料の表面を周期加熱し、その温度θが周期f、振幅θ0
θ(t) =θ0 sin (2πt / f )
のように変化する場合、表面からxの位置における温度応答は、
θx(t) =θ0 exp[−x (πt / (αf ))1/2・sin (2πt / (f−x (πt / (αf ))1/2 ))
で表される。位置xにおける位相差をφxとすると、
α = (πx2 ) / [ f (ln(θx0))2 ] = (πx2 ) / ( fφx2 )
となり、振幅θxまたは位相差φxを実験で測定することにより、熱拡散率αが得られる。
【0083】
レーザ光を細く絞って照射すれば、微小な範囲の伝熱的性質(熱拡散率)が得られ(熱物性顕微鏡)、XYステージ221を用い測定位置を少しずつ変えて測定すれば、試料の二次元的な伝熱的性質(熱拡散率)の分布を得られる。
【0084】
熱拡散率にその物質の比熱と密度を掛け合わせることで、熱伝導率を得ることが出来る。また、熱伝導率と、比熱と、密度とを掛け合わせた値の平方根をとることで、熱浸透率を得ることが出来る。
熱伝導に関する分布情報としては、熱拡散率、熱伝導率、または熱浸透率のいずれを用いても良い。
【0085】
[1−5.2次元DFAによる熱伝導に関する分布情報の解析方法]
熱伝導に関する分布情報からフラクタル情報を得る解析方法として、2次元DFA(Detrended Flactuation Analysis)法について説明する。
【0086】
2次元DFAとは、2次元データを特定のスケール(正方形ウィンドウサイズ)で分割し、各正方形ウィンドウ内においてトレンドを差し引いた後の揺らぎの大きさを求め、この揺らぎの大きさとスケールとの相関をlog−logプロットする解析法である。なお、トレンドとは、各ウィンドウ内の二次元データに対しm次の多項式(m=0,1,2,・・・といった自然数)を最小二乗法によりあてはめたものをいう。以下にその手法を詳述する。
【0087】
(1)まず、M×N個(M、Nは自然数を表わす)の値からなる2次元データx(i,j)、i=1,2,・・・M、j=1,2,・・・N、からその平均値xavrを引いたものを積算して、新たな時系列データy(k,l)、k=1,2,・・・M、l=1,2,・・・Nを作成する。平均値xavr及び時系列データy(k,l)は、以下に示す式1、式2のように記述される。
【0088】
【数1】

【0089】
(2)上記の2次元データy(k,l)を2次元上でスケール(正方形ウィンドウサイズ)s×sの領域に分ける。すなわち、2次元データy(k,l)をs×s個(sは自然数を表わす)のデータからなる正方形ウィンドウで分割する。
【0090】
(3)各ウィンドウ内における2次元データy(k,l)に、m次の多項式(mは0,1,2,・・・といった自然数であり、典型的にはm=2が用いられる)を最小二乗法によりあてはめることにより、各ウィンドウ内でのトレンドy(k,l)を求める。
(4)2次元データy(k,l)からこのトレンドy(k,l)を差し引いた後の揺らぎの大きさFL(s)を以下の式3に従って求める。
【0091】
【数2】

【0092】
(5)ウィンドウサイズsを変化させたときの揺らぎの大きさFL(s)を求め、ウィンドウサイズsの積s×sと、揺らぎの大きさFL(s)とについてそれぞれ対数をとり、log10(s×s)とlog10FL(s)との関係をグラフ上にプロットする。このプロットを2次元DFAプロットと呼ぶ。この2次元DFAプロットに直線をあてはめる(直線近似する)ことができれば、その直線の傾き(2次元DFAの傾き)がもとの2次元データx(i,j)のフラクタル指数となる。この2次元DFAの傾きを、熱伝導性組成物についてのフラクタル情報として用いることが出来る。
【0093】
もとの2次元データが一定、一定に増加か減少、または周期性を持てば、2次元DFAプロットは、2次元DFAの傾きが0の直線になり、ホワイトノイズであれば、傾き0.5の直線になり、ピンクノイズであれば、傾き1.0の直線になり、ブラウンノイズであれば、傾き1.5の直線になることが知られている。
【0094】
一般に2次元の複合材表面データの場合、2次元DFAプロットが完璧な直線になることはないので、ウィンドウサイズsの変化に伴う局所的な2次元DFAの傾きを得るために、ウィンドウサイズsの積s×sについて対数をとったlog10(s×s)と、揺らぎ成分FL(s)について対数をとったlog10FL(s)とのプロット(2次元DFAプロット)について微分プロットを行うことで、2次元DFAプロットの微分プロットを作成する。この2次元DFAプロットの微分プロットは、ウィンドウサイズsに基づくlog10(s×s)と、2次元DFAの傾きとの関係を表わしたプロットとして得られる。2次元DFAプロットの微分プロットに基づき、特定のウィンドウサイズsにおける2次元DFAの傾きを得ることが出来る。即ち、2次元DFAプロットの微分プロットは、解析に用いられるウィンドウサイズsと、2次元DFAの傾きとの関係を表わすものである。
【0095】
[1−6.ボックス・カウンティング法による熱伝導に関する分布情報の解析方法]
次に、熱伝導に関する分布情報からフラクタル情報を得る解析方法として、ボックス・カウンティング法について説明する。
【0096】
ボックス・カウンティング法とは、2次元の場合を例にとると、平面の中にある曲線のフラクタル次元を求める方法である。平面を一辺の長さLの正方形格子(ボックス)で分割し、その分割した各正方形ボックスの中でその曲線が入っている正方形ボックスの個数N(L)を求め、ボックスの1辺の長さを変化させたとき、以下の関係式が近似でも良いが成り立つ場合、Dがフラクタル次元になる。ボックス・カウンティング法を3次元に適用する場合には、曲線は曲線または曲面になり、平面は3次元空間になり、正方形を立方体として求める。
N(L) = C×L−D (Cは定係数)
【0097】
なお、この他にフラクタル次元を求める方法として、スケール変換法、カバー法、視野拡大法、回転半径法、密度相関関数法があるが、これらの方法を用いても良い。
【0098】
本件では、熱伝導率、熱拡散率、又は熱浸透率の分布画像から、ボックス・カウンティング法を適用する曲線を得るため、2値化を行い、値の変わる所を曲線とする。2値化には、熱伝導性樹脂組成物の樹脂の熱伝導率、熱拡散率、及び熱浸透率と、それ以外とについて行うことが好ましい。また、閾値を、濃度ヒストグラムによるP−タイル法、モード法、判別分析法、最小誤差法や、局所的性質を利用する方法の微分ヒストグラム法、分布画像に「つぶれ」や「かすれ」ができるだけ少なくなるよう、注目画素の濃度値を補正する方法、分布画像をいくつかの小領域に分割し、各小領域ごとに濃度ヒストグラムを調べ、そこで大きく値が変わる部分が含まれていると判断された場合,その小領域の性質にもっともあった閾値を設定する動的閾値処理法、別途模範となる2値化された分布画像の画素と注目画素の結合確率を用いて注目画素を予測し、予測値が1となる確率が大なら、2値化後の注目画素が1になりやすいようにある基準の閾値から一定量を差し引いた値を新たな閾値とし、予測値が0となる確立が大なら基準の閾値に一定量を加えた値を新しい閾値にする適応的処理法を適用しても良い。
【0099】
上記の方法により求められれたフラクタル次元を、熱伝導性組成物についてのフラクタル情報として用いることが出来る。
【0100】
[1−7.熱伝導性の評価方法]
熱物性顕微鏡から得た2次元の熱特性分布データから得られるフラクタル情報に基いて、熱伝導性組成物のフラクタル性と構造の形成を判断して、熱伝導性の評価を行う
ここでは、フラクタル情報として、2次元DFA法により求められた2次元DFAの傾きに基づいて、熱伝導性の評価を行う場合について説明を行う。
【0101】
2次元DFAの傾きの値に応じて、以下のようにもとの2次元データのフラクタル性を評価することが出来る。
2次元DFAの傾きが0.5の直線の場合、即ちホワイトノイズの場合は、完全な乱数であり、もとの2次元データが構造を持たないことを示す。
【0102】
2次元DFAの傾きが1.0の直線の場合、即ちピンクノイズの場合は、周波数に対しその周波数での強度が反比例する周波数成分の特性を示している。同じ周波数成分を持つ光がピンク色に見えることからピンクノイズと呼ばれ、かつ1/fゆらぎとも呼ばれる。この場合、もとの2次元データがフラクタル構造になっていることを示す。
【0103】
2次元DFAの傾きが1.5の直線の場合、即ちブラウンノイズの場合は、ブラウン運動(ブラウニアンモーション)によって生成され、周波数に対しその周波数での強度が周波数の2乗に反比例する周波数成分の特性を示している。この場合、もとの2次元データがピンクノイズとは異なるフラクタル構造になっていることを示す。
なお、2次元DFAプロットが直線になる場合には、その直線の傾きを2次元DFAの傾きとして用いることが出来る。
【0104】
一方、2次元DFAプロットが直線にならない場合には、2次元DFAプロットの微分プロットから、特定のウィンドウサイズsにおける2次元DFAの傾きを用いることが出来る。
【0105】
例えば、特定のウィンドウサイズsにおいて、2次元DFAの傾きが0.5より大きい場合は、2次元データは相当するウインドウサイズsの近辺においてフラクタル構造を持つことを示す。
【0106】
一方で、例えば、2次元データが何らかの周期性を有する構造の場合は、その2次元DFA微分プロットは、その周期に相当するウィンドウサイズsの近辺における2次元DFAの傾きが局所的に減少し、0に近づくようになっている。
【0107】
熱伝導に関する分布情報がフラクタル性を有する、即ち熱伝導性組成物がフラクタル性を有すると判断するには、log10(s×s)が特定の値をとる場合に、2次元DFAの傾きが0.5より大きいものであれば良い。つまり、特定のウィンドウサイズsにおいて、2次元DFAの傾きが0.5より大きいものであれば、フラクタル構造を有すると判断することが出来る。
【0108】
これは、2次元のデータに対して2次元DFA解析を行った場合、フラクタル構造が現れるか否かは、2次元DFA解析のウィンドウサイズに依存するためである。2次元データがフラクタル構造をとっている場合、フラクタル性を有するパターンは特定のウィンドウサイズにおける正方形ウィンドウ内において強く現れることがあり、ウィンドウサイズが大きすぎたり小さすぎる場合には、正方形ウィンドウ内に含まれるフラクタル性が弱くなることがある。このような場合であっても、特定のウィンドウサイズにおいてフラクタル構造が現れる場合には、その2次元データはフラクタル構造を有するものと判断できる。このため、特定のウィンドウサイズにおける2次元DFAの傾きからフラクタル構造を有すると判断できる場合には、対象の2次元データはフラクタル構造を有すると判断するのである。
【0109】
2次元DFAの傾き又はフラクタル次元が0.5より大きい値をとるほど、熱伝導性組成物を構成する成分の1次粒子(例えば熱伝導粒子)が集合して形成される2次粒子が、フラクタル構造をとって並んでいるものと予測できる。このため、フラクタル構造を有する場合には、2次粒子の連結状態に起因して熱伝導性パスを形成する構造を形成していると考えられるため、熱伝導性が高いと評価することが出来る。
【0110】
一方で、2次元DFAの傾きが0.5付近の値をとる場合、1次粒子がランダムに並んでおり、2次粒子による熱伝導性に寄与する構造が構築されていないと予測される。このため、この場合には熱伝導性が低いと評価することが出来る。
【0111】
また、2次元DFAの傾きが0付近の値をとる場合、1次粒子が周期的に並んでおり、2次粒子による熱伝導性に寄与する構造が構築されていないと予測される。このため、この場合には熱伝導性が低いと評価することが出来る。
【0112】
<第一実施形態>
次に、本発明の実施形態として、熱伝導性評価方法に係る熱伝導性評価装置、並びに熱伝導性評価方法をコンピュータに実行させるためのプログラム、及び同プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体について説明する。

【0113】
[2.熱伝導性評価装置]
[2−1.熱伝導性評価装置の構成例]
図1は、本発明の熱伝導性評価装置1のハードウェア構成を模式的に示す図である。図2は、本発明の熱伝導性評価装置1の機能ブロックを模式的に示す図である。
【0114】
熱伝導性評価装置1は、図1に示すように、情報処理装置20、熱物性顕微鏡11、外部メモリ12、キーボード13、プリンタ14、ディスプレイ15を備えている。情報処理装置20は、入力インターフェース21、バス22、CPU(Central Processing Unit)23、メモリ24、出力インターフェース25を備えたコンピュータである。
【0115】
熱物性顕微鏡11は、対象となる試料の熱伝導に関する分布情報を測定するもので、入力インターフェース21を介して、情報処理装置20へ熱伝導に関する分布情報(データ)を入力するようになっている。
【0116】
外部メモリ12は、入力インターフェースに繋がれ、情報処理装置20へ、熱伝導に関する分布情報を読み出し、または情報処理装置20から熱伝導に関する分布情報を書き込むことができる。また、この外部メモリ12には、フラクタル情報取得用コンピュータソフトウエアや、熱伝導性評価用コンピュータソフトウエアを記録することもできる。この場合、これらのコンピュータソフトウェアを必要に応じて、メモリから読み出して、情報記憶装置にダウンロード出来るようになっている。
【0117】
キーボード13は、入力インターフェース21に繋がれている情報入力装置であり、オペレータはこのキーボード13を操作して、情報処理装置20及び本熱伝導性評価装置1の操作を行う。
【0118】
入力インターフェース21は、情報処理装置20と外部との情報をやりとりするユニットであり、上述のように各部11〜13が繋がれ、各部11〜13から情報(信号)を受信したら、バス22を介して情報処理装置20内の各部23〜24に信号を適宜送信するようになっている。
【0119】
CPU23は、種々の制御や演算を行なう処理装置であり、メモリ24に格納された、フラクタル情報取得用コンピュータソフトウエアや、熱伝導性評価用コンピュータソフトウエアを実行することにより、種々の機能を実現する。そして、CPU23が、これらのコンピュータプログラムを実行することにより、図2で後述するフラクタル情報取得手段31、熱伝導性評価手段32として機能する。
【0120】
なお、これらのフラクタル情報取得手段31、熱伝導性評価手段32としての機能を実現するためのプログラム(フラクタル情報取得用コンピュータソフトウェア、熱伝導性評価用コンピュータソフトウェア)は、例えばフレキシブルディスク,CD(CD−ROM,CD−R,CD−RW等),DVD(DVD−ROM,DVD−RAM,DVD−R,DVD+R,DVD−RW,DVD+RW,HD DVD等),ブルーレイディスク,磁気ディスク,光ディスク,光磁気ディスク等の、コンピュータ読取可能な記録媒体(例えば、外部メモリ12)に記録された形態で提供される。そして、情報処理装置20はその記録媒体からプログラムを読み取って内部記憶装置(例えば、メモリ24)または外部記憶装置に転送し格納して用いる。又、そのプログラムを、例えば磁気ディスク,光ディスク,光磁気ディスク等の図示しない記憶装置(記録媒体)に記録しておき、その記憶装置から通信経路を介して情報処理装置20に提供するようにしてもよい。
【0121】
フラクタル情報取得手段31、熱伝導性評価手段32としての機能を実現する際には、内部記憶装置(本実施形態ではメモリ24)に格納されたプログラムが情報処理装置20のマイクロプロセッサ(本実施形態ではCPU23)によって実行される。このとき、外部の記録媒体(例えば外部メモリ12)に記録されたプログラムをコンピュータが読み取って実行するようにしてもよい。
【0122】
ここで、フラクタル情報取得用コンピュータソフトウエアとは、熱物性顕微鏡11により熱伝導に関する分布情報を得て、熱伝導に関する分布情報について解析することにより、熱伝導性組成物についてのフラクタル情報を得るものである
熱伝導性評価用コンピュータソフトウエアとは、フラクタル情報に基づいて、熱伝導性組成物の熱伝導性を評価するものである。
【0123】
そして、このフラクタル情報取得用コンピュータソフトウエア、熱伝導性評価用コンピュータソフトウエアが、上記のコンピュータ読み取り可能な各種の記録媒体に格納されるのである。
【0124】
なお、本実施形態において、コンピュータとは、ハードウェアとオペレーティングシステムとを含む概念であり、オペレーティングシステムの制御の下で動作するハードウェアを意味している。又、オペレーティングシステムが不要でアプリケーションプログラム単独でハードウェアを動作させるような場合には、そのハードウェア自体がコンピュータに相当する。ハードウェアは、少なくとも、CPU等のマイクロプロセッサと、記録媒体に記録されたコンピュータプログラムを読み取るための手段とを備えている。
【0125】
メモリ24は、種々のデータやプログラムを格納する記憶部であって、例えば、RAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリや、ROM、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリによって実現される。本実施形態では、メモリ24には、CPU23に実行させる、フラクタル情報取得用コンピュータソフトウエア、熱伝導性評価用コンピュータソフトウエアや、フラクタル情報、熱伝導性評価データが格納される。
【0126】
出力インターフェース25は、情報処理装置20と外部との情報をやりとりするユニットであり、各部14、15が繋がれ、情報処理装置20内の各部21、23、24からバス22を介して情報(信号)を受信したら、各部14,15に信号を送信するようになっている。
【0127】
プリンタ14、ディスプレイ15は、出力インターフェース25に繋がれ、CPU23の処理により得られた情報を、オペレータに対して印字あるいは表示を行うものである。もちろん、これらプリンタ14、ディスプレイ15にも、印字あるいは表示用の駆動回路(ドライバ)等も含まれる。
【0128】
[2−2.熱伝導性評価装置の機能構成]
次に、熱伝導性評価装置の機能構成について説明する。
図3は、実施形態の一例としての熱伝導性評価装置の機能ブロックを模式的に示す図である。
【0129】
熱伝導性評価装置30を機能的に表わすとき、熱伝導性評価装置30は、図3に示すように、第1手段としてのフラクタル情報取得手段31と、第2手段としての熱伝導性評価手段32とを備える。これらフラクタル情報取得手段31と、熱伝導性評価手段32は、コンピュータプログラムによるソフトウエアを実行させることにより、このソフトウェアがフラクタル情報取得手段31、熱伝導性評価手段32として機能するようになっている。このソフトウェアは、メモリ24に格納され、CPU23により読み出されて実行される。
【0130】
フラクタル情報取得手段31は、熱物性顕微鏡11により測定される熱伝導に関する分布情報を、上記のフラクタル情報取得用コンピュータソフトウエアを用いて解析することにより、熱伝導性組成物についてのフラクタル情報を得る。
【0131】
熱伝導性評価手段32は、フラクタル情報取得手段31で得られたフラクタル情報に、上記の熱伝導性評価用コンピュータソフトウエアを用いて熱伝導性組成物の熱伝導性を評価する。
【0132】
上述したように、フラクタル情報取得手段31による熱伝導に関する分布情報の解析は、2次元情報からフラクタル情報を得る公知の方法を用いることが出来るが、2次元DFA法、又はボックス・カウンティング法を用いることが好ましい。
【0133】
[2−3.熱伝導性評価装置の動作及び熱伝導性評価装置を用いた熱伝導性評価方法]
図4に示すフローチャートに従って、実施形態の一例としての熱伝導性評価装置の動作を説明する。
図4は、実施形態の一例としての熱伝導性評価装置における熱伝導性評価処理を説明するためのフローチャートである。
【0134】
まず、熱物性顕微鏡11により、熱伝導性組成物の熱伝導に関する分布情報の測定が行われる(ステップS11)。
熱伝導性組成物の熱伝導に関する分布情報のデータがフラクタル情報取得手段31に入力されると、フラクタル情報取得手段31は、フラクタル情報取得用コンピュータソフトウエアを用いて、熱伝導性組成物についてのフラクタル情報を熱伝導性評価手段32に出力する(ステップS12)。
【0135】
熱伝導性評価手段32は、フラクタル情報取得手段31から入力されたフラクタル情報を、熱伝導性評価用コンピュータソフトウエアを用いて熱伝導性組成物の熱伝導性を評価する(ステップS13)。
【0136】
なお、ステップS11において、熱伝導性組成物の熱伝導に関する分布情報は、熱物性顕微鏡11により測定されたデータを測定に伴って入力してもよく、予め測定しておいたデータを外部メモリ12から読み出して入力するものであっても良い。
【実施例】
【0137】
以下、本発明の実施例を述べるが、本発明の範囲はその趣旨を超えないかぎり、以下の例に限定されるものではない。
【0138】
<実施例>
図5に示すフローチャートに従って、本発明の一実施例を説明する。
本実施例に係る熱伝導性の評価は、次のようにして行う。
【0139】
まず、熱伝導性評価の対象となる、熱伝導組成物の成形体の測定サンプルの作成を行う(ステップS21)。次に、熱物性顕微鏡により、熱伝導性樹脂成形体の測定サンプルの熱伝導に関する分布情報を示す、2次元熱物性分布の測定を行う(ステップS22)。さらに、2次元熱物性分布を解析することで、2次元DFAの傾きを得る(ステップS23)。2次元DFAの傾きから、フラクタル性を評価することで、熱伝導性樹脂成形体に含まれる凝集粒子が構造を形成しているかを判断する(ステップS24)。そして、凝集粒子の構造から、熱伝導性分布の評価を行う(ステップS25)。
【0140】
(熱伝導性組成物の作成)
本実施例において、熱伝導性組成物の作成に用いた材料を以下に示す。
・ビスフェノール系エポキシ樹脂(主剤)(a):三菱化学株式会社製jER828
・エポキシ樹脂硬化剤(酸無水物系)(b):三菱化学株式会社製jERキュアYH300
・硬化促進剤(b):三菱化学式会社株式会社製jERキュアEMI24
・粉体A:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製窒化ホウ素PT670
【0141】
ビスフェノール系エポキシ樹脂(a)100質量部に対して、エポキシ樹脂硬化剤(b)を80質量部配合し、株式会社シンキー製自転・公転真空ミキサーARV−310を用いて、2,000rpmで2分間混合した後に、硬化促進剤(c)を2質量部添加し、同じミキサーを用い、2,000rpmで2分間混合し、エポキシ混合物を得た。
【0142】
得られたエポキシ混合物に、粉体の体積%が90体隻%となるように粉体Aを添加し、日陶科学株式会社製自動乳鉢ANM−150で5分間混合して熱伝導性樹脂組成物101を得た。図6(a)に示すように、この熱伝導性樹脂組成物101を金型(プレス枠102)に入れ、プレス枠102ごとテフロン(登録商標)シート103を介してプレス板104で挟み込み、温度150℃、プレス圧力15MPaで図中矢印方向に圧力をかけて1時間加圧硬化させ、約40mm角で厚さ約5〜10mmの熱伝導成形品110を作製した。
【0143】
これを、表面方向と、厚み方向に切り出した測定サンプルを作成した。表面方向の測定サンプルは、図6(b)に示すように、熱伝導成形品を、厚み方向に切り出した後、そこから表面方向に切り出した中間のサンプル111を使用した。厚み方向の測定サンプルは、図6(c)に示すように、熱伝導成形品を、表面方向に切り出した後、そこから厚み方向に切り出した中間のサンプル112を使用した。
【0144】
(熱物性顕微鏡による熱伝導に関する分布情報の測定)
測定サンプルの上にモリブデンの金属膜を真空蒸着により付けた。測定サンプルの金属膜に、変調周期が999KHzである830nm波長レーザダイオードの80μmのビームスポットのレーザ光で加熱を行った。782nm波長レーザダイオードの22μmの参照レーザ光で熱変動の測定を行った。熱物性顕微鏡にXYステージを設け、熱伝導成形品を表面方向、厚み方向に切り出した各々の測定サンプルの2次元表面について20μ間隔で測定を行い、変調周期との位相差から2次元熱物性分布である熱拡散率分布を得た。
【0145】
表面方向に切り出した測定サンプルの1200μm四方の領域の熱拡散率分布を図7(a−1)に、厚み方向に切り出した測定サンプルの1200μm四方の領域の熱拡散率分布を図7(a−2)に示す。
【0146】
(2次元DFAによる熱伝導に関する分布情報の解析)
表面方向と厚み方向の2つの2次元の熱拡散率分布を、2次元DFAで解析した。
ウィンドウサイズsを変化させたときの熱拡散率の揺らぎの大きさFL(s)を求め、log10(s×s)とlog10FL(s)との2次元DFAプロットを得た。さらに、2次元DFAプロットの微分プロットを作成して、ウィンドウサイズsの変化に伴う2次元DFAプロットの傾きを得た。表面方向に切り出した測定サンプルの熱拡散率の2次元DFA解析の結果(2次元DFAプロットの微分プロット)を図7(b−1)に、厚み方向に切り出した測定サンプルの熱拡散率の2次元DFA解析の結果(2次元DFAプロットの微分プロット)を図7(b−2)に示す。
【0147】
表面方向に切り出した測定サンプルの2次元DFAの傾きは概ね0.6の近傍であった。一方、厚み方向に切り出した測定サンプルの2次元DFAの傾きは、ウィンドウサイズが大きくなるに従って、0.6付近から大きくなり、部分的に1に近い値をとるスケールがあった。
【0148】
(熱伝導性の評価)
表面方向では、ウィンドウサイズの変化に関わらず、2次元DFAの傾きが0.6の近傍であったため、表面方向の2次元の熱拡散率分布が、フラクタル性を有していると判断することができる。しかし、2次元DFAの傾きが0.5に近いことから、熱伝導組成物の成形体において、表面方向ではフラクタル構造をとるものの、1次粒子がランダムに並んでいる傾向にあり、熱伝導性パスを形成する明確な構造を持っていないと判断することが出来る。従って、本実施例の熱伝導組成物の成形体は、表面方向の熱伝導性が低いと評価することが出来る。
【0149】
一方、厚み方向では、ウィンドウサイズの積(s×s)を対数表示したものの値が2.7付近において、2次元DFAの傾きの値が1に近い値をとっていた。このことから、厚み方向の2次元の熱拡散率分布が、当該ウインドウサイズにおいて、フラクタル性を有していると判断することが出来る。このため、熱伝導組成物の成形体において、厚み方向では1次粒子より大きい2次粒子によるフラクタル構造を有しており、2次粒子の連結状態に起因して熱伝導性パスを形成する構造を形成していると判断することが出来る。従って、本実施例の熱伝導組成物の成形体は、表面方向よりも厚み方向の熱伝導性が高いと評価することが出来る。
【0150】
本実施例は、本実施例に用いられた熱伝導成形品110について、図8示すように、表面方向に切り出した測定サンプル111の熱伝導に関する分布情報から、熱伝導成形品110の表面方向(図中上下の破線両矢印方向)の熱伝導性の評価を行い、また、厚み方向に切り出した測定サンプル112の熱伝導に関する分布情報から、熱伝導成形品110厚み方向(図中左右の破線両矢印方向)の熱伝導性の評価を行うことで、プレス方向の熱伝導性よりも、プレス方向とは垂直方向(厚み方向)の熱伝導性に優れることを評価したものである。
【0151】
(レーザフラッシュ法による熱伝導率の測定)
上記の熱伝導成形品を表面方向、厚み方向に切り出した各々の測定サンプルについて、レーザーフラッシュ法により熱伝導率の測定を行った。レーザで測定サンプルに熱を印加し、熱伝対で温度上昇を図ることによって、表面方向と厚み方向の熱伝導率を測定した。表面方向では50W/(m・K)、厚み方向40W/(m・K)との測定結果が得られ、厚み方向の熱伝導率が高いことが分かった。
この結果は、フラクタル構造を持つと考えられる厚み方向の熱伝導率が高いという、本願発明の熱伝導性評価方法の評価と同様の結果を示すものである。
【0152】
しかし、レーザーフラッシュ法による測定では、微小範囲の測定は不可能であり、測定面表面付近の熱伝導率分布を求めるものである。また、熱伝導率に影響を与えると考えられる高熱伝導性組成物のパーコレーション状態を評価することは不可能である。
【0153】
[その他]
上記の実施形態や実施例において、フラクタル情報取得や熱伝導性評価は、所望のコンピュータソフトウェアを用いて処理を行う例を示したが、前記において説明したように本評価方法をコンピュータを用いない手動方式によって実現することももちろん可能である。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本評価手法は、それぞれの概念で開発された、例えば熱伝導率の向上に寄与する熱伝導性樹脂組成物の成形体の構造を、通観して評価し、改善の尺度を与えるものである。これは、例えば熱伝導性複合材料の組成物や成形体の製造条件因子の最適化、二次加工条件因子の最適化に寄与することができる。また、それら製造・加工時のオンライン解析をフィードバックすることにより不良率が削減され、生産性向上が図れる。本評価手法は、例えば電子装置の放熱材等の、このような成形体を利用する技術分野のさらなる発展をもたらすことも期待される。
【符号の説明】
【0155】
1 熱伝導性評価装置1
11 熱物性顕微鏡
12 外部メモリ
13 キーボード
14 プリンタ
15 ディスプレイ
20 情報処理装置
21 入力インターフェース
22 バス
23 CPU(Central Processing Unit)
24 メモリ
25 出力インターフェース
30 熱伝導性評価装置を機能的
31 フラクタル情報取得手段(第1手段)
32 熱伝導性評価手段(第2手段)
101 熱伝導性樹脂組成物
102 プレス枠(金型)
103 テフロン(登録商標)シート
104 プレス板
110 熱伝導成形品
111 表面方向の測定サンプル
112 厚み方向の測定サンプル
201 測定サンプル
211 加熱用レーザー
212 検出用レーザー
221 XYステージ
222 ファンクションジェネレータ
223、224 ビームスプリッタ
225 ディテクタ
226 CCDカメラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報に所要の演算処理を施して、該熱伝導性組成物についてのフラクタル情報を得る第1ステップと、
該第1ステップで得られた該フラクタル情報に基づいて、該熱伝導性組成物の熱伝導性を評価する第2ステップとを備えたことを特徴とする、熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法。
【請求項2】
該第1ステップが、前記分布情報を、2次元DFA法で解析することにより、前記フラクタル情報を得るステップであることを特徴とする、請求項1記載の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法。
【請求項3】
前記フラクタル情報が、2次元DFAプロットまたは該2次元DFAプロットの微分プロットから得られる2次元DFAの傾きであることを特徴とする、請求項2記載の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法。
【請求項4】
該第2ステップが、前記2次元DFA法で得られた前記2次元DFAの傾きから前記熱伝導性組成物のフラクタル性を評価し、この評価結果に基づいて、該熱伝導性組成物の熱伝導性を評価するステップであることを特徴とする、請求項3記載の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法。
【請求項5】
該第1ステップが、前記分布情報を、ボックス・カウンティング法で解析することにより、前記フラクタル情報を得るステップであることを特徴とする請求項1記載の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法。
【請求項6】
前記フラクタル情報が、フラクタル次元であることを特徴とする、請求項5に記載の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法。
【請求項7】
該第2ステップが、前記ボックス・カウンティング法で得られた前記フラクタル次元から前記熱伝導性組成物のフラクタル性を評価し、この評価結果に基づいて、該熱伝導性組成物の熱伝導性を評価するステップであることを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法。
【請求項8】
前記熱伝導性組成物が熱伝導性樹脂組成物であることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法。
【請求項9】
前記熱伝導に関する分布情報が、熱拡散率分布情報、熱伝導率分布情報及び熱浸透率分布情報のうちのいずれかの分布情報であることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれかに記載の熱伝導性組成物の熱伝導性評価方法。
【請求項10】
熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報を、2次元DFA法で解析することにより2次元DFAの傾きを得る第1手段と、
該第1手段で得られた前記2次元DFAの傾きから前記熱伝導性組成物のフラクタル性を評価し、この評価結果に基づいて、該熱伝導性組成物の熱伝導性を評価する第2手段とを備えたことを特徴とする、熱伝導性組成物の熱伝導性評価装置。
【請求項11】
前記熱伝導性組成物が熱伝導性樹脂組成物であることを特徴とする、請求項10記載の熱伝導性組成物の熱伝導性評価装置。
【請求項12】
前記熱伝導に関する分布情報が、熱拡散率分布情報、熱伝導率分布情報及び熱浸透率分布情報のうちのいずれかの分布情報であることを特徴とする、請求項10または請求項11に記載の熱伝導性組成物の熱伝導性評価装置。
【請求項13】
コンピュータを、
熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報を、2次元DFA法で解析することにより2次元DFAの傾きを得る第1手段と、
該第1手段で得られた前記2次元DFAの傾きから前記熱伝導性組成物のフラクタル性を評価し、この評価結果に基づいて、該熱伝導性組成物の熱伝導性を評価する第2手段として機能させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項14】
コンピュータを、
熱伝導性組成物についての熱伝導に関する分布情報を、2次元DFA法で解析することにより2次元DFAの傾きを得る第1手段と、
該第1手段で得られた前記2次元DFAの傾きから前記熱伝導性組成物のフラクタル性を評価し、この評価結果に基づいて、該熱伝導性組成物の熱伝導性を評価する第2手段として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−3069(P2013−3069A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136964(P2011−136964)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超ハイブリッド材料技術開発(ナノレベル構造制御による相反機能材料技術開発)」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】